JP2022152953A - 基準義歯及び義歯の作製方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 総義歯のように前歯及び臼歯の人工歯が基準義歯床に固定された基準義歯の粘膜面上に硬化性義歯床用材料を施用し、これを患者の口腔内形状に適合するように成形してから硬化させることにより義歯を作製する場合において、不正咬合であった患者にとって使用し易い義歯を容易に作製することができる基準義歯を提供し、延いては上記患者に適した義歯を簡便に作製できる方法を提供する。【解決手段】 前記基準義歯における、(1)前歯列と、(2)前記基準義歯床における前歯列の周辺領域である「前歯近傍領域」と、が一体化部分を「分離可能部」とし、更に分離可能部を分離し易くするための分離補助機構設けて、硬化性義歯床用材料の成形の際に分離可能部を一旦分離して硬化性義歯床用材料の成形を行えるようにすることにより、該部の位置や角度を調整し易くする。【選択図】図1

Description

本発明は、基準義歯及び義歯の作製方法に関する。
近年の急速な高齢化に伴い、義歯の需要が高まっている。ここで、義歯(有床義歯)とは、天然歯牙並びに歯肉及び歯槽骨などの周囲組織を喪失した場合に、咀嚼等の口腔機能を回復すると共に顔面の形態変化および歯牙の欠損や周囲組織の喪失によって生じる障害を予防する、着脱自在な補綴装置を意味する。義歯において欠損(天然)歯牙を補う部材が人工歯であり、喪失周囲組織を補う部材が義歯床である。この義歯床において、顎堤粘膜と密着する面(義歯作製において適合性の観点から研磨をしない面)は、一般に、「粘膜面」と呼ばれ、その反対側の頬粘膜や舌と接することがある面(義歯作製において研磨をする面)は、一般に、「研磨面」と呼ばれ、両者の境界となる部分は「床縁」と呼ばれている。また、義歯床の歯茎相当部と人工歯の境界部は、「歯頸部」と呼ばれ、当該歯頸部を基端とし、前記床縁を先端とする翼状の形態をなす部分は、「床翼」と呼ばれている。また、義歯床の人工歯が固定される部分は「歯槽部」と呼ばれている。
通常、義歯は、患者の口腔形状に合わせて1つずつ手作業で細かく調整を行いながら作製されるが、上述の手作業の労力を低減して義歯を作製する技術として、基準義歯を用いる技術も知られている(特許文献1~3参照)。ここで、基準義歯とは、義歯の作製を容易化するために使用される既成の義歯状の部材であり、基準義歯床とそれに固定保持される人工歯とより構成されるものである。この基準義歯は、これを(装着者となる)個別患者の口腔内又はその模型に装着した場合には、基準義歯床の粘膜面と個別患者の口腔内粘膜との間に空間(当該空間を、以下、「基準義歯非適合空間」ともいう。)が形成されるようになっており、裏装材などの硬化性義歯床用材料で上記空間を埋める(空間を埋めた硬化体は、「調整部材」と呼ばれることもある。)ことにより個別患者にフィットした義歯を作製することができる。なお、ここでいう既成とは、部材製品として入手可能な状態となっていることを意味し、通常は、歯牙の配列等について多くのバリエーションを必要とせず、相対的大きさ(サイズ)のみが異なるものを準備することが多い。また、全歯列が固定された全部床義歯(総義歯)用の基準義歯が使用されることが多い。
また、基準義歯を用いて個別患者に対するフィット性の高い義歯を効率よく作製する方法も知られている。たとえば、特許文献4には、このような方法として、前記調整部材を有する義歯の作製方法であって、「(A)基準義歯床部材と人工歯とを備える基準義歯部材となる、基準義歯を準備する基準義歯準備工程;(B)前記基準義歯を、患者の口腔内で医学的に存在すべき位置に配置された咬合平面と想定される仮想咬合平面上の適切な位置に配置させるようにして、(1)患者口腔内に挿入して患者口腔内の粘膜と前記基準義歯との接触状態を確認するか、又は(2)患者口腔内模型を取り付けた咬合器内に挿入して、前記患者口腔内模型と前記基準義歯との接触状態を確認するか、により、使用上不適切な接触をする場合には、当該不適切な接触を起こさない別の形状を有する基準義歯を選択するか、又は接触しないように前記基準義歯における前記基準義歯床部材の形状を微調整することにより、使用する基準義歯の形状を決定する基準義歯決定工程;(C)前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または前記咬合器内の前記仮想咬合平面上の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料に転写すると共に辺縁形成を行って余剰の前記硬化性義歯床用材料を除去する、築盛・転写工程;及び(D)築盛・転写工程を経た前記硬化性義歯床用材料を硬化させる硬化工程;を含み、前記(C)築盛・転写工程は(C1)前記基準義歯床部材のベース中央領域に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛して、前記患者口腔内または前記患者口腔内模型の形状を転写する中央築盛・転写工程、(C2)前記基準義歯床部材の前記ベース前方領域に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛して、前記患者口腔内または前記患者口腔内模型の形状を転写すると共に、床縁より延長させて辺縁形成を行う前方築盛・転写工程、及び(C3)前記基準義歯床部材の前記ベース後方領域に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛して、前記患者口腔内または前記患者口腔内模型の形状を転写すると共に、床縁より延長させて辺縁形成を行う後方築盛・転写工程を含み、前記中央築盛・転写工程を行った後に、前記前方築盛・転写工程及び前記後方築盛・転写工程を、同時に行うか、又は個別に行う、ことを特徴とする義歯の作製方法」が、記載されている。
特許第3449733号公報 特許第6294706号公報 国際公開第2018/207867号公報 国際公開第2020/195623号公報 特開2003-79645号公報 特開2018-196535号公報
このような基準義歯を用いた技術は、基準義歯床に裏装材を築盛するだけで容易に患者の口腔形状に適合させることができるので、義歯の作製時間を短縮することができ、大変有用なものである。
しかし、基準義歯においては、人工歯は、標準的な歯列となるように配置・固定されているため、上顎前突(所謂、出っ歯)や下顎前突(反対咬合或いは所謂、受け口)等の不正咬合を呈する患者に対応することが難しい。粘膜面が適合した通常の咬合状態の義歯を作製することは可能であるが、もともと不正咬合だった患者(以下、「元不正咬合患者」ともいう。)にとって使用し難い義歯となってしまう。
そこで、本発明は、不正咬合だった患者にとって使用し易い義歯を作製するのに好適な基準義歯を提供し、延いてはそのような基準義歯を用いて上記義歯を簡便に作製することができる方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、粘膜面及び研磨面を有する基準義歯床に人工歯が固定されてなり、基準義歯床の粘膜面上に硬化性義歯床用材料を築盛した後に装着者の口腔内形状に適合するように成形してから硬化させることにより、装着者となる個別患者に適合した義歯を作製するようにした基準義歯であって、
前記人工歯は、左右の中切歯、左右の側切歯、左右の犬歯及び左右の第一小臼歯の人工歯を少なくとも含み、
前記粘膜面及び前記研磨面は、夫々、前記基準義歯床における装着者の顎堤粘膜と対向する側の面及びその反対側の面を意味し、前記粘膜面と前記研磨面の境界を「床縁」とし、前記基準義歯床と人工歯との境界部を「歯頸部」とし、当該歯頸部を基端とし、前記床縁を先端とする翼状の形態をなす部分を「床翼」とし、装着時に唇側となる方向を前方とし、喉側となる方向を後方とし、左右の中切歯、左右の側切歯及び左右の犬歯の人工歯からなる歯列を「前歯列」としたときに、
前記基準義歯は、(1)前歯列と、(2)前記基準義歯床における前歯列の周辺領域である「前歯近傍領域」と、が一体化した「分離可能部」を分離できるようにするための分離補助機構を有している、
ことを特徴とする基準義歯である。
