JP2023029405A - 植物体の物理的強化剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】酢酸が植物体に対して与える影響を明確にし、その作用を利用する農薬資材を提供すること。【解決手段】酢酸またはその塩を有効成分とする、植物体の物理的強化剤。【選択図】なし

Description

本発明は、酢酸またはその塩を有効成分とする、植物体の物理的強化剤に関する。
「食酢」は、農薬取締法に規定する特定防除資材(通称、「特定農薬」という。)として指定された防除資材であり、酢酸を主成分として多くの有機酸類を含んでおり、食用においても殺菌効果を有することが知られている。植物病害に対する効果は、処理することにより植物体のpHが急激に低下することに起因して、病原菌が死滅することにあると考えられている。さらに、「食酢」には強い浸透力があるため、植物組織内に存在する病原菌に対しても防除効果を発揮し、種子消毒用としてイネのもみ枯細菌病、ばか苗病、ごま葉枯病に対して効果が認められている。
近年、使用者の安全志向の向上により、天然物由来の農薬資材のニーズが高まっており、防除資材としての「食酢」の利用が注目されている。例えば、食酢とリン酸を有効成分とするポストハーベスト病害防除剤を使用して、収穫後の農産物の腐敗を防止することが提案(特許文献1)されている。また、食酢と香料を誘引成分として、ハエ類などの飛翔害虫を誘引することも提案(特許文献2)されている。
一方、「食酢」は、特定防除資材として指定されていることから、人畜および水産動植物に対して害を及ぼすおそれが無いことは公知であるものの、植物体に対して使用した場合に、植物体にどのような影響を与えるかについては未だ明らかにされていなかった。
特開2017-165654号公報 特開2013-151470号公報
本発明は、「食酢」の主成分である酢酸が植物体に対して与える影響を明確にし、その作用を利用する農薬資材の提供を目的としている。
「食酢」の主成分である酢酸が植物体に与える影響に着目した試みは未だなく、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、植物体に対して酢酸を施用することにより、植物体が物理的に強化されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、詳しくは以下の事項を要旨とする。
1.酢酸またはその塩を有効成分とする、植物体の物理的強化剤。
2.植物茎葉部分および/または根部の表皮を物理的に強化することを特徴とする、1.に記載の植物体の物理的強化剤。
3.1.記載の植物体の物理的強化剤を植物体に施用することを特徴とする、植物体を物理的に強化する方法。
本発明によれば、植物体、特に、植物体の茎葉部分や根部の表皮を物理的に強化することが出来る。
本発明における植物体の物理的強化作用により、害虫による吸汁や根部咀嚼などの摂食量が低減するほか、害虫の産仔数をも低減できるため、害虫による被害を大きく抑制することが出来る。さらに、病原菌や線虫感染をも防除出来る。
本発明によれば、化学合成された農薬を使用することなく病害虫に対する被害を抑制する、新たな防除効果を得ることができ有用である。
実施例における「害虫産仔数の確認試験」の結果を示すグラフである。 実施例における「害虫定着阻害効果の確認試験」の結果を示すグラフである。
以下、本発明について詳細に説明する。
<植物体の物理的強化について>
本発明の植物体の物理的強化とは、植物体における茎葉部分や根部の表皮が強化され、植物体全体が物理的に強化されることを意味する。本明細書においては、後述する試験例により詳細に説明するように、例えば、植物葉の引張強度やパンチ強度などの物理的測定値により、本発明の物理的強度を表現した。
<酢酸またはその塩について>
本発明の植物体の物理的強化剤の有効成分は、酢酸またはその塩である。
酢酸は、分子式Cと表されるカルボン酸であり、食酢に含まれる弱酸で、強い酸味と刺激臭を持つ化合物である。本発明に使用できる酢酸は、純粋な酢酸の他、食酢である醸造酢や合成酢が含まれる。これらは市販されており、例えば、穀物酢や特濃酢、高濃度醸造酢、粉末食酢(酢酸とデキストリン等の混合物)などを利用することができる。
また、ワインビネガーやアップルビネガーといった果実酢も利用可能である。
