リングマッシュ(登録商標)の接合方法では、接合強度を大きくするために棒状部材を環状部材の中央空間内に嵌め込む深さを大きくすることが可能である。しかし、嵌め込む深さを大きくするほど、バリの発生量が多くなる。バリの発生量が多くなって部材の外側に多量にはみ出す場合は、電流を流すための電極にバリ逃げの空間を大きく設ける等の策を講ずることとなる。
本開示は上述の課題に鑑み、バリのはみ出し量を低減する環状部材、嵌合部材、接合済部材、接合済部材の製造方法、及び接合済部材製造装置を提供することに関する。
本開示の第1の態様に係る環状部材は、環状に形成された環状部材であって、前記環状の内部に、嵌合部材が嵌められる環状空間が形成され、前記環状空間との境界を形成する内壁である環状内壁に環状当接面が設けられており、前記環状当接面は、前記嵌合部材が前記環状空間に入れられたときに前記嵌合部材の一部が接する面であって、前記嵌合部材が入れられる側の前記環状部材の面である受入面から所定の深さの位置で前記環状空間の内部に設けられており、前記嵌合部材の一部が前記環状当接面に接したときに、前記受入面と前記環状当接面との間の前記環状内壁と前記嵌合部材との間に、所定の形状及び大きさの隙間である受入面側隙間が生じるように構成されている。
このように構成すると、嵌合部材が環状空間に嵌められて接合されたときに、接合に伴って排出されるバリを受入面側隙間に収めることができ、バリのはみ出し量を低減することができる。また、受入面側隙間に収めたバリが接合に寄与することで、変位量よりも大きな接合長を得ることができる。
本開示の第2の態様に係る環状部材は、上記本開示の第1の態様に係る環状部材において、前記受入面側隙間は、前記環状当接面から前記受入面に近づくにつれて前記環状部材と前記嵌合部材との間隔が大きくなる形状である。
このように構成すると、嵌合部材が環状空間に嵌められて接合されたときに、接合強度とバリのはみ出し量の低減とのバランスを適切に取ることができる。
本開示の第3の態様に係る嵌合部材は、環状に形成された環状部材の前記環状の内部の環状空間に嵌められる嵌合部材であって、前記環状空間に入れられたときに前記環状部材の一部に接する嵌合当接面が、前記環状空間に入れられた側の前記嵌合部材の先端から離れた側面に設けられており、前記嵌合当接面が前記環状部材の一部に接したときに、前記先端と前記嵌合当接面との間の前記側面と前記環状部材との間に、所定の形状及び大きさの隙間である先端側隙間が生じるように構成されている。
このように構成すると、環状部材の環状空間に嵌められて接合されたときに、接合に伴って排出されるバリを先端側隙間に収めることができ、バリのはみ出し量を低減することができる。また、先端側隙間に収めたバリが接合に寄与することで、変位量よりも大きな接合長を得ることができる。
本開示の第4の態様に係る嵌合部材は、上記本開示の第3の態様に係る嵌合部材において、前記先端側隙間は、前記嵌合当接面から前記先端に近づくにつれて前記嵌合部材と前記環状部材との間隔が大きくなる形状である。
このように構成すると、環状部材の環状空間に嵌められて接合されたときに、接合強度とバリのはみ出し量の低減とのバランスを適切に取ることができる。
本開示の第5の態様に係る接合済部材は、上記本開示の第1の態様又は第2の態様に係る環状部材と、前記環状空間に嵌められた嵌合部材と、を備え、前記環状部材と前記嵌合部材とが接合される前に接触した前記環状当接面と前記嵌合部材の一部とが接合されており、前記受入面側隙間に、前記接合された際に生じたバリが収納されている。
このように構成すると、バリのはみ出し量が従来よりも低減された接合済部材とすることができる。
本開示の第6の態様に係る接合済部材は、上記本開示の第5の態様に係る接合済部材において、前記嵌合部材が上記本開示の第3の態様又は第4の態様に係る嵌合部材であり、前記環状部材と前記嵌合部材とが接合される前に前記環状当接面と接触する前記嵌合部材の一部が前記嵌合当接面であり、前記先端側隙間に、前記接合された際に生じたバリが収納されている。
