JP2022111625A - 硫酸コバルトの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】不純物を含む塩化コバルト溶液から、電解工程を用いることなく不純物とコバルトを分離し、純度の高い硫酸コバルトを製造する方法を提供する。【解決手段】不純物を含む塩化コバルト溶液に硫化剤を添加し、銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程S1、塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程S2、塩化コバルト溶液に非酸化性雰囲気中でカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程S3、第2溶媒抽出工程S3を経て得た硫酸コバルト溶液を晶析工程S4、を順に実行する。電解工程を用いることなく、直接に高純度の硫酸コバルトを製造することができる。【選択図】図1
Description
本発明は、硫酸コバルトの製造方法に関する。さらに詳しくは、塩化コバルト溶液中に含まれる不純物元素を除去して、純度の高い硫酸コバルトを得る製造方法に関する。
コバルトは、特殊合金の添加元素としての用途以外に、磁性材料やリチウムイオン二次電池の原料として工業的用途に広く使用されている有価金属である。とくに最近では、リチウムイオン二次電池がモバイル機器や電気自動車のバッテリーとして多く用いられ、これに伴ってコバルトの需要も急速に拡大している。しかしながらコバルトはニッケル製錬や銅製錬の副産物として産出されるものが大半を占めているため、コバルトの製造においてはニッケルや銅を始めとする不純物との分離が重要な要素技術でとなっている。
たとえば、ニッケルの湿式製錬において副産物としてのコバルトを回収する場合、まずニッケルとコバルトを含む溶液を得るため、原料を鉱酸や酸化剤等を用いて溶液に浸出または抽出するかもしくは溶解処理に付される。さらに、得られた酸性溶液中に含まれるニッケルとコバルトは、従来から公知の方法により各種の有機抽出剤を用いた溶媒抽出法によって分離回収されることが多い。
しかし、得られたコバルト溶液には処理原料に由来する各種不純物が含有されることが多い。
しかし、得られたコバルト溶液には処理原料に由来する各種不純物が含有されることが多い。
そこで、上記溶媒抽出法によってニッケルが分離回収された後のコバルト溶液から、更にマンガン、銅、亜鉛、カルシウムおよびマグネシウム等の不純物元素を除去することが必要になる。
しかも、不純物含有量の少ない高純度コバルト製品を製造するためには、予めコバルトを含有するニッケル溶液から分離回収されたコバルト溶液中の不純物元素を除去した後、電解工程あるいは晶析等によってコバルトを製品化する必要があった。
しかも、不純物含有量の少ない高純度コバルト製品を製造するためには、予めコバルトを含有するニッケル溶液から分離回収されたコバルト溶液中の不純物元素を除去した後、電解工程あるいは晶析等によってコバルトを製品化する必要があった。
コバルト溶液中の不純物元素の除去方法として、特許文献1、2に記載の従来技術がある。
特許文献1には、(1)コバルト溶液に硫化剤を添加し、酸化還元電位(ORP)(Ag/AgCl電極基準)を50mV以下且つpHを0.3~2.4に調整して、硫化銅沈殿と脱銅精製液とを得る脱銅工程、(2)該脱銅精製液に酸化剤と中和剤を添加し、酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を950~1050mV且つpHを2.4~3.0に調整して、マンガン沈殿と脱マンガン精製液とを得る脱マンガン工程、(3)該脱マンガン精製液に抽出剤としてアルキルリン酸を用い、脱マンガン精製液中の亜鉛、カルシウム及び微量不純物を抽出分離する溶媒抽出工程、を含むコバルト溶液の精製方法が開示されている。
特許文献2には、塩酸濃度2~6mol/Lの塩化コバルト溶液を陰イオン交換樹脂に接触させ、陰イオン交換樹脂に対する分配係数がコバルト塩化物錯体のそれよりも大きい錯体を形成する鉄、亜鉛、スズ等の金属不純物を吸着させて分離する技術が記載されている。
特許文献1には、(1)コバルト溶液に硫化剤を添加し、酸化還元電位(ORP)(Ag/AgCl電極基準)を50mV以下且つpHを0.3~2.4に調整して、硫化銅沈殿と脱銅精製液とを得る脱銅工程、(2)該脱銅精製液に酸化剤と中和剤を添加し、酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を950~1050mV且つpHを2.4~3.0に調整して、マンガン沈殿と脱マンガン精製液とを得る脱マンガン工程、(3)該脱マンガン精製液に抽出剤としてアルキルリン酸を用い、脱マンガン精製液中の亜鉛、カルシウム及び微量不純物を抽出分離する溶媒抽出工程、を含むコバルト溶液の精製方法が開示されている。
特許文献2には、塩酸濃度2~6mol/Lの塩化コバルト溶液を陰イオン交換樹脂に接触させ、陰イオン交換樹脂に対する分配係数がコバルト塩化物錯体のそれよりも大きい錯体を形成する鉄、亜鉛、スズ等の金属不純物を吸着させて分離する技術が記載されている。
上記特許文献1に記載された抽出剤としてアルキルリン酸を用いる溶媒抽出方法は、亜鉛やカルシウムに対して高い分離性能を有している。しかし、塩酸濃度2~6mol/Lの塩化コバルト溶液の場合には、陰イオン交換樹脂によるイオン交換法やアミン系抽出剤による溶媒抽出法の方が、上記アルキルリン酸を用いる溶媒抽出法に比べてより高い亜鉛とコバルトの分離性能を有している。
また、塩化コバルト溶液中のごく微量の亜鉛を除去する場合は、イオン交換法による方が工程及び操作が簡単であるため、効率的且つ経済的である。
また、塩化コバルト溶液中のごく微量の亜鉛を除去する場合は、イオン交換法による方が工程及び操作が簡単であるため、効率的且つ経済的である。
このような観点から、マンガン、銅、亜鉛を含有する塩化コバルト溶液から、これら不純物元素を除去する方法として、上記特許文献1の精製方法と特許文献2の分離技術を組み合わせた方法が提案されている(たとえば特許文献3)。
