JP2022110909A - 鋼の水素拡散係数の導出方法、及び鋼の耐水素脆化特性評価方法 - Google Patents

鋼の水素拡散係数の導出方法、及び鋼の耐水素脆化特性評価方法 Download PDF

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Abstract

Figure 2022110909000001
【課題】特定の水素透過係数における鋼の水素拡散係数Dを一層正確に測定可能である鋼の水素拡散係数の導出方法、及び、特定の水素透過係数における鋼の耐水素脆化特性を一層正確に測定可能である鋼の耐水素脆化特性評価方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る鋼の水素拡散係数の導出方法は、鋼の水素拡散係数を、電気化学的水素透過法を用いて測定する工程を有し、前記測定において、ビルドアップ後の水素透過係数を0.3μA/cm以下とし、前記測定において得られる前記水素拡散係数を、前記ビルドアップ後の前記水素透過係数が適用された前記鋼における固有の値とみなす。
【選択図】図2

Description

本発明は、鋼の水素拡散係数の導出方法、及び鋼の耐水素脆化特性評価方法に関する。
機械構造用の鋼、特に高強度鋼においては、水素脆化が問題となる場合がある。腐食環境など、水素が多く存在する環境において、特に水素脆化が問題となりやすい。そのため、鋼の耐水素脆化特性を正確に評価することが極めて重要である。ここで、水素脆化とは、鋼中に吸収された水素により鋼の強度(延性又は靭性)が低下する現象である。
鋼の耐水素脆化特性評価方法は様々である。これらの中で、電気化学的水素透過法が広く用いられている。電気化学的水素透過法による評価では、例えば、鋼の表面水素濃度C0を透過電流密度Jから予測する。電気化学的水素透過法は、短時間で、鋼中への水素の侵入量を経時的に評価できる利点がある。
電気化学的水素透過法による、鋼中水素侵入量の測定方法の一例を説明する。図1に示すように、2つのセルの間に試料の板材を挟みこむ。図1における試料の左側のセルでは、陰極電解チャージ法により、試料左側の表面(試験面)に強制的に水素を発生させる。図1における試料の右側のセルでは、試料右側の表面(検出面)を陽極に分極することによって、右側に透過してきた水素が水素イオンに酸化された際の電流値を読み取る。左側では、ガルバノ・ポテンショスタット111で電位または電流を一定制御する。右側では、例えばAg/AgClを参照電極118として、ポテンショスタット112で電位を一定制御する。左側の電解セルの溶液113は、例えばNaCl液である。右側の電解セルの溶液114は、例えばNaOH水溶液である。
上述の方法で得られる値、即ち生データは、試料を流れる電流値である。試料を流れる電流値を、試料の検出面の面積で割った値は、透過電流密度Jと称される。電気化学的水素透過法では、透過電流密度J、試料の板厚L、及び試料の水素拡散係数Dを下記式1に代入することにより、鋼の表面水素濃度C0を算出する。鋼の表面水素濃度C0は、あるとき、あるタイミングでどれだけの水素が鋼中に侵入したのかを意味する。また、J×Lは水素透過係数と称される。
C0=1.318×J×L/D ……(式1)
ところで、式1の演算を行うためには、試料の水素拡散係数Dを予め知る必要がある。水素拡散係数Dも、電気化学的水素透過法によって測定することができる。電気化学的水素透過法による水素拡散係数Dの測定方法の詳細は、例えば非特許文献1及び非特許文献2に記載されている。簡単に説明すると、水素拡散係数Dは、試料左側の表面(試験面)から試料に水素を侵入させる際に電位または電流を増減させ、これにより生じる透過電流密度Jの経時変化データを測定し、この経時変化データをFickの拡散方程式に当てはめることにより求められる。経時変化データから水素拡散係数Dを得る手段として、例えばHalf-rise time法、Time lag法、Inflection point time法、及びBreakthrough time法などが挙げられる。これらの詳細は非特許文献3に詳述されている。
