(基本構成)
(1)概要
以下、本基本構成に係る内接噛合遊星歯車装置1の概要について、図1~図3を参照して説明する。本開示で参照する図面は、いずれも模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。例えば、図1~図3における、内歯21及び外歯31の歯形、寸法及び歯数等は、いずれも説明のために模式的に表しているに過ぎず、図示されている形状に限定する趣旨ではない。
本基本構成に係る内接噛合遊星歯車装置1(以下、単に「歯車装置1」ともいう)は、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、を備える歯車装置である。この歯車装置1では、環状の内歯歯車2の内側に遊星歯車3が配置され、さらに、遊星歯車3の内側には偏心体軸受け5が配置される。偏心体軸受け5は、偏心体内輪51及び偏心体外輪52を有し、偏心体内輪51の中心C1(図3参照)からずれた回転軸Ax1(図3参照)まわりで偏心体内輪51が回転(偏心運動)することによって、遊星歯車3を揺動させる。偏心体内輪51は、例えば、偏心体内輪51に挿入される偏心軸7が回転することにより、回転軸Ax1まわりで回転(偏心運動)する。また、内接噛合遊星歯車装置1は、外輪62及び内輪61を有する軸受け部材6を更に備える。内輪61は、外輪62の内側に配置され、外輪62に対して相対的に回転可能に支持される。
内歯歯車2は、内歯21を有し、外輪62に固定される。特に、本基本構成では、内歯歯車2は、環状の歯車本体22と、複数の外ピン23と、を有する。複数の外ピン23は、自転可能な状態で歯車本体22の内周面221に保持され、内歯21を構成する。遊星歯車3は、内歯21に部分的に噛み合う外歯31を有する。つまり、内歯歯車2の内側で遊星歯車3は内歯歯車2に対して内接し、外歯31の一部が内歯21の一部に噛み合った状態となる。この状態で、偏心軸7が回転すると遊星歯車3が揺動して、内歯21と外歯31との噛み合い位置が内歯歯車2の円周方向に移動し、遊星歯車3と内歯歯車2との歯数差に応じた相対回転が両歯車(内歯歯車2及び遊星歯車3)の間に発生する。ここで、内歯歯車2が固定されているとすれば、両歯車の相対回転に伴って、遊星歯車3が回転(自転)することになる。その結果、遊星歯車3からは、両歯車の歯数差に応じて、比較的高い減速比で減速された回転出力が得られる。
この種の歯車装置1は、遊星歯車3の自転成分相当の回転を、例えば、軸受け部材6の内輪61と一体化された出力軸の回転として取り出すように使用される。これにより、歯車装置1は、偏心軸7を入力側とし、出力軸を出力側として、比較的高い減速比の歯車装置として機能する。そこで、本基本構成に係る歯車装置1では、遊星歯車3の自転成分相当の回転を、軸受け部材6の内輪61に伝達するべく、複数の内ピン4にて、遊星歯車3と内輪61とを連結する。複数の内ピン4は、遊星歯車3に形成された複数の遊嵌孔32にそれぞれ挿入された状態で、それぞれ遊嵌孔32内を公転しながら内歯歯車2に対して相対的に回転する。つまり、遊嵌孔32は、内ピン4よりも大きな直径を有し、内ピン4は、遊嵌孔32に挿入された状態で遊嵌孔32内を公転するように移動可能である。そして、遊星歯車3の揺動成分、つまり遊星歯車3の公転成分は、遊星歯車3の遊嵌孔32と内ピン4との遊嵌によって吸収される。言い換えれば、複数の内ピン4がそれぞれ複数の遊嵌孔32内を公転するように移動することで、遊星歯車3の揺動成分が吸収される。したがって、軸受け部材6の内輪61には、複数の内ピン4により、遊星歯車3の揺動成分(公転成分)を除いた、遊星歯車3の回転(自転成分)が伝達されることになる。
ところで、この種の歯車装置1では、遊星歯車3の遊嵌孔32内を内ピン4が公転しながら、遊星歯車3の回転が複数の内ピン4に伝達されるので、第1関連技術として、内ピン4に装着されて内ピン4を軸に回転可能な内ローラを用いることが知られている。つまり、第1関連技術においては、内ピン4は、内輪61(又は内輪61と一体化されたキャリア)に対して圧入された状態で保持されており、遊嵌孔32内を内ピン4が公転する際に、内ピン4は遊嵌孔32の内周面321に対して摺動する。そこで、第1関連技術としては、遊嵌孔32の内周面321と内ピン4との間の摩擦抵抗による損失を低減するために、内ローラが用いられる。ただし、第1関連技術のように内ローラを備える構成であれば、遊嵌孔32は、内ローラ付きの内ピン4が公転可能な径を有する必要があり、遊嵌孔32の小型化が困難である。遊嵌孔32の小型化が困難であると、遊星歯車3の小型化(特に小径化)の妨げとなって、ひいては歯車装置1全体の小型化の妨げとなる。本基本構成に係る歯車装置1は、以下の構成により、小型化しやすい内接噛合遊星歯車装置1を提供可能とする。
すなわち、本基本構成に係る歯車装置1は、図1~図3に示すように、軸受け部材6と、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、を備える。軸受け部材6は、外輪62及び外輪62の内側に配置される内輪61を有する。内輪61は外輪62に対して相対的に回転可能に支持される。内歯歯車2は、内歯21を有し外輪62に固定される。遊星歯車3は、内歯21に部分的に噛み合う外歯31を有する。複数の内ピン4は、遊星歯車3に形成された複数の遊嵌孔32にそれぞれ挿入された状態で、遊嵌孔32内を公転しながら内歯歯車2に対して相対的に回転する。ここで、複数の内ピン4の各々は、自転可能な状態で内輪61に保持されている。さらに、複数の内ピン4の各々は、少なくとも一部が軸受け部材6の軸方向において軸受け部材6と同じ位置に配置される。
この態様によれば、複数の内ピン4の各々は、自転可能な状態で内輪61に保持されるので、遊嵌孔32内を内ピン4が公転する際に、内ピン4自体が自転可能である。そのため、内ピン4に装着されて内ピン4を軸に回転可能な内ローラを用いなくとも、遊嵌孔32の内周面321と内ピン4との間の摩擦抵抗による損失を低減できる。したがって、本基本構成に係る歯車装置1では、内ローラが必須でなく、小型化しやすいという利点がある。しかも、複数の内ピン4の各々は、少なくとも一部が軸受け部材6の軸方向において軸受け部材6と同じ位置に配置されるので、軸受け部材6の軸方向における歯車装置1の寸法を小さく抑えることができる。つまり、軸受け部材6の軸方向に、軸受け部材6と内ピン4とが並ぶ(対向する)構成に比べて、本基本構成に係る歯車装置1では、軸方向における歯車装置1の寸法を小さくでき、歯車装置1の更なる小型化(薄型化)に貢献可能である。
さらに、上記第1関連技術と遊星歯車3の寸法が同じであれば、上記第1関連技術に比較して、例えば、内ピン4の数(本数)を増やして回転の伝達をスムーズにしたり、内ピン4を太くして強度を向上させたりすることも可能である。
また、この種の歯車装置1では、遊星歯車3の遊嵌孔32内を内ピン4が公転する必要があるので、第2関連技術として、複数の内ピン4は、内輪61(又は内輪61と一体化されたキャリア)のみで保持されることがある。第2関連技術によれば、複数の内ピン4の芯出しの精度向上が困難であって、芯出し不良により、振動の発生、及び伝達効率の低下等の不具合につながる可能性がある。つまり、複数の内ピン4は、それぞれ遊嵌孔32内を公転しながら内歯歯車2に対して相対的に回転することで、遊星歯車3の自転成分を、軸受け部材6の内輪61に伝達する。このとき、複数の内ピン4の芯出しの精度が不十分で、複数の内ピン4の回転軸が内輪61の回転軸に対してずれたり傾いたりしていると、芯出し不良の状態となり、振動の発生、及び伝達効率の低下等の不具合につながり得る。本基本構成に係る歯車装置1は、以下の構成により、複数の内ピン4の芯出し不良に起因した不具合が生じにくい内接噛合遊星歯車装置1を提供可能とする。
すなわち、本基本構成に係る歯車装置1は、図1~図3に示すように、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、支持体8と、を備える。内歯歯車2は、環状の歯車本体22と、複数の外ピン23と、を有する。複数の外ピン23は、自転可能な状態で歯車本体22の内周面221に保持され内歯21を構成する。遊星歯車3は、内歯21に部分的に噛み合う外歯31を有する。複数の内ピン4は、遊星歯車3に形成された複数の遊嵌孔32にそれぞれ挿入された状態で、遊嵌孔32内を公転しながら歯車本体22に対して相対的に回転する。支持体8は、環状であって複数の内ピン4を支持する。ここで、支持体8は、外周面81を複数の外ピン23に接触させることにより位置規制されている。
この態様によれば、複数の内ピン4は、環状の支持体8にて支持されているので、複数の内ピン4が支持体8にて束ねられ、複数の内ピン4の相対的なずれ及び傾きが抑制される。しかも、支持体8の外周面81は複数の外ピン23に接触し、これにより支持体8の位置規制がされている。要するに、複数の外ピン23によって支持体8の芯出しが行われ、結果的に、支持体8に支持されている複数の内ピン4についても、複数の外ピン23にて芯出しが行われる。したがって、本基本構成に係る歯車装置1によれば、複数の内ピン4の芯出しの精度向上を図りやすく、複数の内ピン4の芯出し不良に起因した不具合が生じにくい、という利点がある。
また、本基本構成に係る歯車装置1は、図1に示すように、駆動源101と共に、アクチュエータ100を構成する。言い換えれば、本基本構成に係るアクチュエータ100は、歯車装置1と、駆動源101と、を備えている。駆動源101は、遊星歯車3を揺動させるための駆動力を発生する。具体的には、駆動源101は、回転軸Ax1を中心として偏心軸7を回転させることにより、遊星歯車3を揺動させる。
(2)定義
本開示でいう「環状」は、少なくとも平面視において、内側に囲まれた空間(領域)を形成する輪(わ)のような形状を意味し、平面視において真円とある円形状(円環状)に限らず、例えば、楕円形状及び多角形状等であってもよい。さらに、例えば、カップ状のように底部を有する形状であっても、その周壁が環状であれば、「環状」に含まれる。
本開示でいう「遊嵌」は、遊び(隙間)をもった状態に嵌められることを意味し、遊嵌孔32は内ピン4が遊嵌される孔である。つまり、内ピン4は、遊嵌孔32の内周面321との間に、空間的な余裕(隙間)を確保した状態で遊嵌孔32に挿入される。言い換えれば、内ピン4のうち、少なくとも遊嵌孔32に挿入される部位の径は、遊嵌孔32の径よりも小さい(細い)。そのため、内ピン4は、遊嵌孔32に挿入された状態で、遊嵌孔32内を移動可能、つまり遊嵌孔32の中心に対して相対的に移動可能である。よって、内ピン4は、遊嵌孔32内を公転可能となる。ただし、遊嵌孔32の内周面321と内ピン4との間には、空洞としての隙間が確保されることは必須ではなく、例えば、この隙間に液体等の流体が充填されていてもよい。
本開示でいう「公転」は、ある物体が、この物体の中心(重心)を通る中心軸以外の回転軸まわりを周回することを意味し、ある物体が公転すると、この物体の中心は回転軸を中心とする公転軌道に沿って移動することになる。したがって、例えば、ある物体の中心(重心)を通る中心軸と平行な偏心軸を中心に、この物体が回転する場合には、この物体は、偏心軸を回転軸として公転していることになる。一例として、内ピン4は、遊嵌孔32の中心を通る回転軸まわりを周回するようにして、遊嵌孔32内を公転する。
また、本開示では、回転軸Ax1の一方側(図3の左側)を「入力側」といい、回転軸Ax1の他方側(図3の右側)を「出力側」という場合がある。図3の例では、回転軸Ax1の「入力側」から回転体(偏心体内輪51)に回転が与えられ、回転軸Ax1の「出力側」から複数の内ピン4(内輪61)の回転が取り出される。ただし、「入力側」及び「出力側」は、説明のために付しているラベルに過ぎず、歯車装置1から見た、入力及び出力の位置関係を限定する趣旨ではない。
本開示でいう「回転軸」は、回転体の回転運動の中心となる仮想的な軸(直線)を意味する。つまり、回転軸Ax1は、実体を伴わない仮想軸である。偏心体内輪51は、回転軸Ax1を中心として回転運動を行う。
本開示でいう「内歯」及び「外歯」は、それぞれ単体の「歯」ではなく、複数の「歯」の集合(群)を意味する。つまり、内歯歯車2の内歯21は、内歯歯車2(歯車本体22)の内周面221に配置された複数の歯の集合からなる。同様に、遊星歯車3の外歯31は、遊星歯車3の外周面に配置された複数の歯の集合からなる。
(3)構成
以下、本基本構成に係る内接噛合遊星歯車装置1の詳細な構成について、図1~図8Bを参照して説明する。
図1は、歯車装置1を含むアクチュエータ100の概略構成を示す斜視図である。図1では、駆動源101を模式的に示している。図2は、歯車装置1を回転軸Ax1の出力側から見た概略の分解斜視図である。図3は、歯車装置1の概略断面図である。図4は図3のA1-A1線断面図である。ただし、図4では、偏心軸7以外の部品については、断面であってもハッチングを省略している。さらに、図4では、歯車本体22の内周面221の図示を省略している。図5A及び図5Bは、遊星歯車3を単体で示す斜視図及び正面図である。図6A及び図6Bは、軸受け部材6を単体で示す斜視図及び正面図である。図7A及び図7Bは、偏心軸7を単体で示す斜視図及び正面図である。図8A及び図8Bは、支持体8を単体で示す斜視図及び正面図である。
(3.1)全体構成
本基本構成に係る歯車装置1は、図1~図3に示すように、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、偏心体軸受け5と、軸受け部材6と、偏心軸7と、支持体8と、を備えている。また、本基本構成では、歯車装置1は、第1ベアリング91、第2ベアリング92及びケース10を更に備えている。本基本構成では、歯車装置1の構成要素である内歯歯車2、遊星歯車3、複数の内ピン4、偏心体軸受け5、軸受け部材6、偏心軸7及び支持体8等の材質は、ステンレス、鋳鉄、機械構造用炭素鋼、クロムモリブデン鋼、リン青銅又はアルミ青銅等の金属である。ここでいう金属は、窒化処理等の表面処理が施された金属を含む。
また、本基本構成では、歯車装置1の一例として、トロコイド系歯形を用いた内接式遊星歯車装置を例示する。つまり、本基本構成に係る歯車装置1は、トロコイド系曲線歯形を有する内接式の遊星歯車3を備えている。
また、本基本構成では一例として、歯車装置1は、内歯歯車2の歯車本体22が、軸受け部材6の外輪62と共に、ケース10等の固定部材に固定された状態で使用される。これにより、内歯歯車2と遊星歯車3との相対回転に伴って、固定部材(ケース10等)に対して、遊星歯車3が相対的に回転することになる。
