JP2023097309A - 成形体、回路基板、および改質方法 - Google Patents

成形体、回路基板、および改質方法 Download PDF

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Abstract

【課題】金属などの他材に対する接着性と、フッ素樹脂が本来有する電気特性と、を両立する。【解決手段】フッ素樹脂製の成形体であって、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面における元素組成について、炭素と酸素との合計が100原子%以下である限度で、炭素60原子%以上80原子%以下であり、かつ、酸素10原子%以上25原子%以下であり、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面からの深さが200nmの位置における酸素の含有量が、0原子%以上12原子%以下である。【選択図】なし

Description

本発明は、フッ素樹脂製の成形体、フッ素樹脂製の成形体を含む回路基板、およびフッ素樹脂製の成形体の表面を改質する改質方法に関する。
電子機器の分野において、回路基板が汎用されている。特に、通信機器に使用される回路基板では、高速かつ低損失の通信を実現するべく、誘電率および誘電正接が小さい絶縁体を使用することが望まれる。
誘電率および誘電正接が小さい代表的な材料として、フッ素樹脂が挙げられる。しかしフッ素樹脂は、金属を含む他の材料に対する接着性が乏しいため、フッ素樹脂を絶縁体として用いる回路基板を製造するためには、フッ素樹脂の表面に接着性を付与するなどの処理を加える必要がある。たとえば特開2006-128443号公報(特許文献1)には、フッ素樹脂成形体の表面を金属ナトリウム-ナフタレン錯体溶液で処理して接着性を付与する方法が開示されている。
また、たとえば特開2008-12683号公報(特許文献2)に開示されている、ガラスクロスにフッ素樹脂を含浸させて製造される基板材料に代表されるように、フッ素樹脂と無機材料とを組み合わせた基板材料も、当分野において汎用されている。この場合は、無機材料の部分が金属に対する接着性を担う。
特開2006-128443号公報 特開2008-12683号公報
Peng Lei et. al., Org. Lett. 2018, 20, 12, 3439-3442
しかし、金属ナトリウム-ナフタレン錯体溶液を用いる表面改質技術では、接着性に寄与する表面部分のみならず、当該表面からある程度の深さの部分まで改質されてしまうので、フッ素樹脂が本来有する電気特性が失われる場合があった。また、ガラスクロスにフッ素樹脂を含浸させて製造される基板材料は、フッ素樹脂に比べて電気特性が劣るガラス材料を含むため、電気特性の向上が難しかった。
そこで、フッ素樹脂製の成形体において、金属などの他材に対する接着性と、フッ素樹脂が本来有する電気特性と、を両立することが求められる。また、当該成形体を含む回路基板の実現も求められる。
本発明に係る第一の成形体は、フッ素樹脂製の成形体であって、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面における元素組成について、炭素と酸素との合計が100原子%以下である限度で、炭素60原子%以上80原子%以下であり、かつ、酸素が10原子%以上25原子%以下であり、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面からの深さが200nmの位置における酸素の含有量が、0原子%以上12原子%以下であることを特徴とする。
本発明に係る第二の成形体は、フッ素樹脂製の成形体であって、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面における元素組成について、炭素と酸素との合計が100原子%以下である限度で、炭素60原子%以上80原子%以下であり、かつ、酸素が10原子%以上25原子%以下であり、ラマンスペクトル分析において、ラマンシフト1050cm-1以上1150cm-1以下の領域、および、ラマンシフト1450cm-1以上1550cm-1以下の領域の少なくとも一つにピークが検出されることを特徴とする。
本発明に係る第三の成形体は、フッ素樹脂製の成形体であって、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面における元素組成について、炭素と酸素との合計が100原子%以下である限度で、炭素60原子%以上80原子%以下であり、かつ、酸素10原子%以上25原子%以下であり、ISO 25178に従って測定される界面の展開面積比(Sdr)が、0.02以上0.1以下であることを特徴とする。
また、本発明に係る回路基板は、フッ素樹脂製の成形体を含む回路基板であって、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、前記成形体の表面における元素組成が、炭素と酸素との合計が100原子%以下である限度で、炭素60原子%以上80原子%以下であり、かつ、酸素10原子%以上25原子%以下であり、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、前記成形体の表面からの深さが200nmの位置における酸素の含有量が、0原子%以上12原子%以下であることを特徴とする。
これらの構成によれば、接着性に寄与する最表面部分のみが改質された成形体、およびこれを含む回路基板が提供される。これによって、金属などの他材に対する接着性と、フッ素樹脂が本来有する電気特性と、が両立されうる。
また、本発明に係る改質方法は、フッ素樹脂製の成形体の表面を改質する改質方法であって、前記成形体の表面に電子供与体を接触させる第一工程と、前記第一工程後の前記成形体の表面にケトン化合物を接触させる第二工程と、を含み、前記電子供与体が、金属ナトリウムが溶媒中に分散している分散体と、1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンおよびクラウンエーテルからなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、を含むことを特徴とする。
