JP2024010623A - 情報処理システム、情報処理方法及び情報処理プログラム - Google Patents

情報処理システム、情報処理方法及び情報処理プログラム Download PDF

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Abstract

【課題】推定値と測定値との間に差異が生じる要因を推定値に取り入れる物性シミュレーションを行う情報処理システム、情報処理方法及び情報処理プログラムを提供する。【解決手段】情報処理装置と、複数のユーザ端末とが、電気通信回線を通じて通信可能に構成されている情報処理システムにおいて、情報処理装置は、ユーザ端末または他のデバイスからの情報を取得する取得部231と、取得部231によって取得された測定値に応じて、第1の推定値のデータ同化を実行するデータ同化部232と、取得部231によって取得された取得結果やデータ同化部232によるデータ同化処理の結果を、種々のパラメータによって補正する補正部233と、第1の推定値や第2の推定値など、種々の情報を出力する出力部234と、を有するプロセッサを備える。【選択図】図4

Description

本発明は、情報処理システム、情報処理方法及び情報処理プログラムに関する。
従来技術として、特許文献1には、単相の磁性相の有限温度での飽和磁化を簡便に算出することができる、飽和磁化予測方法及び飽和磁化予測シミュレーションプログラムが開示されている。
当該磁化予測方法は、Kuzminの式に、有限温度での飽和磁化の実測データを代入して、絶対零度での飽和磁化及びキュリー温度を算出する第1ステップ、第1ステップで算出した絶対零度での飽和磁化及びキュリー温度と、第一原理計算で算出した絶対零度での飽和磁化及びキュリー温度とをそれぞれデータ同化して、絶対零度での飽和磁化及びキュリー温度それぞれについて、単相の磁性相を構成する元素の存在割合の関数で表した予測モデル式を機械学習で計算する第2ステップ、及び第2ステップで作成した予測モデル式をKuzminの式に適用して、有限温度での飽和磁化を算出する第3ステップを含む。
特開2021-33964号公報
ところで、強的秩序相を有する物質についての物性シミュレーションによる推定値は、実際の測定値との異なることがある。推定値と測定値との間に差異が生じる要因は、当該物質の純度や形状などの測定試料に起因するものや物性シミュレーションを行う際の近似に起因するものなど、多種多様であり、測定試料の状態や測定条件等によっても異なることがある。そのため、推定値と測定値との間に差異が生じる要因を推定値に取り入れる技術には、未だ改善の余地がある。
本発明の一態様によれば、情報処理システムが提供される。この情報処理システムでは、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備える。取得ステップでは、強的秩序相を有する物質のモデルに基づく、所定の物性シミュレーションによって計算される、物質の物性に関する第1の推定値と、物質に対する測定によって得られる測定値と、を取得する。ここで、第1の推定値は、強的秩序相での秩序変数の温度依存性と、強的秩序相の形成に寄与する物質のサイト間の相互作用の大きさを示す結合係数と、を含む。データ同化処理ステップでは、測定値が測定基準値を含む場合、推定基準値に対する測定基準値の比を、結合係数に対する推定基準値の依存性を表す次数に応じて、取得された第1の推定値に含まれる結合係数に対して乗算することで、当該結合係数に対する第1のデータ同化処理を行う。ここで、測定基準値は、秩序変数の値が0となることによる強的秩序相からの相転移を表す相転移温度、及び絶対零度での強的秩序相の飽和状態に対応する秩序変数の値である飽和値のうちの少なくとも一方を含む。推定基準値は、取得された第1の推定値に含まれる相転移温度及び飽和値のうち、測定基準値に対応する値である。出力ステップでは、第1のデータ同化処理が行われた結合係数を、第2の推定値として出力する。
このような構成によれば、第1の推定値には、測定対象となる物質の理想的な物性に関する情報が含まれる。測定値には、物質の品質や測定条件など、測定対象となる物質の個体固有の情報が含まれている。そのため、第1の推定値と測定値とに基づき計算される第2の推定値は、物質の理想的な物性に対して物質の個体固有の情報が反映された値となる。
ここで、結合係数は、強的秩序相を形成する、サイト間の相互作用の強さを示す。そのため、強的秩序相によって生じる物性値やドメイン形成の空間的性質など、強的秩序相の性質を特定する上で重要な要素である。
したがって、上記データ同化によって結合係数の精度を高めることにより、強的秩序相に関する物性シミュレーションの結果と物質の測定結果との乖離を抑制することができる。
情報処理システム1を表す構成図である。 情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。 ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。 プロセッサ23が備える機能部の一例を示す図である。 情報処理システム1において実行される情報処理の流れの一例を示すフローチャートである。 データ同化処理の流れを示すフローチャートである。 ステップS100の処理の詳細を示すフローチャートである。 ステップS103でのデータ同化による自発磁化Mの温度依存性の変化を示す図である。 ステップS110でのデータ同化による自発磁化Mの温度依存性の変化を示す図である。 ステップS200の処理の詳細を示すフローチャートである。 ステップS202でのデータ同化による磁気異方性エネルギーKの温度依存性の変化を示す図である。 ステップS204での補正による第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2の変化を示す図である。 ステップS300の処理の詳細を示すフローチャートである。 ステップS305における処理の詳細を示す図である。
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
ところで、本実施形態に登場するソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
また、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0または1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、または量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、およびメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
1.ハードウェア構成
本節では、ハードウェア構成について説明する。
<情報処理システム1>
図1は、情報処理システム1を表す構成図である。情報処理システム1は、情報処理装置2と、ユーザ端末3と、を備える。情報処理装置2と、ユーザ端末3と、は、電気通信回線を通じて通信可能に構成されている。一実施形態において、情報処理システム1とは、1つまたはそれ以上の装置または構成要素からなるものである。仮に例えば、情報処理装置2のみからなる場合であれば、情報処理システム1は、情報処理装置2となりうる。以下、これらの構成要素について説明する。
<情報処理装置2>
図2は、情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。情報処理装置2は、通信部21と、記憶部22と、プロセッサ23とを備え、これらの構成要素が情報処理装置2の内部において通信バス20を介して電気的に接続されている。各構成要素についてさらに説明する。
通信部21は、USB、IEEE1394、Thunderbolt(登録商標)、有線LANネットワーク通信等といった有線型の通信手段が好ましいものの、無線LANネットワーク通信、3G/LTE/5G等のモバイル通信、BLUETOOTH(登録商標)通信等を必要に応じて含めてもよい。すなわち、これら複数の通信手段の集合として実施することがより好ましい。すなわち、情報処理装置2は、通信部21およびネットワークを介して、外部から種々の情報を通信してもよい。
記憶部22は、前述の記載により定義される様々な情報を記憶する。これは、例えば、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラム等を記憶するソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施されうる。記憶部22は、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラムや変数等を記憶している。
プロセッサ23は、情報処理装置2に関連する全体動作の処理・制御を行う。プロセッサ23は、例えば不図示の中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。プロセッサ23は、記憶部22に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、情報処理装置2に係る種々の機能を実現する。すなわち、記憶部22に記憶されているソフトウェアによる情報処理が、ハードウェアの一例であるプロセッサ23によって具体的に実現されることで、プロセッサ23に含まれる各機能部として実行されうる。これらについては、次節においてさらに詳述する。なお、プロセッサ23は単一であることに限定されず、機能ごとに複数のプロセッサ23を有するように実施してもよい。またそれらの組合せであってもよい。
<ユーザ端末3>
図3は、ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。ユーザ端末3は、通信部31と、記憶部32と、プロセッサ33と、表示部34と、入力部35とを備え、これらの構成要素がユーザ端末3の内部において通信バス30を介して電気的に接続されている。通信部31、記憶部32およびプロセッサ33の説明は、情報処理装置2における各部の説明と同様のため省略する。
表示部34は、ユーザ端末3筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。表示部34は、ユーザが操作可能なグラフィカルユーザインターフェース(Graphical User Interface:GUI)の画面を表示する。これは例えば、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示デバイスを、ユーザ端末3の種類に応じて使い分けて実施することが好ましい。
入力部35は、ユーザ端末3の筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。例えば、入力部35は、表示部34と一体となってタッチパネルとして実施されてもよい。タッチパネルであれば、ユーザは、タップ操作、スワイプ操作等を入力することができる。もちろん、タッチパネルに代えて、スイッチボタン、マウス、QWERTYキーボード等を採用してもよい。すなわち、入力部35がユーザによってなされた操作入力を受け付ける。当該入力が命令信号として、通信バス30を介してプロセッサ33に転送され、プロセッサ33が必要に応じて所定の制御や演算を実行しうる。
