JP2022094616A - 軸受部品およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い耐表面損傷性を有する軸受部品を提供する。【解決手段】軸受部品10は、高炭素クロム軸受鋼で構成され、表面10dに焼き入れ硬化層11を有する軸受部品である。焼き入れ硬化層は、複数のマルテンサイト結晶粒を含む。複数のマルテンサイト結晶粒の最大粒径は、3.5μm以下である。複数のマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は10以下である。複数のマルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率が5.0以下である。【選択図】図2

Description

本発明は、軸受部品およびその製造方法に関する。
軸受は、軸受部品として、内輪および外輪(以下では、これらを総称して軌道部材ということがある)と、転動体とを備える。特許第3905429号公報(特許文献1)に開示された軸受部品は、表面の旧オーステナイト粒が微細化されているため、高い耐表面損傷性を有している。すなわち、特許文献1に記載の軸受部品の表面は、高い耐圧痕形成性(転動体が軌道部材に押し付けられた場合の圧痕の形成されにくさ)と高い耐摩耗性を有している。
特許第3905429号公報
近年では、軸受を使用する機械の低燃費化、高能率化に伴い、軸受部品は従来よりも過酷な使用環境下に置かれる傾向にある。そのため、軸受部品に対して、より高い耐表面損傷性が望まれている。
本発明の主たる目的は、高い耐表面損傷性を有する軸受部品を提供することにある。
本発明に係る軸受部品は、高炭素クロム軸受鋼で構成され、表面に焼き入れ硬化層を有する軸受部品である。前記焼き入れ硬化層は、複数のマルテンサイト結晶粒を含む。複数のマルテンサイト結晶粒の最大粒径は、3.5μm以下である。複数のマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は10以下である。複数のマルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率が5.0以下である。
上記軸受部品において、複数のマルテンサイト結晶粒が以下に示す第1群と第2群とに区分されるとき、第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は1.1μm以下であってもよい。第1群に属するマルテンサイト結晶粒の結晶粒径の最小値は、第2群に属するマルテンサイト結晶粒の最大値よりも大きい。第1群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積を複数のマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は0.5以上である。第1群に属する結晶粒径が最も小さいマルテンサイト結晶粒を除いた第1群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積を複数のマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は0.5未満である。
さらに上記軸受部品では、複数のマルテンサイト結晶粒が以下に示す第3群と第4群とに区分されるとき、第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は0.8μm以下であってもよい。第3群に属するマルテンサイト結晶粒の結晶粒径の最小値は、第4群に属するマルテンサイト結晶粒の最大値よりも大きい。第3群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積を複数のマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は0.7以上である。第3群に属する結晶粒径が最も小さいマルテンサイト結晶粒を除いた第3群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積を複数のマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は0.7未満である。
上記軸受部品では、第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は3.2以下であり、第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は3.0以下であってもよい。
上記軸受部品では、焼き入れ硬化層は、複数のセメンタイト粒をさらに含む。複数のセメンタイト粒が以下に示す第5群と第6群とに区分されるとき、第5群に属するセメンタイト粒の平均粒径は1.4μm以下であってもよい。第5群に属するセメンタイト粒の結晶粒径の最小値は、第6群に属するセメンタイト粒の最大値よりも大きい。第5群に属するセメンタイト粒の総面積を複数のセメンタイト粒の総面積で除した値は0.5以上である。第5群に属する結晶粒径が最も小さいセメンタイト粒を除いた第5群に属するセメンタイト粒の総面積を複数のセメンタイト粒の総面積で除した値は0.5未満である。
さらに上記軸受部品では、複数のセメンタイト粒が以下に示す第7群と第8群とに区分されるとき、第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径は1.10μm以下であってもよい。第7群に属するセメンタイト粒の結晶粒径の最小値は、第8群に属するセメンタイト粒の最大値よりも大きい。第7群に属するセメンタイト粒の総面積を複数のセメンタイト粒の総面積で除した値は0.7以上である。第7群に属する結晶粒径が最も小さいセメンタイト粒を除いた第7群に属するセメンタイト粒の総面積を複数のセメンタイト粒の総面積で除した値は0.7未満である。
上記軸受部品において、第5群に属するセメンタイト粒の数密度は0.05/μm2以上であり、第7群に属するセメンタイト粒の数密度は0.10/μm2以上であってもよい。
上記軸受部品において、焼き入れ硬化層は、窒素を含有している。上記表面と該表面からの距離が10μmとなる位置との間での焼き入れ硬化層の平均窒素濃度は、0.10質量パーセント以上であってもよい。
上記軸受部品において、上記表面の残留オーステナイト量は20体積%以上であってもよい。
上記軸受部品において、上記表面における焼き入れ硬化層の硬さが730Hv以上であってもよい。
上記軸受部品において、上記表面における旧オーステナイト粒の平均粒径は8μm以下であってもよい。
上記軸受部品において、上記表面の圧縮残留応力は100MPa以上である。
上記軸受部品において、高炭素クロム軸受鋼はJIS規格に定められたSUJ2であってもよい。
本発明に係る軸受部品の製造方法は、高炭素クロム軸受鋼で構成された成形体を準備する工程と、成形体をA変態点以上である1次焼入温度に加熱した後、Ms点以下の温度まで冷却することにより、成形体を1次焼入れする工程と、1次焼入れされた成形体を200℃以上A変態点未満の温度に第1の時間保持することにより、1次焼戻しする工程と、1次焼戻しされた成形体をA変態点以上1次焼入温度未満に加熱した後、Ms点以下の温度まで冷却することにより、成形体を2次焼入れする工程と、2次焼入れされた成形体を180℃未満の温度に第2の時間保持することにより、2次焼戻しする工程とを備える。
上記軸受部品の製造方法は、成形体を1次焼入れする工程の前に、成形体を浸窒する工程をさらに備えてもよい。
本発明によれば、高い耐表面損傷性を有する軸受部品を提供できる。
