JP2023000665A - 補強土壁とその施工方法 - Google Patents

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Kenji Ishioka
淳二 島田
Junji Shimada
惇也 高出
Junya Takaide
カタパディ・ドゥルバ・ナラヤナ
Narayana Katpady Dhruva
修二 伊藤
Shuji Ito
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Abstract

【課題】高い施工安全性と工期の短縮を図ることができ、壁面の前面側と左右側の双方への笠木のずれを抑制できる補強土壁とその施工方法を提供する。【解決手段】複数のプレキャストコンクリート製の壁面材10が側方に並べられ、かつ上方に積み上げられることにより形成される壁面材ユニット20と、壁面材ユニット20の最上段に積み上げられているプレキャストコンクリート製の笠木30とにより構成されている壁面体40と、壁面体40の背面において複数段に亘って配置されているシート状の補強材50と、補強材50を埋設しながら形成されている盛土60とを有する補強土壁100であり、壁面材ユニット20における少なくとも上方の背面には第一凹部13もしくは第一凸部が設けられ、笠木30は、下方に突出する第二凸部37もしくは第二凹部を備え、例えば第一凹部13に第二凸部37が上方から挿通されている。【選択図】図1

Description

本発明は、補強土壁とその施工方法に関する。
盛土内に敷設された補強材と盛土との間の引抜き抵抗力により、盛土の安定性を補い、例えば標準法面勾配よりも急(例えば法面勾配が1:0.6よりも急)な盛土・擁壁構造物である補強土壁が施工されている。補強土壁は、壁面体(壁面材)と補強材と盛土(盛土材)をその構成要素とし、垂直もしくは垂直に近い壁面を有する高い盛土を構築でき、基礎地盤の多少の不等沈下に追随でき、耐震性に優れ、経済的であるといった様々なメリットを有している。
補強土壁の施工においては、順次積み上げられた壁面材の天端にコンクリート製の笠木が一般に施工される。補強土壁は、例えば道路(一般道、管理用道路等)に沿って平面線形の長い構造物であり、かつ多数の補強材を平面線形に沿って併設しながら上方に積み上げることにより施工されること、積み上げられた壁面材には不等沈下や施工誤差があり、壁面材には製作誤差が存在し得ることから、笠木が施工される前の壁面体(壁面材)の天端には不陸があり、水平もしくは傾斜した直線状に揃い難い。
一方、補強土壁の最上段に施工される笠木の天端が補強土壁の全域で水平もしくは傾斜した直線状に揃うことにより、統一感があって外観意匠性に優れた補強土壁になることから、上記するように不陸のある壁面体の天端の上に、笠木の天端ラインを水平もしくは傾斜した直線状に揃えて施工するべく、コンクリートを現場打設することにより笠木が施工されている。
しかしながら、急勾配の壁面材の天端にコンクリートを現場打設して笠木を施工することから、壁面材の前面におけるコンクリート打設作業や型枠解体作業等を要することになり、高所における足場(例えば吊り足場)の設置とコンクリート打設後の足場の解体を含め、様々な高所作業に起因する施工安全性が大きな課題となる。また、足場の設置とコンクリートの現場打設、養生後の脱型、足場の解体を一連の工程とすることから施工期間が長くなるといった課題もある。
以上のことから、高い施工安全性を有し、工期を短縮できる補強土壁とその施工方法が望まれている。
ここで、特許文献1には、複数のプレキャストコンクリート製の被掛止壁面材と、複数のプレキャストコンクリート製の掛止壁面材とを、互いに緊結することなく交互に積むとともに、掛止壁面材が被掛止壁面材に対し前面側(正面側)へ変位しないように、掛止壁面材に形成した掛止形状部を上下の被掛止壁面材に形成した被掛止形状部に掛止させて、鉛直に組み立てた壁面と、壁面の背面側に配置したアンカーの前面投影面積の合計が壁面の面積の30~50%である複数のアンカーと、被掛止壁面材とアンカーとを緊結する補強材と、壁面の背面側にアンカー及び補強材を埋めるように充填した盛土材とからなる、アンカー補強土壁が提案されている。
ここで、最上段にある被掛止壁面材の上には、プレキャスト製のブロックである笠木材が設置されるようになっており、笠木材は凸条の掛止形状部を有し、最上段にある被掛止壁面材の被掛止形状部に対して凸条の掛止形状部を嵌合させて掛止することにより、笠木材が前面側へ変位しないように設置されている。