これらの構成によれば、接着性に寄与する最表面部分のみを改質できるため、改質して得られる成形体において、金属などの他材に対する接着性と、フッ素樹脂が本来有する電気特性と、が両立されうる。
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
本発明に係る成形体は、一態様として、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面からの深さが200nmの位置におけるフッ素の含有量が、30原子%以上67原子%以下であることが好ましい。
この構成によれば、フッ素樹脂が本来有する電気特性がさらに維持されており、一層良好な電気特性を発現しうる。
本発明に係る成形体は、一態様として、ラマンスペクトル分析において、ラマンシフト1050cm-1以上1150cm-1以下の領域、および、ラマンシフト1450cm-1以上1550cm-1以下の領域の少なくとも一つにピークが検出されることが好ましい。
この構成では、接着性を発現するために必要な反応が成形体の表面部分において特に十分に進行しているので、一層良好な接着性を発現しうる。
本発明に係る成形体は、一態様として、前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン単位を95モル%以上含むことが好ましい。
この構成では、フッ素樹脂の中でも特に電気特性が良好なフッ素樹脂を主として成形体が形成されるので、一層良好な電気特性を発現しうる。
本発明に係る成形体は、一態様として、ISO 25178に従って測定される界面の展開面積比(Sdr)が、0.02以上0.1以下であることが好ましい。
この構成によれば、必要以上の改質が行われていないので、フッ素樹脂が本来有する電気特性がさらに維持されており、一層良好な電気特性を発現しうる。
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
実施例に係るラマンスペクトルを示す図である。 比較例に係るラマンスペクトルを示す図である。 実施例に係るSEM像である。 比較例に係るSEM像である。 銅めっきした改質シートの伝送損失の測定結果を示す図である。
本発明に係る成形体、回路基板、および改質方法の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、フッ素樹脂製のシートを改質して、表面が改質されたシートを得た例、および、改質後のシートを基材とする回路基板を製造した例、について説明する。なお、シートは成形体の例である。
〔改質方法〕
まず、フッ素樹脂製のシートを改質して、表面が改質されたシートを得る改質方法について説明する。なお以下では、区別のため、改質処理に供される前のシートを「未改質シート」と称し、表面が改質されたシートを「改質シート」と称する。また、シートとは、面方向の広がりに比して相当に小さい厚さを有する成形体を指す。シートの厚さは特に限定されないが、たとえば10μm以上2000μm以下でありうる。
(未改質シートの構成)
未改質シートは、従来のフッ素樹脂製のシートである。フッ素樹脂は、含フッ素モノマーを重合単位として含む樹脂材料である。本実施形態におけるフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、またはこれらの混合物でありうるが、これらに限定されない。ただし、上記に列挙したフッ素樹脂のうち、特に良好な高周波特性を示すパーフルオロフッ素樹脂(PTFE、FEP、およびPFA)を用いることが好ましい。
ただし、フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン単位を95モル%以上含むことが好ましく、97モル%以上含むことがより好ましい。この条件に合致するフッ素樹脂は、典型的にはPTFEおよびPFAであり、PTFEであることがさらに好ましい。なお、PTFEは、重合単位としてテトラフルオロエチレンのみを含むいわゆるホモPTFEであってもよいし、テトラフルオロエチレン以外の重合単位を含むいわゆる変性PTFEであってもよい。なお、フッ素樹脂におけるテトラフルオロエチレン単位の含有量は、核磁気共鳴(溶融19F NMRまたは固体19F NMR)や赤外分光法(IR)などによって定量されうる。
また、フッ素樹脂は、融点が300℃以上であることが好ましく、320℃以上であることがより好ましい。フッ素樹脂の融点は、たとえば示差走査熱量測定(DSC測定)によって決定できる。DSC測定の測定条件は、各フッ素樹脂の工業規格(ASTM D4894、ASTM D2116、ASTM D3307など)に従う。
未改質シートは、切削加工、圧縮成形、押出成形などの公知の方法で製造されうる。たとえばPTFE製のシートは、PTFE材料をブロック状に圧縮成形した後に焼成して得られるビレットを切削加工して得られうる。また、たとえば、PFA製のシートは、Tダイを使用する押出成形によって得られうる。
(改質方法の手順)
本実施形態に係る改質方法は、未改質シートの表面に電子供与体を接触させる第一工程と、第一工程後のシートの表面にケトン化合物を接触させる第二工程と、を含む。第一工程および第二工程を通じて、未改質シートの表面に存在するフッ素原子が、酸素を含有する官能基に置換される。
(1)第一工程
第一工程は、未改質シートの表面に、電子供与体を接触させる工程である。ここで、電子供与体は、金属ナトリウムが溶媒中に分散している分散体(以下、「SD」と称する。なお、SDはSodium Dispersionの略語である。)と、1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンおよびクラウンエーテルからなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、を含む混合物である。
SDは、ナトリウムが分散溶媒中に微粒子(すなわち固体)として分散しているもの、または、ナトリウムが分散溶媒中に微小な液滴(すなわち液体)として分散しているもの、である。ここで、ナトリウムは、純粋な金属ナトリウムであってもよいし、金属ナトリウムを含む合金であってもよい。
SD中のナトリウム(微粒子または液滴)の平均粒子径は、好ましくは100μm未満であり、より好ましくは50μm未満であり、さらに好ましくは30μm未満であり、一層好ましくは10μm未満であり、特に好ましくは5μm未満である。なお、平均粒子径は、顕微鏡写真の画像解析によって得られた投影面積と同等の投影面積を有する球の径で表される。
