JP2023087722A

JP2023087722A - フッ素樹脂液体塗料組成物

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Publication number: JP2023087722A
Application number: JP2021202163A
Authority: JP
Inventors: 亮中澤; Ryo Nakazawa
Original assignee: Chemours Mitsui Fluoroproducts Co Ltd
Current assignee: Chemours Mitsui Fluoroproducts Co Ltd
Priority date: 2021-12-14
Filing date: 2021-12-14
Publication date: 2023-06-26
Also published as: WO2023114167A1

Abstract

【課題】金属基材及び樹脂基材のいずれにも強固に接着し、耐水蒸気性・耐食性に優れたフッ素樹脂コーティング用のフッ素樹脂液体塗料組成物、それからなる塗膜、その塗膜を有する物品を提供する。【解決手段】フッ素樹脂とポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）を含む、フッ素樹脂液体塗料組成物、それからなる塗膜、その塗膜を有する物品。【選択図】なし

Description

本発明は、金属基材及び樹脂基材のいずれにも強固に接着し、耐水蒸気性・耐食性に優れたフッ素樹脂コーティング用のフッ素樹脂液体塗料組成物、それを塗装してなる塗膜、その塗膜を有する物品に関する。

フッ素樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、電気的性質及び機械的性質を有し、また極めて低い摩擦係数、非粘着性、撥水撥油性も有しているため、化学、機械、電機などあらゆる工業分野において広く利用されている。

特に、フッ素樹脂の非粘着性、撥水撥油性を利用して、フッ素樹脂コーティングは、フライパン・炊飯器などの調理器具の塗装、ＯＡ機器のトナーを定着させる定着ロール・ベルトなど様々な分野で利用され、近年では、インクジェットノズル、化学プラントの設備など、利用分野はさらに広がっている。

ところが、各種基材にフッ素樹脂をコーティングする場合、フッ素樹脂の特性である非粘着性のために、フッ素樹脂を直接基材に塗装することは接着不良が生じ、極めて困難である。そのため、フッ素樹脂コーティングを行なう場合には、基材に対する接着性を有し、かつその上に塗装されるフッ素樹脂コーティングとも接着性を有するプライマー塗料組成物が通常利用されてきた。

このようなプライマー塗料組成物には、基材との接着性を有し、かつフッ素樹脂の融点以上の高温に耐えうる耐熱性樹脂（いわゆるエンジニアリングプラスチック）が用いられており、例えば、特許文献１には、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホンなどのプレカーサー及びポリフェニレンサルファイドなどの微粒子が開示されている。
また、同様な耐熱性樹脂として、近年芳香族ポリエーテルケトンも知られており、例えば、特許文献２では、ポリエーテルエーテルケトン（ＰＥＥＫ）が用いられている。このような耐熱性樹脂をバインダーと呼ぶ。

一方、プライマー塗料組成物を含むフッ素樹脂塗料組成物の媒体には、有機溶剤（溶剤系塗料）か水（水性塗料）が用いられており、環境負荷や人体への有害性の観点から、特に近年では水性（水系）塗料組成物が好ましく用いられている。水性塗料組成物において、基材との接着性を付与する耐熱性樹脂（バインダー）は、通常非水溶性であるため、その粒子を塗料組成物の液中に分散させて用いられる。

これまでフッ素樹脂、特に撥水撥油性の優れたＰＴＦＥやＰＦＡなどをコーティングする基材としては、それらをフッ素樹脂の融点以上で熱処理して塗膜を溶融形成させるのに耐えられる金属基材を用いることが多かったが、最近では耐熱性エンジニアリングプラスチックの基材にコーティングできるプライマー塗料組成物が求められている。

この場合、プライマー塗料組成物としては、これまでのものと同様に金属基材にも好適に使用できることが、塗料の生産性、使用の利便性の面から望ましい。

プライマーの役割は、基材と上塗り層（トップコート）を双方接着させ、かつそれを長期間維持することであるから、十分な耐摩耗性や耐食性を維持した上で、できるだけ薄い塗膜を形成することが良いとされている。そして、薄くて平滑な塗膜を形成する点からは、粉体塗料ではなく、液体塗料であることが望ましい。液体塗料は、細かい構造にも適用しやすいため、対象とする製品への汎用性が高くなる点からも好ましい。

