JP2023147910A - 脊髄損傷治療剤 - Google Patents

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Akira Kobayashi
智之 中石
Tomoyuki Nakaishi
翔 山口
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真人 川堀
Masato Kawahori
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Abstract

【課題】簡便に製造可能で、かつ治療効果の高い脊髄損傷治療剤を提供する。【解決手段】羊膜組織に由来する間葉系細胞を含む細胞集団であって、前記細胞集団における、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、かつ、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である細胞集団を、脊髄損傷治療剤の有効成分として含有させる。【選択図】図3

Description

特許法第30条第2項適用申請有り 1.刊行物名:第36回日本脊髄外科学会抄録集 発行日:令和3年5月27日 2.研究集会名:第36回日本脊髄外科学会 開催日:令和3年6月3日、6月7日~6月21日 3.研究集会名:日本脳神経外科学会第80回学術総会 開催日:令和3年10月27日~12月20日 4.研究集会名:北海道大学大学院医学院博士課程公開発表会 開催日:令和4年3月14日
本発明は、羊膜組織に由来する間葉系細胞を含む脊髄損傷治療剤に関する。
現在日本には約10万人の脊髄損傷患者がおり、毎年約5000人の新たな受傷者が生じている。脊髄損傷の原因は主に交通事故、転落事故、スポーツ事故などであり、損傷部位より下位の運動機能と知覚機能が麻痺する。重症の場合、寝たきりや車椅子の生活となる。中枢神経組織は損傷後の神経再生が生じ難く、脊髄損傷の有効な治療法は確立されていない。
脊髄損傷の病態は、まず脊髄が直接的外力で損傷を受け(一次損傷)、数日以内に炎症性細胞の浸潤や虚血などにより周囲の細胞まで壊死やアポトーシスに陥る(二次損傷)。1~2週間後には炎症が沈静化し、脊髄内に空洞が形成され、損傷部を取り囲むように増殖したアストロサイトが重合しグリア瘢痕を形成する。軸索再生は損傷2週以後に生じるが、グリア瘢痕により軸索伸展が阻害される。
そこで、損傷数日以内に引き起こされる二次損傷を抑制することにより、重症化を最小限にとどめられると考えられる。これまでに、抗炎症作用やアポトーシスの抑制を目的とした薬剤開発が行われてきたが、現在のところ国内ではメチルプレドニゾロンの大量投与のみが、急性脊髄損傷に保険適応が認められている。しかしながら、メチルプレドニゾロン大量療法は合併症(肺炎、高血糖、肺塞栓等)を引き起こすことがあり、また機能予後を改善しないとする報告もあり、最近では使用されなくなってきている。また、2013年に改訂された米国脳神経外科学会のガイドラインでも、合併症による死亡例の報告が多いため、推奨されないとされた。
亜急性期では、炎症が治まりつつあるため、軸索再生を促進することが治療の主目的になる。神経栄養因子・軸索伸展因子であるHGF(肝細胞増殖因子)、BDNF(脳由来神経栄養因子)、NT3(神経栄養因子)、GDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)などを用いた研究開発が行われているが、製造販売承認には至っていない。
さらに、脊髄損傷では、神経麻痺にともなう合併症も出現し易い。合併症には、呼吸機能の低下、排尿排便障害、体動低下に起因する褥瘡や血栓の形成、セルフケア能力の低下や、肺や尿路、腸の感染症などが挙げられる。また、脊髄損傷患者の大部分は、神経因性大腸と呼ばれる、何らかの大腸機能障害にも罹患しており、患者によってその症状は異なる(便秘、下痢、粘液流出、血便、疼痛、褥瘡、腸閉塞など)が、基本的に大腸を制御する神経が正しく機能しないことに起因している。特に、神経因性大腸機能障害(neurogenic bowel dysfunction :NBD)にともなう重度の排便障害(便失禁と便秘症)は、脊髄損傷患者の全身機能やQOLに重大な影響を及ぼし、脊髄損傷患者の約半数に重度の大腸機能障害があることが報告されている(非特許文献1)。
重度の排便障害をともなう脊髄損傷患者の腸内では、腸内菌の異常増殖、炎症、腸組織のダメージ/破壊にともない、腸内菌の血中移行(Bacterial translocation)が生じ(非特許文献2)、敗血症などの重症化を引き起こす可能性もある。
一方、脊髄損傷治療について、骨髄間葉系幹細胞である自家骨髄間葉系幹細胞や、Muse細胞を使用した検討が行われている。自家骨髄間葉系幹細胞については、ヒト細胞加工製品(ヒト体性幹細胞加工製品)として、自家骨髄間葉系幹細胞(ステミラック注)が、外傷性脊髄損傷において受傷後31日以内を目安とした使用で、ASIA機能障害尺度がA、B、又はCの患者を対象として、条件期限付き承認を取得している(非特許文献3)。但し、患者自身の骨髄を採取して、幹細胞を一定数まで増殖させる必要があるために、損傷時から数日以内の早期投与は事実上不可能である。また、特許文献1には、脊髄損傷モデルラットにおいて、ヒトMuse細胞を血管等から投与、あるいは対象の脊髄損傷部位及びその周辺に直接投与することにより、Muse細胞が脊髄損傷部位に遊走・集積・生着して、脊髄組織を再構成し、運動機能を改善または回復させることが開示されている。
間質性細胞に分類される間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell)は、骨髄、脂肪組織、歯髄、及び胎盤、臍帯、卵膜などの胎児付属物に存在する体性幹細胞として知られる。体性幹細胞は、特に再生医療への応用が進められており、近年、間葉系幹細胞に代表される間葉系細胞などの細胞を患者に投与し、組織や臓器の再生や機能改善を促進する新たな治療法の実用化が急速に進んでいる。例えば、急性移植片対宿主病(GVHD)や脊髄損傷の患者を対象とした骨髄間葉系細胞製剤や、重症心不全の患者を対象とした骨格筋芽細胞シートが、再生医療等製品として国内で販売されている。
一方、羊膜は妊婦の胎盤の最も胎児側に位置する半透明の膜であり、胎児を包み、羊水を保持する役割を持つ。羊膜にも間葉系に属する細胞が存在することが報告されている(非特許文献4)。羊膜は出産時の医療廃棄物として非侵襲的に採取することができ、細胞採取のために新たな侵襲を伴うことが無い。羊膜に存在する間葉系細胞は、骨髄や脂肪に由来する間葉系幹細胞に類する性質を有することから間葉系幹細胞であると考えられているが、脂肪細胞、血管内皮細胞への分化能がほとんどないとも報告されていることから(非特許文献5)、骨髄間葉系幹細胞や脂肪間葉系幹細胞とは細胞特性が異なると考えられる。
国際公開2019/216380
加藤真介,仙石 淳,乃美昌司,能登真一. ウェブベース調査による日本での神経因性大腸機能障害の実態調査. 日本脊髄障害医学会雑誌 2017;30:46-50. Liu J,et al.Spine (Phila Pa 1976). 2004 Jan 15;29(2):164-9. Honmou O. Spinal Surgery. 2016 30(3):248-250. Casey ML, et al. Biol Reprod. 1996 Dec;55(6):1253-60. Chen L, et al. Stem Cell Res. 2019 Oct;40:101537.
