以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態のレーダ装置1の構成を示すブロック図である。
本実施形態のレーダ装置1は、電波を用いて物標を検出する装置である。レーダ装置1は、図2に示すような第1パルスP1、並びに第1パルスP1よりも振幅及びパルス幅が大きい第2パルスP2を、第1の間隔を有する第1のタイミングで繰り返し送信する送信部2と、送信部2が送信した第1パルス及び第2パルスの物標による反射波を受信する受信部3と、受信部3が受信した反射波信号に基づいて物標を検出する検出部4と、送信部2、受信部3及び検出部4を制御する制御部5と、を備える。
レーダ装置1において、第1パルスP1は、相対的に近距離に存在する物標を検出するために用いられ、第2パルスP2は、相対的に遠距離に存在する物標を検出するために用いられる。第1パルスP1は、分解能(複数の物標のレーダ装置1からの距離が近似している場合、典型的には複数の物標が互いに接近して存在する場合に、別々の物標として検出する能力)を向上できるよう比較的パルス幅が小さいパルスとされ、かつ、物標の反射波の受信強度が大きくなり受信系で飽和させないよう比較的振幅が小さいパルスとされる。一方、第2パルスP2は、遠方に存在する物標の存在を遠距離につき距離減衰が大きく受信強度が小さくなる中、高感度に検知するために、比較的振幅が大きく比較的パルス幅も大きいパルスとされる。
送信部2は、所定のキャリア周波数の局発信号を生成する発振部21と、第1パルスP1及び第2パルスP2の波形信号を形成する波形形成部22と、発振部21が生成した局発信号に波形形成部22が形成した波形信号を掛け合わせて増幅するゲインコントロール部23と、ゲインコントロール部23から出力される信号を電波に変換して送出する送信アンテナ24とを有する。
発振部21は、周知の発振器を有する構成とすることができる。また、発振部21は、制御部5の制御に応じて局発信号を生成するものとすることができる。
波形形成部22は、第1パルスP1の立ち上がり時間が第2パルスP2の立ち上がり時間及び立ち下がり時間よりも小さくなるよう、第1パルスP1及び第2パルスP2の波形を定める波形信号を形成する。また、波形形成部22は、第1パルスP1の立ち上がりの傾きが第2パルスP2の立ち上がり及び立ち下がりの傾きよりも大きくなるよう、第1パルスP1及び第2パルスP2の波形を定める波形信号を形成することが好ましい。なお、「立ち上がり時間」及び「立ち下がり時間」とは、値がピーク値の10%から90%まで増大する時間及びピーク値の90%から10%まで減少する時間を意味するものとする。また、立ち上がり(立ち下がり)の傾きとは、ピーク値の80%(90%-10%)の値をピーク値の10%から90%まで増大(90%から10%まで減少)する時間で除した値(絶対値)を意味するものとする。
このように、第1パルスP1のパルス幅が比較的狭いことにより、レーダ装置1の近傍に存在する互いの距離の差が小さい複数の物標であっても、第1パルスP1が各々物標により反射した電波をレーダ装置で受信し、複数の物標として分離した電気信号とすることができる。さらに、第1パルスP1の立ち上がり時間を小さくすることによって、遠い方の物標に近い方の物標が埋もれて識別できなくなることを抑制できる。
また、送信電波の波形において、立ち上がり時間や立ち下がり時間を小さくすると、発振部21から送信する電波の周波数帯域が広がりやすい。しかしながら、レーダ装置から最も近い距離にある物標の位置(最近接点)の正確な検出を目的として、比較的出力が小さい第1パルスP1についてのみ、また立ち上がり時間のみ、小さくすることによって、比較的周波数帯域の広がりを抑制できるので、周辺の機器に対する影響を抑制することができる。