酢酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等が挙げられ、本発明の植物体の物理的強化剤の有効成分として、酢酸塩を使用する場合には、ナトリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩、カリウム塩が好ましい。これらの塩は単体として植物体の物理的強化剤中に加えても良いが、酢酸と対応する中和剤とを別々に加えて製剤調製時に塩を形成させてもよい。例えば、酢酸と、中和剤として水酸化ナトリウムを別々に加えて、ナトリウム塩として使用することができる。なお、中和剤として、酢酸の酸性を中和するものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。本発明の植物体の物理的強化剤は、上記の酢酸またはその塩を含有するものを、1種のみ使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
本発明の植物体の物理的強化剤は、有効成分である酢酸またはその塩を、植物体の物理的強化剤全体の好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.08重量%以上となるように用いることができる。また、酢酸またはその塩をあまり多量に用いると、酢酸臭が気になる使用者もいるため、10重量%以下の含有量とすることが好ましく、5重量%以下がより好ましく、3重量%以下がさらに好ましい。
本発明の植物体の物理的強化剤は、そのまま植物体に処理することができるが、所定の有効成分を含有した製剤を使用時に水で希釈して植物体に処理することもできる。この場合、水で希釈された製剤中での有効成分である酢酸またはその塩の含有量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.08重量%以上となるように調製して使用することができる。
本発明の植物体の物理的強化剤は、各種製剤として用いることができる。
製剤としては、例えば、油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)、マイクロカプセル剤、粉剤、粒剤、錠剤、液剤、スプレー剤、エアゾール剤等が挙げられる。その中でも、スプレー剤やエアゾール剤等の噴霧用製剤や、液剤をジョウロヘッド付き容器に充填した散布剤等が、本発明の植物体の物理的強化剤の性能を、最大限に活用することができる製剤型として好適である。スプレー剤やエアゾール剤とするには、所定の噴霧パターン、噴霧粒子を供給する噴霧装置を備えたエアゾール缶、薬剤ボトルを用いることができる。
本発明の植物体の物理的強化剤は、本発明の効果を奏する限り、液剤に限らず、粉剤、顆粒剤、微細粒等の固形剤として用いることもできる。
上記製剤の1つの製造例としては、酢酸と必要に応じて界面活性剤を用いて溶剤に溶かして溶液(A液)を調製し、このA液を適量の水に混合、撹拌して製剤とすることにより、使用時に希釈する必要がない植物体の物理的強化剤とする方法を挙げることができる。
水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、濾過処理した水、滅菌処理した水、地下水などを用いることができる。
製剤時に用いられる液体担体としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、ハッカ油、レモン油等)、及び水が挙げられる。
製剤時に用いられる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤を挙げることができる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル(例、ソルビタンモノオレアート、ソルビタンラウレート)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エーテルなどが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸アルキル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)フェニルエーテル硫酸またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー硫酸のナトリウム、カルシウムまたはアンモニウムの各塩;スルホン酸アルキル、ジアルキルスルホサクシネート、アルキルベンゼンスルホン酸(例、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムなど)、モノ-またはジ-アルキルナフタレン酸スルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸またはポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホサクシネートのナトリウム、カルシウム、アンモニウムまたはアルカノールアミン塩の各塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレン、モノ-またはジ-アルキルフェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)化フェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーホスフェートのナトリウムまたはカルシウム塩などの各塩が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えば第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルオキサイドなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えばアルキルベタイン、アミンオキシドなどが挙げられる。
エアゾール剤とする時に用いられる噴射剤としては、例えば、ブタンガス、フロンガス、代替フロン(HFO、HFC等)、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、炭酸ガスが挙げられる。
また固体担体としては、例えば、粘土類(カオリン、珪藻土、ベントナイト、クレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク、ゼオライト、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、多孔質体等が挙げられる。
本発明の植物体の物理的強化剤は、製剤調製時に必要に応じて、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤及び増粘剤等を添加することができる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、フッ素系消泡剤等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、有機窒素硫黄系複合物、有機臭素系化合物、イソチアゾリン系化合物、ベンジルアルコールモノ(ポリ)ヘミホルマル、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、及びビタミンE、混合トコフェロール、α-トコフェロール、エトキシキン及びアスコルビン酸等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、グアーガム、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。
<病害虫抑制効果について>
本発明の植物体の物理的強化剤は、下記実施例において詳細に説明するように、特に、植物体における茎葉部分や根部の表皮を物理的に強化する作用を発揮する。
ここで、アブラムシなどの吸汁性害虫の摂食行動は、(1)植物に定着する。(2)鞘状の口吻を立て、葉の表面を口吻で触りながら口吻の中の口針を試し挿して、定位する場所を探す「探り針行動」を行う。(3)定位した場所で、口吻を固定し、口針を植物体内部の師管にまで挿入する。(4)吸汁行動を開始する、と一般的に認識されている。
本発明の植物体の物理的強化剤により植物体における、例えば、茎葉部分の表皮が物理的に強化されると、アブラムシなどの吸汁性害虫は、上記(2)の口針を試し挿しすること、または(3)の口針の挿入の何れかが困難になるため、吸汁による摂食が困難となる
と考えられ、結果として、害虫による摂食被害を抑制する効果を発揮するものである。この他、植物体の茎葉部分や根部の表皮が物理的に強化されると、例えば、コガネムシの幼虫などが根部を咀嚼し植物体に被害を与えるような、咀嚼性害虫の咀嚼による摂食被害も抑制する効果を発揮する。
