JP2022182828A - カード又はパスポート用樹脂組成物、カード又はパスポート用フィルム、カード、及びパスポート - Google Patents

カード又はパスポート用樹脂組成物、カード又はパスポート用フィルム、カード、及びパスポート Download PDF

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Abstract

【課題】低温融着性及び耐溶剤性を良好にしながら、耐熱性に優れ、カード又はパスポートを作製する際の寸法変化が小さいカード又はパスポート用の樹脂組成物を提供する。【解決手段】カード又はパスポート用樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(B)とを含む樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂(A-1)が鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、該ポリエステル樹脂(A-1)のガラス転移温度が90℃以上である。【選択図】なし

Description

本発明は、カード又はパスポート用樹脂組成物、カード又はパスポート用フィルム、カード、及びパスポートに関する。
クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、タグカード、保険証などのカードは、一般的に複数の樹脂シートが重ねられて加熱融着され、かつ打ち抜き加工がなされて製造されることが一般的である。また、パスポートも、同様に複数の樹脂シートが重ねられて製造されることが一般的である。カード又はパスポートに使用される樹脂シートにおいては、樹脂成分としてポリエステル、芳香族ポリカーボネートなどを含む熱可塑性樹脂組成物が使用されることが多い。
例えば、特許文献1には、カード用の熱可塑性樹脂組成物として、ポリエステル及び芳香族ポリカーボネートから選ばれる1種または2種以上の熱可塑性樹脂と、無機板状充填剤とが配合してなる熱可塑性樹脂組成物が開示されている。特許文献1では、ポリエステルとして、グリコール単位が、エチレングリコール単位(I)と1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)のモル比(I)/(II)が、70/30であるポリエステルや、エチレングリコール単位(I)と1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)のモル比(I)/(II)が、35/65であるポリエステルが使用されている。
特許文献1には、さらに、これらポリエステルと、芳香族ポリカーボネートとを併用した樹脂組成物も示されている。
特開平11-001607号公報
ところで、複数枚の樹脂シートを加熱融着させてカードやパスポートを製造する際には、低温度で加熱融着できる低温融着性が求められることがある。また、樹脂シートは、他のシートとの熱融着性が悪い場合には接着剤が必要となったり、顔写真等を印刷する際に用いられる受像層を備える場合や、デザインやセキュリティー印刷などがされる際にはインクに接触したりするので、耐溶剤性が要求される。
しかしながら、樹脂成分として芳香族ポリカーボネートを使用すると、低温融着性、耐溶剤性を良好にすることが難しい。一方で、特許文献1で使用されるポリエステルは、低温融着性が良好であるものの、耐熱性が十分ではなく、そのポリエステルから形成されたシートは加熱伸縮率の値が大きくなる。そのため、ポリエステルから形成されたシートと耐熱性の高いシート、例えば芳香族ポリカーボネートシート等と積層してカードやパスポートを作製する際、寸法変化が大きくなり作業性が悪くなったり、出来上がったカードやパスポートに反りが発生したりするなどの不具合が発生することがある。さらに、耐溶剤性が不十分であることもある。
また、特許文献1において、ポリエステルと、ポリカーボネートとを併用した樹脂組成物は、ポリエステル単独で使用したものよりも耐熱性が改善されるものの十分とはいえず、耐溶剤性も不十分である。
そこで、本発明は、低温融着性及び耐溶剤性を良好にしながら、耐熱性に優れ、カード又はパスポートを作製する際の寸法変化が小さいカード又はパスポート用の樹脂組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定のポリエステル樹脂(A-1)をポリカーボネート樹脂(B)と併用することで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
[1]ポリエステル樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(B)とを含む樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、
該ポリエステル樹脂(A-1)が鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、
該ポリエステル樹脂(A-1)のガラス転移温度が90℃以上である、カード又はパスポート用樹脂組成物。
[2]100℃における貯蔵弾性率が1×10Pa以上である、上記[1]に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[3]前記ポリエステル樹脂(A-1)が脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、上記[1]又は[2]に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[4]前記ポリエステル樹脂(A-1)が、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%超である、上記[3]に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[5]前記ポリエステル樹脂(A-1)が、エチレングリコールに由来する構造単位及びシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[6]前記ポリエステル樹脂(A-1)が、エチレングリコールに由来する構造単位、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位、及びテトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[7]前記ポリエステル樹脂(A-1)と前記ポリカーボネート樹脂(B)の含有割合((A-1)/(B))が、質量比で3/97以上97/3以下である、上記[1]~[6]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[8]再生原料を含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物からなるカード又はパスポート用フィルム。
[10]上記[9]に記載のフィルムを備える、カード。
[11]上記[10]に記載のフィルムを備える、パスポート。
[12]上記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、前記樹脂組成物に再生原料を配合する、樹脂組成物の製造方法。
本発明では、低温融着性及び耐溶剤性を良好にしながら、耐熱性に優れ、カード又はパスポートを作製する際の寸法変化が小さいカード又はパスポート用の樹脂組成物を提供できる。
カードにおける層構成を示す模式図である。 パスポートにおける層構成を示す模式図である。
以下、本発明について実施形態を参考に詳細に説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明において使用される用語「フィルム」と用語「シート」は明確に区別されるものではなく、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
<カード又はパスポート用樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、カード又はパスポート用樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(B)とを含む樹脂成分を含有する。
[ポリエステル樹脂(A-1)]
ポリエステル樹脂(A-1)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、かつガラス転移温度が90℃以上である。ポリエステル樹脂(A-1)は、ガラス転移温度が90℃以上であることで、後述するポリカーボネート樹脂(B)と併用することも相まって耐熱性が優れたものとなり、樹脂組成物から形成されるフィルムなどを加熱した際の寸法変化が小さくなる。そのため、カード又はパスポートを作製する際の作業性が良好となり、さらに製造されるカード又はパスポートに反りなどが生じにくくなる。また、ポリエステル樹脂(A-1)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことで、樹脂組成物の低温融着性が良好となりやすい。さらに、樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A-1)を含むことで、耐溶剤性も良好である。また、樹脂組成物が後述する着色剤を含有する場合には、レーザー印字性なども良好になりやすくなる。
ポリエステル樹脂(A-1)は、ジカルボン酸とジヒドロキシ化合物とを重縮合して得られるポリエステルである。なお、ジカルボン酸としては、ジカルボン酸のエステル、酸ハロゲン化物などのジカルボン酸誘導体がポリエステル樹脂(A-1)の合成に供されてもよい。
ポリエステル樹脂(A-1)を得るために使用されるジカルボン酸としては、耐熱性の観点から、芳香族ジカルボン酸を使用することが好ましく、したがって、ポリエステル樹脂(A-1)は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を含むことが好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、3-スルホイソフタル酸ナトリウム、2-クロロテレフタル酸、2,5-ジクロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸等が挙げられ、これらの中では、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸が透明性の観点からより好ましい。
芳香族ジカルボン酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、ポリエステル樹脂(A-1)は、脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を少量(通常40モル%以下、例えば30モル%以下、好ましくは20モル%以下の範囲で)含んでもよい。脂肪族ジカルボン酸としては、特に制限はなく、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3または1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
芳香族ジカルボン酸由来の構造単位は、ポリエステル樹脂(A-1)中のジカルボン酸由来の構造単位中に、80モル%以上含まれることが好ましく、90モル%以上含まれることがさらに好ましい。また、上限に関しては、特に限定されず、100モル%以下であればよいが、最も好ましくは100モル%である。
ポリエステル樹脂(A-1)に使用される鎖式ジヒドロキシ化合物は、直鎖であってもよいし、分岐構造を有してもよい。鎖式ジヒドロキシ化合物の具体例としては、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、トリエチレングリコール、1,2-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオールなどの炭素数2~18程度の鎖式ジヒドロキシ化合物やポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロプレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリグリコールが挙げられる。これらの中では、炭素数2~12の鎖式ジヒドロキシ化合物が好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールから選択される1種又は2種以上であることがより好ましく、中でもエチレングリコール(EG)が特に好ましい。
鎖式ジヒドロキシ化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリエステル樹脂(A-1)は、ジヒドロキシ化合物を2種以上共重合成分として使用した共重合体ポリエステル樹脂であることが好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂(A-1)を得るために使用されるジヒドロキシ化合物として、鎖式ジヒドロキシ化合物に加えて、脂環式ジヒドロキシ化合物を使用することが好ましい。したがって、ポリエステル樹脂(A-1)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に加えて、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有することが好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物を使用することで、耐熱性、耐溶剤性及びレーザー印字性などが良好となりやすい。
脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例としては、テトラメチルシクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールなどが挙げられる。これらの中ではテトラメチルシクロブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールが好ましい。なお、シクロヘキサンジメタノールとしては、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノールがあるが、工業的に入手が容易である点から、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。また、テトラメチルシクロブタンジオールとしては、一般的には、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールが使用される。
脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物としては、少なくともシクロヘキサンジメタノールを使用することが好ましく、中でもテトラメチルシクロブタンジオールとシクロヘキサンジメタノールを併用することがより好ましい。
ポリエステル樹脂(A-1)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%超であることが好ましい。脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%を超えると、耐熱性が優れたものとなり、樹脂組成物の高温環境下での貯蔵弾性率が高くなる。そのため、本発明の樹脂組成物から形成されるフィルムなどの加熱伸縮率の値が低くなりやすい。
脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の上記割合は、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、90モル%以上がよりさらに好ましい。
また、鎖式ジヒドロキシ化合物を一定量以上含有させて、低温融着性を向上させる観点から、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の上記割合は、99モル%以下が好ましく、98モル%以下がより好ましく、95モル%以下がさらに好ましい。
ポリエステル樹脂(A-1)に使用されるジヒドロキシ化合物としては、本発明の効果を損なわない範囲で、鎖式ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(「他のジヒドロキシ化合物」ともいう)を使用してもよい。ポリエステル樹脂(A-1)において、他のジヒドロキシ化合物由来の構造単位の含有量は、ポリエステル樹脂(A-1)中のジヒドロキシ化合物由来の構造単位100モル中、例えば20モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、最も好ましくは0モル%である。
他のジヒドロキシ化合物としては、p-キシレンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、および1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカンなどが挙げられる。
ポリエステル樹脂(A-1)は、上記した中でも、低温融着性、耐熱性、耐溶剤性などの観点から、エチレングリコールに由来する構造単位及びシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位を含むことが好ましく、エチレングリコールに由来する構造単位、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位、及びテトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位を含むことが特に好ましい。
ポリエステル樹脂(A-1)において、エチレングリコールに由来する構造単位の含有量は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%中、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、5モル%以上がさらに好ましく、また、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
また、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位の含有量は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、また、90モル%以下が好ましく、85モル%以下がより好ましく、80モル%以下がさらに好ましい。
さらに、テトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位の含有量は、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位の含有量より少ないことが好ましい。テトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位の含有量は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%中、4モル%以上が好ましく、8モル%以上がより好ましく、13モル%以上がさらに好ましく、15モル%以上が特に好ましく、また、49モル%以下が好ましく、38モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましく、25モル%以下が特に好ましい。
(ガラス転移温度)
ポリエステル樹脂(A-1)のガラス転移温度(Tg)は、上記の通り、90℃以上である。ガラス転移温度が90℃未満となると、ポリカーボネート樹脂(B)を併用しても耐熱性が不十分となり、加熱伸縮率の値が高くなり、寸法安定性が低下して、カード又はパスポートを作製する際の寸法変化が大きくなる。そのため、カードやパスポートを作製する際の作業性が低下したり、カードやパスポートに反りが発生したりする。さらに、樹脂組成物が着色剤を含有してもレーザー印字性を向上させにくくなる。
耐熱性を高めて寸法安定性、レーザー印字性などを良好にする観点から、ポリエステル樹脂(A-1)のガラス転移温度(Tg)は、93℃以上が好ましく、95℃以上がより好ましく、98℃以上がさらに好ましく、100℃以上がよりさらに好ましい。ポリエステル樹脂(A-1)のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性の観点からは高いほうがよいが、低温融着性の観点からは低くした方がよく、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは115℃以下である。
なお、ガラス転移温度は、各樹脂について、粘弾性スペクトロメーターを用い、JIS K7244-4:1999に準拠して、歪み0.07%、周波数1Hz、昇温速度3℃/分、引張モードにて動的粘弾性の温度分散測定を行い、損失弾性率のピークトップの温度を求めることで得ることができる。
ポリエステル樹脂(A-1)は、非晶性ポリエステルであることが好ましい。非晶性ポリエステルを使用することで、樹脂フィルムなどの他の部材に対する接着性が良好となりやすい。
非晶性ポリエステルは、実質的に非結晶性であるポリエステルであればよい。実質的に非結晶性(低結晶性のものも含む。)であるポリエステルとしては、示差走査熱量計(DSC)により、昇温時に明確な結晶融解ピークを示さないポリエステル、および、結晶性を有するものの結晶化速度が遅く、押出し製膜法などによる成形時に結晶性が高い状態とならないポリエステル、結晶性を有するものの示差走査熱量計(DSC)により、昇温時観測される結晶融解熱量(△Hm)が10J/g以下と低い値であるものを使用することができる。すなわち、本発明における非晶性ポリエステルには、“非結晶状態である結晶性のポリエステル”をも包含する。
ポリエステル樹脂(A-1)は、1種単独で使用してもよいが、2種以上を併用してもよい。
[ポリカーボネート樹脂(B)]
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分として上記したポリエステル樹脂(A-1)に加えて、ポリカーボネート樹脂(B)を含有する。本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(B)を含有することで、上記した特定のポリエステル樹脂(A-1)を併用することも相まって耐熱性が優れたものとなる。
ポリカーボネート樹脂(B)は、特に限定されないが、ビスフェノール系ポリカーボネートを使用することが好ましい。ビスフェノール系ポリカーボネートを使用することで、各種機械特性及び耐熱性などを優れたものとしやすくなる。
ビスフェノール系ポリカーボネートとは、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上が、ビスフェノールに由来する構造単位であるものをいう。ビスフェノール系ポリカーボネートは、単独重合体または共重合体のいずれであってもよい。また、ビスフェノール系ポリカーボネートは、分岐構造を有してもよいし、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造を有する樹脂と直鎖構造のみの樹脂との混合物であってもよい。
ビスフェノールの具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールM)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールP)、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン(ビスフェノールPH)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、及び、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などが挙げられる。ビスフェノールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ビスフェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられるが、ビスフェノールAの一部を他のビスフェノールで置き換えてもよい。
ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、ビスフェノールA由来の構造単位は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。したがって、ポリカーボネート樹脂(B)としては、ビスフェノールAホモポリカーボネートが最も好ましい。
ポリカーボネート樹脂(B)として使用されるビスフェノール系ポリカーボネートの製造方法は、例えば、ホスゲン法、エステル交換法およびピリジン法などの公知のいずれの方法を用いてもかまわない。
例えば、エステル交換法は、ビスフェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。
炭酸ジエステルの具体例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が例示でき、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
ポリカーボネート樹脂(B)のメルトフローレート(300℃、1.2kgf)は、力学特性と成形加工性などの観点から、好ましくは1g/分以上であり、より好ましくは2g/分以上であり、さらに好ましくは3g/分以上であり、また、好ましくは60g/分以下であり、より好ましくは50g/分以下であり、さらに好ましくは40g/分以下である。なお、ポリカーボネート樹脂(B)のメルトフローレートは、ASTM D1238に準拠して測定できる。
ポリカーボネート樹脂(B)の質量平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常10000以上、好ましくは30000以上であり、また、通常100000以下、好ましくは80000以下の範囲である。なお、質量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレンを標準物質として測定できる。
また、ポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常12000以上、好ましくは15000以上、より好ましくは20000以上、さらに好ましくは22000以上であり、また、通常、40000以下、好ましくは35000以下、より好ましくは30000以下、さらに好ましくは28000以下の範囲である。なお、粘度平均分子量の測定は、溶媒としてジクロロメタンを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度([η])(単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式:η=1.23×10-40.83の式から算出できる。
ポリカーボネート樹脂(B)のガラス転移温度は、ポリエステル樹脂(A-1)のガラス転移温度よりも高いことが好ましく、例えば110℃以上200℃以下である。また、好ましくは125℃以上、より好ましくは135℃以上、更に好ましくは140℃以上であり、また、好ましくは175℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは165℃以下である。
ガラス転移温度を上記下限値以上とすることで、適切な耐熱性を付与しやすくなり、カード又はパスポートを作製する際の寸法変化を小さくしやすくなる。また、上記上限値以下とすることで成形性なども良好となる。なお、ポリカーボネート樹脂(B)は、通常単一のガラス転移温度を有する。
ポリエステル樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(B)の含有割合((A-1)/(B))は、質量比で3/97以上97/3以下であることが好ましい。含有割合((A-1)/(B))を3/97以上にすると、低温融着性及び耐溶剤性を向上させやすくなる。また、含有割合((A-1)/(B))を97/3以下にすると耐熱性が向上しやすくなる。
