JP2023076951A - 塗装金属板、およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】フッ素樹脂を含む塗膜を有する塗装金属板の製造方法であって、経時で加工性が変化し難く、さらには巻き取り時や保管時等に塗膜にプレッシャーマークが生じ難い、塗装金属板の製造方法を提供する。【解決手段】塗装金属板の製造方法は、金属板上に、フッ素樹脂を含むフッ素樹脂系塗料を塗布し、塗膜を形成する工程と、前記塗膜を200℃以上に加熱し、硬化させる工程と、硬化した前記塗膜を冷却する工程と、冷却した前記塗膜を55℃以上140℃以下に再加熱する工程と、を含む。【選択図】なし

Description

本発明は、塗装金属板、およびその製造方法に関する。
塗装金属板は、一般に、耐久性、耐候性、および意匠性に優れ、例えば外装建材に好適に用いられている。外装建材用の塗装金属板の中でも、長期耐久性を要求される塗装金属板には、フッ素樹脂を含む塗膜を有する塗装金属板が好適である。
ただし、フッ素樹脂を含む塗膜(例えば、ポリフッ化ビニリデンを含む塗膜)は結晶性が高く、加工性が低い場合がある。そこで、塗膜に、フッ素樹脂だけでなく熱可塑性アクリル樹脂も含めることが提案されている(特許文献1~3)。また、ポリフッ化ビニリデンを含む塗料の硬化後、急冷することで、ポリフッ化ビニリデンの結晶化を抑制し、塗装金属板の加工性を高めることも提案されている(特許文献4)。
一方で、このように加工性を高めたポリフッ化ビニリデンを含む塗膜は、成膜直後の硬度が非常に低い。そのため、塗装金属板をロール等に巻き取ったりすると、塗膜に圧痕(以下、「プレッシャーマーク」とも称する)がつきやすい、という課題があった。このようなプレッシャーマークを抑制するために、例えば塗装金属板の裏面に、ガラス転移温度が10~20℃である軟らかいポリエステル塗膜を形成することが提案されている(特許文献5)。
特公昭45-9662号公報 特公平3-11266号公報 特開平2-174977号公報 特開昭61-114846号公報 特開2008-87242号公報
しかしながら、特許文献1~4のように、ポリフッ化ビニリデンの結晶性を調整した塗膜は、作製してから数ヶ月の間に徐々に硬度が硬くなる。したがって、たとえ特許文献5のような方法で、巻き取りによって生じるプレッシャーマークを抑制できたとしても、製造直後と製造から時間が経過した後とで、加工性が大きく異なり、取扱い難いという課題があった。
そこで本発明は、フッ素樹脂を含む塗膜を有する塗装金属板であって、経時で加工性が変化し難く、さらには塗膜にプレッシャーマーク等が生じ難い塗装金属板、およびその製造方法を提供する。
本発明は、以下の塗装金属板の製造方法を提供する。
[1]金属板上に、フッ素樹脂を含むフッ素樹脂系塗料を塗布し、塗膜を形成する工程と、前記塗膜を200℃以上に加熱し、硬化させる工程と、硬化した前記塗膜を冷却する工程と、冷却した前記塗膜を55℃以上140℃以下に再加熱する工程と、を含む、塗装金属板の製造方法。
[2]前記塗膜を再加熱する工程が、前記塗膜をフレーム処理および/または高周波誘導加熱する工程である、[1]に記載の塗装金属板の製造方法。
[3]前記金属板が金属帯であり、前記塗膜の再加熱後に塗装金属板をロールに巻き取る工程をさらに有する、[1]または[2]に記載の塗装金属板の製造方法。
[4]硬化した前記塗膜を冷却する工程が、前記塗膜を水冷する工程である、[1]~[3]のいずれかに記載の塗装金属板の製造方法。
[5]硬化した前記塗膜を冷却する工程における、前記塗膜の冷却速度が600~20℃/秒である、[1]~[4]のいずれかに記載の塗装金属板の製造方法。
本発明は、以下の塗装金属板を提供する。
[6]金属板と、前記金属板上に配置された、フッ素樹脂を含む塗膜と、を有し、前記塗膜の赤外分光スペクトルにおいて、波長840cm-1付近のβ型結晶由来の吸光度に対する、波長794cm-1付近のα型結晶由来の吸光度の比が0.5以下であり、かつ2点ベース法で求められる波長789cm-1付近のα、β、γ型結晶由来の吸光度に対する、波長840cm-1付近のβ型結晶由来の吸光度の比が0.4以上である、塗装金属板。
本発明によれば、フッ素樹脂を含む塗膜を有する塗装金属板の製造方法であって、経時で加工性が変化し難く、さらには巻き取り時や保管時等に塗膜にプレッシャーマークが生じ難い、塗装金属板、およびその製造方法を提供する。
図1は、再加熱工程における塗膜温度と、再加熱工程後の塗膜のX線回折パターンとを示す図である。 図2Aは、再加熱工程を行っていない塗膜のSEM写真であり、図2Bは、130℃まで再加熱した塗膜のSEM写真であり、図2Cは、150℃まで再加熱した塗膜のSEM写真である。 図3は、再加熱工程における塗膜温度と再加熱工程後の塗膜の複合弾性率との関係を示すグラフである。
1.塗装金属板の製造方法
本発明の製造方法では、フッ素樹脂を含む塗膜を有する塗装金属板を製造する。前述のように、従来の方法で、フッ素樹脂を含む塗膜を金属板上に作製すると、作製直後の硬度が低く、巻き取ったり重ねたりすることで、プレッシャーマークが生じやすかった。一方で、フッ素樹脂を含む塗膜は、経時で硬度が高まる。そのため、製造直後に加工する場合と、製造から数ヶ月経過してから加工する場合とで、加工のしやすさが異なる。そのため、場合によっては加工条件を調整したりする必要があった。
一般的に、フッ素樹脂は、これを含む塗料の塗布・硬化後、冷却することでアモルファスとなるが、時間が経過すると、当該フッ素樹脂が結晶化する。そのため、製造直後は塗膜の硬度が非常に低く、プレッシャーマーク等が生じやすい。一方で、フッ素樹脂の結晶化が進むと、プレッシャーマーク等は生じ難くなるものの、塗膜の加工性が低下する。
これに対し、本発明の製造方法では、金属板上に、フッ素樹脂を含むフッ素樹脂系塗料を塗布し、塗膜を形成する工程(塗膜形成工程)と、当該塗膜を200℃以上に加熱し、硬化させる工程(硬化工程)と、硬化した塗膜を冷却する工程(冷却工程)と、冷却した塗膜を55℃以上140℃以下に再加熱する工程(再加熱工程)と、を行う。
本発明者らの鋭意検討によれば、フッ素樹脂の結晶には少なくとも3種類、すなわちα型結晶とβ型結晶、γ型結晶とがあり、β型結晶の量を多くすると、プレッシャーマークが生じ難く、かつ塗膜の加工性が変化し難くなることが見いだされた。フッ素樹脂を含む塗膜中に、フッ素樹脂のβ型結晶が多く存在すると、製造直後の塗膜を巻き取ったりしても、プレッシャーマークが生じ難くなる。また、β型結晶が多く存在する塗膜では、時間が経過してもα型結晶やγ型結晶が生成し難く、塗膜の性能が安定する。つまり、塗装金属板の加工性が良好なまま経時で変化せず、非常に取扱いやすくなる。なお、γ型結晶については、α型結晶を高温で熱処理することで得られるため、本発明の製造方法では、殆ど出現しないと考えられる。
そして、本発明者らの検討によれば、フッ素樹脂系塗料を塗布し、硬化させた後、塗膜を十分に冷却し、さらに再加熱工程を行うことで、フッ素樹脂のβ型結晶の成長が選択的に進むことも明らかとなった。つまり、上記冷却工程、および再加熱工程を行うだけで、塗膜の性能を安定化させたり、プレッシャーマークの発生を抑制したりすることができる。したがって、大規模な装置や複雑な処理が不要である、という利点もある。
上記再加熱工程の温度およびフッ素樹脂の結晶構造との相関性については、以下の検証結果からも裏付けられる。ポリフッ化ビニリデンと、重量平均分子量10万、酸価3mg/gのアクリル樹脂とを重量比で70/30で混合したフッ素樹脂系塗料を金属板上に塗布し、これを200℃以上で硬化させ、30℃まで冷却した。その後、塗膜の最高到達温度が80℃、130℃、または150℃となるように再加熱を行った。そして、再加熱後の塗膜について、X線回折を行った。各再加熱温度におけるX線回折パターンを図1に示す。なお、比較のため、再加熱を行わなかった塗膜のX線回折パターンも図1に示す。
