JP2022155340A - 精製効率の推算方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】重質油の精製反応における脱硫率や脱窒素率を高精度に推算しうる新たな手法を提供する新たな手法を提供する。【解決手段】重質油の精製反応における、脱硫率および脱窒素率から選択される少なくとも一つの精製効率のコンピュータによる推算方法であって、(1)上記重質油に含まれる1種以上の構造因子の頻度因子を、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算するステップ、(2)ステップ(1)で得られる頻度因子を用いた上記精製反応モデルに基づき、前記重質油から得られる生成油の分子組成を推定するステップ、および(3)上記重質油の分子組成と前記生成油の分子組成とに基づき、前記精製効率を推算するステップを含み、上記1種以上の構造因子が、硫黄原子または窒素原子1個を含む1種以上のシングルコア分子である方法を提供する。【選択図】図1

Description

特許法第30条第2項適用申請有り 1.刊行物名 平成31年度 高効率な石油精製技術の基礎となる石油の構造分析・反応解析等に係る研究開発事業 事業報告書 2.発行日 令和2年3月31日 3.公開者 一般財団法人石油エネルギー技術センター [刊行物等] 1.掲載アドレス http://www.pecj.or.jp/forum http://www.pecj.or.jp/japanese/jpecforum/2020/pdf/jf015.pdf 2.掲載日 令和2年5月11日 3.公開者 辻浩二 [刊行物等] 1.掲載アドレス https://www.pecj.or.jp/wp-content/uploads/2021/02/JPEC_report_No.210201.pdf 同日中に一般財団法人石油エネルギー技術センター賛助会員企業の担当者にもメールにて発信 2.掲載日 令和3年2月12日 3.公開者 一般財団法人石油エネルギー技術センター [刊行物等] 1.集会名 石油学会熊本大会(第50回石油・石油化学討論会) 2.開催日 令和2年11月13日 3.公開者 辻浩二 [刊行物等] 1.掲載アドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/jpi2020f/top 2.掲載日 令和2年11月10日 3.公開者 辻浩二 [刊行物等] 1.掲載アドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/jpi2020f/proceedings/list 2.掲載日 令和3年2月1日 3.公開者 辻浩二
本発明は、重質油の精製反応における、脱硫率および脱窒素率から選択される少なくとも一つの精製効率のコンピュータによる推算方法、それに使用される装置、システム、コンピュータおよびそれを使用する方法、並びに装置をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムおよびその記録媒体に関する。
石油中に含まれる硫黄化合物や窒素化合物は、自動車の排気ガス浄化触媒の被毒原因や燃焼時のSOx源やNOx源になるため、サルファーフリー化(硫黄分の低減)や窒素分の低減をすることは、石油精製業の大きな使命となっている。
石油の脱硫や脱窒素はLPG、ガソリンから重油、潤滑油に至る広い範囲に適用され、各油種によりそれぞれ適応した方法を採用するが、特に常圧残油については、残油直接脱硫(RDS)装置を用いた脱硫法、脱窒素法が主流をなしている。
一方で、石油精製に関する諸装置の運転においては、通常、比重や粘度、蒸留性状(沸点)などの全体の物理的性状に基づいて原料油を分析し、過去の類似のデータを有する油種の運転実績を参考にして運転条件を決めるという手法がとられている。しかしながら、昨今では、輸入原油種が多様化しており、類似する過去のデータを探すことは容易ではない。さらに運転効率の向上や環境保護という面からも、単純に過去の運転実績を踏襲すればよいというものではなくなっている。
そこで、比重や粘度、蒸留性状というような石油全体を一括りにした観点で捉えるのではなく、石油を構成している炭化水素分子というレベルでその化学構造や存在割合を把握し、それにより得られた推定物性値等の知見に基づいて運転条件を設定することができれば、より客観性に基づいた効率的な運転ができると考えられてきた。
ところが、石油は、膨大数の炭化水素分子からなる混合物であり、特に重質油は分子量が大きく、かつ複雑な化学構造を有する分子が極めて多種類存在するため、そのような分子の一つ一つについて、化学構造を特定し、それらの存在割合をも特定するというのは、非常に困難なことであり、とりわけ石油の種類毎に存在する含硫黄成分の分子構造、存在量の精密な解析は実質的に行われていなかった。
これまで、石油を分子レベルで分析し化学構造を解析するにあたっては、高分解能質量分析装置であるフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴方式による質量分析計を用いて高精度に分子量を計測する技術が用いられてきた。例えば、特許文献1または特許文献2に記載された方法である。特に、特許文献2には、石油を構成している分子をアルゴン等に衝突させることにより、分子における架橋部分を切断して構成しているコア部分に分解し、それらの化学構造を求め、そののちにそれらを組み合わせて元の分子を再構築するという分子構造の推定方法が記載されている。
また、特許文献3および特許文献4では、多成分凝集モデル液相全体の平均HSP値と、非液相成分における各成分のHSP値との差(Δδ)を利用して各成分の分子構造および存在割合を特定する多成分凝集モデル(Multi-Component Aggregation Model:MCAM)に基づいて、多成分混合物中の各成分の性状を推定する方法が本出願人により報告されている。MCAMは、アスファルテン凝集に起因する石油精製分野における実運用上の諸課題解決に活用可能なツールとして確立することが期待される。
また、非特許文献1には、特定の含硫黄分子の存在率に基づき算出される脱硫率の推算値を含硫黄成分の平均凝集度を参照して補正することにより脱硫率を推算する方法が本出願人により報告されている。
特表2014-500506号公報 特表2014-503816号公報 特開2014-218643号公報 特表2020-502495号公報
平成30年度、高効率な石油精製技術の基礎となる石油の構造分析・反応解析等に係る研究開発事業 報告書(一般財団法人石油エネルギー技術センター)
しかしながら、重質油の精製反応においては、上述のような従来の方法を適用しても、石油の産地や重質度によっては、脱硫率や脱窒素率について推算値と実測値とが整合しない場合があることが本出願人の検討により明らかとなった。
そこで、本出願人は、さらに鋭意検討した結果、重質油の精製反応において、特定の構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算される1種以上の構造因子の頻度因子を精製反応モデルに適用すると、重質油の精製反応における脱硫率や脱窒素率を高精度に推算しうることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
したがって、本発明は、重質油の精製反応における脱硫率や脱窒素率を高精度に推算しうる新たな手法を提供することを1つの目的とするものである。
上記の目的を達成するため、本発明者らは、以下の本発明を創出した。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
本発明の重質油の精製反応における、脱硫率および脱窒素率から選択される少なくとも一つの精製効率のコンピュータによる推算方法は、
(1)上記重質油に含まれる1種以上の構造因子の頻度因子を、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算するステップ、
(2)ステップ(1)で得られる頻度因子を用いた上記精製反応モデルに基づき、前記重質油から得られる生成油の分子組成を推定するステップ、および
(3)上記重質油の分子組成と前記生成油の分子組成とに基づき、前記精製効率を推算するステップ
を含み、
上記1種以上の構造因子が、硫黄原子または窒素原子1個を含む1種以上のシングルコア分子であることを特徴とするものである。
