JP2023070457A - 鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Yuki Yasuoka
喜一郎 田代
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Abstract

【課題】高い強度、低降伏比および高い一様伸び特性を有し、且つ優れた大入熱HAZ靭性を有している鋼板およびその製造方法を提供する。【解決手段】個々の元素が所定に範囲内にあることに加えて、炭素当量Ceq、溶接割れ感受性組成Pcmおよびθパラメータも所定の範囲内であり、表面から板厚方向への距離が板厚の4分の1の部分である板厚方向t/4位置における金属組織は、面積比でベイナイト75.0%以上と、結晶粒径7.5μm以下のフェライト1.0%以上15.0%以下とを含み、島状マルテンサイトの個数密度が0.010個/μm2以上0.040個/μm2以下である鋼板である。【選択図】なし

Description

本開示は、鋼板およびその製造方法に関し、例えば、橋梁を含む土木分野および建築分野などの溶接構造物に用いることができる鋼板に関する。
近年、溶接構造物の大型化に伴い、橋梁を含む土木分野および建築分野などで用いる溶接構造用の鋼板は高強度化が求められており、降伏強さ440MPa以上、引張強さが590MPa以上の高強度鋼板が用いられる。土木および建築構造物等に使用される場合には、耐震安全性の向上も要求される。具体的には、鋼板の塑性変形能確保のために低降伏比を示すことが要求される。低降伏比に加えて、更に、一様伸びが大きいことが望まれている。大地震発生等により、万一、設計強度を超える応力が鋼板に付加された場合に、変形時の吸収エネルギーを大きくすることができ、塑性変形能の確保できるからである。
また、溶接構造物に用いる鋼板には、構造物の施工効率向上と施工コスト低減の観点から、400kJ/cmを超えるような大入熱溶接が適用されている。一般的に、大入熱溶接を行うと、溶接線近傍のボンド部と呼ばれる領域では、高温のオーステナイト(γ)領域に長時間保持された後徐冷されるので、加熱時のγ粒成長、冷却過程での粗大フェライト(α)粒生成に代表されるような組織粗大化が生じ易く、その部分の靭性が劣化してしまうという問題がある。安全性の観点から、大入熱溶接を行った場合でもこのような熱影響部(HAZ)における靭性(大入熱HAZ靭性)を安定して高い水準で確保することが必要である。
つまり、溶接構造物に用いられる高強度鋼板には、優れた大入熱HAZ靭性を兼備していることが求められる。しかし、引張強さが590MPa以上の高強度鋼板では、強度確保のために合金元素を多量添加することが多く、大入熱溶接のボンド部ではHAZ靭性(大入熱HAZ靭性)が低下する傾向にある。
このため、特許文献1に記載の鋼板では、例えば、Bを0.0006質量%以上含有させる等個々の元素の含有量を制御することに加えて、複数の元素において所定の関係式を満足させ、所定の条件で製造することにより、HAZ靭性を確保している。また、地震発生下における超高層建築物の倒壊を防ぐべく、降伏比を78%以下に制御している。
特許文献2は、溶接性に優れた低降伏比高張力鋼およびその製造方法に関するものである。具体的には、所定量の炭窒化物形成合金元素を添加し、圧延後のオーステナイト領域からの加速冷却開始前の状態での固溶C量を制御することにより、570MPa以上(60キロ級)の強度と靭性を両立させている。
特許文献3は、所定の組成を有する鋼材を圧延終了温度がAr3点以上となるように熱間圧延を行った後、所定の平均冷却速度で600℃以下の温度まで冷却する加速冷却処理を施すことで引張強さ590MPa以上、降伏比80%以下を有し、大入熱溶接を行っても優れたHAZ靭性を示す鋼板の製造方法を開示している。
特開2020-33585号公報 特開2004-339550号公報 特開2005-220379号公報
しかし、特許文献1~3はいずれも例えば5%以上のような十分な一様伸びを確保することについての開示がない。すなわち十分な一様伸びを有しないことに起因して、地震発生等による変形時の吸収エネルギーが十分でなく、また塑性変形能も十分に確保できない虞がある。
本開示は、このような状況を鑑みてなされたものであり、高い強度、低降伏比および高い一様伸び特性を有し、且つ優れた大入熱HAZ靭性を有している鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の態様1は、
C :0.04質量%以上0.10質量%以下、
Si:0.10質量%以下(0質量%を含まず)、
Mn:1.00質量%以上1.60質量%以下、
P :0.030質量%以下(0質量%を含む)、
S :0.030質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.020質量%以上0.075質量%以下、
Mo:0.10質量%以上0.50質量%以下、
Nb:0.005質量%以上0.030質量%以下、
Ti:0.005質量%以上0.020質量%以下、
N :0.0030質量%以上0.0075質量%以下、
Ca:0.0005質量%以上0.0035質量%以下、
B :0.0005質量%以下(0質量%を含む)、ならびに
Cr:0.45質量%以下(0質量%を含まず)およびV:0.080質量%以下(0質量%を含まず)よりなる群から選択される1種以上、
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物から成り、
下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが0.400質量%以上0.470質量%以下であり、
下記(2)式で定義される溶接割れ感受性組成Pcmが0.160質量%以上0.220質量%以下であり、
下記(3)式で定義されるθパラメータが0.60以上0.95以下であり、
表面から板厚方向への距離が板厚の4分の1の部分である板厚方向t/4位置における金属組織は、面積比でベイナイト75.0%以上と、結晶粒径7.5μm以下のフェライト1.0%以上15.0%以下とを含み、
島状マルテンサイトの個数密度が0.010個/μm以上0.040個/μm以下である鋼板である。

eq(質量%)=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 (1)
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Cr]、[Mo]および[V]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Ni、Cr、MoおよびVの含有量である。

cm(質量%)=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B] (2)
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]および[B]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、VおよびBの含有量である。

θパラメータ=[Si]/2.83+[Mn]/2.04+[Cr]/1.25 (3)
ここで、[Si]、[Mn]および[Cr]は、それぞれ、質量%で示したSi、MnおよびCrの含有量である。
本発明の態様2は、Cu:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、Ni:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、REM:0.010質量%以下(0質量%を含まず)およびZr:0.010質量%以下(0質量%を含まず)からなる群から選択される1種以上を更に含む態様1に記載の鋼板である。
本発明の態様3は、
C :0.04質量%以上0.10質量%以下、
Si:0.10質量%以下(0質量%を含まず)、
Mn:1.00質量%以上1.60質量%以下、
P :0.030質量%以下(0質量%を含む)、
S :0.030質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.020質量%以上0.075質量%以下、
Mo:0.10質量%以上0.50質量%以下、
Nb:0.005質量%以上0.030質量%以下、
Ti:0.005質量%以上0.020質量%以下、
N :0.0030質量%以上0.0075質量%以下、
Ca:0.0005質量%以上0.0035質量%以下、
B :0.0005質量%以下(0質量%を含む)、ならびに
Cr:0.45質量%以下(0質量%を含まず)およびV:0.080質量%以下(0質量%を含まず)よりなる群から選択される1種以上、
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物から成り、下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが0.400質量%以上0.470質量%以下であり、下記(2)式で定義される溶接割れ感受性組成Pcmが0.160質量%以上0.220質量%以下であり、下記(3)式で定義されるθパラメータが0.60以上0.95以下である鋼材を準備する工程と、
前記鋼材を1050℃以上1250℃以下に加熱後、850℃以上980℃以下における累積圧下率が20%以上60%以下で且つ、仕上圧延温度Tfrが下記(4)式を満足するように熱間圧延を行い、続いて下記(5)式で示されるAr3点以上の温度である加速冷却開始温度Tscから250℃以下の温度である加速冷却終了温度Tsfまで水冷により冷却する工程であって、加速冷却開始温度Tscから500℃までの平均冷却速度を3~20℃/秒とする冷却工程と、
を含む、表面から板厚方向への距離が板厚の4分の1の部分である板厚方向t/4位置における金属組織が、面積比でベイナイト75.0%以上と、結晶粒径7.5μm以下のフェライト1.0%以上15.0%以下とを含み、島状マルテンサイトの個数密度が0.010個/μm以上0.040個/μm以下である鋼板の製造方法である。

eq(質量%)=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 (1)
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Cr]、[Mo]および[V]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Ni、Cr、MoおよびVの含有量である。

cm(質量%)=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B] (2)
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]および[B]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、VおよびBの含有量である。