図1から、再加熱時の塗膜の最高到達温度が、130℃に近くなるほど、フッ素樹脂のβ型結晶が優位になりやすいことが裏付けられる。また、再加熱時の塗膜温度が150℃になる(140℃を超える)と、β型結晶が消失し、α型結晶が出現することも当該データから裏付けられる。なお、140℃超でβ型結晶が消失する理由としては、140℃以上では塗膜が軟化し、β型結晶がより安定なα型結晶に移行するため、と考えられる。
また、再加熱を行わなかった塗膜(未再加熱)、130℃まで再加熱した塗膜、および150℃まで再加熱した塗膜のSEM(走査電子顕微鏡)写真を図2A~図2Cに示す。図2Aおよび図2Bに示すように、再加熱工程を行わなかった塗膜、および再加熱工程における最高到達温度が130℃である塗膜では、明確な結晶構造が確認されなかった。これに対し、再加熱工程における最高到達温度が150℃である塗膜では、α型結晶に起因するラメラ状の構造が確認された。
図2Cに示すような、ラメラ状の構造が見られる塗膜では、構造の違いによって、強度の高い部分および低い部分が混在しているといえる。そのため、強度の高い部分によってプレッシャーマークの発生が抑えられるものの、フッ素樹脂のα型結晶が優位である塗膜を加工しようとすると、強度の高い部分と低い部分との境界に局所的に荷重がかかり、破断が生じたりすることがある。
これに対し、図2Bに示すような、フッ素樹脂のβ型結晶が優位である塗膜では、均一な構造であるため、塗膜内で強度ムラが生じ難い。したがって、β型結晶が優位である塗膜は、加工の際に局所的に荷重がかかり難く、破断等が生じ難いと考えられる。また、塗膜の強度が一様であるため、プレッシャーマークについても生じ難いといえる。
なお、図2Aに示すような、未再加熱の塗膜では、図2Cに示すようなラメラ構造ができていないものの、上述のX線回折パターンの結果等から、β型の結晶の量が十分に多くないといえる。したがって、このような塗膜では、十分な強度が得られ難い。
再加熱工程における最高到達温度と、塗膜の複合弾性率との関係を示すグラフを図3に示す。図3に示すように、再加熱工程における温度を55℃以上にすると、塗膜の複合弾性率が高まる。これは、再加熱工程において、55℃以上に加熱することで、フッ素樹脂のβ型結晶が選択的に成長したためであると考えられる。一方で、塗膜の複合弾性率は、130℃付近で最大となり、150℃では大きく低下した。130℃を境に、α型結晶の量が優勢となりはじめ、150℃では、α型結晶が圧倒的に優勢となったと考えられる。なお、図3における複合弾性率は、以下の条件で、ナノインデンターにて測定した値である。また複合弾性率は、同一の塗膜に対して5回測定したときの平均値とした。
複合弾性率測定装置)
HYSITRON社製 TI Premier Multi Scale
測定条件)
圧子:バーコビッチ
荷重制御測定条件:最大荷重 300μN
負荷、除荷時間 5秒
最大荷重保持時間 5秒
以下、本発明の塗装金属板の製造方法における各工程について説明するが、本発明の目的および効果を損なわない限り、これら以外の工程を含んでいてもよい。
(塗膜形成工程)
塗膜形成工程は、金属板上に、フッ素樹脂を含むフッ素樹脂系塗料を塗布し、塗膜を形成する工程である。フッ素樹脂系塗料の塗布方法は特に制限されず、公知の方法を採用でき、その例には、ロールコート、カーテンフローコート、スプレーコート、浸漬コート等が含まれる。フッ素樹脂系塗料の塗布量は、フッ素樹脂層の所望の厚さに応じて適宜に調整される。例えば、塗装金属板を外装建材等に使用する場合には、硬化後(再加熱工程後)の塗膜の厚みが3~30μmとなるように塗布量を調整することが好ましい。塗膜形成工程で形成する塗膜の厚みが薄すぎる場合、得られる塗膜の耐久性や隠蔽性が不十分になることがある。一方、塗膜形成工程で形成する塗膜の厚みが厚すぎる場合、後述の硬化工程において、ワキが発生することがある。
フッ素樹脂系塗料は、フッ素樹脂を少なくとも含み、かつ金属板の所望の位置に塗布可能な流動性を有していればよい。フッ素樹脂系塗料は、フッ素樹脂の他に、硬化剤や(メタ)アクリル樹脂、無機粒子や有機粒子、着色顔料、ワックス、有機溶剤、親水化剤等を含んでいてもよい。本明細書において、フッ素樹脂とは、フッ素原子をその構造中に含む樹脂をいう。フッ素樹脂として、好ましくはポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂であるが、フッ素樹脂はこれに限定されない。フッ素樹脂系塗料は、フッ素樹脂を一種のみ含んでいてもよく、二種以上を含んでいてもよい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、1,1-ジフルオロエチレン(以下、「フッ化ビニリデン」とも称する)の単独重合体であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)であってもよく、1,1-ジフルオロエチレンと他の単量体との共重合体であってもよい。ただし、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデン由来の単量体を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を構成する単量体の総量に対して50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましい。
フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体の例には、フルオロオレフィン、ビニルエーテル、ビニルエステル等が含まれる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデン以外の単量体由来の構造を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
フッ素樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂である場合、その重量平均分子量は、100000以上が好ましく、200000以上がより好ましく、400000以上がさらに好ましい。一方、重量平均分子量は、1300000以下が好ましく、1000000以下がより好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量が当該範囲であると、フッ素樹脂系塗料において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂と他の成分との相溶性が良好になり、強度の高い塗膜が得られる。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値(スチレン換算値)である。
フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン系樹脂)の量は、フッ素樹脂系塗料の樹脂固形分全量100質量部に対して、30~100質量部が好ましく、40~90質量部がより好ましく、50~80質量部がさらに好ましい。なお、フッ素樹脂系塗料の樹脂固形分とは、溶剤等の揮発成分、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、ワックス、および樹脂ビーズ、マイカ、シリカ等の艶消し剤を除いた成分をいう。フッ素樹脂系塗料中のフッ素樹脂の量が当該範囲であると、得られる塗膜の長期耐久性等が良好になりやすい。
フッ素樹脂系塗料は、上記フッ素樹脂と共に硬化剤を含んでいてもよい。フッ素樹脂と共に硬化剤を含むと、架橋構造が形成されやすく、得られる塗膜がより強靱になりやすい。硬化剤の例には、イソシアネート系硬化剤、アミノプラスト系硬化剤、多塩基酸系硬化剤、多価アミン系硬化剤等が含まれる。フッ素樹脂系塗料は、硬化剤を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