このように構成すると、受入面側及び先端側の両方ともバリのはみ出し量が低減された接合済部材とすることができる。
本開示の第7の態様に係る接合済部材の製造方法は、上記本開示の第1の態様又は第2の態様に係る環状部材を提供する工程と、前記環状空間に嵌められる嵌合部材を提供する工程と、前記環状当接面に、前記嵌合部材の一部を接触させる当接工程と、前記当接工程によって接触している前記環状部材と前記嵌合部材とを、前記嵌合部材が前記環状空間の内部にさらに入り込む方向に加圧する加圧工程と、前記加圧工程中に、前記環状部材と前記嵌合部材との接触部に電流を流す通電工程と、前記加圧工程及び前記通電工程によって、前記環状部材と前記嵌合部材との接触部分を塑性変形させて接合する接合工程と、を備える。
このように構成すると、比較的小さな変位量で比較的大きな接合長を持つと共にバリのはみ出し量が低減された接合済部材を得ることができる。
本開示の第8の態様に係る接合済部材製造装置は、上記本開示の第7の態様に係る接合済部材の製造方法が適用される装置であって、前記嵌合部材に接触させる第1の電極と、前記環状部材に接触させる第2の電極と、前記嵌合部材及び前記環状部材を介して前記第1の電極と前記第2の電極との間に流す電流を発生させる電流発生器と、前記第1の電極と前記第2の電極との距離を近づけるように前記第1の電極及び前記第2の電極の少なくとも一方を移動させる移動装置と、前記電流発生器及び前記移動装置を制御して、上記本開示の第7の態様に係る接合済部材の製造方法を実行する制御装置と、を備える。
このように構成すると、比較的小さな変位量で比較的大きな接合長を持つと共にバリのはみ出し量が低減された接合済部材を製造する装置を提供することができる。
本開示によれば、嵌合部材が環状空間に嵌められて接合されたときに、接合に伴って排出されるバリを隙間に収めることができ、バリのはみ出し量を低減することができる。
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
まず図1並びに図2(A)及び図2(B)を参照して、一実施の形態に係る、嵌合部材10及び環状部材20並びに接合済部材30を説明する。図1は、嵌合部材10及び環状部材20が嵌合する前の状態の断面図である。図2(A)は嵌合部材10と環状部材20との接合前の接触部まわりの拡大部分断面図、図2(B)は嵌合部材10と環状部材20との接合により製造された接合済部材30の拡大部分断面図である。嵌合部材10は、例えば自動車のクラッチ部品のシャフトとして用いることができる。環状部材20は、例えば自動車のクラッチ部品のドラムとして用いることができる。本実施の形態では、嵌合部材10が概ね円柱状に形成され、環状部材20が概ね円筒状に形成されており、説明の便宜上、嵌合部材10の円柱状の軸線である嵌合軸線18と、環状部材20の円筒状の軸線である環状軸線28とを示している。図1並びに図2(A)及び図2(B)は、嵌合軸線18及び環状軸線28を通り嵌合軸線18及び環状軸線28に平行な面の断面(以下「縦断面」という。)を示している。嵌合部材10及び環状部材20は、嵌合軸線18及び環状軸線28が延びる方向に相対的に近づけるようにして、嵌合部材10が環状部材20に嵌め込まれて接合される。以下、嵌合軸線18及び環状軸線28が延びる方向を「嵌め込み方向V」ということもある。本実施の形態では、接合部分まわりの形状に工夫を施した嵌合部材10と環状部材20とを接合することで、比較的大きな接合長の、バリのはみ出し量が抑制された、接合済部材30が得られる。以下、嵌合部材10及び環状部材20の構成を説明する。
