JP2022138515A - 炭素繊維系断熱材及びその製造方法 - Google Patents

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Keiichi Takeuchi
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Abstract

【課題】劣化やガス透過等を抑制する表面層が形成された炭素繊維系断熱材を提供する。【解決手段】炭素繊維系断熱基材と、軟化点を有する熱硬化性樹脂からなる接着シートと、を積層する積層ステップと、軟化点以上の温度に加熱して熱硬化性樹脂を軟化させて炭素繊維系断熱基材と接着シートとを仮接着する仮接着ステップと、接着シート上に炭素系シートを積層して積層材料となす積層材料作製ステップと、炭素繊維系断熱基材側及び炭素系シート側から積層材料を加圧しつつ熱硬化性樹脂の硬化温度以上に加熱して接着する接着ステップと、積層材料を不活性雰囲気で熱処理して、熱硬化性樹脂を炭素化させる熱処理ステップと、を有し、炭素系シートの嵩密度が、炭素繊維系断熱基材の嵩密度よりも大きい、炭素繊維系断熱材の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、炭素繊維系断熱材に関し、詳しくは炭素繊維系断熱基材層に表面層が接着された炭素繊維系断熱材に関する。
炭素繊維系断熱材は、熱的安定性や断熱性能に優れ且つ軽量であることから、種々の用途で使用されている。このような炭素繊維系断熱材には、炭素繊維を交絡してなる炭素繊維フェルトや、炭素繊維フェルトに樹脂材料を含浸させた後に当該樹脂材料を炭素化させた炭素繊維成形断熱材がある。炭素繊維フェルトは可とう性に優れるという長所を有し、炭素繊維成形断熱材は、形状安定性に優れ、微細な加工が可能であるという長所を有する。
何れの断熱材を使用するかは、使用目的や用途に応じて適宜選択される。後者の炭素繊維成形断熱材は、熱的安定性、断熱性能に優れ且つ形状安定性に優れることから、例えば単結晶シリコン引き上げ装置、多結晶シリコンキャスト炉、金属やセラミックスの焼結炉、真空蒸着炉等の高温炉の断熱材として使用されている。
このような炭素繊維系断熱材は、直径が5~20μm程度の細い炭素繊維を用いているため、ハンドリング時や設置時に、炭素繊維が欠落したり手に付着したりするおそれがある。欠落した炭素繊維が炉内雰囲気中に放出されると、製品品質を低下させてしまうおそれがある。
また、単結晶や多結晶シリコンなどの製造装置においては、高温炉内でSiOガスが発生したり、酸素ガスが不純物ガスとして製造雰囲気に混入したりする。SiOガスや酸素ガスは活性(反応性)が高く、炭素繊維系断熱材とSiOガスとが反応するとSiCが生じ、また、炭素繊維系断熱材と酸素ガスとが反応すると、一酸化炭素や二酸化炭素等の炭素酸化物が生じる。これらの反応により、炭素繊維で構成されている骨格構造が崩れ、その結果として当該骨格構造が多数の空間を形成することにより得られる断熱機能が低下する。また、この劣化により炭素繊維が粉化して炉内雰囲気中に放出される結果、製品品質が低下する。
この問題を解決するため、炭素繊維系断熱材の表面に、劣化防止などの機能を付与する層を接着することが行われている。例えば、特許文献1は、炭素質断熱部材に炭素質保護層を接合して炭素繊維の粉化や劣化を防止する技術を提案している。また、特許文献2は、炭素繊維系断熱基材に炭素系表面層を接着して炭素繊維の劣化やガス透過を防止する技術を提案している。
特許第4361636号 特開2015-174807号公報
特許文献1の技術は、嵩密度0.1~0.4g/cm3の炭素質断熱部材と、炭素繊維構造体に熱分解炭素を浸透せしめた嵩密度0.3~2.0g/cm3の炭素質保護層と、該炭素質保護層よりも嵩密度の大きい熱分解炭素被膜層とを有し、上記炭素質断熱部材の表面の一部に上記炭素質保護層を接合して接合体が形成され、該接合体の表面のうち少なくとも上記炭素質断熱部材の面に熱分解炭素被膜層が形成され、炭素質断熱部材と炭素質保護層とが緻密炭素質中間層を介して接合されている複合炭素質断熱材に関する。この技術によると、使用時の消耗、劣化、粉化が小さく、断熱特性に優れた炭素質断熱材が得られるとされる。
