JP2023127096A - ポリアリーレンスルフィドの製造方法およびポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法 - Google Patents

ポリアリーレンスルフィドの製造方法およびポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】分子鎖中にアミノ基が多く導入されたポリアリーレンスルフィド(PAS)を、簡便、効率よく提供でき、かつアミノ基を有するPASを用いてPAS共重合体を製造する場合に、より高分子量のPAS共重合体を得ることができるPASの製造方法を提供する。【解決手段】有機極性溶媒中で、少なくともジハロゲン化芳香族化合物、無機スルフィド化剤、および化合物Aをアルカリ金属水酸化物の存在下で反応させるPASの製造方法において、反応容器中で無機スルフィド化剤1モルに対して化合物Aを0.04モル以上0.5モル以下の範囲で存在させ、該化合物Aは少なくとも1つの芳香族環を有し、該1つの芳香環上にアミノ基と、水酸基、水酸基の塩、チオール基、およびチオール基の塩から選ばれる少なくとも1種類の官能基とを有する化合物であって、後処理工程にpH8以下の溶液による洗浄工程を含むことを特徴とするPASの製造方法である。【選択図】なし

Description

本発明は、官能基を有するポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す場合がある)に代表されるポリアリーレンスルフィドは、優れた耐熱性、バリア性、成形性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有しており、射出成形、押出成形用途を中心として各種電気・電子部品、機械部品、自動車部品、フィルム、繊維などに使用されている。ポリアリーレンスルフィドはその優れた特性ゆえに、近年使用される用途が広がっている。
一方で、ポリアリーレンスルフィドは分子鎖中の官能基が少なく、ポリアミドやポリエステル等に代表される他のエンジニアリングプラスチックと比べて相互作用や反応性に劣るため、異素材との接着や複合化を図ることが困難である課題があった。中でもポリマー中に極性の大きなアミノ基を導入させることで、ポリマーの補強材として広く使用されるガラス繊維との接着性が向上することはよく知られており、繊維表面に水酸基を有する炭素繊維との接着性やアミノ基以外の反応性官能基、例えば水酸基やイソシアネート基、エポキシ基などを有するポリマーとの相溶性の改良やそれらから合成される共重合体の耐熱性や強度の向上も期待できる。
このため、ポリアリーレンスルフィド中に反応性官能基を導入する検討が多くなされている。例えば、特許文献1には芳香族チオールを用いて反応性官能基を有するポリアリーレンスルフィドを製造する方法が開示されている。特許文献2には芳香族チオールと重合助剤としてポリハロ芳香族化合物を用いて熱安定性に優れる変性ポリアリーレンスルフィドを製造する方法が開示されている。特許文献3にはアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物との反応に先立って、予めアルカリ金属硫化物と官能基含有ハロ置換芳香族化合物を混合加熱することでアミノ基を有するポリアリーレンスルフィドを製造する方法が開示されている。特許文献4には環式アリーレンスルフィドを、反応性官能基を有する含硫黄化合物と加熱することで反応性官能基を有するポリアリーレンスルフィドを製造する方法が開示されている。
反応性官能基を有するポリアリーレンスルフィドはポリアリーレンスルフィド共重合体を得るためのプレポリマーとしても有用で、特許文献5には反応性官能基を有するポリアリーレンスルフィドと剛直な分子を反応させることで得られるポリアリーレンスルフィド共重合体について開示されている。
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂中のオリゴマー成分を除去する方法として、特許文献6には、ポリアリーレンスルフィドを含む固形分を水で洗浄する工程、および、ポリアリーレンスルフィドを有機溶媒で洗浄する工程を行うポリアリーレンスルフィドの製造方法が開示されている。
特開2020-084027号公報 特開2021-147513号公報 特開平7-102064号公報 国際公開第2012/057319号 国際公開第2019/151288号 国際公開第2021/200332号
しかしながら、特許文献1および2に開示された方法では提供されるポリアリーレンスルフィドは分子鎖中にアミノ基を導入できているものの、導入されるアミノ基量が少なく、十分な量とは言えなかった。特許文献3に開示された方法ではアミノ基は主鎖中に導入されるため、反応対象との接触頻度が低下して反応性を活かすことができず最適な分子設計ではなかった。特許文献4に開示された方法ではアミノ基をポリアリーレンスルフィドに導入できるものの、工程が多く簡便とは言えなかった。
特許文献5に開示されたポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法では、プレポリマーとなるポリアリーレンスルフィドに不純物が含まれることがあり、ポリアリーレンスルフィド共重合体の製造に必要な加熱加工時の発生ガス量低減と、得られるポリアリーレンスルフィド共重合体の高分子量化の両立が望まれていた。
特許文献6に開示されたポリアリーレンスルフィドの製造方法では、ポリアリーレンスルフィドを水および有機溶媒で洗浄しているが、特許文献6のポリアリーレンスルフィドは分子鎖中にアミノ基を導入したものではなく、比較的高分子量のポリアリーレンスルフィドであり、成形加工時に金型汚れの原因不純物となる比較的揮発性の低いオリゴマー成分の低減が目的であり、ポリアリーレンスルフィド共重合体の製造およびポリアリーレンスルフィド共重合体の分子量に関する記載はなかった。
本発明は、分子鎖中にアミノ基が多く導入されたポリアリーレンスルフィドを、簡便かつ効率的に提供することを課題とするものである。また、不純物の少ないアミノ基含有ポリアリーレンスルフィドを得て、それをプレポリマーとして用いることで、ポリアリーレンスルフィド共重合体の製造においてガスの発生が少なく、高分子量のポリアリーレンスルフィド共重合体が得られる製造方法を提供することも課題とする。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の内容を提供することで実現することが可能である。
1.有機極性溶媒中で、少なくともジハロゲン化芳香族化合物、無機スルフィド化剤および化合物(A)をアルカリ金属水酸化物の存在下で反応させるポリアリーレンスルフィドの製造方法において、反応容器中で無機スルフィド化剤1モルに対して化合物(A)を0.04モル以上0.5モル以下の範囲で存在させ、該化合物(A)は少なくとも1つの芳香環を有し、該1つの芳香環上にアミノ基と、水酸基、水酸基の塩、チオール基、およびチオール基の塩から選ばれる少なくとも1種類の官能基とを有する化合物であって、後処理工程にpH8以下の溶液による洗浄工程を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
2.上記1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、後処理工程にさらに有機溶媒による洗浄工程を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
3.上記2に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、pH8以下の溶液による洗浄工程よりも後に有機溶媒による洗浄工程を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
4.上記1から3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、化合物(A)の少なくとも一部を、ジハロゲン化芳香族化合物を反応容器に添加するのと同じ段階で反応容器に添加することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
5.上記1から4のいずれかに記載の製造方法でポリアリーレンスルフィドを得、ついで下記式(a)~(u)から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)を混合し、さらに加熱するポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法。
Figure 2023127096000001
