JP2022162741A - イネ科長日植物の茎葉収量及び種子収量の増加方法 - Google Patents

イネ科長日植物の茎葉収量及び種子収量の増加方法 Download PDF

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Abstract

【課題】イネ科長日植物の茎葉収量及び種子収量を増加させる方法を提供する。【解決手段】イネ科長日植物において、PRR3/7クレード遺伝子の機能抑制により、茎葉収量及び種子収量を増加させる方法。【選択図】なし

Description

本発明は、イネ科長日植物の茎葉収量及び種子収量の増加方法に関する。
イネ科植物において、出穂特性は環境適応性や生育の安定性に深くかかわる特性の一つである。高収量を実現するためには、栽培期間中の季節変化に対して、生長・発育パターンを合わせる必要がある。出穂時期の促進や遅延は、気温等の環境要因も関係するが、低温要求性、日長反応性、純粋早晩性といった遺伝的要因が関係していることが知られている。例えば、イネ科長日植物であるオオムギにおいて、花成制御遺伝子の一種である日長反応性遺伝子Ppd-H1が出穂の促進に関与していることが非特許文献1に記載されている。オオムギにおいて、Ppd-H1をノックダウンさせると、出穂が遅くなることが明らかとなっている。イネ科短日植物のイネ及びソルガムでは対照的に、Ppd-H1オーソログをノックアウトさせると出穂が早くなることが明らかとなっている(非特許文献2、3)。
また、コムギ栽培品種の自然変異ではPpd-D1のプロモーター領域が欠失することで、Ppd-D1発現の概日リズムに変化が生じることが知られている(非特許文献4)。当該品種では出穂日が早くなることが明らかとなっている。さらに、GIGANTEA(GI)、FLOWERING LOCUS T (FT)も花成制御遺伝子の一種として知られる。イネのGI過剰発現株は出穂日が遅くなることが明らかとなっている一方で、イネのFT過剰発現株あるいはインディカ型FTアレル(Hd3a)では出穂日が早くなることが明らかになっている(非特許文献6)。
イネ科植物等の収量を増加させることは、食糧問題の観点から非常に重要であり、収量増加と関与する遺伝子の特定と、特定した遺伝子を利用した効率的な生産が求められている。
Science 2005, 310, 1031-1034. Molecular Plant 2013, 6, 1877-1888. Proc. Natl. Acad. Sci. 2011, 108, 16469-16474. Therr. Appl. Genet. 2007, 115, 721-733. Nature 2003, 422, 719-722. Plant Cell Physiol. 2002, 43, 1096-1105.
本発明は、イネ科長日植物の茎葉収量及び種子収量を増加させる方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、イネ科長日植物の花成制御遺伝子の一種である、PRR3/7クレード遺伝子機能の抑制により、出穂が遅延するのみならず、茎葉収量及び種子収量が増加することを明らかにした。
本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものであり、以下に示す広い態様の発明を含むものである。
[項1]
イネ科長日植物において、PRR3/7クレード遺伝子の機能抑制により、茎葉収量及び種子収量を増加させる方法。
[項2]
前記PRR3/7クレード遺伝子が、PRR37遺伝子である項1に記載の方法。
[項3]
前記機能抑制が、ゲノム編集によるものである項1又は2に記載の方法。
[項4]
前記ゲノム編集がゲノム編集酵素の直接導入法によるものである項3に記載の方法。
[項5]
前記イネ科長日植物がコムギ連である、項1~4のいずれかに記載の方法。
[項6]
前記イネ科長日植物がコムギ連オオムギ属である項1~5のいずれかに記載の方法。
本発明によれば、イネ科長日植物の茎葉収量及び種子収量を増加させることができる。
オオムギ品種「ニホノホシ」を用いた検討における、Ppd-H1標的配列。花成制御遺伝子Ppd-H1の第3エキソンにCRISPR/Cas9標的配列を設計した。太字はPAM配列,下線部はPAM配列及びターゲット配列を示す。 オオムギ品種「ニホノホシ」を用いた検討における、T0スクリーニング。A:電気泳動の結果。B:DNAシークエンス結果。Ppd-H1の397番目から429番目に対応する配列を示す。NH1:配列番号10、11。NH2:配列番号12、11、13。 オオムギ品種「ニホノホシ」を用いた検討における、T1個体の遺伝子型。A:電気泳動結果。B:DNAシークエンス結果。Ppd-H1の394番目から432番目に対応する配列を示す。配列番号14。 オオムギ品種「ニホノホシ」を用いた検討における、Ppd-H1変異株の出穂日数及び子実収量。A:野生型株とPpd-H1変異株(NH2.2-4)の発芽62日後の様子。野生型株では出穂が見られるが,変異株では出穂は観察されない。B:出穂日数。発芽日を0とした場合の平均出穂日数±SEを表す。野生型株 n=8, 変異株 n=8 。**はT検定での野生型株との有意差(p<0.01)を示す。C:分げつ数。D:種子数。E:子実収量。 