また、本発明の別の実施態様においては、対象石油における脱硫率の推算装置、システムおよびそれらの運転方法や、それらを実行させるコンピュータプログラム、その記録媒体およびそれを記憶したコンピュータも提供される。
本発明によれば、重質油の精製反応における脱硫率や脱窒素率を高精度に推算することができる。
本発明の一実施形態による重質油の精製反応における精製効率のコンピュータによる推算方法を説明するフローチャートである。 本発明の実施形態における多成分混合物(重質油)の構造属性パラメータおよび頻度因子を取得するフローチャートである。 本発明の一実施形態による重質油の精製反応における精製効率の推算装置を説明する機能ブロック図である。 常圧残油(AR)に含まれる1種以上の反応グループ(構造因子)を示す図である。 脱硫反応における各種構造因子についての構造属性パラメータ(平均凝集度、平均総環数)と、頻度因子logAとの関係図である。 生成油におけるシングルコア分子(S1、S04)の頻度因子logAの推算値と、実測値との相関図である。 脱窒素反応における各種構造因子についての構造属性パラメータ(平均凝集度、平均側鎖炭素(C)数、平均総環数)と、頻度因子logAとの関係図である。 生成油におけるシングルコア分子(5R、6R、09)の頻度因子logAの推算値と、実測値との相関図である。 由来原油の異なる16種類ARにおける脱硫率、脱窒素率の予測結果を示すグラフである。
<定義>
本発明の実施形態を説明するにあたり、先ず、本明細書にて使用する用語ないし表現について説明する。
(1)「石油」
本明細書において、「石油」とは、原油、並びに原油を蒸留して得られる諸留分および諸留分に改質や分解等の二次装置による処理を加えて得られる留分等をも含む総称的な概念をいう。或いは、原油を蒸留して得られたある留分について、さらに飽和炭化水素や芳香族炭化水素等の成分に分画した分画物をさすこともある。
(2)「成分」
「成分」とは、「混合物をある特定の物理的または化学的性状を基準として括った塊」、即ち、「ある特定の物理的または化学的性状を基準として分画された分画物(フラクション)」を意味する。特定の物理的または化学的性状を基準として括る方法としては、例えば、蒸留試験における沸点範囲を特定して、その温度範囲にあるものを一つの成分として分画する方法等が挙げられる。この場合、混合物は「分画物(フラクション)の集合体」ということになる。或いは、「成分」を、多成分混合物を構成する一つ一つの構成員であって、「同一の分子種に属すると認められる分子の集合体」と捉えてもよい。ここで、「同一の」とは、「分子構造を完璧に特定し、その上で同一である」、或いは、「分子構造上の異性体(分子式は同じであるが構造が異なるもの)どうしは同一のものとする」という意味と捉えてもよく、例えば、後述する「JACDのような方式で特定された構造において同一である」という意味と捉えてもよい。さらには、広く「任意に定めた基準に基づいて一括りにした分子の集合体」という意味と捉えてもよい。
(3)「構成する」
石油等の多成分混合物を「構成する」とは、多成分混合物中に存在する100%すべての成分を想定するものでなくてもよい。本発明により特定される各成分の分子構造をどのように利用するかにより、どの程度の詳細さを以て成分としての分子種特定が必要になるかに応じて、「構成する各成分」を適宜決定すればよい。例えば、多成分混合物中において一定の存在量(存在割合)以上を持つ分子種のみを対象として、「構成する成分」と捉えてもよい。石油のような膨大な種類の分子種すべてについて分子構造を同定する必要性は必ずしも高いとは限らず、微量しか存在しない分子種等については、必要に応じて、無視してもよい。例えば、「多成分混合物」として、多環芳香族レジン分(PA)を対象とする場合、PAを構成する成分として、パラフィン系化合物およびオレフィン系化合物の存在は無視してもよい。
(4)「分率」
「分率」とは、質量分率、容量分率またはモル分率等、存在割合を示すものであれば何でもよく、いずれをも含む概念である。液相全体の平均ハンセン溶解度指数値を算出する場合は、好ましくは容量分率が用いられ、各成分の当該液相における容量分率で重み付けした加重平均値として算出される。
(5)「分子構造を特定する」、「分子」
「分子構造を特定する」とは、上記「成分」における「分子」に関し、分子が持つ構造に関する何等かの情報を特定するという行為であれば、あらゆる行為を包含するものである。目的および必要性に応じて、その度合い、表示の方式を適宜選択すればよい。分子全体の構造を特定するという行為のみならず、分子の一部分についての構造に関する情報を組み込んでもよい。例えば、コア部分の構造のみを特定し、側鎖部分や架橋部分についての構造は特定せず分子式のままにしておいてもよい。
本明細書において、好ましくは、後述する「JACD」で分子構造を特定する。「JACD」で構造が特定された分子というのは、後述するアトリビュートの結合位置の違いによる異性体をすべて含む概念である。本明細書において、「分子」は、異性体をすべて含む概念と捉えてもよい。
(6)「各成分の存在割合を特定する」
「各成分の存在割合を特定する」とは、混合物を構成する各成分について、それらが存在する比率を特定するという行為であれば、あらゆる行為を包含するものである。また、混合物を構成するすべての成分種について存在割合が特定されなければならないという意味ではなく、分析技術では検出が困難な程度の量しか存在しないような成分や特定する必要のない成分までを含めたすべての成分の存在割合を特定して初めて、「各成分の存在割合を特定した」とするものではない。かかる微量成分等については、「その他の成分」としてまとめて扱ってもよい。さらには、これらを「混合物を構成する各成分」という範囲から除外し、他の成分の存在割合を算出する上での分母に入れなくてもよい。
(7)「すべての」
本明細書において、「すべての」とは、必ずしも「100%全部の」という意味でなくてもよい。例えば、質量スペクトルについて「すべてのピーク」という言い方をしている箇所については、文字どおり、「100%全部のピーク」という意味のみならず、例えば、その場面での検討の目的上必ずしも必要でない分子に関するピークや判別しにくいようなピーク等については、適宜、除外した上で、それ以外のピークを指すという意味と捉えてもよい。
(8)「ピーク」
質量分析において得られるピークの横軸は、多成分混合物を構成する各成分の分子イオンまたは擬分子イオンについてのm/zである。このm/zが示す数値は、分子イオンまたは擬分子イオンの質量に相当する数値であるため、概ね、そのピークに帰属させられる分子の分子量を表している。本明細書では、この「質量分析において得られた、分子イオンまたは擬分子イオンについてのm/zのピーク」を、「質量分析において得られたピーク」、または単に「ピーク」ということがある。また、当該ピークの高さは、そのピークに帰属する分子の相対的な存在割合を示している。
(9)「分子式」
「分子式」とは、分子を構成する元素の種類と数のみを示す式のことであり、構造は特定されていないものを指している。分子を構成する元素の種類と数がわかっているため、分子量および後述するDBE値等の情報は得ることができる。
本発明において主として用いているフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴方式による質量分析(以下、「FT-ICR MS」ともいい、FT-ICR MSにより得られたスペクトルを「FT-ICR MSスペクトル」ともいう)においては、m/zの値を小数点第4位まで決定することができる。そのため、原子の同位体の存在をも考慮した精密な質量の数合わせを行うことにより、そのピークに帰属する分子の分子式を決定することができる。分子式というのは、分子を構成する元素の種類と数のみを表すものにすぎないため、上記決定された分子式に該当する分子としては、異性体が複数存在しうる。即ち、1本のピークには、分子式が同一である複数の異性体が帰属しうる。
ただし、FT-ICR MSの特性上、分子式は同一であっても、例えば、その分子イオンに水素イオンが付加している等により、元の分子イオンと質量が異なることになり、そのため別のピークとして現れることがある。よって、測定上は別ピークとして現れたものであっても、分子式を構成する元素の種類と数が同一であるものは「同一の分子式」として捉えてもよい。「その分子式に該当する分子」という文言において、「その分子式」というのは、このような「同一の分子式」という意味で捉えてもよい。また、「あるピーク」という場合、上記の意味で「同一の分子式」を表しているとされた種々のm/zのピークをすべてまとめて捉えた概念と考えてもよい。
