JP2023168792A - 冷間タンデム圧延機の圧延方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】圧延中の被圧延材のロールバイト内の界面上昇温度を高精度に予測し、ヒートスクラッチの発生を抑制することが可能な、冷間タンデム圧延機の圧延方法を提供する。【解決手段】冷間タンデム圧延機の全てのスタンドについて、圧延中のミルモータ消費動力からロールバイト内の界面上昇温度をそれぞれ算出し、それぞれのスタンドについて、界面上昇温度と、スタンド毎に予め設定されたヒートスクラッチ制御目標温度とを比較し、界面上昇温度がヒートスクラッチ制御目標温度を超えるスタンドがある場合には、当該スタンドの圧下率を変更するとともに、他のスタンドの圧下率を冷間タンデム圧延機の総圧下率を維持するように変更し、圧下率に基づいて圧延を実施する、冷間タンデム圧延機の圧延方法が提供される。【選択図】図3
Description
本発明は、冷間タンデム圧延機の圧延方法に関する。
冷間タンデム圧延機では、圧延速度または圧下率の増大により、ヒートスクラッチが発生することがある。ヒートスクラッチとは、ロールバイト内のワークロールと被圧延材との界面温度が上昇し、ロールバイト内で油膜が破断した結果、ワークロールと被圧延材との金属接触により発生した焼付き疵のことである。
ヒートスクラッチ防止に関しては、例えば、耐焼付き性に優れた圧延潤滑油を使用する方法や、クーラント量を制御して板やワークロールの温度を低下させる方法、ワークロール速度を低減する方法等がある。これらは、ロールバイト内のワークロールと被圧延材との界面温度の上昇を防止すること、または、ロールバイト内の界面温度が上昇しても油膜破断が生じないようにすることにより、ヒートスクラッチの発生を抑制する技術である。しかし、耐焼付き性に優れた圧延潤滑油の使用はコストアップの可能性がある。また、クーラント量の制御により板及びワークロールの温度を低下させる方法は、ヒートスクラッチ抑制効果はあるが、応答性が低い。ワークロール速度の低下は生産性の低下を招く。
生産性を阻害せずにヒートスクラッチの発生を防止する技術として、例えば特許文献1には、スタンド出側板厚、圧延荷重等の検出値に基づいて摩擦係数及び変形抵抗を求め、検出値、摩擦係数及び変形抵抗に基づいてロールバイト出口板温度を推定し、ロールバイト出口板温度がヒートスクラッチ制御目標温度を超えないようにワークロール速度を制御する、冷間タンデム圧延機における圧延方法が開示されている。
また、冷間タンデム圧延機の全スタンドにおいてヒートスクラッチの発生を抑制する技術として、例えば特許文献2には、ロールバイト内の界面温度を計算し、ロールバイト内の界面温度がヒートスクラッチ発生温度以上となるスタンドについては圧下率を低下させ、代わりに他のスタンドの圧下率を上げて全てのスタンドの圧下率を最適化する、冷間タンデム圧延機における圧延方法が開示されている。
ここで、上記特許文献1、2では、ロールバイト内の界面温度の算出に、変形抵抗及び摩擦係数を用いる。従来からの知見として、界面温度は、圧延に発生する塑性加工発熱と摩擦発熱とから算出される。塑性加工発熱の算出においては、被圧延材の変形抵抗を高精度に予測する必要があり、摩擦発熱の算出においては、被圧延材とワークロールとの接触部の摩擦係数を高精度に予測する必要がある。しかし、操業のばらつきを考慮すると、変形抵抗及び摩擦係数を常に高精度に算出することは難しい。また、被圧延材の長手方向における硬度のばらつきや摩擦係数の変動を考えると、長手方向の変形抵抗及び摩擦係数の変動を事前に予測することは難しい。