JP2023524146A - 低酸素血症の治療に使用されるメチルチオニニウム化合物 - Google Patents

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Abstract

本発明は、メチルチオニニウム化合物の経口投与によって対象において低酸素血症を軽減する方法を提供する。

Description

技術分野
本発明は一般に、低酸素血症の軽減又は低酸素症の治療に使用される方法及び物質に関する。
背景技術
血液を含む呼吸循環器系の主要な機能の一つは、すべての組織に適切に、すべての時点で酸素を送り込むこと、つまり細胞の即時環境におけるpOが正常なミトコンドリア酸素消費量及びATP産生に必要な臨界pOを超えることを保証することである(Chapter 7,Pittman RN.Regulation of Tissue Oxygenation.San Rafael(CA):Morgan&Claypool Life Sciences;2011参照)。
組織の適切な酸素供給を保証することは、循環器系、呼吸器系及び血液における様々な調節メカニズムの役割である。多くの様々な原因から、酸素輸送の重要な変数の正常値から逸脱することによって、低酸素組織環境が引き起こされ、組織の損傷又は病的状態が生じ得る。
したがって、血液の酸素運搬能力(飽和度)を高めるために安全に使用することができる化合物の提供は、当技術分野に有用な貢献を付与することが分かる。
発明の開示
本発明は、対象において低酸素血症を軽減する療法として特定のヒドロメチルチオニン塩(以下で「LMTX」と呼ばれる)の使用を提供する。次に、これを使用して、低酸素が軽減され、及び低酸素の病状又は他の原因が治療されてもよい。
MTC(メチルチオニニウム塩化物、メチレンブルー)は、臨床使用の長い歴史を持つFDA及びEMA承認薬剤である。
LMTXは、向上した吸収、赤血球浸透及び深部コンパートメント分布を有することから、同じMT(メチルチオニン)部位に全身的に送達するが、MTCよりも経口及び静脈内投与に適している(Baddeley et al.,2015)。LMTXは、MTCよりも実質的に低い用量で使用することができ、したがって耐容性がよい。
メチレンブルー-ビタミンC-N-アセチルシステイン(MCN)が、メトヘモグロビン(metHb)の低減による、この作用剤及び投薬量の1つの推定メカニズムを用いて、重篤なCOVID-19患者に利益を提供したことが最近報告された(Alamdari, Daryoush Hamidi,et al.“Application of methylene blue-vitamin C-N-acetyl cysteine for treatment of critically ill COVID-19 patients,report of a phase-I clinical trial.”European Journal of Pharmacology 885(2020):173494(その中での結論を参照のこと)。
コントロールされた臨床試験からの生体内(in vivo)の証拠に基づいて、本発明者らは、比較的低い用量でさえ、metHbに対する既知の作用に無関係に、LMTX塩が酸素飽和度を高めることができることを実証している。
理論によって束縛されることなく、本発明者らは、ヘモグロビンへのLMT部位の結合が、酸素結合に対する初期のエネルギー障壁を乗り越え、それによって、続いてへモグロビンの4つすべてのヘム基への結合及び酸素添加が促進されることを提案する。
国際公開第2007/110627号に、アルツハイマー病、及び前頭側頭型認知症(FTD)などの他の疾患、並びにウイルス性疾患などの疾患を一般に治療するための薬剤又はプロドラッグとして有効な、特定の3,7-ジアミノ-10H-フェノチアジニウム塩が開示された。これらの化合物は、MTCに関して考慮すると、「還元」又は「ロイコ」型の化合物でもある。これらのロイコ型メチルチオニニウム化合物は、ここで「LMTX」塩とも呼ばれる。
国際公開第2012/107706号には、上記のLMTX塩と比べて優れた特性を有する他のLMTX塩、例えばロイコ-メチルチオニニウムビス(ヒドロメタンスルホネート)(LMTM)(WHO INN指定:ヒドロメチルチオニン)が記載されている:
Figure 2023524146000002
LMTXは以前に、低酸素血症の治療に関して開示されている。
したがって、一態様において、対象において低酸素血症を治療(又は軽減)する方法であって、
メチルチオニニウム(MT)含有化合物を前記対象に経口投与することを含み、
前記投与が、任意に2回以上の用量に分割された、1日あたり0.5mg~250mgのMTの総経口1日用量を対象に提供し、
そのMT含有化合物が、以下の式:
Figure 2023524146000003

