JP2023002326A - 電動ブレーキ装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】小さな演算負荷で剛性を推定でき、剛性が変化してもブレーキ制御の精度を維持できる電動ブレーキ装置を提供する。【解決手段】電動ブレーキ装置1は、電動モータ10を駆動してブレーキ力を制御する制御装置2を有する。制御装置2は、電動モータ10の回転角度を推定する角度推定部32と、ブレーキ力を推定するブレーキ力推定器22と、電動モータ10の回転量とブレーキ力とを関連付ける相関である剛性を推定する剛性推定器24と、剛性推定器24で推定された推定剛性を用いてモータ駆動量を導出するブレーキ力制御部36とを備えている。剛性推定器24は、記憶された推定角度および推定ブレーキ力の一方から推定剛性を用いて導出された他方の演算値と、記憶された他方のデータを比較して誤差を導出し、誤差が少なくとも所定の許容量まで小さくなるよう決定変数を調整する収束演算を行って剛性を推定する剛性推定演算部46を有している。【選択図】図1

Description

本発明は、電動モータを駆動して摩擦材とブレーキロータの当接によるブレーキ力を制御する電動ブレーキ装置に関する。
電動ブレーキ装置として、以下の特許文献1~3のような装置が知られている。
特開2010-270788号公報 特開2012-057681号公報 特開2008-184023号公報
特許文献1の電動ブレーキ装置において、特に車両用のブレーキに適用する際に、操縦者に違和感を覚えさせない、あるいはアンチスキッド制御や車両運動制御などの制御性能向上のため、ブレーキ力を高速かつ精密に制御することが求められることが多い。
一般に、摩擦材でブレーキロータを制動するブレーキ装置において、主に摩擦材の剛性の非線形性によりブレーキ装置の剛性、すなわち、モータ回転量に対するブレーキ力変化はブレーキ力に対して非線形となる。このため、一般に精密な制御を行ううえでは、その剛性をできるだけ正確に把握し、その剛性に基づく情報を制御に用いることが好ましい。
しかしながら、特に車両用のブレーキなどにおいて、一般に摩擦材は繰り返しのブレーキ操作によって摩耗する。そのため、ブレーキ装置の剛性は比較的大きく変化することがある。また、主にブレーキ装置の変形などに起因する摩擦材の接触面圧の不均一さ等により、均一に摩耗が進行しない(偏摩耗)。このため、偏摩耗の程度すなわち摩耗の不均一さによって剛性は変化する。これらにより制御装置に記憶されているブレーキ装置剛性と実機との誤差が生じると、電動ブレーキ装置のブレーキ力の制御性が悪化する問題が生じる恐れがある。
さらに、特許文献2のようなアクチュエータ荷重の反作用力によって変速する機能を有するアクチュエータを使用する場合、予め少なくとも変速が生じる荷重条件を把握し、該変速動作の影響を反映したアクチュエータ剛性に基づいて制御を行うことが好ましい。しかしながら、構成部品の摩耗などの要因により、変速する荷重条件が変化する可能性があり、それによって電動ブレーキ装置のブレーキ力の制御性が悪化する問題が生じる場合がある。
また、特許文献3には、ブレーキ装置の剛性を推定する手法が開示されている。しかしながら、一般にブレーキ装置の剛性は比較的強い非線形性を示し、例えば、実際に電動ブレーキ装置を動作させたデータから所定の数式で逆算することは困難な場合が多く、ニュートン法などに代表される反復法によって誤差を最小化する条件を求めることが必要になる。ただし、この場合においても非線形剛性を導出する数式を求めるには、変数の数が多い複雑な演算式となり極めて大きな演算負荷が発生し、高性能な演算器が必要となってコストの問題が生じる。また、演算式が複雑になることで、推定に用いる収束演算が発散するか、あるいは多くの局所解が存在することで十分な精度の推定結果が得られるまでに極めて多くの時間を要する。
本発明の目的は、小さな演算負荷で剛性を推定でき、剛性が変化してもブレーキ制御の精度を維持できる電動ブレーキ装置を提供することである。
本発明の電動ブレーキ装置は、ブレーキロータと、前記ブレーキロータに当接し制動力を発生させる摩擦材と、前記摩擦材とブレーキロータとの当接状態を操作する摩擦材操作手段と、前記摩擦材操作手段の動力である電動モータと、前記電動モータを駆動して前記摩擦材と前記ブレーキロータの当接によるブレーキ力を制御する制御装置とを有する。前記制御装置は、前記電動モータの回転角度に相当する物理量を推定する角度推定部と、ブレーキ力を推定するブレーキ力推定器と、電動ブレーキ動作履歴として前記角度推定部で推定された推定角度および前記ブレーキ力推定器で推定された推定ブレーキ力を記憶し、記憶された前記推定角度および前記推定ブレーキ力に基づいて前記電動モータの回転量とブレーキ力とを関連付ける相関である剛性を推定する剛性推定器と、前記剛性推定器で推定された推定剛性を用いて前記推定ブレーキ力をブレーキ力の目標値に追従させるためのモータ駆動量を導出するブレーキ力制御部とを備えている。前記剛性推定器は、予め記憶された複数の参照剛性と、これら参照剛性のいずれかまたはこれらの中間値に決定する決定変数とを用いて推定剛性を算出する剛性推定演算部を有している。前記剛性推定演算部は、記憶された前記推定角度および前記推定ブレーキ力の一方から前記推定剛性を用いて導出された他方の演算値と、記憶された他方のデータを比較して誤差を導出し、前記誤差が少なくとも所定の許容量まで小さくなるよう前記決定変数を調整する収束演算を行って剛性を推定する。ここで、「電動モータの回転角度に相当する物理量」とは、例えば、摩擦材のストローク量、角速度等である。角速度は、積分すれば角度となる。
この構成によると、電動ブレーキ装置の剛性を推定して、推定された剛性に基づいて制御演算を行うことで、摩擦材の摩耗等で剛性が変化してもブレーキ制御精度を維持できる。また、予め記憶された初期剛性および電動ブレーキ装置の剛性変化を想定した参照剛性と、これらを結合する決定変数を使用して電動ブレーキ装置の推定剛性を導出することで、比較的小さな演算負荷で剛性を推定できる。
本発明において、前記剛性推定器に記憶された複数の前記参照剛性が複数のアドレスにそれぞれ参照剛性を備えたデータテーブルであり、前記決定変数が前記データテーブルの参照先を示すアドレスであってもよい。この構成によれば、予め変化し得る剛性の代表例をテーブルとしておき、テーブルの参照先を変化させて誤差最小化の収束演算を行うことで、設計変数はデータテーブル参照先を示すアドレスのみとなる。このため、比較的小さな演算負荷で、実際の電動ブレーキ装置の剛性に対して誤差の小さな推定剛性を算出することができる。
本発明において、前記剛性推定器に記憶された複数の参照剛性が少なくとも2パターン以上の異なる参照剛性であり、前記決定変数が複数の前記参照剛性の結合比率として乗算される値であってもよい。この構成によれば、予め変化し得る剛性の代表例に対し、前記代表例を所定比率で結合する際の結合比率を変化させて誤差最小化の収束演算を行うことで、設計変数は結合比率のみとなる。このため、比較的小さな演算負荷で、実際の電動ブレーキ装置剛性に対して誤差の小さな推定剛性を算出することができる。
本発明において、前記剛性推定演算部における前記決定変数が、主に剛性の非線形性を変化させる第一の決定変数と、主に全体的な剛性を変化させる第二の決定変数とを有していてもよい。
本発明において、前記摩擦材操作手段が、前記電動モータの回転運動が直進運動に変換され、回転量と直動量との相関である等価リードが所定のブレーキ力において変化する変速機構を備えた直動機構であり、前記剛性推定器に記憶された複数の前記参照剛性が前記等価リードの変化を含む参照剛性であり、前記決定変数が、主に前記等価リードの変化が発生するブレーキ力条件を変化させる決定変数を含んでいてもよい。
