JP2022173834A - 人工ウイルスキャプシド - Google Patents

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Abstract

【課題】特異的な標的指向化能力を有する人工ウイルスキャプシドを提供する。【解決手段】トマトブッシースタントウイルスのβ-アニュラスペプチドと、β-アニュラスペプチドのC末端側に連結された、40ヌクレオチド以上の長さを有する核酸アプタマーとを含有するサブユニットを含む、複数のサブユニットの自己集合によって形成されている、核酸アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシド。【選択図】図1

Description

本開示は、薬物送達担体の分野に関する。より具体的には、本開示は人工ウイルスキャプシドに関する。
天然の球状(多面体状を含む)のウイルスの殻すなわちキャプシドは、ウイルスの種類に応じて約20~100nmの画一的なサイズを有するタンパク質ナノカプセルであり、ウイルスの遺伝物質を外部から保護する役割を果たす。ウイルスキャプシドは典型的には、多数の(例えば約60個の)同じタンパク質サブユニットが規則正しく会合することによって形成される。
天然のウイルスキャプシドは、内部空洞にウイルスゲノム以外にも様々な被送達物質を内包させることができ、ウイルスキャプシド自体の形状およびサイズの画一性、ならびに細胞内への導入効率の高さから、低分子医薬、核酸医薬、タンパク質医薬等のためのデリバリー材料またはワクチン材料としての利用可能性が近年注目されてきている。しかし、天然のウイルスキャプシドは、通常は調製のために生きた細胞を必要とすること、キャプシド構造を設計により改変または修飾することが難しいこと、および潜在的な毒性のためにしばしば重大な副作用をもたらすことといった問題を有しており、薬物キャリアーとして使用するのは難しいとされている。この目的でウイルスキャプシドに代わり得るものとして、高分子ミセルなどのドラッグデリバリーシステム(DDS)用人工キャリアーが開発されてきているが、これらはウイルスキャプシドと同等の利点を有しているとは限らず、例えば導入効率が十分でないなどの問題点が残されている。
本願の発明者はこれまで、トマトブッシースタントウイルスのキャプシドの正12面体内部骨格を形成するタンパク質に由来するβ-アニュラス(Annulus)ペプチドを、インビトロで自己集合させることにより、球状の人工ウイルスキャプシドを創製することに成功してきた(非特許文献1~4)。β-アニュラスペプチドは、388アミノ酸からなるキャプシドタンパク質の一部分に相当する、24アミノ酸長の最小単位であるペプチドである。β-アニュラスペプチドは、水中で自発的に自己集合して、直径約30~50nmの球状かつ中空のナノカプセルすなわち人工ウイルスキャプシドを形成する。このナノカプセルにおいて、β-アニュラスペプチドは、N末端を中空カプセルの内側へ、C末端を中空カプセルの外側へ向けている。この人工ウイルスキャプシドに、(遊離分子の形態でまたはβ-アニュラスペプチドのN末端と結合もしくは相互作用する形態で)様々な物質を封入できることが実証されてきた。このような封入物質はゲスト(guests)とも呼ばれるが、ゲストの種類によっては、人工ウイルスキャプシドの直径が多少拡大され得る。また、β-アニュラスペプチドのC末端付近に、金ナノ粒子、20ヌクレオチド長の一本鎖DNA、コイルドコイル形成ペプチド、ヒト血清アルブミン、リボヌクレアーゼS等の分子を連結させることにより、外表面がこれらの分子で修飾された人工ウイルスキャプシドを形成できることも実証されてきた。
特に非特許文献4は、β-アニュラスペプチドのC末端から2番目の位置のグリシンを置換したシステイン残基に20ヌクレオチド長の一本鎖DNA(ポリデオキシアデノシン(dA20)またはポリデオキシチミジン(dT20))を連結させたものを、インビトロで自己集合させることによって、DNA修飾人工ウイルスキャプシドを形成したことを記載している。
Chem. Commun., 2018, 54, 8944 Bioconjugate Chem. 2019, 30, 1636-1641 J. Org. Chem. 2020, 85, 1668-1673 J Pept Sci. 2017 Jul;23(7-8):636-643
本開示の実施形態は、特異的な標的指向化能力を有する人工ウイルスキャプシドを提供するものである。
本発明者らは、40ヌクレオチド以上の長さを有する核酸アプタマーを、β-アニュラスペプチドのC末端側に連結させて、それを高い均一性を有する人工ウイルスキャプシドへと自己集合させることが可能であること、そしてそのようにして作製された修飾人工ウイルスキャプシドは、アプタマー部分を介して効率的に特異的送達(例えば特異的標的細胞の内部への導入)をすることができることを見出した。
非特許文献4は、20ヌクレオチド長のポリデオキシアデノシン(dA20)またはポリデオキシチミジン(dT20)を、β-アニュラスペプチドのC末端から2番目のグリシンを置換したシステイン残基に連結させたことを記載していたが、本願の実施形態で用いられる核酸アプタマーはその2倍以上の長さを有する核酸であり著しく大きな負電荷を有するものである。そのような長い核酸同士の間で推定される強い負電荷反発の存在にも関わらず人工ウイルスキャプシドを自己集合させることができるのは、予測できなかった発見であった。また本開示の実施形態は、人工ウイルスキャプシドの細胞特異的送達を初めて実現し実証するものである。
本開示は少なくとも以下の実施形態を含む。
[1]
トマトブッシースタントウイルスのβ-アニュラスペプチドと、
前記β-アニュラスペプチドのC末端側に連結された、40ヌクレオチド以上の長さを有する核酸アプタマーと
を含有するサブユニットを含む、複数のサブユニットの自己集合によって形成されている、