「鉄鋼材料中の水素拡散の測定法に関する問題点」吉沢四郎、山川宏二、防食技術、1975年、24号、第365頁-第373頁 「電気化学的水素透過法を用いた水素脆化の研究について」櫛田隆弘、材料と環境、2000年、49号、第195頁-第200頁 「電気化学法による鉄鋼への水素侵入・透過の計測」水流徹、材料と環境、2014年、63巻、1号、第3頁-第9頁
本発明は、特定の水素透過係数における鋼の水素拡散係数Dを一層正確に測定可能である鋼の水素拡散係数の導出方法、及び、特定の水素透過係数における鋼の耐水素脆化特性を一層正確に測定可能である鋼の耐水素脆化特性評価方法を提供することを目的とする。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る鋼の水素拡散係数の導出方法は、鋼の水素拡散係数を、電気化学的水素透過法を用いて測定する工程を有し、前記測定において、ビルドアップ後の水素透過係数を0.3μA/cm以下とし、前記測定において得られる前記水素拡散係数を、前記ビルドアップ後の前記水素透過係数が適用された前記鋼における固有の値とみなす。
(2)上記(1)に記載の鋼の水素拡散係数の導出方法では、前記測定を、0.3μA/cm以下の範囲内の複数の水素透過係数を前記ビルドアップに適用しながら複数回行い、次いで、前記鋼の前記水素拡散係数と前記ビルドアップ後の前記水素透過係数との関係を近似する関数を得てもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の鋼の水素拡散係数の導出方法では、前記測定において、前記ビルドアップ後の前記水素透過係数を0.2μA/cm以下としてもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の鋼の水素拡散係数の導出方法では、前記鋼の引張強さを1100MPa以上としてもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の鋼の水素拡散係数の導出方法では、前記測定において、鋼の水素侵入側に配される溶液がアルカリ溶液であってもよい。
(6)本発明の別の態様に係る鋼の耐水素脆化特性評価方法は、鋼の限界拡散性水素濃度を測定する工程を有し、前記測定において、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の鋼の水素拡散係数の導出方法によって得られた水素拡散係数を用いて、水素添加後の均一化処理時間を同定する。
本発明によれば、特定の水素濃度における鋼の水素拡散係数Dを正確に測定可能である鋼の水素拡散係数の導出方法、及び、特定の水素濃度における鋼の耐水素脆化特性を正確に測定可能である鋼の耐水素脆化特性評価方法を提供することができる。
電気化学的水素透過法を実施するための装置の概念図である。 実施例1の、水素拡散係数Dとビルドアップ透過係数との関係を示すグラフである。 実施例2の、水素拡散係数Dとビルドアップ透過係数との関係を示すグラフである。
鋼の水素拡散係数Dは、温度、及び材料の特性によって決定されると考えられてきた。この考えに従えば、同一の鋼試料に同一の温度で電気化学的水素透過法による評価を行えば、同じ水素拡散係数Dが得られるはずである。現実に、ビルドアップ透過係数を例えば1μA/cm超として鋼の水素拡散係数を測定した場合には、ビルドアップ透過係数の大小にかかわらず、水素拡散係数Dの測定値には良好な再現性がみられる。ここで、ビルドアップとは、試料左側の表面(試験面)に発生させる水素の量を増大させ、これにより、水素透過係数を増大させる操作のことである。ビルドアップ後の水素透過係数、又はビルドアップ後の透過係数とは、ビルドアップによる透過電流値の増大が完了し平衡状態に達したとみなされる時点の水素透過係数のことである。ビルドアップによって生じた水素透過係数の変化の様相に基づき、鋼の水素拡散係数が求められる。