上記の通り、脊髄損傷に対して、有効かつ安全な治療方法は確立されておらず、現在使用されている細胞製剤も、例えば急性期での投与は事実上不可能であるなど制限が多い。
さらに、上述した脊髄損傷の合併症である重度の大腸機能障害によって、腸内細菌が血中に移行するため、全身性の炎症をさらに惹起し、ニューロンの損傷をさらに悪化させるが、現在の治療方法では、脊髄損傷部位の改善と、腸の構造/機能の改善を両立することは難しく、その開発が切望されている。
本発明は、簡便に製造可能で、かつ治療効果の高い脊髄損傷治療剤を提供することを目的とする。
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意研究を行った結果、受傷直後の急性期でも使用可能な他家由来でありながら免疫反応の起こりにくい羊膜間葉系細胞を投与することで、脊髄損傷の神経炎症を抑制して神経損傷を改善するのみならず、さらに脊髄腸軸を介した腸の形態学的及び/又は機能的障害をも改善し、脊椎損傷と腸障害の両方を治癒することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
(1)羊膜組織に由来する間葉系細胞を含む細胞集団を有効成分として含有する、脊髄損傷治療剤であって、
前記細胞集団における、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、かつ、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である、脊髄損傷治療剤。
(2)前記細胞集団において、CD326陽性を呈する細胞の比率が10%以下である(1)の脊髄損傷治療剤。
(3)前記細胞集団において、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD45陽性を呈する細胞の比率が10%以下であり、かつCD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、(1)又は(2)の脊髄損傷治療剤。
(4)前記細胞集団が、投与される対象とは異なる生体から得られたものである(1)~(3)のいずれかの脊髄損傷治療剤。
(5)投与される対象がヒトである、(1)~(4)のいずれかの脊髄損傷治療剤。
(6)前記細胞集団がヒト由来である(1)~(5)のいずれかの脊髄損傷治療剤。
(7)前記細胞集団が投与対象の受傷から7日以内に投与される、(1)~(6)いずれかの脊髄損傷治療剤。
(8)前記間葉系細胞が、骨芽細胞及び/又は脂肪細胞への分化能がない又は低いものである、(1)~(7)のいずれかの脊髄損傷治療剤。
(9)前記間葉系細胞が、抗炎症作用を有する、(1)~(8)いずれかの脊髄損傷治療剤。
(10)前記間葉系細胞が、脊髄損傷時に併発する腸組織の損傷を抑制する目的でも使用される、(1)~(9)いずれかの脊髄損傷治療剤。
(11)前記腸組織の損傷の抑制が、腸内細菌の血中への移行の抑制である、(10)の脊髄損傷治療剤。
(12)前記細胞集団が、血小板溶解物を含む培地を用いて培養された細胞の集団である(1)~(11)いずれかの脊髄損傷治療剤。
(13)静脈内に投与される、(1)~(12)いずれかの脊髄損傷治療剤。
(14)間葉系細胞として、1×10~1×1010個/kg体重の投与量で投与されることを特徴とする、(1)~(13)いずれかの脊髄損傷治療剤。
本発明によれば、従来よりも簡易に製造可能で、かつ急性期治療にも対応できる治療効果の高い脊髄損傷治療剤を提供することが可能である。
10%のFBSを含むαMEMで、羊膜間葉系細胞(ヒト羊膜間葉系幹細胞(hAMSC)を含む)を増殖停止するまで継代培養した際の増殖曲線の結果を示すグラフである。 5%のhPLを含むαMEMで、羊膜間葉系細胞(ヒト羊膜間葉系幹細胞(hAMSC)を含む)を増殖停止するまで継代培養した際の増殖曲線の結果を示すグラフである。 脊髄損傷モデルラットの脊髄損傷範囲の評価(4週後)結果を示すグラフである。図中、HDは、羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群(n=10)、LDは、羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群(n=8)、NSは、リン酸緩衝液(PBS)のみを投与した群(n=8)を示す。図3Aは、各群の脊髄損傷部の長さを示すグラフである。図3Bは、脊髄損傷部の体積を示すグラフである。図中の「*」は、HDとNSのKruskal-Wallis検定後にSteel-Dwass検定の多重比較を行いp<0.05であったことを示す。また、「#」は、LDとNSのKruskal-Wallis検定後にSteel-Dwass検定の多重比較を行いp<0.05であったことを示す。グラフは各群の平均値を示し、エラーバーは標準誤差を示す。 脊髄損傷部の代表的な病理像(4週後)を示す写真である。図中、HDは、羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群の1個体、LDは、羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群の1個体、NSは、PBSのみを投与した群の1個体を示す。上段が頭側、下段が尾側の病理像である。 脊髄損傷部位の400倍顕微鏡写真における1視野あたりのCD68陽性細胞数(4週後)を示すグラフである。図中、HDは、羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群(n=10)、LDは、羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群(n=8)、NSは、PBSのみを投与した群(n=8)を示す。図中「*」は、HDとNSのKruskal-Wallis検定後にSteel-Dwass検定で多重比較を行いp<0.05であったことを示す。グラフは各群の平均値を示し、エラーバーは標準誤差を示す。 脊髄損傷モデルラットの回腸組織断面(2週後)のH-E染色結果を示す写真である。図6Aは羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群(HD)の1抗体、図6Bは、PBSのみを投与した群(NS)の1個体を示す。 脊髄損傷モデルラットの回腸組織断面の評価結果(2週後)を示すグラフである。図7Aは、絨毛長、図7Bは陰窩厚、図7Cは筋層厚、図7Dは絨毛密度(1mmあたりの絨毛の数)を示す。図中、HDは羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群(n=6)、NSは、PBSのみを投与した群(n=8)を示す。図中の「*」は、Wilcoxon順位和検定でp<0.05であったことを示す。また、「**」は、Wilcoxon順位和検定でp<0.01であったことを示す。グラフは各群の平均値を示し、エラーバーは標準誤差を示す。 脊髄損傷モデルラットの回腸組織断面(2週後)のPAS染色結果を示す写真である。図8Aは、羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群(HD)の1個体、図8Bは、PBSのみを投与した群(NS)の1個体の結果を示す。 脊髄損傷モデルラットの回腸組織断面(2週後)の400倍顕微鏡写真における1視野あたりのPAS陽性領域の面積を示すグラフである。図中、HDは羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群(n=6)、NSは、PBSのみを投与した群(n=8)を示す。図中の「*」は、Wilcoxon順位和検定でp<0.05であったことを示す。グラフは各群の平均値を示し、エラーバーは標準誤差を示す。 肝臓への腸内細菌の血中移行の評価(1週後)結果(好気性条件で37℃、48時間培養を行った後のコロニー数)を示すグラフである。図中、HDは羊膜間葉系細胞を1×10個/匹投与した群(n=8)、NSは、PBSのみを投与した群(n=7)を示す。図中の「*」は、Wilcoxon順位和検定でp<0.05であったことを示す。グラフは各群の平均値を示し、エラーバーは標準誤差を示す。
[1]用語の説明
本明細書における「胎児付属物」は、卵膜、胎盤、臍帯及び羊水を指す。さらに「卵膜」は、胎児の羊水を含む胎嚢であり、内側から羊膜、絨毛膜及び脱落膜からなる。このうち、羊膜は胎児を起源とする。「羊膜」は、卵膜の最内層にある血管に乏しい透明薄膜を指す。羊膜の内層(上皮細胞層ともよばれる)は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌し、羊膜の外層(細胞外基質層ともよばれ、間質に相当する)は間葉系細胞を含む。
本明細書における「間葉系細胞」は「間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSC)」を含み、以下の定義を満たす細胞を指す。
i)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す。標準培地は、基礎培地(例:αMEM培地)に血清、血清代替試薬又は増殖因子(例:血清代替試薬であるヒト血小板溶解物)を添加した培地である。
ii)表面抗原のCD73、CD90が陽性であり、CD45、CD326が陰性。
本明細書において、「間葉系幹細胞」は、「間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)」と区別なく用いられる。本明細書において、「間葉系幹細胞」は「MSC」と記載されることがある。
本明細書において、所定の表面抗原について「陽性を呈する(間葉系)細胞の比率」とは、表面抗原発現が陽性である細胞の比率を示す。本明細書において、所定の表面抗原について陽性を呈する細胞の比率は「陽性率」と記載されることがあり、また、所定の表面抗原について陰性を呈する細胞の比率は「陰性率」と記載されることがある。
本明細書における「間葉系細胞を含む細胞集団」とは、少なくとも間葉系細胞を含む細胞集団であれば特に限定されず、他の細胞を含む集団であってもよい。間葉系細胞は一つの組織から分離したもののみであっても、複数の組織から分離したものの混合物であってもよい。また、「間葉系細胞を含む細胞集団」の形態は特に限定されず、例えば、細胞ペレット、細胞凝集塊、細胞シート、細胞浮遊液、細胞懸濁液、これらの凍結物等が挙げられる。
表面抗原の「CD324」は、分化クラスター324を意味し、上皮カドヘリン(E-cadherin)としても知られているタンパク質である。
表面抗原の「CD90」は、分化クラスター90を意味し、Thy-1としても知られているタンパク質である。
表面抗原の「CD326」は分化クラスター326を意味し、EpCAMとしても知られているタンパク質である。
表面抗原の「CD73」は、分化クラスター73を意味し、5-Nucleotidase、或いはEcto-5’-nucleotidaseとしても知られているタンパク質である。
表面抗原の「CD166」は、分化クラスター166を意味し、Activated leukocyte cell adhesion molecule(ALCAM)としても知られているタンパク質である。
表面抗原の「CD105」は、分化クラスター105を意味し、Endoglinとしても知られているタンパク質である。
表面抗原の「CD45」は、分化クラスター45を意味し、PTPRC(Protein tyrosine phosphatase,receptor type,C)、或いはLCA(Leukocyte common antigen)としても知られているタンパク質である。
表面抗原の「CD34」は、分化クラスター34を意味し、Hematopoietic progenitor cell antigen CD34としても知られているタンパク質である。
[2]脊髄損傷治療剤
本発明の脊髄損傷治療剤は、特定の表面抗原特性を有し、かつ、羊膜組織に由来する間葉系細胞を含む細胞集団を有効成分として含有することを特徴とする。
本発明の脊髄損傷治療剤の投与対象は、典型的にはヒトであるが、他の動物であってもよい。他の動物としては、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、フェレット等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類が挙げられる。好適な投与対象はヒトである。以下、本発明の脊髄損傷治療剤について、投与対象をヒトとする態様を説明するが、本発明における投与対象をヒトに限定することを意図するものではない。
