JP2023042900A - 路面摩擦係数推定装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】空転しているか否かによらず、車輪と路面との間の最大路面摩擦係数を推定することが可能な路面摩擦係数推定装置を提供することを目的とする。【解決手段】路面摩擦係数推定装置10は、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数μPに達していない粘着状態である場合には、最大路面摩擦係数μPとして、μPモデル推定部13が推定演算するモデル最大路面摩擦係数μP_mdを選択する。一方、路面摩擦係数推定装置10は、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数μPを超えた空転状態である場合には、最大路面摩擦係数μPとして、ピークホールド推定部14が推定演算するピークホールド最大路面摩擦係数μP_phを選択する。【選択図】図1
Description
本開示は、車輪と路面との間の最大路面摩擦係数を推定することができる路面摩擦係数推定装置に関する。
例えば、特許文献1には、現在のタイヤ力と現在のスリップ度との検出値比を基準値比とし、接線勾配相関関係マップを参照することにより、該基準値比に対応する接線の傾きを車輪のグリップ特性を示すグリップ特性パラメータとして取得する車両接地面摩擦状態推定装置が開示されている。この取得したグリップ特性パラメータは、タイヤの摩擦限界に対する余裕度といったタイヤのグリップ特性を示す。
上記特許文献1に記載の車両接地面摩擦状態推定装置によれば、取得した接戦の傾きの大きさに応じて、タイヤグリップ力の摩擦限界を推定することで路面の摩擦限界を推定できることを示している。
しかしながら、上記特許文献1の車両接地面摩擦状態推定装置では、タイヤが空転していないときしか、路面の摩擦限界を推定するための有効な接線の傾きを得ることができない。
本開示は、上述した点に鑑みてなされたもので、空転しているか否かによらず、車輪と路面との間の最大路面摩擦係数を推定することが可能な路面摩擦係数推定装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本開示による路面摩擦係数推定装置(10)は、
少なくとも1つの車輪のスリップ率を算出するスリップ率算出部(11)と、
車輪の回転方向に作用する力と接地荷重とに基づき、車輪と路面との路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出部(12)と、
スリップ率算出部が算出するスリップ率の経時的変化の極性と、路面摩擦係数算出部が算出する路面摩擦係数の経時的変化の極性とに基づいて、車輪のスリップ状態を判定する判定部(17)と、
スリップ率と路面摩擦係数とに基づく第1の演算手法を用いて、車輪と路面との最大路面摩擦係数を推定演算する第1の演算部(13)と、
路面摩擦係数に基づく、第1の演算手法とは異なる第2の演算手法を用いて、車輪と路面との最大路面摩擦係数を推定演算する第2の演算部(14)と、
判定部による車輪のスリップ状態の判定結果に応じて、第1の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数と、第2の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数とのいずれかを選択する選択部(18)と、を備え、
判定部は、少なくとも、車輪のスリップ状態が、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数に達していない粘着状態であるか、最大路面摩擦係数を超えた空転状態であるかを判定し、
選択部は、判定部が粘着状態であると判定した場合に、第1の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数を選択し、判定部が空転状態であると判定した場合に、第2の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数を選択するように構成される。
少なくとも1つの車輪のスリップ率を算出するスリップ率算出部(11)と、
車輪の回転方向に作用する力と接地荷重とに基づき、車輪と路面との路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出部(12)と、
スリップ率算出部が算出するスリップ率の経時的変化の極性と、路面摩擦係数算出部が算出する路面摩擦係数の経時的変化の極性とに基づいて、車輪のスリップ状態を判定する判定部(17)と、
スリップ率と路面摩擦係数とに基づく第1の演算手法を用いて、車輪と路面との最大路面摩擦係数を推定演算する第1の演算部(13)と、
路面摩擦係数に基づく、第1の演算手法とは異なる第2の演算手法を用いて、車輪と路面との最大路面摩擦係数を推定演算する第2の演算部(14)と、
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判定部は、少なくとも、車輪のスリップ状態が、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数に達していない粘着状態であるか、最大路面摩擦係数を超えた空転状態であるかを判定し、
選択部は、判定部が粘着状態であると判定した場合に、第1の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数を選択し、判定部が空転状態であると判定した場合に、第2の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数を選択するように構成される。
