JP2022166369A - 腐食状態判定装置、腐食状態判定方法、及び品質評価装置 - Google Patents

腐食状態判定装置、腐食状態判定方法、及び品質評価装置 Download PDF

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Abstract

【課題】金属表面の腐食状態を適切に判定することができる技術を提供する。【解決手段】 品質評価装置4は、組織観察用腐食液によって腐食された金属表面の顕微鏡画像から判定対象となる対象画像を取得する取得処理5aと、前記対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とに基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、前記金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力する腐食状態判定処理5bと、を実行するプロセッサ5を備える。【選択図】 図1

Description

本発明は、腐食状態判定装置、腐食状態判定方法、及び品質評価装置に関する。
金属材料、特に鉄鋼材料は、炭素濃度、残留オーステナイト量、硬さ等の物性値に基づいて品質評価が行われることがある。
例えば、残留オーステナイト量の測定はX線分析によって行われる。特許文献1には、X線分析結果により鋼材の残留オーステナイト量を求める技術が開示されている。
特開2018-040770号公報
ところで、金属材料の品質評価としては、顕微鏡による組織観察による評価も行われる。
金属組織には、その金属材料の成分や熱処理の履歴が反映されている。よって、金属組織の顕微鏡画像をコンピュータに取り込み、金属組織の特徴を数値化することで、その金属材料の炭素濃度、残留オーステナイト量、硬さ等の物性値の推定値を求めることが考えられる。
上記金属組織の顕微鏡画像の撮像作業には、金属表面の研磨や、腐食、顕微鏡観察といった作業が含まれる。金属表面の研磨や、腐食、顕微鏡観察といった作業は、作業者による手作業で行われるため、金属表面の研磨状態や、腐食状態には、良好な状態の場合の他、不良な状態の場合もありうる。
ここで、顕微鏡画像に基づいて金属材料の物性値の推定値を求めようとしたときに、その顕微鏡画像として撮像された金属表面の研磨状態や、腐食状態が不良な状態であると、物性値の推定精度を低下させるおそれがある。
このため、顕微鏡画像として撮像された金属表面の研磨状態や、腐食状態を、適切に判定する必要がある。
実施形態である腐食状態判定装置は、
組織観察用腐食液によって腐食された金属表面の顕微鏡画像から判定対象となる対象画像を取得する取得処理と、
前記対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とに基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、前記金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力する腐食状態判定処理と、
を実行する処理部を備える。
他の観点から見た実施形態である腐食状態判定方法は、
組織観察用腐食液によって腐食された金属表面の腐食状態を判定する腐食状態判定方法であって、
前記金属表面の顕微鏡画像から判定対象となる対象画像を取得し、
前記対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とに基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、前記金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力する。
また、他の観点から見た実施形態である品質評価装置は、
組織観察用腐食液によって腐食された金属表面の顕微鏡画像に基づいて前記金属の品質評価を行う品質評価装置であって、
前記顕微鏡画像から前記金属表面の腐食状態の判定対象となる対象画像を取得する取得処理と、
前記対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とに基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、前記金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力する腐食状態判定処理と、
前記腐食状態判定処理の判定結果が所定の条件を満たす場合、前記顕微鏡画像から品質評価対象となる領域の領域画像を取得し、前記領域画像に基づくグレースケール画像から、前記金属の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記金属の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成し、前記明側画像、及び前記暗側画像に基づいて、前記金属の物性値の推定値を求める品質評価処理と、
を実行する処理部を備える。
本開示によれば、金属表面の腐食状態を適切に判定することができる。
図1は、品質評価システムの一例を示すブロック図である。 図2は、品質評価システムを用いた品質評価方法の一例を示すフローチャートである。 図3は、試料作製、及び、試料の研磨、腐食の工程を説明するための図である。 図4は、品質評価処理の一例を示すフローチャートである。 図5(a)は、撮像対象範囲全体を示す画像の一例であり、図5(b)は、撮像対象範囲全体を示す画像から取得された領域画像の一例である。 図6(a)は、領域画像の一部を示す図、図6(b)は、この領域画像から生成された暗側画像の図、図6中(c)は、この領域画像から生成された明側画像の図である。 図7は、領域画像を構成する各画素の明度と、その出現頻度とに基づくヒストグラムの一例を示す図である。 図8は、暗側画像(図6(b))に含まれる暗いオブジェクトの一つを示す説明図である。 図9は、明側画像(図6(c))に含まれる明るいオブジェクトの一つを示す説明図である。 図10は、判定処理の一例を示すフローチャートである。 図11は、評価対象部材を用いて作製した試料を鏡面研磨した後、異なる腐食時間で腐食させた断面の対象画像を示す図である。 図12は、これら対象画像それぞれの輝度値(明度)に基づくヒストグラムを示す図である。 図13は、各ヒストグラムの最頻値と、各ヒストグラムに対応する対象画像による炭素濃度の推定値と実測値との差異との関係を示した図である。 図14は、評価対象部材を用いて作製した試料を異なる研磨条件で研磨した後、腐食させた断面の対象画像を示す図である。 図15は、明側画像に含まれるオブジェクトのアスペクト比と、各対象画像による炭素濃度の推定値と実測値との差異との関係を示した図である。 図16は、変形例に係る判定処理のフローチャートの一部を示す図である。
最初に実施形態の内容を列記して説明する。
[実施形態の概要]
(1)実施形態である腐食状態判定装置は、