オオムギ品種「ニホノホシ」を用いた検討における、Ppd-H1変異株の緑葉バイオマス。A:生重量。B:乾燥重量。 オオムギ品種「トヨノカゼ」を用いた検討における、Ppd-H1標的配列とコンストラクトの模式図。A:花成制御遺伝子Ppd-H1の第3エキソンにCRISPR/Cas9標的配列を設計した。太字はPAM配列、下線部はPAM配列及びターゲット配列を示す。B:ゲノム編集個体作出に用いたコンストラクトの模式図。pU6-gRNAはPpd-H1ターゲット配列をコードする。pUbi-Cas9はイネ用にコドン改変したspCas9 (=OsCas9)をコードする。ZmUbi: トウモロコシユビキチン、TaU6: コムギユビキチン。 オオムギ品種「トヨノカゼ」を用いた検討における、パーティクルボンバードメント当代のスクリーニング。A:スクリーニング概要。パーティクルボンバードメント処理された茎頂は培地上で生育させたのち鉢上げし、第5葉を用いたCAPS解析に供した。B:変異系統の遺伝子配列。Ppd-H1の398番目から428番目に対応する配列を示す。作出された変異系統(系統#1, #2,及び#3)におけるターゲット配列近傍の遺伝子配列。系統#1:Insertion T(配列番号15), Deletion G(配列番号16)。系統#2:Insertion C(配列番号17)。系統#3:Insertion A(配列番号18), Insertion C(配列番号17)。 オオムギ品種「トヨノカゼ」を用いた検討における、#3に由来する次世代個体の遺伝子型解析。系統#3の一つの穂から次世代個体5つを取得した。各個体からDNAを抽出しCAPS解析を実施したところ、いずれの個体においても非切断断片のみが観察された。次にこの断片の配列を観察したところ、#3-1から#3-4では「Insertion A(配列番号18), Insertion C(配列番号17)」が、#3-5では「Insertion A(配列番号18)」が観察された。 オオムギ品種「トヨノカゼ」を用いた検討における、Ppd-H1変異株(#3系統)の出穂日数。A:野生株とPpd-H1変異株(Fig5の#3-1~#3-5)の発芽63日後の様子。野生型株では出穂が見られるが,変異株では出穂は観察されない。B:出穂日数。発芽日を0とした場合の平均出穂日数±SEを表す。野生型株 n=6, 変異株 n=5 (Fig5の#3-1~#3-5)。**はT検定での野生型株との有意差(p<0.01)を示す。 オオムギ品種「トヨノカゼ」を用いた検討における、Ppd-H1変異株の分げつ数。平均分げつ数±SEを表す。野生型株 n=6, 変異株 n=5 (Fig5の#3-1~#3-5)。**はT検定での野生型株との有意差(p<0.01)を示す。
本発明のある態様によれば、イネ科長日植物において、PRR3/7クレード遺伝子等の花成制御遺伝子の機能抑制により、茎葉収量及び種子収量を増加させる方法が提供される。
本発明に使用されるイネ科長日植物としては、例えばコムギ連植物、エンバク連植物、イチゴツナギ連植物等が挙げられる。コムギ連植物としては例えば、コムギ属植物、オオムギ属植物、ライムギ属植物、ヤマカモジグサ属植物等が挙げられる。エンバク連植物としては例えば、エンバク属植物等が挙げられる。イチゴツナギ連植物としては例えば、カモガヤ属植物、ドクムギ属植物等が挙げられる。コムギ属植物としては例えば、パンコムギ(Triticum aestivum)、マカロニコムギ(Triticum durum) 等が挙げられる。オオムギ属植物としては例えば、オオムギ(Hordeum vulgare)が挙げられる。ライムギ属植物としては例えば、ライムギ (Secale cereale)等が挙げられる。ヤマカモジグサ属としては例えば、ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)等が挙げられる。エンバク属植物としては例えば、エンバク(Avena sativa)等が挙げられる。カモガヤ属植物としては例えば、オーチャードグラス(Dactylis glomerata)等が挙げられる。ドクムギ属植物としては例えば、ペレニアルライグラス(Lolium perenne)等が挙げられる。この中でも、オオムギ、パンコムギ,マカロニコムギが好ましい。
本明細書において、花成制御遺伝子とは花芽形成の過程に関与する遺伝子であり、例えばpseudo-response regulator (PRR)ファミリー、GI、FT、VRN1、PhyC等の遺伝子が挙げられる。その中でも、遺伝子機能抑制により、茎葉収量及び種子収量を増加させる遺伝子としてはPRRファミリーが好ましい。PRRファミリーとしては、例えばTOC1、AtPRR3、AtPRR5、AtPRR7、AtPRR9及びそれらのオーソログが挙げられる。PRRファミリーの中でも、AtPRR3、AtPRR7及びそれらのオーソログが好ましい。イネ科長日植物におけるAtPRR3、AtPRR7のオーソログは、PRR3/7クレード遺伝子と呼ばれる。イネ科長日植物におけるAtPRR3のオーソログはPRR37が挙げられ、例えばオオムギのPpd-H1(HvPRR37)、コムギのPpd-D1(TaPRR37)、ミナトカモジグサのBdPRR37等が挙げられる。イネ科長日植物におけるAtPRR7のオーソログはPRR73が挙げられ、例えばオオムギのHvPRR73、コムギのTaPRR73、ミナトカモジグサのBdPRR73等が挙げられる。