θパラメータ=[Si]/2.83+[Mn]/2.04+[Cr]/1.25 (3)
ここで、[Si]、[Mn]および[Cr]は、それぞれ、質量%で示したSi、MnおよびCrの含有量である。

(800-t/2)≦Tfr(℃)≦(940-t/2) (4)
ここで、tは熱間圧延後の板厚(mm)である。

Ar(℃)=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo]-0.35×(t-8) (5)
ここで、[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、〔Ni〕および[Mo]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Cu、Cr、NiおよびMoの含有量であり、tは熱間圧延後の板厚(mm)である。
本発明の態様4は、前記鋼材が、Cu:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、Ni:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、REM:0.010質量%以下(0質量%を含まず)およびZr:0.010質量%以下(0質量%を含まず)からなる群から選択される1種以上を更に含む態様3に記載の鋼板の製造方法である。
本発明の実施形態によれば、高い強度、低降伏比および高い一様伸び特性を有し、且つ優れた大入熱HAZ靭性を有している鋼板およびその製造方法を提供することが可能である。
継手試験のために溶接継手を作製する際に用いた開先形状を示す模式上面図である。 得られた溶接継手から採取したシャルピー衝撃試験用のサンプルの採取位置を示す模式上面図である。
本発明の実施形態において、高い強度、低降伏比、高い一様伸び特性および優れたHAZ靭性の具体例として、引張強さ(TS):590~740MPa、降伏強さ(YS):440~540MPa、降伏比(YR)≦80%、一様伸び(UE)≧5%および大入熱HAZ靭性:vE0℃を≧27J(入熱量≧400kJ/cm)を挙げることができる。なお、引張強さの上限値740MPaおよび降伏強さの上限値540MPaを設けたのは、これらの値以上になると靭性が低下するからである。
本発明者らはこのような特性を同時に達成するべく鋭意検討を行い、本発明の実施形態に至った。
590MPa以上の引張強度を確保した上で、低い降伏比、高い一様伸びおよび高い大入熱HAZ靭性を得るための支配因子を検討した。
強度、降伏比および一様伸びについては、700MPaを超える程度の強度を有するベイナイトを主たる金属組織として所定量以上存在させることで強度を確保した上で、粒径7.5μm以下のフェライトおよび島状マルテンサイト(MA)を適切な量分散させることで高い強度と低い降伏比と高い一様伸びを得ることができることを見出した
大入熱HAZ靭性については、溶接により生じるボンド部における島状マルテンサイト量(MA量)を低減させることが重要であることを見出した。母材である程度の量のMAを得ようとすると多量の合金元素を添加するのが一般的な手法である。しかし、この手法を用いるとボンド部のMA量も増加する。そして、ボンド部のMA量が増加すると大入熱HAZ靭性が低下するという問題があった。
本発明の実施形態に係る鋼板の化学組成では、個々の元素を所定範囲内に管理すること、ならびに炭素当量Ceqおよび溶接割れ感受性組成Pcmを適正な範囲内に管理することに加えて、合金元素のセメンタイト中の固溶度および鉄中の拡散速度を考慮し、本発明者らが導き出したパラメータであるθパラメータを適切な範囲内に制御している。これにより、従来はトレードオフの関係にあった母材のMA量の増加とボンド部のMA量低減を両立できることを見出した。そして、高い強度、低い降伏比、高い一様伸びおよび高い大入熱HAZ靭性を実現できる本発明の実施形態に係る鋼板に至った。
以下に、本発明の実施形態の詳細を示す。
<1.化学成分組成>
本発明の実施形態に係る鋼板は、C:0.04質量%以上0.10質量%以下と、Si:0.10質量%以下(0質量%を含まず)と、Mn:1.00質量%以上1.60質量%以下と、P:0.030質量%以下(0質量%を含む)と、S:0.030質量%以下(0質量%を含む)と、Al:0.020質量%以上0.075質量%以下と、Mo:0.10質量%以上0.50質量%以下と、Nb:0.005質量%以上0.030質量%以下と、Ti:0.005質量%以上0.020質量%以下と、N:0.0030質量%以上0.0075質量%以下と、Ca:0.0005質量%以上0.0035質量%以下と、B:0.0005質量%以下(0質量%を含む)と、Cr:0.45質量%以下(0質量%を含まず)およびV:0.080質量%以下(0質量%を含まず)よりなる群から選択される1種以上と、を含有する。
さらに、後述の(1)式で定義される炭素当量Ceqが0.400質量%以上0.470質量%以下であり、後述の(2)式で定義される溶接割れ感受性組成Pcmが0.160質量%以上0.220質量%以下であり、後述の(3)式で定義されるθパラメータが0.60以上0.95以下である。
以下、各元素の含有量、炭素当量Ceq、溶接割れ感受性組成Pcmおよびθパラメータについて詳述する。
〔1-1.基本成分〕
(C:0.04質量%以上0.10質量%以下)
Cは、鋼板の強度を高める効果があるが、耐溶接割れ性等の溶接性を劣化させる元素で
もある。C含有量が0.04質量%未満であると必要な強度を確保することが困難になる。よってC含有量は0.04質量%以上とする。C含有量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.06質量%以上である。一方、C含有量が0.10質量%を超えると、強度は確保しやすくなるが、HAZのMAが過剰となり大入熱HAZ靭性の劣化および耐溶接割れ性の劣化につながる。よってC含有量は0.10質量%以下とする。C含有量は、好ましくは0.095質量%以下、より好ましくは0.090質量%以下である。
(Si:0.10質量%以下(0質量%を含まず))
Siは、セメンタイト中に濃化し難い元素であり、オーステナイトからフェライト+セメンタイトに変態する際にセメンタイト界面からオーステナイトへのSiの拡散が必要となる。このため、Siの拡散が律速し変態を遅延し易くすることで、MA量を増加することができる。すなわち、Si添加量を増加させることでMA量を増加させることができる。
この効果を得るにはSiの意図的な添加が必要である。なお、本明細書において「0質量%を含まず」とは、意図的な添加を行い、不純物レベルを上回る量を含有することを意味する。Siを好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上含有する。ただし、Si含有量が過剰になると、MA増加により大入熱HAZ靭性が劣化する影響が顕著となるため、Si含有量の上限を厳格に制御する必要があり、Si含有量を0.10質量%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.06質量%以下である。
(Mn:1.00質量%以上1.60質量%以下)
Mnは、セメンタイト中に濃化し易い元素であり、オーステナイトからフェライト+セメンタイトに変態する際にセメンタイトへのMnの拡散が必要となる。このため、Mnの拡散が変態を律速し変態を遅延し易くすることで、MA量を増加することができる。すなわち、Mnは母材の降伏比低減等に有効な元素である。また、Mnはオーステナイトを安定化させ、変態温度を低温化させることで、焼入れ性を向上させ、強度と靭性の両方を確保する上でも有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Mnを1.00質量%以上含有させる。Mn含有量は、好ましくは1.05質量%以上、より好ましくは1.20質量%以上である。しかしながらMnを過剰に含有させると、MnSが粗大化し、母材靭性(溶接による熱影響を受けていない状態での靭性)が劣化するため、上限を1.60質量%とする。Mn含有量は、好ましくは1.55質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下である。
(P:0.030質量%以下(0質量%を含む))
不可避不純物であるPは、母材と溶接部の靭性に悪影響を及ぼす。こうした不都合を招かないように、P含有量を0.030質量%以下に抑制する。P含有量は、好ましくは0.015質量%以下、より好ましくは0.010質量%以下である。工業的に通常用いられる製法ではP含有量を0質量%にすることは困難であり、通常は0.002質量%程度以上含まれる。なお、本明細書において「0質量%を含む」とは、意図的な添加を行わずに不純物レベル以下の含有量しか含有しない実施形態を含むことを意味する。
