JP2023004912A - 抗体誘導性ポリペプチド及びワクチン - Google Patents

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Abstract

【課題】対象におけるSARS-CoV-2感染の治療又は予防に有用な抗体誘導性ポリペプチド、及び当該抗体誘導性ポリペプチドを含むワクチンを提供する。【解決手段】以下の(a)~(f)に記載のポリペプチド群から選択され、かつ、抗体誘導性を有する、ポリペプチド:(a)配列番号1の336~361位、406~432位、又は446~480位の部位内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;(b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド;(d)配列番号1の1144~1161位又は1174~1202位の部位内の連続する10個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;(e)前記(d)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;及び(f)前記(d)又は(e)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。【選択図】なし

Description

本発明は、SARS-CoV-2感染の治療又は予防のための、抗体誘導性ペプチド及びワクチンに関する。
コロナウイルスは、ニドウイルス目コロナウイルス科オルソコロナウイルス亜科よりなるRNAウイルスの一群である。コロナウイルスは、ポジティブセンス一本鎖RNAゲノムと、らせん対称のヌクレオカプシドを持つエンベロープウイルスであり、カプシド表面からこん棒型の突起が突き出た特徴的な形状を有する。コロナウイルスは、RNAウイルスの中でも大型のウイルスであり、そのゲノムサイズは約26~32キロベースである。
コロナウイルスは、哺乳類、鳥類等に感染性疾患を引き起こすRNAウイルスとして知られ、特に、軽度~重篤の気道感染症を引き起こすことが知られる。ヒトにおいては、コロナウイルスは、軽症の場合は一般的な風邪の原因ウイルス(風邪の原因ウイルスは、コロナウイルス以外にも多数知られる)となるが、SARS、MERS等の一部のコロナウイルスは、より致命的な症状を引き起こすことが知られる。特に、2019年に中国で発見された新型コロナウイルスであるSARS-CoV-2は、短期間に全世界に蔓延し、有効な治療薬、ワクチンが存在しなかったという背景もあり、多数の感染者及び死者を出すこととなった。現在も、その数は増え続けており、早急にSARS-CoV-2のワクチン及び治療薬の開発と普及が達成されることが望まれている。
SARS-Cov-2には、そのウイルス表面に、宿主細胞の受容体に結合するスパイクタンパク質が存在する。このスパイクタンパク質は、三量体構造を有する糖タンパク質であり、各ポリペプチド鎖は、N末端ドメイン(NTD)、受容体結合ドメイン(RBD)及びS2ドメインから構成される。受容体結合ドメイン(RBD)には、「ダウン型構造」と「アップ型構造」が存在し、アップ型構造のRBDが宿主細胞表面のアンジオテンシン変異酵素II(ACE2)受容体に結合することが明らかにされている(非特許文献1)。一方、コロナウイルスのS2ドメインは、感染の際に、ウイルスと宿主細胞との膜融合に関与することが知られている(非特許文献2)。
SARS-CoV-2を予防するためのワクチンとして、現在、スパイクタンパク質(S抗原)の大部分をコードするmRNAを脂質ナノ粒子等のキャリア分子に封入したmRNAワクチンに加えて、S抗原遺伝子配列を導入したアデノウイルス発現ベクター、発現DNAワクチン、組換え蛋白等が開発されている。
D. Wrapp et al., Science, Vol. 367, pp. 1260-1263 (2020) A. C. Wallis et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 114, pp. 11157-11162 (2017)
mRNAワクチンは、感染性がない、生産が安価で比較的簡便である、等の利点を有するが、RNA分子の安定性が低い、副反応が強く表れやすい、生体内での翻訳及び発現効率に個体差が生じやすい、等の課題も存在する。
一方、S抗原全体を用いるワクチンでは、潜在的に抗体依存性感染増強(ADE;antibody-dependent infection enhancement)を惹起する抗体種を生成するリスクがある。実際に、高齢者の重症COVID-19患者血清中において、一定割合でADEを誘導する抗体の存在が報告されている。最近、COVID-19患者血清を用いて、このADE惹起能を示す抗体が認識するエピトープが同定され、ワクチンからこれらのエピトープを除去することでADEリスクが避けられる可能性が見えてきた。
本発明は、対象におけるSARS-CoV-2感染の治療又は予防に有用な抗体誘導性ポリペプチド、及び当該ポリペプチドを含むワクチンを提供することを目的とする。
本発明者らは、S抗原、特にSARS-CoV-2の感染責任部位であるRBD部位全体及びS2ドメインHR1/2領域全体を網羅的に検討することにより、新規な中和抗体誘導ポリペプチド(中和抗体エピトープ)を複数見出し、これらのポリペプチドがSARS-CoV-2の感染を治療又は予防するための抗体誘導に有用であることを見出した。また、COVID-19患者血清が共通して認識する新規な抗体エピトープを複数見出し、これらのエピトープ配列を有するポリペプチドが、SARS-CoV-2の感染を治療又は予防するための抗体誘導に有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
(1)以下の(a)~(f)に記載のポリペプチド群から選択され、かつ、抗体誘導性を有する、ポリペプチド:
(a)配列番号1の336~361位、406~432位、又は446~480位の部位内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
(b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド;
(d)配列番号1の1144~1161位又は1174~1202位の部位内の連続する10個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
(e)前記(d)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;及び
(f)前記(d)又は(e)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
(2)以下の(a)~(c)に記載のポリペプチド群から選択される、(1)に記載のポリペプチド:
(a)配列番号1の336~361位、406~432位、又は446~480位の部位内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
(b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;及び
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
(3)以下の(d)~(f)に記載のポリペプチド群から選択される、(1)に記載のポリペプチド:
(d)配列番号1の1144~1161位又は1174~1202位の部位内の連続する10個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
(e)前記(d)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;及び
(f)前記(d)又は(e)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
(4)(1)に記載のポリペプチドのうち少なくとも1種類のポリペプチドを含む、SARS-CoV-2感染の治療又は予防のためのワクチン。
(5)(2)に記載のポリペプチドのうち少なくとも1種類のポリペプチド、及び、(3)に記載のポリペプチドのうち少なくとも1種類のポリペプチドを含む、(4)に記載のワクチン。
(6)ポリペプチドがキャリア分子と結合したコンジュゲートとして含まれる、(4)又は(5)に記載のワクチン。