組織観察用腐食液によって腐食された金属表面の顕微鏡画像から判定対象となる対象画像を取得する取得処理と、
前記対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とに基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、前記金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力する腐食状態判定処理と、
を実行する処理部を備える。
金属表面を組織観察用腐食液によって腐食すると、金属表面には、組織に対応した明度(暗度)コントラストが生じる。よって、対象画像を構成する各画素の輝度値には、腐食の状態の影響が及ぶ。
よって、上記構成によれば、腐食の状態の影響が及ぶ輝度値に基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力するので、金属表面の腐食状態を定量的に判定した判定結果を出力することができる。この結果、金属表面の腐食状態を適切に判定することができる。
(2)上記腐食状態判定装置において、
前記判定値は、前記ヒストグラムの最頻値、又は前記ヒストグラムの標準偏差の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
この場合、ヒストグラムの最頻値、又はヒストグラムの標準偏差の少なくともいずれか用いて金属表面の腐食状態を定量的に判定することができる。
(3)上記腐食状態判定装置において、
前記判定値が前記ヒストグラムの最頻値を含む場合、前記腐食状態判定処理では、前記ヒストグラムの最頻値と、前記ヒストグラムの最頻値に対して設定された最頻値閾値と、を比較することで、前記金属表面の腐食状態を判定することが好ましい。
この場合、最頻値閾値の設定によって、腐食状態の判定をより適切に行うことができる。
(4)上記腐食状態判定装置において、
前記判定値が前記ヒストグラムの標準偏差を含む場合、前記腐食状態判定処理では、前記ヒストグラムの標準偏差と、前記ヒストグラムの標準偏差に対して設定された標準偏差閾値と、を比較することで、前記金属表面の腐食状態を判定することが好ましい。
この場合、標準偏差閾値の設定によって、腐食状態の判定をより適切に行うことができる。
(5)他の観点から見た実施形態である腐食状態判定方法は、
組織観察用腐食液によって腐食された金属表面の腐食状態を判定する腐食状態判定方法であって、
前記金属表面の顕微鏡画像から判定対象となる対象画像を取得し、
前記対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とに基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、前記金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力する。
上記構成によれば、腐食の状態の影響が及ぶ輝度値に基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力するので、金属表面の腐食状態を適切に判定することができる。
(6)また、他の観点から見た実施形態である品質評価装置は、
組織観察用腐食液によって腐食された金属表面の顕微鏡画像に基づいて前記金属の品質評価を行う品質評価装置であって、
前記顕微鏡画像から前記金属表面の腐食状態の判定対象となる対象画像を取得する取得処理と、
前記対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とに基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、前記金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力する腐食状態判定処理と、
前記腐食状態判定処理の判定結果が所定の条件を満たす場合、前記顕微鏡画像から品質評価対象となる領域の領域画像を取得し、前記領域画像に基づくグレースケール画像から、前記金属の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記金属の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成し、前記明側画像、及び前記暗側画像に基づいて、前記金属の物性値の推定値を求める品質評価処理と、
を実行する処理部を備える。
上記構成によれば、金属表面の腐食状態を定量的に判定することができるので、金属表面の腐食状態を適切に判定することができる。この結果、例えば、金属表面の腐食状態が不良な顕微鏡画像については、品質評価処理に用いないようにすることができ、金属の物性値の推定精度の低下を抑制することができる。
[実施形態の詳細]
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔システムの全体構成について〕
図1は、品質評価システムの一例を示すブロック図である。
図1中の品質評価システム1は、金属表面の顕微鏡画像に基づいて金属の品質評価を行う機能を有する。
品質評価システム1は、顕微鏡2と、カメラ3と、品質評価装置4とを備える。
顕微鏡2は、金属表面の観察が可能な金属顕微鏡である。
カメラ3は、顕微鏡2に組み込まれ、顕微鏡2の観察画像を撮像する機能を有する。カメラ3は、品質評価装置4に接続されており、撮像した顕微鏡画像を画像データとして品質評価装置4へ与える。
品質評価装置4は、プロセッサ5と、記憶装置6とを有するコンピュータによって構成される。また、品質評価装置4は、作業者による入力を受け付けるとともに、作業者へ情報等を出力する機能を有する入出力部7を備える。入出力部7は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、モニタ、スピーカ、プリンタ、インジケータ等である。
記憶装置6は、プロセッサ5が実行するコンピュータプログラム等が記憶されている。プロセッサ5は、記憶装置6のようなコンピュータ読み取り可能な非一過性の記録媒体に記録された前記コンピュータプログラムを読み込むことで、プロセッサ5が有する以下に説明する各処理を実行する。
また、記憶装置6は、カメラ3から与えられる顕微鏡画像6aと、閾値データ6bと、品質評価モデル6cとを記憶する。
顕微鏡画像6aは、カメラ3から与えられる画像データである。
閾値データ6bは、後述する腐食状態判定処理や、研磨状態判定処理にて用いられる閾値である上下限値Th1~Th4を含む。プロセッサ5は、必要に応じて閾値データ6bの上下限値Th1~Th4を参照する。
品質評価モデル6cは、後述する品質評価処理にて用いられるモデルである。品質評価モデル6cには、炭素濃度推定用モデル、残留オーステナイト量推定用モデル、及び、硬さ推定用モデルが含まれる。
プロセッサ5は、上述のコンピュータプログラムを実行することで、取得処理5a、腐食状態判定処理5b、画像生成処理5c、研磨状態判定処理5d、及び品質評価処理5eを実行する。これら各処理については、後に説明する。