また求める性能によっては、プライマー塗料組成物と同様にフッ素樹脂とバインダーを含む塗料組成物は、基材に１層塗装してそのまま用いられることもある。このような塗料組成物はワンコート塗料と呼ばれ、近年需要が高まっている。

これまで、耐水蒸気性と耐食性に優れたプライマー液体塗料組成物としては、水溶性ポリアミドイミドと共にポリエーテルスルホン樹脂を用いたフッ素樹脂塗料組成物が提案されている（特許文献３）。

また、特許文献４では、３，３’－ジメチルビフェニル－４，４’－ジイソシアネート及び／又は３，３’－ジメチルビフェニル－４，４’－ジアミンを構造単位として含む水溶性ポリアミドイミドを用いることにより、形成される塗膜の耐水蒸気性等を改善したフッ素樹脂塗料組成物が提案されている。

さらに、特許文献２では、水溶性ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン及びフッ素樹脂を含み、フッ素樹脂がパーフルオロ樹脂である、ステンレス（ＳＵＳ）基材に対しても十分な接着性を示す塗料が提案されている。

しかしながら、これまでのバインダーでは、耐熱性エンジニアリングプラスチック基材と金属基材の両者に好適に使用できるプライマー塗料組成物やワンコート塗料を得ることはできなかった。

特公平４－７１９５１号公報特開２０２１－９１７５４号公報特許第４５３４９１６号公報国際公開ＷＯ２０１６／１７５０９９号

本発明の目的は、金属基材及び樹脂基材のいずれにも強固に接着し、耐水蒸気性・耐食性に優れたフッ素樹脂コーティング用のフッ素樹脂液体塗料組成物、それを塗装してなる塗膜、その塗膜を有する物品を提供することである。

上記目的を達成するため、本発明のフッ素樹脂液体塗料組成物は、フッ素樹脂とポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）を含むことを特徴とする。

すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
（１）フッ素樹脂とポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）を含むフッ素樹脂液体塗料組成物。
（２）水性塗料組成物である（１）のフッ素樹脂液体塗料組成物。
（３）フッ素樹脂は、ＰＥＫＫとその他樹脂を含むバインダー樹脂の合計に対して３５～９０質量％である、（１）又は（２）のフッ素樹脂液体塗料組成物。
（４）フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン又は熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂である（１）～（３）のフッ素樹脂液体塗料組成物。
（５）フッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレンと熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂の両方を含む、（１）～（４）のフッ素樹脂液体塗料組成物。
（６）さらに充填材を含む、（１）～（５）のフッ素樹脂液体塗料組成物。
（７）（１）～（６）のフッ素樹脂液体塗料組成物からなる塗膜。
（８）８～２０μｍの厚さである（７）の塗膜。
（９）（７）又は（８）の塗膜を有する物品。

本発明によれば、金属基材及び樹脂基材のいずれにも強固に接着し、耐水蒸気性・耐食性に優れ、しかも薄い塗膜を形成できる、フッ素樹脂とポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）を含むフッ素樹脂液体塗料組成物を提供することができる。また、本発明により、フッ素樹脂とポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）を含むフッ素樹脂液体塗料組成物からなる塗膜、その塗膜を有する物品を提供することができる。
本発明のフッ素樹脂液体塗料組成物は、媒体として水を用いることができるため、環境・安全衛生面の点からも優れたものとすることができる。

本発明の「フッ素樹脂液体塗料組成物」は、フッ素樹脂とポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）を含むことを特徴とする。
以下、本発明について詳細に説明する。

＜フッ素樹脂液体塗料組成物＞
本発明のフッ素樹脂とポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）を含む液体塗料組成物は、基材にフッ素樹脂層を接着させるためのプライマー塗料（下塗り）として特に好適に用いられる。更に、ワンコート塗料としても好ましく用いられる。

＜フッ素樹脂＞
本発明の塗料組成物を構成するフッ素樹脂としては、これらに限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン（ＰＴＦＥ）、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ（アルキルビニルエーテル）共重合体（ＰＦＡ）、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体（ＦＥＰ）、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ（アルキルビニルエーテル）共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体等を用いることができる。本発明におけるフッ素樹脂としては、官能基を側鎖に持たない通常のフッ素樹脂を用いることが、ワンコート塗料として用いる場合の塗膜非粘着性や、法規制（特に食品接触用途）の適合性の観点から好ましい。

