JP2023049607A - 蓄電デバイス用組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極、及び蓄電デバイス - Google Patents

蓄電デバイス用組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極、及び蓄電デバイス Download PDF

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Takuya Nakayama
真希 前川
Maki Maekawa
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悠太 浅井
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Abstract

【課題】蓄電デバイス電極用スラリーの経時的なpH上昇を防ぐことで電極の腐食の発生ないし重合体成分の分解を抑制するとともに、蓄電デバイス電極の密着性及び充放電耐久特性を向上させることができる蓄電デバイス用組成物を提供する。【解決手段】本発明に係る蓄電デバイス用組成物は、重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)5~90質量%と、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a2)5~90質量%と、不飽和カルボン酸エステル(前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く)に由来する繰り返し単位(a3)1~50質量%と、を含有し、前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに含有される水酸基の少なくとも一部が保護基で保護されている。【選択図】なし

Description

本発明は、蓄電デバイス用組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極、及び蓄電デバイスに関する。
近年、電子機器の駆動用電源として、高電圧かつ高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。このような蓄電デバイスとしては、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタなどが期待されている。
このような蓄電デバイスに使用される電極は、活物質と、バインダーとして機能する重合体とを含有する組成物(蓄電デバイス電極用スラリー)を集電体の表面に塗布及び乾燥させることにより製造される。バインダーとして使用される重合体に要求される特性としては、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力、電極を巻き取る工程における耐擦性、その後の裁断などによっても、塗布・乾燥された組成物塗膜(以下、「活物質層」ともいう)から活物質の微粉などが脱落しない粉落ち耐性などを挙げることができる。このようなバインダー材料が良好な密着性を発現させて、該バインダー材料に起因する電池の内部抵抗を低減させることで、蓄電デバイスに良好な充放電特性を付与することができる。
なお、上記の活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力、並びに粉落ち耐性については、性能の良否がほぼ比例関係にあることが経験上明らかになっている。したがって、本明細書では、以下これらを包括して「密着性」という用語を用いて表す場合がある。
昨今、容量及び充放電サイクル特性に優れた電気化学デバイスを作製するために、水との反応性が高い活物質を使用することが研究されている。そして、活物質及びバインダーを含む蓄電デバイス電極用スラリーを製造する際、コスト、安全性及び環境負荷低減を目的として、水系バインダーの使用が検討されている。
こうした背景の下、蓄電デバイス電極用スラリーの諸問題を解決すべく、種々のバインダー材料が提案されている(例えば、特許文献1~2参照)。
国際公開第2020/095466号 特開2019-194944号公報
しかしながら、上記特許文献1~2に開示されているバインダー材料を含む蓄電デバイス電極用スラリーを用いる場合、いくつかの問題点があった。例えば、該スラリー中の水と活物質とが反応して水酸化物イオン(OH)を生じ、この水酸化物イオンによって電極が腐食する点や、重合体成分を分解する点を挙げることができる。また、このような蓄電デバイス電極用スラリーを用いて作製された蓄電デバイス電極は、密着性や充放電耐久特性といった特性も十分ではなく、更なる改良が求められていた。
本発明に係る幾つかの態様は、蓄電デバイス電極用スラリーの経時的なpH上昇を防ぐことで電極の腐食の発生ないし重合体成分の分解を抑制するとともに、蓄電デバイス電極の密着性及び充放電耐久特性を向上させることができる蓄電デバイス用組成物を提供する。また、本発明に係る幾つかの態様は、経時的なpH変化を防ぐことで電極の腐食の発生ないし重合体成分の分解を抑制するとともに、蓄電デバイス電極の密着性及び充放電耐久特性を向上させることができる蓄電デバイス電極用スラリーを提供する。また、本発明に係る幾つかの態様は、腐食が抑制されるとともに、密着性及び充放電耐久特性を向上させることができる蓄電デバイス電極を提供する。さらに、本発明に係る幾つかの態様は、充放電耐久特性に優れた蓄電デバイスを提供する。
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
本発明に係る蓄電デバイス用組成物の一態様は、
重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)5~90質量%と、
水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a2)5~90質量%と、
不飽和カルボン酸エステル(前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く)に由来する繰り返し単位(a3)1~50質量%と、
を含有し、
前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに含有される水酸基の少なくとも一部が保護基で保護されている。
前記蓄電デバイス用組成物の一態様において、
前記繰り返し単位(a1)と前記繰り返し単位(a2)の合計量が50質量%以上であってもよい。
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記保護基は、塩基の作用で脱保護するものであってもよい。
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記保護基がアシル基であってもよい。
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記重合体(A)が、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a4)0.1~30質量%を更に含有してもよい。
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記重合体(A)の、25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上であってもよい。
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記重合体(A)を、体積分率1:1のプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとからなる溶媒に、70℃、24時間の条件で浸漬させたときの膨潤率が、100質量%以上150質量%以下であってもよい。
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記重合体(A)の5質量%水溶液の、25℃、pH8における粘度が、500~150,000mPa・s/30rpmであってもよい。
前記蓄電デバイス用組成物のいずれかの態様において、
前記液状媒体(B)が水であってもよい。
本発明に係る蓄電デバイス電極用スラリーの一態様は、
前記いずれかの態様の蓄電デバイス用組成物と、活物質と、を含有する。
前記蓄電デバイス電極用スラリーの一態様において、
スチレン-ブタジエン系重合体、アクリル系重合体及びフッ素系重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体を更に含有してもよい。
前記蓄電デバイス電極用スラリーのいずれかの態様において、
前記活物質として、オリビン型リチウム含有リン酸化合物、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、及び三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有してもよい。
前記蓄電デバイス電極用スラリーのいずれかの態様において、
前記活物質として、リチウム化合物及び酸素を有するケイ素化合物を含有してもよい。
本発明に係る蓄電デバイス電極の一態様は、
集電体と、前記集電体の表面に前記いずれかの態様の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備える。
本発明に係る蓄電デバイスの一態様は、
前記態様の蓄電デバイス電極を備える。
本発明に係る蓄電デバイス用組成物によれば、蓄電デバイス電極用スラリーの経時的なpH上昇を防ぐことで電極の腐食の発生ないし重合体成分の分解を抑制するとともに、密着性及び充放電耐久特性に優れた蓄電デバイス電極を製造することができる。
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
本明細書における「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~」及び「メタクリル酸~」の双方を包括する概念である。また、「~(メタ)アクリレート」とは、「~アクリレート」及び「~メタクリレート」の双方を包括する概念である。
1.蓄電デバイス用組成物
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)5~90質量%と、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a2)5~90質量%と、不飽和カルボン酸エステル(但し、前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く)に由来する繰り返し単位(a3)1~50質量%と、を含有し、前
記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに含有される水酸基の少なくとも一部が保護基で保護されている。以下、本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
1.1.重合体(A)
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、重合体(A)を含有する。重合体(A)は、該重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)(以下、単に「繰り返し単位(a1)」ともいう)5~90質量%と、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a2)(以下、単に「繰り返し単位(a2)」ともいう)5~90質量%と、不飽和カルボン酸エステル(前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く)に由来する繰り返し単位(a3)(以下、単に「繰り返し単位(a3)」ともいう)1~50質量%と、を含有する。また、重合体(A)は、繰り返し単位(a1)~(a3)の他に、それと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物に含まれる重合体(A)は、液状媒体(B)中に分散されたラテックス状であってもよいし、液状媒体(B)中に溶解された状態であってもよいが、液状媒体(B)中に溶解された状態であることが好ましい。重合体(A)が液状媒体(B)中に溶解された状態であると、活物質と混合して作製される蓄電デバイス電極用スラリー(以下、単に「スラリー」ともいう)の安定性が良好となり、またスラリーの集電体への塗布性が良好となるため好ましい。
以下、重合体(A)を構成する繰り返し単位、重合体(A)の物性、製造方法の順に説明する。
1.1.1.重合体(A)を構成する繰り返し単位
1.1.1.1.不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)