Figure 2023127096000002
(ここでXはカルボキシル基、シラノール基、スルホン酸基、酸無水物基、イソシアネート基、アルデヒド基、エポキシ基、およびアルコキシシラン基から選ばれるいずれかである。R、R、およびRは水素、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数6~24のアリール基、ハロゲン基から選ばれる置換基であり、R、R、およびRは同一でも異なっていてもよい。)
本発明によれば、分子鎖中にアミノ基が多く導入されたポリアリーレンスルフィドを、簡便な方法で効率よく提供することができる。また、本発明の製造方法で製造されたアミノ基を有するポリアリーレンスルフィドは加熱時の発生ガス量が少ないという特徴を有しており、本発明の製造方法でポリアリーレンスルフィドを得、さらに反応性化合物と混合し、さらに加熱することでポリアリーレンスルフィド共重合体を製造する場合には、加熱作業時の発生ガス量が抑えられるため作業性を改善することができる。さらに、本発明の製造方法で製造されたアミノ基を有するポリアリーレンスルフィドを用いて上記ポリアリーレンスルフィド共重合体を製造する場合に、より高分子量のポリアリーレンスルフィド共重合体を得ることができる。
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の実施形態におけるポリアリーレンスルフィドとは、式、-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。ここで、主要構造単位とするとは、当該繰り返し単位を70モル%以上含有することをいう。Arとしては下記の式(I)~式(XI)などで表される単位などがあるが、中でも式(I)で表される単位が特に好ましい。
Figure 2023127096000003
(R,Rは水素、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数1~12のアルコキシ基、炭素数6~24のアリール基、ハロゲン基および反応性官能基から選ばれた置換基であり、RとRは同一でも異なっていてもよい)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(XII)~式(XIV)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-の単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
Figure 2023127096000004
(ここで、Arは先の式(I)~式(XI)で表される単位である。)
また、上記Arと結合したアミノ基を有するポリアリーレンスルフィドも好ましい形態として例示できる。アミノ基は、化合物(A)に由来する構造であり、詳細については後述する。アミノ基の位置はポリアリーレンスルフィドの主鎖中であっても末端であってもよいが、末端導入の方が反応性官能基を有する他のポリマーや化合物との反応制御が容易であるため好ましい。末端導入の場合はArと結合するSに対してp位であることが好ましい。
また、本発明の実施形態におけるポリアリーレンスルフィドは、上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp-フェニレンスルフィド単位
Figure 2023127096000005
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
以下に本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法について具体的に述べるが、下記方法に限定されるものではない。
まずポリアリーレンスルフィドの製造に使用する原料について説明する。
[無機スルフィド化剤]
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法で用いられる無機スルフィド化剤とは、ジハロゲン化芳香族化合物にスルフィド結合を導入できるものであればよく、例えばアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種類以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化リチウムおよび/または硫化ナトリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。なお、水性混合物とは水溶液、もしくは水溶液と固体成分の混合物、もしくは水と固体成分の混合物のことを指す。一般的に入手できる安価なアルカリ金属硫化物は水和物または水性混合物であるので、この様な形態のアルカリ金属硫化物を用いることが好ましい。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種類以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化リチウムおよび/または水硫化ナトリウムが好ましく、水硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系中で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を接触させて調製したアルカリ金属硫化物も用いることができる。これらのアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物は水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができ、水和物または水性混合物が入手のしやすさ、コストの観点から好ましい。
さらに、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系内で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめ水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。硫化水素は気体状態、液体状態、水溶液状態のいずれの形態で用いても差し障りない。
[化合物(A)]
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法で用いられる化合物(A)は、少なくとも1つの芳香環を有し、該1つの芳香環上にアミノ基と、水酸基、水酸基の塩、チオール基、およびチオール基の塩から選ばれる少なくとも1種類の官能基とを有する化合物である。化合物(A)はポリアリーレンスルフィドに導入するアミノ基と、後述する重合反応工程でジハロゲン化芳香族化合物と反応する水酸基、水酸基の塩、チオール基、またはチオール基の塩を有する芳香族化合物であればよい。その具体例として、2-アミノフェノール、4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、2-アミノチオフェノール、4-アミノチオフェノール、3-アミノチオフェノール、およびこれらの化合物の水酸基、チオール基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩となっている化合物を好ましい化合物として例示することができる。反応性の観点から4-アミノフェノール、4-アミノチオフェノールを特に好ましい化合物として例示することができる。上記の特徴を有していれば、異なる2種類以上の化合物(A)を組み合わせて用いることも可能である。化合物(A)として水酸基またはチオール基を有する化合物を用いる場合、等量のアルカリ金属水酸化物を同時に使用することが好ましい実施形態である。また、化合物(A)として水酸基またはチオール基が塩の形態をとる化合物を用いる場合、あらかじめ塩を形成してからポリアリーレンスルフィドの製造に使用することも可能であるし、反応容器内の反応で塩を形成することも可能である。
化合物(A)の使用量の下限は仕込み無機スルフィド化剤1モルに対し、0.04モル以上であり、0.05モル以上が好ましく、0.06モル以上がより好ましく、0.08モル以上がさらに好ましく、0.1モル以上がよりいっそう好ましい。使用量がこの値以上であることでアミノ基をポリアリーレンスルフィドに十分に導入できるため好ましい。また、化合物(A)の使用量の上限は仕込み無機スルフィド化剤1モルに対して0.5モル以下であり、0.45モル以下がより好ましく、0.4モル以下がさらに好ましい。使用量がこの値以下であることでポリアリーレンスルフィドの分子量低下を防止し、機械物性の低下を防止できるため好ましい。