特許文献3の段落0022に記載する高純度塩化コバルト製造方法は、ニッケルとコバルトを分離する溶媒抽出工程、マンガンを除去する脱マンガン工程、銅を除去する脱銅工程、亜鉛を除去する脱亜鉛工程および電解工程を含んでいる。
脱亜鉛工程では、脱銅工程で得られた塩化コバルト水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させて亜鉛を吸着除去する。電解工程では脱亜鉛工程で得た高純度塩化コバルト水溶液を電解給液として用い、金属コバルト(電気コバルトともいわれる)を製造するものである。
特許文献3の段落0022に記載する高純度塩化コバルト製造方法は、ニッケルとコバルトを分離する溶媒抽出工程、マンガンを除去する脱マンガン工程、銅を除去する脱銅工程、亜鉛を除去する脱亜鉛工程および電解工程を含んでいる。
脱亜鉛工程では、脱銅工程で得られた塩化コバルト水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させて亜鉛を吸着除去する。電解工程では脱亜鉛工程で得た高純度塩化コバルト水溶液を電解給液として用い、金属コバルト(電気コバルトともいわれる)を製造するものである。
一方、前述したように、最近ではリチウムイオン二次電池の原料用としてコバルトの需要が拡大し、硫酸コバルト溶液あるいは硫酸コバルト結晶の形態が望まれる。
特許文献3の従来技術で得られた金属コバルトから硫酸コバルト結晶を得ようとすれば、金属コバルトを硫酸で溶解して硫酸コバルト溶液を得、さらにこの溶液を晶析して、硫酸コバルト結晶を得ることができる。しかしながら、この製法を用いると、工程の増加や薬剤費の増加により製造コストが高くなる。また、板状の金属コバルトは、耐蝕合金に用いられるように硫酸への溶解速度が遅く、短時間で溶解するためには、板状の金属コバルトをアトマイズ処理等によって粉末状にする必要がある。
このため、金属コバルトを経由することなく、直接的に塩化コバルト溶液から硫酸コバルト溶液を得る方法が望まれてきた。
特許文献3の従来技術で得られた金属コバルトから硫酸コバルト結晶を得ようとすれば、金属コバルトを硫酸で溶解して硫酸コバルト溶液を得、さらにこの溶液を晶析して、硫酸コバルト結晶を得ることができる。しかしながら、この製法を用いると、工程の増加や薬剤費の増加により製造コストが高くなる。また、板状の金属コバルトは、耐蝕合金に用いられるように硫酸への溶解速度が遅く、短時間で溶解するためには、板状の金属コバルトをアトマイズ処理等によって粉末状にする必要がある。
このため、金属コバルトを経由することなく、直接的に塩化コバルト溶液から硫酸コバルト溶液を得る方法が望まれてきた。
本発明は、上記実情に鑑みて提案されたものであり、不純物を含む塩化コバルト溶液から、電解工程を用いることなく不純物とコバルトを分離し、純度の高い硫酸コバルトを製造する方法を提供することを目的とする。
第1発明の硫酸コバルトの製造方法は、銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程、前記脱銅工程を経た塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程、前記第1溶媒抽出工程を経た塩化コバルト溶液にカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程、を順に実行し、前記第2溶媒抽出工程および(または)前記第1溶媒抽出工程を非酸化性雰囲気に維持することを特徴とする。
第2発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1発明において、前記脱銅工程において、硫化剤を添加した塩化コバルド溶液に酸化剤および中和剤を添加して酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整することを特徴とする。
第3発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1または第2発明において、前記第2溶媒抽出工程を経て得た硫酸コバルト溶液を晶析工程に付し、硫酸コバルトの結晶を得ることを特徴とする。
第4発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1、第2または第3発明において、前記第1溶媒抽出工程において、アルキルリン酸系抽出剤がリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)であり、銅が除去された塩化コバルト溶液のpHを1.5~3.0に調整して前記抽出剤を用いた溶媒抽出に付し、不純物元素を有機溶媒中に抽出することを特徴とする。
第5発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1、第2または第3発明において、前記第2溶媒抽出工程において、銅、亜鉛、マンガンおよびカルシウムが除去された塩化コバルト溶液にアルカリ溶液を添加して、pHを5.0~7.0に調整し、コバルトをカルボン酸系抽出剤を用いた有機溶媒中に抽出する抽出工程を実行することを特徴とする。
第6発明の硫酸コバルトの製造方法は、第5発明において、前記第2溶媒抽出工程における前記抽出工程に続けて、コバルトを抽出した有機溶媒に硫酸溶液を接触させて、pHを2.0~4.5に調整し、コバルトを硫酸溶液に逆抽出する逆抽出工程を実行することを特徴とする。
第2発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1発明において、前記脱銅工程において、硫化剤を添加した塩化コバルド溶液に酸化剤および中和剤を添加して酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整することを特徴とする。
第3発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1または第2発明において、前記第2溶媒抽出工程を経て得た硫酸コバルト溶液を晶析工程に付し、硫酸コバルトの結晶を得ることを特徴とする。