重合体(A)は、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)を含有する。不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、5~90質量%である。繰り返し単位(a1)の含有割合の下限は、好ましくは7質量%であり、より好ましくは10質量%である。繰り返し単位(a1)の含有割合の上限は、好ましくは89質量%であり、より好ましくは88質量%である。重合体(A)が繰り返し単位(a1)を前記範囲で含有することにより、活物質の分散性が良好となり、均一な活物質層の作製が可能となるため、電極板の構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示すようになる。さらに、ケイ素材料を含有する活物質を使用する場合には、活物質同士の結合能力を高めることができるため、柔軟性や集電体に対する密着性に優れた活物質層が得られる。
不飽和カルボン酸としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の、モノカルボン酸及びジカルボン酸(無水物を含む)を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、及びイタコン酸から選択される1種以上を使用することが好ましい。
1.1.1.2.水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a2)
重合体(A)は、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a2)を含有する。水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a2)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、5~90質量%である。繰り返し単位(a2)の含有割合の下限は、好ましく
は7質量%であり、より好ましくは10質量%である。繰り返し単位(a2)の含有割合の上限は、好ましくは89質量%であり、より好ましくは88質量%である。重合体(A)が繰り返し単位(a2)を前記範囲で含有することにより、活物質の分散性が良好となり、均一な活物質層の作製が可能となるため、電極板の構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示すようになる。
水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルの中でも、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルを好ましく使用することができる。水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸5-ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、グリセリンモノ(メタ)アクリレート及びグリセリンジ(メタ)アクリレートから選択される1種以上であることが好ましく、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルであることが特に好ましい。
繰り返し単位(a2)が有する水酸基の少なくとも一部は、保護基で保護されている。スラリーを作製する際に水を主成分とする液状媒体を使用すると、水と活物質とが反応して水酸化物イオンが発生し、pHが塩基性側へシフトすることによって、電極が腐食したり、重合体成分の機能が阻害されてしまうという課題があった。本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、繰り返し単位(a2)を有する重合体(A)を含有しており、繰り返し単位(a2)中の保護基が塩基である水酸化物イオンを捕捉して脱保護されることで、系内の水酸化物イオンが消費され、スラリーの経時的なpH上昇を防ぐことができる。これにより、電極の腐食の発生や重合体成分の機能低下を効果的に抑制することができる。
前記保護基としては、水酸基の保護基として使用可能な基であれば特に限定されないが、塩基の作用で加水分解されて脱保護するものであることが好ましい。このような保護基としては、例えば、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等のトリヒドロカルビルシリル基;アセチル基、ベンゾイル基、ピバル基等のアシル基を挙げることができる。これらの中でも、前記繰り返し単位(a2)への導入を容易にするために、アシル基であることが好ましい。
アシル基としては、脂肪族アシル基及び芳香族アシル基が挙げられる。脂肪族アシル基は、直鎖でも分岐鎖でもよく、有機溶媒への溶解性及び水溶性の両方を向上させるために、直鎖が好ましい。また、脂肪族アシル基は、飽和でも不飽和でもよく、酸化耐性を向上させるために、飽和が好ましい。脂肪族アシル基の炭素数としては、有機溶媒への溶解性及び水溶性の両方を向上させるために、2~20が好ましく、2~15がより好ましく、2~10が更に好ましい。脂肪族アシル基中の脂肪族炭化水素基は、酸素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素、ケイ素等のヘテロ原子を有してもよい。脂肪族アシル基の具体例としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ピバル酸等の脂肪酸由来のアシル基が挙げられる。また、芳香族アシル基は、芳香族カルボン酸由来のアシル基であれば特に限定されるものではない。芳香族アシル基の炭素数としては、有機溶媒への溶解性及び水溶性の両方を向上させるために、6~20が好ましく、6~15がより好ましく、6~10が更に好ましい。芳香族アシル基中の芳香族炭化水素基は、酸素、窒素、硫黄、フッ素、塩素、臭素、ケイ素等のヘテロ原子を有してもよい。芳香族アシル基の具体例としては、例えば、安息香酸、4-メトキシ安息香酸、ナフタレン1-カルボン酸、ナフタレン2-カルボン酸などの芳香族カルボン酸由来のアシル基が挙げられる。
これらの保護基は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の任意の組み合わせを選択して用いてもよい。
繰り返し単位(a2)が有する水酸基の保護基による置換率(以下、「水酸基の置換率」ともいう)は、スラリーpHの上昇を抑制させるために、30モル%以上が好ましく、45モル%以上がより好ましく、65モル%以上が特に好ましい。そして、合成を簡便にするために、99モル%以下が好ましく、98モル%以下がより好ましく、97モル%以下が特に好ましい。水酸基の置換率は、固形分濃度、ガスクロマトグラフィー又はH-NMRを用いて算出でき、具体的には実施例に記載の方法により算出できる。水酸基の置換率を前記範囲とすることで、スラリーの経時的なpH上昇を防ぐことができ、その結果、電極の腐食の発生や重合体成分の機能低下を効果的に抑制することができる。
繰り返し単位(a2)が有する水酸基を保護基で置換する方法としては、繰り返し単位(a2)と、保護基を導入するための化合物と、を反応させる方法が挙げられる。アシル基を導入するための化合物としては、例えば、R-(C=O)-X(Rは直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、又はアリール基を表し、Xはハロゲン原子を表す)で示される化合物又はR-(C=O)-O-(C=O)-R(Rは上記と同様であり、複数存在するRは同一又は異なっていてもよい)で示される化合物を挙げることができる。
繰り返し単位(a2)が有する水酸基を保護基で置換するタイミングは、重合体(A)の製造と同時であってもよいし、重合体(A)の製造後であってもよい。重合体(A)の製造と同時である例としては、後述する重合体(A)の製造方法において、単量体の混合物、適当な乳化剤、連鎖移動剤、重合開始剤とともに前記保護基を導入するための化合物を反応させる方法;乳化重合終了後であって中和剤を加える前に前記保護基を導入するための化合物を反応させる方法;中和剤を加えた後に前記保護基を導入するための化合物を反応させる方法を挙げることができる。乳化重合終了後に保護基を導入するための化合物を反応させる場合には、前記保護基を導入するための化合物が溶解する有機溶媒を存在させてもよい。このような有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジグリム、トリグリム等のエーテル系溶剤;アセトン、ジブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;アセトニトリル、プロパンニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶剤等が挙げられるが、前記保護基を導入するための化合物が溶解する溶媒であれば特に制限されるものでない。これらの有機溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物を使用してもよい。
一方、繰り返し単位(a2)が有する水酸基を保護基で置換するタイミングが重合体(A)の製造後である例としては、重合混合物を濃縮して得た重合体を適当な有機溶媒に溶解し、前記保護基を導入するための化合物を反応させる方法が挙げられる。このような有機溶媒としては、前記保護基を導入するための化合物が溶解する有機溶媒の中から選択することができるが、重合体(A)が溶解し、反応効率を向上させられることから、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリルであることが好ましい。
この際、必要に応じて、第三級アミン、アミジン化合物、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等のN-H結合を持たない窒素含有化合物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物を加えてもよい。
また、重合体(A)は、少なくとも一部が保護基で保護された水酸基を含有する不飽和
カルボン酸エステル(以下、「保護基及び水酸基含有不飽和カルボン酸エステル」ともいう)を重合することによっても得ることができる。
前記保護基及び水酸基含有不飽和カルボン酸エステルとしては、繰り返し単位(a2)のところで説明した水酸基を含有する不飽和カルボン酸エステルの水酸基の少なくとも一部が、上述の保護基で保護された化合物が挙げられる。
重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)の合計量は、50質量%以上であることが好ましく、52質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることが特に好ましい。繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)の合計量が前記範囲であると、活物質の分散性が良好となり、柔軟性や密着性が向上するため、良好な繰り返し充放電特性かつ充放電耐久特性を示すようになる。
1.1.1.3.不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a3)
重合体(A)は、不飽和カルボン酸エステル(前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く)に由来する繰り返し単位(a3)を含有する。繰り返し単位(a3)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、1~50質量%である。繰り返し単位(a3)の含有割合の下限は、好ましくは2質量%であり、より好ましくは3質量%である。繰り返し単位(a3)の含有割合の上限は、好ましくは49質量%であり、特に好ましくは48質量%である。重合体(A)が繰り返し単位(a3)を前記範囲で含有することにより、重合体(A)が水溶液の状態で存在できるようになるため、活物質への被覆性が高くなり、均一な活物質層の作製が可能となり、電極板の構造欠陥が低減される。また、重合体(A)は電解液親和性が高いため、活物質を被覆しても電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制することができる。
不飽和カルボン酸エステルの中でも、(メタ)アクリル酸エステルを好ましく使用することができる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル等が挙げられ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル及びジ(メタ)アクリル酸エチレングリコールから選択される1種以上が好ましく、(メタ)アクリル酸メチルが特に好ましい。
1.1.1.4.その他の繰り返し単位
重合体(A)は、前記繰り返し単位(a1)~(a3)の他に、これらと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。このような繰り返し単位としては、例えば、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a4)(以下、単に「繰り返し単位(a4)」ともいう)、(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a5)(以下、単に「繰り返し単位(a5)」ともいう)、α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a6)(以下、単に「繰り返し単位(a6)」ともいう)、スルホン酸基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a7)(以下、単に「繰り返し単位(a7
)」ともいう)、カチオン性単量体に由来する繰り返し単位等が挙げられる。
<芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a4)>
重合体(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a4)を含有してもよい。芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a4)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、0.1~30質量%であることが好ましい。繰り返し単位(a4)の含有割合の下限は、より好ましくは0.2質量%であり、特に好ましくは0.5質量%である。繰り返し単位(a4)の含有割合の上限は、より好ましくは27質量%であり、特に好ましくは25質量%である。重合体(A)が繰り返し単位(a4)を前記範囲で含有することにより、活物質等に対して良好な結着力を示すようになり、柔軟性及び密着性に優れた蓄電デバイス電極が得られる場合がある。
芳香族ビニル化合物としては、特に限定されないが、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。
<(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a5)>
重合体(A)は、(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位(a5)を含有してもよい。繰り返し単位(a5)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、0~10質量%であることが好ましい。繰り返し単位(a5)の含有割合の下限は、より好ましくは1質量%であり、特に好ましくは2質量%である。繰り返し単位(a5)の含有割合の上限は、より好ましくは8質量%であり、特に好ましくは5質量%である。重合体(A)が繰り返し単位(a5)を前記範囲で含有することにより、スラリー中の活物質やフィラーの分散性が良好となる場合がある。また、得られる活物質層の柔軟性が適度となり、集電体と活物質層との密着性が向上する場合がある。さらに、グラファイトのような炭素材料やケイ素材料を含有する活物質同士の結合能力を高めることができるため、柔軟性や集電体に対する密着性がより良好な活物質層が得られる場合がある。
(メタ)アクリルアミドとしては、特に限定されないが、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド、アクリルアミドtert-ブチルスルホン酸等を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。
<α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a6)>
重合体(A)は、α,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a6)を含有してもよい。繰り返し単位(a6)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、0~60質量%であることが好ましい。繰り返し単位(a6)の含有割合の下限は、より好ましくは0.5質量%であり、特に好ましくは1質量%である。繰り返し単位(a6)の含有割合の上限は、より好ましくは55質量%であり、特に好ましくは50質量%である。重合体(A)が繰り返し単位(a6)を前記範囲で含有することにより、該重合体(A)の電解液への溶解を低減することが可能となり、電解液による密着性の低下を抑制できる場合がある。また、蓄電デバイス中で溶解した重合体成分が電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制できる場合がある。
α,β-不飽和ニトリル化合物としては、特に限定されないが、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。これらの中でも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルよりなる群から選択される1種以上が好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。
<スルホン酸基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a7)>
重合体(A)は、スルホン酸基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a7)を含有してもよい。繰り返し単位(a7)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、0~10質量%であることが好ましい。繰り返し単位(a7)の含有割合の下限は、より好ましくは0.5質量%であり、特に好ましくは1質量%である。繰り返し単位(a7)の含有割合の上限は、より好ましくは8質量%であり、特に好ましくは5質量%である。重合体(A)が繰り返し単位(a7)を前記範囲で含有することにより、活物質の分散性が良好となり、均一な活物質層の作製が可能となるため、電極板の構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示す場合がある。
スルホン酸基を有する化合物としては、特に限定されないが、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホブチル(メタ)アクリレート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-アクリルアミドプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸等の化合物、及びこれらのアルカリ塩等が挙げられ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。
<カチオン性単量体に由来する繰り返し単位>
重合体(A)は、カチオン性単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。カチオン性単量体としては、特に限定されないが、第二級アミン(塩)、第三級アミン(塩)、及び第四級アンモニウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体であることが好ましい。これらカチオン性単量体の具体例としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩化メチル4級塩、(メタ)アクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸3-(ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(ジエチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸4-(ジメチルアミノ)フェニル、(メタ)アクリル酸2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチル、(メタ)アクリル酸2-(0-[1’-メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(1-アジリジニル)エチル、メタクロイルコリンクロリド、イソシアヌル酸トリス(2-アクリロイルオキシエチル)、2-ビニルピリジン、キナルジンレッド、1,2-ジ(2-ピリジル)エチレン、4’-ヒドラジノ-2-スチルバゾール二塩酸塩水和物、4-(4-ジメチルアミノスチリル)キノリン、1-ビニルイミダゾール、ジアリルアミン、ジアリルアミン塩酸塩、トリアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジクロルミド、N-アリルベンジルアミン、N-アリルアニリン、2,4-ジアミノ-6-ジアリルアミノ-1,3,5-トリアジン、N-trans-シンナミル-N-メチル-(1-ナフチルメチル)アミン塩酸塩、trans-N-(6,6-ジメチル-2-ヘプテン-4-イニル)-N-メチル-1-ナフチルメチルアミン塩酸塩等が挙げられ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。
1.1.2.重合体(A)の物性
1.1.2.1.水に対する溶解度
重合体(A)は、水溶性重合体であることが好ましい。本発明における「水溶性重合体」とは、25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対し1g以上である
重合体のことをいう。重合体(A)が水溶性重合体であると、柔軟性や密着性に優れる重合体(A)によって活物質の表面がコーティングされやすくなるので、充放電時における活物質の伸縮による脱落を効果的に抑制でき、良好な充放電耐久特性を示す蓄電デバイスが得られやすい。また、スラリーの安定性が良好となり、スラリーの集電体への塗布性も良好となるため好ましい。
1.1.2.2.膨潤率
重合体(A)を体積分率1:1のプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとからなる溶媒に、70℃、24時間の条件で浸漬させたときの膨潤率は、100質量%以上150質量%以下であることが好ましい。膨潤率の下限は、より好ましくは105質量%であり、特に好ましくは110質量%である。膨潤率の上限は、より好ましくは145質量%であり、特に好ましくは140質量%である。膨潤率が前記範囲内にあると、重合体(A)は電解液に対して適度に膨潤することができる。その結果、溶媒和したリチウムイオンが容易に活物質へ到達することができ、電極の内部抵抗を低減させて、より良好な繰り返し充放電特性を実現できる。また、前記範囲の膨潤率であれば、大きな体積変化が発生しないため密着性にも優れる。重合体(A)の膨潤率は、後述の実施例に記載された方法により測定することができる。
1.1.2.3.粘度
固形分濃度5%、pH8の重合体(A)の水溶液について、B型粘度計を用いて温度25℃における粘度を測定した場合、好ましくは500~150,000mPa・s/30rpmであり、より好ましくは1,000~150,000mPa・s/30rpmであり、特に好ましくは2,000~150,000mPa・s/30rpmである。重合体(A)の水溶液の粘度が前記範囲にあると、活物質の分散性が良好となり、均質な活物質層を作製しやすい。その結果、構造欠陥のない電極等が得られ、良好な充放電特性を示すため好ましい。この粘度測定は、JIS Z8803に準拠して測定することができる。B型粘度計としては、例えば東機産業社製「RB-80L」、「TVB-10」等を使用することができる。
1.1.3.重合体(A)の製造方法
重合体(A)の製造方法については、特に限定されないが、例えば公知の乳化剤(界面活性剤)、連鎖移動剤、重合開始剤などの存在下で行う乳化重合法によることができる。乳化剤(界面活性剤)、連鎖移動剤、及び重合開始剤としては、特許第5999399号公報等に記載された化合物を用いることができる。
重合体(A)を合成するための乳化重合法は、一段重合で行ってもよく、二段重合以上の多段重合で行ってもよい。
重合体(A)の合成を一段重合によって行う場合、上記の単量体の混合物を、適当な乳化剤、連鎖移動剤、重合開始剤などの存在下で、好ましくは40~80℃において、好ましくは4~36時間の乳化重合によることができる。
重合体(A)の合成を二段重合によって行う場合、各段階の重合は以下のように設定することが好ましい。
一段目重合に使用する単量体の使用割合は、単量体の全質量(一段目重合に使用する単量体の質量と二段目重合に使用する単量体の質量との合計)に対して、20~100質量%の範囲とすることが好ましく、25~100質量%の範囲とすることがより好ましい。一段目重合をこのような単量体の使用割合で行うことにより、分散安定性に優れ、凝集物が生じ難い重合体(A)の粒子を得ることができるとともに、蓄電デバイス用組成物の経
時的な粘度上昇も抑制されることとなり好ましい。
二段目重合に使用する単量体の種類及びその使用割合は、一段目重合に使用する単量体の種類及びその使用割合と同じであってもよく、異なっていてもよい。
各段階の重合条件は、得られる重合体(A)の分散性を向上させるため、以下のようにすることが好ましい。
・一段目重合;好ましくは40~80℃の温度:好ましくは2~36時間の重合時間:好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上の重合転化率。
