JP2023142725A - 軸受部品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 非金属介在物の周囲に存在する隙間を効率良く埋めることができる軸受部品の製造方法を提供する。
【解決手段】 軸受部品の製造方法では、被加工品の表面のうち、軸受部品としての使用時に荷重が作用する領域内に対して、非金属介在物と母相との間の隙間が減るように、転動体を転がり接触させながら押し付けて被加工品を塑性変形させる。そして、塑性変形後の被加工品に対して、ロックウェル硬さで58HRC以上を付与するための熱処理を行う。転動体としては、球体又はころを用いることができる。また、3.5GPa以上5.5GPa以下の範囲内の加工面圧で転動体を加工品に押し付けることができる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、軸受に用いられる鋼製の軸受部品の製造方法に関する。
軸受用鋼には、その製造工程に由来して非金属介在物と呼ばれる異物が不可避的に含まれている。また、圧延や鍛造を経て製造された軸受において、非金属介在物の周囲に隙間が形成されていることがある。この隙間は、非金属介在物と母相である軸受用鋼との変形性の違いにより界面で発生するものと考えられ、この隙間が使用中に転がり疲れを受ける軸受部品内でのき裂の発生を助長し、き裂の起点になる場合がある。したがって、軸受の寿命を向上させるためには、非金属介在物の周囲の隙間を減らすことが有効である。
特許文献1では、転動部品の被加工面に塑性加工(バニシング加工)を施すことにより、非金属介在物及び母相の間に存在する隙間を埋めるようにしている。ここで、具体的な塑性加工では、ツールの先端の球形の押し付け部を転動部品(内輪)の被加工面に押圧している。なお、このツールの詳細については明確な開示はされていないが、実施例の記述ならびに開示されている図からみて、被加工面の全体に対してツールを押し付けつつ、それを移動させて加工することにより、被加工面上に存在する微小な凹凸形状を平坦化している。
特開2019-167995号公報
特許文献1では、被加工面に対して押し付け部を押圧させているが、このような加工方法では、バニシング加工機や冷間ローリング設備などの加工専用機械やツールの導入が必要となる。対して、本願発明者らによれば、転動体(軸受に用いられるような転がり要素部品)を使用して、被加工面に対して、転がり接触を利用した部分的な押圧を行うことによって塑性加工を施すことにより、非金属介在物と母相の間に存在する隙間を効率良く埋めることができることが分かった。またこの手法では、例えば軸受の寿命評価に用いる転動疲労試験機を利用して簡便に加工を行うことが可能であり、かつ加工時間も短くて済む。この知見を利用した部品において寿命が向上することが分かり、本願発明を完成させるに至った。特許文献1には、上述した知見について何ら開示されていない。
本発明である軸受部品の製造方法では、被加工品の表面のうち、軸受部品としての使用時に荷重が作用する領域内に対して、非金属介在物と母相との間の隙間が減るように、転動体を転がり接触させながら押し付けて被加工品を塑性変形させる。そして、塑性変形後の被加工品に対して、ロックウェル硬さで58HRC以上を付与するための熱処理を行う。
ここで、上述した製造方法によって製造された軸受部品において、荷重が作用する領域の表面から所定深さまでの表層領域における相当ひずみは、表層領域以外である非表層領域における相当ひずみよりも大きい。軸受部品に含まれる非金属介在物と軸受部品の母相との間の距離、すなわち隙間の大きさについて、表層領域内における隙間の大きさは、非表層領域内の隙間の大きさよりも小さくなり、すなわち隙間は低減される。
上述した転動体を用いた加工により、軸受部品の使用時に荷重が作用する領域に溝を形成することができる。この溝は、軸受部品の製造過程において、転動体を使用した部分的な押圧を行うことで形成させ、所定の仕上げ加工や必要な硬さを得るための熱処理(焼入焼戻し、浸炭、浸炭窒化、高周波焼入れなど)が施されたものである。所定の仕上げ加工(研削など)によっては、溝が無くなることもある。その場合においても、表層領域内において、非金属介在物と母相との間の隙間が低減された領域は残存する。
