JP2023146182A - 溶接組立箱形断面部材およびその設計方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】角溶接を部分溶込み溶接とする場合にも、部材耐力の低下や角溶接での破断の発生を抑制できる、溶接組立箱形断面部材およびその設計方法を提供する。【解決手段】4枚のスキンプレートが角溶接により相互に接合されて構成される溶接組立箱形断面部材において、前記スキンプレートの板厚tおよび降伏強度σy、ならびに前記角溶接の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、(tw・σyw)/(t・σy)≧1の関係を満たすようにする。【選択図】図1
Description
本発明は、4枚のスキンプレートが角溶接により相互に接合されて構成される溶接組立箱形断面部材およびその設計方法に関するものである。
建築物の柱部材には、冷間ロール成形角形鋼管、冷間プレス成形角形鋼管、溶接組立箱形断面部材などの角形鋼管が用いられることが多い。中低層建築物および高層建築物の柱部材には、比較的安価な冷間ロール成形角形鋼管や冷間プレス成形角形鋼管が用いられることが多い。これに対し、超高層建築物の柱部材には、要求される剛性および耐力が非常に大きいため、大断面化、厚肉化、高強度化が可能な溶接組立箱形断面部材が用いられることが多い。
ここで、溶接組立箱形断面部材は、冷間ロール成形角形鋼管や冷間プレス成形角形鋼管に比べて製作コストが高い。その要因としては、部材の高強度化に伴って、溶接組立箱形断面部材のスキンプレートを構成する鋼板のコスト自体が高いことに加えて、溶接組立箱形断面部材の製作時の溶接施工管理等に多くの工数および製作期間を要することが挙げられる。
特に、溶接組立箱形断面部材の肉厚が極厚である場合は、溶接組立箱形断面部材のスキンプレートを角溶接により相互に接合するときの溶接深さが大きくなる。溶接組立箱形断面部材の角溶接は、CO2溶接またはサブマージアーク溶接で行われることが多いが、いずれも、角溶接の溶接深さが大きくなると、角溶接を1パスで行うことができず溶接パス数が増える。よって、角溶接が多層化して、溶接組立箱形断面部材の製作コストが上昇し、製作期間が長期化する。
また、多層サブマージアーク溶接の場合には、例えば非特許文献1および非特許文献2に開示されるように、溶接金属が早期に低位破断して母材規格強度を下回ることを防ぐべく、パス間温度およびその保持時間、ならびに後熱温度およびその保持時間等の熱管理を行う必要がある。
サブマージアーク溶接では、1パスで施工可能な溶接深さは、最大60mm程度である。よって、肉厚が60mm以上の溶接組立箱形断面部材をサブマージアーク溶接で製作する場合には、角溶接が多層サブマージアーク溶接となる。そして、上述のような熱管理が必要となり、溶接組立箱形断面部材の製作期間が急激に長期化する。
このような問題に対応して、例えば特許文献1では、溶接組立箱形断面部材の隅角部を内側から隅肉溶接するボックス柱の製造方法が提案されている。しかし、溶接組立箱形断面部材の内側での溶接作業は、溶接者への作業負荷が高く、危険な作業となる恐れもある。
そこで、例えば非特許文献3に開示されるように、溶接組立箱形断面部材の角溶接を部分溶込み溶接とすることが検討されてきた。
湯田 誠、他3名、「極厚ボックス角継手(SA440)への多層盛サブマージアーク溶接の検討 その1 試験概要及び事前試験結果」、日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)、一般社団法人日本建築学会、2014年9月、pp.1045-1046
福元 孝男、他3名、「極厚ボックス角継手(SA440)への多層盛サブマージアーク溶接の検討 その2 事前試験の考察と本試験結果」、日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)、一般社団法人日本建築学会、2014年9月、pp.1047-1048
井上 末冨、他2名、「部分溶込み溶接で組み立てられたボックス柱の耐荷力の研究(その1.実験計画および部分溶込み溶接せん断実験)」、日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)、一般社団法人日本建築学会、1989年10月、pp.1253-1254
