JP2022147289A - 炎症性腸疾患治療用組成物 - Google Patents

炎症性腸疾患治療用組成物 Download PDF

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英樹 飯島
Hideki Iijima
潔 竹田
Kiyoshi Takeda
尚子 香山
Hisako Kayama
由利子 大竹
Yuriko Otake
徹郎 竹原
Tetsuro Takehara
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Osaka University NUC
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Abstract

Figure 2022147289000001
【課題】炎症性腸疾患を治療できる組成物を提供すること、および、炎症性腸疾患を治療
するための物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【解決手段】リゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質
の機能を抑制する物質を含有する炎症性腸疾患治療用組成物、または、腸粘膜におけるT
h1細胞の過剰活性化を抑制するための組成物を提供する。好適なリゾホスファチジルセ
リン受容体はP2Y10であり、P2Y10の下流のシグナル伝達経路としてRho/R
OCKシグナルが挙げられる。Th1細胞上のリゾホスファチジルセリン受容体の機能を
抑制する活性を測定する工程を含むスクリーニング方法、または、その下流のシグナル伝
達物質の機能を抑制する活性を測定する工程を含むスクリーニング方法を提供する。
【選択図】図21

Description

本発明は、炎症性腸疾患の治療に関する。
炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease:IBD)は腸
管における免疫の過剰な活性化が関与していると考えられている。腸管に生じる難病であ
るが、患者数が急速に増加しており問題となっている。IBDに対する治療薬として抗T
NF抗体製剤などの免疫抑制機序を持つ新規薬剤が多数登場しており、従来薬と比較して
高い治療効果が見られるが、治療薬の継続使用に伴い効果減弱をきたすなど、治療に難渋
する患者も少なくない。さまざまな研究が行われているが、未だ疾患の発症、増悪のメカ
ニズムが十分に解明されたとは言えず、根治治療法も開発されていない。
T細胞は、IBDを含めて、様々な炎症性疾患において重要な役割を果たしている。最近
、T細胞の代謝状態の再プログラミングが分化と機能に密接に関連することが解明されて
いる(非特許文献1)。エフェクターT細胞(Teff)と制御性T細胞(Treg)は
異なる代謝プロファイルを持っている(非特許文献2)。Th1とTh17などのTef
fはグルコース由来のピルビン酸を乳酸まで変換している解糖系に依存し、Tregはミ
トコンドリアにおける酸化による代謝に依存している(非特許文献3)。T細胞の代謝状
態は炎症部位の環境(低酸素、低栄養状態)に順応する必要があると考えられる(非特許
文献4)。
炎症性腸疾患患者では、T細胞の代謝に変化が生じているという報告がある(非特許文献
5,6)。最近の研究では、炎症性腸疾患患者では、いくつかのリン脂質が炎症メディエ
ーターの働きをすることが明らかにされている。例えば、スフィンゴシンl-リン酸(S
1P)は1型S1P受容体(S1P1)を介してリンパ球の遊走を制御している(非特許
文献7)。
本発明者等は、16種類のホスファチジルセリン(PS)と18:0リゾホスファチジル
セリン(LysoPS)の血漿中濃度がクローン病患者では健常人に比較して2倍以上、
上昇していることを報告した(非特許文献8)。PSは細胞膜の脂質二重層の中に豊富に
存在し、LysoPSはホスホリパーゼA1/A2(PLA1/A2)の酵素の作用によ
ってPSから発生して脂質メディエーターとして作用すると考えられている(非特許文献
9)。しかし、LysoPSの生理学的、病理学的機能は不明である。
現在LysoPS受容体としてGPR34(LyPS)、P2Y10(LyPS)、
A630033H20Rik(LyPS2L、ヒトでは偽遺伝子)およびGPR174(
LyPS)が同定されている。LysoPS受容体はGタンパク質共役型受容体であり
、GPR34(LyPS)はGに共役し、P2Y10(LyPS)、A63003
3H20Rik(LyPS2L)およびGPR174(LyPS)はいずれもG12/
13に共役し、G12/13シグナルはRho/ROCKパスウェイを促進すると報告さ
れている(非特許文献10-12)。
リゾホスファチジルセリン受容体LPSR1と試験物質とを接触させる工程を含むリゾホ
スファチジルセリンアンタゴニストもしくはリゾホスファチジルセリン受容体活性減弱剤
をスクリーニングする方法が特許文献1に記載されている。特許文献1中にはLPSR1
が肥満細胞の脱顆粒反応の惹起、増強に関わっていることが記載されている。
国際公開2005/121356号公報 特開平10-150993号公報
Buck, M. D. et al. J Exp Med 212, 1345-1360 (2015). Sun, L. et al. Front Immunol 8, 1632 (2017). Gerriets, V. A. et al. J Clin Invest 125, 194-207 (2015). Dumitru, C. et al. Front Immunol 9, 540 (2018). Dong, L. N. et al. Chin Med J (Engl) 132, 1610-1614 (2019). Lavelle, A. et al. Nat Rev Gastroenterol Hepatol 17, 223-237 (2020). Peyrin-Biroulet, L. et al. Autoimmun Rev 16, 495-503 (2017). Iwatani, S. et al. J Gastroenterol Hepatol 35, 1355-1364 (2020). Kimani, S. G. et al. Front Immunol 5, 566 (2014). Kihara Y et al. British Journal of Pharmacology 171 3575-3594 (2014). Inoue A. et al. Nat Methods. 2012, 9(10), p. 1021-9. 井上飛鳥ほか 生化学 90(5): 614-620 (2018)
本発明は、炎症性腸疾患を治療できる組成物を提供すること、および、炎症性腸疾患を治
療するための物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
本発明者等は、上記課題を解決すべく研究を行った結果、リゾホスファチジルセリン受容
体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制する物質が、上記課題を解決で
きることを見出し本発明を完成した。また、Th1細胞上のリゾホスファチジルセリン受
容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能の抑制活性を測定することにより、
炎症性腸疾患を治療するための物質をスクリーニングすることができることを見出し本発
明を完成した。即ち、本発明は以下の態様を含有する。
1.リゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を
抑制する物質を含有する炎症性腸疾患治療用組成物。
2.前記リゾホスファチジルセリン受容体がP2Y10である、前項1に記載の組成物。
3.前記機能を抑制する物質が、P2Y10の機能を抑制する物質である、前項2に記載
の組成物。
4.前記機能を抑制する物質が、P2Y10の下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑
制する物質である、前項2に記載の組成物。
5.前記細胞内シグナル伝達物質が、Rhoキナーゼである、前項4に記載の組成物。