上述したように、本開示の路面摩擦係数推定装置によれば、スリップ率の変化の極性と路面摩擦係数の変化の極性とに基づいて判定される車輪のスリップ状態に応じて、第1の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数と、第2の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数とのいずれかを選択する。特に、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数に達していない粘着状態である場合には、第1の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数が選択され、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数を超えた空転状態である場合には、第2の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数が選択される。このように、車輪のスリップ率が最大路面摩擦係数に対応するスリップ率未満であるか否か応じて、最大路面摩擦係数の演算手法を切り替えているので、車輪のスリップ率の大きさに係わらず、つまり、空転しているか否かによらず、車両が走行している路面の最大路面摩擦係数を適切に推定演算することが可能となる。
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
また、上述した特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明及び添付図面から明らかになる。
以下、本開示による路面摩擦係数推定装置の各実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1には、第1実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10の構成の一例を示す構成図が示されている。なお、図1に示す例では、路面摩擦係数推定装置10が車両22のタイヤ(車輪)に作用する駆動力を制御する駆動力制御システムに適用されている。駆動力制御システムは、路面摩擦係数推定装置10によって推定される最大路面摩擦係数μPに基づいて駆動力を制御する。しかしながら、路面摩擦係数推定装置10は、各車輪に作用する制動力を制御する制動力制御システムに適用され、制動力制御システムが、最大路面摩擦係数μPに基づいて、各車輪に作用する制動力を制御しても良い。
図1には、第1実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10の構成の一例を示す構成図が示されている。なお、図1に示す例では、路面摩擦係数推定装置10が車両22のタイヤ(車輪)に作用する駆動力を制御する駆動力制御システムに適用されている。駆動力制御システムは、路面摩擦係数推定装置10によって推定される最大路面摩擦係数μPに基づいて駆動力を制御する。しかしながら、路面摩擦係数推定装置10は、各車輪に作用する制動力を制御する制動力制御システムに適用され、制動力制御システムが、最大路面摩擦係数μPに基づいて、各車輪に作用する制動力を制御しても良い。
図1に示すように、駆動力制御システムは、駆動力制限部20、駆動力制御部21、モータジェネレータ(MG)を含む車両22、及び検出部23を有する。
駆動力制限部20は、車両22の運転者のアクセルペダル操作に応じた駆動力指令値を生成して出力する。ただし、駆動力制限部20は、駆動力指令値が、路面摩擦係数推定装置10によって推定された最大路面摩擦係数μPに基づいて設定される最大駆動力よりも大きい場合、最大駆動力に制限された駆動力指令値を生成して出力する。
駆動力制限部20は、路面摩擦係数推定装置10によって推定された最大路面摩擦係数μPに基づいて、車輪のスリップ率sが最大路面摩擦係数μPに対応するスリップ率を超えないように、駆動力指令値の最大値を設定する。このため、例えば、最大路面摩擦係数μPが相対的に低い路面を車両22が走行しているときに、車両22の運転者によってアクセルペダルが大きく踏み込まれたとしても、駆動力指令値は、設定された最大値以下に制限される。このようにして、駆動力制御システムは、車輪のスリップ率が最大路面摩擦係数μPに対応するスリップ率を超えることを抑制することができ、車両22の安定した走行を支援することができる。
駆動力制御部21は、車両22のモータジェネレータが駆動力制限部20によって出力された駆動力指令値に対応するMGトルクを発生するように、モータジェネレータにMG駆動信号を出力する。なお、本実施形態では、車両22の駆動力源としてモータジェネレータを採用しているため、駆動力制御部21はモータジェネレータに対してMG駆動信号を出力する。しかしながら、モータジェネレータに加えて、又は代えてエンジンなどの他の駆動力源が車両22に搭載されていても良い。
検出部23は、車両22のモータジェネレータが発生するMGトルクを検出するセンサ、車両22の各車輪の速度を検出するセンサ、車両22の各車輪の接地荷重を検出するセンサなどを備える。検出部23の各センサによる検出信号は路面摩擦係数推定装置10に入力される。
路面摩擦係数推定装置10は、図1に示すように、スリップ率(s)計算部11、路面摩擦係数(μ)推定値計算部12、最大路面摩擦係数(μP)モデル推定部13、及びピークホールド推定部14を備える。
s計算部11は、車両22の各車輪の速度の検出結果に基づいて、少なくとも1輪の駆動輪のスリップ率sを計算する。例えば、s計算部11は、各車輪の速度の平均に対する車輪速度の比から、少なくとも1輪の駆動輪のスリップ率sを算出することができる。あるいは、車両22が駆動力が作用する駆動輪と、単に転動するだけの従動輪とを含む場合、車輪のスリップ率sは、従動輪の速度に対する駆動輪の速度の比から計算しても良い。さらに、車両22の対地速度を検出するセンサを別途設け、検出される車両22の対地速度に対する少なくとも1輪の駆動輪の車輪速度の比からスリップ率sを計算しても良い。
μ推定値計算部12は、検出部23によって検出されるMGトルク、スリップ率が計算された車輪の車輪速度、及び当該車輪の接地荷重に基づいてμ推定値を計算する。例えば、μ推定値計算部12は、モータジェネレータがドライブトレイン(プロペラシャフト、デフなど)を介して車輪に連結されている場合、以下の数式1によって路面摩擦係数μを計算することができる。
なお、rは車輪の半径、Fzは接地荷重、TMはMGトルク、JWは車輪の慣性モーメント、JMはドライブトレインの慣性モーメント、ωMはモータの回転角速度、Nはモータジェネレータから車輪までの減速比である。