Tanaka H.、他1名、「LIMIT ANALYSIS OF BEAM-COLUMN CONNECTIONS (VII-2) - Connections of Wide-flange Beam to Box-Column subjected to Bending and Thrust -」、日本建築学会論文報告集、社団法人日本建築学会、1969年12月、第166号、pp.59-64、85
「低強度材料を用いた超高強度鋼(780N/mm2級)溶接組立箱形断面柱の溶接施工」、JSSCテクニカルレポート、一般社団法人日本鋼構造協会、2021年2月、No.123
日本建築学会編、「鋼構造接合部設計指針 第3版」、一般社団法人日本建築学会、2012年3月
しかし、非特許文献3に開示されるように、溶接組立箱形断面部材の角溶接を部分溶込み溶接とすると、大きなせん断力が作用する柱梁接合部パネル部において、角溶接にせん断変形が集中し、柱梁接合部パネル部で部材耐力が低下する。特に、角溶接の溶接金属の強度が母材強度に対して低く、かつ部分溶込み溶接の溶接深さが小さい場合には、柱梁接合部パネル部のせん断変形により、角溶接で破断が生じ、設計者が意図しない破壊が生じてしまうことがある。
そして、溶接組立箱形断面部材の角溶接を部分溶込み溶接とする構造についての簡易な耐力評価式も提案されていないことから、現在ではこのような構造はあまり使われていない。
上記課題に鑑み、本発明は、角溶接を部分溶込み溶接とする場合にも、部材耐力の低下や角溶接での破断の発生を抑制できる、溶接組立箱形断面部材およびその設計方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。
[1] 4枚のスキンプレートが角溶接により相互に接合されて構成される溶接組立箱形断面部材であって、前記スキンプレートの板厚tおよび降伏強度σy、ならびに前記角溶接の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび下記(1)式の関係を満たしている、溶接組立箱形断面部材。
(tw・σyw)/(t・σy)≧1 ……(1)
[2] 4枚のスキンプレートが角溶接により相互に接合されて構成される溶接組立箱形断面部材であって、柱部材と梁部材とを有する構造物において前記柱部材として用いられ、少なくとも前記梁部材が取り付く柱梁接合部パネル部において、前記スキンプレートの板厚tおよび降伏強度σy、ならびに前記角溶接の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび下記(1)式の関係を満たしている、溶接組立箱形断面部材。
[2] 4枚のスキンプレートが角溶接により相互に接合されて構成される溶接組立箱形断面部材であって、柱部材と梁部材とを有する構造物において前記柱部材として用いられ、少なくとも前記梁部材が取り付く柱梁接合部パネル部において、前記スキンプレートの板厚tおよび降伏強度σy、ならびに前記角溶接の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび下記(1)式の関係を満たしている、溶接組立箱形断面部材。
(tw・σyw)/(t・σy)≧1 ……(1)
[3] 前記角溶接の開先深さが60mm以上である、[1]または[2]に記載の溶接組立箱形断面部材。
[3] 前記角溶接の開先深さが60mm以上である、[1]または[2]に記載の溶接組立箱形断面部材。
[4] 4枚のスキンプレートが角溶接により相互に接合されて構成される溶接組立箱形断面部材の設計方法であって、前記スキンプレートの板厚tおよび降伏強度σy、ならびに前記角溶接の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび下記(1)式の関係を満たすようにする、溶接組立箱形断面部材の設計方法。
(tw・σyw)/(t・σy)≧1 ……(1)
本発明の溶接組立箱形断面部材およびその設計方法によれば、角溶接13を、溶接深さtwがスキンプレート11、12の板厚tよりも小さい部分溶込み溶接とする(tw<t)場合にも、角溶接13の溶接金属の強度σywを大きくして、上記(1)式の関係を満たすようなオーバーマッチ溶接とすることで、角溶接が完全溶込み溶接かつオーバーマッチ溶接となる溶接組立箱形断面部材の柱梁接合部パネル部と同等のせん断耐力が得られる。