本発明においては、塗膜にした際にピンホールの発生を抑制できると共に、一様で平滑な塗膜が得られるという観点から、融点以上で溶融流動性を示す、熱溶融性フッ素樹脂を用いることが好ましい。中でも、塗膜の非粘着性、耐熱性の観点から、低分子量ＰＴＦＥやＰＦＡ、ＦＥＰ、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ（アルキルビニルエーテル）共重合体等の熱溶融性パーフルオロ樹脂を好適に用いることができる。

ＰＦＡ中のパーフルオロ（アルキルビニルエーテル）のアルキル基は、炭素数が１～５であることが好ましく、中でもパーフルオロ（プロピルビニルエーテル）（ＰＰＶＥ）、パーフルオロ（エチルビニルエーテル）（ＰＥＶＥ）、パーフルオロ（メチルビニルエーテル）（ＰＭＶＥ）が特に好適である。ＰＦＡ中のパーフルオロ（アルキルビニルエーテル）の量としては、１～５０重量％の範囲にあることが好ましい。

また本発明において、フッ素樹脂として非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレン（ＰＴＦＥ）を用いることも好ましい。
本発明で好ましく用いられる非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンは、融点以上で溶融流動性を示さない高分子量のポリテトラフルオロエチレン（ＰＴＦＥ）であり、テトラフルオロエチレン（ＴＦＥ）の単独重合体（ＴＦＥのホモポリマー）、ＴＦＥと共重合可能な単量体が１質量％以下の範囲で含まれるＴＦＥ共重合体（変性ＰＴＦＥ）の何れでも良く、又はその両者を組合せて使用することもできる。これにより、加熱後の塗膜に残留する応力を低下させることができ、コストの低減も可能となる。
更に、熱溶融性パーフルオロ樹脂と非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレン（ＰＴＦＥ）を同時に用いることが、上記のそれぞれの利点が得られ、より好ましい。さらに必要に応じてその他のフッ素樹脂を加えても良い。

本発明のフッ素樹脂は、公知の重合方法により得た樹脂を分離・乾燥することにより得られる粉体や、それを更に粉砕した粉体、また、特公昭５２－４４５７６に記載の方法などにより微細造粒化された粉体を、塗料組成物中に分散させて用いることができる。さらに、乳化重合により重合されたままのフッ素樹脂分散液（ディスパージョン）を、そのまま用いることもできるし、フッ素樹脂分散液に界面活性剤を添加して安定化させたもの、米国特許第３，０３７，９５３号に記載の方法などの公知の技術により濃縮してフッ素樹脂の濃度を高く調整したものを用いることもできる。安定化させたフッ素樹脂分散液は、フッ素樹脂が凝集や沈降せずに長期にわたって分散状態を維持できるため好ましい。

本発明の塗料組成物に用いられるフッ素樹脂分散液の濃度としては、２０～７０質量％であることが好ましく、濃縮により４０～７０質量％としたものを用いることが、塗料組成物中のフッ素樹脂濃度の調整が容易となり好ましい。本発明に用いられるフッ素樹脂分散液の市販品としては、三井・ケマーズフロロプロダクツ（株）製テフロン（登録商標）ＰＴＦＥ３１－ＪＲ、ＰＴＦＥ３４－ＪＲ、ＰＦＡ３３４－ＪＲ、ＰＦＡ３３５－ＪＲ、ＦＥＰ１２０－ＪＲが例示される。

＜ポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）＞
本発明に用いられる「ポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）」は、少なくとも下記の繰り返し単位を有する高分子化合物であり、その単独重合体又は共重合体のいずれも用いることができる。本発明において、ポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）はメインのバインダーとしての役割を果たすものである。

本発明で用いられるポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）の製造方法としては、例えば、特公昭４７-３１４４０号公報や特公平５－１３９６７号公報等により、フリーデルクラフツ触媒の存在下で、ジフェニルエーテルとベンゼンジカルボン酸ハロゲン化物を反応させることにより製造できることが知られているが、既に市販されており、市販製品としては、Ａｒｋｅｍａ社のＫＥＰＳＴＡＮ（登録商標）や山東凱盛新材料股イ分限公司ＫＳＴＯＮＥ（登録商標）を挙げることができる。