第4発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1、第2または第3発明において、前記第1溶媒抽出工程において、アルキルリン酸系抽出剤がリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)であり、銅が除去された塩化コバルト溶液のpHを1.5~3.0に調整して前記抽出剤を用いた溶媒抽出に付し、不純物元素を有機溶媒中に抽出することを特徴とする。
第5発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1、第2または第3発明において、前記第2溶媒抽出工程において、銅、亜鉛、マンガンおよびカルシウムが除去された塩化コバルト溶液にアルカリ溶液を添加して、pHを5.0~7.0に調整し、コバルトをカルボン酸系抽出剤を用いた有機溶媒中に抽出する抽出工程を実行することを特徴とする。
第6発明の硫酸コバルトの製造方法は、第5発明において、前記第2溶媒抽出工程における前記抽出工程に続けて、コバルトを抽出した有機溶媒に硫酸溶液を接触させて、pHを2.0~4.5に調整し、コバルトを硫酸溶液に逆抽出する逆抽出工程を実行することを特徴とする。
第1発明によれば、不純物を含む塩化コバルト溶液から、脱銅工程で銅を除去し、第1溶媒抽出工程で亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離除去し、第2溶媒抽出工程でマグネシウムを分離除去するので不純物のない高純度の硫酸コバルト溶液を得ることができる。しかも、第2溶媒抽出工程における逆抽出工程でコバルトの逆抽出量が低下することがない。したがって、電解工程を用いることなく高純度の硫酸コバルトを製造することができる。
第2発明によれば、塩化コバルト溶液から銅の硫化物を沈殿させて充分に除去することができ、しかもコバルトの共沈殿を抑制でき、硫酸コバルトの実収率を高めることができる。
第3発明によれば、さらに晶析工程を実行することで硫酸コバルト溶液から高純度の硫酸コバルト結晶を得ることができる。
第4発明によれば、アルキルリン酸系抽出剤としてリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)を用いるので、コバルト溶液から不純物である亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離しやすくなる。また、pHを1.5~3.0に調整することで、コバルトを水相に残して、亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出してコバルトと分離することができる。
第5発明によれば、pHを5.0~7.0に調整することで、カルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させて、コバルトを有機相に抽出することができる。
第6発明によれば、有機相に抽出されたコバルトと硫酸溶液を接触させpHを2.0~4.5に調整することで、コバルトを硫酸溶液に逆抽出することができる。こうして高純度の硫酸コバルト溶液が得られる。
第2発明によれば、塩化コバルト溶液から銅の硫化物を沈殿させて充分に除去することができ、しかもコバルトの共沈殿を抑制でき、硫酸コバルトの実収率を高めることができる。
第3発明によれば、さらに晶析工程を実行することで硫酸コバルト溶液から高純度の硫酸コバルト結晶を得ることができる。
第4発明によれば、アルキルリン酸系抽出剤としてリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)を用いるので、コバルト溶液から不純物である亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離しやすくなる。また、pHを1.5~3.0に調整することで、コバルトを水相に残して、亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出してコバルトと分離することができる。
第5発明によれば、pHを5.0~7.0に調整することで、カルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させて、コバルトを有機相に抽出することができる。
第6発明によれば、有機相に抽出されたコバルトと硫酸溶液を接触させpHを2.0~4.5に調整することで、コバルトを硫酸溶液に逆抽出することができる。こうして高純度の硫酸コバルト溶液が得られる。
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
(本発明の基本原理)
本発明に係る硫酸コバルトの製造方法を図1に基づき説明する。
この製造方法は以下の工程を順に実行することを特徴とする。
(1)銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に、硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程S1、
(2)脱銅工程S1により銅が除去された塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程S2、
(3)前記第1溶媒抽出工程S2により銅、亜鉛、マンガンおよびカルシウムが除去された塩化コバルト溶液にカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、非酸化性雰囲気下で有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程S3、を順に実行する。
本発明に係る硫酸コバルトの製造方法を図1に基づき説明する。
この製造方法は以下の工程を順に実行することを特徴とする。
(1)銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に、硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程S1、
(2)脱銅工程S1により銅が除去された塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程S2、
