以下、本発明の一実施形態に係るエレベータ10について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、構成要素間の尺度は、必ずしも統一していない。
図1は、エレベータ10が設置された昇降路12内を乗り場(不図示)側から見た正面図(図1には、測域センサ48は現れていない。)であり、図2は、エレベータ10の右側面図である。
図1、図2に示すように、エレベータ10は、駆動方式としてトラクション方式を採用したロープ式エレベータであり、昇降路12最上部よりも上の建物14部分に機械室16が設けられている。エレベータ10は、機械室16に巻上機18とそらせ車20とを備える。巻上機18を構成する綱車22とそらせ車20には、複数本の主ロープが巻き掛けられている。この複数本の主ロープを「主ロープ群24」と称することとする(なお、図1において、主ロープ群24は正確な本数で記載していない。)。
主ロープ群24の一端部にはかご(乗りかご)26が連結されており、他端部には釣合いおもり28が連結されていて、かご26と釣合おもり28とが主ロープ群24でつるべ式に吊り下げられている。
かご26と釣合おもり28との間には、最下端に釣合車30がかけられた複数本の釣合ロープが垂下されている。この複数本の釣合ロープを「釣合ロープ群32」と称することとする。本例では、主ロープ群24を構成する主ロープの本数と釣合ロープ群32を構成する釣合ロープの本数は同数(本例では、8本)である。主ロープと釣合ロープの径は、一般的に、10mm~20mmである。本実施形態において、主ロープおよび釣合ロープは、長尺のロープに相当する。
なお、主ロープ群24を構成する主ロープの本数と、釣合ロープ群32を構成する本数は、上記の本数に限らず、エレベータの仕様に応じて任意に選択される。
かご26の下端部からはトラベリングケーブル34が垂下されていて、トラベリングケーブル34のかご26とは反対側の端部は、昇降路12の上下方向における中程の側壁に設置されたケーブル接続箱(不図示)に接続されている。すなわち、トラベリングケーブル34は、かご26の下端部と上記ケーブル接続箱との間で、細長いU字状に吊り下げられている。トラベリングケーブル34は、かご26と後述する制御盤44との間で電力・信号を伝送するケーブルであり、かご26の動きに合わせて昇降するケーブルである。トラベリングケーブル34としては、一般的には平形ケーブルが用いられ、例えば、その厚みは15mmで幅が100mm程度である。
昇降路12内には、一対のかご用ガイドレール36,38と一対の釣合いおもり用ガイドレール40,42とが、上下方向に敷設されている(いずれも、図1、図2において不図示、図4、図5を参照)。
上記の構成を有するエレベータ10において、不図示の巻上機モータにより綱車22が正転または逆転されると、綱車22に巻き掛けられた主ロープ群24が走行し、主ロープ群24で吊り下げられたかご26と釣合おもり28が互いに反対向きに昇降する。また、これに伴って、かご26と釣合おもり28との間に垂下された釣合ロープ群32は、釣合車30において折り返し走行する。さらに、かご26の昇降に伴って、U字状に吊り下げられたトラベリングケーブル34の下端部(折返し部)も上下方向に変位する。
機械室16には、また、巻上機18やかご26に設置された各種装置(不図示)に電力を供給する電源ユニット(不図示)、および、これらの装置を制御する制御盤44が設置されている。
制御盤44は各種制御プログラムが記憶されたROM、RAM、およびHDDなどの記憶デバイス(不図示)を含み、同記憶デバイスからCPUが上記プログラムを読み出して演算処理することにより運転制御部54やロープ振れ監視ユニット52として機能する。運転制御部54は、巻上機18などの駆動を制御することにより乗りかご26を昇降動作等させることでエレベータ10の運転を統括的に制御する。
ロープ振れ監視ユニット52は、後段にて詳述する座標変換部5202、不要座標排除部5204,想定座標領域記憶部5206,中心座標検出部5208,振幅割出部5210,振動次数推定部5212,最大振幅割出部5214,演算式記憶部5216,振れ成長予測部5218(いずれも図6参照)などの機能ブロックを含み、主ロープ群24や釣合ロープ群32に生じる横振れを検出するとともに検出した横振れにおける振れ幅の成長を予測する役割を有する。また、運転制御部54は、ロープ振れ監視ユニット52が検出する横振れの大きさや、同横振れの振幅成長予測に基づいて各種管制運転を実行する役割も有する。
ここで、図2に示すように、主ロープ群24において、かご26を吊り下げる部分をかご側主ロープ部分24Aと称し、釣合おもり28を吊り下げる部分を釣合おもり側主ロープ部分24Bと称することとする。また、釣合ロープ群32において、かご26から垂下された部分(かご26と釣合車30との間の釣合ロープ群32部分)をかご側釣合ロープ部分32Aと称し、釣合おもり28から垂下された部分(釣合おもり28と釣合車30との間の釣合ロープ群32部分)を釣合おもり側釣合ロープ部分32Bと称することとする。上記の定義に従えば、主ロープ群24に占めるかご側主ロープ部分24Aと釣合おもり側主ロープ部分24Bの長さ(範囲)、および、釣合ロープ群32に占めるかご側釣合ロープ部分32Aと釣合おもり側釣合ロープ部分32B長さ(範囲)は、かご26および釣合おもり28の昇降位置によって伸縮(変動)する。
主ロープ群24を構成する複数本(本例では8本)の主ロープM1~M8の配列について、図3を参照しながら説明する。図3は、綱車22とかご26との間の主ロープ群24部分、すなわち、かご側主ロープ部分24Aを表した概念図である。
図3(a)の上図は、綱車22およびかご側主ロープ部分24Aの一部を正面から見た図であり、図3(a)の下図は、かご26を上面から見た図である。図3(a)の下図は、主ロープ群24を構成する主ロープM1~M8のかご26に対する平面視における連結位置と主ロープM1~M8との対応関係を示す図である。図3(b)は、綱車22、かご側主ロープ部分24A、およびかご26の一部を右側方から見た図である。
8本の主ロープM1~M8は、図3(a)の上図に示すように、この順で、綱車22に水平方向(綱車22の軸心方向)に等間隔で巻き掛けられている。主ロープM1~M8の下端部は、図3(a)の下図に示すように、奇数番目の主ロープM1,M3,M5,M7と偶数番目の主ロープM2,M4,M6,M8とで2列に振り分けて、かご26に連結されている。
