JP2023111034A - 抵抗スポット溶接継手及び抵抗スポット溶接継手の製造方法 - Google Patents

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誠司 古迫
Seiji Furusako
健悟 竹田
Kengo Takeda
卓哉 光延
Takuya Mitsunobe
千智 吉永
Chisato YOSHINAGA
真二 児玉
Shinji Kodama
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【課題】LME割れが抑制された抵抗スポット溶接継手、およびその製造方法を提供すること。【解決手段】互いに重ね合わされた複数の鋼板と、溶接部と、を備え、前記複数の鋼板のうち1枚以上が、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板であり、前記高強度鋼板、または前記高強度鋼板と隣接する鋼板が、亜鉛系めっき層を有するめっき鋼板であり、前記高強度鋼板は、母材の、1/20深さ位置において、圧延方向に対する直交方向における、Mn濃化部の平均間隔が300μm以下であり、かつ、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差が0.40%以下であり30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、前記母材の前記表面から前記板厚方向に前記板厚の1/4の位置である1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hvq]とが、[Hvsur]/[Hvq]≦0.80を満たす、抵抗スポット溶接継手。【選択図】なし

Description

本発明は、抵抗スポット溶接継手及び抵抗スポット溶接継手の製造方法に関する。
自動車を軽量化して燃費を高め、炭酸ガスの排出量を低減するとともに、搭乗者の安全性を確保するため、自動車用鋼板として高強度鋼板が使用されている。近年、車体および部品の耐食性を十分に確保するため、自動車用鋼板として、高強度溶融亜鉛めっき鋼板に加えて、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板も使用されている。
自動車の車体の組立、及び部品の取付けなどの工程では、主として抵抗スポット溶接が使われている。抵抗スポット溶接とは、重ね合わせた母材を、先端を適正に整形した電極の先端で挟み、比較的小さい部分に電流及び加圧力を集中して局部的に加熱し、同時に電極で加圧して行う抵抗溶接である。
しかしながら、車体および/または部品の組立てのため、亜鉛めっき鋼板(溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板)同士をスポット溶接したり、冷延鋼板と亜鉛めっき鋼板とを抵抗スポット溶接したりすると、スポット溶接部において、溶融金属脆化(Liquid Metal Embrittlement:LME)割れと呼ばれる割れが発生することがある。LME割れは、抵抗スポット溶接時に発生する熱で亜鉛めっき層の亜鉛が溶融し、溶接部の鋼板組織の結晶粒界に溶融亜鉛が侵入し、その状態に引張応力が作用することで生じる割れである。割れが発生する要件は、溶接中に溶融した亜鉛が固体の鋼板と接触すること、及びその部位に引張応力(ひずみ)が働くことである。鋼板が高強度化するほどLME割れの感受性は高まる傾向にある。
一方が亜鉛めっきを施していない冷延鋼板であっても、他方が亜鉛めっき鋼板であれば、抵抗スポット溶接する際に、亜鉛めっき鋼板で溶融した亜鉛が冷延鋼板に接することによりLME割れが発生することがある。
抵抗スポット溶接によって鋼板を接合して継手(抵抗スポット溶接継手)を作成した場合、LME割れが発生すると、割れが原因となって、溶接に供する鋼板から想定される継手強度に対して、十分な継手強度が得られない。そのため、抵抗スポット溶接継手(抵抗スポット溶接継手を含む部品)には、LME割れを抑制することが求められる。
このような課題に対し、例えば特許文献1には、重ね合わされた複数の鋼板が抵抗溶接されてなる接合構造体であって、前記複数の鋼板の内、少なくとも1枚の前記鋼板は、炭素当量Ceqが0.53%以上となる化学成分を有し、引張強度が590MPa以上である高張力鋼板であり、前記高張力鋼板は、重ね合わせ面側と溶接電極側の少なくとも一方の表面に形成される亜鉛系めっき層と母材との間、又は、重ね合される亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層と隣り合う重ね合わせ面に脱炭層を有し、前記脱炭層は、5μm以上、200μm以下の厚さを有することを特徴とする接合構造体が開示されている。
特許文献1では、脱炭層が存在することで、溶接時に亜鉛系めっき層の溶融した亜鉛が分散してHAZの結晶粒界へ侵入する、亜鉛による脆化が抑制されると開示されている。
また、特許文献2には、溶接部におけるもらいLME割れが抑制されており、かつめっき層を除去することなく製造可能なスポット溶接部材が開示されている。特許文献2では、スポット溶接部のコロナボンドの内部における表層Zn濃度を制御することにより、もらいLME割れの発生を抑制できる、と開示されている。
また、特許文献3では、延性、伸びフランジ性、曲げ性および耐LME性に優れ、高い寸法精度で部品を製造することが可能な、引張強さ980MPa以上の高強度鋼板およびその製造方法が開示されている。
特許文献3では、高温引張試験後の鋼板表層の対応粒界頻度を0.45以下、かつ、表層軟化厚みを5μm以上150μm以下に制御することで、耐LME特性に優れた高強度鋼板を実現することができる、と開示されている。
特開2020-82102号公報 特開2020-179413号公報 特許第6787535号公報
上述のように、特許文献1~3には、耐LME性を向上させる手法が開示されている。しかしながら、本発明者らが検討した結果、特許文献1~3の技術では一定の耐LME性向上効果は得られるものの、その効果については向上の余地があることが分かった。
そのため、本発明では、抵抗スポット溶接される複数の鋼板のうち1枚以上が、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板であり、高強度鋼板、または高強度鋼板と隣接する鋼板が、母材と前記母材の表面に形成された亜鉛系めっき層とを有するめっき鋼板である場合を前提として、LME割れが抑制された抵抗スポット溶接継手、およびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、抵抗スポット溶接継手において、LME割れを抑制する方法について検討を行った。
LME割れの発生は温度や引張応力の大きさに影響される。そのため、LME割れの抑制には、温度や引張応力の上昇をいかに抑制するかが重要である。しかしながら、十分なナゲット径を得るには十分な入熱が必要となるので、温度上昇を抑制するのは困難といえる。そのため、本発明者らは、引張応力の低減について検討を行った。また、LME感受性に着目して検討を行った。その結果、亜鉛系めっき層に接する高強度鋼板の母材において、亜鉛系めっき層に接する表面側の表層部のMn濃度の分布及び硬さの分布を制御することで、LME割れを抑制できることを見出した。
本発明は、上記の知見に鑑みてなされた。本発明の要旨は以下の通りである。
[1]互いに重ね合わされた複数の鋼板と、前記複数の鋼板を接合しているナゲット、並びに、前記ナゲットの周囲に形成されたコロナボンド及び熱影響部、を有する溶接部と、を備え、前記複数の鋼板のうち1枚以上が、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板であり、前記高強度鋼板、または前記高強度鋼板と隣接する鋼板が、母材と前記母材の表面に形成された亜鉛系めっき層とを有するめっき鋼板であり、前記高強度鋼板は、母材の、前記亜鉛系めっき層と接する表面から板厚方向に板厚の1/20の位置である1/20深さ位置において、圧延方向に対する直交方向における、Mn濃化部の平均間隔が300μm以下であり、かつ、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差が0.40%以下であり、前記母材の前記表面から前記板厚方向に30μmの位置である30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、前記母材の前記表面から前記板厚方向に前記板厚の1/4の位置である1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、下記(1)式を満たす、抵抗スポット溶接継手。
[Hvsur]/[Hv]≦0.80 (1)