この場合、前記摩擦材操作手段が、回転入力部材と、前記回転入力部材の回転軸と同軸に円周方向に等間隔に配置された遊星転動体とを有し、前記回転入力部材と前記遊星転動体の公転速度との比率により減速効果を生じる遊星減速構造を備え、前記回転入力部材と前記遊星転動体を一体回転させる締結力を付勢する弾性部材を備え、前記摩擦材とブレーキロータとの押付力の反作用力によって前記弾性部材による締結力が喪失し遊星減速効果が生じる変速機構を備えており、前記剛性推定器に記憶された複数の参照剛性が前記弾性部材の変形量を含む参照剛性であり、前記剛性推定演算部における決定変数が、前記弾性部材の変形が完了するブレーキ力条件を変化させる決定変数を含んでいてもよい。
本発明において、前記剛性推定器が、前記電動ブレーキ動作履歴における推定ブレーキ力の変化量および推定角度の変化量の少なくとも何れかに基づいてブレーキ動作量を決定し、前記ブレーキ動作量が小さくなると、前記剛性を推定する際の収束演算において前記決定変数の変化を制限するように構成されていてもよい。誤差推定に使用する電動ブレーキの動作範囲が小さくなるほど、計測ノイズ、ブレーキ力の変動(例えば、ディスクブレーキのブレーキディスクの不均一厚さ等)などの影響で誤った推定結果となるリスクが比較的大きくなる。このため、例えば、前回の推定結果に対して決定変数の変化可能範囲を狭めることで、誤った推定結果を導出するリスクを回避することができる。
本発明において、前記角度推定部は前記ブレーキロータの角速度を推定し、前記剛性推定器は、前記電動ブレーキ動作履歴の推定角度および推定ブレーキ力を取得している時間と、前記ブレーキロータの角速度と、前記推定ブレーキ力の少なくとも一つに基づいてブレーキ使用度合を決定し、前記ブレーキ使用度合が小さくなると、前記剛性を推定する際の収束演算において前記決定変数の変化を制限するように構成されていてもよい。高速で回転するブレーキロータに、摩擦材が強い力で、長時間押し付けられるほど、摩擦材が摩耗し易く、その反対の状況においては比較的摩耗しにくいと考えられる。このため、例えば、前回の推定結果に対して決定変数の変化可能範囲を狭めることで、誤った推定結果を導出するリスクを回避することができる。
本発明において、前記制御装置が、前記電動ブレーキ装置が搭載された車両の走行状態を推定する運転状態推定器を有し、前記剛性推定器が、所定より大きな推定ブレーキ力の変化が生じた電動ブレーキ動作履歴に基づいて剛性の推定が行われたかどうかを判断し、前記判断に基づいて剛性の推定が行われていない非実行時間を計測する機能と、前記非実行時間が所定以上経過した場合に、前記走行状態として前記電動ブレーキ装置が搭載された車両が所定時間以上停車していることが推定され、車両のブレーキ力が所定よりも小さい場合において、前記車両の操縦者の操作によらず、前記所定のブレーキ力以上のブレーキ力を発生させ、その際の推定ブレーキ力および推定角度を用いて剛性推定を実行する機能とを有していてもよい。
信頼性の高い剛性推定を行ううえで、十分に大きなブレーキ力が発生した状況のデータを用いることが好ましいが、常用ブレーキ領域(一般に約0.2G程度より小さいブレーキ領域)相当以上のブレーキ力が長らく発生しない状況が生じることが考えられる。このため、そのような状況では、ブレーキ力を少なくとも要求より大きくしておけば問題が生じない停車中において、剛性を推定するためのブレーキ力を自動的に発生させて剛性を推定することで、実機の状態に即した推定剛性を得ることができる。
本発明の電動ブレーキ装置によれば、小さな演算負荷で剛性を推定でき、剛性が変化してもブレーキ制御の精度を維持できる。
本発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置の構成図である。 第1実施形態の第1変形例に係る電動ブレーキ装置の構成図である。 第1実施形態の第2変形例に係る電動ブレーキ装置の構成図である。 第1実施形態の第3変形例に係る電動ブレーキ装置の構成図である。 複数の同電動ブレーキ装置によって構成されたブレーキシステムの構成図である。 同ブレーキシステムの別の例の構成図である。 同電動ブレーキ装置のブレーキ制御器および剛性推定器の一例を示す構成図である。 同ブレーキ制御器および同剛性推定器の別の例を示す構成図である。 同剛性推定器の剛性推定演算部における参照剛性および決定変数の一例を示すブロック図である。 同参照剛性および同決定変数の別の例を示すブロック図である。 同参照剛性および同決定変数のさらに別の例を示すブロック図である。 同参照剛性および同決定変数のさらに別の例を示すブロック図である。 同参照剛性および同決定変数のさらに別の例を示すブロック図である。 同参照剛性および同決定変数のさらに別の例を示す。 剛性推定フローの一例を示すフロー図である。 同剛性推定器の動作履歴記憶部における推定角度および推定ブレーキ力を記憶するフローの例を示すフロー図である。 剛性推定時の決定変数について異なる制限範囲を設定するフローの一例を示すフロー図である。 剛性推定時の決定変数について異なる制限範囲を設定するフローの別の例を示すフロー図である。 剛性推定を実行する条件を長時間満たさない場合、自動で剛性推定可能な条件で電動ブレーキ装置を動作させて剛性推定を行うフローの例を示すフロー図である。 (a)は、同電動ブレーキ装置の動作例を示すグラフで、(b)は、従来の電動ブレーキ装置の動作例を示すグラフである。
図1は、本発明の第1実施形態に係る電動ブレーキ装置1の構成を示す。電動ブレーキ装置1は、制御装置2と、直動機構4を用いたブレーキアクチュエータ6と、ブレーキペダル等のブレーキ指示手段8とを有している。
[ブレーキアクチュエータの構成]
ブレーキアクチュエータ6は、電動モータ10と、直動機構4と、角度センサ12と、荷重センサ14と、減速機16とを有している。角度センサ12は、電動モータのモータ角度を検出する。荷重センサ14は、電動ブレーキ装置1のブレーキ荷重を検出する。なお、ブレーキの性能要件によっては、減速機16を省略してもよい。
電動モータ10は、例えば、永久磁石同期電動機である。電動モータ10として、永久磁石同期電動を用いると、省スペースで高効率かつ高トルクとなる。ただし、電動モータ10は、永久磁石同期電動機に限定されず、例えば、ブラシを用いたDCモータ、永久磁石を用いないリラクタンスモータ、誘導モータ等であってもよい。また、電動モータ10は、回転径方向に磁極を設けるラジアルギャップモータであってもよく、回転軸方向に磁極を有するアキシャルギャップモータであってもよい。
直動機構4は、遊星ローラねじ、ボールねじ、滑りねじ等のねじ機構や、ボールランプ機構等の回転運動を直進運動に変換可能な各種機構を用いることができる。
角度センサ12は、例えば、レゾルバ、磁気エンコーダである。角度センサ12として、レゾルバ、磁気エンコーダ等を用いると高精度かつ信頼性が高い。ただし、角度センサ12は、これらに限定されず、光学式エンコーダ等の各種センサを適用することができる。あるいは、角度センサ12を用いずに、例えば、電圧と電流との関係等からモータ角度を推定(角度センサレス推定)してもよい。
荷重センサ14は、例えば、アクチュエータ6を作用させる荷重に応じた歪、変形等を検出するセンサである。このようなセンサを用いると安価で高精度となる。ただし、荷重センサ14は、これに限定されず、圧電素子等の感圧媒体であってもよい。あるいは、荷重センサ14として、ブレーキロータの制動トルクを検出するトルクセンサや、車両用電動ブレーキ装置の場合は車両の前後減速度を検出する加速度センサ等を用いてもよい。また、荷重センサ14を用いずに、例えば、モータ電流からモータが発生させるトルクを推定し、モータトルクやモータの運動状態から直動機構等の特性を用いてブレーキ力を推定(荷重センサレス推定)してもよい。
図示されていないが、サーミスタ等の各種センサ類を必要に応じて別途設けてもよい。また、ソレノイド、DCモータ等でアクチュエータの動力伝達部をロックする機構を設け、パーキングブレーキアクチュエータとして使用してもよい。
[制御装置の構成]
制御装置2は、ブレーキ制御器18と、運動状態推定器20と、ブレーキ力推定器22と、剛性推定器24と、モータ制御器26と、モータドライバ28と、電流センサ30とを有している。