〔品質評価方法について〕
図2は、品質評価システム1を用いた品質評価方法の一例を示すフローチャートである。
本システム1は、低炭素鋼、低炭素合金鋼等を用いた部材の熱処理品の品質評価を行うことができる。低炭素鋼としては、S10C、S25C、S40Cが挙げられる。低炭素合金鋼としては、SCr415、SCM415、SCM435、SNCM420、SAE5120等が挙げられる。
以下では、品質評価の対象である評価対象部材を転がり軸受の軌道輪を用いた場合について説明する。この軌道輪は、低炭素合金鋼又は低炭素鋼を用いて形成された部材であり、より具体的には、SAE5120である。軌道輪は、浸炭焼き入れの後、焼き戻しされている。
本品質評価方法では、品質評価に用いる値として、軌道輪の浸炭箇所の炭素濃度、残留オーステナイト量、硬さ等の物性値の推定値を求める。よって、軌道輪の浸炭層が品質評価対象となる領域となる。
本品質評価方法では、まず、軌道輪を用いて試料作製を行い(図2中、ステップS1)、試料の研磨及び腐食(図2中、ステップS2)を行う。
図3は、試料作製、及び、試料の研磨、腐食の工程を説明するための図である。
試料作製工程において、まず、評価対象部材である軌道輪100を高速カッタ等で切断し、切断片102を得る。その切断片102を樹脂104で埋包することで、試料106を得る。
このとき、切断片102の断面102aは、試料106の観察面106aにおいて露出している。
次いで、研磨及び腐食工程において、試料106の観察面106aを金属研磨機等によって研磨する。観察面106aは、耐水ペーパーによる研磨の後、ダイヤモンドペースト等による研磨がなされる。これにより、観察面106a(断面102a)は鏡面研磨される。
次に、鏡面研磨された観察面106aをナイタール液(硝酸アルコール液)等の組織観察用腐食液に所定時間浸漬し、断面102aを腐食(エッチング)させる。
次に、試料106を顕微鏡2にセットし、断面102aのうち、必要な箇所を顕微鏡2の視野に設定し、顕微鏡画像の撮像を行う(図2中、ステップS3)。
本方法では、評価対象部材である軌道輪100の浸炭層が品質評価対象であるので、断面102aにおける浸炭層の部分を顕微鏡2の視野に入れ、カメラ3によって顕微鏡画像を撮像する。これによって、断面102aにおける浸炭層の顕微鏡画像が撮像される。
上記ステップS1~S3までの作業は、作業者によって行われる。
カメラ3によって撮像された顕微鏡画像は、品質評価装置4に与えられる。
顕微鏡画像が与えられた品質評価装置4は、判定処理を実行する(図2中、ステップS4)。
図2中のステップS4における判定処理は、組織観察用腐食液によって腐食された金属表面である試料106の断面102aの腐食状態及び研磨状態を判定し、断面102aの腐食状態及び研磨状態に関する判定結果を出力する処理である。
この判定処理については、後に説明する。
品質評価装置4は、断面102aの腐食状態及び研磨状態に関する判定結果として、「合格」、又は「不合格」のいずれかを示す情報を作業者に対して出力する。
品質評価装置4から出力される判定処理の結果が「不合格」を示す場合、作業者は、再度、試料の研磨及び腐食(図2中、ステップS2)を行い、順次、作業をやり直す。
一方、品質評価装置4から出力される判定処理の結果が「合格」を示す場合、作業者は、上記試料106の顕微鏡画像を撮像する(図2中、ステップS6)。
ここで撮像される顕微鏡画像は、品質評価処理に用いる画像である。品質評価処理では、顕微鏡画像の撮像範囲よりも広い範囲の金属組織を撮像した画像が必要な場合がある。この場合、ステップS6では、顕微鏡画像の撮像範囲よりも広い範囲を撮像対象範囲とする。この撮像対象範囲を顕微鏡画像の撮像範囲に応じて複数に分割し、複数の分割範囲を撮像した複数の顕微鏡画像を得る。より具体的には、浸炭層は、断面102aにおける軌道面102a1(図3)から、軌道面102a1の直下1mm~3mm程度の深さまでの範囲に存在している。よって、軌道面102a1の輪郭に沿って浸炭層を含むように撮像対象範囲を定め、軌道面102a1の輪郭に沿って撮像対象範囲を分割し、複数の顕微鏡画像を得る。
図2中、ステップS6にて撮像された顕微鏡画像は、品質評価装置4に与えられる。
複数の顕微鏡画像が与えられた品質評価装置4のプロセッサ5は、複数の顕微鏡画像を記憶装置6に記憶し、品質評価処理5eを実行する(図1、及び図2中、ステップS7)。
図4は、品質評価処理の一例を示すフローチャートである。
複数の顕微鏡画像とともに品質評価処理を行う旨の命令が与えられると、プロセッサ5は、品質評価処理5eを開始し、品質評価の対象となる領域の領域画像を取得する(図4中、ステップS10)。
領域画像は、与えられた複数の顕微鏡画像から取得される。プロセッサ5は、複数の顕微鏡画像同士を繋げ、撮像対象範囲全体を示す画像を生成する。プロセッサ5は、撮像対象範囲全体を示す画像から、断面102aにおける浸炭層の部分の画像を領域画像として取得する。
図5(a)は、撮像対象範囲全体を示す画像の一例であり、図5(b)は、撮像対象範囲全体を示す画像から取得された領域画像の一例である。
図5(a)では、軌道面102a1の輪郭に沿って、軌道面102a1から深さ方向に数100μmの範囲で断面102aが撮像されている。
プロセッサ5は、例えば、図5(a)中、軌道面102a1から深さ方向に50~100μm進んだ地点付近における帯状の領域を領域画像として取得する。領域画像の深さ方向の幅寸法は50~100μm程度である。
領域画像を取得すると、プロセッサ5は、領域画像についてグレースケール画像とした後、画像処理を行う(図4中、ステップS11)。
画像処理には、前処理と、明側画像と暗側画像とを生成する処理とが含まれる。
前処理は、グレースケール画像に変換された領域画像に含まれるノイズを除去する処理と、領域画像に撮像されている結晶粒の輪郭を明確にする処理とが含まれる。
領域画像は、複数の顕微鏡画像同士を繋げたものであるため、輝度値(明度)が周期的に変動する。ノイズを除去する処理では、このような周期的な明度の変動となって現れるノイズを、領域画像を構成する各画素の明度を補正することで除去する。
また、結晶粒の輪郭を明確にする処理では、領域画像を構成する各画素の明度と、その出現頻度とに基づくヒストグラムの累積度数の傾きが一定になるように、各画素の明度を補正する。
上記画像処理を終えると、プロセッサ5は、明側画像と暗側画像とを生成する処理を実行する。
図6(a)は、領域画像の一部を示す図、図6(b)は、この領域画像から生成された暗側画像の図、図6(c)は、この領域画像から生成された明側画像の図である。
暗側画像は、領域画像中の組織粒が暗いオブジェクト(黒のオブジェクト)として示され、その他が明るい領域(白い領域)として示される画像である。
明側画像は、領域画像中の組織粒が明るいオブジェクト(白のオブジェクト)として示され、その他が暗い領域(黒の領域)として示される画像である。
暗側画像(図6(b))において暗いオブジェクトとして示される粒と、明側画像(図6(c))において明るいオブジェクトとして示される粒とは、別の粒を示している。
