JP2023140901A - 冷間加工用の高硬度鋼とこれを用いた機械部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】 耐摩耗性、耐候性・耐食性、高い硬度、冷間加工性、靭性を備えた機械部品用の鋼の提供。【解決手段】 質量%で、C:0.70~0.95%、Si:0.50~1.20%、Mn:0.10~0.70%、Cr:6.00~9.00%、MoまたはWのいずれか1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.80~2.20%、VまたはNbのいずれか1種または2種をV当量(V+1/2Nb):0.20~1.00%、残部がFe及び不可避的不純物である鋼が焼入れされた状態であってその一次炭化物量が3.0~8.0vol.%であり、高温焼戻しされたときのマトリクス中のCr量が1.00%以上である、冷間加工用の高硬度鋼。【選択図】 なし
Description
本発明は、冷間加工性、耐摩耗性および耐候性・耐食性に優れた冷間加工用の高硬度鋼と、これを用いて冷間鍛造にて製造された機械部品、特にこの鋼を用いた自動車や二輪車などの内燃機関を構成する摺動を伴う機械部品に関するものである。
自動車、精密機器、ICT機器などを構成する高硬度、耐摩耗性が必要な機械部品には様々な鋼材が適用されている。例えばバルブリフターはカムの回転に連動して内燃機関(エンジン)の吸排気弁(バルブ)を開閉作動させるための部品であり、耐摩耗性が要求される部品の一つである。
こうした機械部品においては、JIS(日本産業規格)に規定されるSCM415やSCM420といった機械構造用鋼にさらに表面処理を施して使用したり、比較的高硬度が得られる軸受鋼のSUJ2を使用したりする場合もあるが、耐摩耗性や耐候性・耐食性が不十分な場合にはSKD11を適用していた。
こうした機械部品においては、JIS(日本産業規格)に規定されるSCM415やSCM420といった機械構造用鋼にさらに表面処理を施して使用したり、比較的高硬度が得られる軸受鋼のSUJ2を使用したりする場合もあるが、耐摩耗性や耐候性・耐食性が不十分な場合にはSKD11を適用していた。
もっとも、SKD11は粗大な一次炭化物を多く含むために冷間加工性が悪い鋼である。また、SKD11は焼入焼戻しすることで高硬度を得ており、その一般的な焼戻温度としては、170℃~200℃の低温焼戻しと、500℃~580℃の高温焼戻しがある。もっとも、内燃機関の機械部品用途では使用中に温度が上昇し、低温焼戻しの温度領域よりも高い温度に曝される懸念から、高温焼戻しが適用されている。高温焼戻しを選択すると最大でも60HRC程度の硬度に留まっている。
そこで、冷間加工性と耐摩耗性を兼備するべく、これまでにも高硬度鋼の提案がなされている。
たとえば、本願出願人は、合金の成分組成と焼鈍硬さを98HRB以下と規定し、焼鈍後の炭化物粒度を20μm以下に微細化することで冷鍛性の向上を図った、冷間加工性に優れた高硬度鋼を提案している(特許文献1参照。)。
たとえば、本願出願人は、合金の成分組成と焼鈍硬さを98HRB以下と規定し、焼鈍後の炭化物粒度を20μm以下に微細化することで冷鍛性の向上を図った、冷間加工性に優れた高硬度鋼を提案している(特許文献1参照。)。
また、合金成分組成を(C:0.50~1.40%未満、Cr:4.5%~11.0%未満)と規定した鋼材で、かつ球状の2次炭化物が均一に分散された工具鋼であることを特徴とするバルブリフターの冷間鍛造用素材が提案されている(特許文献2参照。)。
所定の合金成分組成を規定し、冷間加工性、耐熱性および耐摩耗性に優れた高硬度材が提案されている(特許文献3参照。)。もっとも、Cr含有量(2.5~5.5%)およびMo含有量(0.2%以下)が少なく、硬度および耐摩耗性が不十分である。