(S:0.030質量%以下(0質量%を含む))
Sは、不可避不純物であり、靭性および鋼板の板厚方向の延性に悪影響を及ぼすので含有量が少ない方が好ましい。こうした観点から、S含有量は0.030質量%以下に抑制する。S含有量は好ましくは0.020質量%以下、さらに好ましくは0.010質量%以下、最も好ましくは0.005質量%以下である。工業的に通常用いられる製法ではS含有量を0質量%にすることは困難であり、通常は0.001質量%程度以上含まれる。
(Al:0.020質量%以上0.075質量%以下)
Alは、脱酸に必要な元素であるとともに、鋼中のNを固定して、固溶Nによる母材靭性劣化を防ぐ効果もある。さらに、本発明の実施形態のような低Si鋼においては清浄度を向上させ大入熱HAZ靭性を向上させる効果もある。このような効果を発揮させるためにAlを0.020質量%以上含有させる。Al含有量は、好ましくは0.025質量%以上、より好ましくは0.030質量%以上である。一方、Alが過剰に含まれると、アルミナ系の粗大な介在物が形成され母材靭性が低下するので、Al含有量は0.075質量%以下とする。Al含有量は、好ましくは0.070質量%以下、より好ましくは0.065質量%以下である。
(Mo:0.10質量%以上0.50質量%以下)
Moは、母材においてポリゴナルフェライト変態を抑制するとともに、HAZボンド部における粒界フェライト粗大化を抑制する元素である。これらの効果を得るためにMoを0.10質量%以上含有させる。Mo含有量は、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上、さらに好ましくは0.30質量%以上である。一方、Mo含有量が過剰になると焼入れ性が過剰となり、結果として耐溶接割れ性が劣化するので、Mo含有量は0.50質量%以下とする。Mo含有量は、好ましくは0.45質量%以下、より好ましくは0.43質量%以下である。
(Nb:0.005質量%以上0.030質量%以下)
Nbは、母材におけるポリゴナルフェライト変態を抑制するとともに、HAZ(ボンド部)における粒界フェライト粗大化を抑制する元素である。上記効果を得るためにNbを0.005質量%以上含有させる。Nb含有量は、好ましくは0.010質量%以上、より好ましくは0.014質量%以上である。一方、Nbが過剰に含まれると、母材およびHAZの靭性が劣化する。よってNb含有量は0.030質量%以下とする。Nb含有量は、好ましくは0.025質量%以下、より好ましくは0.021質量%以下、更に好ましくは0.020質量%以下である。
(Ti:0.005質量%以上0.020質量%以下)
Tiは、Nと結合してTiNを形成し、HAZにおけるオーステナイト結晶粒(γ粒)の粗大化を防止し、大入熱HAZ靭性の向上に寄与する元素である。また、鋼中のNを固定して、固溶Nによる大入熱HAZ靭性の劣化を防ぐ効果もある。これらの効果を発揮させるためにTiを0.005質量%以上含有させる。Ti含有量は、好ましくは0.008質量%以上、より好ましくは0.010質量%以上である。一方、Ti含有量が過剰になると、TiNが粗大化して母材およびHAZの靭性が劣化するので、0.020質量%以下とする必要がある。Ti含有量は、好ましくは0.018質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下である。
(N:0.0030質量%以上0.0075質量%以下)
Nは、TiN、AlNを生成し、熱間圧延前の加熱時、および溶接時におけるγ粒の粗大化を防止し、母材靭性および大入熱HAZ靭性を向上させるのに有効な元素である。N含有量が0.0030質量%未満であると、上記TiN等が不足し、上記γ粒が粗大になり母材靭性が劣化する。よってN含有量は0.0030質量%以上とする。N含有量は、好ましくは0.0035質量%以上であり、より好ましくは0.0040質量%以上である。一方、N含有量が0.0075質量%を超えて過剰になると、固溶Nの増大により、母材靭性が劣化する。よって、N含有量は0.0075質量%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0070質量%以下、より好ましくは0.0065質量%以下である。
(Ca:0.0005質量%以上0.0035質量%以下)
Caは、MnSの球状化に寄与し、母材の靭性および板厚方向の延性の改善に有効な元素である。さらに、本発明の実施形態のような低Si鋼においては清浄度を向上させ大入熱HAZ靭性を向上させる効果もある。このような効果を発揮させるには、Ca含有量を0.0005質量%以上とする。Ca含有量は、好ましくは0.0010質量%以上、より好ましくは0.0013質量%以上である。しかしながら、Ca含有量が0.0035質量%を超えて過剰になると、介在物が粗大化し、母材靭性が劣化する。よってCa含有量は0.0035質量%以下とする。Ca含有量は、好ましくは0.0030質量%以下、より好ましくは0.0025質量%以下である。
(B:0.0005質量%以下(0質量%を含む))
Bは、焼入れ性を高め、母材における結晶粒径7.5μm以下のフェライト析出を抑制する元素であるため、結晶粒径7.5μm以下のフェライトが過剰に析出するのを確実に防止するために添加してもよい(意図的に含有させてもよい)。ただし、Bを添加しなくても製造条件の最適化等により結晶粒径7.5μm以下のフェライトが過剰に析出するのを防止できることから、Bの添加は必須ではなくBを添加しなくてもよい。
Bの含有量が過剰になると変態抑制効果が過大となり、結晶粒径7.5μm以下のフェライトを所定量得ることが困難になるため、B含有量は0.0005質量%以下とする。B含有量は、好ましくは0.0003質量%以下である。Bを添加する場合はBの含有量を0.0001質量%以上とすることが好ましい。
(Cr:0.45質量%以下(0質量%を含まず)およびV:0.080質量%以下(0質量%を含まず)よりなる群から選択される1種以上)
Crは、Mnと同様にセメンタイト中に濃化しやすい元素であり、オーステナイトからフェライト+セメンタイト変態する際にセメンタイトへのCrの拡散が必要となる。このため、Crの拡散が変態を律速し変態を遅延しやすくすることで、MA量を増加することができる。このため、母材の降伏比低減等に有効な元素である。
これに加えてCrは、母材におけるポリゴナルフェライト変態を抑制するのにも有効な元素である。
Vもまた、母材におけるポリゴナルフェライト変態を抑制するのに有効な元素である。
このため、CrおよびVの一方または両方を添加する。
Crを添加する場合、上記の効果を確実に得るにはCr含有量を0.05質量%以上とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは0.10質量%以上、更に好ましくは0.15質量%以上、より一層好ましくは0.20質量%以上である。一方、Crが過剰に含まれると、HAZおよび母材のMAが過剰となり靭性が悪化する。よって、Cr含有量は0.45質量%以下とする。Cr含有量は、好ましくは0.35質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下である。
Vを添加する場合、上記の効果を確実に得るにはV含有量を0.005質量%以上とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.020質量%以上、更に好ましくは0.030質量%以上、より一層好ましくは0.040質量%以上である。一方、Vが過剰に含まれると、母材およびHAZの靭性が低下する。よって、V含有量は0.080質量%以下とする。V含有量は、好ましくは0.070質量%以下、より好ましくは0.060質量%以下である。
(炭素当量Ceq:0.400質量%以上0.470質量%以下)
板厚が例えば100mm以上のような厚板を対象とする場合にも高強度を確保するために下記式(1)で定義される炭素当量Ceqを0.400質量%以上とする。炭素当量Ceqは、好ましくは0.420質量%以上、より好ましくは0.430質量%以上である。一方、多量の合金元素を含有し炭素当量Ceqが0.470質量%を超える場合には、HAZ靭性および溶接性、特に耐溶接割れ性が低下する。よって、炭素当量Ceqは0.470質量%以下とする。炭素当量Ceqは、好ましくは0.465質量%以下、より好ましくは0.460質量%以下、更に好ましくは0.455質量%以下である