転動体としては、球体又はころを用いることができる。この転動体は、軸受部品に実際に使用されるものであっても良い。また、3.5GPa以上5.5GPa以下の範囲内の加工面圧で転動体を被加工品に押し付けることができる。
被加工品はリング状に形成することができる。この場合において、転動体を被加工品に転がり接触させながら周方向に周回させるように転動させることができる。被加工品の硬さは、ロックウェル硬さで少なくとも99HRB以下とすることができる。これよりも被加工品の硬さが硬い場合は転動体を用いた加工によって隙間を軽減する効果が低下する。
本発明によれば、軸受部品としての使用時に荷重が作用する領域において、非金属介在物及び母相の間に存在する隙間を低減することができ、軸受部品の寿命を向上させることができる
軸受部品の製造方法を説明するフローチャートである。 粗加工品(被加工品)に溝を形成する方法(溝加工処理)を説明する図である。 溝加工処理時に母相の内部で発生する塑性変形領域及び非塑性変形領域を説明する図である。 Al粒子及び焼結材が埋め込まれた試験片の上面図である。 引張力を加えてAl粒子の周囲に隙間を形成した後の試験片を示す図である。 溝が形成された試験片を示す図である。 実施例について、Al粒子を含む領域を電子顕微鏡で観察した写真である。 比較例について、Al粒子を含む領域を電子顕微鏡で観察した写真である。
本実施形態は、鋼製の軸受部品を製造する方法であり、具体的には、図1に示す処理が行われる。ここで、軸受部品に用いられる鋼としては、例えば、JIS G4805に規定されている高炭素クロム軸受鋼鋼材(鋼種:SUJ2~5)、JIS G4051に規定されている機械構造用炭素鋼鋼材(鋼種:S53C,SCr420,SCM420,SNCM220,SNCM420,SNCM815)、JIS G4303に規定されているマルテンサイト系ステンレス鋼棒(鋼種:SUS420J2,SUS440Cなど)が挙げられる。
図1に示すステップS101では、軸受部品の元になる粗加工品(後述する被加工品)を準備する。粗加工品は、後述するステップS102~S104の処理を経て最終製品となる軸受部品が得られるものである。このような粗加工品が得られればよく、公知の手段を用いて粗加工品を準備することができる。
例えば、粗加工品の準備においては、電炉におけるアーク溶解炉又は転炉による溶鋼の酸化精錬処理と、取鍋精錬炉(LF)による還元精錬処理と、還流式真空脱ガス装置(RH)による還流真空脱ガス処理(RH処理)と、連続鋳造又は一般造塊による鋼塊の鋳造処理と、それに続く塑性加工処理とを行うことにより、所定形状の鋼材を製造する。ここで、塑性加工処理としては、鋼塊の熱間圧延や、熱間での圧鍛が行われ、それに引き続いて冷間圧延、冷間での圧鍛、冷間でのしごき加工が行われても良い。また、鋼材の形状としては、棒鋼、管材、素形材等が挙げられる。
次に、熱間鍛造、亜熱間鍛造、温間鍛造、冷間鍛造、ローリング鍛造、冷間転造、冷間ヘッダー加工、引抜き加工などのいずれか、あるいはそれらを組み合わせた加工を行ったり、必要に応じて軟化や組織調整を目的とした熱処理や旋削を行ったりすることにより、粗加工品が成形される。
ステップS102では、ステップS101の処理で準備された粗加工品を被加工品として、それに対して、溝を加工する処理(溝加工処理)を行う。この溝加工処理では、粗加工品(被加工品)の表面に対して転動体を所定の荷重で押し付けながら、転動体を転動させることにより(言い換えれば、転動体を転がり接触させながら押し付けることにより)、転動体と接触する粗加工品の表面を塑性変形させて溝を形成する。例えば、同一軌道上において、転動体を粗加工品と転がり接触させながら粗加工品の周方向に周回するように転動させることにより、所望の形状を有する溝を所定の軌道に沿って形成することができる。転動体を周回させる回数は、1回でも良いし複数回でも良い。