このように、2列に振り分けるのは、1列で連結すると、主ロープM1~M8端部をかご26へ連結する止め金具(シャックルロッド)の大きさ(外径)の影響により、綱車22における主ロープM1~M8の間隔よりも大きくなり、かご26上部の限られたスペースを有効に用いるのに支障があるからである。
かご26への連結位置における主ロープM1,M3,M5,M7の間隔も、主ロープM2,M4,M6,M8の間隔も等間隔であり、主ロープM1~M8の水平方向の間隔も等間隔である。よって、綱車22からかご26に至る主ロープ群24部分(かご側主ロープ部分24A)の主ロープM1,M3,M5,M7、主ロープM2,M4,M6,M8、および主ロープM1~M8の水平方向の間隔は、上下いずれの位置においても等間隔である。
なお、釣合おもり側主ロープ部分24Bにおける主ロープM1~M8の配列の態様も、上記したかご側主ロープ部分24Aと基本的に同様である(図5)。また、釣合ロープ群32を構成する複数本(本例では8本)の釣合ロープC1~C8に関しても、その折り返し位置が綱車22になるか釣合車30になるかが異なるだけで(すなわち、上下方向が反対になるだけで)、かご側釣合ロープ部分32A、釣合おもり側釣合ロープ部分32Bにおける複数本のロープの配列は、図5、図4に各々示すように、基本的に、それぞれ、かご側主ロープ部分24A、釣合おもり側主ロープ部分24Bと同様である。
上記の構成を有するエレベータ10が設置される建物14が長周期地震や強風によって揺れると、主ロープ群24や釣合ロープ群32は、建物14とほぼ同じ向きに横振動する場合がある。主ロープ群24や釣合ロープ群32などの長尺のロープが横振動した場合には、ロープ振れ監視ユニット52を介して横振れが検出され、検出された横振れの大きさに応じた管制運転(後段にて詳述)を運転制御部54が実行することとなる。
図2に示すように、エレベータ10には、上記ロープ振れ監視ユニット52にロープの位置情報を送信する測域センサ(測定部)48が備えられている。この測域センサ48は、昇降路12の側壁に設置されている。測域センサ48は、上下方向における昇降路12の中央位置に設置されている。
ここで、昇降路12は、図4に示すように、本例では、四つの側壁50で囲まれた空間であり、この四つの側壁50を区別する必要がある場合は、符号「50」にアルファベットA,B,C,Dを付すこととする。測域センサ48は、乗り場(不図示)側の側壁50Aに設置されている。また、測域センサ48は、図2、図4、図5に示すように、かご26および釣合おもり28の昇降経路外に設置されている。
測域センサ48は、その設置位置を含む水平面に存する昇降路12内の物体(通常、複数)の設置位置からの方向と距離を計測し、計測した方向と距離を2次元位置データとして出力する。この2次元位置データは、極座標形式である。ここで、上記の水平面を「走査面」とも称することとする。
測域センサ48は、例えば、所定角度間隔(例えば、0.125度)でレーザ光を出射して上記水平面を扇状に走査し、出射したレーザ光毎に物体まで往復してくる時間を計測し、距離に換算する光飛行時間測距法(Time of Flight)により、測域センサ48の設置位置から物体までの距離を計測する公知の2次元測域センサ(Laser Range Scanner)である。走査1回当たりの時間(走査時間)は、例えば、25msecであり、1秒当たりの走査回数は40回である。測域センサ48の走査角度αは、図4、図5に示すように180度に近い大きさであり、測域センサ48の設置位置を含む水平面における昇降路12のほぼ全域が走査範囲になっている。
かご26が測域センサ48より下方に位置するときは(図2)、図4に示すように、かご側主ロープ部分24Aが検出対象となり、かご26が測域センサ48より上方に位置するときは、図5に示すように、かご側釣合ロープ部分32Aが検出対象となる(図9(a)、図9(b)も参照)。なお、測域センサ48の設置位置を変更することで釣合おもり側釣合ロープ部分32Bや釣合おもり側主ロープ部分24Bを検出対象としてもよいし、測域センサ48を増設することで各釣合ロープ部分32A、32Bや、各主ロープ部分24A、24Bを検出対象としてもよい。
ここで、かご側主ロープ部分24Aおよびかご側釣合ロープ部分32Aの横振動に関し、図9、図10を参照しながら定義する。
図9(a)は、測域センサ48より下方にかご26が位置していて、かご側主ロープ部分24Aが検出対象となっている状態を示している。図9(b)は、測域センサ48より上方にかご26が位置していて、かご側釣合ロープ部分32Aが検出対象となっている状態を示している。図10は、本明細書における横振動に関する定義を説明するための図である。かご側主ロープ部分24Aとかご側釣合ロープ部分32Aの両方をまとめて指す場合は、単に「ロープ部分」ということとする。
図9に示すように、ロープ部分の全長をL[m]とする。Lは、かご側主ロープ部分24Aであれば、かご26との連結部から綱車22までの距離であり(図9(a))、かご側釣合ロープ部分32Aであれば、釣合車30からかご26との連結部までの距離である(図9(b))。全長Lは、上述したように、かご26の昇降位置によって変動するが、当該昇降位置に基づいて特定することができる。
昇降路12の上下方向におけるロープ部分の下端から測域センサ48までの距離をz[m]とする。zは、かご側主ロープ部分24Aであれば、主ロープ群24のかご26との連結部から測域センサ48の走査面までの距離であり、かご26の昇降位置によって変動するが、当該昇降位置に基づいて特定することができる。zは、かご側釣合ロープ部分32Aであれば、釣合車30から測域センサ48の走査面までの距離であり、かご26が測域センサ48よりも上方に位置しているとき、すなわち、検出対象がかご側釣合ロープ部分32Aであるときは、一定の距離である。
図10に示すように、ロープ部分(24A、32A)の横振動の走査面における振幅をAmea[m]とする。Ameaは、後述するようにして、測域センサ48の検出結果に基づいて、取得される振幅である。横振動の腹における振幅を最大振幅Amax[m]とする。ここで、振幅の半分、すなわち、横振動の一点鎖線で示す中心から振れの片側の変位量を片振幅と呼ぶことする。
