JP2023119705A - 絶縁電線のエナメル層の破断伸び予測方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】得られる絶縁電線のエナメル層の破断伸びを高精度に予測する方法、当該予測方法を利用し、エナメル層を所望の破断伸びに制御することを含む絶縁電線の製造方法、及びこの製造方法により得られた絶縁電線を用いたコイル、回転電機及び電気・電子機器を提供する。【解決手段】エナメル層の層数をN、前記エナメル層中の有機溶剤濃度をZ(ppm)として、下記式1に基づき前記エナメル層の破断伸びY(%)を予測する、絶縁電線のエナメル層の破断伸び予測方法。Y=a×{N×ln(c×Z)}+b ・・・式1ただし、上記式1中、a、b、cは定数である。Nは35以下の自然数、Zは100~4000ppmである。【選択図】なし

Description

本発明は、絶縁電線のエナメル層の破断伸び予測方法に関する。
高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気・電子機器用コイルには、マグネットワイヤとして、線状金属導体の外周面に樹脂製の絶縁皮膜を備えた絶縁電線が用いられている。絶縁電線の絶縁皮膜として、絶縁性樹脂のワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成した多層エナメル層、熱可塑性樹脂の押出被覆層、及びこれらを組み合わせてなる層が知られている。
モーターや変圧器に代表される電気・電子機器は、小型化と高性能化の要求が高まっており、絶縁電線は巻線加工(コイル加工)されて、狭い領域に押し込んで使用されるようになっている。このような絶縁電線には、絶縁皮膜による高度な絶縁性に加え、曲げや伸びなどの加工を施した際に絶縁皮膜に亀裂等が生じない特性が求められる。例えば特許文献1は、絶縁電線のコイル加工の際に、絶縁電線同士が強く擦れ合い絶縁電線の破断伸びを越える力がかかると、絶縁皮膜に亀裂が生じる問題を提起している。
特許第5778331号公報
絶縁電線のコイル加工などにおいて絶縁皮膜の亀裂等を防ぐために、絶縁皮膜には所望の破断伸びを有することが求められる。したがって、絶縁皮膜を構成するエナメル層も、所望の破断伸びを有する特性へと制御することが求められる。しかし、エナメル層の破断伸びを精度良く予測する技術は知られていない。それゆえ、現実は、得られた絶縁電線のエナメル層の破断伸びを実際に測定し、製造条件の試行錯誤のもとで、所望の破断伸びのエナメル層を有する絶縁電線が製造されている。
本発明は、得られる絶縁電線のエナメル層の破断伸びを、高精度に予測する方法を提供することを課題とする。また、本発明は、当該予測方法を利用し、エナメル層を所望の破断伸びに制御することを含む絶縁電線の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、この製造方法により得られた絶縁電線を用いたコイル、回転電機及び電気・電子機器を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた。その結果、エナメル層の層数が多いほど、また、エナメル層中の有機溶剤濃度が高いほど、エナメル層の破断伸びが低下すること、そして、エナメル層の破断伸びを、エナメル層の層数とエナメル層中の有機溶剤濃度を変数とする特定の関係式によって、高精度に予測できることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
すなわち、本発明の上記課題は、以下の手段によって解決された。
〔1〕
エナメル層の層数をN、前記エナメル層中の有機溶剤濃度をZ(ppm)として、下記式1に基づき前記エナメル層の破断伸びY(%)を予測する、絶縁電線のエナメル層の破断伸び予測方法。

Y=a×{N×ln(c×Z)}+b ・・・式1

ただし、上記式1中、a、b、cは定数である。Nは35以下の自然数、Zは100~4000ppmである。
〔2〕
エナメル層の破断伸びY(%)を設定し、設定した破断伸びY(%)になるように、前記エナメル層の層数N、前記エナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)を下記式1に基づき決定し、導体の周囲に形成するエナメル層を、決定したエナメル層の層数Nとエナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)へと制御することを含む、絶縁電線の製造方法。