核酸アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシド。
[2]
前記核酸アプタマーは、配列番号2~9のいずれかの配列を有する核酸アプタマーである、[1]に記載の人工ウイルスキャプシド。
[3]
前記β-アニュラスペプチドは、システインまたはシステイン残基含有ペプチドがC末端側に連結されており、前記核酸アプタマーは、そのシステインに由来する第1のチオール基を介して前記β-アニュラスペプチドに連結されている、[1]または[2]に記載の人工ウイルスキャプシド。
[4]
前記核酸アプタマーは、5’末端にアミノ基または第2のチオール基を有する合成核酸アプタマーであり、前記β-アニュラスペプチドおよび前記核酸アプタマーは、前記第1のチオール基と前記アミノ基または前記第2のチオール基との間を繋げるリンカーによって連結されている、[3]に記載の人工ウイルスキャプシド。
[5]
前記サブユニットと混在する、前記核酸アプタマーが連結されていないβ-アニュラスペプチドを含有するサブユニットをさらに含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の人工ウイルスキャプシド。
[6]
[1]~[5]のいずれか一項に記載の人工ウイルスキャプシドを含む、医薬組成物。
[7]
[1]~[5]のいずれか一項に記載の人工ウイルスキャプシドを含む、薬物送達用キャリアー組成物。
[8]
薬物をがん細胞に送達するための、[7]に記載の組成物。
[9]
前記がん細胞はリンパ腫である、[8]に記載の組成物。
核酸アプタマーの技術は、ランダム配列のライブラリーの中から意図する標的に特異的に結合する核酸分子を選抜・単離し利用する技術であるが、40ヌクレオチド以上の長さの核酸アプタマーを利用することができれば、特異的標的の選択肢が指数関数的に著しく多くなる。本開示の実施形態によれば、40ヌクレオチド以上の長さを有するきわめて多様な核酸アプタマーの選択肢を利用して、人工ウイルスキャプシドに標的特異性を付与することができる。天然ウイルスキャプシドと比べて人工ウイルスキャプシドはインビトロで簡便に会合させることができ内包薬剤送達のためのデリバリー材料またはワクチン材料としての利用可能性が高いところ、それに任意の標的特異性を付与することができる本開示の実施形態は、従来の薬剤送達手段よりも著しく有利となりドラッグデリバリーシステム(DDS)の分野におけるブレークスルーとなり得るものである。特に本開示の実施形態によれば、人工ウイルスキャプシドに封入した被送達薬剤を、がん細胞のような特異的標的細胞に、あるいは特異的標的細胞の内部に、効率よく送達することができる。
図1(a)は、核酸アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシドの動的光散乱(DLS)粒度分布測定の結果を示す。50μM、25μM、または5μMの濃度のアプタマー修飾β-アニュラスペプチドを自己集合させて人工ウイルスキャプシドを調製した。図1(b)は、(a)に対応する試料のTEM画像を示す。各パネルの右上にキャプシドの状態の推定模式図を示している。 図2は、核酸アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシド(aおよびcの「β-Annulus-TE02」、ならびにb)、核酸アプタマーを有さない人工ウイルスキャプシド(「β-Annulus-GGGCG」)、および核酸アプタマー単独(「TE02」)の円偏光二色性(CD)スペクトル測定結果を示す。 図3は、TE02アプタマーを表面提示し蛍光色素TAMRAを内包した人工ウイルスキャプシド(上)、または、TE02アプタマーを有さず蛍光色素TAMRAを内包した人工ウイルスキャプシド(下)を、リンパ腫細胞と混合した後、個々の細胞における蛍光シグナルを検出した共焦点レーザー蛍光顕微鏡画像を示す。
一側面において本開示は、トマトブッシースタント(TBSV)ウイルスのβ-アニュラスペプチドと、そのβ-アニュラスペプチドのC末端側に連結された40ヌクレオチド以上の長さを有する核酸アプタマーとを含有するサブユニットを含む、複数のサブユニットの自己集合によって形成された、核酸アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシドを提供する。換言すると、この人工ウイルスキャプシドは、外表面に核酸アプタマー修飾を有する人工ウイルスキャプシドである。
TBSVウイルスのβ-アニュラスペプチド(以下、単に「β-アニュラスペプチド」という)は公知であり、非特許文献1に総説されている。β-アニュラスペプチドは、INHVGGTGGAIMAPVAVTRQLVGS(配列番号1)というアミノ酸配列からなり、これは水中での自己集合により人工ウイルスキャプシドを形成できる最小単位である。本実施形態において、核酸アプタマーは、β-アニュラスペプチドのC末端側に連結されるが、これは上記配列のC末端のS残基に核酸アプタマーが直接連結あるいは結合していることは必ずしも意味しない。例えば、上記配列のC末端にさらなるアミノ酸(複数可)が追加されておりその追加のアミノ酸のいずれかに核酸アプタマーが連結されていてもよい。上記配列のC末端に、または上記追加のアミノ酸のいずれかに、アミノ酸/ペプチド以外のリンカーの一端が結合して、そのリンカーの他端に核酸アプタマーが連結されていてもよい。つまりC末端側に連結されるとは、配列番号1のC末端そのものへの連結またはC末端に追加された部分への連結を意味し得る。リンカー結合のために有用な官能基またはリンカーそのものをC末端に有するようにペプチドを合成することは、当業者の技量の範囲内である。