特開2017-8608号公報
特許文献1に記載のアンカー補強土壁によれば、壁面材の上にプレキャスト製の笠木材が設置されることにより、高い施工安全性と工期の短縮を図ることができる。そして、笠木材が、最上段にある被掛止壁面材の被掛止形状部に対して凸条の掛止形状部を嵌合させて掛止されることにより、笠木材の前面側への変位は抑制されるものの、最上段にある被掛止壁面材の左右方向(上記する平面線形の長手方向に相当)への拘束がないことから、この左右方向への笠木材のずれを抑制することはできない。
本発明は、高い施工安全性と工期の短縮を図ることができ、さらに、壁面の前面側と左右側の双方への笠木のずれを抑制できる補強土壁とその施工方法を提供することを目的としている。
前記目的を達成すべく、本発明による補強土壁の一態様は、
複数のプレキャストコンクリート製の壁面材が側方に並べられ、かつ上方に積み上げられることにより形成される壁面材ユニットと、該壁面材ユニットの最上段に積み上げられているプレキャストコンクリート製の笠木と、により構成されている、壁面体と、
前記壁面体の背面において複数段に亘って配置されている、シート状の補強材と、
前記壁面体の背面において前記補強材を埋設しながら形成されている、盛土とを有する補強土壁であって、
前記壁面材ユニットにおける少なくとも上方の背面には、第一凹部もしくは第一凸部が設けられ、
前記笠木は、下方に突出する第二凸部もしくは第二凹部を備えており、
前記第一凹部に前記第二凸部が上方から挿通されている、もしくは、前記第一凸部に前記第二凹部が上方から嵌まり込んでいることを特徴とする。
本態様によれば、壁面材ユニットにおける少なくとも上方の背面に、第一凹部もしくは第一凸部が設けられ、笠木が、下方に突出する第二凸部もしくは第二凹部を備えていて、第一凹部に第二凸部が上方から挿通されている、もしくは、第一凸部に第二凹部が上方から嵌まり込んでいることにより、壁面材ユニットの前面側と左右側(平面線形の長手方向)の双方への笠木のずれが抑制された補強土壁となる。
また、笠木の背面の盛土の施工においては、盛土の転圧の際の圧力が笠木の背面から作用して、笠木が壁面の前面側へ押し出されて転倒したり飛来落下する恐れがあるが、第一凹部と第二凸部等の係合により、凸部がせん断キーとして機能することで笠木の前面側への転倒や前面側と左右側の双方へのずれを抑制できる。
さらに、プレキャストコンクリート製の笠木が適用されることにより、足場の設置とその解体、高所における型枠の設置とコンクリート打設、養生後の脱型等を不要にできることから、高い施工安全性と工期の短縮を図ることができる。
ここで、シート状の補強材には、ジオグリッドやジオネット、織布、不織布、ポリエチレンネットにアラミド繊維が挿入されているネット、ポリエステル繊維とアラミド繊維を交錯させたグリッド状織物等、様々な補強材が適用でき、これらをまとめてジオテキスタイルと称することもできる。
また、本発明による補強土壁の他の態様において、
前記笠木は重力式擁壁として設計され、該笠木は、側面視台形の本体と、該本体の下端から下方へ突出する前記第二凸部もしくは前記第二凹部とを備えており、
前記第一凹部に前記第二凸部が上方から挿通されている、もしくは、前記第一凸部に前記第二凹部が上方から嵌まり込んでいる状態において、該第二凸部もしくは該第二凹部は前記壁面材ユニットの天端の背面側隅角部よりも背面側へ突出していることを特徴とする。
本態様によれば、笠木が重力式擁壁として設計されていることにより、笠木を壁面材ユニットの天端に対してボルト等により緊結することなく、安定的に設置することができる。既述するように、壁面材ユニットは、その平面線形に沿って不等沈下や施工誤差、製作誤差等に起因して天端に不陸があることから、複数の笠木を壁面材ユニットの天端に緊結するのが難しい。笠木が重力式擁壁により設計されていることで、笠木の自立が可能になり、壁面材ユニットの天端に対して緊結を不要にしながら安定的に設置することが可能になる。
ここで、「重力式擁壁として設計されている」とは、側面視において下方に向かって幅広の側面視台形状に笠木が設計され、その自重にて背面の土圧に抗しながら自立するように設計されていることを意味している。また、本明細書において、「台形」とは、上下の二辺が平行な文字通りの台形の他に、上下の二辺が平行でなく、若干傾斜した略台形も含んでいる。
