JP2023051816A - 振動板用フィルムおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】弾性率、内部損失、密度を任意に制御することが可能であり、また、耐熱性が高く、特に小型スピーカ用振動板に適した特性を発現する振動板用フィルムを安価に提供する。【解決手段】半芳香族ポリアミド樹脂を含む延伸フィルムであって、引張弾性率が2.0~2.8GPaであり、20℃における損失正接が0.010~0.020であり、熱安定定数ΔDが1.50未満であることを特徴とする振動板用フィルム。【選択図】なし
Description
本発明は、機械的特性、音質特性、耐熱性等に優れる軽量の振動板用フィルムに関するものである。
スマートフォン、携帯用音楽機器、携帯ゲーム機、タブレット型PCなどの各種電子機器は、音を再生する小型のスピーカを装備している。音はコンテンツを表現する上で極めて重要な要素であり、近年、高性能化や多様化が求められている。
これまでスピーカ用振動板の材料として、金属、木材、紙などが使用されてきた。しかしながら、金属は、弾性率に優れるが内部損失が小さいため、振動板材料に用いた場合、音圧平坦性に劣り、携帯用電子機器向けには質量が高く、軽量化が困難となり、また、木材は、弾性率と内部損失のバランスに優れるが、湿度などの外部環境の影響を受けやすいため、やはり携帯用電子機器向けの振動板材料には不適であり、また、紙は、内部損失に優れるが弾性率が低いため、振動板材料に用いた場合、再生帯域が狭くなるなどの問題があった。
近年では、振動板材料にとって重要な特性である弾性率、内部損失、密度を、素材の選定や加工方法により制御しやすく、またそれぞれのバランスが良いことから、プラスチック材料が注目を集めている。特に、前記携帯用電子機器の場合、重量が小さいことも商品の訴求力を高めると考えられるため、装備される小型スピーカの振動板も軽量であることが求められ、プラスチック材料の振動板は有利であると言える。
振動板用のプラスチック材料として、これまでポリエチレン(PE)樹脂やポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などが用いられてきたが、耐熱性の観点から、近年では、例えば、特許文献1、2には、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を使用することが開示され、また、特許文献3には、芳香族成分を導入したポリアミド樹脂を振動板用途で用いることも開示されている。
上記ポリエチレン(PE)樹脂やポリプロピレン(PP)樹脂等のポリオレフィン系材料は、内部損失に優れるが、弾性率が低く、振動板材料に用いた場合に再生帯域が狭くなり、また耐熱性も高くないため、携帯用電子機器向けには不適であるという問題があった。
また、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂は、内部損失が小さく、振動板材料に用いた場合に音質が不十分となるという問題があった。
また、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの高耐熱性材料は、加工性が低く、物性制御のための加工を効率良く行うことが難しいという問題があった。
さらには、特許文献3のポリアミド樹脂を使用した材料は、熱安定性が低いという問題があった。
また、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂は、内部損失が小さく、振動板材料に用いた場合に音質が不十分となるという問題があった。
また、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの高耐熱性材料は、加工性が低く、物性制御のための加工を効率良く行うことが難しいという問題があった。
さらには、特許文献3のポリアミド樹脂を使用した材料は、熱安定性が低いという問題があった。
本発明の課題は、振動板に重要な材料特性である弾性率、内部損失、密度を任意に制御することが可能であり、また、耐熱性が高く、特に小型スピーカ用振動板に適した特性を発現する振動板用フィルムを安価に提供することである。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の延伸工程と熱弛緩処理とを含む工程によって製造された半芳香族ポリアミド樹脂の延伸フィルムが上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)半芳香族ポリアミド樹脂を含む延伸フィルムであって、
引張弾性率が2.0~2.8GPaであり、
20℃における損失正接が0.010~0.020であり、
熱安定定数ΔDが1.50未満であることを特徴とする振動板用フィルム。
(2)延伸フィルムがさらに官能基を有する熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする(1)に記載の振動板用フィルム。
(3)上記(1)または(2)に記載の振動板用フィルムを製造するための方法であって、
MDおよびTDに2.0倍以上の倍率で延伸を行う延伸工程と、
延伸工程後に、熱弛緩処理を行う工程とを含むことを特徴とする振動板用フィルムの製造方法。
(1)半芳香族ポリアミド樹脂を含む延伸フィルムであって、
引張弾性率が2.0~2.8GPaであり、
20℃における損失正接が0.010~0.020であり、
熱安定定数ΔDが1.50未満であることを特徴とする振動板用フィルム。
(2)延伸フィルムがさらに官能基を有する熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする(1)に記載の振動板用フィルム。
(3)上記(1)または(2)に記載の振動板用フィルムを製造するための方法であって、
MDおよびTDに2.0倍以上の倍率で延伸を行う延伸工程と、
延伸工程後に、熱弛緩処理を行う工程とを含むことを特徴とする振動板用フィルムの製造方法。
本発明によれば、振動板に重要な材料特性である弾性率、内部損失、密度を任意に制御することが可能であり、また、耐熱性が高く、特に小型スピーカ用振動板に適した特性を発現する振動板用フィルムを安価に提供することができる。
本発明の振動板用フィルムは、半芳香族ポリアミド樹脂を含む延伸フィルムである。
本発明の振動板用フィルムは、音の伝搬速度向上や、音質向上の点から、引張弾性率が、2.0~2.8GPaであることが必要であり、2.2~2.8GPaであることが好ましく、2.4~2.8GPaであることがより好ましい。
また、フィルムの適度な軟質化と音質向上の点から、20℃における損失正接が、0.010~0.020であることが必要であり、0.012~0.020であることが好ましい。
また、耐熱性向上の点から、下記式(1)で算出される熱安定定数ΔDが1.50未満であることが必要であり、1.40未満であることが好ましく、1.30未満であることがより好ましい。