＜その他の成分＞
本発明のフッ素樹脂液体塗料組成物には、分散性・導電性・発泡防止・耐摩耗改善など求める特性に応じて通常の塗料に使用される各種の添加剤、例えば、界面活性剤（例えば、ライオン(株)製レオコール、ダウケミカルカンパニー製ＴＲＩＴＯＮ、ＴＥＲＧＩＴＯＬシリーズ、花王(株)製エマルゲンなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系の非イオン系界面活性剤や、ライオン(株)製リパール、花王(株)製エマール、ぺレックスなどのスルホコハク酸塩、アルキルエーテルスルホン酸ナトリウム塩、硫酸モノ長鎖アルキル系の陰イオン系界面活性剤、ライオン(株)製レオアール、ダウケミカルカンパニー製ＯＲＯＴＡＮなどのポリカルボン酸塩、アクリル酸塩系の高分子界面活性剤、モメンティブ社製Ｌ－７７、ＥＶＯＮＩＫ製サーフィノールシリーズ（サーフィノール４２０、サーフィノール４４０、サーフィノール４６５、サーフィノール４８５など））、造膜剤（例えば、ポリアミドやポリアミドイミド、アクリル、アセテートなどの高分子系造膜剤、高級アルコールやエーテル、造膜効果を有する高分子界面活性剤）、増粘剤（水溶性セルロール類や、溶剤分散系増粘剤、アルギン酸ソーダ、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、キサンタンガム、ポリアクリル酸、アクリル酸エステル）なども加えることができる。

また、本発明のフッ素樹脂液体塗料組成物は、求める特性に応じて、各種の有機物・無機物をバインダーや充填材として加えることもできる。有機物としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂などのエンジニアリングプラスチックが挙げられる。無機物としては、金属粉、金属酸化物（酸化アルミ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等）、ガラス、セラミックス、炭化珪素、酸化珪素、弗化カルシウム、カーボンブラック、グラフアイト、マイカ、硫酸バリウムなどが挙げられる。充填材の形状としては、粒子状、繊維状、フレーク状など、各種の形状の物質が使用可能である。

本発明のフッ素樹脂液体塗料組成物において、ＰＥＫＫと共に用いるバインダーとしては、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド（ＰＡＩ）、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂を用いることができるが、フッ素樹脂液体塗料組成物の溶媒・分散媒として水を用いる水性塗料組成物の場合では、水溶性のポリアミドイミド（ＰＡＩ）は溶解して塗膜中に均一に存在することで、欠陥なく基材へ接着することができるため特に好ましい。
しかしながら、ＰＥＫＫ以外のバインダーの全バインダー樹脂中の割合（その他バインダー／ＰＥＫＫ＋その他バインダー）は、０．５以下であることが好ましく、０．３以下又は０．２以下にすることが、さらに好ましい。

＜水性媒体＞
本発明のフッ素樹脂液体塗料組成物の溶媒・分散媒としては、水を用いて、水性塗料組成物とすることが、特に環境面やコスト面から好ましい。水性塗料組成物には、液体粘度などのレオロジー特性の適切な調整や、ＰＥＫＫや充填材などの分散性改善のために、水と相溶性のある極性溶剤を加えたり、水と非相溶性の有機溶剤を分散させることもできる。極性溶剤を加えることで、耐熱性樹脂（バインダー）を溶解させ、塗装後の乾燥過程において耐熱性樹脂（バインダー）がより均一になり、塗膜が緻密化することや、基材の凹凸の凹部に耐熱性樹脂（バインダー）が入り込みやすくなることで基材との接着力向上といった効果が期待できる。

本発明のフッ素樹脂液体塗料組成物において、フッ素樹脂は、バインダー樹脂（ＰＥＫＫとその他樹脂）とフッ素樹脂の合計に対して３５～９０質量％であることが好ましく、４５～８０質量％であることが特に好ましい。フッ素樹脂が３５質量％未満であると、塗膜の耐水蒸気性・耐食性が低下し、さらに、トップコートの接着性が低下するおそれがあり、一方、フッ素樹脂が９０質量％を超えると、塗膜の耐食性が低下し、さらに、基材への接着力・塗膜の強度が低下するおそれがある。