イソシアネート系硬化剤の例には、多価イソシアネート化合物やそのブロック化物、多価イソシアネート化合物の変性体、多価イソシアネート化合物の多量体等が含まれる。多価イソシアネート化合物は、2以上のイソシアネート基を有する化合物である。多価イソシアネート化合物の例には、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族多価イソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン等の脂環族多価イソシアネート化合物;m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物等が含まれる。多価イソシアネート化合物の変性体の例には、ウレタン変性体、ウレア変性体、イソシアヌレート変性体、ビューレット変性体、アロファネート変性体、カルボジイミド変性体等が含まれる。
アミノプラスト系硬化剤の例には、メチロールメラミン類、メチロールグアナミン類、メチロール尿素類等が含まれる。メチロールメラミン類の例には、ブチル化メチロールメラミン、メチル化メチロールメラミン等の低級アルコールによりエーテル化されたメチロールメラミン;エポキシ変性メチロールメラミン;等が含まれる。メチロール尿素類の例には、メチル化メチロール尿素、エチル化メチロール尿素等のアルキル化メチロール尿素等が含まれる。
多塩基酸系硬化剤の例には、長鎖脂肪族ジカルボン酸類、芳香族多価カルボン酸類等が含まれ、これらの酸無水物であってもよい。多価アミン系硬化剤の例には、エチレンジアミン、エチレントリアミン等が含まれる。
フッ素樹脂系塗料は、上記硬化剤を、フッ素樹脂100質量部に対して0.1~100質量部含むことが好ましく、1~50質量部含むことがより好ましい。フッ素樹脂の量100質量部に対する硬化剤の量が0.1質量部以上であると、塗膜の硬度が高まりやすい。一方、フッ素樹脂の量100質量部に対する硬化剤の量が100質量部以下であると、塗膜の加工性や耐衝撃性が良好になりやすい。
フッ素樹脂系塗料の流動性を高めたり、得られる塗膜と金属板との密着性を高めたりする等の観点で、フッ素樹脂系塗料はさらに(メタ)アクリル樹脂を含むことが好ましい。(メタ)アクリル樹脂は、熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよい。本明細書において(メタ)アクリルとは、メタクリルまたはアクリル、もしくはこれら両方を表す。
熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の例には、(メタ)アクリル樹脂を構成する単量体単位の総量に対して、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の単量体を70モル%以上含む重合体が含まれる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例には、炭素数が3~12のアルキル基を有する重合体が含まれ、より具体的には、(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸オクチル等が含まれる。熱可塑性(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
また、熱可塑性(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体由来の構造を有していてもよく、その例には、スチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル等が含まれる。
フッ素樹脂系塗料が含む熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、40000~300000が好ましく、50000~200000がより好ましい。当該重量平均分子量は、GPCにより測定される値(スチレン換算)である。熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量が当該範囲であると、フッ素樹脂系塗料の流動性が高まったり、得られる塗膜と金属板との密着性が高まりやすい。
フッ素樹脂系塗料中の熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の量は、フッ素樹脂の量100質量部に対して150質量部以下が好ましく、10~50質量部がより好ましい。フッ素樹脂系塗料が、熱可塑性(メタ)アクリル樹脂を当該範囲含むと、フッ素樹脂系塗料の流動性が良好になりやすい。
一方、熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の例には、水酸基やカルボキシル基、グリシジル基、活性ハロゲン、イソシアナート基等の架橋性反応基を有する(メタ)アクリル樹脂が含まれる。当該熱硬化性(メタ)アクリル樹脂は、アルキル化メラミンやポリオール、ポリアミン、ポリアミド、ポリオキシラン等の硬化剤と共に使用される。
フッ素樹脂系塗料が含む熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、1000~20000が好ましく、2000~10000がより好ましい。熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、GPCにより測定される値(スチレン換算)である。熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量が当該範囲であると、フッ素樹脂系塗料の流動性が高まったり、得られる塗膜と金属板との密着性が高まったりしやすい。
フッ素樹脂系塗料中の熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の量は、フッ素樹脂の量100質量部に対して150質量部以下が好ましく、10~50質量部がより好ましい。熱硬化性(メタ)アクリル樹脂を当該範囲含むと、塗料の流動性等が良好になりやすい。
フッ素樹脂系塗料は、無機粒子や有機粒子をさらに含んでいてもよい。フッ素樹脂系塗料がこれらを含むと、得られる塗膜の表面粗さ等を調整できる。ここで、無機粒子または有機粒子の平均粒径は4~80μmが好ましく、10~60μmがより好ましい。無機粒子や有機粒子の平均粒径は、コールターカウンター法で測定される値である。なお、無機粒子や有機粒子の形状は特に制限されないが、得られる塗膜の表面状態を調整しやすいとの観点から、略球状が好ましい。
無機粒子の例には、シリカ、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク等が含まれる。また、有機粒子の例には、アクリル樹脂やポリアクリロニトリル樹脂からなる樹脂ビーズが含まれる。これらの樹脂ビーズは、公知の方法により製造したものであってもよく、市販品であってもよい。市販のアクリル樹脂ビーズの例には、東洋紡社製の「タフチック AR650S(平均粒径18μm)」、「タフチック AR650M(平均粒径30μm)」、「タフチック AR650MX(平均粒径40μm)」、「タフチック AR650MZ(平均粒径60μm)」、「タフチック AR650ML(平均粒径80μm)」が含まれる。また、市販のポリアクリロニトリル樹脂ビーズの例には、東洋紡社製の「タフチック A-20(平均粒径24μm)」、「タフチック YK-30(平均粒径33μm)」、「タフチック YK-50(平均粒径50μm)」および「タフチック YK-80(平均粒径80μm)」等が含まれる。
フッ素樹脂系塗料が含む無機粒子および/または有機粒子の量は、所望の塗膜の表面状態等に応じて適宜選択される。通常、無機粒子および/または有機粒子の合計量は、フッ素樹脂系塗料の固形分100質量部に対して1~40質量部が好ましい。