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、冷間タンデム圧延において、圧延中の被圧延材のロールバイト内の界面上昇温度を高精度に予測し、ヒートスクラッチの発生を抑制することが可能な、冷間タンデム圧延機の圧延方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、冷間タンデム圧延機の全てのスタンドについて、圧延中のミルモータ消費動力からロールバイト内の界面上昇温度をそれぞれ算出し、それぞれのスタンドについて、界面上昇温度と、スタンド毎に予め設定されたヒートスクラッチ制御目標温度とを比較し、界面上昇温度がヒートスクラッチ制御目標温度を超えるスタンドがある場合には、当該スタンドの圧下率を変更するとともに、他のスタンドの圧下率を冷間タンデム圧延機の総圧下率を維持するように変更し、当該圧下率に基づいて圧延を実施する、冷間タンデム圧延機の圧延方法が提供される。
界面上昇温度TRは、下記式(A)を用いて算出してもよい。なお、QR[W]はロールバイト内の界面温度上昇による熱損失であり、下記(B)により表される。WM[W]はミルモータ消費動力、WR[W]は圧延による単位時間当たりの仕事量、QM[W]は駆動系装置の熱損失である。また、αはロールバイト内の界面温度上昇による熱損失が被圧延材とワークロールとに分配される分配比率、ρsは被圧延材の密度[N/m3]、csは被圧延材の比熱[J/kg・℃]である。
式(A)の分配比率αを、スタンド出側で測定された被圧延材の表面温度に基づき調整し、調整した分配比率αを用いて、式(A)から界面上昇温度TRを算出してもよい。
ミルモータ消費動力WMは、予め圧延スケジュールとして設定された圧延荷重、先進率、スタンド出側板厚、スタンド入側張力、及び、スタンド出側張力に基づいて予測してもよい。
あるいは、ミルモータ消費動力WMは、操業中に所定の制御周期で測定される実測値であり、ミルモータ消費動力WMが測定される毎に、界面上昇温度TRを算出し、界面上昇温度TRがヒートスクラッチ制御目標温度を超えるスタンドがある場合には、当該スタンドの圧下率を変更するとともに、他のスタンドの圧下率を冷間タンデム圧延機の総圧下率を維持するようにリアルタイムに変更してもよい。
以上説明したように本発明によれば、冷間タンデム圧延において、圧延中の被圧延材のロールバイト内の界面上昇温度を高精度に予測し、ヒートスクラッチの発生を抑制することができる。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[1.冷間タンデム圧延機の概要]
まず、図1及び図2を参照して、本発明の一実施形態に係る冷間タンデム圧延機1の概要について説明する。なお、図1は、本実施形態に係る冷間タンデム圧延機1の構成を示す概略説明図である。図2は、冷間タンデム圧延機1を構成するスタンドの構成を示す概略斜視図である。
まず、図1及び図2を参照して、本発明の一実施形態に係る冷間タンデム圧延機1の概要について説明する。なお、図1は、本実施形態に係る冷間タンデム圧延機1の構成を示す概略説明図である。図2は、冷間タンデム圧延機1を構成するスタンドの構成を示す概略斜視図である。
冷間タンデム圧延機1は、複数のスタンドを圧延方向に複数配置して構成された設備である。例えば、図1に示す冷間タンデム圧延機1は、5つのスタンドF1~F5を備える。スタンドF1~F5は、それぞれ、図2に示すように、一対のワークロール11、12と、一対のバックアップロール13、14と備える。一対のワークロール11、12は、モータ19を動力源として回転される。モータ19の動力源は、モータスピンドル18を介して、ピニオンスタンド17にて、上ワークロール11のスピンドル15と下ワークロール12のスピンドル16とに分配される。モータ19により回転された一対のワークロール11、12の間に被圧延材を通過させることにより、被圧延材が圧延される。
