JP2022134166A - 肝臓x受容体アンタゴニスト - Google Patents

肝臓x受容体アンタゴニスト Download PDF

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幸一 渡士
Koichi Watashi
幸司 倉持
Koji Kuramochi
啓史 大橋
Hiroshi Ohashi
麻衣子 岡田
Maiko Okada
史季 齋藤
Fumiki Saito
潤一郎 太田垣
Junichiro Otagaki
宏太 西内
Kota NISHIUCHI
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Abstract

【課題】LXRアンタゴニスト活性を有する化合物および該化合物を含有する医薬または医薬組成物を提供する。【解決手段】式(I)で表される化合物。TIFF2022134166000017.tif68166[式中、Xは酸素原子または-NH-を表す。]【選択図】なし

Description

本発明は、肝臓X受容体(Liver X Receptor:LXR)の新規アンタゴニストおよび当該アンタゴニストを含有する医薬または医薬組成物に関する。
LXR(liver X receptor)は、核内受容体スーパーファミリーに属するリガンド依存性転写因子である。LXRとして、2種類のサブタイプ、LXRα(またはNR1H3)およびLXRβ(またはNR1H2)が同定されており、これらは高度に保存されたアイソフォームとして存在している。LXRは、RXR(retinoid X receptor)とヘテロ二量体を形成し、標的となる遺伝子の転写調節領域に結合して、リガンド依存的な転写調節を行っている。LXRβアイソフォームはユビキタスに発現されるが、LXRαは主として肝臓に多く発現し、その他、脂肪組織、マクロファージ、腎臓、副腎、骨格筋、小腸などにおいても発現が確認されている。
LXRの標的遺伝子として、コレステロールの分解に関与するCYP7A1(cytochrome P450 isoform 7A1)遺伝子、コレステロール逆輸送に関与するABC(ATP Binding Cassette)A1遺伝子、ABCG1遺伝子およびApoE(apolipoprotein E)遺伝子などが報告されており、LXRのコレステロール分解、排出への関与が示唆されている(非特許文献1)。そのため、LXRをターゲットとしてその活性を調節する化合物の探索は、高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症などの疾患の治療薬の開発に繋がることが期待されている。コレステロール代謝関連遺伝子以外の標的遺伝子として、SREBP-1c(Sterol regulatory element binding protein-1c)、ChREBP(carbohydrate response element binding protein)や脂肪酸シンターゼ(fatty acid synthase:FAS)などの脂質合成酵素関連遺伝子が報告されている(非特許文献1)。また、LXRがグルコース代謝に関与する遺伝子発現を調節しているとの報告(特許文献2、3および4)、LXRのインバースアゴニスト(inverse agonist)が、非アルコール性脂肪肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)(非特許文献5)や非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)などの治療に有効であるとの報告もある(非特許文献6)。
本発明者らは、真菌由来の二次代謝産物であるNeoechinulin BがLXRのアンタゴニストとして作用し、脂肪滴の産生の抑制および抗C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)活性を示すことを見出しており(非特許文献7)、LXRアンタゴニストが抗肝炎ウイルスとしての効果を有することも示唆されている。Neoechinulin B以外にも、いくつかのLXRアンタゴニストが報告されている(非特許文献4および8)。22-S-HCは、管状筋細胞において脂肪合成を抑制し、グルコースの取り込みおよび酸化を上昇させ、さらに、コレステロール逆輸送に関与するABCA1の発現には影響を与えることなく、コレステロール合成に関与する遺伝子の発現を減少させることが報告されている(非特許文献4)
以上のように、LXRがコレステロール代謝、脂質代謝および糖代謝など、その異常が生活習慣病やメタボリックシンドローム等の原因となる生体内メカニズムの重要な制御因子であることから、該疾患の治療上、LXRアンタゴニストの開発は現在でも必要とされている。
Edwardsら, Vasc. Pharmacol. 2002, 38, 249-256 Laffitteら, Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A., 2003, 100, 5419-5424 Caoら, J.Biol.Chem., 2003, 278, 1131-1136, 2003 Kaseら, Diabetologia, 2007, 50, 2171-2180 Griffettら, ACS Chem. Biol. 2013, 8, 559-567 Griffettら, Mol Metab. 2015, 4, 353-357 Nakajimaら, J. Virol. 2016, 90, 9058-9074 Tamehiroら, FEBS Let., 2005, 579, 5299-5304
本発明は、LXRアンタゴニスト活性を有する化合物の提供を目的とする。
また、本発明は、該LXRアンタゴニストを有効成分として含有する、LXR活性の亢進に伴う疾患の治療および/または予防のための医薬または医薬組成物の提供を目的とする。
さらに、本発明は上記医薬または医薬組成物を用いた、LXR活性の亢進に伴う疾患の治療方法および/または予防方法の提供を目的とする。