eq(質量%)=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 (1)
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Cr]、[Mo]および[V]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Ni、Cr、MoおよびVの含有量である。
なお、CrおよびVはそのどちらか一方しか含有しない場合があるが、その場合は含有しない方の元素(不純物レベル以下の含有量の元素)の含有量についてはゼロとして計算する。また、Niを含有しない場合も、Niの含有量についてはゼロとして計算する。
(溶接割れ感受性組成Pcm:0.160質量%以上0.220質量%以下)
板厚が例えば100mm以上のような厚板を対象とする場合にも良好な耐低温割れ性を有し、ほぼ予熱を必要としない溶接性を確保するためは、下記式(2)で定義される溶接割れ感受性組成Pcmを0.220質量%以下とする。多量の合金元素を含有し、溶接割れ感受性組成Pcmが0.220質量%を超えると溶接割れが多発するからである。溶接割れ感受性組成Pcmは、好ましくは0.210質量%以下、より好ましくは0.200質量%以下である。なお、溶接割れ感受性組成Pcmは、低ければ低いほど好ましいが、本発明で規定の成分組成を考慮すると、その下限はおおよそ0.1670質量%程度となる。

cm(質量%)=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B] (2)
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]および[B]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、VおよびBの含有量である。
なお、CrおよびVのどちらか一方ならびにBについては含有しない場合があるが、その場合は含有しない元素(不純物レベル以下の含有量の元素)の含有量についてはゼロとして計算する。また、Niを含有しない場合も、Niの含有量についてはゼロとして計算する。
(θパラメータ:0.60以上0.95以下)
上述のようにSiはセメンタイト中に濃化し難い元素であり、MnおよびCrはセメンタイト中に濃化し易い元素であり、いずれの元素もその拡散が律速となってオーステナイトからフェライト+セメンタイトへの変態を遅延させ、MA量を増加せることができる。母材およびHAZのMA量を適正に管理するために、これら3元素を包括的に管理できるパラメータとして本発明者らが見出したのが下記の(3)式に示すθパラメータである。θパラメータは、Si、MnおよびCrそれぞれのセメンタイトへの固溶度および鉄中での拡散速度を考慮して導出した。
母材のMA量を確保するためにθパラメータは0.60以上とする。θパラメータは、好ましくは0.65以上、より好ましくは0.70以上である。一方で、MA量が過剰であると大入熱HAZ靭性の低下をもたらすことから、θパラメータは0.95以下とする。θパラメータは、好ましくは0.90以下、より好ましくは0.85以下である。

