JP2023058152A - マルテンサイト系ステンレス鋼 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐酸性、耐摩耗性、及び、熱間加工性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼を提供すること。【解決手段】マルテンサイト系ステンレス鋼は、0.1≦C≦0.3mass%、0.1≦Si≦0.5mass%、0.1≦Mn≦1.0mass%、1.0≦Cu≦3.0mass%、2.0≦Ni≦4.0mass%、12.0≦Cr≦17.0mass%、1.0<Mo≦2.0mass%、0.01≦Nb+Al+Ti+V≦0.5mass%、及び、0.01≦N≦0.20mass%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。マルテンサイト系ステンレス鋼は、A≧16.0、Nieq≦18.5、及び、C+0.4N≧0.2を満たす。但し、A=Cr+0.5Ni+0.5Mo+0.3Cu、Nieq=Ni+Cu+15.9(C+N)+0.66Mn+0.32Si+0.47Cr+0.64Mo。【選択図】なし

Description

本発明は、マルテンサイト系ステンレス鋼に関し、さらに詳しくは、耐酸性、耐摩耗性、及び、熱間加工性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼に関する。
マルテンサイト系ステンレス鋼とは、オーステナイト領域から焼入れしてマルテンサイト組織とし、適当な温度で焼戻して使用するCr系鋼をいう。マルテンサイト系ステンレス鋼は、一般に、硬さが高く、耐食性及び耐摩耗性に優れているので、シリンダーライナー、シャフト、軸受、歯車、ピン、ボルト、ねじ、ばね、タービンブレード、バルブ、刃物、ノズルなどに使用されている。従来、この種の用途には、マルテンサイト系ステンレス鋼の一種であるSUS420J2、SUS440Cなどの鋼種が一般に用いられている。また、通常、マルテンサイト系ステンレス鋼は、目的形状に加工した後、焼入れ等の熱処理を実施することで、目的とする硬さや耐食性に調整されている。
このようなマルテンサイト系ステンレス鋼に関し、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、所定量のC、Si、Mn、Ni、Cr、及び、Nを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Nieqが16.8~19.0である高強度ステンレス鋼線用の線材が開示されている。
同文献には、各成分及びNieq値が所定の範囲にあるステンレス鋼に対して伸線加工を施すと、加工誘起マルテンサイト相の体積分率が80vol%超となり、常温~250℃の耐温間リラクセーション特性に優れたステンレス鋼線が得られる点が記載されている。
特許文献2には、所定量のC、Si、Mn、S、Cu、Ni、Cr、Mo、W、Ni、Al、及び、Oを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる高硬度マルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。
同文献には、C含有量を少なくし、N含有量を多くすると、耐食性及び冷間加工性に優れた高硬度マルテンサイト系ステンレス鋼が得られる点が記載されている。
特許文献3には、所定量のC、Cr、Si、Mn、Ni、N、P、S、Mo、及び、Alを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Cr-12C+0.75Ni+10N≧13.0を満たし、δ-フェライト相の割合が15%以下である高強度耐食性マルテンサイト系ステンレス鋼管が開示されている。
同文献には、
(A)Cr-12C+0.75Ni+10Nを13.0以上にすると、腐食度が顕著に低下する点、及び、
(B)δ-フェライト相の割合を15%以下にすると、高強度が得られる点
が記載されている。
特許文献4には、所定量のC、Si、Mn、Cr、Cu、Al、及び、Nを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるマルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。
同文献には、14mass%超のCrを含む鋼にCuを添加すると、腐食速度が一段と小さくなる点が記載されている。
さらに、特許文献5には、所定量のC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、Ta、B、及び、Nを含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる析出硬化型ステンレス鋼が開示されている。