波形形成部22は、図4に示すように、立ち上がり時間が互いに異なる2つの原波形信号(立ち上がり時間が大きい第1原波形信号U1及び立ち上がり時間が小さい第2原波形信号V1)を形成する構成とすることができる。波形形成部22は、立ち上がり時間が異なる2つの原波形信号U1,V1をずらして掛け合わせることで第1パルスP1の波形を定める波形信号W1を形成することができる。第1原波形信号U1のパルスに、第2波形信号のパルスの立ち上がりが重畳され、立ち下がりが重畳されないよう、第1原波形信号U1と第2原波形信号V1とをずらして掛け合わせることで、相対的に立ち上がり時間が小さく、立ち下がり時間が大きい第1パルスP1を生成するための波形信号W1を比較的容易に形成することができる。
第1原波形信号U1と第2原波形信号V1とをずらして掛け合わせることで第1パルスP1の波形信号W1を形成する場合、立ち上がり時間が大きい第1原波形信号U1のピークにおいて第1パルスP1の波形信号W1が有値(第2原波形信号V1が有値)となるよう2つの原波形信号U1,V1を掛け合わせることが好ましい。より好ましくは、立ち上がり時間が大きい第1原波形信号U1のピークにおいて第1パルスP1の波形信号W1が最大値となるよう2つの原波形信号U1,V1を掛け合わせることがより好ましい。これにより、立ち上がり時間が立ち下がり時間よりも小さい非対称な山形の波形信号W1を比較的正確且つ効率よく形成することができる。
また、波形形成部22は、立ち上がり時間が大きい第1原波形信号U2と、少なくとも第1原波形信号U2が有値である間は最大値である立ち上がり時間が小さい第2原波形信号V2とを掛け合わせることで、相対的に立ち上がり時間及び立ち下がり時間が大きい第2パルスP2の波形信号W2を形成することができる。
立ち上がり時間が異なる2つの原波形信号U1/V1,U2/V2は、互いに時定数が異なる回路によって形成することができる。つまり、立ち上がり時間が小さい第1原波形信号U1,U2は、時定数が大きい回路から出力される山形乃至サイン波状のパルス信号とすることができ、立ち上がり時間が小さい第2原波形信号V1,V2は、時定数が小さい回路から出力される台形状のパルス信号とすることができる。これにより、時間制御の調整により、分解能の確保が最も必要とされる箇所、ここでは近傍用の振幅が小さくパルス幅も小さい波形信号W1と、これをもとに生成される送信用の第1パルスP1に急峻な立ち上がりを選択的に、比較的容易且つ正確に形成することができる。
ゲインコントロール部23は、発振部21が生成した局発信号を波形形成部22が形成した波形信号に比例する増幅率で増幅することにより、送信アンテナ24に供給する電力信号を形成する。ゲインコントロール部23としては、周知の増幅回路を用いることができる。
送信アンテナ24は、ゲインコントロール部23から供給される第1パルスP1及び第2パルスP2の電力信号を電磁波として送出する。送信アンテナ24としては、周知のアンテナを用いることができる。
受信部3は、電磁波を受信する受信アンテナ31と、受信した電気信号を通過又は遮断できるマスク部32と、マスク部32を通過した電気信号をダウンコンバートするミキサ部33と、マスク部32を通過し、ミキサ部33が抽出した強度信号をデジタル信号に変換するAD変換部34と、を有する。
受信アンテナ31は、送信アンテナ24が送信した第1パルスP1及び第2パルスP2の物標における反射波を受信して電気信号(反射波信号)とする。受信アンテナ31としては、周知のアンテナを用いることができる。
マスク部32は、第1パルスP1の反射波信号を限定時間、一定時間間隔で(第1パルスP1の反射波信号の一部を第2の間隔を有する第2のタイミングに同期して)通過させる。一方、マスク部32は、第2パルスP2の反射波信号は全体的に通過させる。つまり、マスク部32は、図8のゲイン設定信号に示すよう送信部2が第1パルスP1の送信を開始してから第2パルスP2の送信を開始するまで実質的な第1パルスP1の受信期間の間は、一定の時間間隔で限定時間だけ(第1パルスP1のパルス幅以下のマスク幅で)電気信号を通過し、第2パルスP2の送信を開始した後は連続して電気信号を通過(第2パルスP2の反射波信号を通過)させる。このようなマスク部32は、受信アンテナ31が受信した反射波による電気信号を通過するか遮断するかを選択することができるよう構成される。これにより、距離減衰の大きい遠距離では第2パルスP2を損失させないことで感度を確保しつつ、SNが潤沢な近距離では第1パルスP1とマスク部32の遮断動作によって後述のように分解能の確保が実現できる。
