JP2024009564A - ピニオンシャフト用合金鋼およびそれを用いたピニオンシャフト - Google Patents
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Abstract
【課題】浸炭処理や浸炭窒化処理などの表面処理を行う必要がなく、耐圧痕性を向上させたピニオンシャフト用合金鋼、それを用いたピニオンシャフトを提供する。【解決手段】ピニオンシャフト用合金鋼の発明については、重量%で、C:1.10~1.50%、Si:0.70~2.50%、Mn:0.10~1.00%、Cr:1.00~4.00%、Mo:0.20~1.50%、V:0.10~0.80%であり、残余鉄および不可避不純物を含む合金鋼とする。また、当該合金鋼を用いたピニオンシャフトの発明については、表層部の残留オーステナイト量が5~15体積%として、かつ表面硬さをロックウェルCスケールで64HRC以上とする。【選択図】図1
Description
本発明は、主にプラネタリギア装置内に組み込まれるピニオンシャフト用合金鋼、それを用いたピニオンシャフトに関する。
一般的に減速機に内蔵されているプラネタリギア(遊星歯車)には大小様々な複数の歯車が使用されており、その歯車の軸として代表的なものにピニオンシャフトがある。このピニオンシャフトの素材として、これまでは特許文献1に開示されている中炭素鋼や軸受鋼が使用されてきた。
ピニオンシャフトは特許文献2および3に開示されているように高速回転および高荷重の過酷な環境下で使用されるため、その素材には相応の耐摩耗性や静的強度(耐圧痕性)、耐熱性など種々の特性が要求されていた。そのため、ピニオンシャフトの素材として使用されてきた中炭素鋼は、その表面に浸炭処理や浸炭窒化処理を施すことで表面硬度を上げる必要があった。
しかし、従来の軸受鋼では300℃近傍の高温環境における使用においては硬さが低下し、耐摩耗性が低下するという問題があった。また、中炭素鋼の表面に浸炭層や浸炭窒化層を設けるためには特殊な装置を使用して、浸炭処理や浸炭窒化処理などの特殊熱処理を行うので製造原価が上昇する要因になっていた。
そこで、本発明は浸炭処理や浸炭窒化処理などの表面処理を行う必要がなく静的強度(耐圧痕性)を向上させたピニオンシャフト用合金鋼、それを用いたピニオンシャフトを提供することを課題とする。
本発明において、ピニオンシャフト用合金鋼の発明は重量%で、C:1.10~1.50%、Si:0.70~2.50%、Mn:0.10~1.00%、Cr:1.00~4.00%、Mo:0.20~1.50%、V:0.10~0.80%であり、残余鉄および不可避不純物を含む合金鋼とする。
また、ピニオンシャフト用合金鋼を用いたピニオンシャフトの発明は、表層部の残留オーステナイト量を5~15体積%の範囲として、かつ表面硬さをロックウェルCスケールで64HRC以上とする。なお、当該表層部の残留オーステナイト量は10~13体積%の範囲とすることがより好ましい。
ピニオンシャフト用合金鋼の発明は、通常の熱処理(焼入れおよび焼き戻し)を行うことで、浸炭や窒化など特殊な表面処理を行うことなく、表面硬さおよび内部硬さを高めたピニオンシャフト用途に適した合金鋼として提供できる。
また、ピニオンシャフト用合金鋼を用いたピニオンシャフトの発明は、従来の軸受鋼を用いたピニオンシャフトに対して高温保持での硬さ低下を抑え、耐熱性を向上させるという効果を奏する。また、耐圧痕性(静定格荷重)を高めて、疲労寿命を向上させるという効果を奏する。
本発明の一実施形態であるピニオンシャフト用合金鋼の主な化学成分について説明する。本発明のピニオンシャフトを構成する合金鋼に含有するC(炭素)は、重量%として1.10~1.50重量%とする。炭素は合金鋼中の焼入焼戻し後の硬さを確保し、転動疲労寿命を高位に確保する役割を果たす。鋼中のC含有量が1.10%を下回ると、必要な表面硬さが得られない。また、含有量が1.50%を上回ると合金鋼中の炭化物や残留オーステナイトが多くなり、ピニオンシャフトの疲労寿命を低下させる。
Si(シリコン)は、重量%として0.70~2.50%とする。シリコンは合金鋼中の焼戻し軟化抵抗を増大する役割がある。また、合金鋼中のSi含有量が0.70%を下回ると必要な焼戻し軟化抵抗が得られず、Si含有量が2.50%を超えるとピニオンシャフトの熱間鍛造性が著しく低下する。
Mn(マンガン)は、重量%として0.10~1.00%とする。マンガンは合金鋼中の焼入れ性を高めて、疲労寿命を向上させるのに有効である。合金鋼中のMn含有量が1.00%を超えると、ピニオンシャフトの熱間鍛造性が著しく低下する。