(7)複数種のポリペプチドが同一キャリア分子上に結合したコンジュゲートとして含まれる、(4)~(6)のいずれかに記載のワクチン。
(8)コンジュゲートが、ポリペプチドがキャリア分子上で架橋した環状構造を有する、(6)又は(7)に記載のワクチン。
(9)粘膜ワクチンである、(7)又は(8)に記載のワクチン。
(10)舌下ワクチンである、(9)に記載のワクチン。
(11)(1)に記載のポリペプチドのうち少なくとも1種類のポリペプチドを含む、抗体誘導組成物。
(12)配列番号40~44のいずれかで示されるアミノ酸配列の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチドである、(1)に記載のポリペプチド。
(13)(4)~(10)のいずれかに記載のワクチンを対象に投与する工程を含む、SARS-CoV-2の感染を治療又は予防する方法。
本発明によれば、対象におけるSARS-CoV-2の感染予防に有用な抗体誘導性ポリペプチド、及び当該ポリペプチドを含むワクチンを提供することが可能である。
SARS-CoV-2のRBDの部位の各種ポリペプチドを感作したマウスの血清IgGのRBDタンパク質認識能を示す棒グラフである。縦軸は、各種血清IgGのRBDタンパク質への結合性を示す。 SARS-CoV-2のRBDの部位の#3、#7、#11のポリペプチドを感作したマウスの血清による、ACE2-RBD結合阻害能を示す棒グラフである。縦軸はACE2のRBDへの結合性を示す。 SARS-CoV-2のRBDの部位の#1、#5、#11のポリペプチドを感作したマウスの血清、及びSARS-CoV-2感染の回復患者の血清による、ACE2-RBD結合阻害能を示す棒グラフである。縦軸はACE2のRBDへの結合性、横軸は、各種血清の希釈率を示す。 SARS-CoV-2のS2ドメインの部位の各種ポリペプチドを感作したマウスの血清IgGによる、S2ドメインタンパク質認識能を示す棒グラフである。縦軸は、各種血清IgGのS2ドメインタンパク質への結合性を示す。 混合コンジュゲートポリペプチド(#7、#11、#111及び#115)を感作したマウスにおける、追加の繰り返しの舌下感作(SLIT)によるIgG抗体量の変化を示す棒グラフである。縦軸は各抗体のペプチド認識能を示す。(A)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgGの、#7及び#11の混合コンジュゲートへの反応性を示す。(B)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgGの、#111のコンジュゲートへの反応性を示す。(C)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgGの、#115のコンジュゲートへの反応性を示す。 混合コンジュゲートポリペプチド(#7、#11、#111及び#115)を感作したマウスにおける、追加の繰り返しの舌下感作(SLIT)によるIgA抗体量の変化を示す棒グラフである。縦軸は各抗体のペプチド認識能を示す。(A)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgAの、#7及び#11の混合コンジュゲートへの反応性を示す。(B)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgAの、#111のコンジュゲートへの反応性を示す。(C)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgAの、#115のコンジュゲートへの反応性を示す。 #7、#10及び#11を提示した抗原をそれぞれ感作したマウスの血清の、変異型SARS-CoV-2のRBDエピトープ提示抗原への反応性を示すグラフである。(A)は、#7認識血清の野生型、K417N変異RBDエピトープへの反応性を示す。(B)は、#10認識血清の野生型、L452R変異RBDエピトープへの反応性を示す。(C)は#11認識血清の野生型、T478K変異RBDエピトープへの反応性を示す。 各種コンジュゲートペプチドを感作したマウスより採取した抗血清およびそれら抗血清組合せの、擬似型レンチウイルスのACE2発現CRFK細胞への感染防除能を示すグラフである。
[1]定義
本明細書において、「ポリペプチド」とは、複数のアミノ酸がペプチド結合することによって形成される分子をいう。構成するアミノ酸数が多いポリペプチド分子のみならず、アミノ酸数が少ない低分子量の分子(オリゴペプチド)も本発明のポリペプチドに包含される。
本明細書において、「抗体誘導性」とは、対象におけるSARS-CoV-2の感染に対する防除機能としての液性免疫を誘導し、SARS-CoV-2に対する抗体を産生させる特性を指す。特に、対象におけるSARS-CoV-2に対する中和抗体の産生を誘導する特性を指す。
本明細書において、「ワクチン」とは、対象における細菌、ウイルス、アレルゲン等の病原の侵入による疾患又は体調不良の治療又は予防を目的として、対象の病原に対する免疫(抗体産生能)を誘導するために投与される医薬組成物を指す。
本明細書において「対象」とは、哺乳類及び鳥類を指す。鳥類は、脊索動物門脊椎動物亜門鳥綱に属する動物を指し、例えば、ニワトリ、アヒル、ウズラ、ガチョウ、カモ、シチメンチョウ、セキセイインコ、オウム、オシドリ、ハクチョウ等が挙げられる。哺乳類は、ヒト及びヒト以外を包含する、脊索動物門脊椎動物亜門哺乳網に属する動物を指し、例えば、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類、動物園で飼育される哺乳類動物などが含まれる。本明細書における対象は、好ましくは、ヒトである。
本明細書において、アミノ酸配列の「配列同一性」は、BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)等のタンパク質検索システムを用いて、ギャップを導入して、又はギャップを導入しないで、決定することができる値をいう。また、本明細書において「数個」における「数」とは、2~10の整数、好ましくは2~6の整数、2~4の整数、2若しくは3の整数、又は2の整数を表す。
本明細書において、「アジュバント」とは、ワクチン内の抗体誘導性物質と共に対象に投与されることで、その抗体誘導効果を高めることが可能な物質をいう。
本明細書において、「配合比」は、特に説明のない限り、いずれも重量比で示される。また、「%」で示される濃度は、特に説明のない限り、いずれも重量%を示す。
[2]抗体誘導性ポリペプチド
本発明のポリペプチドは、以下の(a)~(f)に記載のポリペプチド群から選択され、かつ、抗体誘導性を有する、ポリペプチドである。
(a)配列番号1の336~361位、406~432位、又は446~480位の部位内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
(b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド;
(d)配列番号1の1144~1161位又は1174~1202位の部位内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
(e)前記(d)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;及び
(f)前記(d)又は(e)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
本発明のポリペプチドは、上記の構成を有することで、抗体誘導性を有し、ペプチドワクチン、コンジュゲートワクチン等として対象に投与することでSARS-CoV-2の感染予防に有用である、という効果を有する。
SARS-CoV-2の宿主細胞への感染に関与するスパイクタンパク質は、配列番号1に示すアミノ酸配列を有することが知られる。特に、宿主細胞への結合に関与する受容体結合ドメイン(RBD)、宿主細胞との膜融合に関与するS2ドメインは、SARS-CoV-2の感染責任部位である。RBDは、配列番号2(配列番号1のアミノ酸配列の316~519位に相当)のアミノ酸配列を有することが知られる。S2ドメインには、HR1領域とHR2領域とが存在し、それぞれ配列番号3(配列番号1のアミノ酸配列の910~1032位に相当)、配列番号4(配列番号1のアミノ酸配列の1141~1223位に相当)のアミノ酸配列を有することが知られる。