配列番号1のC末端および/またはN末端にさらなるアミノ酸配列が追加されても人工ウイルスキャプシドを形成できることは過去の研究で証明されている。本開示の実施形態において、配列番号1のC末端に例えば1~20残基、1~10残基、または1~5残基のアミノ酸が追加されていてもよい。本開示の実施形態において、配列番号1のN末端に例えば1~20残基、1~10残基、または1~5残基のアミノ酸が追加されていてもよい。これらはいずれも、24残基からなるβ-アニュラスペプチドそのものを含有していると解される。N末端側の追加のペプチドは、被封入物質と相互作用または結合させて被封入物質のキャプシド内封入を促進させるために有用となり得る。
本実施形態における「サブユニット」とは、自己集合により人工ウイルスキャプシドを形成する単位分子である。各サブユニットは少なくともβ-アニュラスペプチドを含有する。しかしながら、1つの人工ウイルスキャプシドに自己集合する複数のサブユニットが互いに完全同一であるとは限らず、例えば、核酸アプタマーで修飾されたサブユニットと、核酸アプタマーを有さないサブユニットとが混在する態様も企図される。核酸アプタマーで修飾されたサブユニットからなる複数のサブユニットの自己集合によって形成されている人工ウイルスキャプシドも企図される。自己集合とは、非特許文献1~4に記述されているように、水中または水溶液中で複数のβ-アニュラスペプチド含有サブユニットが自発的に組み合わさって略球状の人工ウイルスキャプシドを形成する事象、およびそのように形成される構造を表す。自己集合により形成された個々の人工ウイルスキャプシドの直径(DLS(動的光散乱法)により測定される)は、ゲストの有無および種類によっても変動し得るが、典型的に30~100nmである。1つの人工ウイルスキャプシドは約60個のサブユニットを含むと推定される。自己集合させる際の水溶液のpHは典型的には5~9であり、例えば6~8、または6.5~7.5であり得る。自己集合させる際のサブユニットの濃度は例えば1~50μM、3~40μM、または5~30μMであり得る。
核酸アプタマーを表面提示するとは、人工ウイルスキャプシドに結合した核酸アプタマーが人工ウイルスキャプシドの外表面に露出されていることを意味する。本来的に中空ナノカプセルである、β-アニュラスペプチドの人工ウイルスキャプシドでは、β-アニュラスペプチドのC末端がナノカプセルの外側に向く。従って本実施形態では、β-アニュラスペプチドのC末端側に核酸アプタマーを連結することにより、表面提示が達成される。
核酸アプタマーとは、当業者に理解されるように、標的物質に特異的結合をすることができる核酸分子を意味する。核酸アプタマーの技術自体は当業者によく知られている。核酸アプタマーは、ランダム配列のライブラリーから出発して、標的物質に対する結合能について繰り返しスクリーニングする手順(SELEX:Systematic evolution of ligands by exponential enrichmentと呼ばれる)によって選抜された核酸分子、またはそのように選抜された核酸分子の配列を一部修正(例えば切り詰めおよび/または化学修飾)して得られた核酸分子である。核酸アプタマーはマイクロモーラー未満(好ましくは100ナノモーラー未満、より好ましくは10ナノモーラー未満)の解離定数値Kdで表される高い結合親和性で標的物質に特異的に結合することができる。アプタマーは、所望の標的物質に対して結合するものとして取得または作製されるものであるから、必然的に、それぞれのアプタマーには特異的な標的が知られている。従って、当業者は核酸アプタマーを明確に認識することができるだけでなく、それに対応する標的も認識することができる。ただし、例えば特定の細胞を標的として選抜された核酸アプタマーについては、そのアプタマーがその細胞のどの分子に結合しているかという、分子レベルでの標的同定まではされていないこともあり得る。
本開示において、アプタマーまたは人工ウイルスキャプシドが標的に結合または指向化することを記述する文脈で用いられる「特異的」という用語は、アプタマーまたは人工ウイルスキャプシドが特定の一物質、または、共通もしくは類似の構造を有する特定の複数の物質に非ランダム的に結合または指向化することを意味する。当業者に理解されるように、核酸アプタマーによる標的物質への特異的結合(ドッキング)は、相補的核酸へのハイブリダイゼーションとは異なり、核酸アプタマーの特異的標的は通常は非核酸物質である。ただし、核酸性物質にハイブリダイゼーション以外の態様で結合(ドッキング)をする核酸アプタマーも排除されない。
核酸アプタマーはDNA、RNA、またはそれらの組合せであり得、例えば一本鎖DNA、一本鎖RNA、またはそれらの組合せであり得る。核酸アプタマーという用語には、当業者に知られる1種類以上の核酸修飾または非天然核酸部分(非天然骨格部分および非天然糖部分等)を含むものも包含される。例えばヌクレアーゼ耐性その他の目的でアプタマー中に使用することができる様々な核酸修飾および非天然核酸部分が知られている(Zhou et al., Nat Rev Drug Discov, 2017, 16(3): 181-202)。その例としては2’-フルオロ化、2’-アミノ化、2’-O-メチル化、逆方向(inverted)チミジンによる3’修飾、ホスホロチオエート、LNA、およびポリエチレングリコール(PEG)修飾が挙げられるがこれらに限定されない。
10ヌクレオチド以下の長さの核酸アプタマーも存在するが、本実施形態における核酸アプタマーは特に、40ヌクレオチド以上の長さを有するもの、すなわち40残基以上のヌクレオチドを含む核酸アプタマーである。核酸アプタマーの長さは典型的に200ヌクレオチド以下、より典型的には100ヌクレオチド以下、または60ヌクレオチド以下であるが、これらより長い場合もあり得る。40ヌクレオチド長以上であれば、例えば20ヌクレオチド長以下の場合と比べて、SELEXライブラリーの複雑度が格段に向上するため、特異的標的の選択肢の多様性が著しく増加する。一方、ポリアニオンである核酸が40ヌクレオチド長以上の長さになると負電荷が著しく大きくなる。本発明者らは、そのような大きな負電荷による強い相互反発にも関わらず、驚くべきことに、40ヌクレオチド長以上の長さの核酸アプタマーでC末端側を修飾されたβ-アニュラスペプチドが人工ウイルスキャプシドへと自己集合でき、むしろその自己集合は非修飾β-アニュラスペプチドの場合よりも促進さえされ得ることを見出した。