(上記式中、HA及びHB(存在する場合)のそれぞれが、同一若しくは異なってもよいプロトン酸であり、
p=1又は2であり;q=0又は1であり;n=1又は2であり;(p+q)×n=2である)
のLMTX化合物、又はその水和物若しくは溶媒和化合物である、方法が開示される。
一部の実施形態において、前記投与は、任意に2回以上の用量に分割された、0.5、5、10、15、20、25、30、35、40、50、又は60mgを超え、及び100、150、200又は250mg以下のMTの総経口1日用量を1日あたり対象に提供する。
一実施形態において、前記投与は、任意に2回以上の用量に分割された、35、40、50、又は60mgを超え、及び100、150、200又は250mg以下のMTの総経口1日用量を1日あたり対象に提供する。
総経口1日用量は、30.5、30.6、31、35、37.5、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、140、150、160、170、180、200、210、220、230、240、又は250mg以上であり得る。
総経口1日用量は60、75、又は120mgであり得る。
一部の実施形態において、低酸素血症を軽減する場合に、Met-Hbを生じるリスクを最低限にするために、比較的低い用量を使用することが好ましい場合がある。以降の実施例で説明されるように、LMTXとして提供されるMTが4mgと低い用量でさえ、臨床的利益を示した。
したがって、総用量は、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4mgのいずれか付近から、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20mgのいずれか付近までであり得る。
一例の投薬量は1~20mgである。
一例の総1日用量は、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20mgである。
更なる例の投薬量は2~15mgである。
総線量は、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4mgのいずれか付近から、5、6、7、8、9又は10mgのいずれか付近までであり得る。
更なる例の投薬量は3~10mgである。
更なる例の投薬量は3.5~7mgである。
更なる例の投薬量は4~6mgである。
化合物の総1日用量が、1日2回又は1日3回、分割量として投与され得る。
以下に説明されるように、多くの投与回数/日で分割されたMT用量を投与した場合、1日1回投与と比較して、記載の範囲内のより少ない総量又は1日に当たりのより少ない回数の投与が使用されることが望まれ得る。
治療の対象は、特定の基準によって特徴付けられ得て、又は選択され得る。
本発明に関しては、治療が経口投与されるべき場合には、対象は、呼吸及び嚥下することができなければならない。
およそ94%又は95%以上の血中酸素飽和度レベル(SpO)は一般に、正常であるとみなされる。SpO<94%は低酸素血症と示唆される。室内空気で飽和度≦92%の息切れのある患者は、呼吸不全の可能性がある。軽度呼吸器疾患を有する患者については、SpOが90%以上であり、好ましくは95%であるべきである。
したがって、対象は、室内空気にて95%未満、例えば94%、93%、92%、91%又は90%以下のSpOを有することを特徴とし得る。
本発明の方法は、例えば、上述のSpO値を有することなど、これらの基準のうちの1つ又は複数に従って、対象を選択する工程を含み得る。したがって、本発明の方法は、例えばパルスオキシメトリーによって、SpOを決定することを含み得る。
したがって、一部の実施形態において、対象は、(「確認された」)低酸素血症を有すると診断されているヒトあり得るか、又は前記方法は前記診断を行うことを含む。
患者は成人のヒトであってもよく、本明細書に記載の母集団に基づく投薬量は、その基準を前提とする(一般的体重50~70kg)。所望の場合には、相当する投薬量は、対象の重量係数を用いることによって、この範囲外の対象に対して用いられてもよく、対象の体重を60kgで割り、その個々の対象に倍数因子が提供される。
上記のように、SpOは、パルスオキシメトリーを用いて便利に測定することができる。
パルスオキシメトリーの背後にある原理は、酸素化及び脱酸素化ヘモグロビンの赤色光及び赤外光吸収の特性にある。酸素化された血液は、赤外光をより多く吸収し、赤色光が通過することが可能となるのに対して、脱酸素化ヘモグロビンはより多くの赤色光を吸収し、赤外光が通過することが可能となる。
パルスオキシメーターは、体部分(通常、手指、足指又は耳垂)を赤色光及び赤外光を伝達するトランスミッターと、光がそれを通過する、脱酸素化ヘモグロビンに対する酸素化ヘモグロビンのパーセンテージを検出する光検出器と、を備える。
このデバイスは、波長のそれぞれでの吸光度の変化を測定し、静脈血を除く、動脈血の脈動のみにより、吸光度を決定することが可能となる。算出される酸素飽和度のパーセンテージは、SpOパーセンテージと呼ばれる。
パルスオキシメトリーの主な指標は、疾病の重症度について価値ある情報を提供することから、息切れのある患者の評価に主に適用される。
本発明は、対象において低酸素血症、つまり血中酸素の低レベルを治療する(軽減する)方法に関する。その方法は、血液の酸素運搬能力を向上させ、血中の酸素飽和度を増加させることを意図する。一部の実施形態において、この方法は、投与から4時間以内に酸素飽和度を増加する。本明細書において開示されるように、LMTMは、metHbに対するその既知の作用と無関係の新規なメカニズムによって、血中の酸素飽和度を明らかに増加することができる。
次に、これを使用して、低酸素(組織によって使用される、入手可能な不十分な酸素)が原因の、若しくは低酸素から生じる、症状又は無酸素症(組織に送達される酸素の欠如)が治療されてもよい。
LMTXは、低酸素血症を直接、改善することが実証されているため、その正確な病理学的又は環境的原因は、本発明の範囲を制限しない。
例えば、低酸素血症は、血液の酸素運搬能力が低減している貧血性低酸素血症であり得る。代わりとして、それは、低酸素性低酸素血症(hypoxic hypoxaemia)又はうっ血性低酸素血症であり得る(Pittman RN.Regulation of Tissue Oxygenation. San Rafael(CA): Morgan&Claypool Life Sciences;2011参照)。
したがって、低酸素血症又は低酸素は、貧血以外の原因、例えば肺性、心血管性又は環境的原因(例えば、肺炎、高地性肺疾患、慢性肺疾患、先天性心疾患からのシャントの増加等)から起こり得る。
本明細書に記載の方法を用いて、低酸素血症の原因となる、又は低酸素血症から生じる疾患が治療されてもよく、特にこれらの疾患における低酸素血症が治療されてもよい。
本明細書に記載の方法を用いて、低酸素血症の原因となる、又は低酸素血症から生じる疾患と診断された対象が治療されてもよく、特にこれらの対象における低酸素血症が治療されてもよい。
本明細書に記載の方法を用いて、SpOを増加させるために、低酸素血症の原因となる、又は低酸素血症から生じる疾患の診断に従って選択される低酸素血症の対象が治療されてもよい。
本明細書に記載の方法を用いて、長期間の酸素療法を必要とする疾患が治療されてもよい。例としては、慢性閉塞性肺疾患、肺線維症心不全、重篤な長期の喘息、肺性高血圧症及び嚢胞性線維症が挙げられる。
本明細書に記載の方法を用いて、急性疾患、慢性の肺基礎疾患、又は酸素の組織送達が損なわれた疾患、例えば循環器疾患が治療されてもよく、特にこれらの疾患における低酸素血症が治療されてもよい。
以下に実施例を示す:
Figure 2023524146000004
一部の実施形態において、本発明の方法を用いて、低酸素血症が存在する以下の疾患:貧血(鉄欠乏など);ARDS(急性呼吸窮迫症候群);アスベスト肺;喘息;気管支炎;一酸化炭素中毒;脳性低酸素;過剰なG力によって誘発される脳性低酸素(G-LOC);小児における先天性心疾患;成人における先天性心疾患;うっ血性心不全;COPD(慢性閉塞性肺疾患)増悪-症状の悪化;COVID-19;シアン化物中毒;嚢胞性線維症;深海ダイビング;気腫;組織中毒性低酸素;低換気トレーニング;不眠症;間欠性血管性浮腫;間質性肺疾患;子宮内低酸素;虚血性低酸素;外傷、又は細菌性、ウイルス性若しくは真菌性であり得る感染症によって起こる肺障害;呼吸を抑制する、特定の麻薬及び麻酔薬などの投薬;気胸(肺虚脱);肺水腫(肺内の過剰な体液);肺性塞栓症(肺動脈における凝血);肺線維症(瘢痕化し、損傷を受けた肺);肺性高血圧症;呼吸性アルカローシス;睡眠時無呼吸;一過性虚血性発作;結核;腫瘍低酸素;のうちのいずれか一つ又は複数が治療される。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺からの閉塞した空気流を生じる慢性炎症性肺疾患である(例えば、Halbert,R.J.,et al.“Global burden of COPD:systematic review and meta-analysis.”European Respiratory Journal 28.3(2006):523-532参照)。
症状としては、呼吸困難、咳、粘液(喀痰)の産生及び喘鳴が挙げられる。それは通常、タバコの煙からが多い刺激性ガス又は粒状物質への長期間の曝露によって起こる。COPDの人々は、心疾患、肺癌及び様々な他の病状を発症するリスクが高い。
気腫及び慢性気管支炎は、COPDに寄与する2つの最も一般的な症状である。これら2つの症状は通常、共に起こり、COPDを有する個体の中でも重症度が異なってもよい。
慢性気管支炎は、肺の気嚢(肺胞)への空気、及び肺の気嚢(肺胞)からの空気を運ぶ、気管支管の内壁の炎症である。それは、毎日の咳及び粘液(喀痰)を特徴とする。
気腫は、肺の最小空気通路(細気管支)の最後にある肺胞が、タバコの煙、並びに他の刺激性ガス及び粒状物質への曝露で損傷を受けた結果として破壊された状態にある。
一実施形態において、対象は、COVID-19を有すると診断されているヒトである。その方法は、前記診断を行うことを含み得る。
COVID-19の診断は、当技術分野で公知のいずれかの方法によって行われ得る。例としては、例えばウイルス自体の存在に直接的に基づく(例えば、RT-PCR及び等温核酸増幅又は抗原タンパク質の存在を用いた)、又は感染に応答して産生された抗体を介して間接的に基づく、SARS-CoV-2ウイルスの存在についての検査室試験が挙げられる。他の診断方法は、任意に、以下に記載の特徴的な症状と併せて、胸部X線が挙げられる(例えば、Li,Xiaowei,et al. “Molecular immune pathogenesis and diagnosis of COVID-19.”Journal of Pharmaceutical Analysis(2020);Fang,Yicheng,et al.“Sensitivity of chest CT for COVID-19:comparison to RT-PCR.”Radiology (2020): 200432;Chan,Jasper Fuk-Woo,et al.“Improved Molecular Diagnosis of COVID-19 by the Novel,Highly Sensitive and Specific COVID-19-RdRp/Hel Real-Time Reverse Transcription-PCR Assay Validated In Vitro and with Clinical Specimens.”Journal of Clinical Microbiology 58.5(2020);Tang,Yi-Wei,et al.“The laboratory diagnosis of COVID-19 infection: current issues and challenges.”Journal of Clinical Microbiology(2020)参照)。
一部の実施形態において、低酸素血症は、α1-アンチトリプシン欠損症(気腫又は肝硬変を引き起こし得る)に罹患していない対象にあり得る。
一部の実施形態において、低酸素血症は、COVID-19に罹患していない対象にあり得るが、又はその代わりとして、かかる対象において、MTの投薬量が1日に経口で少なくとも30又は31mgであり得る。
好ましくは、LMT化合物は、国際公開第2007/110627号又は国際公開第2012/107706号に記載のタイプの「LMTX」化合物である。
したがって、その化合物は、以下の式の化合物、又はその水和物若しくは溶媒和化合物から選択され得る:
Figure 2023524146000005
上記式中、HA及びHB(存在する場合)のそれぞれが、同一若しくは異なってもよいプロトン酸である。
「プロトン酸」とは、水溶液中のプロトン(H)供与体を意味する。したがって、プロトン酸内のA又はBは共役塩基である。したがって、プロトン酸は、水中の7未満のpHを有する(つまり、ヒドロニウムイオンの濃度は、10-7モル/Lを超える)。
一実施形態において、その塩は、以下の式(HA及びHBが異なるモノプロトン酸である)を有する混合塩である:
Figure 2023524146000006
しかしながら、好ましくはその塩は混合塩ではなく、以下の式:
Figure 2023524146000007