またさらに、フッ素樹脂系塗料は、着色顔料を含んでいてもよい。着色顔料の好ましい平均粒径は、例えば0.2~2.0μmである。このような着色顔料の例には、酸化チタン、酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、カーボンブラック、コバルトブルー等が含まれる。なお、フッ素樹脂系塗料が着色顔料を含む場合、その量は、フッ素樹脂系塗料の固形分100質量部に対して、20~60質量部が好ましく、30~55質量部がより好ましい。
さらに、フッ素樹脂系塗料は、ワックスを含んでいてもよい。ワックスの例には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ワックス;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素系ワックス;パラフィン系ワックス;ステアリン酸系ワックス;等が含まれるが、これらに限定されない。また、ワックスの量は、ワックスの種類等に応じて適宜選択されるが、フッ素樹脂系塗料の固形分100質量部に対して2~15質量部程度が好ましい。
フッ素樹脂系塗料は、必要に応じて有機溶剤を含んでいてもよい。当該有機溶剤は、フッ素樹脂系塗料が含む各成分を十分に溶解、または分散させることが可能であれば特に制限されない。有機溶剤の例には、トルエン、キシレン、Solvesso(登録商標)100(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)150(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)200(商品名、エクソンモービル社製)等の炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、フタル酸ジメチル等のエステル系溶剤;メタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;等が含まれる。フッ素樹脂系塗料は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの中でも、フッ素樹脂との相溶性の観点で、イソホロン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサノン、フタル酸ジメチルが好ましい。
フッ素樹脂系塗料は、さらに親水化剤を含んでいてもよい。フッ素樹脂系塗料が親水化剤を含むと、当該親水化剤が塗膜の表面に配向し、塗膜に耐雨筋汚れ性が付与される。親水化剤の例には、テトラメトキシシランや、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランや、シリコーンレジンが含まれる。これらの中でも、塗膜の表面に配向しやすく、さらに塗膜表面の親水性を高めやすい、との観点でシリコーンレジンが好ましい。
なお、本明細書においてシリコーンレジンとは、アルコキシシランが部分加水分解縮合した化合物であって、三次元状の架橋型構造を主体とするが、ゲル化までには至らず、有機溶剤に可溶なポリマーとする。シリコーンレジンが含む三次元状の架橋型構造は特に制限されず、例えば、カゴ状、梯子状、またはランダム状のいずれであってもよい。なお、本明細書において、テトラアルコキシシラン、およびテトラアルコキシシランのみを加水分解縮合させた縮合物(オルガノシリケート)は、シリコーンレジンに含まないものとする。
シリコーンレジンの構造は特に制限されず、トリアルコキシシランの単独重合体、もしくはトリアルコキシシランと、テトラアルコキシシランおよび/またはジアルコキシシランとの共重合体等とすることができる。ただし、シリコーンレジンが含むSi原子の総モル量に対する、トリアルコキシシラン由来のSi原子の量は50~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましい。トリアルコキシシラン由来のSi原子の割合が50モル%以上であると、シリコーンレジンが塗膜表面に均一に濃化しやすくなる。その結果、塗膜の耐雨筋汚れ性が非常に良好になる。トリアルコキシシラン由来のSi原子の量は、29Si-NMRによる分析によって特定することができる。
また、シリコーンレジン中のシラノール基の量(モル数)は、Si原子の総モル量に対して、5~50モル%が好ましく、15~40モル%がより好ましい。シラノール基の量がSi原子の総モル量に対して50モル%を超えると、シリコーンレジンの反応性が高過ぎて、フッ素樹脂系塗料中で重合しやすくなる。一方、シラノール基の量がSi原子の総モル量に対して5モル%未満であると、フッ素樹脂系塗料中の他の成分とシリコーンレジンとが相互作用し難く、塗膜から脱離しやすくなり、十分な耐雨筋汚れ性が得られないことがある。
ここで、シリコーンレジンの重量平均分子量は700~50000が好ましく、1000~10000がより好ましい。シリコーンレジンの重量平均分子量が700未満になると、後述の硬化工程においてシリコーンレジンが蒸発しやすくなり、加熱装置を汚染したり、塗膜中のシリコーンレジン量が少なくなる。一方、重量平均分子量が50000を超えると、フッ素樹脂系塗料の粘度が高まり、塗膜を形成し難くなる。なお、上記シリコーンレジンの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算量である。
親水化剤の量は、フッ素樹脂系塗料の固形分100質量部に対して、1~10質量部が好ましく、2~7質量部がより好ましい。
フッ素樹脂系塗料は、フッ素樹脂や、その他の成分を混合し、攪拌もしくは分散することで、調製できる。
一方、塗膜形成工程において、フッ素樹脂系塗料を塗布する金属板は、本発明の効果が得られる範囲において、公知の金属板から選ぶことができる。上記金属板の例には、冷延鋼板、亜鉛系めっき鋼板、Zn-Al系合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板および銅板等が含まれる。
上記金属板は、耐食性および軽量化の観点から、めっき鋼板またはステンレス鋼板が好適であり、さらに対費用効果の観点から、めっき鋼板が好適である。また、上記金属板は、耐食性をより高める観点等から、溶融55%Al-Zn系合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板が好適である。これらのうち、亜鉛系めっき鋼板が好ましく、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板等のマグネシウムを含む亜鉛系めっき鋼板がより好ましい。金属板には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その表面に化成処理皮膜や下塗り塗膜等が形成されていてもよい。さらに、当該金属板は、本発明の効果を損なわない範囲で、エンボス加工や絞り成形加工等の凹凸加工がなされていてもよい。
上記金属板の厚さは、塗装金属板の用途等に基づいて適宜に決めることができる。例えば、上記金属板の厚さは、塗装金属板の用途が外装建材である場合には、0.2~1.6mm以下とすることができる。
また、金属板の形状は、枚葉状であってもよいが、帯状、すなわち金属帯であることが、プレッシャーマークを抑制可能であるとの効果の観点で好ましい。なお、金属板が金属帯である場合、ロールに巻き取られた金属板を巻き出しながら、塗膜形成工程を行ってもよい。
(硬化工程)
硬化工程では、上述の塗膜形成工程で形成したフッ素樹脂系塗料の塗膜を200℃以上に加熱して硬化させ、金属板に焼き付ける。塗膜を加熱する方法は特に制限されず、公知の加熱装置等を用いることができる。硬化工程は、塗膜形成工程と同一のライン上で行うことが、塗装金属板の製造効率の観点で好ましい。
加熱時の温度は200℃以上であればよいが、均質な塗膜を得る観点で240~300℃がより好ましい。また、加熱時間は、塗膜の厚み等に応じて適宜選択されるが、均質な塗膜を得る観点で3~90秒が好ましく、10~70秒がより好ましく、20~60秒がさらに好ましい。
さらに短時間で均一に塗膜を硬化させるため、上記加熱と同時に板面風速が0.9m/s以上となるように風を吹き付けてもよい。
(冷却工程)