このような遺伝子としては、配列番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチドを含む遺伝子、又は配列番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチドに対して55%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む遺伝子が挙げられる。なお、配列番号1はオオムギ品種「ニシノホシ」のPpd-H1のcDNA配列である。この中でも、長日条件下での幼穂形成、出穂促進に関与するタンパク質をコードする遺伝子であり、遺伝子機能の抑制により、出穂の遅延がみられる遺伝子が好ましい。なお、本明細書において、「出穂が遅延する」とは、同一条件で栽培した、前記遺伝子の機能が抑制されていないイネ科長日植物(野生株)に対し、通常7日以上、好ましくは10日以上、さらに好ましくは14日以上、出穂が遅延することを意味する。
本明細書において、「55%以上の配列同一性を有するポリヌクレオチド」とは、配列番号1の塩基配列に対して1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入されてなるポリヌクレオチド、又は配列番号1の塩基配列に対して55%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
さらに、上記遺伝子がコードするタンパク質に対して、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチドをコードする限り、遺伝子の具体的な配列については限定されない。ここで、「機能的に同等」とは対象となるタンパク質が、上記遺伝子がコードするタンパク質と同等の生理学的機能や生化学的機能を有することを意味する。このようなタンパク質としては、例えば、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2のアミノ酸配列に対して実質的に同質のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。なお、配列番号2はオオムギ品種「ニシノホシ」のPpd-H1アミノ酸配列である。本明細書において、「実質的に同質のアミノ酸配列からなるタンパク質」とは、配列番号2のアミノ酸配列に対して1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されてなるタンパク質、又は配列番号2のアミノ酸配列に対して45%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
本発明の好ましい実施形態において、イネ科長日植物において上記遺伝子の機能を抑制させることにより、出穂が遅延するのみならず、茎葉収量及び種子収量が増加することができる。従来から、オオムギにおいてPpd-H1をノックダウンさせると、出穂が遅延することが明らかとなっているが、茎葉収量及び種子収量が増加することは知られていなかった。なお、本発明において、「茎葉収量」とは、植物の葉及び茎の収穫重量を意味する。「種子収量」とは、植物の種子の収穫重量を意味する。前記重量は乾燥重量であっても、未乾燥重量であっても良い。「茎葉収量及び種子収量を増加させる」とは、同一条件下で栽培した、前記遺伝子の機能が抑制されていないイネ科長日植物(野生株)と比較して、茎葉収量及び種子収量を増加させることを意味する。茎葉収量は、同一条件下で栽培した、前記遺伝子の機能が抑制されていないイネ科長日植物(野生株)に対し、2倍以上増加していることが好ましく、3倍以上増加していることがより好ましく、5倍以上増加していることが特に好ましい。種子収量は、同一条件下で栽培した、前記遺伝子の機能が抑制されていないイネ科長日植物(野生株)に対し、1.1倍以上増加していることが好ましく、1.3倍以上増加していることがより好ましく、1.5倍以上増加していることが特に好ましい。生育条件としては、生育温度は15℃~30℃の範囲で行うことができ、20℃~25℃の範囲が好ましい。明期と暗期のサイクルは、明期が15~20時間、暗期が6~10時間で生育させることが好ましい。生育期間は特に限定されないが、茎葉収量の増加を目的とするならば、40日以上、好ましくは60日以上であり、80日以下が好ましい。種子収量の増加を目的とするならば、90日以上、好ましくは100日以上であり、120日以下が好ましい。また、前記遺伝子の機能が抑制されていないイネ科長日植物(野生株)に対し、7日以上、好ましくは10日以上、さらに好ましくは14日以上出穂が遅延する。
遺伝子の機能を抑制する方法としては、限定されることなく、公知の方法を用いることができる。例えば、遺伝子に変異を導入する方法、二本鎖RNA法、アンチセンス法、リボザイム法等が挙げられる。
遺伝子に変異を導入する方法としては、例えば化学的変異導入方法、物理的変異導入方法、トランスポゾン等をゲノムDNAに導入する方法、DNA又はRNAに作用するタンパク質(ゲノム編集酵素)を用いる方法が挙げられるが、これに限定されない。