[2]前記高強度鋼板の、前記亜鉛系めっき層と接する母材の表面が、重ね合わされた前記複数の鋼板の重ね面に位置する、[1]に記載の抵抗スポット溶接継手。
[3]前記ナゲットの中心を通る板厚方向断面の前記コロナボンドにおいて、前記亜鉛系めっき層に占めるη相の割合が20面積%以下である、[2]に記載の抵抗スポット溶接継手。
[4]前記ナゲットの中心を通る板厚方向断面において、前記熱影響部の直径が、前記ナゲットの直径の1.5倍以上であり、前記熱影響部には、円相当径が0.1μm以上の炭化物が40個/100μm以上の個数密度で分布している、[3]に記載の抵抗スポット溶接継手。
[5]前記高強度鋼板が前記めっき鋼板であり、前記亜鉛系めっき層が最も外側の表面になるように前記めっき鋼板が配置された、[1]~[4]のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接継手。
[6]前記最も外側の表面の、前記溶接部の肩部における前記亜鉛系めっき層のη相の割合が、20面積%以下である、[5]に記載の抵抗スポット溶接継手。
[7]前記30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、前記1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、下記(2)式を満たす、[1]~[6]のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接継手。
0.60≦[Hvsur]/[Hv]≦0.80 (2)
[8]複数の鋼板を厚み方向に重ねる、重ね合わせ工程と、前記重ね合わせ工程後の前記複数の鋼板を、対向する一対の電極を用いて加圧しながら前記電極の間に通電することにより、ナゲット及びコロナボンドを形成する通電工程と、前記通電工程後、前記加圧を維持しながら、前記電極の間の電流値を0まで低下させる電流低下工程と、を有し、前記複数の鋼板のうち1枚以上が、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板であり、前記高強度鋼板、または前記高強度鋼板に重ね合わせられる鋼板が、母材と前記母材の表面に形成された亜鉛系めっき層とを有するめっき鋼板であり、前記高強度鋼板は、前記母材の表面から板厚方向に板厚の1/20の位置である1/20深さ位置において、圧延方向に対する直交方向におけるMn濃化部の平均間隔が300μm以下であり、前記1/20深さ位置において、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差が0.40%以下であり、前記母材の表面から前記板厚方向に30μmの位置である30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、前記母材の表面から前記板厚方向に前記板厚の1/4の位置である1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、下記(1)式を満たす、抵抗スポット溶接継手の製造方法。
[Hvsur]/[Hv]≦0.80 (1)
[9]前記電流低下工程において、前記加圧を維持しながら、前記電極の間の電流値を0まで低下させる時間が、420msec以上となるようにダウンスロープさせる、[8]に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
[10]前記複数の鋼板の、単位mmでの合計板厚の1/2を、tmと定義し、前記ナゲットの形成が完了した時点での前記電極の間の電流値をIとしたとき、前記電流低下工程において、前記電極の間の前記電流値を、I×0.9からI×0.3までの範囲内において、単位msecで265×tm以上、かつ420msec以上の間、一定値に保持する、[8]または[9]に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
[11]前記通電工程の前に、さらに、前記通電工程での前記通電よりも小さい電流で通電する予備通電工程を備える、[8]~[10]のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
[12]前記電流低下工程の後に、さらに、前記ナゲットの形成が完了した時点での加圧力をPとしたとき、前記電極の間の前記電流値を0にした状態で、200msec以上400msec以下、前記加圧力を0.8×P以上に保持する加圧保持工程を備える、[8]~[11]のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
本発明によれば、LME割れが抑制された抵抗スポット溶接継手、およびその製造方法を提供することができる。
本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手(鋼板が2枚の場合)の断面の一例を示す図である。 鋼板を厚み方向に重ねる、重ね合わせ、対向する一対の電極を用いて加圧しながら電極の間に通電する工程について説明する図である。(本図は加圧直前の段階を示す。)
以下、本発明の一実施形態に係る抵抗スポット溶接継手(本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手)及び本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法について説明する。
本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手は、互いに重ね合わされた複数の鋼板と、前記複数の鋼板を接合しているナゲット、並びに、前記ナゲットの周囲に形成されたコロナボンド及び熱影響部を有する溶接部と、を備える。複数の鋼板は、2枚でもよいし、3枚以上でもよい。
また、本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手では、複数の鋼板のうち1枚以上が、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板であり、高強度鋼板、または高強度鋼板と隣接する鋼板が、母材と、母材の表面に形成された亜鉛系めっき層と、を有するめっき鋼板である。亜鉛系めっき層については限定されず、亜鉛が含まれた公知のめっき層であればよい。
また、この高強度鋼板は、1/20深さ位置において、圧延方向に対する直交方向におけるMn濃化部の平均間隔が300μm以下であり、かつ、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差が0.40%以下であり、30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、前記母材の表面から前記板厚方向に前記板厚の1/4の位置である1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、下記(1)式を満たす。
[Hvsur]/[Hv]≦0.80 (1)
本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手では、複数の鋼板のうち、全てがめっき鋼板であってもよく、めっき鋼板でない(母材からなる)鋼板(高強度鋼板を含む)が含まれていてもよい。
また、高強度鋼板の、亜鉛系めっき層と接する母材の表面が、重ね合わされた複数の鋼板の重ね面に位置していてもよい。(すなわち、めっき鋼板の亜鉛系めっき層の上に高強度鋼板が重ね合わされている、または、めっき鋼板である高強度鋼板の亜鉛系めっき層の上に別の鋼板が重ね合わせされている場合等。)
また、亜鉛系めっき層が最も外側の表面(最表面)になるようにめっき鋼板が配置されていてもよい。(重ね合わせられる鋼板の最も外側が高強度めっき鋼板であり、亜鉛系めっき層がその外側の面に形成されている場合など。)
また、本実施形態において、亜鉛系めっき層と接する母材の表面とは、亜鉛系めっき鋼板の母材と亜鉛系めっき層との界面、及び、めっき鋼板でない(母材からなる)鋼板の表面であって、隣接するめっき鋼板の亜鉛めっき層と接する表面を意味する。
以下、それぞれについて説明する。ただし、高強度鋼板の規定については、いずれも溶接部を除く位置での規定である。
[互いに重ね合わされた複数の鋼板と、複数の鋼板を接合しているナゲット、並びに、前記ナゲットの周囲に形成されたコロナボンド及び熱影響部を有する溶接部とを備える]
本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手は、複数の鋼板を重ね合わせた上で、対向する一対の電極を用いて加圧しながら、通電してナゲットを形成することで得られる抵抗スポット溶接継手である。すなわち、複数の鋼板は、ナゲットによって接合されている。ナゲットの形成に際しては、通電によって、鋼板の温度が上昇する。温度上昇によって鋼板が溶融した部分は、凝固後、ナゲットとなる。一方、溶融しなかった部分でも、ナゲットの周囲には、鋼板が固相接合されたリング状の部分が生じる。このリング状の部分をコロナボンドと言う。また、コロナボンドの周囲(外側)には、溶接の熱によって影響を受けた部分(熱影響部)が生じる。