各スタンドF1~F5の出側には、それぞれ板厚を測定する板厚計21~25が設けられている。板厚計21~25は、それぞれのスタンドF1~F5の出側で鋼板の板厚を測定する。また、F1スタンドの入側、隣接するスタンド間(F1-F2間、F2-F3間、F3-F4間、F4-F5間)、F5スタンドの出側には、鋼板に作用する張力応力を取得するためのテンションメータ31~36が設けられている。そして、少なくとも1つのスタンドの出側に、鋼板の表面温度を測定する温度計40を設けてもよい。例えば、図1に示す冷間タンデム圧延機1には、F4スタンドの出側に温度計40が設けられている。加えて、各スタンドF1~F5の出側には、それぞれ板速度を測定する板速計51~55が設けられている。
なお、各スタンドF1~F5には、バックアップロール13のロールチョック(図示せず。)と圧下シリンダ(図示せず。)との間、または、バックアップロール13、14のロールチョック(図示せず。)とキーパープレート(図示せず。)との間に、圧延荷重を測定するロードセル(図示せず。)が設置されている。
冷間タンデム圧延機1では、各スタンドF1~F5により順次鋼板を圧延し、所定の板厚の鋼板とする。
[2.冷間タンデム圧延機による圧延]
[2-1.ロールバイト内の界面上昇温度の算出方法]
上記特許文献1、2のようなヒートスクラッチの発生を防止する技術において、ロールバイト内の界面上昇温度を高精度に予測する必要がある一方で、操業のばらつきからロールバイト内の界面上昇温度予測に用いる変形抵抗及び摩擦係数を高精度に算出することは難しい。このような課題について検討した結果、本願発明者は、圧延中にワークロール11、12を駆動するモータ19の消費動力(ミルモータ消費動力)に基づいて、変形抵抗及び摩擦係数を高精度に算出することを見出した。変形抵抗及び摩擦係数を高精度に算出することができれば、ロールバイト内の界面上昇温度の予測精度が高まり、予測したロールバイト内の界面上昇温度がヒートスクラッチ発生温度を超えないように各スタンドF1~F5の圧下率を調整することで、ヒートスクラッチの発生を抑制できる。
[2-1.ロールバイト内の界面上昇温度の算出方法]
上記特許文献1、2のようなヒートスクラッチの発生を防止する技術において、ロールバイト内の界面上昇温度を高精度に予測する必要がある一方で、操業のばらつきからロールバイト内の界面上昇温度予測に用いる変形抵抗及び摩擦係数を高精度に算出することは難しい。このような課題について検討した結果、本願発明者は、圧延中にワークロール11、12を駆動するモータ19の消費動力(ミルモータ消費動力)に基づいて、変形抵抗及び摩擦係数を高精度に算出することを見出した。変形抵抗及び摩擦係数を高精度に算出することができれば、ロールバイト内の界面上昇温度の予測精度が高まり、予測したロールバイト内の界面上昇温度がヒートスクラッチ発生温度を超えないように各スタンドF1~F5の圧下率を調整することで、ヒートスクラッチの発生を抑制できる。
まず、圧延中にワークロール11、12を駆動するモータ19の消費動力(ミルモータ消費動力WM)と、単位時間当たりのロールバイト内の界面温度上昇による熱損失との関係は、下記式(1)で示される。
ミルモータ消費動力(WM)[W]
=圧延による単位時間当たりの仕事量(WR)[W]
+ロールバイト内の界面温度上昇による熱損失(QR)[W]
+駆動系装置の熱損失(QM)[W]
・・・(1)
=圧延による単位時間当たりの仕事量(WR)[W]
+ロールバイト内の界面温度上昇による熱損失(QR)[W]
+駆動系装置の熱損失(QM)[W]
・・・(1)
上記式(1)において、圧延中のミルモータ消費動力WM[W]は、モータ電流[A]及びモータ電圧[V]を計測することで、リアルタイムに測定可能である。また、圧延による単位時間当たりの仕事量WRは、圧延荷重P[N]、後方張力S1(スタンド出側張力)[N]、前方張力(スタンド入側張力)S0[N]及び事前に算出したトルクアーム係数λG[-]から算出可能である。まず、下記式(2)にて圧延トルクG[N・m]を計算する。