一方、ビルドアップ後の透過係数が小さい場合には、同一の鋼試料に同一の温度で電気化学的水素透過法による評価を行ったとしても、水素拡散係数Dの測定値がばらつく場合がある。これまで、水素拡散係数Dの測定値のばらつきは、測定誤差として取り扱われてきた。水素拡散係数Dを電気化学的水素透過法によって測定する場合は、測定精度を確保するために、ビルドアップ後の透過係数を大きくすることが重要であると考えられてきた。
しかしながら本発明者らは、水素拡散係数Dの測定値のばらつきを生じさせる要因について鋭意検討を重ねた。具体的には、ビルドアップ後の透過係数などの諸々の測定条件を精密に制御しながら、測定条件と水素拡散係数Dの測定値との関係を調査した。その結果、ビルドアップ後の透過係数が0.3μA/cm以下である場合に、ビルドアップ後の透過係数と水素拡散係数Dの測定値との関係を表した常用対数の両対数グラフにおいて良好な線形関係があることを、本発明者らは知見した。これは、水素濃度が低い環境において、鋼の水素拡散係数Dに水素濃度依存性があることを示している。水素拡散係数Dを測定するためのビルドアップ後の透過係数が小さいほど、鋼中に侵入する水素の量が小さいからである。
本発明者らの知見は、鋼中の水素拡散に関する技術常識に反するものである。長年にわたり、水素拡散係数Dの水素濃度依存性は見落とされ、鋼の特性評価において考慮されていなかった。例えば非特許文献1は、水素透過速度を増すと拡散係数が変化する現象が報告されていることを認めつつ、この現象は試料の表面加工層などに起因するものであると推定している。この現象が、水素拡散係数Dの水素濃度依存性によるものだと結論付ける学術報告について、非特許文献1は否定的な見解を示している。非特許文献2でも「水素拡散係数Dの濃度依存性は基本的にない」という前提に立って種々の考察がなされており、例外は考慮されていない。
確かに、測定装置の性能が低く、測定手順が確立していない時代において、水素拡散係数Dの測定値のばらつきの原因は測定精度にあったと考えられる。非特許文献1には「鉄鋼材料中の水素溶解量および拡散定数についてさえも測定者によるバラつきが著しい」と記載されている。しかしながら、この時代に確立したと推定される技術常識は、測定装置の性能が向上した近年においても維持されている。これは、ビルドアップ後の透過係数が大きい条件で水素拡散係数Dをした場合には、上述の通り水素拡散係数Dの測定値がばらつかず、従って特段の問題が生じないからであると考えられる。水素拡散係数Dの水素濃度依存性についての報告は、近年では皆無であった。
本発明者らは、これまで何ら問題視されていなかった、ビルドアップ透過係数が低い測定条件における水素拡散係数Dの測定値のばらつきについて精緻に検討することにより、鋼の水素拡散係数Dの水素濃度依存性を知見するに至った。水素拡散係数Dが水素濃度依存性を有する原因は明らかではないが、本発明者らは、水素トラップサイトに起因すると推定している。鋼材には、複数の水素トラップサイトが存在する。水素トラップサイトとは、例えば、転位、粒界、介在物、析出物、及び応力場などである。水素トラップサイトは、水素トラップ鋼と称される鋼種ではない、通常の鋼にも多く含まれる物である。水素トラップエネルギー(E)、及びそのキャパシティは、水素トラップサイトの種類に応じて異なる。従って、侵入する水素の濃度に応じて、水素の挙動に支配的な水素トラップサイトが異なる。具体的には、水素濃度が高いほど、水素トラップエネルギー(E)が大きい水素トラップサイトの影響力は小さくなり、水素の挙動に実質的な影響を与える水素トラップサイトの数が小さくなる。反対に、水素濃度が低いほど、水素トラップエネルギー(E)が大きい水素トラップサイトの影響力が増大し、全ての水素トラップサイトが水素の挙動に実質的影響を与えるようになる。材料の水素拡散係数は、水素トラップサイトの影響を大きく受ける。水素トラップサイトが無ければ、水素の拡散速度は非常に速くなる。以上の理由により、水素濃度が低い場合に水素拡散係数Dが水素濃度依存性を持つと本発明者らは考えている。
以上の知見に基づいて完成した本発明の一態様に係る鋼の水素拡散係数の導出方法は、鋼の水素拡散係数を、電気化学的水素透過法を用いて測定する工程を有し、この測定において、ビルドアップ後の水素透過係数を0.3μA/cm以下とし、且つ、この測定において得られる水素拡散係数を、前記ビルドアップ後の水素透過係数が適用された鋼における固有の値とみなす。以下に、本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法について詳細に説明する。