・二段目重合;好ましくは40~80℃の温度;好ましくは2~18時間の重合時間。
乳化重合における全固形分濃度を50質量%以下とすることにより、得られる重合体(A)の分散安定性が良好な状態で重合反応を進行させることができる。この全固形分濃度は、好ましくは48質量%以下であり、より好ましくは45質量%以下である。
重合体(A)の合成を一段重合として行う場合であっても、二段重合法による場合であっても、乳化重合終了後には重合混合物に中和剤を添加することにより、pHを7.0~8.5、好ましくは7.2~8.5、より好ましくは7.5~8.4に調整することが好ましい。ここで使用する中和剤としては、特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物;アンモニア等が挙げられる。上記のpH範囲に設定することにより、重合体(A)の安定性が良好となる。中和処理を行った後に、重合混合物を濃縮することにより、重合体(A)の良好な安定性を維持しながら固形分濃度を高くすることができる。
重合体(A)を合成する際の、繰り返し単位(a2)が有する水酸基を保護基で置換するタイミングは、乳化重合と同時であってもよく、乳化重合終了後であってもよいが、操作が容易であるため、乳化重合終了後であることが好ましい。乳化重合終了後に設ける場合は、中和剤を添加する前又は中和剤の添加後いずれの段階あってもよく、保護基を導入するための化合物が溶解する液状媒体を適宜加えてもよい。前記液状媒体は、保護基を導入するための化合物を溶解し得る液状媒体であれば、特に限定されるものではないが、非水系媒体であることが好ましい。前記液状媒体を加えることにより、保護基を導入するための化合物の導入比率が向上する場合がある。
1.1.4.重合体(A)の含有割合
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物における重合体(A)の含有割合は、重合体成分100質量%中、好ましくは10~100質量%であり、より好ましくは20~95質量%であり、特に好ましくは25~90質量%である。ここで、重合体成分には、重合体(A)、後述する重合体(A)以外の重合体、増粘剤等が含まれる。
1.2.液状媒体(B)
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、液状媒体(B)を含有する。液状媒体(B)としては、水を含有する水系媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。前記水系媒体には、水以外の非水系媒体を含有させることができる。この非水系媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物などを挙げることができ、これらの中から選択される1種以上を使用することができる。本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、液状媒体(B)として水系媒体を使用することにより、環境に対して悪影響を及ぼす程度が低くなり、取扱作業者に対する安全性も高くなる。
前記水系媒体中に含まれる非水系媒体の含有割合は、前記水系媒体100質量%中、1
0質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。ここで、「実質的に含有しない」とは、液状媒体(B)として非水系媒体を意図的に添加しないという程度の意味であり、蓄電デバイス用組成物を調製する際に不可避的に混入する非水系媒体を含んでいてもよい。
1.3.その他の添加剤
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、必要に応じて上述した成分以外の添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、例えば重合体(A)以外の重合体、防腐剤、増粘剤等が挙げられる。
1.3.1.重合体(A)以外の重合体
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、重合体(A)以外の重合体を含有してもよい。このような重合体としては、特に限定されないが、不飽和カルボン酸エステル又はこれらの誘導体を構成単位として含むアクリル系重合体、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系重合体、スチレン-ブタジエン系重合体(以下、「SBR」ともいう)等が挙げられる。これらの重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの重合体を含有することにより、柔軟性や密着性がより向上する場合がある。
1.3.2.防腐剤
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、防腐剤を含有してもよい。防腐剤を含有することにより、蓄電デバイス用組成物を貯蔵した際に、細菌や黴などが増殖して異物が発生することを抑制できる場合がある。防腐剤の具体例としては、特許第5477610号公報等に記載された化合物が挙げられる。
1.3.3.増粘剤
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物は、増粘剤を含有してもよい。増粘剤を含有することにより、スラリーの塗布性や得られる蓄電デバイスの充放電特性等をさらに向上できる場合がある。
増粘剤の具体例としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース化合物;ポリ(メタ)アクリル酸;前記セルロース化合物又は前記ポリ(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物等の水溶性ポリマーを挙げることができる。これらの中でも、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等が好ましい。
これら増粘剤の市販品としては、例えばCMC1120、CMC1150、CMC2200、CMC2280、CMC2450(以上、株式会社ダイセル製)等のカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩を挙げることができる。
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物が増粘剤を含有する場合、増粘剤の含有割合は、蓄電デバイス用組成物の全固形分量100質量%に対して、5質量%以下であることが好ましく、0.1~4質量%であることがより好ましい。
1.4.蓄電デバイス用組成物のpH
本実施形態に係る蓄電デバイス用組成物のpHは、好ましくは7.0~8.5であり、より好ましくは7.2~8.5であり、特に好ましくは7.5~8.4である。pHが前記範囲内にあれば、レベリング性不足や液ダレ等の問題の発生を抑制することができ、良
好な電気的特性と密着性とを両立させた蓄電デバイス電極を製造することが容易となる。
本明細書における「pH」とは、以下のようにして測定される物性をいう。25℃で、pH標準液として中性リン酸塩標準液及びほう酸塩標準液で校正したガラス電極を用いたpH計で、JIS Z8802:2011に準拠して測定した値である。このようなpH計としては、例えば東亜ディーケーケー株式会社製「HM-7J」や株式会社堀場製作所製「D-51」等が挙げられる。
なお、蓄電デバイス用組成物のpHは、重合体(A)を構成する単量体組成に影響を受けることを否定しないが、単量体組成のみで定まるものではないことを付言しておく。すなわち、一般的に同じ単量体組成であっても重合条件等で蓄電デバイス用組成物のpHが変化することが知られており、本願明細書の実施例はその一例を示しているに過ぎない。
例えば、同じ単量体組成であっても、重合反応液に最初から不飽和カルボン酸を全て仕込み、その後他の単量体を順次添加して加える場合と、不飽和カルボン酸以外の単量体を重合反応液へ仕込み、最後に不飽和カルボン酸を添加する場合とでは、得られる重合体の表面に露出する不飽和カルボン酸に由来するカルボキシ基の量は異なる。このように重合方法で単量体を加える順番を変更するだけでも、蓄電デバイス用組成物のpHは大きく異なると考えられる。
2.蓄電デバイス電極用スラリー
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、上述の蓄電デバイス用組成物と、活物質とを含有するものである。上述の蓄電デバイス用組成物は、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力並びに粉落ち耐性を向上させた蓄電デバイス電極(活物質層)を作製するための材料として使用される。以下、蓄電デバイス電極用スラリーについて詳細に説明する。
2.1.蓄電デバイス用組成物
蓄電デバイス用組成物については、上述した通りであるので説明を省略する。
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリー中の重合体成分の含有割合は、活物質100質量部に対し、好ましくは1~8質量部であり、より好ましくは1~7質量部であり、特に好ましくは1.5~6質量部である。重合体成分の含有割合が前記範囲にあると、スラリー中の活物質の分散性が良好となり、スラリーの塗布性も優れたものとなる。ここで、重合体成分には、重合体(A)、重合体(A)以外の重合体、及び増粘剤等が含まれる。
2.2.活物質
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーに使用される活物質としては、例えばリチウム原子を含む酸化物、炭素材料、ケイ素材料、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、アルミニウム化合物、ポリアセン等の導電性高分子、A(但し、Aはアルカリ金属又は遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも1種、Oは酸素原子を表し、X、Y及びZはそれぞれ1.10>X>0.05、4.00>Y>0.85、5.00>Z>1.5の範囲の数である)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が挙げられる。これらの具体例としては、特許第5999399号公報等に記載された化合物が挙げられる。
前記リチウム原子を含む酸化物としては、例えば、下記一般式(1)で表され、かつ、オリビン型結晶構造を有するリチウム原子含有酸化物(オリビン型リチウム含有リン酸化
合物)から選択される1種以上が挙げられる。
Li1-x(AO) ・・・・・(1)
(式(1)中、Mは、Mg、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Ga、Ge及びSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンであり、Aは、Si、S、P及びVよりなる群から選択される少なくとも1種であり、xは0<x<1の関係を満たす数である。)
なお、前記一般式(1)におけるxの値は、M及びAの価数に応じて、前記一般式(1)全体の価数が0価となるように選択される。
オリビン型リチウム含有リン酸化合物としては、例えば、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、Li0.90Ti0.05Nb0.05Fe0.30Co0.30Mn0.30POなどが挙げられる。これらのうち、特にLiFePO(リン酸鉄リチウム)は、原料となる鉄化合物の入手が容易であるとともに安価であるため好ましい。
オリビン型リチウム含有リン酸化合物の平均粒子径は、1~30μmの範囲にあることが好ましく、1~25μmの範囲にあることがより好ましく、1~20μmの範囲にあることが特に好ましい。
前記炭素材料としては、例えばアモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
前記ケイ素材料としては、例えばケイ素単体、ケイ素酸化物、ケイ素合金等を挙げることができるほか、例えばSiC、SiO(0<x≦3、0<y≦5)、Si、SiO、SiO(0<x≦2)で表記されるSi酸化物複合体(例えば特開2004-185810号公報や特開2005-259697号公報に記載されている材料など)、及び特開2004-185810号公報に記載されたケイ素材料を使用することができる。また、特開2017-097952号公報に記載された、リチウム化合物及び酸素を含有するケイ素化合物を使用することができる。前記ケイ素酸化物としては、組成式SiO(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるケイ素酸化物が好ましい。前記ケイ素合金としては、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄及びモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のケイ素合金は、高い電子伝導度を有し、かつ高い強度を有することから好ましく用いられる。また、活物質がこれらの遷移金属を含むことにより、活物質の表面に存在する遷移金属が酸化されて表面に水酸基を有する酸化物となるから、バインダーとの結着力がより良好になる点でも好ましい。ケイ素合金としては、ケイ素-ニッケル合金またはケイ素-チタン合金を使用することがより好ましく、ケイ素-チタン合金を使用することが特に好ましい。ケイ素合金におけるケイ素の含有割合は、該合金中の金属元素の全部に対して10モル%以上とすることが好ましく、20~70モル%とすることがより好ましい。なお、ケイ素材料は、単結晶、多結晶及び非晶質のいずれであってもよい。