(3)前記第1溶媒抽出工程S2により銅、亜鉛、マンガンおよびカルシウムが除去された塩化コバルト溶液にカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、非酸化性雰囲気下で有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程S3、を順に実行する。
本発明では、前記各工程S1~S3の後で、必要に応じて硫酸コバルト溶液から結晶を析出させる晶析工程S4を実行する。
なお、図1には図示していないが、第1溶媒抽出工程S2の後、および(または)第2溶媒抽出工程S3の後で、液中に混入した有機成分を分離除するために活性炭カラム等の油水分離装置に供する工程を追加してもよい。
なお、図1には図示していないが、第1溶媒抽出工程S2の後、および(または)第2溶媒抽出工程S3の後で、液中に混入した有機成分を分離除するために活性炭カラム等の油水分離装置に供する工程を追加してもよい。
本発明において出発原料とする塩化コバルト溶液は、不純物元素として銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムのうち1種類以上を含んでいる。このような不純物を含む塩化コバルト溶液であれば本発明の適用に何ら限定されるものではないが、特にニッケル製錬の溶媒抽出工程において、コバルトを含有したニッケル溶液からアルキルリン酸系抽出剤やアミン系抽出剤によってニッケルが分離回収された後の塩化コバルト溶液に好適に適用される。
本発明によれば、塩化コバルト溶液から、脱銅工程S1により銅の硫化物沈殿を生成させて銅を除去し、第1溶媒抽出工程S2により亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離除去し、第2溶媒抽出工程S3によりマグネシウムを分離除去して、高純度の硫酸コバルト溶液を得ることができる。したがって、電解工程を用いることなく不純物とコバルトを分離して直接に高純度の硫酸コバルト溶液を製造することができる。
また、本発明によれば、前記各工程S1~S3を経た後の硫酸コバルト溶液を晶析工程S4に付すことで、溶液から結晶を析出させて硫酸コバルト結晶を得ることができる。
(実施形態)
以下、硫酸コバルトの製造方法の実施形態について図2~図4に基づき説明する。図2は、図1に示す工程S1~S3の詳細をまとめて示したものである。
以下、硫酸コバルトの製造方法の実施形態について図2~図4に基づき説明する。図2は、図1に示す工程S1~S3の詳細をまとめて示したものである。
(脱銅工程S1)
脱銅工程S1を図2に基づき説明する。
脱銅工程S1は、出発原料である銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に硫化剤を添加することにより行う。また、硫化剤の添加量を調整し、必要に応じて酸化剤および中和剤を添加して、塩化コバルト溶液の酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整する。
本工程により、塩化コバルト溶液から銅の硫化物の沈殿を生成させて分離し、銅が除去された塩化コバルト溶液を得ることができる。
脱銅工程S1を図2に基づき説明する。
脱銅工程S1は、出発原料である銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に硫化剤を添加することにより行う。また、硫化剤の添加量を調整し、必要に応じて酸化剤および中和剤を添加して、塩化コバルト溶液の酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整する。
本工程により、塩化コバルト溶液から銅の硫化物の沈殿を生成させて分離し、銅が除去された塩化コバルト溶液を得ることができる。
塩化コバルト溶液中の銅は、下記式1、式2あるいは式3に従って硫化銅の沈殿物を生成して、溶液中から除去される。
CuCl2+H2S→CuS↓+2HCl・・・(式1)
CuCl2+Na2S→CuS↓+2NaCl・・・(式2)
CuCl2+NaHS→CuS↓+NaCl+HCl・・・(式3)
CuCl2+H2S→CuS↓+2HCl・・・(式1)
CuCl2+Na2S→CuS↓+2NaCl・・・(式2)
CuCl2+NaHS→CuS↓+NaCl+HCl・・・(式3)
上記脱銅工程S1では、塩化コバルト溶液の酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整しておくと、硫化物として銅を充分に除去することができ、しかもコバルトの共沈殿を抑制することができる。このため、硫酸コバルトの実収率を高めることができる。
仮に、酸化還元電位が200mVを超えると溶液中の銅の除去が不十分となり、酸化還元電位が-100mV未満ではコバルトの共沈殿量が増加するため好ましくない。また、pHが1.3未満では、溶液中の銅の除去が不十分となると共に、生成する硫化物沈殿のろ過性が悪化する。pHが3.0を超えると、銅の除去に伴うコバルト共沈殿量が増加するため好ましくない。
仮に、酸化還元電位が200mVを超えると溶液中の銅の除去が不十分となり、酸化還元電位が-100mV未満ではコバルトの共沈殿量が増加するため好ましくない。また、pHが1.3未満では、溶液中の銅の除去が不十分となると共に、生成する硫化物沈殿のろ過性が悪化する。pHが3.0を超えると、銅の除去に伴うコバルト共沈殿量が増加するため好ましくない。
上記酸化還元電位の調整は、硫化剤の添加量を調整することにより行うことができる。硫化剤の投入により、酸化還元電位が所望した値より低くなった場合、酸化剤の添加により調整できる。たとえば、溶液中に空気を導入して撹拌する、あるいは過酸化水素溶液を添加することで調整できる。硫化剤としては、とくに限定されるものではないが、硫化水素ガス、硫化ナトリウムや水硫化ナトリウムの結晶や水溶液等を用いることができる。
また、上記pHの調整は、硫化剤として硫化水素や水硫化ナトリウムを用いる場合は、硫化剤の添加量調整と中和剤の添加によって行われる。中和剤としては、特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸コバルト等のアルカリ塩を用いることができる。