(10)「コア」、「シングルコア」、「ダブルコア」「ヘテロコア」
「コア」とは、後述の「JACD」の項で記載する「アトリビュート」の一種であって、具体的には、ヘテロ環またはナフテン環そのもの、ヘテロ環とナフテン環が架橋ではなく直接結合しているもの、ヘテロ環またはナフテン環に芳香環が架橋ではなく直接結合しているものである。架橋または側鎖は、コアとは別のアトリビュートであるため、「コア」とは、架橋または側鎖を一切有しないものを意味している。
一方、「シングルコア」とは、上記コアを1個だけ有する分子を指す概念である。分子を指す概念であるため、コアに側鎖が結合しているものも包含している。上記コアの2個以上が架橋してなる分子を「マルチコア」という。「マルチコア」も分子を意味するため、コアに側鎖が結合しているものも包含している。2個のコアが架橋してなる分子を「ダブルコア」という。
例えば、以下に示すナフタレン分子は、1個の芳香環からなるものであるため「シングルコア」であり、ベンゼン環2個からなるダブルコアではない。
Figure 2022155340000002
なお、ヘテロ原子を含むコアを「ヘテロコア」とも称する。
(11)「DBE値」
「DBE値」とは、分子式が、「C」である場合、以下の式(1)にて算出される値である。
DBE = c- h/2+n/2 + 1 ・・・(1)
(式中、cは炭素原子の数、hは水素原子の数、nは窒素原子の数、oは酸素原子の数、sは硫黄原子の数を示す。)
この値は、概ね、分子における不飽和性、とりわけ、二重結合および環の存在の程度を示すものである。
(12)「JACD (ジャックディー)」「Juxtaposed Attributes for Chemical-structure Description)」
「JACD」とは、分子構造に関する新規な表示方式であって、分子の構造を、アトリビュートの種類およびアトリビュートの数により表示するものである。アトリビュートが他のアトリビュートのいずれの位置において結合しているかについては表示しない。
上記において、「アトリビュート」とは、分子を構成している化学構造上の部品(パーツ)を指す概念である。芳香族化合物においては、具体的には、前述の「コア」、「架橋」および「側鎖」を指す。
この表示方式によると、石油を構成する膨大数の分子の各々に関し、それらの構造を、必要かつ十分な程度に特定することができる。
以下の化学式で表された分子を例にとって説明する。
Figure 2022155340000003
この化合物をJACDで表すと、以下の表1のようになる。
Figure 2022155340000004
JACDで表示され、構造が特定された分子とは、アトリビュートの結合位置の違いによる異性体をすべて含む概念である。
(13)「物性値」
「物性値」とは、物質の物理的または化学的な性質や性状、特性を表現するものであれば、名称の如何に拘わらず、「物性値」に含まれる。本明細書において、「物性値」とは、これらに限定されるものではないが、例えば、融点、ハンセン溶解度指数値、生成ギブス自由エネルギー、イオン化ポテンシャル、分極率、誘電率、蒸気圧、液体密度、API度、気体粘度、液体粘度、表面張力、沸点、臨界温度、臨界圧力、臨界体積、生成熱、熱容量、双極子モーメント、エンタルピー、エントロピー等である。
(14)「石油に関する装置」
本明細書において、「石油に関する装置」とは、蒸留装置や抽出装置をはじめ、改質装置、水素添加反応装置、脱硫装置等の化学反応を伴う装置等、石油の処理に関する装置をすべて含む。「石油に関する装置」を総じて、「石油精製装置」ともいう。本発明の好ましい態様によれば、石油に関する装置は、残油直接脱硫(RDS)装置である。
<重質油の精製反応における精製率の推算方法>
本発明の一実施形態によれば、コンピュータによる、重質油の精製反応における精製率の推算方法は、図1に示される通り、
(1)上記重質油に含まれる1種以上の構造因子の頻度因子を、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算するステップ、
(2)ステップ(1)で得られる頻度因子を用いる上記精製反応モデルに基づき、上記重質油から得られる生成油の分子組成を推定するステップ、および
(3)上記重質油の分子組成と上記生成油の分子組成とに基づき、上記精製効率を推算するステップ
を含むことを特徴としている。
以下、本発明の一実施形態をステップ毎に説明する。
ステップ(1):重質油に含まれる1種以上の構造因子の頻度因子を、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算するステップ
本発明の一実施形態によれば、図1に示される通り、重質油に含まれる1種以上の構造因子、すなわち、硫黄原子または窒素原子1個を含む1種以上のシングルコア分子の頻度因子を、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算する。
上記重質油は、好ましくはJIS K2254に準拠する軽油の沸点(360℃)より高い沸点を有する留分である。常圧蒸留の残油分の具体例としては、原油の常圧蒸留によって搭底から得られる重質油(沸点:約400℃以上)等が挙げられ、この重質油は常圧残油と称される。
本発明の一実施態様によれば、1種以上のシングルコア分子としては、硫黄原子1個含む非芳香族シングルコア分子、硫黄原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子、窒素原子1個含む非芳香族シングルコア分子、窒素原子1個含む単環式芳香族シングルコア分子および窒素原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子からなる群から選択される2種以上の構造因子である。後述する実施例にも示されるように、上記シングルコア分子の頻度因子が、特定の2種以上の上記構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算しうることは、当業者にとって意外な事実である。
また、精製効率が脱硫率である場合、本発明に用いられる1種以上のシングルコア分子は、好ましくは硫黄原子1個含む非芳香族シングルコア分子および硫黄原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子の組合せであり、より好ましくはジヒドロチオフェン分子または縮環チオフェン分子の組合せであり、より一層好ましくは2,3-ジヒドロチオフェン分子(以下、「HDS_S1」ともいう)、および3つのベンゼン環とチオフェン環とが縮合してなる縮環チオフェン分子(以下、「HDS_S04」ともいう)の組合せである。
1種以上のシングルコア分子は、ヘテロ環構造に付加する環を有する縮合環であってもよい。ヘテロ環構造に付加する環は、芳香環、ナフサ環のいずれもであってもよいが、重質油の精製率の推算精度の向上の観点からは、好ましくは芳香環である。
また、ヘテロ環構造に付加する環数は、特に限定されず、通常0~7であってもよいが、石油の脱硫率の推算精度の向上の観点からは、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~3であり、より一層好ましくは1または2である。
また、精製効率が脱窒素率である場合、本発明に用いられる1種以上のシングルコア分子は、好ましくは窒素原子1個含む非芳香族シングルコア分子、窒素原子1個含む単環式芳香族シングルコア分子および窒素原子1個含む多環式芳香族シングルコア分の組合せであり、より好ましくはジヒドロピロール分子、ピリジン分子または縮環ピロール分子の組合せであり、より一層好ましくは2,3-ジヒドロピロール分子(以下、「HDN_5R」ともいう)、ピリジン分子(以下、「HDN_6R」ともいう)および3つのベンゼン環とピロール環とが縮合してなる縮環ピロール分子(以下、「HDN_09」ともいう)の組合せである。
また、精製効率が脱硫率である場合、頻度因子の補正式の変数となる構造属性パラメータは、好ましくは平均総環数および平均凝集度の組合せである。
また、精製効率が脱窒素率である場合、頻度因子の補正式の変数となる構造属性パラメータは、好ましくは平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度の組合せである。