続いて、長周期地震や強風に起因して横振動しているかご側主ロープ部分24Aおよびかご側釣合ロープ部分32Aの振幅Ameaを検出する方法、および、振幅Ameaに基づいて最大振幅Amaxを割り出す方法、最大振幅Amaxの振幅成長シミュレーションについて説明する。これらの方法は、かご側主ロープ部分24Aとかご側釣合ロープ部分32Aとで共通するため、かご側主ロープ部分24Aを代表に説明し、かご側釣合ロープ部分32Aについては必要に応じて言及するに止める。
測域センサ48から出力される2次元位置データは、制御盤44の図6に示すロープ振れ監視ユニット52に入力される。
極座標形式の2次元位置データは、図6に示すように、ロープ振れ監視ユニット52に含まれる座標変換部5202によって、水平面(走査面)に採った座標平面における直交座標(xy直交座標)に変換される。
上記直交座標は、例えば、測域センサ48(図7では不図示)の設置位置を原点とする図7(a)、図7(b)に示すようなxy直交座標である。
図7(a)には、かご側主ロープ部分24Aおよび釣合おもり側釣合ロープ部分32Bが測域センサ48の走査範囲に入っている状態(図4に示す状態)において一走査で検出された物体の座標(以下、「座標データ」と言う。)がプロットされている。
図7(a)において、プロットされた座標に対応する物体の符号を括弧付きで記すこととする(図7(b)についても同様)。
上述した測域センサ48の検出原理から理解されるように、第1の物体が検出された場合、測域センサ48から見て、第1の物体の背後に隠れた第2の物体(または、その部分)は検出されない。例えば、側壁50Bの一部が検出されていないのは、当該一部が測域センサ48から見てガイドレール36の背後に隠れているからであり、釣合ロープC1~C8が検出されないのは、釣合ロープC1~C8が主ロープM1~M8の背後に隠れているからである。
本例において、図7(a)に記した座標データの内、必要な座標データは、かご側主ロープ部分24Aに係る主ロープM1~M8の座標データであり、その他の物体の座標データは、当該主ロープM1~M8の特定のためには支障となる。なお、かご26が測域センサ48よりも上方に位置する場合には、測域センサ48の検出対象として必要となるのは、かご側釣合ロープ部分32Aに係る釣合ロープC1~C8である(図5参照)。
そこで、かご側主ロープ部分24A、およびかご側釣合ロープ部分32Aに生じ得る横振れの想定範囲を考慮し、測域センサ48の走査面(水平面)において、かご側主ロープ部分24A、およびかご側釣合ロープ部分32Aのみが存在すると想定される想定座標領域R1(図7(a)および図7(b)において、一点鎖線で囲まれた領域)を予め設定しておく。本例では、想定座標領域R1は、図7(a)に示すように、4点Q1~Q4の座標(X1,Y1)、(X2,Y2)、(X3,Y3)、(X4,Y4)によって画定される。このQ1~Q4の座標の一組は、「R1画定情報として」、ロープ振れ監視ユニット52に含まれる想定座標領域記憶部5206(図6参照)に記憶されている。
上述したように、測域センサ48から出力される2次元位置データは、座標変換部5202に入力され、座標変換部5202において極座標から直交座標に変換される。変換後の座標(座標データ)は、座標変換部5202から出力され、ロープ振れ監視ユニット52に含まれる不要座標排除部5204(図6参照)に入力される。
不要座標排除部5204(図6参照)は、想定座標領域記憶部5206に記憶されている上述したR1画定情報を参照し、座標変換部5202からの物体の座標データのうち、想定座標領域R1内に属する座標データのみを出力し、出力された座標データはロープ振れ監視ユニット52に含まれる中心座標検出部5208(図6参照)へ入力される。換言すると、不要座標排除部5204は、座標変換部5202からの物体の座標データの内、想定座標領域R1外に属する座標データを排除して出力し、出力された座標データは中心座標検出部5208へ入力される。
図7(b)は、中心座標検出部5208へ入力された座標データを直交座標にプロットした図である。図7(b)に示すように、中心座標検出部5208に入力された座標データは想定座標領域R1内に存する物体、すなわち、主ロープM1~M8に対するもののみになっている。想定座標領域R1内に存する座標データは、通常、複数個になるので、これらの座標データをまとめて「座標データ群」と称することとする。
中心座標検出部5208は、座標データ群の中心座標CX1を検出する。中心座標CX1は、座標データ群を構成する複数の座標データの算術平均として検出する。中心座標CX1は、座標平面におけるかご側主ロープ部分24A(かご側釣合ロープ部分32A)の中心座標である。
中心座標検出部5208は、検出した中心座標CX1をロープ振れ監視ユニット52に各々含まれる振幅割出部5210と振動次数推定部5212へ出力する(図6参照)。
振幅割出部5210は、中心座標検出部5208から出力される中心座標CX1から、かご側主ロープ部分24Aの振幅を割り出す。
ここで、長周期地震や強風に伴う建物14の揺れに起因してかご側主ロープ部分24Aが横振れする場合、かご側主ロープ部分24Aを構成する主ロープM1~M8の各々は、独立して横振れするものの、障害物が無い場合には、基本的には同じ挙動で横振れする。すなわち、図4に示す配列を維持したまま、横振れする。
よって、かご側主ロープ部分24Aの中心座標CX1の振幅を割り出せば、主ロープM1~M8個々の振幅を割り出したことになる。そこで、振幅割出部5210は、中心座標CX1の変位から、かご側主ロープ部分24A全体の走査面(水平面)における振幅を割り出すこととしている。
振幅割出部5210には、静止状態、すなわち、横振れが発生していない状態における中心座標CX1の初期座標が記憶されている。ここで、上記初期座標と中心座標検出部5208から出力される中心座標CX1とにおけるX座標同士またはY座標同士の差分値を求めた場合に差分値の正負が2度反転する(換言すると比較した座標の値の大小関係が2度変化するとも表現できる)と半周期分のデータが得られたこととなり、同様に、3度反転すると1周期分のデータが得られることとなる。そこで、本実施形態では、振幅割出部5210は、例えば、上記X座標同士またはY座標同士の差分値のうちいずれか一方の正負が3度反転するまで(複数回の走査に亘って)モニタリングを行う。これにより、1周期分のデータが得られる。以下、上記モニタリングを行う時間を「観測時間」と呼ぶ。