ここで、lは投影接触弧長[m]、Rはワークロール半径[m]、R’は扁平変形を考慮したワークロール半径[m]である。この算出された圧延トルクを用いて、下記式(3)にて、圧延による単位時間当たりの仕事量WRが算出される。
ここで、fsは先進率[-]、h0はスタンド出側板厚[m]、σ0[N/m2]は前方張力応力、σ1[N/m2]は後方張力応力である。先進率fsは、例えばワークロール速度と図1に示した板速計51~55により測定された板速度から算出することができる。スタンド出側板厚h0は、例えば図1に示した板厚計21~25により測定することができる。前方張力応力σ0はスタンド入側張力より算出される単位面積当たりに作用する力、後方張力応力σ1はスタンド出側張力より算出される単位面積当たりに作用する力である。スタンド入側張力及びスタンド出側張力は、それぞれ、例えば図1に示したテンションメータ31~36より測定することができる。なお、式(3)は、単位体積当たりの被圧延材を圧延するのに必要な仕事量を示している。
加えて、モータ19や歯車等を含む駆動系装置の熱損失は、事前に当該駆動系装置のメカロスを測定しておくことで算出可能である。メカロスの測定は、圧延をしていない状態でモータ19を駆動させ、各速度に応じて測定されたモータ電流またはトルクをメカロスとする方法が一般的である。例えば、このようなメカロスの測定方法で測定されたモータ電流をメカロスGMとする場合、下記式(4)に示すように、駆動系装置の熱損失QM[W]は、メカロスGMにモータ電圧VMを乗じることにより算出される。
これらの項目の測定または演算を行うことにより、上記式(1)を変形した下記式(5)を用いて、ロールバイト内の界面温度上昇による熱損失QR[W]を算出することができる。
上記式(5)により算出されるロールバイト内の界面温度上昇による熱損失QR[W]を温度換算すれば、被圧延材の界面上昇温度となる。ロールバイト内の界面温度上昇による熱損失QRは、被圧延材とワークロール11、12とに分配される。その分配比率をα[-]とおくと、被圧延材の界面上昇温度TR[℃]は下記式(6)で表される。なお、ρsは被圧延材の密度[N/m3]、csは被圧延材の比熱[J/kg・℃]である。分配比率αは、0.3~0.7程度に設定され、一般的には0.5程度に設定される。
このようなロールバイト内の界面上昇温度の算出は、一般にばらつきを有する変形抵抗及び摩擦係数を算出することなく実行可能である。このため、高精度にロールバイト内の界面上昇温度を算出することができる。
[2-2.冷間タンデム圧延機の圧延方法]
上述のロールバイト内の界面上昇温度の算出方法を用いることにより、ロールバイト内の界面上昇温度の予測精度が高まり、予測したロールバイト内の界面上昇温度がヒートスクラッチ発生温度を超えないように各スタンドF1~F5の圧下率を調整することで、ヒートスクラッチの発生を抑制できる。
上述のロールバイト内の界面上昇温度の算出方法を用いることにより、ロールバイト内の界面上昇温度の予測精度が高まり、予測したロールバイト内の界面上昇温度がヒートスクラッチ発生温度を超えないように各スタンドF1~F5の圧下率を調整することで、ヒートスクラッチの発生を抑制できる。
具体的には、本実施形態に係る冷間タンデム圧延機の圧延方法は、図3に示すように、まず、全てのスタンドについて、圧延中のミルモータ消費動力WMからロールバイト内の界面上昇温度TRをそれぞれ算出する(S100)。次いで、それぞれのスタンドについて、界面上昇温度TRとヒートスクラッチ制御目標温度とを比較する(S110)。ヒートスクラッチ制御目標温度は、ヒートスクラッチが発生しない界面上昇温度の上限値またはそれ以下の温度であって、実機による実験により予め設定される。ロールバイト内の界面上昇温度TRがヒートスクラッチ制御目標温度以下であれば、ヒートスクラッチは発生しない。