上記形態の基準義歯(以下、「本発明の基準義歯」ともいう。)においては、基準義歯床において、左側及び右側で相互に隣接する犬歯の人工歯と第一小臼歯の人工歯との間に位置する点を、夫々、右側基準点:R及び左側基準点:Lとし、人工歯の前方側の基準義歯床の研磨面上において各基準点R及びLから夫々床縁に向かう線上の点であってR及びLから所定の距離だけ床縁側に位置する点を、夫々、前方右側基準点:R及び前方左側基準点:Lとし、人工歯の後方側の基準義歯床の研磨面上において各基準点R及びLから夫々後方に向かう線上の点であってR及びLから所定の距離だけ後方に位置する点を、夫々、後方右側基準点:R及び後方左側基準点:Lとし、前記各基準点:R、R、R、L、L、L及びRを、この順番で連結する、閉じた仮想線を「分離予定ライン」としたときに、
前記「前歯近傍領域」が、前記「分離予定ライン」によって画定されるその内側の領域であり、
前記分離補助機構が、前記分離予定ライン上又は前記分離予定ラインに沿って設けられた、(1)連続した又は不連続な薄肉部、(2)複数のスリット状及び/又は複数のドット状の穿孔、又は(3)これらの組み合わせ、によって構成されている、ことが好ましい。
本発明の第二の形態は、本発明の基準義歯を用いて、該基準義歯を患者の口腔内に装着した場合において、その基準義歯床の粘膜面と前記患者の口腔内粘膜との間に生じる空間の形状に相当する形状を有する調整部材を前記粘膜面上に形成することにより、前記患者に適合した義歯を作製する方法であって、
(A)患者の口腔サイズに適合するサイズの、本発明の基準義歯を準備する基準義歯準備工程;
(B)前記基準義歯を、患者の口腔内で医学的に存在すべき位置に配置された咬合平面と想定される仮想咬合平面上の適切な位置に配置させるようにして、(1)患者口腔内に挿入して患者口腔内の粘膜と前記基準義歯との接触状態を確認するか、又は(2)患者口腔内模型を取り付けた咬合器内に挿入して、前記患者口腔内模型と前記基準義歯との接触状態を確認するか、により、使用上不適切な接触をする場合には、当該不適切な接触を起こさない別の形状を有する基準義歯を選択するか、又は接触しないように前記基準義歯における前記基準義歯床部材の形状を微調整することにより、使用する基準義歯の形状を決定する基準義歯決定工程;
(C)前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または前記咬合器内の前記仮想咬合平面上の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料に転写すると共に辺縁形成を行って余剰の前記硬化性義歯床用材料を除去する、築盛・転写工程;
及び
(D)前記硬化性義歯床用材料を硬化させる硬化工程;
を含み、
前記(C)築盛・転写工程は、
(C1a) 前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯について予め前記分離可能部を分離するサブ工程、
(C1b) 上記サブ工程で分離された前記分離可能部に対応する位置に欠損部が形成された基準義歯を用いて前記転写並びに必要に応じた辺縁形成及び余剰硬化性義歯床用材料の除去を行うサブ工程、
(C1c) 前記欠損部から露出する未硬化状態の硬化性義歯床用材料の表面上に追加で未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、及び/又は前記分離可能部の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、並びに
(C1d) 前記分離可能部を前記欠損部に嵌め込こんで、下地の硬化性義歯床用材料を一体化させながら前歯の咬合調整を行うと共に余剰の硬化性義歯床用材料を除去して前記分離可能部を接合することにより、前記転写及び辺縁形成を行うサブ工程
を含む工程(C1)であるか、又は
(C2a) 前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯をそのまま用いて前記転写及び必要に応じた辺縁形成を行うサブ工程、
(C2b) 前記サブ工程終了後に前記分離可能部を分離するサブ工程、
(C2c) 上記サブ工程で分離された前記分離可能部に対応する位置に欠損部から露出する未硬化状態の硬化性義歯床用材料の表面上に追加で未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、及び/又は前記分離可能部の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、並びに
(C2d) 前記分離可能部を前記欠損部に嵌め込こんで、下地の硬化性義歯床用材料を一体化させながら前歯の咬合調整を行うと共に余剰の硬化性義歯床用材料を除去して前記分離可能部を接合することにより、前記転写及び辺縁形成を行うサブ工程
を含む工程(C2)である、
ことを特徴とする義歯の作製方法(本発明の「義歯作製方法」ともいう。)である。
本発明の基準義歯を用いた本発明の義歯作製方法によれば、元不正咬合患者にとって使用し易い義歯を簡便かつ効率的に作製することが可能となる。しかも、本発明の基準義歯は、元不正咬合患者以外の一般的な患者に対しても使用可能であるため、不良在庫化することを避けることができる。
本図は、本発明の一実施の形態に係る上顎用基準義歯を(装着時に)上方の前方寄りから見た斜視図である。 本図は、本発明の一実施の形態に係る上顎用基準義歯を研磨面側から見た図である。 本図は、本発明の一実施の形態に係る上顎用基準義歯の粘膜面における分離予定ラインを示す図である。 本図は、本発明の一実施の形態に係る下顎用基準義歯を(装着時に)下方(図における上方)の前方寄りから見た斜視図である。 本図は、本発明の一実施の形態に係る下顎用基準義歯を研磨面側から見た図である。 本図は、本発明の一実施の形態に係る下顎用基準義歯の粘膜面における分離可能部を示す図である。 本図は、本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で使用する咬合器に患者口腔内模型が取り付けられた状態を示す側面図である。 本図は、本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法において、咬合器または患者口腔内に上顎用基準義歯および下顎用基準義歯をセットする際に用いられる位置合わせ冶具を示す図であり、(6a)は平面図を示し、(6b)は側面図を示し、(6c)は背面図を示している。 本図は、本発明の一実施の形態に係る上顎用基準義歯と下顎用基準義歯とをそれぞれ咬合させた状態を示す図である。
基準義歯自体を各不正咬合に対応できるように適宜設計変更すれば、上顎前突や下顎前突等の不正咬合であった患者に対応することは可能であるが、そのような設計変更自体が難しく、また可能であったとしても、レアなケースを想定して夫々のケースに適合する多数種の基準義歯を準備することは、無駄が多くなってしまう。本発明者等は、このような問題認識のもと、たとえば特許文献4に記載されているような適合範囲の広い基準義歯を用いて対応する方法について検討を行った。その結果、上記基準義歯において前歯部分を取り外して、その配置を微調整することができるようにすれば、多くの元不正咬合患者に適応でき、通常の患者に対してはそのような微調整を行わずにそのまま使用することができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明の基準義歯は、特許文献4に記載されているような適合範囲の広い基準義歯が有する特徴点を有したまま、前記分離可能部と前記基準義歯における残部と、を分離できるようにするための分離補助機構を設け、前記分離可能部を一旦分離した後に硬化性義歯床用材料を用いてその配置の微調整を行った後に再度接合して一体化して使用するようにした点に最大の特徴を有している。
なお、部分義歯作製に対応するために、基準義歯床部分に、各人工歯を分離するための切除線を形成した基準義歯(特許文献5参照。)や、基準義歯床を所定の位置で完全に分割するための分割機構を設けた基準義歯(特許文献6参照。)は、知られているが、これら基準義歯を用いて作製されるのは、(元の基準義歯の一部を利用した)部分義歯であり、分離したものを再度結合して使用するという発想は無い。