さらにまた、本発明は、SARS-CoV-2による感染症の治療および/または予防のための医薬または医薬組成物の提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、下記の一般式(I)で表される化合物がLXRアンタゴニストとしての作用を有することを見出した。これに加え、本発明者は、下記の一般式(I)で表される化合物が、VeroE6/TMPRSS2細胞へのSARS-CoV-2の感染(すなわち、SARS-CoV-2のVeroE6/TMPRSS2細胞への侵入またはVeroE6/TMPRSS2細胞内での複製)を抑制することを見出した。本発明は以上の知見に基づいて完成された。
すなわち、本発明は、下記の一般式(I)で表される化合物もしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物である。
Figure 2022134166000001
[式中、Xは酸素原子または-NH-、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子を表し、nは1以上10以下の整数、mは0以上10以下の整数を表す。ただし、Rが水素、Xが酸素原子、mが0およびnが6の場合を除く。]
また、本発明は下記の一般式(I)で表されるLXR(liver X receptor、肝臓X受容体)アンタゴニストである。
Figure 2022134166000002
[式中、Xは酸素原子または-NH-、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子を表し、nは1以上10以下の整数、mは0以上10以下の整数を表す。]
さらに、本発明は上記LXRアンタゴニストを有効成分として含有する、LXRの機能の亢進に起因する疾患の治療および/または治療のための医薬または医薬組成物である。
さらにまた、本発明は上記一般式(I)で表される化合物もしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含有するコロナウイルス感染症の予防または治療のための医薬または医薬組成物である。
Figure 2022134166000003
[式中、Xは酸素原子または-NH-、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子を表し、nは1以上10以下の整数、mは0以上10以下の整数を表す。]
本発明にかかる一般式(I)で表される化合物は、LXRアンタゴニストとして機能し、LXR(αおよび/またはβ)の標的遺伝子の転写活性化の亢進に起因する疾患(例えば、HCVウイルス感染症、脂肪性肝炎(アルコール性および非アルコール性)、高コレステロール血症、高脂血症、糖尿病、肥満症および動脈硬化症など)の治療および/または予防に効果を示す医薬の開発に有用である。
または、本発明にかかる一般式(I)で表される化合物は、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)による感染症の予防または治療のための医薬または医薬組成物の開発に有用である。
本発明にかかる化合物1の1H-1H COSY相関(太線)およびHMBC相関(矢印)に関する説明図を示す。 本発明にかかる化合物1の1H(400 MHz)および13C(100 MHz)NMRデータ (CDCl3中)を示す。ケミカルシフト値は、1H NMRにおけるTMS(テトラメチルシラン)および13C NMRにおけるCDCl3を内部基準物質として取得した。 本発明にかかる化合物1および化合物2の生理活性試験(1)。Aは、化合物1および化合物2のLXRアンタゴニストとしての活性を調べた結果である。Bは、化合物1および化合物2の細胞毒性を調べた結果である。 本発明にかかる化合物1および化合物2の生理活性試験(2)。Aは、Huh-7細胞内にLXRアゴニスト(T0901317)によって誘導された脂肪滴の蓄積に対する、化合物1および化合物2の影響を蛍光顕微鏡で観察した結果である。脂肪滴はBODYPY493/503で染色した。Bは、Aの脂肪滴由来の蛍光をImage Jで定量した結果である。 HCVの細胞への感染に対する化合物1の阻害効果を検討した結果である。 SARS-CoV-2の細胞への感染に対する化合物2の阻害効果を検討した結果である。
第1の実施形態は、一般式(I)で表される化合物もしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物である。
一般式(I)において、
Xは酸素原子または-NH-である。
Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子である。ここで、「低級アルキル」とは、炭素数1~10、好ましくは、炭素数1~4の直鎖状、分枝鎖状、環状、またはそれらの組み合わせからなる炭化水素のことで、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、t-ブチルであり、さらに好ましくはメチルである。「低級アルコキシ」とは、炭素数1~10、好ましくは、炭素数1~4のアルコキシのことで、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、sec-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシであり、最も好ましくはメトキシである。また、「ハロゲン原子」とは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素などであり、好ましくは、フッ素または塩素である。最も好ましくは、Rは水素原子である。
nは1以上10以下の整数で、好ましくは、4以上7以下の整数であり、最も好ましくは、6である。mは0以上10以下の整数で、好ましくは、0以上7以下の整数であり、さらに好ましくは、0、1、または2であり、最も好ましくは,0または1である。
ただし、Rが水素、Xが酸素原子、mが0およびnが6である化合物は、第1の実施形態にかかる化合物からは除外する。
本実施形態には、一般式(I)で表される化合物のみならず、その塩またはそれらの溶媒和物もしくは水和物も含まれる。一般式(I)で表される化合物の塩としは、特に限定されるものではなく、慣用の塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩等の金属塩が挙げられ、好ましくは薬学上許容されるものである。