さらに、本基本構成では、歯車装置1をアクチュエータ100に用いる場合に、偏心軸7に入力としての回転力が加わることで、軸受け部材6の内輪61と一体化された出力軸から出力としての回転力が取り出される。つまり、歯車装置1は、偏心軸7の回転を入力回転とし、内輪61と一体化された出力軸の回転を出力回転として動作する。これにより、歯車装置1では、入力回転に対して、比較的高い減速比にて減速された出力回転が得られることになる。
駆動源101は、モータ(電動機)等の動力の発生源である。駆動源101で発生した動力は、歯車装置1における偏心軸7に伝達される。具体的には、駆動源101は入力軸を介して偏心軸7につながっており、駆動源101で発生した動力は入力軸を介して偏心軸7に伝達される。これにより、駆動源101は、偏心軸7を回転させることが可能である。
さらに、本基本構成に係る歯車装置1では、図3に示すように、入力側の回転軸Ax1と、出力側の回転軸Ax1とは、同一直線上にある。言い換えれば、入力側の回転軸Ax1と、出力側の回転軸Ax1とは、同軸である。ここで、入力側の回転軸Ax1は、入力回転が与えられる偏心軸7の回転中心であって、出力側の回転軸Ax1は、出力回転を生じる内輪61(及び出力軸)の回転中心である。つまり、歯車装置1では、同軸上において、入力回転に対して、比較的高い減速比にて減速された出力回転が得られることになる。
内歯歯車2は、図4に示すように、内歯21を有する環状の部品である。本基本構成では、内歯歯車2は、少なくとも内周面が平面視において真円となる、円環状を有している。円環状の内歯歯車2の内周面には、内歯21が、内歯歯車2の円周方向に沿って形成されている。内歯21を構成する複数の歯は、全て同一形状であって、内歯歯車2の内周面における円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。つまり、内歯21のピッチ円は、平面視において真円となる。内歯21のピッチ円の中心は、回転軸Ax1上にある。また、内歯歯車2は、回転軸Ax1の方向に所定の厚みを有している。内歯21の歯筋は、いずれも回転軸Ax1と平行である。内歯21の歯筋方向の寸法は、内歯歯車2の厚み方向よりもやや小さい。
ここで、内歯歯車2は、上述したように、環状(円環状)の歯車本体22と、複数の外ピン23と、を有している。複数の外ピン23は、自転可能な状態で歯車本体22の内周面221に保持され、内歯21を構成する。言い換えれば、複数の外ピン23は、それぞれ内歯21を構成する複数の歯として機能する。具体的には、歯車本体22の内周面221には、図2に示すように、円周方向の全域に複数の溝が形成されている。複数の溝は、全て同一形状であって、等ピッチで設けられている。複数の溝は、いずれも回転軸Ax1と平行であって、歯車本体22の厚み方向の全長にわたって形成されている。複数の外ピン23は、複数の溝に嵌るようにして、歯車本体22に組み合わされている。複数の外ピン23の各々は、溝内において自転可能な状態で保持される。また、歯車本体22は、(外輪62と共に)ケース10に固定される。そのため、歯車本体22には、固定用の複数の固定孔222が形成されている。
遊星歯車3は、図4に示すように、外歯31を有する環状の部品である。本基本構成では、遊星歯車3は、少なくとも外周面が平面視において真円となる、 状を有している。円環状の遊星歯車3の外周面には、外歯31が、遊星歯車3の円周方向に沿って形成されている。外歯31を構成する複数の歯は、全て同一形状であって、遊星歯車3の外周面における円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。つまり、外歯31のピッチ円は、平面視において真円となる。外歯31のピッチ円の中心C1は、回転軸Ax1から距離ΔL(図4参照)だけずれた位置にある。また、遊星歯車3は、回転軸Ax1の方向に所定の厚みを有している。外歯31は、いずれも遊星歯車3の厚み方向の全長にわたって形成されている。外歯31の歯筋は、いずれも回転軸Ax1と平行である。遊星歯車3においては、内歯歯車2とは異なり、外歯31が遊星歯車3の本体と1つの金属部材にて一体に形成されている。
ここで、遊星歯車3に対しては、偏心体軸受け5及び偏心軸7が組み合わされる。つまり、遊星歯車3には、円形状に開口する開口部33が形成されている。開口部33は、遊星歯車3を厚み方向に沿って貫通する孔である。平面視において、開口部33の中心と遊星歯車3の中心とは一致しており、開口部33の内周面(遊星歯車3の内周面)と外歯31のピッチ円とは同心円となる。遊星歯車3の開口部33には、偏心体軸受け5が収容される。さらに、偏心体軸受け5(の偏心体内輪51)に偏心軸7が挿入されることで、偏心体軸受け5及び偏心軸7が遊星歯車3に組み合わされる。遊星歯車3に偏心体軸受け5及び偏心軸7が組み合わされた状態で、偏心軸7が回転すると、遊星歯車3は回転軸Ax1まわりで揺動する。
このように構成される遊星歯車3は、内歯歯車2の内側に配置される。平面視において、遊星歯車3は内歯歯車2に比べて一回り小さく形成されており、遊星歯車3は、内歯歯車2と組み合わされた状態で、内歯歯車2の内側で揺動可能となる。ここで、遊星歯車3の外周面には外歯31が形成され、内歯歯車2の内周面には内歯21が形成されている。そのため、内歯歯車2の内側に遊星歯車3が配置された状態では、外歯31と内歯21とは、互いに対向することになる。
さらに、外歯31のピッチ円は、内歯21のピッチ円よりも一回り小さい。そして、遊星歯車3が内歯歯車2に内接した状態で、外歯31のピッチ円の中心C1は、内歯21のピッチ円の中心(回転軸Ax1)から距離ΔL(図4参照)だけずれた位置にある。そのため、外歯31との内歯21とは、少なくとも一部が隙間を介して対向することになり、円周方向の全体が互いに噛み合うことはない。ただし、遊星歯車3は、内歯歯車2の内側において回転軸Ax1まわりで揺動(公転)するので、外歯31と内歯21とが部分的に噛み合うことになる。つまり、遊星歯車3が回転軸Ax1まわりを揺動することで、図4に示すように、外歯31を構成する複数の歯のうちの一部の歯が、内歯21を構成する複数の歯のうちの一部の歯に噛み合うことになる。結果的に、歯車装置1では、外歯31の一部を内歯21の一部に噛み合わせることが可能となる。
ここで、内歯歯車2における内歯21の歯数は、遊星歯車3の外歯31の歯数よりもN(Nは正の整数)だけ多い。本基本構成では一例として、Nが「1」であって、遊星歯車3の(外歯31の)歯数は、内歯歯車2の(内歯21の)歯数よりも「1」多い。このような遊星歯車3と内歯歯車2との歯数差は、歯車装置1での入力回転に対する出力回転の減速比を規定する。
また、本基本構成では一例として、遊星歯車3の厚みは、内歯歯車2における歯車本体22の厚みよりも小さい。さらに、外歯31の歯筋方向(回転軸Ax1に平行な方向)の寸法は、内歯21の歯筋方向(回転軸Ax1に平行な方向)の寸法よりも小さい。言い換えれば、回転軸Ax1に平行な方向においては、内歯21の歯筋の範囲内に、外歯31が収まることになる。
本基本構成では、上述したように、遊星歯車3の自転成分相当の回転が、軸受け部材6の内輪61と一体化された出力軸の回転(出力回転)として取り出される。そのため、遊星歯車3は、複数の内ピン4にて内輪61と連結される。遊星歯車3には、図5A及び図5Bに示すように、複数の内ピン4を挿入するための複数の遊嵌孔32が形成されている。遊嵌孔32は内ピン4と同数だけ設けられており、本基本構成では一例として、遊嵌孔32及び内ピン4は、18個ずつ設けられている。複数の遊嵌孔32の各々は、円形状に開口しており、遊星歯車3を厚み方向に沿って貫通する孔である。複数(ここでは18個)の遊嵌孔32は、開口部33と同心の仮想円上に、円周方向に等間隔で配置されている。
複数の内ピン4は、遊星歯車3と軸受け部材6の内輪61とを連結する部品である。複数の内ピン4の各々は、円柱状に形成されている。複数の内ピン4の直径及び長さは、複数の内ピン4において共通である。内ピン4の直径は、遊嵌孔32の直径よりも一回り小さい。これにより、内ピン4は、遊嵌孔32の内周面321との間に、空間的な余裕(隙間)を確保した状態で遊嵌孔32に挿入される(図4参照)。
軸受け部材6は、外輪62及び内輪61を有し、歯車装置1の出力を外輪62に対する内輪61の回転として取り出すための部品である。軸受け部材6は、外輪62及び内輪61に加えて、複数の転動体63(図3参照)と、を有している。
外輪62及び内輪61は、図6A及び図6Bに示すように、いずれも環状の部品である。外輪62及び内輪61は、いずれも平面視で真円となる、円環状を有している。内輪61は、外輪62よりも一回り小さく、外輪62の内側に配置される。ここで、外輪62の内径は内輪61の外径よりも大きいため、外輪62の内周面と内輪61の外周面との間には隙間が生じる。
内輪61は、複数の内ピン4がそれぞれ挿入される複数の保持孔611を有している。保持孔611は内ピン4と同数だけ設けられており、本基本構成では一例として、保持孔611は18個設けられている。複数の保持孔611の各々は、図6A及び図6Bに示すように、円形状に開口しており、内輪61を厚み方向に沿って貫通する孔である。複数(ここでは18個)の保持孔611は、内輪61の外周と同心の仮想円上に、円周方向に等間隔で配置されている。保持孔611の直径は、内ピン4の直径以上であって、遊嵌孔32の直径よりも小さい。
さらに、内輪61は出力軸と一体化され、内輪61の回転が出力軸の回転として取り出される。そのため、内輪61には、出力軸を取り付けるための複数の出力側取付穴612(図2参照)が形成されている。本基本構成では、複数の出力側取付穴612は、複数の保持孔611よりも内側であって、内輪61の外周と同心の仮想円上に配置されている。
外輪62は、内歯歯車2の歯車本体22と共に、ケース10等の固定部材に固定される。そのため、外輪62には、固定用の複数の透孔621が形成されている。具体的には、図3に示すように、外輪62は、ケース10との間に歯車本体22を挟んだ状態で、透孔621及び歯車本体22の固定孔222を通る固定用のねじ(ボルト)60にて、ケース10に対して固定されている。
複数の転動体63は、外輪62と内輪61との間の隙間に配置されている。複数の転動体63は、外輪62の円周方向に並べて配置されている。複数の転動体63は、全て同一形状の金属部品であって、外輪62の円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。
本基本構成では一例として、軸受け部材6は、クロスローラベアリングである。つまり、軸受け部材6は、転動体63として円筒状のコロを有している。そして、円筒状の転動体63の軸は、回転軸Ax1に直交する平面に対して45度の傾きを有し、かつ内輪61の外周に対して直交する。さらに、内輪61の円周方向において互いに隣接する一対の転動体63は、互いに軸方向が直交する向きに配置されている。このようなクロスローラベアリングからなる軸受け部材6では、ラジアル方向の荷重、スラスト方向(回転軸Ax1に沿う方向)の荷重、及び回転軸Ax1に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)のいずれをも受けやすくなる。しかも、1つの軸受け部材6によって、これら3種類の荷重に耐えることができ、必要な剛性を確保することができる。
偏心軸7は、図7A及び図7Bに示すように、円筒状の部品である。偏心軸7は、軸心部71と、偏心部72と、を有している。軸心部71は、少なくとも外周面が平面視において真円となる、円筒状を有している。軸心部71の中心(中心軸)は、回転軸Ax1と一致する。偏心部72は、少なくとも外周面が平面視において真円となる、円盤状を有している。偏心部72の中心(中心軸)は、回転軸Ax1からずれた中心C1と一致する。ここで、回転軸Ax1と中心C1との間の距離ΔL(図7B参照)は、軸心部71に対する偏心部72の偏心量となる。偏心部72は、軸心部71の長手方向(軸方向)の中央部において、軸心部71の外周面から全周にわたって突出するフランジ形状をなす。上述した構成によれば、偏心軸7は、回転軸Ax1を中心に軸心部71が回転(自転)することで、偏心部72が偏心運動することになる。
本基本構成では、軸心部71及び偏心部72は1つの金属部材にて一体に形成されており、これにより、シームレスな偏心軸7が実現される。このような形状の偏心軸7は、偏心体軸受け5と共に遊星歯車3に組み合わされる。そのため、遊星歯車3に偏心体軸受け5及び偏心軸7が組み合わされた状態で偏心軸7が回転すると、遊星歯車3は、回転軸Ax1まわりで揺動する。
さらに、偏心軸7は、軸心部71を軸方向(長手方向)に貫通する貫通孔73を有している。貫通孔73は、軸心部71における軸方向の両端面に円形状に開口している。貫通孔73の中心(中心軸)は、回転軸Ax1と一致する。貫通孔73には、例えば、電源線及び信号線等のケーブル類を通すことが可能である。
また、本基本構成では、駆動源101から、偏心軸7に入力としての回転力が加えられる。そのため、偏心軸7には、駆動源101につながる入力軸を取り付けるための複数の入力側取付穴74(図7A及び図7B参照)が形成されている。本基本構成では、複数の入力側取付穴74は、軸心部71の軸方向に一端面における貫通孔73の周囲であって、貫通孔73と同心の仮想円上に配置されている。
偏心体軸受け5は、偏心体外輪52及び偏心体内輪51を有し、偏心軸7の回転のうちの自転成分を吸収し、偏心軸7の自転成分を除いた偏心軸7の回転、つまり偏心軸7の揺動成分(公転成分)のみを遊星歯車3に伝達するための部品である。偏心体軸受け5は、偏心体外輪52及び偏心体内輪51に加えて、複数の転動体53(図3参照)を有している。
偏心体外輪52及び偏心体内輪51は、いずれも環状の部品である。偏心体外輪52及び偏心体内輪51は、いずれも平面視で真円となる、円環状を有している。偏心体内輪51は、偏心体外輪52よりも一回り小さく、偏心体外輪52の内側に配置される。ここで、偏心体外輪52の内径は偏心体内輪51の外径よりも大きいため、偏心体外輪52の内周面と偏心体内輪51の外周面との間には隙間が生じる。
複数の転動体53は、偏心体外輪52と偏心体内輪51との間の隙間に配置されている。複数の転動体53は、偏心体外輪52の円周方向に並べて配置されている。複数の転動体53は、全て同一形状の金属部品であって、偏心体外輪52の円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。本基本構成では一例として、偏心体軸受け5は、転動体53としてボールを用いた深溝玉軸受けからなる。