このような咀嚼性害虫としては、例えば、ゾウムシ、ハムシ、コガネムシ、ヒメコガネムシ、ニジュウヤホシテントウ等の甲虫目、アブラムシ、コナジラミ、カメムシ、ウンカ、ヨコバイ、カイガラムシ、グンバイムシ等のカメムシ目、アザミウマ等のアザミウマ目、ヨトウ、アオムシ、ウワバ、オオタバコガ、ドクガ、ヒトリガ、メイガ、ウラナシジミ、ヤガ、シャクトリムシ、イラガ、ハマキムシ、スズメガ、コナガ、ケムシ等のチョウ目、ハモグリバエ、ミバエ、タネバエ等のハエ目、ハダニ、コナダニ、サビダニ、ホコリダニ等のダニ目、ハバチ等のハチ目、およびこれらの幼虫等が挙げられる。
また、害虫とは異なるものの、農作物の根に寄生する、ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、シストセンチュウなどの植物寄生性線虫も、口針を植物体の根部に挿入し感染を拡げることから、本発明の植物体の物理的強化剤は、線虫被害を抑制する効果をも発揮する。
病原菌は、胞子から生じた発芽管により植物体に付着する付着器を形成し、この付着器先端から侵入菌糸を植物体に挿入して、植物体内に病原菌が侵入することが知られている。本発明の植物体の物理的強化剤により植物体における茎葉部分や根部の表皮が物理的に強化されると、植物体に付着する付着器の形成、または侵入菌糸の挿入、の何れかが困難になるため、植物体内への病原菌の侵入が困難となると考えられ、結果として、植物病害を抑制する効果を発揮するものである。このような植物病害としては、例えば、うどんこ病、灰色かび病、黒星病、べと病、いもち病、白さび病、褐斑病等糸状菌によるものが挙げられる。
<植物体について>
本発明における植物体は、物理的な強化が図られる植物体であれば限定されるものではない。具体的には、例えば、葉が利用される作物(キャベツ、茶、タバコ、ミントやバジル等のハーブ類等)、茎が利用される作物(アスパラガス、ウド等)、根または地下茎が利用される作物(サツマイモ、バレイショ等)、花が利用される作物(バラ、パンジー、キク等の花卉類、ホップ、サフラン等)、種子が利用される作物(ムギ、トウモロコシ、ダイズ等)、果実が利用される作物(キュウリ、ピーマン、トマト、ブドウ、バナナ、ミカン、りんご、ブルーベリー等の果樹類等)が挙げられる。
本発明の植物体の物理的強化剤は、植物体に付着させることができる限り、付着させる植物体の部位に制限はないが、吸収効率の良さの点から、植物茎葉部分や根部に対して施用することが好ましく、特に、植物葉の表面に施用することが好ましい。具体的には、植物が十分に濡れるだけでよく、例えば、10~60cmの植物体には10mL以上を処理するのが好ましい。施用する時期は、植物体の生育状況に応じて適宜選択すればよい。施用頻度は、1~10日に1回、好ましくは1~7日に1回、より好ましくは1~4日に1回の頻度で施用するのがよい。施用手段は特に制限されない。
本発明の植物体の物理的強化剤の処理量としては、施用頻度に関わらず、植物体に対して、有効成分である酢酸またはその塩を基準として、その積算処理量で0.005g/週以上、好ましくは0.01g/週以上、より好ましくは0.02g/週以上施用するのが良い。特に、地上部10~60cmの植物に対しては、積算処理量で0.02g/週以上、10g/週以下の範囲で施用すれば良く、好ましくは0.05g/週以上、7g/週以下の範囲、より好ましくは0.1g/週以上、5g/週以下の範囲となるように施用するのが良い。
この他、目的に応じて、例えば、殺菌剤、防カビ剤、殺虫殺ダニ剤、忌避剤、香料、精油等を併用してもよい。例えば、ビテルタノール、ブロムコナゾール、シプロコナゾール、ジフェノコナゾール、ヘキサコナゾール、イマザリル、ミクロブタニル、シメコナゾール、テトラコナゾール、チアベンダゾール、ペンチオピラド、マンゼブ等の殺菌剤;塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、ヒノキチオール、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール等の防カビ剤;除虫菊エキス、天然ピレトリン、プラレトリン、イミプロトリン、フタルスリン、アレスリン、ビフェントリン、レスメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、サイパーメスリン、エトフェンプロックス、シフルトリン、デルタメトリン、ビフェントリン、フェンバレレート、フェンプロパトリン、エムペントリン、シラフルオフェン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等のピレスロイド系化合物、カルバリル、プロポクスル、メソミル、チオジカルブ等のカーバメート系化合物、