嵌合部材10は、金属材料が加工されて形成された部材であり、典型的には炭素鋼、合金鋼、鋳鉄等が用いられるが、これら以外の金属であってもよく、用途に応じて好適な材料を用いればよい。嵌合部材10は、本実施の形態では、上述のように概ね円柱状に形成されており、円柱の側面に相当する部分を側面11といい、両端面のうちの環状部材20に嵌め込まれる方の端面を先端面15、他方の端面を天面16ということとする。なお、嵌合部材10が概ね円柱状というのは、一部に変形した部分がある等により完全な円柱ではなくても、細部を無視して全体として見れば円柱と見ることができることを意味している。嵌合部材10は、先端面15側の側面11が、天面16側の側面11よりも径が小さくなっている点において、円柱から変形している。嵌合部材10は、側面11が、外側面12と、嵌合当接面13と、先端近傍側面14とを有している。
外側面12は、側面11のうちで最も天面16の側に位置している。外側面12は、縦断面において、本実施の形態では、嵌合軸線18に平行に延びている。外側面12が形成されている円柱状の部分は、嵌合部材10の主要な部分を占めており、嵌め込み方向Vにおける長さが、嵌合当接面13及び先端近傍側面14の部分よりも長くなっている。嵌合当接面13は、環状部材20の一部が接する部分である。嵌合当接面13は、縦断面において、外側面12とのなす角θ1が、120°~150°、典型的には135°程度になっていると好ましいが、種々の条件を勘案して、ここに例示した角度以外の角度となっていてもよい。嵌合当接面13は、縦断面において、本実施の形態では直線状に形成されているが、曲線状に形成されていてもよい。先端近傍側面14は、側面11のうちで最も先端面15の側に位置している。先端近傍側面14は、嵌合当接面13との間の外側の角θ2が、角度θ1よりも大きくなっている。角度θ2は、130°~175°、あるいは145°~160°、典型的には155°程度になっていると好ましいが、種々の条件を勘案して、ここに例示した角度以外の角度となっていてもよい。先端近傍側面14は、縦断面において、本実施の形態では直線状に形成されているが、曲線状に形成されていてもよい。先端近傍側面14は、嵌合軸線18に対して平行ではなく、嵌合当接面13の側から先端面15の側に近づくにつれて、嵌合軸線18までの最短距離が短くなるように形成されている。嵌合部材10は、側面11の縦断面における輪郭が、嵌合軸線18に平行な外側面12に対して嵌合当接面13が嵌合軸線18の方に曲がり、嵌合当接面13に対して先端近傍側面14が嵌合軸線18とは逆の側に曲がる、折れ線状になっている。嵌合当接面13は、先端面15から所定の距離だけ天面16の側に離れた位置から開始している。所定の距離は、本実施の形態では1mmとなっているが、条件に応じて0.5mm~1.5mm程度でもよく、2mm、3mm、あるいは5mm以上等でもよい。
環状部材20は、金属材料が加工されて形成された部材であり、嵌合部材10と同種の材料から形成されていてもよく、嵌合部材10とは異種の金属材料から形成されていてもよく、用途に応じて好適な材料を用いればよい。環状部材20は、本実施の形態では、上述のように概ね円筒状に形成されている。ここで、環状部材20が概ね円筒状というのは、厳密な円筒ではなくても、全体として見れば円筒と見ることができることを意味している。環状部材20は、円筒状の外周の半径方向の厚さが比較的厚くなっている。環状部材20の概ね円筒状について別の表現をすれば、嵌め込み方向Vの厚さが所定の厚さに形成された円形厚板の中央に、概ね円柱状の孔があいた、ドーナツ状に形成されているということができる。環状部材20の厚さは、製品である接合済部材30として求められる厚さに関係しており、典型的には3mm~10mm程度である。しかしながら、環状部材20の厚さは、上記の範囲内の4.5mm、6mm、9mm等の任意の厚さとしてもよく、状況に応じてこの範囲外(例えば12mm以上)の厚さとしてもよい。環状部材20の円筒状の中空部分である基本形状が円柱状の孔は、嵌合部材10が嵌められる内部の空間となる環状空間27であり、環状部材20の環状空間27との境界を形成する内壁を環状内壁21ということとする。また、環状部材20の、嵌合部材10が入ってくる方の円形厚板の面を受入面25といい、受入面25の反対側の面を底面26ということとする。受入面25は、嵌合部材10が入れられる側の環状部材20の面である。