さらに、壁面材ユニットの第一凹部に笠木の第二凸部が上方から挿通されている、もしくは、壁面材ユニットの第一凸部に笠木の第二凹部が上方から嵌まり込んでいる状態において、笠木の第二凸部もしくは第二凹部が壁面材ユニットの天端の背面側隅角部よりも背面側へ突出していることにより、壁面材ユニットの天端面積(笠木が載置される載置面積)に左右されることなく、笠木の下面が壁面材ユニットの天端面から背面の盛土まで広がっていることで笠木の滑動や転倒に対する安定性も高めることができる。
また、本発明による補強土壁の施工方法の一態様は、
複数のプレキャストコンクリート製の壁面材を側方に並べて一段の壁面材ユニットを形成し、該一段の壁面材ユニットにより、もしくは、該一段の壁面材ユニットを複数段備えた複数段の壁面材ユニットにより、施工区分の壁面材ユニットを形成する、A工程と、
前記施工区分の壁面材ユニットの背面に、対応する高さレベルまでの施工区分の盛土を施工し、該盛土の天端にシート状の補強材を敷設する、B工程と、
前記A工程と前記B工程を一セットの工程として、一セットの工程もしくは複数セットの工程を行った後、該壁面材ユニットの最上段にプレキャストコンクリート製の笠木を積み上げ、該壁面材ユニットと該笠木とにより壁面体を形成し、該壁面体の背面に最上段の盛土を施工することにより、該壁面体と該盛土とを備える補強土壁を施工する、C工程とを有し、
前記壁面材ユニットにおける少なくとも上方の背面には、第一凹部もしくは第一凸部が設けられ、
前記笠木は、下方に突出する第二凸部もしくは第二凹部を備えており、
前記C工程では、前記第一凹部に対して前記第二凸部を上方から挿通する、もしくは、前記第一凸部に対して前記第二凹部を上方から嵌まり込ませることにより、前記壁面材ユニットの最上段にプレキャストコンクリート製の前記笠木を積み上げることを特徴とする。
本態様によれば、施工区分の壁面材ユニットの形成と、施工区分の壁面材ユニットの背面への施工区分の盛土の施工と、盛土の天端へのシート状の補強材の敷設を一セットの工程とし、例えば複数セットの工程を行った後に壁面材ユニットの最上段にプレキャストコンクリート製の笠木を積み上げて補強土壁を施工する方法において、壁面材ユニットの第一凹部に笠木の第二凸部を上方から挿通する、もしくは、壁面材ユニットの第一凸部に笠木の第二凹部を上方から嵌まり込ませることにより、高い施工安全性と工期の短縮を図りながら、壁面の前面側と左右側の双方への笠木のずれが抑制された補強土壁を施工することができる。
ここで、「施工区分」とは、一セットの工程を規定する施工高さ区分を意味しており、一つの壁面材の高さと施工安全性の双方の観点から、一つの壁面材の高さを施工区分としてもよいし、積み上げられた二つもしくは三つの壁面材の高さを施工区分としてもよい。また、施工区分の盛土の「対応する高さレベル」とは、施工区分の壁面材ユニットよりも若干低い高さレベルや、施工区分の壁面材ユニットと同じ高さレベル等、様々な高さレベルが含まれる。
また、本発明による補強土壁の施工方法の他の態様は、
前記施工区分の壁面材ユニットの背面において、該施工区分の壁面材ユニットの上方に突出する仮設用手摺りを取り付けておき、
前記C工程では、前記仮設用手摺りの背面側から、上段の前記施工区分の壁面材ユニットを積み上げていくことを特徴とする。
本態様によれば、施工区分の壁面材ユニットの背面において、施工区分の壁面材ユニットの上方に突出する仮設用手摺りを取り付けておき、仮設用手摺りの背面側から上段の施工区分の壁面材ユニットを積み上げていくことにより、壁面材ユニットの前面への足場の設置を不要にしながら、高い施工安全性の下で補強土壁を施工することができる。ここで、仮設用手摺りは、上段の施工区分の壁面材ユニットに対応した施工区分の盛土の施工前に取り外してもよいが、当該盛土や壁面材ユニットの背面に設けられる背面排水層等の内部に残置する(埋め殺す)ことにより、より一層効率的な補強土壁の施工を実現できる。
また、本発明による補強土壁の施工方法の他の態様において、
前記笠木は重力式擁壁であり、該笠木は、側面視台形の本体と、該本体の下端から下方へ突出する前記第二凸部もしくは前記第二凹部とを備え、
前記壁面材ユニットの最上段にプレキャストコンクリート製の前記笠木を積み上げた際に、前記第二凸部もしくは前記第二凹部は前記壁面材ユニットの天端の背面側隅角部よりも背面側へ突出するようになっており、
前記C工程では、
最上段の施工区分の壁面材ユニットの背面には、前記仮設用手摺りの下端を回動自在に取り付けておき、