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物、フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物、アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド等のネオニコチノイド系化合物、クロルフェナピル等のピロール系化合物等、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、ピリダフェンチオン、プロチオホス、ホキシム、クロルピリホス、ジクロルボス等の有機リン系化合物等の殺虫殺ダニ剤;ディート、ジ-n-ブチルサクシネート、ヒドロキシアニソール、ロテノン、エチル-ブチルアセチルアミノプロピオネート、イカリジン(ピカリジン)、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(IR3535)等の忌避剤の1種または2種以上を用いることができる。香料、精油としては、用途に応じて天然香料及び合成香料、天然抽出物等からなる群から適宜選択される1種または2種以上の組み合わせを用いることができる。
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
<植物体の物理的強化作用の確認試験1>
(1)試験検体
実施例1
酢酸0.25重量部、展着剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)0.08重量部および精製水を使用して、全体量を100重量部として植物体の物理的強化剤を調製した。
比較例1
展着剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)0.08重量部および精製水を使用して、全体量を100重量部として比較剤を調製した。
(2)植物体の物理的強化作用の確認試験方法
供試植物として、3号ポットを使用して、播種してから30日経過したキャベツと、10号鉢で育成した地上部が約60cmのバラを使用した。
供試植物に対して2週間にわたり、試験検体(実施例1、比較例1)を、キャベツは13回/2週間、バラは3回/2週間、供試植物全体が十分に濡れる程度に噴霧器を用いて散布した。
散布処理終了から2週間後、各供試植物の葉身部分(キャベツ:概略30cm、バラ:概略50cm)を使用して、フォースゲージにより引張強度とパンチ強度を測定した。
本試験における引張強度は、葉脈の主脈方向に対する引張強度を意味する。葉の切片両端から1cmの位置にフォースゲージの測定器を挟み(挟む距離:約3~7cm)、切断される強度を測定した。試験は、キャベツで4回、バラで5回、それぞれ異なる供試植物から採取した葉身部分を使用して行った。
本試験におけるパンチ強度は、葉の切片中央部にフォースゲージの測定器を設置し、葉の貫通時の強度を測定した。試験は、キャベツで3回、バラで5回、それぞれ異なる供試植物から採取した葉身部分を使用して行った。
引張強度とパンチ強度の平均測定値を、試験検体の組成と共に、表1に記載した。
Figure 2023029405000001
(3)結果
表1に示したとおり、本発明の酢酸を有効成分とする実施例1の植物体の物理的強化剤は、何れの供試植物に対しても、引張強度、パンチ強度ともに概略1.4倍程度向上させることが確認できた。この試験結果から、本発明の植物体の物理的強化剤は、植物体の物理的に強化する効果を発揮することが明らかとなった。
また、キャベツにおいて、主葉脈に直交する方向に対する引張強度を確認したところ、最大で1.5倍の強化傾向が確認された。
<植物体の物理的強化作用の確認試験2>
上記「植物体の物理的強化作用の確認試験1」の試験検体(実施例1、比較例1)を散布して2週間の後のキャベツの葉身部分(概略30cm)を使用して、表皮について確認試験を行った。
本試験における表皮は、デジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製 VHX-900)により測定し、切片の断面の厚さに対する表皮の厚さの割合を、下記式により算出した。
算出式:表皮割合(%)=表皮の厚さ÷切片の断面の厚さ×100
試験は3回行い、切片の断面の厚さ(μm)、表皮の厚さ(μm)および表皮割合(%)のそれぞれ平均値を、表2に記載した。表2中の「断面厚」は切片の断面の厚さ(μm)を、「表皮厚」は表皮の厚さ(μm)を、「表皮割合」は上記式より算出された表皮割合(%)を意味する。