6.前記炎症性腸疾患が、Th1細胞の過剰活性化を伴う炎症性腸疾患である、前項1~
5のいずれか1に記載の組成物。
7.リゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を
抑制する物質を含有する腸粘膜におけるTh1細胞の過剰活性化を抑制するための組成物

8.Th1細胞上のリゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝
達物質の機能を抑制する活性を測定する工程を含む、炎症性腸疾患を治療するための物質
のスクリーニング方法。
9.リゾホスファチジルセリン存在下で、試験物質とTh1細胞を接触させる工程を含む
前項8のスクリーニング方法。
10.リゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能
を抑制する物質を投与することを含む炎症性腸疾患の治療方法。
11.リゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能
を抑制する物質を投与することを含む腸粘膜におけるTh1細胞の過剰活性化を抑制する
方法。
12.炎症性腸疾患を治療するための組成物の調製のためのリゾホスファチジルセリン受
容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制する物質の使用。
13.腸粘膜におけるTh1細胞の過剰活性化を抑制するための組成物の調製のためのリ
ゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制す
る物質の使用。
本発明の組成物は、リゾホスファチジルセリン受容体の機能または該受容体の下流のシグ
ナル伝達物質の機能を抑制し、そのシグナル伝達を遮断または減弱させることにより、T
h1細胞の活性化を抑制し、炎症性腸疾患を治療することができる。リゾホスファチジル
セリン(以下、LysoPSともいう)は、リゾホスファチジルセリン受容体(以下、L
ysoPS受容体ともいう)を介してTh1細胞の代謝(解糖系)を促進させて、分化と
増殖を促進させ、炎症性サイトカインの発現を活発化させる。本発明の組成物は、Lys
oPS受容体の機能、または該受容体の下流のシグナル伝達物質の機能を抑制することに
より、LysoPSのこれら作用を遮断または減弱させて炎症性腸疾患を治療することが
できる。本発明の組成物は炎症性腸疾患の原因療法であることから、治療効果に優れ、多
くの患者の治療に多大な貢献をするものである。
また、炎症性腸疾患の発症、増悪に関与するLysoPS受容体またはその下流のシグナ
ル伝達物質をターゲットとする薬剤のスクリーニング方法は、炎症性腸疾患の原因療法を
可能にする新規治療薬の開発に多大に貢献する。
図1は、TNBS誘導大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与したときの体重の変化を示すグラフである。n = 9, * p < 0.05, ** p < 0.01, *** p < 0.001, Student's t-test 図2は、TNBS誘導大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の結腸の長さを示す写真(A)とグラフ(B)ある。n = 9, **** p < 0.0001, Student's t-test 図3は、TNBS誘導大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の結腸の病理組織像(H&E染色)(A)と組織学スコアのグラフ(B)である。n = 6, ** p < 0.01, Student's t-test 図4は、TNBS誘導大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の相対的サイトカイン発現量(結腸の粘膜固有層リンパ球中のサイトカインmRNA発現量)を示すグラフである。n = 9, n.s.: not significant, * p < 0.05, Student's t-test 図5は、T細胞依存的大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与したときの体重の変化を示すグラフである。n = 4-5, * p < 0.05, Student's t-test 図6は、T細胞依存的大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の結腸の長さを示す写真(A)とグラフ(B)である。n = 4-5, ** p < 0.01, Student's t-test 図7は、T細胞依存的大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の結腸の病理組織像(H&E染色)(A)と組織学スコアのグラフ(B)である。n = 4-5, **** p < 0.0001, Student's t-test 図8は、T細胞依存的大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の結腸の粘膜固有層リンパ球中のIFN-γ細胞、IFN-γIL-17A細胞、IL-10細胞、IL-17A細胞の数を示すグラフである。n = 4-5, n.s.: not significant, * p < 0.05, Student's t-test 図9は、マウス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞を18:1 LysoPS存在下、Th1誘導条件で培養した後のIFN-γ産生細胞数とIFN-γ産生量を示すグラフである。(A):IFN-γ産生細胞数を示す(コントロール(LysoPS不存在)のIFN-γ産生細胞数を1とする)。n = 3, **** p <0.0001, Student's t-test; (B):LysoPS濃度とIFN-γ産生量の関係を示す。n = 3, n.s.: not significant, ** p <0.01, one-way ANOVA 図10は、マウス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞を18:0 LysoPS存在下、Th1誘導条件で培養した後のIFN-γ産生細胞数(コントロール(LysoPS不存在)のIFN-γ産生細胞数を1とする)を示すグラフである。n = 4, **** p <0.0001, Student's t-test 図11は、マウス脾細胞から単離したCD4T細胞を、18:0または18:1 LysoPSの存在下または不存在下、Th1誘導条件で培養した後のCD4T細胞の酸素消費速度(OCR:ミトコンドリア呼吸の指標)を示すグラフである。(A):Oligo(oligomycin)、FCCP(fluoro-carbonyl cyanide phenylhydrazone)、ROT/AA(rotenone/antimycin A)をそれぞれ示された時間に注入した。;(B):最大OCRを示す。n = 3-4, *** p <0.001, **** p <0.0001, one-way ANOVA 図12は、マウス脾細胞から単離したCD4T細胞を、18:0または18:1 LysoPSの存在下または不存在下、Th1誘導条件で培養した後のCD4T細胞の細胞外酸性化速度(ECAR:解糖系の指標)を示すグラフである。(A):Oligo(oligomycin)、FCCP(fluoro-carbonyl cyanide phenylhydrazone)、ROT/AA(rotenone/antimycin A)をそれぞれ示された時間に注入した。;(B):最大ECARを示す。n = 3-4, * p <0.05, **** p <0.0001, one-way ANOVA 図13は、解糖系を抑制する2―デオキシ―D―グルコース(2DG)存在下または不存在下、Th1誘導条件で、マウス脾臓から単離したCD4T細胞を培養した後のIFN-γ産生細胞数の割合を示すグラフである。(A):マウス脾細胞から単離したCD4T細胞を培養した後のIFN-γ産生細胞数の割合を示す。(B):ヒトPBMCから単離したCD4T細胞を培養した後のIFN-γ産生細胞数の割合を示す。