[2-1]羊膜組織に由来する間葉系細胞を含む細胞集団
本発明の脊髄損傷治療剤(以下、「治療剤」とも称する)において、「間葉系細胞を含む細胞集団」に含まれる間葉系細胞の比率は、特に限定されないが、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上でもよい。
また、前記間葉系細胞を含む細胞集団における他の細胞の比率は、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下でもよい。なお、前記他の細胞は、間葉系細胞以外であれば特に限定されないが、例えばリンパ球、顆粒球、赤血球などの血球系細胞を挙げることができる。
本発明の治療剤に使用される間葉系細胞を含む細胞集団は、前記[1]用語の説明の間葉系細胞の定義で説明したi)及びii)を満たす細胞を含む細胞集団であり、さらに、下記(a)及び(b)の特性を有するように調製された細胞集団である。
(a)前記細胞集団においてCD324が陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、
(b)前記細胞集団において、CD90が陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である。
前記特性を備えることにより、間葉系細胞を含む細胞集団は、培養後に基材から自発的に剥離することができる。これにより、酵素や特殊な装置を用いることなく、培養後の細胞を効率よく取得することが可能となる。
前記細胞集団において、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上でもよい。
前記細胞集団において、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよく、100%でもよい。
本発明の治療剤の一以上の実施態様において、前記細胞集団は、好ましくは、CD326陽性を呈する細胞の比率が10%以下である。
前記細胞集団において、CD326陽性を呈する細胞の比率は、より好ましくは5%以下(陰性率95%以上)、4%以下(陰性率96%以上)、3%以下(陰性率97%以上)、2%以下(陰性率98%以上)、1%以下(陰性率99%以上)でもよく、0%(陰性率100%)でもよい。
本発明の一態様によれば、本発明により提供される間葉系細胞を含む細胞集団は、好ましくは、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上である、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上である、CD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、CD45陽性を呈する細胞の比率が10%以下である、CD34陽性を呈する細胞の比率が10%以下である、のうち1以上を満足する。
前記細胞集団においてCD73陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよく、100%でもよい。
前記細胞集団においてCD166陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上でもよい。
前記細胞集団においてCD105陽性を呈する間葉系細胞の比率は、より好ましくは74%以上、75%以上、80%以上、85%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上でもよい。
前記細胞集団においてCD45陽性を呈する細胞の比率は、より好ましくは5%以下(陰性率95%以上)、4%以下(陰性率96%以上)、3%以下(陰性率97%以上)、2%以下(陰性率98%以上)、1%以下(陰性率99%以上)でもよく、0%(陰性率100%)でもよい。
前記細胞集団においてCD34陽性を呈する細胞の比率は、より好ましくは5%以下(陰性率95%以上)、4%以下(陰性率96%以上)、3%以下(陰性率97%以上)、2%以下(陰性率98%以上)、1%以下(陰性率99%以上)でもよく、0%(陰性率100%)でもよい。
ここで、CD324陽性、CD90陽性、CD326陽性、CD73陽性、CD166陽性、CD105陽性、CD45陽性及びCD34陽性を呈する細胞又は間葉系細胞とは、それぞれ、CD324、CD90、CD326、CD73、CD166、CD105、CD45及びCD34の発現が陽性である細胞又は間葉系細胞を意味する。
本発明の治療剤に使用される細胞集団について、指標とする発現マーカー(CD324、CD90、CD326、CD73、CD166、CD105、CD45又はCD34)は、当該技術分野において公知の任意の検出方法により検出することができる。発現マーカーを検出する方法としては、例えばフローサイトメトリー又は細胞染色が挙げられるが、これらに限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色するか若しくは蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。免疫細胞染色において使用される抗体についても特に限定されず、目的のマーカーを検出するのに一般的に知られている抗体を使用できるが、好ましくは後述する実施例で使用した抗体を用いる。例えば、CD324陽性を検出するために使用する抗体は特に限定されず、REA811、67A4、SPM381のクローンから作製した抗体を用いてCD324陽性を検出することができるが、その中でも、本発明の一以上の実施形態においては、REA811のクローンから作製した抗体を用いてCD324陽性を検出することがより望ましい。なお、本明細書において、発現マーカーと表面抗原は同義であり、両者は置き換えて使うことができる。
本発明の治療剤に使用される間葉系細胞を含む細胞集団は、羊膜組織より分離された間葉系細胞を含む細胞集団である。羊膜組織より分離された間葉系細胞(以下、「羊膜間葉系細胞」とも称する)は、好ましくは、本明細書に記載した分離・培養方法により得られるものであり、その場合、原料組織から多くの細胞を分離でき、かつ高増殖性の細胞として得ることが可能となるので、所定量の細胞を短期間で取得できる。そのため、羊膜間葉系細胞は、継代数の少ない高品質な細胞を安定的に取得でき、また、培養に際して必ずしも支持細胞を必要としないことから、比較的低コストで製造可能である。羊膜間葉系細胞としては、投与される対象とは異なる生体から得られたもの、すなわち、他家の羊膜間葉系細胞を使用することができる。
前記間葉系細胞を含む細胞集団は、抗炎症作用を有する細胞集団であることが好ましい。羊膜間葉系細胞に含まれる羊膜間葉系幹細胞は高い抗炎症作用を有することが知られるが(例えば、Yamahara K, et al., Pros One, 9(2) e88319 (2014)を参照のこと)、本発明の治療剤において、細胞集団の回収・選別方法は、その抗炎症作用が維持される条件で実施されることが好ましい。
前記羊膜間葉系細胞は任意の哺乳動物由来のものであってよく、例えば、マウス、ラット、ハムスター等のげっ歯類;ヒト、ゴリラ、チンパンジー等の霊長類;及びイヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜若しくは愛玩動物などの哺乳動物由来のものであってよいが、特に投与対象と同種の動物由来のものが好ましい。投与対象がヒトの場合は、ヒト由来の羊膜間葉系細胞であることが好ましい。
前記羊膜間葉系細胞は、骨芽細胞及び/又は脂肪細胞への分化能がない又は低いものであることが好ましい。本明細書において、骨芽細胞への分化能がない又は低い間葉系細胞とは、公知のいずれかの石灰化誘導培地(例えば、StemMACS(商標) OsteoDiff Media、MesenCult(商標) Osteogenic Differentiation Kit、StemPro(商標) Osteogenesis Differentiation Kit等の市販培地をいずれも使用可能である)で21日間培養した細胞をアリザリンレッド染色した場合に、検鏡視野下の細胞群における染色細胞の割合が40%以上とならない(最も好ましくは0%となる)間葉系細胞をいう。
また、本明細書において、脂肪細胞への分化能がない又は低い間葉系細胞とは、公知のいずれかの脂肪細胞分化誘導培地(例えば、StemMACS(商標) AdipoDiff Media、MesenCult(商標) Adipogenic Differentiation Kit、StemPro(商標) Adipogenesis Differentiation Kit等の市販培地をいずれも使用可能である)で21日間以上培養した細胞をオイルレッドO染色した場合に、検鏡視野下の細胞群における染色細胞の割合が20%以上とならない(最も好ましくは0%となる)間葉系細胞をいう。より好ましくは、脂肪細胞への分化能がない又は低い間葉系細胞は、StemMACS(商標) AdipoDiff Media、MesenCult(商標) Adipogenic Differentiation Kit、StemPro(商標) Adipogenesis Differentiation Kitの脂肪細胞分化誘導培地のうち、2つ又は3つの培地をそれぞれ用いて培養した場合において、いずれの場合においても、21日間以上培養した細胞をオイルレッドO染色した際に、検鏡視野下の細胞群における染色細胞の割合が20%以上とならない。
[2-2]間葉系細胞を含む細胞集団の回収
本発明の治療剤に含まれる間葉系細胞を含む細胞集団を原料組織から回収する方法は、羊膜もしくは羊膜を含む胎児付属物を酵素処理させる工程及び/又は培養容器に接着させることにより、間葉系細胞を含む細胞集団を取得する工程を含んでいてもよい。回収した細胞集団は、羊膜間葉系細胞が含まれていれば、他の雑多な細胞が含まれていても構わない。組織から細胞を取得する際は、組織に付着した血液などから血液細胞が混入することも起こりうる。
前記細胞集団の初代細胞は、好ましくは羊膜を少なくともコラゲナーゼで処理して得た細胞である。羊膜は、上皮細胞層と細胞外基質層からなり、羊膜間葉系細胞は後者に含まれる。羊膜の酵素処理は、好ましくは、羊膜の細胞外基質層に含まれる間葉系細胞を遊離することができ、かつ上皮細胞層を分解しない酵素(又はその組み合わせ)による処理である。かかる酵素としては、特に限定されないが、例えば、コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼを挙げることができる。金属プロテイナーゼとしては、非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるサーモリシン及び/又はディスパーゼを挙げることができるが、特に限定されない。
コラゲナーゼの活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上、さらに好ましくは300PU/ml以上、さらに好ましくは400PU/ml以上である。また、コラゲナーゼの活性濃度は、特に限定されないが、例えば、1000PU/ml以下、900PU/ml以下、800PU/ml以下、700PU/ml以下、600PU/ml以下、500PU/ml以下である。ここで、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、FITC-collagen 1μgを1分間で分解する酵素量と定義する。