θパラメータ=[Si]/2.83+[Mn]/2.04+[Cr]/1.25 (3)
ここで、[Si]、[Mn]および[Cr]は、それぞれ、質量%で示したSi、MnおよびCrの含有量である。
なお、Crについては含有しない場合(不純物レベル以下の含有量である場合)があるが、その場合はCrの含有量についてはゼロとして計算する。
基本成分は上記のとおりであり、好ましい実施形態の1つでは、残部は鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容される。代表的な不可避不純物の例として、As、Sn、SbおよびH等を挙げることができる。
なお、例えば、PおよびSのように、通常、不可避不純物元素として取り扱われることが多いが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」という場合は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
〔1-2.選択的添加元素〕
さらに、本発明の別の好ましい実施形態では、本発明の実施形態に係る作用を損なわない範囲で必要に応じて上述した以外の元素を添加してよい。そのような選択的に添加する元素の含有量の例として、Cu:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、Ni:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、REM:0.010質量%以下(0質量%を含まず)およびZr:0.010質量%以下(0質量%を含まず)からなる群から選択される1種以上を挙げることができる。
これらの選択的添加元素は含有される元素に応じて鋼の特性が更に改善される。各々の選択的元素の効果を以下に示す。
(Cu:1.0質量%以下(0質量%を含まず))
Cuは、大入熱HAZ靭性に大きな悪影響を及ぼすことなく、焼入れ性を向上させて強度を高めるのに有効な元素である。この効果をより確実に得るにはCuを0.05質量%以上含有させることが好ましい。Cu含有量はより好ましくは0.10質量%以上、更に好ましくは0.20質量%以上である。しかし、Cu含有量が1.0質量%を超えると靭性が低下するため、Cu含有量は1.0質量%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.80質量%以下、より好ましくは0.75質量%以下、更に好ましくは0.50質量%以下である。
(Ni:1.0質量%以下(0質量%を含まず))
Niも大入熱HAZ靭性に大きな悪影響を及ぼすことなく、焼入れ性を向上させて強度を高めるのに有効な元素である。この効果をより確実に得るにはNiを0.05質量%以上含有させることが好ましい。Ni含有量はより好ましくは0.10質量%以上、更に好ましくは0.20質量%以上である。しかし、Ni含有量が1.0質量%を超えると靭性が劣化するため、Ni含有量は1.0質量%以下とする。Ni含有量は、好ましくは0.80質量%以下、より好ましくは0.75質量%以下、更に好ましくは0.50質量%以下である。
(REM:0.010質量%以下(0質量%を含まず))
REM(希土類元素)は、酸化物、硫化物および酸硫化物等を形成してHAZの結晶粒の粗大化を防止するのに有効である。REM含有量の下限は、前記効果を確実に得るために好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.0005質量%、さらに好ましくは0.0010質量%とする。一方、REM含有量が過剰となると清浄度が低下する。従って、REM含有量は、0.010質量%以下、好ましくは0.005質量%以下、さらに好ましくは0.003質量%以下とする。
REM含有量とはSc、Yの2元素と、LaからLuまでの15元素の計17元素の合計含有量を意味し、REMを含有するとは、これら17元素から選択される1つ以上を含有することを意味する。
(Zr:0.010質量%以下(0質量%を含まず))
Zrは、大入熱HAZ靭性を向上させるのに有効である。Zr含有量の下限は、前記効果をより確実に得られように好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.0005質量%、さらに好ましくは0.0010質量%とする。一方、Zr含有量が過剰になると清浄度の低下を招く。従ってZr含有量は、0.010質量%以下、好ましくは0.005質量%以下、さらに好ましくは0.003質量%以下とする。
<2.金属組織>
本発明の実施形態に係る鋼板は、表面から板厚方向への距離が板厚の4分の1の部分(以下単に「板厚方向t/4位置」という場合がある。ここでtは板厚)における金属組織が、面積比でベイナイトを75.0%以上と、結晶粒径7.5μm以下のフェライト1.0%以上15.0%以下を含む。さらに、板厚方向t/4位置において、島状マルテンサイト(MA)の個数密度が0.010個/μm以上0.040個/μm以下である。
以下に金属組織について詳述する。
(面積比でベイナイトが75.0%以上)
所望の強度を得るためにベイナイト主体の組織とする必要があり、鋼板の代表的な金属組織が現れる部分である板厚方向t/4位置において、面積比でベイナイトを75.0%以上とする必要がある。ベイナイトは面積比で好ましくは80.0%以上、より好ましくは85.0%以上、更に好ましくは90.0%以上である。
(面積比で結晶粒径7.5μm以下のフェライト1.0%以上15.0%以下)
低い降伏比、高い均一伸びおよび高い強度を有するために結晶粒径7.5μm以下のフェライトを適量混合させることが必要である。具体的には、板厚方向t/4位置において、結晶粒径7.5μm以下のフェライトの面積比を1.0~15.0%とする。結晶粒径7.5μm以下のフェライト組織が面積比で1.0%未満となると、降伏比の増加、または/および均一伸びの減少、または/および強度の上昇を招く。結晶粒径7.5μm以下のフェライトは、面積比で好ましくは1.5%以上、より好ましくは2.0%以上である。一方、結晶粒径7.5μm以下のフェライトが面積比で15.0%を超えると、所望の強度を確保することができない。結晶粒径7.5μm以下のフェライトは、面積比で好ましくは13.0%以下、より好ましくは10.0%以下である。
なお、結晶粒径が7.5μmを超えるフェライト(所謂、ポリゴナルフェライト)が多く含まれると、所望の強度を得ることができない。このため、好ましい1つの実施形態では、ポリゴナルフェライトを含まない。また、ポリゴナルフェライトを含む場合の好ましい別の1つの実施形態でも、板厚方向t/4位置において、面積比で5.0%以下に制限する。
フェライトの結晶粒径として、後述の実施例で詳述するように金属組織観察において求めたフェライトの円相当径を用いてよい。
金属組織は上記のベイナイトと結晶粒径7.5μm以下のフェライトとから成ってもよく、またはベイナイトと結晶粒径7.5μm以下のフェライトとポリゴナルフェライトから成ってもよい。あるいは、その他の金属組織を面積比で0%超5.0%以下含んでよい。すなわち、板厚方向t/4位置において面積比で0~5.0%その他の金属組織(残部金属組織)を含む。また、好ましくは、残部金属組織は面積比で0~3.0%である。
残部金属組織の好ましい例としてパーライトおよびマルテンサイトの一方または両方を挙げることができる。パーライトおよびマルテンサイトの一方または両方を含む場合、残部金属組織はパーライトおよびマルテンサイトの一方または両方から成ってもよく、またはパーライトおよびマルテンサイト以外の組織を面積比で1.0%以下含んでもよい。
(島状マルテンサイト(MA)の個数密度が0.010個/μm以上0.040個/μm以下)
低降伏比を得るためにベイナイト中あるいはフェライトとベイナイトの界面上にMAを適量存在させるべく、板厚方向t/4位置において、島状マルテンサイト(MA)の個数密度を0.010個/μm以上0.040個/μm以下とする。MAのほとんどはベイナイト中またはフェライトとベイナイトの界面に形成される。そして、MA形成時にMAと母相の界面に可動転位が導入される。この可動転位を多くすることで降伏比を低減できる。可動転位を増加させるには、可動転位発生の起点となるMAと母相の界面の表面積を増やす、つまりMAの個数密度を大きくすることが重要である。所望の低降伏比を得るために、MA個数密度を0.010個/μm以上0.040個/μm以下とする。
MA個数密度が0.010個/μmより少ないと、降伏比の増加を招く。板厚方向t/4位置におけるMAの個数密度は好ましくは、0.013個/μm以上であり、より好ましくは0.015個/μm以上である。MA個数密度が0.040個/μmを超えると母材靭性が劣化する。板厚方向t/4位置におけるMAの個数密度は、好ましくは0.035個/μm以下であり、より好ましくは0.030個/μm以下である。
なお上述のように殆どすべてのMAがベイナイト中またはフェライトとベイナイトの界面に形成されることから本明細書においてベイナイトの面積率はMAの部分を含む値である。
<3.製造方法>
本発明の実施形態に係る鋼板は、以下に詳細を示すように、所定の組成を有する鋳片等の鋼材を準備し、この鋼材を適切な温度に加熱し、熱間圧延する際に、850℃以上980℃以下における累積圧下率を制御し、熱間圧延終了温度を適正な範囲とし、さらにAr点温度より高い所定の加速冷却開始温度から所定の加速冷却終了温度までの間を水冷し且つ加速冷却開始温度から500℃までの間を所定の冷却速度で冷却することで製造できる。
[3-1.所定の化学組成を有する鋼材の準備]
次の圧延工程で熱間圧延に供するために上述の「1.化学成分組成」に示した組成を有する鋼材を準備する。当該鋼材は厚板の熱間圧延に通常用いられる鋼材であってよい。このような鋼材として鋳片を挙げることができる。鋳片の例として、連続鋳造法を用いて得たスラブおよび鋳型を用いた造塊法で得た鋳塊を挙げることができる。必要に応じてこれらのスラブおよび鋳塊は表面処理、熱処理および加工処理等の処理を行って圧延用の鋼材としてよい。
[3-2.圧延〕
上述の鋼材を熱間圧延する。
(加熱)
鋼材を1050℃以上1250℃以下に加熱する。熱間圧延時の加熱温度が1050℃より低いと、Nbが全固溶せずポリゴナルフェライト析出抑制の効果を十分に発揮することができず、降伏比の増加および/または一様伸びの低下および/または強度の上昇をもたらす。加熱温度の下限は好ましくは1080℃である。一方、加熱温度が1250℃を超えると結晶粒が粗大化してしまうため、その上限を1250℃とする。加熱温度の上限は好ましくは1200℃である。
(熱間圧延)
加熱した鋼材を熱間圧延する。熱間圧延は、850℃以上980℃以下における累積圧下率が20%以上60%以下で且つ、仕上圧延温度Tfrが下記(4)式を満足するように行う。