A,Bいずれも、n = 3, * p <0.05, ** p <0.01, one-way ANOVA 図14は、マウス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞を、ROCK抑制剤であるファスジル存在下または不存在下、Th1誘導条件で培養した後のIFN-γ産生細胞数の割合を示すグラフである。n = 3, n.s.: not significant, * p <0.05, ** p <0.01, *** p <0.001, **** p <0.0001, one-way ANOVA 図15は、マウス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞を、ROCK抑制剤ファスジル存在下または不存在下、Th1誘導条件で培養した後の酸素消費速度(OCR:ミトコンドリア呼吸の指標)を示すグラフである。(A):Oligo(oligomycin)、FCCP(fluoro-carbonyl cyanide phenylhydrazone)、ROT/AA(rotenone/antimycin A)をそれぞれ示された時間に注入した。(B):最大OCRを示す。n = 7-9, * p <0.05, ** p <0.01, **** p <0.0001, one-way ANOVA 図16は、マウス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞を、ROCK抑制剤ファスジル存在下または不存在下、Th1誘導条件で培養した後の細胞外酸性化速度(ECAR:解糖系の指標)を示すグラフである。(A):Oligo(oligomycin)、FCCP(fluoro-carbonyl cyanide phenylhydrazone)、ROT/AA(rotenone/antimycinA)をそれぞれ示された時間に注入した。(B):最大ECARを示す。n = 9, n.s.: not significant, * p <0.05, ** p <0.01, one-way ANOVA 図17は、P2Y10ノックアウト(P2ry10-/yP2ry10b-/y)マウスの作成方法を示す図である。(A):ノックアウト作成の遺伝子図を示す。(B):ノックアウト後、プライマーFWとRV1またはFWとRV2を用いてPCRでノックアウトを確認した電気泳動の写真である。(C):遺伝子切断部位の近傍配列を示す。 図18は、P2Y10ノックアウト(P2ry10-/yP2ry10b-/y)マウスの結腸または脾臓から単離したCD4T細胞のサイトカイン産生細胞の割合を示すグラフである。(A):結腸 n = 6,(B):脾臓 n= 3-4, n.s.: not significant, * p <0.05, ** p <0.01, Student's t-test 図19は、野生型のCD4T細胞(野生型マウス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞)またはP2Y10欠損CD4T細胞(P2Y10ノックアウト(P2ry10-/yP2ry10b-/y)マウス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞)が移入されたRag2欠損マウスの体重変化を示すグラフである。矢印はLysoPSを腹腔内投与した日である。n = 4-5, # p <0.05 [WT(LysoPS)vs KO(-)], & p <0.05, && p <0.01 [WT(LysoPS)vs KO(LysoPS)], * p <0.05 [WT(-)vs WT(LysoPS)], One-way ANOVA 図20は、野生型のCD4T細胞またはP2Y10欠損CD4T細胞をマウスに移入した日(day0)から23日後(day23)の大腸の病理組織像を示す写真(A)と組織学スコアのグラフ(B)である。n = 6-8, n.s.: not significant, * p <0.05, ** p <0.01, one-way ANOVA 図21は、野生型のCD4T細胞またはP2Y10欠損CD4T細胞をTh1誘導条件で培養した後のIFN-γ産生細胞の割合(A)とIFN-γ産生量(B)を示すグラフである。 n = 5-6, n.s.: not significant, * p <0.05, ** p <0.01, *** p <0.001, **** p <0.0001, one-way ANOVA
本発明の組成物は、リゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝
達物質の機能を抑制する物質を含有する。
本発明の組成物の有効成分であるLysoPS受容体またはその下流の細胞内シグナル伝
達物質の機能を抑制する物質には、LysoPS受容体の機能を抑制する物質とLyso
PS受容体の下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制する物質を含む。
本発明におけるLysoPS受容体は、リゾホスファチジルセリンの刺激(作用)により
、細胞内にシグナルを伝達する受容体であればよく特に制限されるものではない。Lys
oPSはリン脂質であり、グリセロール骨格にアシル基、リン酸基、セリンが結合してい
る構造を有している。アシル基の脂肪酸種は多様であり、結合位置はグリセロール骨格の
sn-1位(1-アシル型)とsn-2位(2-アシル型)の2種類がある。生体内では
、細胞膜の脂質二重層を形成しているホスファチジルセリン(PS)がホスホリパーゼA
1/A2(PLA1/A2)の作用によって生成されると考えられている。本明細書にお
いて、ホスホリパーゼA1(PLA1)および/またはホスホリパーゼA2(PLA2)
をホスホリパーゼA(PLA)と総称する。
前記LysoPS受容体の機能を抑制する物質は、LysoPS受容体の受容体としての
機能を抑制する物質であればよく、限定されるものではない。例えばLysoPS受容体
に可逆的に結合しLysoPSと受容体の結合を競合的に阻害する物質、LysoPS受
容体に不可逆的に結合しLysoPSと受容体の結合を阻害する物質、LysoPS受容
体に結合せずにLysoPSと受容体の結合を抑制する物質、LysoPS受容体の発現
を抑制する物質が挙げられる。具体的には、LysoPS受容体アンタゴニスト、Lys
oPSと構造が類似する物質、LysoPS受容体に対する抗体、LysoPS受容体遺
伝子のアンチセンスRNA、LysoPS生成酵素阻害剤等が挙げられる。
前記LysoPS受容体の下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制する物質は、Ly
soPS受容体からの細胞内シグナル伝達に関与する物質の機能を抑制する物質であれば
よく、限定されるものではない。LysoPS受容体はGタンパク質共役型受容体であり
、各LysoPS受容体はそれぞれの三量体Gタンパク質と共役し、シグナルを下流に伝
達する。下流のシグナル伝達に関与する物質としては、Rho/ROCK、Ras、PI
3K等が挙げられる。
LysoPS受容体は、P2Y10(LyPS)、GPR34(LyPS)、GPR
174(LyPS)およびA630033H20(LyPS2L、ヒトでは偽遺伝子)
が同定されている。ヒトP2Y10(LyPS)は339個のアミノ酸からなり、その
アミノ酸配列を配列番号1に示す。ヒトGPR34(LyPS)は381個のアミノ酸
からなり、そのアミノ酸配列を配列番号2に示す。ヒトGPR174(LyPS)は3
33個のアミノ酸からなり、そのアミノ酸配列を配列番号3に示す。マウスA63003
3H20(LyPS2L、ヒトでは偽遺伝子)は339個のアミノ酸からなり、そのアミ
ノ酸配列を配列番号4に示す。ヒト以外の動物のLysoPS受容体も本発明に係るLy
soPS受容体である。LysoPSが結合して細胞内シグナルを伝達する機能を有する
限り、これら受容体のアミノ酸配列は変異を有していてもよい。変異とは、アミノ酸の置
換、欠失、追加等である。例えば、上記アミノ酸配列の30%に変異があってもよく、好
ましくは20%に変異があってもよく、さらに好ましくは10%に変異があってもよく、
さらに好ましくは、5%に変異があってもよい。