本発明の好ましい態様によれば、上記シングルコア分子および構造属性パラメータは、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR MS)を用いて実施することができる。以下、図2に基づき、FT-ICR MSを用いて上記シングルコア分子(構造因子)および構造属性パラメータを取得する一実施態様を説明する。
ステップS1(質量分析)(S1)
ステップS1は、重質油に対しFT-ICR MSを行い、得られたピークの各々について、そのピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子の存在割合を特定するステップである。即ち、多成分混合物(重質油)に対し質量分析を行い、それにより得られたすべてのピークについて、各ピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子式に該当する分子の存在割合を特定するステップである。FT-ICR MSによれば、公知の方法、即ち、試料をソフトイオン化して分子イオンまたは擬分子イオンを形成することにより、高精度な計測を行うことができる。
ステップS2(衝突誘起解離)(S2)
ステップS2は、多成分混合物に対し衝突誘起解離を行うステップである。「衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation、以下、「CID」ともいう。)」とは、分子をイオン化し、これをアルゴン等の不活性ガスに衝突させ、架橋および側鎖を切断する操作をいう。通常、当該多成分混合物を構成する各成分における架橋および側鎖が切断されるように、衝突エネルギーを与えることが好ましい。架橋および側鎖を切断することにより、コアごとのフラグメントイオンが生成される。このコアは、衝突誘起解離では切断し得なかった炭素数0~4程度の脂肪族基を側鎖として有していることがある。
多成分混合物に対しFT-ICR MSを行ったとき、得られるピークのm/zから、多成分混合物を構成する分子の分子式を決定することができるが、その分子の「コア」に関する情報は得られない。そこで、さらに、衝突誘起解離を行って、多成分混合物を構成する各分子中の架橋および側鎖を切断すれば、多成分混合物全体の中に存在するコアの種類を知ることができる。
衝突誘起解離を行う条件としては、分子中の架橋および側鎖を有効に切断できる衝突エネルギー、例えば、10~50kcal/モルが好ましく、20~40kcal/モルがより好ましい。なお、40kcal/モルは、分子量を700とすると32eVに相当する。
ステップS3(各コアの構造および存在割合の特定)
ステップS3は、ステップS2の衝突誘起解離により生成した各フラグメントイオンについて、FT-ICR MSにより、各フラグメントイオンを構成するコアの構造および存在割合を特定するステップである。
(ア)まず、各フラグメントイオンを構成するコアについて、その構造を特定する方法を説明する。
具体的には、前記ステップS2で得られたコアに関する情報と、予め用意しておいたコア構造リストに記載されているコアに関する情報とを照合し、各コアの構造を特定する方法である。
詳しくは、以下のとおりである。
i.衝突誘起解離後におけるコアに関する情報の取得
衝突誘起解離後の各フラグメントイオンのFT-ICR MSにおいては、コアの部分は同じであっても、側鎖として炭素数が0~4程度の脂肪族基を有するフラグメントイオンは、その側鎖の種類に応じて、各々質量が異なるため、別々のピークとして現れる。そこで、コアに側鎖として炭素数が0~4の脂肪族基を持つものについて、これら各種の質量を予め算出しておき、上記現れた別々のピークを種々比較照合すれば、コアそのものの質量を割り出すことが可能となる。
この方法を用いて、ステップS2において、衝突誘起解離後に得られたピークの各々について、そのピークに帰属されるコアは、質量がいくつで、O,NまたはS原子等のヘテロ原子がいくつ存在し、またDBE値から芳香環がいくつ存在しているかという情報を得ることができる。
ii.衝突誘起解離後におけるコアの構造の特定
衝突誘起解離後におけるコアの構造を特定する方法として、予め、多成分混合物の各成分分子を構成すると想定できる各種のコアをモデルとしてリスト化した、「コア構造リスト」を作成しておき、当該リストに格納されているコアの分子量、ヘテロ原子の種類と数等の情報と上記にて得られたコアの情報を照合して、このリストの中から最も妥当と考えられるコアのモデルを選択し、そのコアを当該コアとして該当させるという方法がある。この方法により、衝突誘起解離後のFT-ICR MSにて得られたすべてのピークに対して、コアが割り付けられ、その構造を知ることが可能となる。
iii.コア構造リスト
上記コア構造リストに格納するコアの種類については、特に限定されるものではなく、いかなるものであってもよいが、格納するコアの選定の妥当性が各コアの構造特定の妥当性に直結することになる。
試料である多成分混合物そのものの内容に応じて、予め「コア構造リスト」を作成しておくのが好ましい。例えば、これまでの重質油に関する知見をもとにして、予め、「重質油の分子構造特定用のコア構造リスト」を作成しておき、それを用いればよい。
iv.コア構造リストからの選定
コア構造リストには、「分子量、DBE値およびヘテロ原子の種類と数がすべて同じであるが、構造式が異なる」というものが複数存在している場合がある。この場合、それらの複数のうちどれを第一優先として選定するかについては、適宜、ルールを決めておけばよい。例えば、優先性として、次の1~3が挙げられる。
1.芳香環のみから成るものを優先する。
2.不飽和結合の多いものを優先する。
3.環数の少ないものを優先する。
(イ)次に、各コアの存在割合を特定する方法を説明する。
前述のとおり、ステップS2において衝突誘起解離後に得られた各々のピークの高さから、そのm/z、即ち、その質量を持つコアの存在割合を求めることができる。
ステップS4(クラスごとのコアの存在態様および存在割合の推定)
ステップS1におけるピークの各々に帰属する分子を、「ヘテロ原子の種類と数(ゼロを含む。)およびDBE値」に基づいて「クラス」に分け、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様および存在割合を推定するステップである。言い換えれば、ステップS1におけるすべてのピークに帰属する分子について、ステップS1にて特定された各々の分子式における「ヘテロ原子の種類と数(ゼロを含む。)およびDBE値」に基づいて「クラス」に分け、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様および存在割合を推定するステップである。
以下、ステップS4について詳説する。
(ア)ステップS1において、すべてのピークについて分子式が特定されているため、その分子式におけるヘテロ原子の種類とその数およびDBE値が判明する。したがって、本ステップでは、この「ヘテロ原子の種類とその数およびDBE値」に基づいて、すべてのピークに帰属させた分子それぞれを、「ヘテロ原子の種類とその数およびDBE値」ごとに括られたそれぞれの「クラス」の中に編入する。
「ヘテロ原子の種類と数」とは、詳しくは、「ヘテロ原子の種類とその種類ごとのヘテロ原子の数」である。ヘテロ原子とは、好ましくは、窒素原子、硫黄原子および酸素原子であるため、「ヘテロ原子の種類と数」とは、好ましくは、「窒素原子、硫黄原子および酸素原子のそれぞれの数」ということもできる。よって、ヘテロ原子に関して言えば、「窒素原子の数、硫黄原子の数および酸素原子の数のすべてが一致するもの」が同一の「クラス」に入ることになる。なお、本明細書では、硫黄原子を1つ含む場合には「S1クラス」と称することがある。
(イ)次に、(ア)に記載した「ヘテロ原子の種類と数およびDBE値」で括られた各クラスにおいて、そのクラスに属する各分子が、どういうシングルコアまたはマルチコアであるのかを推定する。また、それらのシングルコアおよびマルチコアは、それぞれどういう割合で存在するのかを推定する。
これらの推定を行うにあたっては、実際の計算上の便宜から、いくつかの仮定を設けて行うのが好ましい。
ここで、「マルチコア」は、どういうコアどうしが架橋して結合しているのかにより、いろいろな組み合わせがありうる。ただし、マルチコアを形成する複数個のコアのDBE値の和およびヘテロ原子の種類に応じた数の和は、そのクラスに属しているものは、皆、同じ値である。しかしながら、本モデルでは、マルチコアはそれを構成するシングルコアに分割して、シングルコアはそれぞれどういう割合で存在するのかを推定する。例えば、ダブルコア(シングルコア-架橋-シングルコア)が存在する場合、本モデルでは、シングルコアに分割して、すべてシングルコアとして存在するものとみなす。より具体的には、ダブルコア(シングルコア(4環)-架橋-シングルコア(5環))は総環数9のダブルコアであるが、シングルコア(4環)とシングルコア(5環)があるとみなす。