を有し、
Xはそれぞれ、ジプロトン酸又はモノプロトン酸などのプロトン酸である。
一実施形態において、その塩は以下の式:
Figure 2023524146000008

を有し、式中、HAはジプロトン酸である。
好ましくは、その塩は、ビス-モノプロトン酸である以下の式:
Figure 2023524146000009

を有する。
本明細書で使用されるLMTX化合物に存在し得るプロトン酸の例としては:
無機酸:ハロゲン化水素酸(hydrohalide acid)(例えば、HCl、HBr)、硝酸(HNO)、硫酸(HSO
有機酸:炭酸(HCO)、酢酸(CHCOOH)、メタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸が挙げられる。
好ましい酸はモノプロトン酸であり、塩はビス(モノプロトン酸)塩である。
好ましいMT化合物はLMTM:
Figure 2023524146000010

である。
重量係数
無水塩は、分子量約477.6を有する。LMTコアの分子量285.1に基づいて、本発明においてこのMT化合物を使用するための重量因子は1.67である。「重量係数」とは、MT含有化合物が含有するMTの重量に対する、純粋なMT含有化合物の相対重量を意味する。
他の重量係数は、本明細書における実施例MT化合物について計算されてもよく、相当する投薬量範囲がそれから計算されてもよい。
他の実施例LMTX化合物は以下の通りである。その分子量(無水)及び重量係数も示す:
Figure 2023524146000011