2.情報処理装置2の機能構成
図4は、プロセッサ23が備える機能部の一例を示す図である。図4に示すように、プロセッサ23は、取得部231と、データ同化部232と、補正部233と、出力部234と、を備える。
取得部231は、ユーザ端末3または他のデバイスからの情報を取得可能に構成されている。取得部231は、例えば、所定の物性シミュレーションによる計算結果である第1の推定値、物質に対する測定によって得られる測定値、対象となる物性と場等との関数を表す関係式などを取得可能に構成されている。これらの詳細は、後述される。
取得部231は、記憶部22の少なくとも一部であるストレージ領域に記憶されている種々の情報を読み出し、読み出された情報を記憶部22の少なくとも一部である作業領域に書き込むことで、種々の情報を取得可能に構成されている。ストレージ領域とは、例えば、記憶部22のうち、SSD等のストレージデバイスとして実施される領域である。作業領域とは、例えば、RAM等のメモリとして実施される領域である。
データ同化部232は、取得部231によって取得された測定値に応じて、第1の推定値のデータ同化を実行可能に構成されている。データ同化部232は、当該データ同化を行うことにより、第2の推定値を生成可能に構成されている。第2の推定値は、データ同化された第1の推定値ともいえる。
補正部233は、取得部231によって取得された取得結果やデータ同化部232によるデータ同化処理の結果を、種々のパラメータによって補正可能に構成されている。
出力部234は、第1の推定値や第2の推定値など、種々の情報を出力可能に構成されている。当該情報は、ユーザ端末3の表示部34または他のデバイスを介して、ユーザに提示可能である。かかる場合、例えば、出力部234は、画面、静止画又は動画を含む画像、アイコン、メッセージ等の視覚情報を、ユーザ端末3の表示部34に表示させるように制御する。出力部234は、視覚情報をユーザ端末3に表示させるためのレンダリング情報だけを生成してもよい。なお、出力部234は、ユーザ端末3または他のデバイスユーザを介さずに、出力された情報をユーザに対して提示してもよい。
3.情報処理について
本節では、前述した情報処理システム1において実行される情報処理について説明する。当該情報処理は、例えば、強的秩序相を有する物質のモデルに対するシミュレーション結果を用いて、当該強的
秩序相の動的性質のシミュレーションを行うために用いられる。以下、一例として、強的秩序相として強磁性相を有する物質(強磁性体)を対象とする情報処理の一例について説明する。強磁性体としては、例えば、Fe、Fe3O4、FePt、Ni-Zn ferriteなどの鉄系磁石である。なお、強磁性体はこれに限らず任意であり、Co系磁石、Ni系磁石、Nd系磁石などの無機化合物磁石であっても、有機磁性体であってもよい。
3.1.情報処理の流れについて
図5は、情報処理システム1において実行される情報処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、当該情報処理は、図示されない任意の例外処理を含みうる。例外処理は、当該情報処理の中断や、各処理の省略を含む。当該情報処理にて行われる選択または入力は、ユーザによる操作に基づくものでも、ユーザの操作に依らず自動で行われるものでもよい。
[ステップS1]
まず、ステップS1にて、取得部231は、強磁性相を有する物質のモデルを取得し、プロセッサ23は、取得されたモデルに基づく、所定の物性シミュレーションを実行する。これにより、出力部234は、強磁性体の物性に関する第1の推定値を出力する。第1の推定値は、強的秩序相での秩序変数の温度依存性と、結合係数と、を含む。第1の推定値は、異方性エネルギーの温度依存性、交換スティフネス定数A(exchange stiffness constant)の温度依存性、ダンピング定数αの温度依存性などをさらに含み得る。
<秩序変数の温度依存性>
強的秩序相での秩序変数の温度依存性は、飽和値と、相転移温度と、を含み得る。飽和値は、絶対零度での強的秩序相の飽和状態に対応する秩序変数の値である。相転移温度は、秩序変数の値が0となることによる強的秩序相からの相転移を表す。本実施形態では、強的秩序相が強磁性相であるため、秩序変数は、物質の自発磁化Mである。飽和状態は、対象となる物質が、ほぼ単一の強的秩序性を示すドメイン構造となっている状態である。飽和値は、物質の飽和磁化、特に絶対零度での飽和磁化M0である。相転移温度は、強磁性相から常磁性相への相転移に対応するキュリー温度Tcである。すなわち、強的秩序相での秩序変数の温度依存性は、強磁性相での自発磁化Mの温度依存性である。本実施形態の自発磁化Mは、例えば、温度の上昇とともに飽和磁化M0から減少し、キュリー温度Tcにて0となるような温度依存性を有する。以下、説明の便宜上、第1の推定値に含まれる自発磁化Mの温度依存性を第1の自発磁化の温度依存性M1といい、第1の推定値に含まれるキュリー温度Tcを、第1の推定キュリー温度Tc1という。
<結合係数>
結合係数は、強的秩序相の形成に寄与する、物質のサイト間の相互作用の大きさを示す。本実施形態の結合係数は、強的秩序相が強磁性相であることに伴い、磁気交換係数Jijである。磁気交換係数Jijは、サイト間の相互作用を表す。詳細には、磁気交換係数Jijは、物質内のi番目のサイトと、j番目のサイトに位置するスピン間の相互作用を表す。スピン間の相互作用は、スピン間の交換相互作用や、スピン間の磁気的な相互作用などを含み得る。磁気交換係数Jijは、例えば、スピン間の交換エネルギーに対応する第1のハミルトニアンH1を規定する。
なお、i及びjは物質内のサイトを表すインデックスである。S_iは、それぞれi番目のサイトのスピン演算子である。本実施形態のスピン演算子S_iは、Si=(S_ix,S_iy,S_iz)という古典ハイゼンベルグモデルによって表される。なお、物質のスピン系を表すモデルはこれに限られず、イジングモデル、XYモデルなど、解くべき系に応じて適宜設定可能である。以下、説明の便宜上、第1の推定値に含まれる磁気交換係数Jijを第1の推定磁気交換係数Jij1という。
<交換スティフネス定数A>
交換スティフネス定数Aは、単位体積あたりの交換エネルギーの変動量の大きさを示す量である。交換スティフネス定数Aは、磁気交換係数Jijに基づき計算可能である。絶対零度における交換スティフネス定数A0は、例えば、平均場近似を用いて、以下のような磁気交換係数Jijの総和によって表される。
ただし、nは計算対象となる物質のセルに含まれる原子数であり、aはセルの格子定数である。
また、平均場近似において、交換スティフネス定数Aの温度依存性は、絶対零度における交換スティフネス定数A0、飽和磁化M0、及び自発磁化Mの温度依存性を用いて、以下のように表される。
<異方性エネルギー>
異方性エネルギーは、物質における強的秩序相の秩序変数の異方性の大きさを示す。本実施形態の異方性エネルギーは、磁気異方性エネルギーK(magnetic anisotropy energy:MAE)である。磁気異方性エネルギーKは、強磁性体中のスピンの向きに応じて異なる。磁気異方性エネルギーKは、例えば、スピンの一軸異方性(Uniaxial anisotropy)に起因する第2のハミルトニアンH2や、結晶構造の対称性に起因する第3のハミルトニアンH3などによる寄与を含み得る。本実施形態の第3のハミルトニアンH3は、物質が立方晶である場合のものである。
なお、uは、座標を表すx,y,z方向のうちのいずれか1つを示すインデックスであり、e_uは、uに対応する方向の単位ベクトルを表すである。k_u及びk_cは、それぞれの磁気異方性の程度を示すパラメータであり、例えば、原子の種類、結晶構造、サイト間の距離などによって決まる。以下、説明の便宜上、第1の推定値に含まれる磁気異方性エネルギーKの温度依存性を、単に第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1という。
<物質のモデル>
物質のモデルは、例えば、対象となるハミルトニアンや、物質の結晶構造に関する情報や、物質における物性の近似方法(計算に組み込む相互作用の種類、大きさ、表現形式など)などを含む。対象となるハミルトニアンは、着目する系に応じて適宜設定される。例えば、対象となるハミルトニアンは、上記第1のハミルトニアンH1~第3のハミルトニアンH3の寄与を含み得る。また、対象となるハミルトニアンは、ゼーマンエネルギーの寄与やジャロシンスキー守谷相互作用の寄与などに対応する項を含んでいてもよい。
物質の結晶構造に関する情報は、例えば、格子定数、組成、格子数、格子の対称性(空間群)などの格子に関する情報、格子に含まれる原子の数、位置、価数、軌道状態、電子スピンの状態、原子周りの対称性(点群)など原子に関する情報など、任意の情報を含み得る。これらの情報は、任意の結晶構造データベースに収録されているものでも、論文等に記載されているものでも、X線回折実験等の種々の測定によって得られたものであってもよい。物質のモデルは、原子が配置される、少なくとも1つのサイトを含む。
本実施形態の物性シミュレーションは、第一原理計算と、有限温度計算と、を含む。物性シミュレーションは、マイクロマグネティックシミュレーション、フェーズフィールドシミュレーション、デバイスシミュレーションなどをさらに含んでもよい。
<第一原理計算>
第一原理計算は、取得された物質のモデルに基づき絶対零度における第1の推定値を出力する。本実施形態の第一原理計算は、密度汎関数法(Density Functional Theory:DFT)を用いて行われる。なお、絶対零度における第1の推定値の計算手法は、第一原理計算に限られず、ハートリーフォック法、平均場近似、古典モンテカルロ法、量子モンテカルロ法、変分モンテカルロ法など任意の手法が採用可能である。本実施形態の第一原理計算は、絶対零度における第1の推定値として、絶対零度における飽和磁化M0と、結合係数(磁気交換係数Jij)と、絶対零度における磁気異方性エネルギーKと、を出力する。なお、磁気異方性エネルギーKは、一軸異方性に起因するエネルギーと、結晶構造の対称性に起因するエネルギーと、を含んでいてもよい。
<有限温度計算>
有限温度計算は、出力された絶対零度における第1の推定値に基づき、有限温度における第1の推定値を出力する。有限温度における第1の推定値は、有限温度における自発磁化Mの温度依存性と、有限温度における磁気異方性エネルギーの温度依存性K1と、を含む。有限温度における自発磁化Mの温度依存性は、自発磁化Mが0となるキュリー温度Tcを含む。有限温度計算の具体的態様は、例えば、量子モンテカルロ法、第一原理分子動力学法、第一原理格子動力学法など、任意である。本実施形態では、有限温度計算として、あえて古典モンテカルロ法が用いられる。これにより、第1の推定値を得るための計算負荷を軽減することで、計算時間の短縮や、より大きな系でのシミュレーションが実現可能となる。以下、説明の便宜上、絶対零度における第1の推定値と、有限温度における第1の推定値と、を総称して、単に第1の推定値ということがある。言い換えれば、第1の推定値は、絶対零度における第1の推定値と、有限温度における第1の推定値と、を含む。