化合物(A)の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合反応工程のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、効率よくジハロゲン化芳香族化合物と反応させる観点から、ジハロゲン化芳香族化合物を反応容器に添加するのと同じ段階で添加することがより好ましい。
[ジハロゲン化芳香族化合物]
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法で用いられるジハロゲン化芳香族化合物としては、p-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、o-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、1-ブロモ-4-クロロベンゼン、1-ブロモ-3-クロロベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、および1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼン、1-メチル-2,5-ジクロロベンゼン、1,4-ジメチル-2,5-ジクロロベンゼン、1,3-ジメチル-2,5-ジクロロベンゼン、2,5-ジクロロ安息香酸、3,5-ジクロロ安息香酸、2,5-ジクロロアニリン、3,5-ジクロロアニリン、ビス(4-クロロフェニル)スルフィドなどのハロゲン以外の置換基を含むジハロゲン化芳香族化合物などを挙げることができる。なかでも、p-ジクロロベンゼンに代表されるp-ジハロゲン化ベンゼンを主成分とするジハロゲン化芳香族化合物が好ましい。特に好ましくは、p-ジクロロベンゼンを80~100モル%含むものであり、さらに好ましくは90~100モル%含むものである。また、異なる2種類以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
ジハロゲン化芳香族化合物の使用量の下限は特に制限はないが、下記式で表現される[モノマー比]を0.8以上とすることが好ましく、0.9以上とすることがより好ましく、0.95以上とすることがさらに好ましい。[モノマー比]を上記の範囲とすることで重合反応系を安定化し、副反応を防止することができるため、好ましい。また、使用量の上限は特に制限はないが、[モノマー比]を1.2以下とすることが好ましく、1.1以下とすることがさらに好ましく、1.05以下とすることがより好ましい。[モノマー比]を上記の範囲とすることでポリアリーレンスルフィド中に残存するハロゲン量を低減することができるため好ましい。なお、下記式における[ジハロゲン化芳香族化合物物質量]、[無機スルフィド化剤物質量]、および[化合物(A)物質量]は、ポリアリーレンスルフィドを製造する際における各化合物の使用量を示す。
[モノマー比]=[ジハロゲン化芳香族化合物物質量]/([無機スルフィド化剤物質量]+[化合物(A)物質量])
[有機極性溶媒]
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法で用いられる有機極性溶媒として、有機アミド溶媒が好ましく例示できる。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機溶媒およびこれらの混合物などが反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでもN-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがより好ましく用いられる。
有機極性溶媒の使用量は仕込み無機スルフィド化剤1モルに対し、2.0モル以上が好ましく、2.2モル以上がより好ましく、2.3モル以上がさらに好ましい。使用量がこの値以上であることで収率良くポリアリースルフィドを合成できるため好ましい。また、有機極性溶媒の使用量は仕込み無機スルフィド化剤1モルに対して6.0モル以下が好ましく、5.0モル以下がより好ましく、4.0モル以下がさらに好ましい。使用量がこの値以下であることで、得られるポリアリーレンスルフィドを加熱した際の発生ガスを低減できるため好ましい。
[重合助剤]
比較的に高重合度のポリアリーレンスルフィドをより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは、得られるポリアリーレンスルフィドの粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩からなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより合成してもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価である。一方、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込み無機スルフィド化剤1モルに対し、通常0.01モル~2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1モル~0.6モルの範囲が好ましく、0.2モル~0.5モルの範囲がより好ましい。
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込み無機スルフィド化剤1モルに対し、通常0.3モル~15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6モル~10モルの範囲が好ましく、1モル~5モルの範囲がより好ましい。
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、より少量のアルカリ金属カルボン酸塩と水で高分子量化が可能となる。
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合反応工程のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよい。重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時あるいは重合開始時に他の添加物と同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ジハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応工程の途中で添加することが効果的である。
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられる。重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、無機スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込み無機スルフィド化剤1モルに対して、通常0.02モル~0.2モル、好ましくは0.03モル~0.1モル、より好ましくは0.04モル~0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合反応工程のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時あるいは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
次に、本発明のポリアリーレンスルフィドの好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、もちろんこの方法に限定されるものではない。
[前工程]
ポリアリーレンスルフィドの製造方法において、通常、無機スルフィド化剤は水和物の形で使用されるが、ジハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒と無機スルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
また、上述したように、無機スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製される無機スルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180℃~260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよいし、化合物(A)を加えておいてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