本発明者らは、SARS-CoV-2のRBD及びS2ドメインのアミノ酸配列を構成するポリペプチドのうち、特定のポリペプチドについて、マウス及び/又はヒトにおいて高い抗体誘導性を有することを見出した。前記の特定のポリペプチドは、以下の配列番号5~9に示す配列である。
CPFGEVFNATRFASVYAWNRKRISNC(配列番号5:336-361)
EVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGC(配列番号6:406-432)
GGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPC(配列番号7:446-480)
ELDSFKEELDKYFKNHTS(配列番号8:1144-1161)
ASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQE(配列番号9:1174-1202)
本発明のポリペプチドは、配列番号5~9のアミノ酸配列を有するポリペプチドをいずれも包含するが、これらに限定されず、配列番号5~9のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上又は90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドも包含する。あるいは、配列番号5~9のアミノ酸配列を有するポリペプチド中の1個又は数個のアミノ酸が改変されたポリペプチドも包含する。一般に、あるポリペプチドの中の20%未満、特に15%未満又は10%未満のアミノ酸の改変、あるいは、1個、又は数個のアミノ酸の改変は、元のポリペプチドの機能に影響を及ぼさないと考えられ、場合によっては元のポリペプチドの所望の機能を強化することさえあると考えられている。実際、元のアミノ酸配列と比較して、1個、又は数個のアミノ酸残基が改変された(すなわち、置換、欠失、付加及び/又は挿入された)アミノ酸配列で構成される改変ポリペプチドは、元のポリペプチドの生物活性を保持することが知られている(Mark et al.,1984,Proc Natl Acad Sci USA,81:5662-5666, Zoller and Smith,1982,Nucleic Acids Res.10:6487-6500, Dalbadie-McFarland et al.,1982,Proc Natl Acad Sci USA.79:6409-6413)。したがって、上記(b)及び(e)のポリペプチドも抗体誘導性を発揮し得る。
また、本発明のポリペプチドは、配列番号5~9内の連続するアミノ酸配列を有するポリペプチド(上記改変ポリペプチドを包含する)のみでなく、これを一部分として含み、配列番号1の他の部位を含まない、ポリペプチド、すなわち、上記(c)及び(f)のポリペプチドも包含する。
なお、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸は、低極性側鎖を有する中性アミノ酸(Gly、Ile、Val、Leu、Ala、Met、Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸(Asn、Gln、Thr、Ser、Tyr、Cys)、酸性アミノ酸(Asp、Glu)、塩基性アミノ酸(Arg、Lys、His)、芳香族アミノ酸(Phe、Tyr、Trp)のように類似の性質を有するものにグループ分けでき、これらの間での置換であればポリペプチドの性質が変化しないことが多いことが知られている。したがって、配列番号5~9のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を置換する場合には、これらの各グループの間で置換することにより、抗体誘導性を維持できる可能性が高くなる。
ワクチン開発の重大な課題として、抗体依存性感染増強(Antibody-Dependent Enhancement:ADE)があり、抗体誘導性の高い抗原については、ADEの問題を解消することが重要な要件とされる。SARS-CoV-2のADEエピトープは、表1に示す部位であることが最近明らかにされた(doi.org/10.1101/2020.10.08.20209114を参照のこと)。本発明のポリペプチドは、下記のいずれのADEエピトープにも該当しないことから、高い抗体誘導性と安全性とを備えたポリペプチドであることが確認された。
Figure 2023004912000001
SARS-CoV-2には、N501、E484、L452等の変異株が報告されているが、本発明のポリペプチドは、これらの主要な変異株に対しても感染阻害能を有する。
本発明のポリペプチドの調製方法は、特に限定されず、本技術分野で使用される公知のポリペプチド調製のための手法、例えば、Fmoc固相合成法、Boc固相合成法等のペプチド固相合成法、組換え大腸菌による生成等をいずれも使用することができる。
[2-1]第1態様のポリペプチド(RBDポリペプチド)
本発明の第1態様のポリペプチドは、以下の(a)~(c)に記載のポリペプチド群から選択される。
(a)配列番号1の336~361位、406~432位、又は446~480位の部位内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
(b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
本発明の第1態様のポリペプチドは、SARS-CoV-2のRBDの部位のポリペプチドである。本発明者らは、RBDの部位のポリペプチドのうち、高い抗体誘導性を有する特定のポリペプチドについて、コンジュゲートワクチンとしてマウスに感作した場合に、得られた抗体がSARS-CoV-2のRBDのACE2受容体への結合を抑制することを確認した。
前記の特定のポリペプチドは、配列番号5~7の配列を有するポリペプチドである。
CPFGEVFNATRFASVYAWNRKRISNC(配列番号5)
EVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGC(配列番号6)
GGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPC(配列番号7)
本発明の第1態様のポリペプチドは、配列番号5~7のポリペプチドを包含する。しかし、これらに限定されず、(a)配列番号1の336~361位、406~432位(好ましくは411~427位)、又は446~480位(好ましくは459~480位)の部位内の連続する7個以上、好ましくは連続する8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21又は22個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;(b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%、90%又は95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド;及び(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチドを包含する。SARS-CoV-2は多くの変異型が知られるが、いずれの変異型SARS-CoV-2のRBDを構成するポリペプチドであってもよい。
本発明の第1態様のポリペプチドは、既知の変異型SARS-CoV-2(変異株)のRBDを構成するポリペプチド、例えば、下記の配列番号40~44のいずれかで示されるアミノ酸配列の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチドであってもよい。
APGQTGNIADYNYKLPDDFTGC (配列番号40:K417N)
GGNYNYRYRLFRKSNLKPFERD (配列番号41:L452R)
SNLKPFERDISTEIYQAGNTPC (配列番号42:S477N)
SNLKPFERDISTEIYQAGSKPC (配列番号43:T478K)
SNLKPFERDISTEIYQAGNKPC (配列番号44:S477N/T478K)
対象において、特に特定の変異株に対する抗体誘導をさせる場合、該変異株の対応するアミノ酸配列のポリペプチドを使用することが好ましい。これにより、標的とする変異株に対して、より有効な抗体誘導が可能である。
本発明の第1態様のポリペプチドは、対象に投与することで、対象におけるSARS-CoV-2のRBDに対する抗体産生を誘導し、これにより対象の体内にSARS-CoV-2が侵入した場合にも、SARS-CoV-2のRBDを介したACE2受容体への結合を抑制することで感染を防ぐことが可能である。
