JP2023073790A - 車両用操舵装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】軌跡追従性を損なうことなく、運転者の違和感を低減することが可能となる車両用操舵装置を提供する。【解決手段】電動モータ制御部は、自動操舵のための目標操舵角である操舵角指令値を、あそび量に応じた補正量にて補正する指令値補正部と、指令値補正部による補正後の操舵角指令値と操舵角とに基づいて、電動モータを制御する角度制御部とを含み、指令値補正部は、自動操舵の目標走行経路との横偏差に基づいて、あそび量に応じた補正量を変更するように構成されている。【選択図】図3
Description
この発明は、車両用操舵装置に関する。
トラック、バス等の大型車両では、左右の車輪がアクスルビームで連結されているリジットアクスルサスペンションが広く用いられている。リジットアクスルサスペンションを有する車両では、ボールねじ式油圧パワーステアリング機構を備えた操舵装置が広く採用されている。このような大型車両の操舵装置は、ハンドル、ステアリングコラム、ステアリングギアボックス、ピットマンアーム、ドラッグリング、ナックルアーム、タイロッド等を備えており、インデペンデントサスペンションが用いられている乗用車の操舵装置に比べて複雑である。また、大型車両の操舵装置は乗用車の操舵装置に比べて、ステアリングシャフト等の長さが長い。
特許文献1には、前述のような大型車両の操舵装置のステアリングコラムに電動モータを追加し、この電動モータを使用して、目標軌道に沿って自動走行させる技術が開示されている。このような自動走行制御(自動操舵制御)は、例えば、次のようにして行われる。すなわち、まず、目標軌跡と自車両位置との関係から、転舵輪の目標転舵角を算出し、その値にステアリングギア比(転舵角に対する操舵角の比)を乗算して目標操舵角を算出する。そして、目標操舵角と実操舵角との偏差が零になるように、電動モータに対して角度フィードバック制御を行う。
前述したように、大型車両の操舵装置は、乗用車の操舵装置よりも複雑であり、ステアリングシャフトに生じる捻じれや撓みが比較的大きいため、ハンドルから転舵輪までの間のあそび(allowance)が大きい。このため、大型車両の操舵装置に対して例えば前述のような自動走行制御を行った場合には、目標操舵角を与えても、転舵輪の転舵角が目標転舵角に一致しないため、軌跡追従性が悪くなる。なお、乗用車においても、大型車両ほどではないが、ステアリングホイールから転舵輪までの間にあそびが存在するので、同様な問題がある。
そこで、特許文献2には、軌跡追従性を向上させるために、操舵不感帯をΔHとすると、切り始め時には、ΔH/2を目標操舵角に加算することにより目標操舵角を補正し、切り返し時には、ΔHを目標操舵角に加算することにより目標操舵角を補正する技術が開示されている。なお、この明細書において、「切り始め」とは、操舵角が変化していない状態から操舵角が変化し始めることをいう。「切り返し」とは、操舵方向が逆転するように操舵角が変化することをいう。
特許文献2に記載の技術では、微小操舵の操舵方向変化に対しても、補正量(ΔH/2,ΔH)を目標操舵角に加算するため、直線走行においてもハンドルの動きが過剰となり、運転者に違和感を与えるおそれがある。
この発明の目的は、軌跡追従性を損なうことなく、運転者の違和感を低減することが可能となる車両用操舵装置を提供することである。
本発明の一実施形態は、ハンドルに連結されたステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに連結され、左右の転舵輪を転舵させるための転舵機構と、前記ステアリングシャフトを回転させるための電動モータと、操舵角を検出するための操舵角検出部と、前記電動モータを制御する電動モータ制御部とを含み、前記電動モータ制御部は、自動操舵のための目標操舵角である操舵角指令値を、あそび量に応じた補正量にて補正する指令値補正部と、前記指令値補正部による補正後の操舵角指令値と操舵角とに基づいて、前記電動モータを制御する角度制御部とを含み、前記指令値補正部は、前記自動操舵の目標走行経路との横偏差に基づいて、前記補正量を変更するように構成されている、車両用操舵装置を提供する。
この構成では、軌跡追従性を損なうことなく、運転者の違和感を低減することが可能となる。
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一実施形態は、ハンドルに連結されたステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに連結され、左右の転舵輪を転舵させるための転舵機構と、前記ステアリングシャフトを回転させるための電動モータと、操舵角を検出するための操舵角検出部と、前記電動モータを制御する電動モータ制御部とを含み、前記電動モータ制御部は、自動操舵のための目標操舵角である操舵角指令値を、あそび量に応じた補正量にて補正する指令値補正部と、前記指令値補正部による補正後の操舵角指令値と操舵角とに基づいて、前記電動モータを制御する角度制御部とを含み、前記指令値補正部は、前記自動操舵の目標走行経路との横偏差に基づいて、前記補正量を変更するように構成されている、車両用操舵装置を提供する。
本発明の一実施形態は、ハンドルに連結されたステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに連結され、左右の転舵輪を転舵させるための転舵機構と、前記ステアリングシャフトを回転させるための電動モータと、操舵角を検出するための操舵角検出部と、前記電動モータを制御する電動モータ制御部とを含み、前記電動モータ制御部は、自動操舵のための目標操舵角である操舵角指令値を、あそび量に応じた補正量にて補正する指令値補正部と、前記指令値補正部による補正後の操舵角指令値と操舵角とに基づいて、前記電動モータを制御する角度制御部とを含み、前記指令値補正部は、前記自動操舵の目標走行経路との横偏差に基づいて、前記補正量を変更するように構成されている、車両用操舵装置を提供する。
この構成では、軌跡追従性を損なうことなく、運転者の違和感を低減することが可能となる。