また、上記pHの調整は、硫化剤として硫化水素や水硫化ナトリウムを用いる場合は、硫化剤の添加量調整と中和剤の添加によって行われる。中和剤としては、特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸コバルト等のアルカリ塩を用いることができる。
(第1溶媒抽出工程S2)
第1溶媒抽出工程S2を図2および図3に基づき説明する。
第1溶媒抽出工程S2は、前記脱銅工程S1を経た塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する工程である。
第1溶媒抽出工程S2を図2および図3に基づき説明する。
第1溶媒抽出工程S2は、前記脱銅工程S1を経た塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する工程である。
有機溶媒としては、アルキルリン酸系抽出剤を希釈剤で希釈したものが用いられる。アルキルリン酸系抽出剤として、リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)(商品名D2EHPA)、(2-エチルヘキシル)ホスホン酸2-エチルヘキシル(商品名PC-88A)、ジ(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(商品名CYANEX272)が挙げられる。これらの中でも、銅が除去された塩化コバルト溶液から、亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離する場合、アルキルリン酸系抽出剤としてコバルトとの分離性が高いリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)を抽出剤として用いることが好ましい。リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)は、コバルト溶液から、不純物である亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離する特性が良いためである。
希釈剤は抽出剤を溶解可能なものであれば特に限定されない。希釈剤として、例えば、ナフテン系溶剤、芳香族系溶剤を用いることができる。抽出剤の濃度は、10~60体積%に調整することが好ましく、20~50%体積%に調整することがより望ましい。抽出剤の濃度がこの範囲であると、濃度の高い不純物元素も分配比(有機中の元素濃度/溶液中の元素濃度)が低い不純物元素も充分に抽出できる。一方、抽出剤の濃度が10%未満では、濃度の高い不純物元素や分配比が低い不純物元素を十分に抽出できず、塩化コバルト溶液に残留しやすくなる。また、抽出剤の濃度が60%を超えると有機溶媒の粘度が高くなり、有機溶媒(有機相)と塩化コバルト溶液(水相)の抽出操作後の相分離性が悪化する。
アルキルリン酸系抽出剤のような酸性抽出剤は、式4に示すように、その抽出剤の持つ-Hが水相中の陽イオンと置換して金属塩を形成することによって金属イオンを抽出する抽出剤である。一般的に、pHが高くなると金属イオンが有機相に抽出されやすくなり、pHを低くすると式4の反応が逆方向に進み、有機相に抽出された金属イオンが水相に逆抽出されやすくなる。
金属イオンの種類によって、抽出されるpHが異なため、酸性抽出剤を用いた溶媒抽出工程ではpHを制御することで目的の元素と不純物元素の分離を行う。
nRHorg + Mn+ aq → MRnorg + nH+ aq・・・(式4)
ここで、式中のRHは酸性抽出剤、Mn+はn価の金属イオン、orgは有機相、aqは水相を示す。
金属イオンの種類によって、抽出されるpHが異なため、酸性抽出剤を用いた溶媒抽出工程ではpHを制御することで目的の元素と不純物元素の分離を行う。
nRHorg + Mn+ aq → MRnorg + nH+ aq・・・(式4)
ここで、式中のRHは酸性抽出剤、Mn+はn価の金属イオン、orgは有機相、aqは水相を示す。
そこで、第1溶媒抽出工程S2では、銅が除去された塩化コバルト溶液のpHを1.5~3.0に調整することが望ましい。このpH領域では、亜鉛、マンガンおよびカルシウムの抽出率は、コバルトの抽出率より高い傾向を示し、コバルトを水相に残し、これらの不純物元素を有機相に抽出することでコバルトと分離することが可能である。
pHが1.5未満では、これらの不純物の抽出率が低く、コバルトとの分離が困難となり、pHが3.0を超えると、コバルトの抽出率も大きくなり、不純物との分離性が低下する。pHが1.5~3.0に調整した場合、コバルトの一部が抽出される場合もあるが、抽出後の有機相を抽出時より低いpHの塩酸溶液と接触させ、コバルトを逆抽出して回収し、コバルトのロスを低減することもできる。
さらに、この有機相とpH1以下の酸性溶液を接触させると、抽出されたほとんどの金属イオンを水相に逆抽出することができ、逆抽出後の有機相を再利用できる。
pHが1.5未満では、これらの不純物の抽出率が低く、コバルトとの分離が困難となり、pHが3.0を超えると、コバルトの抽出率も大きくなり、不純物との分離性が低下する。pHが1.5~3.0に調整した場合、コバルトの一部が抽出される場合もあるが、抽出後の有機相を抽出時より低いpHの塩酸溶液と接触させ、コバルトを逆抽出して回収し、コバルトのロスを低減することもできる。
さらに、この有機相とpH1以下の酸性溶液を接触させると、抽出されたほとんどの金属イオンを水相に逆抽出することができ、逆抽出後の有機相を再利用できる。
なお、第1溶媒抽出工程S2においても、後述の第2溶媒抽出工程S3と同様に、非酸化性雰囲気下で溶媒抽出処理を行っても良い。
(第2溶媒抽出工程S3)
第2溶媒抽出工程S3を図2および図4に基づき説明する。
第2溶媒抽出工程S3は、前記第1溶媒抽出工程S2を経た塩化コバルト溶液にカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る工程である。