特許文献2の技術は、膨張黒鉛シートなどの異なる炭素系シートと炭素繊維系断熱基材との接着に、炭素繊維不織布シートに熱処理により炭素化する粘結剤が含浸された接着シートを用い、接着後に焼成して炭素化する技術である。この技術によると、接着不良や外観不良を招くことなく、ガス透過防止、表面劣化抑制、ハンドリング性向上、強度向上等の効果が得られるとされる。
本発明者が上記技術について鋭意検討したところ、次のような問題点があることを知った。上記特許文献1では、鱗片状黒鉛と、加熱により炭素化するバインダー成分からなる緻密炭素形成用組成物を、炭素質断熱部材に塗布して炭素質保護層と接合(接着)し、この後バインダーを炭素化している。しかし、嵩密度の小さい(空隙の多い)炭素質断熱部材に緻密炭素形成用組成物を十分かつ均一に塗布すること自体が困難であり、作業時間の増大を招くとともに、塗布ムラによって接着不良や製品の外観不良を招くという問題があった。また、鱗片状黒鉛には不純物が多く含まれるため、高温環境で使用した場合に不純物が気化したり分解したりして、接着不良や製品の劣化を招くという問題があった。なお、鱗片状黒鉛等の骨材となる炭素粒子を使用しない場合には、この問題は解消するものと考えられるが、炭素粒子を使用しない場合には組成物の粘度が低くなりすぎるために、組成物が炭素質断熱部材内部にまで浸透してしまい、組成物が接着に寄与しなくなってしまう。
また、上記特許文献2では、粘結剤が含浸された接着シートの作製に手間がかかる、接着シートに用いる粘結剤などが製造環境を汚損しやすい等の問題があった。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、表面層を接着した炭素繊維系断熱材を、手間の増大や接着不良を招くことなく提供することを目的とする。
上記課題を解決するための炭素繊維系断熱材の製造方法に係る本発明は、次のように構成されている。
炭素繊維系断熱基材と、軟化点を有する熱硬化性樹脂からなる接着シートと、を積層する積層ステップと、前記積層ステップの後、前記軟化点以上の温度に加熱して前記熱硬化性樹脂を軟化させて前記炭素繊維系断熱基材と前記接着シートとを仮接着する仮接着ステップと、前記仮接着ステップの後、前記接着シート上に炭素系シートを積層して積層材料となす積層材料作製ステップと、前記積層材料作製ステップの後、前記炭素繊維系断熱基材側及び前記炭素系シート側から前記積層材料を加圧しつつ前記熱硬化性樹脂の硬化温度以上に加熱して接着する接着ステップと、前記接着ステップの後、前記積層材料を不活性雰囲気で熱処理して、前記熱硬化性樹脂を炭素化させる熱処理ステップと、を有し、前記炭素系シートの嵩密度が、前記炭素繊維系断熱基材の嵩密度よりも大きい、炭素繊維系断熱材の製造方法。
上記本発明では、炭素繊維系断熱基材と表面層となる炭素系シートとの接着が軟化点を有する熱硬化性樹脂からなる接着シートを用いて行われる。軟化点を有する熱硬化性樹脂からなる接着シートは、硬化などがなされていないものであり、極めて柔軟で単体での取り扱いが困難である。このため、通常、その両面に離型フィルムが設けられた状態で市販されている。そして、接着シートの一方面が固定されていない状態(一方の面と離型フィルムや他の部材とが接着されていない状態)では、他方面の離型フィルムを剥がすことができない。つまり、接着シートの両面に炭素繊維系断熱基材と表面層とのそれぞれを設けるためには、まずどちらか一方と接着する必要がある。
そして、上記本発明では、炭素系シートよりも嵩密度の低い炭素繊維系断熱基材と接着シートとが積層され、仮接着される。仮接着工程においては、熱硬化性樹脂の軟化点以上に加熱され、接着シートが軟化流動して、その一部が炭素繊維系断熱基材の空隙に流れ込んだり炭素繊維にまとわりついたりする。これにより、炭素繊維系断熱基材と接着シートとの密着性が高まって接着強度が高まる(仮接着される)とともに、接着シートの他方の離型フィルムを剥がして、接着シートの直上に炭素系シートを積層することが可能となる。また、この仮接着ステップとその後の接着ステップとによって、炭素繊維系断熱基材と接着シートとの接着力はさらに強固なものとなる。