さて、特許文献1の提案では、依然として一次炭化物が少なすぎると耐摩耗性が劣る場合があり、他方で一次炭化物が多すぎるときは冷鍛性に未だ改善の余地があることが判明した。また、焼入焼戻し後(使用時)のマトリクス中のCr固溶量が低く耐候性・耐食性が不十分な場合もあるので、さらなる改善の余地がある。
また、特許文献2の提案においても、マトリクス中のCr固溶量は考慮がなされておらず、耐候性・耐食性にはさらなる改善の余地がある。また、一次炭化物量も適正ではないため、耐摩耗性あるいは冷鍛性が不十分であった。
そこで、本発明の解決しようとする課題は、冷間加工にて製造され、高い硬度と耐摩耗性ならびに耐候性・耐食性が要求される機械部品に適する冷間鍛造性に優れた高硬度鋼材および本鋼材を使用した機械部品を提供することである。そして、内燃機関を構成する摺動部品、たとえばバブルリフター、に必要とされる耐摩耗性、耐候性・耐食性、高い硬度、冷間加工性、靭性を兼ね備えていることである。
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、所定の合金成分範囲ならびに焼入れ状態における一次炭化物量と高温焼戻し状態におけるマトリクス中のCr固溶量を規定することで、冷間加工性に優れ、十分な硬度と耐摩耗性が得られるうえに優れた耐候性・耐食性も兼備する機械部品用に適した冷間加工用の高硬度鋼と、これを用いた機械部品が得られることを見出した。
そこで、本発明の課題を解決するための第1の手段は、質量%で、C:0.70~0.95%、Si:0.50~1.20%、Mn:0.10~0.70%、Cr:6.00~9.00%、MoまたはWのいずれか1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.80~2.20%、VまたはNbのいずれか1種または2種をV当量(V+1/2Nb):0.20~1.00%、残部がFe及び不可避的不純物である鋼が焼入れされた状態であってその一次炭化物量が3.0~8.0vol.%であり、高温焼戻しされたときのマトリクス中のCr量が1.00%以上である、冷間加工用の高硬度鋼である。
なお、本発明でいう高温焼戻しとは、500℃~580℃で焼戻しすることをいう。
なお、本発明でいう高温焼戻しとは、500℃~580℃で焼戻しすることをいう。
その第2の手段は、質量%で、C:0.70~0.95%、Si:0.50~1.20%、Mn:0.10~0.70%、Cr:6.00~9.00%、MoまたはWのいずれか1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.80~2.20%、VまたはNbのいずれか1種または2種をV当量(V+1/2Nb):0.20~1.00%、残部がFe及び不可避的不純物である鋼材を冷間加工した、焼入れ後高温焼戻しされた状態の、一次炭化物量が3.0~8.0vol.%であり、マトリクス中のCr量が1.00%以上である、機械部品である。
すなわち、第1の手段に記載の冷間加工用の高硬度鋼を用いて、冷間鍛造等で冷間加工した、焼入焼戻しされた状態の機械部品である。
すなわち、第1の手段に記載の冷間加工用の高硬度鋼を用いて、冷間鍛造等で冷間加工した、焼入焼戻しされた状態の機械部品である。
本発明の冷間加工用の高硬度鋼及びこれを用いた機械部品は、冷間加工性、硬度、耐摩耗性、耐候性、耐食性、靭性に優れたものとなる。すなわち、冷間据込み試験で、割れが発生する圧下率が50%以上と冷間か構成に優れ、焼なまし硬さが98HRB以下であり、高温焼戻しの場合の焼入焼戻し硬さが最高硬さ61HRC以上であり、耐摩耗性が所定の大越式摩耗試験後の摩耗量が9.0×10-8mm3/N・mm以下であり、発錆状態が良好に抑制されており耐候性に優れ、シャルピー衝撃試験における衝撃値が15.0J/cm2以上であり靭性に優れるものとなる。