Y=a×{N×ln(c×Z)}+b ・・・式1

ただし、上記式1中、a、b、cは定数である。Nは35以下の自然数、Zは100~4000ppmである。
〔3〕
前記破断伸びY(%)を60%以上とする、前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕
前記エナメル層がポリイミドを含む熱硬化性樹脂層であり、前記定数cが0.03~0.05である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕
前記エナメル層の層数Nが、15~35の自然数である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕
前記エナメル層中の有機溶剤濃度Zが、800~4000ppmである、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕
前記〔2〕又は〔3〕に記載の方法で絶縁電線を得て、該絶縁電線を用いてコイルを製造することを含む、コイルの製造方法。
〔8〕
前記〔7〕に記載の方法でコイルを得て、該コイルを用いて回転電機又は電気・電子機器を製造することを含む、回転電機又は電気・電子機器の製造方法。
本発明ないし本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また本発明ないし本明細書において、濃度の単位として記載する「ppm」は質量基準である。
本発明のエナメル層の破断伸び予測方法によれば、エナメル層の層数N及びエナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)により、前記エナメル層の破断伸びを高精度に予測することができる。
また本発明の絶縁電線、コイル、回転電気又は電気・電子機器の製造方法によれば、所望のエナメル層の破断伸びを有する絶縁電線、コイル、回転電気又は電気・電子機器を得ることができる。
図1は、実験例1~13の各絶縁電線において、エナメル層の破断伸びと、エナメル層の層数N及びエナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)から導き出される数値との散布図を示すグラフである。
[絶縁電線のエナメル層の破断伸び予測方法]
本発明の絶縁電線のエナメル層の破断伸び予測方法(以下、「本発明の予測方法」とも称す。)において、予測値であるエナメル層の破断伸びY(%)は、予め取得した回帰直線に前記エナメル層の層数N、及び前記エナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)を代入することによって算出することができる。本発明ないし本明細書において、「エナメル層の破断伸びY(%)」とは、破断した引張試験片(エナメル試験片)の標線間距離の増加分を、初めの標線間距離に対して百分率で表した値を言う。したがって、例えば破断伸び100%とは、破断時に標線間距離が2倍になったことを意味する。
なお、エナメル層の破断伸び(実測値)は、常法の引張試験によって測定することができ、例えば実施例に記載の試験方法によって算出することができる。具体的には、絶縁電線からエナメル層を剥離し、剥離後のエナメル層を試験片として、引張試験機を用いて50mm/分の速さで伸長し、切断時の標線間距離を測定することにより、エナメル層の破断伸び(実測値)を測定することができる。
本発明の予測方法に用いる回帰直線(上記式1:「Y=a×{N×ln(c×Z)}+b」)は、エナメル層が複層からなる場合には、各エナメル層の樹脂材料(素材)が同一であることを前提とする。なお、各エナメル層中の有機溶剤種(ワニスの溶媒)は、後述する実施例に示す通り、上記式1の成立には事実上影響しない。上記式1において、定数a、b、cは、実際に製造した複数の絶縁電線におけるエナメル層の層数N、エナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)、及びエナメル層の破断伸びY(%)の実測値に基づき、決定係数が最も高くなるように最小二乗法により決定することができる。すなわち、エナメル層の層数N及び/又はエナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)が異なる複数の絶縁電線を製造し、得られた絶縁電線のエナメル層の破断伸びY(%)を実測する。これらの層数N、有機溶剤濃度Z、破断伸びYを上記式1に当てはめて得られる複数の式において、いずれの式にも妥当する最適な定数a、b、cを決定することにより、定数a、b、cを定めることができる。
定数a、b、cを決定するために用意する、エナメル層の層数N及び/又はエナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)が異なる複数の絶縁電線の数は、多い方が、予測精度が高まる点で好ましい。当該複数の絶縁電線の数は、3以上が好ましく、5以上が好ましく、7以上がより好ましく、9以上がより好ましく、11以上がさらに好ましい。定数a、b、cを決定するために用意する、当該複数の絶縁電線の数、各絶縁電線のエナメル層数と有機溶剤濃度のバリエーションは、この種の関係式の定数の決定における当業者の技術水準に照らして、また、所望する予測精度も考慮して、当業者であれば適宜に設定することができる。予測精度をより高める観点からは、当該複数の絶縁電線において、破断伸びYは、65~75%の範囲内と範囲外とをカバーしていることが好ましい。
定数a、b、cの値は、上記の複数の絶縁電線において、横軸を「{N×ln(c×Z)}」、縦軸を「Y」として、N、Z、Yには実際の値を当てはめた上で、a、b、cに特定の値を当てはめてプロットしたとき、当該プロットと、それらのプロットの近似直線との差の二乗の総和が最小となる当該近似直線(最小二乗回帰による回帰直線)を導くa、b、cの値とすることができる。このようなa、b、cの決定は、市販の表計算ソフトウェア等を用いて行うことができる。
Yと{N×ln(c×Z)}との間の決定係数は0.8以上が好ましく、0.9以上がより好ましく、0.95以上がさらに好ましい。エナメル層の形成に用いる樹脂種がすべて同じであれば、上記決定係数は通常は0.95以上となる。
本発明の予測方法において、破断伸びを予測する絶縁電線は、導体と、該導体の外周を覆うエナメル層とを有する。前記導体の種類や大きさは特に制限されず、絶縁電線として一般的に用い得る導体であればよい。前記導体の長手方向と直交する断面形状は特に限定されるものではない。例えば、円形または矩形(平角形状)の断面形状の導体が挙げられる。本発明では、断面形状が矩形の導体、すなわち平角導体が好ましい。