1回のモニタリングの結果を図8に示す。1回のモニタリングにおける複数の中心座標CX1は、図8(a)に示すように、直線的に列を成したり(以下、この列を「座標列」と称する。)、図8(b)に示すように、楕円状の軌跡を描いたりする。振幅割出部5210は、座標列の両端に位置する座標(Xe1,Ye1)、(Xe2,Ye2)または、楕円の長軸(不図示)の端部付近の座標(Xe1,Ye1)、(Xe2,Ye2)を抽出し、この2点間の距離Ameaを演算する。Ameaが、1回のモニタリングの観測時間中に生じた振幅Ameaとみなされる。この振幅Ameaを求める演算処理は、X座標、Y座標それぞれで実行しX座標の値、Y座標の値それぞれで評価してもよい。また、上記X座標およびY座標の値を他の座標系のデータに変換して評価してもよい、より具体的には、例えば、直交座標系の座標データを極座標系の座標データに変換した上で評価を行う場合などが考えられる。
本実施形態では、上述のように上記初期座標と中心座標検出部5208から入力される中心座標CX1との差分値の正負が3度反転するまでモニタリングすることにより1周期分の中心座標CX1の変化を観測しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上記初期座標と中心座標検出部5208から入力される中心座標CX1との差の正負が2度反転するまでモニタリングを行うことで半周期分の中心座標CX1の変化を観測することとし、半周期分のデータを2倍するなどして近似的に1周期分のデータを得るようにしてもよい。
一方、ロープ振れ監視ユニット52に各々含まれる振動次数推定部5212(図6参照)は、かご側主ロープ部分24Aの横振動の振動次数を推定する。ここで、横振動の腹が1つの振動を1次振動、腹が2つの振動を2次振動、腹が3つの振動を3次振動…とし、腹がn個の振動をn次振動として、「n(正の整数)」を振動次数とする。
振動次数推定部5212も、測域センサ48の一走査毎に中心座標検出部5208から入力される中心座標CX1を上記観測時間(複数回の走査に亘って)モニタリングする。そして、中心座標(Xe1,Ye1)から中心座標(Xe2,Ye2)に至る中心座標の個数、または、中心座標(Xe2,Ye2)から中心座標(Xe1,Ye1)に至る中心座標の個数、および測域センサ48の走査の時間間隔に基づいて、かご側主ロープ部分24Aの横振動の振動数fm[Hz]を求める。
振動次数推定部5212は、また、運転制御部54からかご26の昇降路12内の上下方向における位置情報を取得し、取得した位置情報から、かご側主ロープ部分24Aの全長L[m]を特定する。振動次数推定部5212は、下記(数1)によって、かご側主ロープ部分24Aが、1次振動(n=1)、2次振動(n=2)、3次振動(n=3)していると仮定した場合における振動数f1、f2、f3を算出する。
(数1)において、Sは主ロープM1~M8の張力、ρは主ロープM1~M8の線密度である。
振動次数推定部5212は、算出した振動数f1、f2、f3と測域センサ48を用いた検出結果の振動数fmとを比較し、振動数f1、f2、f3の内、振動数fmに最も近い振動数を特定する。特定した振動数に対応する振動次数をかご側主ロープ部分24Aの振動次数と推定する。
以上により、振動次数nの推定と、測域センサ48の走査面におけるかご側主ロープ部分24Aの振幅Ameaの検出ができる。
測域センサ48の走査面に横振動の腹(最大振幅)が現れるとは限らないため、検出された振幅から最大振幅を割り出す必要がある。これに対し特許文献2の段落[0026]13行から19行には、
『ロープ5の振動形状を弦の1次振動モードとして、…
1次振動モード形状に基づいて振幅の腹での振幅(腹振幅)を演算する。』
と記載されている。
特許文献2の上記記載に基づけば、下記(数2)によって、走査面における振幅Ameaから最大振幅Amaxを算出することができると考えられた。
すなわち、横振動を上記『1次振動モード形状』、すなわち、sin波形で表し、全長Lのロープ部分の下端から距離zにおける振幅Ameaを(数2)に代入して、最大振幅Amaxを求める。
しかしながら、本願の発明者が研究した結果、ロープ部分において現実に生じる横振動の波形は、sin波形から歪むことが判明した。よって、特許文献1に記載の考えに基づき、(数2)で算出した最大振幅Amaxは、現実の最大振幅Amaxとは異なってしまう。
また、近年の高層ビルに設置される昇降行程の非常に長いエレベータでは、ビルの長周期揺れに伴って、ロープ部分が2次振動や3次振動で横振動する場合がある。したがって、現実には2次振動あるいは3次振動しているにも関わらず、1次振動を前提に最大振幅を割り出すと、割り出した最大振幅は、現実の最大振幅よりも大きなものとなる場合がある。その結果、不必要に管制運転が実行されてしまい、運行サービスの低下を招来するおそれがある。
そこで、本願の発明者は、より現実に近い最大振幅を割り出すことを目的として研究を進めた。
先ず、ロープ部分の横振動の挙動を汎用の機構解析ソフトウェアを用いて解析した。解析結果の一例を図11に示す。図11は、ロープ部分の全長LがL=600[m]で、1次振動の場合の解析結果である。図11では、水平方向にy軸を、鉛直方向(昇降路の上下方向)にz軸を採り、便宜上、片振幅=1としたグラフである。
図11において、sin波形を一点鎖線で示している。当該sin波形は、下記(数3)で表される(0≦z≦L)。
図11において、上記ソフトウェアによる解析の結果得られたロープ部分の振れ形状(以下、「ロープ振れ形状」と言う。)を実線で示している。図11から分かるように、ロープ振れ形状の腹は、sin波形の腹よりも下がる。詳細な結果は省略するが、ロープ部分の全長Lを変化させた解析結果では、全長Lが長くなるほど、ロープ振れ形状の腹が下がる程度が大きいことが判明した。腹の位置に関する上記の傾向は、ロープ部分の自重が影響しているものと考えられる。
また、詳細な結果は省略するが、本願の発明者は、1次振動に加え、2次振動、3次振動でも解析を行い、その各々の振動モードにおいて、全長L、振幅を変化させ、解析結果(ロープ振れ形状)と対応するsin波形との比較を行った。上述の比較結果を含めて、以下にまとめる。
(i)sin波形に対しロープ振れ形状の腹および節の位置は下方へ変位する。
(ii)ロープ部分の全長が長くなるほど、ロープ振れ形状の腹および節のsin波形の腹および節に対する変位割合が大きくなり、全長Lと変位割合との間に比例関係が認められる。
(iii)ロープ振れ形状の腹および節のsin波形の腹および節に対する変位割合は、振動次数が低い程大きく、振動次数が高い程小さい。