実施の形態に係る内輪の上面図である。 図1中の矢印II-IIから視た断面図である。 図2の領域IIIの部分拡大図である。 実施の形態に係る軸受部品の製造方法を示す工程図である。 実施形態に係る軸受部品の製造方法におけるヒートパターンを示すグラフである。 試料1の軌道面におけるEBSD画像である。 試料2の軌道面におけるEBSD画像である。 試料3の軌道面におけるEBSD画像である。 試料4の軌道面におけるEBSD画像である。 試料1~4について、第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径および第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径を示すグラフである。 試料1~4について、第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比および第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比を示すグラフである。 試料1~4について、第5群に属するセメンタイト粒の平均粒径および第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径を示すグラフである。 試料1~4について、第5群に属するセメンタイト粒の数密度および第7群に属するセメンタイト粒の数密度を示すグラフである。 試料1~4について、耐圧痕性試験における最大接触面圧(単位:GPa)と圧痕深さ(単位:mm)との関係が示されるグラフである。
以下では、図面を参照して、本発明に係る実施の形態について説明する。なお、以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さないものとする。
<軸受部品の構成>
実施形態に係る軸受部品の構成を説明する。なお、以下においては、実施形態に係る軸受部品の例として、転がり軸受の内輪10を例として説明するが、実施形態に係る軸受部品は、これに限られるものではない。実施形態に係る軸受部品は、転がり軸受の内輪、外輪、および転動体の少なくともいずれかであればよい。実施の形態に係る転がり軸受は、例えば実施の形態に係る軌道部品としての内輪および外輪、および転動体とを備えていてもよい。
内輪10は、高炭素クロム軸受鋼で構成されている。高炭素クロム軸受鋼は、例えばJIS規格(JIS G 4805:2008)に定められたSUJ2である。
図1は、内輪10の上面図である。図2は、図1のII-IIにおける断面図である。図1及び図2に示されるように、内輪10は、リング形状を有している。内輪10は、上面10aと、底面10bと、内周面10cと、外周面10dと、中心軸10eとを有している。
上面10a及び底面10bは、中心軸10eに沿う方向における端面を構成している。底面10bは、上面10aの反対面である。内周面10c及び外周面10dは、上面10a及び底面10bに連なっている。内周面10cと中心軸10eとの距離は、外周面10dと中心軸10eとの距離よりも小さくなっている。外周面10dには、軌道溝が設けられている。外周面10dは、内輪10の軌道面を構成している。
図3は、図2の領域IIIの部分拡大図である。図3に示されるように、内輪10は、焼き入れ硬化層11を有している。焼き入れ硬化層11は、内輪10の表面のうち、少なくとも軌道面を構成している外周面10dに設けられている。焼き入れ硬化層11は、例えば内輪10の全表面に設けられている。焼き入れ硬化層11は、複数のマルテンサイト結晶粒および複数のセメンタイト粒を含んでいる。マルテンサイト結晶粒は、マルテンサイト相により構成される結晶粒である。セメンタイト粒は、セメンタイト(Fe3C)により構成される化合物粒である。
マルテンサイト結晶粒は、結晶方位が揃った結晶により構成されているマルテンサイト相のブロック粒である。第1のマルテンサイト結晶粒の結晶方位と第1のマルテンサイト結晶粒に隣接する第2のマルテンサイト結晶粒の結晶方位とのずれが15°以上である場合、第1のマルテンサイト結晶粒と第2のマルテンサイト結晶粒とは、異なるマルテンサイト結晶粒である。他方で、第1のマルテンサイト結晶粒の結晶方位と第1のマルテンサイト結晶粒に隣接する第2のマルテンサイト結晶粒の結晶方位とのずれが15°未満である場合、第1のマルテンサイト結晶粒と第2のマルテンサイト結晶粒とは、1つのマルテンサイト結晶粒を構成している。
焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト結晶粒の最大粒径は、3.5μm以下である。焼き入れ硬化層11中におけるマルテンサイト結晶粒の最大粒径は、例えば3.2μm以上である。マルテンサイト結晶粒の最大粒径は、EBSD(Electron Backscattered Diffraction)法を用いて測定される。
具体的には、第1に、EBSD法に基づいて、焼き入れ硬化層11の表面における画像が撮影される(以下においては、「EBSD画像」という)。EBSD画像は、十分な数(20個以上)のマルテンサイト結晶粒が含まれるように撮影される。EBSD法に基づいて、隣接するマルテンサイト結晶粒の境界が特定される。第2に、特定されたマルテンサイト結晶粒の境界に基づいて、EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイト結晶粒の面積及び形状が算出される。
より具体的には、EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイト結晶粒の面積をπ/4で除した値の平方根を計算することにより、EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイト結晶粒の円相当径が算出される。EBSD画像に表示されている各マルテンサイト結晶粒の円相当径の最大値が、マルテンサイト結晶粒の最大粒径とされる。
焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は、10以下である。好ましくは、マルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は、9.5以下である。より好ましくは、マルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は、9.1以下である。マルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比の算出方法は、後述する。
複数のマルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率は、5.0以下である。好ましくは、上記比率は、4.1以下である。より好ましくは、上記比率は、3.6以下である。結晶方位密度の最小値および最大値は、EBSD(Electron Backscattered Diffraction)法により測定されたデータから、球面調和級数を用いたH. J. Bunge, Mathematische Methoden der Texturanalyse, Akademie-Verlag(1969)に記載の方法にしたがって結晶方位密度分布を解析することにより、算出される。
焼き入れ硬化層11は、マルテンサイト相が主要な構成組織となっている。より具体的には、焼き入れ硬化層11中におけるマルテンサイト結晶粒の総面積の比率は、70パーセント以上となっている。焼き入れ硬化層11中におけるマルテンサイト結晶粒の総面積の比率は、80パーセント以上であってもよい。焼き入れ硬化層11中におけるセメンタイト粒の総面積の比率は、30パーセント以下である。