ΔD=√(((E′60/E′20)2+(E″60/E″20)2+(tanδ60/tanδ20)2)/3)) (1)
(E′20、E″20、tanδ20:20℃における貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接、E′60、E″60、tanδ60:60℃における貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接)
本発明の振動板用フィルムは、音の伝搬速度向上や、音質向上の点から、引張弾性率が、2.0~2.8GPaであることが必要であり、2.2~2.8GPaであることが好ましく、2.4~2.8GPaであることがより好ましい。
また、フィルムの適度な軟質化と音質向上の点から、20℃における損失正接が、0.010~0.020であることが必要であり、0.012~0.020であることが好ましい。
また、耐熱性向上の点から、下記式(1)で算出される熱安定定数ΔDが1.50未満であることが必要であり、1.40未満であることが好ましく、1.30未満であることがより好ましい。
ΔD=√(((E′60/E′20)2+(E″60/E″20)2+(tanδ60/tanδ20)2)/3)) (1)
(E′20、E″20、tanδ20:20℃における貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接、E′60、E″60、tanδ60:60℃における貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接)
(半芳香族ポリアミド樹脂)
本発明の振動板用フィルムを構成する半芳香族ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸単位として、テレフタル酸単位を60~100モル%含有するものであり、テレフタル酸単位の含有量は70~100モル%であることが好ましく、80~100モル%であることがより好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂のジカルボン酸単位におけるテレフタル酸単位の含有量が60モル%未満の場合には、得られるフィルムは、耐熱性、低吸水性が低下する。
本発明の振動板用フィルムを構成する半芳香族ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸単位として、テレフタル酸単位を60~100モル%含有するものであり、テレフタル酸単位の含有量は70~100モル%であることが好ましく、80~100モル%であることがより好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂のジカルボン酸単位におけるテレフタル酸単位の含有量が60モル%未満の場合には、得られるフィルムは、耐熱性、低吸水性が低下する。
また、半芳香族ポリアミド樹脂は、ジアミン単位として、炭素数9の脂肪族アルキレンジアミン単位を60~100モル%含有するものであり、炭素数9の脂肪族アルキレンジアミン単位の含有量は75~100モル%であることが好ましく、90~100モル%であることがより好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂のジアミン単位における炭素数9の脂肪族アルキレンジアミン単位の含有量が60モル%未満の場合には、得られるフィルムは、耐熱性、低吸水性、耐薬品性が低下する。
炭素数9の脂肪族ジアミン単位としては、例えば、直鎖状の1,9-ノナンジアミンや、分岐鎖状の2-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン等を挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
例えば、ジアミン単位において、炭素数9の脂肪族ジアミン単位として、1,9-ノナンジアミン単位(NDA)と2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(MODA)とを合計で60~100モル%含有する場合、NDAとMODAとのモル比(NDA/MODA)は、50/50~100/0であることが好ましく、70/30~100/0であることがより好ましく、75/25~95/5であることがさらに好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂の脂肪族ジアミン単位において、モル比(NDA/MODA)が上記の範囲であると、特に耐熱性、低吸水性に優れたフィルムが得られる。市販されているこのような半芳香族ポリアミド樹脂として、クラレ社製のジェネスタ(商品名)が挙げられる。
例えば、ジアミン単位において、炭素数9の脂肪族ジアミン単位として、1,9-ノナンジアミン単位(NDA)と2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(MODA)とを合計で60~100モル%含有する場合、NDAとMODAとのモル比(NDA/MODA)は、50/50~100/0であることが好ましく、70/30~100/0であることがより好ましく、75/25~95/5であることがさらに好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂の脂肪族ジアミン単位において、モル比(NDA/MODA)が上記の範囲であると、特に耐熱性、低吸水性に優れたフィルムが得られる。市販されているこのような半芳香族ポリアミド樹脂として、クラレ社製のジェネスタ(商品名)が挙げられる。
半芳香族ポリアミド樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した以外のポリアミド原料を併用することもできる。併用することができるポリアミド原料としては、例えば、ε-カプロラクタム、ζ-エナントラクタム、η-カプリルラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム類や;1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン等の直鎖状脂肪族アルキレンジアミンや;5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の分岐鎖状脂肪族アルキレンジアミンや;イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルアミン等の脂環式ジアミンや;フェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン類や;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸や;1,4-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などを挙げることができる。