本発明を実施するための形態の説明に先立って、本発明の高硬度鋼の各成分の組成を規定する理由と、焼入れ状態における一次炭化物量を規定する理由、高温焼戻し状態におけるマトリクス中のCr量について規定する理由について説明する。なお、成分組成における%とは質量%を意味する。
C:0.70~0.95%
Cは鋼中への固溶および炭化物形成にて必要な高硬さを付与させる必須元素である。この観点から、Cは少なくとも0.70%以上必要であり、好ましくは0.76%以上である。他方、Cは、0.95%を超えると、粗大炭化物を多く形成し易くなり、濃化部の偏析を助長し、靭性や冷鍛における加工性を低下させる。より好ましくは、Cは0.89%以下である。
Cは鋼中への固溶および炭化物形成にて必要な高硬さを付与させる必須元素である。この観点から、Cは少なくとも0.70%以上必要であり、好ましくは0.76%以上である。他方、Cは、0.95%を超えると、粗大炭化物を多く形成し易くなり、濃化部の偏析を助長し、靭性や冷鍛における加工性を低下させる。より好ましくは、Cは0.89%以下である。
Si:0.50~1.20%
Siは、製鋼での脱酸効果、焼入性、二次硬化促進および耐候性・耐食性に寄与する。この観点から、Siは少なくとも0.50%は必要であり、好ましくは0.70%以上である。
他方、Siが1.20%を超えると焼なまし硬さを上昇させ、冷鍛における加工性を阻害する。この観点から、好ましくはSiは1.00%以下である。
そこで、Siは0.50~1.20%である。好ましくは、Siは0.70~1.00%である。
Siは、製鋼での脱酸効果、焼入性、二次硬化促進および耐候性・耐食性に寄与する。この観点から、Siは少なくとも0.50%は必要であり、好ましくは0.70%以上である。
他方、Siが1.20%を超えると焼なまし硬さを上昇させ、冷鍛における加工性を阻害する。この観点から、好ましくはSiは1.00%以下である。
そこで、Siは0.50~1.20%である。好ましくは、Siは0.70~1.00%である。
Mn:0.10~0.70%
Mnは製鋼での脱酸効果、焼入性に寄与する。この観点から、Mnは少なくとも0.10%は必要であり、好ましくはMnは0.20%以上である。
他方、Mnは0.70%を超えると、不可避的に混入するSと介在物を生成して加工性を低下させたり、耐候性・耐食性を悪化させたりする要因となる。この観点から、好ましくは、Mnは0.50%以下である。
そこで、Mnは0.10~0.70%とする。好ましくはMnは0.20~0.50%である。
Mnは製鋼での脱酸効果、焼入性に寄与する。この観点から、Mnは少なくとも0.10%は必要であり、好ましくはMnは0.20%以上である。
他方、Mnは0.70%を超えると、不可避的に混入するSと介在物を生成して加工性を低下させたり、耐候性・耐食性を悪化させたりする要因となる。この観点から、好ましくは、Mnは0.50%以下である。
そこで、Mnは0.10~0.70%とする。好ましくはMnは0.20~0.50%である。
Cr:6.00~9.00%
Crは焼入性の向上、焼戻硬さの確保および冷鍛部品の耐摩耗性に必要な成分である。この観点から、Crが6.00%未満ではこれらの効果が不十分である。この観点から、好ましくはCrは7.00%以上である。
他方、Crが9.00%を超えると、粗大炭化物を多く形成し易くなり、濃化部の偏析を助長し、靭性や冷鍛における加工性を低下させる。