なお、上記物性シミュレーションは、情報処理装置2自身によって行われなくてもよく、外部のデバイス、例えば、スーパーコンピュータやクラウドコンピューティング等により行われてもよい。この場合、情報処理装置2は、外部のデバイスと通信することにより、当該計算を間接的に行ってもよい。
[ステップS2]
次に、処理がステップS2に進み、取得部231は、上記物性シミュレーションによって計算される第1の推定値と、上記物性シミュレーションの対象となる物質に対する測定によって得られる測定値と、を取得する。
<測定値>
測定値は、強的秩序状態にて測定された物性値である。測定値は、自発磁化Mの温度依存性の少なくとも一部を含む。自発磁化Mの温度依存性は、例えば、相転移温度としてのキュリー温度Tcや、絶対零度における飽和磁化M0などを含む。以下、説明の便宜上、測定値に含まれる自発磁化Mの温度依存性を測定磁化の温度依存性MEといい、測定値に含まれるキュリー温度Tcを測定キュリー温度TcEといい、測定値に含まれる絶対零度における飽和磁化M0を測定飽和磁化M0Eという。
測定磁化の温度依存性MEは、相転移温度以外の有限温度での物質における自発磁化Mの値を含んでもよい。具体的には、自発磁化Mの温度依存性は、絶対零度とキュリー温度Tcとの間の有限温度における自発磁化Mの値を含んでいてもよい。また、測定値は、キュリー温度Tcそのもの、又は飽和磁化M0そのものを含んでいなくてもよく、複数の温度における自発磁化Mの測定結果に対するフィッティングによって得られるものでもよい。また、測定飽和磁化M0Eは、絶対零度近傍において測定された自発磁化Mや当該自発磁化Mから外挿法等により得られる値であってもよい。また、測定キュリー温度TcEは、自発磁化Mが完全に0となったタイミングでの温度に限られず、自発磁化Mが0となる前後における温度に基づき得られる温度であってもよい。このような自発磁化Mの温度依存性は、例えば、超伝導量子干渉素子(SQUID)磁化計を用いて測定可能である。
測定値は、秩序変数に共役な場に対する秩序変数の応答を示す感受率を含み得る。本実施形態における秩序変数に共役な場とは、磁場(磁界)である。また、当該感受率は、磁気感受率、特に複素磁気感受率μである。複素磁気感受率μは、例えば、交流磁場が印加された場合における自発磁化Mの測定結果から得られる。このような自発磁化Mの磁場依存性は、例えば、上述のSQUID磁化計を用いて測定可能である。以下、説明の便宜上、測定値に含まれる複素磁気感受率μを、測定磁気感受率μEという。
また、測定値は、磁気異方性エネルギーKを含み得る。磁気異方性エネルギーKは、強磁性体が磁化容易軸及び磁化困難軸のそれぞれに沿って磁化する際の、自由エネルギーの差分を表す。磁気異方性エネルギーKは、例えば、磁化の磁場に対する履歴から、以下の関係式に基づき得られる。
M_sはある温度における飽和磁化を示す。H_extは、磁場を表す。axis 1は磁化容易軸を、axis 2は磁化困難軸を、それぞれ表す。磁気異方性エネルギーKは、例えば、測定された温度ごとの飽和磁化M_sと磁化の磁場依存性とに基づき計算可能である。以下、説明の便宜上、第2の推定値に含まれる磁気異方性エネルギーKの温度依存性を、第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2といい、測定値に含まれる磁気異方性エネルギーKの温度依存性を測定磁気異方性エネルギーの温度依存性KEという。磁気異方性エネルギーKの測定値は、例えば、自発磁化Mの磁場依存性を測定し、当該依存性から得られるヒステリシス曲線を積分することによって得られる。
<ダンピング定数α>
ダンピング定数αは、サイトにおける微視的な秩序変数の減衰度合いを示す。本実施形態のダンピング定数αは、以下のランダウ・リフシッツ・ギルバート方程式(LLG方程式)に用いられるギルバートダンピング定数であり、例えば、有効磁場H_effによる磁化の歳差運動の抑制度合いを示す。
mは局所的な磁化である。H_effは、磁化mに作用する有効磁場である。有効磁場H_effは、例えば、第1のハミルトニアンH1による交換エネルギーの寄与、第2のハミルトニアンH2による、異方性エネルギーの寄与、ゼーマン効果による寄与、消磁による寄与(demagnetize term)などを含む。γは、ジャイロ磁気定数である。ダンピング定数αは、例えば、強磁性共鳴測定によって測定可能である。
[ステップS3]
次に、処理がステップS3に進み、データ同化部232は、取得された第1の推定値と測定値とに基づき、データ同化処理を実行する。これにより、データ同化部232は、第1の推定値が測定値に同化された、第2の推定値を計算する。第2の推定値は、第1の推定値と同様の物性値を含み得る。第2の推定値は、例えば、データ同化が行われた自発磁化Mの温度依存性、キュリー温度Tc、磁気交換係数Jij、磁気異方性エネルギーK、交換スティフネス定数Aなどを含む。データ同化処理の詳細は後述される。以下、説明の便宜上、第2の推定値に含まれる自発磁化Mの温度依存性を第2の自発磁化の温度依存性M2といい、第2の推定値に含まれるキュリー温度Tcを第2の推定キュリー温度Tc2という。また、第2の推定値に含まれる磁気交換係数Jijを第2の推定磁気交換係数Jij2という。さらに、第2の推定値に含まれる磁気異方性エネルギーKの温度依存性を、第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2という。
[ステップS4]
次に、ステップS4に進み、出力部234は、第1のデータ同化処理が行われた結合係数を、第2の推定値として出力する。出力された第2の推定値は、例えば、マイクロ磁気シミュレーションの入力パラメータなど、任意の用途に用いられる。具体的には、出力部234は、LLG方程式に第1の推定値及び第2の推定値を代入することにより、マイクロ磁気シミュレーションを行う。
3.2.データ同化処理の流れについて
次に、ステップS3のデータ同化処理について説明する。図6は、データ同化処理の流れを示すフローチャートである。
[ステップS100]
まず、ステップS100にて、データ同化部232は、取得された第1の推定値と測定値とに基づき、結合係数に対する第1のデータ同化処理と、取得された第1の推定値に含まれる自発磁化Mの温度依存性M1に対する第2のデータ同化処理と、を含む処理を行う。
第1のデータ同化処理において、データ同化部232は、推定基準値に対する測定基準値の比を、結合係数に対する推定基準値の依存性を表す次数に応じて、取得された第1の推定値に含まれる結合係数に対して乗算する。これにより、データ同化部232は、結合係数に対するデータ同化を行う。
<測定基準値>
測定基準値は、データ同化処理(特に第1のデータ同化処理)の際に用いられる物性値である。測定基準値は、相転移温度としての測定キュリー温度TcE、及び飽和値としての測定飽和磁化M0Eのうちの少なくとも一方を含む。
<推定基準値>
推定基準値は、相転移温度としての第1の推定キュリー温度Tc1及び飽和値としての第1の推定飽和磁化M01のうち、取得された第1の推定値のうち測定基準値に対応する値である。測定基準値が測定キュリー温度TcEを含む場合、推定基準値は、第1の推定キュリー温度Tc1を含む。一方、測定基準値が測定飽和磁化M0Eを含む場合、推定基準値は、第1の推定飽和磁化M01を含む。
また、データ同化部232は、測定値が測定基準値を含む場合、推定基準値に対する測定基準値の比に基づき、取得された第1の推定値に含まれる自発磁化Mの温度依存性M1の乗算をすることで、第2のデータ同化処理を行う。
出力部234は、ステップS100の処理の結果、第2の推定磁気交換係数Jij2と、第2の自発磁化の温度依存性M2と、を出力する。また、本実施形態の出力部234は、ステップS100の処理の結果、推定値に含まれる磁気交換係数Jijと飽和磁化M0の温度依存性とに基づき、交換スティフネス定数Aの温度依存性を計算し、第2の推定値として出力する。
[ステップS200]
次に、処理がステップS200に進み、データ同化部232は、第1のデータ同化処理が行われた結合係数(本実施形態では第2の推定磁気交換係数Jij2)、及び第2のデータ同化処理が行われた秩序変数の温度依存性(本実施形態では第2の自発磁化の温度依存性M2)のうちの少なくとも1つに基づき、第1の推定値に含まれる異方性エネルギーの温度依存性(本実施形態では第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1)に対する第3のデータ同化処理を行う。これにより、出力部234は、第3のデータ同化処理が行われた異方性エネルギーの温度依存性(本実施形態では第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2)を、第2の推定値としてさらに出力する。
[ステップS300]
次に、処理がステップS300に進み、プロセッサ23は、ステップS100及びステップS200にて計算された第2の推定値に基づき物性シミュレーションを行う。これにより、出力部234は、第1のダンピング定数α1の温度依存性を出力する。そして、データ同化部232は、出力される第1のダンピング定数α1に対する第4のデータ同化処理を行う。これにより、データ同化が行われた第2のダンピング定数α2が第2の推定値として得られる。
これらの処理によって出力された第2の推定値を用いて、マイクロ磁気シミュレーション等が行われる。
3.3.ステップS100の処理の詳細について
次に、上記ステップS100の処理の詳細について説明する。図7は、ステップS100の処理の詳細を示すフローチャートである。
[ステップS101]
まず、ステップS101にて、プロセッサ23は、取得された測定値が測定キュリー温度TcEを含むか否かを判定する。当該判定は、ユーザの入力に応じて行われても、測定値の形式に応じて行われてもよい。
[ステップS102]
測定値が測定キュリー温度TcEを含む場合(ステップS101の判定結果が肯定の場合)、処理がステップS102に進み、データ同化部232は、測定基準値としての測定キュリー温度TcEと、当該測定キュリー温度TcEに対応する推定基準値としての第1の推定キュリー温度Tc1とに基づき、第1の推定磁気交換係数Jij1のデータ同化を行う。第1の推定磁気交換係数Jij1のデータ同化を行うステップS102の処理が、推定基準値が第1の推定キュリー温度Tc1である場合における第1のデータ同化処理であるといえる。第1のデータ同化処理であるともいえる。
詳細には、データ同化部232は、第1の推定キュリー温度Tc1に対する測定キュリー温度TcEの比TcE/Tc1を計算する。次に、データ同化部232は、磁気交換係数Jijのキュリー温度Tc依存性に基づき第1の推定磁気交換係数Jij1に当該比TcE/Tc1のべき乗を乗算することにより、第2の推定磁気交換係数Jij2を計算する。磁気交換係数Jijのキュリー温度Tc依存性とは、例えば、磁気交換係数Jijに対するキュリー温度Tcの比例次数を含む。本実施形態では、磁気交換係数Jijは最近接相互作用のみを考えると、キュリー温度Tcの1次に比例するため、データ同化部232は、第1の推定磁気交換係数Jij1に対して比TcE/Tc1の1乗を乗算することにより、第2の推定磁気交換係数Jij2を計算する。これにより、データ同化部232は、第1のデータ同化を行い、第1の推定磁気交換係数Jij1に含まれる第1の推定キュリー温度Tc1の寄与を、実質的に測定キュリー温度TcEの寄与に置き換えることで、第1の推定磁気交換係数Jij1より実験事実との齟齬が少ない第2の推定磁気交換係数Jij2を得ることができる。
