JP2023133987A - ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた外観と耐摩耗性とを兼ね備えた成形品の製造を可能にするポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供する。【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)と脂肪酸アマイド(B)とを含有するポリカーボネート樹脂組成物、及びその成形品である。ポリカーボネート樹脂(A)は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する。脂肪酸アマイド(B)は、炭素数が19以上のアルキル末端と1つ以上のアマイド基とを有する。【化1】TIFF2023133987000014.tif34170【選択図】なし

Description

本発明は、特定のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂を含有する樹脂組成物及び成形品に関する。
ポリカーボネート樹脂は、その優れた物性からエンジニアリングプラスチックスとしてさまざまな用途向けに用いられている。特にイソソルビドをモノマーとして用いたポリカーボネート樹脂は、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂とは異なる優れた性能を示すため、さまざまな用途に検討が進められている。例えば特許文献1には、イソソルビド等の特定のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート樹脂と、特定の脂肪酸ビスアマイドとを含有する樹脂組成物が記載されており、かかる樹脂組成物は、透明性及び表面の親水性を保ったまま、高い耐摩耗性を示すことが記載されている。
特開2019-131661号公報
近年、イソソルビド由来の構造単位を有するポリカーボネート樹脂を用いた成形品は自動車などの車両用の内外装部品等に使用されることが検討されている。このような成形品には、良好な外観を維持したまま、使用時に起こる擦り傷を防止する観点から耐摩耗性を高めることが求められている。しかしながら、特許文献1のポリカーボネート樹脂組成物では耐摩耗性が不十分であり、未だ改良の余地がある。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、優れた外観と耐摩耗性とを兼ね備えた成形品の製造を可能にするポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供しようとするものである。
本発明者らが検討を行った結果、特定のジヒドロキシ化合物由来の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)と、特定の脂肪酸アマイド(B)とを含有するポリカーボネート樹脂組成物が、優れた外観と耐摩耗性とを兼ね備えた成形品の製造を可能にすることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1] 下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)と、
炭素数が19以上のアルキル末端と1つ以上のアマイド基とを有する脂肪酸アマイド(B)と、を含有するポリカーボネート樹脂組成物にある。
Figure 2023133987000001
[2] 上記ポリカーボネート樹脂(A)が、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のエーテル基含有ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とを有する、[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3] 上記脂肪酸アマイド(B)の融点が90℃以上である、[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[4] 上記ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対する上記脂肪酸アマイド(B)の含有量が0.001質量部以上5質量部以下である、[1]~[3]のいずれか一つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5] さらに、コア・シェル構造を有するエラストマー(C)を含む、[1]~[4]のいずれか一つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[6] 上記コア・シェル構造を有するエラストマー(C)の含有量が、上記ポリカーボネート樹脂組成物100質量部に対して、0.1~20質量部である、[5]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[7] [1]~[6]のいずれか一つに記載のポリカーボネート樹脂組成物から形成された成形品。
[8] 自動車部品である、[7]に記載の成形品。
上記ポリカーボネート樹脂組成物によれば、優れた外観を有しつつ、耐摩耗性に優れた成形品を提供することができる。つまり、ポリカーボネート樹脂組成物によれば、優れた外観と耐摩耗性とを兼ね備えた成形品を提供することができる。また、ポリカーボネート樹脂組成物は、射出成型時の外観不良を少なくすることができ、射出成形に好適である。そのため、ポリカーボネート樹脂組成物は、電気・電子部品、自動車部品などの射出成形分野、フィルム・シート分野、建築部材分野といった幅広い分野へ適用が期待される。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成の説明は、本発明の実施態様の一例(つまり、代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。本明細書において、「構造単位」とは、樹脂を構成する部分構造であって、繰り返し構造単位に含まれる特定の部分構造のことを意味する。具体的には、「構造単位」とは、樹脂を構成する重合体において隣り合う連結基に挟まれた部分構造、及び、重合体の末端部分に存在する重合反応性基と該重合反応性基に隣り合う連結基とに挟まれた部分構造をいう。より具体的には、ポリカーボネート樹脂の場合、カルボニル基が連結基であって、隣り合うカルボニル基に挟まれた部分構造のことを構造単位と呼称する。また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。また、「重量部」と「質量部」、「重量%」と「質量%」は、それぞれ実質的に同義である。
上記ポリカーボネート樹脂組成物は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)及び、炭素数が19以上のアルキル末端と1つ以上のアマイド基とを有する脂肪酸アマイド(B)とを含有する。
Figure 2023133987000002
本発明が上記効果を奏する理由は未だ明らかではないが、以下の通り推察される。ポリカーボネート樹脂組成物が短いアルキル基末端(例えば炭素数18以下のアルキル基末端)を有する脂肪酸アマイドを含有する場合には、成形時に脂肪酸アマイドがガス化して成形品表面に残らず、成形品の耐摩耗性が不十分になる。また、この場合には、シルバーストリークの発生、金型汚染などの問題が生じ、成形品の外観が悪くなるおそれがある。
これに対し、ポリカーボネート樹脂組成物が長いアルキル基末端(例えば炭素数19以上のアルキル基末端)を有する脂肪酸アマイドの場合には、脂肪酸アマイドが成形品の表面に結晶膜を形成するため成形品の耐摩耗性が向上し、さらに、結晶膜と成形品表面との分子間力による相互作用により耐摩耗性が劣化し難くなり、優れた耐摩耗性が維持される。これは、結晶膜を構成する脂肪酸アマイド(B)が官能基(具体的には、1つ以上のアマイド基)を有し、成形品を構成するポリカーボネート樹脂(A)が極性分子である前述の式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するためである。また、脂肪酸アマイドが炭素数19以上のアルキル基末端を有する場合には、成形時における脂肪酸アマイドのガス化が抑制されるため、成形品の外観不良を防止できる。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
上記ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)を含有する。ポリカーボネート樹脂(A)は、少なくとも下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、これを適宜「構造単位(a1)」という)を有する。ポリカーボネート樹脂(A)は、構造単位(a1)のホモ重合体であってもよいし、構造単位(a1)と、構造単位(a1)以外の他の構造単位(a2)とを含む共重合体であってもよい。分子量を上げる観点、耐衝撃性をより向上させるという観点からは、ポリカーボネート樹脂(A)は共重合体であることが好ましい。
Figure 2023133987000003
上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物(以下、「化合物(1)」と称する)としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが入手及び製造のし易さ、成形性、得られる成形品の特性(例えば、耐熱性、耐衝撃性、表面硬度、カーボンニュートラル)の面から最も好ましい。
なお、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、酸素によって徐々に酸化されやすい。したがって、保管中又は製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが好ましい。例えば、イソソルビドが酸化されると、蟻酸等の分解物が発生する場合がある。これら分解物を含むイソソルビドをポリカーボネート樹脂(A)の製造原料として使用すると、ポリカーボネート樹脂(A)及びポリカーボネート樹脂組成物の着色を招くおそれがある。さらに、物性を著しく劣化させるおそれがあるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られない場合もある。