ポリアミド原料の種類および組成は、得られる半芳香族ポリアミド樹脂の融点がおよそ250℃~350℃の範囲になるように選択することが好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂は、融点が250℃未満では耐熱性が不十分であり、一方、融点が350℃を超えると加工温度が高くなり、加工時に熱分解を起こす。
本発明における半芳香族ポリアミド樹脂は、濃硫酸中において30℃で測定した極限粘度[η]が、0.8~2.0dl/gであることが好ましく、0.9~1.8dl/gであることがより好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂は、極限粘度[η]が上記範囲内であれば、フィルムへの成形性に優れると共に、力学的特性、耐熱性等に優れた延伸フィルムを得ることができる。
本発明における半芳香族ポリアミド樹脂は、分子鎖の末端基の10モル%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましく、末端封止率は40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂は、末端封止率が10モル%以上であれば、溶融成形時の粘度変化が小さく、得られる延伸フィルムは、外観、耐熱水性等の物性が優れる。
末端封止剤は、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基と反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はなく、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。なかでも、反応性および封止末端の安定性等の点から、モノカルボン酸またはモノアミンが好ましく、取扱いの容易さ等の点から、モノカルボン酸がより好ましく、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸が好ましい。
(官能基を有する熱可塑性エラストマー)
本発明の振動板用フィルムは、さらに官能基を有する熱可塑性エラストマーを含んでもよい。振動板用フィルムは、官能基を有する熱可塑性エラストマーを含むことにより、損失正接の値が若干大きくなり、音の伝播が良く、残響しにくくなる。
本発明において、官能基を有する熱可塑性エラストマーにおける熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントとを含んだ構成である。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独で用いられてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の振動板用フィルムは、さらに官能基を有する熱可塑性エラストマーを含んでもよい。振動板用フィルムは、官能基を有する熱可塑性エラストマーを含むことにより、損失正接の値が若干大きくなり、音の伝播が良く、残響しにくくなる。
本発明において、官能基を有する熱可塑性エラストマーにおける熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントとを含んだ構成である。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独で用いられてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントが熱可塑性高結晶性ポリオレフィンであり、ソフトセグメントがエチレン-α-オレフィン系共重合体ゴムであるものが挙げられる。
ハードセグメントとしては、例えば、1~4個の炭素原子を有するα-オレフィンのホモポリマーまたはこれらの2種以上の共重合体が挙げられ、中でも、ポリエチレンまたはポリプロピレンが好ましい。
ソフトセグメントとしては、例えば、ブチルゴム、ハロブチルゴム、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、EPR(エチレン・プロピレンゴム)、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、NBR(ニトリルゴム)、EBR(エチレン・1-ブテンゴム)、天然ゴムが挙げられる。
ハードセグメントとしては、例えば、1~4個の炭素原子を有するα-オレフィンのホモポリマーまたはこれらの2種以上の共重合体が挙げられ、中でも、ポリエチレンまたはポリプロピレンが好ましい。
ソフトセグメントとしては、例えば、ブチルゴム、ハロブチルゴム、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、EPR(エチレン・プロピレンゴム)、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、NBR(ニトリルゴム)、EBR(エチレン・1-ブテンゴム)、天然ゴムが挙げられる。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート(PBT)等の高融点で高結晶性の芳香族ポリエステルであり、ソフトセグメントがポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)等の非晶性ポリエーテルであるマルチブロックポリマーが挙げられる。
ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントがポリアミドであり、ソフトセグメントがポリエステルまたはポリオールであるブロックポリマーが挙げられる。
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントがポリスチレンであり、ソフトセグメントが共役ジエン化合物の共重合体およびその水素添加物であるポリマーが挙げられる。ソフトセグメントとしては、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ヘキサジエンゴム、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンが挙げられる。
本発明において、上記熱可塑性エラストマーは、半芳香族ポリアミド樹脂の末端基であるアミノ基やカルボキシル基、および主鎖のアミド基と反応しうる官能基を有することが好ましい。
官能基としては、カルボキシル基またはその無水物、アミノ基、水酸基、エポキシ基、アミド基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基であることが好ましく、ジカルボン酸および/またはその誘導体がより好ましい。
熱可塑性エラストマーが、半芳香族ポリアミド樹脂の末端基などと反応しうる官能基を有しない場合、得られるフィルムは、延伸時の延伸性が低下し、均一な延伸フィルムが得られない。