冷却工程では、硬化工程後の塗膜を冷却する。冷却工程後の塗膜温度が50℃以上であり、そのまま再加熱工程を行うと、再加熱工程でα型結晶が成長しやすくなる。また、冷却工程後に塗膜温度が50℃以上の状態で長時間保管した場合にも、α型結晶が成長して、加工性が低下しやすくなる。そこで冷却工程では、塗膜の温度が50℃未満となるように塗膜を冷却することが好ましく、冷却工程後、再加熱工程までの間(保管時に)も塗膜を50℃未満とすることが好ましい。なお、冷却工程後の塗膜温度が低いほど、塗膜中のフッ素樹脂のβ型結晶量に対するα型結晶量、すなわち(α型結晶量/β型結晶量)で表される比が小さくなる。そして、冷却工程後の(α型結晶量/β型結晶量)が小さいほど、後述の再加熱工程でβ型結晶が成長しやすくなる。また、冷却工程後、再加熱工程を行うまでの間、すなわち塗膜保管時も、上記α型結晶量/β型結晶量は保持される。したがって、冷却工程から再加熱工程までの間の塗膜の温度は50℃未満、中でも30℃未満が好ましい。このとき、必要に応じて塗膜を冷却してもよい。なお、冷却工程は、塗膜形成工程や硬化工程と同一のライン上で行うことが好ましい。
冷却工程において塗膜を冷却する方法は特に制限されず、例えば、空冷、水冷、放冷、冷却部材への接触、もしくはこれらを組み合わせてもよいが、冷却効率の観点で水冷が好ましい。冷却時間を短くすることで、製造ラインを短くすることができる。なお、冷却工程における塗膜の冷却速度は600~20℃/秒が好ましく、400~50℃/秒がさらに好ましい。冷却工程開始から終了までの塗膜の降温速度は一定にしてもよく、断続的または連続的に変化させてもよい。
(再加熱工程)
再加熱工程では、冷却工程後の塗膜を55℃以上140℃以下に再加熱する。なお、再加熱工程では、冷却工程終了時の温度より、塗膜の温度を高める工程である。塗膜を55℃以上140℃以下に加熱することで、塗膜中のフッ素樹脂にエネルギーが付与され、上述のようにフッ素樹脂のβ型結晶量が多くなる。ここで、再加熱工程も、塗膜形成工程や硬化工程、冷却工程と同一のライン上で行うことが、塗装金属板の製造効率の観点で好ましい。また、本明細書において、再加熱工程における塗膜温度とは、再加熱工程中の塗膜の最高到達温度をいう。
塗膜の再加熱方法は特に制限されず、その例には、フレーム処理、赤外線加熱、高周波誘導加熱等が含まれる。ただし、これらの中でも特にフレーム処理および高周波誘導加熱が好ましい。赤外線加熱では、塗装金属板の色によって赤外線の吸収率が変化するため、塗装金属板の色によってそれぞれ照射量を制御する必要がある。例えば、白色の塗膜を有する塗装金属板と、黒色の塗膜を有する塗装金属板とに、それぞれハロゲンランプで同量の赤外線を照射すると、白色の塗装金属板では70℃となるのに対し、黒色の塗装金属板では、120℃となる。これに対し、フレーム処理では、塗装金属板の色の影響を受けず、温度制御が容易である。また、フレーム処理によれば、大規模な装置や複雑な処理が不要である、という利点もある。
一方、高周波誘導加熱のエネルギー効率は、フレーム処理、赤外線加熱のエネルギー効率が30%前後であるのに対して、70%以上である。したがって、高周波誘導加熱は、エネルギー効率の観点で好ましい。また高周波誘導加熱は、金属板が磁性材料である鋼板である場合に特に有効である。磁性材料である鋼板(金属板)を高周波誘導加熱する場合、非磁性材料である銅、アルミニウム、オーステナイト系ステンレス等を高周波誘導加熱する場合と比較して、急速加熱が可能であり、温度制御性や応答性の点でも優れる。
なお、板厚0.2mm以上、1.6mm以下の塗装金属板を高周波誘導加熱で加熱する場合には、50kHz以上の周波数で加熱することが好ましい。当該周波数によれば、効率よく塗装金属板を加熱できる。このとき、板幅方向の温度ムラ、特にコイル幅方向エッジ部の過加熱を低減させるために、高周波誘導加熱の周波数は100kHz以上、400kHz以下が好ましく、150kHz以上、400kHz以下がさらに好ましい。400kHzを超える周波数は板厚0.2mm未満の塗装金属板には適するが、板厚0.2mm以上の塗装金属板には電流浸透深さが浅すぎて適さないことがある。
ここで、再加熱工程における塗膜の温度は、55℃以上140℃以下であればよいが、70~130℃がより好ましく、80~120℃がさらに好ましい。塗膜の温度を55℃以上とすることで、上述のように塗膜中のフッ素樹脂のβ型結晶化が促進されやすくなり、塗膜の加工性が経時変化し難くなる。一方で、フッ素樹脂の一般的な再結晶温度は160℃程度である。したがって、加熱温度を140℃以下とすることで、フッ素樹脂が過度にα型結晶化することを抑制でき、塗膜の加工性の低下を抑制できる。また、再加熱工程における塗膜の温度を140℃以下とすると、再加熱工程後に、別途冷却工程を行わなくても、塗装金属板をロールに巻き取ったりすることが可能となる。
なお、塗膜の加熱をフレーム処理によって行う場合には特に、塗膜の温度を65℃以上とすると、フレーム処理に使用する燃焼性ガスの燃焼によって生じた水蒸気が結露し難くなり、均一に塗膜の温度を高めることができる。また、塗膜の温度を130℃以下とすることで、より確実に、フッ素樹脂の過度なα型結晶化を抑制できる。
なお、再加熱工程時の塗膜の温度は、接触式のセンサや非接触式のセンサによって塗膜表面の温度を直接測定してもよい。ただし、再加熱をフレーム処理で行う場合、塗膜側に火炎が存在するため、直接塗膜の温度を測定することが難しい。そこでこの場合、塗膜とは反対側の面の金属板の温度を、再加熱工程時(フレーム処理時)の塗膜の温度として測定してもよい。金属板は、伝熱速度が高いため、金属板の塗膜側の面の温度、およびその反対側の面の温度が、通常同じである。したがって、塗膜と反対側の面の金属板の温度を塗膜の温度として取扱うことができる。なお、金属板の温度は、接触式の温度センサで測定してもよいが、金属板を傷つけることなく温度を測定可能であるとの観点で、非接触式の温度センサで測定することが好ましい。
また、再加熱工程時の塗膜の加熱時間は、加熱方法により適宜選択されるが、通常5分以下が好ましく、2分以下がさらに好ましく、特に10秒以下が好ましい。また、再加熱工程後の塗膜は冷却速度5~60℃/分で放冷することが好ましい。この場合、放冷時にβ型結晶が成長する。一方、再加熱工程後に塗膜を水冷等により急冷する場合は、β型結晶の成長時間を確保するために、再加熱工程時の加熱時間を0.5~5分確保する必要がある。当該時間加熱すれば、上述のように塗膜中のフッ素樹脂のβ型結晶を選択的に成長させることができる。なお、加熱時間とは、塗膜の最高到達温度での保持時間をいう。当該加熱時間が、10秒以下であると、特に効率よく塗装金属板を製造できる。
以下、フレーム処理による再加熱方法について、詳しく説明する。再加熱工程をフレーム処理によって行う場合、冷却工程後の塗装金属板を一定方向に移動させながら、フレーム処理装置から火炎を放射する。
フレーム処理装置は、燃焼性ガスを供給するためのガス供給部と、当該ガス供給部から供給された燃焼性ガスを燃焼させるバーナーヘッドと、これらを支えるための支持部材と、を備える装置とすることができる。バーナーヘッドは、通常、ガス供給部と接続された略四角柱状の筐体と、当該筐体の底面に配置された炎口とを有し、ガス供給部から供給された燃焼性ガスを炎口で燃焼させる。
バーナーヘッドの筐体内部の構造は、一般的なフレーム処理用バーナーと同様の構造とすることができ、例えばガス供給部から供給された燃焼性ガスを炎口に流動させるための流路等を有していてもよい。炎口の搬送方向に垂直方向の幅は、フレーム処理する塗膜の幅と同等もしくは大きければよく、例えば50~150cm程度とすることができる。一方、炎口の塗膜の搬送方向の幅は、燃焼性ガスの吐出安定性等に応じて適宜設定することができ、例えば1~8mm程度とすることができる。なお、バーナーヘッドは、炎口と平行に補助炎口等を有していてもよい。バーナーヘッドが補助炎口を有すると、火炎の直進性が高まり、塗膜を確実にフレーム処理できる。