複数のマルテンサイト結晶粒は、第1群と、第2群とに区分される。この区分によれば、複数のマルテンサイト結晶粒は、第1群に属する複数のマルテンサイト結晶粒と、第2群に属する複数のマルテンサイト結晶粒とから成る。第1群に属するマルテンサイト結晶粒の結晶粒径の最小値は、第2群に属するマルテンサイト結晶粒の最大値よりも大きい。
第1群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積をマルテンサイト結晶粒の総面積(第1群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積と第2群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積との和)で除した値は、0.5以上である。結晶粒径が最も小さい第1群に属するマルテンサイト結晶粒を除いた第1群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積をマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は、0.5未満である。
このことを別の観点からいえば、マルテンサイト結晶粒は、結晶粒径が大きいものから順に第1群に割り当てられる。第1群への割り当ては、それまでに第1群に割り当てられたマルテンサイト結晶粒の総面積がマルテンサイト結晶粒の総面積の0.5倍以上となった時点で終了する。そして、残余のマルテンサイト結晶粒は、第2群に割り当てられる。
第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は、1.10μm以下である。好ましくは、第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は、1.00μm以下である。さらに好ましくは、第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は、0.98μm以下である。
第1群に属するマルテンサイト結晶粒のアスペクト比は、3.2以下である。好ましくは、第1群に属するマルテンサイト結晶粒のアスペクト比は、3.0以下である。さらに好ましくは、第1群に属するマルテンサイト結晶粒のアスペクト比は、2.9以下である。
複数のマルテンサイト結晶粒は、第3群と、第4群とに区分されてもよい。この区分によれば、複数のマルテンサイト結晶粒は、第3群に属する複数のマルテンサイト結晶粒と、第4群に属する複数のマルテンサイト結晶粒とから成る。第3群に属するマルテンサイト結晶粒の結晶粒径の最小値は、第4群に属するマルテンサイト結晶粒の最大値よりも大きい。
第3群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積をマルテンサイト結晶粒の総面積(第3群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積と第4群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積との和)で除した値は、0.7以上である。
結晶粒径が最も小さい第3群に属するマルテンサイト結晶粒を除いた第3群に属するマルテンサイト結晶粒の総面積をマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は、0.7未満である。
このことを別の観点からいえば、マルテンサイト結晶粒は、結晶粒径が大きいものから順に第3群に割り当てられる。第3群への割り当ては、それまでに第3群に割り当てられたマルテンサイト結晶粒の総面積がマルテンサイト結晶粒の総面積の0.7倍以上となった時点で終了する。そして、残余のマルテンサイト結晶粒は、第4群に割り当てられる。
第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は、0.80μm以下である。好ましくは、第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は、0.78μm以下である。さらに好ましくは、第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は、0.76μm以下である。
第3群に属するマルテンサイト結晶粒のアスペクト比は、3.0以下である。好ましくは、第3群に属するマルテンサイト結晶粒のアスペクト比は、2.95以下である。さらに好ましくは、第3群に属するマルテンサイト結晶粒のアスペクト比は、2.75以下である。
第1群(第3群)に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径、第1群(第3群)に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比、およびマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は、EBSD法を用いて測定される。
より詳細には、以下のとおりである。上記のように算出された各々のマルテンサイト結晶粒の円相当径に基づいて、EBSD画像に表示されているマルテンサイト結晶粒のうち、第1群(第3群)に属するマルテンサイト結晶粒が決定される。言い換えると、上記のように算出された各々のマルテンサイト結晶粒の円相当径に基づいて、EBSD画像に表示されているマルテンサイト結晶粒は、第1群と第2群とに分類される(同様に、第3群と第4群とに分類される)。第1群(第3群)に分類されたEBSD画像に表示されているマルテンサイト結晶粒の円相当径の合計を第1群(第3群)に分類されたEBSD画像に表示されているマルテンサイト結晶粒の個数で除した値が、第1群(第3群)に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径とされる。なお、EBSD画像に表示されているマルテンサイト結晶粒のうち第1群(第3群)に属するマルテンサイト結晶粒の総面積を、EBSD画像に表示されているマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は、第1群(第3群)に属するマルテンサイト結晶粒の総面積をマルテンサイト結晶粒の総面積により除した値とされる。
EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイト結晶粒の形状から、EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイト結晶粒の形状を最小二乗法により楕円近似する。この最小二乗法による楕円近似は、S.BigginandD.J.Dingley,JournalofAppliedCrystallography,(1977)10,376-378に記載の方法にしたがって行われる。この楕円形状において、長軸の寸法を短軸の寸法で除することにより、EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイト結晶粒のアスペクト比が算出される。各マルテンサイト結晶粒のアスペクト比の最大値が、マルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比とされる。
さらに、第1群(第3群)に分類されたEBSD画像に表示されているマルテンサイト結晶粒のアスペクト比の合計を、第1群(第3群)に分類されたEBSD画像に表示されているマルテンサイト結晶粒の個数で除した値が、第1群(第3群)に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比とされる。