すなわち、本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手は、互いに重ね合わされた複数の鋼板と、複数の鋼板を接合しているナゲット、並びに、前記ナゲットの周囲に形成されたコロナボンド及び熱影響部を有する溶接部とを備える。
LME割れは、抵抗スポット溶接時に発生する熱で亜鉛めっき層の亜鉛が溶融し、溶接部の鋼板組織の結晶粒界に溶融亜鉛が侵入し、その状態に引張応力が作用することで生じる割れである。割れが発生する要件は、溶接中に溶融した亜鉛が固体の鋼板と接触すること、及びその部位に引張応力(ひずみ)が働くことであり、鋼板が高強度化するほどLME割れの感受性は高まる傾向にある。
そのため、本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手では、複数の鋼板のうち1枚以上が、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板であり、高強度鋼板、または高強度鋼板と隣接する鋼板が、母材と母材の表面に形成された亜鉛系めっき層とを有するめっき鋼板であり、この高強度鋼板については、所定のMn濃度分布及び所定の硬さ分布を有する。
引張強さが980MPa未満の鋼板については、以下に示すMn濃度分布、硬さ分布の要件を満足する必要はない。また、高強度鋼板であっても、めっき層を有さず、かつ、重ね合わせされた際に亜鉛系めっき層と接しない場合には、以下に示すMn濃度分布、硬さ分布の要件を満足する必要はない。
[Mn濃度分布]
LME割れは液体金属が粒界に入って生じる。SiはLME感受性を上げる元素として知られ、めっき層に近い鋼板表層部のSiの濃化を防止することで、LME割れを抑制できる。しかしながら、定性的には、上記の影響が知られていたものの、Siについては、製造過程において含有量等の分布を定量評価して制御することが困難であり、LME割れを抑制するためのSi分布の制御については従来提案されていなかった。
これに対し、本発明者らが検討した結果、Siの分散が、Mnの濃度分布(分散度合い)で評価できることを見出した。これは、Siの分散度合いが、主に鋳造工程と、焼鈍工程で変化するが、これらの工程では、Mnも同様の挙動を示すことによる。また、互いに重ね合わされた複数の鋼板のうちの1枚以上が、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板であり、高強度鋼板、または高強度鋼板と隣接する鋼板が、母材と母材の表面に形成された亜鉛系めっき層とを有するめっき鋼板である場合、この高強度鋼板において、Mn濃度分布(分散度合い)を制御することで、LME割れを抑制できることを見出した。具体的には、高強度鋼板の、母材の表面から板厚方向に板厚の1/20の位置である1/20深さ位置において、圧延方向に対する直交方向におけるMn濃化部の平均間隔が300μm以下であり、1/20深さ位置において、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差が質量で0.40%以下である。
Mn濃化部とSi濃化部とはほぼ一致することから、Mn濃化部の平均間隔が300μm超であると、鋼板中にLME感受性が高い部分が点在することとなり、鋼板の耐LMEが低下する。また、同時に、Mn濃化部が残存して、母材の伸びや靭性が劣化する。Mn濃化部の平均間隔は、母材性能や耐LME性の安定確保の点で好ましくは270μm以下である。
一方、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差が0.40%超であると、Siの濃化度合いの大きなSi濃化部が形成されており、LME感受性が高まる。(耐LME性が低下する。)残留オーステナイト粒のMn濃度の標準偏差は、同様に母材性能や耐LME性を安定確保するため、好ましくは0.36%以下である。
上述の通り、LME割れの発生は温度や引張応力の大きさに影響される。そのため、LME割れの抑制には、温度や引張応力の上昇をいかに抑制するかが重要である。しかしながら、十分なナゲット径を得るには十分な入熱が必要となるので、温度上昇を抑制するのは困難といえる。本発明者らは、亜鉛系めっき層と接する高強度鋼板の母材の表面から板厚方向に30μmの位置である30μm深さ位置でのビッカース硬さを、板厚の1/4の位置である1/4深さ位置でのビッカース硬さに対して小さくすることで、引張応力によって生じる歪が分散され、LME割れが抑制されることを見出した。
具体的には、30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、下記(1)式を満たす場合に、LME割れが抑制されることを見出した。
[Hvsur]/[Hv]≦0.80 (1)
ビッカース硬さの測定位置を30μm深さ位置としたのは、歪の分散のために十分な硬さ低減領域を設けるためである。30μm深さ位置よりも表面側、例えば、20μm深さ位置のビッカース硬さが、1/4深さ位置のビッカース硬さの0.80倍以下であっても、30μm深さ位置のビッカース硬さが、1/4深さ位置のビッカース硬さの0.80倍超である場合には、硬さの低い領域が薄すぎて、十分に歪を分散できない。
歪の分散の点からは、[Hvsur]/[Hv]は低い方が好ましいが、表層部の硬さを必要以上に低くしようとすると、内部のビッカース硬さも低下し、抵抗スポット溶接継手としての強度が低下する。そのため、30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、下記(2)式を満たすことが好ましい。
0.60≦[Hvsur]/[Hv]≦0.80 (2)
複数の鋼板が3枚以上であり、亜鉛系めっき層を介した重ね面(接合面)が複数ある場合、1/20深さ位置は複数存在することになる。本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手では、そのうちの少なくとも1か所において、上記を満足すれば効果が得られるが、全ての1/20深さ位置において、上記を満足することが好ましい。
同様に、[Hvsur]/[Hv]も、少なくとも1か所において、上記を満足すれば効果が得られるが、全ての位置において、上記を満足することが好ましい。
1/20深さ位置における、圧延方向に対する直交方向におけるMn濃化部の平均間隔、及び、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差は以下の方法で求める。ここで、1/20の深さ位置とは、母材の表面から板厚方向に板厚の1/20の位置であるが、測定に際しては、表面から板厚の1/40の深さ(1/40厚)の位置~表面から板厚の3/40の深さ(3/40厚)の位置までの範囲であればよい。
鋼板の圧延面を研削およびバフ研磨し、1/20深さ位置の分析面を現出させた分析用サンプルを作製し、EPMAでMn分布を調査する。Mn濃化部の平均間隔は、比較的広い範囲での測定が必要となるため、圧延方向に対する直交方向(板幅方向)上の8mmの線分を1μm間隔で連続して測定する。各測定点の濃度は、各測定点から圧延方向に500μmの線分上を1μm点測定し、その平均値とする。板幅方向に8mmの測定点全体におけるMn濃度の平均値をMnave、最大をMnmaxとし、Mn濃度が(Mnave+Mnmax)/2以上の領域をMn濃化部とし、Mn濃化部の間隔の平均を求める。また、各測定点ではSi濃度も測定し、Siが鋼板の平均Si濃度よりも低い領域のMn濃度を残留オーステナイト中のMn濃度とみなし、その標準偏差を求める。
[Hvsur]及び[Hv]は、以下の方法で求める。
鋼板の圧延方向に平行な板厚方向断面が測定面となるように断面を埋め込んだサンプルの30μm深さ位置、及び1/4深さ位置において、JISZ2244(2009)に準じて、荷重20gの設定でビッカース硬さを3点測定し、それぞれの平均値から、30μm深さ位置におけるビッカース硬さ[Hvsur]、及び1/4深さ位置におけるビッカース硬さ[Hv]を求める。これらから、[Hvsur]/[Hv]を算出することができる。