具体的には、マスク部32は、受信アンテナ31から出力される電気信号を増幅ないしアッテネートするゲインコントロール部321と、ゲインコントロール部321のゲインを設定する矩形波ないし台形状のゲイン設定信号を形成するゲイン設定部322とを有する構成とすることができる。ゲイン設定部322は、制御部5に制御されることで、送信部2の第1パルスP1及び第2パルスP2の送信に対して適切なタイミングでゲイン設定信号を形成する。また、制御部から直接の矩形波ないし台形状の高速な制御信号によってゲインコントロール部321を直接制御する構成も好ましい。
後述するAD変換部34は、第1パルスP1の強度の変化速度と比べて動作速度が十分に速くはない。また、このAD変換部34より前段のいずれか(例えば、AD変換部34とミキサ部33との間)にローパスフィルタを装荷する構成する場合がある。このため、第1パルスP1の反射波信号をそのまま通過させた場合、ローパスフィルタ等やAD変換部34の作用によって帯域制限を受け、立ち上がり信号がなまった状態の波形でデジタル変換を行うこととなる。すなわち、高速な立ち上がりによって分離されていた信号であってもこれら帯域制限によって波形がなまり、周辺時間の信号が平均化されることで分離困難となる場合がある。そこで、これら帯域制限をうける少なくとも前段階において、マスク部32によって電気信号を時間について限定的に切り取ることで、マスク部32によって分離された信号を選択することができる。これにより、特定時刻(すなわち特定距離)における第1パルスP1の反射波信号を、周辺の時間に存在する反射波信号(すなわち周辺に存在する物標に起因する反射波信号)の影響を低減してAD変換部34でデジタルデータに変換することができる。このように、マスク部32における時間について限定的に切り取る動作を行なうことで、時間分解能、距離分解能を維持することができる。なおローパスフィルタ等の回路の介在により、マスク部32からAD変換部34への信号伝送に遅延が存在する場合もあり、その際には図8で示したマスク部32のゲイン設定信号とAD変換部34は絶対時間において同期するのではなく、遅延を考慮しAD変換部での検出値が十分大きくなる、より好ましくは最大となるようマスク部32のゲイン設定信号をオフセットさせた状態で同期させることが好ましい。これにより回路遅延があった場合においてもSNを大きくすることができる。
マスク部32は、AD変換部34と同期した上で、複数の第1パルスP1に対して信号通過タイミングを相対的にシフトするよう制御する。この様な場合、AD変換部の基本クロックに対して、繰り返し送信される送信パルスを相対的シフトさせることが好ましい。これにより、第1パルスP1の反射波信号の波形を各々相対的にシフトさせ異なるタイミングにおける信号をAD変換部34でデジタルデータに変換し、検出部4がこれらデジタルデータを組み合わせることで、第1パルスP1のAD変換速度より低速なサンプリング信号をより詳細な時間波形、すなわち詳細な距離波形とする等価時間サンプリングを行うことができる。
マスク部32のゲインの立ち上がり時間は、第1パルスP1の立ち上がり時間同等ないし以下であることが好ましく、またマスク部の限定通過ゲイン幅は第1パルスP1のパルス幅同等ないし以下であることが好ましい。ゲインの波形は矩形波状ないし台形状であることがより好ましい。このようにすることによって、サンプリングされる反射波信号の強度の誤差を低減することができる。送信側におけるパルス動作、および受信側におけるマスク動作、のいずれか低速で時間幅が広い方が分解能の低下を招く場合があるが、少なくともマスク部32の動作は電磁波の放出に関わらないため、ゲインの立ち上がり立ち下がり時間やゲイン幅はこの周辺の機器への影響の低減した上で高速化、高分解能化をすることができる。すなわち同程度の分解能を得る場合、第1パルスP1の立ち上がり時間またパルス幅を、マスク部32のゲインの立ち上がり立ち下がり時間またゲイン幅に対して同等ないし相対的に大きくすることによって、電磁波として放出される第1パルスP1の周波数帯域の広がりを抑制することができるので、周囲の機器に対する影響を抑制することができる。