暗いオブジェクト(暗い領域)は、前記エッチングによる腐食が進んでいる領域であり、明るいオブジェクト(明るい領域)は、前記エッチングによる腐食が進んでいない領域である。
明側画像及び暗側画像は、プロセッサ5によって以下のように生成される。
まず、前処理を行ったグレースケール画像(図6(a))から、ヒストグラムを生成する。このヒストグラムは、領域画像を構成する各画素の明度と、その出現頻度とに基づくヒストグラムである。
図7は、上記ヒストグラムの一例を示す図であり、横軸は、明度(0~255)であり、縦軸が、出現頻度である。図7には、明度毎(階調毎)の累積度数を示す曲線Lについても示されている。
明側画像及び暗側画像を生成するために、明度に対して、第1閾値と、第2閾値とが、予め設定される。
図7に示すヒストグラムにおいて、暗い側(明度0)からの累積比率が第1設定値となる明度が、第1閾値として設定される。前記第1設定値は、例えば30%以上、50%以下の値が採用される。例えば、第1設定値として40%が採用される場合、図7に示すヒストグラムでは、暗い側(明度0)からの累積比率が40%となる明度(ここでは明度「100」であるとする)が、第1閾値として設定される。
また、図7に示すヒストグラムにおいて、明るい側(明度255)からの累積比率が第2設定値となる明度が、前記第2閾値として設定される。第2設定値は、例えば10%以上、30%以下の値が採用される。例えば、第2設定値として20%が採用される場合、図7に示すヒストグラムでは、明るい側(明度255)からの累積比率が20%となる明度(ここでは明度「180」であるとする)が、第2閾値として設定される。第2閾値は第1閾値よりも大きな値となる。
前処理が行われた領域画像(図6(a))の各画素のうち、明度が第1閾値以下(明度が100以下)の画素は、暗いオブジェクトを構成する要素とされる。これに対して、明度が第2閾値を超える(明度が180を超える)画素は、明るいオブジェクトを構成する要素とされる。これにより、領域画像(図6(a))から、前記第1閾値以下の画素は黒であってその他の領域は白となる暗側画像(図6(b))が生成される。また、領域画像(図6(a))から、第2閾値を超える領域は白であってその他の領域は黒となる明側画像(図6(c))が生成される。
以上のようにして、プロセッサ5は、領域画像に基づいて、明側画像と暗側画像とを生成する。
明側画像及び暗側画像を生成すると、プロセッサ5は、明側画像及び暗側画像に基づいて特徴量の算出を行う(図4中、ステップS12)。
図6(b)に示すように、暗側画像は、組織粒が暗いオブジェクト(黒のオブジェクト)として示される画像である。プロセッサ5は、暗側画像(図6(b))に含まれる複数のオブジェクトの暗側特徴量を求める。
図6(c)に示すように、明側画像は、組織粒が明るいオブジェクト(白のオブジェクト)として示される画像である。プロセッサ5は、明側画像(図6(c))に含まれる複数のオブジェクトの明側特徴量を求める。
図8は、暗側画像(図6(b))に含まれる暗いオブジェクトの一つを示す説明図である。図9は、明側画像(図6(c))に含まれる明るいオブジェクトの一つを示す説明図である。明側画像及び暗側画像それぞれから、複数のオブジェクトが抽出される。抽出されるオブジェクトは、所定の面積を有する一つの塊部分である。なお、面積が閾値よりも小さいオブジェクト、及び、面積が閾値よりも大きいオブジェクトについては、抽出するオブジェクトから除外される。暗側画像から抽出された各オブジェクトの暗側特徴量が求められる。明側画像から抽出された各オブジェクトの明側特徴量が求められる。
暗側特徴量の例として、暗いオブジェクトの、長軸、短軸、角度、円形度、明度の最大値、歪度、ピクセル数、アスペクト比、調密度等が挙げられる。
明側特徴量の例として、明るいオブジェクトの明度の最大値、長軸、角度、円形度、明度の中央値、尖度、歪度、ピクセル数、アスペクト比等が挙げられる。
図8及び図9に示すように、長軸はオブジェクトの最大寸法であり、短軸は長軸に直交する方向の最大寸法である。角度は、前記幅方向に対する長軸の傾き角度である。円形度は「4π×(オブジェクトの面積)/(オブジェクトの周囲長)^2」の計算値である。アスペクト比は「長軸/短軸」の計算値である。調密度は「(オブジェクトの面積)/(オブジェクトを囲む最小の四角形の面積)」の計算値である。明度の中央値は次のとおりである。「グレースケール画像(図6(a))における、特徴量を求める対象となるオブジェクトについて、横軸を明度とし縦軸を頻度としたヒストグラムを作成した場合に、そのヒストグラムの中央値」。明度の最大値は次のとおりである。「前記ヒストグラムを作成した場合に、そのヒストグラムの最大値」。歪度及び尖度は、前記ヒストグラムの形状から算出される値である。
明側画像及び暗側画像に基づいて明側特徴量及び暗側特徴量の算出を行うと、プロセッサ5は、複数のオブジェクトそれぞれの明側特徴量及び暗側特徴量を正規化し、正規化した明側特徴量及び暗側特徴量に基づいて炭素濃度、残留オーステナイト量、硬さ等の物性値の推定値を演算する(図4中、ステップS13)。
プロセッサ5は、記憶装置6の品質評価モデル6cを参照し、物性値の推定値を演算する。
品質評価モデル6cには、上述したように、炭素濃度推定用モデル、残留オーステナイト量推定用モデル、及び、硬さ推定用モデルが含まれる。
これら各モデルは、明側特徴量及び暗側特徴量に基づいて、炭素濃度の推定値、残留オーステナイト量の推定値、及び、硬さの推定値を求めるための演算式である。各モデルは、明側特徴量及び暗側特徴量と、各推定値とが対応付けられた教師データを用いて機械学習されたモデルである。
プロセッサ5は、図4中のステップS12にて求めた明側特徴量及び暗側特徴量をデータセットとして用い、各推定値を演算し、入出力部7を通じて出力し、品質評価処理を終える。
〔判定処理について〕
図2中、ステップS3によって撮像された顕微鏡画像が与えられた品質評価装置4は、顕微鏡画像を記憶装置6に記憶し、判定処理を実行する(図2中、ステップS4)。
図10は、判定処理の一例を示すフローチャートである。
上述したように、判定処理は、組織観察用腐食液によって腐食された金属表面である試料106の断面102aの腐食状態及び研磨状態を判定し、断面102aの腐食状態及び研磨状態に関する判定結果を出力する処理である。
判定処理において、まず、プロセッサ5は、取得処理5a(図1)を実行し、与えられた顕微鏡画像から判定対象となる対象画像を取得する(図10中、ステップS21)。
対象画像とは、断面102aの腐食状態及び研磨状態の判定対象となる画像である。
対象画像は、顕微鏡画像に含まれる断面102aの部分の画像であればよいが、図6中、ステップS10における領域画像と同様、断面102aにおける浸炭部分の画像を対象画像として取得することが好ましい。