ポリカーボネート樹脂(A)は、構造単位(a2)として、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のエーテル基含有ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれ少なくともの1種のジヒドロキシ化合物(以下、これらを「化合物2」と称す場合がある。)に由来する構造単位(a2-1)を有する共重合体からなることが好ましい。つまり、ポリカーボネート樹脂(A)は、構造単位(a1)と構造単位(a2-1)とを有する共重合体からなることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂(A)の耐衝撃性を向上させることができる。
脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物を採用することができる。エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物;1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等の分岐鎖を有する脂肪族ジヒドロキシ化合物。
脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物を採用することができる。1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、リモネン等の、テルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等に例示される、脂環式炭化水素の1級アルコールであるジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等に例示される、脂環式炭化水素の2級アルコール又は3級アルコールであるジヒドロキシ化合物。
エーテル基含有ジヒドロキシ化合物としては、オキシアルキレングリコール類、アセタール環を含有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
オキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を採用することができる。
アセタール環を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記式(2)で表されるスピログリコールや、下記式(3)で表されるジオキサングリコール等を採用することができる。
Figure 2023133987000004
Figure 2023133987000005
また、上記ポリカーボネート樹脂(A)は、上記構造単位(a1)及び上記構造単位(a2-1)以外の構造単位を更に含んでいてもよい。このような構造単位とするその他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物等を採用することができる。ただし、上記ポリカーボネート樹脂(A)に芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が多く含まれる場合には、高い分子量のポリカーボネート樹脂(A)が得られなくなり、耐衝撃性の向上効果が低下するおそれがある。また、後述するように、ポリカーボネート樹脂(A)の構造単位として芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が多く含まれるポリカーボネート樹脂(A)の場合には、アミン系化合物を添加することで分解し、当該ポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性および色調が低下するおそれがある。したがって、耐衝撃性及び色調をより向上させる観点からは、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%に対して、芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合は、50モル%未満であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましく、上記ポリカーボネート樹脂(A)が芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含まないことが最も好ましい。
芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば以下のジヒドロキシ化合物を採用することができるが、これら以外のジヒドロキシ化合物を採用することも可能である。2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3-フェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)メタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物;9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等のフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物。
上記その他のジヒドロキシ化合物は、ポリカーボネート樹脂(A)に要求される特性に応じて適宜選択することができる。また、その他のジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、複数種を用いてもよい。その他のジヒドロキシ化合物を化合物(1)と併用することにより、ポリカーボネート樹脂(A)の柔軟性や機械物性の改善効果、成形性改善効果などを得ることが可能である。
ポリカーボネート樹脂(A)の原料として用いられるジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤又は熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよい。特に、化合物(1)は、酸性状態において変質しやすい性質を有する。したがって、ポリカーボネート樹脂(A)の合成過程において塩基性安定剤を使用することにより、化合物(1)の変質を抑制することができる。これより、得られるポリカーボネート樹脂組成物の品質をより向上させることができる。
塩基性安定剤としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3-アミノ-1-プロパノール、エチレンジアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物;ジ-(tert-ブチル)アミン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物。
ジヒドロキシ化合物中における上記塩基性安定剤の含有量に特に制限はないが、化合物(1)は酸性状態では不安定であるため、塩基性安定剤を含むジヒドロキシ化合物の水溶液のpHが7付近となるように塩基性安定剤の含有量を設定することが好ましい。
化合物(1)中の塩基性安定剤の含有量(具体的には、化合物(1)と塩基性安定剤との合計100重量%に対する塩基性安定剤の含有量)は、0.0001~1重量%であることが好ましい。この場合には、化合物(1)の変質を防止する効果が十分に得られる。この効果をさらに高めるという観点から、塩基性安定剤の含有量は0.001~0.1重量%であることがより好ましい。
ポリカーボネート樹脂(a)は、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを原料として用い、これらの原料を例えばエステル交換反応により重縮合させて得られる。炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(4)で表される化合物が用いられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を用いても、2種以上を用いてもよい。
Figure 2023133987000006
上記式(4)において、A1及びA2は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数1~18の脂肪族炭化水素基又は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、A1とA2とは同一であっても異なっていてもよい。A1及びA2としては、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基であることがより好ましい。
式(4)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(つまり、DPC)、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートが挙げられる。また、式(4)で表される炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート等も挙げらる。これらの炭酸ジエステルの中でも、ジフェニルカーボネート又は置換ジフェニルカーボネートを用いることが好ましく、ジフェニルカーボネートを用いることがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、不純物が重縮合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂(A)の色調を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
[ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法]
ポリカーボネート樹脂(A)は、上述したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換反応により重縮合させることにより合成できる。より詳細には、重縮合と共に、エステル交換反応において副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得ることができる。
上記エステル交換反応は、エステル交換反応触媒(以下、エステル交換反応触媒を「重合触媒」と言う。)の存在下で進行する。重合触媒の種類を選択することにより、エステル交換反応の反応速度及び得られるポリカーボネート樹脂(A)の品質を適切に調整することができる。
重合触媒としては、得られるポリカーボネート樹脂(A)の透明性、色調、耐熱性、耐候性、機械的強度等を満足させ得るものであれば限定されない。重合触媒としては、例えば、長周期型周期表における第I族又は第II族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を使用することができ、中でも1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が好ましい。