官能基としては、カルボキシル基またはその無水物、アミノ基、水酸基、エポキシ基、アミド基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種の官能基であることが好ましく、ジカルボン酸および/またはその誘導体がより好ましい。
熱可塑性エラストマーが、半芳香族ポリアミド樹脂の末端基などと反応しうる官能基を有しない場合、得られるフィルムは、延伸時の延伸性が低下し、均一な延伸フィルムが得られない。
本発明においては、官能基を有する熱可塑性エラストマーは、ジカルボン酸および/またはその誘導体で変性されたポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。このようなエラストマーとしては、三井化学社製タフマー等が挙げられる。
本発明の振動板用フィルムは、官能基を有する熱可塑性エラストマーを含む場合、半芳香族ポリアミド樹脂(A)と官能基を有する熱可塑性エラストマー(B)の質量比(A/B)は、97/3~90/10であることが好ましく、96/4~92/8であることがより好ましい。官能基を有する熱可塑性エラストマーは、割合が3質量%未満では、添加効果が小さく、得られた振動板用フィルムは、軟質化(貯蔵弾性率E′の減少、損失弾性率E″の増加)が不十分となることがある。一方、熱可塑性エラストマーの割合が10質量%を超えると、押出製膜時の溶融粘度が高すぎて製膜性が低下したり、延伸時の延伸性が低下して均一な延伸フィルムが得られなかったり、得られたフィルムは、振動板用としての適性が大きく損なわれることがある。
半芳香族ポリアミド樹脂と官能基を有する熱可塑性エラストマーとを混練により混合する場合、混錬に用いられる混練機は、特に限定されないが、例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロール等、通常公知の溶融混練機が挙げられる。中でも、官能基を有する熱可塑性エラストマーの分散性向上の観点から、二軸押出機が好ましい。
溶融混練温度は、通常、半芳香族ポリアミド樹脂の融点以上である。
官能基を有する熱可塑性エラストマーは、高濃度に配合されたマスターバッチを作製してから、半芳香族ポリアミド樹脂と混練することが好ましい。官能基を有する熱可塑性エラストマーのマスターバッチは、半芳香族ポリアミド樹脂を先に溶融混練し、官能基を有する熱可塑性エラストマーを途中から添加する方法、具体的には、半芳香族ポリアミド樹脂を混練機のトップフィーダーから添加し、官能基を有する熱可塑性エラストマーを混練機のサイドフィーダーから添加する方法によって作製することが好ましい。この方法によると、半芳香族ポリアミド樹脂と官能基を有する熱可塑性エラストマーの混合均一性がより高まる。
溶融混練温度は、通常、半芳香族ポリアミド樹脂の融点以上である。
官能基を有する熱可塑性エラストマーは、高濃度に配合されたマスターバッチを作製してから、半芳香族ポリアミド樹脂と混練することが好ましい。官能基を有する熱可塑性エラストマーのマスターバッチは、半芳香族ポリアミド樹脂を先に溶融混練し、官能基を有する熱可塑性エラストマーを途中から添加する方法、具体的には、半芳香族ポリアミド樹脂を混練機のトップフィーダーから添加し、官能基を有する熱可塑性エラストマーを混練機のサイドフィーダーから添加する方法によって作製することが好ましい。この方法によると、半芳香族ポリアミド樹脂と官能基を有する熱可塑性エラストマーの混合均一性がより高まる。
(添加剤)
本発明の振動板用フィルムには、その諸特性をより向上させるために、フィルムとしての諸特性を犠牲にしない範囲内で、必要に応じて、滑剤、チタンなどの顔料、染料などの着色剤、着色防止剤、熱安定剤、ヒンダードフェノール、リン酸エステルや亜リン酸エステルなどの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物などの耐候性改良剤、臭素系やリン系の難燃剤、可塑剤、離型剤、タルクなどの強化剤などの、改質剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、各種ポリマー樹脂等を添加することができる。
本発明の振動板用フィルムには、その諸特性をより向上させるために、フィルムとしての諸特性を犠牲にしない範囲内で、必要に応じて、滑剤、チタンなどの顔料、染料などの着色剤、着色防止剤、熱安定剤、ヒンダードフェノール、リン酸エステルや亜リン酸エステルなどの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物などの耐候性改良剤、臭素系やリン系の難燃剤、可塑剤、離型剤、タルクなどの強化剤などの、改質剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、各種ポリマー樹脂等を添加することができる。
本発明の振動板用フィルムは、滑剤として微粒子を含有し、滑り性を良好とすることが好ましい。微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等の無機粒子や、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等の有機系微粒子を挙げることができる。微粒子の平均粒径は、0.05~5.0μmの範囲内で、摩擦特性、光学特性、その他のフィルムに対する要求特性に応じて選択することができる。
上記添加剤を配合する方法として、各種の方法を用いることができる。その代表的な方法として、(ア)半芳香族ポリアミド樹脂の重合時に添加する方法、(イ)半芳香族ポリアミド樹脂に添加し、溶融混練したペレットを準備するマスターバッチ法、(ウ)シート製膜時に半芳香族ポリアミド樹脂に直接添加し、押出機で溶融混練する方法、(エ)シート製膜時に押出機に直接添加し、溶融混練する方法などが挙げられる。
(振動板用フィルムの製造方法)
次に、本発明の振動板用フィルムの製造方法の詳細について説明する。
本発明の振動板用フィルムの原料は、バージン原料同士を混合したものであってもよいし、また、フィルムを製造する際に生成する規格外のフィルムや、耳トリムとして発生するスクラップ混合物や、スクラップ混合物にバージン原料を加えて調製したものであってもよい。これらの混合は、公知の装置でドライブレンドする方法、一軸または二軸の押出機を用いて溶融混練し混合する練り込み法等の公知の方法で行うことができる。
次に、本発明の振動板用フィルムの製造方法の詳細について説明する。
本発明の振動板用フィルムの原料は、バージン原料同士を混合したものであってもよいし、また、フィルムを製造する際に生成する規格外のフィルムや、耳トリムとして発生するスクラップ混合物や、スクラップ混合物にバージン原料を加えて調製したものであってもよい。これらの混合は、公知の装置でドライブレンドする方法、一軸または二軸の押出機を用いて溶融混練し混合する練り込み法等の公知の方法で行うことができる。