本発明におけるLysoPS受容体としてはP2Y10(LyPS)が好ましい。
本発明におけるLysoPS受容体の機能を抑制する物質は、好ましくは、P2Y10の
機能を抑制する物質である。P2Y10の機能を抑制する物質は、限定されるものではな
い。例えばP2Y10に可逆的に結合しLysoPSとP2Y10の結合を競合的に阻害
する物質、P2Y10に不可逆的に結合しLysoPSとP2Y10の結合を阻害する物
質、P2Y10に結合せずにLysoPSとP2Y10の結合を抑制する物質、P2Y1
0の発現を抑制する物質およびLysoPSの生成を抑制する物質が挙げられる。具体的
には、P2Y10アンタゴニスト、LysoPSと構造が類似する物質、P2Y10に対
する抗体、P2Y10遺伝子(P2RY10)のアンチセンスRNA、LysoPS生成
酵素阻害剤(例えば、ホスホリパーゼA阻害剤)等が挙げられる。ホスホリパーゼA阻害
剤としては、例えば、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、4-bromophena
cyl bromide、darapladib、Anagrelide、OBAA(3
-(4-octadecyl)benzoylacrylic acid)、PACOC
F3(palmitoyl trifluoromethyl ketone)、YM2
6734、LY315920(varespladib methyl)が挙げられる。
本発明におけるLysoPS受容体の下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制する物
質は、好ましくは、P2Y10の下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制する物質で
ある。P2Y10の下流の細胞内シグナル伝達物質は、シグナル伝達に関与する物質であ
ればよく限定されるものではない。好適に挙げられるのは、Rho/ROCKシグナル伝
達経路に関与する物質である。Rho/ROCKシグナル伝達経路に関与する物質として
は、Rho、Rohキナーゼ(ROCK)等が挙げられる。Rho/ROCKシグナル伝
達経路に関与する物質の機能を抑制する物質として、例えば、Rohキナーゼ(ROCK
)阻害剤、RhoによるROCK活性化を阻害する物質、およびRho阻害剤等が挙げら
れる。好ましくはROCK阻害剤であり、例えば、ファスジル、Y-27632、GSK
429286A、RKI―1447およびAzaindole 1が挙げられる。好適に
は、ファスジルが挙げられる。
本明細書において、炎症性腸疾患の治療には、炎症性腸疾患の症状の改善、軽減、増悪抑
制、進行の遅延、および再燃抑制等が含まれる。
本発明における炎症性腸疾患は、腸に炎症を起こす疾患である。本明細書において、炎症
性腸疾患には、クローン病および潰瘍性大腸炎の他に腸管ベーチェット病、非特異性多発
小腸潰瘍、家族性地中海熱関連腸炎等も含まれる。炎症性腸疾患は、慢性的な下痢や血便
、腹痛などの症状を特徴とし、他にも発熱、肛門痛などの症状が含まれる。病理学的検査
では、クローン病では非乾酪性類上皮細胞肉芽腫、潰瘍性大腸炎では陰窩膿瘍が特徴とさ
れる。クローン病と潰瘍性大腸炎は、ともに免疫細胞が関与する難治性腸管炎症性疾患で
あり、本発明の組成物による治療が効果的である。特に好適には、本発明の組成物はクロ
ーン病の治療に用いられ得る。
本発明の組成物は、Th1細胞の過剰活性化を伴う炎症性腸疾患の治療に好適に用いられ
得る。
本明細書においてTh1細胞の過剰活性化は、Th1細胞からのIFN-γ等の炎症性サ
イトカインの分泌量の上昇を特徴とする。Th1細胞の過剰活性化には、細胞あたりの炎
症性サイトカインの分泌量上昇、活性酸素種(ROS)産生亢進、炎症性サイトカイン産
生Th1細胞数の増加、ナイーブCD4T細胞のTh1細胞への分化促進、およびTh
1細胞の代謝促進(特に解糖系の促進)を含む。
LysoPS受容体を介するLysoPSの作用により、Th1細胞の過剰活性化が発生
し、炎症性腸疾患の症状が悪化する。本発明の組成物は、このLysoPS受容体を介す
るLysoPSの作用を遮断または減弱して、Th1細胞の過剰活性化を抑制することが
でき、炎症性腸疾患を治療することができる。また、Th1細胞の過剰活性化を伴う炎症
性腸疾患を好適に治療することができる。
また、本発明の組成物は、LysoPS受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質
の機能を抑制する物質を含有する腸粘膜におけるTh1細胞の過剰活性化を抑制するため
の組成物でもある。
該腸粘膜には、すべての腸の粘膜を含む。腸は大きく小腸と大腸に分けられるが、本発明
の組成物は大腸粘膜におけるTh1細胞の過剰活性化を好適に抑制する。結腸粘膜におけ
るTh1細胞の過剰活性化をさらに好適に抑制する。
本発明の組成物は、2種以上の有効成分を含有していてもよい。他の炎症性腸疾患治療薬
を含有していてもよく、また、炎症性腸疾患治療薬以外の薬物を含有していてもよい。本
発明の組成物は他の炎症性腸疾患治療薬と併用されてもよい。
本発明の組成物は、有効成分であるLysoPS受容体またはその下流の細胞内シグナル
伝達物質の機能を抑制する物質と、医薬的に許容される担体を含むことができる。
その様な担体としては、賦形剤(例えば、マンニトール、ソルビトールの如き糖誘導体;
トウモロコシデンプン、バレイショデンプンの如きデンプン誘導体;または、結晶セルロ
ースの如きセルロース誘導体等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムの如きス
テアリン酸金属塩;またはタルク等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース
、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例
えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムの如きセル
ロース誘導体等)、水、防腐剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンの如きパラ
オキシ安息香酸エステル類;またはクロロブタノール、ベンジルアルコールの如きアルコ
ール類等)、pH調整剤(例えば、塩酸、硫酸またはリン酸等の無機酸、酢酸、コハク酸
、フマル酸またはリンゴ酸等の有機酸、あるいはこれらの塩等)、ならびに希釈剤(例え
ば、注射用水等)等の通常使用される医薬製剤用担体を、単独または2種以上を混合して
配合することができる。本発明の組成物には有効成分を水に溶解させた液剤を含む。
本発明の有効成分であるLysoPS受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の
機能を抑制する物質は、必要に応じて上記の担体と混合した後、錠剤、顆粒剤、カプセル
剤、粉末剤、溶液製剤、懸濁液製剤、もしくは乳化液剤等の剤形で経口投与することがで
きる。また、坐剤、注射剤、静脈内点滴剤、経皮剤、経粘膜剤、もしくは吸入剤等の剤形
で非経口投与することができる。
本発明の有効成分は、上記の剤形に製剤化した後、それを必要とする対象、例えばヒトま
たは動物、好ましくはヒトに投与される。
本発明のLysoPS受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制する
物質の投与量および投与回数は、症状の重篤度、患者の年齢、体重、性別、薬物の種類、
剤形、投与経路等の条件によって適宜変化しうる。ヒトに投与する場合、有効成分は、例
えば非経口的には皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、または直腸内等に、1回の投与当たり
、約0.01~10mg/kg体重、好ましくは約0.1~5mg/kg体重、特に好ま
しくは約0.3~3mg/kg体重、また経口的には約0.01~100mg/kg体重
、好ましくは約0.1~50mg/kg体重、特に好ましくは約1~30mg/kg体重
投与される。また、投与回数は、1日当たり1回または複数回、例えば1日当たり1~3