前記最上段の施工区分の壁面材ユニットの上に前記笠木を積み上げる前に、前記最上段の施工区分の壁面材ユニットの備える前記仮設用手摺りを背面側へ回動させ、前記笠木との干渉可能性を解消しておくことを特徴とする。
本態様によれば、笠木の第二凸部もしくは第二凹部が、壁面材ユニットの天端の背面側隅角部よりも背面側へ突出していることにより、壁面材ユニットの天端面積に左右されることなく、笠木の転倒や滑動に対する安定性を高めることができる。また、このように、笠木の第二凸部もしくは第二凹部が壁面材ユニットの天端の背面側隅角部よりも背面側へ突出していることから、最上段の施工区分の壁面材ユニットの備える仮設用手摺りが笠木の設置の際に当該笠木と干渉し得ることになるが、笠木の積み上げ前に当該記仮設用手摺りを背面側へ回動させ、笠木との干渉可能性を解消しておくことにより、仮設用手摺りと干渉することなく笠木をスムーズに設置することができる。
例えば、壁面材ユニットの背面に対して、仮設用手摺りの下方の複数箇所を番線等で簡易的に取り付ける取り付け形態において、最上段の壁面材ユニットに対しては、仮設用手摺りの一箇所のみを番線等で取り付けておくことにより、壁面材ユニットに対して仮設用手摺りを回動し易い態様で取り付けることができ、笠木の積み上げ前における仮設用手摺りの背面側へのスムーズな回動を実現でき、回動させた後の姿勢を保持することができる。
本発明の補強土壁とその施工方法によれば、高い施工安全性と工期の短縮を図ることができ、さらに、壁面の前面側と左右側の双方への笠木のずれを抑制できる。
実施形態に係る補強土壁の一例の縦断面図である。 図1のII部の拡大図である。 実施形態に係る補強土壁から盛土を除いて背面側から見た模式図である。 実施形態に係る補強土壁を構成する笠木の一例の斜視図である。 図4のV方向の矢視図であって、笠木の一例の側面図である。 実施形態に係る補強土壁の施工方法の一例を示す工程図である。 図6に続いて、実施形態に係る補強土壁の施工方法の一例を示す工程図である。 図7に続いて、実施形態に係る補強土壁の施工方法の一例を示す工程図である。 図8に続いて、実施形態に係る補強土壁の施工方法の一例を示す工程図である。 図9に続いて、実施形態に係る補強土壁の施工方法の一例を示す工程図である。
以下、実施形態に係る補強土壁とその施工方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
[実施形態に係る補強土壁]
はじめに、図1乃至図5を参照して、実施形態に係る補強土壁の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る補強土壁の一例の縦断面図であり、図2は、図1のII部の拡大図であり、図3は、実施形態に係る補強土壁から盛土を除いて背面側から見た模式図である。また、図4は、実施形態に係る補強土壁を構成する笠木の一例の斜視図であり、図5は、図4のV方向の矢視図であって、笠木の一例の側面図である。
図示する補強土壁100は、壁面材ユニット20と笠木30とを備える壁面体40と、壁面体40の背面に造成されている盛土60と、壁面体40の背面に取り付けられて盛土60の内部に埋設されている多段のシート状の補強材50とを有する。
壁面材ユニット20は、複数のプレキャストコンクリート製の壁面材10が側方(図1における紙面奥側)に並べられ、かつ上方に積み上げられることにより形成される。図1に示す壁面材ユニット20は、標準法面勾配よりも急な法面勾配を有しており、例えば、1:0.2程度の法面勾配となっている。
図1に示すように、補強土壁100は、鉛直方向に複数の施工区分を有しており、図示例では、一段の壁面材10を側方に並べることにより形成される一段の壁面材ユニット10Aが、施工区分の壁面材ユニット10Aとなっている。すなわち、下方から、施工区分の壁面材ユニット10Aごとに順次施工されることにより、補強土壁100が施工されるようになっており、施工区分の壁面材ユニット10Aを施工後、その背面において、対応する高さレベルまでの施工区分の盛土60Aが施工され、盛土60Aの天端にシート状の補強材50が敷設される工程を一セットの工程として、これが複数セット繰り返されることにより補強土壁100が施工される。
地盤Gを掘削等して造成された床付け面に対して、基礎砕石71が施工され、砕石の敷設による基礎排水層73が施工される。基礎砕石71の上には、壁面材ユニット20を支持する基礎コンクリート72が施工される。