(ウ)上記のように、FT-ICR MSにて得られたピークの各々に帰属する分子について、ヘテロ原子の種類と数およびDBE値が同じものからなるクラスごとに括り直したが、そのクラスに属する分子は、シングルコアまたはマルチコアである。これらのシングルコアまたはマルチコアが、どういうコアをもって構成されるのかを推定する好ましい方法について、以下、説明する。
そのクラスに属する分子が、シングルコアである場合は、そのクラスに該当するヘテロ原子の種類と数およびDBE値を持つシングルコアが該当する。そのクラスに属する分子が、マルチコアである場合は、当該マルチコアを構成している複数のコア中に存在する同じ種類のヘテロ原子ごとの数の和およびこれら複数のコアのDBE値の和が、当該クラスのヘテロ原子の種類と数およびDBE値と一致するように、コアを組み合わせたものが該当する。複数のコアのヘテロ原子の種類に応じた数の和およびDBE値の和がそのクラスのヘテロ原子の種類と数およびDBE値に該当すればよいのであるから、マルチコアを構成する複数のコアの組み合わせは、通常、1つとは限らず、数通り存在する。
(エ)次に、「そのクラスに属する各分子であるシングルコアおよびマルチコアは、それぞれどういう割合で存在するのか」を推定する。
好ましくは、最初に、マルチコアの存在割合は、そのマルチコアを構成している複数のコアそれぞれの存在割合の積であると仮定し、これを推定値とする。
ステップS5(コア構造、側鎖および架橋の決定)
ステップS5は、ステップS4において存在態様が推定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖および架橋を決定して割り付けるステップである。
(ア)「ステップS4において存在態様が推定された各分子」に対し、「それらを形成するコアの構造を決定する」とは、以下のi~vの操作により行うものである。
i.ステップS4で存在態様が推定されたマルチコアの場合は、それを構成しているコアごとに分けて(解除して)とらえる。
ii.ステップS4で存在態様がシングルコアであると推定されたものおよび上記iのようにマルチコアを解除して生成したコアのすべてについて、同じ「ヘテロ原子の種類と数およびDBE値」のものごとにそれぞれの「クラス」に括り直す。因みに、ここでいう「クラス」は、もともとのシングルコアおよびマルチコアを解除して得られたコアに関する概念であり、ステップS4で述べた分子に関する「クラス」とは別のものである。
iii.上記iiで括られた「ヘテロ原子の種類と数およびDBE値」のすべての「クラス」に関し、その「クラス」に存在しているコアのすべてについて、具体的な構造を割り付ける。
(イ)以下のi~iiiの操作により、さらに側鎖および架橋を決定する。
i.上記により、シングルコアまたはマルチコアのコアの部分の構造は特定することができたが、コアの部分のみの存在を想定しただけでは、対象とする試料についてFT-ICR MSにて得られたピークのm/zが示す質量に合致しない。即ち、コアの部分に関与している炭素、水素およびヘテロ原子に基づく質量を合計しても、FT-ICR MSにて得られたピークのm/zで示される質量と差が生じる。
そこで、その質量の差分は、コアに結合している側鎖およびコアどうしを結合させている架橋の存在に由来するものと考え、差分が解消するように炭素の数および水素の数を割り出し、それを側鎖および架橋としてコアに割り付ける。
例えば、あるm/z=nのピークに対して、上記の手順により、コア1とコア2が架橋してなるあるダブルコアが割り付けられたとする。このとき、
その質量の差分(d)=n-(コア1の質量+コア2の質量)
が、側鎖および架橋の存在に由来するものとなる。
ii.上記iにおいては、側鎖および架橋として割り付ける炭素の数および水素の数は求められるが、まだ、どういう構造の側鎖および架橋かは決定できていない。そこで、どういう構造の側鎖および架橋が相当するのかを推定するにあたっては、想定される側鎖および架橋の組合せの存在確率を考慮して、例えば、以下のようなルールを決めておき、それに従って推定すればよい。ルールとしては、側鎖や架橋を構成する炭素の数の上限や側鎖の本数等の条件を予め定めておけばよい。
iii.上記iにおいて、その質量の差分に相当する側鎖または架橋が存在しない場合は、コア1とコア2が単に結合しているという構造を当てはめてもよい。
(ウ)上記にて決定した側鎖および架橋を「コアに割り付ける」とは、どのコアのどの位置に側鎖や架橋が結合しているかを決定することまでを包含する意味ではない。
(エ)このようにして、ステップS5により、ステップS4において存在態様が推定された各シングルコアまたはダブルコアに対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖および架橋、存在割合を決定することができる。
上記のステップS1~ステップS5により、重質油を構成する各構成因子(シングルコア分子)について、その分子構造をJACDで特定し、平均総環数、平均、側鎖炭素数を特定することができる。
ステップS6(平均凝集度の取得)
次に、以下のステップS6-1~S6-5により、一実施形態における平均凝集度の取得ステップを説明する。
ステップS6-1(融点およびハンセン溶解度指数値の取得)
まず、ステップS1~S5により、JACDを用いて特定された多成分混合物の各成分の分子構造から、各成分の融点およびハンセン溶解度指数値(以下、「HSP値」ともいう)を取得する。
これらの物性値は、上記のようにして特定された多成分混合物の各成分の分子構造について、全石油分子データベース(Comcat)を用いて特定することが好ましい。
Comcatとは、JACDと各物性値とが紐付けられた「JACD-物性値データベース」のことである。該データベースへの登録分子数は、約2,500万件であり、石油に含まれる全成分は、すべてComcatに含まれる分子から構成されると仮定したモデル系解析において、利用可能である。
該データベースに登録されている物性値は、融点、ハンセン溶解度指数値、沸点、臨界湿度、臨界圧力、臨界体積、蒸気圧、液体密度、気体粘度、液体粘度、表面張力、双極子モーメント、分極率、イオン化ポテンシャル、生成熱、エンタルピー、エントロピー、自由エネルギー、熱容量等の約200種の物性値である。
これらの物性値は、通常、原子団寄与法や分子軌道法を用いて算出される。原子団寄与法とは、ある物質の物性値を求めるにあたり、その物質の化学構造を特定し、存在する各種の原子団、即ち、「基」が持つ固有のパラメータ値をもとに、その物質の物性値を算出するという方法である。即ち、その物質が持つ「基」が特定されることが前提となる。また、分子軌道法においても、まず、その物質が持つ「基」が特定され、それをもとに構造が特定されることが前提となる。
本発明においては、上述のように、重質油を構成する各成分について、存在する各種の原子団が特定されるため、各種の原子団が持つ公知の固有のパラメータ値を用いて、その成分の物性値を算出することができる。さらに、各成分の存在割合も特定されているため、この存在割合を考慮すれば、適宜、各成分の持つ物性値から全体の重質油の物性値を推算することが可能となる。
次に、本発明が立脚する多成分凝集モデル(Multi-Component Aggregation Model:MCAM)について、以下のステップS7~S16により説明する。
ステップS6-2(液相成分と非液相成分への分離)
上記のステップS1~S6-1において、各成分の分率、融点およびハンセン溶解度指数値を取得し、所望の温度Tを設定する。
重質油を構成する各成分のうち、所望の温度T未満の融点を有する成分を液相成分として分類し、該所望の温度T以上の融点を有する成分を非液相成分として分類する。
ここで所望の温度Tとは、上記で定義したとおりである。
ステップS6-3(液相全体の平均HSP値の算出)
ステップS6-2において液相成分として分類された各成分のHSP値について、各成分の当該液相における容積分率で重み付けした加重平均値を、液相全体の平均HSP値として算出する。各成分について、密度、分子量等の物性に関する諸情報を予め取得しておくことにより、容積分率を算出することができる。
ステップS6-4(液相全体と各非液相成分とのHSP値の差の算出)