炭素繊維系断熱基材は、炭素系シートよりも嵩密度が小さく空隙が多いために、熱硬化性樹脂による強固な接着が難しく、この仮接着を行わない場合には、炭素化後の炭素繊維系断熱基材と接着シートとの接着力は弱く、容易に剥離してしまう。
この一方、炭素系シートは、炭素繊維系断熱基材よりも嵩密度が大きく空隙が少なく接着シートとの接点が多くなるため、仮接着しなくとも加圧環境での熱硬化と炭素化によって炭素系シートと接着シートとを強固に接着できる。なお、積層材料作製ステップを軟化点よりも低い温度で行う(仮接着後の積層体を一度冷ます)と、熱硬化性樹脂の流動性がなくなって仮接着の効果が高まるとともに、接着ステップでの昇温の際に接着シートを構成する熱硬化性樹脂が再度軟化して、炭素系シートと接着シートとの接着性を高めるように作用するため、好ましい。また、この昇温の際、仮接着ステップと同様に、軟化点以上の温度で一定時間保持してもよい。
また、接着シートを用いて複数回の加熱(仮接着ステップと接着ステップ)を行う方法は、黒鉛と粘結剤とを含むバインダーを炭素繊維系断熱基材に塗布含浸する方法、炭素繊維不織布シートに粘結剤を含浸してなる接着シートを用いる方法などよりも作業が簡便であるとともに、粘結剤の含浸ムラや製造環境の汚損が起きることはない。このため、作業の手間を低減でき、製造環境の汚損を防止できるとともに、含浸ムラに起因する接着不良や外観不良を防止できる。
したがって、上記製造方法を採用することにより、製造環境の汚損を招くことなく、簡便な手法で炭素繊維系断熱基材に炭素系シートを確実に接着できる。この炭素系シートにより、ガス透過防止、表面劣化抑制、ハンドリング性向上(ハンドリング時の炭素繊維の欠落や付着防止)、強度向上等の効果を、成型断熱材に付与することができる。
逆に、炭素系シートと接着シートとをまず仮接着し、仮接着後の積層体を一度冷まして炭素繊維系断熱基材の上に積層し、接着ステップでの昇温の際に軟化点以上の温度で一定時間保持して、炭素繊維系断熱基材と接着シートとの接着性を高める方法は、接着シートの両面における接着力に違いが生じやすく、またコスト高になるため、好ましくない。
ここで、仮接着ステップは、熱硬化性樹脂の軟化点以上で且つ硬化温度及び離型フィルムの耐熱温度よりも低い温度で行う。また、熱硬化性樹脂の軟化点~軟化点+30℃の温度範囲で行うことが好ましく、軟化点~軟化点+20℃の温度範囲で行うことがより好ましく、軟化点~軟化点+10℃の温度範囲で行うことがさらに好ましい。コストと十分な軟化とのバランスから、上記温度範囲で行うことが好ましい。
また、仮接着ステップでの好ましい加熱時間(上記温度範囲での保持時間)は、加熱温度(軟化点との差分温度)によって影響を受けるものであるが、2分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましく、7分以上であることがさらに好ましい。保持時間が長すぎるとコスト高になるため、好ましくは20分以下、より好ましくは15分以下、さらに好ましくは10分以下とする。
また、接着ステップで積層材料に対する加圧を行わない場合、3つの材料の接着が不十分となり、熱処理後に剥離が起きやすくなってしまう。好ましくは、加圧の圧力を0.01~0.20MPa、より好ましくは0.05~0.10MPaとする。なお、接着ステップでの加圧により、接着シートを構成する熱硬化性樹脂の一部が炭素繊維系断熱基材側や炭素系シート側に移動することがあり、このため、熱処理による熱硬化性樹脂の炭素化物は、炭素繊維系断熱基材や炭素系シートにも含まれる可能性がある。
なお、炭素繊維系断熱基材及び炭素系シートがともに可とう性を有していても、接着ステップ後あるいは熱処理ステップ後には、接着シートを構成する熱硬化性樹脂の炭素化物によって、炭素繊維系断熱材の可とう性が失われるおそれがある。このため、熱処理ステップの前(例えば仮接着ステップ時や接着ステップ時)に、目的とする炭素繊維系断熱材の形状となるように加工することが好ましい。
熱処理後に得られる炭素繊維系断熱材の形状は特に限定されることはなく、目的とする用途に合わせて適宜設定でき、例えば、円筒状、平板状等とすることができる。