環状部材20は、環状内壁21が、奥内壁22と、環状当接面23と、受入近傍内壁24とを有している。奥内壁22は、環状内壁21のうちで最も底面26の側に位置している。奥内壁22は、縦断面において、本実施の形態では、環状軸線28に平行に延びている。奥内壁22が形成されている円筒状の部分は、環状部材20の主要な部分を占めており、嵌め込み方向Vにおける長さが、環状当接面23及び受入近傍内壁24の部分よりも長くなっている。環状当接面23は、嵌合部材10の一部である嵌合当接面13が接する部分である。環状当接面23は、縦断面において、奥内壁22とのなす角θ3が、嵌合部材10の角度θ1と同じになっている。環状当接面23は、縦断面において、本実施の形態では直線状に形成されているが、曲線状に形成されていてもよい。受入近傍内壁24は、環状内壁21のうちで最も受入面25の側に位置している。受入近傍内壁24は、環状当接面23との間の外側の角θ4が、嵌合部材10の角度θ2と同じになっている。したがって、環状部材20の角度θ4は、角度θ3よりも大きくなっている。受入近傍内壁24は、縦断面において、本実施の形態では直線状に形成されているが、曲線状に形成されていてもよい。受入近傍内壁24は、環状軸線28に対して平行ではなく、環状当接面23の側から受入面25の側に近づくにつれて、環状軸線28までの最短距離が長くなるように形成されている。環状部材20は、環状内壁21の縦断面における輪郭が、環状軸線28に平行な奥内壁22に対して環状当接面23が環状軸線28とは逆の側に曲がり、環状当接面23に対して受入近傍内壁24が環状軸線28の方に曲がる、折れ線状になっている。環状当接面23は、受入面25から所定の深さの位置で、環状空間27の内部に設けられている。所定の深さは、受入面25から、受入近傍内壁24と環状当接面23との境界部分までの距離であり、後述する変位と接合長とを勘案して決定される。所定の深さは、本実施の形態では1mmとなっているが、条件に応じて0.5mm~1.5mm程度でもよく、2mm、3mm、あるいは5mm以上等でもよい。
上述の嵌合部材10を、環状部材20の環状空間27に、圧入せずに載置するように嵌め込み方向Vに嵌め込むと、図2(A)に示すように、嵌合当接面13と環状当接面23とが接した状態となる。このとき、外側面12と受入近傍内壁24との間に隙間が形成されることとなり、この隙間を「受入面側隙間29」ということとする。受入面側隙間29は、本実施の形態では、縦断面において、環状当接面23から受入面25に近づくにつれて、外側面12と受入近傍内壁24との間隔が大きくなるように形成された、くさび形(V字状)に形成されている。また、受入面側隙間29は、縦断面において、外側面12と受入近傍内壁24との間の角度αが、本実施の形態では20°に形成されている。角度αは、後述する変位及び接合長等の条件に応じて、10°~25°としてもよく、これ以外の角度としてもよい。また、受入面側隙間29の深さは、上述の所定の深さに対応するため、本実施の形態では1mmとなっている。受入面側隙間29に関し、本実施の形態では、縦断面において、角度αが20°、深さが1mmのくさび形が、所定の形状及び大きさに相当する。
他方、嵌合当接面13と環状当接面23とが接するように環状部材20に嵌合部材10を載置したとき、先端近傍側面14と奥内壁22との間に隙間が形成されることとなり、この隙間を「先端側隙間19」ということとする。先端側隙間19は、本実施の形態では、縦断面において、嵌合当接面13から先端面15に近づくにつれて、先端近傍側面14と奥内壁22との間隔が大きくなるように形成された、くさび形(V字状)に形成されている。また、先端側隙間19は、縦断面において、先端近傍側面14と奥内壁22との間の角度βが、本実施の形態では20°に形成されている。角度βは、後述する変位及び接合長等の条件に応じて、10°~25°としてもよく、これ以外の角度としてもよい。また、先端側隙間19の深さは、前述の所定の距離に対応するため、本実施の形態では1mmとなっている。先端側隙間19に関し、本実施の形態では、縦断面において、角度βが20°、深さが1mmのくさび形が、所定の形状及び大きさに相当する。