金属プロテイナーゼ(例えば、サーモリシン及び/又はディスパーゼ)の活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上、さらに好ましくは300PU/ml以上、さらに好ましくは400PU/ml以上である。また、金属プロテイナーゼの活性濃度は、好ましくは1000PU/ml以下、より好ましくは900PU/ml以下、さらに好ましくは800PU/ml以下、さらに好ましくは700PU/ml以下、さらに好ましくは600PU/ml以下、さらに好ましくは500PU/ml以下である。ここで、金属プロテイナーゼとしてディスパーゼを用いた態様において、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、乳酸カゼインから1分間に1μgのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量と定義される。上記の酵素濃度の範囲において、胎児付属物の上皮細胞層に含まれる上皮細胞の混入を防止しながら、細胞外基質層に含まれる間葉系細胞を効率よく遊離させることができる。コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼの好ましい濃度の組み合わせは、酵素処理後の胎児付属物の顕微鏡観察や、取得した細胞のフローサイトメトリーにより決定することができる。
生細胞を効率的に回収する観点から、コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを組み合わせて胎児付属物を同時一括に処理することが好ましい。この場合の金属プロテイナーゼとしては、サーモリシン及び/又はディスパーゼを使用することができるが、これらに限定されない。コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを含有する酵素液を用いて胎児付属物を一回のみ処理することにより、間葉系細胞を簡便に取得することができる。また、同時一括に処理することにより、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクを低減することができる。
羊膜の酵素処理は、生理食塩水やハンクス平衡塩溶液等の洗浄液を用いて洗浄した羊膜を酵素液に浸漬し、撹拌手段によって撹拌しながら処理することが好ましい。かかる撹拌手段としては、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる間葉系細胞を効率よく遊離させる観点から、例えば、スターラー又はシェーカーを使用することができるが、これらに限定されない。撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、5rpm以上、10rpm以上、20rpm以上、30rpm以上、40rpm以上又は50rpm以上である。また、撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、100rpm以下、90rpm以下、80rpm以下、70rpm以下又は60rpm以下である。酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、50分以上、60分以上、70分以上、80分以上又は90分以上である。また、酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、110分以下、100分以下である。酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、15℃以上、16℃以上、17℃以上、18℃以上、19℃以上、20℃以上、21℃以上、22℃以上、23℃以上、24℃以上、25℃以上、26℃以上、27℃以上、28℃以上、29℃以上、30℃以上、31℃以上、32℃以上、33℃以上、34℃以上、35℃以上又は36℃以上である。また、酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以下、39℃以下、38℃以下又は37℃以下である。
所望により、遊離した間葉系細胞を含む酵素溶液からフィルター、遠心分離や中空糸分離膜、セルソーター等の公知の方法により遊離した間葉系細胞を分離及び/又は回収することができる。好ましくは、フィルターによって遊離した間葉系細胞を含む酵素溶液を濾過する。前記酵素溶液をフィルターによって濾過する態様においては、遊離した細胞のみがフィルターを通過し、分解されなかった上皮細胞層はフィルターを通過できずにフィルター上に残るため、遊離した間葉系細胞を容易に分離及び/又は回収することができるだけでなく、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクも低減することができる。フィルターとしては、特に限定されないが、例えば、メッシュフィルターを挙げることができる。メッシュフィルターのポアサイズ(メッシュの大きさ)は、特に限定されないが、例えば、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、又は90μm以上である。また、メッシュフィルターのポアサイズは、特に限定されないが、例えば、200μm以下、190μm以下、180μm以下、170μm以下、160μm以下、150μm以下、140μm以下、130μm以下、120μm以下、110μm以下、又は100μm以下である。濾過速度に関しては特に限定されないが、メッシュフィルターのポアサイズを上記の範囲とすることにより、間葉系細胞を含む酵素溶液を自然落下により濾過することができ、これにより細胞生存率の低下を防止することができる。
メッシュフィルターの材質としては、ナイロンが好ましく用いられる。研究用として汎用されるFalconセルストレーナーなどの40μm、70μm、95μm又は100μmのナイロンメッシュフィルターを含有するチューブが利用可能である。また、血液透析などで使用されている医療用メッシュクロス(ナイロン及びポリエステル)が利用できる。さらに、体外循環時に使用される動脈フィルター(ポリエステルメッシュフィルター、ポアサイズ:40μm以上120μm以下)も利用可能である。他の材質、例えば、ステンレスメッシュフィルター等も用いることが可能である。
間葉系細胞をフィルター通過させる場合、自然落下(自由落下)が好ましい。ポンプ等を用いた吸引など強制的なフィルター通過も可能であるが、細胞に損傷を与えることを避けるため、できるだけ弱い圧力とすることが望ましい。
フィルターを通した間葉系細胞は、倍量又はそれ以上の培地又は平衡塩緩衝液で濾液を希釈した後、遠心分離により回収することができる。平衡塩緩衝液としては、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を用いることができるが、これらに限定されない。
[2-3]細胞集団の選別方法
本発明の治療剤に使用される細胞集団は、以下に示す(a)及び(b)の特性を有する細胞集団の選別工程により調製されてもよい。
(a)CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、
(b)CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である。
前記特性を指標として細胞集団を選別する手段は、例えばFACS、セルソーター、磁気ビーズによる分取などの物理的な手段や、適切な培養条件によって指標を満たさない細胞を淘汰し、上記指標を満たすように間葉系細胞を含む細胞集団を純化させる化学的な手段を挙げることができるが、その手段は特に限定されず、培養条件等に応じて適宜選択すればよい。なお、選別工程においても、培養は、血小板溶解物を含む培地で実施することが好ましい。
上記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別するタイミングは、特に限定されないが、例えば、培養前、培養の途中、培養後、細胞集団の回収前、細胞集団の回収後、細胞の凍結保存ストック作成前、細胞の凍結保存ストックを解凍した後、等を挙げることができる。
上記(a)及び(b)の特性を有する細胞集団を選別する手順について、さらに詳細に説明する。例えば、間葉系細胞を含む細胞集団を培養基材に播種し、培養基材上で増殖培養することにより、CD324陽性、CD90陽性を呈する間葉系細胞がポジティブセレクションされ、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上となった細胞集団を剥離・回収する手段が挙げられる。このとき、抗CD324抗体や抗CD90抗体によりコーティングした培養基材を用いて培養しても良い。間葉系細胞を含む細胞集団から、CD324陽性を呈し且つCD90陽性を呈する間葉系細胞を培養により選別するタイミングは特に限定されず、任意の継代培養において選別することができるが、初代培養において間葉系細胞を含む細胞集団から、CD324陽性を呈し且つCD90陽性を呈する間葉系細胞を選別することが好ましい。
また、フローサイトメトリーや磁気ビーズを用いた細胞分離法により、間葉系細胞を含む細胞集団から、CD324陽性を呈し且つCD90陽性を呈する間葉系細胞を選別することもできる。
細胞集団の選別は更に、CD326陽性を呈する細胞の比率が10%以下である細胞集団を選別して分取することが好ましく、更に、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上である、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上である、CD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、CD45陽性を呈する細胞の比率が10%以下である、CD34陽性を呈する細胞の比率が10%以下である、のうち1以上を満足する細胞集団を選別して分取することが好ましい。選別した細胞集団を、更に上記の手段で培養してもよい。
[2-4]間葉系細胞の培養方法
上記の方法により回収された間葉系細胞を含む細胞集団は、培養することで増殖させることができる。培養における細胞集団の播種密度は、例えば500~10,000細胞/cmが挙げられる。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは500細胞/cm以上、1,000細胞/cm以上、2,000細胞/cm以上、3,000細胞/cm以上、4,000細胞/cm以上、5,000細胞/cm以上である。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは10,000細胞/cm以下、9,000細胞/cm以下、8,000細胞/cm以下、7,000細胞/cm以下である。
上記培養方法は、継代工程を含んでもよいし、異なる培養条件で培養を複数回繰り返す工程を含んでもよい。1回の培養の培養期間としては、例えば4~10日間を挙げることができ、より具体的には、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間又は10日間を挙げることができる。
上記の培養に用いる培地は、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分(血清、血清代替試薬、増殖因子など)を適宜添加することにより調製することができる。
基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。
他の成分としては例えば、アルブミン、血清、血清代替試薬又は増殖因子などが挙げられる。増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなど)を、増殖因子に加えて、さらに添加することにより調製してもよいし、増殖因子をあらかじめゲルや多糖類などで安定化しておき、その後、安定化した増殖因子を前記基礎培地に対して添加することで調製してもよい。アルブミンの場合、0.05%より多く5%以下の濃度が好ましい。血清の場合、5%以上の濃度が好ましい。
本発明者らは、血小板溶解物(PL)特にヒトPL(hPL)を含む培地で培養された間葉系細胞を含む細胞集団について、例えばPLに代えてFBSを含む培地で培養された間葉系細胞と比較して、より多くの継代培養が可能となることを見出した。そのため、前記他の成分としては、PL、特にhPLが含まれることが好ましい。hPLの培地中の濃度の下限としては例えば、終濃度として1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上を挙げることができる。また、hPLの培地中の濃度の上限としては例えば、20重量%以下、10重量%以下、7重量%以下が好ましい。