対象画像を取得すると、プロセッサ5は、腐食状態判定処理5b(図1)を実行し、対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値(明度又は暗度)と、その出現頻度とに基づくヒストグラムから判定値を求め、求めた判定値と、判定値に対して設定された閾値とを比較する。なお、本実施形態では、判定値として、前記ヒストグラムから求めることができる最頻値を用い(図10中、ステップS22)、求めた最頻値と、最頻値に対して設定された最頻値閾値(上限値Th1、下限値Th2)とを比較する(ステップS23)。
より具体的に、プロセッサ5は、最頻値が下限値Th2以上、かつ、上限値Th1以下であるか否かを判定する(ステップS23)。
最頻値に対して設定される上限値Th1及び下限値Th2は、評価対象部材の材質に応じて設定される。例えば、本実施形態の評価対象部材の材質(低炭素合金鋼又は低炭素鋼)の場合、上限値Th1は185、下限値Th2は70に設定されている。
これら上限値Th1及び下限値Th2は、以下のように設定される。
すなわち、腐食の状態が異なる断面102aの対象画像を複数取得し、各対象画像の輝度値に基づくヒストグラムの最頻値を求めた。さらに、各対象画像を用いて炭素濃度の推定値を求めるとともに、各対象画像について炭素濃度の実測値と推定値との差異を求め、各対象画像の差異と、各対象画像に対応するヒストグラムの最頻値とに基づいて、上限値Th1及び下限値Th2を設定した。
図11は、評価対象部材を用いて作製した試料106を鏡面研磨した後、異なる腐食時間で腐食させた断面102aの対象画像を示す図である。
各対象画像は、同じ試料106を同じ条件で鏡面研磨し、異なる腐食時間で腐食させた断面102aを撮像した画像である。また、腐食には3%のナイタール液を用い、各画像を取得する際の顕微鏡2の光源の輝度は一定として対象画像を取得した。
図11では、紙面左側より順判に、腐食時間1秒、3秒、5秒、7秒、10秒の対象画像を示している。図11に示すように、腐食時間が長くなればなるほど断面102aの腐食が進行しており、断面102aにおける組織粒が濃く現れている。
図12は、これら対象画像それぞれの輝度値(明度)に基づくヒストグラムを示す図である。図12中、横軸は対象画像を構成する各画素の輝度値である明度を示す。縦軸は各明度の出現頻度を示す。明度は、上述したように、0から255の256階調であるものとする。
図12中、ヒストグラムH1は腐食時間1秒の対象画像に対応するヒストグラム、ヒストグラムH3は腐食時間3秒の対象画像に対応するヒストグラム、ヒストグラムH5は腐食時間5秒の対象画像に対応するヒストグラム、ヒストグラムH7は腐食時間7秒の対象画像に対応するヒストグラム、ヒストグラムH10は腐食時間10秒の対象画像に対応するヒストグラムを示している。
図12中、ヒストグラムH1の最頻値は189、ヒストグラムH3の最頻値は183、ヒストグラムH5の最頻値は133、ヒストグラムH7の最頻値は73、ヒストグラムH10の最頻値は23である。
このように、腐食の状態が異なる断面102aの対象画像(ヒストグラムの最頻値が異なる対象画像)を複数取得し、さらに、各対象画像を用いて品質評価処理5e(図1)を行い、各対象画像による炭素濃度の推定値を求めた。
次いで、断面102aに対してEPMAによる定量分析によって炭素濃度を実測し、実測値と各推定値との差異を求め、各ヒストグラム(各対象画像)について、実測値と推定値との差異と、最頻値とを対応付け、最頻値に対する上限値Th1及び下限値Th2を設定した。なお、図12に示した対象画像の断面102a(の浸炭部分)の炭素濃度の実測値は、0.8であった。
図13は、各ヒストグラムの最頻値と、各ヒストグラムに対応する対象画像による炭素濃度の推定値と実測値との差異との関係を示した図である。図13中、横軸はヒストグラムの最頻値を示す。縦軸は炭素濃度の推定値と実測値との差異の実測値に対する割合(%)を表している。
図13中、最頻値が189である黒丸群P1は、ヒストグラムH1に対応する対象画像による差異を示している。最頻値が183である黒丸群P3は、ヒストグラムH3に対応する対象画像による差異を示している。最頻値が133である黒丸群P5は、ヒストグラムH5に対応する対象画像による差異を示している。最頻値が73である黒丸群P7は、ヒストグラムH7に対応する対象画像による差異を示している。最頻値が23である黒丸群P10は、ヒストグラムH10に対応する対象画像による差異を示している。
図13に示すように、ヒストグラムH3、H5、H7に対応する対象画像による差異は、±0.1%以内である一方、ヒストグラムH1、H10に対応する対象画像による差異は、±0.1%を超えている。
この結果に基づいて、最頻値に対する上限値Th1は185に設定され、下限値Th2は70に設定されている。
これにより、対象画像の輝度値に基づくヒストグラムの最頻値が下限値Th2以上かつ上限値Th1以下であれば、その対象画像による炭素濃度の推定値の実測値に対する差異が±0.1%以内となる。
図10中のステップS23において、図10中ステップS21にて取得した対象画像の輝度値に基づくヒストグラムの最頻値が上限値Th1と下限値Th2との間の値でないと判定すると、腐食状態判定処理5b(図1)を実行するプロセッサ5は、図10中のステップS25へ進み、入出力部7を介して「不合格」を示す情報を作業者に対して出力し、判定処理を終える。
この場合、判定結果が「不合格」なので、図2中、ステップS5で説明したように、作業者は、再度、試料の研磨及び腐食(図2中、ステップS2)を行い、順次、作業をやり直す。
一方、図10中ステップS21にて取得した対象画像の輝度値に基づくヒストグラムの最頻値が下限値Th2以上、上限値Th1以下であると判定すると、プロセッサ5は、図10中のステップS24へ進む。
この場合、プロセッサ5は、図10中ステップS21において取得した対象画像の断面102aの腐食状態を「合格」と判定する。プロセッサ5は、後の図10中ステップS27の判定結果が肯定的であれば、「合格」を示す情報を作業者に対して出力する。
本実施形態のプロセッサ5は、図10中のステップS23において、判定値としての最頻値に応じて、「合格」を示す情報、又は「不合格」を示す情報を作業者に出力する。つまり、プロセッサ5は、腐食状態判定処理5bにおいて、対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とによるヒストグラムから得られる最頻値(判定値)に基づいて、断面102aの腐食状態に関する判定結果を出力する。
断面102aを組織観察用腐食液によって腐食すると、断面102aには、組織に対応した明度(暗度)コントラストが生じる。よって、対象画像を構成する各画素の輝度値には、腐食の状態の影響が及ぶ。
よって、上記構成によれば、腐食の状態の影響が及ぶ輝度値に基づくヒストグラムから得られる最頻値に基づいて断面102aの腐食状態を判定するので、断面102aの腐食状態を定量的に判定した判定結果を出力することができる。この結果、断面102aの腐食状態を適切に判定することができる。
また、顕微鏡2の光源の輝度も対象画像を構成する各画素の輝度値に影響を及ぼす可能性があるが、本実施形態では、光源の輝度による影響も含めた状態の断面102aの腐食状態を判定することができる。