化学的変異導入方法としては、例えば、化学変異剤によって種子等を処理する方法が挙げられる。化学変異剤としては特に制限はないが、エチルメタンスルホート(EMS)、N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)、N-メチル-N-ニトロソウレア(NNU)、アジ化ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ヒドリキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトログアニジン(MNNG)、N-メチル-N’-ニトロソグアニジン(NTG)、O-メチルヒドロキシルアミン、亜硝酸、蟻酸及びヌクレオチド類似体が挙げられる。
物理的変異導入法としては、例えば、速中性子線照射、ガンマ線照射、重イオンビーム(HIB)照射、紫外線照射が挙げられる。
トランスポゾン等をゲノムDNAに導入する方法としては、例えば、TOS17等のトランスポゾン、T-DNA等をゲノムDNAに挿入する方法が挙げられる。
DNA又はRNAに作用するタンパク質(ゲノム編集酵素)を用いる方法としては、例えば、Crispr/Cas9、PRRモチーフ、エンドヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)、トランスポザーゼ、部位特異的リコンビナーゼが挙げられる。
遺伝子の変異は、前記遺伝子のCCTモチーフのアミノ酸配列の全部又は一部が失われるか変化するように導入されることが好ましい。また、変異が導入された植物体から、必要に応じて望ましい変異体のみを選抜することができる。
二本鎖RNA法とは、前記遺伝子のmRNAに相補的なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNAを用いる方法である。二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、RNA干渉と呼ばれる現象が起き、標的遺伝子の機能を抑制する能力を有する。
標的遺伝子の機能を抑制することができ、毒性を示さなければ、二本鎖RNAの長さに制限はない。二本鎖RNAは例えば、15~49塩基対であり、好ましくは15~35塩基対であり、さらに好ましくは19~27塩基対である。二本鎖RNAと標的配列は、同一であることが望ましいが、上記RNA干渉が誘導できる範囲において、実質的に同一、すなわち相同な配列であっても良い。具体的には、二本鎖RNAのアンチセンス鎖配列と標的配列がハイブリダイズする限り、1又は数個(例えば、2,3個)のミスマッチがあっても良い。すなわち、二本鎖RNAには、標的配列に対して1又は数個の塩基が置換、付加、もしくは欠失したものであってRNA干渉を誘導できるもの、あるいは標的配列と90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の相同性を有し、かつRNA干渉が誘導できるものが包含される。
アンチセンス法とは、前記遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA(アンチセンスDNA)を用いる方法である。アンチセンスDNAは、転写、スプライシング、又は翻訳の阻害して、標的遺伝子の機能を抑制する。
アンチセンスDNAの長さは、効果的に標的遺伝子の機能を抑制するには、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。アンチセンスDNAと標的配列は、同一であることが望ましいが、遺伝子機能を効果的に抑制できる範囲において、実質的に同一、すなわち相同な配列であっても良い。アンチセンスDNAには、標的配列と90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の相同性を有し、かつ遺伝子機能を効果的に抑制できるものが包含される。
リボザイム法とは、前記遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNAを用いる方法である。リボザイムとしては、例えば、グループIイントロン、RNaseP、ハンマーヘッド型リボザイム、ヘアピン型リボザイム等が挙げられる。
また、上述のトランスポゾンコードするDNA、DNA又はRNAに作用するタンパク質コードするDNA、二本鎖RNAコードするDNA、アンチセンスRNAコードするDNA、リボザイム活性を有するRNAコードするDNA等をベクターに挿入した形態で植物細胞に導入しても良い。前記遺伝子の機能を抑制するための前記DNAが挿入されるベクターとしては、細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。
細胞への前記DNA又はDNAが挿入されたベクター、タンパク質等の導入方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、iPB(in planta Particle Bombardment)法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。