ミキサ部33は、発振部21が生成した局発信号を用いて、マスク部32を通過した信号からキャリア波の周波数成分を除去することで、反射波信号の強度変化を表すアナログ信号、つまり包絡波を抽出する。
AD変換部34は、ミキサ部33から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して、検出部4に提供する。このAD変換部34は、周知のAD変換器によって構成することができる。
検出部4は、AD変換部34から入力されるデジタルデータを蓄積し、反射波信号の継時変化を解析することによって、送信部2が送信した第1パルスP1及び第2パルスP2を反射した物標の位置を特定する(物標検出処理)。この検出部4は、CPU、FPGA、メモリ等を有する演算装置によって構成することができる。検出部4が反射波信号の継時変化を解析するための演算手順は、プログラムに記述されて記憶される。
以上のような構成によって得られる現象や検出された結果、演算の内容の具体例を示す。図3に、近傍領域に物標が1つだけ存在する場合と、近傍領域に2つの物標が存在し、遠い側の物標の方が大きい(電波を反射しやすい)場合の受信部3が受信する反射波信号の強度(振幅)の実測例を示す。図示するように、第1パルスP1の立ち上がり時間が短いことによって、レーダ装置1の近傍領域に存在する2つの物標のうち遠くにある物標による第1パルスP1の反射波信号の強度が大きい場合であっても、近くにある物標による反射波の波形のピーク近傍の傾きが小さい領域(ピーク近傍領域)が、遠くにある物標による反射波に覆い隠されにくくなる。これにより、レーダ装置1は、複数の物標を別々に検出することができるので、近距離の分解能を特に高くすることができる。
検出部4は、図3に例示するように、第1パルスP1の反射波信号の強度が所定の強度閾値Sa以上であり、且つ図5(図3の受信波信号の強度変化、すなわち距離方向における傾きを示す図)に例示するように、第1パルスP1の反射波信号の傾きが0より大きい所定の第1傾き閾値Sg1以下となった場合に物標が存在すると判断することができる。図5において、受信波信号の傾きが第1傾き閾値Sg1以下となった距離位置(距離ビン:送信部2が第1パルスP1を送信してから受信部3が第1パルスP1の反射波を受信するまでの時間をレーダ装置1から物標までの距離に換算したもの)は、図3の反射波信号における近い方の物標による波形のピーク近傍領域の前部に対応する。
このように、第1傾き閾値Sg1を0より大きい値に設定することで、反射波信号がピークに到達する前のピークになっていない箇所に、物標の存在を検出することができる。反射波信号の近傍側は、急峻な立ち上がり波形を基本としている。またこの急峻さすなわち大きな傾きの喪失を物標の存在検知の判断とする。これらにより、反射波信号における近い方の物標による波形のピークが遠い方の物標による波形に覆われていても、近い方の物標による波形のピークの直前部分が遠い方の物標による波形に覆われていなければ、近い方の物標の存在を検知することができる。したがって、レーダ装置1は、最も近くに存在する物標をそれよりも遠くに存在する物標から分離し、より確実に検出することができる。