同文献には、所定量のCuを含む鋼に対して析出硬化処理を施すと、強度が向上する点が記載されている。
酸環境で用いられる軸受では、耐摩耗性だけでなく耐酸性が要求される。耐酸性軸受として使われるステンレス鋼として、SUS440C、SUS630などが挙げられる。しかしながら、SUS440Cは、耐酸性が低く、腐食生成物の流出により溶液の汚染があることが課題となっている。また、SUS630は、耐酸性に優れるものの、耐摩耗性が低く、短寿命であることが課題となっている。
そのため、厳しい腐食環境下で使用する場合や、腐食によって生じるさびが溶液に混入することを嫌う場合は、軸受の材料としてステンレス鋼ではなくセラミックスが使用されている。しかしながら、セラミックスは、荷重などの使用条件によっては、早期に摩耗現象を生じることがある。
さらに、軸受等を低コストで製造するためには、これに使用されるステンレス鋼は、熱間加工性に優れていることも必要である。しかしながら、耐酸性、耐摩耗性、及び、熱間加工性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼が提案された例は、従来にはない。
特開2018-059155号公報 特開2000-239805号公報 特開平06-299301号公報 特開平03-075332号公報 特開昭62-099443号公報
本発明が解決しようとする課題は、耐酸性、耐摩耗性、及び、熱間加工性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、以下の構成を備えている。
(1)前記マルテンサイト系ステンレス鋼は、
0.1≦C≦0.3mass%、
0.1≦Si≦0.5mass%、
0.1≦Mn≦1.0mass%、
1.0≦Cu≦3.0mass%、
2.0≦Ni≦4.0mass%、
12.0≦Cr≦17.0mass%、
1.0<Mo≦2.0mass%、
0.01≦Nb+Al+Ti+V≦0.5mass%、及び、
0.01≦N≦0.20mass%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
(2)前記マルテンサイト系ステンレス鋼は、次の式(1)~式(3)を満たす。
A≧16.0 …(1)
Nieq≦18.5 …(2)
C+0.4N≧0.2 …(3)
但し、
A=Cr+0.5Ni+0.5Mo+0.3Cu、
Nieq=Ni+Cu+15.9(C+N)+0.66Mn+0.32Si+0.47Cr+0.64Mo。
A値は、マルテンサイト系ステンレス鋼の耐酸性を表す指標である。一般に、A値が大きくなるほど、耐酸性が高くなることを表す。Nieqは、オーステナイト相の安定性を表す指標である。一般に、Nieqが小さくなるほど、焼入れ・サブゼロ処理・焼戻し後の残留オーステナイト量が少なくなることを表す。さらに、C+0.4Nは、マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れ・サブゼロ処理・焼戻し後の硬さを表す指標である。一般に、C+0.4Nが大きくなるほど、硬さが高くなることを表す。そのため、上述した式(1)~式(3)を満たすように各成分を最適化すると、耐酸性及び耐摩耗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼が得られる。
さらに、Nb、Al、Ti、及びVは、いずれも、マルテンサイト系ステンレス鋼の結晶粒を微細化し、強度の向上に寄与する元素である。しかしながら、これらの元素の総量が過剰になると、粗大な炭窒化物が形成され、熱間加工性が低下する場合がある。これに対し、Nb、Al、Ti、及びVの総量を最適化すると、耐酸性及び耐摩耗性に加えて、熱間加工性にも優れたマルテンサイト系ステンレス鋼が得られる。
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. マルテンサイト系ステンレス鋼]
[1.1. 主構成元素]
本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、以下のような元素を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及びその限定理由は、以下の通りである。
(1)0.1≦C≦0.3mass%:
Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼において、強度を上げる元素である。十分な効果を得るためには、C量は、0.1mass%以上である必要がある。C量は、好ましくは、0.15mass%以上である。