＜基材＞
本発明のフッ素樹脂液体塗料組成物は、金属基材とプラスチック基材の双方に好適に使用できる。
金属基材としては、アルミニウム、ステンレス（ＳＵＳ）、銅、鉄、その他各種合金などが挙げられる。
プラスチック基材としては、フッ素樹脂の塗膜を形成するための加熱処理に耐え、長期耐久性もある、エンジニアリングプラスチックが好ましく用いられ、この中には、ポリアリールケトン樹脂（ＰＥＫ、ＰＥＥＫ, ＰＥＫＫ, ＰＥＥＫＫ）、ポリアリーレンスルホン樹脂（ＰＰＳなど）、ポリイミド（ＰＩ）、ポリエーテルイミド（ＰＥＩ）、ポリアミドイミド（ＰＡＩ）などのスーパーエンプラと呼ばれるものも含まれる。

＜フッ素樹脂塗料組成物の製造プロセス＞
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、従来公知の方法等により調製することができ、例えば、フッ素樹脂（水性分散液や粉体）、ＰＥＫＫ、及び、必要に応じて配合するその他の添加剤や充填材を適宜混合することにより得られる。本発明のフッ素樹脂塗料組成物において、ＰＥＫＫ、フッ素樹脂、充填材等は、それぞれの分散体（分散液）を予め調製し、得られる分散体を混合することにより調製を行うものであってもよい。

本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、２５℃における粘度が０．１～５００００ｍＰａ・ｓであることが好ましい。粘度が０．１ｍＰａ・ｓ未満であると、被塗装物上への塗布時にタレ等を生じやすく、目的とする膜厚を得ることが困難となる場合があり、５００００ｍＰａ・ｓを超えると、塗装作業性が悪くなる場合があり、得られる塗膜の膜厚が均一とならず、表面平滑性等に劣る場合がある。より好ましい下限は、１ｍＰａ・ｓであり、より好ましい上限は、３００００ｍＰａ・ｓである。上記粘度は、ＢＭ型単一円筒型回転粘度計（東京計器社製）を用いて測定することにより得られる値である。

＜塗膜＞
本発明の「塗膜」は、本発明のフッ素樹脂液体塗料組成物を塗装してなる塗膜であり、２０μｍ以下、例えば８～２０μｍの薄い塗膜とすることができる。また、本発明の「塗膜」は平滑で、外観の点でも優れている。
本発明の塗料組成物を基材と接着するプライマー層とし、その上に複数の層を塗装して積層した塗膜も含まれる。
本発明の「塗膜」は、各種既存の塗装方法、例えば、スプレー塗装、ディップ塗装、スピンコート等通常一般的に用いられる方法により形成することができ、溶融流動させ均一な塗膜を得るために、フッ素樹脂の融点以上に加熱しておくことが好ましい。

性能評価に使用する塗膜を以下の手順で作成した。
＜評価用試験片の作成（アルミニウム基材評価用）＞
まず、幅１００ｍｍ長さ１５０ｍｍのアルミニウム板（ＪＩＳＡ１０５０準拠品、厚み１ｍｍ）を基材として用い、イソプロピルアルコールで表面を脱脂した後、基材長辺に平行に端部～端部から３０ｍｍまでの部分にマスキングテープを貼り、＃６０アルミナによるショットブラストを施し表面粗度（Ｒａ）を１～５μｍとした。続いて、各実施例及び比較例のフッ素樹脂塗料組成物をスプレーガン（Ｗ－１０１－１０１Ｇ、アネスト岩田社製）を用いてスプレー塗装（塗料組成物０．６～０．７ｇ）した。マスキングテープを剥がした後、１２０℃にて１０分間、続いて３００℃にて２０分間乾燥させ、プライマー層（フッ素樹脂塗料組成物層）を形成した。プライマー層が形成された基材に、ＰＦＡ粉体塗料（三井・ケマーズフロロプロダクツ(株)製テフロン（登録商標）塗料ＭＪ－１０２）を、全面に粉体スプレーガン（ＰＡＲＫＥＲＩＯＮＩＣＳ社製ＧＸ３５５ＨＷ）を用いて静電粉体塗装（塗料重量１．４～１．６ｇ）し、４００℃（基材温度）にて１５分間焼成し、更に、同じＰＦＡ粉体塗料を同様にして静電粉体塗装し、３６０℃（基材温度）にて１０分間焼成してトップコート層（ＰＦＡ層）を形成した。トップコート層（ＰＦＡ層）の厚みが１００～１２０μｍであり、端部にはプライマーが塗布されていない試験片を得た。