Figure 2023029405000002
表2に示したとおり、本発明の酢酸を有効成分とする実施例1の植物体の物理的強化剤を処理した植物体は、酢酸を含有しない比較例1を処理した植物体と比べて、切片の断面の厚さ(μm)は概ね同じ厚さであるにも関わらず、表皮の厚さ(μm)が飛躍的に厚くなり、表皮割合は約1.7倍程度に向上することが明らかとなった。
<害虫摂食行動の確認試験>
上記「植物体の物理的強化作用の確認試験1」の試験検体(実施例1、比較例1)を、噴霧器を用いて散布した後のキャベツの葉身部分(概略30cm)を使用して、害虫の摂食行動について確認試験を行った。
キャベツの葉を苗から切り取った後、キャベツの葉身上に供試虫(モモアカアブラムシ)を1頭放し、口吻を立てて「探り針行動」をとっている時間を「探索時間(秒)」、吸汁場所を定位し吸汁している時間を「吸汁時間(秒)」として、それぞれの時間を測定し、その和を「採餌時間(秒)」として算出した。口吻を立てたまま1か所に留まる時間が1分未満の場合を「探り針行動」、1分以上の場合を「吸汁行動」とした。それぞれの時間は、デジタルマイクロスコープで観察して測定した。観察は約20分間行った。
「採餌時間(秒)」=「探索時間(秒)」+「吸汁時間(秒)」
また、ろ紙(直径9cm)を底面に敷いた、直径130mm、高さ100mmのプラスチックカップ(以下、「KPカップ」という。)の天面中央に、上記の供試虫1頭を放ったキャベツの葉身を貼り付け、12時間後に、該ろ紙を取り出しニンヒドリン試薬を噴霧して、赤く発色した部分の数を確認した。これは、供試虫の排泄物(甘露)が、ニンヒドリン試薬により赤く発色することを利用した、公知の試験方法である。
切片上での「採餌時間(秒)」の測定は2回行い、その平均値と、ニンヒドリン試薬により赤く発色した排泄物の数を「甘露数」(個)として表3に記載した。
Figure 2023029405000003
表3に示したとおり、本発明の酢酸を有効成分とする実施例1の植物体の物理的強化剤を処理した植物体は、酢酸を含有しない比較例1を処理した植物体と比べて、キャベツの葉身上で「探り針行動」を行う「探索時間(秒)」が4倍以上長く、「吸汁時間(秒)」は2倍以上、結果として「採餌時間(秒)」は2.4倍程度長いことが確認された。このことは、本発明の酢酸を有効成分とする実施例1の植物体の物理的強化剤を処理した植物体においては、吸汁できる場所をなかなか確保できず、吸汁にも時間がかかるなど、一定量を摂食するために必要な時間が、非常に長くなることが明らかとなった。
また、本発明の酢酸を有効成分とする実施例1の植物体の物理的強化剤を処理した植物体は、12時間の間に甘露数が1であり、1回の排泄が確認されたのみであった。このことから、実施例1の植物体の物理的強化剤は、比較例1に比べて、害虫による摂食行動を大きく抑制することが明らかとなった。
これらのことは、「植物体の物理的強化作用の確認試験1、2」において確認された、本発明の植物体の物理的強化剤により植物体の表皮が物理的に強化された結果、口針を刺すことが困難であるか、吸汁自体が困難であったことに起因するものと考えられる。
<害虫産仔数の確認試験>
上記「植物体の物理的強化作用の確認試験1」の試験検体(実施例1、比較例1)を、噴霧器を用いて散布した後のキャベツの葉柄と葉身部分(概略35cm)を使用して、害虫産仔数について確認試験を行った。
KPカップにキャベツの葉身部分が乾燥しないように、葉柄を水入り容器に挿し、葉身上に有翅供試虫(モモアカアブラムシ)1頭を放った。図1に示す経過日数おきに、キャベツの葉身上のモモアカアブラムシの頭数を計測した。試験は、それぞれ異なる供試植物から採取した葉柄と葉身部分を使用して2回行い、累積頭数の平均値を産仔数として図1に示した。
図1に示したとおり、本発明の酢酸を有効成分とする実施例1の植物体の物理的強化剤を処理した植物体上の産仔数の累計は、酢酸を含有しない比較例1を処理した植物体上の産仔数の累計と比べて、大きく抑制されており、試験開始から19日目では、概ね3分の1程度であることが明らかとなった。
この結果は、上記の「害虫摂食行動の確認試験」からも明らかな様に、本発明の物理的強化剤を処理した植物体は表皮が物理的に強化されるため、摂食が困難となり、産仔数の減少を誘起したものと考えられる。
<害虫定着阻害効果の確認試験>
(1)試験検体
実施例2