複数のセメンタイト粒は、第5群と、第6群とに区分される。この区分によれば、複数のセメンタイト粒は、第5群に属する複数のセメンタイト粒と、第6群に属する複数のセメンタイト粒とから成る。第5群に属するセメンタイト粒の粒径の最小値は、第6群に属するセメンタイト粒の最大値よりも大きい。
第5群に属するセメンタイト粒の総面積を複数のセメンタイト粒の総面積(第5群に属するセメンタイト粒の総面積と第6群に属するセメンタイト粒の総面積との和)で除した値は、0.5以上である。粒径が最も小さい第5群に属するセメンタイト粒を除いた第5群に属するセメンタイト粒の総面積をセメンタイト粒の総面積で除した値は、0.5未満である。
このことを別の観点からいえば、セメンタイト粒は、粒径が大きいものから順に第5群に割り当てられる。第5群への割り当ては、それまでに第5群に割り当てられたセメンタイト粒の総面積がセメンタイト粒の総面積の0.5倍以上となった時点で終了する。そして、残余のセメンタイト粒は、第6群に割り当てられる。
第5群に属するセメンタイト粒の平均粒径は、1.40μm以下である。好ましくは、第5群に属するセメンタイト粒の平均粒径は、1.30μm以下である。さらに好ましくは、第5群に属するセメンタイト粒の平均粒径は、1.20μm以下である。
第5群に属するセメンタイト粒の数密度は、0.04個/μm2以上である。好ましくは、第5群に属するセメンタイト粒の数密度は、0.05個/μm2以上である。好ましくは、第5群に属するセメンタイト粒の数密度は、1.00個/μm2以下である。
複数のセメンタイト粒は、第7群と、第8群とに区分されてもよい。この区分によれば、複数のセメンタイト粒は、第7群に属する複数のセメンタイト粒と、第8群に属する複数のセメンタイト粒とから成る。第7群に属するセメンタイト粒の粒径の最小値は、第8群に属するセメンタイト粒の最大値よりも大きい。
第7群に属するセメンタイト粒の総面積を複数のセメンタイト粒の総面積(第7群に属するセメンタイト粒の総面積と第8群に属するセメンタイト粒の総面積との和)で除した値は、0.7以上である。粒径が最も小さい第7群に属するセメンタイト粒を除いた第7群に属するセメンタイト粒の総面積をセメンタイト粒の総面積で除した値は、0.7未満である。
このことを別の観点からいえば、セメンタイト粒は、粒径が大きいものから順に第7群に割り当てられる。第7群への割り当ては、それまでに第7群に割り当てられたセメンタイト粒の総面積がセメンタイト粒の総面積の0.7倍以上となった時点で終了する。そして、残余のセメンタイト粒は、第8群に割り当てられる。
第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径は、1.10μm以下である。好ましくは、第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径は、0.90μm以下である。さらに好ましくは、第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径は、0.60μm以下である。
第7群に属するセメンタイト粒の数密度は、0.06個/μm2以上である。好ましくは、第7群に属するセメンタイト粒の数密度は、0.10個/μm2以上である。より好ましくは、第7群に属するセメンタイト粒の数密度は、0.20個/μm2以上である。好ましくは、第7群に属するセメンタイト粒の数密度は、1.00個/μm2以下である。
第5群(第7群)に属するセメンタイト粒の平均粒径は、第1群(第3群)に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径と同様に、上述したEBSD法を用いて測定される。第5群(第7群)に属するセメンタイト粒の数密度は、上述のように十分な数(20個以上)のマルテンサイト結晶粒が含まれるように撮影された上記EBSD画像中に表示された第5群(第7群)に属するセメンタイト粒の個数を測定し、その個数をEBSD画像の視野面積で除することで、算出される。
焼き入れ硬化層11は、窒素を含有している。外周面10dと外周面10dから10μmの距離にある位置との間における焼き入れ硬化層11の平均窒素濃度は、0.10質量パーセント以上であることが好ましい。この平均窒素濃度は、例えば0.20質量パーセント以下である。なお、この平均窒素濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定される。
上記外周面10dにおける残留オーステナイト量は20体積%以上であるのが好ましい。残留オーステナイト量は、上記外周面10dに対するX線回折法により測定される。具体的には、残留オーステナイト量は、オーステナイト相のX線回折ピークの積分強度とマルテンサイト相のX線回折ピークの積分強度とを比較することにより、算出される。
上記外周面10dにおける焼き入れ硬化層11の硬さは、700Hv以上であることが好ましい。より好ましくは、外周面10dにおける焼き入れ硬化層11の硬さは、750Hv以上である。なお、外周面10dにおける焼き入れ硬化層11の硬さは、JIS規格(JJS Z 2244:2009)にしたがって測定される。
焼き入れ硬化層11は、マルテンサイト結晶粒およびセメンタイト粒の他に、旧オーステナイト粒界を含んでいる。焼き入れ硬化層11には、後述する軸受部品の製造方法の1次焼入工程または2次焼入工程において焼入温度に加熱されかつ焼入れ直前の鋼に存在したオーステナイト結晶粒界の痕跡が残っている。旧オーステナイト粒は、上記痕跡に基づく、上記焼入れ直前の鋼に存在した結晶粒である。
上記外周面10dにおける旧オーステナイト粒の平均粒径は、8μm以下であることが好ましい。旧オーステナイト粒の平均粒径は、6μm以下であることがさらに好ましい。
なお、外周面10dにおける旧オーステナイト粒の平均粒径は、以下の方法で測定される。第1に、外周面10dを含む断面に対して、酸性溶液により現出された旧オーステナイト粒界の光学顕微鏡撮影が行われる(以下においては、光学顕微鏡撮影によって得られた画像を、「光学顕微鏡画像」という)。なお、光学顕微鏡画像は、十分な数(20個以上)の旧オーステナイト粒が含まれるように撮影される。第2に、得られた光学顕微鏡画像に対して、JIS規格(JIS G 0551:2013)に基づく画像処理を行うことにより、当該光学顕微鏡画像中における各々の旧オーステナイト粒の平均粒径が算出される。
上記外周面10dの圧縮残留応力は、100MPa以上であることが好ましい。圧縮残留応力は、上記外周面10dに対するX線応力測定法により測定される。
<軸受部品の製造方法>
以下に、実施形態に係る軸受部品の製造方法の例として、内輪10の製造方法を説明する。
図4は、実施形態に係る軸受部品の製造方法を示す工程図である。図5は、実施形態に係る軸受部品の製造方法におけるヒートパターンを示すグラフである。図4および図5に示すように、実施形態に係る軸受部品の製造方法は、準備工程S1と、浸炭浸窒工程S2と、一次焼き入れ工程S3と、一次焼き戻し工程S4と、二次焼き入れ工程S5と、二次焼き戻し工程S6と、後処理工程S7とを備える。準備工程S1、浸炭浸窒工程S2、一次焼き入れ工程S3、一次焼き戻し工程S4、二次焼き入れ工程S5、二次焼き戻し工程S6、および後処理工程S7は、上記記載順に実施される。