Figure 2023524146000012
したがって、MTに関して本明細書に記載の投薬量は、その分子量に対して調節されるように、これらのMT含有化合物に必要な変更を加えて適用する。
蓄積係数(Accumulation factor)
当業者によって理解されるように、所定の1日用量に関して、投与頻度が多くなるほど、薬剤の蓄積が多くなり得る。
したがって、請求される本発明の特定の実施形態において、MT化合物の総1日投与量は、より高頻度で投与する場合(例えば、1日2回[bid]又は1日3回[tid])には比較的低く、又は1日4回[qd]投与する場合には高い。
治療及び予防法
症状を治療する文脈において、本明細書で使用される「治療(処置)」という用語は一般に、一部の所望の治療効果が達成される、例えば症状の進行の抑制が達成され、及び進行速度の低減、進行速度の停止、症状の後退、症状の回復、及び症状の治癒を含む、ヒト又は動物の処置及び治療法(例えば、獣医学分野における)に関する。
本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、目的の治療投与計画に従って投与された場合に、いくつかの目的の治療効果を発揮するのに有効であり、妥当な利益/リスク比と釣り合う、本発明の化合物、又は前記化合物を含む物質、組成物、若しくは製剤(dosage)の量に関する。本発者らは、本発明の疾患に関するMT化合物の治療有効量が、当技術分野で従来理解される量よりもかなり少ないことを実証した。
本発明は、予防的措置としての治療も包含する。
本明細書で使用される「予防的に有効な量」という用語は、目的の治療投与計画に従って投与された場合に、いくつかの目的の治療効果を発揮するのに有効であり、妥当な利益/リスク比と釣り合う、本発明の化合物、又は前記化合物を含む物質、組成物、若しくは製剤の量に関する。
本明細書の文脈における「予防法」は、完全な成功、つまり完全な保護又は完全な予防に制限すべきではないと理解される。本明細書の文脈における予防法はむしろ、その特定の症状を遅らせる、軽減する、又は回避するのを助けることによって、健康を維持する目的で、予め症状の前に、又はかかる症状が悪化する前に、投与される処置を意味する。
併用治療及び単剤療法
「治療」という用語は、「併用」治療及び療法を含み、2つ以上の治療又は療法が、例えば逐次又は同時に組み合わせられる。これらは、症候性治療又は疾患修飾治療であり得る。
特定の併用は、医師の自由裁量にて行われるだろう。
併用治療において、作用剤(agent)(つまり、本明細書に記載のMT化合物+1つ若しくは複数の作用剤)は、同時に又は逐次投与されてもよく、個々に異なる投与スケジュールで、及び異なる経路を経て投与されてもよい。例えば、逐次投与される場合には、作用剤は、短い間隔(例えば、5~10分の期間にわたって)で、又は長い間隔(例えば、1、2、3、4時間若しくはそれ以上の時間をあけて、又は必要であれば、さらにそれより長い間隔をあけて)で投与することができ、正確な投与計画は、治療薬の特性と釣り合う。
一部の実施形態において、本発明は、酸素療法と併せて使用され得る。
一部の実施形態において、本発明は、低酸素血症若しくは低酸素を引き起こす、又は低酸素血症若しくは低酸素から生じる、疾患又は病態に適した更なる活性化剤(activate agent)と併せて使用され得る。
他の実施形態において、その治療は「単剤療法」であり、つまりMT含有化合物が、別の作用剤と併せて(上述の意味の中で)使用されないということである。
治療期間
低酸素血症の治療に関して、本明細書に記載のMT化合物をベースとする治療投与計画は好ましくは、疾患及び症状に適切な、持続した期間にわたって適用される。詳細な期間は、医師の自由裁量であるだろう。
例えば、治療の期間は:
1~14、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14日間;
1~4、例えば1、2、3又は4週間であり得る。
すべての症例において、治療期間は一般に、医師の助言及び評価次第である。
製剤剤形
本発明のMT化合物、又はそれを含む医薬組成物は、対象/患者の胃に経口(若しくは経鼻胃管を介して)投与され得る。
通常、本発明の実施形態において、化合物は、その化合物と、薬剤として許容される担体又は希釈剤と、を含む組成物として投与される。
一部の実施形態において、その組成物は、本明細書に記載の化合物と、薬剤として許容される担体、希釈剤、又は賦形剤と、を含む医薬組成物(例えば、配合物、製剤、薬剤)である。
本明細書で使用される、「薬剤として許容される」という用語は、健全な医学的判断の範囲内であり、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症なく、当該の対象(例えば、ヒト)の組織との接触での使用に適している、妥当な利益/リスク比と釣り合う、化合物、成分、物質、組成物、剤形等に関する。各担体、希釈剤、賦形剤等はまた、配合物の他の成分と適合性であるという意味で「許容可能」でなければならない。
一部の実施形態において、組成物は、当業者に既知の1種又は複数種の他の薬剤として許容される成分、限定されないが、薬剤として許容される担体、希釈剤、賦形剤、補助剤、充填剤、緩衝剤、保存剤、酸化防止剤、滑沢剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば、湿潤剤)、マスキング剤、着色剤、香味剤、及び甘味剤などと共に、本明細書に記載の少なくとも1種類の化合物を含む医薬組成物である。
一部の実施形態において、組成物はさらに、他の作用薬、例えば他の治療薬又は予防薬を含む。
適切な担体、希釈剤、賦形剤等は、標準薬剤テキストに記載されている。例えば、Handbook of Pharmaceutical Additives,2nd Edition(eds.M.Ash and I.Ash),2001(Synapse Information Resources,Inc.,Endicott,New York,USA),Remington’s Pharmaceutical Sciences,20th edition,pub.Lippincott,Williams&Wilkins,2000;及びHandbook of Pharmaceutical Excipients,2nd edition,1994を参照されたい。
本発明の一態様では、本明細書に記載のMT化合物(例えば、本明細書に記載の方法によって得た、又は得られる本明細書に記載の純度を有する等)と、薬剤として許容される担体、希釈剤、又は賦形剤と、を含む投薬単位(例えば、医薬錠剤又はカプセル剤)が用いられる。
比較的少ない量で存在し得るが、「MT化合物」は、投薬単位の作用薬であり、それは言わば、低酸素血症に関して治療的又は予防的効果を有することが意図される。逆に、投薬単位の他の成分は、治療上不活性であり、例えば担体、希釈剤、又は賦形剤であるだろう。
したがって、好ましくは、本明細書に記載の併用治療に対する以外に、投薬単位が使用されるように意図される疾患に関して、投薬単位の他の活性成分、治療的又は予防的効果を有するように意図される他の作用剤は存在しない。
一部の実施形態において、投薬単位は錠剤である。
一部の実施形態において、投薬単位はカプセルである。
一部の実施形態において、前記カプセルは、ゼラチンカプセルである。
一部の実施形態において、前記カプセルは、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)カプセルである。
組成物中のMTの適切な量は、1日あたりどのくらいの頻度で対象によって摂取されるか、又は一度にいくつの単位が摂取されるかに応じて異なる。したがって、投薬単位は個々に、総1日用量よりも少量を含有し得る。
一例の投薬単位は、MTを0.5~250mg含有し得る。