基礎コンクリート72の上に、複数の壁面材10が側方に並べられ、かつ上方に積み上げられることにより形成される壁面材ユニット20が施工され、壁面材ユニット20の背面には、例えば幅100mm乃至300mm程度で壁面材ユニット20の勾配に沿って立設する背面排水層75が施工される。
基礎排水層73の上方でかつ背面排水層75の背面には、盛土60が施工される。背面排水層75の背面には、図1及び図2に示すように側面視L型の鋼製枠54が多段状に積み上げられ、鋼製枠54の背面側には側面視コの字状の内壁シート56が設置され、内壁シート56の高さを一層の盛土高さとして各層の盛土が順次施工される。図示例では、施工区分の壁面材ユニット10A(一段の壁面材10)の背面に三段の鋼製枠54及び内壁シート56が配設され、三層の盛土が施工されて施工区分の盛土60Aを形成している。
図3に詳細に示すように、鋼製枠54は鋼製の格子状網であり、L型の骨格内に斜めの背筋55が取り付けられることにより形状保持が図られている。また、鋼製枠54により、壁面材10と盛土60を分離することができ、盛土60の前面側の転圧の際の圧力が壁面材10に作用しないことから十分な転圧が可能になる。また、内壁シート56により、盛土60が背面排水層75にこぼれることが抑制される。また、壁面材ユニット20と盛土60の間に背面排水層75が介在することにより、壁面材ユニット20の背面の雨水が背面排水層75を介して下方へ排水されることに加えて、背面排水層75は背面の盛土60の変形を吸収して壁面材ユニット20に盛土60の変形による影響を与えない変形吸収層となり、耐震性にも優れた補強土壁100となる。
図3に示すように、壁面材10は補強土壁100の前面(壁面)を形成する面材11と、面材11の背面において所定間隔を置いて配設されて背面に突出する二つの突起12を有し、二つの突起12の間に幅t3の第一凹部13が形成されている。
二つの突起12によって壁面材10の剛性が高められており、また、突起12には複数の固定孔12aが設けられている。そのうちの一つの固定孔12aには線状のグリッドベルト52が挿通されて無端状とされ、無端状のグリッドベルト52が背面に張設された状態で、固定ピン51を介して鋼製枠54や内壁シート56に固定されることにより、所定勾配で立設する壁面材10が前面側への転倒や滑動を抑止された状態で設置される。
図1に示すように、シート状の補強材50も固定ピン51によって盛土60に固定されている。また、図1乃至図3に示すように、補強材50とは別に、シート状の水平排水材57が盛土60の内部に複数段にわたって埋設されている。
図3に示す例では、壁面材10の天端面において、面材11から突起12に亘る水平目地材19が設けられている。また、側方に並べられて隣接する左右の壁面材10の間の縦目地には、シート状の縦目地材18が設けられている。
図示例の補強土壁100は、例えば、アデムウォール工法(「アデムウォール」は前田工繊株式会社の登録商標)により形成することができる。アデムウォールは、外壁である壁面材ユニット20と、内壁を形成する段積み状の鋼製枠54及び内壁シート56とを有する二重壁構造の補強土壁である。
ここで、グリッドベルト52は例えばポリエステル製のベルト状のジオテキスタイルであり、外壁である壁面材10と内壁である鋼製枠54や内壁シート56を連結して、壁面材10の飛出しや転倒を防止しながら内壁を補強する。
一方、シート状の補強材50は、ポリエチレンネットにアラミド繊維が挿入された形態や、ポリエステル繊維とアラミド繊維を交錯させたグリッド状織物の形態を有し、いずれもアデムと称されるジオグリッドである。
図1に示すように、壁面材ユニット20の最上段には、プレキャストコンクリート製の笠木30が積み上げられている。笠木30は、側面視が台形状(略台形状を含む)を呈しており、重力式擁壁として設計されている。図4及び図5に示すように、笠木30は、本体31と、本体31の下面35から下方へ突出する第二凸部37とを有する。
笠木30を前面側から見た際の本体31の横幅はt1であり、第二凸部37は本体31の内側にあって横幅はt2(<t1)である。この第二凸部37の横幅t2は、図3に示す壁面材10の第一凹部13の横幅t3以下に設定されている。図1に示すように、最上段の壁面材10の第一凹部13に対して、第二凸部37が挿入された状態で笠木30の本体31が壁面材10の天端に積み上げられている。