準備工程S1においては、浸炭浸窒工程S2、一次焼き入れ工程S3、一次焼き戻し工程S4、二次焼き入れ工程S5、二次焼き戻し工程S6、及び後処理工程S7を経ることにより、内輪10となるリング状の加工対象部材が準備される。準備工程S1においては、第1に、加工対象部材に対して熱間鍛造が行われる。準備工程S1においては、第2に、加工対象部材に対して、冷間鍛造が行われる。冷間鍛造は、拡径率(冷間鍛造後の加工対象部材の直径÷冷間鍛造前の加工対象部材の直径)が1.1以上1.3以下となるように行われることが好ましい。準備工程S1においては、第3に、切削加工が行われ、加工対象部材の形状が内輪10の形状に近づけられる。
浸炭浸窒工程S2においては、第1に、準備工程S1において準備された加工対象部材を第1温度以上に加熱しかつ保持することにより、加工対象部材に対する浸炭浸窒処理が行われる。第1温度は、加工対象部材を構成する鋼のA1変態点以上の温度である。浸炭浸窒工程S2においては、第2に、加工対象部材に対する冷却が行われる。この冷却は、加工対象部材の温度がMs変態点以下となるように行われる。
一次焼き入れ工程S3においては、浸炭浸窒工程S2において浸炭浸窒された加工対象部材に対する焼き入れが行われる。一次焼き入れ工程S3では、第1に、加工対象部材が第2温度(1次焼入温度)に加熱される。第2温度は、加工対象部材を構成する鋼のA変態点以上の温度である。第2温度は、第1温度よりも低いことが好ましい。一次焼き入れ工程S3においては、第2に、加工対象部材に対する冷却が行われる。この冷却は、加工対象部材の温度がMs変態点以下となるように行われる。冷却は、例えば油冷により行われる。
一次焼き戻し工程S4においては、一次焼き入れ工程S3において焼き入れられた加工対象部材に対する焼き戻しが行われる。一次焼き戻し工程S4は、加工対象部材を、第3温度(一次焼戻温度)において第1の時間だけ保持することにより行われる。第3温度は、A変態点未満の温度である。第3温度は、例えば200℃以上450℃以下である。好ましくは、第3温度は、250℃以上400℃以下である。より好ましくは、第3温度は、250℃以上350℃以下である。第1の時間は、例えば1時間以上4時間以下である。
二次焼き入れ工程S5においては、一次焼き戻し工程S4において焼き戻された加工対象部材に対する焼き入れが行われる。二次焼き入れ工程S5においては、第1に、加工対象部材が第4温度(二次焼入温度)に加熱される。第4温度は、加工対象部材を構成する鋼のA変態点以上の温度である。第4温度は、第2温度よりも低いことが好ましい。二次焼き入れ工程S5においては、第2に、加工対象部材に対する冷却が行われる。この冷却は、加工対象部材の温度がMs変態点以下となるように行われる。冷却は、例えば油冷により行われる。
二次焼き戻し工程S6においては、二次焼き入れ工程S5において焼き入れられた加工対象部材に対する焼き戻しが行われる。第2焼き戻し工程S5は、加工対象部材を、第5温度(二次焼戻温度)において第2の時間だけ保持することにより行われる。第5温度は、A変態点未満の温度である。第5温度は、第3温度未満である。第5温度は、例えば140℃以上200℃未満である。好ましくは、第5温度は、140℃以上180℃以下である。
後処理工程S7においては、二次焼き戻し工程S6において焼き戻された加工対象部材に対する後処理が行われる。後処理工程S7においては、例えば、加工対象部材の洗浄、加工対象部材の表面に対する研削、研磨等の機械加工等が行われる。研削または研磨量は、例えば200μm以下である。以上により、内輪10の製造が行われる。
<作用効果>
次に、実施の形態に係る軸受部品の効果を説明する。内輪10では、焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト結晶粒の最大粒径が3.5μm以下であり、かつ焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比が10以下である。マルテンサイト結晶粒の最大粒径が微細化されるほど、焼き入れ硬化層11の耐摩耗性および靱性が改善される。また、マルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比が1に近いほど、マルテンサイト結晶粒の形状が球状に近くなり、マルテンサイト結晶粒が応力集中源となりにくい。したがって、内輪10の焼き入れ硬化層11の耐摩耗性および靱性は、焼き入れ硬化層中のマルテンサイト結晶粒の最大粒径が3.5μm超えであり、かつ焼き入れ硬化層中のマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比が10よりも高い場合と比べて、改善されている。
内輪10では、焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率が5.0以下である。マルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率が1に近いほど、各マルテンサイト結晶粒の形成状態が均一化されており、耐圧痕形成性、耐摩耗性、および靭性が改善される。したがって、内輪10の焼き入れ硬化層11の耐圧痕形成性、耐摩耗性、および靭性は、焼き入れ硬化層中のマルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率が5.0よりも高い場合と比べて、改善されている。なお、本明細書では、耐圧痕形成性と耐摩耗性とを総称して、耐表面損傷性とよぶ。内輪10は、耐表面損傷性および靭性が向上されている。
内輪10の焼き入れ硬化層11において、複数のマルテンサイト結晶粒が第1群と第2群とに区分されるとき、相対的に結晶粒が大きい第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は1.1μm以下である。また、内輪10の焼き入れ硬化層11において、複数のマルテンサイト結晶粒が第3群と第4群とに区分されるとき、相対的に結晶粒が大きい第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は0.8μm以下である。つまり、内輪10では、相対的に結晶粒が大きい第1群(第3群)に属するマルテンサイト結晶粒であっても、結晶粒が微細化されているため、焼き入れ硬化層11の耐摩耗性が改善されている。
内輪10の焼き入れ硬化層11において、複数のマルテンサイト結晶粒が第1群と第2群とに区分されるとき、相対的に結晶粒が大きい第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は3.2以下である。また、内輪10の焼き入れ硬化層11において、複数のマルテンサイト結晶粒が第3群と第4群とに区分されるとき、相対的に結晶粒が大きい第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は3.0以下である。マルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比が1に近いほど、マルテンサイト結晶粒の形状が球状に近くなり、マルテンサイト結晶粒が応力集中源となりにくい。内輪10の焼き入れ硬化層11では、相対的に結晶粒が大きい第1群(第3群)に属する各マルテンサイト結晶粒も応力集中源となりにくいため、焼き入れ硬化層11の耐摩耗性および靱性がさらに改善されている。
内輪10の焼き入れ硬化層11において、複数のセメンタイト粒が第5群と第6群とに区分されるとき、相対的に粒径が大きい第5群に属するセメンタイト粒の平均粒径は1.4μm以下である。また、内輪10の焼き入れ硬化層11において、複数のセメンタイト粒が第7群と第8群とに区分されるとき、相対的に粒径が大きい第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径は1.10μm以下である。セメンタイト粒の平均粒径が小さく微細化されているほど、マルテンサイト結晶粒も微細化されるため、焼き入れ硬化層11の靭性が改善される。つまり、内輪10では、相対的に結晶粒が大きい第5群(第7群)に属するセメンタイト粒であっても、粒が微細化されているため、焼き入れ硬化層11の靭性が改善されている。