接合済部材30(図2(B)参照)は、前述のように、嵌合部材10が環状部材20に嵌め込まれ接合されて形成された部材である。接合済部材30は、嵌合部材10と環状部材20とがリングマッシュ(登録商標)の接合方法(以下、単に「リングマッシュ接合」という。)によって接合された部材である。リングマッシュ接合は、環状部材20の環状空間27に、環状空間27の内径よりも一回り大きい外径を有する嵌合部材10を、加圧しながらパルス状溶接電流を流して嵌め込んで接合する方法である。このとき、嵌合部材10の側面11が、環状部材20の環状内壁21に、全周にわたって完全に又は概ね均一に固相接合されることとなる。この固相接合は、接合する部材同士を密着させ、融点未満の温度に加熱することで、部材を溶融させずに接合を行うものである。なお、側面11及び環状内壁21は、縦断面において、それぞれ折れ線状になっているため、上述の一回り大きいというのは、外側面12と奥内壁22との径の関係とする。そして、ここでいう一回りとは、リングマッシュ接合に適した大きさであり、例えば0.6mm~1.8mmとするとよく(1.0mmであってもよい)、あるいは縦断面における奥内壁22部分の環状空間27の内径の1/500~1/50としてもよい。
上述のように外側面12の部分の嵌合部材10の外径が奥内壁22の部分の環状空間27の内径よりも一回り大きく形成されていることで、嵌合部材10を環状部材20に嵌め込む際に、嵌合部材10及び環状部材20のそれぞれが部分的に重なり合う。この重なり合う部分を、オーバーラップ代Lということとする。嵌合部材10の外径が環状空間27の内径に対して、0.6mm~1.8mm大きいときのオーバーラップ代Lは0.3mm~0.9mmとなり、1.0mm大きいときのオーバーラップ代Lは0.5mmとなる。オーバーラップ代Lは、嵌合当接面13及び/又は環状当接面23の幅(嵌め込み方向Vに直交する方向における長さ)と同じであってもよい。また、環状当接面23に、嵌合部材10の嵌合当接面13を載置して、嵌合部材10と環状部材20とを嵌め込み方向Vに加圧する前の状態において、嵌合当接面13と環状当接面23との全体が接触するように構成されているとよい。なお、嵌合部材10の外径が環状空間27の内径よりも一回り大きく形成されているので、加圧する前は嵌合部材10が環状空間27の奥まで嵌め込まれないようになっている。
次に図3を参照して、一の実施の形態に係る接合済部材製造装置50を説明する。図3は、接合済部材製造装置50の概略構成図である。接合済部材製造装置50は、嵌合部材10に接触させる第1の電極(以下「上電極51」という)と、環状部材20に接触させる第2の電極(以下「下電極53」という)と、電源55と、移動装置56と、これらを収容する筐体57と、制御装置59とを備えている。以下の説明において、嵌合部材10及び環状部材20並びに接合済部材30の構造に言及しているときは、適宜図1並びに図2(A)及び図2(B)を参照することとする。
上電極51は、下面に、嵌合部材10が接触する接触面52が形成されている。接触面52は、典型的には平坦に形成されている。接触面52は、典型的には嵌合部材10の平面形状を包含するように、嵌合部材10の平面の大きさ以上の大きさに形成されている。上電極51は、典型的には、接触面52が水平になるようにして、移動装置56に支持されている。下電極53は、上電極51の下方に配置されており、上面に、環状部材20が接触する接触面54が形成されている。接触面54は、典型的には環状部材20の平面形状を包含する大きさに形成されている。接触面54は、典型的には平坦に形成されている。下電極53は、接触面54が水平になるようにして筐体57の底面に配置されている。上電極51及び下電極53は、電流が流れやすい材料が用いられ、典型的には金属で形成されている。