本開示の特定の実施形態において、核酸アプタマーは、配列番号2~9のいずれか一つの配列を有する核酸アプタマーである。配列番号2~9は、B細胞リンパ腫であるRamos細胞に結合するという指標に基づいてTang et al., Anal. Chem. 2007, 79, 4900-4907によって単離・同定された核酸アプタマーの配列であり、これらの核酸アプタマーはB細胞および/またはT細胞由来のリンパ腫に高い親和性および選択性をもって結合する。本発明者らは、これらの核酸アプタマーを表面提示する本実施形態の人工ウイルスキャプシドが、核酸アプタマーを有さないキャプシドと比べて、リンパ腫細胞に特異的に結合し、かつ、当該人工ウイルスキャプシドおよび/またはその内包物が上記細胞内に効率よく取り込まれ得ることを発見した。これは、がん治療の観点、あるいはより一般的に、人工ウイルスキャプシドを利用した特定細胞への薬物送達という観点から重要な進歩であるが、必ずしも予測できたことではなかった。Tang et al.は、SELEXのランダムDNAライブラリーをRamos細胞に結合させ、洗浄して未結合DNAを除去し、そして細胞表面に結合しているDNAを加熱することにより溶離させ、回収されたDNAを増幅して次のラウンドの選抜に使用するというスクリーニング手順でこれらの核酸アプタマーを単離したことを記載している。その核酸アプタマーを表面提示する人工ウイルスキャプシドが、リンパ腫細胞表面に結合するにとどまらず細胞内部にまで取り込まれることを発見したことには大きな意義がある。
配列番号2、4、5、6、7、8はBリンパ腫への標的指向化に特に適し得、配列番号2、3、5、8、9はTリンパ腫への標的指向化に特に適し得る。本実施形態における核酸アプタマーは、配列番号2~9からなる核酸アプタマーであってもよいが、5’側および/または3’側にさらなる核酸配列が追加されてもよい。実際、Tang et al.の核酸アプタマーも、元々は両端にDNA増幅用のプライマー配列が追加された長い配列の状態で核酸集団の中から単離・同定されたものである。このように、標的結合能を担うコア配列の5’側および/または3’側にさらなる核酸配列を追加し得ることは核酸アプタマー一般において典型的に見られる。配列番号6を含むまたは配列番号6からなる核酸アプタマーを表面提示する人工ウイルスキャプシドは特に好ましい実施形態の一例である。
上述したように、本開示の実施形態におけるβ-アニュラスペプチドにおいて、配列番号1のC末端にさらなるアミノ酸(複数可)が追加されていてもよい。非特許文献4は、β-アニュラスペプチドのC末端そのものではなく、C末端から2番目の内部残基であるグリシンを置換したシステイン残基に、20ヌクレオチド長の核酸を連結することを記載している。しかしながら本開示では、C末端にさらに追加された部分、特にC末端にさらに追加されたペプチドに核酸アプタマーを連結することによって、より粒子径分布の狭い(つまり均一性の高い)人工ウイルスキャプシドに核酸アプタマーを提示させることができることを見出した。このようにC末端に追加された部分が、核酸アプタマーを提示しながら人工ウイルスキャプシドに自己集合することに適したスペーサーとなる可能性が推測される。
一実施形態では、システインまたはシステイン残基含有ペプチドがβ-アニュラスペプチドのC末端に連結されている。この連結は好ましくはペプチド結合による連結であり、つまりペプチドの延長である。その結果として、24残基より長いβ-アニュラスペプチド含有ペプチドが形成される。配列番号1で表されるβ-アニュラスペプチドのC末端と、上記システイン残基との間に、例えば1~10アミノ酸、2~5アミノ酸、または3アミノ酸が存在することが好ましい。該システイン残基は、β-アニュラスペプチド含有ペプチド全体としての最C末端には位置しないことが好ましい。好適なシステイン残基含有ペプチドの具体的な一例はGGGCG(配列番号10)である。
核酸アプタマーは、このシステインに由来する第1のチオール基を介してβ-アニュラスペプチドに連結されることができる。当業者によく知られているように、チオール基は、例えばマレイミド基と効率よく反応してチオスクシニミド連結を形成することができる。あるいは、別のチオール基と反応させてジスルフィド連結を形成させることもできる。当業者は通常の知識に基づいて、これらのチオール基反応によって、適切なリンカーあるいはアプタマー結合リンカーをβ-アニュラスペプチドに連結することができる。
自己集合のための最小単位である24残基のβ-アニュラスペプチドは、本来システイン残基を含まず遊離チオール基を有さないため、このように追加されたシステイン残基に由来する第1のチオール基を、核酸アプタマーの部位特異的連結のために簡便に利用することができる。代わりに、β-アニュラスペプチドのN末端にシステインまたはシステイン残基含有ペプチドを連結させて、そのシステインに由来するチオール基をキャプシド内包物への連結に利用することもできる。なお、本開示における「第1の」「第2の」等の語句は、異なる対象物を指すための便宜上の表現にすぎず、必ずしも特定の順番を意味するものではない。例えば前段落および本段落における「第1のチオール基」という用語は、β-アニュラスペプチド含有ペプチド以外の分子から提供されるチオール基と区別するための便宜上の用語に過ぎず、アミノ酸配列上の特定の位置を意味するものではない。