SDにおける金属ナトリウムの含有量は、好ましくは10~30質量%であり、より好ましくは15~25質量%である。なお、金属ナトリウムの含有量は、SDの製造に供する金属ナトリウムと分散溶媒との質量比から算出されてもよいし、得られたSDを過剰量の水に添加して水酸化ナトリウム水溶液とした上で、中和滴定により特定される当該水酸化ナトリウム水溶液の濃度に基づいてSD中の金属ナトリウムの量を特定する方法によって特定されてもよい。
分散溶媒としては、ナトリウム(微粒子または液滴)が分散することができ、かつ、本実施形態に係る第一工程および第二工程において進行する反応を阻害しない限りにおいて、公知の溶媒を使用することができる。かかる要件を満たす分散溶媒としては、パラフィン系溶媒(ノルマルパラフィン系溶媒、シクロパラフィン系溶媒)、芳香属系溶媒、複素環化合物溶媒など、当分野で公知の溶媒を用いることができる。ノルマルパラフィン系溶媒としては、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、ノルマルノナン、およびノルマルデカンが例示されるが、これらに限定されない。シクロパラフィン系溶媒としては、シクロペンタンが例示されるが、これに限定されない。エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、および2-メチルテトラヒドロピレンが例示されるが、これらに限定されない。芳香族系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、およびキシレンが例示されるが、これらに限定されない。アミン系溶媒としては、エチレンジアミンが例示されるが、これに限定されない。複素環化合物溶媒としては、テトラヒドロチオフェンが例示されるが、これに限定されない。なお、これらの溶媒を単独で用いてもよいし、二種類以上を混合した混合溶媒として用いてもよい。
SDを生じさせる具体的な方法としては、公知の方法を採用しうる。たとえば特開2007-197787号公報には、融点以上に加熱した金属ナトリウム(液体)とパラフィン系溶媒とを、一次分散装置および二次分散装置で順次混合する方法が開示されている。
一次分散装置としては、たとえばパドル翼やディスクタービン翼などを備えた攪拌装置を用いることができ、当該攪拌装置には合成熱媒油を流通させることができるジャケットが設けられている。当該ジャケットに105~140℃の合成熱媒油を流通させた状態で攪拌装置を運転して、パラフィン系溶媒に金属ナトリウムを分散させた一次分散体を得る。一次分散体におけるナトリウムの平均粒子径は、たとえば20μm以下である。
二次分散装置としては、たとえばロータおよびステータを有する装置を用いることができる。ロータおよびステータの双方には刃が設けられており、ロータの回転に伴ってロータの刃とステータの刃との間に生じるせん断力が、被処理体に加えられる。二次分散装置に一次分散体を供給して二次分散装置を運転すると、金属ナトリウムの分散粒子径が一次分散体に比べて小さい二次分散体が得られる。当該二次分散体を、SDとして用いる。
また、本実施形態に係る電子供与体は、SDの他に、1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンおよびクラウンエーテルからなる群から選択される少なくとも一つの化合物(以下、「所定の化合物」と称する。)を含む。
1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンは、以下の式(1)で表される化合物である。
Figure 2023097309000001
式(1)において、RおよびRは、同一または互いに異なるアルキル基である。より具体的には、RおよびRは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、などでありうる。たとえば、RおよびRがいずれもメチル基である場合は、式(1)の化合物は1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)であり、RおよびRがいずれもエチル基である場合は、式(1)の化合物は1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン(DEI)である。
式(1)において、RおよびRは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、およびn-ブチル基からなる群から選択されることが好ましい。また、式(1)において、RおよびRの少なくとも一つがメチル基またはエチル基であることがより好ましく、式(1)において、RおよびRの双方がメチル基またはエチル基であることがさらに好ましい。
第一工程に供される1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンは、市販されているものであってもよいし、当分野において公知の方法によって製造されたものであってもよい。かかる方法としては、対応するアルキル基を有するN,N’-ジアルキルエチレンジアミンとホスゲンとの反応(式(2))や、エチレン尿素とヨウ化アルキルとの反応(式(3))などによって得られうる。ただし後者では窒素原子上の二つのアルキル基Rが同一のものが得られる。
Figure 2023097309000002
Figure 2023097309000003
また、第一工程に供されるクラウンエーテルは、市販されているものであってもよいし、当分野において公知の方法によって製造されたものであってもよい。また、クラウンエーテルは、より具体的には18-クラウン-6、15-クラウン-5、12-クラウン-4などでありうるが、これらに限定されない。
本実施形態に係る電子供与体において、SDと所定の化合物との比率は特に限定されないが、たとえばナトリウムと所定の化合物とのモル比が1:1~1:60であってよい。
本実施形態に係る電子供与体は、SDと所定の化合物との他に、希釈溶媒を含みうる。当該希釈溶媒は、SDの分散溶媒と同一の溶媒であってもよいし、異なる溶媒であってもよい。