[ステップS103]
次に、処理がステップS103に進み、第1の推定キュリー温度Tc1に対する測定キュリー温度TcEの比TcE/Tc1に基づき、第1の自発磁化の温度依存性M1のデータ同化を行う。これにより、第1の自発磁化の温度依存性M1より実験事実に即したキュリー温度Tcを有する第2の自発磁化の温度依存性M2が得られる。この場合、第2の推定磁気交換係数Jij2を用いて改めて求められた第2の推定キュリー温度Tc2と測定キュリー温度TcEとの差異が、ある閾値より大きい場合には、再度第2の推定キュリー温度Tc2を第1の推定キュリー温度Tc1として、処理がステップS102に戻ることもある。第1の自発磁化の温度依存性M1のデータ同化を行うステップS103が、本実施形態の第2のデータ同化処理の1つであるともいえる。
本実施形態では、データ同化部232は、第1のデータ同化処理が行われた結合係数(第2の推定磁気交換係数Jij2)を用いて、再度有限温度計算(例えば古典モンテカルロ計算)を行う。これにより、第2の推定磁気交換係数Jij2を用いた有限温度計算の際に、第1の推定磁気交換係数Jij1の計算に用いられた有限温度計算と異なる手法を用いる場合に比べて、処理を簡略化することができる。なお、ステップS103にて用いられる有限温度計算の手法は、ステップS1にて用いられる有限温度計算の手法と異なっていてもよい。第2の推定磁気交換係数Jij2は、比TcE/Tc1に基づいて得られていることから、第2の推定磁気交換係数Jij2に基づく処理は、当該比TcE/Tc1に基づく処理といえる。
再度の有限温度計算の際、前回までの有限温度計算で計算された値(第1の推定値等)の少なくとも一部を拘束条件としてもよい。これにより、計算範囲が制限されるため、計算量が発散することを抑制することができる。
第1の自発磁化の温度依存性M1のデータ同化の具体的態様はこれに限られない。例えば、データ同化部232は、当該比TcE/Tc1に基づき、第1の自発磁化の温度依存性M1に含まれる変数としての温度を変換することによって、第1の自発磁化の温度依存性M1のデータ同化を行ってもよい。詳細には、データ同化部232は、第1の自発磁化の温度依存性M1に対して、温度軸の変換を行う。当該補正の具体的態様は任意であるが、例えば、温度軸の変換は、例えば、以下のような関係式に基づき行われる。なお、Tは、変数としての温度を表す。
当該変換は、温度軸の縮尺の変更に相当する。そのため、第1の自発磁化の温度依存性M1の定性的性質を維持しつつ、第1の推定キュリー温度Tc1が測定キュリー温度TcEに調整された第2の自発磁化の温度依存性M2が得られる。
図8は、ステップS103でのデータ同化による自発磁化Mの温度依存性の変化を示す図である。ステップS100での物性シミュレーションによって得られる第1の推定キュリー温度Tc1は、測定キュリー温度TcEより大きく見積もられている。上記ステップS103の処理の結果、第1の自発磁化の温度依存性M1が温度軸に沿って縮小される。これにより、第1の自発磁化の温度依存性M1の定性的性質が維持された状態で、第2の推定キュリー温度Tc2が測定キュリー温度TcEと一致するような第2の自発磁化の温度依存性M2が得られる。なお、ステップS103の処理では、第2の推定飽和磁化M02は、第1の推定飽和磁化M01と一致するようにデータ同化される。これにより、測定値が測定キュリー温度TcE近傍のみの場合に、当該測定値を用いたデータ同化が、測定によって実験事実の検証がされていない領域での第1の推定値に影響を与えることを抑制することができる。
[ステップS104]
図7に示すように、次に、処理がステップS104に進み、プロセッサ23は、測定値が、相転移温度以外の有限温度での物質における秩序変数の値を少なくとも1つ含むか否かを判定する。本実施形態では、補正部233は、測定値が、測定キュリー温度TcE以外の有限温度での自発磁化Mの値を少なくとも1つ含むか否かを判定する。言い換えれば、補正部233は、測定磁化の温度依存性MEが、測定基準値以外の値(すなわち測定キュリー温度TcE又は測定飽和磁化M0E以外の値)を含むか否かを判定する。
[ステップS105]
測定値が、相転移温度以外の有限温度での物質における秩序変数の値を少なくとも1つ含む場合、(ステップS104の判定結果が肯定の場合)、処理がステップS105に進み、補正部233は、さらに、当該有限温度での物質における秩序変数の値に基づき、推定値に含まれる秩序変数の温度依存性を補正する。本実施形態では、補正部233は、測定磁化の温度依存性MEに含まれる有限温度における自発磁化Mの値に基づき、ステップS103の処理によって得られた第2の自発磁化の温度依存性M2を補正する。当該補正の具体的態様は任意であるが、例えば、補正部233は、第2の自発磁化の温度依存性M2を当該有限温度における自発磁化Mの値に基づき、最小二乗法や最尤法等によりフィッティングすることにより、第2の自発磁化の温度依存性M2を補正する。このとき、当該補正の拘束条件として、第2の推定キュリー温度Tc2を固定してもよい。これにより、ステップS103の処理によってキュリー温度Tcのデータ同化の結果を保ったまま、より実験事実に即した第2の自発磁化の温度依存性M2を得ることができる。補正部233は、補正された第2の自発磁化の温度依存性M2を、最新の第2の自発磁化の温度依存性M2として更新する。取得部231は、第2の自発磁化の温度依存性M2の絶対零度における値から、第2の推定飽和磁化M02を得ることもできる。
[ステップS106]
次に、処理がステップS106に進み、データ同化部232は、推定値に含まれる磁気交換係数Jij及び自発磁化Mの温度依存性に基づき、交換スティフネス定数Aの温度依存性を計算する。データ同化部232は、上述した関係式を用いて交換スティフネス定数Aの温度依存性を計算すればよい。ステップS105の処理が行われている場合、データ同化部232は、ステップS102にて得られる第2の推定磁気交換係数Jij2とステップS105にて補正される第2の自発磁化の温度依存性M2とに基づき、交換スティフネス定数Aの温度依存性を計算する。そして、出力部234は、交換スティフネス定数Aの温度依存性を出力する。出力部234は、計算されている種々のパラメータの最新の値を、第2の推定値として出力する。ステップS105を経由する場合、第2の推定値は、ステップS102にて得られる第2の推定磁気交換係数Jij2と、ステップS105にて得られる補正後の第2の自発磁化の温度依存性M2と、ステップS106にて得られる交換スティフネス定数Aの温度依存性と、を含む。ステップS106の処理が終了した場合、プロセッサ23は、ステップS100の処理を終了する。
一方、測定値が、相転移温度以外の有限温度での物質における秩序変数の値を含まない場合、(ステップS104の判定結果が否定の場合)、ステップS105が省略され、処理がステップS106に進む。この場合、第2の推定値は、ステップS102にて得られる第2の推定磁気交換係数Jij2と、ステップS103にて得られる第2の自発磁化の温度依存性M2と、ステップS106にて得られる交換スティフネス定数Aの温度依存性と、を含む。
[ステップS107]
一方、測定値が測定キュリー温度TcEを含まない場合(ステップS101での判定結果が否定の場合)、処理がステップS107に進み、プロセッサ23は、測定値が、相転移温度(キュリー温度Tc)以外の有限温度での物質における秩序変数(自発磁化M)の値を少なくとも1つ含むか否かを判定する。判定処理の詳細は、ステップS104と同様である。
[ステップS108]
測定値が、相転移温度以外の有限温度(絶対零度とその近傍も含む)での物質における秩序変数の値を少なくとも1つ含む場合、(ステップS107の判定結果が肯定の場合)、処理がステップS108に進み、補正部233は、さらに、当該有限温度での物質における秩序変数の値に基づき、推定値に含まれる秩序変数の温度依存性を補正する。本実施形態では、補正部233は、測定磁化の温度依存性MEに含まれる有限温度における自発磁化Mの値に基づき、ステップS1の処理によって取得された第1の自発磁化の温度依存性M1を補正する。これにより、取得部231は、補正された第1の自発磁化の温度依存性M1から、測定キュリー温度TcE及び測定飽和磁化M0Eのうちの少なくとも1つ(すなわち測定基準値)を取得する。当該補正の具体的態様は任意であるが、例えば、補正部233は、最小二乗法や最尤法等によりフィッティングすることにより、第2の自発磁化の温度依存性M2を補正する。ステップS108での補正では、第2の推定飽和磁化M02を固定しない。これにより、より実験事実に即した第2の自発磁化の温度依存性M2を得ることで、より正確な飽和磁化M0の推定値得ることができる。測定飽和磁化M0Eが実験的に得られていない場合、補正部233は、この推定された飽和磁化M0を実質的に測定飽和磁化M0Eとする。測定飽和磁化M0Eが実験的に得られている場合、補正部233は、測定飽和磁化M0Eをそのまま利用する。補正部233は、補正された第1の自発磁化の温度依存性M1を、最新の第2の自発磁化の温度依存性M2として更新する。当該補正された第1の自発磁化の温度依存性M1は、第1の推定飽和磁化M01や第1の推定キュリー温度Tc1を含む。
[ステップS109]
次に、測定基準値としての測定飽和磁化M0E(言い換えれば、補正後の第1の推定飽和磁化M01)と、推定基準値としての補正前の第1の推定飽和磁化M01に基づき、第1の推定磁気交換係数Jij1のデータ同化を行う。第1の推定磁気交換係数Jij1のデータ同化を行うステップS109の処理が、推定基準値が第2の推定飽和磁化M02である場合における第1のデータ同化処理であるともいえる。
詳細には、データ同化部232は、補正前の第1の推定飽和磁化M01に対する測定飽和磁化M0Eの比M0E/M01を計算する。次に、データ同化部232は、磁気交換係数Jijの自発磁化M依存性に基づき第1の推定磁気交換係数Jij1に当該比M0E/M01のべき乗を乗算することにより、第2の推定磁気交換係数Jij2を計算する。磁気交換係数Jijの自発磁化M依存性とは、例えば、磁気交換係数Jijに対する自発磁化Mの比例次数を含む。本実施形態では、磁気交換係数Jijは自発磁化Mの2次に比例するため、データ同化部232は、第1の推定磁気交換係数Jij1に対して比M0E/M01の2乗を乗算することにより、第2の推定磁気交換係数Jij2を計算する。これにより、データ同化部232は、第1のデータ同化を行い、第1の推定磁気交換係数Jij1に含まれる第1の自発磁化の温度依存性M1の寄与を、実質的に測定飽和磁化M0Eの寄与に置き換えることで、第1の推定磁気交換係数Jij1より実験事実との齟齬が少ない第2の推定磁気交換係数Jij2を得ることができる。
[ステップS110]