ここで、炭素繊維系断熱基材とは、炭素繊維を交絡させた(不織布状の)炭素繊維フェルト、又は炭素繊維フェルトと、炭素繊維フェルトを構成する炭素繊維表面を被覆し結着する炭素マトリクスとを有する炭素繊維系成形断熱材を意味する。成形断熱材には、炭素短繊維を樹脂とともに成形し樹脂を炭素化させたものや、炭素繊維フェルトが複数積層されたり円筒状に複数回巻き取られたりしたものも含まれる。つまり、炭素繊維系断熱基材は炭素質からなり、炭素以外の成分は添加されていない。例えば、炭素繊維フェルトに樹脂(粘結剤)が含浸されたプリプレグは、炭素繊維系断熱基材を作製するための中間生産物であるが、これを本発明製造方法において炭素繊維系断熱基材として用いることはない。
また、炭素系シートは、炭素繊維系断熱基材よりも嵩密度が大きいものである。これ以外にも、炭素系シートと炭素繊維系断熱基材とは、組成や三次元的形状が異なっていてもよい。例えば、炭素マトリクスの有無や炭素マトリクスと炭素繊維との質量比率の相違がある場合、粒子状炭素の有無やその配合比率に相違がある場合、一方が非晶質炭素のみからなり、他方が黒鉛質炭素を含む場合等には、組成が異なるものとする。また、例えば織布状と不織布状の相違や厚みの相違がある場合等には、三次元的形状が異なるものとする。
炭素系シートとしては特に限定されないが、例えば膨張黒鉛シート、炭素繊維クロス又は炭素繊維強化炭素複合材料からなるシートを用いることができる。ここで、膨張黒鉛とは、化学処理等によって黒鉛の層間を広げたものを意味し、炭素繊維クロスとは、炭素繊維を用いた織物(織布)を意味し、炭素繊維強化炭素複合材料とは、炭素繊維と炭素母材とを有する繊維強化複合材料であり、炭素繊維強化炭素複合材料はさらに炭素粒子、炭素繊維ミルド(短繊維)等を含んでいてもよい。また、炭素系シートは炭素質からなり、炭素以外の材料を含まないことが好ましい。
なお、表面層となる炭素系シートの材料によって、表面層に起因する効果が変化しうる。例えば、膨張黒鉛シートを用いる場合、ガス透過防止等の効果が得られ、炭素繊維クロスや炭素繊維強化炭素複合材料からなるシートを用いる場合、表面劣化抑制、ハンドリング性向上、強度向上等の効果が得られる。つまり、炭素系シートの材料は、炭素繊維系断熱材の用途や目的(つまり、表面層に求められる機能)に応じて適宜選択すればよい。
なお、本明細書では、特に限定する場合を除き、炭素という用語には黒鉛質炭素と非晶質炭素が含まれるものとする。
また、軟化点とは、樹脂の温度を上昇させていったときに、変形し始めるときの温度のことをいう。なお、すべての熱硬化性樹脂が軟化点を有するものではなく、軟化点を有さない熱硬化性樹脂(不融化処理や硬化処理がなされた樹脂など)は、本発明では使用しない。また、熱硬化性樹脂の軟化点は、例えば市販品のカタログ値とすることができ、JIS K 5601-2-2に従い求めることもできる。
また、市販の熱硬化性樹脂の軟化点のカタログ値は、特定の温度一点ではなく幅を持っていることがある。この場合、軟化点以上の温度とは、その下限値以上の温度を意味する。軟化ステップは、好ましくはその中央値以上の温度、より好ましくは上限値以上の温度で加熱する。
また、熱硬化性樹脂は、軟化点を有するものであれば特に限定されず、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等を使用することができ、中でもフェノール樹脂が好ましい。
熱硬化性樹脂の軟化点(幅のある場合、その下限値)は、140~90℃であることが好ましく120~90℃であることがより好ましく、100℃~90℃であることがさらに好ましい。軟化点が高すぎると、仮接着ステップで高温をかける必要があり、コスト高になる。軟化点が低すぎると、室温での作業時にも軟化して作業性が低下する。
また、熱硬化性樹脂の残炭率(焼成後質量/焼成前質量×100)は、30~70%であることが好ましく、35~65%であることがより好ましく、40~60%であることがさらに好ましい。また、熱処理後の接着シートの嵩密度は、炭素繊維系断熱基材の嵩密度よりも大きいことが好ましい。
炭素系シートの嵩密度は、0.5~2.0g/cm3であることが好ましく、1.0~1.6g/cm3であることがより好ましい。また、炭素繊維系断熱基材の嵩密度は、0.05~0.25g/cm3であることが好ましく、0.08~0.20g/cm3であることがより好ましい。