本実施形態に係る電子供与体は、エーテル系溶媒を含むことが好ましい。電子供与体がエーテル系溶媒を含む場合、電子供与体としての活性種がエーテル系溶媒に均一に分散しやすいためである。エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、および2-メチルテトラヒドロピレンが例示され、これらに限定されないが、テトラヒドロフランが特に好適である。エーテル系溶媒を含む電子供与体を提供する方法は、典型的には二通りの例が示される。第一の例は、エーテル系溶媒を分散溶媒とするSDを原料として用いる方法である。第二の例は、SDおよび1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンに加えて希釈溶媒としてのエーテル系溶媒を加える方法である。これらの方法によれば、電子供与体の全体が単一相の液体として得られうるので好ましい。
また、本実施形態に係る電子供与体は、界面活性剤、酸化防止剤などの添加剤を含んでいてもよい。
本実施形態に係る電子供与体は、SDと所定の化合物とを反応容器中で混合して攪拌することにより得られる。このとき、希釈溶媒などの他の構成成分を反応容器中に加えてもよい。攪拌する方法としては公知の方法を用いることができ、たとえば、マグネティックスターラーを用いる方法や、攪拌翼を有する攪拌装置を用いる方法などが例示される。
SDと所定の化合物(たとえばDMI)とを混合して攪拌すると、やがて反応容器内の溶液が青色を呈する。溶液が青色を呈する理由は定かではないが、仮説として、金属ナトリウムNaがカチオンNaとアニオンNaとに分離した化学種が生じていると考えられる。この化学種のうちのアニオンNaは、電子供与体として作用する活性種である。これらの化学種は不安定であるが、本系では所定の化合物によってカチオンNaが安定化されており、アニオンNaとの再結合が防止されるため、活性種であるアニオンNaが室温で安定に存在できるのだと考えられる。なお、アルカリ金属がカチオンとアニオンとに分離した化学種が生じたときに溶液が青色を呈することは、Peng Lei et. al., Org. Lett. 2018, 20, 12, 3439-3442(非特許文献1)に報告例がある。
上記の仮説から、反応容器内の溶液が青色を呈していることは、電子供与体が生じていることを示していると考えられる。したがって、第一工程で使用する電子供与体は、SDと所定の化合物とを反応容器中で混合し、溶液が青色を呈するまで攪拌することによって得られうる。
すなわち、所定の化合物は、カチオンNaに対する配位能を有するルイス塩基であればよい。本発明者らは、当該ルイス塩基が、1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンおよびクラウンエーテルからなる群から選択される少なくとも一つの化合物(所定の化合物)である場合について、本発明の作用効果が現に発現することを確認し、本発明を完成するに至った。しかし、他のルイス塩基を用いた場合についても、所定の化合物を用いた場合と同種の作用効果を奏することが予想される。
上記のように調製した電子供与体を未改質シートの表面に接触させる方法は、公知の方法を採用できる。たとえば、未改質シートの表面に電子供与体の溶液を塗布する、未改質シートの表面に電子供与体の溶液を噴霧する、未改質シートを電子供与体の溶液に浸漬する、などの操作を行えばよい。
未改質シートの表面に電子供与体を接触させると、フッ素樹脂の主鎖に含まれるフッ素原子(たとえばテトラフルオロエチレン単位に由来する。)が主鎖から引き抜かれてラジカルが生じる。所定の化合物がDMIである場合の例を式(4)に示す。このラジカルが、続く第二工程における反応点として機能する。
Figure 2023097309000004
未改質シートの表面に電子供与体を接触させる時間(第一反応時間)は特に限定されないが、たとえば10秒以上20分以下でありうる。第一反応時間が10秒以上であると、式(4)の反応が十分に進行しやすい。また、第一反応時間が20分以下であると、ナトリウムによる不要な反応を避けやすい点で好ましい。第一反応時間は、30秒以上であることがより好ましく、60秒以上であることがさらに好ましい。また、第一反応時間は、10分以下であることがより好ましい。
未改質シートの表面に電子供与体を接触させる際の温度(第一反応温度)は特に限定されないが、たとえば-20℃以上40℃以下でありうる。第一反応温度が0℃以上であると、冷却の効率の点で好ましい。また、第一反応温度が40℃以下であると、反応性の点で好ましい。第一反応温度は、0℃以上であることがより好ましく、15℃以上であることがさらに好ましい。また、第一反応温度は、35℃以下であることがより好ましく、25℃以下であることがさらに好ましい。
(2)第二工程
第二工程は、第一工程後のシートの表面にケトン化合物を接触させる工程である。
第二工程に供されるケトン化合物としては、アセトン、メチルエチルケトンなどが例示されるが、これらに限定されない。また、ケトン化合物は、単一のケトン化合物であってもよいし、複数種類のケトン化合物の混合物であってもよい。第二工程に供されるケトン化合物は、アセトンを含むことが好ましく、アセトン単独であることがより好ましい。
第二工程においてシート表面にケトン化合物を接触させる方法は、公知の方法を採用できる。たとえば、第一工程後のシートをケトン化合物に浸漬すればよい。
第一工程後のシートの表面にケトン化合物を接触させると、式(4)の反応により生じたラジカルが求核剤として働き、ケトン化合物のカルボニル基の炭素に付加する。このとき生じるアルコキシドアニオンがプロトン化されて、最終的にヒドロキシ基を有する官能基が生じる。このように、第一工程後のフッ素樹脂とケトン化合物とが反応して、ヒドロキシ基を有する官能基がフッ素樹脂に導入される。ケトン化合物がアセトンである場合の例を式(5)に示す。
Figure 2023097309000005
第一工程後のシートの表面にケトン化合物を接触させる時間(第二反応時間)は特に限定されないが、たとえば10秒以上30分以下でありうる。第二反応時間が10秒以上であると、式(5)の反応が十分に進行しやすい。また、第二反応時間が30分以下であると、生産性の点で好ましい。第二反応時間は、30秒以上であることがより好ましく、1分以上であることがさらに好ましい。また、第二反応時間は、20分以下であることがより好ましく、10分以下であることがさらに好ましい。なお、第二工程の反応時間を、第一工程の反応時間よりも長くすると、反応を確実に進める点で好ましい。