電源55は、上電極51及び下電極53に電流を供給する装置であり、上電極51及び下電極53と電気的に接続されている。電源55は、上電極51と下電極53とに挟まれた嵌合部材10及び環状部材20を介して上電極51と下電極53との間に流す電流を発生させるように構成されており、電流発生器に相当する。電源55は、典型的にはパルス状の直流電流を発生させるように構成されている。電源55は、本実施の形態では、図示は省略するが、電源ユニットと、コンデンサと、トランスと、スイッチ部品とを有している。電源ユニットは、商用交流電源や交流発電機等の交流電源から受電した交流電力を昇圧し整流するものである。コンデンサは、電気エネルギーを蓄電及び放電するものである。トランスは、電源ユニット及びコンデンサから供給される電流を大電流に変換するものである。スイッチ部品は、トランスの上流側に設けられた、典型的にはスイッチング素子等の半導体部品である。電源55は、コンデンサに充電したエネルギーを瞬時に放電することができるように構成されている。このため、電源55を用いた接合では、短時間で大電流を得ることができ、熱影響の少ない接合が可能となっている。また、電源55では、入力電源(交流電源)が比較的小さい容量で足りる。電源55は、上電極51及び下電極53に供給する電流の大きさを適宜設定することができるように構成されている。
移動装置56は、上電極51及び下電極53を、相互に近づける方向及び離れる方向に移動させる装置である。移動装置56は、本実施の形態では、上電極51を支持していて上電極51を上下に移動させることができるように構成されている。この構成により、上電極51(ひいては嵌合部材10)及び下電極53(ひいては環状部材20)が嵌め込み方向Vに相対的に接近及び離れるように移動させることができる。下電極53は筐体57に固定されている。しかしながら、装置構成によっては、上電極51が固定されていて移動装置が下電極53を移動させるように構成されていてもよく、上電極51及び下電極53の双方を移動させるように構成されていてもよい。
筐体57は、上電極51、下電極53、電源55、移動装置56等の接合済部材製造装置50を構成する機器を収容している。このように構成されていることで、接合済部材製造装置50を、1つのユニットとして運搬しやすくなっている。筐体57には、環状部材20及び嵌合部材10並びに接合部材30を出し入れする開口58が形成されている。
制御装置59は、接合済部材製造装置50の動作を制御する装置である。制御装置59は、電源55と有線又は無線で接続されており、上電極51及び下電極53への電流の供給の有無及び供給する電流の大きさを制御することができるよう構成されている。また、制御装置59は、移動装置56と有線又は無線で接続されており、上電極51を上下に移動させることができるように構成されている。制御装置59は、典型的には筐体57の内部又は外側で筐体57に取り付けられているが、筐体57から離れた場所に設置されて接合済部材製造装置50を遠隔で操作するように構成されていてもよい。また、制御装置59には、後述する接合済部材30の製造方法を実行するプログラムが内蔵されている。
次に図4を参照して、接合済部材30の製造方法を説明する。図4は、接合済部材30の製造の手順を示すフローチャートである。以下に説明する接合済部材30の製造方法は、上述した接合済部材製造装置50で行われることとする。つまり、以下の説明は、接合済部材製造装置50の作用の説明を兼ねている。なお、接合済部材30の製造は、接合済部材製造装置50を作動させること以外の手法で行うことも可能である。以下の接合済部材30の製法の説明において、嵌合部材10、環状部材20、接合済部材30、接合済部材製造装置50の構成に言及しているときは、適宜図1~図3を参照することとする。