転動体を保持しながら回転できるようにする治具を用いれば、転動体を粗加工品に押し付けながら転動体を転動させることができる。転動体の回転を維持する治具としては、例えば、軸受用の保持器が利用できる。また、転動体の回転に伴って試験片が回転しないようにするため、試験片を保持する治具や機構は必要である。また、転動体は2つの物体間を転動するものであるから、加工しようとする試験片とともに転動体を挟むように相対する側に配置される部材も必要である。転動体を挟む機構としては、例えば、上板及び下板によって転動体を上下で挟む機構や、軸受部品の内輪と外輪の間に転動体を挟む機構を用いることができる。
また、転動体を上下で挟む機構において、下板として使用する粗加工品に溝加工処理を行いたいとき、上板の硬さが低いと、転動体を保持器で保持しながら転動させた際に上板に転動体による溝がより深く形成され、上板と保持器とが接触してしまい、下板(粗加工品)への溝加工処理が継続できなくなる場合がある。それを回避するため、上板の材料としては、下板(粗加工品)よりも硬い材料を選択する必要がある。ここで、下板(粗加工品)の硬さは特に制限されない。また、転動による粗加工品への焼付きを防ぐため、転動時には潤滑油を転動部(転動体及び粗加工品の接触部分)に供給することが望ましい。溝加工処理自体は短い時間で行われるため、潤滑油は転動部に予め塗布する程度であっても良い。
溝は、軸受部品の使用時に発生する荷重を受ける領域に形成すればよく、溝を形成する位置は、荷重を受ける領域の位置に応じて予め決めておくことができる。また、転動体を転がり接触させながら押し付けることによって溝を形成しているため、溝の形状は転動体の外形に沿った形状となり、溝の幅は転動体のサイズに依存する。このため、予め軸受部品で荷重を受ける領域が判明していれば、この領域の幅をカバーすることができるサイズの転動体を用いることができる。
転動体としては、球体を用いることができる。また、ころを用いることもできる。溝を形成するときの転動体の数は、溝の形成を安定的に行うため、複数の転動体を用いることが望ましい。複数の転動体を用いる場合には、すべての転動体を同一の軌道上で転動させればよい。転動体を粗加工品(被加工品)に押し付ける荷重は、粗加工品に溝を形成できる荷重であればよく、例えば、3.5GPa以上5.5GPa以下の範囲内の加工面圧を設定することができる。なお、溝の形成にともなって転動体と粗加工品(被加工品)との接触状態が変化して加工面圧が低下する場合が生じるが、溝の形成の開始時点において上述した加工面圧(3.5GPa以上5.5GPa以下)を確保できれば良い。転動体に用いる材料は、粗加工品(被加工品)に溝を形成できる材料であればよく、公知の材料から適宜採用することができる。また、軸受部品に用いられる転動体を流用しても良い。
本実施形態では、粗加工品(被加工品)の部分的な押圧による加工であり加工の負荷が比較的低いため、冷間での加工が可能であり、以下に示す種々のメリットが得られる。
まず、温間で加工を行う際は発火防止のために油を使用することができず、その結果、溝を形成する際に焼付きが発生する場合がある。それに対し冷間で加工を行えることで加工中に潤滑油を使用できるため、焼付きを防止することができる。また、冷間加工では温間加工に比べて、加工により非金属介在物と母相との間の隙間を効率的に埋めることができる。これは隙間の閉塞による軸受部品の寿命向上効果を得る点で有利である。ただし、溝加工処理は冷間加工に限られない。
本実施形態の製造方法によって得られる軸受部品では、表層領域での相当ひずみが非表層領域での相当ひずみよりも大きくなることにより、表層領域において、非金属介在物と母相の間に存在する隙間を低減でき、軸受部品の寿命を向上させることができる。ここで、表層領域とは、溝加工処理によって形成された溝の表面を含み、溝の表面から所定深さまでの領域である。所定深さとしては、500μm以下とすることができる。本実施形態の製造方法によれば、上述した所定深さまでの領域において、表層領域を形成することができる。非表層領域は、軸受部品の内部において、表層領域以外の領域である。