これら観点から、含有割合((A-1)/(B))は、6/94以上であることがより好ましく、10/90以上であることがさらに好ましく、15/85以上であることがよりさらに好ましく、30/70以上であることがよりさらに好ましく、40/60以上であることがよりさらに好ましい。また、含有割合((A-1)/(B))は、94/6以下であることがより好ましく、90/10以下であることがさらに好ましく、85/15以下であることがよりさらに好ましく、80/20以下であることがよりさらに好ましく、75/25以下であることがよりさらに好ましい。
[ポリエステル樹脂(A-2)]
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分として、上記したポリエステル樹脂(A-1)以外のポリエステル樹脂(A-2)を含有してもよい。ポリエステル樹脂(A-2)は、ジカルボン酸とジヒドロキシ化合物とを重縮合して得られるポリエステルである。なお、ジカルボン酸としては、ジカルボン酸のエステル、酸ハロゲン化物などのジカルボン酸誘導体がポリエステル樹脂(A-2)の合成に供されてもよい。樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A-1)以外にポリエステル樹脂(A-2)を含有することで、様々な特性を有しやすくなり、例えば低温融着性、印刷適正などを向上しやすい傾向となる。また、ポリカーボネート樹脂(B)を比較的多量に含有させても、低温融着性を比較的良好に維持しやすくなる。
なお、以下の説明においては、ポリエステル樹脂(A-1)と、ポリエステル樹脂(A-2)を総称して、ポリエステル樹脂(A)ということがある。
ポリエステル樹脂(A-2)は、ジカルボン酸として、耐熱性の観点から、芳香族ジカルボン酸を使用することが好ましく、したがって、ポリエステル樹脂(A-2)は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を含むことが好ましい。芳香族ジカルボン酸の具体例としては、ポリエステル樹脂(A-1)で述べたとおりであり、好適な化合物も同様である。芳香族ジカルボン酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリエステル樹脂(A-2)において、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位は、ポリエステル樹脂(A-1)中のジカルボン酸由来の構造体中に、80モル%以上含まれることが好ましく、90モル%以上含まれることがさらに好ましく、また、100モル%以下含まれることが好ましく、最も好ましくは100モル%である。
また、ポリエステル樹脂(A-2)は、脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を少量(通常、20モル%以下の範囲)含んでもよい。脂肪族ジカルボン酸の具体例は、ポリエステル樹脂(A-2)で述べたとおりである。
ポリエステル樹脂(A-2)は、ジヒドロキシ化合物を2種以上共重合成分として使用した共重合体ポリエステル樹脂であることが好ましい。また、ポリエステル樹脂(A-2)は、ジヒドロキシ化合物として、鎖式ジヒドロキシ化合物、及び脂環式ジヒドロキシ化合物の少なくとも一方を使用するとよいが、これら両方を使用することが好ましい。したがって、ポリエステル樹脂(A-2)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とを含有することが好ましい。
ポリエステル樹脂(A-2)で使用する鎖式ジヒドロキシ化合物の具体例は、ポリエステル樹脂(A-1)で述べたとおりであるが、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールから選択される1種又は2種以上である。
また、ポリエステル樹脂(A-2)で使用する脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例は、ポリエステル樹脂(A-1)で述べたとおりであるが、好ましくはテトラメチルシクロブタンジオール及びシクロヘキサンジメタノールから選択される1種又は2種以上であり、より好ましくはシクロヘキサンジメタノールである。なお、シクロヘキサンジメタノールは、上記のとおり、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
ポリエステル樹脂(A-2)は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%以下であるとよく、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下である。脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合を上記の通りに低くすると、ポリエステル樹脂(A-2)において鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量が多くなり、樹脂組成物の低温融着性などを向上させやすくなる。
また、脂環式ジヒドロキシ化合物を一定量以上含有させて、耐熱性を向上させる観点から、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の上記割合は、5モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。
ポリエステル樹脂(A-2)のガラス転移温度(Tg)は、90℃未満であるとよいが、好ましくは88℃以下、より好ましくは85℃以下、さらに好ましくは82℃以下である。また、ポリエステル樹脂(A-2)のガラス転移温度(Tg)は、樹脂組成物の耐熱性、耐衝撃性を良好にする観点から、70℃以上が好ましく、73℃以上がより好ましく、75℃以上がさらに好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)の測定方法は、上記のとおりである。
また、ポリエステル樹脂(A-2)は、非晶性ポリエステルであることが好ましい。非晶性ポリエステルを使用することで、樹脂フィルムなどの他の部材に対する接着性が良好となりやすい。
(ポリエステル樹脂(A-1)、(A-2)の含有量)
樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A-1)の含有量は、ポリエステル樹脂(A-1)とポリエステル樹脂(A-2)の合計量100質量部に対して、20質量部以上であることが好ましい。ポリエステル樹脂(A-1)の含有量を一定量以上にすることで、低温融着性を向上させながらも、耐熱性を良好に維持でき、加熱加工時に寸法変化が生じにくくなる。そのため、カード又はパスポートを製造する際の作業性が良好となり、得られるカード又はパスポートに反りが生じたりすることを防止できる。さらには、耐溶剤性も良好となりやすい。また、耐衝撃性も良好となりやすく、長期使用における信頼性も向上しやすい。
樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A-1)の含有量は、ポリエステル樹脂(A-1)とポリエステル樹脂(A-2)の合計量100質量部に対して、25質量部以上であることがより好ましく、35質量部以上であることがさらに好ましく、50質量部以上であることがよりさらに好ましく、60質量部以上であることがよりさらに好ましく、70質量部以上であることがよりさらに好ましい。
また、本発明の樹脂組成物は、上記の通りポリエステル樹脂(A-2)を含有しなくてもよく、したがって、樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A-1)の含有量は、ポリエステル樹脂(A-1)とポリエステル樹脂(A-2)の合計量100質量部に対して、100質量部以下であればよい。
ただし、ポリエステル樹脂(A-2)を樹脂組成物に含有させる場合にポリエステル樹脂(A-2)を含有させた効果を発揮しやすい点から、ポリエステル樹脂(A-2)の含有量は、一定量以上とするとよい。したがって、ポリエステル樹脂(A-1)とポリエステル樹脂(A-2)の合計量100質量部に対して、ポリエステル樹脂(A-1)の含有量は、好ましくは95質量部以下であればよく、より好ましくは90質量部以下、さらに好ましくは85質量部以下である。
(樹脂(A)、(B)の含有量比)
ポリカーボネート樹脂(B)の含有量と、ポリエステル樹脂(A-1)及びポリエステル樹脂(A-2)の含有量の合計量(すなわち、ポリエステル樹脂(A)の含有量)の含有量比(A/B)は、質量比で10/90以上97/3以下であることが好ましい。含有割合((A)/(B))を10/90以上にすると、樹脂組成物に一定量以上のポリエステル樹脂(A)を含有させることができ、低温融着性及び耐溶剤性を向上させやすくなる。また、含有割合((A)/(B))を97/3以下にすると、樹脂組成物に一定量以上のポリカーボネート樹脂(B)を含有させることができ、耐熱性が向上する傾向となる。
これら観点から、含有量比((A)/(B))は、20/80以上であることがより好ましく、30/70以上であるこがよりさらに好ましく、35/65以上であることがよりさらに好ましい。また、含有割合((A)/(B))は、90/10以下であることがより好ましく、85/15以下であることがさらに好ましく、80/20以下であることがよりさらに好ましい。
[着色剤]
本発明の樹脂組成物は、さらに着色剤を含有してもよい。本発明の樹脂組成物は、着色剤を含有することで、レーザー照射により印字可能となり、その印字性も良好になる。なお、レーザー印字は、着色剤を含む樹脂組成物がレーザー光を吸収して発熱し、その周辺の形成材料が炭化することで所望の印字がなされるものである。
着色剤としては、顔料、染料のいずれを使用してもよく、白色顔料としての酸化チタン、酸化バリウム、酸化亜鉛、黄色顔料としての酸化鉄、チタンイエロー、赤色顔料としての酸化鉄、青色顔料としてのコバルトブルー群青等が挙げられ、染料としては、白色染料が好ましい。白色染料は蛍光増白染料などを混合して使用するとよい。
蛍光増白染料としては、例えば、フルオレセイン系化合物、チオフラビン系化合物、エオシン系化合物、ローダミン系化合物、クマリン系化合物、イミダゾール系化合物、オキサゾール系化合物、トリアゾール系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、イミダゾロン系化合物、ナフタル酸誘導体、スチルベンジスルホン酸誘導体、スチルベンテトラスルホン酸誘導体、スチルベンヘキサスルホン酸誘導体、ダゾロン誘導体等を挙げることができる。本発明の効果の点で好ましくは、スチルベンジスルホン酸誘導体等が挙げられる。
着色剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記した着色剤の中では、コントラスト性の際立つ、白色染料及び白色顔料が好ましい。白色染料及び白色顔料は、白色染料を単独で使用してもよいし、白色顔料を単独で使用してもよいし、白色染料と白色顔料を併用してもよい。
また、着色剤は、白色顔料がより好ましく、特に酸化チタンがさらに好ましい。
顔料の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上10μm以下、好ましくは0.03μm以上5μm以下、より好ましくは0.07μm以上3μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上1.0μm以下である。なお、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定により得られる体積モーメント平均径をいう。
酸化チタンとしては、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン等が例示でき、より好ましくはルチル型酸化チタンである。白色顔料としてルチル型酸化チタンを用いることにより、ポリエステル樹脂(A)の劣化を抑制する効果が高い。
酸化チタンは、所望により、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム、スズおよびセリウム等から選択された少なくとも1種の金属の含水酸化物又は酸化物を用いて、種々の公知の方法により表面処理を行ってもよい。例えば、上記の金属の含水酸化物又は酸化物による表面処理方法として、酸化チタンの水性スラリー中に、上述の金属の水溶性化合物を添加した後に中和し、金属の含水酸化物を酸化チタン粒子の表面に沈殿させ、その後濾過、乾燥する方法を採用することができる。
また、酸化チタンを使用する場合、樹脂組成物には、酸化チタンに加えて、有機顔料、染料などの他の着色剤を配合し、また、白色染料としての蛍光増白染料等を配合して色調を調整することもできる。
樹脂組成物における着色剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対し0.01質量部以上40質量部以下であることが好ましい。着色剤の含有量を0.01質量部にすると、樹脂組成物を適切に着色でき、レーザー印字性を向上させやすくなる。さらに、樹脂組成物から形成されるフィルムなどの意匠性を高めたり、隠蔽性を付与したりすることができる。また、40質量部以下とすることで、含有量に見合った効果を発揮することができ、また、樹脂組成物から形成されるフィルムの物性を低下させたりすることも抑制できる。
以上の観点から、樹脂組成物における着色剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましく、5質量部以上であることがよりさらに好ましい。また、30質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以下であることがよりさらに好ましい。
[滑剤]