本発明の基準義歯は、上記した特徴点を除けば従来の基準義歯と大きく変わる点はない。以下、これらの点を含めて本発明の基準義歯及び本発明の義歯の作製方法について詳しく説明する。なお、基準義歯床の各部分の名称に関しては、義歯に倣って患者顎堤粘膜と密着する面を「粘膜面」と言い、その反対側の面を「研磨面」と言い、両者の境界となる部分は「床縁」と言い、基準義歯床の歯茎相当部と人工歯の境界部を「歯頸部」と言い、当該歯頸部を基端とし、前記床縁を先端とする翼状の形態をなす部分を「床翼」と言い(但し、上顎用基準義歯床における後方の、歯頸部を基端とし、床縁を先端とする部分は「口蓋床部」と言う。)、左右の中切歯、左右の側切歯及び左右の犬歯の人工歯からなる歯列を「前歯列」と言う。また、装着時に唇側となる方向を前方とし、喉側となる方向を後方とする。更に、人工歯を表していることが明らかな場合においては、簡略化のため人工歯の名称は、対応する歯の名称を用いて表し、たとえば犬歯の人工歯を単に犬歯と称する。
また、本明細書においては、特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとし、かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。さらに、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
1.本発明の基準義歯
本発明の基準義歯は、粘膜面及び研磨面を有する基準義歯床に人工歯が固定されてなり、基準義歯床の粘膜面上に硬化性義歯床用材料を築盛した後に装着者の口腔内形状に適合するように成形してから硬化させることにより、装着者となる個別患者に適合した義歯を作製するようにした基準義歯であって、前記人工歯は、左右の中切歯、左右の側切歯及び左右の犬歯からなる前歯、並びに左右の第一小臼歯を、少なくとも含み、「分離可能部」を分離できるようにするための分離補助機構を有していることを特徴とする。
ここで、「分離可能部」とは、(1)前歯列と、(2)前記基準義歯床における前歯列の周辺領域である「前歯近傍領域」と、が一体化した部分を意味する。
また、「前歯近傍領域」は、床縁の近傍領域は含まない。「前歯近傍領域」は、基準義歯床上における閉じた仮想線である「分離予定ライン」によって画定されるその内側の領域であることが好ましい。ここで、分離予定ラインは、基準義歯床において、左側及び右側で相互に隣接する犬歯の人工歯と第一小臼歯の人工歯との間に位置する点を、夫々、右側基準点:R及び左側基準点:Lとし、人工歯の前方側の基準義歯床の研磨面上において各基準点R及びLから夫々床縁に向かう線上の点であってR及びLから所定の距離だけ床縁側に位置する点を、夫々、前方右側基準点:R及び前方左側基準点:Lとし、人工歯の後方側の基準義歯床の研磨面上において各基準点R及びLから夫々後方に向かう線上の点であってR及びLから所定の距離だけ後方に位置する点を、夫々、後方右側基準点:R及び後方左側基準点:Lとしたときに、前記「前歯近傍領域」は、前記各基準点:R、R、R、L、L、L及びRを、この順番で連結する閉じた仮想線を意味する。
分離補助機構とは、「分離可能部」を基準義歯からの分離を容易化する機構であり、たとえば手による力で容易に分離できるようにするための機構である。該分離補助機構は、前記分離予定ライン上又は前記分離予定ラインに沿って設けられた、(1)連続した又は不連続な薄肉部、(2)複数のスリット状及び/又は複数のドット状の穿孔、又は(3)これらの組み合わせによって構成されるか、又は(4)予め分離された「分離可能部」を分離される前の位置に嵌め込んで、粘着テープなどで(容易に再分離できるように)仮止めする態様であることが好ましい。
本発明の基準義歯は、人工歯として前歯及び左右の第一小臼歯を有するものであれば特に限定されないが、総義歯タイプの基準義歯であることが好ましい。また、個別患者の口腔形状に合致した義歯が得られ易く、研削等の作業を要する基準義歯の形状の微調整が必要とされるケースの発生割合を有意に低減することがき、義歯を効率的に作製することが可能となると言う理由から、特許文献4に記載された平面形状及び立体形状を有することが好ましい。
本発明の基準義歯における義歯床の材料としては、一般的な義歯の作製に用いられる材料であれば特に限定されるものではないが、次のような樹脂を用いることができる。例えば、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂;ポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリエーテル系樹脂;ポリニトリル系樹脂;ポリビニル系樹脂;セルロース系樹脂;フッ素系樹脂;イミド系樹脂等が挙げられる。これら樹脂材料は、樹脂材料のみで使用されることが多いが、有機フィラー、無機フィラー、有機-無機複合フィラー等のフィラーを添加して用いることもある。また、義歯床の一部に金属材料を使用することも有る。
上記義歯床に配列固定される人工歯は、目的とする義歯に応じて、配列される人工歯の種類及び数が適宜決定される。その数は1であっても良いが、通常は複数の人工歯が固定される。かかる人工歯としては、樹脂製やセラミック製の公知の人工歯を用いることができる。樹脂製の人工歯としては、上述のポリ(メタ)アクリレート系樹脂、並びにポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、シリコーン系樹脂等を材質とする人工歯が例示される。人工歯の固定方法としては、嵌合、接着等従来公知の方法が何等制限なく使用できる。
本発明の基準義歯は、たとえば、射出成形、圧縮成形、切削加工、三次元プリンタを用いた光造形等、種々の手法を用いて作製することができる。また、基準義歯床と人工歯(列)とを一体的に作製しても良く、基準義歯床と人工歯(列)とを別個に作製した後に、基準義歯床の歯槽部に人工歯(列)を取り付ける構成としても良い。前者には、大量生産による量産化が容易であり、生産コストを大幅に低減することができると言うメリットがあり、後者には、個別の患者にフィットする人工歯(列)を形成することができると言うメリットがある。
以下に、図面を参照しながら本発明の基準義歯、特に分離可能部及び分離補助機構について詳しく説明する。
まず、本発明の上顎用基準義歯10Aについて説明すると、図1及び図2に示されるように上顎用基準義歯10Aは、上顎用の総義歯を作製するために用いられる上顎用の基準義歯であり、義歯の義歯床に対応する上顎用基準義歯床20Aに、人工歯として、前歯列30A1及び臼歯30A2が固定されている。前歯列30A1は左右対称に、中央部から中切歯、側切歯及び犬歯の順に配列されており、臼歯30A2は左右対称に、前方(犬歯の隣)から後方に向かって、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯及び第二大臼歯の順に配列されている。
そして、分離予定ライン42Aは、図3において点線で示されるように、前記各基準点:R、R、R、L、L、L及びRを、この順番で連結して閉じたループを形成しており、その内側の領域が分離可能部40A、すなわち(1)前歯列30A1と、(2)基準義歯床20Aにおける前歯列30A1の周辺領域である「前歯近傍領域」と、が一体化した部分となっている。前歯列30A1の歯頸部25Aを含む前方及び後方の、床縁及びその近傍領域は、「前歯近傍領域」に含まれていない。なお、図3は、上顎用基準義歯10Aを粘膜面23A側から見た図であるため、人工歯は見えないが、該図3において点線で示される分離予定ライン42Aより内側の研磨面には全ての前歯30A1が含まれ、さらに「前歯近傍領域」も含まれている。
「前歯近傍領域」は、上記条件を満足する領域であれば特に限定されないが、前方(唇側)床翼部の研磨面上における前記右側基準点:R(及び左側基準点:L)と前方床翼上右側基準点:R(及び前方床翼上左側基準点:L)とを通る線と床縁との交点と、前方床翼上右側基準点:R(及び前方床翼上左側基準点:L)との距離をw1(及びw2)としたときに、w1(及びw2)が1~5mmの範囲内となるようにすることが好ましく、1.5~3mmの範囲内となるようにすることがより好ましい。前記w1(及びw2)は、分離可能部40Aを分離した後に残る床縁近傍領域の幅に相当するものであり、w1(及びw2)をこのような距離とすることにより、分離後に行う位置調整の操作性が良好となり、また、分離可能部40A分離後における残存部の強度も確保することができる。なお、残存する前記床縁近傍領域の幅はR~Lの間で一定若しくは、ほぼ一定とすることが好ましい。また、後方側、すなわち口蓋床部の研磨面上のR(及びL)とR(及びL)との距離は、R(及びL)とR(及びL)の距離の0.8~3倍の範囲、特に0.9~1.5倍の範囲とすることが好ましい。