上記の通り、遺伝子の機能を抑制する方法としては様々な方法が知られているが、本発明における遺伝子の機能を抑制する方法として、ゲノム編集により遺伝子に変異を導入する方法が好ましく使用される。ゲノム編集を用いることで、狙った遺伝子を高い効率で破壊できる。ゲノム編集による遺伝子破壊の場合、遺伝子組み換えの痕跡を残さずに狙った遺伝子のみを破壊できることから、組み換え植物と取り扱わない国もある。本発明において、iPB(in planta Particle Bombardment)法により遺伝子に変異を導入する方法が、再現性良く植物のゲノム編集が行える点で好ましい。以下、iPB(in planta Particle Bombardment)法について説明する。
iPB(in planta Particle Bombardment)法においては、植物の種子を吸水させる工程、種子における胚の茎頂を露出させる工程、茎頂の細胞に核酸及び/又はタンパク質を導入する工程、を含む。なお、本明細書において「茎頂」とは、茎の先端の生長点(茎頂分裂組織)並びに成長点及び成長点から生じた数枚の茎原基からなる組織を含む。
まず、植物の種子を吸水させる工程において、吸水は、種子を水に浸種し、インキュベートすることにより行われる。吸水用の水には、必要に応じて、添加剤として植物用有害生物防除剤(例えば、PLANT PRESERVATIVE MIXTURE(登録商標)等)を加えることができる。吸水温度は、例えば0~35℃の範囲で行うことができ、4~15℃が好ましい。吸水時間は、種子の休眠状態にもよるが、吸水後48時間未満であり、好ましくは36時間である。この吸水工程により、種子を柔らくすることで茎頂を露出させ易くすることができる。
種子における胚の茎頂を露出させる工程では、例えば、鞘葉及び葉原基又は種皮及び子葉を除去することで、茎頂を露出させる。露出手段としては、実体顕微鏡下において、鞘葉及び葉原基又は種皮及び子葉を除去することができるものであればいずれのものであってよいが、例えば、直径0.2mm程度の針等の穿設するための器具、ピンセット、ピペット、注射器、並びにメス及びカッター等の切断器具が挙げられる。次いで、メス等の切断器具を用いて胚乳及び余分な胚盤部分を切除し、露出した茎頂を含む胚及び胚盤を培地上に、茎頂を上向きに置床する。ここで用いる培地としては、公知の培地を適宜使用することができ、例えば、MS培地、寒天培地等が挙げられる。
茎頂の細胞に核酸及び/又はタンパク質を導入する工程において、茎頂の細胞に部位特異的ヌクレアーゼ等の目的遺伝子を導入する方法としては、公知の遺伝子工学的手法を用いることができ、特に限定されない。一般的には、目的遺伝子を含む組換えベクターを作製して、茎頂を標的に、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、PEG-リン酸カルシウム法、リポソーム法、マイクロインジェクション法、ウィスカー法、プラズマ法、レーザーインジェクション法等により、核酸(組換えベクター等)やタンパク質等を導入することができる。植物体への導入効率から、パーティクルガン法を用いて茎頂の細胞に導入する方法が好ましい。パーティクルガン法は、金属微粒子に核酸及び/又はタンパク質をコーティングして細胞組織に打ち込む方法である。
本発明に用いるベクターは特に限定されず、例えば、pUC18、pGEM-3Zf、pE(R3-R4)ZmUbi_OsCas9_Ver3等公知の物を用いることができる。また、本発明に用いるベクターは、公知の方法を用いて作製することができる。
部位特異的ヌクレアーゼ等の目的遺伝子がコードするタンパク質としてはゲノム編集酵素が挙げられ、例えば、CRISPR/Cas9、PRRモチーフ、エンドヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)、トランスポザーゼ、部位特異的リコンビナーゼ等が挙げられる。
パーティクルガン法を用いてヌクレアーゼ遺伝子又はタンパク質(ゲノム編集酵素)を細胞に導入してゲノム編集を行う場合、必ずしもゲノムにインテグレートさせて安定な形質転換体を取る必要は無い。ヌクレアーゼ遺伝子を一過的に発現させ、それによりゲノム編集を行うことができる。また、ゲノム編集酵素(及びガイドRNA)を細胞に直接導入する方法によってもゲノム編集を行うことができる。これらの方法によれば、得られたゲノム編集個体は遺伝子組換え体とはならない場合がある。
本発明において、前記遺伝子の機能抑制の対象とする植物材料としては、機能抑制の方法に応じて、例えば、根、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂、花粉等の植物組織やその切片、細胞、カルス、プロトプラスト等が挙げられるが、これに限定されない。
前記遺伝子の機能抑制がされた細胞から植物体を再生することにより、緑葉量及び種子量が増加したイネ科長日植物の植物体を得ることができる。また、前記遺伝子の機能が抑制されているイネ科長日植物の植物体が得られれば、植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、植物体、その子孫、又はクローンから種子、切穂、下部、カルス、プロトプラスト等の繁殖材料を基に、植物体の量産も可能である。また、本発明の植物は、形質転換処理を施した再分化当代である「T0世代」やT0世代の植物の自殖種子である「T1世代」等の後代植物や、それらを片親にして交配した雑種植物やその後代植物を含む。