一方、C量が過剰になると、Ms点が低下するために、焼入れ後においても多量のオーステナイト相が残留し、強度が低下する場合がある。従って、C量は、0.3mass%以下である必要がある。C量は、好ましくは、0.25mass%以下である。
(2)0.1≦Si≦0.5mass%:
Siは、脱酸元素である。十分な効果を得るためには、Si量は、0.1mass%以上である必要がある。
一方、Si量が過剰になると、熱間加工性及び靱性が低下する場合がある。従って、Si量は、0.5mass%以下である必要がある。Si量は、好ましくは、0.4mass%以下である。
(3)0.1≦Mn≦1.0mass%:
Mnは、脱酸元素である。十分な効果を得るためには、Mn量は、0.1mass%以上である必要がある。
一方、Mn量が過剰になると、硫化物が形成され、耐酸性が低下する場合がある。従って、Mn量は、1.0mass%以下である必要がある。Mn量は、好ましくは、0.8mass%以下である。
(4)1.0≦Cu≦3.0mass%:
Cuは、耐酸性の向上に有効な元素である。十分な効果を得るためには、Cu量は、1.0mass%以上である必要がある。Cu量は、好ましくは、1.5mass%以上である。
一方、Cu量が過剰になると、熱間加工性が低下する場合がある。従って、Cu量は、3.0mass%以下である必要がある。Cu量は、好ましくは、2.5mass%以下である。
(5)2.0≦Ni≦4.0mass%:
Niは、耐酸性の向上に有効な元素であり、かつ、靱性の向上にも寄与する。十分な効果を得るためには、Ni量は、2.0mass%以上である必要がある。Ni量は、好ましくは、2.5mass%以上である。
一方、Ni量が過剰になると、冷間加工性が低下する場合がある。従って、Ni量は、4.0mass%以下である必要がある。Ni量は、好ましくは、3.5mass%以下である。
(6)12.0≦Cr≦17.0mass%:
Crは、耐酸性の向上に有効な元素である。十分な効果を得るためには、Cr量は、12.0mass%以上である必要がある。Cr量は、好ましくは、13.0mass%以上である。
一方、Cr量が過剰になると、フェライト相が生成し、強度が低下する場合がある。従って、Cr量は、17.0mass%以下である必要がある。Cr量は、好ましくは、16.0mass%以下である。
(7)1.0<Mo≦2.0mass%:
Moは、耐酸性の向上に有効な元素である。十分な効果を得るためには、Mo量は、1.0mass%超である必要がある。Mo量は、好ましくは、1.05mass%以上である。
一方、Moは、高価な元素であり、かつ、フェライト安定化元素である。そのため、Mo量が過剰になると、コストが増加するだけでなく、フェライト相が生成し、強度が低下する場合がある。従って、Mo量は、2.0mass%以下である必要がある。Mo量は、好ましくは、1.8mass%以下である。
(8)0.01≦Nb+Al+Ti+V≦0.5mass%:
Nb、Al、Ti、及び、V(以下、これらを総称して「炭窒化物形成元素」ともいう)は、いずれも、炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、強度の向上に寄与する元素である。十分な効果を得るためには、炭窒化物形成元素の総量は、0.01mass%以上である必要がある。総量は、好ましくは、0.1mass%以上である。
一方、炭窒化物形成元素の総量が過剰になると、粗大な炭窒化物が形成され、熱間加工性、及び靱性を損なうことがある。従って、炭窒化物形成元素の総量は、0.5mass%以下である必要がある。
なお、本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、Nb、Al、Ti、及びVのいずれか1種を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
(9)0.01≦N≦0.20mass%:
Nは、マルテンサイト系ステンレス鋼において、強度を上げる元素である。十分な効果を得るためには、N量は、0.01mass%以上である必要がある。Ni量は、好ましくは、0.03mass%以上である。
一方、N量が過剰になると、Ms点が低下するために、焼入れ後においても多量のオーステナイト相が残留し、強度が低下する場合がある。また、N量が過剰になると、鋼中にブローホールが生成する場合もある。従って、N量は、0.20mass%以下である必要がある。N量は、好ましくは、0.15mass%以下である。
[1.2. 副構成元素]