第一工程後のシートの表面にケトン化合物を接触させる際の温度(第二反応温度)は特に限定されないが、たとえば-20℃以上30℃以下でありうる。第二反応温度が-25℃以上であると、冷却の効率の点で好ましい。また、第二反応温度が30℃以下であると、生産性の点で好ましい。第二反応温度は、0℃以上であることがより好ましく、10℃以上であることがさらに好ましい。また、第二反応温度は、25℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることがさらに好ましい。
第一工程および第二工程を経た改質シートの表面は、少なくとも部分的に式(6)の構造を含む。なお、式(6)では、式(5)と同様に、ケトン化合物がアセトンである場合の例を示している。
Figure 2023097309000006
式(5)の反応によって生じた官能基は、ヒドロキシ基が水素結合を形成できることによって、金属などの相手材に対する接着性を発現する。したがって、改質シートの表面が式(6)の構造を含むことで、当該表面が接着性を有する。このように、改質前の状態では接着性を有さないフッ素樹脂に対して、第一工程および第二工程を経て接着性を付与できるのである。
〔改質シートの構成〕
次に、上記の改質方法によって得られる改質シート(本発明に係る成形体の一実施形態である。)の構成について説明する。本実施形態に係る改質シートは、フッ素樹脂製のシートであり、その表面を構成するフッ素樹脂にはケトン化合物に由来する官能基が導入されている。改質シートの厚さは、出発原料として使用する未改質シートの厚さと同一であり、たとえば10μm以上2000μm以下でありうる。
本実施形態に係る改質シートは、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面における元素組成について、炭素と酸素との合計が100原子%以下である限度で、炭素60原子%以上80原子%以下であり、かつ、酸素10原子%以上25原子%以下である。なお、炭素および酸素以外の残部としては、未改質のフッ素樹脂に由来するフッ素や、SDに由来するナトリウムなどが存在しうる。改質シート表面の酸素の含有量は未改質のフッ素樹脂における通常の酸素含有量より多い。これは、式(4)および式(5)の反応によって、フッ素原子がヒドロキシ基を有する官能基に置換されることに起因する。
X線光電子分光法による改質シート表面の元素組成の測定は、たとえば、アルバックス・ファイ社製走査型X線光電子分光分析装置PHI5000 VersaProbeIIに、アルゴンガスクラスターイオン銃(Ar、10keV、クラスターサイズ2500原子、ラスター範囲3mm×3mm)を搭載して、AlKα線1486.6eVをX線源として実施されうる。また、測定条件は、一例として、取込立体角が±20°であり、取り出し角が90°である。なお、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とすることは、これらの元素に帰属されるピークが現れる結合エネルギー領域を測定対象とするナロースキャン分析により実現できる。
改質シートの表面における酸素の含有量が10原子%以上であることは、改質シート表面において改質が十分になされていることを意味し、このとき、金属などの相手材に対して接着しやすい改質シートが得られる。また、改質シートの表面における酸素の含有量が25原子%以下であることは、過剰な改質がなされていないことを意味し、このとき未改質のフッ素樹脂が有する電気特性や耐熱性などの性能が発現しやすい改質シートが得られる。改質シートの表面における酸素の含有量は、15原子%以上であることが好ましく、20原子%以上であることがより好ましい。また、改質シートの表面における酸素の含有量は、25原子%以下であることが好ましい。
改質シートの表面におけるフッ素の含有量が5原子%以下である場合は、改質シート表面において改質が十分になされているといえる。この場合は、金属などの相手材に対して接着しやすい改質シートが得られるため、好ましい。なお、改質シートの表面におけるフッ素の含有量は特に限定されず、0原子%以上(検出限界以上)であってよい。改質シートの表面におけるフッ素の含有量は、5原子%以下であることがより好ましく、3原子%以下であることがさらに好ましい。
改質シートの表面に検出されるナトリウムは、改質処理において用いるSDに起因する。ナトリウムの含有量の上限は、たとえば10原子%でありうる。なお、ナトリウムが残存していなくても(検出限界以下であっても)よい。
本実施形態に係る改質シートは、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面からの深さが200nmの位置(以下、「所定の深さ」と称する。)における酸素原子の含有量が、0原子%以上12原子%以下である。所定の深さにおける酸素原子の含有量が12原子%以下であることは、過剰な改質がなされていないことを間接的に意味し、未改質のフッ素樹脂が有する電気特性や耐熱性などの性能が発現しやすいシートが得られる。所定の深さにおける酸素の含有量は、12原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であることがより好ましい。また、所定の深さにおける酸素の含有量は、2原子%以上であることが好ましく、5原子%以上であることがより好ましい。
改質シートの表面から所定の深さの位置における元素組成は、X線光電子分光法による元素組成の測定を実施する際の出力とスパッタタイムとの組合せを調整して実施されうる。たとえば、表面からの深さが200nmの位置における元素組成は、改質シートの表面における元素組成を特定するための上記の測定条件のうち、スパッタタイムを6分間に変更する他は同一とする測定条件により、測定できる。なお、スパッタタイムを6分間にすることで表面からの深さが200nmの位置における元素組成を測定できる、とする根拠は、ポリスチレンの理論スパッタレートが毎分33.75nmであり、これに6分間を乗じて有効数字を一桁とすると200nm(2×10nm)になることにある。