ブレーキ制御器18は、ブレーキ制御の演算を行う。運動状態推定器20と、電動モータ10の動作状態を演算する。ブレーキ力推定器22は、ブレーキ力を推定する。剛性推定器24は、電動ブレーキ装置1の剛性を推定する。モータ制御器26は、所定のモータ出力を得るためにモータ電流を制御する。モータドライバ28は、電動モータ10に電力を供給する。電流センサ30は、電動モータ10に供給されるモータ電流を検出する。
運動状態推定器20は、電動モータ10の回転子の角度を推定する角度推定部32と、その角速度を推定する角速度推定部34を有している。これに加えて、運動状態推定器20は、例えば、電動モータ10の角加速度等の所定微積分値を推定する機能や、外乱を推定する機能等を有していてもよい。
電動モータ10の角度は、例えば、電流制御に用いる電気角位相や、角度制御に用いる角度センサ12のオーバーラップおよびアンダーラップを補正した総回転角度などの、制御構成に基づいて必要な物理量を含む。また、電動モータ10の角度や角速度は、電動モータ10の回転子に代えて、例えば、減速比に基づいて求めた減速機の所定部位の角度や、ねじ機構の等価リード等に基づいて求めた位置や速度であってもよい。このような物理量の推定は、例えば、状態推定オブザーバ等の構成を用いてもよく、微分や慣性方程式に基づく逆算等の直接的な演算であってもよい。
電流センサ30は、例えば、通電経路に設けたシャント抵抗両端の電圧を検出するアンプからなるセンサや、通電経路周囲の磁束等を検出する非接触式センサ等である。ただし、電流センサ30は、これらに限定されず、例えば、モータドライバ28を構成する素子等の端子電圧等を検出するものであってもよい。また、電流センサ30は、電動モータ10の相間に設けてもよく、ローサイドないしハイサイドに1つあるいは複数設けてもよい。あるいは、電流センサを設けずに、インダクタンスや抵抗値等のモータ特性に基づいてフィードフォワード制御を行ってもよい。
ブレーキ制御器18は、ブレーキ指示手段(ブレーキペダル)8からの所定の指令入力に対してブレーキアクチュエータが望ましく追従するための操作量を求め、モータ駆動信号に変換する。ブレーキ制御器18は、ブレーキ力制御部36と、剛性記憶部38とを有する。ブレーキ力制御部36は、主に摩擦材40とブレーキロータ42との当接によって発生するブレーキ力を制御する。剛性記憶部38は、ブレーキ力制御において用いられる電動ブレーキ装置1の剛性を記憶する。
ブレーキ力制御部36は、摩擦材40とブレーキロータ42とを当接させた際のブレーキ力を所望の目標値に追従制御するようモータ駆動量を決定する。図1においては、摩擦材40とブレーキロータ42との押付力が荷重センサ14で検出され、この荷重センサ14の出力からブレーキ力推定器22で推定されるブレーキ力に基づいてモータ駆動量が決定される。ただし、モータ駆動量の決定方法は、これに限定されず、上述の通りブレーキロータ42の制動トルクを検出するトルクセンサ等の別のセンサを用いてもよく、あるいは、荷重センサレス推定機能により推定ブレーキ力をフィードバック制御してもよい。
ブレーキ力制御部36は、主に直動機構4のストローク位置を制御する位置制御機能を有していてもよい。位置制御機能は、例えば、ねじ機構を用いた場合の等価リードや、減速機を設けた場合の減速比のように、アクチュエータの緒言に基づいてモータ回転量から換算される直動機構4の直動ストローク量を制御するようモータ駆動量を決定する。この場合、別途ストロークセンサ等を設ける必要がない。ただし、別途ストロークセンサ等を設け、該センサの信号を所定の目標値にフィードバック制御してもよい。
位置制御機能は、例えば、ブレーキを解除する際に摩擦材40とブレーキロータ42とが極力当接しないよう、これらの間に所望の空隙が存在し得るストローク量となるように制御することができる。加えて、例えば、ブレーキ力を検出する荷重センサやトルクセンサ等で検出が困難となる極めて軽微なブレーキ力を制御するために、ブレーキ力を制御する機能として、空隙がゼロ近傍またはゼロより小さい値となるストローク状態になるよう制御してもよい。つまり、直動機構4が、摩擦材40とブレーキロータ42との当接状態を操作する摩擦材操作手段を構成する。
剛性記憶部38は、モータ回転量とブレーキ荷重との相関である電動ブレーキ装置1の剛性を記憶する。剛性記憶部38には、例えば、実験や解析等で予め求められた電動ブレーキ装置1の剛性が初期条件として記憶され、剛性推定器24の推定結果に基づいて記憶された剛性が更新されていく。
剛性推定器24は、動作履歴記憶部44と、剛性推定演算部46とを有している。動作履歴記憶部44は、ブレーキ力を発生させる際の推定ブレーキ力および電動モータ10の推定角度を電動ブレーキ動作履歴として記憶する。剛性推定演算部46が、動作履歴記憶部44に記憶された推定ブレーキ力および推定角度から電動ブレーキ装置1の剛性を推定する。
剛性推定演算部46は、予め設定された複数の参照剛性と、これらの参照剛性群から所定の演算過程に基づいて一意に剛性を決定できる決定変数を有している。剛性推定演算部46は、これら参照剛性および決定変数に基づいて剛性を導出する。参照剛性は、例えば、実験や解析などにより予め求められ、剛性推定演算部46に記憶される。剛性推定演算部46は、さらに、動作履歴記憶部44に記憶されたデータを基に剛性を推定する。具体的には、剛性推定演算部46は、決定変数を変化させて導出された剛性と、記憶されたデータとの誤差を評価し、誤差を最小化ないし所定より小さな誤差とする収束計算により推定剛性を導出する。
一般に、主に摩擦材40の影響により電動ブレーキ装置1の剛性は極めて強い非線形性を示す。このため、複雑な近似式を比較的安価なマイクロプロセッサ等で導出することは困難である場合が多い。この実施形態では、参照剛性として予め剛性の情報が与えられており、複数の参照剛性から一意に剛性を導出するための決定変数を誤差最小化の収束計算における探査パラメータとすることで、計算負荷を大幅に削減できる。
また、例えば、車両に搭載された電動ブレーキ装置1に代表されるように、所定の操縦者による任意の操作に基づき動作する必要がある場合、必ずしも最小から最大までのブレーキ力を発生させる操作が行われるとは限らない。そのため、限定的な電動ブレーキ動作時のデータに基づいて推定を行う必要がある。そのような場合においても、この実施形態によれば、所定の参照剛性に基づき剛性が推定されるので、データのレンジ外において実機と著しく異なるような推定剛性が求められるリスクを低減することができる。
モータ制御器26は、ブレーキ制御器18で求められた所望のモータ駆動量となるように、モータ電流を制御する。モータ電流は、例えば、所定のモータ角速度の状態で所望のトルクを得るために最適な電流条件を予めルックアップテーブル(LUT)に記憶しておき、現在のモータ角速度から目標電流値を決定して該電流値となるよう制御される。この場合、安価に高精度な制御を行うことができる。ただし、モータの出力を導出する電流や電圧の関係式などを演算し駆動条件をリアルタイムで求めてもよい。
以上の各種演算機能は、例えばマイコン、FPGA、ASIC等の演算器および周辺回路により構成すると、安価で高性能となり好適である。
モータドライバ28は、例えばFET等のスイッチ素子を用いたブリッジ回路を構成し、所定のデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。このような構成とすることで、安価で高性能となる。ただし、モータドライバ28は、変圧回路等を設け、PAM制御を行う構成としてもよい。
[その他]
電動ブレーキ装置1は、さらに、電源装置(図示せず)を有している。電源装置は、例えば、自動車用電動ブレーキ装置においては、低電圧バッテリや、高電圧バッテリを降圧する降圧コンバータ等を用いることができる。あるいは、電源装置は、高容量のキャパシタ等を用いるか、或いはこれらを並列使用して冗長化してもよい。また、図示されていないが、モータドライバ28に直接電源を供給し、演算器等には制御装置2内で小形の降圧コンバータを適用する構成が好ましいが、モータドライバ28に昇圧コンバータを介した電力を供給する構成としてもよい。