一部の実施形態において、その量は、MT約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120mgである。
本明細書に記載の、又は説明される重量係数を用いて、当業者であれば、経口製剤での使用に、MT含有化合物の適切な量を選択することができる。
上記で説明されるように、LMTMのMT重量係数は1.67である。活性成分の単位量又は単純な分割量を使用することが簡便であるため、非制限的な例のLMTM投薬単位は17mg等を含み得る。
一実施形態において、LMTM約17、27、34、51mg等を含む投薬単位医薬組成物が提供される。
ラベル、説明書及びパーツのキット
本明細書に記載の単位投薬量組成物(LMTX化合物+任意に他の成分)は、その使用説明書と共にラベル付けされたパケット内に提供され得る。
一実施形態において、パックは、製薬分野でよく知られているようにボトルである。一般的なボトルは、子供が開けることのできないHDPEプッシュロック式密閉部と共に、薬局方グレードHDPE(高密度ポリエチレン)から製造されてもよく、サッシェ又はキャニスター内に存在するシリカゲル乾燥剤を含有してもよい。ボトル自体はラベルを含み得て、私達のための説明書、及び任意にラベルの更なるコピーと共に、厚紙容器内にパッケージされ得る。
一実施形態において、パック又はパケットはブリスター包装(好ましくは、アルミニウムキャビティ及びアルミニウム箔を有する包装)であり、したがって実質的に水分不透過性である。この場合には、パックは、私達のための説明書、及び容器に貼られたラベルを有する厚紙容器に包装されてもよい。
前記ラベル又は説明書は、低酸素血症の治療に関する情報を提供し得る。
治療方法
上記で説明される、本発明の別の態様は、本明細書に記載の予防的又は治療有効量の化合物を、好ましくは医薬組成物の形態で、治療を必要とする患者に投与することを含む、低酸素血症の治療方法に関する。
治療法での使用
本発明の別の態様は、人又は動物の身体の低酸素血症を治療法によって治療する方法において使用される、本明細書に記載の化合物又は組成物に関する。
薬剤の製造における使用
本発明の別の態様は、低酸素血症の治療で使用される薬剤の製造における、本明細書に記載のMT化合物又は組成物の使用に関する。
一部の実施形態において、薬剤は、本明細書に記載の組成物、例えば用量組成物(dose composition)である。
酸化及び還元MT化合物の混合物
本発明で用いられるLMT含有化合物は、合成中に「不純物」としての酸化(MT)化合物を含み得て、合成後に酸化(例えば、自動酸化)して、相当する酸化形態も形成され得る。したがって、不可避でないなら、本発明の化合物を含む組成物は、不純物として、相当する酸化化合物の少なくとも一部を含有する可能性がある。例えば、「LMT」塩は、MT塩を15%まで、例えば10~15%含み得る。
混合MT化合物を使用する場合、MT用量は、存在する化合物の分子量因子を用いて容易に算出することができる。
塩及び溶媒和化合物
本明細書に記載のMT含有化合物はそれ自体が塩であるが、混合塩の形態(つまり、他の塩と組み合わせた本発明の化合物)で提供もされ得る。かかる混合塩は、「その薬剤として許容される塩」という用語によって包含されることが意図される。別段の指定がない限り、特定の化合物への言及は、その塩も含む。
本発明の化合物は、溶媒和化合物又は水和物の形態でも提供され得る。「溶媒和化合物」という用語は、溶質(例えば、化合物、化合物の塩)と溶媒の複合体を指すために、従来の意味で本明細書において使用される。溶媒が水である場合には、溶媒和化合物は従来通りに、水和物、例えば一水和物、二水和物、三水和物、五水和物等と呼ばれ得る。別段の指定がない限り、化合物への言及は、溶媒和化合物及びその水和物の形態も含む。
当然のことながら、化合物の塩の溶媒和化合物又は水和物もまた、本発明によって包含される。
多くの特許及び公開物が、本発明、及び本発明がそれに関する現況技術をより完全に説明及び開示するために本明細書に記載される。あたかも個々の参考文献がそれぞれ、具体的及び個々に参照により組み込まれるのと同程度に、これらの参考文献それぞれが、参照によりその全体が本開示内容に本明細書において組み込まれる。
以下の特許請求の範囲を含む、この明細書全体を通して、文脈に別段の必要がない限り、「含む(comprise)」という言葉、並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」などのバリエーションは、他のいずれかの整数若しくは工程、又は整数若しくは工程のグループの除外ではなく、指定の整数若しくは工程、又は整数若しくは工程のグループの包含を意味すると理解されよう。
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される、単数形の「1つ」、「1種類の」及び「その」は、文脈で明確に、別段の指定がない限り、複数形を含むということを留意すべきである。したがって、例えば「薬剤担体」の言及は、2種類以上のかかる担体の混合物を含む。
範囲は、「約」の特定の1つの値から、及び/又は「約」のもう1つの特定の値として本明細書で表されることが多い。かかる範囲が表される場合、別の実施形態は、その1つの特定の値から、及び/又はその他の特定の値までを含む。同様に、先行する「約」の使用によって、値が近似値として表される場合、特定の値は別の実施形態を形成すると理解される。
本明細書におけるサブタイトルは、単に便宜上含まれ、開示内容を制限するものとして決して解釈すべきではない。
本発明は、以下の非制限的な図面及び実施例を参照してさらに説明される。本発明の他の実施形態は、これらを考慮に入れて当業者には理解されよう。
本発明を実施するために当業者によって使用され得るのと同程度に、本明細書に記載のすべての参考文献の開示内容は、相互参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
図面
投与前、並びに4mg及び約100mg(75mg、100mg、125mgの平均)にてLMTの単一投薬後の診療室での4時間後と比較した、LMTXを投与された患者における酸素飽和レベル。レベルは投与前及び投与から4時間後(投与後)に測定された。 4時間にわたるSpO2レベルに対するLMTMの作用は、metHbに対する相当する作用に依存しなかった。 一定の時間にわたる高投薬量でのLMTMは系統的にmetHbレベルを増加する。 親和性LMT/MT-ヘム相互作用の計算的化学モデリング。 以下の実施例4に説明される、ヘモグロビンによるO結合の増強におけるLMTの提案される作用メカニズムの例証。 以下の実施例4に説明される、ヘモグロビンによるO結合の増強におけるLMTの提案される作用メカニズムの例証。 以下の実施例4に説明される、ヘモグロビンによるO結合の増強におけるLMTの提案される作用メカニズムの例証。 以下の実施例4に説明される、ヘモグロビンによるO結合の増強におけるLMTの提案される作用メカニズムの例証。 以下の実施例4に説明される、ヘモグロビンによるO結合の増強におけるLMTの提案される作用メカニズムの例証。
実施例1-メチルチオニニウム塩化物(MTC)及びLMTX
MTC(メチルチオニニウム塩化物、メチレンブルー)は、1876以来、薬剤として入手可能である。それは、健康システムにおいて最も安全及び最も有効な薬のリストである必須の薬の世界保健機関のリストにある。
MTCは、メトヘモグロビン血症、マラリア、腎結石症、双極性障害、イホスファミド脳症、最近ではアルツハイマー病(AD;Wischik et al.、 2015;Nedu et al 2020)の治療を含む臨床医学の多くの領域に以前から適用されている。
MT部位は、酸化MT形態及び還元LMT形態で存在し得る(Harrington et al.,2015)。
Figure 2023524146000013