接合済部材30の製造を開始したら、まず、環状部材20を、下電極53にセットする(S1)。このとき、環状部材20の底面26が下電極53に接するようにする。次に、嵌合部材10を、先端面15を環状部材20の側に向けて、環状部材20の環状空間27の内部にセットする(S2)。このとき、嵌合部材10の外側面12の部分の外径が環状空間27の奥内壁22の部分の内径よりも一回り大きいので、嵌め込み方向Vに加圧する前は、嵌合当接面13と環状当接面23とが接触した状態で環状部材20の上に嵌合部材10が載置された状態となる。環状部材20に、嵌合部材10を、載置するようにセットすることは、嵌合部材10を提供する工程及び当接工程に相当する。
環状部材20及び嵌合部材10をセットしたら、上電極51を嵌合部材10の天面16に載せ、上電極51及び下電極53を両者が接近するように移動装置56によって相対的に動かして、環状部材20に対する嵌合部材10の加圧を開始する(S3)。このような加圧をしながら、上電極51及び下電極53が接続された電源55のスイッチを適宜入れて、上電極51と下電極53との間に嵌合部材10及び環状部材20を介して電流を流す(通電工程:S4)。嵌合部材10と環状部材20とをわずかに(オーバーラップ代Lで)オーバーラップさせた状態で加圧しながらこれらに電流を流すことにより、両者の接触部(嵌合当接面13及び環状当接面23)に加圧力と電流とが集中する。そして、この加圧力と電流とが集中した部分が、ジュール熱によって両者の接触部付近が溶融はしないが軟化して、嵌合部材10が環状空間27に入り込んでいく。これに伴って接触部が嵌合当接面13及び環状当接面23から外側面12及び奥内壁22へと徐々に拡大していって、接合面に原子の拡散が生じて接合が達成される。このように、本実施の形態では、嵌合部材10と環状部材20との接触部分は、固相接合が行われる。なお、通電は、典型的には1又は複数のパルス状の電流を状況に応じて連続して又は間欠的に流すことで行われる。
嵌合部材10及び環状部材20を加圧しながら適宜通電し、嵌合部材10が環状部材20の環状空間27に予定された深さまで嵌められたら、上電極51及び下電極53を両者が接近するように相対的に動かすことを止める。これにより、環状部材20に対する嵌合部材10の加圧が終了する(S5)。なお、環状部材20に対する嵌合部材10の加圧を開始する工程(S3)から、環状部材20に対する嵌合部材10の加圧を終了する工程(S5)までが、加圧工程に相当する。嵌合部材10が環状空間27に予定された深さまで嵌められることにより、接合済部材30が生成される。予定された深さは、接合済部材30の設計においてあらかじめ決められた距離であって、環状部材20に対して嵌合部材10を、嵌合当接面13と環状当接面23とが接触した位置から嵌め込み方向Vに相対的に移動させた距離であり、変位に相当する。
嵌合部材10と環状部材20とを接合する際、環状部材20に対して嵌合部材10を嵌め込み方向Vに相対的に変位させると、縦断面において、オーバーラップ代Lと変位との積で表される重複部分がバリとして排出されることとなる。本実施の形態では、発生したバリの一部又は全部が受入面側隙間29及び先端側隙間19に収容されることとなるため、接合済部材30からのバリのはみ出し量を抑制することができる。本実施の形態ではくさび形に形成されている受入面側隙間29及び先端側隙間19は、発生したバリが埋まる形状及び大きさになっている。また、本実施の形態では、加圧工程及び通電工程(S4)中、受入面側隙間29及び先端側隙間19に流れ込んだバリにも通電されて、当該バリが嵌合部材10と環状部材20との接合に寄与することとなる。このため、変位よりも大きな接合長J(図2(B)参照)を得ることができる。ここで、接合長Jは、嵌め込み方向Vにおける嵌合部材10と環状部材20とが接続している長さである。本実施の形態では、目的とする接合長Jを得るのに比較的短い変位で足りるので、接合済部材30の構成部材(嵌合部材10、環状部材20)の変形を低減することができる。