ブレーキ指令手段8として、ブレーキペダルに代えてボリューム、ジョイスティック、スイッチ等のような操縦者が操作可能な各種操縦手段を用いてもよい。
図2は、ブレーキ指令手段として車両運動制御装置48が設けられた第1変形例を示す。車両運動制御装置48は、例えば、自動ブレーキ機能部、横滑り防止機能部、アンチスキッド制御部等(いずれも図示せず)を有している。自動ブレーキ機能部は、車両の衝突を防止または衝突時の衝撃を軽減する。横滑り防止機能部は、車両が横滑り状態となった際に少なくともブレーキにより車両スピン等を防止する。アンチスキッド制御部は、ブレーキにより車輪がロックし車両挙動が不安定になることを防止する。
車両運動制御装置48は、例えば、Gセンサ、対物センサ、GPS等の各車載センサ類(いずれも図示せず)の情報を統合し、上述の各種機能に必要な演算を行う統合制御装置であってもよい。車両運動制御装置48で決定されたブレーキ操作量が、目標ブレーキ力として電動ブレーキ制御装置2に伝達される。図3は、ブレーキ制御装置2への指令伝達が車両運動制御装置48に統合された第2変形例を示す。
図4は、図1に対し、直動機構4に所定の動作条件において等価リード(=モータ回転量に対するアクチュエータ直動量)の相関が変化するアクチュエータを適用する第3変形例を示す。
図4の直動機構4は、印加する直動荷重によって等価リードが変化する変速機構50を有する。直動機構4は、例えば、遊星キャリアと遊星転動体が直動荷重の反作用力によって締結・離反することで等価リードが変化する遊星ローラねじ構造である。このような遊星ローラねじ構造を用いると、構成が簡素で省スペースとなる。ただし、直動機構4は、遊星ローラねじ構造に限定されず、例えば、上述のような変速構造を設けた遊星減速機と、ボールねじやボールランプ機構等の回転運動を直進運動に変換可能な各種機構とを組み合わせた直動機構を用いてもよい。
前述の遊星減速構造を使用した変速機構50を備えた直動機構4において、遊星キャリアと遊星転動体が締結されて一体回転する場合は等価リードが比較的大きい。一方、遊星キャリアと遊星転動体が離反して遊星転動体が自転する場合は遊星減速効果によって等価リードが比較的小さい。このようなアクチュエータを適用すると、例えば、ブレーキを解除して摩擦材40とブレーキロータ42との間に所定のクリアランスが設けられた状態からブレーキ力を発生させる際、負荷が小さい状態においては等価リードが大きいため速く動作する。負荷が大きくなると等価リードが減少して大きな推力を発生させられるので、ブレーキの応答性を向上できる。
変速が生じた場合、電動ブレーキ装置1の剛性は、少なくとも遊星減速効果の有無に応じた不連続な剛性となる。換言すれば、モータ回転量とブレーキ荷重とのいずれか一方に対する他方の変化勾配が、少なくとも遊星減速効果による減速比率の分、不連続に推移する剛性となる。加えて、例えば、前述の遊星キャリアと遊星転動体を締結・離反させる手段として直動荷重の反作用力で変形するばね部材を用いる場合、ばね部材の変形量はゼロに近いほど性能上は好ましいが、寸法公差などの製造上の都合により所定量変形させる構造となる。したがって、ばね部材が変形する間、ばね部材の剛性の影響により、アクチュエータ剛性は不連続な剛性となる。
剛性推定器24には、不連続な剛性となることを想定した剛性情報が、参照剛性として記憶されている。あるいは、不連続点を有しない参照剛性と、参照剛性に変速構造50に伴う不連続点を追加する決定変数が剛性推定器24に別途設けられる。
図5は、図1~4のいずれかの構成からなる複数の電動ブレーキ装置1によって構成されたブレーキシステムの例を示す。図5では、車両運動制御装置48による目標ブレーキ力は、各電動ブレーキ装置1に対して独立して個別に送信される。また、ブレーキペダル8は、例えば、ペダルストローク量のような単一の情報を有するが、四輪自動車のフロントブレーキとリアブレーキのように、同じブレーキペダル8のストローク量に対して実際に発生させるブレーキ力を各電動ブレーキ制御装置1で異なるブレーキ力とすることができる。このような仕様ならびにシステムとして構成される電動ブレーキ装置1の数は、ブレーキシステムの要件に応じて適宜決めることができる。
図6は、図1~4のいずれかの構成からなる複数の電動ブレーキ装置1によって構成されたブレーキシステムの図5とは別の例を示す。図6は、1つの電動ブレーキ装置1が複数のブレーキアクチュエータ6を制御する例を示す。図6では、2つのブレーキアクチュエータが1つの電動ブレーキ制御装置1で制御される例を示しているが、1つの電動ブレーキ制御装置1で制御されるブレーキアクチュエータ6の数はシステム要件に応じて適宜決めることができる。また、図5と図6の構成を併用してもよい。
図1~6の例において、図示された機能ブロックはあくまで説明の便宜上設けたものであり、ハードウェアないしソフトウェアの構成やパーティション等を制約するものではない。また、ソフトウェアやハードウェアの具体的構成は、図示された機能に支障がない範囲で任意に構成できるものとし、必要に応じて図示された各ブロックの機能を統合ないし分割してもよい。さらに、図示された機能に支障がない範囲で、図示されていない要素を加えることも可能である。例えば、各種機能やセンサ類が故障した場合のセーフティメカニズム等をシステム要件に基づいて適宜加えてもよい。
図示されたの電動ブレーキ装置1は、自動車のほか、例えば、昇降装置、発電装置、フライホイールなどのエネルギー蓄積装置等を停止するためのブレーキ装置として適用することができる。
図7は、ブレーキ制御器18および剛性推定器24の構成例を示す。位置制御部54、ブレーキ力制御部36、角度換算部56および剛性記憶部38が、図1のブレーキ制御部18を構成する。
位置制御部54は、モータ角度の目標値に対して推定角度を追従制御するためのモータ駆動量を導出する。ここで、図7における角度は、電気角や機械角などの所定の周期性を有するオーバーラップ・アンダーラップする角度ではなく、電動モータが総じて回転した量を示す総回転角度をいう。また、図7では、モータ駆動量がモータトルク目標値である例を示しているが、例えば、モータ電流目標値や、モータ電圧であってもよい。
ブレーキ力制御部36は、推定ブレーキ力から推定剛性に基づいて換算されたモータ角度と推定角度とを比較し、所望のブレーキ力となる角度補償値を演算する。すなわち、ブレーキ力制御部36は、電動ブレーキ装置1の実機の剛性と推定剛性との誤差を補償する。角度補償値は、位置制御部54において、目標値に対して適用してもよく、フィードバックされた推定角度に対して適用してもよい。
角度換算部56は、剛性記憶部38に記憶された剛性に基づいて、ブレーキ力をモータ角度に変換する。
剛性記憶部38は、ブレーキ力とモータ角度との相関である電動ブレーキ装置1の剛性を記憶する。剛性記憶部38には、電動ブレーキ装置1の初期状態に即した剛性の初期値が予め記憶されている。その後、剛性推定演算部46により新たに剛性が推定された際には、当該の推定剛性に更新される。
動作履歴記憶部44は、ブレーキ力記憶部58と、角度記憶部60とを有している。ブレーキ力記憶部58は、電動ブレーキ装置1によりブレーキ力を発生させた際の推定ブレーキ力が記憶される。角度記憶部60は、電動ブレーキ装置1によりブレーキ力を発生させた際の推定角度が記憶される。
剛性推定演算部46は、予め与えられた複数の参照剛性62と、決定変数64と、剛性計算部66と、収束演算部68とを有している。剛性計算部66は、参照剛性62および決定変数66から剛性を導出する。収束演算部68は、動作履歴記憶部44に記憶されたデータとの誤差を最小化または所定より小さい誤差とする決定変数64を導出する。