有機溶媒としては、カルボン酸系抽出剤を希釈剤で希釈したものが用いられる。カルボン酸系抽出剤としては、バーサチック酸やナフテン酸が挙げられる。これらは、COOH其を有する酸性抽出剤である。
第2溶媒抽出工程S3を図2および図4に基づき説明する。
第2溶媒抽出工程S3は、前記第1溶媒抽出工程S2を経た塩化コバルト溶液にカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る工程である。
有機溶媒としては、カルボン酸系抽出剤を希釈剤で希釈したものが用いられる。カルボン酸系抽出剤としては、バーサチック酸やナフテン酸が挙げられる。これらは、COOH其を有する酸性抽出剤である。
カルボン酸系抽出剤は、金属イオンを抽出さる際、金属の価数に応じたプロトンを水相に放出し、金属イオンはカルボニル酸素に配位する。多くのカルボン酸は、無極性溶媒中でお互いに水素結合によって2量体、3量体を形成している。また、金属イオンを抽出する際、金属イオンに配位している水和水を除去するように酸解離していないカルボン酸が配位することがある。たとえば、6配位の2価の金属イオンM2+が2量体のカルボン酸抽出剤R2H2により抽出される反応は、式5のように表される。
[M(H2O)6]2+ aq+3(R2H2)org
→ (MR2・4RH)org+2H+ aq+6H2Oaq・・・(式5)
ここで、式中のorgは有機相、aqは水相を示す。
[M(H2O)6]2+ aq+3(R2H2)org
→ (MR2・4RH)org+2H+ aq+6H2Oaq・・・(式5)
ここで、式中のorgは有機相、aqは水相を示す。
(抽出工程)
第2溶媒抽出工程S3では、銅、亜鉛、マンガン、カルシウムが除去された塩化コバルト溶液に中和剤としてアルカリ溶液を添加して、pHを5.0~7.0に調整する。pHがこの範囲であると、カルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させて、コバルトを有機相に抽出することができる。このときマグネシウムは抽出されず水相に残留する。pHが5未満では、コバルトの抽出が困難であり、一方pHが7を超えると、コバルトの溶解度が低下し、沈殿が発生することがある。
第2溶媒抽出工程S3では、銅、亜鉛、マンガン、カルシウムが除去された塩化コバルト溶液に中和剤としてアルカリ溶液を添加して、pHを5.0~7.0に調整する。pHがこの範囲であると、カルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させて、コバルトを有機相に抽出することができる。このときマグネシウムは抽出されず水相に残留する。pHが5未満では、コバルトの抽出が困難であり、一方pHが7を超えると、コバルトの溶解度が低下し、沈殿が発生することがある。
抽出工程において、有機相と水相を混合する際には、巻き込む空気により酸化が促進されるが、有機相に抽出されたコバルトは酸素による酸化を受けて、3価のコバルトイオンになると、錯イオンであるカルボン酸との結合が強くなり、逆抽出が困難になる。
工業的な操業では、逆抽出後の有機相を抽出用の有機相として繰り返し再利用されることが普通であり、有機相にコバルトが残留していると、繰り返して使用する際に最初からコバルトの抽出量が減少してしまう。また、有機相の繰り返し回数が多くなると、逆抽出が困難な3価のコバルトイオンが有機相中に蓄積し、効率的な生産が阻害される問題が顕著になる。
工業的な操業では、逆抽出後の有機相を抽出用の有機相として繰り返し再利用されることが普通であり、有機相にコバルトが残留していると、繰り返して使用する際に最初からコバルトの抽出量が減少してしまう。また、有機相の繰り返し回数が多くなると、逆抽出が困難な3価のコバルトイオンが有機相中に蓄積し、効率的な生産が阻害される問題が顕著になる。
そのため、第2溶媒抽出工程S3の抽出工程では、酸化を防ぐために非酸化性雰囲気下で実施するようにされる。
本明細書における「非酸化性雰囲気」とはアルゴン、窒素、炭酸ガスなど酸化を抑制できるガスで気相部をパージした雰囲気のことである。酸化抑制ガスを抽出剤や水相に吹き込むと、溶存酸素を除去することも効果がある。酸化抑制ガスとして、工業的には窒素ガスを用いることが適している。
本明細書における「非酸化性雰囲気」とはアルゴン、窒素、炭酸ガスなど酸化を抑制できるガスで気相部をパージした雰囲気のことである。酸化抑制ガスを抽出剤や水相に吹き込むと、溶存酸素を除去することも効果がある。酸化抑制ガスとして、工業的には窒素ガスを用いることが適している。
図5は抽出工程を非酸化性雰囲気に維持することの利点を示すグラフである。同図において、抽出後の経過時間と経過時間ゼロ時点(抽出操作後に速やかに逆抽出操作を実施)のコバルト逆抽出量に対する一定時間経過に逆抽出操作を実施したときのコバルト逆抽出量の比の関係を示す。図5において窒素雰囲気を示す線は非酸化雰囲気の一例であり、大気雰囲気を示す線は一般的な空気雰囲気のことである。
窒素雰囲気下で実施した逆抽出は、コバルトの逆抽出量の低下はわずかであるが、一般的な大気雰囲気で実施した場合、経過時間の増加に従ってコバルトの逆抽出量が低下した。このように、工業的な操業のように有機相を抽出と逆抽出を繰り返しながら長期的に使用する場合は、窒素雰囲気で実施することが好ましいことが分かる。
窒素雰囲気下で実施した逆抽出は、コバルトの逆抽出量の低下はわずかであるが、一般的な大気雰囲気で実施した場合、経過時間の増加に従ってコバルトの逆抽出量が低下した。このように、工業的な操業のように有機相を抽出と逆抽出を繰り返しながら長期的に使用する場合は、窒素雰囲気で実施することが好ましいことが分かる。
(逆抽出工程)
前記抽出工程の後、有機相に抽出したコバルトと硫酸溶液を接触させて、pHを2.0~4.5に調整する。これによりコバルトを硫酸溶液に逆抽出することができる。こうして高純度の硫酸コバルト溶液が得られる。
pHが2未満でも逆抽出可能であるが、コバルトより低いpHで抽出された微量の不純物の逆抽出量が増加するため好ましくない。一方pHが4.5を超えるとコバルトを逆抽出率が低下し、コバルトの回収量が減少するので好ましくない。
前記抽出工程の後、有機相に抽出したコバルトと硫酸溶液を接触させて、pHを2.0~4.5に調整する。これによりコバルトを硫酸溶液に逆抽出することができる。こうして高純度の硫酸コバルト溶液が得られる。