壁面材ユニット20を構成する最上段の壁面材10の天端21に笠木30が積み上げられた状態において、重力式擁壁として設計されている笠木30は自重にて背面の盛土60からの土圧に抗しながら、前面側への転倒や滑動が抑止された態様で自立する。このことに加えて、最上段の壁面材10の第一凹部13に対して第二凸部37が挿入された状態で笠木30が積み上げられていることにより、笠木30は壁面材10の左右側(側方)へのずれも抑止される。
また、笠木30が重力式擁壁として設計されていることにより、笠木30を壁面材ユニット20の天端21に対してボルト等により緊結することなく、安定的に設置することができる。壁面材ユニット20は複数の壁面材10を平面線形に沿って側方に並べるとともに、上方へ積み上げることにより施工されることから、平面線形に沿う不等沈下や施工誤差、壁面材10の製作誤差等に起因して壁面材ユニット20の天端21には往々にして不陸が存在する。そのため、複数の笠木30を壁面材ユニット20の天端21に緊結するのは難しい。このことに対して、笠木30が重力式擁壁により設計されていることで、笠木30の自立が可能になり、壁面材ユニット20の天端21に対して緊結を不要にしながら安定的に設置することが可能になる。
尚、図示を省略するが、例えば壁面材ユニットを構成する最上段の壁面材が上方に突出する第一凸部を有し、笠木がこの第一凸部に嵌まり込む第二凹部を有する形態であってもよい。この形態でも、笠木の前面側への転倒と左右側へのずれの双方を抑止できる。
笠木30は、壁面材ユニット20の有する勾配を備えた前面32と、鉛直面である背面36と、水平な天端面33と、前面32に直交する下面35と、鍵状の側面34とを有する。壁面材ユニット20の天端21に複数の笠木30が設置された際に、隣接する笠木30同士は双方の有する鍵状の側面34を相互に係合させながら設置される。
また、本体31の背面36には横連結治具用インサート39が埋設されており、隣接する笠木30の横連結治具用インサート39に対して不図示の連結治具が挿入されることにより、隣接する笠木30同士の連結が図られるようになっている。さらに、本体31の天端面33には例えば二つの吊治具用インサート38が埋設されており、双方の吊治具用インサート38に吊治具が仮固定され、笠木30はワイヤを介して重機にて搬送され、所定位置に設置されるようになっている。
図5に示すように、最上段の壁面材10の天端21に笠木30の本体31が積み上げられた状態において、天端面33は水平面となり、背面36は鉛直面となる。また、第一凹部13に第二凸部37が上方から挿通されている状態において、第二凸部37は壁面材ユニット20の天端21の背面側隅角部22よりも背面側へ突出している。
この構成により、壁面材ユニット20の天端21の面積(笠木30が載置される載置面積)に左右されることなく、笠木30の下面35が壁面材ユニット20の天端21から背面の盛土60まで広がっていることで、笠木30の滑動や転倒に対する安定性を高めることができる。
[実施形態に係る補強土壁の施工方法]
次に、図6乃至図10を参照して、実施形態に係る補強土壁の施工方法の一例について説明する。ここで、図6乃至図10は順に、実施形態に係る補強土壁の施工方法の一例を示す工程図である。尚、図6等において、鋼製枠54や内壁シート56等の図示は省略している。
図6は、最上段の一つ前の施工区分の施工完了状態を示している。図1に示す基礎排水層73と基礎コンクリート72の施工後は、施工区分の壁面材ユニット10Aの設置と施工区分の盛土60Aの施工を一セットとし、これを繰り返すことにより、複数の施工区分の構造体の積層体が施工される。
図6においては、不図示の施工済みの施工区分の壁面材ユニットに対して、次の施工対象である図示する施工区分の壁面材ユニット10Aを積み上げる。壁面材ユニット10Aは、側方に並べられた複数の壁面材10により形成されており、各壁面材10の背面には仮設用手摺り80Aが取り付けられている。
仮設用手摺り80Aは山形鋼や溝形鋼等により形成され、壁面材10の背面の突起12に設けられている複数の固定孔12aに挿通された番線85を介して仮設用手摺り80Aは壁面材10の背面に固定されている(以上、A工程)。
図示例の施工方法では、コンクリートの現場打設によって笠木を施工する代わりに、プレキャストコンクリート製の笠木30を壁面材ユニット20の天端21に設置する方法を適用するため、壁面材ユニット20の前面側に吊り足場等の足場を設置することなく、壁面材ユニット20の背面側から壁面材10を設置し、盛土60の造成を行う。そのため、壁面材10の背面に仮設用手摺り80を取り付けておき、作業員がこの仮設用手摺り80から前面側へ転倒することを抑制しながら、必要に応じて仮設用手摺り80に安全帯をかけて施工区分の施工を行う。