(iv)ロープ振れ形状の腹および節のsin波形の腹および節に対する変位割合は、振幅の大きさによっては変わらない。
図11で、一点鎖線で示すsin波形に対し、実線で示すロープ振れ形状が関数で表せれば、当該関数を用いることによって、sin波形に基づいて最大振幅を割り出す従来よりも、より現実に近い最大振幅を割り出すことができる。
上記(i)に関し、sin波形に対しロープ振れ形状が、腹および節を含み全体的に下方へ変位するのは、正弦関数における位相のズレとして表現することとした。
また、振動モードも考慮し、下記(数4)を考えた。
(数4)において、位相のズレを表すf(z,L)に関しては、以下の条件(a)~(d)を満たすものとした。
(a)ロープ部分の上端と下端は固定端であるため、位相のずれは無いこと、すなわち、z=0、z=Lでf(z,L)=0となる。
(b)図11からも首肯されるように、sin波形に対し、位相のズレは、振動の腹(z=L/2)で最大となり、z=0から腹に至る間に位相のズレは漸増し、腹からz=Lに至る間に位相のズレは漸減する。なお、2次振動の場合は、振動の節で、3次振動の場合は、真ん中の腹で(いずれも、z=L/2)で、位相のズレが最大になる。
(c)また、ロープ振れ形状はsin波形に対し下方へずれるため(位相が進むため)、0<z<Lでf(z,L)>0となる。
上記(ii)に関し、(d)全長Lに対し比例関係となる。
上記(a)~(d)を満たす関数f(z,L)として、本願発明者は下記(数5)を案出した。
(数5)の右辺において、an(L)以外は、上記(i)に関し、上記(a)、(b)、(c)を満たすための項である。
(数5)において、an(L)は、下記(数6)で表される。
(数6)は、上記(ii)に関し、上記(d)を満たし、全長Lに応じて位相のズレ量を調整するためである。an(L)は、上記(iii)の傾向から、1次振動、2次振動、3次振動で異なる値をとる。
すなわち、
1次振動:a1(L)=α1・L+β1
2次振動:a2(L)=α2・L+β2
3次振動:a3(L)=α3・L+β3
である。
ここで、上記(iii)の傾向から、Lが同じ値であれば、a1(L)>a2(L)>a3(L)となる。
各振動モードにおける具体的な係数αnと定数βnの値は、以下のようにして求めることができる。
(I)複数の異なる全長L毎に、上記構造解析ソフトウェアを用いて解析しロープ振れ形状を取得する(例えば、図11における実線のグラフ)。
(II)上記複数の異なる全長L毎に、(数4)で特定される振動波形が、対応する解析結果のロープ振れ形状に最も近似するan(L)の値((数5)におけるan(L)の値)を決定する。
(III)上記全長Lの各々とこれに対応するan(L)の値からなる複数の組の関係を、最小二乗法により、Lの1次関数でan(L)を表したときのLの係数と定数として、係数αnと定数βnが求められる。
上記最小二乗法による1次関数についてもう少し詳細に説明する。
横軸に全長L、縦軸にan(L)を採った直交座標上に、上記複数の異なる全長L各々に対応する(II)で決定されたan(L)の値をプロットすると上記(ii)に記載の通り、全長Lとan(L)の間に正の比例関係が認められる。
そこで、全長Lの各々とこれに対応するan(L)の値からなる複数の組の関係を、最小二乗法を用いて1次関数に近似させる。当該1次関数におけるLの係数がαnで、定数がβnである。なお、正の比例関係なので、αn>0である。
αnとβnの具体的な値は省略するが、L=600[m]で、1次振動の場合、a1=0.6500が得られている。このときの(数5)のグラフを図12に示す。図中、実線が当該(数5)のグラフである。
横軸は、ロープ部分の下端からの距離zである。縦軸は、ロープ部分の下端からの距離zに対応するf(z,L)の値、すなわち、(数4)における位相差である。
図12から分かるように、位相差f(z,L)は、ロープ部分の下端(z=0)から横振動の腹(z=L/2=300)までは漸増し、腹で極大値を採って、腹からロープ部分の上端(z=L=600)までは漸減する。
また、位相差f(z,L)は、ロープ部分の下端(z=0)、およびロープ部分の上端(z=L)でf(z,L)=0となり、0<z<Lで正の値を採る(f(z,L)>0)。
sin波形に位相差f(z,L)を加えて定めた(数4)で表される波形は、図11の実線(上記ソフトウェアによる解析結果であるロープ振れ形状)の波形にほとんど重なることが確認されている(したがって、図11には、図示しない。)。また、1次振動、2次振動、3次振動の各々においてロープ部分の全長Lを種々に変え、上記と同様にして、係数αnおよび定数βnを決定して得られる(数4)で表される波形も、解析結果であるロープ振れ形状にほとんど重なることが確認されている。
すなわち、上記のようにして定められた(数4)で表される波形は、上記ソフトウェアによる解析結果であるロープ振れ形状(例えば、図11の実線)と良く合致することが確認されている。したがって、(数4)を用いることで、より現実に近い最大振幅を得ることができる。ここで、最大振幅(腹における振幅)は、1ではなく具体的な距離なので、(数4)は、下記(数7)の形で用いられる。
ここで、測域センサ48の走査面における振幅Ameaから最大振幅Amaxを得る式に(数7)を書き改めると、下記(数8)になる。
図6に戻り、(数8)、(数5)、および1次振動、2次振動、3次振動に対応する(数6)は、演算式記憶部5216に記憶されている。
ロープ振れ監視ユニット52に含まれる最大振幅割出部5214(図6参照)は、振幅割出部5210から出力される振幅Ameaを取得する。最大振幅割出部5214は、振動次数推定部5212から出力される振動次数n(nは、1,2,3のいずれか)を取得する。
最大振幅割出部5214は、かご26の昇降路12内の上下方向における位置情報を運転制御部54から取得し、取得した位置情報から、かご側主ロープ部分24A、又は、かご側釣合ロープ部分32Aの全長L[m]、および、いずれかのロープ部分の下端から測域センサ48の走査面までの距離zを特定する。
そして、最大振幅割出部5214は、取得した振幅Amea、振動次数n、特定した全長L、距離zから(数8)によって最大振幅Amaxを割り出す。
具体的には、取得した振動次数nに該当するan(L)を、
n=1:a1(L)=α1・L+β1
n=2:a2(L)=α2・L+β2
n=3:a3(L)=α3・L+β3