(800-t/2)≦Tfr(℃)≦(940-t/2) (4)
ここで、tは熱間圧延後の板厚(mm)である。
850℃以上980℃以下における累積圧下率が小さすぎると旧オーステナイト粒径の微細化が進行せずフェライト変態核生成サイトが不足するため粒径7.5μm以下のフェライトを十分に得ることができず降伏比の増加および/または一様伸びの低下および/または強度の上昇をもたらす。よって850℃以上980℃以下における累積圧下率を20%以上とする。この温度域での累積圧下率の下限は好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上である。一方、850℃以上980℃以下における累積圧下率が60%を超えると旧オーステナイト粒径の微細化の進行が過剰となり焼き入れ性が低下するため、ベイナイト分率が減少し、強度の低下を招く。よってこの温度域での累積圧下率の上限は60%であり、好ましくは55%である。
なお、上記で規定した累積圧下率は、通常、この温度域で複数パスの圧延を行って達成するが、1パスで達成することを除外するものではない。また、通常、上記の加熱後、980℃よりも高い温度域で1または複数パスの熱間圧延を行った後、連続的に850℃以上980℃以下において累積圧下率20%以上、60%以下の熱間圧延を行うが、980℃よりも高い温度域での熱間圧延を行わないことを排除するものではない。
さらに850℃未満の温度での1または複数パスの圧延の実施を排除するものではない。
仕上圧延温度(「熱間圧延完了温度」とも言う。熱間圧延の最終圧延パス直前の鋼板表面温度)Tfrは下記(4)式を満足する。

(800-t/2)≦Tfr(℃)≦(940-t/2) (4)
ここで、tは熱間圧延後の板厚(mm)である。

仕上圧延温度Tfrが高すぎると、旧オーステナイト粒径の微細化が進行せずフェライト変態核生成サイトが不足するため結晶粒径7.5μm以下のフェライトを十分に得ることができず降伏比の増加および/または一様伸びの低下および/または強度の上昇をもたらす。よって仕上圧延温度は、鋼板内部の温度が940℃以下となるよう目指す。ただし、鋼板内部の温度を圧延中に測定することが困難であることから、仕上圧延温度として鋼板表面温度を用いて、鋼材表面温度を(940-t/2)℃以下(ここでtは板厚(mm))とする(鋼板内部と表面温度にはt/2程度の差があるため)。一方、仕上圧延温度が低すぎると、フェライト変態核生成サイトが増加しすぎるため、焼き入れ性が低下し、ベイナイト分率が減少し、強度の低下を招く。よって、鋼板の内部温度800℃以上を目指し、鋼材表面温度(すなわち、仕上圧延温度)を(800-t/2)℃以上とする。
内部温度で820℃以上を目指すことが好ましいため、仕上圧延温度Tfrの下限は好ましくは(820-t/2)℃である。
(圧延後加速冷却)
熱間圧延完了後の鋼材(圧延鋼板)を以下の条件により加速冷却する。
下記(5)式で示されるAr点以上の温度である加速冷却開始温度Tscから250℃以下の温度である加速冷却終了温度Tsfの間を水冷により加速冷却する。この水冷による加速冷却は、詳細を後述するように、i) 冷却開始温度Tscから500℃の間は平均冷却速度3~20℃/秒で水冷し、一方、ii) 500℃から250℃以下の温度である加速冷却終了温度Tsfの間は水冷であればどのような冷却であってもよい。