本発明の予測方法に用いる絶縁電線は、絶縁皮膜としてエナメル層を有する。前記絶縁皮膜は、単層又は複層のエナメル層であってもよく、さらに当該エナメル層の外周に押出層等の他の層を有する複層構造であってもよい。なお、本発明ないし明細書において、同一の樹脂ワニスの塗布、焼付けを複数回繰り返すことによって形成されたエナメル層は、単層ではなく、複層のエナメル層である。
本発明の予測方法において、前記エナメル層とは、絶縁皮膜を構成する樹脂を溶解してなるワニスの塗布、焼付けにより形成される層である。前記エナメル層の層数Nは35以下の自然数であり、15~35の自然数であることが好ましく、18~34の自然数であることがより好ましく、21~33の自然数であることがさらに好ましい。なお、本発明ないし本明細書において、エナメル層の層数Nと、樹脂ワニスの塗布、焼付けの繰り返し数は同じである。
前記エナメル層全体の厚さは、占積率と部分放電開始電圧の向上の観点から、50~160μmであることが好ましく、90~150μmであることがより好ましく、100~140μmであることがより好ましく、100~130μmであることがさらに好ましい。
また、エナメル層の各層の厚さの平均(エナメル層の全体の膜厚を、エナメル層の層数で除した値)は、2~6μmが好ましく、3~6μmがより好ましく、4~6μmがさらに好ましい。また、エナメル層の各層の厚さも、2~6μmが好ましく、3~6μmがより好ましく、4~6μmがさらに好ましい。
前記エナメル層中の有機溶剤(有機溶媒)濃度Z(ppm)は、100~4000ppmであり、500~4000ppmであることが好ましく、800~4000ppmであることがより好ましい。
エナメル層中の有機溶剤濃度Zは、常法に従って測定することができ、例えば実施例に記載の方法によって測定することができる。
前記有機溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、N,N-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素等の尿素系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-カプロラクトン等のラクトン系溶媒、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム系溶媒、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、クレゾール、フェノール、ハロゲン化フェノールなどのフェノール系溶媒、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。中でも、樹脂との水素結合によるワニス安定性の観点から、前記有機溶剤は非プロトン性溶媒が好ましく、DMAc及び/又はNMPを含むことが好ましく、DMAc及び/又はNMPであることがより好ましい。
また上記有機溶剤等は、1種のみが単独で使用されていてもよく、2種以上が併用して使用されていてもよい。
前記エナメル層は熱可塑性樹脂層でもよく、熱硬化性樹脂層でもよく、熱硬化性樹脂層であることが好ましい。エナメル層の形成に用いる樹脂は特に限定されない。例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、及びポリエステルイミド(PEsI)などのイミド結合を有する熱硬化性樹脂、ポリウレタン(PU)、熱硬化性ポリエステル(PEst)、H種ポリエステル(HPE)、ポリイミドヒダントイン変性ポリエステル、ポリヒダントイン、ポリベンゾイミダゾール、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。エナメル層は、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びポリエーテルイミドの少なくとも1種を含むことがより好ましく、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを含む熱硬化性樹脂層であることがより好ましく、ポリイミドを含む熱硬化性樹脂層であることがさらに好ましく、熱硬化性ポリイミド樹脂層であることも好ましい。
前記ポリイミド(PI)の種類は特に限定されず、全芳香族ポリイミドまたは熱硬化性芳香族ポリイミドなど、通常のポリイミドを用いることができる。また、常法により、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物を極性溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸溶液を用い、焼付け時の加熱処理によってイミド化させることによって得られるものを用いることができる。
商業的に入手可能なポリイミド(PI)としては、例えば、メイレジコート NK-27D(商品名、株式会社名古屋化学工業所製)、メイレジコート NK-26N(商品名、株式会社名古屋化学工業所製)、Uイミド(商品名、ユニチカ社製)、U-ワニス(商品名、宇部興産社製)等が挙げられる。
例えば、前記エナメル層がポリイミド樹脂を含むワニスを塗布、焼付けを複数回行うことにより形成される層である場合、一形態において、前記定数(係数)aは-0.40~-0.30であり、定数(切片)bは105~120であり、定数cは0.03~0.05である。後述する実施例のように、ポリイミド(PI)ワニス(型番:メイレジコートNK-27D、有機溶剤:DMAc、株式会社名古屋化学工業所製)やポリイミド(PI)ワニス(型番:メイレジコート NK-26N、有機溶剤:NMP、株式会社名古屋化学工業所製)を塗布、焼付けしてエナメル層を形成する場合、例えば、定数aは-0.36~-0.34、定数bは111~114、定数cは0.03~0.04である。
[絶縁電線の製造方法]
本発明の絶縁電線の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも称す。)は、本発明の予測方法を利用して、所望の破断伸びを有する絶縁皮膜を有する絶縁電線を得る方法である。本発明の製造方法は、より詳細には、エナメル層の破断伸びY(%)を設定し、設定した破断伸びY(%)になるように、前記エナメル層の層数N、前記エナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)を下記式1に基づき決定し、導体の周囲に形成するエナメル層を、決定したエナメル層の層数Nとエナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)へと制御することを含む。