本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法では、電気化学的水素透過法を用いて、鋼の水素拡散係数Dを測定する。測定は、ビルドアップ後の水素透過係数を除き、通常の条件で実施すればよい。例えば、非特許文献1又は非特許文献2において説明されている方法を用いて、鋼の水素拡散係数Dを測定することができる。鋼試料の調製方法、及び測定装置などに関しても、通常用いられている構成を適宜採用することができる。
ただし、本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法では、ビルドアップ後の水素透過係数(ビルドアップ透過係数)を0.3μA/cm以下とする必要がある。このビルドアップ透過係数は、通常よりもかなり小さい値である。通常であれば、水素拡散係数Dの測定値を安定させるために、ビルドアップ後の透過係数を例えば1.0μA/cm以上にすることがよいと考えられている。確かに、高水素濃度における水素拡散係数Dを得ることを目的とする測定において、この条件は妥当である。しかしながら本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法の目的は、低水素濃度における水素拡散係数Dを正確に測定することである。本発明者らの実験結果によれば、ビルドアップ透過係数が0.3μA/cm以下である場合に、ビルドアップ後の透過係数と水素拡散係数Dとの間に良好な相関関係が発現する。以上の理由により、ビルドアップ透過係数は0.3μA/cm以下の任意の値とする。ビルドアップ後の透過係数を0.2μA/cm以下、又は0.1μA/cm以下としてもよい。
さらに、本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法では、測定において得られる水素拡散係数を、上述のビルドアップ後の水素透過係数が適用された鋼における固有の値とみなす。本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法では、鋼の水素拡散係数Dとビルドアップ後の透過係数との間に相関関係があるという前提で行われるので、ビルドアップ後の透過係数と水素拡散係数Dとを関連付けるのである。これは、通常の水素拡散係数の導出方法との著しい対照をなす。通常の導出方法は、鋼の水素拡散係数Dとビルドアップ後の透過係数との間に相関関係はないという前提で行われるので、両者の関連付けをすることはない。
また、鋼の水素拡散係数の測定を、0.3μA/cm以下の範囲内の複数の水素透過係数をビルドアップに適用しながら複数回行い、次いで、鋼の水素拡散係数とビルドアップ後の水素透過係数との関係を近似する関数を得てもよい。これにより、鋼の水素拡散係数Dとビルドアップ後の透過係数との間の相関関係を具体的に知ることができる。また、この近似関数を用いて、測定の際に適用されなかったビルドアップ後の透過係数に対応する水素拡散係数を推定することができる。
本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法は、少なくとも鋼に対して適用することが可能である。鋼種は特に限定されない。一方、鋼の強度が高いほど、低水素濃度環境で水素脆化が生じるので、高強度鋼において正確な水素拡散係数を知る必要性が高い。そのため、水素拡散係数を導出しようとする鋼の引張強さを1100MPa以上、1300MPa以上、又は1500MPa以上としてもよい。
上述の通り、鋼の水素拡散係数Dの測定条件は、ビルドアップ後の水素透過係数を0.3μA/cm以下とする限り、通常のものを適宜採用することができる。一方、測定において、鋼の水素侵入側に配される溶液(図1における、試料左側の溶液113)を、アルカリ溶液(例えばNaOHを含む溶液)としてもよい。これは、鋼の水素侵入側の表面における水素発生反応を穏やかなものとし、鋼中への水素の侵入量を小さくするためである。これにより、ビルドアップ後の透過係数を0.3μA/cm以下に制御することが容易となる。鋼の水素侵入側に配される溶液は、具体的には、約1NのNaOH溶液とすることが好ましい。