前工程の終了時、すなわち重合反応工程の前における系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3モル~10.0モルであることが好ましい。ここで系内の水分量とは、重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
[重合反応工程]
有機極性溶媒中で少なくとも無機スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物および化合物(A)を200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりポリアリーレンスルフィドを製造する。
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下において、常温~240℃、好ましくは100℃~230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で化合物(A)および重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
この混合物を通常200℃~290℃未満の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01℃/分~5℃/分の速度が選択され、0.1℃/分~3℃/分の範囲がより好ましい。
一般的に、最終的には250℃~290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25時間~50時間、好ましくは0.5時間~20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃~260℃で一定時間反応させた後、270℃~290℃未満に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃~260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25時間~10時間の範囲が選ばれる。
なお、ポリマーの分子量を調整するため、重合途中で化合物(A)の添加を行うことも可能であるが、化合物(A)の効率的な反応の観点からは化合物(A)の少なくとも一部はジハロゲン化芳香族化合物と同じ段階で添加することがより好ましい。
[回収工程]
ポリアリーレンスルフィドの製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用してもよい。
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いてもよい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分程度である。徐冷工程の全工程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化し析出するまでは0.1℃/分~1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用してもよい。
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つである。この回収方法のうち、好ましい方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法である。ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には、常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃~250℃の範囲が選ばれる。
[後処理工程]
ポリアリーレンスルフィドは、上記重合反応工程、回収工程を経て生成した後、後処理工程として酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄を施すことが可能だが、本発明の後処理工程ではpH8以下の溶液による洗浄工程を行う。
ポリアリーレンスルフィドのpH8以下の溶液による洗浄には酸を用いる。用いる酸は、ポリアリーレンスルフィドを分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられる。なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられる。一方、硝酸のようなポリアリーレンスルフィドを分解、劣化させるものは好ましくない。
pH8以下の溶液による洗浄の方法は、例えば、酸または酸の溶液にポリアリーレンスルフィドを浸漬せしめる方法があり、必要により撹拌または加熱することも可能である。酸の溶液を用いる場合、溶液は有機溶媒を用いた溶液でも水溶液でもよいが、酸の混和性、ポリアリーレンスルフィドに含まれる塩や塩基性成分の溶解性が比較的高い傾向にある観点からは水溶液が好ましく、用いる水は、ポリアリーレンスルフィドの好ましい化学的変性の効果を損なわないために蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。例えば、酢酸を用いる場合、pHを調整した酢酸水溶液を80℃~200℃に加熱した中にポリアリーレンスルフィド粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。
洗浄を行う溶液のpHの上限は8以下であり、7以下が好ましく、6以下がより好ましく、5以下がさらに好ましく、4以下が特に好ましい。洗浄効果の観点ではpHは低い方が望ましいが、用いる酸の取り扱い性、ポリアリーレンスルフィドの劣化抑制の観点からは、pHの下限は1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。ここで、洗浄を行う溶液のpHとは、ポリアリーレンスルフィドが浸漬した溶液のpHのことを指す。洗浄を行う溶液のpHの測定には、例えばポリアリーレンスルフィドを浸漬した溶液を用いることが可能であり、洗浄後に濾過をする場合には濾液のpHもポリアリーレンスルフィドが浸漬した溶液のpHと同一視できるため濾液を用いてもよい。洗浄を行う溶液のpHを測定する方法としては、一般的な方法が採用でき、例えばガラス電極を有するpH計、水素電極、指示薬、リトマス紙を用いることができる。
pH8以下の溶液で洗浄することにより、本発明の製造方法で得られるアミノ基含有ポリアリーレンスルフィドを用いてポリアリーレンスルフィド共重合体を得る際に、pH8以下の溶液での洗浄を行わない場合に比べ、より高分子量のポリアリーレンスルフィド共重合体を得ることができる。より高分子量のポリアリーレンスルフィド共重合体が得られる理由は定かではないが、ポリアリーレンスルフィドに含まれる塩基性の成分が除去されることにより、後述する化合物(B)が効率よくポリアリーレンスルフィドのアミノ基と反応するためであると考えられる。
pH8以下の溶液による洗浄を施されたポリアリーレンスルフィドに残留している酸または塩などを除去するため、さらに水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、ポリアリーレンスルフィドの好ましい化学的変性の効果を損なわないために、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
後処理工程では、有機溶媒で洗浄することも好ましい。有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。ポリアリーレンスルフィドの洗浄に用いる有機溶媒は、ポリアリーレンスルフィドを分解する作用などを有しないものであれば特に制限はない。例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがポリアリーレンスルフィドの洗浄に用いる有機溶媒として挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が好ましい。また、アリーレンスルフィド構造を有する不純物を除去する観点からは、比較的高い溶解性が得られやすい含窒素極性溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、およびクロロホルムが特に好ましい。これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用されてもよいし、水と混合されて使用されてもよい。