あるいは、μ推定値計算部12は、例えば特開2010―38194号公報に開示されるように、車輪の半径rとMGトルクTMから定まる駆動力を接地荷重Fzで除算することにより路面摩擦係数μを簡易的に算出しても良い。
μPモデル推定部13は、s計算部11によって計算された車輪のスリップ率sと、μ推定値計算部12によって計算されたμ推定値とを入力し、所定のタイヤモデルを利用して、モデル最大路面摩擦係数μP_mdを算出する。例えば、μPモデル推定部13は、図2に示す構成を含むことができる。図2に示す構成において、タイヤモデル30は、例えば、数式3に示すモデル式を用いて、入力されたスリップ率sからモデル路面摩擦係数μ_mdを算出する。
なお、数式3において、aは回転方向におけるタイヤ接地長、bはタイヤ接地幅、Cxはタイヤをブラシと仮定した場合のブラシせん断剛性である。
そして、タイヤモデル30にて算出されたモデル路面摩擦係数μ_mdと、μ推定値計算部12によって計算されたμ推定値との差分Δμが、適応機構31に入力される。適応機構31は、例えば、最小平均二乗(LMS)アルゴリズムや再帰的最小二乗(RLS)アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムに従って、モデル路面摩擦係数μ_mdとμ推定値との差分Δμが最小となるように、数式3に示すタイヤモデルの第1項~第3項のパラメータを適応させる。
このようにして、数式3に示すタイヤモデルのパラメータの各項が調整されると、その調整されたパラメータに基づきモデル最大路面摩擦係数μP_mdを算出することができる。より具体的には、μPモデル推定部13は、下記の数式4に示すように、数式3のパラメータの第1項と第2項とを用いた演算により、モデル最大路面摩擦係数μP_mdを算出することができる。
つまり、μPモデル推定部13は、数式3のパラメータの第1項の平方を第2項で除算することによりモデル最大路面摩擦係数μP_mdを算出することができる。
ピークホールド推定部14は、μ推定値計算部12によって計算されたμ推定値を入力し、その入力されたμ推定値の経時的変化におけるμ最大値をホールドする。そして、ピークホールド推定部14は、ホールドしているμ最大値をピークホールド最大路面摩擦係数μP_phとして出力する。
このように、本実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10においては、それぞれ異なる演算手法にて2種類の最大路面摩擦係数(モデル最大路面摩擦係数μP_mdとピークホールド最大路面摩擦係数μP_ph)が算出される。この2種類の最大路面摩擦係数は、車輪のスリップ状態に応じて、適宜、どちらか一方が選択される。以下に、2種類の最大路面摩擦係数の選択手法について説明する。
図3に示すように、本実施形態では、車輪のスリップ状態を、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数に達していない粘着状態、最大路面摩擦係数を超えた空転状態、高摩擦路面から低摩擦路面に乗り移った第1の乗り移り状態(高μ→低μ)、及び低摩擦路面から高摩擦路面に乗り移った第2の乗り移り状態(低μ→高μ)の4つの状態に区分する。
粘着状態においては、車輪のスリップ率sは、ゼロから最大路面摩擦係数μPに対応するスリップ率sまでの間で経時的に変化する。この粘着状態では、図3に示すように、スリップ率sが増加すれば路面摩擦係数μも増加し(図3の「粘着状態」の(1)の区間)、スリップ率sが減少すれば路面摩擦係数μも減少する(図3の「粘着状態」の(2)の区間)。すなわち、粘着状態では、スリップ率sの変化の極性と、路面摩擦係数μの変化の極性とは一致する。
従って、逆に言えば、スリップ率sの経時的変化の極性と路面摩擦係数μの経時的変化の極性が一致していれば、車輪のスリップ状態は粘着状態であると判断することができる。この粘着状態においては、上述したμPモデル推定部13により算出されるモデル最大路面摩擦係数μP_mdにより、車輪と路面との間の最大路面摩擦係数μPを精度良く求めることができる。従って、車輪のスリップ状態が粘着状態と判定された場合、最大路面摩擦係数μPとしてモデル最大路面摩擦係数μP_mdが選択される。
空転状態においては、車輪のスリップ率sは、経時的に、最大路面摩擦係数μPに対応するスリップ率sを超えて変化する。車輪のスリップ率sが、最大路面摩擦係数μPに対応するスリップ率sを超えた範囲では、図3に示すように、スリップ率sが増加したとき路面摩擦係数μは僅かに減少し(図3の「空転状態」の(2)の区間)、スリップ率sが減少したとき路面摩擦係数μはわずかに増加する(図3の「粘着状態」の(3)の区間)。本実施形態では、路面摩擦係数μの変化が所定のマイナス閾値からプラス閾値に属する場合、路面摩擦係数μの変化はゼロとみなす。このため、図3の「空転状態」の欄では、(2)、(3)の区間の路面摩擦係数μの変化がゼロと示されている。
従って、スリップ率sの経時的変化の極性と路面摩擦係数μの経時的変化の極性が一致せず、スリップ率sの経時的変化に対する路面摩擦係数μの経時的変化がゼロとみなせる範囲であれば、車輪のスリップ状態は空転状態であると判断することができる。この空転状態においては、上述したピークホールド推定部14により出力されるピークホールド最大路面摩擦係数μP_phにより、車輪と路面との間の最大路面摩擦係数μPを精度良く求めることができる。従って、車輪のスリップ状態が空転状態と判定された場合、最大路面摩擦係数μPとしてピークホールド最大路面摩擦係数μP_phが選択される。
高摩擦路面(高μ路)から低摩擦路面(低μ路)に乗り移った第1の乗り移り状態(高μ→低μ)においては、図3に示すように、車輪のスリップ状態は、高μ路のスリップ率-路面摩擦係数の特性曲線に従った変化から、低μ路のスリップ率-路面摩擦係数の特性曲線に従った変化に遷移する。この場合、車輪のスリップ率sが大きく増加するのに対して、路面摩擦係数μは大きく低下する(図3の「高μ→低μ」の(2)の区間)。その後、スリップ率sが大きく減少するとき、路面摩擦係数μは若干増加する(図3の「高μ→低μ」の(3)の区間)。