Ar(℃)=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo]-0.35×(t-8) (5)
ここで、[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、〔Ni〕および[Mo]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Cu、Cr、NiおよびMoの含有量であり、tは熱間圧延後の板厚(mm)である。
i) 加速冷却開始温度Tscから500℃までの水冷
加速冷却開始温度TscがAr点より低いと粗大なポリゴナルフェライトが生成し、強度の低下をもたらす。よって加速冷却開始温度TscはAr変態点以上とする。なお、熱間圧延完了から加速冷却開始温度Tscまでの冷却は例えば空冷等の任意の手段により冷却してよい。
加速冷却開始温度Tscから500℃までの平均冷却速度が3℃/秒より遅いと、ポリゴナルフェライトが多く析出し強度が不足する。よって平均冷却速度の下限は3℃/秒とする。一方、加速冷却開始温度Tscから500℃までの平均冷却速度が速すぎると、結晶粒径7.5μm以下のフェライトを十分な量得ることができず、降伏比の増加および/または一様伸びの低下および/または強度が上昇する。よって平均冷却速度は20℃/秒以下とする。平均冷却速度の下限は好ましくは4℃/秒、より好ましくは5℃/秒である。平均冷却速度の上限は好ましくは18℃/秒、より好ましくは15℃/秒である。
水冷については、上記の平均冷却速度を実現できる限り、熱間圧延材の水冷に用いることができる任意の方法を用いることができる。このような水冷方法の例として、スプレー冷却、ラミナ冷却、ジェット冷却、ミスト冷却および浸漬冷却を挙げることができる。これらの方法において、例えば、水量密度および冷却時間等を調節することで所望の冷却速度を実現できる。
ii) 500℃から加速冷却終了温度Tsfまでの水冷
加速冷却終了温度Tsfが250℃より高いと加速冷却終了後の空冷中にMAが分解し、降伏比の増加を招く。そのため、加速冷却終了温度Tsfは250℃以下とする。ただし、MAの分解は空冷のような緩冷却でなければ防止できることから、水冷による冷却を行う限り、特に冷却速度は規定する必要はない。水冷については、熱間圧延材の水冷に用いることができる任意の方法を用いることができる。このような水冷方法の例として、スプレー冷却、ラミナ冷却、ジェット冷却、ミスト冷却および浸漬冷却を挙げることができる。
熱間圧延操業時の管理を簡素化するという観点から好ましい形態の1つとして、上述の加速冷却開始温度Tscから500℃までの水冷における水量密度と500℃から加速冷却終了温度Tsfまでの水冷における水量密度を同じにすることを挙げることができる。
加速冷却終了温度Tsfより低い温度域での冷却は、例えば、通常の空冷または衝風冷却等任意の冷却方法を用いてよい。また、加速冷却終了温度Tsfを室温とし、加速冷却開始温度Tscから室温までを水冷により冷却してもよい。
なお、以上に説明した圧延工程の中に記載した鋼材の温度は、例えば放射温度計等の非接触温度計で測定してもよく、熱電対等の接触温度計で測定してもよい。また、シミュレーション等により確認してもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
1.サンプル作製
表1に示す成分組成の鋼を転炉溶製によって溶製した。これらの溶鋼を用いて連続鋳造にて鋳片(スラブ)を得た。得られたスラブの厚さは250mmまたは277mmであった。
表1中の記載「-」は、意図的に添加しておらず、含有しているとしても不純物レベル以下でしか含有していないことを示す。表1にはさらに(1)式により求めた炭素当量Ceq、(2)式により求めた溶接割れ感受性組成Pcmがおよび(3)式により求めたθパラメータも示した。表1において、本発明の実施形態から外れている値には下線を付した。
Figure 2023070457000001
得られた鋼片を表2に示す加熱温度に加熱した後に、熱間圧延を行い、表2に示す板厚の鋼板サンプル(熱間圧延板)を得た。より詳細な熱間圧延条件として850℃以上980℃以下における累積圧下率、仕上圧延温度Tfrを表2に示す。
熱間圧延後の鋼板に水冷による加速冷却を行った。表2には加速冷却開始温度Tsc、加速冷却終了温度Tsfおよび加速冷却開始温度Tscから500℃までの間の平均冷却速度(表2に「500℃までの平均冷却速度」と記載)を示す。さらに参考のために(5)式を用いて計算したAr3点も示した。なお、サンプルNo.14は加速冷却を行わずに室温まで空冷した。そのため、加速冷却開始温度Tsc、加速冷却終了温度Tsfおよび平均冷却速度の欄は「-」とした。
表2において、本発明の実施形態の条件から外れる条件については下線を付した。
上記加熱温度は加熱炉の炉内雰囲気温度であり、炉内時間(滞炉時間)は事前検討により明らかにしたスラブ平均温度が炉内雰囲気温度±20℃以内を満足できる時間以上とした。仕上圧延温度Tfrは、熱間圧延最終パスの直前の鋼板表面温度とし、放射温度計を用いて測定した。冷却停止温度は、放射温度計を用いて冷却終了後複熱が完了した時点での鋼板表面温度を測定することにより求めた。
500℃までの平均冷却速度は、以下の方法で算出した。事前に、種々の板厚において加速冷却を行い、その際の加速冷却開始温度から500℃を引いた値(すなわち温度差)を、加速冷却開始温度から500℃までの冷却にかかった時間で除した平均冷却速度を求めて、板厚と平均冷却速度の関係を明らかにした。
得られた板厚と平均冷却速度の関係性をもとに、対象板厚の平均冷却速度を算出した。
Figure 2023070457000002
2.サンプル評価
各鋼板に対して詳細を以下に示す方法により組織観察、引張試験、大入熱HAZ靭性評価を行った。
<金属組織の観察>
それぞれの鋼板サンプルについて、金属組織の観察、具体的にはフェライト、ベイナイトおよび残部組織の観察を以下の手順により実施した。
圧延方向に平行でかつ鋼板表面に対して垂直な、鋼板表裏面を含む板厚断面を観察できるよう上記鋼板サンプルから金属組織観察用サンプルを採取した。
湿式エメリー研磨紙(#150~#1500)での研磨、またはそれと同等の機能を有する研磨として、例えばダイヤモンドスラリー等の研磨剤を用いた研磨等により、観察面の鏡面仕上を行った。
研磨されたサンプルを、3%ナイタール溶液を用いて腐食し結晶粒界を現出させ、レペラ溶液を用いて腐食し、MAを現出させた。
板厚方向t/4位置において、結晶粒界を現出させた組織を400倍の倍率で写真撮影し6cm×8cmの写真を得た。この写真を用いて、ベイナイトおよび結晶粒径7.5μm以下のフェライトの面積率を算出した。また、ベイナイトと結晶粒径7.5μm以下のフェライトの合計面積率が100%でなかったサンプルについて、ベイナイトと結晶粒径7.5μm以下のフェライト以外の部分、すなわち残部金属組織の面積率を測定し、加えて、当該残部金属組織が何であるかも確認した。
またMAを現出させた組織を1000倍の倍率で写真撮影し6cm×8cmの写真を得た。この写真を用いて、MA個数密度を測定した。具体的には、白い塊状物をMAとして定義し、上記写真に現れたMAの個数と写真に写っている視野面積(60μm×80μm)から個数密度を算出した。MAのすべてがベイナイト中またはフェライトとベイナイトの界面上に析出していた。
これらの結果を表3に示す。
<引張試験>
板厚方向t/4位置から、試験片の長手方向が圧延方向と直角となるよう丸棒引張試験片を採取して、JIS Z 2241(2011)に従って引張試験を行い、引張強さ、降伏強さ、降伏比および一様伸びを測定した。測定結果を表3に示す。引張強さは590~740MPaの範囲内であれば合格とし、降伏強さは440~550MPaの範囲内であれば合格とし、降伏比は80%以下を合格とし、一様伸びは5%以上を合格とした。そして、これらの項目が全て合格であれば、高強度かつ低降伏比であり、一様伸びに優れていると判断した。
<大入熱HAZ靭性評価>
大入熱HAZ靭性の評価は、以下に詳細を示す、1)継手試験と2)再現熱サイクル試験の2つの方法により行った。
1)継手試験
図1は継手試験のために溶接継手を作製する際に用いた開先形状を示す模式上面図である。得られた鋼板サンプルを500mm×700mm(図の表面に垂直な方向の長さ)に切断し、板厚をそのままスキンプレート厚t(各サンプルのスキンプレート厚を表2に示した)とするスキンプレート1を作製し、その表面から25mm離間させて表2に示すダイヤフラム厚tを有するダイヤフラム3(サイズ250mm×700mm×ダイヤフラム厚t(mm))を配置した。ダイヤフラム3の端部のうち、スキンプレート1側の端部は、寸法が50mm×700mm×25mmの2枚の支持板2により挟んだ。2枚の支持板2の一端はスキンプレート1の表面と接触させた。これにより開先部4を形成した。
そして、表2に示す溶接入熱にてエレクトロスラグ(ESW)溶接(大入熱溶接)により開先部4を埋めるように溶接継手を作成した。なお、溶接ワイヤはES-60ST(1.6φ)、フラックスはMF-38を使用した。
図2は、得られた溶接継手から採取したシャルピー衝撃試験用のサンプル10の採取位置を示す模式上面図である。
「建築鉄骨溶接部の機械的性質の標準試験マニュアル~引張試験・シャルピー衝撃試験~ JSS IV 13-2016」(発行者 一般社団法人 日本鋼構造協会)に従い、スキンプレート1の溶接を行った側の表面から深さ6mmの位置における、溶接熱影響部(HAZ)5の外周部分がノッチ10Aに含まれ、且つ当該外周部分の接線方向がノッチ10Aと平行になるようにVノッチ試験片10を採取した。得られたVノッチ試験片を用いて、JIS Z 2242(2005)に従って、0℃でシャルピー衝撃試験行った。各鋼板サンプルについて、衝撃試験を3回行い、吸収エネルギーの平均値を大入熱HAZ靭性vE(J)とした。得られた結果を表3に示す。
なお、継手試験はサンプルNo.2、3、5、10および12についてのみ行った
2)再現熱サイクル試験
鋼板サンプルの板厚方向t/4位置から55mm(圧延方向)×323mm(圧延方向および板厚方向に垂直の方向)×12.5mm(板厚方向)の試験片を採取した(試験片の板厚方向の中心が板厚方向t/4位置となるように採取)。得られた試験片を1420℃で40秒間保持した後、800℃から500℃までの冷却時間が600秒となるように速度を制御して冷却した。これは、上記ESWの大入熱溶接(溶接入熱約1000kJ/cm)を施したときを模擬した熱サイクルである。これら試験片から、フルサイズのシャルピー衝撃試験片(JIS Z 2202のVノッチ試験片)を3本ずつ採取し、0℃で各鋼板サンプルについて3回シャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギーを測定した。吸収エネルギーの平均値を大入熱HAZ靭性vE(J)とした。得られた結果を表3に示す。
なお、なお、再現熱サイクル試験は、表2の「再現熱サイクル」欄に「〇」を示した、サンプルNo.1、4、6~9および11についてのみ行った。
継手試験および熱サイクル試験のどちらも大入熱HAZ靭性vEが27J以上であったサンプルを大入熱HAZ靭性に優れていると判定した。
表3に示した特性のうち、本発明の実施形態から外れるものには下線を付した。
Figure 2023070457000003
表1~表3より、次のように考察できる。
鋼板サンプルNo.1~7は、いずれも本発明の実施形態で規定する化学組成および製造条件の要件の全てを満足している。その結果、表3に示すようにベイナイトの面積率、結晶粒径7.5μm以下のフェライトの面積率、残部の金属組織のパーライトおよびマルテンサイトの一方または両方を含有といった金属組織の要件と、降伏強さ、降伏強さ、降伏比および一様伸びといった機械的性質の要件と、HAZ靭性とを満足している。
一方、鋼板サンプルNo.8~16は以下の点で本発明の実施形態に係る要件を満足していない。
鋼板サンプルNo.8は、Mn含有量が過多であり、優れたHAZ靭性が得られなかった。これはHAZのMA量が増加したためである。
鋼板サンプルNo.9は、Nbが添加されていないため、優れたHAZ靭性が得られなかった。これは、HAZの粒界フェライトが粗大化したためである。
鋼板サンプルNo.10は、B含有量が過多であり、母材において十分な量の結晶粒径7.5μm以下のフェライトを得られなかった。このため、引張強さおよび降伏強さが過大で降伏比が過大となり、十分な一様伸びも得られなかった。
鋼板サンプルNo.11は、C含有量およびSi添加量が過多であり、Tiが添加されておらず、加えて溶接割れ感受性組成Pcmが過大となっており、優れたHAZ靭性が得られなかった。これはHAZのMAが増加するとともにHAZの旧オーステナイト粒径が粗大化したためである。
鋼板サンプルNo.12は、はSi含有量、Mn含有量、Nb含有量およびCr含有量が過多であり、θパラメータも過大になっている。また、Moが添加されていない。このため、優れたHAZ靭性が得られなかった。これはHAZのMAが増加するとともにHAZの粒界フェライトが粗大化したためである。
鋼板サンプルNo.13は、850℃以上980℃以下における圧下率が過少であり、粒径7.5μm以下のフェライトを得ることができなかった、このため、降伏強さが過大となり、低降伏比を得られなかった。
鋼板サンプルNo.14は、加速冷却を行っておらず、ポリゴナルフェライトが過剰に析出し、また結晶粒径7.5μm以下のフェライト量も過多となり、ベイナイト量が過少であったため、十分な引張強さおよび降伏強さが得られなかった。
鋼板サンプルNo.15は、加速冷却時の冷却速度が過大であり、十分な量の粒径7.5μm以下のフェライトを得ることができず、引張強さおよび降伏強さが過大となった。
鋼鈑サンプルNo.16は、加速冷却時の冷却停止温度が高過ぎて、MA個数密度が過少であったため、低降伏比を得られなかった。