樹脂組成物は、滑剤を含有してもよい。滑剤を含有することで、樹脂組成物からなるフィルムなどの表面抵抗率が低くなり帯電が抑制され、また、フィルムなどの表面の滑り性が向上することで、別のフィルムやプレス板に対して付着してはがれ難くなるという問題が発生しにくい。また、表面抵抗率が低くなるとロールからフィルムを繰り出した際に静電気が発生しにくく、繰り出し時にスパークが発生しフィルム等の表面に傷を付けたりすることも防止でき、さらに、滑り性の改善や表面抵抗率の低下により、ロールから繰り出してフィルム等を送り出す際に、フィルムが蛇行又は斜行して、ズレ、捻じれ、シワ等が発生したりすることを防止できる。そのため、取扱い性及び加工性が良好になる。さらに、表面抵抗率が低くなると、浮遊している塵埃が静電気により引き寄せられフィルム等の表面に付着し、得られる積層フィルムやカード中に異物が混入するといった問題も発生しにくくなり、防塵性が高められる。また、滑り性が良好となるため、フィルム表面を擦っても傷が付きにくく、耐擦傷性にも優れる。
さらに、滑剤により濡れ性が向上すると、樹脂組成物からなるフィルム上に印刷を行う場合に、印刷適正が向上すると推定される。なお、印刷適正とは、樹脂組成物からなるフィルムの表面に印刷した際のインクとフィルムの馴染みやすさを意味する。印刷適正が向上すると、インクのハジキ等が生じずにフィルム上にきれいに印刷することができる。
滑剤としては、一般的に分子中に酸、エステル、水酸基、アミド基、金属塩などの極性部分と、脂肪族基などの非極部分を有する化合物が挙げられる。また、これら化合物以外でも、金属、樹脂などの他の材料との滑り性を向上させる化合物であれば滑剤として使用できる。なお、極性部分を有する滑剤を使用することで表面抵抗率を低くしやすくなる。また、非極性部を有する滑剤を使用することで、プレス板等の貼り付きを抑制しやすくなる。
具体的な滑剤としては、ポリアルキレングリコール、脂肪酸エステル、脂肪族基を有する金属塩、フッ素系ポリマー、脂肪酸アミド、脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪族炭化水素系化合物等が挙げられる。ポリエステル樹脂(A)に対して、これら滑剤を添加することで、上記した各種性能を発揮しやすくなる。これらの中でも、滑剤は、ポリアルキレングリコール、脂肪酸エステル、脂肪族基を有する金属塩、及びフッ素系ポリマーから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
(ポリアルキレングリコール)
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどでもよいし、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体などでもよい。また、ポリアルキレングリコールは分子骨格に分岐を有するものであってもよい。これらの中では、ポリエチレングリコールが好ましい。
ポリアルキレングリコールは、常温(23℃)で固体となる固体状ワックスであることが好ましい。固体状ワックスは、ペレットと混合しやすく、また、シートに加工する際に必要とされる熱により揮発しにくいので好ましい。固体状ワックスとなるポリアルキレングリコールは、その数平均分子量が例えば500~5000となるものである。なお、数平均分子量は、JIS K1577:2007に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出される数平均分子量をいう。
ポリアルキレングリコールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(脂肪酸エステル)
脂肪酸エステルとしては、滑剤として使用される公知の脂肪酸エステルを使用できる。脂肪酸エステルは、脂肪酸と各種のアルコールとを原料とするエステルであり、分子内に長鎖脂肪族基とエステル基を持つものが好ましい。
脂肪酸エステル系滑剤の具体例としては、例えば、一価アルコールの高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸エステル又は部分エステル、又はこれらの部分ケン化物などが挙げられる。高級脂肪酸エステルに使用される高級脂肪酸としては、例えば炭素原子数10以上、好ましくは炭素原子数12以上、より好ましくは炭素原子数16以上、さらに好ましくは炭素原子数20以上であり、また、好ましくは炭素原子数36以下、より好ましくは炭素原子数32以下である。
具体的には、モンタン酸エステル、モンタン酸部分ケン化エステル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂肪酸オクチルエステル、ラウリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、ネオペンチルグリコールジオレート、ネオペンチルグリコールジカプリン酸エステルなどのネオペンチルポリオール脂肪酸エステル、トリメチロールプロパントリオレートなどのトリメチロールプロパントリ脂肪酸エステル、トリメチロールプロパンジカプリン酸エステルなどのトリメチロールプロパンジ脂肪酸エステルなどの各種のトリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールテトラオレートなどのペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサイソノナン酸エステルなどのジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、ステアリン酸トリグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、オレイン酸ジグリセライド、オレイン酸トリグリセライドなどの脂肪酸グリセライド、ペンタエリスリトール脂肪酸縮合エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸縮合エステルなどが挙げられる。これらの中では、モンタン酸エステルが好ましい。
脂肪酸エステルは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(脂肪族基を有する金属塩)
滑剤として使用される金属塩は、脂肪族基を有する金属塩であればよい。脂肪族基を有する金属塩を使用することで、表面抵抗率を低下させやすくなり、各種効果を発揮しやすくなる。脂肪族基としては、脂肪族炭化水素基、脂肪族アシル基などが挙げられる。脂肪族基としては、特に限定されないが、好ましくは炭素原子数8以上、より好ましくは炭素原子数10以上であり、また、好ましくは炭素原子数30以下、より好ましくは炭素原子数24以下、さらに好ましくは炭素原子数16以下である。
金属塩としては、具体的には、脂肪酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩が挙げられ、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸金属塩である。
脂肪酸金属塩としては、脂肪酸、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ひまし油脂肪酸などの炭素原子数8~30程度、好ましくは炭素原子数10~24の高級脂肪酸とアルミニウム、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉛およびバリウムなどの金属との塩であり、好ましくは、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。
アルキルベンゼンスルホン酸金属塩としては、アルキル基の炭素原子数が好ましくは8~24、より好ましくは10~16のアルキルベンゼンスルホン酸金属塩が挙げられる。また、使用される金属としては、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどが好ましく、特に好ましくはナトリウムである。
アルキルベンゼンスルホン酸金属塩の好適な具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(フッ素系ポリマー)
フッ素系ポリマーとしては、分子内に炭素-フッ素結合を有するフッ素樹脂が挙げられる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ三フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パ-フルオロアルキルビニルエ-テル共重合体、ポリマー鎖の両末端または片末端にフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体、パーフルオロカルボン酸エステル等が挙げられる。
中でも、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが好ましい。
フッ素系ポリマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(脂肪族アミド)
脂肪酸アミドとしては、滑剤として使用できる公知の脂肪酸アミドが挙げられる。脂肪酸アミドは、脂肪酸とアミンからなるアミドであり、分子内に長鎖脂肪族基とアミド基を持つものであり、脂肪酸アマイドとも呼ばれる。具体的には、モノアミド、置換アミド、ビスアミド、メチロールアミド、エタノールアミド、エステルアミド、置換尿素、脂肪酸とアミンの重縮合物などがある。使用される脂肪酸は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよい。また、脂肪酸の炭素原子数は、例えば8~30程度、好ましくは10~24である。
好ましい脂肪酸アミドの例としては、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、N-オレイルパルミトアミド、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物などが挙げられる。
脂肪酸アミドは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(脂肪族アルコール)
脂肪族アルコールとしては、滑剤として使用できる公知の脂肪族アルコールが挙げられる。脂肪族アルコールは、例えば炭素原子数6~30、好ましくは炭素原子数10~24の脂肪族アルコールである。脂肪族アルコールの具体例としては、例えば、カプロイルアルコール、カプリリルアルコール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコールなどが挙げられ、好ましくは、ステアリルアルコールである。
脂肪酸アルコールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(脂肪酸)
脂肪酸としては、滑剤として使用できる公知の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸としては、例えば炭素原子数6~30、好ましくは炭素原子数10~24の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられ、好ましくはステアリン酸である。
(脂肪族炭化水素系化合物)
脂肪族炭化水素系化合物としては、滑剤として使用できる公知の脂肪族炭化水素系化合物が挙げられる。脂肪族炭化水素系化合物の具体例としては、例えば、炭素原子数16以上の流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、天然パラフィン、合成パラフィンなどのパラフィンワックス、ポリエチレンワックスなどのポリオレフィンワックス、およびこれらの部分酸化物、あるいはフッ化物、塩化物などが挙げられる。
脂肪族炭化水素化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
樹脂組成物において、滑剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、例えば、ポリアルキレングリコールと脂肪族基を有する金属塩とを併用することが好ましく、中でも、ポリエチレングリコールとアルキルベンゼンスルホン酸金属塩とを併用することがより好ましい。これら2種の滑剤を併用することで、本発明の樹脂組成物からなるフィルムが、他の樹脂フィルムのみならず、プレス板に対しても付着しにくくなるので、取扱い性及び加工性がより優れたものとなる。
ポリアルキレングリコールと、脂肪族基を有する金属塩を併用する場合、脂肪族基を有する金属塩に対するポリアルキレングリコールの比(ポリアルキレングリコール/金属塩)は、質量比で、好ましくは1/9以上9/1以下であり、より好ましくは1/5以上5/1以下、さらに好ましくは1/3以上3/1以下である。
また、脂肪酸エステルとフッ素系ポリマーとを併用することも好ましい。これら2種の滑剤を併用することで、本発明の樹脂組成物からなるフィルムが、樹脂フィルムのみならず、プレス板に対しても付着しにくくなるので、取扱い性及び加工性がより優れたものとなる。脂肪酸エステルとフッ素系ポリマーを併用する場合、脂肪酸エステルに対するフッ素系ポリマーの比(フッ素系ポリマー/脂肪酸エステル)は、質量比で、好ましくは1/9以上9/1以下であり、より好ましくは1/6以上6/1以下、さらに好ましくは1/4以上4/1以下であり、よりさらに好ましくは1/3以上3/1以下である。
また、滑剤は、3種以上を併用してもよく、例えば、ポリアルキレングリコール、脂肪族基を有する金属塩、脂肪酸エステル、及びフッ素系ポリマーの4種を併用してもよい。このように4種の滑剤を併用する場合、ポリアルキレングリコールと金属塩の含有量比、及び脂肪酸エステルとフッ素系ポリマーの含有量比は、上記の通りとすればよい。
樹脂組成物における滑剤の含有量は、樹脂組成物に含有される樹脂成分100質量部に対し0.01質量部以上5質量部以下であることが好ましい。0.01質量部以上であることで、樹脂組成物から形成されたフィルムなどの表面抵抗率が低くなり、帯電が防止され、また、滑り性が良好となり、加工性、取扱い性、防塵性、耐擦傷性などが向上しやすくなる。また、濡れ性が適度に上がって、印刷適正も向上しやすくなると推定される。また、5質量部以下とすることで、含有量に見合った効果を発揮することができ、また、樹脂組成物から形成されるフィルムの物性を低下させたり、印刷適正を低下させたりすることも抑制できる。