ガス供給部は、一方がバーナーヘッドと接続され、他方がガス混合部と接続されたガスの流路である。ガス混合部は、燃焼ガスボンベ等の燃焼ガス供給源と、空気ボンベ、酸素ボンベ、コンプレッサーエアー、ブロアーによるエアー等の助燃ガス供給源と接続されており、燃焼ガスと助燃ガスとを予め混合するための部材である。なお、ガス混合部からガス供給部に供給される燃焼性ガス(燃焼ガスと助燃ガスとの混合ガス)中の酸素の濃度は一定であることが好ましく、ガス混合部は、必要に応じてガス供給部に酸素を供給するための酸素供給器を具備していることが好ましい。
上記燃焼ガスの例には、水素、液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)、アセチレンガス、プロパンガス、およびブタン等が含まれる。これらの中でも所望の火炎を形成しやすいとの観点から、LPG又はLNGが好ましく、特にLPGが好ましい。一方、上記助燃ガスの例には、空気または酸素が含まれ、取扱性等の面から、空気であることが好ましい。
ガス供給部を介してバーナーヘッドに供給される燃焼性ガス中の燃焼ガスと助燃ガスとの混合比は、燃焼ガス及び助燃ガスの種類に応じて適宜設定することができる。例えば、燃焼ガスがLPG、助燃ガスが空気である場合、LPGの体積1に対して、空気の体積を24~27とすることが好ましく、25~26とすることがより好ましく、25~25.5とすることがさらに好ましい。また、燃焼ガスがLNG、助燃ガスが空気である場合、LNGの体積1に対して、空気の体積を9.5~11とすることが好ましく、9.8~10.5とすることがより好ましく、10~10.2とすることがさらに好ましい。
また、バーナーヘッドの塗膜側の端部と塗膜との距離は、所望のフレーム処理量に応じて適宜選択されるが、通常10~120mm程度とすることができ、25~100mmとすることが好ましく、30~90mmとすることがより好ましい。バーナーヘッドと塗膜との距離が近すぎる場合には、金属板の反り等によって、塗膜とバーナーヘッドとが接触してしまうことがある。一方、バーナーヘッドと塗膜との距離が遠すぎる場合には、フレーム処理に多大なエネルギーが必要となる。なお、フレーム処理時には、フレーム処理用バーナーから塗膜表面に対して垂直に火炎を放射してもよいが、塗膜表面に対して一定の角度を成すように、フレーム処理用バーナーから塗膜表面に対して火炎を放射してもよい。
また、再加熱工程を行うときの塗膜(塗装金属板)の搬送速度は適宜選択され、上述の塗膜形成工程や硬化工程、冷却工程等と同一ライン上で行う場合、これらの工程における塗装金属板(もしくは金属板)の搬送速度に合わせる。塗膜(金属板)の搬送速度は、通常10~150m/分が好ましく、20~120m/分がより好ましく、30~100m/分がさらに好ましい。塗膜を10m/分以上の速度で移動させることにより、効率的にフレーム処理を行い、塗膜の温度を所望の範囲に上昇させることができる。一方で、塗膜の移動速度が速すぎる場合には、塗膜の移動によって気流が生じやすく、塗膜の温度が十分に高まらないことがある。
ここで、フレーム処理量は、冷却工程後の塗膜の温度等に応じて適宜選択されるが、通常30~1000kJ/mが好ましく、100~600kJ/mがより好ましい。なお、本明細書における「フレーム処理量」とは、LPガス等の燃焼ガスの供給量を基準として計算される塗装金属板の単位面積当たりの熱量である。当該フレーム処理量は、フレーム処理用バーナーのバーナーヘッドと塗膜表面との距離、塗膜の搬送速度等によって調整できる。フレーム処理量が30kJ/m未満では、塗膜を上記温度範囲に上昇させたりすることが難しくなったり、処理にムラが生じたりすることがある。一方、フレーム処理量が1000kJ/mを超えると、塗膜の温度が高まり過ぎたり、塗膜が酸化して黄変したりすることがある。
また、上述の冷却工程後の塗膜(塗装金属板)の温度が低い場合には、フレーム処理前に、塗膜表面を40℃以上に加熱する予熱処理を行ってもよい。ただし、当該予熱処理は、フレーム処理の前に短時間のみ、すなわちフッ素樹脂の結晶性に影響を及ぼさない範囲で行うことが好ましい。熱伝導率が高い金属板(例えば、熱伝導率が10W/mK以上の金属板)表面に形成された塗膜に、火炎を照射すると、燃焼性ガスの燃焼によって生じた水蒸気が冷やされて水(液状)となり、一時的に塗膜の表面に溜まる。そして、当該水がフレーム処理時のエネルギーを吸収して水蒸気となることで、フレーム処理が阻害されることがある。これに対し、塗膜表面(金属板)を予め加熱しておくことで、火炎照射時の水の発生を抑えることができ、所望の温度まで十分に温度を上げることができる。
塗膜の予熱方法として高周波誘導加熱を使用し、フレーム処理と組合せることにより塗膜への耐プレッシャーマーク性付与とフレーム処理による塗膜の親水化、易接着性付与を、より省エネルギー性高く実現することも可能である。
塗膜を予熱する手段は特に限定されず、塗装金属板の形状に応じて適宜選択される。例えば、塗装金属板が帯状である場合には、上述の冷却工程を行う冷却装置とフレーム処理装置との間に、公知の加熱装置を配置すればよい。一方、塗装金属板が枚葉状である場合には、一般に乾燥炉と呼ばれる加熱装置を使用してもよい。例えば、バッチ式の乾燥炉(「金庫炉」とも称する。)を使用することができ、その具体例には、いすゞ製作所社製低温恒温器(型式 ミニカタリーナ MRLV-11)、東上熱学社製自動排出型乾燥器(型式 ATO-101)、および東上熱学社製簡易防爆仕様乾燥器(型式 TNAT-1000)等が含まれる。
(巻き取り工程)
塗装金属板が帯状である場合、再加熱工程後に塗装金属板をロール等に巻き取る、巻き取り工程をさらに行ってもよい。巻き取り工程は、上述の再加熱工程等と同一のライン上で行うことができる。本発明では、再加熱工程後の塗膜の温度が140℃以下であるため、別途冷却工程を行わなくても巻き取ることができる。ただし、必要に応じて、別途冷却工程(第2の冷却工程)を行ってもよい。なお、第2の冷却工程を行う場合、冷却速度は、塗膜樹脂中のフッ素樹脂を急冷しない(アモルファス化させない)との観点で、上述の冷却工程における冷却速度より遅くすることが好ましく、例えば空冷や放冷することが好ましい。
(クッション層形成工程)
本発明の塗装金属板の製造方法では、金属板の塗膜形成面とは反対側の面にクッション層を形成するクッション層形成工程を行ってもよい。クッション層形成工程は、上述の塗膜形成工程前に行ってもよく、上述の塗膜形成工程や硬化工程、冷却工程等の後に行ってもよく、上述の塗膜形成工程や硬化工程等と同時に行ってもよい。クッション層形成工程は、上述のフッ素樹脂の結晶性に影響を及ぼさないタイミングで行うことが好ましい。
金属板の塗膜形成面とは反対側の面にクッション層を設けると、塗装金属板を巻き取ったり、重ねて保管したりした場合に、フッ素樹脂を含む塗膜とクッション層とが積層される。このとき、クッション層がフッ素樹脂を含む塗膜にかかる応力を緩和することで、フッ素樹脂を含む塗膜にプレッシャーマークがより生じ難くなる。クッション層は、例えばポリエステル樹脂系塗料を塗布し、硬化させることで作製することができる。
ポリエステル樹脂系塗料は、例えばポリエステル樹脂や、溶剤、架橋剤等と、必要に応じて他の成分を含む塗料とすることができる。
ポリエステル樹脂の例には、テレフタル酸等の二塩基酸(直鎖状モノマー)と1,6-ヘキサンジオール等の二価アルコール(直鎖状モノマー)との重縮合物等が含まれる。当該ポリエステル樹脂の重量平均分子量は6000~10000が好ましい。ポリエステル樹脂の重量平均分子量が当該範囲であると、得られるクッション層の柔軟性が高まりやすく、塗膜にプレッシャーマークが生じ難くなる。
溶剤の例には、キシレン・イソブチルアルコール、n-ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサン、DBE(二塩基酸エステル)、ケトン類、芳香族炭化水素等が含まれる。架橋剤の例には、メラミン樹脂が含まれる。他の成分の例には、着色顔料(無機顔料や有機顔料)、フィラー、表面調整剤、硬化触媒等が含まれる