本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、上述した主構成元素に加えて、以下のような元素をさらに含んでいても良い。添加元素の種類、その成分範囲、及びその限定理由は、以下の通りである。
(10)0≦W≦0.5mass%:
Wは、耐酸性を向上させる効果があるため、必要に応じて添加することができる。十分な効果を得るためには、W量は、0.05mass%以上が好ましい。
一方、Wは、高価な元素である。そのため、W量が過剰になると、コストが増加する場合がある。従って、W量は、0.5mass%以下が好ましい。W量は、さらに好ましくは、0.4mass%以下である。
(11)0≦Ta+Zr≦0.5mass%:
Ta及びZrは、いずれも脱酸を強化する効果、及び、その酸化物を核として炭化物を微細に析出させる効果があるため、必要に応じて添加することができる。十分な効果を得るためには、Ta及びZrの総量は、0.01mass%以上が好ましい。
一方、Ta及びZrの総量が過剰になると、粗大な脱酸生成物が形成され、熱間加工性が低下する場合がある。従って、Ta及びZrの総量は、0.5mass%以下が好ましい。総量は、さらに好ましくは、0.3mass%以下である。
なお、本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、Ta及びZrの双方を含むものでも良く、あるいは、いずれか一方を含むものでも良い。
[1.3. 成分バランス]
本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、次の式(1)~式(3)を満たす。
A≧16.0 …(1)
Nieq≦18.5 …(2)
C+0.4N≧0.2 …(3)
但し、
A=Cr+0.5Ni+0.5Mo+0.3Cu、
Nieq=Ni+Cu+15.9(C+N)+0.66Mn+0.32Si+0.47Cr+0.64Mo。
[1.3.1. 式(1)]
式(1)において、A値は、マルテンサイト系ステンレス鋼における耐酸性を表す指標であり、耐酸性に影響を及ぼす元素(Cr、Ni、Mo、Cu)の含有量(質量%)にそれぞれ所定の係数を乗算し、これらを足し合わせたものである。A値が小さくなりすぎると、不動態膜が破壊され、活性溶解に転じてしまい、ステンレス鋼としての耐酸性が発揮されなくなる場合がある。従って、A値は、16,0以上である必要がある。A値は、好ましくは、16.5以上、さらに好ましくは、17.0以上である。
一方、A値の式に含まれる元素は、すべてNieqの式にも含まれている。そのため、A値が大きくなりすぎると、Nieqも大きくなり、焼入れ後においても多量のオーステナイト相が残留し、硬さ及び耐摩耗性が低下する場合がある。従って、A値は、20.9以下が好ましい。A値は、さらに好ましくは、19.0以下、さらに好ましくは、18.0以下である。
[1.3.2. 式(2)]
式(2)において、Nieqは、オーステナイト相の安定性を表す指標(Ni当量)であり、オーステナイト相の安定性に影響を及ぼす元素(Ni、Cu、C、N、Mn、Si、Cr、Mo)の含有量(質量%)にそれぞれ所定の係数を乗算し、これらを足し合わせたものである。Nieqが大きくなりすぎると、焼入れ後においても多量のオーステナイト相が残留し、硬さ及び耐摩耗性が低下する場合がある。従って、Nieqは、18.5以下である必要がある。Nieqは、好ましくは、17.9以下、さらに好ましくは、17.5以下である。
一方、Nieqに含まれる元素は、耐酸性に影響を及ぼす元素(Cu、Ni、Cr、Mo)でもある。そのため、Nieqが小さくなりすぎると、耐酸性が低下する場合がある。従って、Nieqは、11.2超が好ましい。Nieqは、さらに好ましくは、15.0以上、さらに好ましくは、16.0以上である。
[1.3.3. 式(3)]
マルテンサイト系ステンレス鋼において、侵入型元素であるC及びNが硬さに最も影響を与える。式(3)において、C+0.4Nは、焼入れ・サブゼロ処理・焼戻し後(以下、単に「焼戻し後」ともいう)の硬さを表す指標であり、C及びNの含有量(質量%)にそれぞれ所定の係数を乗算し、これらを足し合わせたものである。C+0.4Nが小さくなりすぎると、450HV以上の硬さが得られない場合がある。従って、C+0.4Nは、0.2以上である必要がある。C+0.4Nは、好ましくは、0.22以上、さらに好ましくは、0.23以上である。
一方、C及びNは、オーステナイト安定化元素でもある。そのため、C+0.4Nが大きくなりすぎると、焼入れ後においても多量の残留オーステナイ相が残留する場合がある。従って、C+0.4Nは、0.38以下が好ましい。C+0.4Nは、さらに好ましくは、0.32以下、さらに好ましくは、0.30以下である。
[1.4. 特性]