Y=a×{N×ln(c×Z)}+b ・・・式1

ただし、上記式1中、a、b、cは定数である。Nは35以下の自然数、Zは100~4000ppmである。
本発明の製造方法によって製造される絶縁電線は、導体と、該導体の外周を覆うエナメル層とを有する。
また本発明の製造方法において製造される絶縁電線において、設定するエナメル層の破断伸びY(%)(目標とするエナメル層の破断伸びY(%))が好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上となるように、絶縁電線の製造方法における製造条件を決定することが好ましい。具体的には、前記設定値であるエナメル層の破断伸びY(%)が上記の範囲となるように、前記エナメル層の層数Nと前記エナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)を制御することが好ましい。
本発明の製造方法により製造される絶縁電線は、導体の外周面に、絶縁皮膜を形成する工程を経て製造される。絶縁皮膜の形成は、基本的には、絶縁電線の絶縁皮膜の形成において通常用いられる方法を適宜に適用することができる。例えば、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を含有するワニスを塗布・焼付けしてエナメル層を形成し、必要により熱可塑性樹脂による押出被覆層を設けることができる。
(エナメル層の形成)
本発明の製造方法において、前記エナメル層は、目的の樹脂ワニス(絶縁ワニス)を調製し、当該樹脂ワニスを塗布して焼付ける塗布・焼付けを、通常は複数回繰り返す工程により形成される。樹脂ワニスを導体上に塗布する方法は、常法でよく、例えば、導体形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法や、導体断面形状が矩形である場合、井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いることができる。
前記樹脂ワニスは、前述のように市販品を使用してもよく、この場合は、有機溶媒に溶解されていることから、有機溶媒を含有している。
樹脂ワニスの塗布、焼付けの繰り返し数は、所望のエナメル層の破断伸びとなるように設定することができる。また、上記エナメル層の層数Nとなるように設定することができる。すなわち、前記繰り返し数は35回以下であり、15~35回であることが好ましく、18~34回であることがより好ましく、21~33回であることがさらに好ましい。
樹脂ワニス塗布後の焼付けは、常法により行うことができ、例えば焼付け炉で焼付けすることができる。焼付けの条件は、エナメル層中の有機溶剤濃度が所望の量となるように設定することができる。例えば、炉温、線速等の条件を設定することにより、所望の有機溶剤濃度を有するエナメル層を得ることができる。
より具体的には、エナメル層中の有機溶剤濃度を高くする場合、炉温を下げ、線速を速くすることで有機溶剤濃度を高くすることができる。逆に、エナメル層中の有機溶剤濃度を低くする場合、炉温を上げ、線速を遅くすることで有機溶剤濃度を低くすることができる。具体的な焼付け条件は、その使用される炉の形状等に左右され一義的に決定できないが、およそ8mの自然対流式の竪型炉であれば、例えば、炉温を600℃とし、線速を19.4m/分とすることにより、エナメル層中の有機溶剤濃度を比較的高くすることができる。また、炉温を620℃とし、線速を17.5m/分とすることにより、エナメル層中の有機溶剤濃度を比較的低くすることできる。このようなエナメル層中に残留する有機溶剤濃度は、各製造現場において、予備試験等に基づき高精度に制御可能である。
(樹脂ワニス)
前記樹脂ワニスに含まれる樹脂としては、前述した樹脂を適用することができる。また、前記樹脂ワニスに含まれる、樹脂をワニス化させるための有機溶媒(有機溶剤)も、上述した有機溶剤を適用することができる。
また前記樹脂ワニスは、必要により、密着助剤、気泡形成用発泡剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤およびエラストマーなどの各種添加剤を含有してもよい。また、前記樹脂ワニスは、特性に影響を及ぼさない範囲で、無機微粒子を含有してもよい。このような無機微粒子としては、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。
[コイル、回転電機および電気・電子機器]
本発明の製造方法により製造される絶縁電線は、コイルとして、回転電機、各種電気・電子機器など、電気特性(耐電圧性)と耐熱性を必要とする分野に利用可能である。例えば、本発明の絶縁電線はモーターやトランス等に用いられ、高性能の回転電機、電気・電子機器を構成できる。特にハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)などの駆動モーター用の巻線として好適に用いられる。
本発明のコイルの製造方法は、本発明の製造方法により得られる絶縁電線をコイル加工して形成すること、又は本発明の製造方法により得られる絶縁電線を曲げ加工した後に所定の部分を電気的に接続すること等により、所望の破断伸びを有する絶縁皮膜を有する絶縁電線が組み込まれたコイルを得る方法である。また本発明の回転電機又は電機・電子機器の製造方法は、本発明のコイルの製造方法によって製造されるコイルを用いて、回転電機又は電機・電子機器を製造する方法である。