参照剛性62は、少なくとも初期状態の電動ブレーキ装置1の剛性と、電動ブレーキ装置1の剛性が変化したことを想定した電動ブレーキ装置1の剛性とを含む。複数の参照剛性62は、傾向の異なる剛性変化を想定し、想定される変化傾向ごとに与えられてもよい。例えば、一般に、ブレーキの摩擦材40が偏摩耗によって不均一な厚さとなることによる剛性変化と、摩擦材40が摩耗して薄くなることによる剛性変化は傾向が異なる。このため、複数の参照剛性62として、摩擦材40の不均一厚さによる剛性変化を想定した参照剛性62と、摩擦材40が全体的に薄くなることによる剛性変化を想定した参照剛性62とを設け、それぞれ独立に調整可能な複数の決定変数64を設けてもよい。また、より多くの傾向を示す剛性変化を想定した参照剛性62と、それらを独立に調整可能な決定変数64を加えることもできる。
収束演算部68は、動作履歴記憶部44のデータサンプルθ1・・・θkおよびF1・・・Fk(kはサンプル数)に対して、例えば、ニュートン法などの収束演算アルゴリズムを用いて、つぎの誤差関数Jを最小化または所定より小さな誤差とする決定変数64を導出する。
Figure 2023002326000002
ただし、誤差関数Jは上記のような二乗誤差によらず、例えば、差分の絶対値の総和、赤池情報量規準(AIC)、ベイズ情報量規準(BIC)等のような、剛性を用いて導出した結果と実際の動作履歴記憶部44のデータとの誤差を評価可能な計算式であればよい。
また、収束演算は、誤差最小化に加えて最大反復回数を設定し、収束演算における反復回数が最大反復回数に達した場合は演算を終了する処理を設けるのが好ましい。このような処理を設けると、極めて長時間にわたる反復計算が行われる状況を防止することができる。その際、最大反復回数に達する終了条件を充足した際の推定結果については、推定剛性を破棄してもよく、計算された剛性のうち最も誤差の小さかった剛性に更新してもよい。あるいは、最小化された条件における誤差を評価し、このような誤差が所定より小さければ剛性記憶部38の剛性を推定剛性に更新し、それよりも誤差が大きければ結果を破棄する処理としてもよい。
図示されていないが、剛性記憶部38の剛性を更新する際に、更新前の剛性とは別の記憶領域に更新後の剛性が保存されるようにしてもよい。これにより、角度換算部56が剛性記憶部38を参照する際に、更新途中の剛性情報を参照してしまう等の動作不具合を確実に防止できる。このとき、例えば、2つの剛性を記憶できる記憶領域を設け、一方を更新した後はその他方を更新して2つの領域を交互に使用すれば使用する記憶領域は最小となる。ただし、例えば、より多くの複数の剛性を記憶可能な領域を設け、複数回分の更新情報を保持するようにしてもよい。剛性の更新が完了したことは、例えば、更新が完了したことを示すフラグ処理を設けることにより管理することができる。
図示されていないが、動作履歴記憶部44ならびに剛性推定演算部46において、ブレーキ力増加時の動作時のデータのみ記憶する第一の動作履歴記憶部と、この第一の動作履歴記憶部のデータを用いて計算を行う第1の剛性推定演算部と、ブレーキ力減少時の動作時のデータのみ記憶する第2の動作履歴記憶部と、この第二の動作履歴記憶部のデータを用いて計算を行う第2の剛性推定演算部とを設け、ブレーキ力が増加する場合と減少する場合のそれぞれにおいて剛性推定を行う構成としてもよい。
このような構成とすることで、例えば、摩擦力によるヒステリシス等の要因によりブレーキ力増加時と減少時とで異なる剛性を示す場合などにおいて、より正確な剛性推定を行うことができる。また、その際、剛性記憶部38において、ブレーキ力増加時とブレーキ力減少時の推定剛性のいずれか、またはその中間値を採択して剛性を記憶するようにしてもよい。あるいは、ブレーキ力増加時と減少時それぞれの推定剛性を記憶し、ブレーキ力を増加させる際にはブレーキ力増加時の推定剛性を、ブレーキ力を減少させる際にはブレーキ力減少時の推定剛性を用いるようにしてもよい。
図8は、ブレーキ制御器18および剛性推定器24の図5とは異なる例を示す。ブレーキ力制御部36、剛性記憶部38および制御ゲイン計算部70は、図1のブレーキ制御部18を構成する。
ブレーキ力制御部36は、ブレーキ力目標値に対して推定ブレーキ力を追従させるようモータ駆動量を導出する。図8では、モータ駆動量がモータトルク目標値である例を示しているが、モータ駆動量は、例えば、モータ電流目標値や、モータ電圧であってもよい。
制御ゲイン計算部70は、剛性記憶部38に記憶された剛性に基づいて、ブレーキ力制御部36の制御演算パラメータを導出する。記憶された剛性に基づいた制御演算パラメータは、例えば、制御対象をバネ結合された質量とした際に、剛性の変化をバネレートの変化と考え、バネレートの変化に対して制御特性を一定に保つ制御パラメータとして予め解析や実験等で求めることができる。また、制御演算パラメータは、例えばPID制御のような直列線形補償器の各ゲインであってもよく、状態フィードバックコントローラの係数であってもよく、あるいは、その他コントローラの形式によらず所定のパラメータであってもよい。
図9は、図7,8に示す剛性推定演算部46における参照剛性62および決定変数64の一例を示す。図9の例では、参照剛性62を複数の剛性情報を含む剛性テーブル(データテーブル)72とし、決定変数64を剛性テーブル72の参照先を指定するアドレスとしている。
図9は、第一および第二のアドレスをもつ2次元テーブルの例を示している。この場合、参照アドレスは第一および第二のアドレスを指定する2つの値を含むアドレスとなる。例えば、図9の例において、第一のアドレスによって摩擦材40(図1)の不均一厚さによる剛性変化を想定した参照剛性を指定し、第二のアドレスによって摩擦材40が薄くなることによる剛性変化を想定した参照剛性を指定するようにする。これにより、異なる傾向による剛性変化を考慮した参照剛性62ならびに決定変数64とすることができる。
具体的には、図9において、剛性f_00は、初期状態の参照剛性である。剛性f_0mは、摩擦材40の平均厚さが概ね初期状態で厚さが最も不均一となった状態の参照剛性である。剛性f_n0は、摩擦材40の不均一さは概ね初期状態で平均厚さが最も薄くなった状態の参照剛性である。剛性f_nmは、摩擦材40の厚さが最も不均一となり、かつ平均厚さが最も薄くなった参照剛性である。0~m,0~nの間のアドレスに、これらの中間状態となる参照剛性62を設けた剛性テーブル72とすると、摩擦材40の厚さの不均一さと平均厚さそれぞれによる剛性変化を考慮した参照剛性とすることができる。これにより、そのような剛性変化度合を参照アドレスにより変化させることができる。
なお、上述の設定例はあくまでも一例であり、テーブルならびにアドレスの次元数は任意に設定することができる。また、テーブルの各次元において、どのような剛性変化要因を想定するかも任意に設定できる。すなわち、1次元のテーブル、アドレスとしてもよく、3次元以上のテーブル、アドレスとしてもよい。また、参照アドレスは、テーブルのアドレスを直接指定するものであってもよく、テーブルのアドレス中間を指定可能なものとしてもよい。例えば、2次元の参照テーブルにおけるアドレス中間を指定可能とする場合、参照アドレスの周囲4つのアドレスにおける参照剛性を線形補完して結合した剛性を取得するようにしてもよい。
図10は、図7,8に示す剛性推定演算部46における参照剛性62および決定変数64の図9とは別の例を示す。図10は、複数の参照剛性62と、これら参照剛性62を結合する結合係数α、βを決定変数64とした例を示している。
図10は、2つの結合係数α、βと、これらによって結合される第一~第四の参照剛性62により構成される例を示している。例えば、図10において、第一の参照剛性を初期状態の剛性とする。第二の参照剛性を摩擦材40の平均厚さは概ね初期状態で厚さが最も不均一となった状態の剛性とする。第三の参照剛性を摩擦材40の不均一さは概ね初期状態で平均厚さが最も薄くなった状態の剛性とする。第四の参照剛性を摩擦材40の厚さが最も不均一となり、かつ平均厚さが最も薄くなった状態の剛性とする。この場合、摩擦材40の厚さの不均一さと平均厚さそれぞれによる剛性変化を考慮した参照剛性とすることができ、その剛性変化度合を結合係数α、βにより変化させることができる。
