JP2023172467A - 特殊形状電気ニッケルの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ピンホールの発生率を低減できる特殊形状電気ニッケルの製造方法を提供する。【解決手段】特殊形状電気ニッケルの製造方法は、金属板の表面を複数の電着部を残して絶縁層で覆ったカソードとアノードとを挿入した電解槽に塩化ニッケル水溶液である電解液を給液しつつ電解採取する電解採取工程を有する。電解採取工程における電解給液のpHおよびニッケル濃度は以下の式(1)を満たす。Y≧-0.017X+4.34 (1)ここで、Yは前記電解給液のpH、Xは前記電解給液のニッケル濃度[g/L]である。【選択図】図2

Description

本発明は、特殊形状電気ニッケルの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、絶縁物でマスキングした母板を用いた電解採取により特殊形状の電気ニッケルを製造する方法に関する。
ニッケルの電解採取では、ニッケル以外の金属であって繰り返し使用できる材質の金属板をカソードとして使用し、所定時間の電解を行った後、電着物を金属板から引き剥がして回収する方法が一般的に行われている。このとき、金属板の表面を電着部を残して絶縁物でマスキングしておくことにより、任意の特殊形状の電着物を得ることができる。
電解メッキ用のアノードとして用いられる電気ニッケルは、電解メッキ装置のアノードボックスへの充填性およびハンドリング性などの観点から、角が立たない丸みのある小塊状(例えば半球状または円板状)の形状が好まれる。このような半球状または円板状の電気ニッケルを電解採取により製造するために、上記のような多数の円形の電着部を残して金属板の表面を絶縁物でマスキングしたカソード(母板)を用いて電解することが行われる(例えば、特許文献1)。
特開2019-108592号公報
特殊形状の電気ニッケルの製造においては、絶縁物でマスキングした母板をカソードとして用いるため、有効電着面積が減少し、電着部の電流密度が高くなる傾向にある。さらに、基本的にアノードの導電面は平板状であるのに対し、カソードの電着部は絶縁物によって形状的な制限を受けるので、電着部の周縁部に電流の集中が起こりやすく、電流密度が高くなる。電流密度が高くなると、ニッケルと水素は還元電位が近いため、ニッケルの析出とともに水素ガスが発生しやすい。発生した水素ガスの気泡を巻き込んで電着が起こると、主に表面に穴が空いた電気ニッケルが生成されてしまう。電気ニッケルの穴はピンホールと呼ばれ、外観不良の一種である。ピンホールが生じた不良品は再溶解処理され、製品とはならない。そのため、不良率が高くなると、生産効率が低下し、製造コストが高くなる。
本発明は上記事情に鑑み、ピンホールの発生率を低減できる特殊形状電気ニッケルの製造方法を提供することを目的とする。
第1発明の特殊形状電気ニッケルの製造方法は、金属板の表面を複数の電着部を残して絶縁層で覆ったカソードとアノードとを挿入した電解槽に塩化ニッケル水溶液である電解液を給液しつつ電解採取する電解採取工程を備え、前記電解採取工程における電解給液のpHおよびニッケル濃度は以下の式(1)を満たすことを特徴とする。
Y≧-0.017X+4.34 ・・・(1)
ここで、Yは前記電解給液のpH、Xは前記電解給液のニッケル濃度[g/L]である。
第2発明の特殊形状電気ニッケルの製造方法は、第1発明において、前記電解給液のpHは3.1未満であることを特徴とする。
第3発明の特殊形状電気ニッケルの製造方法は、第1または第2発明において、前記電解給液のニッケル濃度は90g/L未満であることを特徴とする。
本発明によれば、特殊形状電気ニッケルのピンホールの発生率を低減できる
母板の正面図である。 電解給液のpHおよびニッケル濃度とピンホール発生との関係を示すグラフである。
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係る方法は、特殊形状電気ニッケルの製造方法である。特殊形状電気ニッケルとは、板状の電着物を格子状に切断して得られる角形の電気ニッケルに対して、切断を伴わずに得られる半球状、円盤状などの任意の形状の電気ニッケルをいう。