有機溶媒による洗浄の方法としては、例えば、有機溶媒中にポリアリーレンスルフィドを浸漬せしめる方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でポリアリーレンスルフィドを洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温~300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温~150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。有機溶媒による洗浄は、pH8以下の溶液による洗浄と併用することが有効である。併用することにより、ポリアリーレンスルフィドの加熱時の発生ガス量が少なくなり、また、ポリアリーレンスルフィドを用いて後述するポリアリーレンスルフィド共重合体を製造した場合、高分子量体が容易に得られるため好ましい。これらの理由は定かではないが、不純物が除去されることで、ガスの原因となる化合物量が低減するとともに、ポリアリーレンスルフィドの末端にアミノ基が存在する割合が高くなり、共重合反応が起きやすいことが考えられる。pH8以下の溶液による洗浄と有機溶媒による洗浄の順番はいずれでもよいが、ポリアリーレンスルフィドに含まれる塩基性の成分が除去された後に有機溶媒による洗浄を行うことで、より効率的に不純物を除去できると考えられるため、pH8以下の溶液による洗浄工程よりも後に有機溶媒による洗浄工程を含むことが好ましい。
後処理工程では、さらに熱水処理を施すことも可能であり、上記pH8以下の溶液による洗浄との併用も好ましい。熱水処理を行う場合は次のとおりである。ポリアリーレンスルフィドを熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満ではポリアリーレンスルフィドの好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
熱水処理によるポリアリーレンスルフィドの好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無い。所定量の水に所定量のポリアリーレンスルフィドを投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法や、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、ポリアリーレンスルフィド200g以下の浴比(乾燥ポリアリーレンスルフィド重量に対する洗浄液重量)が選ばれる。
また、末端の反応性官能基の好ましくない分解を回避するため、処理の雰囲気は不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、残留している成分を除去するため、この熱水処理操作を終えたポリアリーレンスルフィドは、温水で数回洗浄するのが好ましい。
[熱酸化架橋処理]
その他、本発明におけるポリアリーレンスルフィドは、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱や過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。ただし、詳細は後述するが、数平均分子量は50,000以下が好ましい。
[本発明のポリアリーレンスルフィド]
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィドは、樹脂組成物、ポリマー改質、共重合などの原料に使用でき、用途毎に好ましい分子量が異なるため一概に規定できるものではないが、数平均分子量が1,000以上であることが好ましく、より好ましくは2,000以上である。ポリアリーレンスルフィドの数平均分子量が1,000以上であることで、耐薬品性が十分に得られるため好ましい。また、ポリアリーレンスルフィドの数平均分子量の上限値は、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、20,000以下がさらに好ましい。ポリアリーレンスルフィドの数平均分子量が50,000以下であることで溶融粘度が高くなりすぎず、成型加工が容易である傾向にあるため好ましい。なお、数平均分子量Mnは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出される値である。
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィドは400μmol/g以上のアミノ基を有していることが好ましく、500μmol/g以上であることがより好ましく、700μmol/g以上であることがさらに好ましい。反応性官能基が上記の下限値以上であることで、後述するポリアリーレンスルフィド共重合体を製造する際にポリアリーレンスルフィド共重合体のガラス転移点が十分に高くなる傾向にあるため好ましい。また、アミノ基量の上限は5,000μmol/g以下が好ましく、4,000μmol/g以下がより好ましく、3,000μmol/g以下がさらに好ましい。アミノ基量が上記の上限値以下であることで、後述するポリアリーレンスルフィド共重合体を製造する際にポリアリーレンスルフィド共重合体の耐薬品性が低下することを防止できるため好ましい。
ポリアリーレンスルフィド中のアミノ基はポリアリーレンスルフィドをFT-IR分析することによって、例えばベンゼン環由来の1900m-1付近における吸収に対するアミノ基由来の3360cm-1の吸収の強度を比較することで定量することができる。
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィドのハロゲン量は8,000ppm以下であることが好ましく、5,000ppm以下であることがより好ましく、3,000ppm以下であることがさらに好ましい。上記範囲のハロゲン量のポリアリーレンスルフィドを用いて後述するポリアリーレンスルフィド共重合体を製造した場合、高分子量体が容易に得られるため、好ましい。理由は定かではないが、ポリマー末端に存在するハロゲン量が少ないことで末端にアミノ基が存在する割合が高くなり、共重合反応が起きやすいことが考えられる。ポリアリーレンスルフィドのハロゲン量に下限はないが、例えば500ppm以上が例示できる。ポリアリーレンスルフィド中のハロゲン量は、例えば燃焼装置とイオンクロマトグラフィーを組み合わせた装置を使用して測定することができる。ポリアリーレンスルフィドのハロゲン量は原料であるジハロゲン化芳香族化合物に由来しており、上記ジハロゲン化芳香族化合物の項で述べた[モノマー比]の値を増減することで調節することができる。
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィドは30℃から320℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量減少率が5wt%以下であることが好ましく、4wt%以下であることがより好ましく、3wt%以下であることがさらに好ましい。重量減少率は小さいほど好ましいが、例えば0.01wt%以上が例示できる。本発明の製造方法ではポリアリーレンスルフィド中に多量のアミノ基を導入しても、加熱時のガス成分となりやすい未反応のモノマーが残存しにくい傾向にある。そのため、重量減少率を5wt%以下と小さくすることができる。
上記重量減少率は、一般的な熱重量分析によって求めることが可能である。この分析における雰囲気は通常、常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気であり、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気を用いることが好ましい。この中でも特に経済性および取扱い性の容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気圧、すなわち絶対圧で101.3kPa近傍の圧力条件のことである。
また、重量減少率の測定においては室温から320℃以上の任意の温度まで昇温速度10℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドを実使用する際や溶融させての成形や反応を行う際に頻用される温度領域である。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のポリアリーレンスルフィドからのガス発生量や成形加工・反応時の機器の汚染度の指標となる。従って、このような温度範囲における重量減少率が少ないポリアリーレンスルフィドは、品質の高い優れたポリアリーレンスルフィドであるといえる。
[ポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法]