次に、処理がステップS110に進み、データ同化部232は、補正後の第1の推定飽和磁化M01に対する測定飽和磁化M0Eの比M0E/M01に基づき、補正後の第1の自発磁化の温度依存性M1のデータ同化を行う。これにより、第1の自発磁化の温度依存性M1より実験事実に即した飽和磁化M0を有する第2の自発磁化の温度依存性M2が得られる。第1の自発磁化の温度依存性M1のデータ同化を行うステップS110が、本実施形態の第2のデータ同化処理の1つであるともいえる。
本実施形態では、データ同化部232は、ステップS103と同様に、第1のデータ同化処理が行われた結合係数(第2の推定磁気交換係数Jij2)を用いて、再度有限温度計算(例えば古典モンテカルロ計算)を行う。これにより、第2の推定磁気交換係数Jij2を用いた有限温度計算を行なった際に、第1の推定磁気交換係数Jij1の計算に用いられた有限温度計算と異なる手法を用いる場合に比べて、処理を簡略化することができる。
図9は、ステップS110でのデータ同化による自発磁化Mの温度依存性の変化を示す図である。ステップS100での物性シミュレーションによって得られる第1の自発磁化の温度依存性M1は、測定磁化の温度依存性MEより大きく見積もられている。上記ステップS110の処理の結果第1の自発磁化の温度依存性M1の定性的性質が維持された状態で、第1の自発磁化の温度依存性M1と測定磁化の温度依存性MEとの乖離が抑制される。なお、ステップS110の処理では、ステップS103の処理とは異なり、第2の推定飽和磁化M02と第1の推定飽和磁化M01とが異なっていてもよい。
なお、第1の自発磁化の温度依存性M1のデータ同化の具体的態様はこれに限られない。例えば、データ同化部232は、当該比M0E/M01に基づき、第1の自発磁化の温度依存性M1に含まれる変数としての温度を変換することによって、第1の自発磁化の温度依存性M1のデータ同化を行ってもよい。詳細には、データ同化部232は、第1の自発磁化の温度依存性M1に対して、温度軸の変換を行う。当該補正の具体的態様は任意であるが、例えば、温度軸の変換は、例えば、以下のような関係式に基づき行われる。なお、Tは、変数としての温度を表す。
当該変換は、温度軸の縮尺の変更に相当する。そのため、第1の自発磁化の温度依存性M1の定性的性質を維持しつつ、第1の推定飽和磁化M01が測定飽和磁化M0Eに調整された第2の自発磁化の温度依存性M2が得られる。
[ステップS106]
図7に示すように、次に、処理がステップS106に進み、データ同化部232は、推定値に含まれる磁気交換係数Jij及び自発磁化Mの温度依存性に基づき、交換スティフネス定数Aの温度依存性を計算する。ステップS108~ステップS110を経由している場合、データ同化部232は、ステップS109にて得られる第2の推定磁気交換係数Jij2とステップS110にて得られる第2の自発磁化の温度依存性M2とに基づき、交換スティフネス定数Aの温度依存性を計算すればよい。
なお、ステップS107の判定結果が否定の場合(すなわち、測定値が測定キュリー温度TcEも、測定キュリー温度TcE以外の有限温度での自発磁化Mの値も含まない場合)、ステップS108~ステップS110が省略され、処理がステップS106に進む。この場合、第1のデータ同化処理及び第2のデータ同化処理が省略され、プロセッサ23は、ステップS2にて取得された第1の推定磁気交換係数Jij1と第1の自発磁化の温度依存性M1とに基づき交換スティフネス定数Aを計算する。
3.3.ステップS200の処理の詳細
次に、上記ステップS200の処理の詳細について説明する。図10は、ステップS200の処理の詳細を示すフローチャートである。
[ステップS201]
まず、ステップS201にて、プロセッサ23は、第1の推定値に含まれる結合係数(第1の推定磁気交換係数Jij1)とデータ同化処理(詳細には第1のデータ同化処理)が行われた結合係数(第2の推定磁気交換係数Jij2)との差異が第1の結合閾値以上であるか否かを判定する。なお、両者の差異の形式は、差分、変化量、変化率、比など任意である。第1の結合閾値は、第2の推定値に求められる精度に応じて任意に設定可能である。
[ステップS202]
第1の推定磁気交換係数Jij1と第2の推定磁気交換係数Jij2との差異が第1の結合閾値以上である場合(すなわち、ステップS201の判定結果が肯定の場合)、処理がステップS202に進み、データ同化部232は、ステップS100にて計算された第2の推定値の少なくとも1つに基づき、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1に対するデータ同化を行う。第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1に対するデータ同化を行うステップS202の処理が、本実施形態の第3のデータ同化処理の1つであるといえる。
本実施形態では、第1のデータ同化処理が行われた結合係数(第2の推定磁気交換係数Jij2)、及び第2のデータ同化処理が行われた秩序変数の温度依存性(第2の自発磁化の温度依存性M2)を用いて、再度有限温度計算を行う。これにより、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1に比べてより実験事実に即した磁気交換係数Jijの情報が反映された、第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2を得ることができる。本実施形態では、ステップS202で用いられる有限温度計算の手法は、ステップS1における有限温度計算の手法と同様であるが、両者は異なっていてもよい。
なお、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1のデータ同化の具体的態様はこれに限られない。例えば、データ同化部232は、第2の推定キュリー温度Tc2と第1の推定キュリー温度Tc1との比Tc2/Tc1に基づき、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1に含まれる変数としての温度を変換することによって、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1のデータ同化を行ってもよい。詳細には、データ同化部232は、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1に対して、温度軸の変換を行う。当該補正の具体的態様は任意であるが、例えば、温度軸の変換は、例えば、以下のような関係式に基づき行われる。
当該変換は、温度軸の縮尺の変更に相当する。そのため、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1の定性的性質を維持しつつ、キュリー温度Tcが第1の推定キュリー温度Tc1より実験事実が反映された第2の推定キュリー温度Tc2に調整された第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2が得られる。
図11は、ステップS202でのデータ同化による磁気異方性エネルギーKの温度依存性の変化を示す図である。ステップS100での物性シミュレーションによって得られる第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1は、測定磁気異方性エネルギーの温度依存性KEより大きく見積もられている。上記ステップS103の処理の結果、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1が温度軸に沿って縮小される。これにより、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1の定性的性質が維持された状態で、第2の推定キュリー温度Tc2が測定キュリー温度TcEと一致するような第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2が得られる。なお、ステップS202の処理では、第2の推定値に含まれる絶対零度における磁気異方性エネルギーK02は、第1の推定値に含まれる絶対零度における磁気異方性エネルギーK01と一致するようにデータ同化される。
図10に示すように、その後、処理がステップS202からステップS203に進む。なお、第1の推定値に含まれる結合係数と第1のデータ同化処理が行われた結合係数との差異が第1の結合閾値未満である場合(すなわち、ステップS201の判定結果が否定の場合)、ステップS202の処理が省略され、処理がステップS203に進む。
[ステップS203]
次に、ステップS203において、プロセッサ23は、測定値が異方性エネルギーの温度依存性(測定磁気異方性エネルギーの温度依存性KE)を含むか否かを判定する。
[ステップS204]
測定値が異方性エネルギーの温度依存性(測定磁気異方性エネルギーの温度依存性KE)を含む場合(ステップS203の判定結果が肯定の場合)、補正部233は、当該異方性エネルギーの温度依存性の測定結果(測定磁気異方性エネルギーの温度依存性KE)に基づき推定値に含まれる異方性エネルギーの温度依存性を補正する。ステップS202の処理が行われている場合、ステップS204での補正対象は第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2となる。一方、ステップS202の処理が省略されている場合、ステップS204での補正対象は第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1となる。
ここで、第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2の補正についてより詳細に説明する。図12は、ステップS204での補正による第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2の変化を示す図である。図12において、ステップS203の補正前の第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2はK21と、ステップS203の補正後の第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2はK22と、それぞれ表記されている。