上記の培養に用いる培地は、一般的に市販されている無血清培地を用いても良い。例えば、STK1やSTK2(DSファーマバイオメディカル社)、EXPREP MSC Medium(バイオミメティクスシンパシーズ社)、Corning stemgro ヒト間葉系幹細胞培地(コーニング社)などが挙げられるが、特に限定されない。
間葉系細胞を含む細胞集団の培養は、例えば、以下のような工程にて行うことができる。まず、細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。次に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、一般的には3%以上5%以下のCO濃度、0.5%以上20%以下の酸素濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような培養により取得した細胞は、1回培養した細胞である。
上記の1回培養した細胞は、例えば、以下のようにさらに継代し、培養することができる。まず、1回培養した細胞を、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて処理した後にトリプシンにて処理してプラスチック製培養容器から剥離させる。次に、得られた細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。最後に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような継代及び培養により取得した細胞は、1回継代した細胞である。同様の継代及び培養を行うことにより、N回継代した細胞を取得することができる(Nは1以上の整数を示す)。継代回数Nの下限は、細胞を大量に製造する観点から、例えば、2回以上、好ましくは3回以上、より好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上、さらに好ましくは6回以上、さらに好ましくは7回以上、さらに好ましくは8回以上、さらに好ましくは9回以上、さらに好ましくは10回以上、さらに好ましくは11回以上、さらに好ましくは12回以上、さらに好ましくは13回以上、さらに好ましくは14回以上、さらに好ましくは15回以上、さらに好ましくは16回以上、さらに好ましくは17回以上、さらに好ましくは18回以上、さらに好ましくは19回以上、さらに好ましくは20回以上、さらに好ましくは25回以上である。また、継代回数Nの上限は、細胞の老化を抑える観点から、例えば、50回以下、45回以下、40回以下、35回以下、30回以下であることが好ましい。
上記の培養工程において、間葉系細胞は、生体外での培養開始後、好ましくは40日以降まで、さらに好ましくは45日以降まで、50日以降まで、55日以降まで、60日以降まで、65日以降まで、70日以降まで、75日以降まで、80日以降まで、85日以降まで、90日以降まで、95日以降まで、100日以降まで、105日以降まで、又は110日以降まで、増殖停止することなく培養することが可能である。
上記の培養工程において、間葉系細胞は、生体外での培養開始後、倍加回数が好ましくは10回以上、さらに好ましくは15回以上、20回以上、25回以上、30回以上、35回以上、40回以上、45回以上、又は50回以上になるまで培養することが可能である。
倍加回数とは、ある一定の培養期間において細胞が分裂した回数であり、[log10(培養終了時の細胞数)-log10(培養開始時の細胞数)]/log10(2)の計算式にて算出される。継代を行った場合は、継代数毎の倍加回数を上記の式で計算した後、累積することによって、総倍加回数が算出される。
[2-5]間葉系細胞を含む細胞集団の保存方法
間葉系細胞を含む細胞集団は、凍結保存することができる。前記細胞集団を凍結保存する場合、前記細胞集団を解凍後、必要に応じて前記細胞集団を分離、回収及び/又は培養してもよい。また、前記細胞集団を解凍後、そのまま使用してもよい。
前記細胞集団を凍結保存するための手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、ディープフリーザー、液体窒素への浸漬などが挙げられる。凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-70℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-110℃以下、-120℃以下、-130℃以下、-140℃以下、-150℃以下、-160℃以下、-170℃以下、-180℃以下、-190℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、1℃/分、2℃/分、3℃/分、4℃/分、5℃/分、6℃/分、7℃/分、8℃/分、9℃/分、10℃/分、11℃/分、12℃/分、13℃/分、14℃/分又は15℃/分である。かかる凍結手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、例えば、1℃/分以上2℃/分以下の凍結速度で-20℃以上-2℃以下の間の温度(例えば、-5℃)まで温度を下げ、さらに凍結速度を上げた条件で-80℃以下の温度(例えば、-90℃)まで温度を下げることができるが、これに限定されない。
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。かかる保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
凍結用保存液は、細胞の生存率を高める観点から、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有することが好ましい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上又は8質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下又は9質量%以下である。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これに限定されない。
[2-6]治療剤
本発明の脊髄損傷治療剤は、上記のとおり、特定の表面抗原特性を有し、かつ、羊膜組織に由来する間葉系細胞を含む細胞集団を有効成分として含む、脊髄損傷の治療のために使用される医薬組成物である。
脊髄損傷は、その損傷部位によって、病態が異なる。例えば、ヒトの脊髄は、脊髄から直接出ている神経(神経根)が、脊髄腔から出る高位によって、頸髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄に分けられる。脊髄の下位末端より、さらに下位の脊髄腔には神経根のみが伸びており、馬尾と呼ばれている。ヒトの脊髄は31の分節に分かれており(以下髄節)、それぞれの髄節の左右の腹側から運動神経根が、背側から感覚神経根が末梢に出ている。31対の髄節は、ヒトでは、頚髄が8髄節(C1からC8)、胸髄が12髄節(T1からT12)、腰髄が5髄節(L1からL5)、仙髄が5髄節(S1からS5)、尾髄が1髄節の合計31髄節からなる。脊髄は、脳からの信号を身体に伝達し、身体からの信号を脳に伝達する働きをしている。このため、上位の部位が損傷するほど、損傷部位から下の部位との連絡が阻害され、運動・知覚・自律神経の障害範囲が広くなる。例えば、第3頚髄節(C3)以上の脊髄損傷(頚髄損傷)による麻痺の場合、横隔膜の機能が損なわれ、自発呼吸ができなくなり、人工呼吸器が必要になる。
脊髄損傷を損傷の程度により分類すると、完全損傷と不完全損傷に大別される。完全損傷は、脊髄を横断した脊髄損傷により、脊髄の神経伝達機能が完全に壊れた状態である。運動麻痺・感覚麻痺(知覚麻痺)の両症状を示す(完全麻痺)(フランケル分類・ASIAスケール「A」)。不完全損傷は、脊髄の一部が損傷し、一部機能が残った状態である(フランケル分類・ASIAスケール「B~D」)。脊髄損傷の臨床医学上の重症度評価の区分では、Frankel分類とASIA(American Spinal Injury Association Impairment)機能障害スケールなどが使用されることが多い。なお、フランケル分類Aとは、損傷高位以下の運動知覚完全麻痺の状態を示す。ASIAスケールAとは、S4・5まで運動知覚が完全喪失の状態を示す。フランケル分類Bとは、運動完全麻痺で、知覚のみある程度保存する状態を示す。ASIAスケールBとは、運動完全麻痺、知覚はS4・5で残存する状態を示す。フランケル分類Cとは、損傷高位以下の筋力は少しあるが実用性がない状態を示す。ASIAスケールCとは、神経学的レベルより下位に運動機能は残存しているが、主要筋群の半分以上が筋力3未満の状態を示す。フランケル分類Dとは、損傷高位以下の筋力の実用性があり、補助具の要否に関わらず歩行可能な状態を示す。ASIAスケールDとは、神経学的レベルより下位に運動機能は残存しており、主要筋群の少なくとも半分以上が筋力3以上の状態を示す。フランケル分類Eとは、筋力弱化なく、知覚障害なく、括約筋障害なし、反射の異常はあってもよい状態を示す。ASIAスケールEとは、運動知覚ともに正常な状態を示す。
本発明の脊髄損傷治療剤の治療対象となる病態は、上記の完全損傷(例えば、フランケル分類・ASIAスケール「A」)と不完全損傷(例えば、フランケル分類・ASIAスケール「B~D」)の両方を対象とし、特に障害度の高い、ASIAスケールで「A」、「B」又は「C」の病態に対して有効であり、ASIAスケールで「A」又は「B」の損傷度の高い病態に対しても特に有効である。さらに、本発明の脊髄損傷治療剤は、脊髄損傷に関連する疾患、障害を治療対象としても良い。脊髄損傷としては、直接的な外傷により引き起こされる脊髄損傷、骨、椎間板、腫瘍、血腫などの圧迫により引き起こされる脊髄損傷、虚血により引き起こされる脊髄損傷、脊髄半側症候群、脊髄前部症候群、脊髄円錐症候群、馬尾症候群などが挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。脊髄損傷に関連する疾患としては、脊髄損傷から生じる浮腫、神経原性ショック、自律神経反射異常などが挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。
脊髄損傷では、神経麻痺にともなう合併症も出現し易い。合併症には、呼吸機能の低下、排尿排便障害、体動低下に起因する褥瘡や血栓の形成、セルフケア能力の低下や、肺や尿路、腸の感染症などが挙げられる。また、脊髄損傷患者の大部分は、神経因性大腸と呼ばれる、何らかの大腸機能障害に罹患しており、患者によってその症状は異なる(便秘、下痢、粘液流出、血便、疼痛、褥瘡、腸閉塞など)が、基本的に大腸を制御する神経が正しく機能しないことに起因している。特に、神経因性大腸機能障害(neurogenic bowel dysfunction :NBD)にともなう重度の排便障害(便失禁と便秘症)は、脊髄損傷患者の全身機能やQOLに重大な影響を及ぼし、脊髄損傷患者の約半数に重度の大腸機能障害があることが報告されている。重度の排便障害をともなう脊髄損傷患者の腸内では、腸内菌の異常増殖、炎症、腸組織のダメージ/破壊にともない、腸内菌の血中移行(Bacterial translocation)が生じ、敗血症などの重症化を引き起こす可能性もある。脊髄損傷になると腸からの細菌血中移行による胃腸機能障害(脊髄腸軸)を伴うことが、多くの臨床現場で確認されている。前記した脊髄腸軸は、腸内細菌が血中に移行するため、全身性の炎症をさらに惹起し、ニューロンの損傷をさらに悪化させる。本発明の脊髄損傷治療剤は、このような、脊髄損傷時に併発する腸組織の損傷を抑制する目的でも使用することができる。具体的には、後述する実施例において、本発明の脊髄損傷治療剤が、腸内細菌の血中への移行の抑制作用を有し、前記腸組織の損傷を抑制することが確認されている。現在、脊髄損傷部位の改善と、腸の構造/機能を改善し、腸内菌の血中移行(Bacterial translocation)を抑制する効果を有した治療剤はなく、本発明の治療剤は、前記2つの効果を同時に発現しうる点で非常に優れている。
本発明の脊髄損傷治療剤は、特定の表面抗原特性を有し、かつ、羊膜組織に由来する間葉系細胞を含む細胞集団を有効成分として含むが、当該細胞集団は、ヒト由来であるのが好ましい。また、投与される対象もヒトであるのが好ましい。