前記リチウム化合物及び酸素を含有するケイ素化合物としては、ケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)及び結晶質のLiSiOを含むケイ素化合物粒子(以下、「リチウム-ケイ素化合物粒子」ともいう)を含有するケイ素化合物が挙げられる。前記リチウム-ケイ素化合物粒子は、SiOを変化させたリチウムシリケートの中でも、水に対して安定なLiSiOが多く存在しているため、電極作製時に用いる水系スラリーに対する安定性が向上し、蓄電デバイスのサイクル特性も向上する点で好ましい。前記リチウム-ケイ素化合物粒子は、メジアン径が1.0μm以上15μm以下であることが好ましい。メジアン径が1.0μm以上であれば、質量当たりの表面積の増加により充放
電特性が良好になる。一方で、メジアン径を15μm以下とすることで、粒子が割れ難くなるため新表面が出難くなる。
また、活物質層中には、ポリアセン等の導電性高分子;A(但し、Aはアルカリ金属又は遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも1種、Oは酸素原子を表し、X、Y及びZはそれぞれ1.10>X>0.05、4.00>Y>0.85、5.00>Z>1.5の範囲の数である)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が含まれていてもよい。複合金属酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム等が挙げられる。
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、正極及び負極のいずれの蓄電デバイス電極を作製する際にも使用することができるが、正極及び負極の両方に使用することが好ましい。
正極用スラリーを作製する際に水を主成分とする液状媒体を使用すると、充放電特性に劣るという課題があった。正極活物質は水との反応性が高いことが知られており、正極活物質と水との反応によって生じた水酸化物イオンが、正極表面を腐食することが要因の一つであると考えられる。
しかしながら、本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーを用いて作製された蓄電デバイス電極は、正極用スラリーの液状媒体として水を主成分とする液状媒体を使用した場合でも上述のような問題が発生することなく、良好な充放電特性を示すことができる。この理由としては、重合体(A)が有する保護基が、正極活物質と水との反応によって生じた水酸化物イオンと反応して脱保護されることで、系内の水酸化物イオンが消費され、正極表面の腐食を抑制できたためであると考えられる。
一方、負極を作製する場合には、上記例示した活物質の中でもケイ素材料を含有するものであることが好ましい。ケイ素材料は単位重量当たりのリチウムの吸蔵量がその他の活物質と比較して大きいことから、負極活物質としてのケイ素材料を含有することにより、蓄電デバイスの蓄電容量を高めることができ、その結果、蓄電デバイスの出力及びエネルギー密度を高くすることができる。
また、ケイ素材料の中でも、リチウム化合物及び酸素を含有するケイ素化合物であることがより好ましい。ケイ素材料は、充電時に一部がリチウムと反応し、不可逆成分となるSiOを生じ得る。そのため、ケイ素化合物にあらかじめリチウム化合物及び酸素を含有させておくことにより、前記不可逆成分の生成を抑制でき、充放電特性を向上させることができる。
しかしながら、負極活物質としてリチウム化合物及び酸素を含有するケイ素化合物を使用した場合、水を主成分とする液状媒体を使用すると、密着性が損なわれやすいという課題があった。リチウム化合物及び酸素を含有するケイ素化合物は、水と反応して水酸化物イオンを生成しやすく、この水酸化物イオンが重合体成分を分解することが要因の一つであると考えられる。
また、重合体成分が分解されることによって、活物質に被覆している重合体成分の応力が低下して、活物質の膨張及び収縮に追従できなくなる。その結果、電極膨張が大きくなり、リチウム化合物及び酸素を含有するケイ素化合物(負極活物質)が孤立することで、蓄電デバイスの充放電特性の悪化を招くという課題があった。
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーを用いて作製された蓄電デバイス電極は、リチウム化合物及び酸素を含有するケイ素化合物を使用した場合でも上述のような課題が生じることなく、良好な密着性を示すことができる。この理由としては、負極活物質と水との反応によって生じた水酸化物イオンと重合体(A)が有する保護基が、負極活物質と水との反応によって生じた水酸化物イオンと反応して脱保護されることで、系内の水酸化物イオンが消費され、重合体成分の分解を抑制できたためであると考えられる。
活物質100質量%中に占めるケイ素材料の含有割合は、1質量%以上とすることが好ましく、1~50質量%とすることがより好ましく、5~45質量%とすることがさらに好ましく、10~40質量%とすることが特に好ましい。活物質100質量%中に占めるケイ素材料の含有割合が前記範囲内であると、蓄電デバイスの出力及びエネルギー密度の向上と充放電耐久特性とのバランスに優れた蓄電デバイスが得られる。
活物質の形状は、粒子状であることが好ましい。活物質の平均粒子径は、0.1~100μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましい。ここで、活物質の平均粒子径とは、レーザー回折法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から算出される体積平均粒子径のことをいう。このようなレーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えばHORIBA LA-300シリーズ、HORIBA LA-920シリーズ(以上、株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。
活物質の使用割合は、活物質100質量部に対する重合体(A)の含有割合が、0.5~8質量部となるような割合で使用することが好ましく、1~7質量部となるような割合で使用することがより好ましく、2~6質量部となるような割合で使用することが特に好ましい。このような使用割合とすることにより、密着性により優れ、しかも電極抵抗が小さく充放電特性により優れた電極を製造することができる。
2.3.その他の成分
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、上述した成分以外に、必要に応じてその他の成分を添加してもよい。このような成分としては、例えば重合体(A)以外の重合体、増粘剤、液状媒体、導電付与剤、pH調整剤、腐食防止剤、セルロースファイバー等が挙げられる。重合体(A)以外の重合体及び増粘剤としては、前記「1.3.その他の添加剤」の項で例示した化合物の中から適宜選択して、同様の目的及び含有割合で用いることができる。
<液状媒体>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、蓄電デバイス用組成物からの持ち込み分に加えて、液状媒体を更に添加してもよい。添加される液状媒体は、蓄電デバイス用組成物に含まれていた液状媒体(B)と同種であってもよく、異なってもよいが、前記「1.2.液状媒体(B)」の項で例示した液状媒体の中から選択して使用されることが好ましい。
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーにおける液状媒体(蓄電デバイス用組成物からの持ち込み分を含む)の含有割合は、スラリー中の固形分濃度(スラリー中の液状媒体以外の成分の合計質量がスラリーの全質量に占める割合をいう。以下同じ。)が、30~70質量%となる割合とすることが好ましく、40~60質量%となる割合とすることがより好ましい。
<導電付与剤>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、導電性を付与するとともに、リチウムイオンの出入りによる活物質の体積変化を緩衝させることを目的として、導電付与剤
を更に添加してもよい。
導電付与剤の具体例としては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ等のカーボンが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラック又はカーボンナノチューブを好ましく使用することができる。導電付与剤の含有割合は、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1~15質量部であり、特に好ましくは2~10質量部である。
<pH調整剤・腐食防止剤>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、活物質の種類に応じて集電体の腐食を抑制することを目的として、pH調整剤もしくは腐食防止剤又はその両方を更に添加してもよい。
pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、ギ酸、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができ、これらの中でも、硫酸、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。また、重合体(A)の製造方法中に記載した中和剤の中から選択して使用することもできる。
腐食防止剤としては、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、メタタングステン酸カリウム、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等を挙げることができ、これらの中でもパラタングステン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウムが好ましい。
<セルロースファイバー>
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーには、セルロースファイバーを更に添加してもよい。セルロースファイバーを添加することにより、活物質の集電体に対する密着性を向上できる場合がある。繊維状のセルロースファイバーが線接着又は線接触によって隣接する活物質同士を繊維状結着させることにより、活物質の脱落を防止できるとともに、集電体に対する密着性を向上できると考えられる。
セルロースファイバーの平均繊維長は、0.1~1000μmの広い範囲から選択でき、例えば、好ましくは1~750μm、より好ましくは1.3~500μm、更に好ましくは1.4~250μm、特に好ましくは1.8~25μmである。平均繊維長が前記範囲にあれば、表面平滑性(塗膜均一性)が良好となり、集電体に対する活物質の密着性が向上する場合がある。
セルロースファイバーの繊維長は均一であってもよく、繊維長の変動係数([繊維長の標準偏差/平均繊維長]×100)は、例えば、好ましくは0.1~100、より好ましくは0.5~50、特に好ましくは1~30である。セルロースファイバーの最大繊維長は、例えば、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下、更により好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
セルロースファイバーの平均繊維長を活物質層の平均厚みに対して5倍以下とすると、表面平滑性(塗膜均一性)、及び活物質の集電体に対する密着性が更に向上するため有利
である。セルロースファイバーの平均繊維長は、活物質層の平均厚みに対して、好ましくは0.01~5倍、より好ましくは0.02~3倍、特に好ましくは0.03~2倍である。
セルロースファイバーの平均繊維径は、好ましくは1nm~10μm、より好ましくは5nm~2.5μm、更に好ましくは20nm~700nm、特に好ましくは30nm~200nmである。平均繊維径が前記範囲にあると、繊維の占有体積が大きくなりすぎず、活物質の充填密度を高めることができる場合がある。そのため、セルロースファイバーは、平均繊維径がナノメートルサイズのセルロースナノファイバー(例えば、平均繊維径が10nm~500nm、好ましくは25nm~250nm程度のセルロースナノファイバー)であることが好ましい。