pHが2未満でも逆抽出可能であるが、コバルトより低いpHで抽出された微量の不純物の逆抽出量が増加するため好ましくない。一方pHが4.5を超えるとコバルトを逆抽出率が低下し、コバルトの回収量が減少するので好ましくない。
なお、抽出後の有機相には、分相後も微細な水相が混入しているため、逆抽出の前にこの水相を除去するための洗浄工程を追加してもよい。洗浄工程の水相には、たとえば硫酸コバルト溶液を用いることができる。逆抽出工程も抽出工程と同様に非酸化性雰囲気下で実施することが好ましい。また、逆抽出後の有機相は、抽出工程の有機相として再利用できる。
上記の方法で、不純物の少ない高純度の硫酸コバルト溶液を製造することができる。
上記の方法で、不純物の少ない高純度の硫酸コバルト溶液を製造することができる。
(晶析工程S4)
晶析工程S4を図1に基づき説明する。
晶析工程S4では、第2溶媒抽出工程S3で得られた硫酸コバルト溶液から硫酸コバルトの結晶を析出させる。晶析方法は特に限定されるものではなく、一般的な結晶化方法を用いて行うことができる。
晶析工程S4を図1に基づき説明する。
晶析工程S4では、第2溶媒抽出工程S3で得られた硫酸コバルト溶液から硫酸コバルトの結晶を析出させる。晶析方法は特に限定されるものではなく、一般的な結晶化方法を用いて行うことができる。
たとえば、硫酸コバルト溶液を晶析缶に収容し、その晶析缶内で晶析することにより結晶を得る方法が挙げられる。晶析缶は、所定圧力下で硫酸コバルト溶液中の水分を蒸発させることにより結晶を析出させるものであり、たとえばロータリーエバポレーターやダブルプロペラ型の晶析缶が用いられる。真空ポンプ等により内部の圧力を減圧し、ロータリーエバポレーターではフラスコを回転しながら、ダブルプロペラで撹拌しながら晶析が進行する。なお、晶析缶内では、硫酸コバルト溶液に硫酸コバルトの結晶が混合したスラリーとなっている。
晶析缶から排出されたスラリーは、濾過器や遠心分離機等により硫酸コバルトの結晶と母液とに固液分離される。その後、硫酸コバルトの結晶を乾燥機で乾燥し、水分を除去する。
上記の方法で、硫酸コバルト溶液から硫酸コバルト結晶を製造することができる。もちろん、硫酸コバルト溶液は不純物の少ない高純度なものなので、得られる硫酸コバルト結晶も不純物の少ない高純度なものとなっている。
上記の方法で、硫酸コバルト溶液から硫酸コバルト結晶を製造することができる。もちろん、硫酸コバルト溶液は不純物の少ない高純度なものなので、得られる硫酸コバルト結晶も不純物の少ない高純度なものとなっている。
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
(脱銅工程S1)
pH2.5に調整した表1の元液Aに示す組成からなる塩化コバルト溶液2Lに硫化剤として水硫化ナトリウム溶液を添加して、酸化還元電位を-50mV(Ag/AgCl電極基準)に調整して、銅の硫化物の沈殿を生成させた。濾過器で沈殿物を分離除去し、表1の硫化後Bに示す組成の濾液を得た。銅の濃度は0.001g/L未満であり、銅を分離除去することができた。
(脱銅工程S1)
pH2.5に調整した表1の元液Aに示す組成からなる塩化コバルト溶液2Lに硫化剤として水硫化ナトリウム溶液を添加して、酸化還元電位を-50mV(Ag/AgCl電極基準)に調整して、銅の硫化物の沈殿を生成させた。濾過器で沈殿物を分離除去し、表1の硫化後Bに示す組成の濾液を得た。銅の濃度は0.001g/L未満であり、銅を分離除去することができた。
(第1溶媒抽出工程S2)
アルキルリン酸系抽出剤(商品名D2EHPA、大八化学工業株式会社製)の濃度が40体積%となるように希釈剤(商品名テクリーンN20、JX日鉱日石エネルギー株式会社製)で希釈した有機相を準備した。脱銅工程S1で得られた塩化コバルト溶液からなる水相0.9Lと有機相1.8Lを混合し、pHが1.7になるように水酸化ナトリウム溶液を添加して調整し、不純物を抽出した。抽出後の水相0.9Lと新たな有機相1.8Lで同様の抽出操作を繰り返し、合計3回の抽出操作を行なった。その結果、表1の第1SX後Cに示す組成の塩化コバルト溶液を得た。亜鉛、マンガンおよびカルシウムの濃度は、いずれも0.001g/L未満であり、これらの不純物を分離除去することができた。
アルキルリン酸系抽出剤(商品名D2EHPA、大八化学工業株式会社製)の濃度が40体積%となるように希釈剤(商品名テクリーンN20、JX日鉱日石エネルギー株式会社製)で希釈した有機相を準備した。脱銅工程S1で得られた塩化コバルト溶液からなる水相0.9Lと有機相1.8Lを混合し、pHが1.7になるように水酸化ナトリウム溶液を添加して調整し、不純物を抽出した。抽出後の水相0.9Lと新たな有機相1.8Lで同様の抽出操作を繰り返し、合計3回の抽出操作を行なった。その結果、表1の第1SX後Cに示す組成の塩化コバルト溶液を得た。亜鉛、マンガンおよびカルシウムの濃度は、いずれも0.001g/L未満であり、これらの不純物を分離除去することができた。
(第2溶媒抽出工程S3)
カルボン酸系抽出剤(商品名Versatic Acid 10、オクサリスケミカルズ社製)の濃度が30体積%となるように希釈剤(テクリーンN20)で希釈した有機相を準備した。非酸化性雰囲気を維持するため窒素ガスをボンベから流量1L/minで抽出反応槽内に吹き込みながら、第1溶媒抽出工程S2で得られた塩化コバルト溶液からなる水相0.44Lと有機相1Lを混合し、pHが6.5になるように水酸化ナトリウム溶液を添加して調整し、コバルトを有機相に抽出した。
つぎに、窒素ガスを1L/minで流しながら、抽出した有機相0.6Lとコバルト濃度10g/Lの塩化コバルト溶液0.6Lを混合し、抽出後の有機相に混入していた水相を洗浄した。続いて、この有機相と純水0.09Lの純水を混合し、硫酸を添加してpH4に調整し、コバルトを逆抽出した。このとき、99%以上のコバルトを逆抽出することができた。その結果、表1の第2SX後Dに示す組成の硫酸コバルト溶液を得た。マグネシウム濃度は0.001g/L未満であり、マグネシウムを分離除去することができた。
以上の方法により高純度の硫酸コバルト溶液を得た。