ステップS6-3において算出した液相全体の平均HSP値と、非液相成分における各成分のHSP値との差(Δδ)を算出する。
ステップS6-5(Δδに基づく各成分の分類の更新)
非液相成分における各成分を、ステップS6-4において算出した差(Δδ)に基づいて、液相成分または非液相成分として再分類し、液相成分として再分類された各成分を非液相成分から液相成分へ編入して、液相成分および非液相成分を更新する。
この再分類における更新は、非液相成分における各成分について、一つずつ順番に行ってもよいし、複数の成分ごとに行ってもよい。
ステップS6-6(更新後の液相全体の平均HSP値の算出)
ステップS6-5において更新した後の液相成分における各成分のHSP値について、各成分の当該更新後の液相における容積分率で重み付けした加重平均値を、更新後の液相全体の平均HSP値として算出する。
ステップS6-7(ステップS6-4~S6-6の繰り返し)
ステップS6-4~S6-6を、ステップS6-7において液相成分として再分類される非液相成分がなくなる最終段階まで繰り返す。
ステップS6-7(非液相成分の凝集度の算出)
所望の温度における最終段階での更新後の非液相成分の凝集度D(以下、DAgg値ともいう)を算出する。ここで、凝集度Dは、HSP値、濃度、温度により設定される数値である。
ステップS6-8(凝集度に基づく非液相成分の分類)
最終段階での更新後の非液相成分における各成分を、凝集度Dに基づいて、凝集相成分に分類する。
ステップS6-9(平均凝集度の算出)
ステップS6-8で分類したシングルコア分子の平均凝縮度Dを算出する。
なお、以上に記載のステップSステップS1~S6は、特許文献3および特許文献4に記載の方法を参考にして実施してもよく、これら文献は、引用することにより本明細書の一部とされる。
ステップS7(補正式の算出)
次に、本発明の一実施態様によれば、ステップS1~6により得られた、対象となる重質油の平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータと、頻度因子log10A(以下、logA)の補正式に基づき、重質油の補正因子を算出する。
本発明の好ましい態様によれば、上記頻度因子の補正式は、
予め選択する複数の基準重質油について、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータと、上記基準石油における1種以上の構造因子との相関を求めるステップ、および
上記相関に基づく回帰分析により、1種以上の構造因子(シングルコア分子)について、上記2種以上の構造属性パラメータを変数とする頻度因子の補正式を算出するステップ
を含む方法により得られたものである。
上記基準重質油は、本発明の推算の対象となる重質油と同種であって、産地の異なる複数の重質油であることが好ましい。基準重質油の数は、特に限定されないが、補正R2(決定係数)が0.6以上となるように選択することが好ましい。
基準重質油を測定対象の重質油と同様の精製装置により処理して得られるデータは、頻度因子の補正式の作成において好適に使用することができる。
本発明の好ましい態様によれば、精製率が脱硫率である場合、硫黄原子1個含む非芳香族シングルコア分子および硫黄原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子について、平均凝集度と平均総環数を用いた線形回帰を行い、以下の頻度因子の補正式により回帰係数を求めることができる。
logA(硫黄原子1個含む非芳香族シングルコア分子)=a1+b1×(平均凝集度)+c1×(平均総環数)
logA(硫黄原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子)=a2+b2×(平均凝集度)+c2×(平均総環数)
(a,b,cは回帰係数である。)
本発明の好ましい態様によれば、精製率が脱窒素率である場合、硫黄原子1個含む非芳香族シングルコア分子および硫黄原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子について、平均凝集度、平均総環数および平均側鎖炭素数を用いた線形回帰を行い、以下の頻度因子の補正式により回帰係数を求めることができる。
logA(窒素原子1個含む非芳香族シングルコア分子)=a1+b1×(平均凝集度)+c1×(平均総環数)+d1×(側鎖平均炭素数)
logA(窒素原子1個含む単環式芳香族シングルコア分子)=a2+b2×(平均凝集度)+c2×(平均総環数)+d2×(側鎖平均炭素数)
logA(窒素原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子)=a3+b3×(平均凝集度)+c3×(平均総環数)+d3×(側鎖平均炭素数)
本発明の好ましい態様によれば、測定対象となる重質油の構造属性パラメータを上記頻度因子の補正式に代入し、重質油の頻度因子を算出することができる。
ステップ2:ステップ(1)で得られる頻度因子を用いる精製反応モデルに基づき、重質油から得られる生成油の分子組成を推定するステップ
本発明の一実施態様によれば、ステップ(1)で得られる頻度因子を予め作成された精製反応モデルに適用して、生成油の分子組成を得ることができる。
本発明の好ましい態様によれば、精製反応モデルは、構造属性ベース反応モデリング法(Attribute Reaction Modeling、ARM)である。本技術は、デラウェア大学のKlein教授らが開発したコアの反応モデルとして当該技術分野において知られており(例えば、Korre,S.C et al.,Catal Today,3179(1996).; Hagiwara, K. et al., Journal of the Petroleum Institute,59(5),219(2016)を参照)、原料の重質油および生成油の95mol%以上を網羅する1,233種類のコアと1,233コアの脱硫・脱窒素反応の計2,107の反応パスを定めることができる。
ARMにおいて反応速度解析を実施するには、各反応パスについて反応速度パラメータである活性化エネルギーΔEとステップ(1)で求めた頻度因子を設定すればよい。活性化エネルギーΔEについては、同様の反応グループにおいてはΔEと分子の標準生成熱ΔHとの間に一次の相関があるとする定量的構造反応性相関(Quantitative Structure Reactivity Relationship,QSRR)式を用いて、分子軌道法にて計算したΔHからΔEを推算することができる。
なお、本発明においては、ARMは、全てシングルコアとして反応モデルを構築しているため、マルチコアについては、架橋部にて切断したシングルコアとして使用する。
ステップ(3):重質油の分子組成と生成油の分子組成とに基づき、精製効率を推算するステップ
本発明の一実施態様によれば、ステップ(2)で得られる生成油の分子組成と、ステップ(1)で得られる原料の重質油の分子組成とから、精製率を推算することができる。原料の重質油の硫黄または窒素含有率と、生成油の硫黄または窒素含有率とをそれぞれ比較することにより、当業者は脱硫率、脱窒素率を算出することができる。
本発明の対象石油の脱硫率の推算方法は、RDS装置等の石油に関する装置の運転条件を設定する上で利用することができる。したがって、本発明の好ましい実施態様によれば、上記方法により推算された精製率の推算値に基づいて、運転条件を設定する、石油に関する装置の運転方法が提供される。
RDS装置における反応の温度は、例えば、対象石油が重質油である場合、300~400℃程度とすることができる。
<石油の脱硫率を推算する装置およびシステム>
次に、図3を参照して、本発明の重質油の精製効率の推算装置の一実施形態を説明する。図3は、実施形態の重質油の精製効率の推算装置1の機能ブロック図である。コンピュータに本発明のプログラムを実行させることにより、コンピュータが重質油の精製効率の推算装置として機能する。
なお、図3では、情報の入力および出力を行うインタフェースの図示を省略している。
本装置1は、頻度因子推算部10、分子組成推定部20および精製効率推算部30を有している。本装置1は、1つのCPUで構成してもよいし、通信回線を介して互いに接続された複数の装置で構成されてもよい。
頻度因子推算部10は、構成成分情報取得部11と、頻度因子補正演算部12とを有している。