本発明の製造方法でアミノ基を含有するポリアリーレンスルフィドを得、さらに下記式(a)~(u)から選ばれる少なくとも一つ以上の化合物(B)(以下、化合物(B)と略すこともある)と混合し、加熱することでポリアリーレンスルフィド共重合体を製造することもできる。
Figure 2023127096000006
Figure 2023127096000007
ここでXはカルボキシル基、シラノール基、スルホン酸基、酸無水物基、イソシアネート基、アルデヒド基、エポキシ基、およびアルコキシシラン基から選ばれるいずれかであり、ポリアリーレンスルフィドとの反応性の観点から、酸無水物基が好ましい。式(a)~(u)で表される各化合物の芳香族環は、2置換体または3置換体であってもよく、一つの芳香族環に置換された複数の置換基Xは同一でも異なっていてもよい。R、R、およびRは水素、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数6~24のアリール基、ハロゲン基から選ばれる置換基であり、R、R、およびRは同一でも異なっていてもよく、入手の容易性から水素、メチル基、エチル基、またはプロピル基が好ましい。
化合物(B)の具体例としては、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-チオジフタル酸、3,3’,4,4’-スルホニルジフタル酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-スルフィニルジフタル酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-テトラカルボキシルジフェニルメタン、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’-チオジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-スルホニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-スルフィニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラカルボキシルジフェニルメタン二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、グリセリンビスアンヒドロトリメリテートモノアセテート、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-チオジ安息香酸、4,4’-ジカルボキシルベンゾフェノン、4,4’-スルフィニルジ安息香酸、4,4’-ジカルボキシルビフェニルが挙げられ、反応性の観点から3,3’,4,4’-チオジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-スルフィニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、4,4’-チオジ安息香酸、4,4’-ジカルボキシルベンゾフェノン、4,4’-スルフィニルジ安息香酸、4,4’-ジカルボキシルビフェニルピロメリット酸、ピロメリット酸無水物が好ましく用いられる。
化合物(B)の配合量の下限値はポリアリーレンスルフィドの硫黄原子に対して0.5モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、2モル%以上がさらに好ましい。上限値はポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対して30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、15モル%以下がさらに好ましい。添加量が上記の下限値以上であることで、得られるポリアリーレンスルフィド共重合体の高温における剛性低下を十分に抑制することができる。また、化合物(B)の配合量が多くなると、得られるポリアリーレンスルフィド共重合体の耐薬品性が低下する傾向にあるが、化合物(B)の添加量を上記範囲とすることで十分な機械物性や耐薬品性を発現するポリアリーレンスルフィド共重合体を容易に製造することができる。ここで、加熱の温度は200℃以上が選択され、230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。加熱温度の上限としては400℃以下が例示でき、好ましくは380℃以下、より好ましくは360℃以下である。加熱温度を200℃以上とすることで容易にポリアリーレンスルフィドと化合物(B)との反応を促進することができ、ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度以上とすることでより短時間で反応を完結することができるため好ましい。なお、ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度は、ポリアリーレンスルフィドの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えばポリアリーレンスルフィドを示差走査型熱量計で分析することで溶融解温度を把握することが可能である。但し、温度が高すぎるとポリアリーレンスルフィド間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるポリアリーレンスルフィド共重合体の特性が低下する場合がある。このため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。前記加熱を行う時間はポリアリーレンスルフィドの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間としては0.01~100時間が例示でき、0.1~20時間が好ましく、0.1~10時間がより好ましい。0.01時間未満ではポリアリーレンスルフィドと化合物(B)の反応が不十分になりやすく、100時間を超えると好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィド共重合体の特性への悪影響が顕在化する可能性が高くなる傾向にあるのみならず、経済的にも不利益を生じる場合がある。
本発明のポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法においては、ポリアリーレンスルフィドの有するアミノ基と化合物(B)の有するXとの反応により、イミド基を形成することが好ましい。イミド基を形成する組み合わせとしては、イミド基を形成すれば特に限定はされないが、化合物(B)の有するXが、酸無水物基またはカルボキシル基であることが好ましく、酸無水物基であることが特に好ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法における加熱は、溶媒の非存在下で行うことも、溶媒の存在下で行うことも可能であるが、成形加工時の発生ガスによる成形品の汚染を防ぐ観点から、溶媒の非存在下で行うことが好ましい。溶媒の存在下で行う場合、溶媒としては、生成したポリアリーレンスルフィド共重合体の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に制限はない。溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
本発明のポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法における加熱は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行ってもよいし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限無く行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
本発明のポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法における加熱の際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これによりポリアリーレンスルフィド間などでの架橋反応や分解反応等の好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とは気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下が更に好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示できる。減圧条件が好ましい上限を下回ることで、架橋反応など好ましくない副反応が抑制できる傾向にあり、一方好ましい下限以上では、必要以上に減圧による負荷が反応装置にかかることがないため好ましい。