特殊形状電気ニッケルは電解採取により得られる(電解採取工程)。一般に、電解設備は複数の電解槽を有する。また、電解設備は給液調整設備を有する。給液調整設備には前工程の設備から塩化ニッケル水溶液が供給されている。給液調整設備では、水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加したり、塩酸などの酸を添加したりすることで、塩化ニッケル水溶液を所望のpHに調整する。また、給液調整設備は、塩化ニッケル水溶液を濃縮または希釈することでニッケル濃度の調整を行う。
給液調整設備においてpHおよびニッケル濃度が調整された塩化ニッケル水溶液は、電解液として電解槽に連続供給される。給液調整設備から排出され、電解槽に供給される電解液を電解給液と称する。
電解槽には複数のアノードと複数のカソードとが交互に挿入されている。アノードとしてアノードボックスを備えた不溶性電極が用いられる。カソードとして図1に示す母板1が用いられる。母板1は、ステンレス製またはチタン製の金属板11の表面を、複数の電着部12を残して絶縁層13で覆ったものである。金属板11は、例えば、縦1,000~1,200mm、横800~900mmの長方形である。金属板11の上縁には吊り手14を介して銅製またはニッケルと銅のクラッド材製のビーム15が設けられている。
図1に示す例では、多数の円形の電着部12が千鳥状に配置されたパターンで金属板11がマスキングされている。例えば、電着部12の直径は12~16mmである。隣接する電着部12の最短距離は5~6mmである。金属板11は両面がマスキングされている。電着部12の数は金属板11の両面で3千~5千個である。なお、電着部12の形状は円形に限定されず、楕円形、矩形など他の形状でもよい。
アノード-カソード間に電流を流すことで電解採取が行われる。所定時間(例えば、4~10日)の通電により、母板1の電着部12に電気ニッケルが電着する。電着部12の形状が円形の場合、電着物は中央部が平らであり、周縁部が盛り上がったボタン形に成長する。
電解採取は電着物が目標とする寸法に成長する条件で操業される。具体的には、電着物が目標とする寸法に成長するように、電解液の組成、アノード-カソード間の電流、通電時間などの操業条件が設定される。例えば、電解採取完了後の電着物は、直径が16~19mm、厚さが約5mmのボタン形である。
所定時間の通電の後、電解槽から母板1を抜き取る。ハンマリングなどの方法により母板1に振動を与えて、母板1に電着した電着物を剥ぎ取る。母板1から剥ぎ取られた電着物は研磨、洗浄、乾燥を経て製品となる。
カソードの表面ではニッケルの析出とともに水素ガスが発生することがある。特に、特殊形状電気ニッケルの製造においては、絶縁物でマスキングした母板1をカソードとして用いるため、有効電着面積が減少し、電着部の電流密度が高くなる傾向にある。さらに、基本的にアノードの導電面は平板状であるのに対し、カソードの電着部12は絶縁物によって形状的な制限を受けるので、電着部12の周縁部に電流の集中が起こりやすく、電流密度が高くなる。そのため、水素ガスが発生しやすい。発生した水素ガスの気泡を巻き込んで電着が起こると、主に表面に穴が空いた電気ニッケルが生成されてしまう。このような電気ニッケルはピンホール不良と呼ばれる外観不良となる。
ピンホールの発生を抑制するため、電解採取工程において、電解給液のpHおよびニッケル濃度を、以下の式(1)を満たす値にすることが好ましい。電解給液のpHおよびニッケル濃度の調整は給液調整設備で行うことができる。このようにすれば、水素ガスの発生を抑制でき、特殊形状電気ニッケルのピンホールの発生率を低減できる。
Y≧-0.017X+4.34 ・・・(1)
ここで、Yは電解給液のpH、Xは電解給液のニッケル濃度[g/L]である。