また、上記構成では、ヒストグラムから得られる最頻値と、上限値Th1及び下限値Th2と、を比較することで断面102aの腐食状態を判定するので、上限値Th1及び下限値Th2の設定によって、腐食状態の判定を適切に行うことができる。つまり、最頻値が、品質評価処理5e(図1)にとって好適となるように、上限値Th1及び下限値Th2を設定すれば、品質評価処理5eにとって好適な腐食状態か否かを判定することができる。
図10中のステップS24へ進むと、プロセッサ5は、画像生成処理5c(図1)を実行し、図10中のステップS21にて取得した対象画像に基づいて明側画像を生成する(図10中、ステップS24)。
明側画像とは、図4中のステップS11の画像処理において生成される明側画像と同じ画像である。
プロセッサ5は、図4中のステップS11の画像処理と同様の処理によって、明側画像を生成する(図10中、ステップS24)。
本実施形態では、図10中、ステップS24において明側画像を生成するが、明側画像に代えて暗側画像を生成してもよい。
明側画像を生成すると、プロセッサ5は、研磨状態判定処理5dを実行し、画像生成処理5cによって生成される明側画像に含まれる複数のオブジェクトの扁平度を示す値としてアスペクト比を求める(ステップS26)。プロセッサ5は、例えば、複数のオブジェクトそれぞれのアスペクト比を正規化し、正規化したアスペクト比を用いて処理する。
プロセッサ5は、求めたアスペクト比と、アスペクト比に対して設定された上限値とを比較する(ステップS27)。
より具体的に、プロセッサ5は、アスペクト比が上限値Th3以下であるか否かを判定する(ステップS27)。
アスペクト比に対して設定される扁平度閾値である上限値Th3は、以下のように設定される。
すなわち、研磨状態が異なる断面102aの対象画像を複数取得し、各対象画像の明側画像に含まれるオブジェクトのアスペクト比を求めた。さらに、各対象画像を用いて炭素濃度の推定値を求めるとともに、各対象画像について炭素濃度の実測値と推定値との差異を求め、各対象画像の差異と、各対象画像の明側画像に含まれるオブジェクトのアスペクト比とに基づいて、上限値Th3を設定した。
図14は、評価対象部材を用いて作製した試料106を異なる研磨条件で研磨した後、腐食させた断面102aの対象画像を示す図である。
各対象画像G1、G2、G3、G4、G5は、以下に示す条件によって試料106を研磨した後、3%のナイタール液に断面102aを5秒浸漬し、顕微鏡2の光源の輝度を一定として取得された対象画像である。
研磨条件
対象画像G1:耐水ペーパーによる研磨(220番 10秒、400番 10秒、800番 10秒、2000番 10秒) → ダイヤモンド研磨 30秒

対象画像G2:耐水ペーパーによる研磨(220番 10秒、400番 10秒、800番 10秒、2000番 10秒) → ダイヤモンド研磨 120秒 → 耐水ペーパー2000番 10秒 → ダイヤモンド研磨 120秒

対象画像G3:耐水ペーパーによる研磨(220番 10秒、400番 10秒、800番 10秒、2000番 10秒) → ダイヤモンド研磨 10秒

対象画像G4:耐水ペーパーによる研磨(220番 10秒、400番 10秒、800番 10秒、2000番 10秒)

対象画像G5:耐水ペーパーによる研磨(220番 10秒、400番 10秒、800番 10秒、2000番 3秒)
対象画像G1の研磨条件は、通常の研磨条件である。対象画像G2の研磨条件は、ダイヤモンド研磨を行ってから再度耐水ペーパー2000番で研磨し、さらにダイヤモンド研磨を行うことで、断面102aにピットと呼ばれる微小な孔状の欠陥を故意に生じさせている。対象画像G3の研磨条件は、通常の研磨条件に対してダイヤモンド研磨の時間を短縮している。対象画像G4の研磨条件は、通常の研磨条件に対してダイヤモンド研磨を省略している。対象画像G5の研磨条件は、通常の研磨条件に対してダイヤモンド研磨を省略し、さらに、耐水ペーパー2000番による研磨時間を短縮している。対象画像G3、G4、G5は、研磨が不足している状態を再現した条件である。
ここで、研磨状態とは、研磨痕等による研磨面の性状であり、上述の各研磨条件によって、互いに異なる研磨状態の断面102aが得られる。
上記のように、研磨状態が異なる断面102aの対象画像を複数取得し、各対象画像の明側画像に含まれる複数のオブジェクトのアスペクト比を求めた。
さらに、各対象画像を用いて品質評価処理5e(図1)を行い、各対象画像による炭素濃度の推定値を求めた。
次いで、炭素濃度の実測値と各推定値との差異を求め、各対象画像について、実測値と推定値との差異と、アスペクト比とを対応付け、アスペクト比に対する上限値Th3を設定した。
図15は、明側画像に含まれるオブジェクトのアスペクト比と、各対象画像による炭素濃度の推定値と実測値との差異との関係を示した図である。図15中、横軸は明側画像に含まれるオブジェクトのアスペクト比を示す。縦軸は炭素濃度の推定値と実測値との差異の実測値に対する割合を表している。
図15中、黒丸群P10は、対象画像G5によるアスペクト比、及び差異を示している。黒丸群P11は、対象画像G4によるアスペクト比、及び差異を示している。黒丸群P12は、対象画像G1、G2、G3によるアスペクト比、及び差異を示している。
図15に示すように、対象画像G5によるアスペクト比は、約4である。また、対象画像G5による炭素濃度の実測値と推定値との差異は、0.1%以上である。
対象画像G4によるアスペクト比は、約3である。また、対象画像G4による炭素濃度の実測値と推定値との差異は、0.1%以上である。
また、対象画像G1、G2、G3によるアスペクト比は、約2である。また、対象画像G1、G2、G3による炭素濃度の実測値と推定値との差異は、0.05%以下である。
この結果に基づいて、明側画像に含まれるオブジェクトのアスペクト比に対する上限値Th3は2.5に設定されている。つまり、アスペクト比の許容範囲を2.5以内に設定している。
これにより、対象画像に含まれるオブジェクトのアスペクト比がこの上限値Th3以下であれば、その対象画像による炭素濃度の推定値の実測値に対する差異が0.05%以下となる。
図10中のステップS27において、図10中ステップS21において取得した対象画像に含まれるオブジェクトのアスペクト比が上限値Th3以下ではないと判定すると、プロセッサ5は、図10中のステップS25へ進み、入出力部7を介して「不合格」を示す情報を作業者に対して出力し、判定処理を終える。
この場合、判定結果が「不合格」なので、図2中、ステップS5で説明したように、作業者は、再度、試料の研磨及び腐食(図2中、ステップS2)を行い、順次、作業をやり直す。
一方、対象画像に含まれるオブジェクトのアスペクト比が上限値Th3以下であると判定すると、プロセッサ5は、図10中のステップS28へ進み、入出力部7を介して「合格」を示す情報を作業者に対して出力し、判定処理を終える。
この場合、判定結果が「合格」なので、図2中、ステップS5で説明したように、作業者は、品質評価処理のための顕微鏡画像を撮像し(図2中、ステップS6)、その後、顕微鏡画像が与えられた品質評価装置4のプロセッサ5は、品質評価処理5eを実行する(図1及び図2中、ステップS7)。