酢酸0.125重量部、展着剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)0.08重量部および精製水を使用して、全体量を100重量部として植物体の物理的強化剤を調製した。
実施例3、4及び比較例1は下記表4に示した配合で、実施例2と同様にして、それぞれの試験検体を得た。
Figure 2023029405000004
(2)害虫定着阻害効果の確認試験方法
供試植物として、3.5号ポットで育成した地上部約20cmのミニバラに、モモアカアブラムシを放虫したものを使用した。
供試植物に対して、2週間にわたり、試験検体(実施例2~4、比較例1)を、2通りの処理頻度(処理aが2週間に2回の処理頻度、処理bが2週間に7回の処理頻度)として、供試植物全体が十分に濡れる程度に噴霧器を用いて散布した。図2に示す散布初日を1日目とする経過日数おきに、供試植物上のモモアカアブラムシの頭数を計測した。試験はそれぞれ2回行い、害虫累積頭数の平均値を図2に、30日目の害虫累積頭数の平均値を表5に示した。なお、図2、表5中における、例えば「実施例2a」とは、試験検体として実施例2を使用して、処理aの処理頻度で散布した試験データを意味する。
Figure 2023029405000005
(3)結果
図2、表5に示すとおり、2週間に7回の処理頻度である処理bでは、本発明の酢酸を有効成分とする実施例2~4の植物体の物理的強化剤を処理した場合(実施例2b、3b、4b)は、酢酸を含有しない比較例1を処理した場合(比較例1b)に比べて、植物体上の害虫累積頭数が極めて大きく抑制されることが明らかとなった。2週間に2回の処理頻度である処理aにおいても、有効成分である酢酸を0.125重量%、0.1重量%含有する実施例2、3は、極めて優れた害虫抑制効果を発揮(実施例2a、3a)することが確認された。
特に、図2に示すとおり、試験検体の処理停止後である経過日数15日目以降における、本発明の植物体の物理的強化剤の害虫定着阻害効果は、極めて優れていることが明らかとなった。
<防菌効果の確認試験>
供試植物として、3.5号ポットで育成した地上部20cmのミニバラを使用した。
上記「害虫定着阻害効果の確認試験」の試験検体(実施例2~4、比較例1)を使用して、防菌効果を確認する試験を行った。
供試植物に対して、2週間にわたり、試験検体(実施例2~4、比較例1)を、2週間に7回の処理頻度で供試植物全体が十分に濡れる程度に噴霧器を用いて散布した。処理完了後、供試植物に、別途用意したうどん粉病感染株の病斑から採取したうどん粉病菌の胞子を供試植物に塗布し、2週後の発病の有無を確認した。試験結果を表6に示した。表6中の「-」は発病しなかったことを、「+」は発病したことを意味する。
Figure 2023029405000006
表6に示すとおり、本発明の酢酸を有効成分とする実施例2~4の植物体の物理的強化剤は、うどん粉病菌を接種されたにも関わらず発病しなかった。これに対して、酢酸を含有しない比較例1を処理した植物体は、うどん粉病の発病が確認された。
この結果は、上記の「害虫摂食行動の確認試験」からも明らかな様に、本発明の物理的強化剤を処理した植物体は表皮が物理的に強化されたため、植物体に付着する付着器の形成、または侵入菌糸の挿入、の何れかが困難となり、植物体内に病原菌が侵入できず、結果として、植物病害の発病が抑制されたものと考えられる。
本発明の植物体の物理的強化剤は、植物体、特に、植物体茎葉部分や根部の表皮を強化することが出来る。この表皮の強化は、表皮の厚みが増加し、引張強度とパンチ強度が共に向上していることから、表皮を構成する成分の量が植物体内で増加しているものと推察される。
この結果、本発明の植物体の物理的強化剤により植物体を施用すると、特に、植物体茎葉部分や根部の表皮が物理的に強化され、害虫による吸汁や根部咀嚼などの摂食量が低減するほか、害虫の産仔数をも低減できるため、害虫被害を大きく抑制することが出来る。さらに、病原菌や線虫感染をも防除出来る。
本発明によれば、農薬を使用することなく病害虫に対する被害を抑制する、新たな防除効果を得ることができ極めて有用である。

Claims (3)

  1. 酢酸またはその塩を有効成分とする、植物体の物理的強化剤。
  2. 植物茎葉部分および/または根部の表皮を物理的に強化することを特徴とする、請求項1に記載の植物体の物理的強化剤。
  3. 請求項1記載の植物体の物理的強化剤を植物体に施用することを特徴とする、植物体を物理的に強化する方法。
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