なお、上述の設定例はあくまで一例であり、結合係数の数およびそれに伴う参照剛性の数は任意に設定することができる。また、各参照剛性においてどのような剛性変化要因を想定するかは任意に設定できるものとする。すなわち、1つの結合係数および2つの参照剛性としてもよく、3つの結合係数ならびに8つの参照剛性としてもよく、あるいは、それ以上の結合係数群および参照剛性群とすることもできる。
図11は、1つの結合係数αおよび2つの参照剛性62と、全体的な剛性を変更する乗算係数εとを設ける例を示している。例えば、主に最大ブレーキ荷重が比較的小さい要求仕様に基づいて電動ブレーキ装置1を構成する場合、摩擦材40の平均厚さが薄くなった際の剛性変化を概ね全体的な剛性の等比変化として近似できる場合がある。そのような場合、図11のように、摩擦材40の不均一厚さなど複雑な非線形性を示す剛性変化を第一および第二の参照テーブルおよび結合係数αで計算し、乗算係数εで全体的に等比変化させる構成とする。これにより、摩擦材40の不均一さ変化による影響と摩擦材40の平均厚さ変化による影響など、異なる傾向を示す剛性変化に適応した剛性推定を行うことができる。
図12は、結合係数αおよび対応する第一および第二の参照剛性62と、結合係数κおよび対応する第一および第二の調整関数74とを設け、最終的に乗算して剛性を得る構成の例を示している。一般に、摩擦材40の平均厚さが薄くなった際の剛性変化は、ブレーキ力が低い領域で比較的大きな比率で変化し、ブレーキ力が高い領域で比較的小さな比率で変化する傾向を示す。この剛性変化比率を調整関数74として予め規定し、結合係数κで調整関数74の適用度合いを調整する。これにより、摩擦材40の不均一さ変化による影響と摩擦材40の平均厚さ変化による影響等の異なる傾向を示す剛性変化に適応した剛性推定を行うことができる。
図4に示すような変速構造50を設けた直動機構4を適用する場合、変速動作や変速機構50を構成するためのばね部材の変形など、電動ブレーキ装置1の剛性はさらに複雑な関数となる。この場合、変速動作の特性変化(例えば、変速が生じるブレーキ力の変化や、バネの変形特性等)を考慮した剛性推定はより困難となる。このような場合においても、図9~12の手法によって剛性推定を行うことができる。
例えば、図9の例を適用する場合、参照剛性テーブル72を3次元とし、第三のアドレスに変速動作の特性変化を考慮した参照剛性62をマッピングすればよい。また、図10の例を適用する場合、新たな結合係数および第五~第八の参照剛性62を設け、第五~第八の参照剛性62は第一~第四の参照剛性62に変速動作の特性変化を反映した参照剛性とすればよい。さらに、図11、図12の例を適用する場合、新たな結合係数および第三および第四の参照剛性62を設け、第三および第四の参照剛性62は第一および第二の参照剛性62に変速動作の特性変化を反映した参照剛性とすればよい。
図13は、上述の手法に代えて、直接的に変速動作の特性を計算する例を示す。最初に、図9と同様に、参照剛性テーブル72および参照アドレスを用いて、所定の基準剛性を導出する。つぎに、変速が発生する不連続点FV1、ばね変形が限界に達する不連続点FV2および所定の計算に従って、不連続点計算部76が、基準剛性に基づいて変速動作による不連続点を含む剛性を導出する。このとき、参照アドレスおよび不連続点FV1,FV2が決定変数64となり、剛性推定器24の収束演算において誤差を最小化する決定変数を導出する。
不連続点計算部76において、基準剛性が直動機構4(図4)の等価リードが小さい状態における参照剛性テーブル72に基づいて導出される場合、ブレーキ力がゼロからFV1までの間において、基準剛性のθ、Fに対し、
dθ’/dF=R・dθ/dF (Rは、変速による減速比)
となるθ’を導出する。これは、変速による不連続点が生じるブレーキ力FV1より小さいブレーキ力においては、参照剛性62に対して等価リードが変速によって大きくなることを反映した演算と換言できる。
ブレーキ力がFV1からFV2までの間において、
dθ’/dF=(dθ/dF)+ v
となるθ’を導出する。これは、変速構造のばね部材の変形が限界に達するまでは、ばね部材の変形の分電動ブレーキ装置剛性が低下することを反映した演算と換言できる。
ブレーキ力がFV2を超える領域においてはdθ’/dF=dθ/dFとなる。つまり、上記のθ’を結合し、θ’とFとの相関が最終的に導出される剛性となる。
不連続点計算部76において、基準剛性が、直動機構4の等価リードが大きい状態における参照剛性テーブル72に基づいて導出される場合、ブレーキ力がFV1を超える範囲において、基準剛性のθ、Fに対し、
dθ’/dF=S・dθ/dF (ここで、S=1/R)
となるθ’を導出する。これは、変速による不連続点が生じるブレーキ力FV1より大きいブレーキ力においては、参照剛性62に対して等価リードが変速によって小さくなることを反映した演算と換言できる。
ブレーキ力がFV1からFV2までの間において、さらに、ばね部材の変形を考慮して、
dθ’/dF=S・(dθ/dF)+v
となるθ’を導出する。
ブレーキ力がFV1より小さい領域においてはdθ’/dF=dθ/dFとなる。つまり、上記のθ’を結合し、θ’とFとの相関が最終的に導出される剛性となる。
なお、変速機構50(図4)にばね部材を設けない場合、または、ばね部材の変形を無視できるまで極めて微小として設計する場合、上述のFV2およびFV2に関連する計算工程を省略することもできる。
図14は、図13に対し、図9に代えて図10に変速動作による特性の計算を追加する例を示す。不連続点計算部76の計算方法については図13と同様である。
図15は、剛性推定フローの一例を示す。ステップS1は、動作履歴記憶部44における推定角度および推定ブレーキ力のデータを取得する。
ステップ2は、ステップS1で取得されたデータが剛性推定を行うに当たり十分か否かを判断する。この判断は、例えば、取得データにおける推定ブレーキ力の変化範囲と推定角度の変化範囲の一方または両方が予め規定された所定値より大きい場合に、取得データが十分であることを判断することができる。
ステップS3は、剛性推定を行ううえで誤差最小化の収束演算における変数である決定変数64の初期値を設定する。推定演算を開始する際の推定剛性(更新する前の剛性)を決定するに至る決定変数64を初期値とすると、以降の収束演算の収束性が向上して好ましい場合が多い。
ステップS4は、収束演算の反復ループを示す。収束演算のアルゴリズムとして、例えば、ニュートン法、レーベンバーグ・マーカート法などの反復計算法を用いることができる。このようなループを終了する条件は、例えば、誤差の最小値への収束性、誤差の絶対値、最大反復回数等を設定することができ、アルゴリズムや要件に従って設計者が適宜定めることができる。なお、最大反復回数を規定し、それにより反復計算が終了した場合、計算結果については十分な収束が得られなかったものとして破棄してもよく、あるいは計算された中での最適解を結果として適用してもよい。また、計算された中での最適解における推定誤差について、所定より誤差が小さければ採用し、誤差が大きければ結果を破棄する処理を設けることもできる。
ステップS5は、現在の反復ループにおける決定変数64と参照剛性62に基づいて、剛性関数を導出する。図9および図13の例において、決定変数64は参照アドレス、参照剛性62は複数の参照剛性が記憶された参照剛性テーブル72である。図10~12、14の例において、決定変数64は結合係数α,β、参照剛性62は記憶された複数の参照剛性である。図11の例において乗算係数εが決定変数64に加わり、図13,14の例において、不連続点FV1、FV2が決定変数64に加わる(FV2は省略される場合もある)。
ステップ6は、ステップ5で決定した剛性関数を用いて導出した結果と、実測されたデータとの誤差を評価する。この誤差は、図中に記載のように差分の二乗の総和を用いて評価することができるが、例えば、差分の絶対値の総和や、赤池情報量規準、ベイズ情報量規準等の評価指標を用いることもできる。