1族金属化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等。
1族金属化合物としては、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂(A)の色調の観点から、リチウム化合物が好ましい。
上記の2族金属化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等。
2族金属化合物としては、マグネシウム化合物、カルシウム化合物又はバリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂(A)の色調の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、カルシウム化合物が最も好ましい。
なお、上記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
上記の塩基性リン化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、四級ホスホニウム塩等。
上記の塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等。
上記のアミン系化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、アミノキノリン、グアニジン等。
上記重合触媒の使用量は、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1~300μmolであることが好ましく、0.5~100μmolであることがより好ましく、1~50μmolであることが特に好ましい。
重合触媒として、長周期型周期表における第2族金属及びリチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いる場合は、重合触媒の使用量は、該金属を含む化合物の金属原子量として、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、0.1μmol以上が好ましく、0.3μmol以上がより好ましく、0.5μmol以上が特に好ましい。また上限としては、10μmol以下が好ましく、5μmol以下がより好ましく、3μmol以下が特に好ましい。
重合触媒の使用量を上述の範囲に調整することにより、重合速度を高めることができるため、重合温度を必ずしも高くすることなく所望の分子量のポリカーボネート樹脂(A)を得ることが可能になる。そのため、ポリカーボネート樹脂(A)の色調の悪化を抑制することができる。また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れてしまうことを防止することができるため、所望の分子量のポリカーボネート樹脂(A)をより確実に得ることができる。さらに、副反応の併発を抑制することができるため、ポリカーボネート樹脂(A)の色調の悪化又は成形加工時の着色をより一層防止することができる。
1族金属の中でもナトリウム、カリウム、又はセシウムがポリカーボネート樹脂(A)の色調へ与える悪影響や、鉄がポリカーボネート樹脂(A)の色調へ与える悪影響を考慮すると、ポリカーボネート樹脂(A)中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、1重量ppm以下であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂(A)の色調の悪化をより一層防止することができ、ポリカーボネート樹脂(A)の色調をより一層良好なものにすることができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂(A)中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、0.5重量ppm以下であることがより好ましい。なお、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料又は反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、ポリカーボネート樹脂(A)中のこれらの金属の化合物の合計量は、ナトリウム、カリウム、セシウム及び鉄の合計の含有量として、上述の範囲にすることが好ましい。
ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)として、1種の樹脂を単独で含有していてもよいが、化合物2に由来する構造単位(a2)の種類や共重合割合、物性等の異なる樹脂が2種以上混合されていてもよい。
[ポリカーボネート樹脂(A)の合成]
ポリカーボネート樹脂(A)は、例えば、化合物(1)等のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを、重合触媒の存在下、エステル交換反応により重縮合させることによって得られる。
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合されることが好ましい。混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上、かつ、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下の範囲であり、中でも100℃以上120℃以下が最も好ましい。この場合には、溶解速度を高めたり、溶解度を十分に向上させたりすることができ、固化等の不具合を十分に回避することができる。さらに、この場合には、ジヒドロキシ化合物の熱劣化を十分に抑制することができ、結果的にポリカーボネート樹脂(A)の色調をより一層良好なものにすることができると共に、耐候性の向上も可能になる。
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを混合する操作は、通常酸素濃度10vol%以下、好ましくは0.0001~10vol%、より好ましくは0.0001~5vol%、さらに好ましくは0.0001~1vol%の雰囲気下で行われることが好ましい。この場合には、色調をより良好なものにすることができると共に、反応性を高めることができる。
ポリカーボネート樹脂(A)を得るためには、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルを0.90~1.20のモル比率で用いることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂(A)のヒドロキシ基末端量の増加を抑制することができるため、ポリマーの熱安定性の向上が可能になる。そのため、成形時の着色をより一層防止したり、エステル交換反応の速度を向上させたりすることができる。また、所望の高分子量体をより確実に得ることが可能になる。さらに炭酸ジエステルの使用量を上記範囲内に調整することにより、エステル交換反応の速度が低下を抑制することができ、所望の分子量のポリカーボネート樹脂(A)のより確実な製造が可能になる。また、この場合には、反応時の熱履歴の増大を抑制することができるため、ポリカーボネート樹脂(A)の色調や耐候性をより一層良好なものにすることができる。さらにこの場合には、ポリカーボネート樹脂(A)中の残存炭酸ジエステル量を減少させることができ、成形時の汚れや臭気の発生を回避又は緩和することができる。以上と同様の観点から、全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステル使用量は、モル比率で、0.95~1.10であることがより好ましい。
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの方法があるが、より少ない熱履歴でポリカーボネート樹脂(A)が得られ、生産性にも優れているという観点から、連続式を採用することが好ましい。
重合速度の制御や得られるポリカーボネート樹脂(A)の品質の観点からは、反応段階に応じてジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが好ましい。具体的には、重縮合反応の反応初期においては相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、反応後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましい。この場合には、未反応のモノマーの留出を抑制し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比率を所望の比率に調整し易くなる。その結果、重合速度の低下を抑制することができる。また、所望の分子量や末端基を持つポリマーをより確実に得ることが可能になる。
また、重縮合反応における重合速度はヒドロキシ基末端とカーボネート基末端のバランスによって制御される。そのため、未反応モノマーの留出によって末端基のバランスが変動すると、重合速度を一定に制御することが難しくなり、得られる樹脂の分子量の変動が大きくなるおそれがある。樹脂の分子量は溶融粘度と相関するため、得られた樹脂を溶融加工する際に、溶融粘度が変動し、成形品の品質を一定に保つことが難しくなることがある。かかる問題は、特に連続式で重縮合反応を行う場合に起こりやすい。
留出する未反応モノマーの量を抑制するためには、重合反応器に還流冷却器を用いることが有効であり、特に未反応モノマーが多い反応初期において高い効果を示す。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45~180℃であり、好ましくは80~150℃、特に好ましくは100~130℃である。冷媒温度をこれらの範囲に調整することにより、還流量を十分に高め、その効果が十分得られると共に、留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率を十分に向上させることができる。その結果、反応率の低下を防止することができ、得られる樹脂の着色をより一層防止することができる。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、得られるポリカーボネート樹脂(A)の色調をより良好なものにするためには、前述の重合触媒の種類と量を選定することが好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)は、重合触媒を用いて、通常、2段階以上の工程を経て製造される。重縮合反応は、1つの重縮合反応器を用い、順次条件を変えて2段階以上の工程で行ってもよいが、生産効率の観点からは、複数の反応器を用い、それぞれの条件を変えて多段階で行うことが好ましい。