なお、通常の電気化学的水素透過法では、鋼の水素侵入側に配される溶液をNaCl溶液やNHSCNを含む溶液とすることが多い。NaCl溶液やNHSCNを含む溶液は、鋼の水素侵入側の表面における水素の発生量を大きくして、ひいてはビルドアップ後の透過係数を大きくする働きを有する。リン酸系緩衝液も同様の働きを有する。そのため、リン酸系緩衝液は、水素濃度が高い環境(例えば1.0μA/cm以上のビルドアップ後の透過係数に対応する環境)における水素拡散係数を導出するための電気化学的水素透過法に適している。また、NaCl溶液やNHSCNを含む溶液は、NaOHよりも安全性が高い。ただし、本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法では、ビルドアップ後の水素透過係数を0.3μA/cm以下とする必要があるので、NaCl溶液やNHSCNを含む溶液の使用は好ましくないと考えられる。
鋼の水素拡散係数Dの好ましい測定条件の例は以下の通りである。
・侵入側溶液:約1NのNaOH
・引抜側溶液:約1NのNaOH(ただし、通常の電気化学的水素透過法における溶液を用いても良い)
・試験片厚み0.5mm、侵入側の表面は電解研磨仕上げとして加工層を除く
・ビルドアップ電位:-1.10V
また、初期の透過電流値を安定させるために、-1.00Vで5時間予備電解を実施してもよい。予備電解後の透過電流値は、測定におけるバックグラウンドと考えることができる。試験片の引抜側の表面には、予めNiめっきを実施することが好ましい。本発明者らの測定においては、Niめっき厚を200nmにすることを目標として、試験片に電気めっきを実施した。
上述の手順によって得られた水素拡散係数Dを用いて、鋼の表面水素濃度C0を求める方法の一例は以下の通りである。
(第1の測定)
まず、図1に示すように、2つの電解セルの間に試料の板材を挟みこむ。図1における試料の左側のセルでは、陰極電解チャージ法により、試料左側の表面(試験面)に強制的に水素を発生させる。図1における試料の右側のセルでは、試料右側の表面(検出面)を陽極に分極することによって、右側に透過してきた水素が水素イオンに酸化された際の電流値を読み取る。試料の左側では、ガルバノ・ポテンショスタット111で電位を一定制御する。試料の右側では、例えばAg/AgClを参照電極として、ポテンショスタット112で電位を一定制御する。
試料左側の表面(試験面)に強制的に水素を発生させる際には、水素の発生量を、測定目的に応じた特定の値とする。例えば、特定の腐食環境における鋼材への水素侵入量を予想することを目的とする場合は、その腐食環境を模擬するように水素発生量を制御する。
水素発生量を一定にしながら上述の測定を実施すると、透過電流密度Jは徐々に上昇し、やがて平衡状態に達する。透過電流密度Jの平衡値を、試験結果として記録する。
(第2の測定)
この透過電流密度Jの飽和値に試験片の板厚をかけた値が0.3μA/cm以下である場合、この値を、本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法に適用する。即ち、第1の測定において測定対象とされた鋼と同一の鋼に対し、水素拡散係数の測定を、電気化学的水素透過法を用いて行う。ここで、ビルドアップ後の水素透過係数を、第1の測定で得られた透過電流密度Jの平衡値に試験片の板厚Lをかけた値とみなす。これにより得られた水素拡散係数を、第1の測定で得られた透過係数J×Lの平衡値における鋼の固有の値とみなす。
(表面水素濃度C0の算出)
第1の測定における鋼の板厚L、第1の測定で得られた透過電流密度Jの平衡値、及び第2の測定で得られた水素拡散係数Dを、下記式2に代入することにより、鋼の表面水素濃度C0を算出する。
C0=1.318×J×L/D ……(式2)