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド共重合体のガラス転移点は95℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上であり、さらに好ましくは110℃以上である。ガラス転移点が95℃以上であることで高温条件下における高い剛性が得られるため好ましい。また、ポリアリーレンスルフィド共重合体のガラス転移点は190℃以下であることが好ましく、より好ましくは180℃以下であり、さらに好ましくは160℃以下である。ガラス転移点が190℃以下であることで成形品の耐薬品性が保たれるため好ましい。ここで、ガラス転移点は示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した際に検出されるベースラインシフトの変曲点と定義する。また、本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド共重合体は、300℃以下の融点を有するか、または融点を有さないことが好ましい。融点が300℃以下であることや、融点を有さないことによって溶融成形加工が容易になる。ここで、融点は示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分間保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した後、100℃で1分間保持し、再度20℃/分の速度で340℃まで昇温した際に検出される融解ピーク温度の値とする。「融点を有さない」とは、示差走査熱量計を用いて上記の条件で測定を行った場合に、明確な融解ピークが観察されないことと定義する。融点はポリアリーレンスルフィド共重合体中のアリーレンスルフィド単位の分子量を選択することによって調整することができる。
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド共重合体の好ましい分子量は、重量平均分子量で40,000以上、好ましくは45,000以上、より好ましくは50,000以上、さらに好ましくは70,000以上、よりいっそう好ましくは100,000以上である。重量平均分子量が10,000以上ではポリアリーレンスルフィド共重合体の靭性や機械強度が十分に高くなる傾向にあるため好ましい。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000未満を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000未満、さらに好ましくは200,000未満であり、この範囲では成形性にすぐれ、好ましい。
なお、前記重量平均分子量は、例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
本発明の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィドおよびポリアリーレンスルフィド共重合体は、充填材およびその他添加剤を配合してポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として使用することができる。樹脂組成物の製造における配合の方法は特に限定されるものではないが、単軸または2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、およびミキシングロールなど公知の溶融混練機に供給して、ポリアリーレンスルフィド共重合体の融解ピーク温度+5~100℃の加工温度の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。
たとえば、充填材としては無機充填材や有機充填材が挙げられる。
充填材の種類は特定されるものではないが、樹脂組成物としての充填材による補強効果を考慮すると、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状無機充填材が好ましい。炭素繊維は機械物性向上効果のみならず成形品の軽量化効果も有している。また、充填材が炭素繊維の場合、樹脂組成物の機械物性や耐薬品性が向上する効果が、より大きく発現するのでより好ましい。
本発明により得られるポリアリーレンスルフィドおよびポリアリーレンスルフィド共重合体は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質に優れ、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形用途のみならず、押出成形により、シート、フィルム、繊維及びパイプなどの押出成形品に成形することができる。
また本発明により得られるポリアリーレンスルフィドおよびポリアリーレンスルフィド共重合体を用いた樹脂組成物の用途としては、電気・電子部品、音声機器部品、家庭、事務電気製品部品、機械関連部品、光学機器、精密機械関連部品、水廻り部品、自動車・車両関連部品、航空・宇宙関連部品その他の各種用途が例示できる。
以下、本発明の方法を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
[官能基含有量の分析]
ポリアリーレンスルフィドに導入されたアミノ量は、溶融状態から急冷して作成したポリアリーレンスルフィドの非晶フィルムをFT-IR(日本分光(株)製IR-810型赤外分光光度計)測定し、ベンゼン環由来の1900cm-1付近における吸収に対する、アミノ基由来の3360cm-1の吸収を比較することによって見積もった。
[分子量測定]
ポリアリーレンスルフィドの数平均分子量Mnおよびポリアリーレンスルフィド共重合体の重量平均分子量Mwは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC-7110
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL。
[加熱時の重量減少率の測定]
ポリアリーレンスルフィドの加熱時の重量減少率は、熱重量分析機を用いて下記条件で行った。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約5mg
測定条件
(a)プログラム温度30℃で1分保持
(b)プログラム温度30℃から340℃まで昇温。この際の昇温速度10℃/分。
上記の条件で測定した320℃時点の重量と30℃時点の重量から、以下の式により重量減少率を求めた。
重量減少率(%)=((30℃時点の重量(mg)-320℃時点の重量(mg))/30℃時点の重量(mg))×100。
[ポリマーのハロゲン量分析]
ダイアインスツルメンツ社製自動試料燃焼装置AQF-100を用い、ポリマー1~20mgを最終温度1000℃で燃焼させ、発生したガス成分を希薄な酸化剤を含んだ10mLの水に吸収させ、吸収液を炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム混合水溶液を移動相とするDIONEX社製イオンクロマトグラフィーシステムICS1500に供し、ポリマー中のハロゲン量の測定を行った。なお、ここで検出、定量するポリマー中のハロゲン原子とはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のことを指す。
[参考例1]
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、48.4%水硫化ナトリウム7.14kg(61.6モル)、97%水酸化ナトリウム2.87kg(69.3モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)14.57kg(147モル)及びイオン交換水4.19kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水7.88kgおよびNMP0.039kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点で硫化水素の飛散量は1.4モルであったため、本工程後の系内の無機スルフィド化剤は60.2モルであった。
その後、200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)9.45kg(64.3モル)、4-アミノチオフェノール(4-ATP)1.02kg(8.23モル)、NMP2.78kg(28.0モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で260℃まで昇温し、260℃で120分反応した。