ステップ7は、ステップ6で評価された評価関数等を基に、所定の反復計算アルゴリズムに基づいて収束判定および反復計算における変数である決定変数64の更新を行う。所定のアルゴリズムとして、ニュートン法、逐次二次計画法、レーベンバーグ・マーカート法などの反復法を用いることができ、設計者が演算負荷や収束性などから任意に決定することができる。
ステップ9は、ステップ4~8の反復計算で最終的に最適解を得られた決定変数64をもとに、推定剛性を決定してブレーキ力制御の制御演算に用いる剛性情報を更新する。
ステップ2のデータ範囲の判断について、図15に示す剛性推定は、ブレーキが解除されるまでのデータを電動ブレーキ動作履歴として蓄積してブレーキ解除後に剛性推定を行ってもよい。この場合、剛性推定用のデータがより多い状態で剛性推定を行うことができる。これに代えて、電動ブレーキ動作中に剛性推定を行う上で十分なデータ量となった時点でブレーキ動作中に剛性推定を行ってもよい。この場合、より迅速に剛性推定を行うことができる。あるいは、ブレーキ動作中に十分なデータ量となった時点で剛性推定を行い、ブレーキ解除後に更に推定データが増加していれば再度剛性推定を行うようにしてもよい。
図16は、図7,8等の動作履歴記憶部44における推定角度および推定ブレーキ力を記憶するフローの例を示す。
ステップ10は、ブレーキが動作中かどうかを判断する。この判断は、例えば、所定より大きな推定ブレーキ力が発生している状態かどうかで判断できる。
ステップ11は、ステップ10でブレーキ動作中と判断された場合、現在の推定角度および推定ブレーキ力を記憶する。
ステップ12は、ステップ10でブレーキ動作中ではないと判断された場合、記憶されたデータが剛性推定を行うにあたって十分かどうかを判断する。
ステップ13は、ステップ12で記憶されたデータが剛性推定を行う上で十分ではないと判断された場合、記憶されたデータをリセットする。その結果、記憶されたデータがリセットされるので、つぎにブレーキが動作してブレーキ力が発生するまで、ステップ10→ステップ12→ステップ13のフローが実行される。
ステップ14は、ステップ12で記憶されたデータが剛性推定を行ううえで十分と判断された場合に剛性推定が行われ、この剛性推定が完了したか否かを判断する。剛性推定が完了している場合、ステップ13のデータリセットが実行され、完了していない場合は完了するまで何も処理を行わない。なお、剛性推定のすべての処理の完了に加えて、例えば、剛性推定処理における記憶データの取得が完了しており、剛性推定が完了するまで記憶されたデータを参照する必要がない状態をステップ14において完了と判断してもよい。
ステップ13において、例えば、ブレーキ力が発生してからブレーキが解除されるまでを1サイクルと定義し、所定サイクルより前の記憶データのみリセットする処理とすることもできる。また、記憶されたデータのうち所定時間以上が経過したデータについてのみリセットする処理とすることもできる。あるいは、これらの処理を適宜併用することもできる。これらの処理を導入すると、例えば、電動ブレーキ装置1の剛性が比較的変化しにくい短時間で繰り返しブレーキ動作を行った場合などにおいて、より多くの取得データを活用できる。
図17は、剛性推定に用いる記憶されたデータにおける推定ブレーキ力の変化範囲に基づいて、剛性推定時の決定変数64について異なる制限範囲を設定する例を示す。一般に、剛性推定に用いるデータにおいて推定ブレーキ力の変化範囲が小さいと、全体の中の一部のブレーキ動作範囲から全体の剛性を推定する必要がある。このため、特にデータ範囲外の条件において比較的大きな推定誤差が生じるリスクが高まる恐れがある。したがって、図17のように、剛性推定に用いるデータの範囲によって決定変数64に制限を設けることが好ましい場合がある。
ステップ15は、剛性推定に用いる記憶されたデータの推定ブレーキ力の変化範囲を導出する。
ステップ16は、ステップ15で導出された推定ブレーキ力の変化範囲に基づいて、剛性推定における決定変数64の制限範囲を設定する。決定変数64の制限範囲とは、剛性推定を開始する前の推定剛性を導出した決定変数64から、剛性推定時の反復計算において変動させられる限度の範囲をいう。例えば、参照剛性テーブル72の参照アドレスを決定変数64とする場合、制限範囲は初期アドレスからのアドレス変動可能範囲である。また、結合係数を決定変数64とする場合、制限可能範囲は初期結合係数からの変動可能範囲である。
図17では、所定のブレーキ力変化範囲では制限範囲が線形に推移し、所定より大きくなるとある上限値に一定となるイメージが記載されている。ただし、このような上限は設けなくてもよく、また、ブレーキ変化範囲に対して曲線状に制限範囲が推移するようにしてもよい。
ステップ17では、図15に示す剛性推定が実行される。このとき、決定変数64はステップ16で決定された制限範囲内で反復計算を行い、最適解を探査する。
図18は、ブレーキ操作時における摩擦材40とブレーキロータ42との摺動距離と、その際に発生させたブレーキ力とからブレーキ使用度合を導出し、ブレーキ使用度合に基づいて剛性推定時の決定変数64について異なる制限範囲を設定する例を示す。一般に、大きなブレーキ力で長い距離を制動するほど摩擦材40の特性は変化し易い。このため、摩擦材40とブレーキロータ42との摺動距離およびブレーキ力に基づいて決定変数64の制限範囲を可変とすることが好ましい場合がある。
ステップ18は、ブレーキロータ42の角速度を取得する。角速度は、例えば、車両用の電動ブレーキ装置1であれば、ABSセンサ等の車輪速センサから算出できる。
ステップ19は、摩擦材40とブレーキロータ42との摺動距離(以下「摩擦材摺動距離」という)を計算する。摩擦材摺動距離は、ブレーキロータ42の角速度(ブレーキロータ角速度)および時間から導出することができる。あるいは、例えば、一定間隔でデータサンプリングを行う場合、単位データサンプル当たりの摺動距離は角速度に対して比例関係となるので、等価摺動距離としてブレーキロータ42の角速度をそのまま用いてもよい。
ステップ20は、摩擦材摺動距離およびブレーキ力から所定の関数gに基づいてブレーキ使用度合を導出する。この所定の関数gは、ブレーキ力と摩擦材摺動距離との乗算であってもよい。あるいは、どのようなブレーキ力でどの程度の摩擦材摺動を生じさせると摩擦材40の特性や形状にどの程度の変化が生じるかを予め実験等で把握しておき、実験の結果に基づいて所定のブレーキ使用度合の導出関数gを設定してもよい。
ステップ21は、ステップ20で導出されたブレーキ使用度合に基づいて、剛性推定における決定変数64の制限範囲を設定する。
図19は、自動車用の電動ブレーキ装置において、剛性推定を実行する条件を長時間満たさない場合、自動で剛性推定可能な条件で電動ブレーキ装置を動作させて剛性推定を行う例を示す。自動車においては、電動ブレーキ装置1の操作は基本的に操縦者に委ねられている。このため、走行条件によっては、軽微なブレーキ操作を繰り返すなど剛性推定を行ううえで十分なブレーキ力を発生させないまま、電動ブレーキ装置1が動作することが想定される。このため、図19のような処理を行うことが必要となる場合がある。
ステップ22は、剛性推定を実行しているかどうかの判断を行う。剛性推定を実行していなければ非実行時間の累積を行い(ステップ23)、実行していれば当該の累積時間のリセットを行う(ステップ24)。
ステップ25は、ステップ22で剛性推定が実行されていないと判断された場合、その状態の累積時間(非実行時間の累積時間)が所定より大きいかの判断を行う。
ステップ26は、ステップ25で非実行時間の累積時間が所定より大きいと判断された場合の車両の走行状態を取得する。このような車両走行状態は、例えば、電動ブレーキ搭載車両の車体速であってもよく、車両に搭載された加速度センサ、GPS、複数車輪のABSセンサ等のような、車両の走行に係る各種センサ類の情報であってもよい。