技術常識によれば、水素拡散係数Dは、水素透過係数J×Lには依存しないとされている。また、技術常識によれば、水素拡散係数Dを測定する際にはビルドアップ後の透過係数を大きくすることが好ましいとされている。従って通常は、第2の測定を行う場合には、第1の測定において得られた透過電流密度Jの平衡値よりもはるかに大きい値に基づいてビルドアップ後の透過係数が設定されるはずである。しかしながら、本実施形態に係る拡散係数の測定方法を用いる場合は、第1の測定において得られた透過電流密度Jの平衡値に基づいて第2の測定を行い、これにより得られた拡散係数を用いてC0を算出する。これにより、水素透過係数が低い測定条件におけるC0の確度が一層向上するものと考えられる。なお、上述した鋼の水素拡散係数とビルドアップ後の水素透過係数との関係を近似する関数を予め得ている場合は、第2の測定を省略することができる。
次に、本発明の別の態様に係る鋼の耐水素脆化特性評価方法について説明する。本実施形態に係る鋼の耐水素脆化特性評価方法は、鋼の限界拡散性水素濃度を測定する工程を有し、この測定において、本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法によって得られた水素拡散係数を用いて、水素添加後の均一化処理時間を同定する。ここで、限界拡散性水素濃度とは、ある一定の負荷応力を設定した試験片に、水素脆化による破断を生じさせない水素濃度の最大値のことである。水素添加後の均一化処理時間とは、試験片に水素を添加した後、試験片内の水素濃度を均一にさせるために必要な放置時間である。
鋼の耐水素脆化特性評価方法において、本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法によって得られた水素拡散係数を用いて、水素添加後の均一化処理時間を同定すべき理由を以下に説明する。
通常の鋼の耐水素脆化特性評価方法の手順は、
(1)試験片に水素をチャージする工程と、
(2)水素がチャージされた試験片の表面をめっきする工程と、
(3)めっきされた試験片における水素濃度を均一化する工程(均一化処理工程)と、
(4)均一化処理された試験片に、所定時間の間、応力を付加する工程と、
(5)所定時間の間、応力が付加された後の試験片において、破断が生じているか否かを判断する工程と、
(6)破断が生じなかった試験片の平均水素濃度を昇温脱離法により測定する工程と
を含む。試験片の表面をめっきするのは、試験片にチャージされた水素を試験片内に封じ込めるためである。試験片に均一化処理をする理由は、測定精度を向上させるためである。均一化処理前の試験片の内部には、水素の濃淡が存在している。水素が濃化した領域は、破断しやすい。しかしながら、試験片を破断させた後で測定される水素量は、試験片に含まれる水素量の合計値である。従って、均一化処理されていない試験片は、均一化処理された試験片よりも破断しやすく、耐水素脆化特性が低いと判断されてしまう。
ここで、均一化処理時間は、試験片の水素拡散係数に基づいて決定される。誤った水素拡散係数を用いて均一化処理時間を決定した場合、水素の均一化処理が不十分なままで試験が行われ、試験片の耐水素脆化特性が真値よりも低く評価されるおそれがある。本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法によって得られた水素拡散係数を用いて、水素添加後の均一化処理時間を同定することにより、均一化処理を一層適切に行うことができる。
本実施形態に係る鋼の水素拡散係数の導出方法によって得られた水素拡散係数は、水素濃度が低い環境における水素拡散係数の水素濃度依存性を考慮して得られた値である。従って、この水素拡散係数を用いた鋼の耐水素脆化特性評価方法によれば、特に水素濃度が低い環境でも水素脆化を生じる高強度鋼の限界拡散性水素濃度を従来よりも高確度で評価可能である。
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
(実施例1)