カルボン酸系抽出剤(商品名Versatic Acid 10、オクサリスケミカルズ社製)の濃度が30体積%となるように希釈剤(テクリーンN20)で希釈した有機相を準備した。非酸化性雰囲気を維持するため窒素ガスをボンベから流量1L/minで抽出反応槽内に吹き込みながら、第1溶媒抽出工程S2で得られた塩化コバルト溶液からなる水相0.44Lと有機相1Lを混合し、pHが6.5になるように水酸化ナトリウム溶液を添加して調整し、コバルトを有機相に抽出した。
つぎに、窒素ガスを1L/minで流しながら、抽出した有機相0.6Lとコバルト濃度10g/Lの塩化コバルト溶液0.6Lを混合し、抽出後の有機相に混入していた水相を洗浄した。続いて、この有機相と純水0.09Lの純水を混合し、硫酸を添加してpH4に調整し、コバルトを逆抽出した。このとき、99%以上のコバルトを逆抽出することができた。その結果、表1の第2SX後Dに示す組成の硫酸コバルト溶液を得た。マグネシウム濃度は0.001g/L未満であり、マグネシウムを分離除去することができた。
以上の方法により高純度の硫酸コバルト溶液を得た。
(晶析工程S4)
ロータリーエバポレーターに硫酸コバルト溶液を挿入し、内部を真空ポンプで減圧にするとともに、温度40℃に維持してフラスコ部を回転しながら水分を蒸発させ、硫酸コバルトの結晶を析出させた。固液分離後、得た硫酸コバルトの結晶を乾燥機で乾燥した。その結果、表2に示すような高純度の硫酸コバルト結晶を得た。
ロータリーエバポレーターに硫酸コバルト溶液を挿入し、内部を真空ポンプで減圧にするとともに、温度40℃に維持してフラスコ部を回転しながら水分を蒸発させ、硫酸コバルトの結晶を析出させた。固液分離後、得た硫酸コバルトの結晶を乾燥機で乾燥した。その結果、表2に示すような高純度の硫酸コバルト結晶を得た。
(実施例2)
第2溶媒抽出工程3における抽出工程およびその後の洗浄工程で、非酸化性雰囲気を維持するための窒素ガスを導入しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で硫酸コバルト溶液を得た。
この場合の組成を表3に示す。表3の第2SX後Dに示すように、高純度の硫酸コバルト溶液を得ることができた。なお、第2溶媒抽出工程S3でのコバルトの逆抽出率は99%であった。
第2溶媒抽出工程3における抽出工程およびその後の洗浄工程で、非酸化性雰囲気を維持するための窒素ガスを導入しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で硫酸コバルト溶液を得た。
この場合の組成を表3に示す。表3の第2SX後Dに示すように、高純度の硫酸コバルト溶液を得ることができた。なお、第2溶媒抽出工程S3でのコバルトの逆抽出率は99%であった。
実施例1のコバルト逆抽出率99%強に対し実施例2では99%であるので、約1%の相違がある。実施例1、2の実験はバッチ処理であったので逆抽出率の差は小さいが、連続処理になるとその差は大きくなる。連続処理では、逆抽出後の有機相は再度コバルトの抽出に利用され、抽出と逆抽出が繰り返されるため、有機相中で酸化されたコバルトが有機相中に徐々に蓄積される。また、蓄積量が増えていくと逆抽出率だけでなく抽出率も低下する。よって、抽出から逆抽出までを非酸化性雰囲気とする効果は大きい。
以上の実施例1、2の結果から、本発明によれば、不純物を充分に除去できた純度の高い硫酸コバルトを得ることが分かる。
本発明により得られた純度の高い硫酸コバルト結晶は、リチウムイオン二次電池の原料として利用できるほか、様々な用途に利用できる。
S1 脱銅工程
S2 第1溶媒抽出工程
S3 第2溶媒抽出工程
S4 晶析工程
S2 第1溶媒抽出工程
S3 第2溶媒抽出工程
S4 晶析工程
Claims (6)
- 銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程、
前記脱銅工程を経た塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程、
前記第1溶媒抽出工程を経た塩化コバルト溶液にカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程、
を順に実行し、
前記第2溶媒抽出工程および(または)前記第1溶媒抽出工程を非酸化性雰囲気に維持する
ことを特徴とする硫酸コバルトの製造方法。 - 前記脱銅工程において、硫化剤を添加した塩化コバルド溶液に酸化剤および中和剤を添加して酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整する
ことを特徴とする請求項1記載の硫酸コバルトの製造方法。 - 前記第2溶媒抽出工程を経て得た硫酸コバルト溶液を晶析工程に付し、硫酸コバルトの結晶を得る
ことを特徴とする請求項1または2記載の硫酸コバルトの製造方法。 - 前記第1溶媒抽出工程において、アルキルリン酸系抽出剤がリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)であり、
銅が除去された塩化コバルト溶液のpHを1.5~3.0に調整して前記抽出剤を用いた溶媒抽出に付し、不純物元素を有機溶媒中に抽出する
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の硫酸コバルトの製造方法。 - 前記第2溶媒抽出工程において、銅、亜鉛、マンガンおよびカルシウムが除去された塩化コバルト溶液にアルカリ溶液を添加して、pHを5.0~7.0に調整し、コバルトをカルボン酸系抽出剤を用いた有機溶媒中に抽出する抽出工程を実行する
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の硫酸コバルトの製造方法。 - 前記第2溶媒抽出工程における前記抽出工程に続けて、コバルトを抽出した有機溶媒に硫酸溶液を接触させて、pHを2.0~4.5に調整し、コバルトを硫酸溶液に逆抽出する逆抽出工程を実行する
ことを特徴とする請求項5記載の硫酸コバルトの製造方法。
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