本発明においては、前記の半芳香族ポリアミド樹脂やこれに添加剤を配合したものを押出機で溶融押出し、TダイやIダイなどのフラットダイからポリマーメルトをシート状に吐出し、冷却ロールやスチールベルトなどの移動冷却体の冷却面に接触させて冷却することにより未延伸シートを得る。
押出温度は、半芳香族ポリアミド樹脂の融点(Tm)以上、370℃以下であることが好ましい。押出温度が融点未満であると、半芳香族ポリアミド樹脂は粘度が上昇して押し出しできなくなるおそれがあり、370℃を超えると、半芳香族ポリアミド樹脂が分解するおそれがある。
移動冷却体の温度は、20~90℃であることが好ましく、30~70℃であることがより好ましく、40~60℃であることがさらに好ましい。
通常、ポリアミドは、結晶化速度が速く、徐冷すると結晶が成長して延伸が困難になるため、冷却効率を高めることと移動冷却体への水滴の結露を抑制することを両立させるため、室温近傍に急冷することが常道である。移動冷却体の温度が90℃を超える場合は、溶融ポリマーが移動冷却体上で適度な硬さを発現するまでの時間が長くなって、移動冷却体から外れにくくなる。その結果、例えば移動冷却体がロールである場合には、破断してロールヘの巻き付きが生じたり、破断しなくてもフィルムがロールから外れるときの勢いで脈打ちが生じたりする。また未延伸シート中に大きさのバラついた結晶が生成して、延伸ムラが発生したり延伸が困難になったりする。
また、本発明の振動板用フィルムを構成する半芳香族ポリアミド樹脂は、20℃未満の移動冷却体で急冷すると、それによって、溶融ポリマーにおける移動冷却体(冷却ロール)に未だ接触していない部分が硬くなり、その硬くなった部分は移動冷却体(冷却ロール)に密着しなくなる。結果として、未延伸シートは、移動冷却体に密着する部分と密着しない部分が現れ、安定して操業できなくなる。また、その後の延伸工程で破断、あるいは、不均一な延伸が起こる。これは、結晶化速度が速いという樹脂特性に加えて、ガラス転移温度(Tg)が高く、さらに、低温領域では弾性率が高く硬い樹脂特性が、移動冷却体との均一な密着を妨げ、局部的な冷却速度ムラを生じていることが原因していると考えられる。
押出温度は、半芳香族ポリアミド樹脂の融点(Tm)以上、370℃以下であることが好ましい。押出温度が融点未満であると、半芳香族ポリアミド樹脂は粘度が上昇して押し出しできなくなるおそれがあり、370℃を超えると、半芳香族ポリアミド樹脂が分解するおそれがある。
移動冷却体の温度は、20~90℃であることが好ましく、30~70℃であることがより好ましく、40~60℃であることがさらに好ましい。
通常、ポリアミドは、結晶化速度が速く、徐冷すると結晶が成長して延伸が困難になるため、冷却効率を高めることと移動冷却体への水滴の結露を抑制することを両立させるため、室温近傍に急冷することが常道である。移動冷却体の温度が90℃を超える場合は、溶融ポリマーが移動冷却体上で適度な硬さを発現するまでの時間が長くなって、移動冷却体から外れにくくなる。その結果、例えば移動冷却体がロールである場合には、破断してロールヘの巻き付きが生じたり、破断しなくてもフィルムがロールから外れるときの勢いで脈打ちが生じたりする。また未延伸シート中に大きさのバラついた結晶が生成して、延伸ムラが発生したり延伸が困難になったりする。
また、本発明の振動板用フィルムを構成する半芳香族ポリアミド樹脂は、20℃未満の移動冷却体で急冷すると、それによって、溶融ポリマーにおける移動冷却体(冷却ロール)に未だ接触していない部分が硬くなり、その硬くなった部分は移動冷却体(冷却ロール)に密着しなくなる。結果として、未延伸シートは、移動冷却体に密着する部分と密着しない部分が現れ、安定して操業できなくなる。また、その後の延伸工程で破断、あるいは、不均一な延伸が起こる。これは、結晶化速度が速いという樹脂特性に加えて、ガラス転移温度(Tg)が高く、さらに、低温領域では弾性率が高く硬い樹脂特性が、移動冷却体との均一な密着を妨げ、局部的な冷却速度ムラを生じていることが原因していると考えられる。
上記ポリマーメルトを移動冷却体に密着させて、均一に冷却固化するための方法として、エアーナイフキャスト法、静電印加法、バキュームチャンバ法等の方法が挙げられる。
得られた未延伸シートは、通常、厚みが10μm~3mm程度であり、そのままでも低吸水性、耐薬品性等の優れた特性を有しているが、0.5μm~1.5mm程度の厚みまで二軸延伸することにより、低吸水性、耐薬品性、耐熱性、力学強度がさらに向上する。
延伸方法としては、フラット式逐次二軸延伸法、フラット式同時二軸延伸法、チューブラ法等が挙げられる。なかでも、厚み精度が良く、巾方向の物性が均一である延伸フィルムが得られることから、フラット式同時二軸延伸法が最適である。フラット式同時二軸延伸法の装置としては、スクリュー式テンター、パンタグラフ式テンター、リニアモーター駆動クリップ式テンターなどが挙げられる。
延伸倍率は、耐熱性や力学強度が優れる延伸フィルムを得るために、縦方向(MD)および横方向(TD)にそれぞれ2.0倍以上であることが必要であり、2.0~10倍であることが好ましく、2.5~4.0倍であることがより好ましい。力学強度の内、特に引張弾性率が高いことで、音の伝搬速度が大きくなり、音質の向上が見込まれる。
延伸速度は、MDとTDの延伸歪み速度がいずれも400%/minを超えていることが好ましく、800%/min以上、12000%/min以下であることが好ましく、1200%/min以上、6000%/min以下であることがより好ましい。歪み速度が400%/min以下であると、延伸の途中で結晶が成長して、フィルムが破断することがある。反対に歪み速度が速すぎると、未延伸シートが変形に追随できなくなって破断することがある。
延伸倍率は、耐熱性や力学強度が優れる延伸フィルムを得るために、縦方向(MD)および横方向(TD)にそれぞれ2.0倍以上であることが必要であり、2.0~10倍であることが好ましく、2.5~4.0倍であることがより好ましい。力学強度の内、特に引張弾性率が高いことで、音の伝搬速度が大きくなり、音質の向上が見込まれる。
延伸速度は、MDとTDの延伸歪み速度がいずれも400%/minを超えていることが好ましく、800%/min以上、12000%/min以下であることが好ましく、1200%/min以上、6000%/min以下であることがより好ましい。歪み速度が400%/min以下であると、延伸の途中で結晶が成長して、フィルムが破断することがある。反対に歪み速度が速すぎると、未延伸シートが変形に追随できなくなって破断することがある。
未延伸シートは延伸前に予熱することが好ましい。本発明の振動板用フィルムを得るためには、予熱温度Tpと予熱時間tpが下記の(2)式の関係を満たし、かつTpが、(Tg-20)~(Tg+40)℃であることが好ましい。Tpは、(Tg-15)~(Tg+35)℃であることがより好ましい。またtpは、1~60秒が現実的な範囲である。
1×104×EXP(-0.06×Tp)≦tp≦2×107×EXP(-0.1×Tp) (2)