すなわち、上記(1)式を満たす範囲内で、角溶接の溶接深さtwを小さくして部分溶込み溶接とすることにより、溶接組立箱形断面部材のスキンプレートの板厚tが大きい場合にも角溶接を1パスで溶接することが可能となる。このように、角溶接を部分溶込み溶接とする場合にも、部材耐力の低下や角溶接での破断の発生を抑制できるので、溶接組立箱形断面部材の部材耐力を低下させることなく、角溶接の溶接施工性が大幅に高められ、溶接組立箱形断面部材の製作コストや製作期間を大幅に削減できる。
以下、図面を参照して、本発明の溶接組立箱形断面部材およびその設計方法の実施形態について、詳細に説明する。
図1(a)および図1(b)に、本実施形態の溶接組立箱形断面部材の断面図および側面図を示す。
図1(a)に示すように、本実施形態の溶接組立箱形断面部材1は、4枚のスキンプレート11、12が角溶接13により相互に接合されて構成されたものである。そして、スキンプレート11、12の板厚tおよび降伏強度σy、ならびに角溶接13の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび下記(1)式の関係を満たしている。
(tw・σyw)/(t・σy)≧1 ……(1)
溶接組立箱形断面部材1は、その全長に亘って、スキンプレート11、12の板厚tおよび降伏強度σy、ならびに角溶接13の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、上記(1)式の関係を満たすようにしても良い。あるいは、柱部材として用いられる溶接組立箱形断面部材1のうち、少なくとも梁部材が取り付く柱梁接合部パネル部において、スキンプレート11、12の板厚tおよび降伏強度σy、ならびに角溶接13の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび上記(1)式の関係を満たすようにする。このような構成とすれば、後述するように、角溶接13を部分溶込み溶接とする場合にも、溶接組立箱形断面部材1の部材耐力の低下や角溶接13での破断の発生を抑制できる。
溶接組立箱形断面部材1は、その全長に亘って、スキンプレート11、12の板厚tおよび降伏強度σy、ならびに角溶接13の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、上記(1)式の関係を満たすようにしても良い。あるいは、柱部材として用いられる溶接組立箱形断面部材1のうち、少なくとも梁部材が取り付く柱梁接合部パネル部において、スキンプレート11、12の板厚tおよび降伏強度σy、ならびに角溶接13の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび上記(1)式の関係を満たすようにする。このような構成とすれば、後述するように、角溶接13を部分溶込み溶接とする場合にも、溶接組立箱形断面部材1の部材耐力の低下や角溶接13での破断の発生を抑制できる。
また、本実施形態の溶接組立箱形断面部材1では、角溶接13の開先深さは60mm以上であることが好ましい。このような構成とすれば、角溶接13を部分溶込み溶接とする場合にも、角溶接13の溶接深さtwが十分に確保され、溶接組立箱形断面部材1の部材耐力をより確実に確保できる。
また、本実施形態の溶接組立箱形断面部材の設計方法は、4枚のスキンプレート11、12が角溶接13により相互に接合されて構成される溶接組立箱形断面部材1の設計方法である。そして、スキンプレート11、12の板厚tおよび降伏強度σy、ならびに角溶接13の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび上記(1)式の関係を満たすように、溶接組立箱形断面部材1を設計することによって、実現されるものである。