MTCは、酸化MT形態の塩化物塩である。それは、腸内でチアジン染料レダクターゼ活性によって、赤血球及び脳などの深部コンパートメントへの吸収及び分布を可能にするために、還元ロイコ-MT(LMT;国際的非商標名:ヒドロメチルチオニン)形態に変換される必要がある(Baddeley et al.,2015)。同様に、単離された赤血球標本において、MTは、赤血球内及び肺内皮細胞内の両方に取り込むために、LMTに変換される必要がある(Merker et al.,1997)。
MTCは実際には、体内での支配的形態であるLMTのプロドラッグであるため、TauRxは、LMT形態の直接的投与を可能にするために、LMTM(ロイコ-メチルチオニニウムビス(ヒドロキシメタンスルホネート);ヒドロメチルチオニンメシレート)としてMTの安定化還元形態を発生した。
LMTX及びLMTM化合物の合成は、当技術分野に記載の方法に従って実施することができる(例えば、国際公開第2007/110627号、及び国際公開第2012/107706号参照)。
実施例2-LMTXは、臨床試験において酸素飽和度を向上させる
本発明者らは、LMTが血中の酸素飽和度を高めるかどうかを決定するために、臨床試験に参加した患者について入手可能なデータを使用した。ベースラインで酸素飽和度<94%(正常範囲の下限は95%である)を有する対象18名のデータが入手可能であった。
これらの患者では、検出された低酸素血症に寄与し得ると疑われる、様々な重症度の多種多様な呼吸疾患又は他の症状、例えば、睡眠時無呼吸、不眠症(発作性夜間呼吸困難又は発作性夜間呼吸窮迫を示し得る)、アスベスト肺、浮腫、喘息、気管支炎、アレルギー、血管性浮腫、肺炎、急性心筋梗塞/高血圧症、血管形成及びステント挿入を有する冠動脈疾患、一過性虚血性発作(TIA)、甲状腺機能低下症、糖尿病、失神、頻脈及び敗血症などが記録された。
これを表1に示す:
Figure 2023524146000014
酸素飽和度のレベルは、投与前に、並びに4mg及び約100mg(75、100、125mgの平均;図1)でLMTの単一投薬後の診療室での4時間後に比較した。
どちらの投与範囲でのLMTMでも、4時間の時点で酸素飽和度を有意に増加し、COVID-19患者の治療に対するLTMXの複数の有益な作用様式が再び裏付けられた。
この作用を理解するために、本発明者らはさらに、これらの患者における低酸素飽和度がmetHbレベルの上昇によるものかどうかを調べた。低SpOを有する対象と、正常範囲のSpOレベルを有する対象の間に、ベースラインでmetHbレベルの差はなかった。さらに、4時間にわたるSpOに対するLMTMの作用は、metHbに対する相当するいずれの作用にも依存しなかった(図2)。
したがって、LMTMは、metHbに対するその既知の作用に無関係の新規なメカニズムによって、血中の酸素飽和度を高めるように、ある範囲の用量にわたってヘモグロビンに作用することができる。実際に、より高い用量のLMTMは系統的に、metHbレベルを増加する(図3)。
実施例3-MT及びメトヘモグロビン血症
メトヘモグロビン血症は、第一鉄(Fe2+)から第二鉄(Fe3+)形態でヘモグロビンに含有される鉄の酸化から生じる。酸化は、酸素効率を保持するヘモグロビンの能力の減少を伴う(Curryet al.,1982)。これは、metHbへの酸素の結合が、所定のヘモグロビンサブユニットにおいて不可逆的であるからである。しかしながら、ヘモグロビン四量体の4つのユニットのうちの1つにおける結合は、グロビンの構造的変化を介して他のメンバーにおいて酸素結合親和性を高める(協同性のメカニズム)。この結果、酸素結合親和性が全体的に増加し、酸素飽和度が増加し、又は酸素-ヘモグロビン飽和曲線が左にシフトする。ヘム鉄への二原子酸素の結合は不可逆的であるため、低酸素組織へ酸素を放出する、ヘモグロビンの能力が低下する。この結果、SpOが減少することなく、最終的に組織の低酸素が生じる。
MTCは、メトヘモグロビン血症の初期治療であり、実際に、その臨床的使用に対する唯一承認された指標である。MTCとして示されるメチルチオニンの酸化MT形態は最初に、赤血球侵入の必要条件として細胞表面にてLMTへと還元される(Mayetal.,2004)。次いで、ヘム部位での活性種であるLMTは、ヘム鉄と配位を形成し、電子の移動を可能にし、Fe3+がFe2+へと変換される。これにより、正常な酸素運搬能力が回復する(Yubisui et al.,1980; Blank et al.,2012)。したがって、これは、MTへのLMTの酸化を生じる酸化還元反応である。LMTは、赤血球における進行中の解糖によって、NADPからそれ自体が再生されるNADPHでの酸化還元反応を介してMTから再生される。赤血球の還元能力を超える条件(例えば、高用量のLMTX又は解糖の効率を損なうG6PD欠乏)において、LMTXは、メトヘモグロビン血症を誘発し得る。両方の症例において、他のシステムでも作用するのと同様に(例えば、ミトコンドリアの電子伝達鎖において)、LMT部位は、赤血球内の電子シャトルとして作用している。
図4に示す計算的化学モデリングは、高親和性LMT/MT-ヘム相互作用の動態を説明する構造基盤を提供する。LMT窒素は、2.1Å内のヘムポルフィリンのFe3+に対してそれ自体を配向する(図1の破線)。次いで、この密な相互作用は、LMTからFe3+への電子の移動を促進し、それによって、それがFe2+へと還元され、その結果MTが形成される。逆に、解糖障害又は高レベルのLMT/MTの条件では、ヘムとの同じ結合相互作用によって、Fe2+からMTへ電子が移動することが可能となり、それぞれFe3+及びLMTが生成される。
LMTが活性型であると仮定すると、上記の臨床上の証拠から、このLMT-ヘム相互作用がヘモグロビンによる酸素取り込みを促進することが示される。逆に、入手可能な臨床上の証拠から、高濃度のLMT(範囲150~250mg/日の経口用量と関連する)によって、metHbレベルの測定可能な増加が生じ得て、同時に、SpOレベルも増加し得ることも分かる。したがって、SpOに対するLMTの作用は、metHbレベルに対する作用によって仲介され得ないということになる、
実施例4-LMTのSpO作用に対する提案されるメカニズム
理論によって束縛されることなく、本発明者らは、本明細書に記載の確認された臨床上の証拠に関する可能性のあるメカニズムを提案する。
ヘモグロビンが脱酸素化状態にある場合、ヘムは、テトラピロール環に完全に収容されていないFeを有するドーム形T状態にあり、2つのヒスチジンによって保持される(αサブユニットにおいてHis87/βサブユニットにおいてHis92及びαサブユニットにおいてHis58/βサブユニットにおいてHis63)。この状態で、高スピンFe(II)状態である鉄のイオン半径は、それが配位する窒素の環に適合するには大きすぎ(半径2.06Å);その環の面から0.6Å外れる(図5)。
がヘム基に結合した場合、R状態は平面となり、小さな半径(1.98Å)を有する低スピンFe(II)状態にあるため、鉄イオンは環の面にあると想定される。鉄の6つの配位位置が占有され:結合酸素分子が第6番目に相当する。OがFe2+に結合する場合、それは遠位のヒスチジンに取って代わり、フラットなR状態でヘム部位を安定化する(図6)。
ヘモグロビンによる酸素の結合は協同的である。ヘモグロビンは連続的な酸素に結合するため、サブユニットの酸素親和性が増加する。結合する第4の酸素に対する親和性は、第1の酸素に対する親和性のおよそ300倍である。その結果は、S状の酸素飽和度曲線である(図7)。
MTは、推定電場定数1.2~1.5でヘムのFeに結合すると推定される。LMTは高い親和性で結合する。LMTの電場定数は、Fe2+に結合するのに十分である(潜在的には、電場定数(f-factor)1.2~1.5; CK Jorgensen,Oxidation numbers and oxidation states,Springer 1969 pp84-85)。したがって、MTは、強配位子場配位子であり、タンパク質内のR状態立体配置を誘発するのに十分に、ヘムに結合することができる(図8A及び8B)。MT部位は、N原子から第一鉄のd軌道までの孤立電子対の供与によって、Fe2+と錯体を形成することができる(Molecules 2013,18(3),3168-3182;https://doi.org/10.3390/molecules18033168)。
したがって、LMTの結合は、酸素結合に対する初期のエネルギー障壁を乗り越え、その後、ヘモグロビンの4つのヘム基すべてに結合し、酸素化することができる。
Fe2+イオン錯化合物は、ピロール環の4つの窒素原子に結合することによって満たされ、第5配位子は、ヘモグロビンの近位のヒスチジンによって与えられる。Oの非存在下にて、第6の配位リガンドは空であり、錯体の幾何学的配置は、ヘム環の面の上にFe2+を有する四角錐であり、デオキシT状態の特徴的なドーム状の形態を生じる。第6の配位部位内にOが結合すると、この結果として、環の面内にFe2+が生じ、八面体形状が形成される。LMTはフラットなR状態への遷移を誘発する可能性があり、したがって、協同性メカニズムによって酸素結合が促進される。しかしながら、LMT結合は、最適ではなく、ヘモグロビンに繊細な高次構造変化が起こり、それが潜在的に、最適な形状から八面体錯化合物の配向を乱す。酸素と比べてLMT配位の最適でない形状によって、LMTよりも高い親和性を有する酸素結合性ヘムが生じる。LMT窒素とヘム鉄との結合距離が2.10Åであるのに対して、酸素に対する相当する結合距離は1.98Åである。したがって、酸素は、高pH/低pCOで利用可能である場合には、LMTに置き換わることができる。これによって、高pH/低pCOでの末梢組織への結合酸素の放出で正常な酸素の解離が起こることが可能となる(図(9))。
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Claims (32)