ここで、偏心体内輪51の内径は、偏心軸7における偏心部72の外径と一致する。偏心体軸受け5は、偏心体内輪51に偏心軸7の偏心部72が挿入された状態で、偏心軸7と組み合わされる。また、偏心体外輪52の外径は、遊星歯車3における開口部33の内径(直径)と一致する。偏心体軸受け5は、遊星歯車3の開口部33に偏心体外輪52が嵌め込まれた状態で、遊星歯車3と組み合わされる。言い換えれば、遊星歯車3の開口部33には、偏心軸7の偏心部72に装着された状態の偏心体軸受け5が収容される。
また、本基本構成では一例として、偏心体軸受け5における偏心体内輪51の幅方向(回転軸Ax1に平行な方向)の寸法は、偏心軸7の偏心部72の厚みと略同一である。偏心体外輪52の幅方向(回転軸Ax1に平行な方向)の寸法は、偏心体内輪51の幅方向の寸法に比べてやや小さい。さらに、偏心体外輪52の幅方向の寸法は、遊星歯車3の厚みに比べて大きい。そのため、回転軸Ax1に平行な方向においては、偏心体軸受け5の範囲内に、遊星歯車3が収まることになる。一方で、偏心体外輪52の幅方向の寸法は、内歯21の歯筋方向(回転軸Ax1に平行な方向)の寸法よりも小さい。そのため、回転軸Ax1に平行な方向においては、内歯歯車2の範囲内に、偏心体軸受け5が収まることになる。
偏心体軸受け5及び偏心軸7が遊星歯車3に組み合わされた状態で、偏心軸7が回転すると、偏心体軸受け5においては、偏心体内輪51の中心C1からずれた回転軸Ax1まわりで偏心体内輪51が回転(偏心運動)する。このとき、偏心軸7の自転成分は偏心体軸受け5で吸収される。したがって、遊星歯車3には、偏心体軸受け5により、偏心軸7の自転成分を除いた偏心軸7の回転、つまり偏心軸7の揺動成分(公転成分)のみが伝達されることになる。よって、遊星歯車3に偏心体軸受け5及び偏心軸7が組み合わされた状態で偏心軸7が回転すると、遊星歯車3は、回転軸Ax1まわりで揺動する。
支持体8は、図8A及び図8Bに示すように、環状に形成され、複数の内ピン4を支持する部品である。支持体8は、複数の内ピン4がそれぞれ挿入される複数の支持孔82を有している。支持孔82は内ピン4と同数だけ設けられており、本基本構成では一例として、支持孔82は18個設けられている。複数の支持孔82の各々は、図8A及び図8Bに示すように、円形状に開口しており、支持体8を厚み方向に沿って貫通する孔である。複数(ここでは18個)の支持孔82は、支持体8の外周面81と同心の仮想円上に、円周方向に等間隔で配置されている。支持孔82の直径は、内ピン4の直径以上であって、遊嵌孔32の直径よりも小さい。本基本構成では一例として、支持孔82の直径は、内輪61に形成されている保持孔611の直径と等しい。
支持体8は、図3に示すように、回転軸Ax1の一方側(入力側)から遊星歯車3に対向するように配置される。そして、複数の支持孔82に複数の内ピン4が挿入されることで、支持体8は、複数の内ピン4を束ねるように機能する。さらに、支持体8は、外周面81を複数の外ピン23に接触させることにより位置規制されている。これにより、複数の外ピン23によって支持体8の芯出しが行われ、結果的に、支持体8に支持されている複数の内ピン4についても、複数の外ピン23にて芯出しが行われる。支持体8については、「(3.3)支持体」の欄で詳しく説明する。
第1ベアリング91及び第2ベアリング92は、それぞれ偏心軸7の軸心部71に装着される。具体的には、第1ベアリング91及び第2ベアリング92は、図3に示すように、回転軸Ax1に平行な方向において偏心部72を挟むように、軸心部71における偏心部72の両側に装着される。第1ベアリング91は、偏心部72から見て、回転軸Ax1の入力側に配置される。第2ベアリング92は、偏心部72から見て、回転軸Ax1の出力側に配置される。第1ベアリング91は、ケース10に対して偏心軸7を回転可能に保持する。第2ベアリング92は、軸受け部材6の内輪61に対して偏心軸7を回転可能に保持する。これにより、偏心軸7の軸心部71は、回転軸Ax1に平行な方向における偏心部72の両側の2箇所において、回転可能に保持されることになる。
ケース10は、円筒状であって、回転軸Ax1の出力側に、フランジ部11を有している。フランジ部11には、ケース10自体を固定するための複数の設置孔111が形成されている。また、ケース10における回転軸Ax1の出力側の端面には、軸受け孔12が形成されている。軸受け孔12は、円形状に開口している。軸受け孔12内に第1ベアリング91が嵌め込まれることにより、ケース10に対して第1ベアリング91が取り付けられる。
また、ケース10における回転軸Ax1の出力側の端面であって、軸受け孔12の周囲には、複数のねじ穴13が形成されている。複数のねじ穴13は、内歯歯車2の歯車本体22及び軸受け部材6の外輪62をケース10に固定するために用いられる。具体的には、固定用のねじ60が、外輪62の透孔621及び歯車本体22の固定孔222を通して、ねじ穴13に締め付けられることにより、歯車本体22及び外輪62がケース10に対して固定される。
また、本基本構成に係る歯車装置1は、図3に示すように、複数のオイルシール14,15,16等を更に備えている。オイルシール14は、偏心軸7における回転軸Ax1の入力側の端部に装着され、ケース10と偏心軸7(軸心部71)との間の隙間を塞いでいる。オイルシール15は、偏心軸7における回転軸Ax1の出力側の端部に装着され、内輪61と偏心軸7(軸心部71)との間の隙間を塞いでいる。オイルシール16は、軸受け部材6における回転軸Ax1の出力側の端面に装着され、内輪61と外輪62との間の隙間を塞いでいる。これら複数のオイルシール14,15,16で密閉された空間は、潤滑剤保持空間17(図9参照)を構成する。潤滑剤保持空間17は、軸受け部材6の内輪61と外輪62との間の空間を含む。さらに、潤滑剤保持空間17内には、複数の外ピン23、遊星歯車3、偏心体軸受け5、支持体8、第1ベアリング91及び第2ベアリング92等が収容される。
そして、潤滑剤保持空間17には、潤滑剤が注入されている。潤滑剤は液体であって、潤滑剤保持空間内17を流動可能である。そのため、歯車装置1の使用時においては、例えば、複数の外ピン23からなる内歯21と遊星歯車3の外歯31との噛み合い部位には、潤滑剤が入り込む。本開示でいう「液体」は、液状又はゲル状の物質を含む。ここでいう「ゲル状」は、液体と固体との中間の性質を有する状態を意味し、液相と固相との2つの相からなるコロイド(colloid)の状態を含む。例えば、分散媒が液相であって、分散質が液相であるエマルション(emulsion)、分散質が固相であるサスペンション(suspension)等の、ゲル(gel)又はゾル(sol)と呼ばれる状態が「ゲル状」に含まれる。また、分散媒が固相であって、分散質が液相である状態も、「ゲル状」に含まれる。本基本構成では一例として、潤滑剤は、液状の潤滑油(オイル)である。
上述した構成の歯車装置1では、偏心軸7に入力としての回転力が加えられて、偏心軸7が回転軸Ax1を中心に回転することで、遊星歯車3は、回転軸Ax1まわりで揺動(公転)する。このとき、遊星歯車3は、内歯歯車2の内側で内歯歯車2に対して内接し、外歯31の一部が内歯21の一部に噛み合った状態で揺動するので、内歯21と外歯31との噛み合い位置が内歯歯車2の円周方向に移動する。これにより、遊星歯車3と内歯歯車2との歯数差に応じた相対回転が両歯車(内歯歯車2及び遊星歯車3)の間に発生する。そして、軸受け部材6の内輪61には、複数の内ピン4により、遊星歯車3の揺動成分(公転成分)を除いた、遊星歯車3の回転(自転成分)が伝達される。その結果、内輪61に一体化された出力軸からは、両歯車の歯数差に応じて、比較的高い減速比で減速された回転出力が得られることになる。
ところで、本実施形態に係る歯車装置1においては、上述したように、内歯歯車2と遊星歯車3との歯数差は、歯車装置1での入力回転に対する出力回転の減速比を規定することになる。つまり、内歯歯車2の歯数を「V1」、遊星歯車3の歯数を「V2」とした場合、減速比R1は、下記式1で表される。
R1=V2/(V1-V2)・・・(式1)
要するに、内歯歯車2と遊星歯車3との歯数差(V1-V2)が小さいほど、減速比R1は大きくなる。一例として、内歯歯車2の歯数V1が「52」、遊星歯車3の歯数V2が「51」、その歯数差(V1-V2)が「1」であるので、上記式1より、減速比R1は「51」となる。この場合、回転軸Ax1の入力側から見て、偏心軸7が回転軸Ax1を中心に時計回りに1周(360度)回転すると、内輪61は回転軸Ax1を中心に歯数差「1」の分(つまり約7.06度)だけ反時計回りに回転する。
本基本構成に係る歯車装置1によれば、このように高い減速比R1が、1段の歯車(内歯歯車2及び遊星歯車3)の組み合わせで実現可能である。
また、歯車装置1は、少なくとも、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、軸受け部材6と、支持体8と、を備えていればよく、例えば、スプラインブッシュ等を構成要素として更に備えていてもよい。
ところで、本基本構成に係る歯車装置1のように、高速回転側となる入力回転が偏心運動を伴う場合、高速回転する回転体の重量バランスがとれていないと、振動等につながる可能性があるため、カウンタウェイト等を用いて重量バランスをとることがある。すなわち、偏心体内輪51及び偏心体内輪51と共に回転する部材(偏心軸7)の少なくとも一方からなる回転体が高速で偏心運動することから、当該回転体の回転軸Ax1に対する重量バランスをとることが好ましい。本基本構成では、図3及び図4に示すように、偏心軸7における偏心部72の一部に、空隙75を設けることによって、回転軸Ax1に対する回転体の重量バランスをとる。
要するに、本基本構成では、カウンタウェイト等を付加するのではなく、回転体(ここでは偏心軸7)の一部を肉抜きすることで軽量化し、これによって回転軸Ax1に対する回転体の重量バランスをとっている。すなわち、本基本構成に係る歯車装置1は、遊星歯車3に形成された開口部33に収容され、遊星歯車3を揺動させる偏心体軸受け5を備えている。偏心体軸受け5は、偏心体外輪52及び偏心体外輪52の内側に配置される偏心体内輪51を有する。偏心体内輪51及び偏心体内輪51と共に回転する部材の少なくとも一方からなる回転体は、偏心体内輪51の回転軸Ax1から見て、偏心体外輪52の中心C1側の一部に空隙75を有する。本基本構成では、偏心軸7が「偏心体内輪51と共に回転する部材」であって、「回転体」に相当する。したがって、偏心軸7の偏心部72に形成された空隙75が、回転体の空隙75に相当する。この空隙75は、図3及び図4に示すように、回転軸Ax1から見て中心C1側の位置にあるので、偏心軸7の重量バランスを、回転軸Ax1から周方向に均等に近づけるように作用する。
より詳細には、空隙75は、偏心体内輪51の回転軸Ax1に沿って回転体を貫通する貫通孔73の内周面に形成された凹部を含む。つまり、本基本構成では、回転体は偏心軸7であるので、偏心軸7を回転軸Ax1に沿って貫通する貫通孔73の内周面に形成された凹部が、空隙75として機能する。このように、貫通孔73の内周面に形成された凹部を空隙75として利用することで、外観上の変更を伴わずに、回転体の重量バランスをとることが可能となる。
(3.2)内ピンの自転構造
次に、本基本構成に係る歯車装置1の内ピン4の自転構造について、図9を参照して、より詳細に説明する。図9は、図3の領域Z1の拡大図である。
まず前提として、複数の内ピン4は、上述したように、遊星歯車3と軸受け部材6の内輪61とを連結する部品である。具体的には、内ピン4の長手方向の一端部(本基本構成では回転軸Ax1の入力側の端部)は、遊星歯車3の遊嵌孔32に挿入され、内ピン4の長手方向の他端部(本基本構成では回転軸Ax1の出力側の端部)は、内輪61の保持孔611に挿入されている。
ここで、内ピン4の直径は、遊嵌孔32の直径よりも一回り小さいので、内ピン4と遊嵌孔32の内周面321との間には隙間が確保され、内ピン4は、遊嵌孔32内を移動可能、つまり遊嵌孔32の中心に対して相対的に移動可能である。一方、保持孔611の直径は、内ピン4の直径以上ではあるものの、遊嵌孔32の直径よりも小さい。本基本構成では、保持孔611の直径は、内ピン4の直径と略同一であって、内ピン4の直径よりも僅かに大きい。そのため、内ピン4は、保持孔611内での移動が規制、つまり保持孔611の中心に対する相対的な移動が禁止される。したがって、内ピン4は、遊星歯車3においては遊嵌孔32内を公転可能な状態で保持され、内輪61に対しては保持孔611内を公転不能な状態で保持される。これにより、遊星歯車3の揺動成分、つまり遊星歯車3の公転成分は、遊嵌孔32と内ピン4との遊嵌によって吸収され、内輪61には、複数の内ピン4により、遊星歯車3の揺動成分(公転成分)を除いた、遊星歯車3の回転(自転成分)が伝達される。
ところで、本基本構成では、内ピン4の直径が保持孔611よりも僅かに大きいことで、内ピン4は、保持孔611に挿入された状態において、保持孔611内での公転は禁止されるものの、保持孔611内での自転は可能である。つまり、内ピン4は、保持孔611に挿入された状態でも、保持孔611に圧入される訳ではないので、保持孔611内で自転可能である。このように、本基本構成に係る歯車装置1では、複数の内ピン4の各々は、自転可能な状態で内輪61に保持されるので、遊嵌孔32内を内ピン4が公転する際に、内ピン4自体が自転可能である。
要するに、本基本構成においては、内ピン4は、遊星歯車3に対しては遊嵌孔32内での公転及び自転の両方が可能な状態で保持され、内輪61に対しては保持孔611内での自転のみが可能な状態で保持される。つまり、複数の内ピン4は、各々の自転が拘束されない状態(自転可能な状態)で、回転軸Ax1を中心に回転(公転)可能であって、かつ複数の遊嵌孔32内で公転可能である。したがって、複数の内ピン4にて遊星歯車3の回転(自転成分)を内輪61に伝達するに際しては、内ピン4は、遊嵌孔32内で公転及び自転をしつつ、保持孔611内で自転することができる。そのため、遊嵌孔32内を内ピン4が公転する際に、内ピン4は、自転可能な状態にあるので、遊嵌孔32の内周面321に対して転動することになる。言い換えれば、内ピン4は、遊嵌孔32の内周面321上を転がるようにして遊嵌孔32内で公転するので、遊嵌孔32の内周面321と内ピン4との間の摩擦抵抗による損失が生じにくい。