図6及び図7に、図3及び図5の2つの物標が存在する場合と2つの物標間の距離が図3及び図5よりもさらに小さい場合との反射波信号の強度の変化及び傾きの変化を示す。この場合、反射波信号の傾きと第1傾き閾値Sg1との関係では近い方の物標を確実に検出することはできない可能性がある。そこで、検出部4は、第1パルスP1の反射波信号の傾きが、所定の基準時間Ts以上継続して0より大きい所定の第2傾き閾値Sg2以下となった場合に物標が存在すると判断してもよい。ここで、基準時間Tsは、等価サンプリングにおける時間間隔以上とされる。つまり、検出部4は、第1パルスP1の反射波信号の傾きが2回以上の所定回数(図7では2回)続けて所定の第2傾き閾値Sg2以下となった場合に物標が存在すると判断(この距離位置を物標が存在する点X0と判断)してもよい。この場合、第2傾き閾値Sg2は一度だけでもその値以下となった場合に物標が存在すると判断される第1傾き閾値Sg1よりも大きい値に設定される。
このように、反射波信号の傾きを継続して確認することによって、急峻な立ち上がりを基本とする波形に対して、この急峻さすなわち大きな傾きの喪失が継続している領域から物標を検知することができる。このため、反射波信号における近い方の物標による波形が、遠い方の物標による波形に覆われていても、近い方の物標による波形のピークの存在をより確実に推定することができる。
検出部4は、上述のように、第1パルスP1の反射波信号の傾きの第1傾き閾値Sg1又は第2傾き閾値Sg2との対比において物標が存在すると判断される点(図3、図6及び図7の距離位置X0)を基準として物標までの距離を算出(距離算出処理)してもよいが、第1パルスP1の反射波信号の強度が、物標が存在すると判断した点(点X0)での強度よりも所定の値ΔRだけ小さい値となる、より近い側の補完点(図3及び図6の距離位置X1)を基準として、物標までの距離を算出してもよい。点X0では、距離に対する反射波信号の強度変化が小さいため、物標が存在すると判断した点X0と実際の距離位置との誤差が大きくなるおそれがある。このため、点X0での強度よりも、所定の値ΔRだけ小さい値となる補完点X1を算出し、これを基準として距離算出処理を行うことによって、物標までの距離をより正確に算出することができる。
制御部5は、送信部2、受信部3及び検出部4の動作のタイミングを合わせ、検出部4において適切に物標を検出できるようにする。制御部5は例えば、CPU、FPGA、メモリ等を有する演算装置によって構成することができ、その動作手順はプログラムに記述されて記憶される。制御部5は、通常は、検出部4と一体に構成される。つまり、検出部4と制御部5とは、機能上区別されるものであって、物理構成及びプログラム構成において明確に区分できるものでなくてもよい。
制御部5は、受信部3に反射波信号の等価時間サンプリングを適切に行わせるために、送信部2及び受信部3を制御する。つまり、制御部5は、送信部2に第1パルスP1及び第2パルスP2を繰り返し送出させ、受信部3に第1パルスP1及び第2パルスP2の反射波信号を繰り返しに応じ相対的に異なるタイミングでAD変換(サンプリング)させる。このように、第1パルスP1及び第2パルスP2の反射波信号を異なる複数のフィールドにおいてサンプリングし、各々のフィールドのデジタルデータを組み合わせることによって、低速なAD変換においても等価的により速い速度で第1パルスP1及び第2パルスP2の反射波信号をサンプリングでき、より詳細な時間波形情報、すなわち詳細な距離波形情報を得ることができる。
このような等価時間サンプリングを行う場合、そのための相対的なタイミングシフトにおいて、前記第2パルスのタイミングシフトに比べ前記第1パルスのタイミングシフトの間隔を細かくすることで、図8のように前記第1パルスによって取得される距離間隔を前記第2パルスによって取得される距離間隔より細かくとり、かつ同一距離による信号取得回数を前記第1パルスにくらべ前記第2パルスを多くするよう、前記第1パルスと前記第2パルスとの送信間隔のタイミングを相対的にずらすことができる。