反応終了後、直ちにオートクレーブ底栓弁を開放し、内容物を撹拌機付き装置にフラッシュさせ、230℃の撹拌機付き装置内で1.5時間乾固し、PPSと塩類を含む固形物を回収した。
得られた回収物およびイオン交換水を撹拌機付きオートクレーブに入れ、75℃で15分洗浄した後、フィルターでろ過する作業を3回行い、ケークを得た。
[実施例1]
参考例1で得られたケーク、酢酸、およびイオン交換水30リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、溶液のpHを4に調整した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、195℃まで昇温した。その後、オートクレーブを冷却し、内容物をフィルターでろ過しケークを得た。得られたケークをイオン交換水30リットルで15分洗浄、ろ過する操作を3回行った後、窒素気流下、120℃で乾燥した。得られたPPS3kgおよびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)30kgを撹拌機付きの容器に投入し、50rpmで30分間撹拌を行った後、フィルターでろ過しケークを得た。得られたケークをイオン交換水30リットルで15分洗浄、ろ過する操作を3回行った後、得られたケークを窒素気流下、120℃で4時間乾燥することで乾燥PPSを得た。乾燥PPSのアミノ基量は730μmol/g、塩素量は1000ppm、数平均分子量は1800、加熱時重量減少率は1wt%であった。塩素以外のハロゲンは検出されなかった。
[実施例2]
参考例1で得られたケーク、酢酸、およびイオン交換水30リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、溶液のpHを7に調整した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、195℃まで昇温した。その後、オートクレーブを冷却し、内容物をフィルターでろ過しケークを得た。得られたケークをイオン交換水30リットルで15分洗浄、ろ過する操作を3回行った後、窒素気流下、120℃で乾燥した。得られたPPS3kgおよびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)30kgを撹拌機付きの容器に投入し、50rpmで30分間撹拌を行った後、フィルターでろ過しケークを得た。得られたケークをイオン交換水30リットルで15分洗浄、ろ過する操作を3回行った後、得られたケークを窒素気流下、120℃で4時間乾燥することで乾燥PPSを得た。乾燥PPSのアミノ基量は730μmol/g、塩素量は1000ppm、数平均分子量は1800、加熱時重量減少率は1wt%であった。塩素以外のハロゲンは検出されなかった。
[比較例1]
参考例1で得られたケークおよびイオン交換水30リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、195℃まで昇温した。その後、オートクレーブを冷却し、内容物をフィルターでろ過しケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥した。得られたPPS3kgおよびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)30kgを撹拌機付きの容器に投入し、50rpmで30分間撹拌を行った後、フィルターでろ過しケークを得た。得られたケークをイオン交換水30リットルで15分洗浄、ろ過する操作を3回行った後、得られたケークを窒素気流下、120℃で4時間乾燥することで乾燥PPSを得た。乾燥PPSのアミノ基量は730μmol/g、塩素量は1000ppm、数平均分子量は1800、加熱時重量減少率は1wt%であった。塩素以外のハロゲンは検出されなかった。
実施例1および2に示すように、本発明の製造方法によれば、アミノ基を含有し、加熱時のガス発生量の少ないポリアリーレンスルフィドを、簡便かつ効率的に提供することができる。
[実施例3~6、比較例2~3]
実施例1および2、比較例1で得られたPPSと、その共重合成分として官能基量がPPSと当量になるよう秤量した化合物(B)を撹拌翼付きの減圧・窒素置換可能な反応容器に投入した後、反応容器内の減圧、窒素置換を3回繰り返した。反応容器内を窒素雰囲気で満たしたまま320℃に温調して撹拌しながら20分間または60分間加熱した後、室温まで冷却してポリアリーレンスルフィド共重合体を得た。FT-IRスペクトルより、得られたポリアリーレンスルフィド共重合体はフェニレンスルフィド単位を構造単位として含有しており、共重合成分由来のイミド基が導入されていることを確認した。ポリアリーレンスルフィド共重合体を反応容器から払い出した後、加熱時の発生ガス成分による反応容器の汚染度を次の基準で判定した。
A:次バッチの仕込み前に洗浄作業の必要なし
B:常温のNMPでの洗浄で次バッチの仕込み可能
C:次バッチ仕込みには沸点以上でのNMP還流による洗浄が必要
ポリアリーレンスルフィド共重合体の重量平均分子量Mw、ガラス転移点Tg、融点Tm、反応容器の汚染度の判定結果は表1に示す通りであった。
Figure 2023127096000008
なお、表中の各化合物の略記については以下の化合物を示す。
PDA:ピロメリット酸無水物
実施例3、実施例4、比較例2の比較から、後処理工程にpH8以下の溶液による洗浄工程を含む本発明の製造方法によって得られたポリアリーレンスルフィドを使用することで、より高分子量のポリアリーレンスルフィド共重合体を得ることができる。さらに、実施例5、実施例6、比較例3の比較から、共重合時間を延長することで本発明の製造方法の効果はより明らかであり、より高分子量のポリアリーレンスルフィド共重合体を得られることがわかる。また、本発明の製造方法によれば、ポリアリーレンスルフィド共重合体を製造する際に反応容器の汚染を抑制することができるため、反応容器の洗浄工程を省くあるいは簡便化することが可能となり、作業性を向上することができる。

Claims (5)

  1. 有機極性溶媒中で、少なくともジハロゲン化芳香族化合物、無機スルフィド化剤および化合物(A)をアルカリ金属水酸化物の存在下で反応させるポリアリーレンスルフィドの製造方法において、反応容器中で無機スルフィド化剤1モルに対して化合物(A)を0.04モル以上0.5モル以下の範囲で存在させ、該化合物(A)は少なくとも1つの芳香環を有し、該1つの芳香環上にアミノ基と、水酸基、水酸基の塩、チオール基、およびチオール基の塩から選ばれる少なくとも1種類の官能基とを有する化合物であって、後処理工程にpH8以下の溶液による洗浄工程を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  2. 請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、後処理工程にさらに有機溶媒による洗浄工程を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  3. 請求項2に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、pH8以下の溶液による洗浄工程よりも後に有機溶媒による洗浄工程を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、化合物(A)の少なくとも一部を、ジハロゲン化芳香族化合物を反応容器に添加するのと同じ段階で反応容器に添加することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  5. 請求項1から4のいずれかに記載の製造方法でポリアリーレンスルフィドを得、ついで下記式(a)~(u)から選ばれる少なくとも一つの化合物(B)を混合し、さらに加熱するポリアリーレンスルフィド共重合体の製造方法。
    Figure 2023127096000009
    Figure 2023127096000010
    (ここでXはカルボキシル基、シラノール基、スルホン酸基、酸無水物基、イソシアネート基、アルデヒド基、エポキシ基、およびアルコキシシラン基から選ばれるいずれかである。R、R、およびRは水素、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数6~24のアリール基、ハロゲン基から選ばれる置換基であり、R、R、およびRは同一でも異なっていてもよい。)
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