このように、本基本構成に係る構成では、そもそも遊嵌孔32の内周面321と内ピン4との間の摩擦抵抗による損失が生じにくいので、内ローラを省略することが可能である。そこで、本基本構成では、複数の内ピン4の各々は、遊嵌孔32の内周面321に直接的に接触する構成を採用する。つまり、本基本構成では、内ローラが装着されていない状態の内ピン4を遊嵌孔32に挿入し、内ピン4が直接的に遊嵌孔32の内周面321に接触する構成とする。これにより、内ローラを省略できて、遊嵌孔32の径を比較的小さく抑えることができるので、遊星歯車3の小型化(特に小径化)が可能となり、歯車装置1全体としても小型化を図りやすくなる。遊星歯車3の寸法を一定とするのであれば、上記第1関連技術に比較して、例えば、内ピン4の数(本数)を増やして回転の伝達をスムーズにしたり、内ピン4を太くして強度を向上させたりすることも可能である。さらに、内ローラの分だけ部品点数を少なく抑えることができ、歯車装置1の低コスト化にもつながる。
また、本基本構成に係る歯車装置1では、複数の内ピン4の各々は、少なくとも一部が軸受け部材6の軸方向において軸受け部材6と同じ位置に配置されている。つまり、図9に示すように、回転軸Ax1に平行な方向においては、内ピン4は、その少なくとも一部が軸受け部材6と同じ位置に配置されている。言い換えれば、回転軸Ax1に平行な方向における軸受け部材6の両端面間には、内ピン4の少なくとも一部が位置する。さらに言い換えれば、複数の内ピン4の各々は、少なくとも一部が軸受け部材6の外輪62の内側に配置されることになる。本基本構成では、内ピン4のうち、回転軸Ax1の出力側の端部は、回転軸Ax1に平行な方向において、軸受け部材6と同じ位置にある。要するに、内ピン4のうちの回転軸Ax1の出力側の端部は、軸受け部材6の内輪61に形成された保持孔611に挿入されているので、少なくとも当該端部は、軸受け部材6の軸方向において軸受け部材6と同じ位置に配置されることになる。
このように、複数の内ピン4の各々の少なくとも一部が、軸受け部材6の軸方向において軸受け部材6と同じ位置に配置されることで、回転軸Ax1に平行な方向における歯車装置1の寸法を小さく抑えることができる。つまり、軸受け部材6の軸方向に、軸受け部材6と内ピン4とが並ぶ(対向する)構成に比べて、本基本構成に係る歯車装置1では、回転軸Ax1に平行な方向における歯車装置1の寸法を小さくでき、歯車装置1の更なる小型化(薄型化)に貢献可能である。
ここで、保持孔611における、回転軸Ax1の出力側の開口面は、例えば、内輪61と一体化される出力軸等に閉塞される。これにより、回転軸Ax1の出力側(図9の右側)への内ピン4の移動に関しては、内輪61と一体化される出力軸等で規制される。
また、本基本構成では、内輪61に対する内ピン4の自転が円滑になされるように、以下の構成を採用している。すなわち、内輪61に形成された保持孔611の内周面と内ピン4との間に、潤滑剤(潤滑油)を介在させることにより、内ピン4の自転を円滑にしている。特に本基本構成では、内輪61と外輪62との間には潤滑剤が注入される潤滑剤保持空間17が存在するので、潤滑剤保持空間17内の潤滑剤を利用して、内ピン4の自転の円滑化を図る。
本基本構成では、図9に示すように、内輪61は、複数の内ピン4がそれぞれ挿入される複数の保持孔611と、複数の連結路64と、を有している。複数の連結路64は、内輪61と外輪62との間の潤滑剤保持空間17と複数の保持孔611との間をつなぐ。具体的には、内輪61には、保持孔611の内周面の一部であって転動体63に対応する部位から、ラジアル方向に延びる連結路64が形成されている。連結路64は、内輪61における外輪62との対向面における転動体63を収容する凹部(溝)の底面と、保持孔611の内周面との間を貫通する孔である。言い換えれば、連結路64の潤滑剤保持空間17側の開口面は、軸受け部材6の転動体63に臨む(対向する)位置に配置されている。このような連結路64を介して、潤滑剤保持空間17と保持孔611とが空間的につながる。
上述した構成によれば、連結路64にて潤滑剤保持空間17と保持孔611とが連結されるので、潤滑剤保持空間17内の潤滑剤が連結路64を通して保持孔611に供給されるようになる。つまり、軸受け部材6が動作して転動体63が回転すると、転動体63がポンプとして機能して、潤滑剤保持空間17内の潤滑剤を、連結路64経由で保持孔611に送り込むことが可能である。特に、連結路64の潤滑剤保持空間17側の開口面が、軸受け部材6の転動体63に臨む(対向する)位置にあることで、転動体63の回転時に、転動体63がポンプとして効率的に作用する。その結果、保持孔611の内周面と内ピン4との間には潤滑剤が介在し、内輪61に対する内ピン4の自転の円滑化を図ることができる。
(3.3)支持体
次に、本基本構成に係る歯車装置1の支持体8の構成について、図10を参照して、より詳細に説明する。図10は図3のB1-B1線断面図である。ただし、図10では、支持体8以外の部品については、断面であってもハッチングを省略している。また、図10では、内歯歯車2及び支持体8のみを図示し、その他の部品(内ピン4等)の図示を省略する。さらに、図10では、歯車本体22の内周面221の図示を省略している。
まず前提として、支持体8は、上述したように、複数の内ピン4を支持する部品である。つまり、支持体8は、複数の内ピン4を束ねることにより、遊星歯車3の回転(自転成分)を内輪61に伝達する際の、複数の内ピン4にかかる荷重を分散する。具合的には、複数の内ピン4がそれぞれ挿入される複数の支持孔82を有している。本基本構成では一例として、支持孔82の直径は、内輪61に形成されている保持孔611の直径と等しい。そのため、支持体8は、複数の内ピン4の各々が自転可能な状態で、複数の内ピン4を支持する。つまり、複数の内ピン4の各々は、軸受け部材6の内輪61と支持体8とのいずれに対しても、自転可能な状態で保持されている。
このように、支持体8は、周方向及び径方向の両方について、複数の内ピン4の支持体8に対する位置決めを行う。つまり、内ピン4は、支持体8の支持孔82に挿入されることで、回転軸Ax1に直交する平面内での全方向に対する移動が規制される。そのため、内ピン4は、支持体8にて、周方向だけでなく径方向(ラジアル方向)についても位置決めされることになる。
ここで、支持体8は、少なくとも外周面81が平面視において真円となる、円環状を有している。そして、支持体8は、外周面81を、内歯歯車2における複数の外ピン23に接触させることにより位置規制されている。複数の外ピン23は、内歯歯車2の内歯21を構成するので、言い換えれば、支持体8は、外周面81を内歯21に接触させることにより位置規制される。ここで、支持体8の外周面81の直径は、内歯歯車2における内歯21の先端を通る仮想円(歯先円)の直径と同一である。そのため、複数の外ピン23は、全て支持体8の外周面81に接触する。よって、支持体8が複数の外ピン23にて位置規制された状態では、支持体8の中心は、内歯歯車2の中心(回転軸Ax1)と重なるように位置規制される。これにより、支持体8の芯出しが行われ、結果的に、支持体8に支持されている複数の内ピン4についても、複数の外ピン23にて芯出しが行われる。
また、複数の内ピン4は、回転軸Ax1を中心に回転(公転)することで、遊星歯車3の回転(自転成分)を内輪61に伝達する。そのため、複数の内ピン4を支持する支持体8は、複数の内ピン4及び内輪61と共に、回転軸Ax1を中心に回転する。このとき、支持体8は複数の外ピン23にて芯出しがされているので、支持体8の中心が回転軸Ax1上に維持された状態で、支持体8は円滑に回転する。しかも、支持体8は、その外周面81が複数の外ピン23に接触した状態で回転するので、支持体8の回転に伴って、複数の外ピン23の各々は回転(自転)する。よって、支持体8は、内歯歯車2と共にニードルベアリング(針状ころ軸受け)を構成し、円滑に回転する。
すなわち、支持体8の外周面81は、複数の外ピン23に接した状態で複数の内ピン4と一緒に歯車本体22に対して相対的に回転する。そのため、内歯歯車2の歯車本体22を「外輪」、支持体8を「内輪」とみなせば、両者の間に介在する複数の外ピン23は「転動体(コロ)」として機能する。このように、支持体8は、内歯歯車2(歯車本体22及び複数の外ピン23)と共に、ニードルベアリングを構成することとなり、円滑な回転が可能となる。
さらに、支持体8は、歯車本体22との間に複数の外ピン23を挟んでいるので、支持体8は、歯車本体22の内周面221から離れる向きの外ピン23の移動を抑制する「ストッパ」としても機能する。つまり、複数の外ピン23は、支持体8の外周面81と歯車本体22の内周面221との間で挟まれることになり、歯車本体22の内周面221からの浮きが抑制される。要するに、本基本構成では、複数の外ピン23の各々は、支持体8の外周面81に接触することで、歯車本体22から離れる向きの移動が規制されている。
ところで、本基本構成では、図9に示すように、支持体8は、遊星歯車3を挟んで、軸受け部材6の内輪61と反対側に位置する。つまり、支持体8、遊星歯車3及び内輪61は、回転軸Ax1に平行な方向に並べて配置されている。本基本構成では一例として、支持体8は、遊星歯車3から見て回転軸Ax1の入力側に位置し、内輪61は、遊星歯車3から見て回転軸Ax1の出力側に位置する。そして、支持体8は、内輪61と共に、内ピン4の長手方向(回転軸Ax1に平行な方向)の両端部を支持し、内ピン4の長手方向の中央部が、遊星歯車3の遊嵌孔32に挿通される。要するに、本基本構成に係る歯車装置1は、外輪62及び外輪62の内側に配置される内輪61を有し、内輪61が外輪62に対して相対的に回転可能に支持される軸受け部材6を備えている。そして、歯車本体22は、外輪62に固定される。ここで、遊星歯車3は、支持体8の軸方向において支持体8と内輪61との間に位置する。
この構成によれば、支持体8及び内輪61は、内ピン4の長手方向の両端部を支持するので、内ピン4の傾きが生じにくい。特に、複数の内ピン4にかかる回転軸Ax1に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)をも受けやすくなる。また、本基本構成では、回転軸Ax1と平行な方向において、支持体8は、遊星歯車3とケース10との間に挟まれている。これにより、支持体8は、回転軸Ax1の入力側(図9の左側)への移動がケース10にて規制される。支持体8の支持孔82を貫通して、支持体8から回転軸Ax1の入力側へ突出する内ピン4についても、回転軸Ax1の入力側(図9の左側)への移動はケース10にて規制される。
本基本構成ではさらに、支持体8及び内輪61は、複数の外ピン23の両端部に接触する。つまり、図9に示すように、支持体8は、外ピン23の長手方向(回転軸Ax1に平行な方向)の一端部(回転軸Ax1の入力側の端部)に接触する。内輪61は、外ピン23の長手方向(回転軸Ax1に平行な方向)の他端部(回転軸Ax1の出力側の端部)に接触する。この構成によれば、支持体8及び内輪61は、外ピン23の長手方向の両端部で芯出しされるので、内ピン4の傾きが生じにくい。特に、複数の内ピン4にかかる回転軸Ax1に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)をも受けやすくなる。
また、複数の外ピン23は、支持体8の厚み以上の長さを有する。言い換えれば、回転軸Ax1に平行な方向においては、内歯21の歯筋の範囲内に、支持体8が収まることになる。これにより、支持体8の外周面81は、内歯21の歯筋方向(回転軸Ax1に平行な方向)の全長にわたり複数の外ピン23に接触することになる。したがって、支持体8の外周面81が部分的に摩耗する「片減り」のような不具合が生じにくい。
また、本基本構成では、支持体8の外周面81は、支持体8の外周面81に隣接する一表面に比べて表面粗さが小さい。つまり、支持体8における軸方向(厚み方向)の両端面に比べて、外周面81の表面粗さは小さい。本開示でいう「表面粗さ」は、物体の表面の粗さの程度を意味し、値が小さい程、表面の凹凸が小さく(少なく)、滑らかである。本基本構成では一例として、表面粗さは算術平均粗さ(Ra)であることとする。例えば、研磨等の処理により、外周面81は、支持体8における外周面81以外の面に比べて、表面粗さが小さくされている。この構成では、支持体8の回転がより円滑になる。
また、本基本構成では、支持体8の外周面81の硬度は、複数の外ピン23の周面より低く、歯車本体22の内周面221より高い。本開示でいう「硬度」は、物体の硬さの程度を意味し、金属の硬度は、例えば、鋼球を一定の圧力で押しつけてできるくぼみの大小で表される。具体的には、金属の硬度の一例として、ロックウェル硬さ(HRC)、ブリネル硬さ(HB)、ビッカース硬さ(HV)又はショア硬さ(Hs)等がある。金属部品の硬度を高める(硬くする)手段としては、例えば、合金化又は熱処理等がある。本基本構成では一例として、浸炭焼き入れ等の処理により、支持体8の外周面81の硬度が高められている。この構成では、支持体8の回転によっても摩耗粉等が生じにくく、支持体8の円滑な回転を長期にわたって維持しやすい。
(4)適用例
次に、本基本構成に係る歯車装置1及びアクチュエータ100の適用例について、説明する。
本基本構成に係る歯車装置1及びアクチュエータ100は、例えば、水平多関節ロボット、いわゆるスカラ(SCARA:Selective Compliance Assembly Robot Arm)型ロボットのようなロボットに適用される。
また、本基本構成に係る歯車装置1及びアクチュエータ100の適用例は、上述したような水平多関節ロボットに限らず、例えば、水平多関節ロボット以外の産業用ロボット、又は産業用以外のロボット等であってもよい。水平多関節ロボット以外の産業用ロボットには、一例として、垂直多関節型ロボット又はパラレルリンク型ロボット等がある。産業用以外のロボットには、一例として、家庭用ロボット、介護用ロボット又は医療用ロボット等がある。
(実施形態1)
<概要>
本実施形態に係る内接噛合遊星歯車装置1A(以下、単に「歯車装置1A」ともいう)は、図11~図14等に示すように、主として軸受け部材6A周辺の構造が、基本構成に係る歯車装置1と相違する。以下、基本構成と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
図11は、歯車装置1Aの概略断面図である。図12は、歯車装置1Aを回転軸Ax1の出力側(図11の右側)から見た側面図であって、図11は、図12のC1-C1線断面図に相当する。図13は図11のA1-A1線断面図であって、図14は図11のB1-B1線断面図、及びその一部拡大図である。ただし、図13及び図14では、偏心軸7以外の部品について、断面であってもハッチングを省略している。