発明者らは、柱部材として用いられる溶接組立箱形断面部材の柱梁接合部パネル部のせん断耐力について、以下のとおり検討を行った。そして、この検討を通じて、少なくとも柱梁接合部パネル部において、溶接組立箱形断面部材1のスキンプレート11、12の板厚tおよび降伏強度σy、ならびに角溶接13の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、上記(1)式の関係を満たしていれば、角溶接13を部分溶込み溶接とする場合にも、溶接組立箱形断面部材1の部材耐力の低下や角溶接13での破断の発生を抑制できることを確認した。
まず、図1(c)および図1(d)に示すように、溶接組立箱形断面部材1において、スキンプレート11、12の板厚tおよび角溶接13の溶接深さtwが、スキンプレート11、12の板幅に対して十分に小さく、スキンプレート11、12が板厚中心に集中すると仮定して、スキンプレート11、12の板厚方向に生じるせん断応力を無視した力学モデルを設定した。
そして、溶接組立箱形断面部材1にせん断力が作用するとき、溶接組立箱形断面部材1の各部位には、せん断変形および曲げ変形が、次のように生じるものと仮定した。
まず、図2(a)および図2(b)に示すように、溶接組立箱形断面部材1に作用するせん断力の方向が、対向する一対のスキンプレート11と、対向するもう一対のスキンプレート12のうち、一方の幅方向と平行であるとき(以下、「0°方向加力時」という)については、次のとおり仮定した。すなわち、せん断力と平行な一対のスキンプレート11には、幅方向中央部の幅(dc-X)mmの領域でせん断変形が生じ、幅方向両端部の幅(X/2)mmの領域のうち柱梁接合部パネル部の上下端部で曲げ変形が生じるものと仮定した。ただし、dcは溶接組立箱形断面部材1のスキンプレート11、12の板厚中心間距離であって、溶接組立箱形断面部材1の幅Dに対してdc=D-tの関係にあり、Xの範囲は0≦X≦dc/2である。さらに、全ての角溶接13には、せん断変形が生じるものと仮定した。
そして、上述のような力学モデルにおいて、Xの値を0≦X≦dc/2の範囲内で変化させながら、溶接組立箱形断面部材1の柱梁接合部パネル部のせん断耐力をそれぞれ計算した。そして、これらのせん断耐力のうち最小値となるものを、溶接組立箱形断面部材1の柱梁接合部パネル部のせん断耐力とした。具体的には、非特許文献4および非特許文献5に記載される計算方法を参考にして、上記計算を行った。このようにして、溶接組立箱形断面部材1の柱梁接合部パネル部のせん断耐力pMpaを求めたところ、下記(2)式~(7)式のとおりとなった。
0°方向加力時は、
(1)1≦(tw・σyw)/(t・σy)のとき、
(1)1≦(tw・σyw)/(t・σy)のとき、
(2)1-√3(dc/db)≦(tw・σyw)/(t・σy)≦1のとき、
(3)(tw・σyw)/(t・σy)≦1-√3(dc/db)のとき、
ただし、上記(2)式~(4)式中のdbは、柱梁接合部パネル部の高さである。また、上記(2)式~(4)式中の「pMp0指針」は、それぞれ下記(5)式のとおり算出される値である。
ここで、上記(5)式に示す「pMp0指針」は、非特許文献6に記載されている柱梁接合部パネル部の耐力評価式であって、柱梁接合部パネル部の全体がせん断変形して全塑性耐力に達する時に柱梁接合部パネル部に作用する曲げモーメントの値である。この「pMp0指針」は、角溶接13が完全溶込み溶接かつ角溶接の溶接金属の強度が母材強度を上回るオーバーマッチ溶接となるように施工された溶接組立箱形断面部材の柱梁接合部パネル部の耐力評価式として、現在最も広く用いられているものである。
上記(2)式~(4)式により求められる溶接組立箱形断面部材1の柱梁接合部パネル部のせん断耐力pMpaは、角溶接の溶接金属の耐力(tw・σyw)と母材耐力(t・σy)との比(tw・σyw)/(t・σy)および柱梁接合部パネル部のアスペクト比db/dcに依存して変化する。これについて以下に説明する。
図4に、角溶接13の耐力の母材耐力に対する比(tw・σyw)/(t・σy)を0.0~1.2の範囲で変化させたとき、上記(2)式~(4)式により計算される0°方向加力時の柱梁接合部パネル部のせん断耐力pMpaの値の「pMp0指針」に対する比pMpa/(pMp0指針)の変化を、柱梁接合部パネル部のアスペクト比db/dcが1.0、1.5、2.0の場合について、グラフで示す。