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、以下の実施例において特に記載がない場合は、常温常圧下で実施した。
(1)オオムギ品種「ニホノホシ」を用いた検討
(1-1)標的配列の決定 オオムギ品種「ニシノホシ」のPpd-H1全配列を元に、ガイドRNAに含む20 bpの標的配列を探索した。標的配列の探索にはCRISPRdirect (https://crispr.dbcls.jp/)を用いた。全ゲノム中に特異的な配列として、Ppd-H1の第3エキソン上の5’-CAGCTGCCTGTCAAATGGTG-3’(配列番号3)を標的配列とした(図1)。
(1-2)ガイドRNAのin vitro転写
ガイドRNAの調製にはGeneArt Precision gRNA Synthesis Kit (Invitrogen)を用いた。標的配列を含むOligo DNA 5’-TAATACGACTCACTATAGCACCATTTGACAGGCA-3’(配列番号4) 及び5’-TTCTAGCTCTAAAACCAGCTGCCTGTCAAATGGT-3’(配列番号5)を熱処理により2本鎖DNAとした。これを製品付属のT7 promoter配列及びcr/tracrRNA配列とアニーリングし、鋳型DNAを構築した。in vitro転写は取扱説明書に準じて行い、精製ガイドRNAは1μg/μLとなるようにヌクレアーゼフリー水に溶解した。
(1-3)オオムギ茎頂サンプルの調製
オオムギ品種「ニシノホシ」の乾燥種子を20%次亜塩素酸ナトリウム水溶液中で30分間振盪し、種子表面を滅菌した。プラスチックシャーレに3% plant preservative mixture(Nacalai Tesque)水溶液を染み込ませたペーパータオルを敷き詰め、これに滅菌種子を播種した。滅菌種子は暗所、4℃で3日間吸水させることで休眠打破し、茎頂サンプルの調製に用いた。微細針を用いて、吸水種子の胚組織から鞘葉、第1葉、第2葉、第3葉を取り除き、茎頂分裂組織の先端を露出させた。胚乳から胚組織を切り離し、MS培地 [MS salt (sigma) 4.3 g/L, Maltose 30 g/L, MES 9.8 g/L, Phytagel 7 g/L]上に置床した。この時、20~30個の茎頂サンプルを直径1 cmのドーナツ状の円となるように培地中心に配置した。
(1-4)RNP複合体の調製
組換えSpCas9タンパク質(2μg/μL)は、農研機構高度解析センターより供給されたものを用いた。1.5 mLチューブにガイドRNA(1μg/μL) 10μL、spCas9溶液 5μL、10x CutSmart buffer 2.5μL、Recombinant RNase Inhibitor (TaKaRa) 0.5μL、ヌクレアーゼフリーH2O 7μLを加え、緩やかに混合した。10分間静置させることでRNP複合体を形成させた。
(1-5)RNP結合金粒子の調製
組換えspCas9タンパク質(2μg/μL)を1.5 mLチューブにガイドRNA(1μg/μL) 10μL、spCas9溶液5μL、10x CutSmart buffer 2.5μL、Recombinant RNase Inhibitor (TaKaRa) 0.5μL、ヌクレアーゼフリー水 7μLを加え、緩やかに混合した。10分間静置させることでRNP複合体を形成させた。0.6μm Gold microcarriers (Bio-Rad)とRNP複合体の結合はSergeiらの論文(Svitashev, S., Schwartz, C., Lenderts, B., Young, J. K. & Mark Cigan, A. Genome editing in maize directed by CRISPR-Cas9 ribonucleoprotein complexes. Nat. Commun. 7, 13274 (2016).)に記載される方法に準じて行った。
(1-6)RNP複合体の茎頂サンプルへの導入
調製したRNP結合金粒子の懸濁液6μLをマクロキャリア上に塗り広げ、室温で乾燥させた。これをパーティクルガンを用いてMS培地上の茎頂サンプルに4度発射した。パーティクルガンにはPDS-1000/He Particle delivery system (Bio-Rad)を用い、金粒子射出の圧力は1,350 psiとした。パーティクルボンバートメントにより、RNP結合金粒子を85茎頂サンプルに導入した。
(1-7)T0個体の作出と選抜
RNP複合体を導入した個体を第5葉期まで生育させ、CAPSによる遺伝子型解析を実施した。第5葉の葉身からDNAを下記方法により抽出し、これを鋳型にPpd-H1部分配列を増幅した。増幅に用いたプライマーは5’-CGACCTTGTTCTCACAGAGG -3’(配列番号6)及び5’-TGGCACTTCCACTACCACTG-3’(配列番号7)であり、PCR酵素はKOD-One (Toyobo)を用いた。PCR条件は98℃、10秒間の熱変性、60℃、5秒間のアニーリング、68℃、5秒間の伸長反応を30サイクル行った。増幅産物にPvu IIを加え、37℃、2時間以上反応させ切断した。反応生成物は2%アガロースゲル電気泳動で分離した。反応産物を観察したところ、2個体から非切断産物が観察された (図2A)。これらの個体をNH1及びNH2と命名した。得られた非切断産物では、Ppd-H1の標的配列上に1塩基の挿入が生じていた(図2B)。T0世代でのゲノム編集効率(解析個体数に対する、変異を含む個体数)は2.35%であった(表1)。