[2-2]第2態様のポリペプチド(S2ドメインポリペプチド)
本発明の第2態様のポリペプチドは、以下の(d)~(f)に記載のポリペプチド群から選択される。
(d)配列番号1の1144~1161位又は1174~1202位の部位内の連続する10個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
(e)前記(d)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;及び
(f)前記(d)又は(e)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
本発明の第2態様のポリペプチドは、SARS-CoV-2のS2ドメインを構成するポリペプチドである。本発明者らは、S2ドメインを構成するポリペプチドのうち、高い抗体誘導性を有する特定のポリペプチドを同定した。
前記の特定のポリペプチドは、配列番号8及び9の配列を有するポリペプチドである。
ELDSFKEELDKYFKNHTS(配列番号8)
ASVVNIQKEIDRLNEVAKNLNESLIDLQE(配列番号9)
本発明の第2態様のポリペプチドは、配列番号8、9のポリペプチドを包含する。しかし、これらに限定されず、(d)配列番号1の1144~1161位又は1174~1202位の部位内の連続する7個以上、好ましくは連続する8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、又は18個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;(e)前記(d)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%又は90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド;及び(f)前記(d)又は(e)に記載のポリペプチドを部分配列として含むポリペプチドを包含する。SARS-CoV-2は多くの変異型が知られるが、いずれの変異型SARS-CoV-2のS2ドメインを構成するポリペプチドであってもよい。
本発明の第2態様のポリペプチドは、対象に投与することで、対象におけるSARS-CoV-2のS2ドメインに対する抗体産生を誘導し、これにより対象の体内にSARS-CoV-2が侵入した場合にも、SARS-CoV-2のS2のS2ドメインを介した宿主細胞との膜融合を抑制することで感染を防ぐことが可能である。
[3]ワクチン
本発明のワクチンは、「[2]抗体誘導性ポリペプチド」の項に記載した本発明のポリペプチドのうち、少なくとも1種類のポリペプチドを含む、SARS-CoV-2感染の治療又は予防のためのワクチンである。すなわち、本発明のワクチンは、SARS-CoV-2に対するペプチドワクチンである。
本発明のワクチンは、本発明のポリペプチドを1種類のみ含んでいてもよく、また、複数種類含んでいてもよい。本発明のワクチンは、好ましくは、下記に示す第1態様のポリペプチドのうち少なくとも1種類と、第2態様のポリペプチドのうち少なくとも1種類とを含む。
(i)第1態様のポリペプチド
以下の(a)~(c)に記載のポリペプチド群から選択される、ポリペプチド。
(a)配列番号1の336~361位、406~432位、又は446~480位の部位内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
(b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;
(c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
(ii)第2態様のポリペプチド
以下の(d)~(f)に記載のポリペプチド群から選択される。
(d)配列番号1の1144~1161位又は1174~1202位の部位内の連続する10個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
(e)前記(d)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;及び
(f)前記(d)又は(e)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
すなわち、第1態様のポリペプチドはSARS-CoV-2のRBDの部位のポリペプチドであり、第2態様のポリペプチドはSARS-CoV-2のS2ドメインの部位のポリペプチドである。本発明のワクチンの好適な形態は、SARS-CoV-2のRBDとS2ドメインの2つの部位のポリペプチドを含む。2つの部位のポリペプチドを含むことで、対象に投与した場合に、SARS-CoV-2感染におけるACE2受容体への結合と、宿主細胞との膜融合の2つのステップを両方阻害することができ、対象をSARS-CoV-2感染から二重で防御することが可能となる。
本発明のワクチンが、第1態様のポリペプチドと第2態様のポリペプチドとを含有する場合、これらの配合比は、特に限定しないが、例えば、1:10~10:1、好ましくは1:5~5:1とすることができる。より好ましい配合比は、1:1である。第1様態のポリペプチド及び第2様態ポリペプチドとして、各々複数種のポリペプチドを用いる場合も、各態様のポリペプチドの配合比は、特に限定しないが、例えば、1:10~10:1、好ましくは1:5~5:1とすることができる。より好ましい配合比は、1:1である。
本発明のワクチンに含まれるポリペプチドの形態は、抗体誘導性が維持されていれば特に制限されず、リニアペプチドの状態であってもよいが、キャリア分子と結合したコンジュゲートの形態であってもよい。ここでいう「キャリア分子」は、ポリペプチドの抗体誘導性を維持又は向上させるために使用される分子であり、例えば、アルブミン、サイログロブリン、オボアルブミン(OVA)、デキストラン、セファロース(Sepharose)、さらに臨床使用されたキャリア分子として、ホールリンペットヘモシアニン(KLH)、CRM197等が挙げられる。特に、OVA,KLH、CRM197を好適に使用できる。
コンジュゲートにおけるポリペプチドの結合形態は、ポリペプチドの抗体誘導性が維持されていれば特に限定されない。コンジュゲートは、一分子のキャリア分子上に1種類のポリペプチドが結合する形態としてもよく、また、一分子のキャリア分子上に複数種類のポリペプチドが結合する形態としてもよい。一分子のキャリア分子上に複数のポリペプチドが結合する場合、各ポリペプチドがそれぞれキャリア分子上に直接結合していてもよい。ポリペプチドは、コンジュゲート分子上にリニア状に結合していてもよく、キャリア分子上に、リンカー構造体等を介して架橋して、キャリア分子と共に環状構造を形成していてもよい。特に、環状に閉じたコンジュゲートは、エピトープ部位の形状が安定し、本来のポリペプチドの立体構造(ループ構造、ヘリックス構造等)が形成されるため、好適に使用できる。なおリンカー構造体には、ヘテロ官能基リンカー試薬(SMCC(Succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate))、Sulfo-SMCC、LC-SMCC、EMCS(N-ε-malemidocaproyl-oxysuccinimide ester)、SMPB(succinimidyl 4-(p-maleimidophenyl)butyrate)、MBS(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester等)等を使用することができる。
上記のような環状構造を有するコンジュゲートの調製方法は、特に限定されないが、例えば、下記の方法とすることができる。キャリア分子、例えばOVAに2分子以上のリンカー分子(例えば、マレイミド基を有する分子)を結合させ、ポリペプチドを、キャリア分子上のリンカー分子の数に対して過剰量とならない量で添加して反応させる。ここで、ポリペプチドの末端にSH基を有するアミノ酸残基(例えば、システイン)がない場合は、例えば、ポリペプチドを予め両末端にシステイン残基(好ましくはシステイン残基を含む2-3アミノ酸残基)が付加された状態で調製して、両末端にSH基がある構造とすることができる。両末端のSH基がそれぞれ別のマレイミド分子と結合することにより架橋され、キャリア分子-リンカー分子-ポリペプチドで環状構造が形成される。