上記構成において、炭素繊維系断熱基材は、黒鉛粒子を含まない構成とすることができる。この構成によると、上述した黒鉛粒子に含まれる不純物に起因する悪影響を防止することができる。より好ましくは、炭素繊維系断熱基材は、非晶質炭素粒子もまた含まない構成とする。なお、炭素系シートには黒鉛粒子が含まれていてもよいが、炭素系シートにも黒鉛粒子が含まれていない構成とすることがより好ましい。
上記構成において、炭素繊維系断熱基材の厚みが、接着シートの厚み及び炭素系シートの厚みよりも大きい構成とすることができる。炭素繊維系断熱基材の厚みは、断熱機能を確保する観点から厚みが相対的に厚いことが好ましく、接着シート及び炭素系シートは、厚みが厚すぎると炭素繊維系断熱材料が嵩高となってしまうため、厚みが相対的に薄いことが好ましい。また、接着シートの厚みと炭素系シートの厚みとの関係は特に限定する必要はないが、炭素系シートの厚みは、好ましくは接着シートの厚み以下とし、より好ましくは接着シートの厚み未満とする。
上記構成において、加熱前の接着シートの厚みは、0.2~5.0mmであることが好ましい。接着シートの厚みが薄すぎると十分な接着力が得られないおそれがあり、厚すぎると炭素繊維系断熱材が嵩高となってしまうため、上記範囲内であることが好ましい。より好ましくは、接着シートの厚みを0.5~3.0mmとする。
上記構成において、熱処理ステップは、1000~2500℃の不活性雰囲気で行うことが好ましい。熱処理ステップの雰囲気は、炭素が酸素と反応してガス化しないよう、不活性雰囲気であることが好ましい。また、炭素化の効率やコストから、熱処理温度は1000~2500℃であることが好ましく、この温度範囲では炭素質の黒鉛化は進行し難い。また、熱処理時間は、熱処理温度によって変化するものであるが、長すぎるとコスト高になり、短すぎると粘結剤の炭素化が不十分となるおそれがあることに留意して設定される。
なお、炭素繊維系断熱基材を構成する炭素繊維としては特に限定されることはなく、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、フェノール樹脂系炭素繊維、セルロース系炭素繊維等を用いることができる。また、炭素系シートが炭素繊維を含む場合、この炭素繊維は上記と同様でよい。炭素繊維系断熱基材、炭素系シートを構成する炭素繊維が同一種の炭素繊維であることが好ましい。
上記の製造方法に得られる炭素繊維系断熱材は、次のような構成となる。
炭素繊維系断熱基材層と、前記炭素繊維系断熱基材層と接する、熱硬化性樹脂製のシートが軟化され、その後硬化され、さらに炭素化されたものからなる接着層と、前記接着層と接する炭素系表面層と、を備え、炭素系表面層の嵩密度は、炭素繊維系断熱基材層の嵩密度よりも大きい炭素繊維系断熱材。
以上に説明したように、本発明によると、簡便な手法で炭素繊維系断熱基材に表面層を接着することができ、表面層による機能が付与された炭素繊維系断熱材を実現ができる。
(実施の形態)
本発明を実施するための形態を、以下に説明する。本発明にかかる炭素繊維系断熱材は、炭素繊維系断熱基材層と、炭素繊維系断熱基材層と接する、接着層と、接着層と接する炭素系表面層と、を備えている。そして、接着層は、熱硬化性樹脂製のシートが軟化され、硬化され、さらに炭素化されたものからなり、炭素系表面層は、炭素繊維系断熱基材層よりも嵩密度が大きい。また、接着層の嵩密度は、炭素繊維系断熱基材層の嵩密度よりも大きいことが好ましい。
炭素繊維系断熱基材層としては、炭素繊維を交絡させた炭素繊維フェルトであってもよく、炭素繊維フェルトと、炭素繊維フェルトの炭素繊維の表面を被覆し結着する炭素質からなる炭素マトリクスと、を有している成形断熱材であってもよい。また、炭素繊維系断熱基材層は、黒鉛粒子を含まないことが好ましい。また、炭素繊維系断熱基材層の接着層側の領域において、接着層に含まれるものと同一の接着炭素が含まれている構成であってもよい。なお、炭素繊維フェルトや成形断熱材は特に限定されることはなく、市販の材料を用いることができる。