本発明の一実施形態では、前記指令値補正部は、前記横偏差の絶対値が小さいほど、前記補正量を小さくするように構成されている。
本発明の一実施形態では、前記指令値補正部は、前記横偏差の絶対値が所定の閾値未満である場合に、前記補正を行わずに、前記自動操舵のための目標操舵角である操舵角指令値をそのまま出力するように構成されている。
本発明の一実施形態では、前記横偏差が、所定時間後の目標走行経路との横偏差である。
本発明の一実施形態では、前記指令値補正部は、車両前方の道路形状をも考慮して、前記補正量を変更するように構成されている。
[本発明の実施形態の詳細な説明]
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。図1において破線29の左側は、車両を側方から見た側面図であり、破線29の右側は、車両を上方から見た平面図である。
この車両用操舵装置1は、ハンドル(ステアリングホイール)2、ステアリングシャフト3を有するステアリングコラム4、ベベルギア部5、動力伝達軸6、ボールねじ式油圧パワーステアリング機構(以下、「油圧パワーステアリング機構7」という。)、転舵機構8、電動モータ9等を備えている。
ハンドル2は、ステアリングシャフト3を介してベベルギア部5の入力軸に連結されている。ベベルギア部5の出力軸は、動力伝達軸6を介して油圧パワーステアリング機構7の入力軸に連結されている。
転舵機構8は、ピットマンアーム11、ドラッグリンク12、ナックルアーム13、キングピン軸14,15、タイロッドアーム16およびタイロッド17を備える。
ピットマンアーム11の一端は、油圧パワーステアリング機構7のセクターシャフトに連結されている。ピットマンアーム11の他端には、ドラッグリンク12の一端が連結されている。ドラッグリンク12の他端は、右転舵輪(右前輪)22のナックルアーム13の一端に連結されている。ナックルアーム13の他端は、右転舵輪22のキングピン軸14に連結されている。右転舵輪22のキングピン軸14と左転舵輪(左前輪)21のキングピン軸15とは、タイロッドアーム16およびタイロッド17によって連結されている。図の破線18は、アクスルビームである。
電動モータ9は、ステアリングコラム4に設けられており、図示しない減速機を介してステアリングシャフト3に連結されている。減速機は、ウォームギヤと、このウォームギヤと噛み合うウォームホイールとを含むウォームギヤ機構からなる。以下において、減速機の減速比をNで表す。減速比Nは、ウォームホイールの回転角であるウォームホイール角に対するウォームギヤの回転角であるウォームギヤ角の比として定義される。電動モータ9のロータ回転角θmは、回転角センサ25によって検出される。
ハンドル2が回転すると、この回転トルクが、ステアリングシャフト3、ベベルギア部5、動力伝達軸6およびボールねじ式油圧パワーステアリング機構7に伝達されて、ピットマンアーム11が揺動される。このピットマンアーム11の揺動により、ドラッグリンク12が前後方向に移動され、ナックルアーム13が揺動され、転舵輪21,22が転舵される。
電動モータ9が回転されると、この回転トルクがステアリングシャフト3に伝達されるので、前述と同様な動力伝達経路を介して転舵輪21,22が転舵される。すなわち、電動モータ9によってステアリングシャフト3を回転させることにより、転舵輪21,22の転舵が可能となる。
図2は、車両用操舵装置の電気的構成を示すブロック図である。
車両には、上位ECU101およびモータ制御用ECU102が設けられている。モータ制御用ECU102は、本発明の電動モータ制御部の一例である。
上位ECU101は、操舵モードが自動操舵モードであるか手動操舵モードであるかを示すモード信号Smodeを出力する。また、上位ECU101は、自動操舵モード時に、目標走行経路(目標軌道)に対する車両の横偏差ey、目標走行経路に対する車両のヨー角偏差eθ、車両前方の道路(所定時間後に走行予定の道路)の曲率1/ρ、自動操舵のための操舵角指令値θcmda等を生成する。なお、ρは、曲率半径である。
車両の横偏差eyは、車両の基準位置から目標走行経路までの距離を表す。車両の基準位置は、車両の重心位置であってもよく、車両の幅中心線における所定位置であってもよい。この実施形態では、車両の基準位置が、進行方向に向かって、目標走行経路の右側にある場合には、横偏差eyの符号が正となり、目標走行経路の左側にある場合には、横偏差eyの符号が負となるように、横偏差eyは設定される。
車両のヨー角偏差eθは、車両の前後方向軸と目標走行経路の接線との間の角度偏差である。この実施形態では、車両の前後方向軸の進行方向に向かう方向が、目標走行経路に対して右側を向いている場合には、ヨー角偏差eθの符号が正となり、目標走行経路に対して左側を向いている場合には、ヨー角偏差eθの符号が負となるように、ヨー角偏差eθは設定される。
操舵角指令値θcmdaは、自動操舵モード時における操舵角(ステアリングシャフト3の回転角)θhの目標値である。この実施形態では、操舵角θhは、ハンドル2の中立位置(操舵中立位置)からのステアリングシャフト3の正逆両方向の回転量(回転角)であり、操舵中立位置から右方向への回転量が正の値で表され、操舵中立位置から左方向への回転量が負の値で表される。この実施形態では、操舵角θhは、回転角センサ25によって検出されるロータ回転角θmから演算される。
上位ECU101は、モード信号Smode、操舵角指令値θcmda、横偏差ey、ヨー角偏差eθ、前方注視距離L、車速V、ヨーレートγおよび曲率1/ρを、モータ制御用ECU102に与える。車速Vは、上位ECU101に接続された車速センサ(図示略)によって検出される。ヨーレートγは、上位ECU101に接続されたヨーレートセンサ(図示略)によって検出される。
また、モータ制御用ECU102には、車両のキースイッチの状態を表すキースイッチ状態検知信号Skが入力する。この実施形態では、車両のキースイッチは、例えばエンジン(図示略)または走行用モータ(図示略)を始動するためのイグニッションキーである。キースイッチは、イグニッションキーの他、イモビライザを備えた電子キーを用いて認証を得られた場合に電気信号を発するもの、または押ボタンによって電気信号を発するものであってもよい。