補正部233は、測定磁気異方性エネルギーの温度依存性KEに含まれる有限温度における磁気異方性エネルギーKの値に基づき、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1又は第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2を補正する。当該補正は、例えば、最小二乗法や最尤法等を用いて行われる。補正前の第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K21は、ステップS202にてすでに温度軸についてのデータ同化が行われている。そのため、ステップS204での補正では、補正部233は、第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2の補正の際に第2の推定キュリー温度Tc2を固定する。これにより、実験事実との整合性を保つことができる。一方、ステップS204での補正では、補正部233は、絶対零度における磁気異方性エネルギーK0を第1の推定値に含まれる絶対零度における磁気異方性エネルギーK01に固定しない。これにより、より実験事実に即した絶対零度における磁気異方性エネルギーK0を得やすくなる。図12では、補正前の第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K21と補正後の第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K22とで、第2の推定キュリー温度Tc2がほぼ一致している。一方、測定磁気異方性エネルギーの温度依存性KEに基づく補正の結果、補正後の絶対零度における磁気異方性エネルギーK02が補正前の絶対零度における磁気異方性エネルギーK01より小さくなっている。
なお、測定値が測定キュリー温度TcEを含まない場合、第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2の補正の際に第1の推定値に含まれる絶対零度における磁気異方性エネルギーK01が固定されていることが好ましい。これにより、計算量の発散を抑制することができる。
図10に示すように、ステップS204の処理の終了後、ステップS200の処理が終了する。一方、測定値が異方性エネルギーの温度依存性の測定結果(測定磁気異方性エネルギーの温度依存性KE)を含まない場合(ステップS203の処理が否定の場合)、ステップS204の処理が省略され、ステップS200の処理が終了する。
3.4.ステップS300の処理の詳細
次に、上記ステップS300の処理の詳細について説明する。図13は、ステップS300の処理の詳細を示すフローチャートである。
[ステップS301]
まず、ステップS301にて、プロセッサ23は、第1の推定磁気交換係数Jij1と第2の推定磁気交換係数Jij2との差異が第2の結合閾値以上であるか否かを判定する。第2の結合閾値は、要求される精度や計算資源に応じて適宜設定可能である。なお、第1の推定磁気交換係数Jij1と第2の推定磁気交換係数Jij2との差異は、第1の自発磁化の温度依存性M1と第2の自発磁化の温度依存性M2との差異と相関がある。そのため、ステップS301での判定は、第1の自発磁化の温度依存性M1と第2の自発磁化の温度依存性M2との差異に基づく判定と同義である。
[ステップS302]
第1の推定値に含まれる結合係数(第1の推定磁気交換係数Jij1)と第2の推定値に含まれる結合係数(第2の推定磁気交換係数Jij2)との差異が第2の結合閾値以上である場合(ステップS301の判定結果が肯定の場合)、処理がステップS302に進み、プロセッサ23は、第2の推定値に基づき物性シミュレーションを行う。具体的には、プロセッサ23は、物性シミュレーションとして、第一原理計算による絶対零度におけるダンピング定数α0を計算し、当該ダンピング定数α0に加え、第2の推定磁気交換係数Jij2や第2の推定飽和磁化M02など、第2の推定値を入力とする有限温度計算を行う。その結果、出力部234は、第1のダンピング定数α1を出力する。これにより、第1の推定値を用いてα1等を計算する場合に比べて、より実験事実に即したダンピング定数αが得られる。なお、ステップS302での第一原理計算の具体的手法は、例えば、SPR-KKRプログラムに含まれる線形応答理論に基づくアルゴリズムが好ましい。なお、これに限られず当該計算の具体的手法は、Akai-KKRプログラム内のアルゴリズムを用いるものでもよい。その後、処理がステップS304に進む。
なお、第1の推定磁気交換係数Jij1と第2の推定磁気交換係数Jij2との差異は、実験事実がステップS1でのシミュレーションの前提となる理想の状態から許容量以上異なっていることを示す。
[ステップS303]
一方、第1の推定値に含まれる結合係数(第1の推定磁気交換係数Jij1)と第1のデータ同化処理が行われた結合係数(第2の推定磁気交換係数Jij2)との差異が第2の結合閾値未満である場合、処理がステップS303に進み、プロセッサ23は、第1の推定値に基づき物性シミュレーションを行う。具体的には、プロセッサ23は、物性シミュレーションとして、第1の推定磁気交換係数Jij1や第1の推定飽和磁化M01など、第1の推定値を入力とする有限温度計算を行う。その結果、出力部234は、第1のダンピング定数α1を出力する。その後、処理がステップS304に進む。
このように、ステップS1での物性シミュレーションにおいてダンピング定数αの計算を省略し、データ同化による磁気交換係数Jijの変化に応じてダンピング定数αの計算態様を変更することにより、重複計算による計算資源を節約することができる。
なお、ステップS1にて第1の推定値に基づき物性シミュレーションを行うことで第1のダンピング定数α1等が計算されている場合、ステップS303の処理は省略されてもよい。
[ステップS304]
ステップS304にて、プロセッサ23は、測定値が秩序変数に共役な場の印加による物質(強磁性体)での電力損失Pに関する情報を含むか否かを判定する。本実施形態では、プロセッサ23は、測定値が測定磁気感受率μEを含むか否かを判定する。電力損失Pは、例えば、渦電流損失P_Eや、ヒステリシス損失P_Hを含む。渦電流損失P_Eは、以下のように表される。
Vは物質の体積、dは物質の厚み、fは磁場Hの周波数である。データ同化部232は、最新の推定値(第2の自発磁化の温度依存性M2、第2の推定磁気交換係数Jij2、第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2など)に基づき物性シミュレーションを行うことで、抵抗率ρを計算可能である。そのため、電力損失Pは、最新の推定値に基づき物性シミュレーションを行うことで計算可能である。
また、及びヒステリシス損失P_Hは、以下のように表される。
μ2は、複素磁気感受率μの虚数成分である。データ同化部232は、上記関係に基づき、ヒステリシス損失P_Hから複素磁気感受率μの虚数成分μ2を計算可能である。そのため、複素磁気感受率μ(特に虚数成分μ2)は、電力損失Pに関する情報に含まれ得る。以下、説明の便宜上、測定値に含まれるヒステリシス損失P_Hを、測定ヒステリシス損失P_HEという。なお、測定ヒステリシス損失P_HEは、実際に測定されたものに限られず、測定磁気感受率μEに基づき計算されたものであってもよい。
[ステップS305]
次に、処理がステップS305に進み、データ同化部232は、当該電力損失に関する情報と、ステップS100及びステップS200にて得られた推定値とに基づき、第1のダンピング定数α1に対するデータ同化を行う。これにより、データ同化部232は、データ同化が行われた第1のダンピング定数である第2のダンピング定数α2を計算する。ダンピング定数αに対するデータ同化を行うステップS305の処理は、本実施形態における第4のデータ同化処理の1つであるといえる。
ここで、ステップS305における第1のダンピング定数α1に対するデータ同化の方法の一例について説明する。図14は、ステップS305における処理の詳細を示す図である。
まず、ステップS305では、データ同化部232は、マイクロ磁気シミュレーションに用いられる複数のダンピング定数αを設定する。詳細には、データ同化部232は、第1のダンピング定数αに基づき、マイクロ磁気シミュレーションに用いられるダンピング定数αを設定する。ダンピング定数αの範囲は任意であるが、第1のダンピング定数α1を含むように設定されていることが好ましい。図14では例示として、ダンピング定数αとして0.001、0.005、0.01の3つの値が設定されている。
次に、データ同化部232は、最新の推定値(第2の自発磁化の温度依存性M2、第2の推定磁気交換係数Jij2、第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K2など)などを用いて、設定されたダンピング定数αごとのマイクロ磁気シミュレーションを行う。これにより、設定されたダンピング定数αごとの複素磁気感受率μが得られる。このとき、データ同化部232が当該マイクロ磁気シミュレーションを、複数の温度T及び磁場Hの周波数で行うことで、設定されたダンピング定数αごとの複素磁気感受率μの温度及び磁場依存性が得られる。
マイクロ磁気シミュレーションの具体的態様は任意である。データ同化部232は、例えば、物質の構造に関する情報、推定値に含まれる自発磁化Mの温度依存性、磁気異方性エネルギーKの温度依存性、交換スティフネス定数Aの温度依存性などに基づき、対象となるサイトへの隣接サイトの影響を場の効果として繰り込むことで、有効磁場H_effの大きさとジャイロ磁気定数γの値を見積もればよい。隣接サイトは、少なくとも最近接サイトを含むことが好ましいが、最近接サイトに限られず、次近接サイト又は次近接サイトより対象サイトから離れたサイトを含んでもよい。
次に、データ同化部232は、マイクロ磁気シミュレーションによって得られた、ダンピング定数αごとの複素磁気感受率μを用いて、ヒステリシス損失P_Hの周波数依存性を計算する。
次に、データ同化部232は、計算されたダンピング定数αごとのヒステリシス損失P_Hを、測定ヒステリシス損失P_HEと照合し、測定ヒステリシス損失P_HEを再現するダンピング定数αを、第2のダンピング定数α2として計算する。第2のダンピング定数α2の特定方法は任意であるが、例えば、計算された複数のダンピング定数αごとのヒステリシス損失P_Hの重み付け平均と、測定ヒステリシス損失P_HEとの差分を最小二乗法等により最小化し、当該重み付け平均に含まれる係数に基づき、第2のダンピング定数α2を計算する。これにより、ダンピング定数αのデータ同化が行われる。本実施形態では、α2=0.00106となっている。その後、処理がステップS306に進む。
なお、測定値が電力損失に関する情報を含まない場合(ステップS304の判定結果が否定の場合)、ステップS305の処理が省略され、処理がステップS306に進む。
[ステップS306]
ステップS306にて、出力部234は、上記データ同化処理等によって得られる種々の物性値を、最新の推定値として出力する。出力部234は、第2の推定値が得られている物性値について、第2の推定値を出力し、第2の推定値が得られていない物性値については第1の推定値を出力する。当該推定値は、例えば、第2の推定磁気交換係数Jij2、第2の自発磁化の温度依存性M2、第2のダンピング定数α2などを含む。出力される推定値は、マイクロ磁気シミュレーション等の所定のシミュレーションに利用可能である。その後、ステップS300の処理が終了する。
以上のような情報処理を行うことにより、第1の推定値よりも実験事実との齟齬が少ない第2の推定値や、当該第2の推定値に基づく精度のよいシミュレーション結果が得られる。
4.その他
上記情報処理の態様はあくまで一例であり、これに限られない。