ステップS110の処理にて界面上昇温度TRがヒートスクラッチ制御目標温度を超えるスタンドがある場合には、当該スタンドの圧下率を変更するとともに、他のスタンドの圧下率を冷間タンデム圧延機の総圧下率を維持するように変更する(S120)。ここで総圧下率とは、冷間タンデム圧延機における第1スタンドの入側板厚及び最終スタンドの出側板厚から求まる圧下率のことである。ロールバイト内の界面上昇温度がヒートスクラッチ制御目標温度を超えたスタンドの圧下率を低下させることで、加工発熱及び摩擦発熱が低減され、ロールバイト内の界面上昇温度を下げることができる。一方で、ロールバイト内の界面上昇温度がヒートスクラッチ制御目標温度を超えたスタンドの圧下率を下げると、所望の製品板厚を得ることができない。そこで、ロールバイト内の界面上昇温度がヒートスクラッチ制御目標温度まで余裕のあるスタンドの圧下率を増加させ、冷間タンデム圧延機の総圧下率は変化させないようにする。これにより、ヒートスクラッチを発生させることなく所望の製品板厚を得ることができる。
ロールバイト内の界面上昇温度TRがヒートスクラッチ制御目標温度を超えるスタンドがない場合には、圧下率の変更は行わない(S130)。そして、最終的に設定された圧下率、すなわち、ステップS120により変更された圧下率、または、ステップS130にて変更なしとされた圧下率に基づいて、冷間タンデム圧延機により圧延を実施する(S140)。
なお、冷間タンデム圧延機の圧延方法は、冷間タンデム圧延機を制御する制御装置(図示せず。)を用いて実行される。制御装置は、CPU、ROM、RAM等を備えるコンピュータ等の情報処理装置により構成され得る。
このような冷間タンデム圧延機の圧延方法により、圧延中の被圧延材のロールバイト内の界面上昇温度を高精度に予測することができるため、圧延中の鋼鈑温度をヒートスクラッチが発生しない温度以下に抑えることができる。本実施形態に係る冷間タンデム圧延機の圧延方法は、ヒートスクラッチを発生させないために、圧延前に、予め設定されている圧延スケジュールの圧下率を調整するために行ってもよく、圧延中にリアルタイムで各スタンドの圧下率を調整するために行ってもよい。
[2-2-1.圧延前の圧下率調整]
例えば、予め設定されている圧延スケジュールの圧下率を調整する場合は、図3のステップS100~S130の処理は圧延前に実施される。このとき、ステップS100では、圧延スケジュールに設定されている各スタンドの圧延荷重、先進率、スタンド出側板厚、スタンド入側張力及びスタンド出側張力の計算値から、圧延による単位時間当たりの仕事量WRを算出するともに、圧延速度からミルモータ消費動力WMの予測値を算出する。駆動系装置の熱損失QMは予め測定されている。これらの値を用いて、上記式(5)、式(6)より界面上昇温度TRが算出される。そして、ステップS120により変更された圧下率、または、ステップS130にて変更なしとされた圧下率を、最終的に圧延スケジュールとして設定する圧下率とし、ステップS140にて冷間タンデム圧延機により圧延が実施される。
例えば、予め設定されている圧延スケジュールの圧下率を調整する場合は、図3のステップS100~S130の処理は圧延前に実施される。このとき、ステップS100では、圧延スケジュールに設定されている各スタンドの圧延荷重、先進率、スタンド出側板厚、スタンド入側張力及びスタンド出側張力の計算値から、圧延による単位時間当たりの仕事量WRを算出するともに、圧延速度からミルモータ消費動力WMの予測値を算出する。駆動系装置の熱損失QMは予め測定されている。これらの値を用いて、上記式(5)、式(6)より界面上昇温度TRが算出される。そして、ステップS120により変更された圧下率、または、ステップS130にて変更なしとされた圧下率を、最終的に圧延スケジュールとして設定する圧下率とし、ステップS140にて冷間タンデム圧延機により圧延が実施される。