セルロースファイバーの繊維径も均一であり、繊維径の変動係数([繊維径の標準偏差/平均繊維径]×100)は、好ましくは1~80、より好ましくは5~60、特に好ましくは10~50である。セルロースファイバーの最大繊維径は、好ましくは30μm以下、より好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下である。
セルロースファイバーの平均繊維径に対する平均繊維長の比(アスペクト比)は、例えば、好ましくは10~5000、より好ましくは20~3000、特に好ましくは50~2000である。アスペクト比が前記範囲にあると、集電体に対する活物質の密着性が良好となるとともに、繊維の破断強度を弱めることなく、電極の表面平滑性(塗膜均一性)が良好となる場合がある。
本発明において、平均繊維長、繊維長分布の標準偏差、最大繊維長、平均繊維径、繊維径分布の標準偏差、及び最大繊維径は、電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維(n=20程度)から算出した値であってもよい。
セルロースファイバーの材質は、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類で形成されていればよい。セルロースファイバーとしては、例えば、高等植物由来のセルロース繊維(例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(例えば、コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然セルロース繊維(パルプ繊維)など)、動物由来のセルロース繊維(例えば、ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース繊維(例えば、ナタデココに含まれるセルロースなど)、化学的に合成されたセルロース繊維(例えば、レーヨン、セルロースエステル(セルロースアセテートなど)、セルロースエーテル(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどのアルキルセルロースなどのセルロース誘導体など))などが挙げられる。これらのセルロースファイバーは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
これらのセルロースファイバーの中でも、適度なアスペクト比を有するナノファイバーを調製し易い点から、高等植物由来のセルロース繊維、例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)や種子毛繊維(コットンリンターパルプなど)などのパルプ由来のセルロース繊維が好ましい。
セルロースファイバーの製造方法は、特に限定されず、目的の繊維長及び繊維径に応じて、慣用の方法、例えば、特公昭60-19921号公報、特開2011-26760号公報、特開2012-25833号公報、特開2012-36517号公報、特開2012-36518号公報、特開2014-181421号公報などに記載された方法を利用
してもよい。
2.4.蓄電デバイス電極用スラリーの調製方法
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用スラリーは、上述の蓄電デバイス用組成物及び活物質を含有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。より良好な分散性及び安定性を有するスラリーを、より効率的かつ安価に製造する観点から、蓄電デバイス用組成物に、活物質及び必要に応じて用いられる任意添加成分を加え、これらを混合することにより製造することが好ましい。具体的な製造方法としては、例えば特許第6544150号公報等に記載された方法が挙げられる。
3.蓄電デバイス電極
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス電極は、集電体と、前記集電体の表面に上述の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備えるものである。かかる蓄電デバイス電極は、金属箔などの集電体の表面に、上述の蓄電デバイス電極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を乾燥して活物質層を形成することにより製造することができる。このようにして製造された蓄電デバイス電極は、集電体の表面に、上述の重合体(A)、活物質、及び必要に応じて添加された任意成分を含有する活物質層が結着されてなるものであるため、電極表面の腐食の発生が抑制されるとともに、密着性に優れ、蓄電デバイスの充放電耐久特性を向上させることができる。
集電体としては、導電性材料からなるものであれば特に制限されないが、蓄電デバイス電極をリチウムイオン二次電池に用いる場合は、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等の金属製の集電体を使用することができ、特に、アルミニウム製、銅製の集電体が好ましい。
蓄電デバイス電極をニッケル水素二次電池に用いる場合は、例えば、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板等からなる集電体を使用することができる。
集電体の形状及び厚さは特に制限されないが、例えば、厚さ0.001~0.5mm程度のシート状の集電体が好ましい。蓄電デバイス電極用スラリーを集電体の表面に塗布する場合、その塗布方法は特に制限されない。塗布方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法等を適宜用いることができる。
蓄電デバイス電極用スラリーの塗布量は特に制限されない。蓄電デバイス電極用スラリーを塗布し、液状媒体(水及び任意的に使用される非水系媒体の双方を包含する概念である)を除去した後に形成される正極活物質層の厚さが、0.005~5mmとなる塗布量が好ましく、0.01~2mmとなる塗布量がより好ましい。
活物質層の厚さが前記範囲内にあることによって、活物質層に効率的に電解液を染み込ませることができる。その結果、活物質層中の活物質と電解液との充放電に伴う金属イオンの授受が容易に行われるため、電極の内部抵抗をより低下させることができる。
また、活物質層の厚さが前記範囲内にあることで、電極を折り畳んだり、捲回する等して加工する場合においても、活物質層と集電体との密着性が良好であり、活物質層が集電体から剥離し難くなる。すなわち、柔軟性に富む蓄電デバイス電極が得られやすい点でも好ましい。
蓄電デバイス電極用スラリーを塗布して成る塗膜の乾燥方法(水及び任意的に使用され
る非水系媒体の除去方法)は特に制限されない。例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;(遠)赤外線、電子線等の照射による乾燥等の方法を用いることができる。
蓄電デバイス電極用スラリーを塗布して成る塗膜を乾燥させるときの乾燥速度は、例えば、応力集中によって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離したりしない条件の下で、できるだけ早く液状媒体が除去できるように、適宜設定することができる。
蓄電デバイス電極用スラリーを塗布して成る塗膜の乾燥後、蓄電デバイス電極をプレスすることにより、活物質層の密度を高め、密度及び活物質層における空孔率を以下に示す範囲に調整することが好ましい。
プレス後における活物質層の密度は、負極においては1.1~2.1g/cmであることが好ましく、1.2~2.0g/cmであることがより好ましく、1.3~1.8g/cmであることがさらに好ましく、1.4~1.7g/cmであることが特に好ましい。正極においては2.5~3.5g/cmであることが好ましく、2.6~3.4g/cmであることがより好ましく、2.7~3.3g/cmであることがさらに好ましく、2.8~3.2g/cmであることが特に好ましい。活物質層の密度を前記範囲とすれば、集電体と活物質層との間の結着性が良好であり、粉落ち性に優れ、かつ電気的特性にも優れた蓄電デバイス電極を得ることができる。
プレス後における活物質層の空孔率は、10~50%であることが好ましく、15~45%であることがより好ましく、20~40%であることが特に好ましい。活物質層の空孔率を前記範囲とすれば、集電体と活物質層との間の結着性が良好であり、粉落ち性に優れ、かつ電気的特性にも優れる蓄電デバイス電極を得ることができる。
また、活物質層の空孔率を前記範囲とすれば、活物質層内部へ電解液を十分に染み込ませることができ、活物質表面と電解液とが十分に接触する。その結果、活物質と電解液との間でリチウムイオンの授受が容易となり、良好な充放電特性を発現できる。
プレス方法としては、例えば、金型プレスやロールプレス等の方法が挙げられる。プレスの条件は、使用するプレス機器の種類や、活物質層の空孔率及び密度の所望値等に応じて適宜設定することができる。プレスの条件は、当業者による少数回の予備実験により、容易に設定することができる。
ロールプレスの方法を用いる場合のプレス条件は、例えば、以下のようにすることができる。
・ロールプレス機の線圧力:0.1~10(t/cm)、好ましくは0.5~5(t/cm)。
・ロール温度:20~100℃。
・蓄電デバイス電極の送り速度(ロールの回転速度):0.5~50m/min、好ましくは1~30m/min。
4.蓄電デバイス
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイスは、上述の蓄電デバイス電極を備え、更に電解液を含有し、セパレータなどの部品を用いて、常法に従って製造することができる。具体的な製造方法としては、例えば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に収納し、該電池容器に電解液を注入して封口する方法などを挙げることができる。電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、ラミネート型など、適宜の形状であることができる。
電解液は、液状でもゲル状でもよく、活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。このような電解質や溶媒については、例えば特許第5999399号公報等に記載された化合物が挙げられる。
上述の蓄電デバイスは、大電流密度での放電が必要なリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等に適用可能である。これらの中でもリチウムイオン二次電池が特に好ましい。本実施形態に係る蓄電デバイス電極及び蓄電デバイスにおいて、蓄電デバイス用組成物以外の部材は、公知のリチウムイオン二次電池用、電気二重層キャパシタ用やリチウムイオンキャパシタ用の部材を用いることが可能である。
5.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。なお、本明細書において、実施例1で製造された重合体(A)を「重合体(A-1)」と呼称し、同様に、実施例2で製造された重合体(A)を「重合体(A-2)」などと呼称する。
5.1.実施例1
5.1.1.重合体(A)の製造及び物性評価
5.1.1.1.重合体(A)の製造
容量7リットルのセパラブルフラスコに、水900質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸0.5質量部、アクリル酸30質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)1質量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)20質量部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)40質量部を加え、スチレン8質量部、ジビニルベンゼン1質量部を加え、十分に攪拌して上記単量体の混合物を含有する単量体乳化液を調製した。
上記セパラブルフラスコ内部の昇温を開始し、内部の温度が60℃に到達した時点で、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5質量部を加えた。そして、セパラブルフラスコの内部の温度が70℃に到達した時点で、上記で調製した単量体乳化液の添加を開始し、セパラブルフラスコの内部の温度を70℃に維持したまま単量体乳化液を3時間かけてゆっくりと添加した。その後、セパラブルフラスコの内部の温度を85℃に昇温し、この温度を3時間維持して重合反応を行った。3時間後、セパラブルフラスコを冷却して反応を停止した後、10wt%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを8.0に調整することにより、重合体を10質量%含有する重合体水溶液を得た。
次いで、表1に示すアシル化剤を仕込み、80℃で4時間反応させることにより、重合体が有する水酸基の一部がアシル基で置換された重合体(A-1)を含有する重合体水溶液を得た。
5.1.1.2.重合体(A)の物性評価
上記で得られた重合体(A-1)について、pH、粘度、膨潤率及び水溶性の評価を行った。pH、粘度及び水溶性の評価においては、重合体(A-1)の水溶液を測定試料とした。その結果を表1に示す。