本実施形態において、軸受け部材6Aは、外輪62A、外輪62Aの内側に配置される内輪61A、及び外輪62Aと内輪61Aとの間に配置される複数の転動体63を有する。そして、内輪61Aが外輪62Aに対して回転軸Ax1を中心に相対的に回転可能に支持される。この点については、基本構成と同様である。
本実施形態に係る歯車装置1Aは、基本構成との1つ目の主な相違点として、軸受け部材6Aの内輪61Aが、1部品で構成されるのではなく、第1内輪601と第2内輪602との2部品を含むように構成されている。つまり、図11に示すように、歯車装置1Aにおいては、内輪61Aは、回転軸Ax1に平行な方向において対向し、かつ対向面601A,602A(図15参照)同士が接触する第1内輪601及び第2内輪602を含んでいる。
また、本実施形態に係る歯車装置1Aの基本構成との2つ目の主な相違点として、軸受け部材6Aの外輪62Aが、内歯歯車2の歯車本体22と別体に構成されるのではなく、歯車本体22とシームレスに一体に構成されている。つまり、図11に示すように、歯車装置1Aにおいては、外輪62Aは、歯車本体22と回転軸Ax1に平行な方向(内歯21の歯筋方向)においてシームレスに連続して設けられている。
要するに、本実施形態に係る歯車装置1Aは、基本構成との主な相違点として、軸受け部材6Aの内輪61Aについての工夫と、軸受け部材6Aの外輪62Aについての工夫と、を新たに採用している。内輪61Aについての工夫は、内輪61Aが第1内輪601及び第2内輪602を有することを含み、外輪62Aについての工夫は外輪62が歯車本体22とシームレスに連続して設けられることを含む。
<その他の相違点>
本実施形態に係る歯車装置1Aにおいては、上述した主な相違点(内輪61Aについての工夫、及び外輪62Aについての工夫)の他にも、以下に説明するように、基本構成に対して複数の相違点がある。
他の1つ目の相違点として、本実施形態に係る歯車装置1Aは、遊星歯車3の自転成分相当の回転を、軸受け部材6Aの外輪62Aと一体化された出力軸等の回転として取り出すように使用される。すなわち、基本構成では、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転は、遊星歯車3に複数の内ピン4にて連結された内輪61から、遊星歯車3の自転成分として取り出される。これに対して、本実施形態では、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転は、内歯歯車2の歯車本体22と一体化された外輪62Aから取り出される。本実施形態では一例として、歯車装置1Aは、複数の内ピン4を保持する内輪61Aが、固定部材(後述するハブ部材104等)に固定され、回転部材となるケース10に外輪62Aが固定された状態で使用される。すなわち、遊星歯車3は複数の内ピン4にて固定部材と連結され、歯車本体22は回転部材に固定されるため、遊星歯車3と内歯歯車2との間の相対的な回転は、内歯歯車2(歯車本体22)から取り出される。言い換えれば、本実施形態では、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転する際、歯車本体22の回転力を出力として取り出すように構成されている。
そして、このように歯車本体22の回転力が出力として取り出される歯車装置1Aは、一例として、車輪装置W1(図17参照)に用いられる。この場合、回転部材(ケース10)が車輪本体102(図17参照)として機能することで、内歯歯車2と遊星歯車3との相対回転に伴って、車輪本体102を回転させることができる。このように、本実施形態では、歯車装置1Aを車輪装置W1に用いることで、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転する際の回転出力により、走行面上において車輪本体102を転がすように車輪本体102を駆動できる。要するに、歯車装置1Aは、車輪装置W1として用いられる場合、偏心軸7に入力としての回転力が加わることで、車輪本体102としての回転部材から出力としての回転力が取り出される。つまり、歯車装置1Aは、偏心軸7の回転を入力回転とし、歯車本体22が固定された回転部材の回転を出力回転として動作する。これにより、歯車装置1Aでは、入力回転に対して、比較的高い減速比にて減速された出力回転が、車輪本体102の回転として得られることになる。
他の2つ目の相違点として、本実施形態に係る歯車装置1Aは、複数の遊星歯車3を備えている。具体的には、歯車装置1Aは、第1遊星歯車301と第2遊星歯車302との2つの遊星歯車3を備えている。2つの遊星歯車3は、回転軸Ax1に平行な方向において対向するように配置されている。つまり、遊星歯車3は、回転軸Ax1に平行な方向において対向する第1遊星歯車301及び第2遊星歯車302を含む。
これら2つの遊星歯車3(第1遊星歯車301及び第2遊星歯車302)は、回転軸Ax1まわりで180度の位相差をもって配置される。図11の例では、第1遊星歯車301及び第2遊星歯車302のうち、回転軸Ax1の入力側(図11の左側)に位置する第1遊星歯車301の中心C1が、回転軸Ax1に対して図の上方にずれた(偏った)状態にある。一方、回転軸Ax1の出力側(図11の右側)に位置する第2遊星歯車302の中心C2は、回転軸Ax1に対して図の下方にずれた(偏った)状態にある。このように、複数の遊星歯車3が、回転軸Ax1を中心とする周方向において均等に配置されることで、複数の遊星歯車3間での重量バランスをとることが可能である。本実施形態に係る歯車装置1Aでは、このように複数の遊星歯車3間で重量バランスをとるので、偏心軸7の空隙75(図3参照)は省略されている。
より詳細には、偏心軸7は、1つの軸心部71に対して、2つの偏心部72を有している。これら2つの偏心部72の中心(中心軸)は、それぞれ回転軸Ax1からずれた中心C1,C2と一致する。また、第1遊星歯車301及び第2遊星歯車302の形状自体は共通である。そして、第1遊星歯車301の開口部33には、中心C1を中心とする偏心部72に装着された状態の偏心体軸受け5が収容される。第2遊星歯車302の開口部33には、中心C2を中心とする偏心部72に装着された状態の偏心体軸受け5が収容される。ここで、回転軸Ax1と中心C1との間の距離ΔL1は、回転軸Ax1に対する第1遊星歯車301の偏心量となり、回転軸Ax1と中心C2との間の距離ΔL2は、回転軸Ax1に対する第2遊星歯車302の偏心量となる。本実施形態では、偏心量ΔL1と偏心量ΔL2とでは、回転軸Ax1から見た向きが反対であるが、その絶対値は同じである。上述した構成によれば、軸心部71が回転軸Ax1を中心に回転(自転)することにより、第1遊星歯車301及び第2遊星歯車302は、回転軸Ax1まわりで180度の位相差をもって、回転軸Ax1まわりで回転(偏心運動)する。
他の3つ目の相違点として、本実施形態では、図13及び図14に示すように、偏心体軸受け5は、基本構成で説明したような深溝玉軸受けに代えて、コロ軸受けからなる。つまり、本実施形態に係る歯車装置1Aでは、偏心体軸受け5は、転動体53として円柱状(円筒状)のコロを用いている。さらに、本実施形態では、偏心体内輪51(図3参照)及び偏心体外輪52(図3参照)が省略されている。そのため、遊星歯車3(の開口部33)の内周面が偏心体外輪52の代わりに複数の転動体53の転動面となり、偏心部72の外周面が偏心体内輪51の代わりに複数の転動体53の転動面となる。本実施形態では、偏心体軸受け5は、保持器(リテーナ)54を有しており、複数の転動体53は、それぞれ自転可能な状態で保持器54にて保持される。保持器54は、複数の転動体53を、偏心部72の円周方向において等ピッチで保持する。さらに、保持器54は、遊星歯車3及び偏心軸7に対して固定されておらず、遊星歯車3及び偏心軸7の各々に対して相対的に回転可能である。これにより、保持器54の回転に伴って、保持器54にて保持されている複数の転動体53は、偏心部72の円周方向へ移動する。
他の4つ目の相違点として、本実施形態では、ケース10が内歯歯車2の歯車本体22、及び軸受け部材6Aの外輪62Aとシームレスに一体化されている。つまり、基本構成では、内歯歯車2の歯車本体22が、軸受け部材6の外輪62と共に、ケース10に固定された状態で使用される。これに対して、本実施形態では、上記外輪62Aについての工夫により、歯車本体22と回転軸Ax1に平行な方向においてシームレスに連続して設けられている外輪62Aが、更に回転部材であるケース10に対してもシームレスに連続して設けられる。
より詳細には、ケース10は、円筒状であって、歯車装置1Aの外郭を構成する。本実施形態では、回転部材であるケース10が、例えば車輪本体102として機能するので、円筒状のケース10の中心軸は、回転軸Ax1と一致するように構成されている。つまり、ケース10は、少なくとも外周面が、平面視において(回転軸Ax1方向の一方から見て)回転軸Ax1を中心とする真円となる。図11に示すように、ケース10は、胴部18と、キャップ19と、を有している。胴部18は、回転軸Ax1方向の両端面が開口する円筒状の部品である。キャップ19は、胴部18における回転軸Ax1の入力側(図11の左側)の端面に取り付けられ、胴部18における回転軸Ax1の入力側の開口面を閉塞する円盤状の部品である。そして、本実施形態では、ケース10のうちの胴部18に、内歯歯車2の歯車本体22と、軸受け部材6Aの外輪62Aと、がシームレスに一体化される。これにより、歯車本体22及び外輪62Aは、1部品(胴部18)として扱われる。そのため、胴部18の内周面は、歯車本体22の内周面221(図14参照)及び外輪62Aの内周面620(図13参照)を含んでいる。
また、上述した点以外にも、例えば、内歯歯車2及び遊星歯車3の歯数、減速比、遊嵌孔32及び内ピン4の数、並びに、各部の具体的形状及び寸法等についても、本実施形態と基本構成とでは適宜相違する。例えば、遊嵌孔32及び内ピン4は、基本構成では18個ずつ設けられているのに対して、本実施形態では一例として12個ずつ設けられている。
<内輪についての工夫>
次に、本実施形態に係る歯車装置1Aにおける、軸受け部材6Aの内輪61Aについての工夫に関して、図11~図16を参照して詳しく説明する。
本実施形態では、上述したように、軸受け部材6Aの内輪61Aは、回転軸Ax1に平行な方向において対向する第1内輪601と第2内輪602との2部品を含むように構成されている。第1内輪601及び第2内輪602は、対向面601A,602A同士を接触させた状態で組み合わされている。言い換えれば、内輪61Aは、回転軸Ax1に平行な方向に並ぶ、第1内輪601及び第2内輪602の2部品に分割されている。
第1内輪601及び第2内輪602は、いずれも環状の部品である。第1内輪601及び第2内輪602は、いずれも平面視で真円となる、円環状を有している。第1内輪601と第2内輪602とでは、外径φ1(図15参照)は同一であって、内径も略同一である。回転軸Ax1に平行な方向の寸法は、本実施形態では一例として、第1内輪601よりも第2内輪602の方が大きいが、この寸法関係に限る趣旨ではない。
第1内輪601及び第2内輪602は、いずれも外輪62Aよりも一回り小さく、外輪62Aの内側に配置される。ここで、外輪62Aの内径φ3(図15参照)は第1内輪601及び第2内輪602の外径φ1よりも大きいため、外輪62Aの内周面620と第1内輪601及び第2内輪602の外周面との間には隙間が生じる。さらに、詳しくは後述するが、第1内輪601及び第2内輪602の外径φ1は、歯車本体22の内周面221における複数のピン保持溝223(図14参照)の底部を通る仮想円VC1(図14参照)の直径φ2(図15参照)より更に小さい。
ここで、第1内輪601及び第2内輪602は、回転軸Ax1に平行な方向において、第1内輪601が遊星歯車3側、第2内輪602が遊星歯車3とは反対側となるように配置されている。言い換えれば、第1内輪601及び第2内輪602は、第1内輪601が回転軸Ax1の入力側(図11の左側)、第2内輪602が回転軸Ax1の出力側(図11の右側)となるように配置されている。そのため、第1内輪601における第2内輪602との対向面601Aは、第1内輪601のうちの回転軸Ax1の出力側(図11の右側)に向けられた表面からなる。反対に、第2内輪602における第1内輪601との対向面602Aは、第2内輪602のうちの回転軸Ax1の入力側(図11の左側)に向けられた表面からなる。第1内輪601及び第2内輪602は、これらの対向面601A,602A同士を互いに接触させるように、互いに組み合わされて内輪61Aを構成する。
第1内輪601及び第2内輪602は、上述のように組み合わされた状態で、図12に示すように、複数の位置決めピン65及び複数のボルト66にて結合されている。複数の位置決めピン65は、第1内輪601から第2内輪602にかけて内輪61Aを回転軸Ax1に平行な方向に貫通する複数の孔に圧入されている。また、複数のボルト66は、第2内輪602を通して第1内輪601に締め付けられている。そのため、第1内輪601及び第2内輪602は、回転軸Ax1に直交する平面内での相対的な位置が、複数の位置決めピン65により位置決めされた状態で、複数のボルト66にて結合される。
ここで、軸受け部材6Aにおいては、複数の転動体63は、図15に示すように、内輪61Aにおける第1内輪601と第2内輪602との分割面上に位置する。本実施形態では、第1内輪601における第2内輪602との対向面601Aが第1内輪601と第2内輪602との分割面になるので、第1内輪601における第2内輪602との対向面601Aを含む平面上に、複数の転動体63が位置する。本実施形態では、軸受け部材6Aは、ラジアル方向の荷重、スラスト方向(回転軸Ax1に沿う方向)の荷重、及び回転軸Ax1に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)を受けるクロスローラベアリングである。そのため、軸受け部材6の複数の転動体63は、それぞれ回転軸Ax1に直交する平面に対して45度の傾きを有する円筒状のコロからなる。このような複数の転動体63が、第1内輪601における第2内輪602との対向面601Aと同一平面上に位置する。
本実施形態では特に、回転軸Ax1に平行な方向における複数の転動体63の各々の中心が、第1内輪601における第2内輪602との対向面601Aと同一平面上に位置する。言い換えれば、回転軸Ax1に平行な方向における複数の転動体63の中心を含む平面を分割面として、内輪61Aが第1内輪601と第2内輪602とに分割されている。このような構成により、軸受け部材6Aの組み立てに際し、外輪62Aに対してセットされた複数の転動体63を、回転軸Ax1に平行な方向の両側から第1内輪601と第2内輪602とで挟むようすることで、比較的簡単に軸受け部材6Aを組み立て可能となる。