また、ポリエステル樹脂系塗料の塗布方法は特に制限されず、その例には、スプレー、バーコーター、ローラーカーテンコーター、カーテンフローコーター、ロールコーター等が含まれる。また、ポリエステル樹脂系塗料の塗膜の硬化方法は特に制限されず、その例には、熱風乾燥炉での乾燥硬化や、誘導加熱装置での乾燥硬化が含まれる。クッション層の厚みは、5~15μmが好ましい。また、当該工程によって得られるクッション層のガラス転移温度は、10~20℃が好ましい。クッション層のガラス転移温度が当該範囲であると、塗装金属板にかかる応力を緩和しやすくなる。クッション層のガラス転移温度は、ポリエステル樹脂系塗料中のポリエステル樹脂の種類等によって調整できる。
(効果)
以上のように、本発明の製造方法では、上述の塗膜形成工程、硬化工程、冷却工程、および再加熱工程を行う。そして本発明の製造方法では、フッ素樹脂を含む塗膜を形成した後、再加熱工程で当該塗膜中のフッ素樹脂のβ型結晶の成長を、塗装金属板の加工性が良好に保持できる程度に促進する。フッ素樹脂のβ型結晶化を促進すると、製造直後の塗膜を巻き取ったりしても、プレッシャーマークが生じ難くなる。さらに、時間が経過しても塗膜中のフッ素樹脂のα型結晶化が進み難いことから、塗膜の性能が安定する。つまり、塗装金属板の加工性が良好なまま経時で変化せず、非常に取扱いやすくなる。
また、本発明では、フレーム処理および/または高周波誘導加熱によって再加熱工程を行うことができ、特別な装置や複雑な処理が不要である。したがって、本発明の製造方法によれば、簡便に高品質な塗装金属板を製造することができる。
2.塗装金属板
上述の方法で製造される塗装金属板は、金属板と、当該金属板上に配置された、フッ素樹脂を含む塗膜と、を有する。また、当該塗膜の赤外分光スペクトルにおいて、波長840cm-1付近のβ型結晶由来の吸光度に対する、波長794cm-1付近のα型結晶由来の吸光度の比(α型結晶由来の吸光度/β型結晶由来の吸光度)が0.5以下である。当該比は、より好ましくは0.3以下である。当該比が小さいほど、塗膜中のフッ素樹脂のα型結晶が少なく、β型結晶が多いといえるため、下限値は特に制限されず、0であってもよい。また、2点ベース法で求められる波長789cm-1付近のα、β、γ型結晶由来の吸光度に対する波長840cm-1付近のβ型結晶由来の吸光度の比(β型結晶由来の吸光度/α、β、γ型結晶由来の吸光度)が0.4以上であり、十分なβ型結晶を有している。したがって、上述のように、経時で加工性が変化し難く、さらには巻き取り時や保管時等に塗膜にプレッシャーマークが生じ難い塗装金属板とすることができる。なお、本明細書における、α、β、γ型結晶由来の吸光度とは、α型、β型、γ型を含む、全ての型のフッ素樹脂由来の吸光度をいう。
上記塗膜の赤外分光スペクトルは、例えばThermo scientific社製Nicolet/iN10MX等の赤外分光光度計を用い、以下の条件で得ることができる。
測定方法:顕微-ATR法(ゲルマニウムプリズム使用)
測定領域:4000cm-1~600cm-1
分解能:4cm-1
積算回数:128回
アパーチャー:100μm×100μm
1.第1の実施例
[金属板の準備]
板厚0.27mm、A4サイズ(210mm×297mm)、片面当たりめっき付着量75g/mの溶融Zn-55%Al系合金めっき鋼板を準備し、その両面をアルカリ脱脂した。さらに、当該合金めっき鋼板に、塗布型クロメート処理液(日本ペイント社製 NRC300NS)を、Crの付着量が50mg/mとなるように塗布した。さらに、表面にエポキシ樹脂系プライマー塗料(日本ファインコーティングス社製 800P)を、硬化膜厚が5μmとなるようにロールコーターで塗布した。続いて、めっき鋼板の最高到達板温215℃となるように焼き付け、プライマー塗膜を形成しためっき鋼板(以下、単に「めっき鋼板」とも称する)を得た。
[フッ素樹脂系塗料の調製]
ポリフッ化ビニリデン樹脂(日本ペンウォルト社製、製品名:カイナー500、重量平均分子量650,000、融点160~165℃)と熱可塑性アクリル樹脂((メタ)アクリル酸メチルの重合物、重量平均分子量10,0000)とを混合し、フッ素樹脂系塗料を得た。ポリフッ化ビニリデン樹脂と熱可塑性アクリル樹脂との配合比は70/30(質量比)とした。その他、フッ素樹脂系塗料の固形分(塗膜としたときに揮発する成分を除いた量)100重量部に対して50重量部の酸化チタン、少量の着色顔料、少量のつや消し剤(シリカ)を添加して60度光沢12のつや消しフッ素樹脂系塗料を調製した。
[塗膜形成工程、硬化工程、およびクッション層形成工程]
上述のフッ素樹脂系塗料を、硬化膜厚が20μmとなるように上述のめっき鋼板(金属板)にロールコーターで塗布し、最高到達板温260℃、板面風速0.9m/sで60秒間焼き付けた。一方、裏面にはガラス転移温度が20℃のポリエステル塗料(日本ペイントインダストリアルコーティングス株式会社製「NSC833-20」、60度光沢30)を使用し、硬化後の膜厚が5μmになるように調整して、フッ素樹脂系塗料と同時に硬化させてクッション層を形成した。
[冷却工程および再加熱工程]
塗膜の硬化(焼き付け)後、40℃まで降温速度150℃/秒で水冷し、20~40℃まで冷却した。そして、冷却後の塗膜に対し、フレーム処理を行った。フレーム処理用バーナーには、Flynn Burner社(米国)製のF-3000を使用した。また、燃焼性ガスには、LPガス(燃焼ガス)と、クリーンドライエアーとを、ガスミキサーで混合した混合ガス(LPガス:クリーンドライエアー(体積比)=1:25)を使用した。また、各ガスの流量は、バーナーの炎口の1cmに対してLPガス(燃焼ガス)が1.67L/分、クリーンドライエアーが41.7L/分となるように調整した。なお、塗膜の搬送方向のバーナーヘッドの炎口の長さ4mmとした。一方、バーナーヘッドの炎口の搬送方向と垂直方向の長さは、450mmとした。さらに、バーナーヘッドの炎口と塗膜表面との距離は、所望のフレーム処理量に応じて30mmとした。さらに、塗膜の搬送速度を調整することで、フレーム処理量を100~600kJ/mに調整して、フレーム処理(再加熱工程)時の塗膜の温度を55℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃および150℃に調整した。なお、塗装金属板のフッ素樹脂を含む塗膜側から、非接触温度計により金属板の温度を測定し、これを塗膜表面の温度とした。
[評価]
上述の方法で作製した塗装金属板に対し、以下の方法で、加工安定性評価、鉛筆塗膜硬度評価、およびプレッシャーマーク促進試験を行った。また、比較例として、フレーム処理(再加熱工程)を行っていない塗装金属板についても同様の試験を行った。
(加工安定性評価)
得られた塗装金属板を気温23℃、相対湿度50%の恒温恒湿度室に6カ月間保管した。そして、当該高温高湿度室内部で、製造直後(0カ月)から1月毎に各試験片のT曲げ加工性を試験した。具体的には、試験片と同一の厚みの金属板を、試験片の内側に挟み込んで180°折り曲げた(1Tは1枚、2Tは2枚、6Tは6枚)。なお、試験片は塗膜が外側になるように配置した。そして、折り曲げた試験片の折り曲げ部を10倍のルーペで観察して評価した。観察の結果、塗膜に割れが生じなかったT曲げ加工限界を、加工レベルと判断した。結果を以下の表1に示す。再加熱(フレーム処理)なしと比較して加工性の低下がなく、かつ6カ月間に亘って、加工性に大きな変化がないほうが、より良好な結果といえる。
Figure 2023076951000001
(鉛筆塗膜硬度評価)
得られた塗装金属板について、製造直後(0カ月)から1月毎に塗膜の鉛筆硬度試験を行った。鉛筆塗膜硬度評価は、JISK5600 塗料一般試験方法に従って行い、鉛筆の芯で塗膜表面を引っかいて塗膜の硬さを調べ、塗膜に傷が付かない鉛筆の濃度記号で表した。結果を表2に示す。再加熱(フレーム処理)なしの6ヶ月経過後の鉛筆硬度と同等、もしくはこれより鉛筆硬度が高いほうが、より良好な結果であるといえる。