  1. 対象において低酸素血症を軽減する方法であって、
    前記対象にメチルチオニニウム(MT)含有化合物を経口投与することを含み、
    前記投与が、1日あたりMT0.5mg~250mgの総経口1日用量を、任意に2回以上の用量に分割して、前記対象に提供し、
    前記MT含有化合物が、以下の式:
    Figure 2023524146000015

    (上記式中、HA及びHB(存在する場合)のそれぞれが、同一若しくは異なってもよいプロトン酸であり、
    p=1又は2であり;q=0又は1であり;n=1又は2であり;(p+q)×n=2である)
    のLMTX化合物、又はその水和物若しくは溶媒和化合物である、方法。
  2. 前記総1日用量が:
    (i)1日あたり前記対象に、MT35、40、50、又は60mgを超え、及び250mg以下であり;及び/又は
    (ii)MT約30.5、30.6、31、35、37.5、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、140、150、160、170、180、200、210、220、230、240、又は250mg以上である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記総1日用量が、MT約60、75、又は120mgである、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記総1日用量が、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4mgのいずれか付近から、5、6、7、8、9又は10mgのいずれか付近までである、請求項1に記載の方法。
  5. 前記総1日用量が3~10mgである、請求項4に記載の方法。
  6. 前記総1日用量が3.5~7mgである、請求項4に記載の方法。
  7. 前記総1日用量が、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、5、6、7、8、9、又は10mgである、請求項4に記載の方法。
  8. 前記総1日用量が、4、5、6、7、又は8mgである、請求項4に記載の方法。
  9. 前記化合物の前記総1日用量が、1日2回又は1日3回に分割された用量として投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記対象が、室内空気にて95%未満、任意に94%、93%、92%、91%又は90%以下の血中酸素飽和度レベル(SpO2)を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
  11. そのSpO2値に従って、前記対象を選択する工程を含む、請求項10に記載の方法。
  12. 前記対象が、その収縮期血圧(BP)が80mmHg未満である低血圧性対象;呼吸又は心拍停止の対象;新生児仮死患者;鎌状赤血球発症の疑いがある対象;一酸化炭素中毒を有する対象;から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 前記血液の酸素運搬能力を向上させ、それによって、前記血液中の酸素飽和度が増加し、前記増加が任意に4時間以内の増加である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
  14. 低酸素血症の原因となる、又は低酸素血症から生じる疾患又は病態を治療するための、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 低酸素症若しくは無酸素症の原因となる、又は低酸素血症若しくは無酸素症から生じる疾患又は病態を治療するための、或いは低酸素血症の原因となる、又は低酸素血症から生じる疾患又は病態を有すると診断された対象を治療するための、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
  16. 前記低酸素症が、貧血性低酸素症、低酸素性低酸素症又はうっ血性低酸素症から選択される、請求項15に記載の方法。
  17. 長期間の酸素療法を必要とする疾患又は病態を治療するための、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
  18. 前記疾患又は病態が、貧血;ARDS(急性呼吸窮迫症候群);アスベスト肺;喘息;気管支炎;一酸化炭素中毒;脳性低酸素;過剰なG力によって誘発される脳性低酸素(G-LOC);小児における先天性心疾患;成人における先天性心疾患;うっ血性心不全;COPD(慢性閉塞性肺疾患);COVID-19;シアン化物中毒;嚢胞性線維症;気腫;組織中毒性低酸素;低換気トレーニング;不眠症;間欠性血管性浮腫;間質性肺疾患;子宮内低酸素;虚血性低酸素;外傷によって、又は任意に細菌性、ウイルス性若しくは真菌性である感染症によって起こる肺障害;呼吸を抑制する投薬に対する有害反応;肺炎;気胸;肺水腫;肺性塞栓症;肺線維症;肺性高血圧症;呼吸性アルカローシス;睡眠時無呼吸;一過性虚血性発作;結核;腫瘍低酸素;から選択される、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
  19. 前記MT含有化合物が、酸素補充療法と併せて使用される、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
  20. 前記MT含有化合物が、以下の式:
    Figure 2023524146000016