重縮合反応を効率よく行う観点から、反応液中に含まれるモノマーが多い反応初期においては、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制することが好ましい。また、反応後期においては、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることにより、平衡を重縮合反応側にシフトさせることが好ましい。従って、反応初期に好適な反応条件と、反応後期に好適な反応条件とは通常異なっている。それ故、直列に配置された複数の反応器を用いることにより、それぞれの条件を容易に変更することができ、生産効率を向上させることができる。
ポリカーボネート樹脂(A)の製造に使用される重合反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上、好ましくは3~5つ、特に好ましくは4つである。重合反応器が2つ以上であれば、各重合反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数行ったり、連続的に温度・圧力を変えたりしてもよい。
重合触媒は、原料調製槽や原料貯槽に添加することもできるし、重合反応器に直接添加することもできる。供給の安定性、重縮合反応の制御の観点からは、重合反応器に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、水溶液で重合触媒を供給することが好ましい。
重縮合反応の温度を調整することにより、生産性の向上や製品への熱履歴の増大の回避が可能になる。さらに、モノマーの揮散、及びポリカーボネート樹脂(A)の分解や着色をより一層防止することが可能になる。具体的には、第1段目の反応における反応条件としては、以下の条件を採用することができる。即ち、重合反応器の内温の最高温度は、通常150~250℃、好ましくは160~240℃、更に好ましくは170~230℃の範囲で設定する。また、重合反応器の圧力(以下、圧力とは絶対圧力を表す)は、通常1~110kPa、好ましくは5~70kPa、さらに好ましくは7~30kPaの範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1~10時間、好ましくは0.5~3時間の範囲で設定する。第1段目の反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施されることが好ましい。
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を1kPa以下にすることが好ましい。また、重合反応器の内温の最高温度は、通常200~260℃、好ましくは210~250℃の範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1~10時間、好ましくは0.3~6時間、特に好ましくは0.5~3時間の範囲で設定する。
ポリカーボネート樹脂(A)の着色や熱劣化をより一層抑制し、色調がより一層良好なポリカーボネート樹脂(A)を得るという観点からは、全反応段階における重合反応器の内温の最高温度を210~240℃とすることが好ましい。また、反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重縮合反応の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
連続重合において、最終的に得られるポリカーボネート樹脂(A)の分子量を一定水準に制御するには、必要に応じて重合速度を調節することが好ましい。その場合は、最終段の重合反応器の圧力を調整することが操作性の良い方法である。
また、前述したようにヒドロキシ基末端とカーボネート基末端の比率によって重合速度が変化するため、あえて片方の末端基を減らして、重合速度を抑制し、その分、最終段の重合反応器の圧力を高真空に保つことで、モノヒドロキシ化合物をはじめとした樹脂中の残存低分子成分を低減することができる。しかし、この場合には、片方の末端が少なくなりすぎると、末端基バランスが少し変動しただけで、極端に反応性が低下し、得られるポリカーボネート樹脂(A)の分子量が所望の分子量に満たなくなるおそれがある。かかる問題を回避するため、最終段の重合反応器で得られるポリカーボネート樹脂(A)は、ヒドロキシ基末端とカーボネート基末端とも10mol/ton以上含有することが好ましい。一方、両方の末端基が多すぎると、重合速度が速くなり、分子量が高くなりすぎてしまうため、片方の末端基は60mol/ton以下であることが好ましい。
このようにして、末端基の量と最終段の重合反応器の圧力を好ましい範囲に調整することで、重合反応器の出口において、樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量を低減することができる。重合反応器の出口における樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量は、2000重量ppm以下であることが好ましく、1500重量ppm以下であることがより好ましく、1000重量ppm以下であることが更に好ましい。このように、重合反応器の出口におけるモノヒドロキシ化合物の含有量を低減することにより、後の工程においてモノヒドロキシ化合物等の脱揮を容易に行うことができる。
モノヒドロキシ化合物の残存量は少ない方が好ましいが、100重量ppm未満まで減らそうとすると、片方の末端基の量を極端に少なくし、重合反応器の圧力を高真空に保つような運転条件を取る必要がある。この場合には、前述のとおり、得られるポリカーボネート樹脂(A)の分子量を一定水準に保つことが難しくなるので、通常100重量ppm以上、好ましくは150重量ppm以上である。
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じて精製を行った後、他の化合物の原料として再利用することが好ましい。例えば、モノヒドロキシ化合物がフェノールである場合、ジフェニルカーボネートやビスフェノールA等の原料として用いることができる。
ポリカーボネート樹脂(A)は、触媒失活剤を含むことが好ましい。触媒失活剤としては、酸性物質で、重合触媒の失活機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸、オクチルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、P-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のホスホニウム塩;デシルスルホン酸テトラメチルアンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸ブチル、ヘキサデシルスルホン酸エチル等のアルキルエステル等を挙げることができる。
上記触媒失活剤は、下記式(5)または下記式(6)で表される部分構造のいずれかを含むリン系化合物(以下、「特定リン系化合物」という。)を含んでいることが好ましい。上記特定リン系化合物は、重縮合反応が完了した後、即ち、例えば混練工程やペレット化工程等の際に添加することにより後述する重合触媒を失活させ、それ以降に重縮合反応が不要に進行することを抑制できる。その結果、成形工程等においてポリカーボネート樹脂(A)が加熱された際の重縮合の進行を抑制でき、ひいては上記モノヒドロキシ化合物の脱離を抑制することができる。また、重合触媒を失活させることにより、高温下でのポリカーボネート樹脂(A)の着色をより一層抑制することができる。
Figure 2023133987000007
Figure 2023133987000008
上記式(5)または式(6)で表される部分構造を含む特定リン系化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ホスホン酸エステル、酸性リン酸エステル等を採用することができる。特定リン系化合物のうち、触媒失活と着色抑制の効果がさらに優れているのは、亜リン酸、ホスホン酸、ホスホン酸エステルであり、特に亜リン酸が好ましい。
ホスホン酸としては、例えば以下の化合物を採用することができる。ホスホン酸(亜リン酸)、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸、デシルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、アミノメチルホスホン酸、メチレンジホスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、4-メトキシフェニルホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、プロピルホスホン酸無水物等。
ホスホン酸エステルとしては、例えば以下の化合物を採用することができる。ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ビス(2-エチルヘキシル)、ホスホン酸ジラウリル、ホスホン酸ジオレイル、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジベンジル、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、エチルホスホン酸ジエチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジプロピル、(メトキシメチル)ホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ヒドロキシメチルホスホン酸ジエチル、(2-ヒドロキシエチル)ホスホン酸ジメチル、p-メチルベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸エチル、ジエチルホスホノ酢酸tert-ブチル、4-クロロベンジル)ホスホン酸ジエチル、シアノホスホン酸ジエチル、シアノメチルホスホン酸ジエチル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノアセトアルデヒドジエチルアセタール、(メチルチオメチル)ホスホン酸ジエチル等。