キースイッチがオン操作されたときには、そのことを示すキースイッチ状態検知信号(以下、「キースイッチオン状態信号」という。)がモータ制御用ECU102に入力される。キースイッチがオフ操作されたときには、そのことを示すキースイッチ状態検知信号(以下、「キースイッチオフ状態信号」という。)がモータ制御用ECU102に入力される。
モータ制御用ECU102は、モード信号Smodeに基づいて、操舵モードが手動操舵モードか自動操舵モードであるかを判別する。そして、モータ制御用ECU102は、操舵モードが自動操舵モードである場合にのみ、操舵角指令値θcmda、横偏差ey、ヨー角偏差eθ、前方注視距離L、車速V、ヨーレートγ、曲率1/ρおよび回転角センサ25の出力信号に基づいて、電動モータ9を駆動制御する。
図3は、モータ制御用ECU102の電気的構成であって、自動操舵モード時に電動モータ9を駆動制御するための電気的構成を示すブロック図である。
モータ制御用ECU102は、マイクロコンピュータ31と、マイクロコンピュータ31によって制御され、電動モータ9に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)32と、電動モータ9に流れるモータ電流を検出する電流検出部33とを備えている。
マイクロコンピュータ31は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部は、回転角演算部41と、減速比除算部(操舵角演算部)42と、UVW/dq変換部43と、基本あそび量演算部44と、指令値補正部45と、角度偏差演算部46、PD制御部47と、電流指令値設定部48と、電流偏差演算部49と、PI(比例積分)制御部50と、dq/UVW変換部51と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部52とを含む。
回転角演算部41は、回転角センサ25の出力信号に基づいて、電動モータ9のロータの回転角θm(以下、「ロータ回転角θm」という。)を演算する。回転角演算部41によって演算されるロータ回転角θmは、dq/UVW変換部51、UVW/dq変換部43および減速比除算部42に与えられる。
減速比除算部42は、回転角演算部41によって演算されるロータ回転角θmを減速比Nで除算することにより、操舵角θhを演算する。操舵角θhは、基本あそび量演算部44、指令値補正部45および角度偏差演算部46に与えられる。回転角センサ25、回転角演算部41および減速比除算部42は、本発明の操舵角検出部の一例である。
電流検出部33は、電動モータ9のU相電流IU、V相電流IVおよびW相電流IW(以下、これらを総称するときは、「三相検出電流IUVW」という。)を検出する。電流検出部33によって検出された三相検出電流IUVWは、UVW/dq変換部43に与えられる。
UVW/dq変換部43は、電流検出部33によって検出されるUVW座標系の三相検出電流IUVW(U相電流IU、V相電流IVおよびW相電流IW)を、dq座標系の二相検出電流IdおよびIq(以下、これらを総称するときには「二相検出電流Idq」という。)に座標変換する。この座標変換には、回転角演算部41によって演算されるロータ回転角θmが用いられる。UVW/dq変換部43によって演算される二相検出電流Idqは、電流偏差演算部49に与えられる。UVW/dq変換部43によって演算されるq軸電流Iqは、基本あそび量演算部44に与えられる。
基本あそび量演算部44は、電源オン時に、基本あそび量演算処理を実行することにより、基本あそび量αを演算する。基本あそび量演算部44の詳細については後述する。
指令値補正部45は、自動操舵モード時に、操舵角指令値θcmdaを補正する。指令値補正部45の詳細については後述する。指令値補正部45による補正後の操舵角指令値θcmdは、角度偏差演算部46に与えられる。
角度偏差演算部46は、操舵角指令値θcmdと操舵角θhとの偏差Δθ(θcmd-θh)を演算する。
PD制御部47は、角度偏差演算部46によって演算された角度偏差Δθに対してPD演算(比例微分演算)を行うことにより、トルク指令値Tcmdを演算する。
電流指令値設定部48は、トルク指令値Tcmdに基づいて、d軸電流指令値Id,cmdおよびq軸電流指令値Iq,cmd(以下、これらを総称するときには「二相電流指令値Idq,cmd」という。)を設定する。
具体的には、電流指令値設定部48は、q軸電流指令値Iq,cmdを有意値とする一方で、d軸電流指令値Id,cmdを零とする。より具体的には、電流指令値設定部48は、PD制御部47によって演算されたトルク指令値Tcmdを、電動モータ9のトルク定数KTで除算することにより、q軸電流指令値Iq,cmdを設定する。電流指令値設定部48によって設定された二相電流指令値Idq,cmdは、電流偏差演算部49に与えられる。
電流偏差演算部49は、電流指令値設定部48によって設定される二相電流指令値Idq,cmdと、UVW/dq変換部43から与えられる二相検出電流Idqとの偏差を演算する。より具体的には、電流偏差演算部49は、d軸電流指令値Id,cmdに対するd軸検出電流Idの偏差およびq軸電流指令値Iq,cmdに対するq軸検出電流Iqの偏差を演算する。これらの偏差は、PI制御部50に与えられる。
PI制御部50は、電流偏差演算部49によって演算された電流偏差に対するPI(比例積分)演算を行なうことにより、電動モータ9に印加すべき二相電圧指令値Vdq,cmd(d軸電圧指令値Vd,cmdおよびq軸電圧指令値Vq,cmd)を生成する。この二相電圧指令値Vdq,cmdは、dq/UVW変換部51に与えられる。
dq/UVW変換部51は、二相電圧指令値Vdq,cmdを三相電圧指令値VUVW,cmdに座標変換する。この座標変換には、回転角演算部41によって演算されるロータ回転角θmが用いられる。三相電圧指令値VUVW,cmdは、U相電圧指令値VU,cmd、V相電圧指令値VV,cmdおよびW相電圧指令値VW,cmdからなる。この三相電圧指令値VUVW,cmdは、PWM制御部52に与えられる。