    (式中、HA及びHBが異なるモノプロトン酸である)
    を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
  21. 前記MT含有化合物が、以下の式:
    Figure 2023524146000017

    (式中、HXのそれぞれが、プロトン酸である)
    を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
  22. 前記MT含有化合物が、以下の式:
    Figure 2023524146000018

    を有し、及びHAがジプロトン酸である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
  23. 前記MT含有化合物が、以下の式:
    Figure 2023524146000019

    を有し、及びビス-モノプロトン酸である、請求項21に記載の方法。
  24. 前記又はそれぞれのプロトン酸が無機酸である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
  25. それぞれのプロトン酸がハロゲン化水素酸である、請求項24に記載の方法。
  26. 前記又はそれぞれのプロトン酸が、HCl;HBr;HNO;HSOから選択される、請求項24に記載の方法。
  27. 前記又はそれぞれのプロトン酸が有機酸である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
  28. 前記又はそれぞれのプロトン酸が、HCO;CHCOOH;メタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸から選択される、請求項27に記載の方法。
  29. 前記MT含有化合物が、LMTM:
    Figure 2023524146000020

    である、請求項1~23のいずれか一項又は請求項28に記載の方法。
  30. 前記MT含有化合物が:
    Figure 2023524146000021

    Figure 2023524146000022

    からなるリストから選択される、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
  31. 請求項1~30のいずれか一項に記載の処置方法で使用される、請求項1~30のいずれか一項に記載のMT含有化合物。
  32. 請求項1~30のいずれか一項に記載の処置方法で使用される薬剤の製造における、請求項1~30のいずれか一項に記載のMT含有化合物の使用。
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