そして、表層領域の深さと相当ひずみを大きくするほど、また溝の幅が広いほど、隙間が閉塞する領域を大きくすることができる。この表層領域の深さと相当ひずみの大きさ、ならびに溝の幅は、加工面圧の大きさと母相(被加工品)の硬さによって変化する。被加工品の硬さが同じで加工面圧を大きくした場合、表層領域の深さと相当ひずみはともに大きくなり、溝の幅も広くなる。また、加工面圧が同じで被加工品の硬さを大きくした場合、塑性変形は起こりにくくなり、表層領域の深さと相当ひずみはともに小さくなり、溝の幅も狭くなる。また、加工面圧ならびに被加工品の硬さが大きすぎた場合、被加工品が著しい加工硬化を生じ、溝のエッジ部で割れが発生しやすくなる。
以上から、先に示した加工面圧のみならず、被加工品の硬さの調整も重要である。冷間で溝の形成を行う場合には、被加工品の硬さは、ロックウェル硬さで少なくとも99HRB以下とするのが望ましい。これよりも被加工品の硬さが硬い場合は転動体を用いた加工によって隙間を軽減する効果が低下する。溝の形成に利用する転動体の硬さについては、通常の軸受部品の転動体として利用される程度の硬さがあれば良い。例えば、ロックウェル硬さで58HRC以上が目安であり、より好ましくは60HRC以上である。ただし、粗加工品の硬さによっては、硬さが58HRC以下の転動体も選択できる。
上述した溝加工処理の一例について、図2を用いて説明する。図2では、リング状に形成された粗加工品10の上面に対して球状の転動体20を押し付けながら矢印Dの方向(粗加工品10の周方向)に周回するように転動させることにより、溝11を形成している。ここでは、3つの転動体20を用いており、3つの転動体20は、同一の軌道上で転動する。転動体20を用いた溝加工処理では、例えばスラスト型転がり疲労試験に用いられている試験機と同様な機構を有する装置を溝加工処理に用いることができる。
図3は、図2に示す例において、転動体20及び粗加工品10の接触部分を示す断面図である。粗加工品10の表面は、転動体20からの荷重F1を受けることにより、塑性変形する。ここで、図3に示す領域R1(ハッチングで示した領域)は、粗加工品10の内部において、塑性変形する領域(以下、「塑性変形領域」という)である。図3に示す境界BLは、粗加工品10の内部において、塑性変形領域R1と、塑性変形しない領域(以下、「非塑性変形領域」という)R2との境界を示す。塑性変形領域R1は、上述した表層領域に相当し、非塑性変形領域R2は、上述した非表層領域に相当する。
図3に示すように、転動体20を粗加工品10に押し付けると、塑性変形領域R1は、転動体20から荷重F1を受けるとともに、非塑性変形領域R2から拘束力F2を受ける。ここで、図3から分かるように、荷重F1は、転動体20の複数の径方向に作用し、拘束力F2は、荷重F1に対する反力として作用する。このような荷重F1及び拘束力F2が塑性変形領域R1に作用することにより、塑性変形領域R1において、非金属介在物及び母相の間に隙間が存在するときにおいて、非金属介在物に近づく方向に母相を変形させて隙間を埋めやすくなる。
特許文献1では、上述したように、被加工面の全体に対してツールを押し付けつつ、ツールを移動させて加工が行われる。それにより被加工面の全体において、微小な凹凸形状が平坦化する。特許文献1には、冷間ローリング加工を想定した成形ロールとマンドレルを使った被加工面全体に対する加工についても提示がされている。それに対して、本実施形態では、粗加工品の一部の領域に対して転動体の外形に沿った溝が形成される。これにより、特許文献1のようにツールを移動させて被加工面の全体に対して加工をする必要や、成形ロールやマンドレルを用意して加工をする必要がなく、軸受部品として使用させる際に転がり疲れを受ける領域内についてのみ非金属介在物の周囲に存在する隙間の軽減を行うことができる。また、上述の通り、粗加工品(被加工品)とそれと相対する部材(相手部材)との間に転動体を挟んだ状態にして、相手部材を通じて転動体に荷重を加えながら溝加工処理を行えば、特許文献1のような加工のための特別な加工装置やツールを用いる必要がなく、簡便な加工が可能になる。これらの点において、本実施形態は、特許文献1と異なる。以下、特許文献1との相違点について、さらに具体的に説明する。