本発明の製造方法により製造される絶縁電線をコイル加工して形成したコイルとしては、特に限定されず、長尺の絶縁電線を螺旋状に巻き回したものが挙げられる。このようなコイルにおいて、絶縁電線の巻線数等は特に限定されない。通常、絶縁電線を巻き回す際には鉄芯等が用いられる。
以下に、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
[実験例1]
導体として、断面平角(長辺3.5mm×短辺2.0mmで、四隅の面取りの曲率半径r=0.3mm)の平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
ポリイミド(PI)ワニス(型番:メイレジコート NK-27D、有機溶剤:DMAc、株式会社名古屋化学工業所製)を、断面形状が導体と相似形のダイスを使用して導体の表面に塗布し、下記表1に記載の炉内温度に設定した炉長8mの自然対流式焼付炉内を、下記表1に記載の線速(m/分)で通過させ、これを下記表1に記載の層数となるように複数回繰り返すことで、平均厚さ100μmのエナメル層を形成し、絶縁電線を得た。なお、得られたエナメル層の各層の膜厚は、いずれも平均厚さから±1μmの範囲内であった。
[実験例2~6、9~13]
炉内温度、線速、層数(繰り返し数)及び平均厚さを下記表1に記載の条件とした以外は、実験例1と同様にしてエナメル層を形成し、絶縁電線を得た。なお、得られたエナメル層の各層の膜厚は、いずれも平均厚さから±1μmの範囲内であった。
[実験例7、8]
PIワニスとして、株式会社名古屋化学工業所製のPIワニス(型番:メイレジコート NK-26N、有機溶剤:NMP)を用い、かつ炉内温度、線速、層数(繰り返し数)及び平均厚さを下記表1に記載の条件とした以外は、実験例1と同様にしてエナメル層を形成し、絶縁電線を得た。なお、得られたエナメル層の各層の膜厚は、いずれも平均厚さから±1μmの範囲内であった。
<エナメル層中の有機溶剤濃度の測定試験>
上記で製造した各絶縁電線(実験例1~13)について、マイクロメータにカッターを接続したジグを使用し、長手方向に切込みを1mm幅で50mm以上入れた。導体まで刃を到達させることにより、絶縁皮膜全体を剥離させた。剥離した皮膜を規定量とり、パイロライザー(フロンティア・ラボ株式会社、PY-3030S)で290℃に加熱し、揮発した溶剤をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GC-2010 Plus)で分析し、検出した有機溶剤の種類を特定し、また有機溶剤濃度を決定した。
得られた結果を、下記表1にまとめて示す。
<破断伸び測定試験>
5%伸長した各絶縁電線(実験例1~13)の絶縁皮膜に導体まで達する切込みを長手方向に60mm間隔に入れ、これを約10%食塩水に浸漬させて12V以下の直流電流を印加することで絶縁皮膜を導体から剥離させた。このとき陽極は裸銅線、陰極は電線とした。得られたチューブ状の絶縁皮膜を試験片として用いた。
この試験片を引張試験機(型名:オートグラフAGS-J、株式会社島津製作所製)を用いて50mm/minの速さで伸長し、破断するまでの伸び率を算出した。なお、チャック部で試験片がつぶれるのを防止するために、引張試験機のチャックに挟む部分に事前に剥離した導体を試験片の端部に通し、導体のある部分をチャックで挟んだ。チャック間距離は40mmとした。
得られた結果を、下記表1にまとめて示す。
<回帰直線による破断伸びYの測定>
実験例1~13の各絶縁電線について、エナメル層の層数Nと、上記試験により測定されたエナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)と、上記試験により測定されたエナメル層の破断伸び(実測値)より、上述の式1の回帰直線を得た(図1、y:破断伸びY、x:N×In(0.033×Z))。この回帰直線において、定数cは「0.033」、定数aは「-0.36」、定数bは「112.13」とした。yとxとの間の決定係数Rは「0.984」であった。
得られた回帰直線より、実験例1~13の各絶縁電線について、エナメル層の層数Nとエナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)を代入することにより、エナメル層の破断伸びY(%)の予測値を得た。結果を下記表1に示す。
Figure 2023119705000001
図1に示されるように、エナメル層の層数、エナメル層中の有機溶剤濃度、及びエナメル層の破断伸び(実測値)により得られる回帰直線において、決定係数Rは極めて高い値を示した。また上記表1に示されるように、本発明の予測方法によって得られた予測値と、エナメル層の破断伸びの実測値は、事実上同一であり、その誤差は非常に小さいことが示された。本実施例は本発明の実証実験としてエナメル層の構成材料としてポリイミドを用いたものを示したが、この結果に接した当業者であれば、ポリイミド以外のエナメル層についても、上記式1に基づき、破断伸びYを高精度に予測できることを理解できる。