予熱温度Tpが(Tg-20)℃未満の場合には、延伸時のフィルム破断が生じやすく、また延伸機にかかる負荷も大きく、設備上のトラブルも生じやすい。また、予熱温度が(Tg+40)℃を超える場合には、延伸ムラやフィルム破断を生じやすく、同様に延伸機にかかる負荷が大きくなる可能性がある。
また、予熱時間tpが(2)式の下限未満であると、フィルムは、予熱が不十分であり、硬いまま延伸される。このため、フィルムが切れたり、延伸応力が高くなりすぎて装置への負荷が高くなり、故障の原因となったりする。
また、予熱時間tpが(2)式の上限を超えると、フィルムは、過剰に予熱されて、延伸前に結晶化が進む。このため、本来延伸操作によって配向結晶化させたいところ、延伸前に部分的に結晶化が進み、得られるフィルムは、ムラになりやすく破断などの原因となる。
1×104×EXP(-0.06×Tp)≦tp≦2×107×EXP(-0.1×Tp) (2)
予熱温度Tpが(Tg-20)℃未満の場合には、延伸時のフィルム破断が生じやすく、また延伸機にかかる負荷も大きく、設備上のトラブルも生じやすい。また、予熱温度が(Tg+40)℃を超える場合には、延伸ムラやフィルム破断を生じやすく、同様に延伸機にかかる負荷が大きくなる可能性がある。
また、予熱時間tpが(2)式の下限未満であると、フィルムは、予熱が不十分であり、硬いまま延伸される。このため、フィルムが切れたり、延伸応力が高くなりすぎて装置への負荷が高くなり、故障の原因となったりする。
また、予熱時間tpが(2)式の上限を超えると、フィルムは、過剰に予熱されて、延伸前に結晶化が進む。このため、本来延伸操作によって配向結晶化させたいところ、延伸前に部分的に結晶化が進み、得られるフィルムは、ムラになりやすく破断などの原因となる。
延伸温度は、Tg以上であることが好ましく、さらには、Tgを超え、(Tg+30)℃以下であることが好ましい。延伸温度がTg未満の場合は、フィルムの破断が生じやすく、安定した製造を行うことができない。反対に(Tg+30)℃を超えると、フィルムに延伸ムラが生じる場合がある。
上記のような延伸を行った後、延伸のためのクリップでフィルムを把持したまま、必要に応じて熱固定処理を行うことが好ましい。熱固定処理温度は、255~(Tm-50)℃であることが好ましく、275~(Tm-30)℃であることがより好ましい。
本発明においては、熱固定処理と同時に、または熱固定処理を行った後に、フィルムを把持したまま熱弛緩処理を行うことが必要である。熱弛緩処理におけるリラックス率は1~10%であることが好ましく、2~6%であることがより好ましい。
MDおよびTDに2.0倍以上の倍率で延伸を行う延伸工程の後に、熱弛緩処理工程を行うことで、得られる振動板用フィルムは、引張弾性率が本発明で規定する範囲となり、音の伝搬速度が大きくなり、音質が向上し、また、20℃における損失正接が本発明で規定する範囲となり、適度に軟質化して音質が向上し、また、60℃と20℃における動的粘弾性から算出される熱安定定数ΔDが本発明で規定する範囲となり、十分な熱安定性を得ることができるようになる。
また熱弛緩処理をMDとTDに同時に行うことで、より高い熱寸法安定性を有するフィルムを得ることができるようになり、振動板用フィルムは、気温による音質への影響をさらに受けにくくなる。
MDおよびTDに2.0倍以上の倍率で延伸を行う延伸工程の後に、熱弛緩処理工程を行うことで、得られる振動板用フィルムは、引張弾性率が本発明で規定する範囲となり、音の伝搬速度が大きくなり、音質が向上し、また、20℃における損失正接が本発明で規定する範囲となり、適度に軟質化して音質が向上し、また、60℃と20℃における動的粘弾性から算出される熱安定定数ΔDが本発明で規定する範囲となり、十分な熱安定性を得ることができるようになる。
また熱弛緩処理をMDとTDに同時に行うことで、より高い熱寸法安定性を有するフィルムを得ることができるようになり、振動板用フィルムは、気温による音質への影響をさらに受けにくくなる。
上記熱固定処理や熱弛緩処理を行った後、冷却し、巻き取りロールに巻き取ることで、本発明の振動板用フィルムのロールが得られる。得られたフィルムロールは、所望の巾にスリットして、再度、フィルムロールとすることができる。
上記の製造方法によれば、長さ100m以上の振動板用フィルムを連続的に生産することができる。振動板用フィルムは、枚葉にすることもできるが、各種用途への利用に際しての生産性の点からフィルムロールの形態にすることが好ましい。
上記の製造方法によれば、長さ100m以上の振動板用フィルムを連続的に生産することができる。振動板用フィルムは、枚葉にすることもできるが、各種用途への利用に際しての生産性の点からフィルムロールの形態にすることが好ましい。
本発明の振動板用フィルムには、フィルム表面の接着性を良好にするために、コロナ処理、プラズマ処理、酸処理、火炎処理、コーティング処理等を施すことも可能である。また、フィルムの表面に、易接着、帯電防止、離型性、ガスバリア性などの機能を付与するために、各種コーティング剤を塗布することも可能である。塗布は、延伸後のフィルムに施すことも、延伸前のフィルムに施すことも可能であり、あるいは延伸機の直前で塗布し、かつ延伸機の予熱区間で乾燥、皮膜形成させることも可能である。
本発明の振動板用フィルムの厚みは、特に限定されない。ただし、本発明においては、厚みムラRが10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましい。厚みムラRが10%を超えると、加工時のフィルムのたるみやシワの原因、最終製品の品質不良、特に音質低下の原因となりえる。なお、厚みムラRは、HEIDENHAIN社製の厚み計「MT12B」を用いて、フィルム幅方向の厚みを10mm毎に測定し、計測値の最大値Lmax、最小値Lmin、平均値Laを用いて、次式から算出したものである。
R=(Lmax-Lmin)/2La×100
R=(Lmax-Lmin)/2La×100
(用途)
本発明の振動板用フィルムは、スマートフォン、携帯用音楽機器、携帯ゲーム機、タブレット型PCなどの各種電子機器や、伝声器用途に好ましく用いられる。
本発明の振動板用フィルムは、スマートフォン、携帯用音楽機器、携帯ゲーム機、タブレット型PCなどの各種電子機器や、伝声器用途に好ましく用いられる。
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
以下の実施例・比較例における各種物性の評価方法は、下記のとおりとした。なお、特に記載がない限りは、いずれの測定も、温度20℃、湿度65%RHの環境下で行った。
以下の実施例・比較例における各種物性の評価方法は、下記のとおりとした。なお、特に記載がない限りは、いずれの測定も、温度20℃、湿度65%RHの環境下で行った。
<評価方法>
1.引張弾性率
引張弾性率は、JIS K7127に準拠し、引張速度500mm/minで測定した。
1.引張弾性率
引張弾性率は、JIS K7127に準拠し、引張速度500mm/minで測定した。
2.損失正接、熱安定定数