分離補助機構41Aは、図に示す態様では、図1及び図2に示されるように、分離予定ライン42A上設けられた、複数のドット状の穿孔によって構成されている。この複数のドット状の穿孔は所謂ミシン目として機能し、リューターやプライヤー、カッター等の工具を用いて、又は人力で、分離可能部40Aを分離し易くするとともに、分離予定ライン42Aに沿って、分離可能部40Aや残存部に欠けや亀裂を発生させることなく、きれいに分離できるようにしている。分離し易さ及び強度の観点より、穿孔の径は0.5~5mm、特に1~3mmであることが好ましく、穿孔と穿孔の間隔は1~10mm、特に2~5mmであることが好ましい。
なお、図では複数のドット状の穿孔を示したが、前記分離補助機構は複数のスリットであってもよく、この場合、一つのスリットの溝幅は0.5~5mmであり、長さは0.5~15mm、特に2~5mmであることが好ましく、スリット間の距離は、1~10mm、特に2~8mmであることが好ましい。さらに、前記分離補助機構は、連続した又は不連続な薄肉部であっても良く、この場合、薄肉部の厚さは分離し易さ及び強度の観点より、元の厚さの10~70%、特に20~50%とすることが好ましい。
次に、本発明の下顎用基準義歯10Bについて説明すると、図4及び図5に示されるように下顎用基準義歯10Bは、下顎用の総義歯を作製するために用いられる下顎用の基準義歯であり、義歯の義歯床に対応する下顎用基準義歯床20Bに、人工歯として、前歯列30B1及び臼歯30B2が固定されている。下顎用基準義歯10Bは、下顎用基準義歯床20Bの形状が、後方側において上顎用基準義歯床20Aの形状と異なっている。すなわち、上顎用基準義歯床20Aの後方部は、上顎口蓋粘膜を被覆する、広い(前後幅の長い)口蓋床部であるのに対し、下顎用基準義歯床20Bの後方部は、下顎の舌側の顎堤粘膜を覆う狭い(前後幅の短い)(後方又は舌側)床翼部となっており、(前方)床翼部との間に顎堤を挟み込むようになっている。
上記の点を除けば、上顎用基準義歯10Aと大きく変わる点は無く、図4~6における各部の符号も、「A」を「B」に変更しただけで、夫々対応する図1~3における符号と同じ符号を付している。
2.本発明の義歯作製方法
本発明の義歯作製方法は、特許文献4に記載されている方法をベースとし、不正咬合であった患者に対応した義歯を作製するために、本発明の基準義歯を用いて特殊な方法で硬化性義歯床用材料の築盛及び転写を行うようにしたものである。
すなわち、本発明の方法は、特許文献4に記載されている方法と同様に、基準義歯を用いて、該基準義歯を患者の口腔内に装着した場合において、その基準義歯床の粘膜面と前記患者の口腔内粘膜との間に生じる空間(基準義歯非適合空間)の形状に相当する形状を有する調整部材を前記粘膜面上に形成することにより、前記患者に適合した義歯を作製する方法であって、下記工程(A´)~(D)を含む。
(A´)患者の口腔サイズに適合するサイズの、基準義歯準備工程;
(B)前記基準義歯を、患者の口腔内で医学的に存在すべき位置に配置された咬合平面と想定される仮想咬合平面上の適切な位置に配置させるようにして、(1)患者口腔内に挿入して患者口腔内の粘膜と前記基準義歯との接触状態を確認するか、又は(2)患者口腔内模型を取り付けた咬合器内に挿入して、前記患者口腔内模型と前記基準義歯との接触状態を確認するか、により、使用上不適切な接触をする場合には、当該不適切な接触を起こさない別の形状を有する基準義歯を選択するか、又は接触しないように前記基準義歯における前記基準義歯床部材の形状を微調整することにより、使用する基準義歯の形状を決定する基準義歯決定工程;
(C)前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または前記咬合器内の前記仮想咬合平面上の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料に転写すると共に辺縁形成を行って余剰の前記硬化性義歯床用材料を除去する、築盛・転写工程;及び
(D)前記硬化性義歯床用材料を硬化させる硬化工程。
そして、本発明の義歯の作製方法は、前記(A´)基準義歯準備工程で本発明の基準義歯を準備し{本発明の義歯作製方法における工程(A)}、前記(C)築盛・転写工程として、夫々特定のサブ工程を有する工程(C1)又は工程(C2)を採用することを特徴としている。
以下、上記工程(C1)及び工程(C2)を含めて各工程について詳しく説明する。
2-1.(A)基準義歯準備工程
(A)基準義歯準備工程では、前記(A´)基準義歯準備工程において、本発明の基準義歯を準備する。当該工程で準備される基準義歯は、患者の不正咬合の状況に応じて、上顎用、下顎用の何れか一方又は両方として本発明の基準義歯を準備すればよい。
2-2.(B)基準義歯決定工程
本工程は、前記基準義歯を、患者の口腔内で医学的に存在すべき位置に配置された咬合平面と想定される仮想咬合平面上の適切な位置に配置させるようにして、(1)患者口腔内に挿入して患者口腔内の粘膜と前記基準義歯との接触状態を確認するか、又は(2)患者口腔内模型を取り付けた咬合器内に挿入して、前記患者口腔内模型と前記基準義歯との接触状態を確認するか、により、使用上不適切な接触をする場合には、当該不適切な接触を起こさない別の形状を有する基準義歯を選択するか、又は接触しないように前記基準義歯における前記基準義歯床部材の形状を微調整することにより、使用する基準義歯の形状を決定する工程である。
具体的には、図1に示すような上顎用基準義歯10Aおよび/または図4に示すような下顎用基準義歯10Bを患者の口腔内で医学的に存在すべき位置に配置された咬合平面と想定される仮想される咬合平面PA上の適切な位置に配置させるようにして、図7に示すような咬合器100を用いて、患者口腔内模型150と上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bとの接触状態を確認する(以下、このような咬合器を用いた接触状態の確認を「挙上確認」ともいう。)。
図7には、咬合器100に患者口腔内模型150、具体的には上顎模型151と下顎模型152とから構成される患者口腔内模型150が取り付けられた状態が示されている。図7に示す患者口腔内模型150を取り付けた状態の咬合器100内に、上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bを挿入して、患者口腔内模型150と上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bとの接触状態を確認する(挙上確認をする)場合には、図8に示すような位置合わせ冶具200を用いることが好ましい。
上記挙上確認では、上顎用基準義歯10Aと下顎用基準義歯10Bを仮想咬合平面PA(図9参照)で噛み合うようにして、これら上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bを静止させたときの、咬合器100の指導ピン101の浮き上がり量(「挙上値」ともいう。)で接触状態を評価することができる。具体的には、上記の浮き上がり量(挙上値)が0mm以下であれば、不適切な接触が無いと評価され研削調整が不要であり、研削のための作業時間を削減できる。一方、挙上値が0mmを越える場合には不適切な接触が存在し、その値が大きいほど研削による研削調整量が大きいと評価される。このことから、指導ピン101の浮き上がり量(挙上値)が0mm以下のものを合格とし、次工程に進む。なお、上記量(挙上値)が0mm未満であるとは、指導ピン101の位置が下がるわけではなく、基準義歯と模型との間に隙間が存在する場合を意味する。このときの隙間は後の工程で調整部材によって埋められることになる。
また、この(B)基準義歯決定工程では、上述したような接触状態の確認において、実際の咬合面が適切な位置からずれる場合には、基準義歯(上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10B)を研削する調整を行うことで適切な位置に配置するようにしてもよく、また、上記位置ずれを起こさない別の基準義歯を選択してもよい。