酸性リン酸エステルとしては、例えば以下の化合物を採用することができる。リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジビニル、リン酸ジプロピル、リン酸ジブチル、リン酸ビス(ブトキシエチル)、リン酸ビス(2-エチルヘキシル)、リン酸ジイソトリデシル、リン酸ジオレイル、リン酸ジステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸ジベンジルなどのリン酸ジエステル、又はジエステルとモノエステルの混合物、クロロリン酸ジエチル、リン酸ステアリル亜鉛塩等。
上記特定リン系化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
上記ポリカーボネート樹脂(A)中の特定リン系化合物の含有量は、リン原子として0.1重量ppm以上5重量ppm以下であることが好ましい。この場合には、上記特定リン系化合物による触媒失活や着色抑制の効果を十分に得ることができる。また、この場合には、特に高温・高湿度での耐久試験において、ポリカーボネート樹脂(A)の着色をより一層防止することができる。
また、上記特定リン系化合物の含有量を重合触媒の量に応じて調節することにより、触媒失活や着色抑制の効果をより確実に得ることができる。上記特定リン系化合物の含有量は、重合触媒の金属原子1molに対して、リン原子の量として0.5倍mol以上5倍mol以下とすることが好ましく、0.7倍mol以上4倍mol以下とすることがより好ましく、0.8倍mol以上3倍mol以下とすることが特に好ましい。
[ポリカーボネート樹脂(A)の物性]
ポリカーボネート樹脂(A)の好ましい物性を以下に示す。
<ガラス転移温度>
ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、145℃未満である。この場合には、着色を抑制し易くなり、衝撃強度をより容易に向上させることができる。また、この場合には、成形時において金型表面の形状を成形品に転写させる際に、金型温度を低くするこができる。そのため、選択できる温度調節機が増えると共に、金型表面の転写性が良好になる。
ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、より好ましくは140℃未満、さらに好ましくは135℃未満である。また、本発明のポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は通常90℃以上であり、好ましくは95℃以上である。
ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度を145℃未満とする方法としては、ポリカーボネート樹脂(A)中の構造単位(a1)の割合を少なくしたり、ポリカーボネート樹脂(A)の製造に用いるジヒドロキシ化合物として、耐熱性の低い脂環式ジヒドロキシ化合物を選定したり、ポリカーボネート樹脂(A)中のビスフェノール化合物等の芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合を少なくしたりする方法等が挙げられる。なお、ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121(1987年)に準拠し、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220)を用いて測定される。
<還元粘度>
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度が高いほど分子量が大きいことを示す。尚、ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用いてポリカーボネート樹脂の濃度を0.6g/dLに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃の条件下でウベローデ粘度管を用いて測定される。
成形する際の流動性を向上させ、例えば射出成形などにおける成形サイクルを向上させることができると共に、成形品の歪みを小さくする観点、熱変形を防止する観点から、ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度は、好ましくは2.0dl/g以下、より好ましくは1.7dl/g以下、さらに好ましくは1.4dl/g以下である。一方、機械的強度をより向上させる観点から、ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度は、好ましくは0.25dl/g以上、より好ましくは0.30dl/g以上、さらに好ましくは0.35dl/g以上である。
[脂肪酸アマイド(B)]
ポリカーボネート樹脂組成物は、脂肪酸アマイド(B)を含有する。脂肪酸アマイド(B)は、炭素数が19以上のアルキル末端と1つ以上のアマイド基とを有する。
脂肪酸アマイドは、下記式(7)、(8)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。このような脂肪酸アマイド(B)は、上述のごとく成形品の表面に結晶膜を形成し、これにより耐摩耗性が向上する。
なお、式(7)は、アマイド基を1つ有する脂肪酸アマイドを表す。式(7)において、Rは炭素数19以上のアルキル基である。R、Rは、それぞれ独立に、水素、置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキニル基、エステル結合を有する炭素数1~30の炭化水素基である。置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、アルデヒド基、シラノール基などが挙げられる。置換基の炭素数は30以下である。
また、式(8)は、アマイド基を2つ有する脂肪酸アマイドを表す。式(8)において、RとRは炭素数19以上のアルキル基である。Rは、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数1~30のアルキニル基、エステル結合を有する炭素数1~30の炭化水素基である。置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、アルデヒド基、シラノール基などが挙げられる。置換基の炭素数は30以下である。
Figure 2023133987000009
Figure 2023133987000010
脂肪酸アマイド(B)が、例えば式(7)、式(8)のように、1つ又は複数のアマイド基を有している場合には、成形品の耐摩耗性がより向上するとともに、成形時のガス発生量を抑制し、成形品に白モヤが発生することを抑制できる。なお、白モヤは、成形時に成形品末端部等に発生しうる白濁部分のことを意味し、白モヤの発生は成形品の外観を損ねることとなる。耐摩耗性向上の観点からアマイド基は、1つ以上2つ以下が好ましい。
耐摩耗性向上の観点から、上記式(7)で示される脂肪酸アマイド(B)において、Rの炭素数は、19以上であり、20以上であることが好ましく、21以上であることがより好ましく、22以上であることがさらに好ましい。一方、炭化水素鎖の疎水性と親水性とのバランスを良好にする観点から、Rの炭素数は30以下であることが好ましく、29以下であることがより好ましく、28以下であることがさらに好ましく、27以下であることが最も好ましい。
式(7)において、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子であることが好ましい。この場合には、成形品の耐摩耗性をより向上させることができる。
式(8)において、RおよびRはアルキル基であり、その炭素数は、それぞれ独立に、19以上であることが好ましく、20以上がより好ましく、21以上がさらに好ましく、22以上が最も好ましい。一方、炭化水素鎖の疎水性と親水性とのバランスを良好にする観点から、30以下が好ましく、29以下がより好ましく、28以下がさらに好ましく、27以下が最も好ましい。
上記式(8)において、Rは、炭素数2~10の炭化水素鎖の連結基(例えばアルキレン基)であることが好ましい。換言すれば、式(8)における2つのアマイド基間にある2価の炭化水素基の炭素数は2~10であることが好ましい。この場合には、成形品の耐摩耗性をより向上させることができる。
上記式(8)において、Rは、直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよい。また、単環又は多環の脂肪族環又は芳香環を有する炭化水素基が含まれていてもよい。また、環にさらに直鎖又は分岐鎖のアルキル基を置換基として有する炭化水素基が含まれていてもよい。
脂肪酸アマイド(B)の具体例としては、べへニン酸アマイド(例えば、日本精化社製:BNT-22H)、エチレンビスベヘニン酸アマイド(例えば、三菱ケミカル社製:スリパックスB)等が挙げられる。
成形品に白モヤが発生することを抑制する観点から、脂肪酸アマイド(B)の融点は、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。一方、成形品表面の耐摩耗性をより向上させる観点から、脂肪酸アマイド(B)の融点は、165℃以下であることが好ましく、155℃が以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましく、145℃以下であることがさらにより好ましい。
耐摩耗性向上とガス発生による白モヤ抑制の観点から、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対する脂肪酸アマイド(B)の含有量は、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。一方、5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましく、2質量部以下がさらにより好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂組成物は、エラストマー成分を含有することも可能である。ポリカーボネート樹脂組成物は、具体的には、例えばコア・シェル構造を有するエラストマー(C)を含有することができる。コア・シェル構造を有するエラストマー成分(C)は選択的成分である。ポリカーボネート樹脂組成物がコア・シェル構造を有するエラストマー成分(C)を含有する場合には、耐衝撃性が向上する。
[エラストマー(C)]