第2の実施形態は、一般式(I)で表されるLXRアンタゴニストである。
本発明者らは一般式(I)で表される化合物は、LXRの活性を阻害し、LXRアンタゴニストとして機能することを見出した。ここで、LXR(αおよびβ)の活性とは、当業者により理解される機能のことを指し、例えば、RXR(Retinoid X Receptor)と二量体を形成し、リガンド依存的に標的となる遺伝子(例えば、Cyp7A1など)の転写を調節することである。LXRアンタゴニストは、このようなLXRの活性を阻害または抑制するように作用するものである。従って、LXRアンタゴニストは、例えば、LXR-RXR二量体の標的遺伝子の転写活性化機能(以下単に「LXRの機能」とも記載する)の亢進に起因する疾患の治療および/または予防に効果を示す医薬の開発に利用することができる。LXRの機能の亢進に起因する疾患としては、例えば、HCVウイルス感染症、脂肪性肝炎(アルコール性および非アルコール性)、高コレステロール血症、高脂血症、糖尿病、肥満症および動脈硬化症などを挙げることができる。
なお、本出願の明細書および特許請求の範囲において、LXRと記載した場合には、特に付言しない限り、LXRαおよびLXRβの両方を表すものとする。
第2の実施形態にかかるLXRアンタゴニストは、一般式(I)において、
Xは酸素原子または-NH-である。
Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子である。ここで、「低級アルキル」とは、炭素数1~10、好ましくは、炭素数1~4の直鎖状、分枝鎖状、環状、またはそれらの組み合わせからなる炭化水素のことで、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、t-ブチルであり、さらに好ましくはメチルである。「低級アルコキシ」とは、炭素数1~10、好ましくは、炭素数1~4のアルコキシのことで、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、sec-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシであり、最も好ましくはメトキシである。また、「ハロゲン原子」とは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素などであり、好ましくは、フッ素または塩素である。最も好ましくは、Rは水素原子である。
nは1以上10以下の整数で、好ましくは、4以上7以下の整数であり、最も好ましくは、6である。mは0以上10以下の整数で、好ましくは、0以上7以下の整数であり、さらに好ましくは、0、1、または2であり、最も好ましくは,0または1である。
第1の実施形態および第2の実施形態において、一般式(I)で表される化合物には、特に断らない限り、異性体が存在する場合には、その異性体も含まれる。
一般式(1)で表される本実施形態にかかる化合物としては、特に限定はしないが、例えば、次のものが挙げられる。
7,8,9,10,11,12,21,22,23,24,25,26,35,36,37,38,39,40-オクタデカヒドロトリベンゾ[a1,c,o][1,6,13,18,25,30]ヘキサオキサシクロヘキサトリアコンチン-5,14,19,28,33,42-ヘキサオン、(本発明の実施形態にかかる化合物1)および
7,8,9,10,11,12,19,20,21,22,23,24-ドデカヒドロ-ジゲンゾ[1,6,13,18]-テトラ-オキサシクロオクタデシン-2,5,14,17-テトロン(本発明の実施形態にかかる化合物2)などである。
本発明の一般式(I)で表される化合物のうち、式中、Rは水素原子、Xは酸素、nは6、mは0または偶数である化合物(Ia)は、例えば、以下のスキーム1に示す工程により製造することができる。
Figure 2022134166000004
上記スキーム中化合物3は、Yoshimotoらの方法(Yoshimotoら, Journal of Natural Products, 83, 542-546 2020.)に従って合成することができる。化合物3、1,6-ジブロモヘキサンおよび炭酸カリウムをDMF(N,N-dimethylformamide、N,N-ジメチルホルムアミド)で80 ℃、アルゴン下で反応させる。反応液に酢酸エチルを加え、飽和重曹水溶液で洗浄する。さらに、有機層に飽和塩化ナトリウム水溶液を加えて洗浄する。得られた有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、ロータリーエバポレーター等で酢酸エチルを除去することで、化合物(Ia)を得ることができる。
第3の実施形態は、第2の実施形態にかかるLXRアンタゴニストもしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物、すなわち、下記一般式(I)の化合物もしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含有する、LXRの機能の亢進に起因する疾患の治療および/または予防のための医薬または医薬組成物である。
Figure 2022134166000005
[式中、Xは酸素原子または-NH-、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子を表し、nは1以上10以下の整数、mは0以上10以下の整数を表す。]
ここで、「LXRの機能の亢進に起因する疾患」とは、特に限定はしないが、例えば、HCVウイルス感染症、脂肪性肝炎(アルコール性および非アルコール性)、高コレステロール血症、高脂血症、糖尿病、肥満症および動脈硬化症などを挙げることができる。
本実施形態にかかる医薬または医薬組成物は、一般式(I)で表される化合物のうち、2種類以上の組み合わせを含んでもよく、さらに、「LXRの機能の亢進に起因する疾患」に治療効果が知られている公知の成分を含んでもよい。