以上のように、プロセッサ5は、判定処理を行うことで、断面102aの腐食状態及び研磨状態を判定し、断面102aの腐食状態及び研磨状態について「合格」を示す情報、又は「不合格」を示す情報を作業者に出力する。
これにより、断面102aの腐食状態及び研磨状態が良好である場合には、品質評価処理5eを実行し、断面102aの腐食状態及び研磨状態が良好でない場合には、「不合格」を示す情報を出力することで、作業者に試料の研磨及び腐食を再度行わせることができ、腐食状態及び研磨状態が良好でない断面102aを用いて品質評価処理5eが実行されるのを抑制することができる。
本実施形態のプロセッサ5は、研磨状態判定処理5d(図1、図10のステップS27)において、オブジェクトのアスペクト比に応じて、「合格」を示す情報、又は「不合格」を示す情報を作業者に出力する。つまり、プロセッサ5は、研磨状態判定処理5dにおいて、画像生成処理5cによって生成される明側画像に含まれるオブジェクトの扁平度を示す値であるアスペクト比に基づいて、断面102aの研磨状態に関する判定結果を出力する。
断面102aに研磨痕が存在すれば、明側画像には研磨痕がオブジェクトとして現れる。研磨痕は線状であるので、研磨痕によるオブジェクトのアスペクト比は、組織粒のアスペクト比と比較して大きくなる。
画像生成処理5c(図1)によって生成される明側画像に含まれるオブジェクトの中に、研磨痕によるオブジェクトが数多く存在すると、オブジェクトのアスペクト比も相対的に大きくなる。つまり、オブジェクトのアスペクト比は、研磨痕の量を示している。
上記構成によれば、研磨時の研磨痕の有無による影響が及ぶオブジェクトのアスペクト比に基づいて、断面102aの研磨状態に関する判定結果を出力するので、断面102aの研磨状態を定量的に判定することができる。この結果、断面102aの研磨状態を適切に判定することができる。
また、本実施形態では、プロセッサ5は、対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値と、その出現頻度とによるヒストグラムから得られる最頻値(判定値)に基づいて断面102aの腐食状態を判定する腐食状態判定処理5bを実行し、腐食状態判定処理5bの判定結果が「不合格」でない場合(腐食状態判定処理5bの判定結果が「合格」である場合)に、画像生成処理5c及び研磨状態判定処理5dを実行する。これにより、断面102aの腐食状態を定量的に評価した後、断面102aの研磨状態を定量的に評価することができる。
また、上記構成によれば、腐食状態判定処理5b及び研磨状態判定処理5dの判定結果が共に「不合格」でない場合(「合格」である場合)、プロセッサ5は、品質評価処理5eを実行し、顕微鏡画像から領域画像を取得し、領域画像に基づくグレースケール画像から、断面102aの組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、断面102aの組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成し、前記明側画像、及び前記暗側画像に基づいて、切断片102の物性値の推定値を求める。
上記構成によれば、断面102aの腐食状態及び研磨状態を定量的に判定することができるので、断面102aの腐食状態及び研磨状態を適切に判定することができる。この結果、例えば、断面102aの腐食状態又は研磨状態が不良な顕微鏡画像については、品質評価処理に用いないようにすることができ、物性値の推定精度の低下を抑制することができる。
〔変形例について〕
図16は、変形例に係る判定処理のフローチャートの一部を示す図である。
本変形例のプロセッサ5は、腐食状態判定処理5b(図1、図10中、ステップS23)において、判定値として、対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値に基づくヒストグラムから得られる最頻値に加え、前記ヒストグラムから得られる標準偏差を用いる点において、上記実施形態と相違する。
なお、図16では、図10と異なる内容のステップであるステップS22、S23のみを示している。他のステップS21、S24~S28は、図10と同様である。
本変形例では、プロセッサ5は、図16中のステップS22において、ヒストグラムの最頻値とともに標準偏差を求める。
次いで、プロセッサ5は、腐食状態判定処理5bにおいて、最頻値が下限値Th2以上、上限値Th1以下であるとともに、標準偏差が下限値Th4以上か否かを判定する(図16中、ステップS23)。
最頻値が下限値Th2以上かつ上限値Th1以下でないか、又は、標準偏差が下限値Th4以上でない場合、プロセッサ5は、ステップS25(図10)へ進み、入出力部7を介して「不合格」を示す情報を作業者に対して出力し、判定処理を終える。
一方、 最頻値が下限値Th2以上、上限値Th1以下であるとともに、標準偏差が下限値Th4以上である場合、プロセッサ5は、ステップS24(図10)へ進み、処理を継続する。
標準偏差に対して設定される標準偏差閾値である下限値Th4は、最頻値と同様、評価対象部材の材質に応じて設定される。例えば、本実施形態の評価対象部材の材質(低炭素合金鋼又は低炭素鋼)の場合、下限値Th4は15に設定されている。
下限値Th4は、以下のように設定される。
すなわち、図12中、ヒストグラムH1、H3、H5、H7、H10それぞれの標準偏差を求め、各ヒストグラムについて、標準偏差と、対象画像による炭素濃度の推定値と実測値との差異とに基づいて下限値Th4を設定する。
図12におけるヒストグラムH1の標準偏差は10.56、ヒストグラムH3の標準偏差は15.27、ヒストグラムH5の標準偏差は20.39、ヒストグラムH7の標準偏差は24.19、ヒストグラムH10の標準偏差は15.45である。
この結果に基づいて、標準偏差に対する下限値Th4は15に設定されている。
標準偏差の値が小さければ小さいほど、ヒストグラムのピーク幅が狭くなる。よって、標準偏差の値が小さければ小さいほど、対象画像に含まれる明るさの階調のばらつきが小さく、階調で表されるデータ量が少ないと言える。このため、標準偏差に下限値を設けることで、対象画像に含まれる明るさのばらつきを相対的に多くすることができ、階調で表されるデータ量を一定量確保することができ、研磨状態判定処理5dによる断面102aの研磨状態をより適切に行うことができる。
また、本実施形態では、判定値として、前記ヒストグラムの最頻値と、標準偏差とを含んでおり、観点の異なる2つの判定値を用いることで、断面102aの腐食状態をより適切に判定することができる。
なお、上記実施形態では、判定値として、対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値に基づくヒストグラムから得られる最頻値のみを用い、上記変形例では、判定値として前記最頻値及び前記ヒストグラムから得られる標準偏差を用いた場合を例示したが、判定値として標準偏差のみを用いることもできる。