上述したように、本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手では、亜鉛系めっき層が重ね面にある場合だけでなく、亜鉛系めっき層が最表面にある場合にも、亜鉛めっき層と接する母材表面を基準として、1/20深さ位置において、圧延方向に対する直交方向におけるMn濃化部の平均間隔が300μm以下であり、1/20深さ位置において、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差が0.40質量%以下であり、30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、前記1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、前記(1)式を満たす必要がある。これは、抵抗スポット溶接では、複数の鋼板を、対向する一対の電極を用いて加圧しながら電極の間に通電することにより行うので、重ね面ではない、最表面であっても、電極からの加圧を受けるからである。
複数の鋼板の板厚は限定されないが、自動車部品への適用を考慮すると、それぞれ、0.5mm~3.0mmであることが好ましい。
上記では、本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手で特に重要な複数の鋼板の溶接部を除く部分について説明したが、溶接部については、以下の通りであることが好ましい。
[コロナボンド]
本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手では、ナゲットの中心を通る板厚方向断面のコロナボンドにおいて、亜鉛系めっき層に占めるη相の割合が20面積%以下であることが好ましい。亜鉛系めっき層のη相とは、Znを主体とし、Feなどの他の元素が固溶状態で含まれている相を意味する。亜鉛系めっき層において、亜鉛を主体とするη相の量が20面積%以下であれば、抵抗スポット溶接によって、コロナボンドの亜鉛系めっき層において亜鉛と鋼板から拡散するFeとが十分に合金化している。この場合、めっき合金層の溶融開始温度が十分に上昇し、通電中に溶融しているZnの量を低減することが可能となる。溶接部に引張応力が発生するのは、一般に電極の保持中や解放後といった冷却中である。また入熱が十分大きい条件では通電後期(加熱中)に引張応力が溶接部に発生する場合がある。しかし上記のように、亜鉛系めっき層に占めるη相の割合が20面積%以下であれば、LME割れの発生に必要な溶融Znの量が低減されているため、LME割れを抑制できる。
η相の面積率は、より好ましくは18面積%以下、さらに好ましくは16面積%以下、一層好ましくは14面積%以下である。
コロナボンドの亜鉛系めっき層に占めるη相の割合は、以下の方法で求める。
SEM-EDSにより溶接部断面(ナゲットの中心を通る板厚方向断面)におけるコロナボンドのZn、Fe元素分布像を撮影する。その像におけるη相を、Zn濃度が95質量%以上、かつFe濃度が5質量%以下の領域と定義する。この定義を満たす部分とそれ以外の部分を画像解析ソフトにより二値化し、コロナボンド内めっき層に占めるη相の面積率を算出する。測定領域は、例えば横方向に100μm、高さ方向(厚さ方向)に10μmの矩形とすればよい。ただし、高さ方向はコロナボンド内の亜鉛系めっき層の厚みに応じて増加させる必要がある。亜鉛系めっき層の厚みが10μmを超える場合は測定領域の高さは10μmを超える値に設定する。この測定領域の内のη相の面積を、同領域内のZnが存在する領域の面積で除することで、η相の面積率が求まる。η相の面積率は、コロナボンドのナゲット中心から離れた側の端部を基準に、その内側、横方向に100μm、高さ方向に例えば10μmの矩形の範囲で測定する。
[肩部]
本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手では、亜鉛系めっき層が最表面となる場合、溶接部の肩部における亜鉛系めっき層のη相の量が20面積%以下であることが好ましい。
溶接の入熱によって亜鉛系めっき層と鋼板との間で合金化が進行すると、先に説明したコロナボンド内だけでなく、電極側(電極と接する面側)の熱影響部内においても、初期の亜鉛系めっき層からZnを主体とするη相の割合が減少することとなる。したがって、通常の溶接方法と比較して、より入熱の多い溶接方法を実施することで、亜鉛系めっき層と鋼板との間の合金化をさらに促進させることができるため、電極側の熱影響部内における亜鉛系めっき層のη相の量を20面積%以下まで低減することが可能となる。本実施形態においては、電極側の熱影響部を代表して溶接部の肩部における亜鉛系めっき層のη相の量が規定される。先に説明したのと同様に、スポット溶接時の入熱によって電極側の亜鉛系めっき層の合金化が進行することで当該亜鉛系めっき層の融点が高くなる。このため、η相の割合が比較的高い場合と比較して、溶融亜鉛の鋼板内部への侵入を抑制又は低減することができ、電極側の表面におけるLME割れの抑制効果をさらに高めることが可能となる。LME割れの抑制効果を高める観点からは、肩部における亜鉛系めっき層のη相の量はより小さいことが好ましく、η相は、例えば18面積%以下又は15面積%以下であってもよい。
肩部における亜鉛系めっき層のη相の面積率の測定は、以下のようにして行われる。SEM-EDSにより溶接部断面における肩部の外側境界(溶接中の電極加圧を受け電極形状を反映した曲率を持つ部分から、電極が接触しない平坦な部分に急に形状を変化する部位)を中心とした横方向に100μm、高さ方向に10μmの矩形の範囲のZn及びFe元素分布像を撮影する。ただし、高さ方向は上記肩部の亜鉛系めっき層の厚みに応じて増加させる必要がある。合計の亜鉛系めっき層の厚みが10μmを超える場合は測定領域の高さは10μmを超える値に設定する。その像におけるη相を、Zn濃度が95質量%以上及びFe濃度が5質量%以下の領域と定義する。この定義を満たす部分とそれ以外の部分を画像解析ソフトにより二値化し、溶接部肩部における亜鉛系めっき層に占めるη相の面積率を算出する。具体的には、この測定領域の内のη相の面積を同領域内のZnが存在する領域の面積で除することでη相の面積率が求まる。
[熱影響部]
本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手では、ナゲットの中心を通る板厚方向断面において、熱影響部の直径が、ナゲットの直径の1.5倍以上であり、熱影響部には、円相当径が0.1μm以上の炭化物が40個/100μm以上の個数密度で分布していることが好ましい。
熱影響部の直径は以下の方法で求める。
ナゲットの中心を通る板厚方向断面が観察できるようにサンプルを準備し、断面を研磨した後、ピクリン酸水溶液を用いて研磨面を腐食させる。この腐食面を、光学顕微鏡で観察し、目視で、ナゲット、コロナボンド、熱影響部を判定し、それぞれの直径(板厚方向に直交する方向の径)を測定する。
熱影響部の円相当径が0.1μm以上の炭化物の個数密度は、以下の方法で求める。
ナゲットの中心を通る板厚方向断面が観察できるようにサンプルを準備し、断面を研磨した後、ピクリン酸水溶液を用いて研磨面を腐食させる。走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、この腐食面における熱影響部内の5μm×5μmの領域を10か所選択して、20,000倍の倍率で撮影し、撮影した画像から画像処理装置を用いて個々の炭化物の面積を求め、その値から円相当径を算出することにより求める。そして、円相当径が0.1μm以上の炭化物を特定し、これらの総個数を、撮影した領域の総面積で割って、炭化物の分布密度を算出する。
<抵抗スポット溶接継手の製造方法>
上述した本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手を製造することができる製造方法について説明する。
本実施形態に係る抵抗スポット溶接継手の製造方法は、
(I)複数の鋼板を厚み方向に重ねる、重ね合わせ工程と、
(II)前記重ね合わせ工程後の前記複数の鋼板を、対向する一対の電極を用いて加圧しながら前記電極の間に通電することにより、ナゲット及びコロナボンドを形成する通電工程と、
(III)前記通電工程後、前記加圧を維持しながら、前記電極の間の電流値を0まで低下させる電流低下工程と、
を有する。
各工程について、好ましい条件を説明する。説明しない工程、条件については、公知の条件を適用することができる。
[重ね合わせ工程]
重ね合わせ工程では、抵抗スポット溶接に先立って、複数の鋼板を少なくとも一部が厚さ方向に重なるように重ねる。複数の鋼板のうち1枚以上が、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板であり、高強度鋼板、または高強度鋼板に重ね合わせられる鋼板が、母材と母材の表面に形成された亜鉛系めっき層とを有するめっき鋼板である。全ての鋼板がめっき鋼板であってもよく、全ての鋼板が高強度鋼板であってもよい。