第4の実施形態は、下記一般式(I)の化合物もしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含有する、コロナウイルス感染症の治療および/または予防のための医薬または医薬組成物である。
Figure 2022134166000006
[式中、Xは酸素原子または-NH-、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子を表し、nは1以上10以下の整数、mは0以上10以下の整数を表す。]
ここで、「コロナウイルス感染症」とは、特に限定はしないが、例えば、SARS-CoV(severe acute respiratory syndrome coronavirus)、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)およびMERS-CoV(middle east respiratory syndrome coronavirus)などであり、より典型的には、SARS-CoV-2である。
第4の実施形態にかかる医薬または医薬組成物は、一般式(I)で表される化合物のうち、2種類以上の組み合わせを含んでもよく、さらに、「コロナウイルス感染症」の治療および/または予防効果が知られている公知の成分を含んでもよい。
さらに、本発明の実施形態にかかる医薬または医薬組成物は、薬学上許容される担体を含んでもよい。薬理学上許容される担体とは、特に限定はしないが、例えば、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、アイソトニックに作用して吸着を遅らせる薬剤およびその類似物などのことで、薬剤投与に適するもののことである。該担体および該担体を希釈するために好ましいものの例には、限定はしないが、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液、及びヒト血清アルブミンなどが含まれる。また、リポソーム及び不揮発性油などの非水溶性媒体も用いられる。さらに、一般式(I)で表されるの化合物の活性を保護または促進するような特定の化合物が、該組成物中に包含されていてもよい。
本発明の実施形態にかかる医薬または医薬組成物の剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。なお、液体製剤にあっては、用時、水または他の適当な溶媒に溶解または懸濁するものであってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の化合物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また、緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
経口投与用または非経口投与用の製剤は、任意の製剤形態で提供される。製剤形態としては、例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤または液剤等の形態の経口投与用医薬または医薬組成物、静脈内投与用、筋肉内投与用、もしくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤などの形態の非経口投与用医薬または医薬組成物として調製することができる。注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適宜の水性媒体に溶解して用いることもできる。
本発明の実施形態にかかる医薬または医薬組成物の製造に用いられる製剤用添加物の種類、有効成分に対する製剤用添加物の割合、および、医薬または医薬組成物の製造方法は、その形態に応じて当業者が適宜選択することが可能である。製剤用添加物としては無機もしくは有機物質、または、固体もしくは液体の物質を用いることができ、一般的には、有効成分重量に対して1重量%から90重量%の間で配合することができる。具体的には、製剤用添加物の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
経口投与用の固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤成分、例えば、乳糖、デンプン、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式または乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤および顆粒剤をそのまま、または、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒または錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸-メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤、または、エチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤もしくは顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま、または、グリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのpH調整剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖などの等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、さらにマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ注射剤用乳剤とすることもできる。
直腸投与剤を製造するには、有効成分をカカオ脂、脂肪酸のトリ、ジおよびモノグリセリド、ポリエチレングリコールなどの座剤用基材と共に加湿して溶解し型に流し込んで冷却するか、有効成分をポリエチレングリコール、大豆油などに溶解した後、ゼラチン膜で被覆すればよい。
本発明の実施形態にかかる医薬または医薬組成物の投与量および投与回数は特に限定されず、治療対象疾患の悪化・進展の防止および/または治療の目的、疾患の種類、患者の体重や年齢などの条件に応じて、医師の判断により適宜選択することが可能である。