から選択し、選択した式に全長Lを代入してan(L)の値を算出する。
算出したan(L)の値と、全長L、距離zを(数5)に代入して、f(z,L)の値を算出する。
そして、振幅Amea、全長L、距離z、振動次数n(1,2,3のいずれか)、およびf(z,L)の値を(数8)に代入して演算することにより、最大振幅Amax割り出すことができる。
最大振幅割出部5214は、最大振幅Amaxをロープ振れ監視ユニット52に含まれる振れ成長予測部5218(図6参照)および運転制御部54(図6参照)へ出力する。振れ成長予測部5218は、最大振幅割出部5214から出力される最大振幅Amaxに基づいて時間経過に伴う最大振幅Amaxの成長を予測する。
次に、上記最大振幅Amaxの成長予測シミュレーションの原理について図13を用いて説明する。図13は、建物の揺れにより継続的に加振される場合においてかご側主ロープ部分24Aの横振れが時間経過に伴って成長する状態の一例を示す振動波形図である。同図では、最大振幅Amaxの横振れが発生している上下方向位置の振動波形を、振動(振れ)回数を横軸に示し振れ幅を縦軸として示している。図13に実線で示す振動波形は既に観測された部分の波形であり、P1,P2,P3,・・・Pu-1,Puは実線部分に含まれることから理解されるように既に測定された各振れ回数における最大振幅の位置を各々示している。
P1は、最大振幅の大きさが上記予測値のシミュレーションを開始するために設定される閾値γ(本例では、一例としてγ=100mm)以上となった第1回目の横振れにおける最大振幅Amax(U=1)を示す。ここで、Uは振動回数、すなわち、振れ回数を示し、U=1は上記第1回目の横振れにおける最大振幅であることを示す。また、以下の説明において、最大振幅「Amax(U)」または最大振幅「Amax」と表記する場合には、測定時点において最も時間経過の少ない横振れにおける最大振幅を示すものする。
同様に、P2は、上述したP1の次の横振れ、すなわち、第2回目の横振れにおける最大振幅Amax(U=2)を示し、U=2は第2回目の横振れにおける最大振幅であることを示す。P3においても、P2と同様であり、最大振幅Amax(U=3)、U=3は第3回目の最大振幅であることを示す。
一方、図13に破線で示す振動波形は、測定時点よりも未来において加振状態が継続した場合に予想されるかご側主ロープ部分24Aにおける横振れの振動波形を示すものであり、図13に示されるようにPcr、Pesは破線部分に含まれる横振れにおける最大振幅Amaxの位置を各々示している。ここで、Pcrは最大振幅Amaxの大きさが振れ高HVに到達したとき、すなわち、振れ高HV以上の大きさに最初に到達するときの最大振幅Amax(U=CR)を示すものである。U=CRは振れ回数がCR番目であることを示す。ここで、「振れ高」とは、主ロープや釣合ロープなどの長尺のロープが昇降路内に設置された機器と接触し、機器を変形させる可能性のある振れ幅を意味する。
また、Pesは、最初に所定の振れ幅LV以上となったときの最大振幅Amax(U=ES)の位置を示し、U=ESは振れ回数がES番目であることを示す。この振れ幅LVは、最大振幅Amaxが上述した振れ高HVに達するまでの残り時間の長さが初めて退避許容時間ES以下となるときの振れ幅を示している。退避許容時間ESは、乗りかご26が停止している状態から昇降移動を開始するのに要する時間を含むように設定される。より具体的には、退避許容時間ESは、後述する振れ抑制管制運転の実行時にかご扉(不図示)を閉めて乗りかご26が昇降移動可能な状態となるまでに要する時間の長さに設定しもよい。さらに、かご扉を閉めるのに要する時間の他、乗りかご26から乗客を降ろすのに要する時間や一定の余裕時間を含むものとして退避許容時間ESを設定してもよい。
また、非共振階とは、主ロープ群24や釣合ロープ群32が建物の揺れに共振しない上下方向位置に位置している階を意味し、例えば、最上階および最下階の中間に位置する階、より具体的には、最上階および最下階からの距離がほぼ等距離となるような位置にある階などが該当する。
ここで、図13に示す包絡線ENは振動波形における最大振幅Amaxの位置を通る曲線であり、同曲線の近似曲線(以下、「振れ成長曲線D」と呼ぶ)を上述したPu、Pu-1の関数として求めることにより上記Pcr、Pesの近似値を得ることが可能となる。この振れ成長曲線Dは、以下のような関数として算出される。
ここで、(数10)に含まれる係数Kおよびηは、汎用の機構解析ソフトウェアを用いた計算シミュレーションや実測値に基づいて算出される定数である。なお、上記計算シミュレーションで算出する場合には、建物を介して一定の加振力が主ロープ群24や釣合ロープ群32に継続的に加えられることを条件に算出することが好適である。D(U)は振動回数がU回目における最大振幅Amax(U)の予測値であり、D(U‐1)は最大振幅割出部5214が算出した測定時点における最大振幅Amaxを意味する。
そして、上記(数9)を用いればPu+1における最大振幅Amax(U+1)は、以下(数11)により求められる。
上記(数11)に示されるように、Pu+1における最大振幅Amax(U+1)の予測値D(U+1)を得ることができる。そして、同様の計算を繰り返すことにより、Pu+2,Pu+3,・・・Pes,・・・Pcrにおける最大振幅Amaxの各予測値D(U+2),D(U+3),・・・D(U=es),・・・D(U=cr)を順次算出することが可能となる。ここで、3<es<crであり、es,crはいずれも正の整数とする。
振れ成長予測部5218は、上述したPu-1,Puにおける最大振幅Amax(U-1),Amax(U)と上述した振れ成長曲線Dに基づいて、Pu+1,Pu+2,・・・Pes,・・Pcrにおける最大振幅の予測値D(U+1),D(U+2),・・・D(U=es),・・・D(U=cr)を各々算出する。
運転制御部54は、最大振幅割出部5214を介して算出された最大振幅Amaxが振れ成長予測部5218の算出する予測値D(U=es)以上であることを条件に振れ抑制管制運転を実行する。この振れ抑制管制運転とは、乗りかご26が乗場に停止している場合に同乗場に乗客を降ろしてから非共振階に乗りかご26を昇降移動させる運転モードである。これにより、主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れを抑制することができる。