炭素繊維系断熱基材層の炭素繊維としては、特に限定されることはなく、例えば石油ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、フェノール樹脂系、セルロース系等の炭素繊維を、単一種又は複数種混合して用いることができる。また、炭素繊維の微視的な構造としては特に限定されず、形状(巻縮型、直線型、断面形状等)が同一のもののみを用いてもよく、また異なる構造のものが混合されていてもよい。ただし、炭素繊維の種類やその微視的構造は、製造される炭素繊維系断熱材の物性に影響を与えるので、用途に応じて適宜選択するのがよい。
炭素繊維系断熱基材層として成形断熱材を用いる場合、炭素マトリクスは炭素質であればよく、特に限定はされない。炭素マトリクスの由来となる化合物は特に限定されることはないが、炭素繊維フェルトに含浸可能な樹脂材料由来であることが好ましい。このような樹脂材料としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましい。また、熱硬化性樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なお、熱硬化性樹脂の炭素化物は、熱処理による黒鉛化が起こり難い(難黒鉛化性である)という特徴がある。
成形断熱材の材料あるいは炭素繊維系断熱基材層としてそのまま用いる炭素繊維フェルトは、公知の方法で作製したものを用いることができ、好ましくは炭素繊維が三次元的に配向しやすい方法を採用する。繊維フェルトの形成方法としては、例えば開繊機により開繊、空気圧で上昇させ降り積もらせた後、ニードルパンチを用いる方法、溶液中で撹拌・混合し、抄紙網上に堆積させる方法、カード機などのカーディング手段により繊維フェルトを紡出した後、ニードルパンチを用いる方法等が例示できる。
接着層は、熱硬化性樹脂が軟化され、その後硬化され、さらに炭素化されたものからなる。熱硬化性樹脂は、軟化点を有するものであれば特に限定されず、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等を使用することができ、中でもフェノール樹脂が好ましい。
炭素系表面層は、炭素繊維系断熱材にハンドリング性向上やガス透過防止等の機能を付与するために、接着層を用いて炭素繊維系断熱材の一方表面(炭素繊維系断熱基材層とは反対側の表面)に接着されているものである。炭素系表面層は、炭素質からなるものであり、例えば膨張黒鉛、炭素繊維織布又は炭素繊維強化炭素複合材料からなる構成や、これらにさらに炭素繊維系断熱基材と同様の炭素マトリクスが全体に含まれた構成を採用できる。
ここで、炭素繊維系断熱基材層の嵩密度は、0.05~0.25g/cm3であることが好ましく、0.08~0.20g/cm3であることがより好ましい。また、接着層の嵩密度は、0.2~1.0g/cm3であることが好ましく、0.4~0.8g/cm3であることがより好ましい。また、炭素系表面層の嵩密度は、0.5~2.0g/cm3であることが好ましく、1.0~1.6g/cm3であることがより好ましい。
また、炭素繊維系断熱基材層の厚みは、求められる断熱機能によって適宜設定でき、特に限定はされないが、好ましくは10~180mmとする。また、接着層の厚みは、0.1~1.0mmであることが好ましく、0.2~0.5mmであることがより好ましい。また、炭素系表面層の厚みは、0.2~2.0mmであることが好ましい。
次に、本実施の形態にかかる炭素繊維系断熱材の製造方法について説明する。
(積層ステップ)
炭素繊維系断熱基材(例えば、市販の炭素繊維系成形断熱材)と、軟化点を有する熱硬化性樹脂(例えば、フェノール樹脂)からなる接着シートとを積層する。
(仮接着ステップ)
積層物を、軟化点以上の温度に加熱して熱硬化性樹脂を軟化させる。これにより炭素繊維系断熱基材と接着シートとが仮接着される。
(積層材料作製ステップ)
接着シート上に炭素繊維系断熱基材よりも嵩密度が大きい炭素系シートを積層して積層材料となす。
(接着ステップ)
炭素繊維系断熱基材及び炭素系シート側から加圧しつつ加熱して、熱硬化性樹脂を熱硬化させて、炭素繊維系断熱基材と接着シートと炭素系シートとを接着する。加熱温度としては、熱硬化性樹脂の硬化温度以上炭素化温度未満とする。圧力は、0.01~0.20MPaとすることが好ましい。
(熱処理ステップ)
接着後の積層材料を熱処理して、熱硬化性樹脂を炭素化させる。熱処理雰囲気は不活性雰囲気であることが好ましい。また、処理温度は1000~2500℃であることが好ましい。