ステップ27は、ステップ26で取得された車両の走行状態から、車両が停車中かどうかを判断する。
ステップ28は、ステップ27で停車中と判断された場合に、ブレーキ力目標値を操縦者の操作によらずFroに設定する。ここで、「Fro」とは、少なくとも停車中に操縦者から指示されたブレーキ力目標値よりも大きく、かつ剛性推定を実行するうえで十分なブレーキ力目標値である。
図19のステップ22において、所定のブレーキ力変化が生じた電動ブレーキ動作履歴に基づいて剛性推定が行われているかどうかを判断してもよい。剛性推定が行われていても、剛性推定に用いている電動ブレーキ動作履歴のブレーキ力変化が小さい場合、全ブレーキ動作領域の中で限定的な情報に基づいた推定となっている。このため、電動ブレーキ動作履歴の動作範囲外において推定誤差が比較的大きくなるリスクが高まる。したがってこのような処理を設けたほうが好ましい場合がある。
図20は、電動ブレーキ装置の動作例を示す。図20(a)は、この実施形態の電動ブレーキ装置1を適用した例を示す。図20(b)は、この実施形態の構成を備えない従来の電動ブレーキ装置の例を示す。図20(a)に示すこの実施形態の例では、剛性が変化してもブレーキ力が一定であり、ブレーキ制御の精度が維持される。これに対し、図20(b)に示す従来例では、電動ブレーキ装置1の剛性が変化した結果、ブレーキ力も変化し、ブレーキの制御性が悪化している。
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
1 電動ブレーキ装置
2 制御装置
4 直動機構(摩擦材操作手段)
10 電動モータ
12 角度センサ
14 荷重センサ
16 減速機
20 運動状態推定器
22 ブレーキ力推定器
24 剛性推定器
32 角度推定部
34 角速度推定部
36 ブレーキ力制御部
38 剛性記憶部
40 摩擦材
42 ブレーキロータ
46 剛性推定演算部
50 変速機構
62 参照剛性
64 決定変数

Claims (9)

  1. ブレーキロータと、前記ブレーキロータに当接し制動力を発生させる摩擦材と、前記摩擦材とブレーキロータとの当接状態を操作する摩擦材操作手段と、前記摩擦材操作手段の動力である電動モータと、前記電動モータを駆動して前記摩擦材と前記ブレーキロータの当接によるブレーキ力を制御する制御装置と、を有する電動ブレーキ装置であって、
    前記制御装置は、
    前記電動モータの回転角度に相当する物理量を推定する角度推定部と、
    ブレーキ力を推定するブレーキ力推定器と、
    電動ブレーキ動作履歴として前記角度推定部で推定された推定角度および前記ブレーキ力推定器で推定された推定ブレーキ力を記憶し、記憶された前記推定角度および前記推定ブレーキ力に基づいて前記電動モータの回転量とブレーキ力とを関連付ける相関である剛性を推定する剛性推定器と、
    前記剛性推定器で推定された推定剛性を用いて前記推定ブレーキ力をブレーキ力の目標値に追従させるためのモータ駆動量を導出するブレーキ力制御部と、を備え、
    前記剛性推定器は、予め記憶された複数の参照剛性と、これら参照剛性のいずれかまたはこれらの中間値に決定する決定変数とを用いて推定剛性を算出する剛性推定演算部を有し、
    前記剛性推定演算部は、記憶された前記推定角度および前記推定ブレーキ力の一方から前記推定剛性を用いて導出された他方の演算値と、記憶された他方のデータを比較して誤差を導出し、前記誤差が少なくとも所定の許容量まで小さくなるよう前記決定変数を調整する収束演算を行って剛性を推定する電動ブレーキ装置。
  2. 請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記剛性推定器に記憶された複数の前記参照剛性が、複数のアドレスにそれぞれ参照剛性を備えたデータテーブルであり、
    前記決定変数が前記データテーブルの参照先を示すアドレスである電動ブレーキ装置。
  3. 請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記剛性推定器に記憶された複数の参照剛性が少なくとも2パターン以上の異なる参照剛性であり、
    前記決定変数が複数の前記参照剛性の結合比率として乗算される値である電動ブレーキ装置。
  4. 請求項1から3のいずれか一項に記載の電動ブレーキ装置において、前記剛性推定演算部における前記決定変数が、主に剛性の非線形性を変化させる第一の決定変数と、主に全体的な剛性を変化させる第二の決定変数とを有している電動ブレーキ装置。
  5. 請求項1から4のいずれか一項に記載の電動ブレーキ装置において、前記摩擦材操作手段が、前記電動モータの回転運動が直進運動に変換され、回転量と直動量との相関である等価リードが所定のブレーキ力において変化する変速機構を備えた直動機構であり、
    前記剛性推定器に記憶された複数の前記参照剛性が前記等価リードの変化を含む参照剛性であり、
    前記決定変数が、主に前記等価リードの変化が発生するブレーキ力条件を変化させる決定変数を含む電動ブレーキ装置。
  6. 請求項5に記載の電動ブレーキ装置において、前記摩擦材操作手段が、回転入力部材と、前記回転入力部材の回転軸と同軸に円周方向に等間隔に配置された遊星転動体とを有し、前記回転入力部材と前記遊星転動体の公転速度との比率により減速効果を生じる遊星減速構造を備え、
    前記回転入力部材と前記遊星転動体を一体回転させる締結力を付勢する弾性部材を備え、
    前記摩擦材とブレーキロータとの押付力の反作用力によって前記弾性部材による締結力が喪失し遊星減速効果が生じる変速機構を備えており、
    前記剛性推定器に記憶された複数の参照剛性が前記弾性部材の変形量を含む参照剛性であり、
    前記剛性推定演算部における決定変数が、前記弾性部材の変形が完了するブレーキ力条件を変化させる決定変数を含む電動ブレーキ装置。
  7. 請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記剛性推定演算部が、前記電動ブレーキ動作履歴における推定ブレーキ力の変化量および推定角度の変化量の少なくとも何れかに基づいてブレーキ動作量を決定し、前記ブレーキ動作量が小さくなると、前記剛性を推定する際の収束演算において前記決定変数の変化を制限するように構成されている電動ブレーキ装置。
  8. 請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、さらに、前記ブレーキロータの角速度を推定する角速度推定部を備え、
    前記剛性推定演算部は、前記電動ブレーキ動作履歴の推定角度および推定ブレーキ力を取得している時間と、前記ブレーキロータの角速度と、前記推定ブレーキ力の少なくとも一つに基づいてブレーキ使用度合を決定し、前記ブレーキ使用度合が小さくなると、前記剛性を推定する際の収束演算において前記決定変数の変化を制限するように構成されている電動ブレーキ装置。
  9. 請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記制御装置が、前記電動ブレーキ装置が搭載された車両の走行状態を推定する運転状態推定器を有し、
    前記剛性推定演算部が、
    所定より大きな推定ブレーキ力の変化が生じた電動ブレーキ動作履歴に基づいて剛性の推定が行われたかどうかを判断し、前記判断に基づいて剛性の推定が行われていない非実行時間を計測する機能と、
    前記非実行時間が所定以上経過した場合に、前記走行状態として前記電動ブレーキ装置が搭載された車両が所定時間以上停車していることが推定され、車両のブレーキ力が所定よりも小さい場合において、前記車両の操縦者の操作によらず、前記所定のブレーキ力以上のブレーキ力を発生させ、その際の推定ブレーキ力および推定角度を用いて剛性推定を実行する機能とを有する電動ブレーキ装置。
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