本発明の治療剤は、上記特定の表面抗原特性を有し、かつ、羊膜組織に由来する間葉系細胞を含む細胞集団と他の間葉系細胞と混合して投与されるものであっても良い。
本発明の治療剤の投与量は、患者又は被験者に投与した場合に、投与していない患者又は被験者と比較して疾患の治療に対して効果を得ることができるような細胞量となる投与量である。具体的な投与量は、投与形態、投与方法、使用目的、患者又は被験者の年齢、症状、及び生着させる脂肪組織の量等によって適宜決定することができる。投与量は、特に限定されないが、例えば、一投与あたり、間葉系細胞として、1×10~1×1010個/kg体重の範囲で投与されるのが好ましく、2×10~1×10個/kg体重の範囲で投与されるのがより好ましく、4×10~1×10個/kg体重の範囲で投与されるのがさらに好ましく、6×10~8×10個/kg体重の範囲で投与されるのが特に好ましい。
本発明の治療剤の投与方法は、特に限定されないが、例えば、血管内注射(例えば、静脈注射)による全身投与、局所への直接注射、又は局所への直接移植などが挙げられる。中でも静脈内に投与されるのが好ましい。また、本発明の治療剤は、細胞塊又はシート状構造の移植用製剤、或いは任意のゲルと混合したゲル製剤として用いることも可能である。
本発明の治療剤の投与時期は、脊髄内の空洞形成やグリア瘢痕が受傷から、2週間以降に形成され始めることから、その原因となる炎症を積極的に抑制するため、受傷から2週間以内、いわゆる急性期又は亜急性期に投与することが好ましい。2次損傷の進行をより効果的に抑制するためには、受傷から10日以内に投与することがより好ましく、受傷から7日以内、すなわち急性期に投与されるのがさらに好ましい。急性期においても、受傷から130時間以内、さらには80時間以内に投与するのが特に好ましい。
このように受傷してから速やかに投与するためには、従来行われている自家の(すなわち投与される生体から採取した組織を由来とする)骨髄間葉系幹細胞を用いる方法では、患者自身の骨髄を採取して、幹細胞を一定数まで増殖させる必要があるために、損傷時から数日以内の早期投与は事実上不可能である。従って、本発明の脊髄損傷治療剤の有効成分である間葉系細胞を含む細胞集団は、投与される対象とは異なる生体から得られたものであるのが好ましい。具体的には、脊髄を損傷した患者が発生した場合に備えて、投与される対象とは異なる生体由来の組織からあらかじめ本発明の間葉系細胞を含む細胞集団を調製して保存しておき、それを対象者に受傷後速やかに投与するのがより好ましい。
本発明の治療剤は、培養直後のものを使用しても良いが、使用直前まで凍結状態にて保存したものでも好ましく使用できる。投与前の凍結保存可能期間は1ヶ月以上でもよく、6ヶ月以上でもよく、1年以上でも差し支えない。本発明の治療剤は、ヒトの治療の際に用いられる任意の成分、もしくは細胞の凍結保存の際に用いられる任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。例えば、ジメチルスルホキシド、ヒドロキシエチルデンプン及びヒトアルブミンを含有したものであることが好ましく、5~10質量%のジメチルスルホキシド、4~10質量%のヒドロキシエチルデンプン及び5質量%以下のヒトアルブミンを含有したものであることが更に好ましい。
本発明の治療剤は、間葉系細胞を含む細胞集団を、製薬上許容し得る媒体として使用される輸液製剤により希釈したものでもよい。本明細書における「輸液製剤(製薬上許容し得る媒体)」としては、ヒトの治療の際に用いられる溶液であれば特に限定されないが、例えば、生理食塩液、5%ブドウ糖液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)等を挙げることができる。
[3]脊髄損傷治療剤の製造方法
本発明の脊髄損傷治療剤の製造方法(以下、「製造方法」とも称する)は、(a)羊膜組織より間葉系細胞を含む細胞集団を調製する工程;及び(b)(a)の細胞集団を培養する工程を含むことを特徴とする。
[3-1]羊膜組織より間葉系細胞を含む細胞集団を調製する工程(工程(a))
本発明の製造方法は、「羊膜組織より間葉系細胞を含む細胞集団を調製する工程(以下、「工程(a)」とも称する)を含む。本発明の製造方法において、「細胞集団を調製する工程」は、羊膜組織より間葉系細胞を含む細胞集団を回収する工程を含み、必要に応じて、前記細胞集団を選別する工程を含む。なお、工程(a)における諸条件は、特に矛盾のない限り、上記の「[2-2]間葉系細胞を含む細胞集団の回収方法」、及び「[2-3]細胞集団の選別方法」の項に記載の条件と同様である。
[3-2]細胞集団を培養する工程
本発明の製造方法は、(b)(a)の細胞集団を培養する工程(以下、「工程(b)」とも称する)を含む。工程(b)で使用される培地は、特に限定されないが、特に血小板溶解物を含む培地の使用が好ましい。なお、工程(b)における他の諸条件は、特に矛盾のない限り、上記の「[2-4]間葉系細胞を含む細胞集団の培養方法」の項に記載の条件と同様である。
[3-3]その他の工程
本発明の製造方法は、さらに、細胞集団の保存工程、製剤工程等を含むことができる。各工程の詳細な条件は、特に矛盾のない限り、上記の「[2-5]間葉系細胞を含む細胞集団の保存方法」「[2-6]治療剤」の項に記載の条件と同様である。
[4]脊髄損傷を治療する方法
本明細書は、対象の脊髄損傷を治療する方法を提供する。本明細書における対象の脊髄損傷を治療する方法は、羊膜由来の間葉系細胞を含む細胞集団を有効成分として含む脊髄損傷治療剤を対象に投与する工程を含む、ことを特徴とする。
脊髄損傷を治療する方法に用いる、脊髄損傷治療剤、及び脊髄損傷治療剤の製造方法の詳細な条件は、特に矛盾のない限り、「[2]脊髄損傷治療剤」の項及び「[3]脊髄損傷治療剤の製造方法」の項に記載の通りである。
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<比較例1:羊膜間葉系細胞のFBS培養>
(工程1-1:羊膜の採取)
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦(ドナー♯1)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。得られた卵膜及び胎盤を生理食塩水が入った滅菌バットに収容し、卵膜の断端から羊膜を用手的に剥離した。羊膜をハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg不含有)にて洗浄し、付着した血液及び血餅を除去した。
(工程1-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収)
上皮細胞層と間葉系細胞層とを含む羊膜を240PU/mLコラゲナーゼ及び200PU/mLディスパーゼIを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、間葉系細胞を含む細胞懸濁液を回収した。
(工程1-3:間葉系細胞の培養)
上述の「工程1-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収」で得られた、間葉系細胞を含む細胞集団を培養容器のCellSTACK(登録商標)(コーニング社製)に播種した。播種密度は、6,000個/cmの密度で播種した。細胞播種後は、終濃度が10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は0継代目の細胞集団である。その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は1継代目の細胞集団である。
その後、細胞濃度が2×10個/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約15,000~18,000個/cmの密度において、前記1継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は2継代目の細胞集団である。
その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は3継代目の細胞集団である。
前記細胞集団について、細胞濃度が4×10個/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約6,000個/cmの密度において前記3継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は4継代目の細胞集団である。
その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートしたところ、3割程度の細胞集団が剥離されずにCellSTACK(登録商標)に接着したまま培養容器に残存した。そこで、追加で5分間(合計8分間)インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させ、残存した細胞集団についても回収した。ここで取得した細胞集団は5継代目の細胞集団である。その後、細胞濃度が4×10個/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
(工程1-4:間葉系細胞の表面抗原解析)
上記の培養方法で培養した5継代目の細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD324の陽性率、CD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD324の陽性率は70%未満(具体的には33%)、CD105の陽性率は70%以上(具体的には93%)、CD73、CD90、CD166の陽性率はいずれも90%以上であった(具体的にはCD73:99%、CD90:93%、CD166:97%)。CD45、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的にはCD45:100%、CD326:100%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した細胞集団は、間葉系細胞を含む細胞集団であること、また、比較例1の5継代目の細胞集団は、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上という条件は満たすものの、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であるという本発明の表面抗原特性を満たさない細胞集団であることが分かった。
なお、本測定では、アイソタイプコントロール用抗体として、REA Control(S)APC(Miltenyi Biotec社、クローン:REA293、型番:130-113-434)を使用し、CD324抗原に対する抗体として、CD324-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA811、型番:130-111-840)を、CD73抗原に対する抗体として、CD73-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA804、型番:130-111-909)を、CD90抗原に対する抗体として、CD90-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA897、型番:130-114-861)を、CD105抗原に対する抗体として、CD105-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA794、型番:130-112-166)を、CD166抗原に対する抗体として、CD166-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA442、型番:130-106-576)を、CD45抗原に対する抗体として、CD45-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA747、型番:130-110-633)を、CD326抗原に対する抗体として、CD326-APC、Human(Miltenyi Biotec社、クローン:REA764、型番:130-111-000)を使用した。表面抗原解析は、メルク社のGuava easyCyteを用い、測定条件は解析細胞数:30,000個、流速設定:35.4μL/min)とした。また、各抗原に対する陽性細胞の比率(陽性率)は、以下の手順で算出した。