図10に示すように、データ同化部232が第3のデータ同化処理(詳細にはステップS202の処理)を行うための条件は、第1の推定磁気交換係数Jij1と第2の推定磁気交換係数Jij2との差異が第1の結合閾値以上であることに限られない。例えば、データ同化部232は、第1の自発磁化の温度依存性M1と第2の自発磁化の温度依存性M2との差異など、結合係数の変化に応答する任意の物性値の第1の推定値と第2の推定値との差異が所定の値以上である場合に、第3のデータ同化処理を行ってもよい。
例えば、プロセッサ23は、ステップS201にて、第1の推定値に含まれる秩序変数の温度依存性(第1の推定自発磁化の温度依存性M1)と第1のデータ同化処理が行われた秩序変数の温度依存性(第2の推定自発磁化の温度依存性M2)との差異が第1の変数閾値以上であるか否かを判定する。両者の差異の形式は、差分、変化量、変化率、比など任意である。第1の変数閾値は、第2の推定値に求められる精度に応じて任意に設定可能である。
データ同化部232は、第1の推定自発磁化の温度依存性M1と第2の推定自発磁化の温度依存性M2との差異が第1の変数閾値以上である場合(すなわち、上記判定結果が肯定の場合)に、処理がステップS202に進み、データ同化部232は、第2の推定値の少なくとも1つに基づき、第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性K1に対するデータ同化を行う。
なお、第1の推定自発磁化の温度依存性M1と第2の推定自発磁化の温度依存性M2との差異が第1の変数閾値未満である場合(すなわち、上記判定結果が否定の場合)、上記ステップS202の処理が省略され、処理がステップS203に進む。
同様に、図13に示すように、プロセッサ23がステップS302の処理を行うための条件は、第1の推定磁気交換係数Jij1と第2の推定磁気交換係数Jij2との差異が第2の結合閾値以上であることに限られない。例えば、プロセッサ23は、第1の自発磁化の温度依存性M1と第2の自発磁化の温度依存性M2との差異など、結合係数の変化に応答する任意の物性値の第1の推定値と第2の推定値との差異が所定の値以上である場合に、ステップS302にて第2の推定値に基づき物性シミュレーションを行い、出力部234を用いて第1のダンピング定数α1を出力してもよい。
例えば、プロセッサ23は、ステップS301にて、第1の推定自発磁化の温度依存性M1と第2の推定自発磁化の温度依存性M2との差異が第2の変数閾値以上であるか否かを判定する。第2の変数閾値は、要求される精度や計算資源に応じて適宜設定可能である。
第1の推定自発磁化の温度依存性M1と第2の推定自発磁化の温度依存性M2との差異が第2の変数閾値以上である場合に、処理がステップS302に進み、プロセッサ23は、第2の推定値に基づき物性シミュレーションを行う。その結果、出力部234は、第1のダンピング定数α1を出力する。
一方、第1の自発磁化の温度依存性M1と第2の自発磁化の温度依存性M2との差異が第2の変数閾値未満である場合、処理がステップS303に進む。
ステップS3でのデータ同化処理は、ステップS100での第1のデータ同化処理、及び第2のデータ同化処理、ステップS200での第3のデータ同化処理、並びにステップS300での第4のデータ同化処理の全てを含む必要はない。例えば、ステップS3でのデータ同化処理は、ステップS100での第1のデータ同化処理のみを含んでもよい。また、各データ同化処理は、それぞれ独立して行われてもよい。
当該情報処理が適用される強的秩序相は、強磁性相に限られない。例えば、当該情報処理が適用される強的秩序相は、強誘電相、強弾性相、強トロイダル相など、任意である。また、当該情報処理は、強的秩序として、物質内における任意の長距離秩序に対しても適用可能である。長距離秩序としては、反強磁性相、弱強磁性相、傾角反強磁性相、らせん磁性相、スキルミオン相、電荷秩序相などが挙げられる。
例えば、強的秩序相が強誘電相の場合、秩序変数は、自発分極や原子の振動モードを用いて表される。相互作用の大きさを示す結合係数は、例えば、クーロン相互作用、電子軌道の重なり積分、スピン軌道相互作用などによる寄与が含まれ得る。飽和値は、自発分極の飽和値となる。相転移温度は、強誘電相から常誘電相への相転移を示すキュリー温度となる。強的秩序相に共役な場は、電場(電界)となる。感受率は、電気感受率(特に複素電気感受率)となる。上記物性値間の関係は、分極に対する時間依存型ランダウリフシッツ方程式、線形応答理論、対称性に基づくランダウの現象論、分子場理論等を用いて得られる。他の強的秩序相においても同様である。
ステップS2にて、測定値がユーザ端末3に入力される場合、情報処理装置2は、ユーザ端末3に入力された測定値を、ユーザ端末3から取得してもよい。また、情報処理装置2自身が測定装置として機能する場合などでは、取得部231は、情報処理装置2による測定結果を測定値として取得してもよい。
情報処理装置2は、オンプレミス形態であってもよく、クラウド形態であってもよい。クラウド形態の情報処理装置2としては、例えば、SaaS(Software as a Service)、クラウドコンピューティングという形態で、上述の機能や処理を提供してもよい。
上記実施形態では、情報処理装置2が種々の記憶・制御を行ったが、情報処理装置2に代えて、複数の外部装置が用いられてもよい。すなわち、種々の情報やプログラムは、ブロックチェーン技術等を用いて複数の外部装置に分散して記憶されてもよい。
本実施形態の態様は、情報処理システム1に限定されず、情報処理方法であっても、情報処理プログラムであってもよい。情報処理方法は、情報処理システム1の各ステップを含む。情報処理プログラムは、少なくとも1つのコンピュータに、情報処理システム1の各ステップを実行させる。
上記情報処理システム1等は、次に記載の各態様で提供されてもよい。
(1)情報処理システムであって、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、取得ステップでは、強的秩序相を有する物質のモデルに基づく、所定の物性シミュレーションによって計算される、前記物質の物性に関する第1の推定値と、前記物質に対する測定によって得られる測定値と、を取得し、ここで、前記第1の推定値は、前記強的秩序相での秩序変数の温度依存性と、前記強的秩序相の形成に寄与する前記物質のサイト間の相互作用の大きさを示す結合係数と、を含み、データ同化処理ステップでは、前記測定値が測定基準値を含む場合、推定基準値に対する前記測定基準値の比を、前記結合係数に対する前記推定基準値の依存性を表す次数に応じて、取得された前記第1の推定値に含まれる前記結合係数に対して乗算することで、当該結合係数に対する第1のデータ同化処理を行い、ここで、前記測定基準値は、前記秩序変数の値が0となることによる前記強的秩序相からの相転移を表す相転移温度、及び絶対零度での前記強的秩序相の飽和状態に対応する前記秩序変数の値である飽和値のうちの少なくとも一方を含み、前記推定基準値は、取得された前記第1の推定値に含まれる前記相転移温度及び前記飽和値のうち、前記測定基準値に対応する値であり、出力ステップでは、前記第1のデータ同化処理が行われた前記結合係数を、第2の推定値として出力する、もの。
このような構成によれば、第1の推定値には、測定対象となる物質の理想的な物性に関する情報が含まれる。測定値には、物質の品質や測定条件など、測定対象となる物質の個体固有の情報が含まれている。そのため、第1の推定値と測定値とに基づき計算される第2の推定値は、物質の理想的な物性に対して物質の個体固有の情報が反映された値となる。ここで、結合係数は、強的秩序相を形成する、サイト間の相互作用の強さを示す。そのため、強的秩序相によって生じる物性値やドメイン形成の空間的性質など、強的秩序相の性質を特定する上で重要な要素である。したがって、上記データ同化によって結合係数の精度を高めることにより、強的秩序相に関する物性シミュレーションの結果と物質の測定結果との乖離を抑制することができる。
(2)上記(1)に記載の情報処理システムにおいて、前記データ同化処理ステップでは、さらに、前記比に基づき、取得された前記秩序変数の温度依存性の乗算をすることで、取得された前記第1の推定値に含まれる前記秩序変数の温度依存性に対する第2のデータ同化処理を行い、前記出力ステップでは、前記第2のデータ同化処理が行われた前記秩序変数の温度依存性を、前記第2の推定値としてさらに出力する、もの。
このような構成によれば、第1の推定値よりも実験結果に即した秩序変数の温度依存性が得られる。ここで、秩序変数の大きさは、強的秩序相からの相転移のために必要なエネルギーの温度依存性を示唆する。したがって、強的秩序相の相転移を利用したデバイスの温度設計の信頼性を高めることができる。
(3)上記(2)に記載の情報処理システムにおいて、前記物性シミュレーションは、前記物質のモデルに基づき絶対零度における前記第1の推定値を出力する第一原理計算と、前記絶対零度における前記第1の推定値に基づき、有限温度における前記第1の推定値を出力する有限温度計算と、を含み、ここで、前記絶対零度における前記第1の推定値は、前記結合係数を含み、前記第2のデータ同化処理では、前記第1のデータ同化処理が行われた前記結合係数を用いて、再度前記有限温度計算を行う、もの。
このような構成によれば、測定結果に即したパラメータを用いて有限温度における物性に関する情報が計算されるため、単に第一原理計算の結果を用いて有限温度計算を行う場合に比べて、実験事実に即した信頼性の高い推定値を得ることができる。
(4)上記(2)又は(3)に記載の情報処理システ厶において、前記データ同化処理ステップでは、前記測定値が、前記相転移温度以外の有限温度での前記物質における前記秩序変数の値を少なくとも1つ含む場合、さらに、当該有限温度での前記物質における前記秩序変数の値に基づき、前記推定値に含まれる前記秩序変数の温度依存性を補正する、もの。
このような構成によれば、絶対零度と相転移点との間の有限温度における秩序変数の温度依存性の信頼性を高めることができる。
(5)上記(2)~(4)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記第1の推定値は、前記秩序変数の異方性の大きさを示す異方性エネルギーの温度依存性をさらに含み、前記データ同化処理ステップでは、前記第1の推定値に含まれる前記結合係数と前記データ同化処理が行われた前記結合係数との差異が第1の結合閾値以上である場合、または、前記第1の推定値に含まれる前記秩序変数の温度依存性と前記データ同化処理が行われた前記秩序変数の温度依存性との差異が第1の変数閾値以上である場合、さらに、前記第2の推定値に基づき、前記第1の推定値に含まれる前記異方性エネルギーの温度依存性に対する第3のデータ同化処理を行い、前記出力ステップでは、前記第3のデータ同化処理が行われた前記異方性エネルギーの温度依存性を、前記第2の推定値としてさらに出力する、もの。
このような構成によれば、秩序変数の向きに関する推定精度の信頼性が向上する。
(6)上記(5)に記載の情報処理システムにおいて、前記データ同化処理ステップでは、前記測定値が前記異方性エネルギーの温度依存性を含む場合、当該異方性エネルギーの温度依存性に基づき前記推定値に含まれる前記異方性エネルギーの温度依存性を補正する、もの。
このような構成によれば、秩序変数の向きに関する推定精度の信頼性がさらに向上する。