この製造方法によって、炭素繊維系断熱基材層と、炭素繊維系断熱基材層と接する、軟化した熱硬化性樹脂を熱硬化および炭素化してなる接着層と、接着層と接する炭素系表面層と、を備える炭素繊維系断熱材が得られる。つまり、炭素繊維系断熱基材は炭素繊維系断熱基材層となり、接着シートは接着層となり、炭素系シートは炭素系表面層となる。
(実施例)
実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、特に温度を記載しないステップは、室温(25℃)で行った。
(実施例1)
(積層ステップ)
炭素繊維系断熱基材としての成形断熱材(大阪ガスケミカル製ドナカーボRI DON-1000、厚み30mm、幅1m、長さ1.5mの平板状、嵩密度0.13g/cm3)と、フェノール樹脂製の接着シート(住友ベークライト製、厚み0.8mm、両面に離型フィルムが設けられたもの)とを用意した。接着シートの一方面の離型フィルムを剥がし、当該面と接するように接着シートを成形断熱材の上に載せた。このフェノール樹脂の軟化点は100℃、硬化温度は180℃、残炭率は、40%である。
(仮接着ステップ)
この後、積層物を、空気雰囲気中100℃で10分間加熱し、接着シートを構成するフェノール樹脂を軟化させて、炭素繊維系断熱基材と接着シートとを仮接着した。接着シートの他方面の離型フィルムは、この加熱で変形等することなく元の状態を維持していた。
(積層材料作製ステップ)
接着シートの他方面の離型フィルムを剥がし、この上に炭素系シートとしての膨張黒鉛シート(東洋炭素製パーマフォイルPF-38、厚み0.38mm、幅1m、長さ1.5m、嵩密度1.0g/cm3)を載せて、積層材料を得た。
(接着ステップ)
この後、積層材料を、加熱圧縮プレスを用いて、炭素繊維系断熱基材側及び炭素系シート側から面圧力0.05MPaで加圧しつつ200℃で30分加熱して、接着シートを構成するフェノール樹脂を熱硬化させて、炭素繊維系断熱基材、接着シート及び炭素系シートを接着した。
(熱処理ステップ)
接着後の積層材料を、不活性雰囲気下2000℃で5時間熱処理して、熱硬化後のフェノール樹脂を炭素化させて、実施例1に係る表面層付きの炭素繊維系断熱材を作製した。
(比較例1)
積層ステップ、仮接着ステップ、積層材料作製ステップにおいて、接着シートを用いずに、炭素繊維系断熱基材の表面に接着剤を500g/m2となるように均一に塗布含浸させ、さらにこの上に炭素系シートを載せて、積層材料を得たこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1に係る炭素繊維系断熱材を作製した。接着剤としては、レゾール系フェノール樹脂60質量部と、天然黒鉛粒子(平均粒径30μm)15質量部と、炭素繊維ミルド(大阪ガスケミカル製ドナカーボミルドSG-241、繊維径13μm、平均繊維長0.13mm)5質量部と、溶剤としてのメタノール20質量部と、を混合したものを用いた。なお、メタノールは接着ステップでの加熱により揮発した。また、積層ステップの作業は約30分で終了した。
(比較例2)
炭素繊維系断熱基材上に接着シートを積層し、さらにこの上に炭素系シートを積層して、炭素繊維系断熱基材、接着シート、炭素系シートを同時に仮接着しようと試みたが、炭素繊維系断熱基材上の接着シートから離型フィルムを剥がすことができず、炭素繊維系断熱材を作製することができなかった。
(比較例3)
接着シートに対する炭素繊維系断熱基材と炭素系シートとの積層順序を逆(接着シートとの仮接着の対象が、炭素繊維系断熱基材ではなく炭素系シート)としたこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2に係る炭素繊維系断熱材を作製しようと試みた。しかし、焼成後において接着シートと炭素繊維系断熱基材とが剥がれてしまい、表面層付きの炭素繊維系断熱材を作製することができなかった。
これらの結果から、熱硬化性樹脂からなる接着シートを用いて表面層付きの炭素繊維系断熱材を作製するには、炭素繊維系断熱基材と接着シートとの仮接着が不可欠であることがわかる。
(作業性の判定)
作業時間は、実施例1と比較例1とはほぼ同等であった。しかし、実施例1では加熱時間が比較例1よりも長く、積層に要する時間の比較では実施例1のほうが20分以上短くなっていた。つまり、実施例1のほうが簡便に作業を行うことができた。