(1)アイソタイプコントロールの測定結果を、縦軸にSSC、横軸にFSCとしたドットプロットで展開した。
(2)間葉系細胞に該当する細胞集団のゲートを設定し、その細胞集団に対して、縦軸にカウント数、横軸をAPCの傾向強度としたヒストグラムで展開した。
(3)(2)のヒストグラムにおいて、アイソタイプコントロール用抗体で測定した総細胞のうち、より蛍光強度が強い細胞集団が0.5%以下となる全ての領域(ゲート)を選択した。
(4)表面抗原マーカーに対応する抗体で測定した総細胞のうち、(2)で選択したゲート内に含まれる細胞の割合を算出した。
(工程1-5:間葉系細胞の長期継代培養)
上述の「工程1-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収」で得られた、間葉系細胞を含む細胞集団を接着細胞培養シャーレ90(住友ベークライト社製)に9,000個/cmの密度で播種した。細胞播種後は、終濃度が10%のFBSを含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、接着細胞培養シャーレ90 1枚あたり2mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で10インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させた。その後、500~9,000個/cmの密度で継代培養を行い、細胞増殖が停止するまで培養した。増殖曲線を図1に示す。その結果、間葉系幹細胞は約42回まで分裂することが可能であった。
<実施例1:羊膜間葉系細胞のhPL培養I>
(工程2-1:羊膜の採取)
比較例1と同じドナー(ドナー♯1)から、比較例1と同様の手法にて羊膜を取得した。
(工程2-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収)
比較例1と同じ手法にて間葉系細胞を含む細胞集団を取得した。
(工程2-3:間葉系細胞の培養)
上述の「工程2-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収」で得られた、間葉系細胞を含む細胞集団を培養容器のCellSTACK(登録商標)(コーニング製)に播種した。播種密度は、6,000個/cmの密度とした。細胞播種後は、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は0継代目の細胞集団である。その後、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が5%のhPLを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は1継代目の細胞集団である。
その後、細胞濃度が2×10個/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約15,000~18,000個/cmの密度において、前記1継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は2継代目の細胞集団である。
次いで、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が5%のhPLを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は3継代目の細胞集団である。
その後、細胞濃度が4×10個/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約6,000個/cmの密度において、前記3継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は4継代目の細胞集団である。
次いで、前記細胞集団の1/5量の細胞集団を先の培養と同じスケールのCellSTACK(登録商標)に播種することにより、終濃度が5%のhPLを含むαMEMにて継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でCellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は5継代目の細胞集団である。前記細胞集団について、細胞濃度が4×10個/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
(工程2-4:間葉系細胞の表面抗原解析)
上記の培養方法で培養した5継代目の間葉系細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD324の陽性率、MSCマーカーと知られているCD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD324、CD105の陽性率は70%以上(具体的にはCD324:91%、CD105:95%)、CD73、CD90、CD166の陽性率はいずれも90%以上であった(具体的にはCD73:100%、CD90:100%、CD166:99%)。CD45、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的にはCD45:100%、CD326:99%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した細胞は、間葉系細胞を含む細胞集団であり、かつ、実施例1に記載の細胞集団は、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である、本発明の表面抗原特性を満たす細胞集団であることが確認された。
なお、本測定の方法、試薬は比較例1と同じである。
(工程2-5:間葉系細胞の長期継代培養)
上述の「工程2-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収」で得られた、間葉系細胞を含む細胞集団をCellSTACK(登録商標)(コーニング製)に1,000個/cmの密度で播種した。細胞播種後は、終濃度が5%のhPLを含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で10インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させた。その後、1,000個/cmの密度で継代培養を行い、細胞増殖が停止するまで培養した。増殖曲線を図2に示す。その結果、間葉系幹細胞は約84回まで分裂することが可能であった。
<実施例2:羊膜間葉系細胞のhPL培養II>
以下に示す実施例2では、比較例1、実施例1と比較してドナーや酵素処理条件、培養条件が異なる間葉系細胞集団を取得した。比較例1、実施例1とは異なる、インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦3名(ドナー#2~#4)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。
(工程3-1:羊膜の採取)
比較例1と同様の手法にて羊膜を取得した。
(工程3-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収)
上皮細胞層と間葉系細胞層とを含む羊膜を480PU/mLコラゲナーゼ及び400PU/mLディスパーゼIを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、間葉系細胞を含む細胞懸濁液を回収した。
(工程3-3:間葉系細胞の培養)
上述の「工程3-2:羊膜の酵素処理及び間葉系細胞の回収」で得られた、間葉系細胞を含む細胞集団を培養容器のCellSTACK(登録商標)に播種した。播種密度は、1,000個/cmとした。細胞播種後は、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで接着培養した。培地交換は3~5日に1回の頻度で実施した。培養後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は0継代目の細胞集団である。その後、細胞濃度が2×10個/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約1,000個/cmの密度で1継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで5日間接着培養した。
その後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は1継代目の細胞集団である。次いで、細胞濃度が2×10個/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移した後、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、前記凍結保存していた細胞集団を解凍し、約1,000個/cmの密度で2継代目の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種し、終濃度が5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMにてサブコンフルエントになるまで5日間接着培養した。
その後、CellSTACK(登録商標)1スタックあたり15mLのTrypLE Selectを添加し、37℃で3分間インキュベートし、前記細胞集団を完全に剥離させることができた。ここで取得した細胞集団は2継代目の細胞集団である。前記細胞集団について、細胞濃度が4×10個/mLになるよう生理食塩液を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、1mLずつクライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
(工程3-4:間葉系細胞の表面抗原解析)
工程3-3に記載の培養方法で培養した2継代目の細胞集団(#2~#4)に関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD324の陽性率、CD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD166の陽性率、CD45の陰性率、CD326の陰性率)を解析した。その結果、CD324、CD105の陽性率は70%以上(具体的には#2、#3、#4の順にそれぞれ、CD324:90%、87%、87%、CD105:89%、91%、74%)、CD73、CD90及びCD166の陽性率はいずれも90%以上であった(具体的には#2、#3、#4の順にそれぞれ、CD73:100%、99%、100%、CD90:100%、99%、100%、CD166:99%、97%、98%)。CD45、CD326の陰性率はいずれも95%以上であった(具体的には#2、#3、#4の順にそれぞれ、CD45:99%、100%、100%、CD326:99%、100%、100%)。以上の結果から、上記の培養方法で培養した#2、#3、#4の細胞集団は、全てCD324陽性を呈する間葉系細胞を含む細胞集団であることが分かった。また、実施例2に記載の細胞集団は、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、かつCD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である細胞集団であることが確認された。なお、本測定の方法、試薬は比較例1と同じである。
<実施例3>
(脊髄損傷モデルラットの作製)
9週齢の雌Sprague-Dawleyラット(日本クレア株式会社)に、1.5~2%イソフルランによる全身麻酔を導入し、腹臥位で正中線の皮膚切開後、T6-7椎弓を切除した。次に、脊髄をT6-7レベルで硬膜外にて、動脈瘤クリップ(クリップ圧30gの力)で1分間挟んだ後、皮膚を縫合し、脊髄損傷モデルラットを作製した。