そこで、Crは6.00~9.00%以上とする。好ましくはCrは7.00%~9.00%以上である。
Crは焼入性の向上、焼戻硬さの確保および冷鍛部品の耐摩耗性に必要な成分である。この観点から、Crが6.00%未満ではこれらの効果が不十分である。この観点から、好ましくはCrは7.00%以上である。
他方、Crが9.00%を超えると、粗大炭化物を多く形成し易くなり、濃化部の偏析を助長し、靭性や冷鍛における加工性を低下させる。
そこで、Crは6.00~9.00%以上とする。好ましくはCrは7.00%~9.00%以上である。
Mo当量(Mo+1/2W):0.80~2.20%
MoおよびWは、共に焼入性改善と、焼戻硬さ向上に寄与する重要な元素である。ただし、その効果はMoの方がWよりも2倍強く、同じ効果を得るのに、WはMoの2倍必要である。この両元素の効果は、Mo当量(Mo+1/2W)で表すことができる。
本発明では、焼入性改善と、焼戻硬さ向上に寄与する観点から、Mo当量で0.80%以上必要とする。望ましくはMo当量は、1.10%以上である。他方、Mo当量が2.20%を超えると焼入性改善と、焼戻硬さ向上に寄与する効果は飽和し、過剰添加は濃化部の偏析を助長し、靭性や冷鍛における加工性を低下させる。そこで、Mo当量(Mo+1/2W)の上限を2.20%とし、好ましくは、2.00%以下である。
MoおよびWは、共に焼入性改善と、焼戻硬さ向上に寄与する重要な元素である。ただし、その効果はMoの方がWよりも2倍強く、同じ効果を得るのに、WはMoの2倍必要である。この両元素の効果は、Mo当量(Mo+1/2W)で表すことができる。
本発明では、焼入性改善と、焼戻硬さ向上に寄与する観点から、Mo当量で0.80%以上必要とする。望ましくはMo当量は、1.10%以上である。他方、Mo当量が2.20%を超えると焼入性改善と、焼戻硬さ向上に寄与する効果は飽和し、過剰添加は濃化部の偏析を助長し、靭性や冷鍛における加工性を低下させる。そこで、Mo当量(Mo+1/2W)の上限を2.20%とし、好ましくは、2.00%以下である。
V当量(V+1/2Nb):0.20~1.00%
V、Nbは、共に焼戻し時に微細かつ硬質な析出硬化物を形成し二次硬化に寄与する。ただし、その効果はVの方がNbよりも2倍強く、同じ効果を得るのに、NbはVの2倍必要である。この両元素の効果はV当量(V+1/2Nb)で表すことができる。
この観点から、微細かつ硬質な析出硬化物を形成し二次硬化を得るためには、V当量で0.20%以上必要である。好ましくは、V当量は0.30%以上である。
他方、V当量が1.00%を超えると過剰となって粗大炭化物の形成を促し、靭性の低下や冷鍛における加工性の低下を招くことから、その上限を1.00%とする。好ましくはV当量は0.80%以下である。
V、Nbは、共に焼戻し時に微細かつ硬質な析出硬化物を形成し二次硬化に寄与する。ただし、その効果はVの方がNbよりも2倍強く、同じ効果を得るのに、NbはVの2倍必要である。この両元素の効果はV当量(V+1/2Nb)で表すことができる。
この観点から、微細かつ硬質な析出硬化物を形成し二次硬化を得るためには、V当量で0.20%以上必要である。好ましくは、V当量は0.30%以上である。
他方、V当量が1.00%を超えると過剰となって粗大炭化物の形成を促し、靭性の低下や冷鍛における加工性の低下を招くことから、その上限を1.00%とする。好ましくはV当量は0.80%以下である。
本発明の高硬度鋼の成分は、残部がFe及び不可避的不純物である。
焼入れ状態における一次炭化物量:3.0~8.0vol.%