Cr(クロム)は、重量%として1.00~4.00%とする。クロムは合金鋼中の焼入れ性を高めるとともに、セメンタイトを熱的に安定化させて、高温域におけるセメンタイトのマトリックス中への固溶を抑止する役割がある。合金鋼中のCr含有量が1.00%を下回ると鋼の焼入れ性を悪化させて、Cr含有量が4.00%を超えると、合金鋼中に粗大な炭化物が発生して、ピニオンシャフトの疲労寿命を低下させる。
Mo(モリブデン)は、重量%として0.20~1.50%とする。モリブデンは鋼中の炭化物を形成して、硬さの確保に寄与する。また、合金鋼中のMo含有量が1.50%を上回ると、粗大な炭化物が発生して、ピニオンシャフトの疲労寿命を低下させる。
V(バナジウム)は、重量%として0.10~0.80%とする。Vは、合金鋼中のシリコンとの複合添加により焼戻し軟化抵抗を増大させる役割がある。また、合金鋼中の各含有量が0.80%を上回ると、粗大な炭化物が発生して、ピニオンシャフトの疲労寿命を低下させる。
なお、Vの代替元素としてNb(ニオブ)を含有することでも同様の効果を得ることもできる。この場合、Nbの含有量は重量%として、0.05~0.40%の範囲であることが好ましい。また、W(タングステン)もW当量(W+2Mo)として、重量%で0.40~3.00%の範囲で含有することもできる。
この場合、タングステンはモリブデンと同様に合金鋼中の炭化物を形成して、硬さの確保に寄与する。鋼中のW当量が0.40%を下回ると必要な焼き戻し硬さおよび軟化抵抗が得られない。一方、W当量が3.00%を上回ると粗大な炭化物が発生して、ピニオンシャフトの疲労寿命を低下させる。
次に、本発明の一実施形態である当該合金鋼製のピニオンシャフトについて説明する。本発明のピニオンシャフトは、前述した化学成分の合金鋼に対して、840~880℃の範囲で焼入れ処理を行った後、150~180℃の範囲で焼戻し処理を行うことで製作できる。所定の熱処理を行うことで、当該ピニオンシャフトの表層部における残留オーステナイト量を5~15体積%の範囲とすることができる。この場合、ピニオンシャフトの表面硬さをロックウェルCスケールで64HRC以上とする。
(実施例1)
本発明のピニオンシャフト用合金鋼(以下、発明品という)および従来の軸受鋼(以下、比較品という)の2種類の合金鋼を使用して、鋼球押し付け試験(以下、本試験という)を行ったので、その試験結果について説明する。本試験で使用した発明品(化学成分の異なる2水準)および比較品(軸受鋼:SUJ2)の化学成分(単位:重量%)を表1、表面硬さ(単位:HRC)および残留オーステナイト量(単位:体積%)を表2にそれぞれ示す。発明品および比較品の残留オーステナイト量は、X線回折分析装置にて計測したオーステナイト相とマルテンサイト相の回折X線強度分布の積分強度の比率から専用ソフトにより算出した。
本発明のピニオンシャフト用合金鋼(以下、発明品という)および従来の軸受鋼(以下、比較品という)の2種類の合金鋼を使用して、鋼球押し付け試験(以下、本試験という)を行ったので、その試験結果について説明する。本試験で使用した発明品(化学成分の異なる2水準)および比較品(軸受鋼:SUJ2)の化学成分(単位:重量%)を表1、表面硬さ(単位:HRC)および残留オーステナイト量(単位:体積%)を表2にそれぞれ示す。発明品および比較品の残留オーステナイト量は、X線回折分析装置にて計測したオーステナイト相とマルテンサイト相の回折X線強度分布の積分強度の比率から専用ソフトにより算出した。
本試験は、特定箇所に静的荷重を集中的に加圧することで材料表面の凹み具合を客観的に比較測定する試験であり、加圧後に測定する凹み量(深さ)により耐圧痕性を評価することができる。本試験では試料表面に直径9.525mmの鋼球を4500MPaの圧力で10秒間押し付けた(負荷速度0.1mm/min)後、試料表面に入り込んだ鋼球跡の深さをレーザー顕微鏡により測定した。
本試験で使用した発明材1および2は850℃×120分間で焼入処理を行った後、160℃×120分間の焼戻し処理を事前に行い、比較材は850℃×40分間で焼入処理を行った後、190℃×90分間の焼戻し処理を事前に熱処理を行った。
試料の表面に形成された凹部の深さを測定した結果、発明材1は0.220μm、発明材2は0.210μmであった。これに対して、比較材は0.330μmであった。以上の試験結果より、本発明の合金鋼である発明材1および2は、材料表面の残留オーステナイト量が7~15体積%の範囲として、表面硬さをロックウェルCスケールで64HRC以上とすることで、比較材(軸受鋼SUJ2)に比べて外部から特定箇所に荷重が負荷された場合でも材料表面が凹み難いので、耐圧痕性に優れており、動的な荷重または静的な荷重が大きい箇所の軸受部品に適している。