構成成分情報取得部11は、FTICR-MSから得られる各成分の情報、重質油成分についての情報がデータベースとして格納された記憶部と、演算部とから構成することができ、FTICR-MSにより取得された各成分の情報と、記憶部に格納された情報とに基づき、演算部において各成分の各分組成情報分析することができる。演算部および記憶部には、例えば、本出願人による特開2014-218643号公報および特表2020-502495号公報に記載のデータベースおよびプログラム(JACD (ジャックディー)(Juxtaposed Attributes for Chemical-structure Description)等)が記憶され、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータ情報の分析が実施される。
また、構成成分情報取得部11は、所望により、FTICR-MSや重質油のイオン化装置に接続していてもよい。
頻度因子補正演算部12は、構成成分情報取得部11から重質油の構成成分パラメータ情報を取得する。そして、構成成分パラメータ情報と、予め記憶された頻度因子の補正式とに基づき、対象となる重質油の構成因子の頻度因子を推算することができる。頻度因子補正演算部12では、精製率が脱硫率または脱窒素率のいずれであるかに応じて、構成因子、構成成分パラメータ、補正式を選択し、頻度因子を推算することができる。
分子組成推定部20では、頻度因子補正演算部12から得られる頻度因子情報と、予め記憶した精製反応モデルに基づき、生成油の分子組成を推定する。精製反応モデルは、上述のような構造属性ベース反応モデリング法を使用したものであってよい。
精製効率推算部30では、分子組成推定部20より得られる生成油の分子組成情報と、構成成分情報取得部11より得られる測定対象となる重質油の分子組成に基づいて精製効率を推算することができる。
本発明の精製効率の推算装置の各部は、一体的に構成していてよいが、各部を所望により別体として構成してもよい。このような独立した各部により対象石油における精製効率の推算を実施する場合、精製効率推算装置は、精製効率を推算するシステムとして提供することができる。
したがって、本発明の別の態様によれば、重質油の精製反応における、脱硫率および脱窒素率から選択される少なくとも一つの精製効率のシステムであって、
(1)上記重質油に含まれる1種以上の構造因子の頻度因子を、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算する頻度因子推算部、
(2)上記頻度因子推算部で得られる頻度因子を用いる上記精製反応モデルに基づき、上記重質油から得られる生成油の分子組成を推定する分子組成推定部、
(3)上記重質油の分子組成と上記生成油の分子組成とに基づき、上記精製効率を推算する精製効率推算部
を含み、
上記1種以上の構造因子が、硫黄原子または窒素原子1個を含む1種以上のシングルコア分子である、システム
が提供される。
<脱流率の推算コンピュータプログラム等>
本発明において、JACDを用いた分子構造の推定、推定された分子構造情報と物性値との紐付け、および凝集モデルを用いた多成分混合物の性状の推定の一連の処理は、ハードウェアまたはソフトウェア、またはこれらを複合した構成によって実行することができる。ソフトウェアによる処理を実行する場合には、処理シーケンスを記録したプログラムを、専用のハードウェアに組み込まれたコンピュータ内のメモリにインストールして実行させるか、各種処理が実行可能な汎用コンピュータにプログラムをインストールして実行させることができる。
例えば、プログラムは、記録媒体としてのハードディスクやROMに予め記録しておくことができる。また、プログラムは、フレキシブルディスク、CD-ROM、MOディスク、DVD、磁気ディスク、半導体メモリなどのリムーバブル記録媒体に、一時的または永続的に格納(記録)しておくことができる。
なお、プログラムは、上述したようなリムーバブル記録媒体からコンピュータにインストールする他に、ダウンロードサイトから、コンピュータに無線転送したり、LAN、インターネットといったネットワークを介して、コンピュータに有線で転送したりでき、コンピュータでは、そのようにして転送されてくるプログラムを受信し、内蔵するハードディスクなどの記録媒体にインストールすることができる。
本発明の方法は、上記コンピュータプログラムを内部記憶装置に記憶したコンピュータで好適に実施することができる。
また、本明細書に記載された各種の処理は、記載に従って時系列に実行されるだけではなく、処理を実行する装置の処理能力や必要に応じて並列的にまたは個別に実行されてもよい。また、本明細書において、システムとは、複数の装置の論理的集合構成であり、各構成の装置が同一筐体内にあるものに限定されるものではない。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
試験例1
(1)RDS分子反応モデリング技術について
本試験では、RDS原料油である常圧残油(AR)に含まれている分子の組成データ(JACD データ)をインプットデータとしてRDSの反応解析を行うための定量的な反応モデルを構築することを目的として、以下に記載の検討を実施した。
RDS原料油として主に用いられるARに含まれる分子の数は数万以上に及ぶため、分子組成をそのままの形で分子反応モデリングに用いると最適化すべきパラメータが膨大となり実質不可能となる。そこで、本技術ではデラウェア大学のKlein教授らが開発した構造属性ベース反応モデリング法(Attribute Reaction Modeling、ARM)を採用している。本技術では、コアの反応モデルとして、RDS原料油および生成油の95mol%以上を網羅する1,233種類のコアと1,233コアの脱硫・脱窒素反応の計2,107の反応パスを定めている。
反応速度解析を実施するには、2,107それぞれの反応パスについて反応速度パラメータである活性化エネルギーΔEと頻度因子Aを設定する必要がある。
活性化エネルギーΔEについては、同様の反応グループにおいてはΔEと分子の標準生成熱ΔHとの間に一次の相関があるとする定量的構造反応性相関(Quantitative Structure Reactivity Relationship, QSRR)式を用いて、分子軌道法にて計算したΔHからΔEを推算している。頻度因子Aについては、反応評価試験に整合するようにフィッティングすることで求める。
頻度因子Aについては、2107反応パスそれぞれについて求めるではなく図4に示す反応グループ(構造因子)毎に求めた。
(2)RDS分子反応モデリング技術で用いる速度パラメーター(頻度因子)の補正
RDS分子反応モデリング技術を用いて、由来原油の異なる16種類ARについての頻度因子をRDS生成油であるDSARの分子組成データ(JACD データ)に整合するようにフィッティングして求めた結果を表2に示す。表2の結果から、由来原油の違い、すなわち原料油の分子組成の違いにより各反応グループの頻度因子log10A(以下、logA)の値は、ほぼ一定のS2、S1N1と、原油ごとに異なるその他の反応グループ(S1,S04,5R,6R,09)となった。
Figure 2022155340000005
原油ごとにlogAが異なるので、分子組成からlogAを推定できないか検討した。まず、脱硫反応に関する4種類の頻度因子(S1、S04、S2、S1N1)について検討した。
各種ARに含まれる分子の組成と頻度因子との相関性を調べるために、上記検討結果に基づき、横軸には16種類のARそれぞれに含まれる全分子の平均凝集度、硫黄化合物の平均総環数、縦軸には4種類の頻度因子毎にlogA値をプロットしたのを図5に示す。ここで、縦軸の頻度因子については、反応温度350、370、390℃で求めた頻度因子logAの平均値をいう。
S1およびS04の頻度因子は、平均凝集度および平均総環数が増加するに伴い、logAが減少しており、両者の間には一次の相関が見られることが分かった。一方、S2およびS1N1の頻度因子との間には相関は見られなかった。
そこで、S1,S04については、各種ARにおけるlogAについて、平均凝集度と平均総環数を用いた線形回帰を行い、下記に示す回帰係数(a,b,c)を求めた。
logA(S1)=a1+b1×(平均凝集度)+c1×(平均総環数)
logA(S04)=a2+b2×(平均凝集度)+c2×(平均総環数)
上記の補正式に、16種類ARにおける平均凝集度および平均総環数をそれぞれ代入して、S1およびS04の頻度因子logAを推算したうえで、RDS生成油の実測データに基づいて求めた頻度因子logAとの整合性を回帰分析により確認した(図6)。