＜評価用試験片の作成（ＰＥＥＫ基材評価用）＞
幅１００ｍｍ長さ１５０ｍｍのアルミニウム板（ＪＩＳＡ３００４、厚み１ｍｍ）にＰＥＥＫ粉末の水分散液を塗布した後に約４００℃で約１５分熱処理することにより、厚み２０～３０μｍのＰＥＥＫ塗膜付きのアルミニウム基材を得た。

得られたＰＥＥＫ塗膜付きアルミニウム基材の長辺に平行に端部～端部から１２０ｍｍまでの部分にマスキングテープを貼り、ショットブラストにてマスキングされていない３０ｍｍ幅分のＰＥＥＫ塗膜を除去し、アルミニウムを露出させた。保護したＰＥＥＫ部分のマスキングテープを剥がし、代わりにアルミニウムが露出した基材長辺に平行に端部～端部から３０ｍｍまでの部分をマスキングテープで保護した。続いて、アルミニウム基材評価用試験片の作成手順と同様に各実施例及び比較例のフッ素樹脂塗料組成物をスプレーで塗布し、トップコート層（ＰＦＡ層）を形成して試験片を得た。

（性能評価方法）
<耐水蒸気性評価>
上記の評価用試験片を、１５０℃で０．４ＭＰａの水蒸気中に１００時間放置した後、常温になるまで静置して冷却し、下記の方法により塗膜の接着強度を測定した。続いて、基材をガスコンロで２００℃まで加熱した後、水で急冷させた塗膜の状態を確認した。膨れやブリスターが発生していれば、不合格とした。

＜接着強度測定方法＞
上記の試験片の短辺に平行に１ｃｍ幅になるように塗膜にカッターで切り込みをいれ、その端部のプライマーが塗布されていない部分の塗膜を１ｃｍほど剥がし、接着強度測定の掴み部分とした。
この試験片を電子秤の上に置き、両端をテープで固定し、秤の目盛りをゼロに合わせた。上記の剥離させた塗膜をペンチで挟み、速度５０ｍｍ／分で引っ張り、目盛りが減じた数値を読み取り、接着強度（剥離強度）を測定した。単位はｋｇｆ（重量キログラム）である。
接着強度の測定は、上記の耐水蒸気性評価を行う前後それぞれについて行った。

（フッ素樹脂液体塗料組成物の調製）
本実施例及び比較例には、以下の試薬を使用した。
ポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）樹脂
ＰＥＫＫ粉末：山東凱盛新材料社製ＫＳＴＯＮＥ（登録商標）ＣＣ５６０１
その他のバインダー樹脂
水溶性ポリアミドイミド（ＰＡＩ）樹脂
日立化成工業(株)製ＨＰＣ－２１００Ｄ－２８（ＰＡＩ濃度約２８質量％、水２２－３２質量％、Ｎ－ホルミルモルフォリン３０－４０質量％の溶液）
ポリエーテルエーテルケトン（ＰＥＥＫ）樹脂
ＰＥＥＫ粉末：ビクトレックス社製ＶＩＣＯＴＥ（登録商標）Ｃｏａｔｉｎｇｓ７０４
ポリエーテルスルホン（ＰＥＳ）樹脂
ＰＥＳ粉末：住友化学(株)製スミカエクセル（登録商標）４１００ＭＰ
ポリエーテルイミド（ＰＥＩ）樹脂
ＰＥＩ粉末：ＳＡＢＩＣ社製Ｕｌｔｅｍ１０００Ｆ３ＳＰ－１０００
フッ素樹脂
ＰＦＡ水性分散液：三井・ケマーズフロロプロダクツ(株)製テフロン（登録商標）ＰＦＡ３３５－ＪＲ（ＰＦＡ濃度６０質量％）
ＰＴＦＥ水性分散液：三井・ケマーズフロロプロダクツ(株)製テフロン（登録商標）ＰＴＦＥ３４－ＪＲ（ＰＴＦＥ濃度５８質量％）