これにより、各フィールドにおいて繰り返し送信されるパルスにおいて、検出部4が第1パルスP1の反射波によって取得する距離間隔を細かくし波形を詳細に確認して近距離に存在する物標の分解能を向上すると共に、第2パルスP2の反射波によって取得する距離間隔を相対的に粗くしつつ、同一距離における信号をより多い回数確認することで、例えば複数の信号を積分ないし比較的多ポイントのFFT処理をすることによって第2パルスP2の反射波の強度が小さい場合にもノイズとの区別が容易となる。送信部2による第1パルスP1と第2パルスP2において、送信間隔をずらしながら繰り返し送信する、つまり前記第1のタイミングを相対的にずらすことによって、近距離の距離分解能、距離精度の向上と、遠距離の検出感度の向上とを両立することができる。
制御部5は、送信部2に、キャリア周波数が異なる2種類以上の第1パルスを送信させ、検出部4に2種類以上の第1パルスの反射波信号の複素振幅ベクトルの差分ないし位相差に基づいて物標を検出させてもよい。送信部2から送信されて物標において反射して受信部3において受信される反射波信号の位相は、物標の距離及びキャリア周波数に応じて変化する。一方、送信部2から送信されて直接受信部3に到達する伝搬距離がほぼゼロである受信信号の位相は、キャリア周波数によってはほぼ変化しない。このため、キャリア周波数が異なる2種類以上の第1パルスの受信は信号の複素振幅ベクトルの差分ないし位相差分を算出することによって、送信部2から直接受信部3に到達した成分を除去することができる。また、このような差分を算出することによって、物標由来ではないレーダの回り込み信号、搭載した設置環境における回り込み信号、送信部2から受信部3に回り込むノイズ成分に加え、送信パルスに対する高速制御や受信部における高速なマスク制御によって発生する付加的なノイズも除去することができる。このため、キャリア周波数が異なる2種類以上の第1パルスを用いることによって、ノイズを低減して物標の検出精度を向上することができる。なお、異なるキャリア周波数の第1パルスの種類数は少なくとも2つであって、3種類以上のキャリア周波数を段階的に用いても構わない。また、伝搬距離を厳密なゼロとせず、一方のキャリア周波数における反射波信号の複素振幅ベクトルを僅かに所定の伝搬距離分の位相回転させた上で上記差分値を取得しても構わない。
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置1は、立ち上がり時間が小さい第1パルスP1と、限定時間通過するマスク部32とを用いることによって、近距離に存在する複数の物標を比較的高精度に分離して別々に検出することができる。このように近距離の分解能が高いレーダ装置1は、例えば自動車に搭載されて駐車時に周囲の障害物を確認する場合、最も近くに存在する物標を確実に検知することができるので、自動車を障害物に接触させることなく安全に駐車することを可能にできる。
以上に説明した図1のレーダ装置1が行う物標の検出方法は、それ自体が本発明の一実施形態に係る物標検出方法である。図1のレーダ装置1により行われる物標検出方法は、図9に示すように、第1パルスP1、並びに第1パルスよりも振幅及びパルス幅が大きい第2パルスを送信する工程(ステップS1:送信工程)と、送信工程で送信した第1パルス及び第2パルスの物標による反射波を受信する工程(ステップS2:受信工程)と、受信工程で受信した反射波の反射波信号に基づいて物標を検出する工程(ステップS3:検出工程)と、を備える。
本実施形態の物標検出方法では、送信する工程において、第1パルスP1の立ち上がり時間が第2パルスP2の立ち上がり及び立ち下がり時間よりも大きくなるよう、第1パルスP1及び第2パルスP2の波形を形成する。このように、立ち上がり時間が小さい第1パルスP1を用いることによって、近距離に存在する複数の物標を比較的高精度に分離して別々に検出することができる。また、図1のレーダ装置1について説明した波形の形成方法や反射波信号の処理方法は、いずれも本実施形態の物標検出方法に採用し得る構成である。