従って、スリップ率sの経時的変化の極性と路面摩擦係数μの経時的変化の極性が一致せず、スリップ率sの経時的変化の極性がプラスであるのに対して、路面摩擦係数μの経時的変化の極性がマイナスであれば、車輪のスリップ状態は第1の乗り移り状態であると判断することができる。この第1の乗り移り状態においては、高μ路のスリップ率-路面摩擦係数の特性曲線に従った変化から、低μ路のスリップ率-路面摩擦係数の特性曲線に従った変化に遷移する間に得られる路面摩擦係数μに関するデータは、乗り移り後の低μ路の路面摩擦係数μに対応したものではない。このため、高μ路から低μ路に乗り移る間(図3の「高μ→低μ」の(2)の区間)に得られる路面摩擦係数μ及びスリップ率sに関するデータは、最大路面摩擦係数μPを算出するためのデータから除外される。そして、低μ路に乗り移った後は、空転状態の場合と同様に、上述したピークホールド推定部14により出力されるピークホールド最大路面摩擦係数μP_phにより、車輪と路面との間の最大路面摩擦係数μPを精度良く求めることができる。従って、車輪のスリップ状態が第1の乗り移り状態と判定された場合、最大路面摩擦係数μPとして、高μ路から低μ路に乗り移る間の路面摩擦係数μ及びスリップ率sに関するデータを除外し、低μ路に乗り移った後に得られる路面摩擦係数μに基づくピークホールド最大路面摩擦係数μP_phが選択される。
低μ路から高μ路に乗り移った第2の乗り移り状態(低μ→高μ)においては、図3に示すように、車輪のスリップ状態は、低μ路のスリップ率-路面摩擦係数の特性曲線に従った変化から、高μ路のスリップ率-路面摩擦係数の特性曲線に従った変化に遷移する。この場合、車輪のスリップ率sが減少するのに対して、路面摩擦係数μは若干増加する(図3の「低μ→高μ」の(2)の区間)。その後、スリップ率sが減少するとき、路面摩擦係数μも減少する(図3の「低μ→高μ」の(3)の区間)。
従って、スリップ率sの経時的変化の極性と路面摩擦係数μの経時的変化の極性が一致せず、スリップ率sの経時的変化の極性がマイナスであるのに対して、路面摩擦係数μの経時的変化の極性がゼロ以上であれば、車輪のスリップ状態は第2の乗り移り状態であると判断することができる。この第2の乗り移り状態においては、低μ路のスリップ率-路面摩擦係数の特性曲線に従った変化から、高μ路のスリップ率-路面摩擦係数の特性曲線に従った変化に遷移する間に得られる路面摩擦係数μ及びスリップ率sに関するデータは、乗り移り後の高μ路の路面摩擦係数μに対応したものではない。このため、低μ路から高μ路に乗り移る間(図3の「低μ→高μ」の(2)の区間)に得られる路面摩擦係数μ及びスリップ率sに関するデータは、最大路面摩擦係数μPを算出するためのデータから除外される。そして、高μ路に乗り移った後は、粘着状態の場合と同様に、上述したμPモデル推定部13により出力されるモデル最大路面摩擦係数μP_mdにより、車輪と路面との間の最大路面摩擦係数μPを精度良く求めることができる。従って、車輪のスリップ状態が第2の乗り移り状態と判定された場合、最大路面摩擦係数μPとして、低μ路から高μ路に乗り移る間の路面摩擦係数μ及びスリップ率sに関するデータを除外し、高μ路に乗り移った後に得られるデータに基づくモデル最大路面摩擦係数μP_mdが選択される。
上述した2種類の最大路面摩擦係数の選択手法を実現するために、本実施形態に係る路面摩擦係数推定装置(10)は、図1に示すように、路面摩擦係数(μ)時間変化極性判定部15、スリップ率(s)時間変化極性判定部16、スリップ状態判定部17、及び選択部18を備える。
μ時間変化極性判定部15は、μ推定値計算部12が計算したμ推定値の経時的変化の極性を判定する。具体的には、μ時間変化極性判定部15は、μ推定値の経時的変化の大きさが所定のプラス閾値よりも大きければ、μ推定値の経時的変化の極性はプラスと判定する。μ時間変化極性判定部15は、μ推定値の経時的変化の大きさが所定のプラス閾値以下で、かつ所定のマイナス閾値以上であれば、μ推定値の経時的変化の極性はゼロと判定する。さらに、μ時間変化極性判定部15は、μ推定値の経時的変化の大きさが所定のマイナス閾値よりも小さければ、μ推定値の経時的変化の極性はマイナスと判定する。なお、μ時間変化極性判定部15は、μ推定値の経時的変化を、μ推定値の時間微分量(単位時間当たりの変化の大きさ)から求めることができる。
s時間変化極性判定部16は、s計算部11が計算したスリップ率sの経時的変化の極性を判定する。具体的には、s時間変化極性判定部16は、スリップ率sの経時的変化の大きさが所定のプラス閾値よりも大きければ、スリップ率sの経時的変化の極性はプラスと判定する。s時間変化極性判定部16は、スリップ率sの経時的変化の大きさが所定のプラス閾値以下で、かつ所定のマイナス閾値以上であれば、スリップ率sの経時的変化の極性はゼロと判定する。さらに、s時間変化極性判定部16は、スリップ率sの経時的変化の大きさが所定のマイナス閾値よりも小さければ、スリップ率sの経時的変化の極性はマイナスと判定する。ただし、s時間変化極性判定部16は、単に、スリップ率sの経時的変化の極性がプラスであるかマイナスであるかを判定するものであっても良い。なお、s時間変化極性判定部16は、スリップ率sの経時的変化を、スリップ率sの時間微分量から求めることができる。
スリップ状態判定部17は、μ時間変化極性判定部15によって判定されたμ推定値の経時的変化の極性と、s時間変化極性判定部16によって判定されたスリップ率sの経時的変化の極性とに基づいて、車輪のスリップ状態を判定する。具体的には、スリップ状態判定部17は、上述したように、車輪のスリップ状態が、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数μPに達していない粘着状態、最大路面摩擦係数μPを超えた空転状態、高μ路から低μ路に乗り移った第1の乗り移り状態(高μ→低μ)、及び低μ路から高μ路に乗り移った第2の乗り移り状態(低μ→高μ)のいずれであるかを判定する。
そして、スリップ状態判定部17は、車輪のスリップ状態が粘着状態であると判定すると、選択部18にモデル最大路面摩擦係数μP_mdを選択するように指示する。また、スリップ状態判定部17は、車輪のスリップ状態が空転状態であると判定すると、選択部18にピークホールド最大路面摩擦係数μP_phを選択するように指示する。