冷鍛部品には耐摩耗性が求められる。一次炭化物は耐摩耗性を得るために有効であるが、冷鍛部品としての使用状態で、体積率で3.0vol.%未満であると十分な効果が得られない。一方で、過剰な一次炭化物の存在は冷間鍛造時の割れを助長して加工性低下の原因となるため、その上限を体積率で8.0vol.%とする。
そこで、焼入れ状態における一次炭化物量:3.0~8.0vol.%とする。好ましくは、一次炭化物量の上限は6.0vol.%以下である。
なお、焼入れ状態における一次炭化物量は、Thermo-Calcなどの市販の熱力学平衡計算ソフトウェアで算出が可能である。
冷鍛部品には耐摩耗性が求められる。一次炭化物は耐摩耗性を得るために有効であるが、冷鍛部品としての使用状態で、体積率で3.0vol.%未満であると十分な効果が得られない。一方で、過剰な一次炭化物の存在は冷間鍛造時の割れを助長して加工性低下の原因となるため、その上限を体積率で8.0vol.%とする。
そこで、焼入れ状態における一次炭化物量:3.0~8.0vol.%とする。好ましくは、一次炭化物量の上限は6.0vol.%以下である。
なお、焼入れ状態における一次炭化物量は、Thermo-Calcなどの市販の熱力学平衡計算ソフトウェアで算出が可能である。
高温焼戻し状態におけるマトリクス中のCr量:1.00%以上
鋼材マトリクス中へのCrの固溶は、冷鍛部品の耐候性・耐食性を向上させる。高温焼戻し状態におけるマトリクス中のCr量が1.00%より少ないと十分な効果が得られないので、1.00%以上とする。好ましくは、高温焼戻し状態におけるマトリクス中のCr量は1.20%以上である。
なお、高温焼戻し状態におけるマトリクス中のCr量は、Thermo-Calcなどの市販の熱力学平衡計算ソフトウェアで算出が可能である。
鋼材マトリクス中へのCrの固溶は、冷鍛部品の耐候性・耐食性を向上させる。高温焼戻し状態におけるマトリクス中のCr量が1.00%より少ないと十分な効果が得られないので、1.00%以上とする。好ましくは、高温焼戻し状態におけるマトリクス中のCr量は1.20%以上である。
なお、高温焼戻し状態におけるマトリクス中のCr量は、Thermo-Calcなどの市販の熱力学平衡計算ソフトウェアで算出が可能である。
(実施の形態)
表1の実施例No.1~9と比較例No.51~66に記載の組成と残部がFe及び不可避的不純物よりなる鋼を100kg真空誘導溶解炉にて溶製し、得られた鋼塊をそれぞれ鍛伸温度1120~1180℃で鍛錬成形比5.0Sとなる丸棒に鍛伸した後、焼なましを行った鋼材を用いて、以下の各試験に供して、これらに適宜焼入れ、焼戻しを行うなどして特性を評価した。
表1の実施例No.1~9と比較例No.51~66に記載の組成と残部がFe及び不可避的不純物よりなる鋼を100kg真空誘導溶解炉にて溶製し、得られた鋼塊をそれぞれ鍛伸温度1120~1180℃で鍛錬成形比5.0Sとなる丸棒に鍛伸した後、焼なましを行った鋼材を用いて、以下の各試験に供して、これらに適宜焼入れ、焼戻しを行うなどして特性を評価した。
なお、焼入れ状態における一次炭化物量(体積%)および高温焼戻し状態におけるマトリクス中のCr固溶量は、熱力学平衡計算ソフトウェアThermo-Calcを用いて算出した。焼入れ状態の温度は1030℃とした。高温焼戻し状態は520℃を選定した。
各特性の評価方法を以下に示す。
焼なまし材の硬さは、鋼材の中周部(直径の1/4の位置)をロックウェル硬度計で測定して評価した。冷間加工性は、焼なまし材からφ14×21Lの円柱試験片を作製し、冷間据込み試験で評価した。
焼なまし材の硬さは、鋼材の中周部(直径の1/4の位置)をロックウェル硬度計で測定して評価した。冷間加工性は、焼なまし材からφ14×21Lの円柱試験片を作製し、冷間据込み試験で評価した。