一般的には、経口投与における成人一日あたりの投与量は0.01~1000mg(有効成分重量)程度であり、一日1回または数回に分けて、あるいは、数日ごとに投与することができる。注射剤として用いる場合には、成人に対して一日量0.001~100mg(有効成分重量)を連続投与または間欠投与することが望ましい。
本発明の実施形態にかかる医薬または医薬組成物は、埋込錠およびマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。そのような担体として、エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸などの生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬学上許容される担体として使用することができる。リポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG-PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製することができる。
本発明の実施形態にかかる医薬または医薬組成物は、投与方法等の説明書と共にキットの形態で提供されてもよい。キット中に含まれる薬剤は、医薬または医薬組成物の構成成分の活性を長期間有効に持続し、容器内側に吸着することなく、また、構成成分を変質することのない材質で製造された容器により供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性を示すガスの存在下で封入されたバッファーなどを含んでもよい。
また、キットには使用説明書が添付されてもよい。当該キットの使用説明は、紙などに印刷されたものであっても、CD-ROM、DVD-ROMなどの電磁的に読み取り可能な媒体に保存されて使用者に供給されてもよい。
第5の実施形態は、第3の実施形態にかかる医薬または医薬組成物を、治療対象または予防対象に投与し、LXRの機能の亢進に起因する疾患(例えば、HCVウイルス感染症、脂肪性肝炎(アルコール性および非アルコール性)、高コレステロール血症、高脂血症、糖尿病、肥満症および動脈硬化症など)を治療または予防する方法である。
ここで「治療」とは、疾患に罹患した哺乳動物において、その病態の悪化を阻止または緩和することを目的として行う処置のことである。また、「予防」とは、疾患を発症するおそれがある哺乳動物において、該疾患の発症を予め阻止することを目的として行う処置のことである。治療および予防の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
第6の実施形態は、第4の実施形態にかかる医薬または医薬組成物を、治療対象または予防対象に投与し、コロナウイルス感染症(SARS-CoV、SARS-CoV-2およびMERS-CoVなど)を治療または予防する方法である。
ここで「治療」とは、疾患に罹患した哺乳動物において、その病態の悪化を阻止または緩和することを目的として行う処置のことである。また、「予防」とは、疾患を発症するおそれがある哺乳動物において、該疾患の発症を予め阻止することを目的として行う処置のことである。治療および予防の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
本明細書が英語に翻訳されて、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものも含むものとする。
以下に実施例を示すが、本実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
1.方法
1-1.化合物の合成
1-1-1.合成(1)
本発明の一般式(I)で表される化合物のうち、式中、Rは水素原子、Xは酸素、n=6、m=0(2量体と記す)、m=2(4量体と記す)、m=4(6量体と記す)もしくはm=6(8量体と記す)である化合物は、例えば、以下のスキーム2に示す工程により合成した。
Figure 2022134166000007
Yoshimotoらの方法(前出)に従って化合物3を合成した。化合物3(100 mg,0.242 mmol)、1,6-ジブロモヘキサン(59.6 mg,0.244 mmol)、炭酸カリウム(142 mg,1.03 mmol)をDMF(2.0 mL)で80 ℃、アルゴン下で26時間攪拌した。反応液に100 mLの酢酸エチルを加え、50 mLの飽和重曹水溶液で洗浄した。さらに、有機層に飽和塩化ナトリウム水溶液を50 mL加えて洗浄した。有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、ロータリーエバポレーターで酢酸エチルを除去した。ヘキサン:酢酸エチル=9:1~0:1の混合溶媒を用いてシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製し、画分A~Eに分画した。画分Cから2量体(化合物2)(28.4 mg, 24 %)を得た。画分Eをヘキサン:酢酸エチル=4:1~0:1の混合溶媒を用いて高速液体クロマトグラフィー(カラム:センシュー科学PEGASIL Silica SP100 10φ×150 mm)で精製し、4量体(1.8 mg, 1.5 %)、6量体(3.3 mg, 2.7 %)、8量体(1.1 mg, 0.9 %)を得た。
Figure 2022134166000008
1-1-2.合成(2)
本発明の一般式(I)で表される化合物のうち、式中、Rは水素原子、Xは酸素、n=6、m=1(3量体と記す)である化合物は、例えば、以下のスキーム3に示す工程により合成した。
Figure 2022134166000009
Bajpaiらの方法(Bajpaiら, J. Thermochim. Acta 334, 73-87 1999.)に従ってカルボン酸4を合成した。カルボン酸4(94.6 mg, 0.36 mmol)、MNBA (147 mg, 0.43 mmol)、トリエチルアミン(110 μL,0.78 mmol)、DMAP (4.3 mg, 0.04 mmol)をジクロロメタン(3.0 mL)に溶かし、還流条件下で反応を行った。21時間攪拌させた後、室温に戻した。溶媒を減圧除去し、カラムクロマトグラフィーによる精製 (ヘキサン:酢酸エチル=3: 1)を行い、3量体(化合物1)(8.8 mg、11%)を黄色油状物質で得た。