本発明のワクチンの投与経路は、特に限定されず、経口、経鼻、舌下、皮下、筋肉内等の公知のいずれの投与経路としてもよい。中でも、経口、経鼻及び舌下等で投与される粘膜ワクチンとすることが好ましい。さらに、舌下ワクチンとすることが好ましい。粘膜ワクチンは、IgG等に代表される全身系の免疫を誘導するのに加えて、SARS-CoV-2の侵入口である粘膜面における粘膜免疫、特に抗原特異的分泌型IgA応答を効率的に誘発することが知られる。そのため、SARS-CoV-2の感染侵入防止と、全身系免疫での防御の二重の感染防御が可能である。
本発明のワクチンは、アジュバントを含有してもよい。アジュバントは、本技術分野で公知のいずれのアジュバントを使用してもよい。公知のアジュバントとしては、フロイント完全及び/又は不完全アジュバント、ビタミンE、モンタミド、ミョウバン、ポリIC及びその誘導体(ポリICLC等)、スクアレン及び/又はトコフェロール、Quillya saponariaのサポニンに由来するQS-21、MPL(SmithKline Beecham)、QS21(SmithKline Beecham)、サルモネラ属のSalmonella minnesota R595リポ多糖類、その非毒性誘導体であるMPL(3-脱アシル化-4’-モノホスホリルリピッドA)、並びにQS-7、QS-17、QS-18及びQS-L1(So H.S., et al., Molecular and cells, Vol. 7, pp. 178-186 (1997))等が挙げられる。
本発明のワクチンにおけるポリペプチド(各種ポリペプチドの合計量)とアジュバントとの配合比は、特に限定しないが、例えば、通常のワクチンに適用される配合比とすることができる。
本発明のワクチンは、抗体誘導性ポリペプチドに加えて、必要に応じて薬学的に許容される担体を含有してもよい。ここでいう「製薬上許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。
賦形剤としては、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、リン脂質、リゾリン脂質、コレステロール、脂肪酸、プルロニック、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが例として挙げられる。
結合剤としては、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が例として挙げられる。
崩壊剤としては、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が例として挙げられる。
充填剤としては、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が例として挙げられる。
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
このような担体は、主として前記剤形形成を容易にし、また剤形及び薬理効果を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。上記の添加剤の他、必要であれば矯味矯臭剤、可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、吸着剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。
本発明のワクチンは、薬剤の薬理効果を失わない範囲において、他の薬剤を含有することもできる。例えば、注射剤の場合であれば、抗生物質を所定量含有していても良い。
本発明のワクチンの剤形は、抗体誘導性ポリペプチド、及び他の付加的な成分の効果を維持できる形態であれば特に限定しない。舌下投与のための剤形としては、例えば、錠剤が挙げられる。経口投与のための剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。皮下投与のための剤形としては、例えば、注射剤、湿布剤、経皮吸収剤等が挙げられる。筋肉内投与のための剤形としては、注射剤が挙げられる。
本発明のワクチンは、抗体誘導性ポリペプチドを、SARS-CoV-2の治療又は予防に効果的で、かつ、重篤な副作用が生じない量で含むことが好ましい。例えば、抗体誘導性ポリペプチドの投与量(キャリア分子を含まない)が、合計で0.01~100μg/kg体重、特に0.1~5.0μg/kg体重となるように調製されることが好ましい。
本発明のワクチンの投与回数は、SARS-CoV-2への抗体産生が十分に誘導され、かつ重篤な副作用が生じない限り、特に限定しないが、例えば、1日1回、1か月間投与できる。また、週1回~3回の間歇投与で1か月まで投与できる。投与期間は、2週間でもよく、休薬して、蔓延期(シーズン)の前に集中して2週間投与のような感作もできる。
[4]抗体誘導組成物
本発明の抗体誘導組成物は、「[2]抗体誘導性ポリペプチド」の項に記載した本発明のポリペプチドのうち、少なくとも1種類のポリペプチドを含むことを特徴とする。
本発明の抗体誘導組成物は、本発明のポリペプチドのうち、少なくとも1種類を含むことで、動物に投与した場合に、当該動物においてSARS-CoV-2に対する抗体を産生させることが可能である。当該動物の血清を採取することで、SARS-CoV-2に対するポリクローナル抗体、当該動物の脾臓細胞からハイブリドーマを調製することで、SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体を調製することが可能である。本発明の抗体誘導組成物は、高い抗体誘導性を有するポリペプチドを使用することで、効率的にSARS-CoV-2に対する抗体を産生することが可能である。
本発明の抗体誘導組成物を投与する動物としては、ウサギ、モルモット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、ラット、マウス、ニワトリ、ラクダ、アルパカ等が挙げられる。
本発明の抗体誘導組成物は、本発明のポリペプチドを1種類のみ含んでいてもよく、また、複数種類含んでいてもよい。本発明の抗体誘導組成物は、本発明の第1態様のポリペプチドのうち少なくとも1種類と、本発明に第2態様のポリペプチドのうち少なくとも1種類とを含んでいてもよい。
本発明の抗体誘導組成物に含まれるポリペプチドの形態は、抗体誘導性が維持されていれば特に制限されず、リニアペプチドの状態であっても、キャリア分子と結合したコンジュゲートの形態であってもよい。コンジュゲートにおけるポリペプチドの結合形態は、ポリペプチドの抗体誘導性が維持されていれば特に限定されない。コンジュゲートは、一分子のキャリア分子上に1種類のポリペプチドが結合する形態としてもよく、また、一分子のキャリア分子上に複数種類のポリペプチドが結合する形態としてもよい。一分子のキャリア分子上に複数のポリペプチドが結合する場合、各ポリペプチドがそれぞれキャリア分子上に直接結合していてもよい。ポリペプチドは、コンジュゲート分子上にリニア状に結合していてもよく、また、キャリア分子上でリンカー構造体等を介して架橋して、キャリア分子と共に環状構造を形成していてもよい。
本発明の抗体誘導組成物の投与経路は、特に限定されないが、通常は、皮下又は筋肉内に注射剤投与を行う。
本発明の抗体誘導組成物は、アジュバントを含有してもよい。アジュバントは、本技術分野で公知のいずれのアジュバントを使用してもよい。本発明のワクチンにおけるポリペプチド(各種ポリペプチドの合計量)とアジュバントとの配合比は、特に限定しないが、例えば、通常のワクチンに適用される配合比とすることができる。
本発明の抗体誘導組成物は、抗体誘導性ポリペプチドを、投与される動物において十分に抗体が産生され、かつ、重篤な副作用が生じない量で含むことが好ましい。例えば、抗体誘導性ポリペプチドの投与量(キャリア分子を含まない)が、合計で0.01~100μg/kg体重、特に0.1~5.0μg/kg体重となるように調製されることが好ましい。
本発明の抗体誘導組成物に含まれる他の成分等、その他の詳細な条件は、特に矛盾のない限り、「[3]ワクチン」の項に記載される条件と同様である。
[5]SARS-CoV-2の感染を治療又は予防する方法
本発明のSARS-CoV-2の感染を治療又は予防する方法(以下、単に「本発明の治療方法」とも称する)は、「[3]ワクチン」の項に記載した、本発明のワクチンを対象に投与する工程を含むことを特徴とする。