[2-2-2.リアルタイムでの圧下率調整]
また、圧延中にリアルタイムで各スタンドの圧下率を調整する場合には、1枚の鋼鈑を圧延する間に逐次各スタンドの圧下率が変更される。この場合の圧延方法を図4に示す。図4に示すように、鋼板の圧延が開始されると(S200)、所定の制御周期で、圧下率の調整が行われる(S210~S250)。所定の制御周期は、任意に設定可能であり、例えば1秒としてもよい。この場合、鋼板の圧延中に1秒ごとに圧下率が調整される。
また、圧延中にリアルタイムで各スタンドの圧下率を調整する場合には、1枚の鋼鈑を圧延する間に逐次各スタンドの圧下率が変更される。この場合の圧延方法を図4に示す。図4に示すように、鋼板の圧延が開始されると(S200)、所定の制御周期で、圧下率の調整が行われる(S210~S250)。所定の制御周期は、任意に設定可能であり、例えば1秒としてもよい。この場合、鋼板の圧延中に1秒ごとに圧下率が調整される。
まず、全てのスタンドについて、圧延荷重、先進率、スタンド出側板厚、スタンド入側張力及びスタンド出側張力が実測されるとともに、モータの電流及び電圧が実測される(S210)。圧延荷重は、各スタンドに設置されたロードセルにより測定される。スタンド出側板厚、スタンド入側張力及びスタンド出側張力は、それぞれ、冷間タンデム圧延機に設置された板厚計、テンションメータにより測定される。先進率は、板速計により測定された板速度から算出される。
次いで、全てのスタンドについて、圧延中のミルモータ消費動力WMからロールバイト内の界面上昇温度TRをそれぞれ算出する(S220)。圧延中のミルモータ消費動力WM[W]は、モータ電流[A]及びモータ電圧[V]を計測することで、リアルタイムに算出可能である。また、圧延による単位時間当たりの仕事量WRは、ステップS210にて実測された圧延荷重P[N]、先進率fs[-]、スタンド出側板厚h0[m]、後方張力S1(スタンド出側張力)[N]、前方張力(スタンド入側張力)S0[N]及び事前に算出したトルクアーム係数λG[-]から算出可能である。駆動系装置の熱損失QMは予め測定されている。これらの値を用いて、上記式(5)、式(6)より界面上昇温度TRが算出される。
そして、それぞれのスタンドについて、界面上昇温度TRとヒートスクラッチ制御目標温度とを比較する(S230)。界面上昇温度TRがヒートスクラッチ制御目標温度を超えるスタンドがある場合には、当該スタンドの圧下率を変更するとともに、他のスタンドの圧下率を冷間タンデム圧延機の総圧下率を維持するように変更する(S240)。一方、界面上昇温度TRがヒートスクラッチ制御目標温度を超えるスタンドがない場合には、圧下率の変更は行わない(S250)。ステップS230~S250の処理は、図3のステップS110~S130の処理と同様に行えばよい。
ステップS210~S250の処理を終えると、次の制御周期で再びステップSS210~S250の処理を実行する。鋼板の圧延を終えるまでステップS210~S250の処理は繰り返し実施され、鋼板の圧延を終えると、当該処理を終了する。
[2-2-3.ロールバイト内の界面上昇温度の校正]
本実施形態に係る冷間タンデム圧延機の圧延方法において、ヒートスクラッチ制御目標温度と比較するロールバイト内の界面上昇温度の精度を高めれば、より精度よくヒートスクラッチの発生の有無を判定することができる。そこで、ロールバイト内の界面上昇温度を算出するための上記式(6)の分配比率αを、スタンド出側で測定された鋼板の表面温度に基づき調整して、ロールバイト内の界面上昇温度の精度を高めるようにしてもよい。