PWM制御部52は、U相電圧指令値VU,cmd、V相電圧指令値VV,cmdおよびW相電圧指令値VW,cmdにそれぞれ対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成し、駆動回路32に供給する。
駆動回路32は、U相、V相およびW相に対応した三相インバータ回路からなる。このインバータ回路を構成するパワー素子がPWM制御部52から与えられるPWM制御信号によって制御されることにより、三相電圧指令値VUVW,cmdに相当する電圧が電動モータ9の各相のステータ巻線に印加されることになる。
角度偏差演算部46およびPD制御部47は、角度制御部(角度フィードバック制御手段)を構成している。この角度制御部の働きによって、操舵角θhが、指令値補正部45による補正後の操舵角指令値θcmdに近づくように、電動モータ9が制御される。
以下、基本あそび量演算部44および指令値補正部45について、詳しく説明する。
まず、指令値補正部45による操舵角指令値補正方法の基本的な考え方について説明する。
図4は、操舵角θhと転舵角(タイヤ角)δとの関係を示すグラフである。
図4は、操舵中立位置Oから零よりも大きい所定の第1操舵角θh1まで操舵角θhを連続的に変化させた後、操舵角θhを零よりも小さい所定の第2操舵角θh2まで連続的に変化させ、さらに操舵角θhを第1操舵角θh1に向かって連続的に変化させた場合の、転舵角δの軌跡を示している。
ハンドル2から転舵輪21,22までの間には、あそび(がた)が存在している。このため、操舵角θhが0°から増加しても、すぐには、転舵角δは増加しない。つまり、切り始め状態においては、操舵角θhが変化しても、すぐには、転舵角δは変化しない。操舵角θhの増加によってあそび詰まると(A点)、転舵角δが増加し始める。
そして、操舵角θhが第1操舵角θh1に達し(B点)、切り返し動作が行われると、操舵角θhが減少される。この場合も、あそびがあるため、すぐには、転舵角δは減少しない。つまり、切り返し状態においては、操舵角θhが変化しても、すぐには、転舵角δは変化しない。操舵角θhの減少によってあそびが詰まると(C点)、転舵角δが減少し始める。したがって、転舵角δが零になったときに(D点)、操舵角θhは0以下の値となる。
操舵角θhが第2操舵角θh2に達し(E点)、切り返し動作が行われると、操舵角θhが増加される。この場合にも、あそびがあるため、すぐには、転舵角δは増加しない。操舵角θhの増加によってあそびが詰まると(F点)、転舵角δが増加し始める。
A点とD点(またはB点とC点、またはF点とE点)との間の操舵角θhの変化量の絶対値が、基本あそび量αである。以下において、あるハンドル位置からステアリングシャフト3(ハンドル2)が右操舵方向に回転されたときに、当該ハンドル位置から操舵角θhが変化しても転舵角δが変化しない操舵角範囲を「右方向のあそび量αR」ということにする。また、あるハンドル位置からステアリングシャフト3(ハンドル2)が左操舵方向に回転されたときに、当該ハンドル位置から操舵角θhが変化しても転舵角δが変化しない操舵角範囲を「左方向のあそび量αL」ということにする。
例えば、操舵中立位置Oからハンドル2を右操舵方向に切り始める場合、右方向のあそび量αRは、α/2となる。また、例えば、操舵中立位置Oからからハンドル2を左操舵方向に切り始める場合、左方向のあそび量αLは、α/2となる。また、例えば、点Bからハンドル2を左操舵方向に切り返す場合、左方向のあそび量αLはαとなる。
また、例えば、操舵中立位置Oと点Aとの間の点Pからハンドル2を右操舵方向に切り始める場合、右方向のあそび量αRは、点Pと点Aとの間の操舵角の変化量となる。また、例えば、操舵中立位置Oと点Aとの間の点Pからハンドル2を左操舵方向に切り始める場合、左方向のあそび量αLは、点Pと点Dとの間の操舵角の変化量となる。
右方向のあそび量αRおよび左方向のあそび量αLは、次式(1)によって表される。
αR=α/2-Δα
αL=α/2+Δα …(1)
if -α/2≦X≦α/2, then Δα=X
if X>α/2, then Δα=α/2
if X<-α/2, then Δα=-α/2
X=Δα(i-1)+(θh-θh(i-1))
式(1)において、Δα(i-1)は、Δαの前回値であり、θh(i-1)は、θhの前回値である。ここで、Δα、θhの初期値は零とする。Δαは、基本あそび量αの中心に相当するハンドル位置からの不定時間毎または一定時間毎の操舵角変化量の積分値であって、α/2以上になるとα/2となり、-α/2以下になると-α/2となる値である。
αL=α/2+Δα …(1)
if -α/2≦X≦α/2, then Δα=X
if X>α/2, then Δα=α/2
if X<-α/2, then Δα=-α/2
X=Δα(i-1)+(θh-θh(i-1))
式(1)において、Δα(i-1)は、Δαの前回値であり、θh(i-1)は、θhの前回値である。ここで、Δα、θhの初期値は零とする。Δαは、基本あそび量αの中心に相当するハンドル位置からの不定時間毎または一定時間毎の操舵角変化量の積分値であって、α/2以上になるとα/2となり、-α/2以下になると-α/2となる値である。
図5は、操舵角θhとΔαとの関係を示すグラフである。
操舵中立位置Oから操舵角θhを増加させると、それにともなってΔαは増加する。そして、Δα=α/2になると(A’点)、操舵角θhが増加しても、Δαはα/2を維持する。操舵角θhが零よりも大きい所定の第3所定の操舵角θh3に達した後(B’点)、切り返し動作が行われて操舵角θhが減少されると、それにともなってΔαは減少する。
そして、Δα=-α/2になると(C’点)、操舵角θhが減少しても、Δαは-α/2を維持する。操舵角θhが零よりも小さい所定の第4操舵角θh4に達した後(E’点)、切り返し動作が行われて操舵角θhが増加されると、それにともなってΔαは増加する。そして、Δα=α/2になると(F’点)、操舵角θhが増加しても、Δαはα/2を維持する。
なお、A’点とB’点との間のG’点において、操舵角θhが減少されると、それにともなって、Δαは減少する。また、C’点とE’点との間のH’点において、操舵角θhが増加されると、それにともなって、Δαは増加する。