本発明の治療方法の対象、投与するワクチンの剤形、含有成分等の詳細な条件は、特に矛盾のない限り、「[3]ワクチン」の項に記載の通りである。
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例を示すが、本発明の範囲を実施例の範囲に限定することを意図するものではない。
[実施例1]SARS-CoV-2部分配列ポリペプチドのコンジュゲートの調製
表2に示す#1~14及び#101~117のポリペプチドを、Fmoc合成法により調製した。表2に示すポリペプチドのうち、末端にシステイン残基がないものについては、N末端側にはシステイン-セリン-グルタミン(CSG)、C末端側にはグルタミン-セリン-システイン(GSC)等の配列の1~3アミノ酸残基を付加して調製した。ポリペプチドの純度及び分子量の確認は、HPLC及びマススペクトルで常法に従って行った。
次いで、各ポリペプチドについて、OVAをキャリア分子として環状コンジュゲートを調製した。マレイミド活性化OVA(Imject(商標)Maleimide-Activated Ovalbumin(Thermo Fisher社製))を、チューブ内のコンジュゲーションバッファーに溶解させ、氷冷上で各ポリペプチドの水溶液を添加し、室温で一晩静置した。L-システインを加えて残存するマレイミド基をブロックした後、-30℃で保存した。
Figure 2023004912000002
[実施例2]各コンジュゲートによるマウスの感作
実施例2で調製されたコンジュゲートのうち、#1~14、#101~105、及び#107~117のポリペプチドのコンジュゲートを使用して、マウスの感作試験を実施した。10μg/100μLのサポニンを含むPBSでコンジュゲートを0.1mg/mLとなるように溶解して感作液を調製し、250μLずつに分注して-20℃で保存した。6週齢のマウス(BALB/c)を1週間順化した後、コンジュゲート溶液を投与した。感作液は、100μL/匹の量で皮下投与した。投与は2週間間隔で、3回又は4回行った。採血は最終のブーストから2週間後に行った。採血後、各血清についてELISAを用いて抗体価を確認した。
[実施例3]RBDの部位のポリペプチドで感作したマウス血清のRBD認識能
実施例2で得られたマウス血清のうち、#1~14のコンジュゲートを感作して得られた血清について、RBD認識能を調査した。
SARS-CoV-2のRBDタンパク質(AB clonal社製、No.RP01258)を100mg/ウェルの量で固相化したマイクロウェルプレートに、各血清をPBS(リン酸緩衝液)で300倍、1000倍及び3000倍に希釈した試料を分注して、30分間インキュベーションを行った。各ウェルをPBST(Tween20を0.05%含むPBS)で洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgGモノクローナル抗体溶液を加えて、インキュベーションした。各ウェルをPBSTで洗浄した後、基質溶液(テトラメチルベンジジン(TMB)溶液))を加えて所定時間インキュベーションした後、1N硫酸を加えて反応を停止させた。反応停止後、マイクロウェルプレートリーダーで、各ウェルの450nmの吸光度を測定した。
各試料の吸光度を図1に示す。特に#3、#7・#8及び#11のマウス血清でRBDの認識能が高いことが判明した。
[実施例4]ACE2-RBD結合阻害試験
実施例3で得られたマウス血清のうち、RBD認識能の高かった#7及び#11について、ACE2とRBDの結合に与える影響を検討した。併せて、同意を取得したSARS-CoV-2感染から回復した5名の患者(A~E)の血清についても同様の検討を行った。
SARS-CoV-2のRBDタンパク質(AB clonal社製、No.RP01258)を固相化した96穴マイクロウェルプレートに、各マウス血清及び各患者血清をPBSで100倍、1000倍及び10000倍に希釈した試料を分注して、インキュベーションした。試料と併せて、陽性コントロールとしての市販のマウス抗RBDポリクローナル抗体(Sino Biological社製、No.40592-T62)のPBS希釈液を分注し、同様にインキュベーションを行った。各ウェルに、組換えヒトACE2タンパク質(Sino Biological社製、No.10108-H08H-B)をPBSで希釈した溶液を加え、さらにインキュベーションした。各ウェルをPBSTで洗浄した後、HRP標識抗ヒトACE2モノクローナル抗体溶液を加えてインキュベーションした。各ウェルをPBSTで洗浄した後、基質溶液(TMB溶液)を加えて所定時間インキュベーションした後、1N硫酸を加えて反応を停止させた。反応停止後、マイクロウェルプレートリーダーで、各ウェルの450nmの吸光度を測定した。
図2に、#3、#7、#11のマウス血清及び陽性コントロールのACE2-RBD結合阻害試験の結果を示す。いずれのマウス血清においても、ACE2とRBDとの結合を阻害することが確認された。特に、#11のマウス血清については、100倍希釈の条件で陽性コントロールと同等の阻害能を示すことが確認された。
図3に、#1、#5、#11のマウス血清及びA~Eの患者血清のACE2-RBD結合阻害試験の結果を示す。図3(A)は、#1、#5、#11のマウス血清の阻害効果を比較した結果である。#1、#5のマウス血清ではほとんど阻害が見られなかったのに対し、#11のマウス血清では阻害が確認された。図3(B)は、#11のマウス血清と5名の回復患者の血清の阻害効果を比較した結果である。最も高い阻害効果を示すAの患者を除けば、#11のマウス血清は4名の患者とほぼ同等のACE2-RBD結合阻害効果を示すことが確認された。
[実施例5]S2ドメインの部位のポリペプチドで感作したマウス血清のS2ドメイン認識能
実施例3で得られたマウス血清のうち、#101~117のコンジュゲートを感作して得られた血清について、S2ドメイン認識能を調査した。
SARS-CoV-2のS2ドメインタンパク質(Sino Biological社製、No.40590-V08B)を固相化した96穴マイクロウェルプレートに、各血清をPBSで30倍、100倍及び1000倍に希釈した試料を分注して、インキュベーションした。試料と併せて、陽性コントロールとしての市販のマウス抗S2ドメインポリクローナル抗体(Sino Biological社製、No.40590-T62)のPBS希釈液と、陰性コントロールとしてのPBSを分注し、同様にインキュベーションを行った。各ウェルをPBSTで洗浄した後、HRP標識抗マウスIgGモノクローナル抗体溶液を加えて、インキュベーションした。各ウェルをPBSTで洗浄した後、基質溶液(TMB溶液)を加えて所定時間インキュベーションした後、1N硫酸を加えて反応を停止させた。反応停止後、マイクロウェルプレートリーダーで、各ウェルの450nmの吸光度を測定した。
各試料の吸光度を図4に示す。特に#111及び#114・#115のマウス血清でS2ドメインの認識能が高いことが判明した。これらのマウス血清は、いずれもS2ドメインのHR2領域のポリペプチドを感作したマウスの血清であった。
[実施例6]S2ドメインの部位のポリペプチドと回復者血清の反応性試験
1つずつのポリペプチドを提示したキャリア抗原を用いたELISA系を用いて、5名の回復者血清とS2ドメインの各ポリペプチドとの反応性を検討した。#101~117の各ポリペプチド提示抗原を96穴マイクロウェルプレート(NUNC社Multisorp)にコートし、BSA/PBST溶液でブロッキングを行った。同意を取得したSARS-CoV-2感染から回復した5名の患者A~Eの血清をそれぞれBSA入りPBSで希釈し、各ポリペプチド提示抗原に反応させた。PBSTで洗浄したのと、HRP標識抗ヒトIgG抗体溶液を添加し、30分間インキュベーションした。洗浄後に基質溶液(テトラメチルベンジジン(TMB)溶液)を加え、所定時間後の基質発色を450nmで定量した。
各患者血清A~Eにおいて最も強く認識されたポリペプチド(メジャー)及び2番目に強く認識されたポリペプチド(マイナー)を表2に示す。5名の患者血清中の抗体が、#111及び#114/#115のいずれかに強く反応することから、これらの部位がSARS-CoV-2に対する抗体産生能獲得に重要な部位であることが確認された。
Figure 2023004912000003
[実施例7]コンジュゲートポリペプチドのマウス舌下投与(SLIT)試験
(1)皮下投与用感作液の調製