Figure 2022134166000010
1-1-3.合成(3)
本発明の一般式(I)で表される化合物のうち、式中、Rは水素原子、Xは-NH-、n=6、m=0(アミド2量体と記す)またはm=3(アミド3量体と記す)である化合物は、例えば、以下のスキーム4に示す工程により合成した。
Figure 2022134166000011
50 mLのナスフラスコに、1,6-ジアミノヘキサン(104 mg, 0.895 mmol)、フタル酸(153 mg, 0.921 mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(EDCI)(610 mg, 3.18 mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン0.3 mLをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)10 mLに溶かし、50 ℃で26時間反応させた。その後、ロータリーエバポレーターによって溶媒を除去し、酢酸エチル100 mLおよび蒸留水 20 mLを加えてよく溶解し、200 mL分液漏斗に移した。塩化アンモニウム飽和水溶液100 mLを加え、よく振盪して洗浄した。これを2回繰り返した後、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液100 mLを加え、よく振盪して洗浄した。これも2回繰り返した後に、塩化ナトリウム飽和水溶液100 mLを加え、よく振盪して洗浄した。最後に蒸留水100 mLを加え、よく振盪して洗浄した。有機層のみを取り、ロータリーエバポレーターにより溶媒を除去した。その後、カラムクロマトグラフィー(溶媒比; CHCl3:MeOH=19:1~0:1)および高速液体クロマトグラフィー(溶媒比; H2O:MeOH=1:1~0:1、カラム;センシュー科学PEGASIL ODS SP100 10φ×150 mm)を用いて単離し、アミド3量体(0.7 mg, 0.3%)およびアミド2量体(0.5 mg, 0.2%)を得た。
Figure 2022134166000012
1-2.化合物の精製
本発明の実施形態にかかる化合物1および2は、上述の合成方法を実施して取得する以外に、市販のクロロホルム中に少量含まれている前記化合物を精製して取得することが可能である。本実施例における以下の実験においては、前記化合物1および前記化合物2を市販のクロロホルムから精製し、種々の実験に使用した。
まず、クロロホルム(関東化学)10 Lをエバポレーターで濃縮した。得られた化合物の混合物(37.9 mg)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒比;酢酸エチル/ヘキサン、10~60%)を用いて精製を行い、化合物1(0.6 mg)と化合物2(1.7 mg)を得た。
1-3.細胞培養
本実施例において、高分化型ヒト肝癌由来細胞株であるHuh-7細胞を用いた。Huh-7細胞はDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)(Sigma)、10% Fetal Bovine Serum (FBS)(Gibco)、1% Penicillin Streptomycin(PS)、10 mM HEPES-NaOH (pH7.2)を用いて、37℃、5% CO2下で培養した。
1-4.レポーターアッセイ
96ウェルプレートに、5,000細胞/ウェルになるようにHuh-7細胞を播種し、37℃、5% CO2下で24時間培養した。その後、Lipofectamine 2000 DNA Transfection Reagent(Life Technologies)のプロトコールに従い、OPTI-MEM I (1×) Reduced Serum Medium(Gibco)で調製したLipofectamine 2000 DNA Transfection Reagent(0.2 μL/ウェル)と、LXR応答配列にホタルルシフェラーゼレポーターをつなげたベクターであるLXRE-Luc(20 ng/ウェル)、内部コントロール用レポーターベクターのpRL-CMV(CMVプロモーター)(20 ng/ウェル)、 LXRα発現プラスミド(1 ng/ウェル)、およびRXR発現プラスミド(5 ng/ウェル)の混合液を細胞に加え、トランスフェクションした。6時間後、化合物を添加した培地と交換した。この際、培地は10%の活性炭/デキストラン処理をしたFBS(Cytiva)、1%PSを含むDMEMを用いた。本実施例では、LXRαアゴニストとしてT0901317(Sigma)を用いた。T0901317 存在下(終濃度 0.3 μM)と試験用化合物で48 時間処理した。
細胞をPBSで洗浄し、ピッカジーン デュアル シーパンジー発光キット(東洋ビーネット)を用いてプロトコールに従い、プレートリーダー(DSファーマバイオメディカル株式会社)を用いて発光シグナルを測定した。
ホタルルシフェラーゼ発光シグナルの値(Fluc)をウミシイタケルシフェラーゼ発光シグナルの値(Rluc)で割った(Fluc/Rluc)を算出し、さらにネガティブコントロールを1とした値(Fluc/Rluc)/DMSO(Fluc/Rluc)を算出した。
1-5.細胞毒性試験
96ウェルプレートに5,000細胞/ウェルになるようにHuh-7細胞を播種し、37℃、5% CO2下で24時間培養した。その後、化合物を添加した培地と交換し、72時間インキュベートした。細胞生存率をWST-8(Dojindo)により測定した。
1-6.脂肪滴産生への影響
0.3%コラーゲン酸性溶液(株式会社高研)でコラーゲンコート処理をした8ウェルチャンバー(松浪硝子工業)に1.5×105細胞/mLに調整したHuh-7細胞の懸濁液を300μL/ウェル播種し、37℃、5%CO2下で培養した。16時間後、化合物を添加した培地と培地交換を行い、72時間培養した。本研究では、細胞内の脂肪滴蓄積を誘導するためにT0901317(終濃度 0.3μM)を用いた。