以上の観点から、樹脂組成物における滑剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.1質量部以上がより好ましく、0.4質量部以上がさらに好ましく、0.6質量部以上がよりさらに好ましく、0.9質量部以上が特に好ましい。また、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましく、1.5質量部以下であることが特に好ましい。
[耐衝撃改良剤]
本発明の樹脂組成物は、耐衝撃改良剤を含有してもよい。ポリエステル樹脂(A)を使用した樹脂組成物は、長期での信頼性が実使用上不足することがあるが、耐衝撃改良剤を配合することで、実使用での折り曲げ、衝撃等の外的衝撃から生ずる影響を緩和して、長期使用における信頼性が良好となる。
耐衝撃改良剤としては、軟質スチレン系樹脂、エラストマーなどが挙げられる。エラストマーは、コア・シェル型エラストマーであってもよい。耐衝撃改良剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
耐衝撃改良剤としては、上記の中でもコア・シェル型エラストマーが好ましい。コア・シェル型エラストマーを使用することで、耐衝撃性が一層向上して、長期使用における信頼性がより一層良好となる。
軟質スチレン系樹脂は、スチレン重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックを含むブロック共重合体や、スチレン重合体ブロックとアクリロニトリルブロックを含むブロック共重合体などが挙げられる。
軟質スチレン系樹脂中に占めるスチレン含有量は、例えば5質量%以上80質量%以下であるが、好ましくは10質量%以上50質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下である。スチレン含有量が上記範囲にあることにより、耐衝撃性の付与効果がより向上する。
軟質スチレン系樹脂に用いる共役ジエン系重合体ブロックとしては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等の単独重合体、それらの共重合体、または、共役ジエン系モノマーと共重合可能なモノマーをブロック内に含む共重合体等を用いることができる。
具体的な軟質スチレン系樹脂としては、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)、シリコーン-アクリル複合ゴム・アクリロニトリル・スチレン共重合体(SAS)、メタクリル酸メチル・無水マレイン酸・スチレン共重合体(SMM)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES)等が挙げられる。具体的な商品としては、クレイトンポリマー社製「クレイトンD」シリーズ、アロン化成社製「AR-100」シリーズ、UMG ABS社製「ダイヤラック」シリーズ、旭化成ケミカルズ社製「デルペット」シリーズ等が挙げられる。また、軟質スチレン系樹脂は、後述するスチレン系エラストマーとして、JSR社製「ダイナロン」シリーズ、旭化成ケミカルズ社製「タフテック」シリーズ、クラレ社製「ハイブラー」シリーズなども使用できる。
なお、ブロック共重合体はピュアブロック、ランダムブロック、テーパードブロック等を含み、共重合の形態については特に限定されない。また、そのブロック単位も繰り返し単位がいくつも重なっても構わない。具体的にはスチレン・ブタジエンブロック共重合体の場合、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブタジエンブロック共重合体のようにブロック単位がいくつも繰り返されても構わない。
また、SBSやSISの共役ジエン系重合体ブロックの二重結合の一部、または、全部を水素添加した水素添加スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、水素添加スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)を用いることもできる。具体的な商品としては、旭化成ケミカルズ社製「タフテックH」シリーズ、クレイトンポリマー社製「クレイトンG」シリーズ等があげられる。
軟質スチレン系樹脂には、極性を有する官能基を付与することも可能である。極性を有する官能基の具体例としては、酸無水物基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、オキサゾリン基などが挙げられる。これらの中でも、酸無水物基やエポキシ基を付与することが好ましい。
極性を有する官能基を付与した軟質スチレン系樹脂としては、SEBS、SEPSの変性体が好ましく用いられる。具体的には、無水マレイン酸変性SEBS、無水マレイン酸変性SEPS、エポキシ変性SEBS、エポキシ変性SEPSなどが挙げられる。具体的な商品としては、旭化成ケミカルズ社製「タフテックM」シリーズ、JSR社製「ダイナロン」シリーズ、ダイセル化学工業社製「エポフレンド」シリーズ等が挙げられる。
また、軟質スチレン系樹脂は、エラストマー成分を含むスチレン系エラストマーであってもよい。具体的には、上記したものの中では、スチレン成分と、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等のブロック共重合体が挙げられ、これらの変性物や、水素添加物などであってもよい。より具体的には、SBS、SIS、SEBS、SEPSなどが挙げられる。
エラストマーとしては、スチレン系エラストマー以外であってもよく、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマー等公知のものが挙げられる。エラストマーは、一般的に熱可塑性エラストマーである。エラストマーは、好ましくは、ポリエステル系エラストマー、又は上記したスチレン系エラストマーである。
ポリエステル系エラストマーは、常温でゴム特性をもつ熱可塑性ポリエステルであり、好ましくは、ポリエステル系ブロック共重合体を主成分とした熱可塑性エラストマーであり、ハードセグメントとして高融点・高結晶性の芳香族ポリエステル、ソフトセグメントとして非晶性ポリエステルや非晶性ポリエーテルを有するブロック共重合体であるものが好ましい。ポリエステル系エラストマーのソフトセグメントの含有量は、少なくとも全セグメント中の20~95モル%であり、ポリブチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールのブロック共重合体(PTMG-PBT共重合体)の場合は50~95モル%である。好ましいソフトセグメントの含有量は50~90モル%、特に60~85モル%である。中でも、ポリエステルエーテルブロック共重合体、特にPTMG-PBT共重合体が、透過率の落ちが少なくなることから好ましい。
コア・シェル型エラストマーは、最内層(すなわち、コア)とそれを覆う1層以上の外層(すなわち、シェル)とから構成される。コア・シェル型エラストマーとしては、コアに対してグラフト共重合可能な単量体成分がシェルとしてグラフト共重合されたコア・シェル型グラフト共重合体であることが好ましい。
コア・シェル型グラフト共重合体は、通常、ゴム成分と呼ばれる重合体成分をコアとする。コア・シェル型グラフト共重合体においては、コアを構成する重合体成分と、この重合体成分と共重合可能な単量体成分がシェルとしてグラフト共重合されていることが好ましい。
コア・シェル型グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。但し、通常、市販で入手可能なコア・シェル型エラストマーをそのまま使用することができる。市販で入手可能なコア・シェル型エラストマーは後に例示する。
コアを形成する重合体成分の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体などのブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、ポリブチルアクリレート、ポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン・アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴムなどのシリコーン・アクリル複合ゴム、、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体などのエチレン-αオレフィン系ゴム、エチレン-アクリルゴム、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、及びシリコーン・アクリル複合ゴムから選ばれる少なくとも1種が好ましく、中でもブタジエン系ゴム及びシリコーン・アクリル複合ゴムから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
シェルを構成する、コアの重合体成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物;シアン化ビニル化合物;(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物などの(メタ)アクリル系化合物;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル系化合物が好ましく、より好ましくは、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル系化合物、中でも(メタ)アクリル酸エステル化合物である。
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレンまたはハロゲン化スチレンなどが挙げられ、なかでも、スチレンまたはα-メチルスチレンがより好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられ、これらの中でも比較的入手しやすい(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがより好ましい。なお、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」とを総称するものである。
コア・シェル型エラストマーとしては、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、及びシリコーン・アクリル複合ゴムから選ばれる少なくとも1種の重合体成分をコアとし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系化合物や芳香族ビニル化合物をグラフト共重合して形成されたシェルからなる、コア・シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。コア・シェル型グラフト共重合体におけるコアの重合体成分の含有量は、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがよい好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがよりさらに好ましい。
また、コア・シェル型グラフト共重合体のシェルにおける、(メタ)アクリル系化合物(中でも、(メタ)アクリル酸エステル)成分及び芳香族ビニル化合物成分の合計含有量は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以上であることがよりさらに好ましい。シェルでは、(メタ)アクリル系化合物及び芳香族ビニル化合物のいずれかが単独で使用されてもよいし、これらは併用されてもよい。
コア・シェル型エラストマーの好ましい具体例としては、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーン複合ゴム)共重合体等が挙げられる。
市販で入手可能なコア・シェル型グラフト共重合体としては、例えば、ダウケミカル・ジャパン社製の「パラロイドEXL2602」、「パラロイドEXL2603」、「パラロイドEXL2690」、「パラロイドEXL2691J」、「パラロイドEXL2650J」「パラロイドEXL2655」、「パラロイドEXL2311」、「パラロイドEXL2313」、「パラロイドEXL2315」、「パラロイドKM330」、「パラロイドKM336P」、「パラロイドKCZ201」、三菱ケミカル社製の「メタブレンC-223A」、「メタブレンE-901」、「メタブレンS-2001」、「メタブレンW-450A」「メタブレンSRK-200」、カネカ社製の「カネエースM-210」、「カネエースM-511」、「カネエースM-600」、「カネエースM-400」、「カネエースM-580」、「カネエースM-590」、「カネエースM-711」、「カネエースMR-01」、「カネエースM-300」等が挙げられる。
これらのコア・シェル型グラフト共重合体等の耐衝撃改良剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
樹脂組成物において、耐衝撃改良剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して1質量部以上40質量部以下であることが好ましい。耐衝撃改良剤の含有量を1質量部以上とすると、外的衝撃から生ずる影響を適度に緩和して、長期での信頼性が向上する。40質量部以下とすることで、含有量に見合った効果を発揮することができ、また、樹脂組成物から形成されるフィルムの耐熱性などの各種物性を低下させることも防止できる。