(剥離試験)
上記実施例1、比較例1にかかる炭素繊維系断熱材を幅30mm、長さ30mm、厚み30mmの試験片に切り出した。この試験片を、炭素繊維系断熱材の各層の積層方向に垂直な方向に、クロスヘッドスピード50mm/minの条件で剥離(90度剥離)した。この結果、すべての試験片において、層間の剥離が起きる前に炭素繊維系断熱基材の破壊が生じた。なお、厚みの調整は、炭素繊維系断熱基材層を削って厚みを減少させることにより調整した。
剥離試験で炭素繊維系断熱基材が破壊されたことは、層間の接着が強固であることを意味する。つまり、実施例1、比較例1ともに断熱材の層間の接着は優れるものであった。
(耐久試験)
上記実施例1および比較例1の表面層付き成形断熱材を幅50mm、長さ50mm、厚み30mmの試験片に切り出した。この試験片を電気炉に投入し、温度700℃、空気量2L/minの条件下で酸化耐久性評価を行った。この際、炭素系シート側からのみ消耗が進むように、試験片にアルミナ製の治具(サイズ外寸 幅60mm、長さ60mm、厚み30mm、内寸 幅50mm、長さ50mm、厚み30mm)を、表面層のみが露出するように試験片に取り付けた。3時間経過後の酸化消耗率(重量減少率)は実施例1で約10%、比較例1で約11%であり、両者ともに断熱材の耐久性能は優れており、膨張黒鉛シートにより耐久性能が高められていることが確認された。
以上のことから、本発明によると、簡便な手法で強固且つ外観不良のない表面層を炭素繊維系断熱材に形成できることが分かる。
上記で説明したように、本発明によると、簡便な手法により炭素繊維系断熱材に表面層を強固に接着形成でき、表面層の機能を炭素繊維系断熱材に付与できるので、その産業上の利用可能性は大きい。

Claims (6)

  1. 炭素繊維系断熱基材と、軟化点を有する熱硬化性樹脂からなる接着シートと、を積層する積層ステップと、
    前記積層ステップの後、前記軟化点以上の温度に加熱して前記熱硬化性樹脂を軟化させて前記炭素繊維系断熱基材と前記接着シートとを仮接着する仮接着ステップと、
    前記仮接着ステップの後、前記接着シート上に炭素系シートを積層して積層材料となす積層材料作製ステップと、
    前記積層材料作製ステップの後、前記炭素繊維系断熱基材側及び前記炭素系シート側から前記積層材料を加圧しつつ前記熱硬化性樹脂の硬化温度以上に加熱して接着する接着ステップと、
    前記接着ステップの後、前記積層材料を不活性雰囲気で熱処理して、前記熱硬化性樹脂を炭素化させる熱処理ステップと、を有し、
    前記炭素系シートの嵩密度が、前記炭素繊維系断熱基材の嵩密度よりも大きい、炭素繊維系断熱材の製造方法。
  2. 前記積層材料作製ステップは、前記軟化点よりも低い温度で行われる、
    ことを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維系断熱材の製造方法。
  3. 前記炭素繊維系断熱基材は、黒鉛粒子を含まない、
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維系断熱材の製造方法。
  4. 前記炭素繊維系断熱基材の厚みが、前記接着シートの厚み及び前記炭素系シートの厚みよりも大きい、
    ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の炭素繊維系断熱材の製造方法。
  5. 前記接着シートの厚みが、0.2~5.0mmである、
    ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の炭素繊維系断熱材の製造方法。
  6. 炭素繊維系断熱基材層と、
    前記炭素繊維系断熱基材層と接する、熱硬化性樹脂製のシートが軟化され、その後硬化され、さらに炭素化されたものからなる接着層と、
    前記接着層と接する炭素系表面層と、を備え、
    前記炭素系表面層の嵩密度は、前記炭素繊維系断熱基材層の前記嵩密度よりも大きい、炭素繊維系断熱材。
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