内輪10の焼き入れ硬化層11において、複数のセメンタイト粒が第5群と第6群とに区分されるとき、相対的に粒径が大きい第5群に属するセメンタイト粒の数密度は0.04個/μm2以上である。また、内輪10の焼き入れ硬化層11において、複数のセメンタイト粒が第7群と第8群とに区分されるとき、相対的に粒径が大きい第7群に属するセメンタイト粒の数密度は0.06個/μm2以上である。上記のように微細化されたセメンタイト粒が高密度に分散していれば、表面のせん断抵抗が高められるため、耐摩耗性が向上する。
実施の形態に係る軸受部品の製造方法では、1次焼入れされた前記成形体を1次焼戻しする工程において、一次焼戻温度が200℃以上前記A変態点未満の温度とされる。後述する評価結果から、一次焼戻温度が200℃以上とされた場合には、一次焼戻温度が200℃未満とされた場合と比べて、焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト結晶粒の最大粒径が小さく、かつマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比、およびマルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率が低いことが確認された。また、一次焼戻温度が200℃以上とされた場合には、一次焼戻温度が200℃未満とされた場合と比べて、焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト結晶粒の最大粒径、マルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比、およびマルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率が上記数値範囲内にあることが確認された。さらに、一次焼戻温度が200℃以上とされた場合には、一次焼戻温度が200℃未満とされた場合と比べて、耐圧痕形成性が高いことが確認された。
以下に、実施形態に係る転動部品の効果を確認するために行った試験を説明する。
<試料>
本試験は、転がり軸受の外輪形状に加工された試料1~試料4を用いて行われた。試料1~試料4に用いられた鋼は、SUJ2である。試料1~試料4は、いずれも図4に示されるフローチャートに従って準備工程S1から二次焼戻工程S6まで順に実施されることにより準備されたが、一次焼戻温度のみが互いに異なる条件とされた。試料1では、一次焼戻温度が180℃とされた。試料2では、一次焼戻温度が200℃とされた。試料3では、一次焼戻温度が250℃とされた。試料4では、一次焼戻温度が400℃とされた。なお、その他の製造条件は、試料1~試料4の間で同一とし、具体的には以下の通りとした。浸炭浸窒工程S2での第1温度が850℃、一次焼き入れ工程S3での第2温度が830℃、二次焼き入れ工程S5での第4温度が810℃、二次焼き戻し工程S6での二次焼戻温度180℃とされた。また、一次焼戻工程S4での上記第1の時間が2時間とされた。
試料1~試料4に対し、以下のような評価を行った。
<マルテンサイト結晶粒の最大粒径>
試料1~試料4に対して、上述した方法により、マルテンサイト結晶粒の最大粒径を測定した。図6~図9は、試料1~試料4の各軌道面におけるEBSD画像を示す。
試料1のマルテンサイト結晶粒の最大粒径は3.5μmであった。これに対し、試料2のマルテンサイト結晶粒の最大粒径は2.6μm、試料3のマルテンサイト結晶粒の最大粒径は3.3μm、試料4のマルテンサイト結晶粒の最大粒径は3.1μmであった。この結果から、一次焼戻温度が200℃以上とされた試料2~4では、一次焼戻温度が200℃未満とされた試料1と比べて、マルテンサイト結晶粒が微細化されていることが確認された。
<マルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比>
試料1~試料4に対して、上述した方法により、マルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比を算出した。試料1のマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は12.5であった。これに対し、試料2のマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は9.1、試料3のマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は9.1、試料4のマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は10.0であった。
この結果から、一次焼戻温度が200℃以上とされた試料2~4では、一次焼戻温度が200℃未満とされた試料1と比べて、マルテンサイト結晶粒が球状化されていることが確認された。
<マルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率>
試料1~試料4に対して、上述した方法により、マルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率を算出した。算出結果を、表1に示す。表1に示されるように、試料1の上記比率は5.3であった。これに対し、試料2の上記比率は3.6、試料3の上記比率は3.5、試料4の上記比率は4.1であった。
Figure 2022094616000002
この結果から、一次焼戻温度が200℃以上とされた試料2~4では、一次焼戻温度が200℃未満とされた試料1と比べて、各マルテンサイト結晶粒の結晶方位が均一化されていることが確認された。
<第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径>
試料1~試料4に対して、上述した方法により、第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径および第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径を算出した。図10は、この算出結果を示す。試料1の第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は1.12μmであり、試料1の第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は0.83μmであった。
これに対し、試料2~試料4の第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は1.10μm以下であり、試料2および試料3では、第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は1.00μm以下であった。試料2の第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は0.95μmであった。試料2~試料4の第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は、0.80μm以下であり、試料3および試料4の第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は、0.77μmであった。試料2の第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均粒径は、0.74μmであった。