これら観点から、樹脂組成物における耐衝撃改良剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、2.5質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、5質量部以上がよりさらに好ましい。また、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましく、16質量部以下であることがよりさらに好ましく、12質量部以下であることが特に好ましい。
[レーザー発色剤]
樹脂組成物は、レーザー発色剤を含有してもよい。レーザー発色剤は、レーザー光線の照射によって発熱する機能を有するものであれば特に限定されず、レーザー光の照射によってそれ自身が発色するいわゆる自己発色型発色剤でもよいし、それ自身は発色しないものであってもよい。レーザー発色剤は、発熱することにより、その周辺の形成材料の炭化を促進し、レーザー印字性をより高めることができる。さらに自己発色するレーザー発色剤を用いると、レーザー発色剤の発色と、形成材料が炭化することによって生じる炭化物による発色とが相乗して、色が濃く、視認性に優れた印字を表すことができる。レーザー発色剤が発色する場合、その色彩は特に限定されるものではないが、視認性の観点から、黒、紺、茶を含む濃色に発色し得るレーザー発色剤を用いることが好ましい。
レーザー発色剤は、金属酸化物であってもよいし、金属酸化物以外の化合物であってもよい。金属酸化物としてはレーザー発色効果を有するものであれば限定されず、例えば、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化錫、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ビスマス、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化ネオジウム、マイカ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、スメクタイトなどが挙げられる。
また、金属酸化物以外のレーザー発色剤でもよく、鉄、銅、亜鉛、錫、金、銀、コバルト、ニッケル、ビスマス、アンチモン、アルミニウムなどの金属、それらの塩である塩化鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、塩化銅、硝酸銅、リン酸銅、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、次炭酸ビスマス、硝酸ビスマスなどの金属塩、水酸化マグネシウム、水酸化ランタン、水酸化ニッケル、水酸化ビスマスなどの金属水酸化物、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ランタンホウ化物などの金属ホウ化物などでもよい。なお、金属ホウ化物は、六ホウ化物が近赤外吸収能を有しており、中でも六ホウ化ランタンはレーザー光の吸収効率に優れているため好ましい。また、例えば、フルオラン系、フェノチアジン系、スピロピラン系、トリフェニルメタフタリド系、ローダミンラクタム系などのロイコ染料などで代表される染料系や、カーボンブラックなども使用できる。
レーザー発色剤としては、酸化ビスマスや、ビスマスとZn、Ti、Al、Zr、Sr、NdおよびNbから選択される少なくとも1種の金属を含んだ金属酸化物等のビスマス系の金属酸化物を用いることが好ましい。
レーザー発色剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
[酸化防止剤]
樹脂組成物は、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤は、ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂とのエステル交換反応を抑制する効果があり、樹脂組成物におけるエステル交換反応による発泡を抑制することが可能となる。また、酸化防止剤により、樹脂組成物より成形されるフィルムなどの成形品の黄変を防止することもできる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などを用いることができる。中でも、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤は、1種単独で使用してもよいが、2種以上を併用してもよい。2種類以上の酸化防止剤を用いることで、成形時の分子量低下や黄変を効果的に抑えることが可能である。また、2種類以上の酸化防止剤を用いることで、成形時の安定性と、成形後における長期安定性とを両立することもできる。
フェノール系酸化防止剤としては、α-トコフェロール、4-メトキシフェノール、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、β-トコフェロール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-4-メトキシフェノール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(ジブチルヒドロキシトルエン、BHT)、プロピオン酸ステアリル-β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)等が挙げられる。中でも、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(ジブチルヒドロキシトルエン、BHT)が好ましい。
リン系酸化防止剤としては、トリス(2,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス〔2,4-ビス(1,1-ジメチルプロピル)フェニル〕ホスファイト、トリス(モノ又はジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、4,4’ -ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニルホスファイト)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン、トリスステアリルホスファイト等のトリスアルキルホスファイト等が挙げられる。中でも、トリスステアリルホスファイト等のトリスアルキルホスファイト等が好ましい。
イオウ系酸化防止剤としては、チオジプロピオン酸、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリル-β,β’-チオジブチレート、チオビス(β-ナフトール)、チオビス(N-フェニル-β-ナフチルアミン、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート等が挙げられる。
樹脂組成物における酸化防止剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.05質量部以上4質量部以下が好ましく、0.07質量部以上3質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上2質量部以下がさらに好ましく、0.15質量部以上1.5質量部以下がよりさらに好ましい。酸化防止剤の含有量を上記下限値以上とすることで、エステル交換反応による発泡、黄変などを効果的に抑制できる。また、上記上限値以下とすると、含有量に見合った効果を発揮することができる。
(その他の成分)
樹脂組成物は、上記以外の樹脂材料に使用される公知の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、熱安定剤、プロセス安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、艶消し剤、加工助剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、抗菌・防かび剤、抗ウイルス剤、帯電防止剤、難燃剤、充填材等が挙げられる。
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分として、ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)のみを使用してもよいが、本発明の趣旨に反しない範囲において、ポリエステル樹脂(A)及びポリカーボネート樹脂(B)以外の樹脂を含有してもよい。そのような樹脂としては、汎用的に使用される公知の樹脂を使用するとよいが、ポリエステル樹脂(A)、及びポリカーボネート樹脂(B)と相溶性のある樹脂を用いることが好ましい。なお、本明細書において、樹脂成分とは、上記した耐衝撃改良剤として使用されるものは除く。
樹脂組成物を構成する樹脂は、ポリエステル樹脂(A)、及びポリカーボネート樹脂(B)を主成分として含有するとよく、ポリエステル樹脂(A)、及びポリカーボネート樹脂(B)の合計含有量は、樹脂組成物に含有される樹脂成分全量に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
(貯蔵弾性率)
本発明の樹脂組成物は、100℃における貯蔵弾性率が1×10Pa以上であることが好ましい。100℃における貯蔵弾性率を1×10Pa以上とすると、加熱したときに変形が生じにくくなり、カードやパスポートを作製する際の作業性が良好となる。また、カードやパスポートに反りが発生しにくくなる。加えて、長期間の使用にも耐え得る耐久性も有しやすくなる。樹脂組成物の100℃における貯蔵弾性率は、1.1×10Pa以上がより好ましく、1.3×10Pa以上がさらに好ましい。
また、貯蔵弾性率は、上限に関しては特に限定されないが、例えば1×1011Pa以下、好ましくは5×1010Pa以下であり、より好ましくは3×1010Pa以下であり、さらに好ましくは1×1010Pa以下である。
貯蔵弾性率は、JIS K7244-4:1999に準拠した動的粘弾性測定から得られる引張貯蔵弾性率の値であり、詳しくは実施例に記載のとおりである。なお、引張貯蔵弾性率を得るための試験片は、樹脂組成物から、例えばプレス成形、押出成形などによりフィルムを作製し、そのフィルムを試験片とするとよい。押出成形などの場合には、延伸しないように作製するとよいが、方向性がある場合は、MDについて測定するとよい。プレス成形などのように方向性がない場合には、一方向のみ測定して、その測定値を貯蔵弾性率とする。なお、MD(Machine Direction)は樹脂の流れ方向であり、TD(transverse direction)はフィルムの面方向に沿うMDに垂直な方向である。
(再生原料)
本発明の樹脂組成物は、再生原料を含有してもよい。再生原料を使用することにより、廃棄物の削減、エネルギー消費量削減など地球環境保護に貢献できる。再生原料は、回収された製品、廃棄物などを、化学反応を伴う化学的再生法により再生された原料であってもよい。また、回収された製品、廃棄物などを、物理的再生法(メカニカルリサイクル)により再生された原料であってもよい。
再生原料としては、上記ポリエステル樹脂(A-1)及びポリエステル樹脂(A-2)の少なくとも一部に再生原料を使用することが好ましく、ポリエステル樹脂(A-1)の少なくとも一部に再生原料を使用することがより好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂(B)の少なくとも一部に再生原料を使用することも好ましい。
なお、再生原料により構成されるポリエステル樹脂(A-1)、ポリエステル樹脂(A-2)、ポリカーボネート樹脂(B)はそれぞれ、再生ポリエステル樹脂(A-1)、再生ポリエステル樹脂(A-2)、再生ポリカーボネート樹脂(B)ともいう。
樹脂組成物における再生ポリエステル樹脂(A-1)、再生ポリエステル樹脂(A-2)、及び再生ポリカーボネート樹脂(B)の合計含有量は、ポリエステル樹脂(A-1)、ポリエステル樹脂(A-2)及びポリカーボネート樹脂(B)の合計量全体に対して、例えば30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。再生原料の含有量は、地球環境保護の観点から、高ければ高いほどよく、100質量%以下であれば特に制限されない。
再生ポリエステル樹脂(A-1)又は再生ポリエステル樹脂(A-2)は、上記の通り化学的再生法により再生されたものであってもよい。具体的には、廃棄などされたポリエステル樹脂を解重合して、得られた中間体又はモノマーから、再度重合してポリエステル樹脂(A-1)又はポリエステル樹脂(A-2)を合成することで得ることができる。
また、再生ポリカーボネート樹脂(B)も、化学的再生法により再生されたものであってもよい。
再生ポリエステル樹脂(A-1)、再生ポリエステル樹脂(A-2)、又は再生ポリカーボネート樹脂(B)は、上記の通り物理的再生法により再生されたものでもよい。具体的には、再生ポリエステル樹脂(A-1)、再生ポリエステル樹脂(A-2)、又は再生ポリカーボネート樹脂(B)は、ポリエステル樹脂製品やポリカーボネート樹脂製品、生産過程で発生する端材などを回収して、必要に応じて選別、洗浄などを行ったうえで、溶融、粉砕などの加工を行い、次いで、造粒、微細化、ペレット化、フレーク化などの加工を適宜行い、粉体、粒状、ペレット、フレーク状などの樹脂組成物の原料として使用できる形態にして再生原料として使用すればよい。
また、再生ポリエステル樹脂(A-1)、再生ポリエステル樹脂(A-2)においては、物理的再生法により再生原料を得る過程において、固相重合などをして、分子量を高めてもよい。すなわち、再生ポリエステル樹脂(A-1)又は再生ポリエステル樹脂(A-2)は、化学反応を伴わない物理的再生法により再生したものであってもよいし、物理的再生法により再生しつつ化学変化により分子量を高めてもよい。
再生ポリエステル樹脂(A-1)又は再生ポリエステル樹脂(A-2)は、生産過程で発生する端材から再生された再生ポリエステル樹脂であることが好ましい。同様に、ポリカーボネート樹脂(B)は、生産過程で発生する端材から再生された再生ポリエステル樹脂であることが好ましい。
生産過程で発生する端材は、原料組成が比較的安定し、また、原料組成が既知であることが多いことから、再生原料として再生しやすい。