本実施形態では、上述のように乗りかご26を非共振階に移動させて停止させることにより主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れを抑制しているが、本発明はこれに限定されるものではない。発明者らが鋭意検討を重ねたところ、乗りかご26を非共振階に停止させなくとも、乗りかご26の昇降移動により同移動中において主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れは増幅されないとの知見が得られている。従って、振れ抑制管制運転として、建物の揺れが収束するまでの間、乗りかご26を昇降移動させ続けるようにしてもよい。この場合においても、本実施形態のエレベータ10と同様の効果を得ることができる。
一方、運転制御部54は、何らかの要因によって振れ抑制管制運転の実行中に最大振幅割出部5214の算出する最大振幅Amaxが振れ高HV以上の大きさになった場合には、振れ抑制管制運転から休止管制運転に管制運転モードを切り換えて実行するように構成されている。
この休止管制運転とは、最寄り階の乗場まで乗りかご26を移動させてかご扉(不図示)を戸開して乗客を降ろし、さらに、予め設定された時間の経過後にかご扉を戸閉するとともに昇降運転を停止させる運転モードである。但し、休止管制運転が実行される場合は、前提として主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れが振れ高HVに到達している状態であるため、例えば、昇降路12内に設置されている機器に異常が生じているか否かなど点検作業を行って確認した後でなければ通常の運行サービスを再開することができない。このため、上記振れ抑制管制運転が実行された場合と異なり主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れが収束しても運行サービスを再開するまでに比較的長い時間を要することとなる。
図14は、上述した運転制御部54における主ロープ群24や釣合ロープ群32に横振れが発生した場合の管制運転制御の流れを示すフローチャートである。図14を用いて主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れが発生した場合の運転制御部54における制御処理の流れについて説明を行う。
図14に示すように、運転制御部54は、測域センサ48の検出結果に基づいて主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れが検知されると(ステップS1)、最大振幅割出部5214を介して算出される最大振幅Amaxの大きさが振れ高HV未満であり、且つ、最大振幅の大きさが閾値γ以上であることを条件に、振れ回数Uの計数(カウント)を振れ成長予測部5218に実行させる(ステップS1:YES,ステップS2:YES,ステップS3:YES,ステップS4)。一方、ステップS2において、最大振幅Amaxの大きさが振れ高HV以上の大きさに既に達していると判断した場合には(ステップS2:NO)、運転制御部54は休止管制運転を実行する(ステップS17)。これにより、乗りかご26内から乗客をいち早く退避させるとともに昇降路12内に設置されている機器の損傷を最小限に抑えることができる。
振れ成長予測部5218は、振れ回数Uが2回以上であることを条件に予測値D(U=es)の計算を実行する(ステップS5:YES,ステップS6)。ここで、ステップS6において上記振れ回数が1回増加するごとに予測値D(U=es)の再計算を実行して予測値D(U=es)を更新するようにしてもよい。
これにより、測域センサ48から出力される最新の最大振幅Amaxの値を用いて予測値D(U=es)を算出することができる。但し、振れ成長予測部5218は、必ずしも振れ回数が1回増加するごとに再計算を行う必要はなく、所定回数ごとに、或いは、所定時間ごとに予測値D(U=es)の再計算を実行するものとしてもよい。
さらに、運転制御部54は、最大振幅Amaxの大きさが予測値D(U=es)以上の大きさに達している場合には(ステップS7:YES)、ステップS6で算出された予測値D(U=es)を値(所定の基準値)DVとして振れ成長予測部5218に記憶させるとともに(ステップS8)、振れ抑制管制運転を実行する(ステップS9)。
ここで、運転制御部54は、振れ抑制管制運転の実行中に最大振幅Amaxの大きさが値DVより小さくない場合(ステップS10:NO)で、且つ、振れ高HV以上の条件を満たす場合には(ステップS14:YES)、振れ抑制管制運転から休止管制運転に切り換える(ステップS17)。これにより、振れ抑制管制運転の実行中、仮に、最大振幅Amaxが振れ高HVの大きさまで増大したとしても休止管制運転に切り換えることで乗客をいち早く乗りかごから退避させつつ昇降路12内の機器の損傷を最小限に抑えることが可能となる。
一方、運転制御部54は、振れ抑制管制運転の実行中に最大振幅Amaxの大きさが、値DV以上であり(ステップS10:NO)、且つ、振れ高HV未満であることを条件に(ステップS14:NO)、振れ抑制管制運転を開始してから最大振幅Amaxの大きさが値DV以上の状態に維持されている間の振れ幅超過時間(予め設定された時間)T3を測定する(ステップS10:NO,ステップS14:NO,ステップS15)。
さらに、運転制御部54は、最大振幅Amaxの大きさが値DV未満の大きさに変化した場合には(ステップS10:YES)、最大振幅Amaxが値DV未満の状態に変化してから経過した時間の長さである振れ幅低下時間T4を測定する(ステップS11)。そして、運転制御部54は、上記振れ幅低下時間T4の長さがステップS15で算出した振れ幅超過時間T3以上の時間長さとなったことを条件に振れ抑制管制運転を終了する(ステップS12:YES,ステップS13)。
ここで、ステップS10において、最大振幅Amaxが値DV未満であることを条件にステップS11およびステップS12の処理を経由せずに、ステップS13の処理に進むものとして振れ抑制管制運転を終了するものとしてもよい。
しかしながら、主ロープ群24や釣合ロープ群32のロープ振れにおいて最大振幅Amaxが時間経過とともに増減を繰り返すうねり現象が生じている場合が考えられ、このような場合において、最大振幅Amaxが値DV未満であることのみを以て振れ抑制管制運転を終了することとした場合、ロープ振れのうねりが繰り返される間、振れ抑制管制運転が断続的に実行されてしまい通常の運行サービスがたびたび中断される可能性がある。