[1.4.1. 硬さ]
「硬さ」とは、500gの荷重で圧痕を打ち、その5点平均により算出されたビッカース硬さをいう。
本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、所定の形状を有する素材に加工された後、焼入れ・サブゼロ処理・焼戻しが行われる。本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、1000℃以上1200℃以下の温度から焼入れを行い、-50℃以下の温度でサブゼロ処理を行い、100℃以上300℃以下の温度で焼戻しを行った時に、450HV以上の硬さが得られる場合がある。組成及び/又は熱処理条件をさらに最適化すると、焼戻し後の硬さは、500HV以上、あるいは、520HV以上となる場合がある。
[1.4.2. 腐食度]
「腐食度」とは、30℃に保持した10%硫酸溶液に6h浸漬した時の単位面積・単位時間あたりの質量減少量[g/m2・h]をいう。
本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、所定の形状を有する素材に加工された後、焼入れ・サブゼロ処理・焼戻しが行われる。本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、1000℃以上1200℃以下の温度から焼入れを行い、-50℃以下の温度でサブゼロ処理を行い、100℃以上300℃以下の温度で焼戻しを行った時に、10g/m2・h未満の腐食度が得られる場合がある。組成及び/又は熱処理条件をさらに最適化すると、焼戻し後の腐食度は、5g/m2・h以下、あるいは、1g/m2・h以下となる場合がある。
[2. マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法]
本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、
(a)所定の組成を有する素材を作製し、
(b)得られた素材に対して焼入れ及びサブゼロ処理を行い、
(c)サブゼロ処理後の素材に対して焼戻しを行う
ことにより製造することができる。
[2.1. 素材作製工程]
まず、所定の組成を有する素材を作製する。本発明において、素材の製造方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
素材は、一般に、
(a)所定の組成となるように配合された原料を溶解鋳造し、
(b)得られたインゴットに対して分塊鍛造又は分塊圧延を行うことにより、鋳造組織を破壊すると同時に、インゴットをビレット形状とし、
(c)ビレットに対して熱間鍛造又は熱間圧延を行い、所定の形状を有する素材とし、
(d)必要に応じて、熱間加工後の素材に対して割れ防止のための焼鈍を行う
ことにより製造される。
各工程の条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。
[2.2. 焼入れ工程]
次に、得られた素材に対して、焼入れを行う。焼入れは、素材をオーステナイト単相にした後、マルテンサイト変態させるために行う。焼入れ温度が低すぎると、Cr系炭化物の一部が固溶せずに残存し、マトリックス内に固溶するC量及びCr量が減少する場合がある。固溶Cが減少すると、450HV以上の硬さを得るのが困難となる。また、固溶Crが減少すると、耐酸性が低下する。従って、焼入れ温度は、1000℃以上が好ましい。焼入れ温度は、さらに好ましくは、1030℃以上、さらに好ましくは、1050℃以上である。
一方、焼入れ温度が高くなりすぎると、フェライト相が生じてしまい、焼入れ後にマルテンサイト単相組織を得ることができない場合がある。フェライト相が生成すると、硬さや耐酸性などの特性が不均一となる場合がある。従って、焼入れ温度は、1200℃以下が好ましい。焼入れ温度は、さらに好ましくは、1180℃以下、さらに好ましくは、1150℃以上である。
焼入れ温度での加熱時間は、特に限定されるものではなく、素材全体がオーステナイト単相となる時間であれば良い。加熱時間は、通常、0.5~3hrである。
焼入れ温度に所定時間加熱した後、素材を急冷する。急冷方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。急冷方法としては、例えば、空冷、衝風冷却、油冷、水冷などがある。
[2.3. サブゼロ処理工程]
次に、焼入れ後の素材をサブゼロ処理する。サブゼロ処理は、残留オーステナイト量を低減させる処理である。残留オーステナイト量を低減するためには、サブゼロ処理温度は、-50℃以下が好ましい。
[2.4. 焼戻し工程]