回、1~2回、または1回であってよい。
本発明の有効成分は、公知の方法に従って製造できる。
さらに本願は、Th1細胞上のLysoPS受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達
物質の機能を抑制する活性を測定する工程を含む、炎症性腸疾患を治療するための物質の
スクリーニング方法の発明に関する。
本発明のスクリーニング方法は、例えば化合物ライブラリーの化合物について、Th1細
胞上のLysoPS受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制する活
性を測定し、炎症性腸疾患を治療するための物質をスクリーニングする方法である。
Th1細胞上のLysoPS受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑
制する活性には、Th1細胞上のLysoPS受容体の機能を抑制する活性とTh1細胞
上のLysoPS受容体の下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制する活性を含む。
前記Th1細胞上のLysoPS受容体の機能を抑制する活性は、Th1細胞上のLys
oPS受容体の受容体としての機能を抑制する活性であればよく、限定されるものではな
い。例えばLysoPS受容体に可逆的に結合しLysoPSと受容体の結合を競合的に
阻害する活性、LysoPS受容体に不可逆的に結合しLysoPSと受容体の結合を阻
害する活性、LysoPS受容体に結合せずにLysoPSと受容体の結合を抑制する活
性、LysoPS受容体の発現を抑制する活性が挙げられる。
前記Th1細胞上のLysoPS受容体の下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制す
る活性は、Th1細胞上のLysoPS受容体から細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制
する活性であればよく、限定されるものではない。LysoPS受容体はGタンパク質共
役型受容体であり、各LysoPS受容体はそれぞれの三量体Gタンパク質と共役し、シ
グナルを下流に伝達する。下流のシグナル伝達物質としては、Rho/ROCK、Ras
、PI3K等が挙げられ、これら物質の機能を抑制する活性が挙げられる。
前記Th1細胞上のLysoPS受容体としてはTh1細胞上のP2Y10(LyPS
)が好ましい。本発明のスクリーニング方法は、好適には、Th1細胞上のP2Y10の
受容体としての機能を抑制する活性を測定する工程を含むスクリーニング方法、または、
Th1細胞上のP2Y10の下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制する活性を測定
する工程を含むスクリーニング方法である。
Th1細胞上のLysoPS受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑
制する活性は、例えば、サイトカイン発現量、サイトカイン産生細胞数、解糖系の促進の
状態、Rho/ROCKシグナルの活性化状態により測定することができる。
本発明のスクリーニング方法は、好ましくは、リゾホスファチジルセリン存在下で、試験
物質とTh1細胞を接触させる工程を含む。
化合物ライブラリーは、公知のものでも公知でないものでもよい。公知の化合物ライブラ
リーとしては、既に食品(例えば、米国食品医薬品局(FDA))または医薬品(例えば
、欧州医薬品審査庁(EMEA))の承認を得た化合物を集めた化合物ライブラリー(例
えば、PRESTWICK CHEMICALライブラリー)(これは、特許期間が満了
した化合物を集めたものである)、および未だそれら食品または医薬品の承認を得ていな
い化合物を集めた化合物ライブラリー等が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法は、測定したLysoPS受容体またはその下流の細胞内シ
グナル伝達物質の機能を抑制する活性に基づいて、化合物を選別する工程をさらに含んで
もよい。
本発明のスクリーニング方法で得られた化合物は、炎症性腸疾患の治療薬になり得る化合
物である。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定され
るものではない。
試験例1から試験例11では以下の材料と試験方法を用いた。
<マウス>
C57BL/6Jのマウスは日本クレア社(東京、日本)から購入した。C57BL/6
J RAG2欠損マウス(Rag2-/-)はTaconic Biosciences, Inc. (Hudson, NY,
USA)から購入した。8-15週齢の雄のマウスを使用し、すべてのマウスはSPF(spec
ific pathogen free)環境下で維持した。
<試薬>
2、4、6‐トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(TNBS)、および2‐デオキシ
‐D‐グルコースはSigma‐Aldrich (St. Louis, MO, USA) から購入した。18:0 L
ysoPS(1-stearoyl-2-hydroxy-sn-glycero-3-phospho-L-serine (sodium salt))、
および18:1 LysoPS(1-oleoyl-2-hydroxy-sn-glycero-3-phospho-L-serine (
sodium salt))はAvanti Polar Lipids, Inc (Alabaster, AL, USA) から購入し、70%
エタノールに溶解して試験に用いた。ファスジル(Fasudil)は東京化学工業(東京、日
本)から購入した。マウスの麻酔のためのミダゾラム(ドルミカム(登録商標))はアス
テラス(東京、日本)から購入した。酒石酸ブトルファノールは明治製菓ファルマ(東京
、日本)から購入した。塩酸メデトミジン(ドミトール(登録商標))はゼノアック(福
島、日本)から購入した。
<免疫細胞の単離>
マウス脾細胞と大腸粘膜固有層単核細胞は、文献(Atarashi, K. et al. Nature 455, 80
8-812 (2008))に記載の方法にわずかな修正を加えた方法により単離した。マウスナイー
ブCD4T細胞(CD3CD4CD25CD44CD62L)は、FACS
Aria(商標)フローサイトメーター(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ, USA)
により、あるいはナイーブCD4T細胞分離キット(CD4(L3T4) MicroBeads, Miltenyi
Biotech, Bergisch Gladbach, Germany)を用いた磁気ビーズ法により単離した。
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)は、文献 (Raulf-Heimsoth, M. T, Methods Mol Med 13
8, 17-30, (2008))の方法により単離した。すなわち、ヒト全血を等量の2%FBSを含
むPBSと混合し、この希釈全血をコニカルチューブ中のフィコール上に積層し遠心分離
した。2つの液体層の間のPBMC層を回収し、緩衝液により洗浄しPBMCとして使用
した。ヒトCD4CD45RA細胞をFACSAria(商標)フローサイトメーター
によってヒトPBMCから単離し、ナイーブCD4T細胞として使用した。
<ナイーブCD4T細胞のTh1誘導条件での培養>
抗CD3mAb(BD Biosciences)を細胞培養プレートにプレコートした。抗CD3mA
bの濃度は、RNAシーケンス、および酸素消費速度(OCR)と細胞外酸性化速度(E
CAR)を検出する代謝分析のためには5μg/mlで、他の分析のためには10μg/
mlでプレコートした。抗IL-4mAb(10μg/ml;eBioscience)、マウス組
み換えIL-12(10ng/ml;Peprotech)、および抗CD28mAb(2μg/
ml;BD Biosciences)存在下で、マウスナイーブCD4T細胞を72h培養した。ヒ
トのナイーブCD4T細胞は、抗CD3/CD28ビーズ(細胞:ビーズ=1:0.5
; Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)、抗IL-4mAb(10μg/ml;eBi
oscience)、および組み換えマウスIL-12(10ng/ml;Peprotech)存在下で
72h培養した。LysoPS存在下での培養は、培養開始24h後に、70%エタノー
ルに溶解したLysoPSを、終濃度10μMで添加した。LysoPS不存在下での培
養(コントロール)は、ビークル(70%エタノール)をLysoPS溶液と同時期に等
量添加した。この培養方法は、マウスまたはヒトのナイーブCD4T細胞をインビトロ
でTh1細胞に誘導するための培養方法であり、本明細書では、この培養方法をTh1誘
導条件での培養という。また、特に断りが無い限り、時間、濃度等を同条件とした。
<フローサイトメトリー>
Anti-mouse CD4-PerCP/Cy5.5 (GK1.5), anti-mouse IL-10-PE (JES5-16E3), anti-mouse
IFN-γ -FITC (XMG1.2), 7-AAD, anti-human CD4-APC (clone SK3), anti-human CD45RA-
Brilliant Violet 421 (HI100), anti-human CD4-Pacific Blue (RPA-T4), anti-human I
FN-γ (4S.B3)は、BioLegend (San Diego, CA, USA)から購入した。Anti-mouse CD3e-Pe/
Cy7 (145-2C11), anti-mouse IL-17A-Alexa Fluor 647 (TC11-18H10) はBD Biosciences
から購入した。マウスおよびヒトのCD4T細胞を、GolgiStop (BD Biosciences)存在
下、4h37℃で、完全RPMI1640中50ng/mlホルボールミリステートアセ
テート(PMA; Sigma-Aldrich)と5μMイオノマイシン(Sigma-Aldrich)によって
刺激した。細胞表面/細胞内を、Cytofix/Cytoperm Kit Plusを使って染色した。フロー
サイトメトリー分析はFlowJo software (Tree Star, Ashland, OR, USA)を使用したFACSC
anto II flow cytometer (BD Biosciences)によって実行した。
<定量リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)>
マウスサンプルからの全RNAは、RNeasy Mini Kit (Qiagen, Valencia, CA, USA)を
使用して抽出し、相補的DNAは、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(東洋紡績、大阪
、日本)を使用して合成した。リアルタイム定量PCRは、Applied Biosystems (Foste
r City, MA, USA)から得たプライマー、THUNDERBIRD(登録商標) Probe qPCR mix(東
洋紡績、大阪、日本)、および ABI Prism 7900HT sequence detection system (Applied
Biosystems)を使用して実行した。
<病理組織解析>
マウスの結腸と回腸のサンプルはホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋し、4μm
の厚さの切片を作製し、ヘマトキシリンとエオジン(H&E)によって染色した。評価に
用いた組織学的スコアは、Iijima, H. et al. J Exp Med 199, 471-482に準じた。
<統計分析>
結果は平均と標準偏差で表される。グループ間の平均値の差は、Student's t-test また
は、one-way ANOVA(GraphPad Prism version 8.4.3 (GraphPad Software, San Diego, C
A, USA))によって検定した。
<試験例1:クローン病患者の腸内LysoPS濃度>
クローン病患者(以下、「CD患者」ともいう)の腸管腔の脂質プロファイルの特徴を確
認した。クローン病患者と健常者からサンプル提供者を募集した。炎症性腸疾患研究の国
際機関によって定められた内視鏡的、放射線学的、組織学的、臨床診断基準に従ってIB
D患者を診断した。クローン病患者は、CDAIスコアが150より小さい場合に寛解期
と定義される。研究はヘルシンキ宣言に従って実行され、大阪大学医学部附属病院で倫理
審査委員会によって承認された。研究に参加する前に、すべての参加者に書面によるイン
フォームド・コンセントが行われた。クローン病患者43人(活動期19人、寛解期24
人)と健常者40人から糞便サンプルを収集し、直ちに凍結した。
凍結した糞便サンプルをメタノール添加のうえホモジナイズし、UPLC-ESI-MS
/MSによって脂質量を測定したところ、糞便中の脂質組成は健常人とCD患者の間で明
確に相違していた。血漿中リン脂質濃度に類似して、全LysoPS、18:0 Lys
oPS、および18:1 LysoPSの濃度は、健常者よりCD患者で高かった。これ
は、LysoPS産生がCD患者の腸の中でアップレギュレートされていることを示す。
<試験例2:LysoPSによる大腸炎の増悪>
LysoPSレベル上昇が腸炎の重症度に与える影響を2種類の大腸炎モデルマウスを用
いて解析した。
A.TNBS誘導大腸炎モデルマウス(クローン病モデルマウス)
TNBS誘導大腸炎モデルマウスを以前報告した方法(Iijima, H. et al. J Exp Med 19
9, 471-482, (2004)) にわずかな修正を加えて作製した。すなわち、野生型C57BL
/6Jマウス(雄、8-10週齢)をday1に50%のエタノール中3.75%TNB
S溶液150μlを背皮膚へ塗布することにより感作した。day8に、50%エタノー
ル中2%TNBS溶液150μlを経肛門投与した。day8からday11まで毎日1
回18:1 LysoPSを2.5mg/kgの投与量で腹腔内投与し、day12にマ
ウスを解析に用いた。コントロールマウスにはビークル(70%エタノール)を投与した
LysoPS投与マウスでは、コントロールマウスと比較して、体重減少と結腸の短縮が
観察され(図1、図2)、病理組織解析においても悪化は明らかであった(図3)。結腸
の粘膜固有層リンパ球中のサイトカインmRNA発現量をqRT-PCRを用いて測定し
たところ、LysoPS投与マウスでは、コントロールマウスに比較して、IfngとI
l17aの発現量が高かったが、Il10、Il12b、およびIl23aの発現量に有
意差はなかった(図4)。
B.T細胞依存的大腸炎モデルマウス(クローン病モデルマウス)
CD4T細胞依存的大腸炎モデルマウスを文献(Ostanin, D. V. et al. Am J Physiol
Gastrointest Liver Physiol 296, G135-146, (2009))に記載の方法にわずかな修正を
加えて作製した。単離したナイーブCD4T細胞を冷リン酸緩衝液(PBS)で終濃度
1×10cells/mlに希釈して、500μl(5×10cells)をRag
-/-マウス(雄、8-15週齢)に腹腔内投与した。ナイーブCD4T細胞を投与
した17日後、連続4日間18:1 LysoPS(2.5mg/kg)またはビークル
(70%エタノール)を腹腔内に投与した。
LysoPS投与マウスで、結腸の短縮、体重減少が観察された(図5、図6)。さらに
、病理組織解析ではLysoPSによる大腸組織病変の顕著な増悪が観察された(図7)
。結腸の病理組織による重症度の評価は、Liu, Z. et al. J Immunol 164, 6005-6014に
記載の方法に準じて行った。大腸の粘膜固有層のCD4T細胞中のサイトカイン産生細
胞数をフローサイトメトリー法で解析したところ、コントロールマウスと比較して、Ly
soPS投与マウスでは大腸炎の増悪に伴いIFN-γ細胞およびIFN-γIL-
17A細胞が増加したが、IL-17A細胞およびIL-10細胞は増加しなかっ
た(図8)。