実施例１
１Ｌステンレス容器に純水１９２ｇを入れ、攪拌機（ＹＡＭＡＴＯＳＣＩＥＮＴＩＦＩＣＣＯ．ＬＴＤ．製）を用いて、１４０回転／分で攪拌しながら、非イオン系界面活性剤水溶液（濃度８１質量％）を１８ｇ添加した。ここにＰＥＫＫ粉末を７７ｇ加え１０分間撹拌して分散させた。更に、非イオン系界面活性剤水溶液（濃度９０質量％）を１７ｇ加え、カーボンブラック水性分散液（２５質量％）を１０５ｇ、酸化チタン水性分散液（５５質量％）を５８ｇ加えて、１０分間攪拌した。次いでこれに、別容器で混合しておいたフッ素樹脂水性分散液（ＰＦＡ水性分散液を４４ｇ、ＰＴＦＥ水性分散液を２５９ｇと純水９６ｇ）を加え、１０分間攪拌を行い、水性フッ素樹脂塗料組成物を得た。

実施例２
１Ｌステンレス容器に純水２４４ｇを入れ、攪拌機（ＹＡＭＡＴＯＳＣＩＥＮＴＩＦＩＣＣＯ．ＬＴＤ．製）を用いて、１４０回転／分で攪拌しながら、非イオン系界面活性剤水溶液（濃度８１質量％）を２４ｇ添加した。ここにＰＥＫＫ粉末を８１ｇ加え１０分間撹拌して分散させた。更に、非イオン系界面活性剤水溶液（濃度９０質量％）を１４ｇ加え、カーボンブラック水性分散液（２５質量％）を１０１ｇ、酸化チタン水性分散液（５５質量％）を５４ｇ加えて、１０分間攪拌した。次いでこれに、別容器で混合しておいたフッ素樹脂水性分散液（ＰＦＡ水性分散液を３０ｇ、ＰＴＦＥ水性分散液を２２３ｇと純水２１ｇ）を加え、１０分間攪拌した後、水溶性ＰＡＩを３０ｇ加えて、更に１０分間攪拌を行い、水性フッ素樹脂塗料組成物を得た。

実施例３～５
下記表１に記載の塗料組成（樹脂固形分中の組成比（質量％））となるように、各成分の量を調整して、実施例２と同様の手順にて水性フッ素樹脂塗料組成物を得た。

比較例１～４
下記表２に記載の塗料組成（樹脂固形分中の組成比（質量％））となるように、各成分の量を調整して、実施例と同様の手順にてフッ素樹脂塗料組成物を得た。

実施例及び比較例で作製した塗膜についての評価の結果を、それぞれ表１及び表２に示した。膨れやブリスターが発生しなかったものを評価結果：○、として、それ以外は評価結果：×、とした。接着強度が蒸気加圧処理前で１．５ｋｇｆより大きいもの、蒸気加圧処理後で０．８ｋｇｆより大きいものをそれぞれ合格とし、上記評価で全て〇と合格であるものは総合評価で〇とし、一つでも×または不合格であるものは総合評価で×とした。

上記表１及び表２の結果は、バインダーとしてＰＥＫＫを含む本発明のフッ素樹脂液体塗料組成物は、金属基材と樹脂基材のいずれについても良好な性能を発揮する（表１）が、バインダーとしてＰＥＫＫを含まない塗料組成物は、金属基材又は樹脂基材の一方に対しては良好な性能であっても、両方について十分な性能を発揮することができない（表２）ことを示している。

Claims

フッ素樹脂とポリエーテルケトンケトン（ＰＥＫＫ）を含むフッ素樹脂液体塗料組成物。
水性塗料組成物である請求項１に記載のフッ素樹脂液体塗料組成物。
フッ素樹脂は、ＰＥＫＫとその他樹脂を含むバインダー樹脂の合計に対して３５～９０質量％である、請求項１又は２に記載のフッ素樹脂液体塗料組成物。
フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン又は熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂である請求項１～３のいずれか1項に記載のフッ素樹脂液体塗料組成物。
フッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレンと熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂の両方を含む、請求項１～４のいずれか1項に記載のフッ素樹脂液体塗料組成物。
さらに充填材を含む、請求項１～５のいずれか1項に記載のフッ素樹脂液体塗料組成物。
請求項１～６のいずれか1項に記載のフッ素樹脂液体塗料組成物からなる塗膜。
８～２０μｍの厚さである、請求項７に記載の塗膜。
請求項７又は８に記載の塗膜を有する物品。