次に、サブゼロ処理後の素材に対して、焼戻しを行う。焼戻し温度が低すぎると、マルテンサイトの分解が不十分となり、靱性が低下する場合がある。従って、焼戻し温度は、100℃以上が好ましい。焼戻し温度は、さらに好ましくは、120℃以上、さらに好ましくは、150℃以上である。
一方、焼戻し温度が高くなりすぎると、マルテンサイトの分解が過度に進行するだけでなく、鋼中に固溶しているCuが時効析出したり、あるいは、微細なCr系炭化物の析出量が増加する。これらの析出物は、ステンレス鋼の強度を向上させる作用がある。しかしながら、これらの析出量が多くなるほど、マトリックス中の固溶Cu量や固溶Cr量が減少するために、耐酸性が低下する。高い強度(高い硬さ)と高い耐酸性(低い腐食度)とを両立させるためには、焼戻し温度は、300℃以下が好ましい。焼戻し温度は、さらに好ましくは、280℃以下、さらに好ましくは、250℃以下である。
焼戻し温度での加熱時間は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な時間を選択するのが好ましい。加熱時間は、通常、0.5~3hrである。
[3. 作用]
A値は、マルテンサイト系ステンレス鋼の耐酸性を表す指標である。一般に、A値が大きくなるほど、耐酸性が高くなることを表す。Nieqは、オーステナイト相の安定性を表す指標である。一般に、Nieqが小さくなるほど、焼入れ・サブゼロ処理・焼戻し後の残留オーステナイト量が少なくなることを表す。さらに、C+0.4Nは、マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れ・サブゼロ処理・焼戻し後の硬さを表す指標である。一般に、C+0.4Nが大きくなるほど、硬さが高くなることを表す。そのため、上述した式(1)~式(3)を満たすように各成分を最適化すると、耐酸性及び耐摩耗性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼が得られる。
さらに、Nb、Al、Ti、及びVは、いずれも、マルテンサイト系ステンレス鋼の結晶粒を微細化し、強度の向上に寄与する元素である。しかしながら、これらの元素の総量が過剰になると、粗大な炭窒化物が形成され、熱間加工性が低下する場合がある。これに対し、Nb、Al、Ti、及びVの総量を最適化すると、耐酸性及び耐摩耗性に加えて、熱間加工性にも優れたマルテンサイト系ステンレス鋼が得られる。
(実施例1~20、比較例1~21)
[1. 試料の作製]
表1及び表2に示す化学組成の鋼50kgを溶製した。得られた鋼塊を熱間鍛造し、直径20mmの棒材を製造した。この棒材から試験片を切断採取し、1100℃で焼入れ、-80℃でサブゼロ処理、及び180℃で焼戻しを行った。
Figure 2023058152000001
Figure 2023058152000002
[2. 試験方法]
[2.1. 硬さ]
熱処理後の各試料について、棒材の長手方向に対して垂直な断面において硬さ測定を行った。この断面の表面と中心の中間点において500gの圧痕を打ち、その5点の平均によりビッカース硬さを算出した。
[2.2. 残留オーステナイト量]
熱処理後の各試料について、X線回折測定を行った。 マルテンサイト組織とオーステナイト組織のピーク強度比から残留オーステナイト量(体積割合(%))を算出した。
[2.3. 耐酸性]
以下の手順に従い、熱処理後の各試料について、腐食度を算出した。すなわち、熱間鍛造後の丸棒から、φ10mm×20mmの腐食試験片を採取し、腐食試験前に質量を測定した。そして、恒温槽により30℃に保持された10%硫酸溶液に試験片を6h浸漬した。その後、試験片に付着していた腐食生成物を超音波洗浄で除去し、腐食試験後の試験片の質量を測定した。試験片の質量の減少量を算出し、これを表面積と時間で除算することで腐食度を算出した。
[2.4. 外観評価]
熱間鍛造後の丸棒について、目視により割れの有無、及び、ブローホールの有無を評価した。
[3. 結果]
表3及び表4に、結果を示す。なお、表3及び表4において、耐酸性に関し、
「◎」は、腐食度が1g/m2・h未満であることを表し、
「○」は、腐食度が1g/m2・h以上10g/m2・h未満であることを表し、
「×」は、腐食度が10g/m2・h以上であることを表す。
また、表3及び表4において、外観に関し、空白は割れ及びブローホールが認められなかったことを表す。
表3及び表4より、以下のことが分かる。
Figure 2023058152000003
Figure 2023058152000004
(1)比較例1は、硬さが低い。これは、C量が少ないためと考えられる。
(2)比較例2は、硬さが低い。これは、C量が過剰であるために、残留オーステナイト量が増加したためと考えられる。