図4に示すとおり、角溶接13の溶接金属の耐力(tw・σyw)と母材耐力(t・σy)との比(tw・σyw)/(t・σy)が小さくなるほど、柱梁接合部パネル部の耐力が減少し、また柱梁接合部パネル部のアスペクト比db/dcが大きくなるほど、柱梁接合部パネル部の耐力の低下量が大きくなっている。そして、角溶接13の溶接金属の耐力(tw・σyw)と母材耐力(t・σy)との比(tw・σyw)/(t・σy)が1.0以上となっていれば、すなわち、本実施形態の溶接組立箱形断面部材1のように上記(1)式の関係を満たしていれば、柱梁接合部パネル部のアスペクト比db/dcに関わらず、上記(2)式~(4)式により計算される溶接組立箱形断面部材1の柱梁接合部パネル部のせん断耐力pMpaの値は、非特許文献6に記載されている柱梁接合部パネル部の耐力評価式により計算される「pMp0指針」とほぼ等しくなることが確認された。
さらに、発明者らは、有限要素法によって、溶接組立箱形断面部材の柱梁接合部パネル部のせん断耐力を数値解析して、上記(2)式~(4)式によって計算されるせん断耐力pMpaの値と比較することにより、上記(2)式~(4)式の妥当性を検証した。
図5(a)~図5(d)に、本数値解析で対象とした解析モデルの形状を示す。本数値解析では、図5(a)に示す、柱梁接合部パネル単体の解析モデルを解析対象とした。具体的には、溶接組立箱形断面部材1の断面サイズを、外寸150mm×150mm、肉厚16mm、溶接組立箱形断面部材1から構成されるパネル部材の高さを250mmとした。また、図5(b)~図5(d)に示すように、角溶接13の溶接深さは、5mm、10mm、16mmの三種類とし、これらの各々について数値解析を行った。
図6に、溶接組立箱形断面部材1のスキンプレート11、12および角溶接13に設定した材料特性を示す。図6に示すように、溶接組立箱形断面部材1のスキンプレート11、12には、降伏耐力が412N/mm2の材料特性を設定した。また、図5(b)に示す、溶接深さ5mmの角溶接13には、降伏耐力が510N/mm2の材料特性(溶接金属B)を、図5(c)に示す、溶接深さ10mmの角溶接13には、降伏耐力が383N/mm2(溶接金属A)、714N/mm2(溶接金属C)の二種類の材料特性を、また、図5(d)に示す、溶接深さ16mmの角溶接13には、降伏耐力が383N/mm2(溶接金属A)、510N/mm2(溶接金属B)の二種類の材料特性を設定し、これらの各々について数値解析を行った。
そして、図5(a)に示すように、材軸方向端部の回転を拘束しながら逆対称のせん断力を入力し、このせん断力を漸増させる条件で、数値解析を行った。
図7に、本数値解析によって計算された、溶接組立箱形断面部材の柱梁接合部パネル部のせん断耐力の値をプロットしたものを示す。また、この数値解析の結果得られた荷重-変形関係に基づいて、0°方向加力時には0.35%オフセット耐力、45°方向加力時には0.5%オフセット耐力を計算し、図7中に併せてプロットしている。
図7に示すとおり、上記数値解析により計算された溶接組立箱形断面部材の柱梁接合部パネル部のせん断耐力は、上記(2)式~(4)式によって計算されるせん断耐力pMpaと、ほぼ同程度の値となり、上記(2)式~(4)式の妥当性が確認された。
このように、本実施形態の溶接組立箱形断面部材1のように、スキンプレート11、12の板厚tおよび降伏強度σy、ならびに角溶接13の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、上記(1)式の関係を満たしていれば、すなわち角溶接13の溶接金属の耐力(tw・σyw)と母材耐力(t・σy)との比(tw・σyw)/(t・σy)が1.0以上であれば、pMpa/(pMp指針)の値が1.0に近くなり、溶接組立箱形断面部材1の部材耐力の低下を抑制できることがわかる。
換言すると、溶接組立箱形断面部材1では、角溶接13を、溶接深さtwがスキンプレート11、12の板厚よりも小さい部分溶込み溶接とする場合にも、角溶接13の溶接金属の強度σywを大きくして、上記(1)式の関係を満たすようなオーバーマッチ溶接とすることで、角溶接13が完全溶込み溶接かつオーバーマッチ溶接となる溶接組立箱形断面部材の柱梁接合部パネル部と同等のせん断耐力が得られる。