なお、生産過程で発生する端材とは、合成されたポリエステル樹脂又はポリカーボネート樹脂が、所定の製品形態(フィルム、シート、繊維、ストランド、ブロック、ペレット、粉体、その他の成形品などのあらゆる製品形態)に加工されるまでの間で発生し、製品として利用されないポリエステル樹脂又はポリカーボネート樹脂である。
樹脂組成物は、カード又はパスポードのいずれかの少なくとも一部に使用する限り特に制限はないが、例えば、後述する通り、カード又はパスポードのコア用シート、レーザーマーキング用シート、保護用シートのいずれに使用することができ、コア用シート又はレーザーマーキング用シートのいずれかに使用することが好ましい。
レーザーマーキング用シートは、カード又はパスポートにレーザーマーキングするために設けられるシートであり、例えば着色剤、レーザー発色剤、又はこれらの両方を含有する樹脂組成物をレーザーマーキング用シートに使用すると、レーザーマーキング用シートへのレーザー印字性を高めやすくなる。
また、コア用シートは、意匠性、隠蔽性の観点などから一般的に着色剤を含有するので、例えば着色剤を含有する樹脂組成物は、コア用シートへの使用が好適である。なお、着色剤を含有する樹脂組成物をコア用シートに使用する場合には、コア用シートにレーザー印字を行うとよいので、カード又はパスポートにおいてレーザーマーキング用シートは設けなくてもよいが、設けてもよい。
さらに、各カード又はパスポードのコア用シート、レーザーマーキング用シート、及び保護用シートは、後述する通り、複数の樹脂層(フィルム)が重ねられて構成されることがあるが、その場合には、複数の樹脂層(フィルム)のうち、少なくとも1つが、上記樹脂組成物により構成されるとよい。
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A-1)、ポリカーボネート樹脂(B)、任意で配合されるポリエステル樹脂(A-2)、着色剤、滑剤、耐衝撃改良剤、レーザー発色剤、酸化防止剤、その他の添加剤などの樹脂組成物を構成する原料を混合して得るとよい。
また、樹脂組成物が再生原料を含有する場合、樹脂組成物に再生原料を配合して、その再生原料を他の原料とともに混合して、樹脂組成物を得るとよい。
原料の混合は、押出機、プラストミルなどにおいて加熱しながら溶融混練して行うとよいが、樹脂組成物を構成する原料をタンブラー等でドライブレンドしたものをそのまま用いてもよい。
溶融混練の温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整されるが、生産性等の観点から、220℃以上であることが好ましく、240℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさら好ましい。また、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、270℃以下であることがさらに好ましい。溶融混練温度がかかる範囲であれば、樹脂の分解や架橋を抑制しつつ、十分に流動させることが容易となる。
<カード又はパスポート用フィルム>
本発明のカード又はパスポート用フィルム(以下、「本フィルム」ということがある)は、上記した樹脂組成物からなるフィルムである。本フィルムの厚みは、特に限定されなく、使用される目的によって適宜調整すればよいが、例えば、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下である。
本フィルムは、単層構造を構成してもよいし、多層構造の積層体のうちの1つの層を構成してもよい。多層構造の積層体においては、1つの層のみが、本フィルムから構成されていてもよいが、2以上の層が本発明フィルムから構成されていてもよい。
なお、カード又はパスポートは、後述する通り、一般的に複数の樹脂層が重ねられて構成されるが、本フィルムは、そのうちの少なくとも1つを構成するとよい。
(加熱伸縮率)
本フィルムは、110℃で10分間加熱処理した際の以下の式で表される加熱伸縮率が、-1.7%以上であることが好ましい。なお、加熱伸縮率は、測定サンプルに標準線を付けて、加熱処理前後の標準線の間隔を測定して算出するとよい。
加熱伸縮率(%)=[加熱処理後の標準線間隔-加熱処理前の標準線間隔]/加熱処理前の標準線間隔×100
加熱伸縮率は、加熱により収縮した際にマイナスの値となり、加熱により伸長した際にはプラスの値となる。一般的に樹脂フィルムは、加熱により収縮するので、本フィルムの加熱伸縮率は、通常マイナスの値となるが、その絶対値は低い方が加熱した際の収縮が少ないことを表す。したがって、110℃で10分間加熱処理した際の本フィルムの加熱伸縮率を上記の通り-1.7%以上とすると、カード又はパスポートを作製する際の寸法変化が小さくなり、作業性の低下や反りの発生を防止できる。
これら観点から、110℃で10分間加熱処理した際の加熱伸縮率は-1.4%以上がより好ましく、-1.0%以上がさらに好ましく、-0.8%以上がよりさらに好ましく、-0.5%以上がよりさらに好ましく、-0.3%以上がよりさらに好ましい。一方で、加熱伸縮率は、上記のとおり0%に近いほうがよく、したがって、110℃で10分間加熱処理した際の加熱伸縮率の上限は一般的に0%である。
本フィルムは、140℃で10分間加熱処理した際の上記の式で表される加熱伸縮率が、-3.5%以上であることが好ましい。本フィルムの140℃で10分間加熱処理した際の加熱伸縮率を-3.5%以上とすると、カード又はパスポートを作製する際により一層反りが発生しにくくなり、作業性も向上する。140℃で10分間加熱処理した際の加熱収縮率は、-3%以上がより好ましく、-2%以上がより好ましく、-1.5%以上がさらに好ましく、-1.2%以上がよりさらに好ましい。
なお、以上述べた加熱伸縮率は、フィルムの面方向の一方向と、その一方向に垂直な方向の2方向について測定を行い、低い方の値(すなわち、熱収縮が大きいほうの値)を採用するとよいが、MD、TDの方向が判明している場合には、MD、TDの2方向について加熱伸縮率を測定するとよい。
(カード又はパスポート用フィルムの製造方法)
カード又はパスポート用フィルム(本フィルム)は、公知の方法で製造できるが、本フィルムを形成するための樹脂組成物を上記の通りに得て、その樹脂組成物をフィルム状にするとよい。樹脂組成物をフィルム状にする方法は、特に限定されないが、プレス成形などでもよいし、押出成形などでもよいが、生産性、コストの面からは押出成形が好ましい。
また、本フィルムによって多層構造の積層体を形成する場合には、公知のラミネート法により複数の樹脂フィルムを積層して形成してもよいし、樹脂フィルムの上に、別の樹脂層を形成するための樹脂組成物を溶融押し出して積層してもよい。また、共押出により多層構造としてもよい。
<カード及びパスポート>
本発明のカードは、上記した本フィルムを備えるものである。また、本発明のパスポートは、上記した本フィルムを備えるものである。
カードとしては、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、クレジットカード、ETCカード、SIMカード、B-CASカードなどが挙げられる。
カード又はパスポートは、コア用シートを備えるとよい。また、カード又はパスポートは、コア用シートに加えて、レーザーマーキング用シート及び保護用シートの一方又は両方を備えてもよい。
(カード)
以下、カードの好ましい層構成についてより詳細に説明する。カードは、好ましくはコア用シートの両方の面にレーザーマーキング用シートを積層する。具体的には、図1(a)に示した、レーザーマーキング用シート1/コア用シート2/レーザーマーキング用シート1からなるカード20A、または、図1(b)に示した、保護用シート4/レーザーマーキング用シート1/コア用シート2/レーザーマーキング用シート1/保護用シート4からなるカード20Bが好ましい。また、レーザーマーキング用シート1は省略してもよく、図1(c)に示した、保護用シート4/コア用シート2/保護用シート4からなるカード20Cであってもよい。
また、各カード20A~20Cにおいて、コア用シート2の両面それぞれに設けられる層構造は、互いに同じであったが、各面上においては互いに異なっていてもよい。例えば、コア用シート2の一方の面にレーザーマーキング用シート1と、保護用シート4がこの順に設けられ、コア用シート2の他方の面に保護用シート4のみが設けられてもよい。
レーザーマーキング用シート1は、単層の樹脂層からなってもよいが、複数の樹脂層からなる多層構造の積層体であることが好ましい。レーザーマーキング用シート1は、レーザー発色剤を含有する樹脂層を含むことが好ましく、単層の樹脂層からなる場合、その1つの樹脂層がレーザー発色剤を含有するとよい。また、多層構造の場合、複数の樹脂層のうち1つ以上の樹脂層がレーザー発色剤を含有するとよい。
コア用シート2は、通常、単層の樹脂層からなるものであるが、複数の樹脂層かなるものでよい。コア用シートの厚さは例えば400~700μm程度である。また、コア用シートは、着色剤を適宜含有させた着色シートであることが好ましい。コア用シートに使用される着色剤の具体例は上記の通りである。
レーザーマーキング用シートの最表面、或いは、レーザーマーキング用シートが省略される場合にはコア用シートの最表面には、昇華型熱転写受像層が設けられてもよい。レーザーマーキング用シート及びコア用シートにおいて、昇華型熱転写受像層は、視認側となる表側の表面に設けられるとよい、したがって、レーザーマーキング用シートに設けられた昇華型熱転写受像層は、コア用シートとは反対側に設けられるとよい。後述するパスポートでも同様である。
昇華型熱転写受像層は従来公知のものを使用することができる。例えば、色材を転写または染着し易い樹脂を主成分とするワニスに、必要に応じて、離型剤、安定剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を加えて構成される。
昇華型熱転写受像層に用いる染着し易い樹脂は、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル等のビニル系樹脂、及びこれらの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ボリアミド系樹脂、エチレンやプロピレン等のオレフィンと他のビニル系モノマーとの共重合体、アイオノマー、セルロース誘導体等の単体、又は混合物を用いることができ、これらの中でもポリエステル系樹脂、及び、ビニル系樹脂が好ましい。
昇華型熱転写受像層は、上述の樹脂を有機溶剤や水などの溶媒に溶解分散して塗布することによりを形成することができる。
保護用シートは、カードを保護するために積層される。保護用シートは、単層の樹脂層からなってもよいし、複数の樹脂層からなり多層構造の積層体であってもよい。保護用シートは、オーバーシートとも呼ばれるものであり、一般的にはカードの最外層を構成する。
保護用シートは、レーザーマーキング用シート1の外側に積層される場合には、レーザー光照射によってレーザー印字部分が発泡する、いわゆる「膨れ」を抑制する。
カードは、コア用シート、レーザーマーキング用シート及び保護用シートが、上記した層構造となるように、適宜重ね合わされてプレスして加熱融着させた後、打ち抜き加工などがなされて製造されるとよい。また、加熱融着の代わりに適宜接着剤などを使用して、シート同士を接着させてもよい。
(パスポート)
次に、パスポートの好ましい層構成についてより詳細に説明する。パスポートしては、ICチップを搭載した所謂電子パスポートに本フィルムが好ましく用いられるが、特にデータページをプラスチック化する場合は、ヒンジシートと、ヒンジシートの両面それぞれに設けられたコア用シートとを備え、そのコア用シートの表面にさらにレーザーマーキング用シートが積層されることが好ましい。また、パスポートは、保護用シートを備え、レーザーマーキング用シートの表面にはレーザーマーキング用シートを保護するために、保護用シートがさらに積層されることが好ましい。具体的には、図2(a)に示した、レーザーマーキング用シート1/コア用シート2/ヒンジシート3/コア用シート2/レーザーマーキング用シート1からなるパスポート10A、または、図2(b)に示した、保護用シート4/レーザーマーキング用シート1/コア用シート2/ヒンジシート3/コア用シート2/レーザーマーキング用シート1/保護用シート4からなるパスポート10Bが好ましい。また、レーザーマーキング用シート1は省略してもよく、図2(c)に示した、保護用シート4/コア用シート2/ヒンジシート3/コア用シート2/保護用シート4からなるカード10Cであってもよい。
また、各パスポート10A、10B、10Cにおいて、ヒンジシート3の両面それぞれにおける層構成は、互いに同じであったが、各面上においては互いに異なっていてもよい。例えば、ヒンジシート3の一方の面にコア用シート2、レーザーマーキング用シート1、及び保護用シート4がこの順に設けられる一方で、ヒンジシート3の他方の面にコア用シート2及びマーキング用シート1がこの順に設けられ、保護用シート4が省略されるとよい。
パスポートは、上記カードで説明したとおり、昇華型熱転写受像層を備えてもよい。また、パスポートは、ICチップ等の記憶媒体に各種の情報を記憶させて配設したシート、いわゆるインレットシートを有してもよい。インレットシートは、例えばヒンジシートと、コア用シートの間に設けるとよい。
ヒンジシートは、記録層、コア用シート、インレットシートなどを保持し、パスポートの表紙と他のビザシート等と一体に堅固に綴じるための役割を担うシートである。そのため、堅固な加熱融着性、適度な柔軟性、加熱融着工程での耐熱性等を有するものが好ましい。
ヒンジシートは、公知のものが使用可能であり、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどの熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどにより構成される樹脂シートであってもよいし、織物、編物、または不織布などで構成されてもよいし、織物、編物、または不織布と、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどとの複合材料であってもよい。また、パスポートにおけるコア用シートは、厚さ50~200μmであることが好ましい以外は、上記と同様である。また、パスポートにおける保護用シートは上記で説明したとおりである。