第1のチオール基を提供するシステインまたはシステイン残基含有ペプチドがβ-アニュラスペプチドのC末端に連結された特定の実施形態において、核酸アプタマーとしては、5’末端にアミノ基または第2のチオール基を有する合成核酸アプタマーを使用してもよい。5’末端にこれらの基を有する(すなわちこれらの基が結合または連結された)核酸を合成することは、当業者の通常の技量の範囲内である。この実施形態では、β-アニュラスペプチド側から提供される第1のチオール基と、核酸アプタマー側から提供される上記アミノ基または第2のチオール基との間を繋げるリンカーによって、β-アニュラスペプチドおよび核酸アプタマーを連結することができる。
リンカーは、当業者に通常理解されるように、1つの化学部分(例えばペプチド)ともう1つの化学部分(例えば核酸)とを一連の共有結合により繋げる化学構造である。リンカーは典型的には炭化水素ベースのリンカーである。炭化水素ベースのリンカーが有する炭化水素骨格は、その骨格中に置換または挿入された非炭素原子を含むこともある。チオール基とアミノ基との間を繋げることができるリンカーは当業者によく知られており(N-(4-マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシニミド(Sulfo-GMBS)はその一例である)、当業者が適宜設計して合成することもできる。このようなリンカーが例えば「チオール基とアミノ基との間を繋げる」という場合、あるいは「チオール基を介してβ-アニュラスペプチドに連結される」等という場合、それはこれら言及された反応基の反応が連結部分の形成に利用されることを意味するのであって、連結後にチオール基やアミノ基が元の形のまま残るわけではないことは当業者に理解されるであろう。
チオール基とチオール基との間を繋げることができるリンカーも当業者によく知られており(1,8-ビスマレイミドジエチレングリコール等のビスマレイミドはその一例である)、当業者が適宜設計して合成することもできる。チオール基とチオール基とを直接反応させてジスルフィド連結を形成させる場合には、両者の間のリンカーは単一の共有結合となる。
当業者に知られる他の反応基を使用して、つまり他の反応基をβ-アニュラスペプチドのC末端側および/または核酸アプタマーの5’もしくは3’末端に連結させて、β-アニュラスペプチドと核酸アプタマーを連結させることもできる。いずれにせよ、β-アニュラスペプチド含有ペプチドと核酸アプタマーとの間のリンカーの長さは、例えば2~100Å、2~50Å、または5~20Åであり得るが、これらに限定されない。一例では、まずリンカーの一端を核酸アプタマーの5’末端または3’末端に連結させ、次にリンカーの他端をβ-アニュラスペプチドのC末端側に連結させ得る。別の例では、まずリンカーの一端をβ-アニュラスペプチドのC末端側に連結させ、次にリンカーの他端を核酸アプタマーの5’末端または3’末端に連結させ得る。さらに別の例では、リンカーの両端への核酸アプタマーおよびβ-アニュラスペプチドの連結が同時に行われ得る。
上述したように、全てのサブユニットが、核酸アプタマーに連結されたβ-アニュラスペプチドであってもよいが、別の実施形態では、核酸アプタマーに連結されたβ-アニュラスペプチドのサブユニットと混在して、核酸アプタマーが連結されていないβ-アニュラスペプチドのサブユニットがさらに含まれていてもよい。本開示の実施形態に係る人工ウイルスキャプシドは、核酸アプタマーに連結されたβ-アニュラスペプチドのサブユニットを少なくとも1個含む。核酸アプタマーに連結されたβ-アニュラスペプチドのモル割合は好ましくは10%以上であり、30%以上、50%以上、70%以上、もしくは90%以上であってもよく、100%でもあり得る。
核酸アプタマーが連結されていないβ-アニュラスペプチドのサブユニットは、例えば、β-アニュラスペプチド単体であってもよい。別の実施形態では、核酸アプタマーが連結されていないβ-アニュラスペプチドのサブユニットは、N末端に人工ウイルスキャプシドの被封入物質が連結されていてもよく、または、被封入物質と結合もしくは相互作用させるための部分(例えばアミノ酸もしくはペプチド)がN末端に連結されていてもよい。
別の側面において、本開示は、上述した人工ウイルスキャプシドを含む医薬組成物を提供する。換言すると、医薬として使用するための人工ウイルスキャプシドが本開示により提供される。本開示の人工ウイルスキャプシドまたは医薬組成物を対象に投与することを含む治療方法の実施形態も企図される。別の側面では、上述した人工ウイルスキャプシドを含む薬物送達用キャリアー組成物が提供される。換言すると、薬物送達用キャリアーとして使用するための人工ウイルスキャプシドが本開示により提供される。薬物送達用キャリアー組成物のキャプシド内部に治療的有効量の薬物を封入することにより、医薬組成物を調製することができる。対象内の特異的標的部位、例えば標的組織、標的細胞、または標的分子に薬物を送達する方法であって、有効量の薬物を内包した人工ウイルスキャプシドもしくはそれを含む医薬組成物を調製すること、および/またはその人工ウイルスキャプシドもしくは医薬組成物を対象に投与することを含む方法の実施形態も企図される。
これらの組成物は、人工ウイルスキャプシドに加えて、薬学的に許容される担体、賦形剤、添加剤等を含むことができる。適切な担体の一例は水である。組成物は、例えば人体への注射に適した濃度の塩を含み得る。当業者は、核酸アプタマーの標的物質が存在する部位または領域に有効量の人工ウイルスキャプシドまたは医薬組成物を送達するための適切な投与経路を適宜決定し選択することができる。投与経路の例としては、経口、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、経皮、腹腔内、髄腔内、経直腸、経膣、眼球、および吸入が挙げられるがこれらに限定されない。
本開示の実施形態に係る人工ウイルスキャプシドおよび組成物は、インビトロ、エクスビボ、およびインビボにおいて有用となり得る。従って、人工ウイルスキャプシドまたは組成物が投与される対象は、典型的には動物個体、例えば哺乳類個体、特にヒト個体あるいはがん患者のようなヒト患者であるが、これらの動物の生体外組織または培養細胞が投与対象となることもあり得る。