ここで、上述のとおり、サブマージアーク溶接では、1パスで施工可能な最大溶接深さは60mm程度である。よって、肉厚が60mm以上の溶接組立箱形断面部材をオーバーマッチ溶接かつ完全溶込み溶接のサブマージアーク溶接で製作する場合には、角溶接が多層サブマージアーク溶接となり、後熱管理が必要となるため、溶接組立箱形断面部材の製作工期が急激に長期化する。
これに対し、本実施形態の溶接組立箱形断面部材1では、上記(1)式の関係を満たす範囲内で、角溶接13の溶接深さtwを小さくして部分溶込み溶接とすることにより、溶接組立箱形断面部材1のスキンプレート11、12の板厚tが大きい場合にも角溶接13を1パスで溶接することが可能となる。よって、肉厚が60mm以上の溶接組立箱形断面部材を完全溶込みの多層サブマージアーク溶接により施工する場合のような後熱管理が不要なため、角溶接13の溶接施工性が大幅に高められ、溶接組立箱形断面部材1の製作コストや製作期間を大幅に削減できる。また、本実施形態の溶接組立箱形断面部材1では、上記(1)式の関係を満たすことにより、角溶接13を部分溶込み溶接とする場合にも、その影響による溶接組立箱形断面部材1の部材耐力の低下を抑制できる。
なお、角溶接13が上記(1)式の関係を満たさないことにより、溶接組立箱形断面部材1の部材耐力が大きく影響を受けるのは、柱梁接合部パネル部が主であり、柱部材のうち柱梁接合部パネル部以外の部位で上記(1)式の関係が必ずしも満たされていなくても、溶接組立箱形断面部材1の部材耐力が大きく低下することはない。よって、柱部材として用いられる溶接組立箱形断面部材1のうち、少なくとも梁部材が取り付く柱梁接合部パネル部において、上記(1)式の関係を満たすようにすればよい。
本発明の溶接組立箱形断面部材1の具体的な実施例について、以下に説明する。
本実施例の溶接組立箱形断面部材1では、スキンプレート11、12の降伏耐力σyを385N/mm2とし、板厚tを85mmとした。また、角溶接13の開先深さを60mmとし、角溶接13を1パスのサブマージアーク溶接により施工した。
そして、本実施例の溶接組立箱形断面部材1を製作したところ、角溶接13の溶接深さtwは、溶込みや余盛により、70mm以上確保できることが確認された。
このとき、上記(1)式の関係を満たすためには、角溶接13の溶接金属の強度σywが467.5N/mm2以上である必要がある。すなわち、角溶接13の溶接金属の強度σywが467.5N/mm2以上となるように溶接材料を選択して角溶接13を施工すれば、溶接組立箱形断面部材1の角溶接13を部分溶込み溶接としても、溶接組立箱形断面部材1の柱梁接合部パネル部の耐力低下や角溶接13での破断の発生を抑制できることが確認された。
1 溶接組立箱形断面部材
11、12 スキンプレート
13 角溶接
11、12 スキンプレート
13 角溶接
Claims (4)
- 4枚のスキンプレートが角溶接により相互に接合されて構成される溶接組立箱形断面部材であって、
前記スキンプレートの板厚tおよび降伏強度σy、ならびに前記角溶接の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび下記(1)式の関係を満たしている、溶接組立箱形断面部材。
(tw・σyw)/(t・σy)≧1 ……(1) - 4枚のスキンプレートが角溶接により相互に接合されて構成される溶接組立箱形断面部材であって、
柱部材と梁部材とを有する構造物において前記柱部材として用いられ、
少なくとも前記梁部材が取り付く柱梁接合部パネル部において、前記スキンプレートの板厚tおよび降伏強度σy、ならびに前記角溶接の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび下記(1)式の関係を満たしている、溶接組立箱形断面部材。
(tw・σyw)/(t・σy)≧1 ……(1) - 前記角溶接の開先深さが60mm以上である、請求項1または2に記載の溶接組立箱形断面部材。
- 4枚のスキンプレートが角溶接により相互に接合されて構成される溶接組立箱形断面部材の設計方法であって、
前記スキンプレートの板厚tおよび降伏強度σy、ならびに前記角溶接の溶接深さtwおよび溶接金属の強度σywが、tw<tおよび下記(1)式の関係を満たすようにする、溶接組立箱形断面部材の設計方法。
(tw・σyw)/(t・σy)≧1 ……(1)
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