また、高強度鋼板は、母材の表面から板厚方向に板厚の1/20の位置である1/20深さ位置において、圧延方向に対する直交方向におけるMn濃化部の平均間隔が300μm以下であり、前記1/20深さ位置において、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差が0.40質量%以下であり、前記母材の表面から前記板厚方向に30μmの位置である30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、前記母材の表面から前記板厚方向に前記板厚の1/4の位置である1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、下記(1)式を満たす、鋼板とする。
[Hvsur]/[Hv]≦0.80 (1)
上記特徴は、抵抗スポット溶接継手となった場合にも、溶接部以外の部分については維持される。
高強度鋼板でない、または高強度鋼板であっても、めっき鋼板でなく、かつ、めっき鋼板と接して重ね合わせられる鋼板でない鋼板については限定されず、公知の鋼板を用いることができる。
上記の高強度鋼板は、さらに、化学組成が、質量%で、C:0.150%~0.400%、Si:0.01%~2.50%、Mn:1.50%~3.50%、P:0.050%以下、S:0.0100%以下、Al:0.001%~1.500%、Si及びAl:合計で0.50%~3.00%、N:0.0100%以下、O:0.0100%以下、Ti:0%~0.200%、V:0%~1.00%、Nb:0%~0.100%、Cr:0%~2.00%、Ni:0%~1.00%、Cu:0%~1.00%、Co:0%~1.00%、Mo:0%~1.00%、W:0%~1.00%、B:0%~0.0100%、Sn:0%~1.00%、Sb:0%~1.00%、Ca:0%~0.0100%、Mg:0%~0.0100%、Ce:0%~0.0100%、Zr:0%~0.0100%、La:0%~0.0100%、Hf:0%~0.0100%、Bi:0%~0.0100%、およびCe、La以外のREM:0%~0.0100%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、表面から板厚の1/4の深さ位置におけるミクロ組織が、体積分率で、フェライト:0%~50%、残留オーステナイト:6%~30%、ベイナイト:5%~60%、焼き戻しマルテンサイト:5%~50%、フレッシュマルテンサイト:0%~10%、パーライト:0%~5%、を含有し、前記表面から板厚の1/4の深さ位置において、全ての前記残留オーステナイトに占める、アスペクト比が2.0以上の前記残留オーステナイトの個数割合が50%以上であり、粒径1μm以上の介在物および析出物の数密度が30個/mm以下であることが好ましい。
このような化学組成及びミクロ組織を有する鋼板は、プレス成形性に優れ、かつ、プレス部品に成形後に焼き付け塗装を行った後でも靭性に優れるので、自動車部品として好適である。
[通電工程]
通電工程では、重ね合わせ工程後の複数の鋼板を、対向する一対の電極を用いて、加圧しながら電極の間に通電することにより、ナゲット及びコロナボンドを形成する。
通電時間及び電流値は特に限定されず、抵抗スポット溶接によって接合される鋼板の板厚、枚数、及び材質に応じた値を、通常の範囲内で適宜設定すればよい。電流値は、通電開始後すぐに最大値とされてもよく、漸増させて最大値に至らせてもよい。(いわゆるアップスロープ通電。)
また、加圧力も特に限定されず、接合される鋼板の板厚、枚数、及び材質に応じた値を、通常の範囲内で適宜設定すればよい。加圧力は一定とされてもよく、良好なナゲットを形成可能な範囲内で適宜変化させてもよい。ナゲットを形成するために好ましい種々の条件を、適用することができる。また、抵抗スポット溶接装置の精度に起因して、意図せず加圧力が変動することも想定されるが、良好なナゲットを形成可能な範囲内で、このような加圧力の変動も許容される。
[予備通電工程]
前記通電工程の前に、さらに、前記通電工程での前記通電よりも小さい電流で通電する予備通電工程を備えてもよい。この場合、本通電工程の以前にめっき層の合金化が促進されることとなり、さらなるLME割れ抑制の効果が得られる。
[電流低下工程]
電流低下工程では、通電工程後、前記加圧を維持しながら、前記電極の間の電流値を0まで低下させる。
この工程では、通常の抵抗スポット溶接で行われているように通電によってナゲットを形成した後は、電極の間の電流値をすぐに0まで低下させてもよい。
一方、加圧を維持しながら、電極の間の電流値を0まで低下させる前記時間が、21サイクル(420msec)以上(本実施形態では1サイクルは、20msecとする)となるようにダウンスロープさせてもよい。このように、電流値を徐々に減少させる(ダウンスロープ制御を行う)場合ことで、電流値を急速に減少させた場合と比較して、冷却中に溶接部に発生する引張応力が低下するほか、ダウンスロープの入熱によってめっき層の合金化が一層進行することとなり、η相の面積率を安定して20%以下にしやすくなる。
また、電流値を減少させる際に、電流値を一定にする時間を設けてもよい。具体的には、複数の鋼板の、単位mmでの合計板厚の1/2を、tmと定義し、ナゲットの形成が完了した時点、即ち、一般にはtmに応じて変化させる通電時間、例えば1000×tm(msec)(1mmであれば単位を削除して1000を乗じ、1000×1(msec)となる)の時点、または予備試験で明らかにされたナゲット形成が十分となる時間、での電極の間の電流値をIとしたとき、電流低下工程において、電極の間の前記電流値を、I×0.9からI×0.3までの範囲内において、単位msecで265×tm以上、かつ420msec以上の間、一定値に保持してもよい。
上記のような制御を行うと、溶接部の冷却速度が低下する。また、この場合、電極による抜熱が小さくなり、溶接部からその周囲の鋼板への熱移動が促進される。その結果、溶接部の温度低下の際に、溶接部の収縮は緩やかとなり、その一方で、溶接部の周囲の鋼板11による溶接部の拘束力は小さくなる。このようなメカニズムにより、電極の間の電流値を減少させる過程で、コロナボンドに導入される引張応力が減少する。
電極の間の電流値を制御すべき期間を、電極の間の電流値がI×0.9となってからI×0.3まで低下するまでと定めたのは、電極の間の電流値がI×0.9のときのコロナボンドの温度がおおむね亜鉛の沸点と一致し、電極の間の電流値がI×0.3のときにコロナボンドの温度がおおむね亜鉛の融点と一致すると推定されるからである。すなわち、この推定に基づけば、I×0.9となってからI×0.3まで低下するまでの間が、LME割れを生じさせる溶融亜鉛がナゲットの周囲に存在する期間であるからである。
ただし、保持する時間が420秒未満、または、265×tm未満であると、十分な効果が得られない場合がある。
[加圧保持工程]
電流低下工程の後に、さらに、電極の間の前記電流値を0にした状態で、200msec以上400msec以下、加圧力を0.8×P以上に保持する加圧保持工程を備えてもよい。
これにより、これにより、液体亜鉛が残存した状態で加圧が解放されて引張応力が導入されることを、一層確実に回避でき、コロナボンドやその外側におけるLME割れを抑制することができるので、LME割れの防止を一層確実なものとすることができる。
電極Aの間の電流値を0にした後で加圧力を0.8×P以上に保持する期間の長さを、200msec以上とすることが好ましい。LME割れを抑制する観点からは、保持時間は長いほど好ましいと考えられる。そのため、加圧力を0.8×P以上に保持する時間を260msec以上、又は280msec以上としてもよい。しかしながら、保持時間を長くし過ぎると、LME割れ抑制効果が飽和する一方で、溶接効率が低下する。さらには、加圧力を0.8×P以上に維持する時間を400msec超とすると、電極解放後に、電流値を低下させる過程で焼きが入ったナゲットのオートテンパー(自己焼戻し)が進まず、継手強度や耐水素脆化特性が低下する可能性がある。従って、加圧保持工程において加圧力を0.8×P以上に保持する時間を400msec以下、300msec以下としてもよい。
以上に加えて、別途後通電工程を行っても良い。
<素材となる高強度鋼板の製造方法>
抵抗スポット溶接に供する鋼板のうち、上述した高強度鋼板について、製造方法は限定されないが、例えば以下の方法で製造することができる。
所定の化学組成を有する溶鋼を200~300mm厚のスラブに鋳造する連続鋳造工程と;
前記スラブに850℃以上の仕上げ温度で熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延工程と;
前記熱延鋼板を25~450℃の温度域で巻き取る巻き取り工程と;
必要に応じて、前記熱延鋼板に対して圧下率30%以下で冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程と;
前記熱延鋼板または前記冷延鋼板に対して焼鈍を施す焼鈍工程と;