本実施形態では、オイルシール15は、第2内輪602と偏心軸7(軸心部71)との間の隙間を塞いでいる。同様に、オイルシール16は、第2内輪602と外輪62との間の隙間を塞いでいる。複数のオイルシール14,15,16で密閉された空間は、基本構成と同様に潤滑剤保持空間17(図11参照)を構成する。
このように、内輪61Aが第1内輪601と第2内輪602との2部品に分割されていることにより、第1内輪601と第2内輪602との間には、たとえ僅かであっても隙間が生じ得る。このような隙間が生じることで、例えば潤滑剤が当該隙間を通して、潤滑剤保持空間17内を循環しやすくなる。特に第1内輪601と第2内輪602との間の隙間が僅かであれば、潤滑剤保持空間17内の潤滑剤は、例えば、毛細管現象によって、当該隙間を通して広がることが期待される。したがって、内輪61Aが第1内輪601と第2内輪602との2部品に分割されていない場合に比較して、例えば、歯車装置1Aの長期的な使用に際しても、潤滑剤が潤滑剤保持空間17の全体に行きわたりやすくなり、歯車装置1Aにおける伝達効率の低下等の不具合が生じにくくなる。
また、内輪61Aが第1内輪601と第2内輪602との2部品に分割されていることで、内輪61Aの加工を大幅に複雑化することなく、軸受け部材6Aの組み立てを容易にすることができる。そして、内輪61Aの加工が複雑化されないことで、内輪61のサイズを比較的小さく抑えて、クロスローラベアリングとしては比較的コンパクトな軸受け部材6Aを実現可能である。
ところで、本実施形態では、基本構成と同様に、複数の内ピン4が、遊星歯車3と軸受け部材6Aの内輪61Aとを連結する。具体的には、内ピン4の長手方向の一端部(回転軸Ax1の入力側の端部)は、遊星歯車3(第1遊星歯車301と第2遊星歯車302)の遊嵌孔32に挿入され、内ピン4の長手方向の他端部(回転軸Ax1の出力側の端部)は、内輪61Aの保持孔611に挿入されている。
そして、内ピン4の直径が保持孔611よりも僅かに大きいことで、内ピン4は、軸受け部材6Aの保持孔611に挿入された状態において、保持孔611内での公転は禁止されるものの、保持孔611内での自転は可能である。つまり、内ピン4は、保持孔611に挿入された状態でも、保持孔611に圧入される訳ではないので、保持孔611内で自転可能である。このように、本実施形態に係る歯車装置1Aでは、複数の内ピン4の各々は、自転可能な状態で内輪61Aに保持されるので、遊嵌孔32内を内ピン4が公転する際に、内ピン4自体が自転可能である。
ここで、本実施形態では、基本構成とは異なり、複数の保持孔611の各々は、内輪61Aの全体を貫通するのではなく、内輪61Aのうちの第1内輪601のみを貫通するように構成されている。すなわち、第1内輪601は、回転軸Ax1に平行な方向において複数の内ピン4がそれぞれ貫通する複数の保持孔611を有している。そして、内ピン4は、長手方向の他端部(回転軸Ax1の出力側の端部)が保持孔611に挿入されることにより、内輪61Aに保持される。
本実施形態では、第2内輪602に内ピン4が挿入されないため、第2内輪602には保持孔611は設けられていない。そのため、複数の内ピン4の各々の端面は、第2内輪602における第1内輪601との対向面602Aに突き合わされる。つまり、内ピン4の長手方向における遊星歯車3とは反対側(回転軸Ax1の出力側)の端面は、第2内輪602の表面(対向面602A)に突き合わされている。内ピン4の長手方向の端面は、第2内輪602の対向面602Aに対して、内ピン4の自転が妨げられない程度に軽く接触していてもよいし、離間していてもよい。そのため、内ピン4の回転軸Ax1の出力側への移動が第2内輪602にて規制され、かつ潤滑剤保持空間17内の潤滑剤が保持孔611を通して漏れることが抑制される。
また、内ピン4の直径が保持孔611よりも僅かに大きいことで、第1内輪601における複数の保持孔611の各々の内周面と、複数の内ピン4の各々の外周面との間には、隙間が形成されている。つまり、保持孔611は内ピン4が遊嵌される孔であって、内ピン4は、保持孔611の内周面との間に、空間的な余裕(隙間)を確保した状態で保持孔611に挿入される。ただし、内ピン4は保持孔611内で自転可能であればよいので、遊嵌孔32の内周面321と内ピン4との間の隙間に比べて、保持孔611の内周面と内ピン4との間の隙間は小さい。さらに、保持孔611の内周面と内ピン4との間には、空洞としての隙間が確保されることは必須ではなく、例えば、この隙間に液体等の流体が充填されていてもよい。具体的には、保持孔611の内周面と内ピン4との間の隙間には、潤滑剤が充填されている。そのため、保持孔611内での内ピン4の自転が潤滑剤により円滑になる。
さらに、本実施形態に係る歯車装置1Aは、図16に示すように、潤滑剤の循環路RL1を更に備える。図16では、循環路RL1を通る潤滑剤の流れを破線矢印にて模式的に表している。循環路RL1は、少なくとも第1内輪601及び第2内輪602間の隙間と、複数の転動体63の各々を収容する空間と、複数の保持孔611の各々と、を通して潤滑剤を循環させる経路(循環路)である。つまり、循環路RL1は、第1内輪601及び第2内輪602間の隙間、転動体63を収容する空間、及び保持孔611を含んでおり、図16に示すように、ループ状に形成されている。これにより、例えば、転動体63を収容する空間に注入されている潤滑剤が、循環路RL1に沿って、第1内輪601及び第2内輪602間の隙間、保持孔611(の内周面と内ピン4との間の隙間)を通って、再び転動体63を収容する空間へと循環しやすくなる。ただし、循環路RL1と通して潤滑剤が移動する向きは、図16に矢印で示す向きに限らず、反対向きであってもよい。
また、本実施形態に係る歯車装置1Aは、各部品の表面硬度について、以下の条件を満たしている。
すなわち、複数の内ピン4の各々と、第1内輪601とでは、同程度の表面硬度が採用されている。具体的には、複数の内ピン4の各々の表面硬度と、第1内輪601の表面硬度との差分は、HRC3以下である。つまり、内ピン4の表面硬度は、第1内輪601の表面硬度を基準としてロックウェル硬さ(HRC)で±3の範囲に設定されている。ここで、内ピン4の表面硬度と、第1内輪601の表面硬度との差分は、HRC2以下であることが好ましく、HRC1以下であることがより好ましい。ここでいう「第1内輪601の表面硬度」は、少なくとも第1内輪601における保持孔611の内周面の硬度を指す。第1内輪601は、保持孔611内で自転可能な状態で内ピン4を保持するので、本実施形態のように、内ピン4と第1内輪601との表面硬度を同程度(HRC3以下の差分)にすることで、内ピン4及び第1内輪601の摩耗を抑制する効果が期待される。結果的に、保持孔611内での内ピン4の自転によっても摩耗粉等が生じにくく、内ピン4の円滑な回転を長期にわたって維持しやすい。
さらに、複数の内ピン4の各々の表面硬度は、HRC60程度である。より厳密には、複数の内ピン4の各々の表面硬度は、HRC60±3の範囲内にある。本実施形態では、内ピン4と第1内輪601との表面硬度を同程度(HRC3以下の差分)であるので、第1内輪601の表面硬度は、HRC60±6の範囲内にある。ここで、内ピン4の表面硬度は、HRC60±2の範囲内にあることが好ましく、HRC60±1の範囲内にあることがより好ましい。結果的に、保持孔611内での内ピン4の自転によっても摩耗粉等が生じにくく、内ピン4の円滑な回転を長期にわたって維持しやすい。
また、本実施形態では、第2内輪602についても、第1内輪601(及び内ピン4)と同程度の表面硬度が採用されている。具体的には、第2内輪602の表面硬度と第1内輪601の表面硬度との差分は、HRC3以下である。金属部品の硬度を高める(硬くする)手段としては、例えば、合金化又は熱処理等がある。
<外輪についての工夫>
次に、本実施形態に係る歯車装置1Aにおける、軸受け部材6Aの外輪62Aについての工夫に関して、図11~図16を参照して詳しく説明する。
本実施形態では、上述したように、軸受け部材6Aの外輪62Aは、歯車本体22と回転軸Ax1に平行な方向(内歯21の歯筋方向)においてシームレスに連続して設けられている。本開示でいう「シームレス」は、複数の部品(部位)が継ぎ目なくつながっている構造を意味し、これら複数の部品(部位)が破壊を伴わずに分離できない状態をいう。つまり、本実施形態では、別部品として用意された外輪62Aと歯車本体22とが、例えば、締結具(ボルト等)又は接着剤等により結合されているのではなく、外輪62Aと歯車本体22とは継ぎ目なく連続するように一体化されている。
具体的には、例えば、金属塊からなる1つの基材に対する切削加工等の加工により、外輪62Aと歯車本体22とを一体に形成することにより、シームレスに連続する外輪62A及び歯車本体22が具現化される。あるいは、鋳造等の場合には、溶融金属からなる1つの基材を成形用の型に流し込むことにより、外輪62Aと歯車本体22とを一体に形成し、シームレスに連続する外輪62A及び歯車本体22が具現化される。このように、本実施形態に係る歯車装置1Aにおいては、外輪62Aと歯車本体22とを、例えば、1つの基材に対する加工により一体に形成することで、歯車本体22と回転軸Ax1に平行な方向においてシームレスに連続して設けられる外輪62Aを実現する。言い換えれば、歯車装置1Aの製造方法は、外輪62Aと歯車本体22とを、1つの基材に対する加工により一体に形成する工程を有する。
このように、本実施形態に係る歯車装置1Aでは、外輪62Aが歯車本体22と回転軸Ax1に平行な方向においてシームレスに連続して設けられていることにより、内歯歯車2と軸受け部材6Aとの芯出しの精度向上を図りやすくなる。つまり、内歯歯車2の歯車本体22の中心と、軸受け部材6Aの外輪62Aの中心とが、回転軸Ax1上に精度よく維持されやすくなる。その結果、歯車装置1Aでは、芯出し不良に起因した振動の発生、及び伝達効率の低下等の不具合が生じにくい、という利点がある。
歯車本体22及び外輪62Aは、いずれも平面視で真円となる、円環状を有している。本実施形態では特に、歯車本体22及び外輪62Aは、ケース10のうちの胴部18にシームレスに一体化されている。言い換えれば、ケース10の胴部18の一部が、歯車本体22及び外輪62Aとして機能する。そのため、図15に示すように、歯車本体22と外輪62Aとでは、その外径は同一である。一方、内径に関しては、歯車本体22と外輪62Aとで相違する。
具体的には、歯車本体22の内周面221には、図14に示すように、円周方向の全域に複数の溝が形成されている。これら複数の溝は、それぞれ複数の外ピン23の保持構造としての複数のピン保持溝223である。言い換えれば、複数の外ピン23の保持構造は、歯車本体22の内周面221に形成された複数のピン保持溝223を含む。複数のピン保持溝223は、全て同一形状であって、等ピッチで設けられている。複数のピン保持溝223は、いずれも回転軸Ax1と平行であって、歯車本体22の全幅にわたって形成されている。ただし、本実施形態では、上述したように歯車本体22は胴部18の一部であるので、複数のピン保持溝223は胴部18のうちの歯車本体22に対応する部位(図11参照)にのみ形成されている。複数の外ピン23は、複数のピン保持溝223に嵌るようにして、歯車本体22(胴部18)に組み合わされている。複数の外ピン23の各々は、ピン保持溝223内において自転可能な状態で保持され、ピン保持溝223により歯車本体22の円周方向への移動が規制される。
このような複数のピン保持溝223が形成されていることで、歯車本体22の内径は、ピン保持溝223の底部で最大となり、ピン保持溝223以外で最小となる。本実施形態では、複数のピン保持溝223の底部を通る仮想円VC1の直径φ2、つまり歯車本体22の内径の最大値を、歯車本体22の内径と定義する。そして、図15に示すように、歯車本体22の内径(φ2)は、軸受け部材6Aの外輪62Aの内径φ3とは異なる。要するに、外輪62Aの内径φ3は、歯車本体22の内周面221における複数の外ピン23が保持される複数のピン保持溝223の底部を通る仮想円VC1の直径φ2とは異なる。これにより、歯車本体22と外輪62Aとがシームレスに連続しながらも、両者の内径の違いによって、歯車本体22と外輪62Aとの機能を明確に分けやすくなる。
さらに、本実施形態では、図15に示すように、外輪62Aの内径φ3は、仮想円VC1の直径φ2より大きい(φ3>φ2)。つまり、歯車本体22の内径(の最大値)である仮想円VC1の直径φ2は、外輪62Aの内径φ3よりも小さい。これにより、胴部18の内周面においては、歯車本体22の内周面221における複数のピン保持溝223の底部と、外輪62Aとの間に、図16に示すように、高さD1の段差が生じることになる。段差の高さD1は、例えば、外ピン23の径φ10(図14参照)の12分の1(φ10×1/12)以上、10分の2倍(φ10×0.2)以下であることが好ましい。一例として、外ピン23の径φ10が2.5mm程度である場合に、段差の高さD1は、0.2mm以上、0.5mm以下であることが好ましい。この段差により、ピン保持溝223にて保持される外ピン23と、外輪62Aの内周面620との干渉を回避できる。
また、本実施形態においては、仮想円VC1の直径φ2よりも更に、内輪61A(第1内輪601及び第2内輪602)の外径φ1は小さい。つまり、仮想円VC1の直径φ2は内輪61Aの外径φ1より大きく、外輪62Aの内径φ3は仮想円VC1の直径φ2はより大きい。言い換えれば、仮想円VC1の直径φ2は、内輪61Aの外径φ1と、外輪62Aの内径φ3との間の値となる(φ1<φ2<φ3)。
また、図16に示すように、外輪62Aの内周面620と歯車本体22の内周面221との間には保持凹部67が配置されている。保持凹部67は、外輪62Aの円周方向の全周にわたって設けられた溝からなる。保持凹部67は、例えば、表面張力により潤滑剤を保持可能な大きさ及び形状に形成されている。つまり、保持凹部67は、潤滑剤(潤滑油)を溜めておくための「油溜まり」として機能する。本実施形態では、歯車本体22及び外輪62Aは、歯車本体22が回転軸Ax1の入力側(図16の左側)、外輪62Aが回転軸Ax1の出力側(図16の右側)となるように配置されている。そのため、歯車本体22の内周面221、保持凹部67、及び外輪62Aの内周面620は、回転軸Ax1の入力側から歯車本体22の内周面221、保持凹部67、外輪62Aの内周面620の順で並ぶ。