本実施形態に係る改質シートは、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、所定の深さにおけるフッ素の含有量が、30原子%以上67原子%以下であることが好ましい。所定の深さにおけるフッ素原子の含有量が30原子%以上であることは、過剰な改質がなされていないことを直接的に意味し、未改質のフッ素樹脂が有する電気特性や耐熱性などの性能が一層発現しやすい改質シートが得られる。所定の深さにおけるフッ素の含有量は、60原子%以下であることがより好ましく、50原子%以下であることがさらに好ましい。また、所定の深さにおけるフッ素の含有量は、35原子%以上であることがより好ましく、40原子%以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る改質シートは、炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、所定の深さにおける炭素の含有量が、30原子%以上60原子%以下であることが好ましい。
本実施形態に係る改質シートは、ラマンスペクトル分析において、ラマンシフト1050cm-1以上1150cm-1以下の領域、および、ラマンシフト1450cm-1以上1550cm-1以下の領域の少なくとも一つにピークが検出されることが好ましく、双方の領域にピークが検出されることがより好ましい。ラマンシフト1050cm-1以上1150cm-1以下の領域のピーク(たとえば1110cm-1)は、フッ素樹脂の高分子主鎖における、炭素-炭素二重結合に挟まれた炭素-炭素単結合(式(7))に帰属される。また、ラマンシフト1450cm-1以上1550cm-1以下の領域のピーク(たとえば1495cm-1)は、フッ素樹脂の高分子主鎖における、炭素-炭素単結合に挟まれた炭素-炭素二重結合(式(8))に帰属される。このように、二重結合を含む部分構造に帰属されるピークが検出されることは、シート表面の改質が十分になされていることを意味する。
Figure 2023097309000007
また、本実施形態に係る改質シートは、ラマンスペクトル分析において、ラマンシフト1900cm-1以上2000cm-1の領域にピークが検出されないことが好ましい。
ラマンシフト1900cm-1以上2000cm-1の領域(たとえば1920cm-1)は、水素原子を含む部分構造(=CH-、=CH)に帰属される。これらの部分構造が存在することは、過剰な改質がなされてフッ素原子が過剰に失われていることを示す。
なお、ラマンスペクトル分析は、たとえば、HORIBA製LabRAM HR Evolutionを用いて、励起波長458nmまたは633nm、回折格子刻線600本、および、対物レンズ100倍、の測定条件で実施できる。
加えて、本実施形態に係る改質シートは、ISO 25178に従って測定される界面の展開面積比(Sdr)が、0.1以下であることが好ましい。界面の展開面積比(Sdr)の下限は特に限定されないが、たとえば、界面の展開面積比(Sdr)は0.02以上でありうる。また、本実施形態に係る改質シートは、ISO 25178に従って測定される山頂面の算術平均面(Spc)が、10000以下であることが好ましい。山頂面の算術平均面(Spc)の下限は特に限定されないが、たとえば、山頂面の算術平均面(Spc)は3000以上でありうる。界面の展開面積比(Sdr)および山頂面の算術平均面(Spc)は、いずれもいわゆる表面粗度を表すパラメータであり、当該パラメータが上記の範囲にあることは、改質シートの表面の平滑性が比較的高いことを示す。
〔回路基板の構成〕
続いて、本実施形態に係る回路基板の構成について説明する。本実施形態に係る回路基板では、上記の改質シートの表面に銅配線を形成してある。
本実施形態に係る回路基板は、上記の改質シートを材料として用いるほかは、当分野において公知の方法によって製造されうる。すなわち、改質シートの表面に銅メッキを施したものを素材として、回路基板の製造に係る常法を適用すればよい。
上述のように、改質シートの表面にはケトン化合物に由来する官能基が導入されており、当該官能基が有するヒドロキシ基が銅原子と作用することによって、銅に対する良好な接着性を発現する。フッ素樹脂が金属を含む他材に対して接着しにくい材料であることから、フッ素樹脂に対して銅メッキを施すことは従来困難だったが、上記の改質方法を適用して得られた改質シートであれば、実用上十分な強度で銅メッキを施すことができる。
そして、上記の改質方法を適用して得られた改質シートでは、接着性に寄与する表面部分のみが最小限に改質されているので、フッ素樹脂が本来有する良好な高周波特性(低誘電率および低誘電正接)が高い水準で維持されている。したがって、当該改質シートを材料として用いて製造された回路基板を高周波デバイスに用いると、高速かつ低損失の通信を実現できる。
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定しない。
〔試験1:表面および所定の深さにおける元素組成〕
以下に示す諸条件で作成した改質シートについて、表面および所定の深さ(表面からの深さが200nmの位置)における元素組成を測定した。
(共通条件)
未処理のシートとして、PTFE製、幅210mm、長さ297mm、厚さ1mmのシートを用いた。SDを使用する場合は、当該SDにおいて、ナトリウムの平均粒子径は10μm以下であり、金属ナトリウムの含有量は25~26質量%であった。ケトン化合物を使用する場合は、アセトンを用いた。第一工程および第二工程の双方を室温で実施した。なお、各例について特記していない調製条件、および元素組成の測定条件は、上記の実施形態の通りとした。
(実施例1)