4種のコンジュゲート(#7、#11、#111及び#115)の1mg/mL PBS溶液を各17.5μL分取して混合した。ここに100mg/mLのサポニン/PBS溶液を3.5μL加えて混合した後、PBSで350μLになるまで希釈して皮下投与用感作液を得た。舌下投与用感作液は、-20℃で保存した。
(2)舌下投与用感作液の調製
4種のコンジュゲート(#7、#11、#111及び#115)の1mg/mL PBS溶液を各20μL分取して混合した。ここに100mg/mLのサポニン/PBS溶液を1μL加えて、81μLの舌下投与用感作液を得た。舌下投与用感作液は、-20℃で保存した。
(3)マウスへの皮下投与
6週齢のマウス(BALB/c)を1週間順化した後、コンジュゲート溶液を投与した。感作液は、100μL/匹の量で皮下投与した。皮下投与は2週間間隔で2回行った。
(4)マウスへの舌下投与
2回目の皮下投与から2週間経過したマウスに舌下投与を行った。イソフルラン気化器によりマウスを麻酔した後、マウスを仰向けに補定してピンセットで口を開いた。ピペットの先でマウスの舌を上にあげ、舌下に舌下投与用感作液10μL(高用量)又は3μL(低用量)滴下した。その後、マウスを1分間静置した。舌下投与は週3回、計6回実施し、最後の投与の2日後に各マウスの採血を行った。舌下投与を高用量で行ったマウス群を高用量SLIT群、低用量で行ったマウス群を低用量SLIT群とした。2回目の皮下投与後、舌下投与を行わない以外は同様の処置を行ったマウス群をコントロール群とした。各マウス群は6匹とした(n=6)。
(5)マウスの抗体価測定(IgG、IgA)
#7と#11のコンジュゲートを重量比1:1で混合して、96穴マイクロウェルプレートに固相化した。併せて、#111、#115のコンジュゲートをそれぞれ別の96穴マイクロウェルプレートに固相化した。コンジュゲートが固相化されたマイクロウェルプレートに、各マウス血清をPBSで希釈した試料を分注して、インキュベーションした。各ウェルをPBSTで洗浄した後、HRP標識抗マウスIgG抗体又はHRP標識抗マウスIgA抗体のPBS溶液を添加して、インキュベーションした。各ウェルとPBSTで洗浄した後、各ウェルをPBSTで洗浄した後、基質溶液(TMB溶液)を加えて所定時間インキュベーションした後、1N硫酸を加えて反応を停止させた。反応停止後、マイクロウェルプレートリーダーで、各ウェルの450nmの吸光度を測定した。
各マウスの抗RBD抗体価の測定結果を図5、図6に示す。図5(A)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgGの、#7及び#11の混合コンジュゲートへの反応性を示す。図5(B)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgGの、#111のコンジュゲートへの反応性を示す。図5(C)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgGの、#115のコンジュゲートへの反応性を示す。図6(A)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgAの、#7及び#11の混合コンジュゲートへの反応性を示す。図6(B)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgAの、#111のコンジュゲートへの反応性を示す。図6(C)は、高用量SLIT群、低用量SLIT群及びコントロール群のマウス血清中のIgAの、#115のコンジュゲートへの反応性を示す。高用量のコンジュゲートを舌下投与したマウス群においては、皮下投与のみのマウス群と比較して、いずれのコンジュゲートに対しても有意に反応性の高いIgG抗体及びIgA抗体が生成された。
[実施例8]SARS-CoV-2RBD分子の各エピトープ認識抗体の、変異型RBD分子の相同エピトープ提示抗原への反応性
K417N、L452R、T478Kの変異をそれぞれ有するSARS-CoV-2 RBDエピトープを提示した変異エピトープ抗原を、実施例1と同様の手法で作製した。
各変異RBDエピトープを結合させた抗原を、96穴マイクロウェルプレートに100ng/ウェルの量で固相化した。併せて、実施例3と同様に野生型RBDエピトープ抗原固相化プレートを調製した。実施例2で得られた抗血清のうち、#7、#10及び#11をPBSで300倍、1500倍、7500倍、37500倍、188000倍及び940000倍に希釈し、#7の血清はK417Nの変異型、#10の血清はL452Rの変異型、#11の血清はT478Kの変異エピトープ抗原を固相化したプレートに分注した。プレートを30分間インキュベーションした後、各ウェルをPBSTで洗浄し、HRP標識抗マウスIgGモノクローナル抗体溶液を加えて、インキュベーションした。各ウェルをPBSTで洗浄した後、基質溶液を加えて所定時間インキュベーションした後、1N硫酸を加えて反応を停止させた。反応停止後、マイクロウェルプレートリーダーで、各ウェルの450nmの吸光度を測定した。試験はn=2で行い、平均値を求めた。
各試料の吸光度を図7に示す。#7及び#11のマウス血清では、変異型RBDへの反応性について、野生型RBDへの反応性よりは少し低いものの、十分に高い反応性を示すことが示された。一方#10のマウス血清では、野生型RBDの中和エピトープと変異型RBD相同エピトープへの反応性がほぼ同等であることが示された。したがって、RBDタンパク質に変異を有するSARS-CoV-2についても、同定した中和エピトープ認識抗体が感染防除効果を有することが示唆された。
[実施例9]コンジュゲートポリペプチド感作マウス抗血清による、SARS-CoV-2擬似型レンチウイルスのCRFK細胞への感染防除効果
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を表面に有する擬似型レンチウイルスを調製して、これをACE2を表面に発現する細胞に感染させる、SARS-CoV-2の擬似感染系を構築した(Pisil Y., et al., Pathogens, 10, 153 (2021)を参照のこと)。この擬似感染系を用いて、以下の手順で、コンジュゲートポリペプチドから誘導された抗体が中和活性を有するかを評価した。
(1)マウス抗血清および混合血清の調製
実施例2で作製した各エピトープ認識抗体(#1、#3、#5、#7、#11、#111、#114、#115など)を含む各抗血清および各エピトープ抗血清の混合血清(2血清または3血清を均等に混合)を作製した。
(2)細胞培養
HEK293T細胞(ATCC CRL 3216)及びネコ腎由来細胞(CRFK細胞、ATCC CCL-94)を、10%(v/v)の熱不活化ウシ胎児血清、2mMピルビン酸ナトリウム及び4mM L-グルタミンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、それぞれ培養した。各培養液より、トリプシン/EDTA溶液を用いて細胞を回収した。すべての細胞株は、5%CO雰囲気下で37℃に維持した。
(3)SARS-CoV-2スパイクタンパク質を有する擬似型レンチウイルスの作製
すべてのDNAプラスミドのクローニングは、Al-Allaf, F.A., et al., Microbes Infect., Vol. 12, pp. 768-777 (2013)に記載の通り、Escherichia coli Stbl3細胞への形質転換により行った。レンチウイルスの擬似型ウイルスを、Cronin J., et al., Curr. Gene Ther., Vol. 5, pp. 387-398 (2005)に記載の通り構築した。すなわち、1μg/mLの2019-nCov_pcDNA3.1(+)-P2A-eGFPスパイクベクター(No.MC_0101087(Molecular Cloud社))に由来するSARS-CoV-2スパイクタンパク質を表面に有する擬似型レンチウイルスを、1μg/mLのHIV-1 NL4-3ΔEnvΔvprルシフェラーゼレポーターベクター(pNL4-3.Luc.R-E-、No.3418、NIHより提供)(Chen B. K., et al., J. Virol., Vol. 68, pp. 654-660 (1994)を参照のこと)と共に、HEK293T細胞の5×10細胞/mLにトランスフェクトして調製した。さらに、200μLのOpti-MEM(ThermoFisher社)、8μLのX-Treme HPトランスフェクション試薬(シグマ・アルドリッチ社)を添加して、トランスフェクトしたHEK293T細胞を5%CO雰囲気下で37℃、2日間培養した。上清を回収して0.45mmフィルターに通し、生成したSARS-CoV-2スパイクタンパク質を表面に有する擬似型レンチウイルス粒子を得た。