前記焼鈍工程後の前記熱延鋼板または前記冷延鋼板に対して260~450℃の温度域で10~1000秒間保持する均熱処理工程と;
を含む鋼板の製造方法。
<連続鋳造工程>
連続鋳造工程について好ましい条件の詳細を説明する。
所定の化学組成(途中の工程で実質的には平均化学組成は変化しないので、得たい鋼板の化学組成に応じて調整する)を有する溶鋼を、転炉や電気炉等の公知の溶製方法で溶製し、スラブ表面から10mmの深さ位置における凝固速度を100~1000℃/分とし、かつ、単位時間当たりの溶鋼鋳込み量を2.0~6.0トン/分とし、かつ、前記溶鋼の表面から5mmの深さ位置である表層部の液相線温度~固相線温度間の平均冷却速度を4℃/秒以上として冷却して、200mm以上300mm以下の厚さのスラブに連続鋳造する。
[凝固速度:100℃/分以上1000℃/分以下]
連続鋳造工程におけるスラブ表面から10mmの深さ位置における凝固速度は100℃/分以上1000℃/分以下とすることが好ましい。この凝固速度が100℃/分未満では、スラブ表面からスラブ厚の(1/20)の深さ位置におけるデンドライト一次アーム間隔を300μm以下とすることが困難となり、Mn濃度の標準偏差を0.40%以下とすることができない場合がある。一方、凝固速度が1000℃/分超では、スラブの表面割れを誘発する場合がある。
[単位時間当たりの溶鋼鋳込み量:2.0~6.0トン/分]
単位時間当たりの溶鋼鋳込み量が2.0トン/分未満では、鋳型に供給される熱量が減少し、凝固殻上部の爪長さが長くなるため、スラブ表層へのモールドパウダーの捕捉が生じやすくなり、鋼板表面に存在する粒径1μm以上の介在物および析出物の数密度が30個/mm超となる場合がある。したがって、単位時間当たりの溶鋼鋳込み量は2.0トン/分以上とすることが好ましい。モールドパウダーは、一般に、Al、SiO、CaOの成分系で構成されている。一方、単位時間当たりの溶鋼鋳込み量が6.0トン/分超では、溶鋼の流動が大きくなり過ぎて、モールドパウダーの巻き込みによるアルミナ系介在物のスラブ表層への捕捉が生じやすくなり、鋼板表面に存在する粒径1μm以上の介在物および析出物の数密度が30個/mm超となる場合がある。したがって、単位時間当たりの溶鋼鋳込み量を6.0トン/分以下とすることが好ましい。
[溶鋼の表面から5mmの深さ位置である表層部の液相線温度~固相線温度間の平均冷却速度を4℃/秒以上]
液相線温度と固相線温度との間は凝固の途中過程であるため、Ti、Al、Nなどが溶鋼偏析し、その凝固界面でTiNやAlNの析出を開始して成長する。したがって、スラブの表面から5mmの深さ位置の表層部の、液相線温度と固相線温度との間における平均冷却速度が4℃/秒未満では、冷却速度が小さいことで、溶鋼偏析が進行して析出核生成が促進されるとともに析出後の析出物の粒成長も促進されてしまい、鋼板表面に存在する粒径1μm以上の介在物および析出物の数密度が30個/mm超となる場合がある。したがって、スラブの表面から5mmの深さ位置の表層部の、液相線温度と固相線温度との間の平均冷却速度を4℃/秒以上とすることが好ましい。鋼板表面の析出物の生成を抑制する観点からは、上記平均冷却速度は大きい方が好ましいので、上記平均冷却速度の上限は特に規定する必要はないが、冷却速度が過大であるとスラブに割れが生じる可能性があるので、平均冷却速度は100℃/秒以下とすることが好ましい。
[スラブ厚:200mm以上300mm以下]
スラブ厚は200mm以上300mm以下とすることが好ましい。スラブ厚が200mm未満では、所望の組織を得ることが困難となる。一方、スラブ厚が300mm超では、鋼板表面から板厚の(1/20)の深さ位置において、圧延方向に展伸したMn濃化部の圧延方向に対して直交方向における平均間隔を300μm以下とすることが困難となる。
<熱間圧延工程>
[Ac1~Ac1+30℃の間の平均加熱速度:2~50℃/分]
本方法では、熱間圧延に先立つスラブ加熱時の、Ac1~Ac1+30℃の間の前記スラブの平均加熱速度が2~50℃/分に制御される。Ac1直上の二相(オーステナイトとフェライト)温度域はオーステナイトとフェライトとの間で合金元素の分配が特に進みやすい。そのため、スラブを再加熱する際は、上記温度域を2℃/分以上の比較的速い平均速度で加熱する。平均加熱速度が2℃/分を下回ると、加熱途中でオーステナイトとフェライトとの間でMnが分配され、Mn濃度の標準偏差を0.40%以下とすることが困難となるためである。例えば、上記の平均加熱速度は4℃/分以上であってもよい。
一方、平均加熱速度が50℃/分を上回るような急速加熱を実施した場合、スラブの厚さ方向における温度分布が不均一となり熱応力が発生する。この場合、スラブの熱変形等の不具合が発生する場合がある。例えば、上記の平均加熱速度は40℃/分以下、30℃/分以下、20℃/分以下もしくは10℃/分以下であってもよい。
Ac1点は次の式により計算する。下記式における元素記号には当該元素の質量%を代入する。含有しない元素については0(質量%)を代入する。
Ac1(℃)=723-10.7×Mn-16.9×Ni+29.1×Si+16.9×Cr
[スラブが1200℃以上で20分以上加熱される]
Mn偏析の緩和には、高温での長時間保持が有効となる。Mnは置換型元素であるが故に、その拡散速度は非常に遅く、1200℃以上の高温に加熱することで初めて拡散が進む。1200℃以上に加熱され、その温度域に20分以上保持されることにより、Mn濃度の標準偏差が低減され、0.40%以下を達成することが可能となる。
[粗圧延]
本方法では、例えば、加熱されたスラブに対し、板厚調整等のために、仕上げ圧延の前に粗圧延を施す。このような粗圧延は、特に限定されないが、1050℃以上での総圧下率が60%以上となるように実施することが好ましい。総圧下率が60%未満であると、熱間圧延中の再結晶が不十分となるため、熱延鋼板の組織の不均質化につながる場合がある。上記の総圧下率は、例えば、90%以下であってもよい。
[複数の圧延スタンドによる仕上げ圧延]
仕上げ圧延の条件は、特に限定するものではないが、当業者が一般的に使用する複数の圧延機からなる設備構成において、最終パス出側温度(仕上温度)を850℃以上とすることが好ましい。仕上温度が850℃未満の場合、加工オーステナイトからの相変態が早まり、冷却中にフェライトなどの高温変態生成相が生じ、全面をラス状組織にできない。その後、600℃までの平均冷却速度が10℃/秒以上となるように冷却することが好ましい。
<巻き取り工程>
巻き取り工程では、熱延鋼板を25~450℃の温度域で巻き取ることが好ましい。巻き取り温度を450℃以下とするのは、熱延鋼板のミクロ組織をベイナイトまたはマルテンサイトを主体としたミクロ組織にするためである。450℃よりも高い温度で巻き取った場合、ベイナイトを主体としたミクロ組織にならない。また、巻き取り温度を25℃未満とすることは特殊な設備が必要となる。そのため、巻き取りを25℃以上とする。
<冷間圧延工程>
巻き取り工程後の熱延鋼板に対し、板厚精度の向上や平坦度の改善のため、冷間圧延を施しても構わない。
ただし、圧下率が高すぎる場合、歪が過度に導入され、焼鈍加熱におけるフェライトの再結晶が促進して、ラスに由来する針状組織を維持することができない。そのため、冷間圧延における圧下率は30%以下とすることが好ましい。また、冷間圧延率の増加に伴い、製品の加工性が劣化することから、圧下率は、より望ましくは10%以下、更に望ましくは5%以下である。冷間圧延を行わなくてもよいので、圧下率の下限は0%である。
<焼鈍工程>
上述の通り、巻き取り工程では、ベイナイトまたはマルテンサイトを主体としたミクロ組織としている。そのため、巻き取り工程後、冷間圧延を施さない熱延鋼板、または冷間圧延の圧下率を30%以下とした冷間圧延を行った冷延鋼板に、焼鈍工程での熱処理を行う。
[Ac1+20℃以上Ac3(℃)未満の最高加熱温度で1秒~1000秒間保持した後、250℃以下まで冷却]
巻き取り工程での相変態により、ミクロ組織はベイナイトおよびマルテンサイトを主体としている。そのため、焼鈍工程においてAc1+20℃以上Ac3(℃)未満の最高加熱温度で1秒~1000秒間保持することにより、所望のオーステナイト体積分率とすることができる。最高加熱温度がAc1+20℃未満の場合、加熱により逆変態するオーステナイトの体積分率が不十分となり、その後の冷却および均熱処理工程で生成するベイナイト、焼き戻しマルテンサイトおよび残留オーステナイトの体積分率が所望の範囲を満たすことができない。一方、Ac3(℃)以上の温度まで加熱すると、焼鈍工程で形成したラス状組織が完全に失われてしまうことで、残留オーステナイトのアスペクト比を2.0以上に制御することができなくなる。同温度域での保持時間は、少なくとも1秒必要であり、上限は工業的に現実的な1000秒とする。