(3)比較例3は、熱間加工時に割れが発生した。これは、Si量が過剰であるために、介在物が増加したためと考えられる。
(4)比較例4は、耐酸性が低い。これは、Mn量が過剰であるために、MnS量が増加したためと考えられる。
(5)比較例5は、耐酸性が低い。これは、Cu量が少ないためと考えられる。
(6)比較例6は、硬さが低い。これは、Cu量が過剰であるために、残留オーステナイト量が増加したためと考えられる。
(7)比較例7は、耐酸性が低い。これは、Ni量が少ないためと考えられる。
(8)比較例8は、硬さが低い。これは、Ni量が過剰であるために、残留オーステナイト量が増加したためと考えられる。
(9)比較例9は、耐酸性が低い。これは、Cr量が少ないためと考えられる。
(10)比較例10は、硬さが低い。これは、Cr量が過剰であるために、残留オーステナイト量が増加したためと考えられる。
(11)比較例11は、耐酸性が低い。これは、Mo量が少ないためと考えられる。
(12)比較例12は、硬さが低い。これは、Mo量が過剰であるために、残留オーステナイト量が増加したためと考えられる。
(13)比較例13は、ブローホールが発生した。これは、N量が過剰であるためと考えられる。
(14)比較例14~18は、いずれも、熱間加工時に割れが発生した。これは、炭化物形成元素の含有量が過剰であるためと考えられる。
(15)比較例19は、熱間加工時に割れが発生せず、450HV以上の硬さと、良好な耐酸性が得られた。しかしながら、比較例19は、高価なWを多量に含むために、高コストである。
(16)比較例20~21は、いずれも、熱間加工時に割れが発生した。これは、Ta量及び/又はZr量が過剰であるためと考えられる。
(17)実施例1~20は、いずれも、熱間加工時に割れが発生せず、450HV以上の硬さと、良好な耐酸性が得られた。また、実施例1~20は、高価な元素を多量に含まないので、相対的に低コストである。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼は、シリンダーライナー、シャフト、軸受、歯車、ピン、ボルト、ねじ、ばね、タービンブレード、バルブ、刃物、ノズルなどに用いることができる。

Claims (5)

  1. 以下の構成を備えたマルテンサイト系ステンレス鋼。
    (1)前記マルテンサイト系ステンレス鋼は、
    0.1≦C≦0.3mass%、
    0.1≦Si≦0.5mass%、
    0.1≦Mn≦1.0mass%、
    1.0≦Cu≦3.0mass%、
    2.0≦Ni≦4.0mass%、
    12.0≦Cr≦17.0mass%、
    1.0<Mo≦2.0mass%、
    0.01≦Nb+Al+Ti+V≦0.5mass%、及び、
    0.01≦N≦0.20mass%
    を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
    (2)前記マルテンサイト系ステンレス鋼は、次の式(1)~式(3)を満たす。
    A≧16.0 …(1)
    Nieq≦18.5 …(2)
    C+0.4N≧0.2 …(3)
    但し、
    A=Cr+0.5Ni+0.5Mo+0.3Cu、
    Nieq=Ni+Cu+15.9(C+N)+0.66Mn+0.32Si+0.47Cr+0.64Mo。
  2. 0≦W≦0.5mass%
    をさらに含む請求項1に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。
  3. 0≦Ta+Zr≦0.5mass%
    をさらに含む請求項1又は2に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。
  4. 1000℃以上1200℃以下の温度から焼入れを行い、-50℃以下の温度でサブゼロ処理を行い、100℃以上300℃以下の温度で焼戻しを行った時に、450HV以上の硬さが得られる請求項1から3までのいずれか1項に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。
  5. 1000℃以上1200℃以下の温度から焼入れを行い、-50℃以下の温度でサブゼロ処理を行い、100℃以上300℃以下の温度で焼戻しを行った時に、10g/m2・h未満の腐食度が得られる請求項1から4までのいずれか1項に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼。
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