そこで、本実施形態では、最大振幅Amaxが値DV未満となってからの振れ幅低下時間T4の長さがステップS15で測定される振れ幅超過時間T3の長さ以上となることを条件として振れ抑制管制運転を終了することとしている(ステップS10:YES,ステップS11,ステップS12:YES,ステップS13)。これにより、振れ抑制管制運転が断続的に実行されるのを抑制できる。
また、運転制御部54は、上記振れ幅低下時間T4の長さがステップS15で算出した振れ幅超過時間T3の長さ以下との条件を満たさない場合には(ステップS12:NO)、振れ幅低下時間T4をリセットし(ステップS16)、ステップS10の処理に戻る。
本実施形態では、最大振幅Amaxの大きさが予測値D(U=es)以上の大きさに達している場合には(ステップS7:YES)、ステップS6で算出された予測値D(U=es)を値DVとして保持し、この値DVをステップS10の振れ抑制管制運転の解除条件の1つとして用いている。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、値DVの代りに予め設定された固定値を用いてもよい。
本実施形態では、ステップS12において、運転制御部54は、ステップS11で測定される振れ幅低下時間T4の長さがステップS15で算出した振れ幅超過時間T3以上の時間長さとなったことを条件に振れ抑制管制運転を終了するが(ステップS12:YES,ステップS13)、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ステップS12において、運転制御部54は一定時間経過することを条件に振れ抑制管制運転を終了するようにしてもよい(ステップS13)。
本実施形態のエレベータ10によれば、主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れの経時的変化に基づいて予め設定された振れ幅である振れ高HVに横振れが到達するまでの残り時間が退避許容時間ES以下となるときの横振れの大きさである予測値D(U=es)を算出し、測定される横振れの大きさが予測値D(U=es)の大きさ以上になった場合に振れ抑制管制運転を実行する。
このため、上記予測した横振れの大きさ以上に主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れの大きさが大きくなった場合にだけ振れ抑制管制運転を行って上記ロープの横振れを抑制することができる。この結果、通常の運行サービスが不必要に中断される頻度を抑制しつつ上記ロープの横振れを抑制することが可能となる。
また、本発明は上記実施形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下の形態としても構わない。
(1)上記実施形態では、振動次数推定部5212によって推定した振動次数nを用いて、最大振幅Amaxを割り出した。
しかしながら、エレベータ10が設置される建物14の高さ(昇降行程)、建築構造等で定まる建物14の振動特性によっては、ロープ部分(かご側主ロープ部分24A、かご側釣合ロープ部分32A)に生じる横振動の振動モードは、特定の振動次数のものに限られる場合がある。
この場合は、振動次数推定部5212によらなくとも、振動次数は予め判っているため、(数8)に代入する振動次数nは、1、2、および3の何れかの予め決められた値としても構わない。その際、必ずしも、振動次数推定部5212は設ける必要は無い。
(2)上記実施形態では、測域センサ48を、上下方向における昇降路12の中央位置に設置したが、設置位置はこれに限らない。例えば、昇降路12の全長に対して昇降路12の底部から1/4の高さの位置に設置しても構わない。あるいは、昇降路12の底部から3/4の高さの位置に設置しても構わない。
(3)測域センサは1台に限らず、昇降路12の上下方向の異なる位置に複数台設置しても構わない。
(4)上記実施形態では、主ロープM1~M8(釣合ロープC1~C8も同様)の全ての検出結果である座標データ群の中心座標CX1に基づいて、主ロープM1~M8の振幅を求めたがこれに限らず、主ロープM1~M8の内の一の主ロープの座標データから振幅を求めるようにしても構わない。
(5)上記実施形態では、sin波形をロープ振れ形状に近づけるための位相差f(z,L)を(数5)で表しているが、f(z,L)は、(数5)に限らず、例えば、下記(数12)、下記(数13)としても構わない。
(数12)におけるbn(L)、(数13)におけるcn(L)は、(数5)のan(L)と同じ形式の下記数式で表される。
bn(L)=αn・L+βn
cn(L)=αn・L+βn
bn(L)とcn(L)における係数αnと定数βnは、an(L)の場合と同様にして求められる。
αnとβnの具体的な値は省略するが、L=600[m]で、1次振動の場合、b1=0.1625、c1=0.7346が得られている。この場合の(数12)のグラフを図12に一点鎖線で、(数13)のグラフを破線でそれぞれ示す。
図12から分かるように、(数12)も(数13)も(数5)と同様の要件を満たす関数である。
すなわち、f(z,L)は、zを横軸、f(z,L)を縦軸に採った座標において、
(a)z=0およびz=Lでf(z,L)=0
(b)0<z<Lでf(z,L)>0
(c)上に凸でかつz=L/2で極大
となる。
(d)また、(数5)、(数12)、(数13)各々のan(L)、bn(L)、cn(L)におけるLの係数αnは、上記したようにαn>0なので、f(z,L)は、Lが大きい程大きな値となる。
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
本発明のエレベータは、長尺のロープを用いて互いに連結された状態で釣瓶式に吊り下げられた乗りかごおよび釣合おもりを含むエレベータであり、ロープの横振れを測定する測定部と、測定部の測定結果に基づいて割り出されるロープの振幅が予め設定された大きさに成長するまでの残り時間が所定の許容時間以下となるときのロープの振幅の大きさを予測する振れ成長予測部と、測定部の測定結果に基づいて割り出されるロープの振幅が振れ成長予測部の予測するロープの振幅の大きさ以上となる場合に、乗りかごを昇降させることによりロープの横振れが大きくなるのを抑制する振れ抑制運転を実行する運転制御部と、を含むものである。