また、スリップ状態判定部17は、車輪のスリップ状態が第1の乗り移り状態(高μ→低μ)と判定すると、ピークホールド推定部14に、高μ路から低μ路に乗り移る間(図3の「高μ→低μ」の(2)の区間)に得られる路面摩擦係数μに関するデータを除外するよう、例えば、ピーク値をリセットするよう指示する。さらに、スリップ状態判定部17は、選択部18にピークホールド最大路面摩擦係数μP_phを選択するように指示する。
一方、スリップ状態判定部17は、車輪のスリップ状態が第2の乗り移り状態(低μ→高μ)と判定すると、ピークホールド推定部14に、低μ路から高μ路に乗り移る間(図3の「低μ→高μ」の(2)の区間)に得られる路面摩擦係数μ及びスリップ率sに関するデータを除外するよう、μPモデル推定部13に指示する。あるいは、スリップ状態判定部17は、車輪のスリップ状態が第2の乗り移り状態(低μ→高μ)と判定したときの路面摩擦係数μ及びスリップ率sに関するデータがμPモデル推定部13に入力されないように構成することも可能である。さらに、スリップ状態判定部17は、ピークホールド推定部14に、高μ路から低μ路に乗り移る間(図3の「低μ→高μ」の(2)の区間)に得られる路面摩擦係数μに関するデータを除外するよう、例えば、ピーク値をリセットするよう指示する。さらに、スリップ状態判定部17は、選択部18にモデル最大路面摩擦係数μP_mdを選択するように指示する。
このように、本実施形態による路面摩擦係数推定装置10は、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数μPに達していない粘着状態である場合には、最大路面摩擦係数μPとして、μPモデル推定部13が推定演算するモデル最大路面摩擦係数μP_mdを選択する。一方、路面摩擦係数推定装置10は、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数μPを超えた空転状態である場合には、最大路面摩擦係数μPとして、ピークホールド推定部14が推定演算するピークホールド最大路面摩擦係数μP_phを選択する。このように、車輪のスリップ率sが最大路面摩擦係数μPに対応するスリップ率未満であるか否か応じて、最大路面摩擦係数μPの演算手法を切り替えているので、車輪のスリップ率の大きさに係わらず、車両22が走行している路面の最大路面摩擦係数μPを適切に推定演算することが可能となる。
次に、本実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10において実行される最大路面摩擦係数μPを推定演算するための処理を、図4のフローチャートを参照して説明する。なお、図4のフローチャートに示す処理は、例えば所定周期で繰り返し実行される。
ステップS100では、MGトルク、車輪速度、及び車輪の接地荷重に基づいてμ推定値を計算する。ステップS110では、経時的に変化するμ推定値の時間微分量dμ/dtを計算する。ステップS120では、μ推定値の時間微分量dμ/dtの極性を判定する。この極性判定においては、μ推定値の時間微分量dμ/dtが所定のプラス閾値よりも大きければ、ステップS130において、μ推定値の時間微分量dμ/dtの極性はプラスと判定する。μ推定値の時間微分量dμ/dtの大きさが所定のプラス閾値以下で、かつ所定のマイナス閾値以上であれば、ステップS140において、μ推定値の時間微分量dμ/dtの極性はゼロと判定する。さらに、μ推定値の時間微分量dμ/dtの大きさが所定のマイナス閾値よりも小さければ、ステップS150において、μ推定値の時間微分量dμ/dtの極性はマイナスと判定する。
ステップS160では、例えば、車両22の各車輪の速度の検出結果に基づいて、少なくとも1輪の駆動輪のスリップ率sを計算する。ステップS170では、経時的に変化するスリップ率sの時間微分量ds/dtを計算する。ステップS180では、スリップ率sの時間微分量ds/dtの極性を判定する。この極性判定においては、スリップ率sの時間微分量ds/dtが所定のプラス閾値よりも大きければ、ステップS190において、スリップ率sの時間微分量ds/dtの極性はプラスと判定する。スリップ率sの時間微分量ds/dtの大きさが所定のプラス閾値以下で、かつ所定のマイナス閾値以上であれば、ステップS200において、スリップ率sの時間微分量ds/dtの極性はゼロと判定する。さらに、スリップ率sの時間微分量ds/dtの大きさが所定のマイナス閾値よりも小さければ、ステップS210において、スリップ率sの時間微分量ds/dtの極性はマイナスと判定する。なお、上述したように、スリップ率sの時間微分量ds/dtの極性は単にプラスであるかマイナスであるか判定するようにしても良い。
ステップS220では、判定されたμ推定値の時間微分量dμ/dtの極性と、スリップ率sの時間微分量ds/dtの極性とに基づいて、車輪のスリップ状態を判定する。具体的には、μ推定値の時間微分量dμ/dtの極性とスリップ率sの時間微分量ds/dtの極性とが一致する場合、ステップS230において、車輪のスリップ状態が、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数μPに達していない粘着状態と判定する。μ推定値の時間微分量dμ/dtの極性がマイナスで、かつスリップ率sの時間微分量ds/dtの極性がプラスの場合、ステップS240において、車輪のスリップ状態が、高μ路から低μ路に乗り移った第1の乗り移り状態(高μ→低μ)と判定する。μ推定値の時間微分量dμ/dtの極性がゼロ以上で、かつスリップ率sの時間微分量ds/dtの極性がマイナスの場合、ステップS250において、車輪のスリップ状態が、低μ路から高μ路に乗り移った第2の乗り移り状態(低μ→高μ)であると判定する。さらに、μ推定値の時間微分量dμ/dtの極性がゼロで、かつスリップ率sの時間微分量ds/dtの極性がプラスの場合、ステップS260において、車輪のスリップ状態が、最大路面摩擦係数μPを超えた空転状態であると判定する。