成形品の外観不良や耐熱性の低下がより抑制されるという観点から、コア・シェル構造を有するエラストマー(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)と脂肪酸アマイド(B)とエラストマー(C)との合計量100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることが更に好ましく、25質量部以下であることがさらにより好ましく、20質量部以下であることが特に好ましい。一方、耐面衝撃性、耐衝撃性の改良効果が十分に発現するという観点から、コア・シェル構造を有するエラストマー(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)と脂肪酸アマイド(B)とエラストマー(C)との合計量100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以上であることが特に好ましい。
コア・シェル構造を有するエラストマーは、核(コア層)とそれを覆う1以上の被覆層(シェル層)とから構成される。コア・シェル構造を有するエラストマーは、コア層に対して共重合可能な単量体成分をシェル層としてグラフト共重合したコア・シェル型グラフト共重合体である。
コア・シェル構造を有するエラストマー(C)は、ゴム成分と呼ばれる重合体成分をコア層とし、これと共重合可能な単量体成分をシェル層としてグラフト共重合したコア・シェル型グラフト共重合体であることが好ましい。
コア・シェル型グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。但し、通常、市販で入手可能なコア・シェル型エラストマーを使用することができる。市販で入手可能なコア・シェル型エラストマーの例は後に列挙する。
コア・シェル構造を有するエラストマー(C)は、特に限定されないが、コア・シェル構造を有するアクリル-スチレン系ゴムであることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂組成物の成形品の耐熱老化性、耐薬品性、成形性、成形品外観、及び耐熱性がバランスよく良好になる。
コア層を形成する重合体成分のガラス転移温度は、通常0℃以下、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下、更に好ましくは-30℃以下である。コア層を形成する重合体成分の具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブチルアクリレートやポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレート、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン-アクリル複合体、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体やエチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体などのエチレン-αオレフィン系共重合体、エチレン-アクリル共重合体、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエン、ポリアルキルアクリレート、ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノシロキサンとポリアルキルアクリレートとからなる複合体、ブタジエン-スチレン共重合体が好ましい。
シェル層を構成し、コア層の重合体成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられ、これらの中でも比較的入手しやすい(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがより好ましい。ここで、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」とを総称するものである。
コア・シェル構造を有するエラストマー(C)は、なかでもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種の重合体成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルをグラフト共重合して形成されたシェル層からなる、コア・シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア・シェル型グラフト共重合体において、コア層の重合体成分を40重量%以上含有するものが好ましく、60重量%以上含有するものがさらに好ましい。また、シェル層の(メタ)アクリル酸エステル成分は、10重量%以上含有するものが好ましい。
これらコア・シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(つまり、MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(つまり、MABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(つまり、MB)、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体(つまり、MA)、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(つまり、MAS)、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーン複合体)共重合体等が挙げられる。
このようなコア・シェル型グラフト共重合体としては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製の「パラロイド(登録商標)EXL2602」、「パラロイド(登録商標)EXL2603」、「パラロイド(登録商標)EXL2655」、「パラロイド(登録商標)EXL2311」、「パラロイド(登録商標)EXL2313」、「パラロイド(登録商標)EXL2315」、「パラロイド(登録商標)KM330」、「パラロイド(登録商標)KM336P」、「パラロイド(登録商標)KCZ201」、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標)C-223A」、「メタブレン(登録商標)E-901」、「メタブレン(登録商標)S-2001」、「メタブレン(登録商標)W-450A」「メタブレン(登録商標)SRK-200」、カネカ社製の「カネエース(登録商標)M-511」、「カネエース(登録商標)M-600」、「カネエース(登録商標)M-400」、「カネエース(登録商標)M-580」、「カネエース(登録商標)MR-01」等が挙げられる。
これらのコア・シェル型グラフト共重合体等のコア・シェル構造からなる衝撃強度改質剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
[添加剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、周知の種々の添加剤を添加することができる。例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、フィラーなどの充填剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、架橋剤、架橋助剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤、有機拡散剤や無機拡散剤等の光拡散剤等が挙げられる。
[酸化防止剤]
酸化防止剤としては、樹脂に使用される一般的な酸化防止剤を使用できる。酸化安定性、熱安定性、着色時における良好な漆黒性等の観点から、ホスファイト系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤としては、1種の化合物を用いてもよく、2種以上の化合物を併用してもよい。
<ホスファイト系酸化防止剤>
ホスファイト系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく使用される。
<イオウ系酸化防止剤>
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール-3-ステアリルチオプロピオネート、ビス[2-メチル-4-(3-ラウリルチオプロピオニルオキシ)-5-tert-ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-6-メチルベンズイミダゾール、1,1’-チオビス(2-ナフトール)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
<フェノール系酸化防止剤>
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルホスホネート-ジエチルエステル、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール等の化合物が挙げられる。
[光安定剤]
光安定剤としては、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノール、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4‐ピペリジル-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4‐ピペリジル-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、ビス(1,2,3,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β,β-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン-ジエタノールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノール、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンとの混合エステル化物等が挙げられる。
[紫外線吸収剤]
ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤(つまり、UVA)を含有することができる。紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4‐(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2,2’-p-フェニレンビス(1,3-ベンゾオキサジン-4-オン)等が挙げられる。