本実施形態では、転動体の外形に沿った溝を形成することにより、図3に示すように、塑性変形領域R1に対して荷重F1及び拘束力F2を作用させやすくなる。結果として、塑性変形領域R1に存在する隙間を埋めやすくなり、溝11の全体において隙間を埋めやすくなる。一方、特許文献1では、押し付け部を被加工面に押圧しているものの、被加工面の微小な凹凸を平坦化させることを目的としているため、本実施形態のように溝を形成する場合と比べて、図3に示す塑性変形領域R1を形成しにくくなり、塑性変形領域R1に対して荷重F1及び拘束力F2を作用させにくくなる。したがって、本実施形態によれば、特許文献1と比べて、非金属介在物の周囲に存在する隙間を効率良く埋めやすくなる。
軸受部品の疲労き裂は、軸受部品の軌道表面直下であってヘルツ接触応力が最大となる軌道表面からの深さ(一般的な軸受部品では200μm以下)近傍で発生すると考えられている。上述した本実施形態の塑性変形領域R1は、少なくとも疲労き裂が発生する範囲をカバーするように形成させることができるため、塑性変形領域R1に存在する隙間が埋まることにより、疲労き裂の原因となる非金属介在物の周囲の隙間を無くして軸受部品の寿命を向上させることができる。
上述した溝加工処理を行うと、溝11の周囲に盛り上がり部分が発生してしまうことがある。この場合には、盛り上がり部分を研削によって取り除くことができる。また、溝11の表面に対して研磨処理を行うことにより、溝11の表面を平滑化するようにしてもよい。また、上述したように、所定の仕上げ加工(研削など)によっては、溝11が無くなることもある。これらの工程は、図1のステップS102とステップS103の間で行うことができる。また、研削量や研磨量が少ない場合は、この研削や研磨を後述するステップS104の処理で兼ねるようにしても良い。
図1に戻り、ステップS103では、溝加工処理を行った粗加工品(被加工品)に対して熱処理を行う。この熱処理は、粗加工品(被加工品)に所定の硬度を与えるための熱処理であり、例えば、全体焼入れ(ズブ焼入焼戻し)、浸炭焼入焼戻し、浸炭窒化焼入焼戻し、浸炭浸窒焼入焼戻し、高周波焼入焼戻しなどの焼入焼戻し、および窒化処理等が挙げられる。ここで、所定の硬度としては、例えば、ロックウェル硬さで58HRC以上とすることが好ましく、より好ましくは60HRC以上とする。熱処理方法として上述のうち表面硬化手法を用いる場合は、前述の硬さは部品の表面付近の硬さとする。
ステップS104では、熱処理(S103)を行った粗加工品(被加工品)に対して仕上げ加工と軌道面の研磨処理を行う。粗加工品(被加工品)の仕上げ加工と、研磨処理による粗加工品(被加工品)の軌道面の平滑化により、最終製品である軸受部品を得ることができる。
下記表1に示す化学組成と、残部としてFeならびに不可避不純物を有する鋼を用意した。この鋼種は、JIS G4805に規定されているSUJ2である。
上述した鋼であるSUJ2鋼をアーク溶解炉で溶製した後、取鍋精錬炉にて還元精錬を行い、不純物除去や余分な酸素の除去を行った後、さらに、還流式真空脱ガス処理を行い、さらに酸素を低減した。次に、それを連続鋳造にて鋳込むことで鋼塊を作製し、その鋼塊を熱間圧延することにより、直径がφ65mmの棒鋼を作製した。その棒鋼に対して、900℃で1.5時間保持した後に空冷する焼きならしを施してから、さらに最高点温度を800℃とした加熱の後に徐冷を行う球状化焼なましを施した。この棒鋼から、リング状に形成された試験片100(図4参照)を作製した。
ここで、試験片100の直径(外径)は54mmであり、内径は29mmである。ここで示した製鋼工程はSUJ2鋼を電炉で製造する場合における製法の一例であり、また、熱処理方法もSUJ2鋼の加工の前処理として一般的なものを示したものであり、これらの方法は軸受部品の製造方法や鋼種に応じて適切に選定すれば良い。試験片100のサイズは本実施例の効果の確認のために用いた形状に過ぎないため、本発明においては試験片100の形状に特に左右されるものではない。