焼入焼戻し硬さ特性は、焼なまし状態の鋼材を25Lに切断し、1030℃で30分保持後に空冷による焼入れを実施し、その後480~580℃の各温度で60分保持後に空冷する焼戻しを2回繰り返した試料を作製し、それらの中周部をロックウェル硬度計で測定して評価した。
前記の焼入焼戻し硬さ測定結果に基づき、焼なまし材である素材を1030℃で焼入れた後、最大硬さが得られる条件で焼戻しを施し、耐摩耗性、耐候性・耐食性および靭性の評価に用いた。
耐摩耗性は、大越式摩耗試験機を用いて、相手材であるSCM420製リング材(硬さ86HRB)を押し付けることによる摩耗量で評価した。耐候性・耐食性は、湿潤(40℃、98%RH、4時間)と乾燥(2時間)を1セットとして、それを5サイクル繰返し、発錆状態を評価した。
靭性は、シャルピー衝撃試験により評価した。
表2に、実施例No.1~9と比較例No.51~66の評価結果を示す。何れの評価項目も、以下に記載する観点から、A(良好)、B(不十分)、C(悪い)で特性を評価して、表2に示した。
焼なまし硬さ:
98HRB以下を「A」と評価した。99HRB以上は「C」と評価した。
98HRB以下を「A」と評価した。99HRB以上は「C」と評価した。
冷間加工性:
冷間据込み試験で、割れが発生する圧下率が50%以上を「A」、50%未満40%以上を「B」、40%未満を「C」と評価した。
冷間据込み試験で、割れが発生する圧下率が50%以上を「A」、50%未満40%以上を「B」、40%未満を「C」と評価した。
焼入焼戻し硬さ:
前記焼戻し条件での最高硬さが61HRC以上を「A」、61HRC未満59HRC以上を「B」、58HRC未満を「C」と評価した。
前記焼戻し条件での最高硬さが61HRC以上を「A」、61HRC未満59HRC以上を「B」、58HRC未満を「C」と評価した。
耐摩耗性:
摩耗速度3.62m/s、摩耗距離200m、最終荷重61.8Nでの大越式摩耗試験後の摩耗量が9.0×10-8mm3/N・mm以下を「A」と、9.0×10-8mm3/N・mm超え10.5×10-8mm3/N・mm 以下を「B」と、10.5×10-8mm3/N・mm 超えを「C」と評価した。
摩耗速度3.62m/s、摩耗距離200m、最終荷重61.8Nでの大越式摩耗試験後の摩耗量が9.0×10-8mm3/N・mm以下を「A」と、9.0×10-8mm3/N・mm超え10.5×10-8mm3/N・mm 以下を「B」と、10.5×10-8mm3/N・mm 超えを「C」と評価した。
耐候性・耐食性:
発錆状態に応じて、「A」を良好、「B」を不十分、「C」を悪い、の3段階評価とした。
発錆状態に応じて、「A」を良好、「B」を不十分、「C」を悪い、の3段階評価とした。
靭性:
鍛伸方向に平行に10R-Cノッチのシャルピー衝撃試験片を作製し、その衝撃値が15.0J/cm2以上を「A」とし、15.0J/cm2未満は「C」と評価した。
鍛伸方向に平行に10R-Cノッチのシャルピー衝撃試験片を作製し、その衝撃値が15.0J/cm2以上を「A」とし、15.0J/cm2未満は「C」と評価した。
実施例のNo.1~9は本発明鋼を用いており、優れた冷間加工性、耐摩耗性、耐候性・耐食性、高い硬さ、靭性を有していることが示された。
比較例No.51~66は比較鋼を用いての評価である。
No.51はC量が少なすぎるため、焼入焼戻し硬さが低くなり、耐摩耗性も不足している。
No.52はC量が多すぎるため、冷間加工性が十分ではない。焼入焼戻し後の靭性も劣っている。また、結果的に焼入焼戻し後のマトリクス中のCr固溶量が低下しており、耐候性・耐食性も悪い。
No.53はSi量が少なすぎるため、十分な焼入焼戻し硬さが得られず、耐摩耗性が不足する。また、耐候性・耐食性も十分ではない。