これら結果は、LysoPSが粘膜固有層において免疫病理学的なTh1応答を呼び起す
ことによって大腸炎を悪化させることを示す。すなわち、LysoPSは腸粘膜において
Th1細胞の過剰活性化を引き起こして炎症性腸疾患を悪化させる。
<試験例3:LysoPSの分化促進作用>
マウス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞を、18:1 LysoPS存在下また
は不存在下、Th1誘導条件で培養した。IFN-γ産生細胞数をフローサイトメトリー
法により測定したところ、LysoPS添加(10μM)によりIFN-γ産生細胞数は
2倍以上に増加した(図9A)。LysoPS添加濃度を0.1μM、1μMおよび10
μMに設定した以外は同様の方法で培養した後、ELISA法(IFN gamma Mouse Uncoat
ed ELISA Kit (eBioscience, San Diego, CA, USA))によりIFN-γ産生量を測定した
。IFN-γ産生量はLysoPS添加量に依存して増加した(図9B)。
マウス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞を、18:0 LysoPS存在下また
は不存在下、Th1誘導条件で培養した。IFN-γ産生細胞数をフローサイトメトリー
法により測定したところ、LysoPSによりIFN-γ産生細胞数は増加した(図10
)。
これらの結果は、LysoPSが直接ナイーブCD4T細胞のエフェクター機能を活性
化しTh1細胞に誘導することを示す。すなわち、LysoPSが直接ナイーブCD4
T細胞の分化を促進する。
<試験例4:LysoPSにより誘導されたTh1細胞内の遺伝子発現プロファイル>
LysoPSのT細胞のエフェクター機能の活性化作用を明らかにするために、インビト
ロで生成されたマウスTh1細胞中の遺伝子発現プロファイルをRNAシーケンス(RN
A-seq)分析により分析した。
A.RNAシーケンシング
マウス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞を18:1 LysoPS存在下または
不存在下、Th1誘導条件で培養した。培養後にPMAとイオノマイシンを添加し、その
90分後に細胞を回収しRNAシーケンシングを行った。ライブラリーの作製は、TruSeq
stranded mRNA sample prep kit (Illumina, San Diego, CA, USA)を使用して実行し
た。シーケンシングは、75-base single-end modeでIllumina HiSeq 2500 platformで実
行した。シーケンスリードはBowtie2 ver. 2.2.3 と SAMtools ver. 0.1.19を組み合わせ
て、TopHat v2.0.13を使用してマウス参照ゲノム配列(mm10)にマップした。100万
のマッピングされた分子あたりのエクソン1000塩基あたりの分子はCufflinks versio
n 2.2.1 (http://cole-trapnell-lab.github.io/cufflinks/)を用いて計算された。増加
する遺伝子とパスウェイはBioJupies (https://amp.pharm.mssm.edu/biojupies/)を用い
て同定された。この研究に関連する生データはGene Expression Omnibus に提出する。
B.18:1 LysoPSにより発現が促進された遺伝子
RNAシーケンス(RNA-seq)分析により、Th1に誘導された細胞内では、52
1個の遺伝子の発現が増加していたことが明らかになった。さらに、BioJupies
プラットフォームでのpathway enrichment分析により、LysoPSによりTh1に誘導
された細胞の中でアップレギュレートされたパスウェイが明らかになった。アップレギュ
レートされたパスウェイトップ10の中の6パスウェイは、脂質とリポタンパク質の代謝
、解糖、および糖新生の代謝並びに炭素代謝を含めて、代謝プロセスと関連していた。こ
れら結果から、LysoPSが、CD4T細胞のエフェクター活性を駆動するために、
細胞内代謝を促進させる可能性が高いと考えられた。
<試験例5:LysoPSによるCD4T細胞内の代謝促進>
酸素消費速度(OCR:ミトコンドリア呼吸の指標)と細胞外酸性化速度(ECAR:解
糖系の指標)を測定して、マウス脾細胞から単離したナイーブCD4T細胞の代謝を解
析した。
マウスナイーブCD4T細胞を18:0または18:1 LysoPSの存在下または
不存在下、Th1誘導条件で培養した。培養後回収した細胞の酸素消費速度(OCR:ミ
トコンドリア呼吸の指標)と細胞外酸性化速度(ECAR:解糖系の指標)を、Seahorse
XF Cell Mito Stress test Kit と XFe96 Extracellular Flux Analyzer (Seahorse Bi
oscience, North Billerica, MA, USA)を使用して測定した。すなわち、回収した細胞を
10mM glucose、1mM pyruvate、および2mM L-glutam
ineを含んでいるSeahorse XF RPMI培地中、XFe96細胞培養プレ
ート上に各ウェルあたり2×10cellsで播種した。ベースライン値を測定した後
に、1.5μM oligomycin、2μM fluoro-carbonyl c
yanide phenylhydrazone(FCCP)、および0.5μM ro
tenone/antimycin A を各ウェルに自動的に注入し、各時点のOCR
とECARを測定した。
LysoPS存在下で培養されたマウスTh1細胞はLysoPS不存在下で培養された
細胞より、高いOCRと高いECARが計測された。(図11、図12)。LysoPS
により、CD4T細胞中でミトコンドリア呼吸と解糖系の代謝が促進されていることが
明らかになった。
<試験例6:解糖系阻害によるLysoPS刺激Th1細胞誘導の抑制>
次に、LysoPSが解糖のアップレギュレーションを通してエフェクター機能を活性化
するかどうかを、解糖系を抑制するグルコースアナログである2―デオキシ―D―グルコ
ース(2DG)を用いて解析した。マウス脾細胞から単離したCD4T細胞またはヒト
PBMCから単離したCD4T細胞を18:1 LysoPS存在下または不存在下、
Th1誘導条件で培養した。培養開始から24時間後に、2DG添加群には2DG(35
0μM)を添加し、2DG非添加群には、ビークル(PBS)を添加した。培養後に細胞
を回収してフローサイトメトリー法によりIFN―γ産生細胞数の割合を解析した(図1
3)。マウスおよびヒトのCD4T細胞をLysoPSにより刺激するとIFN-γ産
生細胞数が増大するが、その増大は2DGにより阻害された。これら結果は、LysoP
S依存的なTh1細胞の誘導は解糖系阻害により抑制されることを示している。すなわち
LysoPS刺激によるTh1過剰活性化は解糖系阻害により抑制されることが示された
<試験例7:LysoPS受容体>
マウスナイーブCD4T細胞をTh1誘導条件またはTh0条件(抗IFN-γ抗体、
抗IL-4抗体存在下で培養)で72h、18:1 LysoPSの存在下(10μM)
で培養し、LysoPS受容体として同定されているGpr34、Gpr174、P2Y
10(遺伝子はP2ry10)の発現量をRNAシーケンス(RNA-seq)分析によ
り調べた。LysoPSは培養開始後24時間後に添加した。培養条件にかかわらず他の
受容体と比較してP2Y10の発現量が高いことが確認された。
<試験例8:Rho/ROCKシグナル抑制>
P2Y10の下流のRho/ROCKシグナルを抑制することにより、LysoPSによ
って誘導されるTh1の過剰活性化(Th1のエフェクター機能の活性化)が抑制される
か否かについて解析した。マウスナイーブCD4T細胞を、18:1 LysoPSの
存在下または不存在下、Th1誘導条件で培養した。培養開始から24h後に、ROCK
抑制剤であるファスジル(Fasudil)添加群には、ファスジル(0.33μM)を
添加し、ファスジル非添加群には、ビークル(DMSO)を添加した。IFN-γ産生細