<pHの測定>
上記で得られた重合体(A-1)の水溶液について、pHメーター(株式会社堀場製作所製)を用いて25℃におけるpHを測定した。
<粘度の測定>
上記で得られた重合体(A-1)の水溶液について、重合体(A-1)の濃度が5質量
%となるように水を加えた。このようにして得られた重合体(A-1)の水溶液について、B型粘度計を用いて25℃における粘度を測定した。
<膨潤率の測定>
上記で得られた重合体(A-1)を85℃の恒温槽で24時間乾燥させてフィルムを作製した。このフィルム1gを、プロピレンカーボネート(PC)及びジエチルカーボネート(DEC)からなる混合液(PC/DEC=1/1(体積比)、以下この混合液を「PC/DEC」という。)20mL中に浸漬して、70℃において24時間振とうした。次いで、300メッシュの金網で濾過して不溶分を分離した後、溶解分のPC/DECを蒸発除去して得た残存物の重量(Y(g))を測定した。また、上記の濾過で分離した不溶分(フィルム)の表面に付着したPC/DECを紙に吸収させて取り除いた後、該不溶分(フィルム)の重量(Z(g))を測定した。下記式によって重合体(A-1)の膨潤率を求めた。
膨潤率(質量%)=(Z/(1-Y))×100
<水溶性の評価>
上記で得られた重合体(A-1)の水溶液を、重合体(A-1)の濃度が1質量%となるように水を加えて希釈した。こうして得られた蓄電デバイス用組成物の1気圧25℃での透明度を目視にて確認した。その結果を表1に示す。前記希釈液が透明または半透明である場合は「水溶性」と判断し「A」、前記希釈液が白濁している場合は「水不溶性」と判断し「B」と表記した。
<水酸基の置換率>
重合体(A-1)が有する水酸基のアシル基置換率は、式(i)を用い、式(ii)の通り算出した。
Figure 2023049607000001
アシル基置換率(%)=(TSC-TSC)/(X-TSC)×100…(ii)

(式(i)及び式(ii)中の記号の説明)
・アシル化前の重合体(A-1)水溶液の固形分濃度(%):TSC
・アシル化後の重合体(A-1)水溶液の固形分濃度(%):TSC
・繰り返し単位(a2)の質量部数:wa1
・繰り返し単位(a2)分子量:Ma1
・アシル基導入前後での繰り返し単位(a2)の分子量の増分:PG
・繰り返し単位(a2)一分子あたりの水酸基の個数:OHa1
5.1.2.蓄電デバイス正極用スラリーの調製及び物性評価
5.1.2.1.蓄電デバイス正極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P-03」)に、前記重合体(A-1)を4質量部(固形分換算値、上記で得られた重合体(A-1)の10質量%水溶液として添加)、正極活物質としてNMC622(商品名「ME-8A」、北京当升社製)100質量部、アセチレンブラック5質量部及び水20質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。なお、前記NMC622は、正極活物質の一例である。
その後、更に1時間撹拌してペーストを得た。得られたペーストに水を加えて固形分濃度を70%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下(約5.0×10Pa)において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、蓄電デバイス正極用スラリーを調製した。
5.1.2.2.蓄電デバイス正極用スラリーのpHの評価
上記で得られた蓄電デバイス正極用スラリーを、25℃で4日間放置した。1日後及び4日後の時点での25℃におけるpHをpHメーター(株式会社堀場製作所製)によって測定したところ、それぞれ、8.6及び9.2であった。評価結果を下表1に示す。
5.1.3.蓄電デバイス用正極の作製及び評価
5.1.3.1.蓄電デバイス用正極の作製
厚み20μmのアルミニウム箔からなる集電体の表面に、上記で得られた蓄電デバイス正極用スラリーを、乾燥後の膜厚が100μmとなるように、ドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、形成された膜(正極活物質層)の密度が3.0g/cmになるように、ロールプレス機を用いてプレス加工することにより、蓄電デバイス用正極を得た。
5.1.3.2.密着強度の評価
上記で得られた蓄電デバイス用正極の表面に、ナイフを用いて活物質層から集電体に達する深さまでの切り込みを2mm間隔で縦横それぞれ10本入れて碁盤目の切り込みを作った。この切り込みに幅18mmの粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名「セロテープ」(登録商標)JIS Z1522に規定)を貼り付けて直ちに引き剥がし、活物質の脱落の程度を目視判定で評価した。評価基準は以下の通りである。評価結果を下表1に示す。
(評価基準)
・5点:活物質層の脱落が0個である。
・4点:活物質層の脱落が1~5個である。
・3点:活物質層の脱落が6~20個である。
・2点:活物質層の脱落が21~40個である。
・1点:活物質層の脱落が41個以上である。
5.1.4.蓄電デバイスの作製及び評価
5.1.4.1.蓄電デバイス負極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P-03」)に、増粘剤(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)1質量部(固形分換算)、負極活物質としてのグラファイト100質量部(固形分換算)、及び水68質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。
次に、SBR(商品名「TRD105A」、JSR株式会社製)を2質量部(固形分換算)に相当する量だけ加え、さらに1時間攪拌し、ペーストを得た。得られたペーストに水を投入し、固形分を50%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、蓄電デバイス負極用スラリーを調製した。
5.1.4.2.蓄電デバイス用負極の作製
厚み20μmの銅箔よりなる集電体の表面に、上記で得られた蓄電デバイス負極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるように、ドクターブレード法によって均一に塗布
し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、形成された膜(負極活物質層)の密度が1.9g/cmになるように、ロールプレス機を用いてプレス加工することにより、蓄電デバイス用負極を得た。
5.1.4.3.リチウムイオン電池セルの組立て
露点が-80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、上記で製造した蓄電デバイス用負極を直径15.95mmの円形に打ち抜き成形したものを、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。
次に、直径24mmの円形に打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード株式会社製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、上記で製造した蓄電デバイス用正極を直径16.16mmの円形に打ち抜き成形したものを、セパレータの上に重ねて載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セル(蓄電デバイスの一例)を組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPFを1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
5.1.4.4.リチウムイオン電池のサイクル特性の評価
上記で製造したリチウムイオン電池につき、25℃に調温された恒温槽にて、定電流(1.0C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。その後、定電流(1.0C)にて放電を開始し、電圧が3.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、1サイクル目の放電容量を算出した。このようにして100回充放電を繰り返した。下記式により容量保持率を計算し、下記の基準で評価した。評価結果を下表1に示す。
容量保持率(%)=(100サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)
(評価基準)
・5点:容量保持率が95%以上。
・4点:容量保持率が90%以上~95%未満。
・3点:容量保持率が85%以上~90%未満。
・2点:容量保持率が80%以上~85%未満。
・1点:容量保持率が75%以上~80%未満。
・0点:容量保持率が75%未満。
5.2.実施例2~13、比較例1~8
上記「5.1.1.1.重合体(A)の製造」の項において、単量体及びアシル化剤の種類や量をそれぞれ下表1又は下表2に記載の通りとした以外は同様にして、重合体を10質量%含有するpH8.0の重合体水溶液をそれぞれ得た。このようにして得た重合体水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、蓄電デバイス正極用スラリー、蓄電デバイス用正負極及びリチウムイオン電池をそれぞれ作製し、実施例1と同様に評価した。
5.3.実施例14
実施例2と同様にして重合体(A-2)を10質量%含有するpH8.0の重合体水溶液を得た。次いで、増粘剤(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)1質量部(固形分換算値、濃度2質量%の水溶液として添加)、重合体(A-2)を3質量部(固形分換算値、上記で得られた重合体(A-2)を10質量%含有するpH8.0の重合体水溶液として添加)に変更した以外は、実施例1と同様にして蓄電デバイス正極用スラリーを調製した。
上記で調製した蓄電デバイス正極用スラリーを用いた以外は、実施例1と同様にして蓄電デバイス用正負極及びリチウムイオン電池をそれぞれ作製し、実施例1と同様に評価した。
5.4.実施例15~27
蓄電デバイス正極用スラリーの組成を下表3のように変更した以外は、実施例14と同様にして蓄電デバイス正極用スラリーをそれぞれ調製し、蓄電デバイス用正負極及びリチウムイオン電池をそれぞれ作製し、実施例14と同様に評価した。
5.5.実施例28
5.5.1.蓄電デバイス負極用スラリーの調製及び物性評価
実施例1と同様にして重合体(A-1)を10質量%含有するpH8.0の重合体水溶液を得た。次いで、二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P-03」)に、重合体(A-1)を4質量部(固形分換算値、上記で得られた重合体(A-1)を10質量%含有するpH8.0の重合体水溶液として添加)、負極活物質として特開2017-097952号公報に記載の方法で作製したリチウム化合物及び酸素を含有するケイ素化合物と炭素系活物質を1:9の質量比で混合した混合負極活物質(ここで、炭素系活物質としては、ピッチ層で被覆した天然黒鉛及び人造黒鉛を5:5の質量比で混合したものを使用した。)100質量部、アセチレンブラック5質量部、及び水68質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。
その後、更に1時間撹拌してペーストを得た。得られたペーストに水を加えて固形分濃度を50%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下(約5.0×10Pa)において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、蓄電デバイス負極用スラリーを調製した。
5.5.2.蓄電デバイス負極用スラリーのpHの評価
上記で得られた蓄電デバイス負極用スラリーを、25℃で1日間放置した。1日後の時点での25℃におけるpHをpHメーター(株式会社堀場製作所製)によって測定したところ、10.2であった。評価結果を下表4に示す。
5.5.3.蓄電デバイス用負極の作製及び評価
5.5.3.1.蓄電デバイス用負極の作製
厚み20μmの銅箔よりなる集電体の表面に、上記で得られた蓄電デバイス負極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるように、ドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、形成された膜(負極活物質層)の密度が1.9g/cmになるように、ロールプレス機を用いてプレス加工することにより、蓄電デバイス用負極を得た。
5.5.3.2.密着強度の評価
上記で得られた蓄電デバイス用負極を用いた以外は、「5.1.3.2.密着強度の評価」に記載した方法と同様にして評価した。
5.5.4.蓄電デバイスの作製及び評価