続いて、本発明の第2実施形態のレーダ装置について説明する。図10は、本発明の第2実施形態のレーダ装置1Aの構成を示すブロック図である。本実施形態のレーダ装置1Aは、第1パルスP1及び第2パルスP2を送信する送信部2Aと、送信部2Aが送信した第1パルス及び第2パルスの物標による反射波を受信する受信部3Aと、受信部3Aが受信した反射波信号に基づいて物標を検出する検出部4Aと、送信部2、受信部A3及び検出部4Aを制御する制御部5Aと、を備える。図10のレーダ装置1Aの説明において、図1のレーダ装置1と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
送信部2Aは、キャリア周波数の局発信号を生成する発振部21と、第1パルスP1及び第2パルスP2の波形信号を形成する波形形成部22と、発振部21が生成した局発信号に波形形成部22が形成した波形信号を掛け合わせるゲインコントロール部23と、ゲインコントロール部23から出力される信号を電波として送出する複数の送信アンテナ24と、複数の送信アンテナ24のいずれか1つを選択する送信選択部25と、を備える。つまり、送信部2Aは、複数の送信チャンネルを有する。
送信選択部25は、制御部5Aに従って、いずれか1つの送信アンテナ24のみにゲインコントロール部23から出力される信号が伝達されるよう電路を切り替える周知のセレクタにより構成することができる。
受信部3は、電磁波を受信して電気信号に変換する複数の受信アンテナ31と、複数の受信アンテナのうちいずれか1つを選択する受信選択部35と、受信選択部35が選択した受信アンテナ31の電気信号を通過又は遮断できるマスク部32と、マスク部32を通過した電気信号から振幅成分を抽出するミキサ部33と、ミキサ部33が抽出した信号をデジタル信号に変換するAD変換部34と、を有する。つまり、受信部3Aは、複数の受信チャンネルを有する。
受信選択部35は、制御部5Aに従って、いずれか1つの受信アンテナ31の信号のみをマスク部32を介してミキサ部33に供給するよう電路を切り替える周知のセレクタにより構成することができる。
検出部4Aは、前述の複数のチャンネルにおける第1パルスP1の反射波信号を各々距離ごとに角度演算処理を行うことにより、角度(角度ビン)及び距離(距離ビン)における強度情報を算出することができる(角度計測処理)。この強度情報データを角度位置及び距離位置を横軸及び縦軸としてマッピングしたものを図11に例示する。ここでは角度演算処理により複数のチャンネルの信号を合成することで、複数チャンネル信号各々のノイズがランダムであるのに対して、反射波信号は物標の存在する方向に対してコヒーレントであるため、角度ピーク方向において積分効果が得られている。この合成信号自体に対して、図11に矢印で示すように角度毎に、前述した図5や図7と同様の距離に対する強度変化に基づいて物標を検出することが可能である。これにより、物標に方位情報を有し、かつ前述のように距離において高い分解能で物標の位置を検出することができる。
また、図11のような全ての角度ビンにおける距離軸処理ではなく、角度演算処理によって取得した角度ピークに対してのみ前述のような距離軸処理を行ってもよい。具体的には図12に示すように、角度軸によるピーク検出を行った結果、その後各距離軸にける角度ピーク振幅をつなぎ合わせ距離振幅情報とする。また図11及び12のように複数の物標が存在するケースにおいて、複数のピークとして物標を分離できた場合、同一物標からの反射波信号と想定される比較的角度ピークが近い距離ごとの振幅をつなぎ合わせ、複数の距離振幅情報とする。これにより、物標に方位情報を有し、方位情報における複数物標の分離を実現し、前述のように距離において高い分解能での検出を実現すことが可能となる。図11では潤沢な情報をもつことが可能な一方、図12では角度ピークのみの取り扱いにより演算負荷を低減することができる。
次に図13は、図11よりもアンテナのチャンネル数が少なく角度分解能が低いケースを示している。この場合は、複数の物標が存在していたとしても、図12のように角度軸において2つのピークとして分離することが困難である場合がある。このような状況においても、角度ピークにおける振幅距離情報の取得によって距離における高い分解能による検出を実現することができる。