No.54はSi量が多すぎるため、焼なましで軟化し難く、冷間加工性が良くない。また、焼入焼戻し後の靭性も十分ではなく、部品寿命に悪影響がある。
No.55はMn量が少なすぎるため焼入れ性が悪く、十分な焼入焼戻し硬さが得られず、耐摩耗性が不足する。
No.56はMn量が多すぎるため、マトリクスの延性低下や介在物の生成により冷間加工性が低下する。介在物の生成は耐候性・耐食性にも悪影響を及ぼす。
No.57はCr量が多すぎるため、一次炭化物が過剰に生成し、冷間加工性が悪い。また、焼入焼戻し後の靭性が低いので、部品の早期破損の要因となる。
No.58はCr量が少なすぎるため、十分な炭化物が生成せず、耐摩耗性が不足する。また、結果的に焼入焼戻し後のマトリクス中のCr固溶量が低下しており、耐候性・耐食性も悪い。
No.59はMo当量(Mo+0.5W)が少なすぎるため、十分な焼入焼戻し硬さが得られず、耐摩耗性が不足する。
No.60はMo当量が多すぎるため、偏析を助長し、冷間加工性や焼入焼戻し後の靭性が良くない。また、結果的に焼入焼戻し後のマトリクス中のCr固溶量が低下しており、耐候性・耐食性も悪い。
No.61はV当量(V+0.5Nb)が少なすぎるため、十分な焼入焼戻し硬さが得られず、また、結果的に一次炭化物量も少なくなり、耐摩耗性が悪い。
No.62はV当量が多すぎるため、偏析を助長し、冷間加工性や焼入焼戻し後の靭性が良くない。
No.63は、化学成分は本発明の範囲内であるが、一次炭化物量が少ないため耐摩耗性が悪く、焼入焼戻し後のマトリクス中のCr固溶量が低いために耐候性・耐食性が低下する例である。
No.64は、化学成分は本発明の範囲内であるが、一次炭化物量が多すぎるため冷間加工性が悪くなる例である。焼入焼戻し後の靭性も良くない。
No.65は、化学成分は本発明の範囲内であるが、焼入焼戻し後のマトリクス中のCr固溶量が低いために耐候性・耐食性が低下する例である。
No.66はJISで規格されるSKD11鋼に相当する。焼なまし硬さが高く、一次炭化物量が多すぎるため、冷間加工性が悪い。また、高温焼戻しを施した場合に得られる焼戻し硬さは十分でないために耐摩耗性も不十分である。さらに、焼入焼戻し後の靭性も低いため、部品の早期破損をもたらす。
No.51はC量が少なすぎるため、焼入焼戻し硬さが低くなり、耐摩耗性も不足している。
No.52はC量が多すぎるため、冷間加工性が十分ではない。焼入焼戻し後の靭性も劣っている。また、結果的に焼入焼戻し後のマトリクス中のCr固溶量が低下しており、耐候性・耐食性も悪い。
No.53はSi量が少なすぎるため、十分な焼入焼戻し硬さが得られず、耐摩耗性が不足する。また、耐候性・耐食性も十分ではない。
No.54はSi量が多すぎるため、焼なましで軟化し難く、冷間加工性が良くない。また、焼入焼戻し後の靭性も十分ではなく、部品寿命に悪影響がある。
No.55はMn量が少なすぎるため焼入れ性が悪く、十分な焼入焼戻し硬さが得られず、耐摩耗性が不足する。
No.56はMn量が多すぎるため、マトリクスの延性低下や介在物の生成により冷間加工性が低下する。介在物の生成は耐候性・耐食性にも悪影響を及ぼす。
No.57はCr量が多すぎるため、一次炭化物が過剰に生成し、冷間加工性が悪い。また、焼入焼戻し後の靭性が低いので、部品の早期破損の要因となる。
No.58はCr量が少なすぎるため、十分な炭化物が生成せず、耐摩耗性が不足する。また、結果的に焼入焼戻し後のマトリクス中のCr固溶量が低下しており、耐候性・耐食性も悪い。
No.59はMo当量(Mo+0.5W)が少なすぎるため、十分な焼入焼戻し硬さが得られず、耐摩耗性が不足する。