[ポリカーボネート樹脂組成物の物性]
<外観>
ポリカーボネート樹脂組成物の外観は、例えば、後掲の実施例で詳述する評価方法にて評価することができる。
<耐摩耗試験>
ポリカーボネート樹脂組成物の摩耗性能は、例えば、後掲の実施例で詳述する耐摩耗試験で評価することができる。耐摩耗試験の色相変化は5以下であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂組成物は、優れた摩耗性能を有する。
<衝撃強度>
ポリカーボネート樹脂組成物の衝撃強度は、例えば、後掲の実施例で詳述するノッチ付シャルピー衝撃強度試験で評価することができる。ノッチ付シャルピー衝撃強度(ただし、ノッチ先端半径R:0.25mm)は好ましくは40kJ/m以上である、この場合には、ポリカーボネート樹脂組成物は、優れた耐衝撃強度を有する。
[配合方法]
ポリカーボネート樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂組成物と前述のような各種の添加剤等との配合方法としては、例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合・混練する方法、或いは、例えば塩化メチレン等の共通の良溶媒に溶解させた状態で混合する溶液ブレンド方法等があるが、これは特に限定されるものではなく、通常用いられるブレンド方法であればどのような方法を用いてもよい。
また、ポリカーボネート樹脂組成物と前述の各種の添加剤等との配合時期に制限はない。例えば、組成の異なる複数のポリカーボネート樹脂組成物を混合してペレット化した後に、各種添加剤等を配合しても良く、組成の異なる複数のポリカーボネート樹脂組成物の各々に対して各種添加剤等を配合して組成物ペレットとして、それらを混合しても良く、組成の異なる複数のポリカーボネート樹脂組成物を混合すると同時に各種添加剤等を同時に配合しても良い。
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、例えば上記の各成分を機械的に溶融混練する方法によって製造することができる。ここで用いることができる溶融混練機としては、例えば単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー、ロールミル等を挙げることができる。その中でも二軸押出機が好ましく、残存フェノール溜去の観点から、減圧しながら行うことが好ましい。混練温度の下限は、通常100℃以上、好ましくは145℃以上、より好ましくは160℃以上である。混練温度の上限は、通常350℃、好ましくは300℃、より好ましくは250℃である。混練に際しては、各成分を一括して混練しても、また任意の成分を混練した後、他の残りの成分を添加して混練する多段分割混練法を用いてもよい。
押し出した混練物はストランドカッター等を用いてペレット状にし、使用前に適宜乾燥させて用いることが好ましい。
[ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、例えば射出成形(インサート成形法、二色成形法、サンドイッチ成形法、ガスインジェクション成形法等)、押出成形法、インフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、ラミネート成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等の成形法により種々の成形品に加工することができる。成形品の形状には特に制限はなく、シート、フィルム、板状、粒子状、塊状体、繊維、棒状、多孔体、発泡体等が挙げられ、好ましくはシート、フィルム、板状である。また、成形されたフィルムは一軸あるいは二軸延伸することも可能である。延伸法としては、ロール法、テンター法、チューブラー法等が挙げられる。さらに、通常工業的に利用されるコロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理を施すこともできる。
[用途]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品の用途は特に限定されないが、一例として、下記のような用途を挙げることができる。すなわち、電気・電子部品分野における電線、コード類、ワイヤーハーネス等の被覆材料、絶縁シート、OA機器のディスプレイやタッチパネル、メンブレンスイッチ、写真カバー、リレー部品、コイルボビン、ICソケット、ヒューズケース、カメラ圧板、FDDコレット、フロッピーハブ、光学部品分野における光ディスク基板、光ディスク用ピックアップレンズ、光学レンズ、LCD基板、PDP基板、プロジェクションテレビ用テレビスクリーン、位相差フィルム、フォグランプレンズ、照光スイッチレンズ、センサースイッチレンズ、フルネルレンズ、保護メガネ、プロジェクションレンズ、カメラレンズ、サングラス、導光板、カメラストロボリフレクター、LEDリフレクター、自動車部品におけるヘッドランプレンズ、ウインカーランプレンズ、テールランプレンズ、樹脂窓ガラス、メーターカバー、外板、ドアハンドル、リアパネル、ホイールキャップ、バイザー、ルーフレール、サンルーフ、インパネ、パネル類、コントロールケーブル被覆材、エアーバッグ・カバー、マッドガード、バンパー、ブーツ、エアホース、ランプパッキン類、ガスケット類、ウィンドウモール等の各種モール、サイトシールド、ウェザーストリップ、グラスランチャンネル、グロメット類、制震・遮音部材、建材分野における目地材、手すり、窓、テーブルエッジ材、サッシ、浴槽、窓枠、看板、照明カバー、水槽、階段腰板、カーポート、高速道路遮音壁、マルチウォールシート、鋼線被覆材、照明灯グローブ、スイッチブレーカー、工作機械の保護カバー、工業用深絞り真空成形容器、ポンプハウジング、家電、弱電分野における各種パッキン類、グリップ類、ベルト類、足ゴム、ローラー、プロテクター、吸盤、冷蔵庫等のガスケット類、スイッチ類、コネクターカバー、ゲーム機カバー、パチンコ台、OAハウジング、ノートPCハウジング、HDDヘッド用トレー、計器類の窓、透明ハウジング、OA用ギア付きローラー、スイッチケーススライダー、ガスコックつまみ、時計枠、時計輪列中置、アンバーキャップ、OA機器用各種ロール類、ホース、チューブ等の管状成形品、異型押し出し品、レザー調物品、咬合具、ソフトな触感の人形類等の玩具類、ペングリップ、ストラップ、吸盤、時計、傘骨、化粧品ケース、ハブラシ柄等の一般雑貨類、ハウスウェア、タッパーウェア等の容器類、結束バンド、ブロー成形による輸液ボトル、食品用ボトル、ウォーターボトル、化粧品用等のパーソナルケア用のボトル等各種ボトル、医療用部品におけるカテーテル、シリンジ、シリンジガスケット、点滴筒、チューブ、ポート、キャップ、ゴム栓、ダイヤライザー、血液コネクター、義歯、ディスポーザブル容器等、が挙げられ、また、発泡成形による用途にも適用可能である。
上記のうち、特にチューブでは、薬効成分の吸着を防止できる医療用チューブに好適であり、多層チューブの場合は、その内層材または中間層材に最適である。
ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品は、特に自動車部品への適用が好ましく、自動車内装部品への適用がより好ましい。
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
以下において、ポリカーボネート樹脂組成物、成形品等の物性ないし特性の評価は次の方法により行った。
[試験片の作成方法および各種評価]
(1)試験片の作成方法
まず、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて、90℃で6時間以上乾燥した。次いで、ペレットを射出成形機(株式会社日本製鋼所製J85AD)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃の条件で、射出成形板(幅100mm×長さ100mm×厚さ2mm)を成形した。この射出成形板を試験片とする。
(2)外観評価
上記(1)試験片の作成方法で得られた試験片を目視観察により評価した。そして、表面の白濁やシルバーストリーク等の外観不良があるものを「×」と評価し、外観不良がない場合を「○」と評価した。
(3)耐摩耗試験
耐摩耗試験は、往復摩耗試験機(新東科学株式会社製、型式:TYPE30S)を用いて行った。まず、カナキン3号(JIS L 0803準拠 試験用添付白布 綿)を幅15mmに裁断し、得られた裁断物を新東科学製30mm平面圧子の測定治具に取り付けた。次いで、上記(1)試験片作成方法で得られた試験片の表面で、30mm平面圧子の測定治具に取り付けた裁断物(つまり、カナキン3号)を100回往復させた。往復運動は、荷重1kgf、ストローク50mm、速度6000mm/分の条件で行った。その後、分光測色計(コニカミノルタ社製CM-M6)を使用して試験片表面の色差(ΔL*)を求め、この色差(ΔL*)から試験片表面の傷の程度を評価した。本例では、試験片表面の式差が5以下の場合を「○」と評価し、5を超える場合を「×」と評価した。
<色差(ΔL*)>
色差(ΔL*)は、上記の試験結果をもとに以下のように算出した。分光測色計(コニカミノルタ社製CM-M6)使用し、受光角-15°及び+15°で得られた色彩値L*を測定した。耐摩耗試験前の値を色彩値L0*(-15°)、L0*(+15°)、耐摩耗試験後の色彩値をL*(-15°)、L*(+15°)とし、下記の計算式よりΔL*を求めた。
ΔL*(-15°)=L*(-15°)-L0*(-15°)
ΔL*(+15°)=L*(+15°)-L0*(+15°)
ΔL*=(ΔL*(-15°)+ΔL*(+15°))/2
(4)ノッチ付シャルピー衝撃試験
熱風乾燥機を用いて、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを90℃で6時間以上乾燥した。次に、ペレットを射出成形機(東芝機械株式会社製EC-75SX)に供給し、機械物性用ダンベル型試験片(つまり、機械物性用ISO試験片)を成形した。成形温度は240℃、金型温度は60℃である。ISO179-1(2010年)に準拠して、機械物性用ISO試験片のノッチ付シャルピー衝撃試験を実施した。ノッチの先端半径Rは0.25mmである。なお、ノッチ付シャルピー衝撃強度はその値が大きいほど耐衝撃強度に優れる。本例では、ノッチ付シャルピー衝撃強度が40kJ/m以上の場合を機械的強度に優れると判断した。
[使用原料]
以下の製造例で用いた化合物、その略号、製造元は次の通りである。
・ポリカーボネート樹脂(A):A-1、A-2、A-3
<ジヒドロキシ化合物>