例えば、現在のハンドル位置が図4のP点であり、操舵角指令値θcmdaに基づく操舵方向(以下、「予定操舵方向」という。)が右操舵方向である場合には、操舵角θhがP点からA点まで増加するまでは転舵角δは増加しない。そのため、操舵角θhが操舵角指令値θcmdaに近づくように制御しても、転舵角は操舵角指令値θcmdaに応じた転舵角にはならない。そこで、このような場合には、指令値補正部45は、基本的には、操舵角指令値θcmdaに、右方向のあそび量αR(=α/2-Δα)を加算することにより、操舵角指令値θcmdaを補正する。これにより、転舵角δを、操舵角指令値θcmdaに応じた転舵角にすることができる。
一方、現在のハンドル位置が図4のP点であり、予定操舵方法が左操舵方向である場合には、操舵角θhがP点からD点まで減少するまでは、転舵角δは減少しない。そのため、操舵角θhが操舵角指令値θcmdaに近づくように制御しても、転舵角は操舵角指令値θcmda応じた転舵角にはならない。そこで、このような場合には、指令値補正部45は、基本的には、操舵角指令値θcmdaから左方向のあそび量αL(=α/2+Δα)を減算することにより、操舵角指令値θcmdaを補正する。これにより、転舵角δを、操舵角指令値θcmdaに応じた転舵角にすることができる。
また、例えば、現在のハンドル位置が第1操舵角θh1であり(B点)、予定操舵方法が左操舵方向である場合には、操舵角θhがB点からC点まで減少するまでは、転舵角δは減少しない。そのため、操舵角θhが操舵角指令値θcmdaに近づくように制御しても、転舵角は操舵角指令値θcmda応じた転舵角にはならない。そこで、このような場合には、指令値補正部45は、基本的には、操舵角指令値θcmdaから左方向あそび量αL(=α/2+Δα)を減算することにより、操舵角指令値θcmdaを補正する。この場合、Δα=α/2となるので、補正後の操舵角指令値θcmdは、(θcmda-α)となる。
前述したような基本的な操舵角指令値補正方法では、微小操舵の操舵方向変化に対しても、あそび量に応じた補正量(右方向のあそび量αR,左方向あそび量αL)を操舵角指令値θcmdaに加算するため、直線走行においてもハンドルの動きが過剰となり、運転者に違和感を与えるおそれがある。
そこで、この実施形態では、目標走行経路に対する逸脱性余裕度が比較的大きいときには、言い換えれば、後述するΔt秒後の横偏差ey(t+Δt)が比較的小さい場合には、あそび量に応じた補正量(右方向のあそび量αR,左方向あそび量αL)を小さくすることにより、運転者に与える違和感を低減させるようにしている。指令値補正部45の動作の詳細については、後述する。
図6は、基本あそび量演算部44によって実行される基本あそび量演算処理の手順を示すフローチャートである。
キースイッチオン状態信号が入力されると(ステップS1)、基本あそび量演算部44は、まず、ステアリングシャフト3が右操舵方向に回転するように電動モータを駆動する(ステップS2)。例えば、基本あそび量演算部44は、ステアリングシャフト3を右操舵方向に回転させるための所定の操舵角指令値θcmdを角度偏差演算部46に与える。これにより、電動モータ9が駆動され、ステアリングシャフト3が右操舵方向に回転する。
この場合、図7に示すように、UVW/dq変換部43(図3参照)から出力されるq軸電流Iqは、操舵角θhが0からα/2までの間は正の微小値となり、α/2以上になると増加する。
基本あそび量演算部44は、q軸電流Iqが、転舵輪21,22が右操舵方向に転舵するのに必要な所定の第1電流値Iq1(右方向転舵に最小限必要な電流値)に達すると、電動モータ9の回転を停止させ、そのときの操舵角θhをθ1としてメモリに記憶する(ステップS3)。
次に、基本あそび量演算部44は、ステアリングシャフト3が左操舵方向に回転するように電動モータを駆動する(ステップS4)。例えば、基本あそび量演算部44は、ステアリングシャフト3を左操舵方向に回転させるための所定の操舵角指令値θcmdを角度偏差演算部46に与える。これにより、電動モータ9が駆動され、ステアリングシャフト3が左操舵方向に回転する。
この場合、図7に示すように、q軸電流Iqは、操舵角θhがα/2から-α/2までの間は負の微小値となり、-α/2以上になると減少する。
基本あそび量演算部44は、q軸電流Iqが、転舵輪21,22が左操舵方向に転舵するのに必要な所定の第2電流値Iq2(左方向転舵に最小限必要な電流値)に達すると、電動モータ9の回転を停止させ、そのときの操舵角θhをθ2としてメモリに記憶する(ステップS5)。そして、基本あそび量演算部44は、(θ1-θ2)を、基本あそび量αとして演算する(ステップS6)。
次に、基本あそび量演算部44は、ステアリングシャフト3がα/2だけ右操舵方向に回転するように、電動モータ9を駆動する(ステップS7)。そして、基本あそび量演算部44は、指令値補正部45に、基本あそび量αを含むΔα演算開始指令を与える(ステップS8)。そして、基本あそび量演算部44は、今回の基本あそび量演算処理を終了する。
図8Aおよび図8Bは、指令値補正部45によって実行される指令値補正処理の手順を示すフローチャートである。
キースイッチオン状態信号が入力されると(ステップS11)、指令値補正部45は、基本あそび量αを含むΔα演算開始指令が与えられるのを待つ(ステップS12)。Δα演算開始指令が与えられると(ステップS12:YES)、指令値補正部45は、Δα演算開始指令に含まれている基本あそび量αを、基本あそび量αとしてメモリに記憶し、Δαをリセット(Δα=0)する(ステップS13)。
次に、指令値補正部45は、式(1)に基づいて、Δα、右方向のあそび量αRおよび左方向のあそび量αLを演算する(ステップS14)。なお、Δα(i-1)およびθh(i-1)の初期値は、0である。
次に、指令値補正部45は、モード信号Smodeに基づいて、操舵モードが自動操舵モードか否かを判別する(ステップS15)。
操舵モードが自動操舵モードである場合には(ステップS15:YES)、指令値補正部45は、操舵角指令値θcmda、横偏差ey、ヨー角偏差eθ、前方注視距離L、車速V、ヨーレートγおよび曲率1/ρを取得する(ステップS16)。そして、指令値補正部45は、次式(2)に基づいて、逸脱余裕度Mを演算する(ステップS17)。