72時間培養後、PBSで洗浄を行い、4%パラホルムアルデヒド(富士フィルム和光純薬(株))300μL/ウェルで20 分静置し、細胞を固定した。20分後、PBSで洗浄し、0.05% Saponin(富士フィルム和光純薬(株))を200μL/ウェル添加し、10分静置した。10分後、PBSで洗浄を行い、 Blocking Ace(DSファーマバイオメディカル)溶液を200μL/ウェル添加し、1時間静置した。1時間後、溶液をデカントし、Blocking Ace溶液で1,000倍希釈したDAPI(ナカライテスク)を200μL/ウェル添加し、遮光して1時間静置した。1時間後、溶液をデカントし、PBSで500倍希釈したBODIPY493/503(Thermo Fisher Scientific)を200μL/well添加し、遮光して20分間静置した。20分後、一度PBSで洗浄し、チャンバースライドを取り外した。スライド洗浄器(松浪硝子工業)を用いて、PBS でよく洗浄した。洗浄後、観察部分にVECTA SHIELD Vibrance Antifade Mounting Medium(ナカライテスク)を滴下し、22 mm×40 mmカバーグラス(松浪硝子工業)を重ね、プラモデル用接着剤等を利用し包埋を行い、観察するスライドを作製した。
共焦点顕微鏡(Leica TCS SP5 II)を用いて観察を行い、複数の画像サンプルを取得した。取得した画像サンプルから、核の数と細胞内に蓄積した脂肪滴の輝度の総和をImage Jを用いて解析を行った。
1-7.抗HCV活性試験
Huh-7細胞を96ウェルプレートに、7.0×103細胞播種し、一晩培養した。感染性HCV含有培地をMOI = 0.2で細胞に加え5時間処理し、洗浄後、化合物1を含む新しい培地に交換して72時間後に上清を回収し、4℃、2,500 rpm で遠心して浮遊する死細胞等を取り除いた。上清中に放出されたHCVを定量するため、この中に含まれるウイルスRNAをMagMax Viral/Pathogen II Nucleic Acid Isolation kit(Thermo Fisher Scientific)により抽出した。
抽出物に含まれるウイルスRNAはone-step qRT-PCR kit(THUNDERBIRD Probe One-step qRT-PCR kit, TOYOBO)を用いたリアルタイムRT-PCRによって定量した。
化合物の細胞毒性は、MTTアッセイにより評価した。
1-8.SARS-CoV-2感染実験系
SARS-CoV-2を用いた感染実験はBSL3実験区画内で行った。
VeroE6/TMPRSS2細胞を96ウェルプレートに3.0×104細胞播種し、一晩培養した。感染性SARS-CoV-2(WK-521株)を含む培地をMOI = 0.003で化合物とともに細胞を1時間処理し、洗浄後化合物を含む新しい培地に交換した。24時間後に培養上清を回収し、この中に含まれるウイルスRNAをMagMax Viral/Pathogen II Nucleic Acid Isolation kit(Thermo Fisher Scientific)により抽出した。抽出物に含まれるウイルスRNAはone-step qRT-PCR kit(THUNDERBIRD Probe One-step qRT-PCR kit, TOYOBO)を用いたreal time RT-PCRによって定量した。Real time RT-PCRで使用したプライマーおよびプローブは以下の通りである。
プライマー
フォワード:5’-ACAGGTACGTTAATAGTTAATAGCGT-3’(配列番号1)
リバース:5’-ATATTGCAGCAGTACGCACACA-3’(配列番号2)
プローブ:5’-FAM-ACACTAGCCATCCTTACTGCGCTTCG-TAMRA-3’(配列番号3)。
2.結果
2-1.精製化合物の構造決定
本発明の実施形態にかかる化合物1および化合物2の構造は、ESIMS、1H-NMR、13C-NMR、1H-1H COSY、HMBC、HMQCにより決定した。構造を以下に示す。
Figure 2022134166000013
図1に、化合物1の1H-1H COSYおよびHMBC相関を示した。また、図2にはCDCl3で測定した化合物1の1H-NMR、13C-NMRデータを示した。化合物1のH-1(δ7.53)およびH-2(δ7.71)の化学シフト値及び、図1に示すH-1、H-2からC-1、C-2、C-3へのHMBC相関よりフタル酸の部分構造を有することが示唆された。また、H-5(δ4.28)からH-7のCOSY相関より、-O-CH2-CH2-CH2-の部分構造を有することが示唆された。この部分構造は、H-5からC-4のHMBC相関より、フタル酸部位とエステル結合していると決定した。ESIMSから分子量は744と推測されたことから、化合物1は、フタル酸と1,6-ヘキサンジオール(1,6-hexanediol)からなる3量体の環状構造であることが示唆された。
以上より、化合物1を7,8,9,10,11,12,21,22,23,24,25,26,35,36,37,38,39,40-オクタデカヒドロトリベンゾ[a1,c,o][1,6,13,18,25,30]ヘキサオキサシクロヘキサトリアコンチン-5,14,19,28,33,42-ヘキサオン(7,8,9,10,11,12,21,22,23,24,25,26,35,36,37,38,39,40-octadecahydrotribenzo[a1,c,o][1,6,13,18,25,30]hexaoxacyclohexatriacontine-5,14,19,28,33,42-hexaone)であると決定した。化合物1の諸性質およびスペクトルデータ(NMRデータは除く)は次の通りである。油状; ESIMS m/z 767.3 [M+Na]+