本実施形態では一例として、図16に示すように、保持凹部67は、外輪62Aの円周方向に直交する断面形状が矩形状である。保持凹部67の(外輪62Aの内周面620からの)深さD2及び保持凹部67の幅D3は、いずれも段差の高さD1よりも大きい。保持凹部67の深さD2及び幅D3は、それぞれ外ピン23の径φ10の10分の1(φ10×1/10)以上、2倍(φ10×2)以下であることが好ましい。一例として、外ピン23の径φ10が2.5mm程度である場合に、保持凹部67の深さD2及び幅D3は、0.25mm以上、5.0mm以下であることが好ましい。図16の例では、保持凹部67の深さD2は保持凹部67の幅D3よりも大きいが、この例に限らず、保持凹部67の深さD2は幅D3以下であってもよい。さらに、保持凹部67の断面形状は、矩形状に限らず、半円状、三角形状又はその他の多角形状等であってもよい。
ここで、本実施形態に係る歯車装置1Aは、保持凹部67から、複数の内ピン4の各々、複数の外ピン23の各々、及び複数の転動体63の少なくとも一つにつながる、潤滑剤の経路を更に備える。すなわち、「油溜まり」としての保持凹部67は、複数の内ピン4の各々、複数の外ピン23の各々、及び複数の転動体63の少なくとも一つに対して、潤滑剤の経路にてつながっている。これにより、保持凹部67に保持されている潤滑剤は、複数の内ピン4の各々、複数の外ピン23の各々、及び複数の転動体63の少なくとも一つに対して供給され、内ピン4、外ピン23及び転動体63の少なくとも一つの動きを円滑にする。本実施形態では、潤滑剤の循環路RL1上に、保持凹部67が位置することで、循環路RL1の一部を「潤滑剤」の経路として、保持凹部67内の潤滑剤を、内ピン4、外ピン23及び転動体63の少なくとも一つに供給する。特に、本実施形態では、図16に示すように、内ピン4、外ピン23及び転動体63は、いずれも循環路RL1上に位置するため、保持凹部67に保持されている潤滑剤を、内ピン4、外ピン23及び転動体63の全てに供給可能である。
特に、本実施形態では、循環路RL1上に転動体63が位置する。そのため、軸受け部材6Aが動作して転動体63が回転することで、転動体63がポンプとして機能して、潤滑剤保持空間17内の潤滑剤を、循環路RL1経由で積極的に循環させることが可能である。特に、第1内輪601と第2内輪602との分割面が、転動体63に臨む(対向する)位置にあることで、転動体63の回転時に、転動体63がポンプとして効率的に作用する。その結果、潤滑剤保持空間17内の潤滑剤が循環されやすくなり、歯車装置1Aの長期的な使用に際しても、潤滑剤が潤滑剤保持空間17の全体に行きわたりやすくなり、歯車装置1Aにおける伝達効率の低下等の不具合が生じにくくなる。
<適用例>
本実施形態に係る歯車装置1Aは、図17に示すように、車輪本体102と共に、車輪装置W1を構成する。言い換えれば、本実施形態に係る車輪装置W1は、歯車装置1Aと、車輪本体102と、を備えている。車輪本体102は、歯車本体22に対して複数の内ピン4が相対的に回転する際の回転出力により、走行面上を転がる。本実施形態では、歯車装置1の外郭を構成するケース10のうち、「回転部材」としての胴部18及びキャップ19が、車輪本体102を構成する。つまり、本実施形態に係る車輪装置W1においては、歯車装置1Aが、偏心軸7の回転を入力回転とし、歯車本体22が固定されている回転部材(胴部18等)の回転を出力回転として動作することで、車輪本体102が回転して走行面上を転がることになる。ここで、車輪本体102における走行面との接触面、つまり接地面となる胴部18の外周面には、例えば、ゴム製のタイヤ103が装着される。
このように構成される車輪装置W1は、内輪61Aが固定部材であるハブ部材104に固定された状態で使用される。これにより、偏心軸7が回転することで、固定部材(ハブ部材104)に対する回転部材(車輪本体102)の相対的な回転によって、車輪本体102が回転することになる。本実施形態では一例として、車輪装置W1は、複数のボルト66を利用して、ハブ部材104に対して内輪61A(第1内輪601及び第2内輪602)が固定される。このとき、ハブ部材104等に固定されるのは、内輪61Aのうち第2内輪602であることが好ましい。
ここで、歯車装置1Aが車輪装置W1に用いられる場合、基本的には、回転軸Ax1が水平面に沿った姿勢で歯車装置1Aが使用される。そのため、循環路RL1(図16参照)を通して循環する潤滑剤が、偏心体軸受け5(の転動体53)及び第2ベアリング92等の、偏心軸7周辺にも供給されやすくなる。つまり、循環路RL1を通して循環する潤滑剤の一部は、重力により、遊星歯車3(第2遊星歯車302)と第1内輪601との間の隙間を通して、偏心体軸受け5及び第2ベアリング92等へ供給されやすくなる。これにより、偏心軸7の高速回転時に遠心力で潤滑剤が外周側に飛ばされることがあっても、循環路RL1を通して潤滑剤を偏心軸7周辺にも供給でき、偏心軸7の円滑な回転を維持しやすくなる。
そして、歯車装置1Aを用いた車輪装置W1は、例えば、無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)等の車両に適用される。つまり、車輪装置W1は車両の車体に設けられているハブ部材104に装着され、車輪本体102が回転して走行面上を転がることで、車両は床面等からなる平坦な走行面上を走行する。一例として、歯車装置1Aは、車体に対して複数(例えば4つ)装着され、各歯車装置1Aの偏心軸7を、それぞれ個別の駆動源にて駆動することによって、「インホイールモータ」のレイアウトを採用する。これにより、駆動源は、車輪装置W1の偏心軸7を、回転軸Ax1を中心に回転させることにより、遊星歯車3を揺動させる。これにより、駆動源で発生する回転(入力回転)が、歯車装置1Aにおいて比較的高い減速比にて減速され、車輪本体102を比較的高トルクで回転させる。
ところで、本実施形態では、外輪62Aの外周面680は、歯車本体22の外周面224に比較して大きな応力を受ける受圧面を構成する。言い換えれば、外輪62Aの外周面680(受圧面)には、歯車本体22の外周面224に比較して大きな応力が外方から作用する。特に、歯車装置1Aが車輪装置W1等に用いられる場合においては、外輪62Aの外周面680に、歯車本体22の外周面224に比較して大きな応力が作用するように構成されることが好ましい。歯車本体22は、その内側において遊星歯車3が公転(揺動)可能となるように、遊星歯車3との間に比較的大きめの隙間がある。これに対して、外輪62Aは、その内側において内輪61Aが自転可能であればよく、内輪61Aとの間に比較的小さめの隙間がある。つまり、外輪62Aは、歯車本体22と比較すると、内側が詰まった中実構造に近い構造にあるため、ラジアル方向に作用する外力に対して高い剛性を持つ。そのため、外輪62Aの外周面680を受圧面とすることにより、剛性の高い外輪62A側にて外部からの応力を受けることができ、歯車装置1A全体としての応力に対する耐性が高くなる。
より詳細には、受圧面(外輪62Aの外周面680)には、外輪62Aの外周に嵌合される外装体からの応力が作用する。ここでは、タイヤ103が、外輪62Aの外周に嵌合される外装体の一例である。すなわち、タイヤ103が胴部18の外周に嵌合するように装着される際に、タイヤ103から胴部18に作用する応力(嵌合圧)は、歯車本体22に比べて外輪62Aで大きくなる。具体的には、例えば、図17に示すように、胴部18の外周面における外輪62Aに相当する部位に、スペーサ68を設けることにより、胴部18の外径を、歯車本体22に比べて外輪62Aで大きくする。これにより、胴部18に外装体としてのタイヤ103が装着された際に、タイヤ103からの応力は、歯車本体22側に比べて外輪62A側で大きくなる。ただし、スペーサ68を設ける構成に限らず、例えば、歯車本体22の外径を小さくしたり、外装体(タイヤ103等)の内径を歯車本体22側に比べて外輪62A側で小さくしたりすることでも、同様の作用を実現可能である。
あるいは、歯車装置1Aは、外装体からの応力については、外輪62Aの外周面680と、歯車本体22の外周面224とで同一である場合にも、走行面等の地面からの反力が、受圧面としての外輪62Aの外周面680側で大きくなるように構成されてもよい。具体的には、例えば、歯車装置1Aが車輪装置W1として用いられる場合に、キャンバー角の調節により、走行面等の地面からの反力が、歯車本体22側よりも外輪62A側で大きくなるように構成される。この場合、受圧面(外輪62Aの外周面680)には、接地面からの接地圧が作用することになる。
また、本実施形態に係る歯車装置1Aは、車輪装置W1に限らず、基本構成で説明したように、例えば、水平多関節ロボット(スカラ型ロボット)のようなロボット等にも適用可能である。
<変形例>
実施形態1は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態1は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、本開示で参照する図面は、いずれも模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
内ピン4は、内輪61Aを構成する第1内輪601及び第2内輪602のうちの第1内輪601を貫通してさえいればよく、図18A及び図18Bに示すように、第2内輪602の一部又は全部に内ピン4が挿入されていてもよい。図18Aの例では、保持孔611が、回転軸Ax1に平行な方向における第2内輪602の一部にまで延長されており、第1内輪601を貫通した内ピン4の端部が第2内輪602の途中まで挿入されている。図18Bの例では、保持孔611が、回転軸Ax1に平行な方向において第1内輪601及び第2内輪602の両方を貫通するように形成されており、第1内輪601を貫通した内ピン4が第2内輪602をも貫通する。
実施形態1では、遊星歯車3が2つのタイプの歯車装置1Aを例示したが、歯車装置1Aは、遊星歯車3を3つ以上備えていてもよい。例えば、歯車装置1Aが遊星歯車3を3つ備える場合、これら3つの遊星歯車3は、回転軸Ax1まわりで120度の位相差をもって配置されることが好ましい。また、歯車装置1Aは遊星歯車3を1つのみ備えていてもよい。
また、複数の内ピン4の各々が、少なくとも一部が軸受け部材6Aの軸方向において軸受け部材6Aと同じ位置に配置されることは、歯車装置1Aにおいて必須の構成ではない。すなわち、歯車装置1Aは、軸受け部材6Aと、内歯歯車2と、遊星歯車3と、複数の内ピン4と、を備えていればよい。軸受け部材6Aは、外輪62A及び外輪62Aの内側に配置される内輪61Aを有する。内輪61Aは外輪62Aに対して相対的に回転可能に支持される。内歯歯車2の歯車本体22は外輪62Aに固定される。複数の内ピン4の各々は、自転可能な状態で内輪61Aに保持されている。ここで、複数の内ピン4の各々は、軸受け部材6Aの軸方向において軸受け部材6Aと並ぶ(対向する)ように配置されてもよい。
また、実施形態1で説明した内ピン4の数、及び外ピン23の数(内歯21の歯数)、及び外歯31の歯数等は、一例に過ぎず、適宜変更可能である。
また、軸受け部材6Aは、クロスローラベアリングに限らず、深溝玉軸受け又はアンギュラ玉軸受等であってもよい。ただし、軸受け部材6Aは、例えば、4点接触玉軸受け等のように、ラジアル方向の荷重、スラスト方向(回転軸Ax1に沿う方向)の荷重、及び回転軸Ax1に対する曲げ力(曲げモーメント荷重)のいずれに対しても耐え得ることが好ましい。
また、偏心体軸受け5は、コロ軸受けに限らず、例えば、深溝玉軸受け、又はアンギュラ玉軸受等であってもよい。
また、歯車装置1Aの各構成要素の材質は、金属に限らず、例えば、エンジニアリングプラスチック等の樹脂であってもよい。
また、歯車装置1Aは、軸受け部材6Aの内輪61Aと外輪62Aとの間の相対的な回転を出力として取り出すことができればよく、外輪62Aの回転力が出力として取り出される構成に限らない。例えば、外輪62Aに対して相対的に回転する内輪61Aの回転力が出力として取り出されてもよい。
また、潤滑剤は、潤滑油(オイル)等の液状の物質に限らず、グリス等のゲル状の物質であってもよい。
また、歯車装置1Aは内ローラを備えていてもよい。つまり、歯車装置1Aにおいて、複数の内ピン4の各々が、遊嵌孔32の内周面321に直接的に接触することは必須ではなく、複数の内ピン4の各々と遊嵌孔32との間に内ローラが介在してもよい。この場合、内ローラは、内ピン4に装着されて内ピン4を軸に回転可能となる。
また、複数の内ピン4の各々は、自転可能な状態で内輪61Aに保持されていればよく、複数の内ピン4の各々が内輪61Aに直接的に保持されることは、歯車装置1Aにおいて必須ではない。例えば、複数の内ピン4の各々は、内輪61Aに一体化される出力軸又はキャリア等に形成された保持孔に挿入されることで、内輪61Aにて間接的に保持されてもよい。
また、支持体8が、周方向及び径方向の両方について、複数の内ピン4の支持体8に対する位置決めを行うことは、歯車装置1Aにおいて必須ではない。例えば、支持体8は、径方向(ラジアル方向)に延びるスリット状の支持孔82を有し、周方向についてのみ、複数の内ピン4の支持体8に対する位置決めを行ってもよい。反対に、支持体8は、径方向についてのみ、複数の内ピン4の支持体8に対する位置決めを行ってもよい。
また、歯車装置1Aは、軸受け部材6Aの内輪61Aについての工夫と、外輪62Aについての工夫との少なくとも一方を採用していればよく、これら両方を採用することは必須ではない。すなわち、歯車装置1Aは、内輪61Aが第1内輪601及び第2内輪602を有すること(内輪61Aについての工夫)と、外輪62Aが歯車本体22とシームレスに連続して設けられること(外輪62Aについての工夫)と、のいずれか一方のみを採用してもよい。
さらに、歯車装置1Aは、内輪61Aについての工夫と、外輪62Aについての工夫との少なくとも一方を採用すればよいので、その他の構成については、基本構成から適宜省略又は変更可能である。例えば、歯車装置1Aにおいて、第1関連技術と同様に、内ピン4は、内輪61A(又は内輪61Aと一体化されたキャリア)に対して圧入された状態で保持されていてもよく、この場合、複数の内ピン4の各々は、内輪61Aに対して自転できない状態で保持される。また、複数の内ピン4の各々は、軸受け部材6Aの軸方向において軸受け部材6Aと同じ位置に配置されなくてもよい。あるいは、歯車装置1Aにおいて、第2関連技術と同様に、複数の内ピン4は、内輪61A(又は内輪61Aと一体化されたキャリア)のみで保持されてもよい。この場合、支持体8は省略可能である。さらに、複数の内ピン4を支持する(束ねる)支持体8が設けられる場合でも、支持体8が外周面81を複数の外ピン23に接触させることにより位置規制されることは必須ではなく、支持体8の外周面81が複数の外ピン23から離れていてもよい。