・ISB:イソソルビド[ロケットフルーレ社製]
・CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール[SKChemical社製]
<炭酸ジエステル>
・DPC:ジフェニルカーボネート[三菱ケミカル社製]
<触媒失活剤>
・亜リン酸[太平化学産業社製](分子量82.0)
<熱安定剤(酸化防止剤)>
・Irganox1010:ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート][BASF社製]
・AS2112:トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト[ADEKA社製](分子量646.9)
<離型剤>
・E-275:エチレングリコールジステアレート[日油社製]
[製造例1 ポリカーボネート樹脂(A-1)]
竪型攪拌反応器3器と横型攪拌反応器1器、並びに二軸押出機からなる連続重合設備を用いて、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。具体的には、まず、ISB、CHDM、及びDPCをそれぞれタンクで溶融させ、ISBを35.2kg/hr、CHDMを14.9kg/hr、DPCを74.5kg/hr(モル比でISB/CHDM/DPC=0.700/0.300/1.010)の流量で第1竪型攪拌反応器に連続的に供給した。また、触媒としての酢酸カルシウム1水和物の添加量が全ジヒドロキシ化合物1molに対して1.5μmolとなるように酢酸カルシウム1水和物の水溶液を第1竪型攪拌反応器に供給した。第1竪型攪拌反応器では、反応温度190℃、内圧25kPa、滞留時間90分とし、第2竪型攪拌反応器では、反応温度195℃、内圧10kPa、滞留時間45分とし、第3竪型攪拌反応器では、反応温度210℃、内圧3kPa、滞留時間45分とし、第4横型攪拌反応器では、反応温度225℃、内圧0.5kPa、滞留時間90分とした。得られるポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.42dL/g以上0.50dL/g未満となるように、第4横型攪拌反応器の内圧を微調整しながら運転を行った。
第4横型攪拌反応器より60kg/hrの量でポリカーボネート樹脂を抜き出し、続いて樹脂を溶融状態のままベント式二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30α、L/D:42.0、L(mm):スクリュの長さ、D(mm):スクリュの直径)に供給した。押出機を通過したポリカーボネート樹脂を、引き続き溶融状態のまま、目開き10μmのSUS316製キャンドル型フィルターに通して、異物を濾過した。その後、ダイスからストランド状にポリカーボネート樹脂を排出させ、水冷、固化させた後、回転式カッターでペレット化し、ISB/CHDMのモル比が70/30mol%のポリカーボネート樹脂を得た。このポリカーボネート樹脂を適宜「A-1」と表記する。
上記押出機は3つの真空ベント口を有しており、真空ベント口で樹脂中の残存低分子成分を脱揮除去した。第2ベントの手前で樹脂に対して2000重量ppmの水を添加し、注水脱揮を行った。第3ベントの手前でIrganox1010、AS2112、E-275をポリカーボネート樹脂100重量部に対して、それぞれ0.1重量部、0.05重量部、0.3重量部を添加した。以上により、ISB/CHDM共重合体ポリカーボネート樹脂ペレットを得た。上記ポリカーボネート樹脂に対して、触媒失活剤として0.65重量ppmの亜リン酸(リン原子の量として0.24重量ppm)を添加した。なお、亜リン酸は次のようにして添加した。製造例1において得られたポリカーボネート樹脂のペレットに、亜リン酸のエタノール溶液をまぶして混合したマスターバッチを調製し、押出機の第1ベント口の手前(押出機の樹脂供給口側)から、押出機中のポリカーボネート樹脂100重量部に対して、マスターバッチを1重量部となるように供給した。
[製造例2 ポリカーボネート樹脂(A-2)]
ISBとCHDMのモルをISB/CHDM=0.500/0.500にし、還元粘度を0.50dL/g以上0.63dL/g以下に調整した以外は、製造例1と同様の方法で、ポリカーボネート樹脂を製造した。このポリカーボネート樹脂を適宜「A-2」と表記する。
[実施例・比較例使用原料]
以下の実施例・比較例で用いた化合物の略号は次の通りである。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
イソソルビド由来の構造単位を含むポリカーボネート樹脂として、以下のA-1、A-2。
A-1:製造例1のポリカーボネート樹脂。ガラス転移温度122℃。還元粘度0.44dL/g。
A-2:製造例2のポリカーボネート樹脂。ガラス転移温度100℃。還元粘度0.61dL/g。
A-3:S-3000R(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、市販品を使用)
[脂肪酸アマイド(B)]
B-1:BNTー22H(日本精化社製、べへニン酸アマイド、融点:110℃、末端アルキル基の炭素数:22)。
B-2:スリッパクスB(三菱ケミカル社製、エチレンビスベヘニン酸アマイド、融点:142℃)、末端アルキル基の炭素数:22)。
B-3:スリパックスE(三菱ケミカル社製、エチレンビスステアリン酸アマイド、融点:145℃、末端アルキル基の炭素数:18)。
B-4:ニュートロン2(日本精化社製、ステアリン酸アマイド、融点:100℃、末端アルキル基の炭素数:18)。
B-5:アミゾールCME(川研ファインケミカル社製、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、融点:71℃、主成分の末端アルキル基の炭素数:12)
[コア・シェル構造を有するエラストマー(C)]
・アクリル-スチレン系ゴム、(株)カネカ社製。
[実施例1~4、比較例1~6]
1つのベント口を有する日本製鋼所社製2軸押出機(TEX-33)を用いて、表1に示した組成となるようにポリカーボネート樹脂と脂肪酸アマイドとを混合し、出口の樹脂温度が250℃になるようにストランド状に押し出した。押出物を水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。このようにしてポリカーボネート樹脂組成物を製造した。その評価結果を表1に示す。
[実施例5~6、比較例7]
1つのベント口を有する日本製鋼所社製2軸押出機(TEX-33)を用いて、表2に示した組成となるようにポリカーボネート樹脂と、脂肪酸アマイドと、コア・シェル構造を有するエラストマーとを混合し、出口の樹脂温度が250℃になるようにストランド状に押し出した。押出物を水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。このようにしてポリカーボネート樹脂組成物を製造した。その評価結果を表2に示す。
Figure 2023133987000011
Figure 2023133987000012
表1より理解されるように、アルキル末端を有する脂肪酸アマイド(B-1)、(B-2)を含む実施例1~4は、脂肪酸アマイド(B)を含まない比較例1と比較して、耐摩耗試験の色差の値が小さい。このことから、脂肪酸アマイド(B-1)、(B-2)成分による結晶膜が形成され、耐摩耗性が向上していることが示唆される。また、実施例1~4と比較例2、3との対比から理解されるように、脂肪酸アマイドが炭素数19以上のアルキル末端と1つ以上のアマイド基とを有することが、耐摩耗性の向上に寄与していると考えられる。さらに、実施例1~4と比較例5、6との対比から理解されるように、脂肪酸アマイド(具体的には、脂肪酸アマイドB-1、B-2)による耐摩耗性の向上効果は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂において増大すると考えられる。
また、表2より理解されるように、実施例5、6は、外観、耐衝撃性が低下することなく、耐摩耗性が向上している。これは、実施例5、6が、炭素数19以上のアルキル末端と1つ以上のアマイド基とを有する脂肪酸アマイドと共に、コア・シェル構造を有するエラストマー(C)を含むためであると考えられる。
以上のように、実施例1~6の成形品は、外観に優れ、耐摩耗性の結果が良好であった。これは、実施例1~6が所定のポリカーボネート樹脂(A)と所定の脂肪酸アマイド(B)とを含有することによる特異的な効果と考えられる。

Claims (8)

  1. 下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)と、
    炭素数が19以上のアルキル末端と1つ以上のアマイド基とを有する脂肪酸アマイド(B)と、を含有するポリカーボネート樹脂組成物。
    Figure 2023133987000013
  2. 上記ポリカーボネート樹脂(A)が、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のエーテル基含有ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とを有する、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  3. 上記脂肪酸アマイド(B)の融点が90℃以上である、請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  4. 上記ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対する上記脂肪酸アマイド(B)の含有量が0.001質量部以上5質量部以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  5. さらに、コア・シェル構造を有するエラストマー(C)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  6. 上記コア・シェル構造を有するエラストマー(C)の含有量が、上記ポリカーボネート樹脂組成物100重量部に対して0.1~20重量部である、請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
  7. 請求項1~6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物から形成された成形品。
  8. 自動車部品である、請求項7に記載の成形品。
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