薬物送達用キャリアー組成物は、核酸アプタマーの種類に応じて異なる特異的標的を有し得る。一例において、特異的標的はがん細胞である。すなわち、薬物送達用キャリアー組成物は、薬物をがん細胞に送達するためのものであり得る。薬物送達用キャリアー組成物は、薬物をがん細胞の内部に送達するためのものであり得る。特定の実施形態において、がん細胞はリンパ腫である。リンパ腫は、B細胞リンパ腫および/またはT細胞リンパ腫であり得る。リンパ腫は例えばバーキットリンパ腫であり得る。
本開示において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値をそれぞれ下限値および上限値として含むことを意味する。「A~B」「C~D」というように可能な複数の数値範囲が別々に記載されている場合、一方の下限または上限を他方の下限または上限と組み合わせた数値範囲(例えば「A~D」「C~B」)も本明細書に開示されているものとして解される。また、第1の要素と第2の要素の組合せが記載されており、第1の要素と第2の要素のそれぞれについて複数の可能な選択肢が記載されている場合、第1の要素の各選択肢と、第2の要素の各選択肢との、すべての可能な組合せが本明細書に開示されているものとして解される。本開示において例えば「Xを含有する」「Xを含む」等の表現は、特に「Xからなる」態様が除外されることが明示されない限り、「Xからなる」態様も包含すると解される。
以下、実施例を示して具体的な実施形態を詳しく説明するが、これらは例示であって、本開示の発明はこれらの例に限定されない。
[実施例1.核酸アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシドの作製]
Tang et al., Anal. Chem. 2007, 79, 4900-4907により記述されている核酸アプタマーのうち、43ヌクレオチド長のDNAアプタマーであるTE02を用いた実施例を示す。TE02は5’-TAGGCAGTGGTTTGACGTCCGCATGTTGGGAATAGCCACGCCT-3’という配列(配列番号6)からなる。本実施例では、このTE02アプタマーを、5’末端に-(CH2)6-リンカーを介してアミノ基(-NH2)が連結された形態でカスタム合成した(ベックス社)。この形態のTE02アプタマーをTE02-NH2と呼ぶ。続いて、下記の合成スキームにより、TE02-NH2にマレイミド(maleimide)基を連結させた。得られた化合物をTE02-マレイミドと呼ぶ。
Figure 2022173834000002
具体的には、0.80 mM TE02-NH2のストック溶液20μLに、Sulfo-GMBSクロスリンカー(Mw 382.28、同仁化学社)を0.9 mg(120 equiv.)、0.1 M NaHCO3水溶液を60μL加え、25℃のインキュベーター中に4時間静置した(終濃度200μM TE02-NH2、24.0 mM Sulfo-GMBS)。その後、1000 mLのイオン交換水で透析(Spectra/por7、cutoff Mw: 1000、SPECTRUM社製)を行った。透析開始から1、2、3、20時間経過後にイオン交換水を交換して計24時間に渡り攪拌した。透析後、UV測定により、アデニン(ε= 15400 M-1cm-1)、チミン(ε= 9300 M-1cm-1)、グアニン(ε= 11800 M-1cm-1)、およびシトシン(ε= 7400 M-1cm-1)の吸光係数と、DNA由来の260 nmの吸光度からランベルト・ベールの法則より濃度決定を行った。
UV測定条件は以下の通りである。
バンド幅:1.5 nm レスポンス:Fast 測定波長範囲:700-200 nm
データ取込間隔:1.0 nm 走査速度:400 nm/min 温度:25℃ 光路長:10 mm
C = 0.1154×50 / [(15400×8)+(9300×11)+(11800×14)+(7400×10)] = 12.4μM
12.4μM×900μL=11.2 nmol
上記計算によりTE02-マレイミドの収量は11.2 nmolと決定され、これは理論収量16 nmolに対して収率70.0%である。逆相HPLC(CH3CN / NH4HCO2 aq.;CH3CN 5%→100%(95 min))によりTE02-マレイミドを未反応TE02-NH2から分離して精製し、MALDI-TOF-MS(マトリックス:3-HPA)によりTE02-マレイミド(Mw 13635)を確認した。
続いて、下記スキームにより、C末端にTE02アプタマーが連結されたβ-アニュラスペプチドを合成した。β-アニュラス-GGGCGペプチド(Mw 2637)は、β-アニュラスペプチドの24アミノ酸長最小単位(配列番号1)のC末端が延長されたかたちでGGGCGペプチドを有するものである。このC(システイン)残基がSH基(チオール基)を提供している。このSH基とTE02-マレイミドのマレイミド基とを反応させて、β-アニュラスペプチドおよびTE02アプタマーを連結した。得られた産物をβ-アニュラス-アプタマー、あるいは特にβ-アニュラス-TE02と呼ぶ。
Figure 2022173834000003
具体的には、まず、エッペンドルフチューブに入れたTE02-マレイミド(11.2 nmol)を凍結乾燥した後そこに0.2 Mリン酸ナトリウムバッファー(pH.7.0)を100μL加え、別のエッペンドルフチューブではβ-アニュラス-GGGCGペプチド 0.467 mgを量りそこにイオン交換水400μLおよびアセトニトリル500μLを加え、そしてこれら2つのエッペンドルフチューブの内容物を混合した(TE02-マレイミドの終濃度:11.2μM、β-アニュラス-GGGCGペプチドの終濃度:177μM)。ボルテックスで撹拌後、40℃で70時間振とうし、逆相HPLCで分取を行った。
分取条件は以下の通りである。
試料:反応後サンプルを遠心分離して上澄みを使用
試料注入量:1000μL