本実施形態に係る冷間タンデム圧延機の圧延方法において、ヒートスクラッチ制御目標温度と比較するロールバイト内の界面上昇温度の精度を高めれば、より精度よくヒートスクラッチの発生の有無を判定することができる。そこで、ロールバイト内の界面上昇温度を算出するための上記式(6)の分配比率αを、スタンド出側で測定された鋼板の表面温度に基づき調整して、ロールバイト内の界面上昇温度の精度を高めるようにしてもよい。
例えば、図1のF4スタンドに着目する。F4スタンドの出側には、F4スタンドのロールバイトから圧延方向下流側に所定距離だけ離れた位置に温度計40が設置されている。温度計40により測定される鋼板の表面温度(「計測温度Tm1」とする。)は、F4スタンドのロールバイトから圧延方向下流側に所定距離だけ離れた位置における鋼板の表面温度である。計測温度Tm1からF4スタンドのロールバイト位置での鋼板の表面温度(「計算界面温度Tm2」とする。)を求めることができる。
そして、上記式(6)を用いて算出されたロールバイト内の界面上昇温度TRと計算界面温度Tm2との差分ΔTを求め、差分ΔT=0となるように分配比率αを調整する。こうして算出された分配比率αを用いて、上記式(6)からロールバイト内の界面上昇温度を求めることで、上記式(6)の精度を高めることができる。
なお、分配比率αの調整は、ロール組み替え時等、圧延条件が変更された場合に実施すればよい。また、計測温度Tm1を取得するための温度計40は、ヒートスクラッチが発生しやすいスタンドの出側に設置しておくのがよい。
本発明によるヒートスクラッチ発生の低減効果について確認するために、以下の設備構成及び圧延条件で圧延を行った。
[設備構成]
スタンド数 :2~7スタンド
ワークロール径 :200~800mm
バックアップロール径:1000~1800mm
[圧延条件]
鋼種 :C質量%:0.001~3.0%
入側板厚 :0.1~10mm
圧下率 :1.0~50%(単スタンドあたり)
ワークロール周速度 :10~3000m/min
(潤滑剤)
潤滑剤の種類:合成エステル、鉱油、植物油(代表:パーム油)、動物油(代表:牛脂)
供給形態 :エマルション(濃度0.1%~20%)、ニート
スタンド数 :2~7スタンド
ワークロール径 :200~800mm
バックアップロール径:1000~1800mm
[圧延条件]
鋼種 :C質量%:0.001~3.0%
入側板厚 :0.1~10mm
圧下率 :1.0~50%(単スタンドあたり)
ワークロール周速度 :10~3000m/min
(潤滑剤)
潤滑剤の種類:合成エステル、鉱油、植物油(代表:パーム油)、動物油(代表:牛脂)
供給形態 :エマルション(濃度0.1%~20%)、ニート
実施例として、図3にて説明した冷間タンデム圧延機の圧延方法を鉄鋼プラントにおける冷間タンデム圧延機に適用し、上記設備構成及び圧延条件で1000本の圧延を行った。上記式(6)の分配比率αは0.48とした。
一方、比較例として、上記設備構成及び圧延条件で、従来技術である特許文献2の手法を用いて、塑性加工発熱と摩擦係数からヒートスクラッチ制御目標温度を算出して各スタンドの圧下率を決定し、1000本の圧延を実施した。
実験の結果、比較例では38%の鋼鈑にてヒートスクラッチが発生したが、実施例でのヒートスクラッチの発生率は0%であった。また、それぞれ1000本の実施例及び比較例のうち、4本の結果を実施例1~4及び比較例1~4として下記表1に示す。表1はF2スタンドでの結果である。なお、表1の総合評価の指標は以下の通りとした。
[総合評価] A:ヒートスクラッチ発生無、圧下率大
B:ヒートスクラッチ発生無、圧下率小
C:ヒートスクラッチ発生
B:ヒートスクラッチ発生無、圧下率小
C:ヒートスクラッチ発生
実施例1~4ではいずれもヒートスクラッチは発生しなかった。一方、比較例1では推定圧下率が大きすぎたためにヒートスクラッチが発生した。比較例2ではヒートスクラッチは発生しなかったが、実施例2よりも実際に圧延した圧下率が低く、さらに大圧下が可能であった。比較例3では推定圧下率が大きすぎたためにヒートスクラッチが発生した。比較例4ではヒートスクラッチは発生しなかったが、実施例4よりも実際に圧延した圧下率が低く、さらに大圧下が可能であった。