Figure 2022162741000001
(DNAの抽出)
植物組織100 mgを液体窒素で急速凍結させ、マルチビーズショッカーで破砕した。破砕組織に抽出液[100 mM Tris-HCl (pH 9.0), 40 mM EDTA, 1.67% SDS] 400μLを加え、3分間静置した。抽出液を5,000 Gで3分間遠心分離し、上清200μLを回収した。これに99.5% EtOH 500μL、3M 酢酸ナトリウム 20μLを加え、12,000 Gで10分間遠心分離しDNAを沈澱させた。沈殿させたDNAは70% EtOHで洗浄したのち超純水100μLに溶解させた。
(1-8)T1個体の遺伝子型解析
T0選抜個体(NH1及びNH2)から取得したT1個体について、CAPSにより遺伝子型を調べた。CAPSによる遺伝子解析の手法については、(1-7)と同様の方法で実施した。その結果、NH2から得られたT1個体では、CAPSによる非切断産物が観察された。これらの産物ではT0個体と同様の遺伝子変異が観察された(図3)。すなわちNH2では遺伝子変異が後代に遺伝した。この系統では、1塩基挿入によるPpd-H1の機能喪失が予想された。
(1-9)出穂試験・子実収量試験
野生型株及びNH2.2-4自殖後代より分離したPpd-H1ホモ変異株(T3世代)の乾燥種子を20%次亜塩素酸ナトリウム水溶液中で30分間振盪し、種子表面を滅菌した。プラスチックシャーレに3%PPM水溶液を染み込ませたペーパータオルを敷き詰め、これに滅菌種子を播種した。滅菌種子は暗所、4℃で5日間吸水させることで休眠打破した。発芽した種子(根部が膨らんできた種子)を約2 Lの培養土に1 cmの深さで植え、これを発芽0日とした。22℃、長日条件(16 h明期/8 h暗期)に設定した人工気象室内で野生型株及びPpd-H1変異株(NH2.2-4)を生育させた。
穂が伸長し、芒が葉鞘先端から現れた日を出穂日と定義し、収穫した種子は40℃で7日間乾燥させたのち重量を測定した。野生型株の出穂日数は発芽後37.8日であり、Ppd-H1変異株の出穂日数は発芽後98.3日であった。すなわちPpd-H1変異株では約61日の出穂遅延が観察された(図4A、B)。またPpd-H1変異株では、分げつ数、種子数、子実収量が野生型株に比べて増加していた(図4C-E)。
(1-10)緑葉バイオマス測定
栄養成長期におけるPpd-H1変異株の緑葉バイオマスを観察した。22℃、長日条件(16h明期/8h暗期)で野生型株及びPpd-H1変異株(NH2.2-4)を生育させた。幼穂形成期直前から形成初期の各系統を収穫し、生重量及び80℃で10日間乾燥させた乾燥重量を測定した。Ppd-H1変異株緑葉バイオマスは、野生型株に比べて生重量で9.5倍、乾燥重量で10.6倍であった(図5)。Ppd-H1変異株は、出穂遅延により栄養成長の期間が長くなることで、緑葉収量が増加したと考えられる。
(2)オオムギ品種「トヨノカゼ」を用いた検討
(2-1)標的配列の決定 オオムギ品種「ニシノホシ」のPpd-H1全配列を元に、ガイドRNAに含む20 bpの標的配列を探索した。標的配列の探索にはCRISPRdirect (https://crispr.dbcls.jp/)を用いた。全ゲノム中に特異的な配列として、Ppd-H1の第3エキソン上の5’-CAGCTGCCTGTCAAATGGTG-3’(配列番号3)を標的配列とした(図6)。
(2-2)コンストラクト作成
標的配列を含む1本鎖オリゴマー、5’- GTTGCACCATTTGACAGGCAGCTG-3’(配列番号8)及び5’- AAACCAGCTGCCTGTCAAATGGTG-3’(配列番号9)を熱処理により2本鎖オリゴマーとした。これをガイドRNA発現ベクターpU6-gRNAのBbsIサイトに挿入した。コドン改変型spCas9(OsCas9)の発現にはpUbi-Cas9を用いた。
(2-3)プラスミド精製
作出したコンストラクトで大腸菌DH5α株を形質転換した。組換え大腸菌を50 mg/Lのアンピシリンを含むLB培地で16時間培養し、アルカリSDS法に準じてプラスミドを抽出した。
(2-4)オオムギ茎頂サンプルの調製
オオムギ品種「トヨノカゼ」を用いた。乾燥種子を20%次亜塩素酸ナトリウム水溶液中で30分間振盪し、種子表面を滅菌した。プラスチックシャーレに3% plant preservative mixture 水溶液を染み込ませたペーパータオルを敷き詰め、これに滅菌種子を播種した。滅菌種子は暗所、4℃で3日間吸水させることで休眠打破し、茎頂サンプルの調製に用いた。微細針を用いて、吸水種子の胚組織から鞘葉、第1葉、第2葉、第3葉を取り除き、茎頂分裂組織の先端を露出させた。胚乳から胚組織を切り離し、MS培地 [MS salt (sigma) 4.3 g/L, Maltose 30 g/L, MES 9.8 g/L, Phytagel 7 g/L]上に置床した。この時、20-30個の茎頂サンプルを直径1 cmのドーナツ状の円となるように培地中心に配置した。
(2-5)DNA結合金粒子の調製