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。
例えば、上記実施形態のプロセッサ5が、研磨状態判定処理5d(図1、図10中、ステップS27)において、明側画像に含まれるオブジェクトの扁平度を示す値として、アスペクト比を用いた場合を例示したが、アスペクト比に代えて、オブジェクトの円形度を用いることもできるし、オブジェクトの長軸を用いることもできる。また、これらの中から選択される複数の値を、オブジェクトの扁平度を示す値として研磨状態判定処理5dに用いてもよい。
なお、研磨痕によるオブジェクトの長軸は、組織粒のオブジェクトの長軸と比較して非常に大きい。よって、オブジェクトの扁平度を示す値であるオブジェクトの長軸によって、研磨痕の存在を判定することができる。
また、上記実施形態では、品質評価装置4のプロセッサ5が、取得処理5a、腐食状態判定処理5b、画像生成処理5c、研磨状態判定処理5d、及び品質評価処理5eを実行する場合を例示したが、プロセッサ5に、品質評価処理5e以外の各処理を実行させることで、品質評価装置4を腐食状態及び研磨状態を判定する判定装置とすることもできる。
また、プロセッサ5に、取得処理5a及び腐食状態判定処理5bのみを実行させることで、品質評価装置4を腐食状態判定装置とすることもできる。
この場合、プロセッサ5は、腐食状態判定処理5bにおいて、対象画像の輝度値に基づくヒストグラムから得られる最頻値に基づいて、「合格」を示す情報、又は「不合格」を示す情報を作業者に出力する。
また、品質評価装置4を腐食状態判定装置として用いる場合、評価対象部材の材質としては、例えば、ステンレス鋼やアルミニウム合金等、低炭素合金鋼又は低炭素鋼以外の他の金属の腐食状態又は研磨状態の判定を行うことができる。
さらにこの場合、閾値データ6bが、上限値Th1、下限値Th2及び下限値Th4を含む閾値セットを複数含んでいる。複数の閾値セットは、判定可能な複数の材質それぞれに対応している。プロセッサ5は、入出力部7を用いて評価対象部材の材質の入力を作業者から受け付ける受付処理を実行し、複数の閾値セットの中から受付処理によって受け付けた評価対象部材の材質に対応する閾値セットを選択する。プロセッサ5は、選択した閾値セットに含まれる上限値Th1、下限値Th2及び下限値Th4を用いて腐食状態判定処理5bを行う。これにより、種々の金属の腐食状態の判定を行うことができる。
また、上記実施形態では、図2に示すように、判定処理の判定結果が「合格」である場合、作業者は、判定処理に用いた顕微鏡画像とは別に、品質評価処理に用いる顕微鏡画像を新たに撮像する場合を例示したが、例えば、判定処理に用いた顕微鏡画像を品質評価処理に用いる顕微鏡画像として用いてもよい。
この場合、プロセッサ5は、判定処理の判定結果が「合格」と判定すると、判定処理に用いた顕微鏡画像を用いて品質評価処理5eを実行することができる。
本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
1 品質評価システム
2 顕微鏡
3 カメラ
4 品質評価装置
5 プロセッサ
5a 取得処理
5b 腐食状態判定処理
5c 画像生成処理
5d 研磨状態判定処理
5e 品質評価処理
6 記憶装置
6a 顕微鏡画像
6b 閾値データ
6c 品質評価モデル
7 入出力部
100 軌道輪
102 切断片
102a 断面
102a1 軌道面
106 試料
106a 観察面
255 明度
G1 対象画像
G2 対象画像
G3 対象画像
G4 対象画像
G5 対象画像
H1 ヒストグラム
H10 ヒストグラム
H3 ヒストグラム
H5 ヒストグラム
H7 ヒストグラム
L 曲線
P1 黒丸群
P10 黒丸群
P11 黒丸群
P12 黒丸群
P3 黒丸群
P5 黒丸群
P7 黒丸群

Claims (6)

  1. 組織観察用腐食液によって腐食された金属表面の顕微鏡画像から判定対象となる対象画像を取得する取得処理と、
    前記対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とに基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、前記金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力する腐食状態判定処理と、
    を実行する処理部を備える
    腐食状態判定装置。
  2. 前記判定値は、前記ヒストグラムの最頻値、又は前記ヒストグラムの標準偏差の少なくともいずれかを含む
    請求項1に記載の腐食状態判定装置。
  3. 前記判定値が前記ヒストグラムの最頻値を含む場合、前記腐食状態判定処理では、前記ヒストグラムの最頻値と、前記ヒストグラムの最頻値に対して設定された最頻値閾値と、を比較することで、前記金属表面の腐食状態を判定する
    請求項2に記載の腐食状態判定装置。
  4. 前記判定値が前記ヒストグラムの標準偏差を含む場合、前記腐食状態判定処理では、前記ヒストグラムの標準偏差と、前記ヒストグラムの標準偏差に対して設定された標準偏差閾値と、を比較することで、前記金属表面の腐食状態を判定する
    請求項2に記載の腐食状態判定装置。
  5. 組織観察用腐食液によって腐食された金属表面の腐食状態を判定する腐食状態判定方法であって、
    前記金属表面の顕微鏡画像から判定対象となる対象画像を取得し、
    前記対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とに基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、前記金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力する
    腐食状態判定方法。
  6. 組織観察用腐食液によって腐食された金属表面の顕微鏡画像に基づいて前記金属の品質評価を行う品質評価装置であって、
    前記顕微鏡画像から前記金属表面の腐食状態の判定対象となる対象画像を取得する取得処理と、
    前記対象画像を構成する各画素の明るさを表す輝度値とその出現頻度とに基づくヒストグラムから得られる判定値に基づいて、前記金属表面の腐食状態に関する判定結果を出力する腐食状態判定処理と、
    前記腐食状態判定処理の判定結果が所定の条件を満たす場合、前記顕微鏡画像から品質評価対象となる領域の領域画像を取得し、前記領域画像に基づくグレースケール画像から、前記金属の組織の粒が明るいオブジェクトとして示されその他が暗い領域として示される明側画像と、前記金属の組織の粒が暗いオブジェクトとして示されその他が明るい領域として示される暗側画像と、を生成し、前記明側画像、及び前記暗側画像に基づいて、前記金属の物性値の推定値を求める品質評価処理と、
    を実行する処理部を備える
    品質評価装置。
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