1μg/mLの2019-nCov cDNA3.1プラスミド又は1μg/mLの2019-nCov CMVプラスミドを、1μg/mLのpSGΔenvベクター(No.11051、NIHより提供)と共にHEK293T細胞にトランスフェクトしてSARS-CoV-2スパイクタンパク質を表面に有する擬似型レンチウイルス粒子を生成した。
(4)ACE2発現細胞株の作製
CRFK細胞を、10%ウシ胎児血清、2% L-グルタミン及び2%ピルビン酸を添加したDMEMを入れた6ウェルプレート中に2.5×10細胞/mLの濃度で播種した。細胞株を1日間、60~80%コンフルエントに達するまで培養した。2μg/mLにpcDNA3.1+/C-(K)DYK-ACE2プラスミド(No.MC_0101086(Molecular Cloud社))を、200μLのOpti-MEM、8μLのX-Treme HPトランスフェクション試薬を用いて細胞株にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、6ウェルプレートに2.5×10細胞/mLの濃度で播種し、5%CO雰囲気下で、37℃、1日間インキュベートした。その後、細胞を平底96穴マイクロウェルプレート(ファルコン社)に播種した。
(5)中和アッセイ
(1)で得られた各抗血清を培地で18倍、36倍、72倍に希釈した(アッセイ時最終希釈倍率は45倍、90倍、180倍)。2種又は3種の抗血清を混合した混合血清については、含まれる各血清の濃度がさらに1/2又は1/3となるように希釈した。陽性コントロールとして、市販の重症COVID-19回復者IgG陽性血清(No.CoV-PosG-S、Ray Biotech社製)の720倍希釈液をさらに上記と同様に培地で希釈して使用した。96穴マイクロウェルプレートに、血清希釈液各180μLを添加した。SARS-CoV-2スパイクタンパク質を表面に有する擬似型レンチウイルス粒子(LpVSpike(+))の試料を解凍して、培地で6000RLU(Relative Luciferase Unit)/mLまで希釈し、96穴マイクロウェルプレート中の血清希釈液(エピトープ認識抗血清または混合血清等)に各60μL加えた。5%CO雰囲気下で、37℃、1時間インキュベートした。
ACE2発現CRFK細胞を、96穴マイクロウェルプレート中の100μLの培地に2.5×10細胞/mLの濃度で播種し、1日間培養した。インキュベート後の各種マウス血清希釈液各150μLを、播種したCRFK細胞を含むマイクロプレートに添加した。5%CO雰囲気下で37℃、2日間インキュベートした。マウス血清に代えてヒト抗SARS-CoV-2 IgG抗体(No.E-AB-V1021、Elabscience社)を添加したウェルを陽性コントロール、マウス血清に代えて培地を添加したウェルを陰性コントロールとした。また、細胞及び抗血清を含まないウェルをブランクとした。各試験はn=3で行った。各ウェルについて、ルシフェラーゼ活性を測定した。
ルシフェラーゼ活性の測定は、Ishida Y., et al., J. Gen. Virol., Vol. 97, pp. 1249-1260 (2016)及びMatsuda K., et al., Virology, Vol. 399, pp. 134-143 (2010)に記載の方法で実施した。概説すると、以下の方法を用いた。各ウェルに50μLの細胞溶解試薬(東洋ビーネット社)を加え、15分間攪拌した。細胞溶解液30μLを回収し、96穴マイクロウェルプレート(F96 MicroWell white plate(Nunc社))に移し、各ウェルに30μLの発光基質を加えた。マイクロプレートリーダ―(TriStar LB 941(Berthord Technologies社))とMikroWinソフトウェア(Labsis Laborsysteme社)を用いて発光量を測定し、定量した。各実測値からブランク値を減じた値を測定値とした。陰性コントロールの測定値を100%として、各測定値の相対値を算出した。各試験はn=3で行った。
(6)結果
各コンジュゲートペプチドで免疫したマウスの抗血清による、擬似型レンチウイルスのACE2発現CRFK細胞への感染防除効果を図8に示す。図中、「IgG」は陽性コントロール血清の結果を示す。#7+#11、#7+#111、#11+#111、#7、#111のコンジュゲートペプチドで免疫したマウスの抗血清および混合血清では、濃度依存的に擬似ウイルスの感染が防除されることが示された。なお、RBDタンパク質認識能のない#1、#5エピトープ認識抗体およびその混合血清に、疑似ウイルスの感染阻害能は認められなかった。

Claims (12)

  1. 以下の(a)~(f)に記載のポリペプチド群から選択され、かつ、抗体誘導性を有する、ポリペプチド:
    (a)配列番号1の336~361位、406~432位、又は446~480位の部位内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
    (b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;
    (c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド;
    (d)配列番号1の1144~1161位又は1174~1202位の部位内の連続する10個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
    (e)前記(d)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;及び
    (f)前記(d)又は(e)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
  2. 以下の(a)~(c)に記載のポリペプチド群から選択される、請求項1に記載のポリペプチド:
    (a)配列番号1の336~361位、406~432位、又は446~480位の部位内の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
    (b)前記(a)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;及び
    (c)前記(a)又は(b)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
  3. 以下の(d)~(f)に記載のポリペプチド群から選択される、請求項1に記載のポリペプチド:
    (d)配列番号1の1144~1161位又は1174~1202位の部位内の連続する10個以上のアミノ酸からなるポリペプチド;
    (e)前記(d)に記載のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、ポリペプチド;及び
    (f)前記(d)又は(e)に記載のポリペプチドを部分配列として含み、配列番号1の前記部分配列以外の部位を含まない、ポリペプチド。
  4. 請求項1に記載のポリペプチドのうち少なくとも1種類のポリペプチドを含む、SARS-CoV-2感染の治療又は予防のためのワクチン。
  5. 請求項2に記載のポリペプチドのうち少なくとも1種類のポリペプチド、及び、請求項3に記載のポリペプチドのうち少なくとも1種類のポリペプチドを含む、請求項4に記載のワクチン。
  6. ポリペプチドがキャリア分子と結合したコンジュゲートとして含まれる、請求項4に記載のワクチン。
  7. 複数種のポリペプチドが同一キャリア分子上に結合したコンジュゲートとして含まれる、請求項6に記載のワクチン。
  8. コンジュゲートが、ポリペプチドがキャリア分子上で架橋した環状構造を有する、請求項6に記載のワクチン。
  9. 粘膜ワクチンである、請求項4に記載のワクチン。
  10. 舌下ワクチンである、請求項9に記載のワクチン。
  11. 請求項1に記載のポリペプチドのうち少なくとも1種類のポリペプチドを含む、抗体誘導組成物。
  12. 配列番号40~44のいずれかで示されるアミノ酸配列の連続する7個以上のアミノ酸からなるポリペプチドである、請求項1に記載のポリペプチド。
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