カラム:Inertsil WP300 C18(5 mm, 20×250 mm)
移動相溶媒:0.1 Mギ酸アンモニウム水溶液95% (0 min) → 0% (95 min)、アセトニトリル 5% (0 min) → 100% (95 min) 直線的勾配
流量:10.0 mL/min 検出:260 nm
分画溶液について、エバポレーターで溶媒留去した後、イオン交換水を300μL加え、上記と同じ条件におけるUV測定により濃度決定を行った。
C = 0.3883×10 / [(15400×8)+(9300×11)+(11800×14)+(7400×10)] = 8.36μM
8.36μM×300μL = 2.51 nmol
上記計算によりβ-アニュラス-アプタマーの収量は2.51 nmolと決定され、これは理論収量11.2 nmolに対して収率22.4%である。逆相HPLC(CH3CN / NH4HCO2 aq.;CH3CN 5%→100%(95 min))によりβ-アニュラス-TE02を未反応TE02-マレイミドから分離して精製し、MALDI-TOF-MS(マトリックス:3-HPA)によりβ-アニュラス-TE02を確認した。
続いて、10 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)中に5~50μMとなるようにβ-アニュラス-アプタマーの水溶液を調製した。この水溶液において超音波を5分間照射した後、30分間静置した。以上の操作により、β-アニュラスペプチド部分が自己集合し、43ヌクレオチド長のTE02アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシドが得られた。
[実施例2.核酸アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシド粒子の特徴付け]
2-1.動的光散乱法(DLS)による粒度測定
DLSの測定条件は以下の通りである。
セル:ZEN2112-Low volume glass cuvette(12μL)
温度:25℃
溶媒:10 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)
2-2.透過型電子顕微鏡(TEM)観察
実施例1で得られた人工ウイルスキャプシドをグリッド(C-SMART Hydrophilic TEM grids、アライアンスバイオシステムズ社製)に5μL滴下し、1分間静置した。その後、ろ紙を用いて液滴を取り除き、染色液(2 % Na3(PW12O40)(H2O)n)を5μL滴下し、1分間静置後、再び液滴を取り除いた。続いて一晩減圧乾燥をした後、TEM観察を行った(加速電圧80 kV)。
2-3.結果
DLS測定の結果を図1(a)に示す。β-アニュラス-アプタマーを5μMまたは25μMの濃度で自己集合させた場合には、それぞれ平均直径53 nmまたは55 nmの粒度が得られた。この粒径および狭い分布から、人工ウイルスキャプシドが適切に形成されたことが明らかであり、その結論は図1(b)に示すTEM観察によって確認された。ここで得られている53±12 nmおよび55±16 nmという粒度分布は、非特許文献4で得られていた98±63 nmと比べて著しく狭く、つまり均一性がより高い人工ウイルスキャプシドが得られている。この点において、β-アニュラスペプチドのC末端付近の内部残基ではなくC末端にさらに追加した残基に核酸アプタマーを連結させることが好ましいと見られた。
一方、β-アニュラス-アプタマーを50μMの濃度で自己集合させた場合には、DLSによって測定される平均直径が222 nmとなり、TEM画像と合わせて考慮すると、人工ウイルスキャプシド同士の凝集が起こっていたと考えられた(図1a左端、図1b左端)。
アプタマー修飾を有さないβ-アニュラス-GGGCGペプチドの臨界会合濃度は29μMと見積もられている。β-アニュラス-アプタマーがそれを下回る5μMという低濃度でも会合できたことは、40ヌクレオチド超という長い核酸ならびにそれに伴う大きな負電荷および電気的反発にも関わらず、アプタマー修飾β-アニュラスによる自己集合の安定化がむしろ促進されたことを示唆している。
[実施例3.核酸アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシドのCDスペクトル測定]
TE02-NH2、またはβ-アニュラス-TE02に、10 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)を加えて、それぞれ20μMになるように調製した。これらの試料を用いてCD(円偏光二色性)スペクトル測定を行った。測定条件は以下の通りである。
溶媒:10 mMリン酸緩衝液(pH 7.0) セル:光路長0.1 cmの石英セル
温度:25℃ 試料体積:各200μL 測定波長範囲:200-400 nm
走査速度:200 nm/min
積算回数:32回
温度変化させたCD測定は、測定波長を270 nmとし、測定温度範囲を-10℃~90℃として行った。
結果を図2に示す。これらのCD測定の結果は、核酸アプタマーがβ-アニュラスペプチドに基づく人工ウイルスキャプシド上に提示された場合にも、B型DNAのスペクトルが維持され、核酸アプタマー本来の二次構造が実質的に維持されることを示している。この人工ウイルスキャプシド上に提示されたアプタマーは、単独で存在する同じアプタマーと比べて変性点が上昇することも観察された(図2c;アプタマー単独における40℃と比べて人工ウイルスキャプシド上では45℃に上昇している)。変性点とは、図2(c)で表されるような融解曲線の「変曲点」に相当し、数学的にいうと微分値が最大になる点である。変性点が上昇したことは、人工ウイルスキャプシド上に提示されることによって核酸アプタマーの構造的安定性が向上したことを示唆している。
[実施例4.がん細胞によるβ-アニュラス-TE02人工ウイルスキャプシドの取り込み]