Figure 2023076951000002
(プレッシャーマーク促進試験)
10cm×10cmの大きさに切断した塗装金属板のサンプルを表裏2枚重ねした。その後、当該積層物にプレス機で4.9MPa(50kg/cm)の荷重を24時間かけた。そして、サンプルを1枚ずつ剥がし、各サンプルの塗膜の外観を目視により観察し、下記の基準で評価した。○および△が実用状問題ない範囲である。
○:プレッシャーマークが発生しなかった
△:プレッシャーマークが若干発生した
×:プレッシャーマークが発生した
Figure 2023076951000003
[結果]
上記表1に示されるように、再加熱工程(フレーム処理)を行わなかった場合には、製造直後と製造から3カ月後とでの折り曲げ性の変化が大きかった。つまり、精密に加工しようとする場合、製造からの月数を勘案する必要があり、取扱いが難しい、という課題があった。これに対し、フレーム処理によって50~140℃に再加熱すると、経時での折り曲げ性の変化が減少し、特に90℃~140℃まで再加熱した場合には製造直後と、6カ月経過後の物性が略同じであった。一方で、フレーム処理によって140℃より高い温度(比較例では150℃)まで再加熱すると、折り曲げ性が低下したり、鉛筆硬度が高くなりすぎたりし、塗装金属板の加工性が低下した。塗膜の温度が140℃以下になるように再加熱工程を行うことで、塗膜中のフッ素樹脂がβ型結晶となり、時間が経過してもα型結晶の生成等が生じ難かったと考えられる。
また、上記表2に示されるように、再加熱工程(フレーム処理)を行わなかった場合には、数ヶ月かけて鉛筆硬度が向上するのに対し、フレーム処理を行うことで、製造直後から鉛筆硬度を十分に高くすることができた。塗膜の温度が140℃以下になるように再加熱工程を行うことで、塗膜中のフッ素樹脂がβ型結晶となり、塗膜の硬度が高まったと考えられる。
また、表3に示されるように、再加熱工程(フレーム処理)を行わなかった場合は、製造直後や1カ月後に、プレッシャーマークが発生した。これに対し、フレーム処理することで製造直後からプレッシャーマークが生じ難かった。塗膜の温度が140℃以下になるように再加熱工程を行うことで、塗膜中のフッ素樹脂がβ型結晶となり、塗膜の硬度が高まったと考えられる。
2.第2の実施例
[塗装金属板の作製]
塗膜を形成するためのフッ素樹脂系塗料を調製する際に、酸化チタン、着色顔料、およびつや消し剤(シリカ)を添加しなかった以外は、第1の実施例と同様に、塗装金属板を作製した。この場合も、第1の実施例と同様に、フレーム処理(再加熱工程)時の塗膜の温度を55℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃および150℃に調整した。
[評価]
上述の方法で作製した塗装金属板に対し、以下の方法で、α型結晶/β型結晶の比およびβ型結晶/α、β、γ型結晶の比を赤外線分光光度測定により特定した。また、比較例として、フレーム処理(再加熱工程)を行っていない塗装金属板についても同様の試験を行った。
(α型結晶/β型結晶比、およびβ型結晶/α、β、γ型結晶比)
上記塗膜の赤外線分光光度測定は下記の測定装置、測定方法で行った。
測定装置:Thermo scientific社製 Nicolet/iN10MX
測定条件
測定方法:顕微-ATR法(ゲルマニウムプリズム使用)
測定領域:4000cm-1~600cm-1
分解能:4cm-1
積算回数:128回
アパーチャー:100μm×100μm
そして、上記方法で得られた赤外分光スペクトルから、2点ベース法で波長794cm-1付近のα型結晶由来の吸光度と、波長840cm-1付近のβ型結晶由来の吸光度を求めた。そして、これらの比(α型結晶由来の吸光度/β型結晶由来の吸光度)からα型結晶/β型結晶比を求めた。当該比は、0.5以下が好ましく、値が小さいほど好ましい。α型結晶/β型結晶比の算出結果を表4に示す。
また、β型結晶の生成を確認するために、2点ベース法で求められる波長789cm-1付近のα、β、γ型結晶由来の吸光度に対する波長840cm-1付近のβ型結晶由来の吸光度の比を求めた。当該比は0.4以上が好ましく、値が大きいほど好ましい。β型結晶/α、β、γ型結晶比の算出結果を表5に示す。
[結果]
Figure 2023076951000004
表4に示されるように、再加熱工程(フレーム処理)を行わなかった場合、および再加熱工程(フレーム処理)によって55~140℃に再加熱した場合は、フッ素樹脂のβ型結晶に対するα型結晶の比が0.5以下であり、圧倒的にβ型結晶が優位であったと考えられる。ただし、再加熱工程(フレーム処理)を行わなかった場合は、フッ素樹脂におけるα型結晶の量が非常に少ないものの、β型結晶の量も非常に少ない。したがって、下記表5に示すように、β型結晶/α、β、γ型結晶比が小さくなる。また、β型結晶の量が少ない場合には、上述の第1の実施例で示すように、経時で加工性が変化したりしやすい。一方、再加熱工程における温度を150℃とした場合は、β型結晶に対するα型結晶の比は2.0以上となり、逆にα型結晶が優位に変化した。α型結晶が優位な塗膜は加工性が9Tに低下した。
Figure 2023076951000005
表5に示されるように、再加熱工程(フレーム処理)を行わなかった場合は、フッ素樹脂のα、β、γ型結晶に対するβ型結晶の比が0.4未満であり、結晶に占めるβ型結晶の割合が少ない。これに対して再加熱工程(フレーム処理)によって55~140℃に再加熱した場合は、フッ素樹脂のα、β、γ型結晶に対するβ型結晶の比が0.4以上で、再加熱温度が高くなるに従いβ型結晶の比率が高まる傾向を示し、120℃付近で最大となった。一方、再加熱工程における温度を150℃とした場合は、α、β、γ型結晶に対するβ型結晶の比は0.2以下となり、β型結晶がα型結晶に変化した。したがって、再加熱工程(フレーム処理)によって55~140℃に再加熱した場合は、結晶に占めるβ型結晶の割合が多いため、巻き取り時や保管時等に塗膜にプレッシャーマークが生じ難い。
本発明の塗装金属板の製造方法によれば、経時で加工性が変化し難く、さらには巻き取り時や保管時等に塗膜にプレッシャーマークが生じ難い塗装金属板が得られる。よって、フッ素樹脂系の塗装金属板のさらなる普及が期待される。

Claims (6)

  1. 金属板上に、フッ素樹脂を含むフッ素樹脂系塗料を塗布し、塗膜を形成する工程と、
    前記塗膜を200℃以上に加熱し、硬化させる工程と、
    硬化した前記塗膜を冷却する工程と、
    冷却した前記塗膜を55℃以上140℃以下に再加熱する工程と、
    を含む、
    塗装金属板の製造方法。
  2. 前記塗膜を再加熱する工程が、前記塗膜をフレーム処理および/または高周波誘導加熱する工程である、
    請求項1に記載の塗装金属板の製造方法。
  3. 前記金属板が金属帯であり、
    前記塗膜の再加熱後に塗装金属板をロールに巻き取る工程をさらに有する、
    請求項1または2に記載の塗装金属板の製造方法。
  4. 硬化した前記塗膜を冷却する工程が、前記塗膜を水冷する工程である、
    請求項1~3のいずれか一項に記載の塗装金属板の製造方法。
  5. 硬化した前記塗膜を冷却する工程における、前記塗膜の冷却速度が600~20℃/秒である、
    請求項1~4のいずれか一項に記載の塗装金属板の製造方法。
  6. 金属板と、
    前記金属板上に配置された、フッ素樹脂を含む塗膜と、
    を有し、
    前記塗膜の赤外分光スペクトルにおいて、波長840cm-1付近のβ型結晶由来の吸光度に対する、波長794cm-1付近のα型結晶由来の吸光度の比が0.5以下であり、かつ2点ベース法で求められる波長789cm-1付近のα、β、γ型結晶由来の吸光度に対する、波長840cm-1付近のβ型結晶由来の吸光度の比が0.4以上である、塗装金属板。
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