胞の割合をフローサイトメトリー法によって測定したところ、LysoPS刺激によるI
FN-γ産生細胞の増加はファスジルによって抑制された(図14)。酸素消費速度(O
CR)と細胞外酸性化速度(ECAR)を上記試験例5と同様の方法で測定したところ、
LysoPS添加によりベースライン値および最大値とも上昇するが、ファスジルはこれ
らの上昇を阻害した(図15、図16)。これらの結果は、LysoPSのTh1の過剰
活性化(エフェクター機能の活性化)は、P2Y10の下流のRho/ROCKシグナル
の活性化を介することを示す。また、Rho/ROCKシグナル抑制剤により、Lyso
PSによるTh1の過剰活性化(エフェクター機能活性化)が抑制され、大腸炎等の炎症
性腸疾患を治療できることを示す。
<試験例9:P2Y10ノックアウトマウス>
P2Y10ノックアウトマウスを作製した。P2Y10の遺伝子P2ry10は、マウス
染色体X上にあり、その染色体Xの近い位置に高いホモロジーを示すP2ry10bがあ
ることが知られている。よって、P2ry10とP2ry10b両方を欠くノックアウト
マウス(P2ry10-/yP2ry10b-/yマウス)を作製した(図17A)。CR
ISPR RNA (crRNA)/trans-activating crRNA/Cas9 ribonucleoprotein solution (Sigma-A
ldrich, St. Louis, MO, USA)をエレクトロポレーター(Nepagene、千葉、日本)を用い
て受精卵(C57BL/6J)に導入することによって標的遺伝子欠損マウスを作製した
。受精卵は20時間KSOM(アーク・リソース、熊本、日本)で培養した。培養後、受
精卵を、3種の麻酔薬の混合溶液(0.003%塩酸メデトミジン、0.04%のミダゾ
ラム、0.05%の酒石酸ブトルファノール)250μlの腹腔内投与で麻酔をかけられ
た偽妊娠の雌の卵管に移入した。gRNAとオフターゲット配列を検索するために、CRIS
PRdirect software (https://crispr.dbcls.jp/) と Benchling (https://www.benchlin
g.com/crispr/) を使用した。P2ry10/P2ry10b二重欠損マウスを作製する
ためのgRNAのターゲット配列は、5’-ACTATTATATCAATCGTCAC
-3’(#1)(配列番号5)と 5’-CTGGAAGCGTAGGTACGATG-
3’(#2)(配列番号6)であった。得られた変異マウスのスクリーニングはゲノムP
CRに続いてダイレクトシーケンスをすることによって行った(図17B,C)。ゲノム
PCRのプライマーの配列を以下に示す。
FW:TTCCTTGCCAAACATACTGAAATATTCAA(配列番号7)
RV1:GGTGACCAGAACCACTGCATCCATCTGTTTG(配列番号
8)
RV2:GGGAAGTTGAGATGGTAAGG(配列番号9)
図17CにWild-typeのP2ry10内切断部位の近傍配列(配列番号10)お
よびそれに対応するノックアウト後の配列(配列番号11)、ならびに、Wild-ty
peのP2ry10b内切断部位の近傍配列(配列番号12)およびそれに対応するノッ
クアウト後の配列(配列番号13)を示す。ジャームライン・トランスミッション(germ
line transmission)は、得られたキメラマウスをC57BL/6Jマウスと交配させる
ことによって確認した。
得られたノックアウトマウス(P2ry10-/yP2ry10b-/yマウス)の結腸
粘膜固有層と脾臓からナイーブCD4T細胞を単離して、サイトカイン産生細胞の割合
をフローサイトメトリー法により測定し、野生型マウスと比較した。ノックアウトマウス
の結腸粘膜のCD4T細胞は、野生型と比較してIFN-γ産生細胞およびIL-17
産生細胞の割合が減少していた。一方、脾臓のCD4T細胞は、野生型と比較してサイ
トカイン産生細胞割合に差は認められなかった(図18)。
<試験例10:P2Y10欠損CD4T細胞移入Rag2-/-マウスの体重変化と病
理組織像>
試験例2のT細胞依存的大腸炎モデルマウスの作製方法と同様の方法により、野生型マウ
ス脾臓から単離したナイーブCD4T細胞(以下「野生型のCD4T細胞」という)
をRag2-/-マウスに移入した。同様に、ノックアウトマウス(P2ry10-/y
P2ry10b-/yマウス)脾臓から単離したナイーブCD4T細胞(以下「P2Y
10欠損CD4T細胞」という)をRag2-/-マウスに移入した。細胞移入の日を
day0としてday20からday22の3日間に毎日1回、18:1 LysoPS
(2.5mg/kg)またはビークル(エタノール70%)を腹腔内投与し、day23
に解析した。野生型のCD4T細胞移入マウスはLysoPS投与により大幅に体重が
減少し、大腸の病理組織像に粘膜下層への広範囲の炎症細胞浸潤など病変が観察された。
一方P2Y10欠損CD4T細胞移入マウスは、LysoPSが投与されても体重減少
は抑制され、病理組織像に病変は観察されなかった(図19、図20)。この結果は、受
容体P2Y10の機能を遮断または抑制することにより、LysoPSによる炎症性腸疾
患の増悪が抑制されることを示す。
<試験例11:P2Y10欠損CD4T細胞のIFN-γ産生>
野生型のCD4T細胞またはP2Y10欠損CD4T細胞を18:1 LysoPS
存在下または不存在下でTh1誘導条件で培養し、フローサイトメトリー法によりIFN
-γ産生細胞の割合を測定し、CBAアッセイ法(Mouse IFN-γ Flex Set (BD Bioscien
ces) )によりIFN-γ産生量を測定した。IFN産生細胞数とこれら細胞のIFN―
γ産生量は、LysoPS不存在では、P2Y10欠損CD4T細胞と野生型のCD4
T細胞の間に差はなかった。すなわち、LysoPS不存在では、P2Y10欠損はI
FN-γ産生に影響しなかった。一方、野生型のCD4T細胞では、LysoPS添加
によりIFN-γ産生細胞数およびIFN-γ産生量が顕著に増大した。P2Y10欠損
CD4T細胞では、野生型でみられたIFN-γ産生細胞数およびIFN-γ産生量の
増大が顕著に抑制された(図21)。この結果は、LysoPSはP2Y10受容体を介
してTh1の過剰活性化(Th1エフェクター機能誘導)を促進して、炎症性腸疾患の増
悪に関与することを示している。すなわち、受容体P2Y10の機能を抑制することによ
り、Th1細胞の過剰活性化(Th1のエフェクター機能誘導)が抑制されることを示す
本発明は、炎症性腸疾患の治療に貢献する。

Claims (9)

  1. リゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制
    する物質を含有する炎症性腸疾患治療用組成物。
  2. 前記リゾホスファチジルセリン受容体がP2Y10である、請求項1に記載の組成物。
  3. 前記機能を抑制する物質が、P2Y10の機能を抑制する物質である、請求項2に記載の
    組成物。
  4. 前記機能を抑制する物質が、P2Y10の下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制す
    る物質である、請求項2に記載の組成物。
  5. 前記細胞内シグナル伝達物質が、Rhoキナーゼである、請求項4に記載の組成物。
  6. 前記炎症性腸疾患が、Th1細胞の過剰活性化を伴う炎症性腸疾患である、請求項1~5
    のいずれか1に記載の組成物。
  7. リゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物質の機能を抑制
    する物質を含有する腸粘膜におけるTh1細胞の過剰活性化を抑制するための組成物。
  8. Th1細胞上のリゾホスファチジルセリン受容体またはその下流の細胞内シグナル伝達物
    質の機能を抑制する活性を測定する工程を含む、炎症性腸疾患を治療するための物質のス
    クリーニング方法。
  9. リゾホスファチジルセリン存在下で、試験物質とTh1細胞を接触させる工程を含む請求
    項8のスクリーニング方法。


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