また、内輪61Aについての工夫に関しても、歯車装置1Aは、内輪61Aが第1内輪601及び第2内輪602を有していればよく、例えば、内輪61Aが3つ以上の部品に分割されていてもよい。つまり、一例として、内輪61Aは、第1内輪601及び第2内輪602に加えて、第3内輪を有することで、3つの部品に分割されていてもよい。
また、複数の位置決めピン65が圧入される複数の孔は、第1内輪601から第2内輪602にかけて形成されていればよく、内輪61Aを回転軸Ax1に平行な方向に貫通していなくてもよい。例えば、第2内輪602における第1内輪601との対向面602A側から、第2内輪602の厚みの途中まで形成された孔に、位置決めピン65が圧入されてもよい。この場合、位置決めピン65を圧入するための孔を通して潤滑剤が漏れることが防止される。
また、外輪62Aについての工夫に関し、軸受け部材6Aの外輪62Aは、歯車本体22と回転軸Ax1に平行な方向において、完全にシームレスでなくてもよい。すなわち、歯車装置1Aの製造方法は、外輪62Aと歯車本体22とを、1つの基材に対する加工により一体に形成する工程を有していればよい。具体的には、例えば、2種類の金属塊を圧着又は接着等により接合(一体化)した1つの基材に対する加工により外輪62Aと歯車本体22とが一体に形成されてもよい。この場合、2種類の金属塊の接合部位において継ぎ目が生じるため、完全にシームレスではないものの、シームレスに連続する外輪62A及び歯車本体22と同様の効果が期待できる。
(実施形態2)
本実施形態に係る内接噛合遊星歯車装置1B(以下、単に「歯車装置1B」ともいう)は、図19A及び図19Bに示すように、軸受け部材6Aの内輪61Aの細部の形状が、実施形態1に係る歯車装置1Aと相違する。図19Bは、図19AのA1-A1線断面における第1内輪601の要部のみを示す図である。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
本実施形態に係る歯車装置1Bでは、第1内輪601における第2内輪602とは反対側の表面には、複数の保持孔611の各々の開口面積を広げる拡径部691が形成されている。具体的には、拡径部691は、図19Aに示すように、第1内輪601の回転軸Ax1の入力側(図19Aの左側)の面における保持孔611の開口周縁に形成された面取り部にて構成される。ここでは、拡径部691は、保持孔611の開口面積が第2内輪602から離れる程に大きくなるようにテーパ状(C面状)に形成されている。本実施形態では、このような拡径部691が、全ての保持孔611に対応してそれぞれ形成されている。拡径部691はテーパ状(C面状)に限らず、例えば、湾曲したR面状、又は階段状の座繰り形状等であってもよい。
このような拡径部691が形成されていることにより、少なくとも複数の保持孔611の各々における第2内輪602とは反対側の開口面においては、内ピン4との間の隙間が拡大される形になる。その結果、拡径部691によって生じる保持孔611の内周面と内ピン4との間の隙間が、潤滑剤(潤滑油)を溜めておくための「油溜まり」として機能する。拡径部691は保持孔611に連続しているため、拡径部691に溜められた潤滑剤は、例えば、毛細管現象により保持孔611の内周面と内ピン4との隙間に引き込まれ、内ピン4の回転(自転)を円滑にするよう作用する。
さらに、「油溜まり」としての拡径部691は、図20に示すように、潤滑剤の循環路RL1上に位置する。そのため、循環路RL1の一部を「潤滑剤」の経路として、拡径部691内の潤滑剤を、内ピン4以外の、外ピン23及び転動体63の少なくとも一つに対しても供給することができる。特に、本実施形態では、図20に示すように、外ピン23及び転動体63は、いずれも循環路RL1上に位置するため、拡径部691に保持されている潤滑剤を、外ピン23及び転動体63の両方に供給可能である。
また、本実施形態では、図19A及び図19Bに示すように、第1内輪601と第2内輪602との少なくとも一方における他方との対向面601A,602Aには、連結溝692が形成されている。連結溝692は、複数の転動体63の各々を収容する空間と、複数の保持孔611の各々とを連結する。すなわち、連結溝692は、第1内輪601と第2内輪602との分割面である対向面601Aと対向面602Aとの少なくとも一方に設けられ、内輪61Aと外輪62Aとの間における転動体63の各々を収容する空間と、保持孔611とを連結している。本実施形態では一例として、第1内輪601における第2内輪602との対向面601Aに、内輪61Aのラジアル方向に沿って連結溝692が形成されている。本実施形態では、このような連結溝692が、全ての保持孔611に対応してそれぞれ形成されている。
連結溝692は、潤滑剤(潤滑油)を通す経路として機能する。本実施形態では、図20に示すように、連結溝692は、潤滑剤の循環路RL1の一部を構成する。本実施形態では一例として、図19Bに示すように、連結溝692は、内輪61Aのラジアル方向に直交する断面形状が矩形状である。連結溝692の(対向面601Aからの)深さD4及び連結溝692の幅D5は、それぞれ外ピン23の径φ10の10分の1(φ10×1/10)以上、2倍(φ10×2)以下であることが好ましい。一例として、外ピン23の径φ10が2.5mm程度である場合に、連結溝692の深さD4及び幅D5は、0.25mm以上、5.0mm以下であることが好ましい。図20の例では、連結溝692の深さD4は連結溝692の幅D5よりも小さいが、この例に限らず、連結溝692の深さD4は幅D5以上であってもよい。さらに、連結溝692の断面形状は、矩形状に限らず、半円状、三角形状又はその他の多角形状等であってもよい。
このような連結溝692が設けられていることで、連結溝692を通して潤滑剤が潤滑剤保持空間17内を循環しやすくなる。特に、連結溝692は、内輪61Aと外輪62Aとの間における転動体63を収容する空間につながっている。そのため、軸受け部材6Aが動作して転動体63が回転することで、転動体63がポンプとして機能して、潤滑剤保持空間17内の潤滑剤を、連結溝692経由で積極的に循環させることが可能である。その結果、潤滑剤保持空間17内の潤滑剤が循環されやすくなり、歯車装置1Bの長期的な使用に際しても、潤滑剤が潤滑剤保持空間17の全体に行きわたりやすくなり、歯車装置1Bにおける伝達効率の低下等の不具合が生じにくくなる。
さらには、連結溝692が設けられることにより、オイルシール16と転動体63との間の空間における内圧を下げる効果も期待できる。つまり、オイルシール16と転動体63との間の空間が、連結溝692によって保持孔611につながることで、オイルシール16と転動体63との間の空間が拡張されるので、転動体63がポンプとして機能した際に、内圧の上昇の抑制につながる。潤滑剤保持空間17の内圧の上昇が抑制される結果、例えば、オイルシール16を超えての潤滑剤の漏れ等が生じにくくなる。
実施形態2の変形例として、連結溝692は、第1内輪601と第2内輪602との両方の対向面601A,602Aに形成されていてもよい。また、連結溝692は、第2内輪602の対向面602Aにのみ形成されていてもよい。
実施形態2の他の変形例として、拡径部691及び連結溝692は、個別に採用されていてもよい。すなわち、歯車装置1Bは、拡径部691及び連結溝692のうち拡径部691のみを有していてもよいし、反対に、連結溝692のみを有していてもよい。
実施形態2の構成(変形例を含む)は、実施形態1で説明した構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて適用可能である。
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)は、軸受け部材(6,6A)と、内歯歯車(2)と、遊星歯車(3)と、複数の内ピン(4)と、を備える。軸受け部材(6,6A)は、外輪(62,62A)、外輪(62,62A)の内側に配置される内輪(61,61A)、及び外輪(62,62A)と内輪(61,61A)との間に配置される複数の転動体(63)を有し、内輪(61,61A)が外輪(62,62A)に対して回転軸(Ax1)を中心に相対的に回転可能に支持される。内歯歯車(2)は、内歯(21)を有し外輪(62,62A)に固定される。遊星歯車(3)は、内歯(21)に部分的に噛み合う外歯(31)を有する。複数の内ピン(4)は、遊星歯車(3)に形成された複数の遊嵌孔(32)にそれぞれ挿入された状態で、遊嵌孔(32)内を公転しながら内歯歯車(2)に対して相対的に回転する。内輪(61,61A)は、回転軸(Ax1)に平行な方向において対向し、かつ対向面(601A,602A)同士が接触する第1内輪(601)及び第2内輪(602)を含む。第1内輪(601)は、回転軸(Ax1)に平行な方向において複数の内ピン(4)がそれぞれ貫通する複数の保持孔(611)を有する。複数の内ピン(4)の各々は、自転可能な状態で内輪(61,61A)に保持されている。
この態様によれば、第1内輪(601)と第2内輪(602)との間には、たとえ僅かであっても隙間が生じ得る。このような隙間が生じることで、例えば潤滑剤が当該隙間を通して内ピン(4)等に供給されやすくなる。したがって、内輪(61,61A)が第1内輪(601)と第2内輪(602)とに分割されていない場合に比較して、例えば、内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)の長期的な使用に際しても、潤滑剤が全体に行きわたりやすくなり、内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)における伝達効率の低下等の不具合が生じにくくなる。
第2の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1の態様において、複数の内ピン(4)の各々の端面は、第2内輪(602)における第1内輪(601)との対向面(602A)に突き合わされる。
この態様によれば、内ピン(4)の回転軸(Ax1)に平行な方向への移動が第2内輪(602)にて規制され、かつ潤滑剤が保持孔(611)を通して漏れることが抑制される。
第3の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1又は2の態様において、第1内輪(601)における複数の保持孔(611)の各々の内周面と、複数の内ピン(4)の各々の外周面との間には、隙間が形成されている。
この態様によれば、保持孔(611)内での内ピン(4)の自転が潤滑剤により円滑になる。
第4の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1~3のいずれかの態様において、第1内輪(601)における第2内輪(602)とは反対側の表面には、複数の保持孔(611)の各々の開口面積を広げる拡径部(691)が形成されている。
この態様によれば、拡径部(691)によって生じる保持孔(611)の内周面と内ピン(4)との間の隙間が、潤滑剤を溜めておくための「油溜まり」として機能し、内ピン(4)の回転(自転)を円滑にするよう作用する。
第5の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1~4のいずれかの態様において、第1内輪(601)と第2内輪(602)との少なくとも一方における他方との対向面(601A,602A)には、連結溝(692)が形成されている。連結溝(692)は、複数の転動体(63)の各々を収容する空間と、複数の保持孔(611)の各々とを連結する。
この態様によれば、連結溝(692)を通して潤滑剤が循環しやすくなる。特に、転動体(63)が回転することで、転動体(63)がポンプとして機能して、潤滑剤を、連結溝(692)経由で積極的に循環させることが可能である。
第6の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1~5のいずれかの態様において、複数の内ピン(4)の各々の表面硬度と、第1内輪(601)の表面硬度との差分は、HRC3以下である。
この態様によれば、保持孔(611)内での内ピン(4)の自転によっても摩耗粉等が生じにくく、内ピン(4)の円滑な回転を長期にわたって維持しやすい。
第7の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1~6のいずれかの態様において、複数の内ピン(4)の各々の表面硬度は、HRC60±3の範囲内にある。
この態様によれば、保持孔(611)内での内ピン(4)の自転によっても摩耗粉等が生じにくく、内ピン(4)の円滑な回転を長期にわたって維持しやすい。
第8の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第1~7のいずれかの態様において、第1内輪(601)における第2内輪(602)との対向面(601A)を含む平面上に複数の転動体(63)が位置する。
この態様によれば、転動体(63)の回転時に、転動体(63)がポンプとして効率的に作用し、潤滑剤が循環されやすくなる。
第9の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)では、第8の態様において、回転軸(Ax1)に平行な方向における複数の転動体(63)の各々の中心が、第1内輪(601)における第2内輪(602)との対向面(601A)と同一平面上に位置する。
この態様によれば、転動体(63)の回転時に、転動体(63)がポンプとして効率的に作用し、潤滑剤が循環されやすくなる。
第10の態様に係る内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)は、第1~9のいずれかの態様において、潤滑剤の循環路(RL1)を更に備える。潤滑剤の循環路(RL1)は、少なくとも第1内輪(601)及び第2内輪(602)間の隙間と、複数の転動体(63)の各々を収容する空間と、複数の保持孔(611)の各々と、を通る。
この態様によれば、転動体(63)及び内ピン(4)を通して潤滑剤が循環しやすくなる。
第2~10の態様に係る構成については、内接噛合遊星歯車装置(1,1A,1B)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。