不図示の施工済みの施工区分の盛土の上面には、壁面材の背面から延びるグリッドベルトが鋼製枠や内壁シートに固定され、シート状の補強材がさらに敷設されている。A工程に続いて、図示する施工区分の壁面材ユニット10Aの背面に背面排水層75を施工し、前工程にて敷設されている不図示の補強材とグリッドベルトの上方に、施工区分の盛土60Aを施工する。盛土60Aの施工は、盛土材料の充填と敷き均し、転圧等を連続的に行うことにより行われる。
施工区分の盛土60Aの天端に、シート状の補強材50を敷設し、壁面材10の背面から延びるグリッドベルト52を鋼製枠や内壁シート(図示せず)に固定する(以上、B工程)。
次に、図7に示すように、壁面材ユニット10Aの天端に最上段の施工区分の壁面材ユニット10Bを設置する。施工区分の壁面材ユニット10Bを構成する各壁面材10の背面にも仮設用手摺り80Bが取り付けられている。
しかしながら、最上段の施工区分の壁面材ユニット10Bを構成する各壁面材10に取り付けられている仮設用手摺り80Bは、以下で説明するように笠木30の設置に際して背面側へ回動させることから、それまでの施工区分の壁面材ユニット10Aを構成する各壁面材10の背面に取り付けられている仮設用手摺り80Aとは異なり、仮設用手摺り80Bは、突起12の例えば最下端の一つの固定孔12aにのみ番線85を介して固定されている。この固定態様により、仮設用手摺り80Bを回動し易くしている。尚、それまで存在していた各施工区分の壁面材ユニット10Aを構成する壁面材10に取り付けられている仮設用手摺り80Aは、上方の施工区分の壁面材ユニットの背面の背面排水層75に残置(埋め殺し)されている。
次に、図8に示すように、最上段の施工区分の壁面材ユニット10Bの背面に背面排水層75を施工し、その背面に、施工区分の盛土60Bを施工し、施工区分の盛土60Bの天端に、シート状の補強材50を敷設し、壁面材10の背面から延びるグリッドベルト52を鋼製枠や内壁シート(図示せず)に固定する。
次に、図9に示すように、仮設用手摺り80Bを背面側へX1方向に回動させて以後設置される笠木30との干渉可能性を解消し、次いで、最上段の施工区分の壁面材ユニット10Bの天端に笠木30をX2方向に吊り下ろしながら設置する。この際、上記するように、最上段の壁面材10の背面にある第一凹部13に対して、笠木30の下方にある第二凸部37が挿入されるようにして、笠木30の本体31が壁面材10の天端に積み上げられる。
最上段の施工区分の壁面材ユニット10Bの全域に複数の笠木30を順次吊り下ろし、積み上げた後、図10に示すように、笠木30の天端面33に本設用のガードパイプ90を設置する。
さらに、上方に突設していた仮設用手摺り80のうち、最上段の盛土よりも上方に突設する範囲を切断して切断後の仮設用手摺り80B'とした後、笠木30の背面に笠木背面盛土60Cを施工することにより、補強土壁100が施工される(以上、A工程とB工程の繰り返しと、笠木30の設置、笠木背面盛土60Cの施工を含めてC工程)。
図示例の施工方法によれば、プレキャストコンクリート製の笠木30を壁面材ユニット20の天端21に設置する方法を適用することにより、壁面材ユニット20の前面側における吊り足場等の足場の設置とコンクリートの現場打設、養生後の脱型、足場の解体等を不要にできることから、高い施工安全性と工期の短縮を図ることができる。
さらに、壁面材ユニット10Bを構成する壁面材10の第一凹部13に笠木30の第二凸部37を上方から挿通しながら設置することにより、壁面材ユニット20の壁面の前面側と左右側の双方への笠木30のずれが抑制された補強土壁100を施工することができる。
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
10:壁面材
10A,10B:施工区分の壁面材ユニット(壁面材ユニット)
11:面材
12:突起
12a:固定孔
13:第一凹部
18:縦目地材
19:水平目地材
20:壁面材ユニット
21:天端
22:背面側隅角部
30:笠木
31:本体
32:前面
33:天端面
34:側面
35:下面
36:背面
37:第二凸部
38:吊治具用インサート
39:横連結治具用インサート