Claims (8)

  1. エナメル層の層数をN、前記エナメル層中の有機溶剤濃度をZ(ppm)として、下記式1に基づき前記エナメル層の破断伸びY(%)を予測する、絶縁電線のエナメル層の破断伸び予測方法。

    Y=a×{N×ln(c×Z)}+b ・・・式1

    ただし、上記式1中、a、b、cは定数である。Nは35以下の自然数、Zは100~4000ppmである。
  2. エナメル層の破断伸びY(%)を設定し、設定した破断伸びY(%)になるように、前記エナメル層の層数N、前記エナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)を下記式1に基づき決定し、導体の周囲に形成するエナメル層を、決定したエナメル層の層数Nとエナメル層中の有機溶剤濃度Z(ppm)へと制御することを含む、絶縁電線の製造方法。

    Y=a×{N×ln(c×Z)}+b ・・・式1

    ただし、上記式1中、a、b、cは定数である。Nは35以下の自然数、Zは100~4000ppmである。
  3. 前記破断伸びY(%)を60%以上とする、請求項2に記載の方法。
  4. 前記エナメル層がポリイミドを含む熱硬化性樹脂層であり、前記定数cが0.03~0.05である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記エナメル層の層数Nが、15~35の自然数である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記エナメル層中の有機溶剤濃度Zが、800~4000ppmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 請求項2又は3に記載の方法で絶縁電線を得て、該絶縁電線を用いてコイルを製造することを含む、コイルの製造方法。
  8. 請求項7に記載の方法でコイルを得て、該コイルを用いて回転電機又は電気・電子機器を製造することを含む、回転電機又は電気・電子機器の製造方法。
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