また、電解給液のpHは3.1未満が好ましい。電解液のpHが高すぎると水酸化物が生成されやすい。電解採取工程では、アノードから塩素ガスが発生し、発生した塩素ガスを回収している。アノードは隔膜に囲われたアノードボックス内に納められており、アノードボックス内は負圧に維持されているので、塩素ガスの漏洩は無い。しかし、塩素ガスは電解液に溶けやすく、また、電解液の逆拡散が発生することがある。そうするとカソード側も高酸化性雰囲気にさらされるため、水酸化物が生成されやすい条件となる。水酸化物が生成されると、水酸化物が巻き込まれて電着し、電気ニッケルの外観不良および不純物不良となる。電解給液のpHを3.1未満とすることで、水酸化物の発生を抑制できる。
さらに、電解給液のニッケル濃度は90g/L未満が好ましい。電解液のニッケル濃度が高すぎると、電解液の粘度が高くなる。電解液の粘度が高いとアノードボックスの隔膜の通液抵抗が高くなり、電解電圧が高くなる。また、電解液のニッケル濃度が高すぎると、カソードが不動態化する可能性が高くなり、また、得られる電気ニッケルが脆くなりやすい。電解給液のニッケル濃度を90g/L未満とすれば、これらの問題を抑制できる。
つぎに、実施例を説明する。
特殊形状電気ニッケルを製造する操業を行った。母板として縦1,090mm、横830mmのステンレス板を用いた。ステンレス板の両面に直径15mmの真円の電着部を千鳥状に配置したパターンで絶縁層を形成した。電着部の数はステンレス板の片面につき2,021個(両面で4,042個)である。
電解中のカソード電流密度を200~400A/mとした。電解槽内の電解液の温度を55~65℃に調整した。電解液は塩化ニッケル水溶液である。電解給液のpHおよびニッケル濃度を測定した。
7~10日間の通電の後、母板を抜き取り、電着物を剥ぎ取った。産出された3~4tの電着物を1ロットとして、1ロットから10kgの電着物を抜き出した。その10kgの電着物について、限度見本と照合することで、人が目視によって全数検査を行った。合否判定基準は、電着物1個につき2mm以上のピンホールが10個以上検出されたものをピンホール不良と判定した。そして、10kgの電着物について、ピンホール不良が5%以上確認されたロット全体をピンホール不良品(ピンホール不良ロット)と判定し、不合格とした。
以上の操業を繰り返し行い、電解給液のpHおよびニッケル濃度と、ピンホール不良品の発生との関係を調べた。その結果を図2に示す。図2のグラフにおける近似線は、「Y=-0.017X+4.34」である。この近似線より高pH、高ニッケル濃度の領域では、ピンホールの発生を抑制できているといえる。このことから、電解給液のpHおよびニッケル濃度を、前記式(1)を満たす値にすることで、ピンホールの発生率を低減できることが確認された。
図2のグラフにおける近似線より高pH、高ニッケル濃度の領域では、ピンホールが発生しにくい。pHが高いということは、水素イオン濃度が低いということであり、水素ガスが発生しにくくなるからである。また、標準電極電位から考えればニッケルよりも水素の方が還元されやすいが、還元のされやすさは濃度にも依存する。電解給液のモル濃度比を考えれば、ニッケル濃度の方が水素イオン濃度よりも圧倒的に(1,000倍程度)大きい。このような条件では、ニッケル濃度が十分に高ければ水素ガスの発生を抑制できる。このように、ピンホールの発生には電解液のpHとニッケル濃度の両方が影響すると考えられる。
1 母板
11 金属板
12 電着部
13 絶縁層
14 吊り手
15 ビーム

Claims (3)

  1. 金属板の表面を複数の電着部を残して絶縁層で覆ったカソードとアノードとを挿入した電解槽に塩化ニッケル水溶液である電解液を給液しつつ電解採取する電解採取工程を備え、
    前記電解採取工程における電解給液のpHおよびニッケル濃度は以下の式(1)を満たす
    ことを特徴とする特殊形状電気ニッケルの製造方法。
    Y≧-0.017X+4.34 ・・・(1)
    ここで、Yは前記電解給液のpH、Xは前記電解給液のニッケル濃度[g/L]である。
  2. 前記電解給液のpHは3.1未満である
    ことを特徴とする請求項1記載の特殊形状電気ニッケルの製造方法。
  3. 前記電解給液のニッケル濃度は90g/L未満である
    ことを特徴とする請求項1または2記載の特殊形状電気ニッケルの製造方法。
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