if Y>0, then M=Y
if Y≦0, then M=0 …(2)
Y=Mmax-|ey(t+Δt)|
ey(t+Δt)=ey(t)+L・eθ(t)+L2・γ/2V
式(2)において、Mmaxは、予め設定された逸脱余裕度Mの最大値であり、ey(t+Δt)は、現時点から前方注視距離Lだけ前方の前方注視点での横偏差(以下、「Δt秒後の横偏差」という。)であり、ey(t)は、現在の横偏差であり、eθ(t)は現在のヨー角偏差であり、γは現在のヨーレートであり、Vは現在の車速である。ey(t)、eθ(t)、γおよびVとしては、それぞれ、最新のステップS16で取得されたey、eθ、γおよびVが用いられる。
if Y≦0, then M=0 …(2)
Y=Mmax-|ey(t+Δt)|
ey(t+Δt)=ey(t)+L・eθ(t)+L2・γ/2V
式(2)において、Mmaxは、予め設定された逸脱余裕度Mの最大値であり、ey(t+Δt)は、現時点から前方注視距離Lだけ前方の前方注視点での横偏差(以下、「Δt秒後の横偏差」という。)であり、ey(t)は、現在の横偏差であり、eθ(t)は現在のヨー角偏差であり、γは現在のヨーレートであり、Vは現在の車速である。ey(t)、eθ(t)、γおよびVとしては、それぞれ、最新のステップS16で取得されたey、eθ、γおよびVが用いられる。
次に、指令値補正部45は、曲率1/ρに基づいて車両前方の道路形状が直線であるか否かを判別する(ステップS18)。例えば、指令値補正部45は、曲率1/ρが所定の閾値A未満である場合に、車両前方の道路形状が直線であると判別し、曲率1/ρが閾値A以上である場合には車両前方の道路形状が曲線(カーブ)であると判別する。
車両前方の道路形状が直線である場合には(ステップS18:YES)、指令値補正部45は、逸脱余裕度Mに基づいて補正ゲインGを設定する(ステップS19)。そして、指令値補正部45は、ステップS21に移行する。
図9は、補正ゲインGの設定例を示すグラフである。
逸脱余裕度Mが0である場合には、補正ゲインGは1に設定される。逸脱余裕度Mが0よりも大きい領域では、逸脱余裕度Mが大きくなるにしたがって漸減する特性にしたがって、補正ゲインGが設定される。図9の例では、逸脱余裕度Mは、逸脱余裕度Mが大きくなるにしたがって非線形に漸減する特性を有しているが、逸脱余裕度Mが大きくなるにしたがって線形に漸減する特性を有していてもよい。
前記ステップS18において、車両前方の道路形状が直線ではないと判別された場合には(ステップS18:NO)、指令値補正部45は、補正ゲインGを1に設定する(ステップS20)。そして、指令値補正部45は、ステップS21に移行する。
ステップS21では、指令値補正部45は、予定操舵方向を判定する。具体的には、指令値補正部45は、θcmda-θh>0であれば、予定操舵方向を右操舵方向と判定し、θcmda-θh<0であれば、予定操舵方向を左操舵方向と判定する。θcmda-θh=0であれば、予定操舵方向を前回の操舵方向であると判定する。
予定操舵方向が右操舵方向であると判定された場合には、指令値補正部45は、ステップS14で算出された右方向のあそび量αRとステップS19またはステップS20で設定された補正ゲインGとを用い、次式(3)に基づいて、操舵角指令値θcmdaを補正する(ステップS22)。そして、指令値補正部45は、ステップS24に移行する。
θcmd=θcmda+G・αR …(3)
ステップS21において、予定操舵方向が左操舵方向であると判定された場合には、指令値補正部45は、ステップS14で算出された左方向のあそび量αLとステップS19またはステップS20で設定された補正ゲインGとを用い、次式(4)に基づいて、操舵角指令値θcmdaを補正する(ステップS23)。そして、指令値補正部45は、ステップS24に移行する。
ステップS21において、予定操舵方向が左操舵方向であると判定された場合には、指令値補正部45は、ステップS14で算出された左方向のあそび量αLとステップS19またはステップS20で設定された補正ゲインGとを用い、次式(4)に基づいて、操舵角指令値θcmdaを補正する(ステップS23)。そして、指令値補正部45は、ステップS24に移行する。
θcmd=θcmda-G・αL …(4)
ステップS24では、指令値補正部45は、キースイッチオフ状態信号が入力されたか否かを判別する。キースイッチオフ状態信号が入力されていなければ(ステップS24:NO)、指令値補正部45はステップS14に戻る。この場合、指令値補正部45は、式(1)に基づいて、Δα、右方向のあそび量αRおよび左方向のあそび量αLを演算した後、ステップS15に移行する。
ステップS24では、指令値補正部45は、キースイッチオフ状態信号が入力されたか否かを判別する。キースイッチオフ状態信号が入力されていなければ(ステップS24:NO)、指令値補正部45はステップS14に戻る。この場合、指令値補正部45は、式(1)に基づいて、Δα、右方向のあそび量αRおよび左方向のあそび量αLを演算した後、ステップS15に移行する。
ステップS24において、キースイッチオフ状態信号が入力されていると判別された場合には(ステップS24:YES)、指令値補正部45は、今回の処理を終了する。
ステップS15において、操舵モードが手動操舵モードであると判別された場合には(ステップS15:NO)、指令値補正部45は、ステップS24に移行する。この場合には、電動モータ9は駆動されない。ステップS24において、キースイッチオフ状態信号が入力されていないと判別された場合には、指令値補正部45はステップS14に戻る。したがって、操舵モードにかかわらず、Δαは、不定時間毎または一定時間毎に演算されることになる。
図10Aは、逸脱余裕度Mが大きい場合の状況の一例を示す模式図である。図10Bは、逸脱余裕度Mが中程度である場合の状況の一例を示す模式図である。図10Cは、逸脱余裕度Mが小さい場合の状況の一例を示す模式図である。図10Dは、逸脱余裕度Mが小さい場合の状況の他の例を示す模式図である。
図10Aでは、車両前方の道路形状が直線で、ハンドルが中立位置付近であり、ヨー角が零付近である。この場合には、横偏差の小さい状態を維持する傾向があるため、逸脱余裕度Mが大となる。