この実施例は、TE02アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシドが、このがん細胞特異的アプタマーを介して標的がん細胞の内部に取り込まれることを実証する実験を記述する。
4-1.TAMRA-β-アニュラス-TE02人工ウイルスキャプシドの作製
その目的のために、まず、TE02アプタマーを表面提示すると同時に蛍光色素TAMRA(carboxytetramethylrhodamine)を内部に封入した人工ウイルスキャプシドの作製を試みた。TAMRAは、細胞内部への人工ウイルスキャプシドの取り込みを視覚化するために有用となる。
β-アニュラスペプチドのN末端にシステイン残基を追加したペプチドを合成し、そのシステインのチオール基に、市販のTAMRA-マレイミド(Mw 2890)を反応させて、TAMRA-β-アニュラスペプチドを合成した。実施例1で作製したβ-アニュラス-TE02と、TAMRA-β-アニュラスとを10:1の濃度比で混合し、実施例1と同様の手順でこれら2種類のサブユニットを自己集合すなわち共集合させた。
より具体的には、β-アニュラス-TE02の50μM水溶液と、TAMRA-β-アニュラスの5μM水溶液とを10μLずつ取って混合することにより、終濃度がそれぞれ25μMおよび2.5μMである混合水溶液を調製した。これに超音波を5分間照射し、静置して0分後、30分後、60分後、90分後、および120分後の時点で、実施例2と同様にしてDLS測定を行った。いずれの時点でも、粒径分布の主たるピークとして70~80 nm程度の粒径が得られていた。
4-2.リンパ腫細胞への人工ウイルスキャプシドの投与
TE02は、ヒトのバーキットリンパ腫細胞に結合するものとして同定されたアプタマーである(上記Tang et al.)。本実験では、バーキットリンパ腫由来のDaudi細胞株を用いた。
上記4-1に記述したようにβ-アニュラス-TE02とTAMRA-β-アニュラスとが10:1で混合された人工ウイルスキャプシド、および比較のために非アプタマー修飾β-アニュラスペプチドとTAMRA-β-アニュラスとが10:1で混合された対照人工ウイルスキャプシドをそれぞれ調製し、細胞培養用培地で5倍希釈した。
Daudi細胞(細胞密度:1.0×106細胞/100μL)24μLを培養ディッシュに加え、上記人工ウイルスキャプシドの溶液を30μL取ってディッシュに加えた。37℃で1時間インキュベートした後、細胞核染色蛍光色素であるHoechst 33342(100μg/mL)を6μL加えて10分間インキュベートし、その後、共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)観察を行った。CLSMの条件は、TAMRA(ローダミン)についてはEx: 553 nm、Em: 577 nm、レーザー強度: 15%、Hoechst 33342についてはEx: 346 nm、Em: 460 nm、レーザー強度: 15%とした。
CLSMによってTAMRAのシグナルを検出した結果を図3に示す。図示していないが、Hoechst 33342による細胞核染色および明視野顕微鏡により、図3の各パネル中に1つの生細胞が位置していることが確認されている。アプタマーを有さない対照人工ウイルスキャプシドを投与した場合には、細胞内のローダミン蛍光シグナルはバックグラウンドから実質的に変わらないのに対し(図3の下パネル)、TE02アプタマーを提示する人工ウイルスキャプシドを投与した場合には、大部分のリンパ腫細胞において、細胞表面および細胞内部にTAMRA由来のローダミン蛍光シグナルが明確に観察された(図3の上パネル)。この結果は、人工ウイルスキャプシドの表面に提示された細胞特異的核酸アプタマーの存在を介して、その人工ウイルスキャプシドがそのアプタマーの特異的標的である細胞に結合し且つ細胞内に効率よく取り込まれたことを実証している。

Claims (9)

  1. トマトブッシースタントウイルスのβ-アニュラスペプチドと、
    前記β-アニュラスペプチドのC末端側に連結された、40ヌクレオチド以上の長さを有する核酸アプタマーと
    を含有するサブユニットを含む、複数のサブユニットの自己集合によって形成されている、
    核酸アプタマーを表面提示した人工ウイルスキャプシド。
  2. 前記核酸アプタマーは、配列番号2~9のいずれかの配列を有する核酸アプタマーである、請求項1に記載の人工ウイルスキャプシド。
  3. 前記β-アニュラスペプチドは、システインまたはシステイン残基含有ペプチドがC末端側に連結されており、前記核酸アプタマーは、そのシステインに由来する第1のチオール基を介して前記β-アニュラスペプチドに連結されている、請求項1または2に記載の人工ウイルスキャプシド。
  4. 前記核酸アプタマーは、5’末端にアミノ基または第2のチオール基を有する合成核酸アプタマーであり、前記β-アニュラスペプチドおよび前記核酸アプタマーは、前記第1のチオール基と前記アミノ基または前記第2のチオール基との間を繋げるリンカーによって連結されている、請求項3に記載の人工ウイルスキャプシド。
  5. 前記サブユニットと混在する、前記核酸アプタマーが連結されていないβ-アニュラスペプチドを含有するサブユニットをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の人工ウイルスキャプシド。
  6. 請求項1~5のいずれか一項に記載の人工ウイルスキャプシドを含む、医薬組成物。
  7. 請求項1~5のいずれか一項に記載の人工ウイルスキャプシドを含む、薬物送達用キャリアー組成物。
  8. 薬物をがん細胞に送達するための、請求項7に記載の組成物。
  9. 前記がん細胞はリンパ腫である、請求項8に記載の組成物。
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