No.60はMo当量が多すぎるため、偏析を助長し、冷間加工性や焼入焼戻し後の靭性が良くない。また、結果的に焼入焼戻し後のマトリクス中のCr固溶量が低下しており、耐候性・耐食性も悪い。
No.61はV当量(V+0.5Nb)が少なすぎるため、十分な焼入焼戻し硬さが得られず、また、結果的に一次炭化物量も少なくなり、耐摩耗性が悪い。
No.62はV当量が多すぎるため、偏析を助長し、冷間加工性や焼入焼戻し後の靭性が良くない。
No.63は、化学成分は本発明の範囲内であるが、一次炭化物量が少ないため耐摩耗性が悪く、焼入焼戻し後のマトリクス中のCr固溶量が低いために耐候性・耐食性が低下する例である。
No.64は、化学成分は本発明の範囲内であるが、一次炭化物量が多すぎるため冷間加工性が悪くなる例である。焼入焼戻し後の靭性も良くない。
No.65は、化学成分は本発明の範囲内であるが、焼入焼戻し後のマトリクス中のCr固溶量が低いために耐候性・耐食性が低下する例である。
No.66はJISで規格されるSKD11鋼に相当する。焼なまし硬さが高く、一次炭化物量が多すぎるため、冷間加工性が悪い。また、高温焼戻しを施した場合に得られる焼戻し硬さは十分でないために耐摩耗性も不十分である。さらに、焼入焼戻し後の靭性も低いため、部品の早期破損をもたらす。
成分組成に加えて、一次炭化物量やマトリクス中のCr固溶量を配慮した成分バランスをはかる必要があり、本発明の工夫によって、冷間加工性、硬度、耐摩耗性、耐候性、耐食性、靭性にバランスよく優れた鋼が選択可能となる。他方、No.63~65は本発明の成分組成ではあるものの、一次炭化物量やマトリクス中へのCr固溶量などがそれぞれ外れているので、特性に偏りが生じてしまっており、成分組成のみでは、こうした鋼が選別できず含まれてしまうこととなるので、品質にバラツキが生じてしまっている。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.70~0.95%、Si:0.50~1.20%、Mn:0.10~0.70%、Cr:6.00~9.00%、MoまたはWのいずれか1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.80~2.20%、VまたはNbのいずれか1種または2種をV当量(V+1/2Nb):0.20~1.00%、残部がFe及び不可避的不純物である鋼が焼入れされた状態であってその一次炭化物量が3.0~8.0vol.%であり、高温焼戻しされたときのマトリクス中のCr量が1.00%以上である、冷間加工用の高硬度鋼。
- 質量%で、C:0.70~0.95%、Si:0.50~1.20%、Mn:0.10~0.70%、Cr:6.00~9.00%、MoまたはWのいずれか1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.80~2.20%、VまたはNbのいずれか1種または2種をV当量(V+1/2Nb):0.20~1.00%、残部がFe及び不可避的不純物である鋼材を冷間加工した、焼入れ後高温焼戻しされた状態の、一次炭化物量が3.0~8.0vol.%であり、マトリクス中のCr量が1.00%以上である、機械部品。
Priority Applications (1)
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JP2022046957A JP2023140901A (ja) | 2022-03-23 | 2022-03-23 | 冷間加工用の高硬度鋼とこれを用いた機械部品 |
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