実施例1と同様にして蓄電デバイス正極用スラリーを調製し、蓄電デバイス用正極を作製した。こうして得られた蓄電デバイス用正極と上記で得られた蓄電デバイス用負極を用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製し、実施例1と同様に評価した。
5.6.実施例29~40、比較例9~16
蓄電デバイス負極用スラリーに添加する重合体の種類を下表4又は下表5のように変更した以外は、実施例28と同様にして蓄電デバイス負極用スラリーをそれぞれ調製し、蓄電デバイス用正負極及びリチウムイオン電池をそれぞれ作製し、実施例28と同様に評価した。
5.7.実施例41
実施例4と同様にして重合体(A-4)を10質量%含有するpH8.0の重合体水溶液を得た。次いで、増粘剤(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)1質量部(固形分換算値、濃度2質量%の水溶液として添加)、重合体(A-4)を3質量部(固形分換算値、上記で得られた重合体(A-4)を10質量%含有するpH8.0の重合体水溶液として添加)に変更した以外は、実施例28と同様にして蓄電デバイス負極用スラリーを調製した。
上記で調製した蓄電デバイス負極用スラリーを用いた以外は実施例28と同様にして、蓄電デバイス正負極及びリチウムイオン電池をそれぞれ作製し、実施例28と同様に評価した。
5.8.実施例42~54
蓄電デバイス負極用スラリーの組成を下表6のように変更した以外は、実施例41と同様にして蓄電デバイス負極用スラリーをそれぞれ調製し、蓄電デバイス用正負極及びリチウムイオン電池をそれぞれ作製し、実施例41と同様に評価した。
5.9.評価結果
下表1~下表6に、実施例1~54及び比較例1~16で使用した重合体組成、及び各評価結果を示す。なお、下表1~下表2中に示された重合体組成を表す数値は質量%を表し、下表3及び下表6中に示された組成を表す数値は質量部を表す。
Figure 2023049607000002
Figure 2023049607000003
Figure 2023049607000004
Figure 2023049607000005
Figure 2023049607000006
Figure 2023049607000007
なお、上表1~上表6における各成分の略称は、それぞれ以下の化合物又は商品名を表す。
<不飽和カルボン酸>
・TA:イタコン酸
・AA:アクリル酸
・MAA:メタクリル酸
<水酸基を有する不飽和カルボン酸エステル>
・HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
・HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
・GLM:グリセリンモノメタクリレート
<不飽和カルボン酸エステル>
・MMA:メタクリル酸メチル
・CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
・2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
・BA:アクリル酸ブチル
・EA:アクリル酸エチル
・AMA:アクリル酸アリル
<芳香族ビニル化合物>
・ST:スチレン
・DVB:ジビニルベンゼン
<(メタ)アクリルアミド>
・AAM:アクリルアミド
・MAM:メタクリルアミド
<α,β-不飽和ニトリル化合物>
・AN:アクリロニトリル
<スルホン酸基を有する化合物>
・NASS:スチレンスルホン酸ナトリウム
<アシル化剤>
・A:無水酢酸
・B:塩化ベンゾイル
・P:塩化ピバロイル
<増粘剤>
・CMC:商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製
・アルギン酸:商品名「アルギン酸ナトリウム80~120」、富士フイルム和光純薬株式会社製
<バインダー>
・SBR:商品名「TRD105A」、JSR株式会社製
・AE:下記の手順で製造したアクリル系バインダーを使用した。
・FAE:商品名「TRD202A」、JSR株式会社製
(アクリル系バインダー(AE)の合成)
容量7リットルのセパラブルフラスコに、水150質量部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2質量部を仕込み、セパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した。
一方、別の容器に、水60質量部、乳化剤としてエーテルサルフェート型乳化剤(商品名「アデカリアソープSR1025」、(株)ADEKA製)を固形分換算で0.8質量部並びに単量体としてメタクリル酸シクロヘキシル1質量部、アクリロニトリル3質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル58質量部、アクリル酸n-ブチル10質量部、メタクリル酸n-ブチル5質量部、アクリル酸エチル5質量部、メタクリル酸アリル2質量部、
アクリルアミド2質量部、スチレン10質量部、スチレンスルホン酸ナトリウム1質量部及びアクリル酸3質量部を加え、十分に攪拌して上記単量体の混合物を含有する単量体乳化液を調製した。
上記セパラブルフラスコ内部の昇温を開始し、内部の温度が60℃に到達した時点で、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5質量部を加えた。そして、セパラブルフラスコの内部の温度が70℃に到達した時点で、上記で調製した単量体乳化液の添加を開始し、セパラブルフラスコの内部の温度を70℃に維持したまま単量体乳化液を3時間かけてゆっくりと添加した。その後、セパラブルフラスコの内部の温度を85℃に昇温し、この温度を3時間維持して重合反応を行った。3時間後、セパラブルフラスコを冷却して反応を停止した後、アンモニア水を加えてpHを8.0に調整することにより、アクリル系重合体(AE)からなる粒子を30質量%含有する水分散体を得た。
上表1~上表2から明らかなように、実施例1~13に示した本発明に係る蓄電デバイス用組成物を用いて調製された蓄電デバイス正極用スラリーは、比較例1~8の場合と比較して、活物質同士を好適に結着させることができ、良好な充放電耐久特性を有する蓄電デバイス用正極が得られた。上表1に示す実施例1~13の蓄電デバイス用組成物に含有される重合体(A)は、繰り返し単位中の水酸基の一部が保護基によって保護されている。液状媒体(B)と活物質との接触によって生じた水酸化物イオンによって保護基が脱保護され、系内の水酸化物イオンを消費することができたため、電極表面の腐食を抑制できたものと推測される。その結果、低抵抗となることができ、良好な充放電耐久特性を示したものと推測される。
また、上表3の結果から明らかなように、実施例14~27に示した本発明に係る蓄電デバイス用組成物を用いて調製された蓄電デバイス正極用スラリーでは、重合体(A)を単独で使用するよりも、増粘剤と併用することで活物質同士をより好適に結着させることができ、しかも活物質層と集電体の密着性をより良好に維持できることが判明した。
さらに、上表4~上表5の結果から明らかなように、実施例28~40に示した本発明に係る蓄電デバイス用組成物を用いて調製された蓄電デバイス負極用スラリーによれば、負極活物質を使用した場合においても良好な結果を示すことが判明した。上表4~上表5に示す実施例28~40の蓄電デバイス用組成物に含有される重合体(A)は、繰り返し単位中の水酸基の一部が保護基によって保護されている。液状媒体(B)と活物質との接触によって生じた水酸化物イオンによって保護基が脱保護され、系内の水酸化物イオンを消費することができ、重合体又は増粘剤として用いたCMCやアルギン酸の加水分解を抑制するとともに、活物質やフィラーの分散を良好にできたため、優れた密着強度を示したと考えられる。さらに、重合体(A)の活物質への被覆性が高く維持できたため、電極膨張を抑制し、その結果良好な充放電耐久特性を示したと推測される。
上表6の結果から明らかなように、実施例41~54に示した本発明に係る蓄電デバイス用組成物を用いて調製された蓄電デバイス負極用スラリーは、重合体(A)を単独で使用するよりも、増粘剤と併用することで活物質同士をより好適に結着させることができ、しかも活物質層と集電体の密着性をより良好に維持できることが判明した。
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。

Claims (15)

  1. 重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
    前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、
    不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a1)5~90質量%と、
    水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a2)5~90質量%と、
    不飽和カルボン酸エステル(前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く)に由来する繰り返し単位(a3)1~50質量%と、
    を含有し、
    前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに含有される水酸基の少なくとも一部が保護基で保護されている、蓄電デバイス用組成物。
  2. 前記繰り返し単位(a1)と前記繰り返し単位(a2)の合計量が50質量%以上である、請求項1に記載の蓄電デバイス用組成物。
  3. 前記保護基は、塩基の作用で脱保護する、請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス用組成物。
  4. 前記保護基がアシル基である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
  5. 前記重合体(A)が、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a4)0.1~30質量%を更に含有する、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
  6. 前記重合体(A)の、25℃、1気圧における水に対する溶解度が、水100gに対して1g以上である、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
  7. 前記重合体(A)を、体積分率1:1のプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートとからなる溶媒に、70℃、24時間の条件で浸漬させたときの膨潤率が、100質量%以上150質量%以下である、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
  8. 前記重合体(A)の5質量%水溶液の、25℃、pH8における粘度が、500~150,000mPa・s/30rpmである、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
  9. 前記液状媒体(B)が水である、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物。
  10. 請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用組成物と、活物質と、を含有する蓄電デバイス電極用スラリー。
  11. スチレン-ブタジエン系重合体、アクリル系重合体及びフッ素系重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体を更に含有する、請求項10に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
  12. 前記活物質として、オリビン型リチウム含有リン酸化合物、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、及び三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項10または請求項11に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
  13. 前記活物質として、リチウム化合物及び酸素を有するケイ素化合物を含有する、請求項10または請求項11に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
  14. 集電体と、前記集電体の表面に請求項10ないし請求項13のいずれかに一項に記載の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備える蓄電デバイス電極。
  15. 請求項14に記載の蓄電デバイス電極を備える蓄電デバイス。
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