この結果から、一次焼戻温度が200℃以上とされた試料2~4では、一次焼戻温度が200℃未満とされた試料1と比べて、各マルテンサイト結晶粒が全体的に微小化されていることが確認された。
<マルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比>
試料1~試料4に対して、上述した方法により、第1群に属するマルテンサイト結晶粒および第3群に属するマルテンサイト結晶粒の各平均アスペクト比を算出した。図11は、この評価結果を示す。試料1の第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は3.23であった。これに対し、試料2の第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は2.86、試料3の第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は2.82、試料4の第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は3.09であった。
また、試料1の第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は3.09であった。これに対し、試料2の第3群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は2.73、試料3の第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は2.70、試料4の第1群に属するマルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は2.95であった。
この結果から、一次焼戻温度が200℃以上とされた試料2~4では、一次焼戻温度が200℃未満とされた試料1と比べて、複数のマルテンサイト結晶粒のうち粒径が比較的大きい第1属(第3属)に属する各マルテンサイト結晶粒が球状化されていることが確認された。
<セメンタイト粒の平均粒径>
試料1~試料4に対し、上述した方法により、第5群に属するセメンタイト粒および第7群に属するセメンタイト粒の各平均粒径を測定した。図12は、この算出結果を示す。試料1の第5群に属するセメンタイト粒の平均粒径は1.35μmであり、試料1の第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径は0.95μmであった。
これに対し、試料2~試料4の第5群に属するセメンタイト粒の平均粒径は1.32μm以下であり、試料2および試料3では、第5群に属するセメンタイト粒の平均粒径は1.20μm以下であった。試料3の第5群に属するセメンタイト粒の平均粒径は1.15μmであった。
試料2~試料4の第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径は、0.93μm以下であり、試料2の第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径は、0.93μmであった。試料3の第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径は、0.57μmであった。
この結果から、一次焼戻温度が200℃以上400℃未満とされた試料2~3では、一次焼戻温度が200℃未満とされた試料1と比べて、複数のセメンタイト粒のうち粒径が比較的大きい第5群(第7群)に属する各セメンタイト粒が微小化されていることが確認された。
<セメンタイト粒の数密度>
試料1~試料4に対し、上述した方法により、第5群に属するセメンタイト粒および第7群に属するセメンタイト粒の各数密度を測定した。図13は、この算出結果を示す。試料1の第5群に属するセメンタイト粒の数密度は0.03個/μm2であり、試料1の第7群に属するセメンタイト粒の数密度は0.07個/μm2であった。
これに対し、試料2~試料4の第5群に属するセメンタイト粒の数密度は0.05個/μm2以上であり、試料2および試料3では、第5群に属するセメンタイト粒の数密度は0.07個/μm2以上であった。
試料2~試料4の第7群に属するセメンタイト粒の数密度は0.08個/μm2以上であり、試料2および試料3の第7群に属するセメンタイト粒の数密度は、0.10個/μm2以上であった。試料3の第7群に属するセメンタイト粒の平均粒径は、0.29個/μm2であった。
この結果から、一次焼戻温度が200℃以上とされた試料2~4では、一次焼戻温度が200℃未満とされた試料1と比べて、複数のセメンタイト粒のうち粒径が比較的大きい第5群(第7群)に属する各セメンタイト粒が高密度に分散していることが確認された。
<焼き入れ硬化層の平均窒素濃度>
試料1~試料4に対し、上述した方法により、軌道面からの距離が10μmとなる位置との間での焼き入れ硬化層の平均窒素濃度を測定した。試料1~試料4の上記平均窒素濃度は、0.10質量%以上であった。試料1、試料2、試料4の上記平均窒素濃度は、0.13質量%以上であった。
<軌道面の残留オーステナイト量>
試料1~試料4に対し、上述した方法により、軌道面の残留オーステナイト量γを測定した。試料1~試料4の各軌道面の残留オーステナイト量γは、20体積%以上であった。試料3および試料4の各軌道面の残留オーステナイト量γは、24体積%であった。
<軌道面の硬さ>
試料1~試料4に対し、上述した方法により、軌道面における圧縮残留応力を測定した。試料1~試料4の各軌道面の硬さは、700HV以上であった。試料1~試料4の各軌道面の硬さは、780HV以上であった。試料2および試料3の各軌道面の硬さは、試料1の軌道面の硬さよりも硬かった。試料2および試料3の各軌道面の硬さは、790HV以上であった。
<軌道面における旧オーステナイト粒の平均粒径>
試料1~試料4に対し、上述した方法により、軌道面における旧オーステナイト粒を測定した。試料1の旧オーステナイト粒の平均粒径は3.8μmであった。これに対し、試料2の旧オーステナイト粒の平均粒径は3.4μm、試料3の旧オーステナイト粒の平均粒径は3.5μm、試料4の旧オーステナイト粒の平均粒径は3.4μmであった。
この結果から、一次焼戻温度が200℃以上とされた試料2~4では、一次焼戻温度が200℃未満とされた試料1と比べて、軌道面における旧オーステナイト粒が微細化していることが確認された。言い換えると、試料2~試料4では、試料1と比べて、2次焼入工程において焼入温度に加熱されかつ焼入れ直前の鋼に存在したオーステナイト結晶が微細化していることが確認された。
<軌道面の圧縮残留応力>
試料1~試料4に対し、上述した方法により、軌道面の圧縮残留応力を測定した。試料1~試料4の各軌道面の圧縮残留応力は、100MPa以上であった。試料3および試料4の各軌道面の圧縮残留応力は、130MPa以上であった。試料3の軌道面の圧縮残留応力は、140MPa以上であった。
上述した評価結果から、試料2~試料4では、試料1と比べて、微細なマルテンサイト結晶粒がより均一に形成されており、かつ微細なセメンタイト粒が高密度に分散していることが確認された。このことから、試料2~試料4の各焼き入れ硬化層のせん断抵抗は、試料1の焼き入れ硬化層のせん断抵抗よりも高いと言える。せん断抵抗が高いほど、せん断に伴う温度上昇により表面が活性化し、該表面に多量の気体が吸着すると考えられる。そのため、せん断応力が各焼き入れ硬化層内に軌道面と平行に作用したときに、試料2~試料4では、試料1と比べて、せん断に伴う温度上昇によって軌道面が活性化することにより、各軌道面の耐摩耗性が向上すると考えられる。