SDおよびDMIを含む電子供与体(Na:DMI=1:6)を用いて、改質シートを作成した。第一反応時間を1分とし、第二反応時間を10分とした。実施例1の改質シートでは、表面における元素組成を炭素、フッ素、酸素、窒素、ナトリウム、カルシウム、およびシリカを検出対象として測定した際の測定値が、炭素72.0原子%、酸素23.7原子%、フッ素0.0原子%(検出限界以下)、ナトリウム3.4原子%、窒素0.9原子%、カルシウム0.0原子%(検出限界以下)、およびSi0.0原子%(検出限界以下)だった。一方、表面からの深さが200nmの位置における元素組成の測定値は、炭素48.1原子%、酸素7.3原子%、フッ素42.5原子%、ナトリウム0.0原子%(検出限界以下)、窒素1.7原子%、カルシウム0.4原子%、及びSi0.0原子(検出限界以下)であった。これを、炭素、フッ素、酸素、およびナトリウムの四元素に限定して計算すると、表面における元素組成は、炭素72.3原子%、フッ素0.0原子%、酸素23.9原子%、およびナトリウム原子3.4%となり、表面からの深さが200nmの位置における元素組成は、炭素49.1原子%、フッ素43.4原子%、酸素7.5原子%、ナトリウム0.0原子%(検出限界以下)となる。炭素、フッ素、酸素、およびナトリウムに限定して測定しても同様の値が得られることから、以降のXPS測定では、炭素、フッ素、酸素、およびナトリウムを検出対象として測定を行った。なお、以下の実施例、比較例において合計が100原子%と一致しないのは、有効数字未満の四捨五入に起因するものである。
(実施例2)
SDおよびクラウンエーテルを含む電子供与体(Na:クラウンエーテル=1:1)を用いて、改質シートを作成した。第一反応時間を1分とし、第二反応時間を10分とした。実施例2の改質シートでは、表面における元素組成が、炭素61.5原子%、酸素21.9原子%、フッ素12.3原子%、およびナトリウム4.2原子%だった。また、表面からの深さが200nmの位置における元素組成が、炭素36.3原子%、酸素2.1原子%、フッ素60.7原子%、ナトリウム0.9原子%だった。
(比較例1)
比較例1として、市販品の改質シートを使用した。比較例1の改質シートは、未改質シートの表面をナトリウムおよびナフタレンを含む溶液に接触させたのちに、当該表面を水で洗浄して得られたものである。比較例1の改質シートでは、表面における元素組成が、炭素71.8原子%、酸素22.8原子%、フッ素5.1原子%、およびナトリウム0.4原子%だった。また、表面からの深さが200nmの位置における元素組成が、炭素64.5原子%、酸素16.5原子%、フッ素19.0原子%、ナトリウム0.1原子%だった。
(比較例2)
比較例2として、市販品の改質シートを使用した。比較例2の改質シートは、未改質シートの表面をナトリウムおよびアンモニアを含む溶液に接触させたのちに、当該表面を水で洗浄して得られたものである。比較例2の改質シートでは、表面における元素組成が、炭素67.9原子%、酸素29.2原子%、フッ素1.9原子%、およびナトリウム0.8原子%だった。また、表面からの深さが200nmの位置における元素組成が、炭素68.4原子%、酸素22.8原子%、フッ素6.1原子%、ナトリウム2.7原子%だった。
〔試験2:ラマンスペクトル分析〕
実施例1の改質シートの表面について、ラマンスペクトル分析を行った。励起波長を633nmとし、その他の測定条件は上記の実施形態の通りとした。図1に、実施例1の測定結果(上段)と、未改質シートについての測定結果(下段)を示す。実施例1では、ラマンシフト1110cm-1のピークP1およびラマンシフト1495cm-1のピークP2が見られた。これらのピークは、未改質シートには見られないピークである。
比較例1、比較例2の改質シートについて同様に、励起波長を633nmとしてラマンスペクトル分析を行った。図2に、比較例1の測定結果(上段)、比較例2の測定結果(中段)、および未改質シートについての測定結果(下段)を示す。比較例1及び比較例2の改質シートでは、ラマンシフト1110cm-1のピークおよびラマンシフト1495cm-1のピークは、いずれも見られなかった。
〔試験3:誘電特性の測定〕
実施例および比較例の各例の改質シート、ならびに未改質シートについて、IEC 62810に準拠する空洞共振器摂動法により、比誘電率および誘電正接を測定した。測定周波数を10GHzとし、試験環境を室温23±1℃、湿度50±5%RHとした。
(試料)
実施例1は、試験1において作成したものである。比較例1は、試験1において使用したものと同じ市販品である。比較例3として、ロジャースコーポレーション製RO3003の銅箔を除去したものを用いた。なお、ロジャースコーポレーション製RO3003は、PTFEとセラミックフィラーのコンポジット材料に銅めっきを施した基板材料である。
(測定結果)
各例の測定結果を表1に示す。実施例1の改質シートは、未改質シートと同等と評価できる誘電特性を示した。実施例1の改質方法によれば、フッ素樹脂が本来有する誘電特性が損なわれにくいことが示された。
一方、比較例2の改質シートは、未改質シートに比べて誘電正接が大きかった。比較例2の改質方法では、フッ素樹脂の誘電特性が損なわれたといえる。また、比較例3は、未改質シートに比べて比誘電率が高かった。これは、比較例3がセラミックフィラーを含むことに起因する。
表1:誘電特性
Figure 2023097309000008
〔試験4:表面粗度の測定〕
試験1において作成した実施例1および2の改質シート、試験1において使用したものと同じ比較例1および2の改質シート、ならびに未改質シートについて、ISO 25178に従って表面粗度を測定した。測定装置としてキーエンス製Vk-X3000を使用し、対物レンズ150倍、レーザースキャン範囲2分の1の条件で、界面の展開面積比(Sdr)および山頂面の算術平均面(Spc)の測定を行った。各試料について、シート表面の二か所で測定を行い、その平均値を当該試料についての測定結果とした。なお、実施例1および比較例1については、走査型電子顕微鏡(SEM)による表面の観察を、併せて行った。
(測定結果)
各例の測定結果(SdrおよびSpc)を表2に示す。また、実施例1および比較例1のSEM像を図3および図4に示す。SdrおよびSpcのいずれの項目についても、実施例1および2において、比較例1および2より低い測定値が得られた。また、実施例1および比較例1のSEM像を比較すると、比較例1の改質シートに比べて実施例1の改質シートの方が、表面が滑らかである様子を確認できた。以上のことから、比較例に係る改質方法に比べて、実施例に係る改質方法の方が、シート表面の平滑性を損ないにくい改質方法であることが示された。
表2:表面粗度
Figure 2023097309000009
〔試験5:密着強度の測定〕
実施例および比較例の各例の改質シートに対して同じ条件で銅めっきを施した後に、JIS C 6481に従って改質シートと銅との接着強度を測定した。
(実施例3~11)
SDおよびDMIを含む電子供与体(Na:DMI=1:6)を用いて、改質シートを作成した。実施例3~11の各例について、第一処理時間および第二処理時間を、後掲の表2に記載した通りとした。