なお、これまで図7に示すような咬合器100及び、図8に示すような位置合わせ冶具200(特許文献3参照)を用いて作製する例について説明したが、直接的に患者口腔内で行っても良く、位置合わせ冶具200を用いずに行っても良い。
2-3.(C)築盛・転写工程
本工程は、前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または前記咬合器内の前記仮想咬合平面上の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料に転写すると共に辺縁形成を行って余剰の前記硬化性義歯床用材料を除去する、築盛・転写工程である。
ここで、硬化性義歯床用材料とは、重合硬化性の材料であって、硬化することにより前述の樹脂製義歯床用材料となる材料を意味する。当該硬化性義歯床用材料は、前記樹脂材料の原料となるモノマー(重合性単量体)、重合開始剤、及び必要に応じて充填材を含むものであり、硬化前はペースト状或いは餅状の塑性変形可能で、応力がかからない状態ではその形態を保持できるような材料である。硬化性義歯床用材料の重合タイプは、使用する重合開始剤の種類により、光重合、熱重合、化学重合、マイクロ波重合タイプ等があるが、操作性の観点からは光重合タイプであることが好ましい。
また、築盛に際しては、以下に示す様な専用の義歯作製用治具(図示せず。)を使用することが好ましい。すなわち、前記基準義歯床部材の唇側床縁近傍および頬側床縁近傍の領域を囲うように収容可能な前方溝部、および、前記基準義歯床部材の喉側床縁近傍の領域を囲うように収容可能な後方溝部を有する義歯作製用治具を用いることが好ましい。たとえばショアD硬さが80以下であるシリコーン樹脂等の、本発明の硬化性義歯床用材料に対して剥離性(非粘着性)を有する可撓性材料で構成された上記義歯作製用治具の各溝部に予め本発明の硬化性義歯床用材料があらかじめ収容しておき、これを基準義歯床の粘膜面に密着させてから冶具を剥離することにより、溝部の幅および深さに対応した所定の築盛量の未硬化状態の硬化性義歯床用材料が、床縁に沿って築盛されることになる。このため、床縁に沿って未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛する際に、適正な築盛量を見積もることが困難な経験の浅い作業者でも、前記義歯作製用治具を用いれば適正な築盛量を安定して再現でき、作業者の経験度に関係無く作業効率・品質の低下を抑制できるようになる。
(C)築盛・転写工程は、基準義歯床を3つのパート(領域)に分け、各領域の築盛・転写を順次行うようにすることが好ましい。具体的には、作製される義歯の義歯床において、(1)患者口腔内における顎堤頂部領域の粘膜を被覆する粘膜面を有する領域(部分)を「中央領域」とし、(2)前記顎堤頂部領域よりも前方の患者口腔内粘膜を被覆する粘膜面を有する領域(部分)を「前方領域」とし、(3)前記顎堤頂部領域よりも後方の患者口腔内粘膜を被覆する粘膜面を有する領域(部分)を「後方領域」として、基準義歯の基準義歯床におけるこれら領域(部分)を、夫々(1)ベース中央領域20A1,20B1、(2)ベース前方領域20A2,20B2及び(3)ベース後方領域20A3,20B3とし、最初にベース中央領域20A1,20B1の粘膜面の適合化を行うことにより大まかな位置決めを行い、次に、変動幅が少ない状況で前方部(ベース前方領域20A2,20B2)及び後方部(ベース後方領域20A3,20B3)の粘膜面の適合化並びに辺縁(床縁)の形成及び適合化を行うことで、熟練した手技を有さない者でも容易に高精度の位置決めができるようにすることが可能となる。しかも基準義歯床の前方床翼部の高さや、基準義歯床の後方部の長さを裏装材等の硬化性義歯床用材料で補いながら(延長しながら)患者粘膜との境界が自然な状態となるように境界の適合化を図るこができる。
すなわち、(C)築盛・転写工程は、以下に示す各工程(C-1)、(C-2)及び(C-3)の、多段階に分けて行うことが好ましく、これらの工程を行った後に前記分離可能部を接合することが好ましい。
(C-1)基準義歯床の中央領域(ベース中央領域)に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛して、患者口腔内または患者口腔内模型の形状を転写する中央築盛・転写工程。
(C-2)基準義歯床部材の前方領域(ベース前方領域)に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛して、患者口腔内または患者口腔内模型の形状を転写すると共に、床縁より延長させて辺縁形成を行う前方築盛・転写工程。
(C-3)基準義歯床部材の後方領域(ベース後方領域)に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛して、患者口腔内または患者口腔内模型の形状を転写すると共に、床縁より延長させて辺縁形成を行う後方築盛・転写工程。
(C-1)から(C-3)の各工程において、患者口腔内の粘膜形状または患者口腔内模型の形状を転写する際には、未硬化状態の硬化性義歯床用材料が築盛された基準義歯を咬合平面と想定される平面上の適切な位置に配置する必要がある。最初に行う(C-1)工程においては、ベース中央領域の粘膜面は、曲率半径が小さいことに起因して、位置決めし易いというメリットを有する反面、僅かな力を加えただけでこの部分を支点にして前後が上下にブレ易い。このため、このようなブレの発生を抑制して精度良く、前記適切な位置に配置するためには、前記したような図8に示すような位置合わせ冶具200を用いることが好ましい。
なお、上顎用義歯と下顎用義歯をセットで作製する場合には、上顎用又は下顎用のどちらか一方のベース中央領域の粘膜面に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、硬化性義歯床用材料を築盛した基準義歯を位置合わせ冶具200に保持してから前記患者口腔内または前記咬合器内に挿入して、前記適正な位置に保持して工程(C-1)の転写を行うことが好ましい。上下の顎間の関係を再現するという観点からすると、先に上顎用義歯を作製する場合は上顎用基準義歯10Aのみを位置合わせ冶具200に保持して転写を行い、次に行う下顎用基準義歯の転写においては上顎用基準義歯10A及び下顎用基準義歯10Bを同時に(セットで)位置合わせ治具200に保持して転写を行うことがより好ましい。なお、上顎用義歯と下顎用基準義歯はどちらを先に作製しても構わない。
なお、工程(C-1)終了後の工程(C-2)及び/又は工程(C-3)における位置合わせ(適切な位置での保持)は、ブレが少なく容易化されるので、熟練者であれば位置合わせ冶具を用いることなく上顎用、下顎用別々に行うこともできる。また、熟練者でなくとも、前記位置合わせ冶具200を用いることにより、容易に高精度の転写を行うことができる。このとき、上顎用又は下顎用の何れか一方の基準義歯を保持して工程(C-2)及び/又は工程(C-3)を行っても良いが、より確実に高精度の転写を行うためには、両方の基準義歯を位置合わせ冶具200に保持して行うことが好ましい。
(C-2)の前方築盛・転写工程と、(C-3)の後方築盛・転写工程は、同時に行っても良く、個別に行っても良い。また、(C-1)~(C-3)を複数回繰り返して行ってもよい。
本発明の義歯作製方法では、(C)築盛・転写工程として、工程(C1)又は工程(C2)を採用する必要がある。以下にこれら工程について説明する。
2-4.工程(C1)及び工程(C2)
工程(C1)は、下記サブ工程(C1a)~(C1d)を含む。
(C1a) 前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯について予め前記分離可能部を分離するサブ工程、
(C1b) 上記サブ工程で分離された前記分離可能部に対応する位置に欠損部が形成された基準義歯を用いて前記転写並びに必要に応じた辺縁形成及び余剰硬化性義歯床用材料の除去を行うサブ工程、