40:壁面体
50:補強材
51:固定ピン
52:グリッドベルト
54:鋼製枠
55:背筋
56:内壁シート
57:水平排水材
60:盛土
60A,60B:施工区分の盛土(盛土)
60C:笠木背面盛土
71:基礎砕石
72:基礎コンクリート
73:基礎排水層
75:背面排水層
80,80A,80B:仮設用手摺り
80B':切断後の仮設用手摺り
85:番線
90:ガードパイプ
100:補強土壁
G:地盤

Claims (5)

  1. 複数のプレキャストコンクリート製の壁面材が側方に並べられ、かつ上方に積み上げられることにより形成される壁面材ユニットと、該壁面材ユニットの最上段に積み上げられているプレキャストコンクリート製の笠木と、により構成されている、壁面体と、
    前記壁面体の背面において複数段に亘って配置されている、シート状の補強材と、
    前記壁面体の背面において前記補強材を埋設しながら形成されている、盛土とを有する補強土壁であって、
    前記壁面材ユニットにおける少なくとも上方の背面には、第一凹部もしくは第一凸部が設けられ、
    前記笠木は、下方に突出する第二凸部もしくは第二凹部を備えており、
    前記第一凹部に前記第二凸部が上方から挿通されている、もしくは、前記第一凸部に前記第二凹部が上方から嵌まり込んでいることを特徴とする、補強土壁。
  2. 前記笠木は重力式擁壁として設計され、該笠木は、側面視台形の本体と、該本体の下端から下方へ突出する前記第二凸部もしくは前記第二凹部とを備えており、
    前記第一凹部に前記第二凸部が上方から挿通されている、もしくは、前記第一凸部に前記第二凹部が上方から嵌まり込んでいる状態において、該第二凸部もしくは該第二凹部は前記壁面材ユニットの天端の背面側隅角部よりも背面側へ突出していることを特徴とする、請求項1に記載の補強土壁。
  3. 複数のプレキャストコンクリート製の壁面材を側方に並べて一段の壁面材ユニットを形成し、該一段の壁面材ユニットにより、もしくは、該一段の壁面材ユニットを複数段備えた複数段の壁面材ユニットにより、施工区分の壁面材ユニットを形成する、A工程と、
    前記施工区分の壁面材ユニットの背面に、対応する高さレベルまでの施工区分の盛土を施工し、該盛土の天端にシート状の補強材を敷設する、B工程と、
    前記A工程と前記B工程を一セットの工程として、一セットの工程もしくは複数セットの工程を行った後、該壁面材ユニットの最上段にプレキャストコンクリート製の笠木を積み上げ、該壁面材ユニットと該笠木とにより壁面体を形成し、該壁面体の背面に最上段の盛土を施工することにより、該壁面体と該盛土とを備える補強土壁を施工する、C工程とを有し、
    前記壁面材ユニットにおける少なくとも上方の背面には、第一凹部もしくは第一凸部が設けられ、
    前記笠木は、下方に突出する第二凸部もしくは第二凹部を備えており、
    前記C工程では、前記第一凹部に対して前記第二凸部を上方から挿通する、もしくは、前記第一凸部に対して前記第二凹部を上方から嵌まり込ませることにより、前記壁面材ユニットの最上段にプレキャストコンクリート製の前記笠木を積み上げることを特徴とする、補強土壁の施工方法。
  4. 前記施工区分の壁面材ユニットの背面において、該施工区分の壁面材ユニットの上方に突出する仮設用手摺りを取り付けておき、
    前記C工程では、前記仮設用手摺りの背面側から、上段の前記施工区分の壁面材ユニットを積み上げていくことを特徴とする、請求項3に記載の補強土壁の施工方法。
  5. 前記笠木は重力式擁壁であり、該笠木は、側面視台形の本体と、該本体の下端から下方へ突出する前記第二凸部もしくは前記第二凹部とを備え、
    前記壁面材ユニットの最上段にプレキャストコンクリート製の前記笠木を積み上げた際に、前記第二凸部もしくは前記第二凹部は前記壁面材ユニットの天端の背面側隅角部よりも背面側へ突出するようになっており、
    前記C工程では、
    最上段の施工区分の壁面材ユニットの背面に、前記仮設用手摺りの下端を回動自在に取り付けておき、
    前記最上段の施工区分の壁面材ユニットの上に前記笠木を積み上げる前に、前記最上段の施工区分の壁面材ユニットの備える前記仮設用手摺りを背面側へ回動させ、前記笠木との干渉可能性を解消しておくことを特徴とする、請求項4に記載の補強土壁の施工方法。
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