(比較例1および2)
比較例1および2は、試験1において使用したものと同じ市販品である。
(測定結果)
実施例3~11のいずれにおいても、比較例1および2に比べて密着強度が高かった。
実施例1の改質方法によれば、フッ素樹脂に銅に対する接着性を良好に付与できることが示された。実施例3~11においては銅を接着して回路を形成することができたが、比較例1および2では密着強度が低く回路を形成することができなかった。
表3:密着強度
Figure 2023097309000010
〔試験6:伝送損失の測定〕
未処理のシートとしてPTFE製、厚さ0.1mmのシートを用いた。SDは試験1の共通条件と同じものを使用した。SDおよびDMIを含む電子供与体(Na:DMI=1:6)を用いて改質シートを作成した。第一反応時間は1分とし、第二反応時間を10分とした。得られた改質シートに銅めっきを施したあと、幅13mm、長さ25mmのサンプルおよび幅13mm、長さ225mmのサンプルのそれぞれに特性インピーダンス50Ωのマイクロストリップラインを形成し、VNA測定(Thru―Line法でDe-embedding)を行って伝送損失を測定した。なお、幅13mm、長さ25mmのサンプルはフィクスチャーの損失をキャンセルさせるためのDe-embedding用のThruラインとし、幅13mm、長さ225mmのサンプルは測定用ラインとした。測定用ラインの測定結果からThruラインの測定結果をDe-embeddingし、得られた200mm長さでの測定値を図5に示す。
図5に示すように、本実施例における伝送損失は60GHzにおいて-3dB程度だった。回路基板材料として従来使用されている材料(たとえば、ロジャースコーポレーション製RO3003、クラレ製ベクスター(登録商標)FCCLシリーズ、など。)を用いた場合の伝送損失が60GHzにおいて-10~-7dB程度であることを考慮すると、本実施例によって伝送損失が改善されることが明らかである。
本発明は、たとえば高周波デバイス用の回路基板に利用できる。
P1 ラマンシフト1100cm-1のピーク(実施例)
P2 ラマンシフト1495cm-1のピーク(実施例)

Claims (9)

  1. フッ素樹脂製の成形体であって、
    炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面における元素組成について、炭素と酸素との合計が100原子%以下である限度で、炭素60原子%以上80原子%以下であり、かつ、酸素10原子%以上25原子%以下であり、
    炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面からの深さが200nmの位置における酸素の含有量が、0原子%以上12原子%以下である成形体。
  2. 炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面からの深さが200nmの位置におけるフッ素の含有量が、30原子%以上67原子%以下である請求項1に記載の成形体。
  3. ラマンスペクトル分析において、ラマンシフト1050cm-1以上1150cm-1以下の領域、および、ラマンシフト1450cm-1以上1550cm-1以下の領域の少なくとも一つにピークが検出される請求項1または2に記載の成形体。
  4. 前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン単位を95モル%以上含む請求項1~3のいずれか一項に記載の成形体。
  5. ISO 25178に従って測定される界面の展開面積比(Sdr)が、0.02以上0.1以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の成形体。
  6. フッ素樹脂製の成形体であって、
    炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面における元素組成について、炭素と酸素との合計が100原子%以下である限度で、炭素60原子%以上80原子%以下であり、かつ、酸素10原子%以上25原子%以下であり、
    ラマンスペクトル分析において、ラマンシフト1050cm-1以上1150cm-1以下の領域、および、ラマンシフト1450cm-1以上1550cm-1以下の領域の少なくとも一つにピークが検出される成形体。
  7. フッ素樹脂製の成形体であって、
    炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、表面における元素組成について、炭素と酸素との合計が100原子%以下である限度で、炭素60原子%以上80原子%以下であり、かつ、酸素10原子%以上25原子%以下であり、
    ISO 25178に従って測定される界面の展開面積比(Sdr)が、0.02以上0.1以下である成形体。
  8. フッ素樹脂製の成形体を含む回路基板であって、
    炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、前記成形体の表面における元素組成が、炭素と酸素との合計が100原子%以下である限度で、炭素60原子%以上80原子%以下であり、かつ、酸素10原子%以上25原子%以下であり、
    炭素、酸素、フッ素、およびナトリウムを検出対象とするX線光電子分光法により特定される、前記成形体の表面からの深さが200nmの位置における酸素の含有量が、0原子%以上12原子%以下である回路基板。
  9. フッ素樹脂製の成形体の表面を改質する改質方法であって、
    前記成形体の表面に電子供与体を接触させる第一工程と、
    前記第一工程後の前記成形体の表面にケトン化合物を接触させる第二工程と、を含み、
    前記電子供与体が、金属ナトリウムが溶媒中に分散している分散体と、1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンおよびクラウンエーテルからなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、を含む改質方法。
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