Claims (4)

  1. C :0.04質量%以上0.10質量%以下、
    Si:0.10質量%以下(0質量%を含まず)、
    Mn:1.00質量%以上1.60質量%以下、
    P :0.030質量%以下(0質量%を含む)、
    S :0.030質量%以下(0質量%を含む)、
    Al:0.020質量%以上0.075質量%以下、
    Mo:0.10質量%以上0.50質量%以下、
    Nb:0.005質量%以上0.030質量%以下、
    Ti:0.005質量%以上0.020質量%以下、
    N :0.0030質量%以上0.0075質量%以下、
    Ca:0.0005質量%以上0.0035質量%以下、
    B :0.0005質量%以下(0質量%を含む)、ならびに
    Cr:0.45質量%以下(0質量%を含まず)およびV:0.080質量%以下(0質量%を含まず)よりなる群から選択される1種以上、
    を含有し、残部がFeおよび不可避不純物から成り、
    下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが0.400質量%以上0.470質量%以下であり、
    下記(2)式で定義される溶接割れ感受性組成Pcmが0.160質量%以上0.220質量%以下であり、
    下記(3)式で定義されるθパラメータが0.60以上0.95以下であり、
    表面から板厚方向への距離が板厚の4分の1の部分である板厚方向t/4位置における金属組織は、面積比でベイナイト75.0%以上と、結晶粒径7.5μm以下のフェライト1.0%以上15.0%以下とを含み、
    島状マルテンサイトの個数密度が0.010個/μm以上0.040個/μm以下である鋼板。

    eq(質量%)=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 (1)
    ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Cr]、[Mo]および[V]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Ni、Cr、MoおよびVの含有量である。

    cm(質量%)=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B] (2)
    ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]および[B]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、VおよびBの含有量である。

    θパラメータ=[Si]/2.83+[Mn]/2.04+[Cr]/1.25 (3)
    ここで、[Si]、[Mn]および[Cr]は、それぞれ、質量%で示したSi、MnおよびCrの含有量である。
  2. Cu:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、Ni:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、REM:0.010質量%以下(0質量%を含まず)およびZr:0.010質量%以下(0質量%を含まず)からなる群から選択される1種以上を更に含む請求項1に記載の鋼板。
  3. C :0.04質量%以上0.10質量%以下、
    Si:0.10質量%以下(0質量%を含まず)、
    Mn:1.00質量%以上1.60質量%以下、
    P :0.030質量%以下(0質量%を含む)、
    S :0.030質量%以下(0質量%を含む)、
    Al:0.020質量%以上0.075質量%以下、
    Mo:0.10質量%以上0.50質量%以下、
    Nb:0.005質量%以上0.030質量%以下、
    Ti:0.005質量%以上0.020質量%以下、
    N :0.0030質量%以上0.0075質量%以下、
    Ca:0.0005質量%以上0.0035質量%以下、
    B :0.0005質量%以下(0質量%を含む)、ならびに
    Cr:0.45質量%以下(0質量%を含まず)およびV:0.080質量%以下(0質量%を含まず)よりなる群から選択される1種以上、
    を含有し、残部がFeおよび不可避不純物から成り、下記(1)式で定義される炭素当量Ceqが0.400質量%以上0.470質量%以下であり、下記(2)式で定義される溶接割れ感受性組成Pcmが0.160質量%以上0.220質量%以下であり、下記(3)式で定義されるθパラメータが0.60以上0.95以下である鋼材を準備する工程と、
    前記鋼材を1050℃以上1250℃以下に加熱後、850℃以上980℃以下における累積圧下率が20%以上60%以下で且つ、仕上圧延温度Tfrが下記(4)式を満足するように熱間圧延を行い、続いて下記(5)式で示されるAr3点以上の温度である加速冷却開始温度Tscから250℃以下の温度である加速冷却終了温度Tsfまで水冷により冷却する工程であって、加速冷却開始温度Tscから500℃までの平均冷却速度を3~20℃/秒とする冷却工程と、
    を含む、表面から板厚方向への距離が板厚の4分の1の部分である板厚方向t/4位置における金属組織が、面積比でベイナイト75.0%以上と、結晶粒径7.5μm以下のフェライト1.0%以上15.0%以下とを含み、島状マルテンサイトの個数密度が0.010個/μm以上0.040個/μm以下である鋼板の製造方法。

    eq(質量%)=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 (1)
    ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Cr]、[Mo]および[V]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Ni、Cr、MoおよびVの含有量である。

    cm(質量%)=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B] (2)
    ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]および[B]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、VおよびBの含有量である。

    θパラメータ=[Si]/2.83+[Mn]/2.04+[Cr]/1.25 (3)
    ここで、[Si]、[Mn]および[Cr]は、それぞれ、質量%で示したSi、MnおよびCrの含有量である。

    (800-t/2)≦Tfr(℃)≦(940-t/2) (4)
    ここで、tは熱間圧延後の板厚(mm)である。

    Ar(℃)=910-310×[C]-80×[Mn]-20×[Cu]-15×[Cr]-55×[Ni]-80×[Mo]-0.35×(t-8) (5)
    ここで、[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、〔Ni〕および[Mo]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Cu、Cr、NiおよびMoの含有量であり、tは熱間圧延後の板厚(mm)である。
  4. 前記鋼材が、Cu:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、Ni:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、REM:0.010質量%以下(0質量%を含まず)およびZr:0.010質量%以下(0質量%を含まず)からなる群から選択される1種以上を更に含む請求項3に記載の鋼板の製造方法。
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