パスポートにおいても、コア用シート、レーザーマーキング用シート及び保護用シートは、上記した層構造となるように、適宜重ね合わされたうえでプレスして加熱融着させるとよい。また、加熱融着の代わりに接着剤によりシート同士が接着されてもよい。
カード又はパスポートは、カード又はパスポートに設けられた、コア用シート、レーザーマーキング用シート及び保護用シートの少なくとも1つが上記した本フィルムを備えるとよい。これらシートの少なくともいずれかが本フィルムを備えることで、シート同士を低温で融着させることが容易となる。また、加熱された際に寸法変化が少ないことから、カード又はパスポートを製造する際の作業性が高くなり、カード又はパスポートに反りが生じることも防止できる。
また、本フィルムは、上記の通りレーザーマーキング用シート及びコア用シートのいずれかに設けられることが好ましく、例えば図1(a)、(b)又は図2(a)、(b)に示す構成においては、コア用シート2及びレーザーマーキング用シート1のいずれかに本フィルムを設けることがより好ましい。また、本発明の樹脂組成物が着色剤を含有する場合には、レーザーマーキング用シート1に本フィルムを設けることが好ましい。また、図1(c)又は図2(c)に示す構成においては、コア用シート2に本フィルムを設けることが好ましい。
カード又はパスポートにおいて、コア用シート、レーザーマーキング用シート及び保護用シートは、上記の通り多層構造を有する場合があるが、その場合には少なくとも1層が上記本フィルムからなるとよい。また、本フィルムは、各シートにおいて最外層に配置されるとよい。本フィルムが最外層に配置されたシートは、本フィルムを介して他のシートに積層されることになるので、低温加熱でも確実に他のシートに融着させることができる。
なお、カード又はパスポートは、コア用シート、レーザーマーキング用シート及び保護用シートを構成する少なくとも1つの樹脂層が本フィルムより形成されればよく、他の樹脂層は、本フィルムにより形成されなくてもよい。そのような場合の他の樹脂層に用いられる樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば特に制限はないが、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、又はこれらの混合物などが挙げられる。
以下、実施例および比較例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものでは無い。
評価方法及び測定方法は、以下のとおりである。
(1)低温融着性
圧縮成形機「NF-37」(神藤金属工業所社製)を用いて、各実施例、比較例で得られたフィルム(大きさ100mm×300mm)同士を重ねてステンレス板で挟んで、プレス圧力1.5MPa、プレス時間5分、その後の冷却を室温に下がるまで約5分間行い、熱融着させた。その後、ステンレス板から融着したフィルムを取り出し、フィルム同士を引き剥がして、フィルムが剥離不可であるかどうか(材料破壊するかどうか)を確認した。プレス時の加熱温度は10℃刻みで上げていき、剥離不可のもの(材料破壊したもの)を融着していると判断し、融着した最低温度(材料破壊温度)を求めた。この材料破壊温度は、フィルムが適切に融着する温度であり、低いほど低温融着性に優れていることを示す。
(2)耐溶剤性
室温環境下で、溶剤を入れたシャーレに各実施例、比較例のフィルム片を1分間浸し、外観を目視確認して、以下の評価基準で評価した。本試験は、溶剤として酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)それぞれを使用して実施した。「OK」のものは、実製品としての使用に問題ないレベルであると推測される。
OK:30秒から1分の間に白濁する
NG:30秒以内に、溶解する
(3)ガラス転移温度(Tg)
使用した各樹脂について、粘弾性スペクトロメーター「DVA-200」(アイティー計測制御株式会社製)を用い、JIS K7244-4:1999に準拠して、歪み0.07%、周波数1Hz、昇温速度3℃/分、引張モードにて動的粘弾性の温度分散測定を行った。そして損失弾性率のピークトップの温度をガラス転移温度とした。
(4)貯蔵弾性率
各実施例、比較例で得られたフィルムから4mm×25mmの試験片(厚み100μm)を切り出し、測定試料として得た。その測定試料を用いて、JIS K7244-4:1999に準拠して、粘弾性スペクトロメーター「DVA-200(アイティー計測制御株式会社製)」を用い、周波数1Hz、歪み0.07%、-100~180℃の間を昇温速度3℃/分で昇温させ、100℃における引張貯蔵弾性率をMDについて測定した。
(5)加熱伸縮率
各実施例、比較例で得られたフィルムから大きさ120mm×120mmの試験片を切り出し、得られた試験片の中央に大きさ100mm×100mmの標準線を付け、110℃又は140℃のオーブンで10分間加熱処理を施し、処理前後のMD及びTDのそれぞれの標準線間隔から、下記式を用いて算出した。なお、標準線間隔の測定は、標準線の中央で行った。
加熱伸縮率(%)=[加熱処理後の標準線間隔(mm)-100(mm)]/100(mm)×100
フィルムは、加熱伸縮率が0の値に近いほど、耐熱性が優れているといえる。
実施例、比較例で使用した原料は、以下の通りである。
(ポリエステル樹脂)
PCTG:テレフタル酸からなるジカルボン酸と、エチレングリコール(EG)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-CHDM)、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(TMCD)からなるジヒドロキシ化合物との共重合ポリエステル樹脂(非晶性)、ジヒドロキシ化合物(EG=8モル%、1,4-CHDM=74モル%、TMCD=18モル%)、端材より再生された再生ポリエステル樹脂、ガラス転移温度(Tg)=100℃
PETG:テレフタル酸からなるジカルボン酸成分と、EGと1,4-CHDMからなるジヒドロキシ化合物との共重合ポリエステル樹脂(非晶性)、ジヒドロキシ化合物(EG=70モル%、1,4-CHDM=30モル%)、ガラス転移温度(Tg)=78℃
(ポリカーボネート樹脂)
PC1:住化ポリカーボネート社製「カリバー301-4」、メルトフローレート(300℃、1.2kgf)=4g/分(カタログ値)、ガラス転移温度(Tg)=150℃
PC2:ビスフェノールA系ホモポリカーボネート、メルトフローレート(300℃、1.2kgf)=20g/分、端材より再生された再生ポリカーボネート樹脂、ガラス転移温度(Tg)=150℃
(着色剤)
酸化チタン
(滑剤)
ポリエチレングリコール(数平均分子量3000):ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム=2:1(質量比)
(耐衝撃改良剤)
耐衝撃改良剤:コア・シェル型エラストマー、三菱ケミカル社製「メタブレン S-2001」、コア:シリコーン・アクリル複合ゴム
(酸化防止剤)
酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤(ジブチルヒドロキシトルエン(BHT):リン系酸化防止剤(トリスステアリルホスファイト)=1:1(質量比)
[実施例1~3、比較例1、3、4]
表1に記載の配合に従い樹脂、又は樹脂及び添加剤を二軸押出機に投入して混練して、二軸押出機を用いて270℃で樹脂組成物を押出し、厚み100μmのフィルムを得た。
[比較例2]
配合を表1の通りに変更し、かつ押出温度を270℃から250℃に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
Figure 2022182828000001
表1に記載の通り、実施例1~3の樹脂組成物は、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、かつガラス転移温度が90℃以上であるポリエステル樹脂(A-1)を含有することで、低温融着性が良好であり、さらに、耐溶剤性も良好であった。また、ポリエステル樹脂(A-1)に加えてポリカーボネート樹脂(B)を含有することで、100℃における貯蔵弾性率が高く、耐熱性が優れたものであったため、110℃及び140℃に加熱した際の加熱伸縮率が0%に近い低い値になった。そのため、本樹脂組成物を使用して、カード又はパスポートを製造する際、熱加工時のサイズ変化が小さくなり、作業性が高く、かつ反りの発生を抑制できることが理解できる。
それに対して、比較例1の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(B)を含有するものの、ポリエステル樹脂(A-1)を含有しないため、耐熱性が良好となるものの、低温融着性及び耐溶剤性を良好にできなかった。また、比較例2の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(B)及びポリエステル樹脂(A-1)の両方を含有しないため、耐熱性及び耐溶剤性の両方を良好にすることができなかった。
なお、比較例2は、ガラス転移温度が90℃未満のポリエステル樹脂(A-2)を使用することで低温融着性に優れており、比較例2のフィルム同士を低温で融着させると、サイズ変化が抑えられ、作業性は良好になるが、耐熱性が低いカードやパスポートしか得られなくなる。一方で、比較例2のフィルムを、耐熱性が高いフィルム(例えば、ポリカーボネートフィルム)に融着させ、カード又はパスポートの耐熱性を高めようとすると、融着温度を高くする必要があるが、融着温度が高いと、比較例2のフィルムにサイズ変化が生じて、作業性が低下し、また、反りが発生したりすることになる。すなわち、比較例2の樹脂組成物を使用すると、他のフィルムと組み合わせても本発明の効果を発揮することが難しいことが理解できる。
比較例3、4の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と、ポリカーボネート樹脂(B)を含有するが、ポリエステル樹脂(A)として、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、かつガラス転移温度が90℃以上である、ポリエステル樹脂(A-1)を使用しなかった。そのため、耐溶剤性、又は耐溶剤性及び耐熱性が良好にならなかった。
1 レーザーマーキング用シート
2 コア用シート
3 ヒンジシート
4 保護用シート
20A、20B、20C カード
10A、10B、10C パスポート

Claims (12)

  1. ポリエステル樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(B)とを含む樹脂成分を含有する樹脂組成物であって、
    該ポリエステル樹脂(A-1)が鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、
    該ポリエステル樹脂(A-1)のガラス転移温度が90℃以上である、カード又はパスポート用樹脂組成物。
  2. 100℃における貯蔵弾性率が1×10Pa以上である、請求項1に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
  3. 前記ポリエステル樹脂(A-1)が脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、請求項1又は2に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
  4. 前記ポリエステル樹脂(A-1)が、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含み、鎖式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位及び脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の合計100モル%中、前記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合が65モル%超である、請求項3に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
  5. 前記ポリエステル樹脂(A-1)が、エチレングリコールに由来する構造単位及びシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
  6. 前記ポリエステル樹脂(A-1)が、エチレングリコールに由来する構造単位、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位、及びテトラメチルシクロブタンジオールに由来する構造単位を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
  7. 前記ポリエステル樹脂(A-1)と前記ポリカーボネート樹脂(B)の含有割合((A-1)/(B))が、質量比で3/97以上97/3以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
  8. 再生原料を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のカード又はパスポート用樹脂組成物。
  9. 請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなるカード又はパスポート用フィルム。
  10. 請求項9に記載のフィルムを備える、カード。
  11. 請求項10に記載のフィルムを備える、パスポート。
  12. 請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、前記樹脂組成物に再生原料を配合する、樹脂組成物の製造方法。

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