(C1c) 前記欠損部から露出する未硬化状態の硬化性義歯床用材料の表面上に追加で未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、及び/又は前記分離可能部の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、並びに
(C1d) 前記分離可能部を前記欠損部に嵌め込こんで、下地の硬化性義歯床用材料を一体化させながら前歯の咬合調整を行うと共に余剰の硬化性義歯床用材料を除去して前記分離可能部を接合することにより、前記転写及び辺縁形成を行うサブ工程。
工程(C2)は、下記サブ工程(C2a)~(C2d)を含む。
(C2a) 前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯をそのまま用いて前記転写及び必要に応じた辺縁形成を行うサブ工程、
(C2b) 前記サブ工程終了後に前記分離可能部を分離するサブ工程、
(C2c) 上記サブ工程で分離された前記分離可能部に対応する位置に欠損部から露出する未硬化状態の硬化性義歯床用材料の表面上に追加で未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、及び/又は前記分離可能部の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、並びに
(C2d) 前記分離可能部を前記欠損部に嵌め込こんで、下地の硬化性義歯床用材料を一体化させながら前歯の咬合調整を行うと共に余剰の硬化性義歯床用材料を除去して前記分離可能部を接合することにより、前記転写及び辺縁形成を行うサブ工程。
すなわち、上顎用基準義歯床20Aを用いた場合を例に説明すると、まず前記(C1)の場合は(C1a)で前記分離可能部40Aの分離を行った基準義歯について、前記(C2)の場合は分離を行っていない基準義歯について、粘膜側表面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛した後に築盛された前記硬化性義歯床用材料を、調整部材の形状とする{(C1b)及び(C2a)}。
上記硬化性義歯床用材料の築盛は、通常、上顎用基準義歯10Aを前記位置合わせ冶具200から取り外して行われるが、位置合わせ治具200にセットしたままで行っても良い。また、前記調整部材の形状とする場合には、たとえば、硬化性義歯床用材料を築盛した上顎用基準義歯10Aを前記位置合わせ冶具200に再びセットし、これを咬合器100内の適切な位置に配置する。その後に、義歯床用材料を上顎模型151および下顎模型152に押し当てて、上顎模型151および下顎模型152を噛み合わせた状態で、これらの形状を、硬化性義歯床用材料に転写並びに必要に応じた辺縁形成を行う。かかる転写後に、位置合わせ冶具200に上顎用基準義歯10Aをセットしたままの状態で、咬合器100内から一度、上顎用基準義歯10Aを外に出す。その後に、余剰の硬化性義歯床用材料を、上顎用基準義歯10Aから除去する。
次いで、工程(C2)では、前記分離可能部を分離してから{(C2b)}、工程(C1)では(C1b)終了後に、欠損部から露出する未硬化状態の硬化性義歯床用材料の表面上、又は分離した前記分離可能部40Aの粘膜上、又はその両方に、追加で未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛する{(C1c)及び(C2c)}。
その後、前記分離可能部40Aを前記欠損部にはめ込んで、下地の硬化性義歯床用材料を一体化させながら、咬合器100内の適切な位置に配置した後、前記分離可能部40Aを適切な位置や角度に調整し、前歯の咬合調整を行う{(C1d)及び(C2d)}。上顎用基準義歯10Aを、再び咬合器100内から外に出し、余剰の硬化性義歯床用材料を、上顎用基準義歯10Aから除去して前記分離可能部40Aを接合する。
なお、上顎用義歯と下顎用義歯をセットで作製する場合、上顎用及び下顎用両方の分離可能部を分離しても良いが、作業効率の観点から上顎用又は下顎用のいずれか一方を分離することが好ましい。
前記(C1b)及び(C2a)は、前記工程(C-1)~(C-3)を含むことが好ましい。この場合、(C1b)及び(C2a)における工程(C-1)では未硬化状態の硬化性義歯床用材料の代わりに非硬化性仮転写用材料を使用しても良い。非硬化性仮転写用材料を用いた場合の操作は、次のように行われる。すなわち、引き続き未硬化状態の硬化性義歯床用材料を用いて工程(C-2)及び工程(C-3)を行い、後述の(D)硬化工程において前記ベース前方領域及び前記ベース後方領域に築盛した義歯床用硬化性組成物を硬化させる。次いで、前記ベース中央領域に築盛した非硬化性仮転写用材料を取り外してから分離した前記分離可能部に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛してからこれを前記欠損部に嵌め込み、前歯の咬合調整を行う{(C1d)及び(C2d)}。その後、前記非硬化性仮転写用材料を取り除いた空間を埋めるように未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛して、前記患者口腔内または前記患者口腔内模型の形状を転写する。このようにして非硬化性仮転写用材料を用いると、ベース中央領域に空間が生じるため、前歯の咬合調整を行う際、分離可能部だけでなく基準義歯全体の角度や位置等の微調整が可能となり、且つ辺縁形成は行われているため、適切な位置から大きく外れることもないことから、より精度の良い義歯を短時間で作製することが可能となる。
上顎用義歯と下顎用義歯をセットで作製し、前記分離可能部を分離するのが上顎用又は下顎用のいずれか一方のみである場合、前記非硬化性仮転写用材料を用いて工程(C-1)を行うのは、前記分離可能部を分離する側のみが好ましい。
なお、非硬化性仮転写用材料とは、重合性を有さない材料であって、且つペースト状或いは餅状の塑性変形可能で、応力がかからない状態ではその形態を保持できるような材料である。材質は特に限定されないが、前記義歯床用硬化性材料が(メタ)アクリレート系であることが多いことから、はく離し易い材質、たとえばシリコーン樹脂等が好ましい。
2-5.(D)硬化工程
本工程は、築盛・転写工程を経た前記硬化性義歯床用材料を硬化させる硬化工程である。
本工程では、前記(C)築盛・転写工程で前記調整部材の形状とされた前記硬化性義歯床用材料を硬化させて前記調整部材を形成すると共に当該調整部材を前記基準義歯床部材と一体化させる。
重合硬化は、硬化性義歯床用材料に含まれる重合開始剤の種類に応じて適宜決定される。たとえば光重合開始剤を用いた光重合タイプの場合、開始剤を活性化する紫外線等の光を照射することで、義歯床用材料を硬化させることができる。また、熱重合開始剤を用いた熱重合タイプの場合には加熱することによって、義歯床用材料を硬化させることができる。
また、(D)硬化工程は、以下に示す各工程(D-1)、(D-2)及び(D-3)の、多段階に分けて行っても良い。
(D-1)中央築盛・転写工程を経た前記硬化性義歯床用材料を硬化させる工程。
(D-2)前方築盛・転写工程を経た前記硬化性義歯床用材料を硬化させる工程。
(D-3)後方築盛・転写工程を経た前記硬化性義歯床用材料を硬化させる工程。
これら工程は、それぞれの前記築盛・転写工程終了後に、それら築盛・転写工程に対応したそれぞれの前記硬化工程(D-1)乃至(D-3)を個別に行っても良いし、又は、終了した前記築盛・転写工程に対応する全ての築盛・転写工程終了後に同時に行っても良い。例えば、工程(C-1)及び工程(D-1)終了後に工程(C-2)及び(C-3)を行う場合、(D-2)の硬化工程と、(D-3)の硬化工程は、両築盛・転写工程終了後に同時に行っても良く、また各築盛・転写工程終了後に個別に行っても良い。また、工程(C-1)終了後に工程(D-1)を行うことなく工程(C-2)及び(C-3)を行い、その後、1回でまとめて(D-1)、(D-2)及び(D-3)を同時に行っても良い。
2-6.付加的工程
本発明の義歯作製方法では、前記(C)築盛・転写工程及工程終了後に、前記基準義歯床の粘膜面側の表面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を追加して当該粘膜面側表面の形状を修正するウォッシュ工程を更に含んでも良い。