厚さ2mmの板形状のJIS SCM435鋼に対し、900℃から油焼入れを行い、500℃で焼戻すことで引張強さを1208MPaとした鋼材を用いた。両面研削かつ電解研磨仕上げで所定の板厚に加工した。ビルドアップ透過係数を0.3μA/cm以下として、Half-rise time法により鋼の水素拡散係数を導出した。測定条件は下表の通りとした。
Figure 2022110909000002
また、対比のために、ビルドアップ透過係数を0.3μA/cm超として、通常の水素拡散係数の測定もあわせて実施した。測定条件は下表の通りとした。
Figure 2022110909000003
これら測定データを、縦軸が水素拡散係数であり横軸がビルドアップ透過係数である散布図にプロットした。その結果を図2に示す。ビルドアップ透過係数を0.3μA/cm超として導出された水素拡散係数は、ビルドアップ透過係数に関わらずほぼ一定である(図2中の「リン酸系緩衝液」のプロット参照)。一方、ビルドアップ透過係数を0.3μA/cm以下として導出された水素拡散係数と、ビルドアップ透過係数との間には、良好な線形関係が見られた(図2中の「NaOH」のプロット参照)。
(実施例2)
実施例1と同様に、ビルドアップ透過係数を0.3μA/cm以下として、鋼の水素拡散係数を導出した。ただし、測定対象となる鋼の種類は、JIS SCM440鋼に0.3質量%のVを添加したものに、900℃から油焼入れを行い、600℃で焼戻すことで引張強さを1427MPaとしたものである。測定条件は下表の通りとした。
Figure 2022110909000004
また、対比のために、ビルドアップ透過係数を0.3μA/cm超として、通常の水素拡散係数の測定もあわせて実施した。測定条件は下表の通りとした。
Figure 2022110909000005
これら測定データを、縦軸が水素拡散係数であり横軸がビルドアップ透過係数である散布図にプロットした。その結果を図3に示す。測定対象となる鋼の種類が実施例1とは異なる実施例2においても、ビルドアップ透過係数を0.3μA/cm以下として導出された水素拡散係数と、ビルドアップ透過係数との間には、良好な線形関係が見られた。
111 ガルバノ・ポテンショスタット
112 ポテンショスタット
113 溶液
114 溶液
115 チャージ側サンプル
116 引抜側サンプル
117 対極
118 参照電極
A 試料

Claims (6)

  1. 鋼の水素拡散係数を、電気化学的水素透過法を用いて測定する工程を備え、
    前記測定において、ビルドアップ後の水素透過係数を0.3μA/cm以下とし、
    前記測定において得られる前記水素拡散係数を、前記ビルドアップ後の前記水素透過係数が適用された前記鋼における固有の値とみなす
    鋼の水素拡散係数の導出方法。
  2. 前記測定を、0.3μA/cm以下の範囲内の複数の水素透過係数を前記ビルドアップに適用しながら複数回行い、次いで、前記鋼の前記水素拡散係数と前記ビルドアップ後の前記水素透過係数との関係を近似する関数を得ることを特徴とする請求項1に記載の鋼の水素拡散係数の導出方法。
  3. 前記測定において、前記ビルドアップ後の前記水素透過係数を0.2μA/cm以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼の水素拡散係数の導出方法。
  4. 前記鋼の引張強さを1100MPa以上とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼の水素拡散係数の導出方法。
  5. 前記測定において、鋼の水素侵入側に配される溶液がアルカリ溶液であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼の水素拡散係数の導出方法。
  6. 鋼の限界拡散性水素濃度を測定する工程を備え、
    前記測定において、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼の水素拡散係数の導出方法によって得られた水素拡散係数を用いて、水素添加後の均一化処理時間を同定する
    鋼の耐水素脆化特性評価方法。
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