図10Bでは、車両前方の道路形状が直線で、ハンドルが左切り状態であり、ヨー角が右向きの角度である。この場合には、横偏差が減少する傾向があるため、逸脱余裕度Mが中程度となる。
図10Cでは、車両前方の道路形状が直線で、ハンドルが中立位置付近であり、ヨー角が右向きの角度である。この場合には、横偏差が増加する傾向があるため、逸脱余裕度Mが小となる。
図10Dでは、車両前方の道路形状が曲線で、ハンドルが中立位置付近である。この場合には、横偏差が増加する傾向があるため、逸脱余裕度Mが小となる。ただし、図8Aおよび図8Bの手順では、車両前方の道路形状が曲線である場合には、ステップS18で否定判定となるため、逸脱余裕度M(Δt秒後の横偏差ey(t+Δt))に関係なく、ステップS20で補正ゲインGが0にされる。
本実施形態では、逸脱余裕度Mが大きいほど、言い換えれば、Δt秒後の横偏差ey(t+Δt)が小さいほど補正ゲインGが小さな値に設定される。これにより、逸脱余裕度Mが比較的大きい(Δt秒後の横偏差ey(t+Δt)が比較的小さい)場合には、操舵角指令値θcmdaに対する補正量(G・αRまたはG・αL)を、あそび量に応じた補正量(αRまたはαL)よりも小さくすることができる。これにより、逸脱余裕度Mが比較的大きい(Δt秒後の横偏差ey(t+Δt)が比較的小さい)場合には、ハンドルの動きが過剰となるのを抑制できるので、運転者の違和感を低減することができる。
一方、逸脱余裕度Mが比較的小さい(Δt秒後の横偏差ey(t+Δt)が比較的大きい)場合には、逸脱余裕度Mが比較的大きい(Δt秒後の横偏差ey(t+Δt)が比較的小さい)場合に比べて、操舵角指令値θcmdaに対する補正量(G・αRまたはG・αL)を大きくすることができる。このため、軌道追従性を保つことができる。つまり、本実施形態では、軌道追従性を損なうことなく、運転者の違和感を低減することが可能となる。
また、本実施形態では、逸脱余裕度Mが大きいほど(Δt秒後の横偏差ey(t+Δt)が小さいほど)、舵角速度を小さくすることができる。
また、本実施形態では、車両前方の道路形状が直線でない場合には、補正ゲインGが1に設定されている。これにより、あそびによって応答遅れが発生しやすい、直線路から曲線路への進入時や、曲線路から直線路への進入時に、応答遅れの発生を抑制できる。
図11Aおよび図11Bは、指令値補正部45によって実行される指令値補正処理の変形例の手順を示すフローチャートである。
キースイッチオン状態信号が入力されると(ステップS31)、指令値補正部45は、基本あそび量αを含むΔα演算開始指令が与えられるのを待つ(ステップS32)。Δα演算開始指令が与えられると(ステップS32:YES)、指令値補正部45は、Δα演算開始指令に含まれている基本あそび量αを、基本あそび量αとしてメモリに記憶し、Δαをリセット(Δα=0)する(ステップS33)。
次に、指令値補正部45は、式(1)に基づいて、Δα、右方向のあそび量αRおよび左方向のあそび量αLを演算する(ステップS34)。なお、Δα(i-1)およびθh(i-1)の初期値は、0である。
次に、指令値補正部45は、モード信号Smodeに基づいて、操舵モードが自動操舵モードか否かを判別する(ステップS35)。
操舵モードが自動操舵モードである場合には(ステップS35:YES)、指令値補正部45は、操舵角指令値θcmda、横偏差ey、ヨー角偏差eθ、前方注視距離L、車速V、ヨーレートγおよび曲率1/ρを取得する(ステップS36)。そして、指令値補正部45は、式(2)に基づいて、逸脱余裕度Mを演算する(ステップS37)。
次に、指令値補正部45は、曲率1/ρに基づいて車両前方の道路形状が直線であるか否かを判別する(ステップS38)。例えば、指令値補正部45は、曲率1/ρが所定の閾値A未満である場合に、車両前方の道路形状が直線であると判別し、曲率1/ρが閾値A以上である場合には車両前方の道路形状が曲線であると判別する。
車両前方の道路形状が直線である場合には(ステップS38:YES)、指令値補正部45は、逸脱余裕度Mが所定の閾値Mthよりも大きいか否かを判定する(ステップS39)。
逸脱余裕度Mが所定の閾値Mthよりも大きい場合には(ステップS39:YES)、指令値補正部45は、前記ステップS36で取得した操舵角指令値θcmdaを、操舵角指令値θcmdとして出力する(ステップS40)。そして、指令値補正部45は、ステップS44に移行する。
前記ステップS39において、逸脱余裕度Mが所定の閾値Mth以下であると判別された場合(ステップS39:NO)または前記ステップS38において、車両前方の道路形状が直線ではないと判別された場合(ステップS38:NO)には、指令値補正部45は、ステップS41に移行する。
ステップS41では、指令値補正部45は、予定操舵方向を判定する。具体的には、指令値補正部45は、θcmda-θh>0であれば、予定操舵方向を右操舵方向と判定し、θcmda-θh<0であれば、予定操舵方向を左操舵方向と判定する。θcmda-θh=0であれば、予定操舵方向を前回の操舵方向であると判定する。
予定操舵方向が右操舵方向であると判定された場合には、指令値補正部45は、ステップS34で算出された右方向のあそび量αRを用い、次式(5)に基づいて、操舵角指令値θcmdaを補正する(ステップS42)。そして、指令値補正部45は、ステップS44に移行する。
θcmd=θcmda+αR …(5)
ステップS41において、予定操舵方向が左操舵方向であると判定された場合には、指令値補正部45は、ステップS34で算出された左方向のあそび量αLを用い、次式(6)に基づいて、操舵角指令値θcmdaを補正する(ステップS43)。そして、指令値補正部45は、ステップS44に移行する。
ステップS41において、予定操舵方向が左操舵方向であると判定された場合には、指令値補正部45は、ステップS34で算出された左方向のあそび量αLを用い、次式(6)に基づいて、操舵角指令値θcmdaを補正する(ステップS43)。そして、指令値補正部45は、ステップS44に移行する。
θcmd=θcmda-αL …(6)