TAインスツルメント製RSA-G2を使用し、窒素雰囲気下において、周波数10Hzにて動的粘弾性測定を実施した。サンプルとして、4mm幅、40mm長さ程度に、MDが長手方向となるように切り出したものを使用した。
20℃における損失正接をtanδ20、60℃における損失正接をtanδ60とした。
また、20℃における貯蔵弾性率、損失弾性率を、それぞれ、E′20、E″20とし、同様に60℃における貯蔵弾性率、損失弾性率を、それぞれ、E′60、E″60とし、熱安定定数ΔDを次式(1)によって算出した。
ΔD=√(((E′60/E′20)2+(E″60/E″20)2+(tanδ60/tanδ20)2)/3)) (1)
なお、貯蔵弾性率E′の大きい材料は、音が伝わりやすく、振動板材料としては優れているが、小型スピーカにおいては構造上、低温が出にくいということがあり、貯蔵弾性率E′の低い材料が求められることもある。損失弾性率E″が大きい材料は、残響しにくく、音切れが良くなるという点で優れている。損失正接tanδが大きい材料も残響しにくい特性を有している。熱安定定数ΔDは粘弾性パラメータの温度依存性を評価したもので、小さいほど音質の熱安定性に優れている。
TAインスツルメント製RSA-G2を使用し、窒素雰囲気下において、周波数10Hzにて動的粘弾性測定を実施した。サンプルとして、4mm幅、40mm長さ程度に、MDが長手方向となるように切り出したものを使用した。
20℃における損失正接をtanδ20、60℃における損失正接をtanδ60とした。
また、20℃における貯蔵弾性率、損失弾性率を、それぞれ、E′20、E″20とし、同様に60℃における貯蔵弾性率、損失弾性率を、それぞれ、E′60、E″60とし、熱安定定数ΔDを次式(1)によって算出した。
ΔD=√(((E′60/E′20)2+(E″60/E″20)2+(tanδ60/tanδ20)2)/3)) (1)
なお、貯蔵弾性率E′の大きい材料は、音が伝わりやすく、振動板材料としては優れているが、小型スピーカにおいては構造上、低温が出にくいということがあり、貯蔵弾性率E′の低い材料が求められることもある。損失弾性率E″が大きい材料は、残響しにくく、音切れが良くなるという点で優れている。損失正接tanδが大きい材料も残響しにくい特性を有している。熱安定定数ΔDは粘弾性パラメータの温度依存性を評価したもので、小さいほど音質の熱安定性に優れている。
実施例1
テレフタル酸(TA)3289質量部、1,9-ノナンジアミン(NDA)2533質量部、2-メチル-1,8-オクタンジアミン(MODA)633質量部、安息香酸(BA)48.9質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物6.5質量部(前記のポリアミド原料4者の合計に対して0.1質量%)および蒸留水2200質量部を反応釜に入れ、窒素置換した。これらの割合は、TA/BA/NDA/MODA=99/2/80/20(モル比)となった。
そして100℃で30分間攪拌した後、2時間かけて内部温度を210℃に昇温した。この時、反応釜は2.12MPa(22kg/cm2)まで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後、230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2.12MPa(22kg/cm2)に保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を0.98MPa(10kg/cm2)まで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度が0.30dl/gのプレポリマーを得た。これを100℃、減圧下で12時間乾燥した後、2mm以下の大きさまで粉砕した。
次いで、これを温度230℃、圧力13.3Pa(0.1mmHg)の条件下で10時間固相重合して、融点290℃、極限粘度1.25dl/gの白色の半芳香族ポリアミド樹脂を得た。これを二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX44C」)に供給し、シリンダー温度320℃の条件下で溶融混練して押し出し、冷却、切断して、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂を製造した。
続いて、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂を、シリンダー温度を290℃(前段)、320℃(中段)および320℃(後段)にした65mm単軸押出機に投入して溶融し、320℃にしたTダイよりシート状に押し出し、スチールベルトの移動冷却体(20~50℃)の冷却面に接触させて冷却することにより、実質的に無配向の厚み240μmの未延伸シートを得た。
次に、この未延伸シートの両端をクリップで把持しながら、バッチ式延伸機であるブルックナー社製KARO IVを用いて、予熱温度120℃、延伸温度を120℃とし、延伸倍率をMDに3.0倍、TDに3.0倍として、延伸速度2400%/minで同時二軸延伸を実施した。延伸後、280℃の熱風を当てることで熱固定を行い、同時にTDにリラックス率4.5%の熱弛緩処理を施して、厚さ35μmの振動板用フィルムを得た。
テレフタル酸(TA)3289質量部、1,9-ノナンジアミン(NDA)2533質量部、2-メチル-1,8-オクタンジアミン(MODA)633質量部、安息香酸(BA)48.9質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物6.5質量部(前記のポリアミド原料4者の合計に対して0.1質量%)および蒸留水2200質量部を反応釜に入れ、窒素置換した。これらの割合は、TA/BA/NDA/MODA=99/2/80/20(モル比)となった。
そして100℃で30分間攪拌した後、2時間かけて内部温度を210℃に昇温した。この時、反応釜は2.12MPa(22kg/cm2)まで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後、230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2.12MPa(22kg/cm2)に保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を0.98MPa(10kg/cm2)まで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度が0.30dl/gのプレポリマーを得た。これを100℃、減圧下で12時間乾燥した後、2mm以下の大きさまで粉砕した。
次いで、これを温度230℃、圧力13.3Pa(0.1mmHg)の条件下で10時間固相重合して、融点290℃、極限粘度1.25dl/gの白色の半芳香族ポリアミド樹脂を得た。これを二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX44C」)に供給し、シリンダー温度320℃の条件下で溶融混練して押し出し、冷却、切断して、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂を製造した。