なお、車輪のスリップ状態が、第1の乗り移り状態、第2の乗り移り状態、及び空転状態のいずれかであると判定する場合、図3のそれぞれの状態の(2)の区間における、μ推定値の時間微分量dμ/dtの極性とスリップ率の時間微分量ds/dtとの組み合わせパターンだけでなく、(3)の区間におけるμ推定値の時間微分量dμ/dtの極性とスリップ率の時間微分量ds/dtとの組み合わせパターンも考慮して判定しても良い。
ステップS270では、車輪のスリップ状態の判定結果が、粘着状態、空転状態、第1の乗り移り状態(高μ→低μ)、及び第2の乗り移り状態(低μ→高μ)のいずれであるかを判定する。この判定処理において、車輪のスリップ状態の判定結果が粘着状態であると判定された場合、ステップ280において、最大路面摩擦係数μPとして、μPモデル推定によるモデル最大路面摩擦係数μP_mdを選択する。そして、ステップS290において、ピークホールド推定においてホールドされているピーク値をリセットする。これにより、少なくともモデル最大路面摩擦係数μP_mdからピークホールド最大路面摩擦係数μP_phに選択を切り替える前に、ホールドされているピーク値をリセットすることができる。
ステップS270において、車輪のスリップ状態の判定結果が粘着状態であると判定された場合、ステップ280において、最大路面摩擦係数μPとして、ピークホールド推定によるピークホールド最大路面摩擦係数μP_phを選択する。
ステップS270において、車輪のスリップ状態の判定結果が第1の乗り移り状態(高μ→低μ)又は第2の乗り移り状態(低μ→高μ)であると判定されると、ステップ310において、高μ路から低μ路又は低μ路から高μ路に乗り移る間に得られたμ推定値及びスリップ率sを破棄する。さらに、ステップS290において、ピークホールド推定においてホールドされているピーク値をリセットする。これにより、特に、車両22が走行する路面が高μ路から低μ路に変化した場合に、低μ路において取得されたμ推定値に基づいて、路面摩擦係数μの最大値を定めることができ、ピークホールド推定により適切なピークホールド最大路面摩擦係数μP_phを決定することができる。なお、第1の乗り移り状態と第2の乗り移り状態とを区別して、第1の乗り移り状態と判定したときだけ、ピーク値をリセットするようにしても良い。
なお、第1の乗り移り状態又は第2の乗り移り状態の後に、車両22が低μ路又は高μ路の走行を開始すると、その低μ路又は高μ路の最大路面摩擦係数μPは、上述したステップS300又はS280にて推定演算される。
(第2実施形態)
次に、本開示に係る路面摩擦係数推定装置10の第2実施形態について図面を参照して説明する。上述した第1実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10は、μ推定値の経時的変化の極性を、μ推定値の時間微分量の極性から求め、スリップ率sの経時的変化の極性を、スリップ率sの時間微分量の極性から求めるものであった。
次に、本開示に係る路面摩擦係数推定装置10の第2実施形態について図面を参照して説明する。上述した第1実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10は、μ推定値の経時的変化の極性を、μ推定値の時間微分量の極性から求め、スリップ率sの経時的変化の極性を、スリップ率sの時間微分量の極性から求めるものであった。
それに対して、第2実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10は、μ推定値の経時的変化の極性を、前輪と後輪の路面摩擦係数μの差分の極性から求め、スリップ率sの経時的変化の極性を、前輪と後輪のスリップ率sの差分の極性から求めるものである。ただし、本実施形態では、車両22の前輪及び後輪に加速スリップが発生することを前提とするものであるため、本実施形態は、全輪駆動車に適用される。
図5は、本実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10が、前輪と後輪の路面摩擦係数μ及びスリップ率sの差分の極性を求め、それらの極性の組み合わせパターンから車輪のスリップ状態を判定する処理を示すフローチャートである。なお、車輪のスリップ状態の判定以降の処理は、図4のフローチャートの処理と同様であるため、図示を省略している。
ステップS105では、MGトルク、車輪速度、及び車輪の接地荷重に基づいて、前輪及び後輪のμ推定値を計算する。ステップS115では、前後輪のμ推定値の差分μdifを計算する。ステップS125では、μ推定値の差分μdifの極性を判定する。この極性判定においては、μ推定値の差分μdifが所定のプラス閾値よりも大きければ、ステップS135において、μ推定値の差分μdifの極性はプラスと判定する。μ推定値の差分μdifの大きさが所定のプラス閾値以下で、かつ所定のマイナス閾値以上であれば、ステップS145において、μ推定値の差分μdifの極性はゼロと判定する。さらに、μ推定値の差分μdifの大きさが所定のマイナス閾値よりも小さければ、ステップS155において、μ推定値の差分μdifの極性はマイナスと判定する。
ステップS165では、前輪及び後輪のスリップ率sを計算する。ステップS175では、前後輪のスリップ率sの差分sdifを計算する。ステップS185では、スリップ率sの差分sdifの極性を判定する。この極性判定においては、スリップ率sの差分sdifが所定のプラス閾値よりも大きければ、ステップS195において、スリップ率sの差分sdifの極性はプラスと判定する。スリップ率sの差分sdifの大きさが所定のプラス閾値以下で、かつ所定のマイナス閾値以上であれば、ステップS205において、スリップ率sの差分sdifの極性はゼロと判定する。さらに、スリップ率sの差分sdifの大きさが所定のマイナス閾値よりも小さければ、ステップS215において、スリップ率sの差分sdifの極性はマイナスと判定する。