(実施例2)
実施例1で使用した発明材1,2と比較材を用いて所定の寸法の試験片を作製し、転がり疲れ特性の評価試験(スラスト寿命試験)を行なったので、その試験結果について説明する。スラスト寿命試験に使用した発明材1,2および比較材の化学成分(単位:重量%)は実施例1の表1に示すとおりである。本実施例で使用した試験機器(スラスト寿命試験機)の模式図を図1に示す。
実施例1で使用した発明材1,2と比較材を用いて所定の寸法の試験片を作製し、転がり疲れ特性の評価試験(スラスト寿命試験)を行なったので、その試験結果について説明する。スラスト寿命試験に使用した発明材1,2および比較材の化学成分(単位:重量%)は実施例1の表1に示すとおりである。本実施例で使用した試験機器(スラスト寿命試験機)の模式図を図1に示す。
本試験は、図1に示す様に直径φDの円盤状の試験片3を取り付けた油槽に潤滑油5を注入し、テーブル4を押し上げる。その後、保持器に支持された鋼球2をスラスト軸受1で受けることで所定の面圧Pを負荷する。その状態でモータ(図示なし)からの動力を伝達する軸10を所定の回転速度で回転させることで評価試験を行なう。試験片が破損するまで試験を継続して、破損時点の総回転数を記録すると共に試験終了とする。
また、試験片が破損しなくても総回転数が1×108回に達した時点で試験終了とする。試験条件は以下の条件で5回繰り返して実施し、ワイブル分布のグラフを作成した上で累積破損率が10%となるL10寿命をグラフ上から読み取り各試験片の評価寿命を比較評価した。
・試験片寸法:直径(φD)61mm×厚さ6mm
・試験面圧(P):4900MPa
・回転速度:1000rpm
・試験温度:室温(約23℃)
・潤滑油剤:ENEOS社製タービンオイル68
・試験片寸法:直径(φD)61mm×厚さ6mm
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本試験の結果より、累積破損率が10%における繰返し数は、発明品1および2ともに1×108回であったが、比較材による試験片は繰返し数が4.11~5.17×107回であり、発明品1よび2の結果に比較して短寿命であった。以上の試験結果より、発明材1および2の化学成分は比較材1および2の化学成分に対して転がり疲れ特性が優れていることがわかった。
(実施例3)
実施例1で使用した発明材1,2と比較材による試験片を作製し、高温硬さ試験を行なったので、その試験結果について説明する。準備した試験片(スラストプレート試験片:直径61mm×厚さ6mm)を100℃、120℃、140℃、160℃、180℃、200℃、250℃、300℃の計8水準の各温度に1時間保持した後、その温度における試験片の表面硬さ(単位:ロックウェルCスケール)を測定した。各試験片の各温度(8水準)における表面硬さの測定結果を表3に示す。
実施例1で使用した発明材1,2と比較材による試験片を作製し、高温硬さ試験を行なったので、その試験結果について説明する。準備した試験片(スラストプレート試験片:直径61mm×厚さ6mm)を100℃、120℃、140℃、160℃、180℃、200℃、250℃、300℃の計8水準の各温度に1時間保持した後、その温度における試験片の表面硬さ(単位:ロックウェルCスケール)を測定した。各試験片の各温度(8水準)における表面硬さの測定結果を表3に示す。
表3に示す様に比較材は保持温度が200℃までの間は180℃を超えると62HRC以下になり、200℃を超えると60HRC未満、300℃では約56HRCにまで低下した。一方、発明材1、2共に保持温度が200℃を超えても硬さは62HRC以上を保持しており、比較材よりも高温時における表面硬さが優位であることがわかった。
Claims (3)
- 重量%で、C:1.10~1.50%、Si:0.70~2.50%、Mn:0.10~1.00%、Cr:1.00~4.00%、Mo:0.20~1.50%、V:0.10~0.80%であり、残余鉄および不可避不純物を含むことを特徴とするピニオンシャフト用合金鋼。
- 請求項1に記載のピニオンシャフト用合金鋼を用いたことを特徴とするピニオンシャフト。
- 表層部の残留オーステナイト量が5~15体積%であり、かつ表面硬さがロックウェルCスケールで64HRC以上であることを特徴とする請求項2に記載のピニオンシャフト。
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