次に、マイクロドリルを用いることにより、試験片100の一方の面(これを上面とする)に直径4.5mmで深さ6mmのドリルホール101(図4参照)を加工した。非金属介在物を模擬した人工の球形のAl粒子102を複数個用意し、上述した鋼の主要成分と同じ組成を有する粉末を混合して焼結した部材(以下、「焼結材」という)103をドリルホール101に埋め込んだ。Al粒子102の直径は150μm程度であり、ドリルホール101及び複数のAl粒子102の間に形成された隙間を焼結材103で充填した。
なお、ここで非金属介在物を模擬したAl粒子102を複数個包含した焼結材103を準備する理由について説明する。上記の製鋼工程で溶製された鋼は、非金属介在物に関して清浄性が高い、すなわち非金属介在物の存在頻度が小さいことから、本発明における非金属介在物の周囲の隙間を軽減する効果の確認が容易に行えないことになる。その確認を容易にするために、上述した焼結材103を準備した。
Al粒子102を包含する焼結材103によってドリルホール101を埋めた後、HIP(Hot Isostatic Pressing)加工によって、Al粒子102を包含する焼結材103を試験片100の母相に密着させた。HIP加工を行う場合、具体的には、まず、ドリルホール101に充填された焼結材103に対して必要に応じた抜け止めを施して、低炭素鋼製の容器に試験片100を収容し、試験片100に形成された内径穴部に芯金を入れてから容器を密閉する。そして、容器の内部を真空脱気した後、所定圧力(例えば、147MPa)及び所定温度(例えば、1170℃)で所定時間(例えば、5時間)だけ保持した後に徐冷することにより、Al粒子102及び焼結材103を試験片100の母相に密着させることができる。
HIP加工を行った後、前述と同様の方法による焼ならしと球状化焼なましを行い、試験片100を収容した容器を取り除くための旋削を行うととともに、試験片100の形状に再加工し、試験片100の表面を研磨した。
次に、引張が可能な試験機を用いて、試験片100に対して所定方向の引張力を加えた。これにより、試験片100は図5に示すように変形し、この変形に伴って、Al粒子102の周囲に隙間Sが形成される。この隙間Sは、軸受部品において非金属介在物の周囲に存在する場合がある隙間を模擬したものであり、本実施例では、意図的に隙間Sを形成させている。
次に、図5に示す試験片100に対して本発明の方法による溝加工処理を行った試験片(実施例)100と、図5に示す試験片100に対して本発明の方法による溝加工処理を行わなかった試験片(比較例)100とを用意した。ここで、試験片(比較例)100では、溝加工処理を行っていないため、Al粒子102の周囲には隙間Sが形成されたままである。
溝加工処理では、隙間Sを伴ったAl粒子102が試験片100の表面からの深さが50~300μm程度に埋まっていた箇所に対して、図6に示すように、その表面に溝104が形成されるようにした。溝104は、リング形状の試験片100の周方向に沿って形成されているとともに、円形の軌道上に形成されている。ここで、図6に示す例では、上述の深さ範囲にある一部のAl粒子102と重なる位置に溝104が形成されているが、溝104の幅は転動体の大きさや溝加工処理時の加工面圧に依存するので、その選定によってはすべてのAl粒子102と重なる位置に溝104を形成することもできる。実施例の溝加工処理では、直径が9.525mmである焼入焼戻し状態のSUJ2鋼からなる球形の転動体を用い、4.0GPa及び4.5GPaのそれぞれの加工面圧で転動体を試験片100に押し付け、それぞれ転動体を周方向に周回させることで溝104を形成させた。溝104の幅は2.5mmほどであり、溝104の深さは170μmほどである。
実施例及び比較例である試験片100について、溝加工面に対して深さ方向に研磨を行い、Al粒子の最大径付近が露出するところまで研磨した後、光学顕微鏡によって溝104の真上方向(すなわち溝加工面を観察できる方向)からAl粒子102を観察した。観察した試験片100は、4.5GPaの加工面圧で転動体を試験片100に押し付けることによって形成された試験片100である。実施例である試験片100については、図7に示すように、Al粒子102の周囲に隙間Sが存在しておらず、隙間Sが埋められていることを確認した。一方、比較例である試験片100については、図8に示すように、Al粒子102の周囲に隙間Sが存在したままであることを確認した。