ステップS225では、判定されたμ推定値の差分μdifの極性と、スリップ率sの差分sdifの極性とに基づいて、車輪のスリップ状態を判定する。具体的には、μ推定値の差分μdifの極性とスリップ率sの差分sdifの極性がともにゼロである場合、すなわち、前後輪でμ推定値及びスリップ率sに実質的な差が生じていない場合、ステップS230において、車輪のスリップ状態が、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数μPに達していない粘着状態と判定する。
ステップS225の判定処理において、μ推定値の差分μdifの極性がマイナスの場合、すなわち、前輪のμ推定値が後輪のμ推定値よりも小さい場合、ステップS240において、車輪のスリップ状態が、高μ路から低μ路に乗り移った第1の乗り移り状態(高μ→低μ)と判定する。逆に、μ推定値の差分μdifの極性がプラスの場合、すなわち、前輪のμ推定値が後輪のμ推定値よりも大きい場合、ステップS250において、車輪のスリップ状態が、低μ路から高μ路に乗り移った第2の乗り移り状態(低μ→高μ)であると判定する。
さらに、ステップS225の判定処理において、μ推定値の差分μdifの極性がゼロで、かつスリップ率sの差分sdifの極性がプラスの場合、すなわち、前輪及び後輪におけるμ推定値は同等であるが、前輪のスリップ率sが後輪のスリップ率sよりも大きい場合、ステップS260において、車輪のスリップ状態が、最大路面摩擦係数μPを超えた空転状態であると判定する。車両22が加速するときには、いわゆるスクォートにより、空転状態は前輪に発生しやすくなるためである。
このように、車輪の路面摩擦係数μの経時的変化の極性及びスリップ率sの経時的変化の極性を、前輪と後輪のμ推定値及びスリップ率sの差分の極性から求めることができ、さらに、前輪と後輪のμ推定値及びスリップ率sの差分の極性から、車輪のスリップ状態を適切に判定することができる。
(第3実施形態)
次に、本開示に係る路面摩擦係数推定装置10の第3実施形態について図面を参照して説明する。上述した第1実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10は、μ推定値の経時的変化の極性とスリップ率sの経時的変化の極性とに基づいて、車輪のスリップ状態を判定し、判定した車輪のスリップ状態から、最大路面摩擦係数μPとして、モデル最大路面摩擦係数μP_mdとピークホールド最大路面摩擦係数μP_phとのいずれかを選択するものであった。
次に、本開示に係る路面摩擦係数推定装置10の第3実施形態について図面を参照して説明する。上述した第1実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10は、μ推定値の経時的変化の極性とスリップ率sの経時的変化の極性とに基づいて、車輪のスリップ状態を判定し、判定した車輪のスリップ状態から、最大路面摩擦係数μPとして、モデル最大路面摩擦係数μP_mdとピークホールド最大路面摩擦係数μP_phとのいずれかを選択するものであった。
それに対して、本実施形態に係る路面摩擦係数推定装置10は、図6のフローチャートに示すように、μPモデル推定によるモデル最大路面摩擦係数μP_mdと、ピークホールド推定によるピークホールド最大路面摩擦係数μP_phとのどちらが、最大路面摩擦係数μPとしてより確からしいかを統計処理により判定するものである。そのため、図6のフローチャートには、統計処理を行うステップS325が設けられている。なお、図6のフローチャートは、本実施形態の特徴部分に関する処理のみを示し、その他の処理は省略している。
ステップS325の統計処理では、例えば、所定期間におけるμPモデル推定によるモデル最大路面摩擦係数μP_mdの変動幅の大きさと、ピークホールド推定によるピークホールド最大路面摩擦係数μP_phの変動幅の大きさをそれぞれ求める。そして、モデル最大路面摩擦係数μP_mdの変動幅と、ピークホールド最大路面摩擦係数μP_phの変動幅とで、どちらがより小さい変動幅を持つかを判定する。最大路面摩擦係数μPは、より小さい変動幅を持つモデル最大路面摩擦係数μP_md、又はピークホールド最大路面摩擦係数μP_phに基づき決定することができる。例えば、最大路面摩擦係数μPは、より小さい変動幅を持つモデル最大路面摩擦係数μP_md、又はピークホールド最大路面摩擦係数μP_phの最頻出値、平均値、中央値などとして求めることができる。
例えば、図7(a)は、車輪のスリップ状態が粘着状態であるときに得られるμ推定値及びスリップ率sに基づいて推定演算された、複数のモデル最大路面摩擦係数μP_mdの変動幅と、複数のピークホールド最大路面摩擦係数μP_phの変動幅との一例を示している。図7(a)に示すケースでは、複数のモデル最大路面摩擦係数μP_mdの変動幅が、複数のピークホールド最大路面摩擦係数μP_phの変動幅よりも小さいため、最大路面摩擦係数μPは、複数のモデル最大路面摩擦係数μP_mdに基づいて決定される。
一方、図7(b)は、車輪のスリップ状態が空転状態となるときに得られるμ推定値及びスリップ率sに基づいて推定演算された、複数のモデル最大路面摩擦係数μP_mdの変動幅と、複数のピークホールド最大路面摩擦係数μP_phの変動幅との一例を示している。図7(b)に示すケースでは、複数のモデル最大路面摩擦係数μP_mdの変動幅が、複数のピークホールド最大路面摩擦係数μP_phの変動幅よりも大きいため、最大路面摩擦係数μPは、ピークホールド最大路面摩擦係数μP_phに基づいて決定される。
以上、本開示の好ましい複数の実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態になんら制限されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
例えば、上述した第3実施形態における統計処理は、第1実施形態又は第2実施形態における最大路面摩擦係数μPの選択手法と組み合わせて実施されてもよい。例えば、車輪のスリップ状態に基づき選定された最大路面摩擦係数μPの推定演算結果の変動幅が、他方の推定演算結果の変動幅よりも明らかに大きい場合には、統計処理による推定演算結果の選定を優先するようにしても良い。
10:路面摩擦係数推定装置、11:スリップ率計算部、12:路面摩擦係数推定値計算部、13:最大路面摩擦係数モデル推定部、14:ピークホールド推定部、15:路面摩擦係数時間変化極性判定部、16:スリップ率時間変化極性判定部、17:スリップ状態判定部、18:選択部、20:駆動力制限部、21:駆動力制御部、22:車両、23:検出部、30:タイヤモデル、31:適応機構