0.6μm Gold microcarriers (Bio-Rad)をヌクレアーゼフリー水に60μg/μLで懸濁し、これを金懸濁液とした。1.5 mLチューブにpU6-gRNA (1μg/μL)及びpUbi-Cas9 (1.0μg/μL)を各2.5μL入れた。ここに金懸濁液 15μL、2.5 M CaCl2 25μL、0.1 M Spermidine 10μLを混和し、室温で5分間静置した。混合液を9,000 Gで10分間遠心し、DNA結合金粒子を沈殿させた。上清を取り除き、70% EtOH 70μLを加え9,000 Gで10秒間遠心した。再び上清を取り除き、99.5% EtOH 70μLを加え9,000 Gで10秒間遠心した。沈殿したDNA結合金粒子を99.5% EtOH 25μLに再懸濁した。
(2-6)DNA結合金粒子の茎頂サンプルへの導入
調製したDNA結合金粒子の懸濁液6μLをマクロキャリアー上に塗り広げ、室温で乾燥させた。これをパーティクルガンを用いてMS培地上の茎頂サンプルに4度発射した。パーティクルガンにはPDS-1000/He Particle delivery system (Bio-Rad)を用い、金粒子射出の圧力は1,350 psiとした。パーティクルボンバートメントにより、DNA結合金粒子を373茎頂サンプルに導入した。
(2-7)T0個体の作出と選抜
DNA結合金粒子を導入した個体を生育させた。このうち第5葉期まで生育した204個体について、CAPSによる遺伝子型解析を実施した。第5葉の葉身からDNAを(1-7)と同様の方法で抽出し、これを鋳型にPpd-H1部分配列を増幅した。増幅に用いるプライマーは5’-CGACCTTGTTCTCACAGAGG -3’(配列番号6)及び5’-TGGCACTTCCACTACCACTG-3’(配列番号7)とし、PCR酵素はKOD-One (Toyobo)を用いた。PCR条件は98℃、10秒間の熱変性、60℃、5秒間のアニーリング、68℃、5秒間の伸長反応を30サイクル行った。増幅産物にPvu IIを加え、37℃、2時間以上反応させて切断した。反応生成物は2%アガロースゲル電気泳動で分離した。反応産物を観察したところ、3個体から非切断産物が観察された。これらの個体を#1、#2及び#3と命名した。得られた非切断産物では、Ppd-H1の標的配列上に1塩基の挿入又は1塩基の欠失が生じていた(図7B)。T0世代でのゲノム編集効率(解析個体数に対する、変異を含む個体数)は1.47%であった(表2)。
Figure 2022162741000002
(2-8)T1個体の遺伝子型解析
T0選抜個体(#1、#2及び#3)から取得したT1個体について、CAPSにより遺伝子型を調べた。CAPSによる遺伝子解析の手法については、(2-7)と同様の方法で実施した。その結果、#1及び#2から得られたT1個体では、非切断産物が観察されず、T1個体に変異が遺伝しなかった。一方で、#3から得られた5つのT1個体 (#3-1~#3-5)では、CAPSによる非切断産物が観察された。これらの産物ではT0個体と同様の遺伝子変異が観察された(図8)。すなわち#3では遺伝子変異が後代に遺伝した。この系統では、1塩基挿入によるPpd-H1の機能喪失が予想された。
(2-9)出穂試験
野生型株及びPpd-H1変異株(#3系統)の乾燥種子を20%次亜塩素酸ナトリウム水溶液中で30分間振盪し、種子表面を滅菌した。プラスチックシャーレに3% plant preservative mixture 水溶液を染み込ませたペーパータオルを敷き詰め、これに滅菌種子を播種した。滅菌種子は暗所、4℃で5日間吸水させることで休眠打破した。発芽した種子(根部が膨らんできた種子)を約1 Lの培養土に1cmの深さで植え、これを発芽0日とした。野生型株及びPpd-H1変異株(#3系統)は、22℃、16時間明期/8時間暗期に設定した人工気象室内で2週間生育させたのち、春化処理を施した。春化処理は5℃、8時間明期/16時間暗期に設定したグロースチャンバー中で50日間生育させることで行った。春化処理後の植物は、ふたたび22℃、16時間明期/8時間暗期に設定した人工気象室内で生育させた。
穂が伸長し、芒が葉鞘先端から現れた日を出穂日と定義した。野生型株の出穂日数は発芽後57.8日であり、Ppd-H1変異株の出穂日数は発芽後75.4日であった。すなわちPpd-H1変異株では約18日の出穂遅延が観察された(図9)。また、Ppd-H1変異株の分げつ数は、野生型株に比べて有意に増加した (図10)。

Claims (6)

  1. イネ科長日植物において、PRR3/7クレード遺伝子の機能抑制により、茎葉収量及び種子収量を増加させる方法。
  2. 前記PRR3/7クレード遺伝子が、PRR37遺伝子である請求項1に記載の方法。
  3. 前記機能抑制が、ゲノム編集によるものである請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記ゲノム編集がゲノム編集酵素の直接導入法によるものである請求項3に記載の方法。
  5. 前記イネ科長日植物がコムギ連である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
  6. 前記イネ科長日植物がコムギ連オオムギ属である請求項1~5のいずれかに記載の方法。
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