続いて、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂を、シリンダー温度を290℃(前段)、320℃(中段)および320℃(後段)にした65mm単軸押出機に投入して溶融し、320℃にしたTダイよりシート状に押し出し、スチールベルトの移動冷却体(20~50℃)の冷却面に接触させて冷却することにより、実質的に無配向の厚み240μmの未延伸シートを得た。
次に、この未延伸シートの両端をクリップで把持しながら、バッチ式延伸機であるブルックナー社製KARO IVを用いて、予熱温度120℃、延伸温度を120℃とし、延伸倍率をMDに3.0倍、TDに3.0倍として、延伸速度2400%/minで同時二軸延伸を実施した。延伸後、280℃の熱風を当てることで熱固定を行い、同時にTDにリラックス率4.5%の熱弛緩処理を施して、厚さ35μmの振動板用フィルムを得た。
実施例2~3
延伸倍率、リラックス率を表1に記載の値とする以外は実施例1と同様の方法で振動板用フィルムを得た。
延伸倍率、リラックス率を表1に記載の値とする以外は実施例1と同様の方法で振動板用フィルムを得た。
実施例4
官能基を有する熱可塑性エラストマーとして、三井ポリマー社製タフマーMH7020を、マスターバッチ法にて、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂中に5質量%となるように添加した以外は実施例1と同様の方法で振動板用フィルムを得た。
官能基を有する熱可塑性エラストマーとして、三井ポリマー社製タフマーMH7020を、マスターバッチ法にて、ペレット状の半芳香族ポリアミド樹脂中に5質量%となるように添加した以外は実施例1と同様の方法で振動板用フィルムを得た。
実施例5~7、比較例4
延伸倍率、リラックス率を表1に記載の値とする以外は実施例4と同様の方法で振動板用フィルムを得た。
延伸倍率、リラックス率を表1に記載の値とする以外は実施例4と同様の方法で振動板用フィルムを得た。
実施例8
実施例4と同様の方法で未延伸シートを得た後、この未延伸シートの両端をクリップで把持しながら、入口幅193mm、出口幅605mmのテンター方式同時二軸延伸機(日立製作所社製)に導いて、予熱部温度130℃、延伸部温度130℃、MD延伸歪み速度2400%/min、TD延伸歪み速度2760%/min、MD延伸倍率3.0倍、TD延伸倍率3.3倍で同時二軸延伸した。
そして、同テンター内において270℃で熱固定を行い、フィルムのTDにリラックス率8%の熱弛緩処理を施した後、均一に徐冷し、フィルム両端をクリップから解放し、耳部をトリミングして、厚さ25μmの振動板用フィルムを得た。
実施例4と同様の方法で未延伸シートを得た後、この未延伸シートの両端をクリップで把持しながら、入口幅193mm、出口幅605mmのテンター方式同時二軸延伸機(日立製作所社製)に導いて、予熱部温度130℃、延伸部温度130℃、MD延伸歪み速度2400%/min、TD延伸歪み速度2760%/min、MD延伸倍率3.0倍、TD延伸倍率3.3倍で同時二軸延伸した。
そして、同テンター内において270℃で熱固定を行い、フィルムのTDにリラックス率8%の熱弛緩処理を施した後、均一に徐冷し、フィルム両端をクリップから解放し、耳部をトリミングして、厚さ25μmの振動板用フィルムを得た。
比較例1
実施例1において得られた未延伸シートについて、引張弾性率、動的粘弾性を測定した。
実施例1において得られた未延伸シートについて、引張弾性率、動的粘弾性を測定した。
比較例2
実施例1において得られた未延伸シートを200℃で1分間、熱風を用いて結晶化処理を施したフィルムについて、引張弾性率、動的粘弾性を測定した。
実施例1において得られた未延伸シートを200℃で1分間、熱風を用いて結晶化処理を施したフィルムについて、引張弾性率、動的粘弾性を測定した。
比較例3
実施例4において得られた未延伸シートについて、引張弾性率、動的粘弾性を測定した。
実施例4において得られた未延伸シートについて、引張弾性率、動的粘弾性を測定した。
表1に、実施例、比較例のフィルムの製造条件、引張試験および動的粘弾性測定の結果を示す。
実施例1および2で得られたフィルムは、引張弾性率が高く、損失正接の値も比較的大きく、音の伝播が良く、残響しにくい点で、振動板用に好適な延伸フィルムであった。
実施例4~6で得られたフィルムは、引張弾性率が高く、官能基を有する熱可塑性エラストマーを含むことで損失正接の値が若干大きく、音の伝播が良く、残響しにくい点で、振動板用に好適な延伸フィルムであった。
実施例3および7で得られたフィルムは、引張弾性率が高く、損失正接の値も比較的大きく、音の伝播が良く、残響しにくいことに加え、TDに加え、MDにも熱弛緩処理を行うことにより、熱安定定数ΔDが小さく、熱安定性に優れる点で、振動板用フィルムに好適な延伸フィルムであった。
実施例4~6で得られたフィルムは、引張弾性率が高く、官能基を有する熱可塑性エラストマーを含むことで損失正接の値が若干大きく、音の伝播が良く、残響しにくい点で、振動板用に好適な延伸フィルムであった。
実施例3および7で得られたフィルムは、引張弾性率が高く、損失正接の値も比較的大きく、音の伝播が良く、残響しにくいことに加え、TDに加え、MDにも熱弛緩処理を行うことにより、熱安定定数ΔDが小さく、熱安定性に優れる点で、振動板用フィルムに好適な延伸フィルムであった。
一方、比較例1および3の未延伸シートは延伸をしていないため、引張弾性率、貯蔵弾性率、損失正接の値が低いことで、音の伝播が劣り、残響しやすい懸念があり、また、熱安定性が低かった。比較例2の未延伸シートは、結晶化処理することで引張弾性率が向上したが、延伸を実施していないため、損失正接の値が低く、残響しやすい懸念があり、また、熱安定性が低かった。また、比較例4のフィルムは、延伸倍率が不十分であることで、引張弾性率が低く、音の伝播が劣る懸念がある。
Claims (3)
- 半芳香族ポリアミド樹脂を含む延伸フィルムであって、
引張弾性率が2.0~2.8GPaであり、
20℃における損失正接が0.010~0.020であり、
熱安定定数ΔDが1.50未満であることを特徴とする振動板用フィルム。 - 延伸フィルムがさらに官能基を有する熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の振動板用フィルム。
- 請求項1または2に記載の振動板用フィルムを製造するための方法であって、
MDおよびTDに2.0倍以上の倍率で延伸を行う延伸工程と、
延伸工程後に、熱弛緩処理を行う工程とを含むことを特徴とする振動板用フィルムの製造方法。
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