具体的には、検出部4Aは、図13に加えて示すように、距離毎に反射波信号の強度が最大となる角度を特定(距離位置毎に最大強度を抽出)する。図15に、抽出した最大強度の距離に対する変化を示す。最大強度の抽出は、図14に図示するように、距離毎角度ピークにおける反射波信号の強度が強度閾値Sa以上であるものだけを抽出してもよい。図15は、図14の反射波信号における強度変化を図5や図7と同様に示したものであるがこの場合、図6よりも2つの物標同士の距離がさらに小さく、前述の処理のみ、つまり単純に距離ビン間での強度変化(傾き)を算出するだけではその値(補正前の強度変化)が検出閾値に達しておらず検出が困難な状況である。ここで角度演算処理に基づいて得られた角度情報を利用する。図16では距離ごとにおける角度ピークとなる角度値の差分の絶対値を示す。特定距離において図13のマップ、図16においても角度値が急峻に変化することが確認され、特に図16のような角度差分(角度の傾き)は定量値として抽出することができる。なお、通常角度演算処理は物標の存在角度について、種々の校正を含めて段階的に算出する場合がある。その際、ここで利用した角度値は最終的な検出角度でなく、角度演算結果における中間情報である角度に関するインデックス値の差分であっても構わない。
そして、検出部4Aは、図15に示すように、前述の図16のような最大強度となる角度(ピーク角度)の距離ビン間での変化量(傾き)に一定の係数を乗じた値を、最大強度の傾きから減じた判定指標値(補正後の強度変化)を算出する。検出部4Aは、この判定指標値が所定の第3傾き閾値Sg3以下となった場合に、物標が存在すると判断することができる。また、図7と同様に、判定指標値が複数の距離ビン間で連続して所定の閾値以下となった場合に物標が存在すると判断(この時間位置を点X0と判断)してもよい。角度の変化量を利用することで従来検出が困難であった物標をより確実に検出することができる。なお、ここでの角度の変化量の作用のさせ方は上記の手段だけに限定されるものではない。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。例えば、本発明において、第1パルスは、少なくとも立ち上がり時間が小さければよく、立ち下がり時間も立ち上がり時間と同様に小さい波形を有してもよい。具体的には、第1パルスは、矩形波状又は台形状の波形を有していてもよい。また、第2パルスは、比較的パルス幅が大きいもの、例えばパルス幅が第1パルスの10倍以上のオーダでありでキャリア周波数が連続的に変化する周波数変調連続波等であってもよい。
本発明に係るレーダ装置において、送信部は、上述のような第1パルス及び第2パルスを送出できるものであれば、上述の実施形態の構成とは異なるものであってもよい。具体例として、局発信号を増幅して対称な電力信号形成し、この電力信号をゲインが時間とともに変化する増幅器で増幅することによって立ち上がり時間が小さい第1パルスの電力信号を形成してもよい。また、上述の実施形態の立ち上がり時間が小さい波形信号を形成する場合においても、波形信号の形成方法は任意である。
本発明に係るレーダ装置において、図8では、第1パルスP1と第2パルスP2との送信間隔は、一度マスク部の信号通過タイミングのシフト量だけずらした後に、元の送信間隔に戻されており、第2パルスの反射波を同じタイミングで2回ずつAD変換しているが、第2パルスの反射波を同じタイミングで3回以上の一定回数ずつAD変換するよう送信間隔をずらしてもよい。
本発明に係るレーダ装置において、角度計測処理を行うことで取得した1つ以上の角度ピークに対して、距離方向における各々ピーク振幅の傾きに基づいて物標検出処理を実施してもよいが、距離方向における各々ピーク振幅の傾きと各々ピーク角度の傾きとに基づいて物標検出処理を実施してもよい。