最高加熱温度まで加熱された鋼板は、本開示の範囲の残留オーステナイト体積分率を得るため、ベイナイト変態またはマルテンサイト変態をさせることが必要となる。このため、最高加熱温度まで加熱された鋼板は、250℃以下まで冷却する必要がある。冷却停止温度が250℃超では、続く均熱処理工程での保持中にベイナイト変態が十分に進まないことや、当該250℃以下への冷却で得られるマルテンサイトの焼き戻しができなくなり、ミクロ組織における所望の体積分率を得ることができない。
[最高加熱温度で1秒~1000秒間保持する際、加熱炉内の雰囲気log(PHO/PH)が-1.1≦log(PHO/PH)≦-0.07を満足する]
鋼板表層を脱炭する場合には、焼鈍工程における酸素ポテンシャルlog(PHO/PH)を高くする。酸素ポテンシャルが-1.1未満では酸素ポテンシャルが不十分となり脱Cが進まず、表面から30μmの深さ位置におけるビッカース硬さ[Hvsur]を十分小さくできない(表層を軟質化できない)。一方、酸素ポテンシャルが-0.07よりも高くなると、鉄自体の酸化が始まり製品とならないのでこれを上限とする。log(PHO/PH)は、最高加熱温度に昇温する前から前記範囲となっていても良い。
<均熱処理工程>
均熱処理工程では、焼鈍工程後の熱延鋼板または前記冷延鋼板に対して、所定の体積分率のベイナイトおよび残留オーステナイトを得るために、第二焼鈍工程で250℃以下まで冷却された鋼板を、加熱し、260~450℃の温度域で保持することが好ましい。当該温度域で保持することで、ベイナイト変態により排出された炭素原子が未変態オーステナイトへ濃縮して当該未変態オーステナイトの安定性が向上することで、所望の残留オーステナイト量を確保することができる。均熱処理工程の保持温度が260℃よりも低い場合、ベイナイト変態の進行が遅くなり、最終的にベイナイトの体積分率だけでなく残留オーステナイト体積分率も不十分となる。一方、450℃よりも高温で保持した場合、ベイナイトの強度が低下するだけでなく、オーステナイト中に炭化物が生成し、オーステナイト中のC濃度が低下することで、最終的に冷却した際に残留オーステナイトの体積分率が不足する。同温度域での保持時間は、少なくとも10秒は必要であり、これよりも短い場合にはベイナイト変態が不十分となる。また、1000秒間超保持することは工業的に困難なためこれを上限とする。
均熱処理工程における保持後の冷却については限定されない。
[めっき工程]
高強度鋼板をめっき層とする場合、鋼板をめっき浴に浸漬するめっき工程を、さらに備えても良い。めっき工程は、鋼板を溶融亜鉛めっき浴に浸漬する溶融亜鉛めっき工程であることが好ましい。溶融亜鉛めっき層を形成する場合、溶融亜鉛めっき浴への浸漬は、均熱処理工程の前の焼鈍工程における最高加熱温度から250℃以下への冷却の途中に施しても、または、均熱処理工程の後に施しても良い。この時の鋼板温度が鋼板性能に及ぼす影響は小さいが、鋼板温度とめっき浴温度の差が大きすぎると、めっき浴温度が変化してしまい操業に支障をきたす場合がある。そのため、めっき浴温度-20℃~めっき浴温度+20℃の範囲に鋼板を再加熱または冷却する工程を設けることが望ましい。溶融亜鉛めっきは常法に従えて行えばよい。例えば、めっき浴温は440~470℃、浸漬時間は5秒以下でよい。めっき浴は、Alを0.08~0.2質量%含有し、残部がZnであるめっき浴が好ましいが、その他、不純物としてFe、Si、Mg、Mn、Cr、Ti、Pbを含有してもよい。また、めっきの目付量を、ガスワイピング等の公知の方法で制御することが好ましい。目付量は、片面あたり25~75g/mが好ましい。
<実施例1>
表1に記載の引張強さを有し、表面(両面)に合金化溶融亜鉛めっき層が形成された鋼板(鋼板No.a~c及びA)を準備した。めっき層の目付量は、45g/mとした。
これらの鋼板の、同種2枚を重ね合わせ、鋼板の重ね合わせ部に対し、対向する一対の電極を用いて加圧しながら電極の間に通電することにより、ナゲット及びコロナボンドを形成した。ナゲット形成後は、種々の方法で電流値が0になるまで低下させ、電極の間の電流値を0にした状態で、表2に示す時間、加圧力を0.8×P以上に保持した。ナゲット形成に際し、2枚の鋼板はそれぞれ略水平に配置し、一対の電極はこの鋼板を挟むように配置した。鋼板の上に配された電極を可動電極とし、鋼板の下に配された電極を固定電極とし、上方の電極を下方の電極に向けて移動させることにより、鋼板を加圧した。
通電(本通電)の開始にあたっては、電流値を瞬間的に所定値まで上昇させ、その後ナゲット完成まで電流値を一定に維持した。本通電条件は、表2に示す通りとした。
また、試験No.1~4、6については、本通電の前に表2の条件で予備通電を行った。
試験No.7については、本通電完了後、加圧しながら電流値を0まで低下させる途中で、電流値が7.2kAとなった段階で200msecの間、電流値が一定となるように保持を行った。
試験No.8については、本通電完了後、加圧しながら、一旦通電しない時間を80msec設けた後、電流値が7.2kAで200msecの間保持を行い、その後、電流値を0まで低下させた。
試験No.9では、本通電完了後、加圧しながら電極の間の電流値を0まで低下させる時間が、30サイクル(600msec)となるようにダウンスロープさせた。
その他の溶接条件は以下に示す通りとした。
・溶接機:サーボ加圧定置式溶接機 単相交流(周波数50kHz)
・電極:ドームラジアス(DR)Cr-Cu
・電極先端の形状:φ6mm R40mm
・通電および保持の間の加圧力P:4kN
・ナゲットの形成が完了した時点での電流値I:8kA
(5.5~6.5mmのナゲットを形成する条件)
・本通電(ナゲットを形成する際)の通電時間:18サイクル(360ms)
・保持時間:5サイクル(100ms)または15サイクル(300ms)
・打角:5°
・クリアランス:0.3mm
ここで、打角とは、可動電極の軸方向と、鋼板の表面に垂直な方向とがなす角度である。クリアランスとは、鋼板表面と電極の間隔のことであり、ここでは、溶接前の下側電極の先端と鋼板表面が最も近接している個所の間隔で定義する。打角及びクリアランスは抵抗スポット溶接の外乱要素であり、LME割れを生じさせる要因である。打角及びクリアランスを上記の条件に設定することにより、LME割れが生じやすいようにした。加圧力は、ナゲット形成後、上記の期間において保持した。
上記の条件で、1条件につき20回ずつ抵抗スポット溶接を実施(20カ所にナゲットを形成)し、抵抗スポット溶接継手を作成した。
得られた抵抗スポット溶接継手の高強度鋼板の、1/20深さ位置における、圧延方向に対する直交方向におけるMn濃化部の平均間隔、1/20深さ位置における残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差、及び、30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とは、供した鋼板と同等であるため、測定を省略した。
<耐LME性>
得られた抵抗スポット溶接継手の、20カ所それぞれについて、ナゲットの中心を通り鋼板表面に垂直な面で切断し、断面(板厚方向断面)を適宜調製し、光学顕微鏡で重ね面側および電極と接した面(最表面)の両方の割れ有無を確認した。割れが一か所でもあればその条件は割れ有りと判定した。
20カ所の抵抗スポット溶接部を観察し、合計の割れ条件数が4以下であれば、耐LME性に優れると判断した。
<η相の割合(面積率)>
上述した方法で、コロナボンドにおける亜鉛系めっき層(めっき合金層)に占めるη相の割合、及び、重ね合わされた複数の鋼板の最も外側の表面の、溶接部の肩部における亜鉛系めっき層(めっき合金層)中のη相の割合を測定した。
表1、表2から分かるように、1/20深さ位置における、圧延方向に対する直交方向におけるMn濃化部の平均間隔、1/20深さ位置における残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差、及び、30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]との比が、本発明範囲にある例(No.5~10)では、耐LME性が優れていた。
また、コロナボンド及び溶接部の肩部における亜鉛系めっき層のη相の割合が20面積%以下の場合には、耐LME性がさらに優れていた。
Figure 2023111034000001
Figure 2023111034000002
<実施例2>
表3に記載の引張強さが980MPa未満であり、表面(両面)に合金化溶融亜鉛めっき層が形成された鋼板(鋼板No.a-2)及び引張強さが980MPa以上であり、表面にめっき層を有しない高強度鋼板(鋼板No.A-2)を準備した。