上記ウォッシュ工程は、例えば、前記(C)築盛・転写工程終了後であって、最終的な(D)硬化工程を行う前、または終了後に、前記基準義歯床の粘膜面側の表面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を微量追加して、より良い適合性が得られるように形状を微修正してから硬化させることによって行うことができる。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
実施例には、下顎に不正咬合のあった患者の口腔模型を使用し、硬化性義歯床用材料としては、光硬化性裏装材:トクヤマヒカリライナー(トクヤマデンタル製)を用いた。
実施例1
分離補助機構として分離予定ライン上に径が2mmの穿孔が5mm間隔で設けられ、分離可能部を分離した後に残る床縁近傍領域の幅w1及びw2が2mmである基準義歯を用いて、不正咬合の患者口腔内模型に適合する義歯を作製し、評価を行った。具体的には、まず、図1に示す上顎用基準義歯、及び図4に示す下顎用基準義歯を準備した((A)基準義歯準備工程)。次に、図8に示す位置合わせ冶具に上顎用基準義歯を保持し、図7に示す咬合器に挿入して不適切接触の有無を確認し、不適切接触が認められたとき(不適と判断された場合)には、それがなくなるまで(適となるまで)ハンディ研削機を用いて研削調整を行った。その後、下顎用基準義歯についても同様に行った。((B)基準義歯決定工程)。
次いで、下顎用基準義歯の分離可能部を切削用のディスクを用いて分離した(工程C1a)。“上顎用基準義歯”及び“分離を行い、欠損部を有する下顎用基準義歯”の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料をそれぞれ築盛し、その上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯を前記位置合わせ冶具に保持してから前記咬合器内に挿入して、前記適切な位置に保持して、患者口腔内模型の形状を転写すると共に辺縁形成を行い、余剰の硬化性義歯床用材料は除去した(工程C1b)。
下顎用基準義歯から分離した上記“分離可能部”の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し(工程C1c)、“これを上記欠損部にはめ込んだ下顎用基準義歯”と、“前記上顎用基準義歯”とを、再度前記咬合器内に挿入し、適切な位置に配置した後、患者のもともとの不正咬合に合わせて前記分離可能部を適切な位置や角度に調整し、前歯の咬合調整を行い、さらに余剰の硬化性義歯床用材料は除去した(工程C1d){(C)築盛・転写工程における工程(C1)}。
最後に全ての硬化性義歯床用材料を一度に硬化させて((D)硬化工程)、上顎・下顎一組の義歯を作製した。本発明の基準義歯及び方法で義歯を作製した結果、不正咬合の患者にとって使用時に違和感のない、もともとの不正咬合を再現した義歯を短時間で作製することができた。
実施例2
分離補助機構として分離予定ラインに沿って、開口幅が3mmのスリットが2mm間隔で設け設けられ、分離可能部を分離した後に残る床縁近傍領域の幅(w1及びw2)が1mmである基準義歯を用い、(C)築盛・転写工程を以下の手順で行った他は、実施例1と同様に義歯の作製を行った。
前記(B)基準義歯決定工程を行った後、上顎用基準義歯、及び下顎要基準義歯の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料をそれぞれ築盛し、その上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯を前記位置合わせ冶具に保持してから前記咬合器内に挿入して、前記適切な位置に保持して、患者口腔内模型の形状を転写すると共に辺縁形成を行い、余剰の硬化性義歯床用材料は除去した(工程C2a)。
次いで、下顎用基準義歯の分離可能部を切削用のディスクを用いて分離し(工程C2b)、その分離可能部の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し(工程C2c)、これを上記欠損部にはめ込んだ下顎用基準義歯と、上顎用基準義歯とを、再度前記咬合器内に挿入し、適切な位置に配置した後、患者のもともとの不正咬合に合わせて前記分離可能部を適切な位置や角度に調整し、前歯の咬合調整を行い、さらに余剰の硬化性義歯床用材料は除去した(工程C2d){(C)築盛・転写工程における工程(C2)}。本発明の基準義歯及び方法で義歯を作製した結果、不正咬合の患者にとって使用時に違和感のない、もともとの不正咬合を再現した義歯を短時間で作製することができた。
実施例3
分離補助機構として分離予定ライン上に元の厚さの50%となる薄肉部を設け、分離可能部を分離した後に残る床縁近傍領域の幅(w1及びw2)が共に4mmである基準義歯を用い、非硬化性仮転写用材料(インプリンシスパテ(トクヤマデンタル製))を用いて(C)築盛・転写工程以降を多段に分けて以下の手順で行った他は、実施例1と同様に義歯の作製を行った。
前記(B)基準義歯決定工程を行った後、上顎用基準義歯のベース中央領域に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を、下顎用基準義歯のベース中央領域に非硬化性仮転写用材料を、それぞれ築盛し、その上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯を前記位置合わせ冶具に保持してから前記咬合器内に挿入して、前記適切な位置に保持して、患者口腔内模型の形状を転写した(工程(C-1)中央築盛・転写工程)。
上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯のベース前方領域及びベース後方領域に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、その上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯を前記位置合わせ冶具に保持してから前記咬合器内に挿入して、前記適切な位置に保持して、患者口腔内模型の形状を転写し辺縁形成を行い、余剰の硬化性義歯床用材料は除去した(工程(C-2)前方築盛・転写工程、工程(C-3)後方築盛・転写工程)。
上顎用基準義歯に築盛した未硬化状態の硬化性義歯床用材料と、下顎用基準義歯のベース前方領域及びベース後方領域に築盛した未硬化状態の硬化性義歯床用材料を硬化させた((D)硬化工程)後、下顎用基準義歯の下顎用基準義歯のベース中央領域に築盛した非硬化性仮転写用材料を取り外した。
次いで、下顎用基準義歯の分離可能部を手で分離し(工程C2b)、その分離可能部の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し(工程C2c)、これを上記欠損部にはめ込んだ下顎用基準義歯と、上顎用基準義歯とを、再度前記咬合器内に挿入し、適切な位置に配置した後、患者のもともとの不正咬合に合わせて前記分離可能部を適切な位置や角度に調整し、前歯の咬合調整を行った(工程C2d)。非硬化性仮転写用材料を取り除いた空間を埋めるように未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、前記咬合器内に挿入して、前記適切な位置に保持して、患者口腔内模型の形状を転写し、さらに余剰の硬化性義歯床用材料は除去した。
最後に全ての硬化性義歯床用材料を硬化させて((D)硬化工程)、上顎・下顎一組の義歯を作製した。本発明の基準義歯及び方法で義歯を作製した結果、不正咬合の患者にとって使用時に違和感のない、もともとの不正咬合を再現した義歯をより簡便に短時間で作製することができた。
比較例1
特許文献4に記載の分離補助機構を有さない基準義歯及び方法で、実施例1と同様の、もともと不正咬合だった患者の口腔模型に適合する義歯を作製した。
具体的には、まず、特許文献4に記載の上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯を準備した{(A)基準義歯準備工程}後、実施例1と同様に(B)基準義歯決定工程を実施した。