(羊膜間葉系細胞(AMSC)の移植)
移植の5日前に、実施例1で作製したAMSCを凍結したクライオバイアルを解凍し、実施例2記載の方法(工程3-3)にて再培養した。継代なしで培養を行い、移植の直前にトリプシン処理にて分離されたAMSCをリン酸緩衝液(PBS)で細胞濃度1×10個/mlに調製した。脊髄損傷モデル作製の24時間後、1×10個/mlのAMSCを全身麻酔下で、0.5ml/分の速度で1ml尾静脈内に投与した。
(運動機能評価)
後肢の運動機能は、0(完全な対麻痺)から21(正常な後肢の動き)の範囲のBasso-Beattie-Bresnahan(BBB)スケールを使用して評価した。BBBスコアは、オープンフィールドで、脊髄損傷モデル作製の24時間後、及び28日後まで毎週評価を行った。個々のスコアは、試験群構成を知らされていない2名の研究者によって実行され、二者間スコアの平均値でBBBスコアを求めた。
結果を表1に示す。羊膜間葉系細胞を1×10個/匹で、 1回投与した脊髄損傷モデルラットでは、経時的にBBBスコアの改善を認め、4週間後では後肢に体重をかけ、しっかりと歩行できるまでに大幅な運動機能の改善効果を示した。
<実施例4>
(羊膜間葉系細胞(AMSC)の移植)
AMSCの細胞濃度を1×10個/mlとした以外は、実施例3と同様の方法にてAMSCの投与を行った。
(運動機能評価)
実施例3と同様の方法にて、BBBスコアを求めた。
結果を表1に示す。羊膜間葉系細胞を1×10個/匹で、1回投与した脊髄損傷モデルラットでは、経時的にBBBスコアの改善を認め、4週間後では後肢に体重をかけ、しっかりと歩行できるまでに大幅な運動機能の改善効果を示した。
<比較例2>
(リン酸緩衝液(PBS)の注入)
AMSCの懸濁に用いたPBS溶液のみを、実施例3と同様の方法にて注入した。
(運動機能評価)
実施例3と同様の方法にて、BBBスコアを求めた。結果を表1に示す。PBSを1回投与した脊髄損傷モデルラットでは、わずかに自然回復傾向を示しBBBスコアは若干上昇したが、4週間後でも前肢のみで歩行し、後肢は完全に伸びきった状態でほとんど動かなかった。
Figure 2023147910000002
<実施例5>脊髄損傷モデルへの羊膜間葉系細胞の投与効果の評価(I)
脊髄損傷モデル作製の28日後に、実施例3及び実施例4のラットの脊髄を用いてKluver-Barrera染色を行い、脊髄の損傷部の長さと体積を評価した。具体的には、厚さ10μmの矢状断脊髄切片をLuxol Fast Blue(LFB)染色液(武藤化学株式会社)で、60℃で15時間インキュベートを行い、髄鞘を含む脊髄白質の染色を行った。次に、0.1%炭酸リチウム溶液(武藤化学株式会社)で10秒間、70%エタノールに3分間浸漬し脱色を行った。切片を0.1%クレシルバイオレット溶液(武藤化学株式会社)中で5分間インキュベートした。脊髄の損傷部の長さは、LFBで染色されていない領域を測定し、体積はDohrmannの式を改良した次式で求めた。
病変部体積(mm)=πD(H+H)/12
Dは中心の直径、又は病変の厚さを表し、HとHは、それぞれ、中心から吻側と尾側の端までの長さを表す。
結果を図3に示す。図3Aは脊髄損傷部の長さ、図3Bは、脊髄損傷部の体積を示す。羊膜間葉系細胞を1×10個/匹で1回尾静脈内投与した群(High Dose(HD))、又は、1×10個/匹で1回尾静脈内投与した群(Low Dose(LD))では、PBSを尾静脈内に投与した群(NS)(後述する比較例3)と比較して、脊髄の損傷部の長さと体積が大幅に減少(改善)していた。
<比較例3>
比較例2のラットを用いた以外は、実施例5と同様の方法で脊髄の損傷部の長さと体積を評価した(NS)。結果を図3に示す。羊膜間葉系細胞を投与した群(実施例5のHD及びLD)と比較して、脊髄損傷部位の長さと体積の改善効果は著しく低かった。
<実施例6>脊髄損傷モデルへの羊膜間葉系細胞の投与効果の評価(II)
脊髄損傷モデル作製の28日後に、実施例3及び実施例4のラットの脊髄を用いて、脊髄の損傷部での局所的な炎症を評価するために、マクロファージの浸潤を検討した。抗CD68抗体(1:500、MCA341GA;Bio-Rad Laboratories、Inc.、CA、USA)を使用して、厚さ5μmの矢状断脊髄切片を染色し、損傷部の中心部から5mmの吻側及び尾側を400倍の倍率で観察し、陽性細胞を手動でカウントした。
結果を図4及び図5に示す。図4は、羊膜間葉系細胞を1×10個/匹で1回尾静脈内投与した群(HD)、1×10個/匹で1回尾静脈内投与した群(LD)、及びPBSを尾静脈内投与した群(NS)(後述する比較例4)の各1個体の頭側及び尾側の脊髄組織の抗CD68抗体染色写真を示す。図5は、HD、LD及びNSにおける、1視野あたりのCD68陽性細胞(マクロファージ)の数を示す。結果は図4及び図5の結果より、HD及びLDの脊髄の損傷部へのマクロファージの浸潤は、NSと比較して大幅に抑制されることが確認された。
<比較例4>
比較例2のラットを用いた以外は、実施例6と同様の方法でマクロファージの浸潤を評価した。
結果を図4及び図5に示す。羊膜間葉系細胞を投与した個体(実施例6のHD及びLD)と比較して、脊髄の損傷部位にマクロファージが多く浸潤していた。
<実施例7>脊髄損傷モデルの回腸組織のH-E染色及びPAS染色
脊髄損傷モデル作製の14日後に、実施例3のラットの回腸を用いて、H-E染色及びPAS染色を行った。具体的には、幽門下10cm、回盲弁上5cmの部分から約5mmの回腸を採取した。厚さ5μmの縦断面の回腸切片をヘマトキシリン溶液(武藤化学株式会社)で5分間、エオシン溶液(武藤化学株式会社)で4分間インキュベートした。各切片のスライドについて、絨毛の高さ、絨毛の密度(1mmあたりの絨毛の数)、陰窩の深さ及び筋層の厚さを測定した。また、脊髄損傷モデル作製の14日後に、実施例4のラットの回腸を用いて、杯細胞の粘液産生能力を評価するためにPAS染色を行った。具体的には、厚さ5μmの縦断面の回腸切片を0.5%過ヨウ素酸溶液で10分間インキュベートした。その後、当該切片をシフ試薬と15分間反応させた後、ヘマトキシリン溶液(武藤化学株式会社)で30秒間インキュベートした。各スライドについて、PAS陽性領域を、自動領域カウンター(BZ-Xアナライザー、キーエンス)を使用して、100倍の倍率で評価した。
図6及び図7にH-E染色の結果を示す。図6は、脊髄損傷モデルラット作製2週間後の回腸組織断面のH-E染色写真を示す。図6Aは、羊膜間葉系細胞を1×10個/匹で尾静脈内投与した群(HD)の1個体の写真、図6Bは、PBSを尾静脈内投与した群(NS)(後述する比較例5)の1個体の写真を示す。また、図7は、脊髄損傷モデルラット作製2週間後の回腸組織断面の絨毛長(図7A)、陰窩厚(図7B)、筋層厚(図7C)、絨毛密度(1mmあたりの絨毛の数)(図7D)を示す。HD(n=6)では、NS(n=8)と比較して、回腸の絨毛長、陰窩厚、筋層厚、及び絨毛密度が有意に高かった。
図8及び図9にPAS染色の結果を示す。図8は、脊髄損傷モデルラット作製2週間後の回腸組織断面のPAS染色写真を示す。図8Aは、羊膜間葉系細胞を1×10個/匹で尾静脈内投与した群(HD)の1個体の写真、図8Bは、PBSを尾静脈内投与した群(NS)(後述する比較例5)の1個体の写真を示す。図9は、脊髄損傷モデルラット作製2週間後の回腸組織断面の100倍顕微鏡写真における1視野あたりのPAS陽性領域の面積を示す。HD(n=6)では、NS(n=8)と比較してPAS陽性領域が有意に大きく、杯細胞から粘液を産生する能力が改善されていることが確認できた。
<比較例5>
比較例2のラットの回腸を用いた以外は、実施例7と同様の方法で絨毛長、陰窩厚、筋層厚、及び絨毛密度及び杯細胞から粘液を産生する能力を評価した。結果を図6~9に示す。羊膜間葉系細胞を尾静脈内投与した系(実施例7)と比較して、回腸絨毛長、陰窩厚、筋層厚、及び絨毛密度が有意に低かった。また、PAS陽性領域も有意に小さく、杯細胞から粘液を産生する能力が低いことが確認できた。
<実施例8>脊髄損傷モデルの肝臓への腸内細菌の血中移行評価
肝臓は門脈を介して腸と繋がっている臓器であり、腸内細菌の血中移行の影響を最も受け易い臓器である。そこで、腸内細菌の血中移行を評価するために、実施例3で記載した方法に準じて脊髄損傷モデルを作製し、その1週間後に無菌手順で肝臓を採取した。採取した肝臓を滅菌生理食塩水でホモジナイズした後、滅菌生理食塩水で10倍に希釈した。必要に応じて同じ手順で段階希釈を行った。各希釈サンプル1mlを、滅菌ディスポーザルシャーレ中の15mLの滅菌済み標準法寒天(日本水産)上にプレーティングした。その後、好気性条件で37℃、48時間培養を行い、コロニー数を手動でカウントした。
図10に肝臓組織を培養したシャーレ上のコロニー数を示す。図中、HDは羊膜間葉系細胞を1×10個/匹で尾静脈内投与した群(n=8)、NSは、PBSのみを尾静脈内投与した群(n=7)(後述する比較例6)を示す。HDでは、NSと比較して、コロニー数が有意に減少し、腸内細菌の血中への移行が抑制されていることが確認できた。
<比較例6>
比較例2に記載した方法に準じて脊髄損傷モデルを作製し、その7日後に実施例9と同様の方法で、腸内細菌の血中移行を評価した。
結果を図10に示す。羊膜間葉系細胞を投与した群(実施例8のHD)と比較して、肝臓の細菌コロニーの数が多く、腸内細菌の血中移行の影響を受けていることが確認できた。

Claims (14)

  1. 羊膜組織に由来する間葉系細胞を含む細胞集団を有効成分として含有する、脊髄損傷治療剤であって、
    前記細胞集団における、CD324陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上であり、かつ、CD90陽性を呈する間葉系細胞の比率が90%以上である、脊髄損傷治療剤。
  2. 前記細胞集団において、CD326陽性を呈する細胞の比率が10%以下である、請求項1に記載の脊髄損傷治療剤。
  3. 前記細胞集団において、CD73陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD166陽性を呈する間葉系細胞の比率が80%以上であり、CD45陽性を呈する細胞の比率が10%以下であり、かつCD105陽性を呈する間葉系細胞の比率が70%以上である、請求項1又は2に記載の脊髄損傷治療剤。
  4. 前記細胞集団が、投与される対象とは異なる生体から得られたものである請求項1~3のいずれか1項に記載の脊髄損傷治療剤。
  5. 投与される対象がヒトである、請求項1~4のいずれか1項に記載の脊髄損傷治療剤。
  6. 前記細胞集団がヒト由来である請求項1~5のいずれか1項に記載の脊髄損傷治療剤。
  7. 前記細胞集団が投与対象の受傷から7日以内に投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の脊髄損傷治療剤。
  8. 前記間葉系細胞が、骨芽細胞及び/又は脂肪細胞への分化能がない又は低いものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の脊髄損傷治療剤。
  9. 前記間葉系細胞が、抗炎症作用を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の脊髄損傷治療剤。
  10. 前記間葉系細胞が、脊髄損傷時に併発する腸組織の損傷を抑制する目的でも使用される、請求項1~9のいずれか1項に記載の脊髄損傷治療剤。
  11. 前記腸組織の損傷の抑制が、腸内細菌の血中への移行の抑制作用である、請求項10記載の脊髄損傷治療剤。
  12. 前記細胞集団が、血小板溶解物を含む培地を用いて培養された細胞の集団である、請求項1~11のいずれか1項に記載の脊髄損傷治療剤。
  13. 静脈内に投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の脊髄損傷治療剤。
  14. 間葉系細胞として、1×10~1×1010個/kg体重の投与量で投与されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の脊髄損傷治療剤。
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