決定係数(R2)は、S1、S04それぞれ0.744および0.616であり、両方とも推算値と実測値は概ね整合することが分かった。
S2、S1N1については、ほぼ一定の頻度因子であることから、各原油で算出した頻度因子の全データを平均して分子反応シミュレーションに用いた。
次に、脱窒素反応に関する3種類の頻度因子(5R、6R、09)について検討した。脱硫反応と同様、横軸には各種ARに含まれる全分子の平均凝集度、窒素化合物の平均総環数、窒素化合物に付加する平均側鎖炭素数、縦軸には3種類の頻度因子毎に求めたlogAをプロットした図を作成した(図7)。
5R、6R、09の頻度因子についても、平均凝集度、平均総環数、平均側鎖炭素数それぞれが増加するに伴い、logAが減少する傾向があり、両者の間には一次の相関が見られることが分かった。
各種ARにおけるlogAについて、平均凝集度と平均総環数と平均側鎖炭素数を用いた線形回帰を行い、下記に示す回帰係数(a,b,c,d)を求めた。
logA(5R)=a1+b1×(平均凝集度)+c1×(平均総環数)+d1×(平均側鎖炭素数)
logA(6R)=a2+b2×(平均凝集度)+c2×(平均総環数)+d2×(平均側鎖炭素数)
logA(09)=a3+b3×(平均凝集度)+c3×(平均総環数)+d3×(平均側鎖炭素数)
上記の補正式に、16種類ARにおける平均凝集度、平均総環数および平均側鎖炭素数をそれぞれ代入して、5R、6Rおよび09の頻度因子logAを推算したうえで、RDS生成油の実測データに基づいて求めた頻度因子logAとの整合性を回帰分析により確認した(図8)。
以上の検討結果から、10種類の頻度因子logAのうち、脱硫反応については2種類(S1、S04)、脱窒素反応については3種類(5R、6R、09)についての補正式を設定することができた。これら5種類の頻度因子logAについては、補正式および各種ARのJACDデータから得られる平均凝集度、平均総環数、平均側鎖炭素数を用いて頻度因子logAを推算したうえで、分子反応シミュレーションに用いた。
(3)RDS分子反応シミュレーションによるARの脱硫・脱窒素率の予測結果
これまでに反応評価した由来原油の異なる16種類のARについて、上記手法で脱硫・脱窒素の頻度因子を推算し、得られた値を用いて反応温度350、370、390℃の条件下でRDS分子反応シミュレーションを行った。
RDS分子反応シミュレーションにより得られた各反応温度のRDS生成油(DSAR)、および実測した原料油(AR)の分子組成(コア)データを基に、16種類のARについて反応温度350、370、390℃における脱硫・脱窒素率を算出した。算出した脱硫・脱窒素率の予測値を縦軸、横軸に実測値をプロットしたのを図9に示す。
実測値に対して、脱硫率の予測値は±10%、脱窒素率は±15%の範囲内に概ね入っていることが分かった。また、由来原油の産地違いによる傾向は認められなかった。
1 重質油の精製効率の推算装置
10 頻度因子推算部
11 構成成分情報取得部
12 頻度因子補正演算部
20 分子組成推定部
30 精製効率推算部

Claims (16)

  1. 重質油の精製反応における、脱硫率および脱窒素率から選択される少なくとも一つの精製効率のコンピュータによる推算方法であって、
    (1)前記重質油に含まれる1種以上の構造因子の頻度因子を、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算するステップ、
    (2)ステップ(1)で得られる頻度因子を用いる前記精製反応モデルに基づき、前記重質油から得られる生成油の分子組成を推定するステップ、および
    (3)前記重質油の分子組成と前記生成油の分子組成とに基づき、前記精製効率を推算するステップ
    を含み、
    前記1種以上の構造因子が、硫黄原子または窒素原子1個を含む1種以上のシングルコア分子である、方法。
  2. 前記ステップ(1)の補正式が、
    予め選択する複数の基準重質油について、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータと、前記基準石油における1種以上の構造因子との相関を求めるステップ、および
    前記相関に基づく回帰分析により、1種以上の構造因子について、前記2種以上の構造属性パラメータを変数とする頻度因子の補正式を算出するステップ
    により得られたものである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記1種以上の構造因子が、硫黄原子1個含む非芳香族シングルコア分子、硫黄原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子、窒素原子1個含む非芳香族シングルコア分子、窒素原子1個含む単環式芳香族シングルコア分子および窒素原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子からなる群から選択される2種以上の構造因子である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記1種以上の構造因子が、硫黄原子1個含む非芳香族シングルコア分子および硫黄原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記精製効率が脱硫率である、請求項4に記載の方法。
  6. 前記補正式の変数となる構造属性パラメータが、平均総環数および平均凝集度を含む、請求項4または5に記載の方法。
  7. 前記1種以上の構造因子が、窒素原子1個含む非芳香族シングルコア分子、窒素原子1個含む単環式芳香族シングルコア分子および窒素原子1個含む多環式芳香族シングルコア分子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記精製効率が脱窒素率である、請求項7に記載の方法。
  9. 前記補正式の変数となる構造属性パラメータが、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度を含む、請求項7または8に記載の方法。
  10. 前記重質油の精製反応が、残油直接脱硫(RDS)装置を用いて実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 請求項1~10のいずれか一項に記載の方法により得られる精製率の推算値に基づいて、運転条件を設定する、石油に関する装置の運転方法。
  12. 重質油の精製反応における、脱硫率および脱窒素率から選択される少なくとも一つの精製効率の推算装置であって、
    (1)前記重質油に含まれる1種以上の構造因子の頻度因子を、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算する頻度因子推算部、
    (2)前記頻度因子推算部で得られる頻度因子を用いる前記精製反応モデルに基づき、前記重質油から得られる生成油の分子組成を推定する分子組成推定部、
    (3)前記重質油の分子組成と前記生成油の分子組成とに基づき、前記精製効率を推算する精製効率推算部
    を含み、
    前記1種以上の構造因子が、硫黄原子または窒素原子1個を含む1種以上のシングルコア分子である、装置。
  13. 重質油の精製反応における、脱硫率および脱窒素率から選択される少なくとも一つの精製効率のシステムであって、
    (1)前記重質油に含まれる1種以上の構造因子の頻度因子を、平均総環数、側鎖の平均炭素数および平均凝集度から選択される2種以上の構造属性パラメータを変数とする補正式に基づき推算する頻度因子推算部、
    (2)前記頻度因子推算部で得られる頻度因子を用いる前記精製反応モデルに基づき、前記重質油から得られる生成油の分子組成を推定する分子組成推定部、
    (3)前記重質油の分子組成と前記生成油の分子組成とに基づき、前記精製効率を推算する精製効率推算部
    を含み、
    前記1種以上の構造因子が、硫黄原子または窒素原子1個を含む1種以上のシングルコア分子である、システム。
  14. 請求項1~11のいずれか一項に記載の方法、請求項12に記載の装置または請求項13に記載のシステムを実行させるためのコンピュータプログラム。
  15. 請求項14に記載のコンピュータプログラムを記録した記録媒体。
  16. 請求項14に記載のコンピュータプログラムを内部記憶装置に記憶したコンピュータ。
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