次いで、上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料をそれぞれ築盛し、その上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯を前記位置合わせ冶具に保持してから前記咬合器内に挿入して、前記適切な位置に保持して、患者口腔内模型の形状を転写すると共に辺縁形成を行い、余剰の硬化性義歯床用材料は除去した{(C)築盛・転写工程}。
最後に全ての硬化性義歯床用材料を一度に硬化させて{(D)硬化工程}、上顎・下顎一組の義歯を作製した。
特許文献4に記載の基準義歯を用いて義歯を作製した結果、適合が良好な義歯を作製することができたものの、標準的な咬合であるため、もともと不正咬合だった患者にとっては使用し難い義歯であった。
10・・・本発明の基準義歯
10A・・・本発明の上顎用基準義歯
10B・・・本発明の下顎用基準義歯
20A・・・上顎用基準義歯床
20B・・・下顎用基準義歯床
20A1、20B1・・・ベース中央領域
20A2、20B2・・・ベース前方領域(ベース前方床翼部)
20A3・・・ベース後方領域(ベース口蓋床部)
20B3・・・ベース後方領域(ベース舌側床翼部)
21A、21B・・・床翼
22A、22B・・・床縁
22A1、22B1・・・唇側床縁
22A2、22B2・・・頬側床縁
23A、23B・・・粘膜面
24A、24B・・・研磨面
25A、25B・・・歯頸部
30A、30B・・・人口歯列
30A1、30B1・・・前歯
30A2、30B2・・・臼歯
31A、31B・・・人口歯
40A、40B・・・分離可能部
41A、41B・・・分離補助機構
42A、42B・・・分離予定ライン
100・・・咬合器
101・・・指導ピン
150・・・患者口腔内模型
151・・・上顎模型
152・・・下顎模型
200・・・位置合わせ治具
201・・・基準義歯保持部
201A・・・上顎義歯保持凹部
201B・・・下顎義歯保持凹部
202・・・柄部
PA・・・咬合平面

Claims (3)

  1. 粘膜面及び研磨面を有する基準義歯床に人工歯が固定されなり、基準義歯床の粘膜面上に硬化性義歯床用材料を築盛した後に装着者の口腔内形状に適合するように成形してから硬化させることにより、装着者となる個別患者に適合した義歯を作製するようにした基準義歯であって、
    前記人工歯は、左右の中切歯、左右の側切歯、左右の犬歯及び左右の第一小臼歯の人工歯を少なくとも含み、
    前記粘膜面及び前記研磨面は、夫々、前記基準義歯床における装着者の顎堤粘膜と対向する側の面及びその反対側の面を意味し、前記粘膜面と前記研磨面の境界を「床縁」とし、前記基準義歯床と人工歯との境界部を「歯頸部」とし、当該歯頸部を基端とし、前記床縁を先端とする翼状の形態をなす部分を「床翼」とし、装着時に唇側となる方向を前方とし、喉側となる方向を後方とし、左右の中切歯、左右の側切歯及び左右の犬歯の人工歯からなる歯列を前歯列としたときに、
    前記基準義歯は、(1)前歯列と、(2)前記基準義歯床における前歯列の周辺領域である「前歯近傍領域」と、が一体化した「分離可能部」を分離できるようにするための分離補助機構を有している、
    ことを特徴とする基準義歯。
  2. 基準義歯床において、
    左側及び右側で相互に隣接する犬歯の人工歯と第一小臼歯の人工歯との間に位置する点を、夫々、右側基準点:R及び左側基準点:Lとし、
    人工歯の前方側の基準義歯床の研磨面上において各基準点R及びLから夫々床縁に向かう線上の点であってR及びLから所定の距離だけ床縁側に位置する点を、夫々、前方右側基準点:R及び前方左側基準点:Lとし、
    人工歯の後方側の基準義歯床の研磨面上において各基準点R及びLから夫々後方に向かう線上の点であってR及びLから所定の距離だけ後方に位置する点を、夫々、後方右側基準点:R及び後方左側基準点:Lとし、
    前記各基準点:R、R、R、L、L、L及びRを、この順番で連結する、閉じた仮想線を「分離予定ライン」としたときに、
    前記「前歯近傍領域」が、前記「分離予定ライン」によって画定されるその内側の領域であり、
    前記分離補助機構が、前記分離予定ライン上又は前記分離予定ラインに沿って設けられた、(1)連続した又は不連続な薄肉部、(2)複数のスリット状及び/又は複数のドット状の穿孔、又は(3)これらの組み合わせ、によって構成されている、
    請求項1に記載の基準義歯。
  3. 請求項1又は2に記載の基準義歯を用いて、該基準義歯を患者の口腔内に装着した場合において、その基準義歯床の粘膜面と前記患者の口腔内粘膜との間に生じる空間の形状に相当する形状を有する調整部材を前記粘膜面上に形成することにより、前記患者に適合した義歯を作製する方法であって、
    (A)患者の口腔サイズに適合するサイズの、請求項1又は2に記載の基準義歯を準備する基準義歯準備工程;
    (B)前記基準義歯を、患者の口腔内で医学的に存在すべき位置に配置された咬合平面と想定される仮想咬合平面上の適切な位置に配置させるようにして、(1)患者口腔内に挿入して患者口腔内の粘膜と前記基準義歯との接触状態を確認するか、又は(2)患者口腔内模型を取り付けた咬合器内に挿入して、前記患者口腔内模型と前記基準義歯との接触状態を確認するか、により、使用上不適切な接触をする場合には、当該不適切な接触を起こさない別の形状を有する基準義歯を選択するか、又は接触しないように前記基準義歯における前記基準義歯床部材の形状を微調整することにより、使用する基準義歯の形状を決定する基準義歯決定工程;
    (C)前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または前記咬合器内の前記仮想咬合平面上の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料に転写すると共に辺縁形成を行って余剰の前記硬化性義歯床用材料を除去する、築盛・転写工程;
    及び
    (D)前記硬化性義歯床用材料を硬化させる硬化工程;
    を含み、
    前記(C)築盛・転写工程は、
    (C1a) 前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯について予め前記分離可能部を分離するサブ工程、
    (C1b) 上記サブ工程で分離された前記分離可能部に対応する位置に欠損部が形成された基準義歯を用いて前記転写並びに必要に応じた辺縁形成及び余剰硬化性義歯床用材料の除去を行うサブ工程、
    (C1c) 前記欠損部から露出する未硬化状態の硬化性義歯床用材料の表面上に追加で未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、及び/又は前記分離可能部の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、並びに
    (C1d) 前記分離可能部を前記欠損部に嵌め込こんで、下地の硬化性義歯床用材料を一体化させながら前歯の咬合調整を行うと共に余剰の硬化性義歯床用材料を除去して前記分離可能部を接合することにより、前記転写及び辺縁形成を行うサブ工程
    を含む工程(C1)であるか、又は
    (C2a) 前記基準義歯決定工程で使用が決定された前記基準義歯をそのまま用いて前記転写及び必要に応じた辺縁形成を行うサブ工程、
    (C2b) 前記サブ工程終了後に前記分離可能部を分離するサブ工程、
    (C2c) 上記サブ工程で分離された前記分離可能部に対応する位置に欠損部から露出する未硬化状態の硬化性義歯床用材料の表面上に追加で未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、及び/又は前記分離可能部の粘膜面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛するサブ工程、並びに
    (C2d) 前記分離可能部を前記欠損部に嵌め込こんで、下地の硬化性義歯床用材料を一体化させながら前歯の咬合調整を行うと共に余剰の硬化性義歯床用材料を除去して前記分離可能部を接合することにより、前記転写及び辺縁形成を行うサブ工程
    を含む工程(C2)である、
    ことを特徴とする義歯の作製方法。
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