(7)上記(2)~(6)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記出力ステップでは、前記第1の推定値に含まれる前記結合係数と前記第2の推定値に含まれる前記結合係数との差異が第2の結合閾値以上である場合、または、前記第1の推定値に含まれる前記秩序変数の温度依存性と前記第2の推定値に含まれる前記秩序変数の温度依存性との差異が第2の変数閾値以上である場合、前記第2の推定値に基づき前記物性シミュレーションを行うことで、第1のダンピング定数の温度依存性を出力し、ここで、前記ダンピング定数は、前記サイトにおける微視的な前記秩序変数の減衰度合いを示す、もの。
このような構成によれば、ダンピング定数は、強的秩序相の緩和過程を決定づける要素の1つである。そのため、実験事実に即したダンピング定数を得ることで、ダンピング定数を用いた強的秩序相の物性に関するシミュレーションの信頼性を向上することができる。
(8)上記(7)に記載の情報処理システムにおいて、前記データ同化処理ステップでは、前記測定値が、前記秩序変数に共役な場の印加による前記物質での電力損失に関する情報を含む場合、当該電力損失に関する情報と前記推定値とに基づき、前記第1のダンピング定数に対する第4のデータ同化処理を行い、前記出力ステップでは、前記第4のデータ同化処理が行われた前記第1のダンピング定数である第2のダンピング定数を出力する、もの。
このような構成によれば、複数の実験事実に基づきダンピング定数が推定されるため、ダンピング定数の推定精度が向上する。したがって、ダンピング定数を用いた強的秩序相の物性に関するシミュレーションの信頼性をさらに向上することができる。
(9)上記(1)~(8)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記強的秩序相は、強磁性相であり、前記秩序変数は、前記物質の自発磁化であり、前記結合係数は、前記サイト間の磁気結合係数であり、前記相転移温度は、前記強磁性相から常磁性相への相転移に対応するキュリー温度であり、前記飽和値は、前記物質の飽和磁化である、もの。
このような構成によれば、特に強磁性に関する種々の物性値の推定値に、測定値に含まれる物質固有の情報が反映される。したがって、例えば、強磁性の性質を利用したデバイスの設計の利便性を高めることができる。
(10)情報処理方法であって、上記(1)~(9)の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを含む、方法。
(11)情報処理プログラムであって、少なくとも1つのコンピュータに、上記(1)~(9)の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを実行させる、もの。
もちろん、この限りではない。
最後に、本開示に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
1 :情報処理システム
2 :情報処理装置
3 :ユーザ端末
20 :通信バス
21 :通信部
22 :記憶部
23 :プロセッサ
30 :通信バス
31 :通信部
32 :記憶部
33 :プロセッサ
34 :表示部
35 :入力部
231 :取得部
232 :データ同化部
233 :補正部
234 :出力部
A :交換スティフネス定数
A0 :交換スティフネス定数
H :磁場
Jij :磁気交換係数
Jij1 :第1の推定磁気交換係数
Jij2 :第2の推定磁気交換係数
K :磁気異方性エネルギー
K0 :絶対零度における磁気異方性エネルギー
K01 :第1の推定値に含まれる絶対零度における磁気異方性エネルギー
K02 :第2の推定値に含まれる絶対零度における磁気異方性エネルギー
K1 :第1の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性
K2 :第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性
K21 :補正前の第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性
K22 :補正後の第2の推定磁気異方性エネルギーの温度依存性
KE :測定磁気異方性エネルギーの温度依存性
M :自発磁化
M0 :飽和磁化
M01 :第1の推定飽和磁化
M02 :第2の推定飽和磁化
M0E :測定飽和磁化
M1 :第1の自発磁化の温度依存性
M2 :第2の自発磁化の温度依存性
ME :測定磁化の温度依存性
P :電力損失
P_E :渦電流損失
P_H :ヒステリシス損失
P_HE :測定ヒステリシス損失
T :温度
Tc :キュリー温度
Tc1 :第1の推定キュリー温度
Tc2 :第2の推定キュリー温度
TcE :測定キュリー温度
α :ダンピング定数
α1 :第1のダンピング定数
α2 :第2のダンピング定数
μ :複素磁気感受率
μ2 :虚数成分
μE :測定磁気感受率

Claims (11)

  1. 情報処理システムであって、
    次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、
    取得ステップでは、強的秩序相を有する物質のモデルに基づく、所定の物性シミュレーションによって計算される、前記物質の物性に関する第1の推定値と、前記物質に対する測定によって得られる測定値と、を取得し、
    ここで、前記第1の推定値は、前記強的秩序相での秩序変数の温度依存性と、前記強的秩序相の形成に寄与する前記物質のサイト間の相互作用の大きさを示す結合係数と、を含み、
    データ同化処理ステップでは、前記測定値が測定基準値を含む場合、推定基準値に対する前記測定基準値の比を、前記結合係数に対する前記推定基準値の依存性を表す次数に応じて、取得された前記第1の推定値に含まれる前記結合係数に対して乗算することで、当該結合係数に対する第1のデータ同化処理を行い、
    ここで、前記測定基準値は、前記秩序変数の値が0となることによる前記強的秩序相からの相転移を表す相転移温度、及び絶対零度での前記強的秩序相の飽和状態に対応する前記秩序変数の値である飽和値のうちの少なくとも一方を含み、
    前記推定基準値は、取得された前記第1の推定値に含まれる前記相転移温度及び前記飽和値のうち、前記測定基準値に対応する値であり、
    出力ステップでは、前記第1のデータ同化処理が行われた前記結合係数を、第2の推定値として出力する、もの。
  2. 請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
    前記データ同化処理ステップでは、さらに、前記比に基づき、取得された前記秩序変数の温度依存性の乗算をすることで、取得された前記第1の推定値に含まれる前記秩序変数の温度依存性に対する第2のデータ同化処理を行い、
    前記出力ステップでは、前記第2のデータ同化処理が行われた前記秩序変数の温度依存性を、前記第2の推定値としてさらに出力する、もの。
  3. 請求項2に記載の情報処理システムにおいて、
    前記物性シミュレーションは、前記物質のモデルに基づき絶対零度における前記第1の推定値を出力する第一原理計算と、前記絶対零度における前記第1の推定値に基づき、有限温度における前記第1の推定値を出力する有限温度計算と、を含み、
    ここで、前記絶対零度における前記第1の推定値は、前記結合係数を含み、
    前記第2のデータ同化処理では、前記第1のデータ同化処理が行われた前記結合係数を用いて、再度前記有限温度計算を行う、もの。
  4. 請求項2に記載の情報処理システ厶において、
    前記データ同化処理ステップでは、前記測定値が、前記相転移温度以外の有限温度での前記物質における前記秩序変数の値を少なくとも1つ含む場合、さらに、当該有限温度での前記物質における前記秩序変数の値に基づき、前記推定値に含まれる前記秩序変数の温度依存性を補正する、もの。
  5. 請求項2に記載の情報処理システムにおいて、
    前記第1の推定値は、前記秩序変数の異方性の大きさを示す異方性エネルギーの温度依存性をさらに含み、
    前記データ同化処理ステップでは、前記第1の推定値に含まれる前記結合係数と前記データ同化処理が行われた前記結合係数との差異が第1の結合閾値以上である場合、または、前記第1の推定値に含まれる前記秩序変数の温度依存性と前記データ同化処理が行われた前記秩序変数の温度依存性との差異が第1の変数閾値以上である場合、さらに、前記第2の推定値に基づき、前記第1の推定値に含まれる前記異方性エネルギーの温度依存性に対する第3のデータ同化処理を行い、
    前記出力ステップでは、前記第3のデータ同化処理が行われた前記異方性エネルギーの温度依存性を、前記第2の推定値としてさらに出力する、もの。
  6. 請求項5に記載の情報処理システムにおいて、
    前記データ同化処理ステップでは、前記測定値が前記異方性エネルギーの温度依存性を含む場合、当該異方性エネルギーの温度依存性に基づき前記推定値に含まれる前記異方性エネルギーの温度依存性を補正する、もの。
  7. 請求項2に記載の情報処理システムにおいて、
    前記出力ステップでは、前記第1の推定値に含まれる前記結合係数と前記第2の推定値に含まれる前記結合係数との差異が第2の結合閾値以上である場合、または、前記第1の推定値に含まれる前記秩序変数の温度依存性と前記第2の推定値に含まれる前記秩序変数の温度依存性との差異が第2の変数閾値以上である場合、前記第2の推定値に基づき前記物性シミュレーションを行うことで、第1のダンピング定数の温度依存性を出力し、
    ここで、前記ダンピング定数は、前記サイトにおける微視的な前記秩序変数の減衰度合いを示す、もの。
  8. 請求項7に記載の情報処理システムにおいて、
    前記データ同化処理ステップでは、前記測定値が、前記秩序変数に共役な場の印加による前記物質での電力損失に関する情報を含む場合、当該電力損失に関する情報と前記推定値とに基づき、前記第1のダンピング定数に対する第4のデータ同化処理を行い、
    前記出力ステップでは、前記第4のデータ同化処理が行われた前記第1のダンピング定数である第2のダンピング定数を出力する、もの。
  9. 請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
    前記強的秩序相は、強磁性相であり、
    前記秩序変数は、前記物質の自発磁化であり、
    前記結合係数は、前記サイト間の磁気結合係数であり、
    前記相転移温度は、前記強磁性相から常磁性相への相転移に対応するキュリー温度であり、
    前記飽和値は、前記物質の飽和磁化である、もの。
  10. 情報処理方法であって、
    請求項1~請求項9の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを含む、方法。
  11. 情報処理プログラムであって、
    少なくとも1つのコンピュータに、請求項1~請求項9の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを実行させる、もの。
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