化合物2は、解析の結果、公知化合物である7,8,9,10,11,12,19,20,21,22,23,24-ドデカヒドロ-ジゲンゾ[1,6,13,18]-テトラ-オキサシクロオクタデシン-2,5,14,17-テトロン(7,8,9,10,11,12,19,20,21,22,23,24-dodecahydro-dibenzo[1,6,13,18]-tetra-oxacyclooctadecine-2,5,14,17-tetrone)(WO2020/203593A1:Yoshimotoら, Journal of Natural Products, 83, 542-546 (2020):特開2016-160237:特開2013-180995)であることが明らかとなった。化合物2の諸性質およびスペクトルデータ(NMRデータは除く)は次の通りである。油状; ESIMS m/z 519.2 [M+Na]+;
2-2.化合物1および化合物2の生理活性試験
2-2-1.アンタゴニスト活性および細胞毒性の測定
レポーターアッセイにより化合物1および化合物2のLXRアンタゴニスト活性を測定した(図3A)。その結果、化合物1および化合物2は、アゴニストであるT0901317によるレポーター遺伝子の転写活性化を濃度依存的に阻害することが明らかになった。これら2化合物はLXRに対してアンタゴニストとしてはたらくことが示唆された。また、化合物1および化合物2は10μMの濃度まで細胞毒性を示さなかった(図3B)。
2-2-2.脂肪滴の蓄積にたいする影響の検討
次に、化合物1および化合物2が脂肪滴の産生に影響を与えるか調べた。Huh-7細胞をT0901317で処理して脂肪滴の産生を誘導し、化合物1および化合物2処理で脂肪滴の蓄積が変化するかを調べた(図4)。その結果、化合物2および化合物1を添加することで、脂肪滴の産生が低下する傾向が見られた。
2-2-3.抗HCV活性試験
化合物2に関しては、さらに抗HCV活性試験を行った(図5)。その結果、化合物1は細胞毒性を示さずに(図3)、濃度依存的に抗HCV活性を示すことが明らかになった。
以上の結果から、化合物1はLXRアンタゴニスト活性を示し、細胞の脂肪滴産生を抑制し、抗HCV活性を示すことが明らかになった。
2-2-4.抗SARS-CoV-2活性試験
本発明の化合物2のSARS-CoV-2の細胞内での複製に対する影響を検討した結果を図6に示す。その結果、化合物2は、濃度20μMで培養上清へのウイルスRNA産生を40%に、濃度40μMで20%に低下させることが明らかになった。
本発明にかかる化合物およびLXRアンタゴニストは、LXRの機能亢進に関連する疾患などの治療およびその治療薬の開発に用いることができるため、医療分野における利用が期待される。

Claims (11)

  1. 下記の一般式(I)で表される化合物もしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物。
    Figure 2022134166000014
    [式中、Xは酸素原子または-NH-、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子を表し、nは1以上10以下の整数、mは0以上10以下の整数を表す。ただし、Rが水素、Xが酸素原子、mが0およびnが6の場合を除く。]
  2. Rが水素原子である請求項1に記載の化合物もしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物。
  3. mが0以上7以下であり、nが4以上7以下である請求項2に記載の化合物もしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物。
  4. 一般式(I)で表される化合物が、
    7,8,9,10,11,12,21,22,23,24,25,26,35,36,37,38,39,40-オクタデカヒドロトリベンゾ[a1,c,o][1,6,13,18,25,30]ヘキサオキサシクロヘキサトリアコンチン-5,14,19,28,33,42-ヘキサオンである請求項1に記載の化合物もしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物。
  5. 下記一般式(I)で表されるLXR(liver X receptor、肝臓X受容体)アンタゴニスト。
    Figure 2022134166000015
    [式中、Xは酸素原子または-NH-、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子を表し、nは1以上10以下の整数、mは0以上10以下の整数を表す。]
  6. Rが水素原子である請求項5に記載のLXRアンタゴニスト。
  7. mが0以上7以下であり、nが4以上7以下である請求項6に記載のLXRアンタゴニスト。
  8. 一般式(I)で表される化合物が、
    7,8,9,10,11,12,21,22,23,24,25,26,35,36,37,38,39,40-オクタデカヒドロトリベンゾ[a1,c,o][1,6,13,18,25,30]ヘキサオキサシクロヘキサトリアコンチン-5,14,19,28,33,42-ヘキサオン、および7,8,9,10,11,12,19,20,21,22,23,24-ドデカヒドロ-ジゲンゾ[1,6,13,18]-テトラ-オキサシクロオクタデシン-2,5,14,17-テトロンのいずれかである請求項5に記載のLXRアンタゴニスト。
  9. 請求項5ないし8のいずれかに記載のLXRアンタゴニストを有効成分として含有する、LXRの機能の亢進に起因する疾患の治療または予防のための医薬または医薬組成物。
  10. 前記疾患が、HCVウイルス感染症、脂肪性肝炎、高脂血症、糖尿病、肥満症または動脈硬化症からなるグループより選択されるものである、請求項5に記載の医薬または医薬組成物。
  11. 下記の一般式(I)で表される化合物もしくはその塩、またはそれらの溶媒和物もしくは水和物を有効成分として含有する、SARS-CoV-2感染症の治療または予防のための医薬または医薬組成物。
    Figure 2022134166000016
    [式中、Xは酸素原子または-NH-、Rは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン原子を表し、nは1以上10以下の整数、mは0以上10以下の整数を表す。]



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