ステップS44では、指令値補正部45は、キースイッチオフ状態信号が入力されたか否かを判別する。キースイッチオフ状態信号が入力されていなければ(ステップS44:NO)、指令値補正部45はステップS34に戻る。この場合、指令値補正部45は、式(1)に基づいて、Δα、右方向のあそび量αRおよび左方向のあそび量αLを演算した後、ステップS35に移行する。
ステップS44では、指令値補正部45は、キースイッチオフ状態信号が入力されたか否かを判別する。キースイッチオフ状態信号が入力されていなければ(ステップS44:NO)、指令値補正部45はステップS34に戻る。この場合、指令値補正部45は、式(1)に基づいて、Δα、右方向のあそび量αRおよび左方向のあそび量αLを演算した後、ステップS35に移行する。
ステップS44において、キースイッチオフ状態信号が入力されていると判別された場合には(ステップS44:YES)、指令値補正部45は、今回の処理を終了する。
ステップS35において、操舵モードが手動操舵モードであると判別された場合には(ステップS35:NO)、指令値補正部45は、ステップS44に移行する。この場合には、電動モータ9は駆動されない。ステップS44において、キースイッチオフ状態信号が入力されていないと判別された場合には、指令値補正部45はステップS34に戻る。したがって、操舵モードにかかわらず、Δαは、不定時間毎または一定時間毎に演算されることになる。
本実施形態では、逸脱余裕度Mが閾値Mthよりも大きい場合(Δt秒後の横偏差ey(t+Δt)が所定の閾値Bよりも小さい場合)には、指令値補正部45は、操舵角指令値θcmdaに対して補正を行うことなく、操舵角指令値θcmdaをそのまま操舵角指令値θcmdとして出力する。これにより、逸脱余裕度Mが閾値Mthよりも大きい場合には、ハンドルの動きが過剰となるのを抑制できるので、運転者の違和感を低減することができる。
一方、逸脱余裕度Mが閾値Mth以下の場合(Δt秒後の横偏差ey(t+Δt)が所定の閾値B以上の場合)には、指令値補正部45は、あそび量に応じた補正量(αRまたはαL)を用いて、操舵角指令値θcmdaに対して補正を行う。このため、軌道追従性を保つことができる。つまり、本実施形態では、軌道追従性を損なうことなく、運転者の違和感を低減することが可能となる。
また、本実施形態では、車両前方の道路形状が直線でない場合にも、指令値補正部45は、右方向のあそび量αRまたは左方向のあそび量αLを用いて、操舵角指令値θcmdaに対して補正を行う。これにより、あそびによって応答遅れが発生しやすい、直線路から曲線路への進入時や、曲線路から直線路への進入時に、応答遅れの発生を抑制できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。例えば、前述の実施形態では、ロータ回転角を検出するための回転角センサ25に基づいて操舵角θhを検出しているが、ステアリングシャフト3の回転角を検出する舵角センサによって、操舵角θhを検出するようにしてもよい。
また、この発明は、基本あそび量をαとすると、切り始め時には、基本的に、α/2を目標操舵角に加算することにより操舵角指令値を補正し、切り返し時には、基本的に、αを操舵角指令値に加算することにより操舵角指令値を補正する場合にも、適用することができる。この場合には、逸脱余裕度M(Δt秒後の横偏差ey(t+Δt))に応じて、あそび量に応じた補正量(α/2,α)を修正すればよい。
なお、前述の実施形態では、逸脱余裕度Mは、Δt秒後の横偏差ey(t+Δt)に基づいて算出されているが、現在の横偏差ey(t)に基づいて逸脱余裕度Mを算出するようにしてもよい。この場合、前記式(2)におけるYを、「Y=Mmax-|ey(t)|」とすればよい。
本発明の実施形態について詳細に説明してきたが、これらは本発明の技術的内容を明らかにするために用いられた具体例に過ぎず、本発明はこれらの具体例に限定して解釈されるべきではなく、本発明の範囲は添付の請求の範囲によってのみ限定される。
1…パワーステアリング装置、2…ハンドル、3…ステアリングシャフト、8…転舵機構、9…電動モータ、21,22…転舵輪、25…回転角センサ、41…回転角演算部、42…減速比除算部、43…UVW/dq変換部、44…基本あそび量演算部、45…指令値補正部、46…角度偏差演算部、47…PD制御部、48…電流指令値設定部、49…電流偏差演算部、0…PI(比例積分)制御部、51…dq/UVW変換部、52…PWM(Pulse Width Modulation)制御部、101…上位ECU、102…モータ制御用ECU
Claims (5)
- ハンドルに連結されたステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトに連結され、左右の転舵輪を転舵させるための転舵機構と、
前記ステアリングシャフトを回転させるための電動モータと、
操舵角を検出するための操舵角検出部と、
前記電動モータを制御する電動モータ制御部とを含み、
前記電動モータ制御部は、
自動操舵のための目標操舵角である操舵角指令値を、あそび量に応じた補正量にて補正する指令値補正部と、
前記指令値補正部による補正後の操舵角指令値と操舵角とに基づいて、前記電動モータを制御する角度制御部とを含み、
前記指令値補正部は、前記自動操舵の目標走行経路との横偏差に基づいて、前記補正量を変更するように構成されている、車両用操舵装置。 - 前記指令値補正部は、前記横偏差の絶対値が小さいほど、前記補正量を小さくするように構成されている、請求項1に記載の車両用操舵装置。
- 前記指令値補正部は、前記横偏差の絶対値が所定の閾値未満である場合に、前記補正を行わずに、前記自動操舵のための目標操舵角である操舵角指令値をそのまま出力するように構成されている、請求項1に記載の車両用操舵装置。
- 前記横偏差が、所定時間後の目標走行経路との横偏差である、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。
- 前記指令値補正部は、車両前方の道路形状をも考慮して、前記補正量を変更するように構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。
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