これらの鋼板を、表4に示すような組み合わせで、2枚、または3枚重ね合わせ、鋼板の重ね合わせ部に対し、対向する一対の電極を用いて加圧しながら電極の間に通電することにより、ナゲット及びコロナボンドを形成した。ナゲット形成後は、種々の方法で電流値が0になるまで低下させ、電極の間の電流値を0にした状態で、100msecの間、加圧力を0.8×P以上に保持した。ナゲット形成に際し、2枚の鋼板はそれぞれ略水平に配置し、一対の電極はこの鋼板を挟むように配置した。鋼板の上に配された電極を可動電極とし、鋼板の下に配された電極を固定電極とし、上方の電極を下方の電極に向けて移動させることにより、鋼板を加圧した。
通電(本通電)の開始にあたっては、電流値を瞬間的に所定値まで上昇させ、その後ナゲット完成まで電流値を一定に維持した。本通電条件は、表4に示す通りとした。また、試験No.12については、本通電完了後、加圧しながら電流値を0まで低下する途中で、電流値が7.2kAとなった段階で200秒間、電流値が一定となるように保持を行った。
その他の溶接条件は実施例1と同じとした。
<η相の割合(面積率)>
上述した方法で、コロナボンドにおける亜鉛系めっき層に占めるη相の割合を測定した。
<耐LME性>
得られた抵抗スポット溶接継手の、20カ所それぞれについて、ナゲットの中心を通り鋼板表面に垂直な面で切断し、断面(板厚方向断面)を適宜調製し、光学顕微鏡で鋼板重ね面側および電極に接した面の両方の割れ有無を確認した。割れが一か所でもあればその条件は割れ有りと判定した。
20カ所の抵抗スポット溶接部を観察し、合計の割れ数が4以下であれば、耐LME性に優れると判断した。
Figure 2023111034000003
Figure 2023111034000004
表3、表4から分かるように、高強度鋼板が、亜鉛めっき層と接する母材の表面を基準として、1/20深さ位置における、圧延方向に対する直交方向におけるMn濃化部の平均間隔、1/20深さ位置における残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差、及び、30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]との比が、本発明に範囲あれば、その他の鋼板との組み合わせの場合であっても、優れた耐LME性が得られる。
1 抵抗スポット溶接継手
11 鋼板(母材)
11’ 高強度鋼板(母材)
12 亜鉛系めっき層
13 ナゲット
14 コロナボンド
15 重ね面(重ね合わせ面)
16 熱影響部(HAZ)
17 溶接部
A 電極

Claims (12)

  1. 互いに重ね合わされた複数の鋼板と、
    前記複数の鋼板を接合しているナゲット、並びに、前記ナゲットの周囲に形成されたコロナボンド及び熱影響部、を有する溶接部と、
    を備え、
    前記複数の鋼板のうち1枚以上が、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板であり、
    前記高強度鋼板、または前記高強度鋼板と隣接する鋼板が、母材と前記母材の表面に形成された亜鉛系めっき層とを有するめっき鋼板であり、
    前記高強度鋼板は、母材の、前記亜鉛系めっき層と接する表面から板厚方向に板厚の1/20の位置である1/20深さ位置において、圧延方向に対する直交方向における、Mn濃化部の平均間隔が300μm以下であり、かつ、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差が0.40%以下であり、
    前記母材の前記表面から前記板厚方向に30μmの位置である30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、前記母材の前記表面から前記板厚方向に前記板厚の1/4の位置である1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、下記(1)式を満たす、
    ことを特徴とする、抵抗スポット溶接継手。
    [Hvsur]/[Hv]≦0.80 (1)
  2. 前記高強度鋼板の、前記亜鉛系めっき層と接する母材の表面が、重ね合わされた前記複数の鋼板の重ね面に位置する、
    ことを特徴とする、請求項1に記載の抵抗スポット溶接継手。
  3. 前記ナゲットの中心を通る板厚方向断面の前記コロナボンドにおいて、前記亜鉛系めっき層に占めるη相の割合が20面積%以下である、
    ことを特徴とする、請求項2に記載の抵抗スポット溶接継手。
  4. 前記ナゲットの中心を通る板厚方向断面において、前記熱影響部の直径が、前記ナゲットの直径の1.5倍以上であり、前記熱影響部には、円相当径が0.1μm以上の炭化物が40個/100μm以上の個数密度で分布している、
    ことを特徴とする、請求項3に記載の抵抗スポット溶接継手。
  5. 前記高強度鋼板が前記めっき鋼板であり、前記亜鉛系めっき層が最も外側の表面になるように前記めっき鋼板が配置された、
    ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接継手。
  6. 前記最も外側の表面の、前記溶接部の肩部における前記亜鉛系めっき層のη相の割合が、20面積%以下である、
    ことを特徴とする、請求項5に記載の抵抗スポット溶接継手。
  7. 前記30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、前記1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、下記(2)式を満たす、
    ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接継手。
    0.60≦[Hvsur]/[Hv]≦0.80 (2)
  8. 複数の鋼板を厚み方向に重ねる、重ね合わせ工程と、
    前記重ね合わせ工程後の前記複数の鋼板を、対向する一対の電極を用いて加圧しながら前記電極の間に通電することにより、ナゲット及びコロナボンドを形成する通電工程と、
    前記通電工程後、前記加圧を維持しながら、前記電極の間の電流値を0まで低下させる電流低下工程と、
    を有し、
    前記複数の鋼板のうち1枚以上が、引張強さが980MPa以上の高強度鋼板であり、
    前記高強度鋼板、または前記高強度鋼板に重ね合わせられる鋼板が、母材と前記母材の表面に形成された亜鉛系めっき層とを有するめっき鋼板であり、
    前記高強度鋼板は、
    前記母材の表面から板厚方向に板厚の1/20の位置である1/20深さ位置において、圧延方向に対する直交方向におけるMn濃化部の平均間隔が300μm以下であり、
    前記1/20深さ位置において、残留オーステナイト中のMn濃度の標準偏差が0.40%以下であり、
    前記母材の表面から前記板厚方向に30μmの位置である30μm深さ位置でのビッカース硬さ[Hvsur]と、前記母材の表面から前記板厚方向に前記板厚の1/4の位置である1/4深さ位置でのビッカース硬さ[Hv]とが、下記(1)式を満たす、
    ことを特徴とする、抵抗スポット溶接継手の製造方法。
    [Hvsur]/[Hv]≦0.80 (1)
  9. 前記電流低下工程において、前記加圧を維持しながら、前記電極の間の電流値を0まで低下させる時間が、420msec以上となるようにダウンスロープさせる、
    ことを特徴とする、請求項8に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
  10. 前記複数の鋼板の、単位mmでの合計板厚の1/2を、tmと定義し、前記ナゲットの形成が完了した時点での前記電極の間の電流値をIとしたとき、
    前記電流低下工程において、前記電極の間の前記電流値を、I×0.9からI×0.3までの範囲内において、単位msecで265×tm以上、かつ420msec以上の間、一定値に保持する、
    ことを特徴とする、請求項8または9に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
  11. 前記通電工程の前に、さらに、前記通電工程での前記通電よりも小さい電流で通電する予備通電工程を備える、
    ことを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
  12. 前記電流低下工程の後に、さらに、
    前記ナゲットの形成が完了した時点での加圧力をPとしたとき、前記電極の間の前記電流値を0にした状態で、200msec以上400msec以下、前記加圧力を0.8×P以上に保持する加圧保持工程を備える、
    ことを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
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