図4に示すフローにおいて、加圧工程が終了したら、上電極51を退避させ、製造された接合済部材30を取り出す(S6)。このようにして、接合済部材30が製造される。1つの接合済部材30の製造が完了した後に接合済部材30の製造を継続する場合は、上述のフローを繰り返せばよい。
以上で説明したように、本実施の形態によれば、嵌合部材10及び環状部材20は、嵌合当接面13と環状当接面23とが接するようにセットされたときに、先端側隙間19及び受入面側隙間29が形成されるように構成されている。このため、接合のために加圧及び通電したときに、発生したバリが先端側隙間19及び受入面側隙間29に収容されることとなり、バリのはみ出し量を抑制することができる。また、先端側隙間19及び受入面側隙間29に収容されたバリが接合に寄与することとなり、比較的短い変位で比較的長い接合長を得ることができる。
以上の説明では、嵌合部材10の基本形状が円柱状に形成されているとしたが、中実ではなくて中空であってもよく、嵌め込み方向Vに直交する方向の断面における外縁の輪郭形状が円形以外の例えば四角形や五角形や六角形等の多角形あるいは楕円形等であってもよい。
以上の説明では、環状部材20が、円形厚板の中央に基本形状が円柱状の孔(環状空間27)があいたドーナツ状に形成されているとした。しかしながら、環状軸線28に直交する方向の断面における環状部材20自体の外縁の輪郭形状が円形以外の例えば四角形や五角形や六角形等の多角形あるいは楕円形等であってもよい。また、環状軸線28に直交する方向の断面における環状空間27の輪郭の基本形状が円形以外の例えば四角形や五角形や六角形等の多角形あるいは楕円形等であってもよい。つまり、環状部材20は、環状(リング状)に形成されていれば、外縁の輪郭及び/又は環状空間27の輪郭は円形以外の形状であってもよい。
以上の説明では、接合済部材30を製造するために環状部材20に接合する嵌合部材10は、嵌合当接面13が、先端面15から離れた側面11に形成されているとしたが、先端面15から連続する側面11に形成されていてもよい。この場合、先端近傍側面14が省略されることとなる。換言すれば、接合済部材30を製造するために環状部材20に接合する嵌合部材として、従来のものを用いてもよい。しかしながら、嵌合部材10を環状部材20と接合して接合済部材30としたときの、先端面15付近のバリのはみ出し量を抑制する観点及び接合長を長くする観点から、先端面15と嵌合当接面13との間に先端近傍側面14が設けられていることが好ましい。
以上の説明では、接合済部材30を製造する際に、下電極53の上に環状部材20をセットし、その上に嵌合部材10をセットして、嵌合部材10の上に上電極51を載置することとした。これに対し、環状部材20と嵌合部材10とを入れ替えて、下電極53の上に嵌合部材10をセットし、その上に環状部材20をセットして、嵌合部材10の上に上電極51を載置することとしてもよい。嵌合部材10を下電極53の上にセットする場合、図4のフローにおける、嵌合部材10をセットする工程(S2)を、環状部材20をセットする工程(S1)の前に行うこととなる。つまり、図4のフローにおける嵌合部材10をセットする工程(S2)と環状部材20をセットする工程(S1)との順序は、適宜入れ替えることができる。あるいは、環状部材20の上に嵌合部材10を載置した状態又はこの上下を逆に配置した状態で、環状部材20と嵌合部材10とを同時に下電極53にセットすることとしてもよい。
以上の説明では、本実施の形態に係る、嵌合部材、環状部材、接合済部材、接合済部材製造装置、及び接合済部材の製造方法を、一例として各図を用いて説明した。当該説明における各部の構成、構造、数、配置、形状、材質などに関しては、上記具体例に限定されず、当業者が適宜選択的に採用したものも、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に包含される。