また、比較例では、ワークロール周速度が1600mpmでヒートスクラッチが発生した。一方、実施例では、F2スタンドのロールバイト内の界面上昇温度がヒートスクラッチ制御目標温度を超えた場合に、F2スタンドの圧下率を低くし、代わりにF1スタンド、または、スタンド数が4スタンド以上の冷間タンデム圧延機の場合にはF1スタンド及びF3スタンドの圧下率を大きくした。その結果、実施例では、ワークロール周速度が1600mpmのときにもヒートスクラッチは発生しなかった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1 冷間タンデム圧延機
11、12 ワークロール
13、14 バックアップロール
15、16 スピンドル
17 ピニオンスタンド
18 モータスピンドル
19 モータ
21~25 板厚計
31~36 テンションメータ
40 温度計
51~55 板速計
11、12 ワークロール
13、14 バックアップロール
15、16 スピンドル
17 ピニオンスタンド
18 モータスピンドル
19 モータ
21~25 板厚計
31~36 テンションメータ
40 温度計
51~55 板速計
Claims (5)
- 冷間タンデム圧延機の全てのスタンドについて、圧延中のミルモータ消費動力からロールバイト内の界面上昇温度をそれぞれ算出し、
それぞれのスタンドについて、前記界面上昇温度と、スタンド毎に予め設定されたヒートスクラッチ制御目標温度とを比較し、
前記界面上昇温度が前記ヒートスクラッチ制御目標温度を超えるスタンドがある場合には、当該スタンドの圧下率を変更するとともに、他のスタンドの圧下率を前記冷間タンデム圧延機の総圧下率を維持するように変更し、
前記圧下率に基づいて圧延を実施する、冷間タンデム圧延機の圧延方法。 - 前記式(A)の分配比率αを、スタンド出側で測定された被圧延材の表面温度に基づき調整し、
調整した分配比率αを用いて、前記式(A)から前記界面上昇温度TRを算出する、請求項2に記載の冷間タンデム圧延機の圧延方法。 - 前記ミルモータ消費動力WMは、予め圧延スケジュールとして設定された圧延荷重、先進率、スタンド出側板厚、スタンド入側張力、及び、スタンド出側張力に基づいて予測する、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷間タンデム圧延機の圧延方法。
- 前記ミルモータ消費動力WMは、操業中に所定の制御周期で測定される実測値であり、
前記ミルモータ消費動力WMが測定される毎に、前記界面上昇温度TRを算出し、
前記界面上昇温度TRが前記ヒートスクラッチ制御目標温度を超えるスタンドがある場合には、当該スタンドの圧下率を変更するとともに、他のスタンドの圧下率を前記冷間タンデム圧延機の総圧下率を維持するようにリアルタイムに変更する、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷間タンデム圧延機の圧延方法。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2022080111A JP2023168792A (ja) | 2022-05-16 | 2022-05-16 | 冷間タンデム圧延機の圧延方法 |
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2022
- 2022-05-16 JP JP2022080111A patent/JP2023168792A/ja active Pending
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