次に、上記と同様方法により別途作製した実施例の試験片100について、溝加工面の表面を平滑化させるため、転動体を押し付けることによって形成された溝104を研磨によって除去した。このとき、溝104は研磨で除去されているが、溝加工処理に伴って介在物周囲の隙間が埋められた領域は残存している。次に、実施例及び比較例における試験片100に対して焼入焼戻し処理を行うことによって、硬度(ロックウェル硬さ)を58HRC以上とした軸受部品を製造した。溝加工処理時に付与された相当ひずみに伴って鋼のミクロ組織内に導入された転位は、この熱処理の過程における回復・再結晶を経て解消されるが、非金属介在物の周囲の隙間を軽減する効果は熱処理後も維持される。なお、軸受部品としてより望ましい硬さは60HRC以上である。
上述した軸受部品について、スラスト型転がり疲労試験を行った。スラスト型転がり疲労試験では、上板として、SUJ2製単式スラスト軸受のレース(型番51305)を用い、下板として、試験片100を用いた。上板及び下板の間には、保持器を利用して3個の転動体を直径38.5mmの円軌道上に等間隔(120°ピッチ)で配置した。ここで、転動体としては、直径が9.525mmであるSUJ2製の鋼球を用いた。実施例である試験片100については、溝104が円周上に形成されていた箇所ならびにその下部に埋設されているAl粒子の位置上と重なるように転動体(鋼球)を配置し、比較例である試験片100については、Al粒子102が埋設されている位置上と重なるように転動体(鋼球)を配置した。
そして、スラスト型転がり疲労試験を行うにあたり、転動体(鋼球)から試験片(実施例/比較例)100に対して5.3GPaの最大ヘルツ接触応力が加わるように荷重を付与した。ここで、負荷サイクル速度は1800サイクル/minとし、潤滑のためにISO VG68油浴に浸漬させた。また、このスラスト型転がり疲労試験は常温で行った。
上述したスラスト型転がり疲労試験の結果から、ワイブル分布関数に基づいて、短寿命側から10%の試験片100にはく離が生じるまでの総回転数を求め、これをL10寿命とした。比較例のL10寿命を1.0として指数化した場合の実施例及び比較例におけるL10寿命を下記表2に示す。
上記表2に示す通り、実施例によれば、比較例よりもL10寿命が向上した。図7及び図8に示すように、実施例では非金属介在物周囲の隙間Sが残存していなかったため、隙間Sが存在していた比較例よりもL10寿命が向上したことが分かる。
10:粗加工品、11:溝、20:転動体、100:試験片、101:ドリルホール、
102:Al粒子、103:焼結材、104:溝

Claims (6)

  1. 被加工品の表面のうち、軸受部品としての使用時に荷重が作用する領域内に対して、非金属介在物と母相との間の隙間が減るように、転動体を転がり接触させながら押し付けて前記被加工品を塑性変形させ、
    塑性変形後の前記被加工品に対して、ロックウェル硬さで58HRC以上を付与するための熱処理を行うことを特徴とする軸受部品の製造方法。
  2. 前記転動体が球体であることを特徴とする請求項1に記載の軸受部品の製造方法。
  3. 前記転動体がころであることを特徴とする請求項1に記載の軸受部品の製造方法。
  4. 3.5GPa以上5.5GPa以下の範囲内の加工面圧で前記転動体を前記被加工品に押し付けることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の軸受部品の製造方法。
  5. 前記被加工品はリング状に形成されており、
    前記転動体を前記被加工品の周方向に転がり接触させながら周回させることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の軸受部品の製造方法。
  6. 前記被加工品の硬さは、ロックウェル硬さで少なくとも99HRB以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の軸受部品の製造方法。
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