Claims (9)
- 少なくとも1つの車輪のスリップ率を算出するスリップ率算出部(11)と、
前記車輪の回転方向に作用する力と接地荷重とに基づき、前記車輪と路面との路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出部(12)と、
前記スリップ率算出部が算出する前記スリップ率の経時的変化の極性と、前記路面摩擦係数算出部が算出する前記路面摩擦係数の経時的変化の極性とに基づいて、前記車輪のスリップ状態を判定する判定部(17)と、
前記スリップ率と前記路面摩擦係数とに基づく第1の演算手法を用いて、車輪と路面との最大路面摩擦係数を推定演算する第1の演算部(13)と、
前記路面摩擦係数に基づく、前記第1の演算手法とは異なる第2の演算手法を用いて、車輪と路面との最大路面摩擦係数を推定演算する第2の演算部(14)と、
前記判定部による前記車輪のスリップ状態の判定結果に応じて、前記第1の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数と、前記第2の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数とのいずれかを選択する選択部(18)と、を備え、
前記判定部は、少なくとも、車輪のスリップ状態が、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数に達していない粘着状態であるか、最大路面摩擦係数を超えた空転状態であるかを判定し、
前記選択部は、前記判定部が粘着状態であると判定した場合に、前記第1の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数を選択し、前記判定部が空転状態であると判定した場合に、前記第2の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数を選択する路面摩擦係数推定装置。 - 前記判定部は、少なくとも1つの車輪の前記スリップ率及び前記路面摩擦係数の時間微分量をそれぞれ算出し、算出したそれぞれの時間微分量の極性から、前記スリップ率の経時的変化の極性及び前記路面摩擦係数の経時的変化の極性を求める、請求項1に記載の路面摩擦係数推定装置。
- 前記判定部は、前輪と後輪の前記スリップ率及び前記路面摩擦係数の差分をそれぞれ算出し、算出したそれぞれの差分の極性から、前記スリップ率の経時的変化の極性及び前記路面摩擦係数の経時的変化の極性を求める、請求項1に記載の路面摩擦係数推定装置。
- 前記判定部は、前記スリップ率算出部が算出する前記スリップ率の経時的変化の極性と、前記路面摩擦係数算出部が算出する前記路面摩擦係数の経時的変化の極性とに基づき、車輪と路面との摩擦状態が最大路面摩擦係数に達していない粘着状態、最大路面摩擦係数を超えた空転状態、高摩擦路面から低摩擦路面に乗り移った第1の乗り移り状態、及び低摩擦路面から高摩擦路面に乗り移った第2の乗り移り状態のいずれであるかを判定し、
前記第1の演算部及び前記第2の演算部は、前記判定部が前記第1の乗り移り状態もしくは前記第2の乗り移り状態と判定した場合、車両22が摩擦係数が異なる路面間を乗り移る際に算出された前記スリップ率及び前記路面摩擦係数を除外して、最大路面摩擦係数を推定演算する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の路面摩擦係数推定装置。 - 前記第1の演算部は、前記スリップ率と前記路面摩擦係数との関係を定めたタイヤモデル式を用いて、最大路面摩擦係数を推定演算するものであり、
前記第2の演算部は、前記路面摩擦係数算出部による算出される前記路面摩擦係数のピーク値から、最大路面摩擦係数を推定演算するものである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の路面摩擦係数推定装置。 - 前記路面摩擦係数のピーク値は、少なくとも、前記選択部が、前記第1の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数から前記第2の演算部が推定演算する最大路面摩擦係数に選択を切り替える前にリセットされる、請求項5に記載の路面摩擦係数推定装置。
- 前記第1の演算部は、前記スリップ率からタイヤモデル式を用いて求めた路面摩擦係数と、前記路面摩擦係数算出部により算出された路面摩擦係数との誤差が最小になるように、前記タイヤモデル式のパラメータを調整する適応機構(31)と、前記適応機構により調整されたパラメータから最大路面摩擦係数を算出する最大路面摩擦係数算出部とを有する、請求項5に記載の路面摩擦係数推定装置。
- 少なくとも1つの車輪のスリップ率を算出するスリップ率算出部(11)、
前記車輪に作用する制駆動力と接地荷重とに基づき、前記車輪と路面との路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出部(12)と、
前記スリップ率と前記路面摩擦係数とに基づく第1の演算手法を用いて、車輪と路面との最大路面摩擦係数を推定演算する第1の演算部(13)と、
前記路面摩擦係数に基づく、前記第1の演算手法とは異なる第2の演算手法を用いて、車輪と路面との最大路面摩擦係数を推定演算する第2の演算部(14)と、
前記第1の演算部が推定演算する複数の最大路面摩擦係数と、前記第2の演算部が推定演算する複数の最大路面摩擦係数とを統計処理して、より確からしい最大路面摩擦係数を決定する統計処理部(S325)と、を備える路面摩擦係数推定装置。 - 前記統計処理部は、前記第1の演算部及び第2の演算部がそれぞれ推定演算する複数の最大路面摩擦係数の変動幅の大きさに基づき、より変動幅の小さい複数の最大路面摩擦係数を選定し、その選定した複数の最大路面摩擦係数から、より確からしい最大路面摩擦係数を決定する、請求項8に記載の路面摩擦係数推定装置。
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