<軌道面の耐圧痕形成性>
試料1~試料4の各軌道面の耐圧痕形成性を以下のように評価した。第1に、試料1~試料4の各軌道面に、直径3/8インチの窒化ケイ素製セラミックス球を最大押し込み荷重で120秒間押し付けた後に除荷することにより、圧痕を形成した。最大押し込み荷重は、互いに異なる3条件とした。つまり、各試料の軌道面に、3つの圧痕を形成した。第2に、各圧痕の深さを測定し、最大接触面圧と圧痕深さとの関係を求めた。なお、各最大押し込み荷重を、各圧痕の投影面積(軌道面とセラミックス球との接触面積)で除した値が、最大接触面圧とされる。図14は、この評価結果を示す。
試料2および試料3の各圧痕の深さは、試料1および試料4の各圧痕の深さよりも浅かった。つまり、試料2および試料3の軌道面の耐圧痕形成性は、試料1および試料4の耐圧痕形成性よりも高かった。試料4の圧痕深さは、試料1の圧痕深さと同等程度であった。
以上の評価結果から、試料2~試料4では、試料1と比べて、各軌道面の耐表面損傷性および靭性が向上していることが確認された。
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
10 内輪、10a 上面、10b 底面、10c 内周面、10d 外周面、10e 中心軸、11 焼き入れ硬化層。

Claims (13)

  1. 高炭素クロム軸受鋼で構成され、表面に焼き入れ硬化層を有する軸受部品であって、
    前記焼き入れ硬化層は、複数のマルテンサイト結晶粒を含み、
    前記複数のマルテンサイト結晶粒の最大粒径は、3.5μm以下であり、
    前記複数のマルテンサイト結晶粒の最大アスペクト比は10以下であり、
    前記複数のマルテンサイト結晶粒の{011}面の結晶方位密度の最小値に対する最大値の比率が5.0以下である、軸受部品。
  2. 前記複数のマルテンサイト結晶粒は、第1群と、第2群とに区分され、
    前記第1群に属する前記マルテンサイト結晶粒の結晶粒径の最小値は、前記第2群に属する前記マルテンサイト結晶粒の最大値よりも大きく、
    前記第1群に属する前記マルテンサイト結晶粒の総面積を前記複数のマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は0.5以上であり、
    前記第1群に属する結晶粒径が最も小さい前記マルテンサイト結晶粒を除いた前記第1群に属する前記マルテンサイト結晶粒の総面積を前記複数のマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は0.5未満であり、
    前記第1群に属する前記マルテンサイト結晶粒の平均粒径は1.1μm以下であり、
    前記複数のマルテンサイト結晶粒は、第3群と、第4群とに区分され、
    前記第3群に属する前記マルテンサイト結晶粒の結晶粒径の最小値は、前記第4群に属する前記マルテンサイト結晶粒の最大値よりも大きく、
    前記第3群に属する前記マルテンサイト結晶粒の総面積を前記複数のマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は0.7以上であり、
    前記第3群に属する結晶粒径が最も小さい前記マルテンサイト結晶粒を除いた前記第3群に属する前記マルテンサイト結晶粒の総面積を前記複数のマルテンサイト結晶粒の総面積で除した値は0.7未満であり、
    前記第3群に属する前記マルテンサイト結晶粒の平均粒径は0.8μm以下である、請求項1に記載の軸受部品。
  3. 前記第1群に属する前記マルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は3.2以下であり、
    前記第3群に属する前記マルテンサイト結晶粒の平均アスペクト比は3.0以下である、請求項2に記載の軸受部品。
  4. 前記焼き入れ硬化層は、複数のセメンタイト粒をさらに含み、
    前記複数のセメンタイト粒は、第5群と、第6群とに区分され、
    前記第5群に属する前記セメンタイト粒の結晶粒径の最小値は、前記第6群に属する前記セメンタイト粒の最大値よりも大きく、
    前記第5群に属する前記セメンタイト粒の総面積を前記複数のセメンタイト粒の総面積で除した値は0.5以上であり、
    前記第5群に属する結晶粒径が最も小さい前記セメンタイト粒を除いた前記第5群に属する前記セメンタイト粒の総面積を前記複数のセメンタイト粒の総面積で除した値は0.5未満であり、
    前記第5群に属する前記セメンタイト粒の平均粒径は1.40μm以下であり、
    前記複数のセメンタイト粒は、第7群と、第8群とに区分され、
    前記第7群に属する前記セメンタイト粒の結晶粒径の最小値は、前記第8群に属する前記セメンタイト粒の最大値よりも大きく、
    前記第7群に属する前記セメンタイト粒の総面積を前記複数のセメンタイト粒の総面積で除した値は0.7以上であり、
    前記第7群に属する結晶粒径が最も小さい前記セメンタイト粒を除いた前記第7群に属する前記セメンタイト粒の総面積を前記複数のセメンタイト粒の総面積で除した値は0.7未満であり、
    前記第7群に属する前記セメンタイト粒の平均粒径は0.95μm以下である、請求項1または2に記載の軸受部品。
  5. 前記第5群に属する前記セメンタイト粒の数密度は0.05個/μm2以上であり、
    前記第7群に属する前記セメンタイト粒の数密度は0.10個/μm2以上である、請求項4に記載の軸受部品。
  6. 前記焼き入れ硬化層は、窒素を含有しており、
    前記表面と前記表面からの距離が10μmとなる位置との間での前記焼き入れ硬化層の平均窒素濃度は、0.10質量パーセント以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の軸受部品。
  7. 前記表面の残留オーステナイト量は20体積%以上である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の軸受部品。
  8. 前記表面における前記焼き入れ硬化層の硬さが730Hv以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の軸受部品。
  9. 前記表面における旧オーステナイト粒の平均粒径は8μm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の軸受部品。
  10. 前記表面の圧縮残留応力は100MPa以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の軸受部品。
  11. 前記高炭素クロム軸受鋼は、JIS規格に定められたSUJ2である、請求項1~10のいずれか1項に記載の軸受部品。
  12. 高炭素クロム軸受鋼で構成された成形体を準備する工程と、
    前記成形体をA変態点以上である1次焼入温度に加熱した後、Ms点以下の温度まで冷却することにより、前記成形体を1次焼入れする工程と、
    1次焼入れされた前記成形体を200℃以上前記A変態点未満の温度に第1の時間保持することにより、1次焼戻しする工程と、
    1次焼戻しされた前記成形体を前記A変態点以上前記1次焼入温度未満に加熱した後、前記Ms点以下の温度まで冷却することにより、前記成形体を2次焼入れする工程と、
    2次焼入れされた前記成形体を180℃未満の温度に第2の時間保持することにより、2次焼戻しする工程とを備える、軸受部品の製造方法。
  13. 前記成形体を1次焼入れする工程の前に、前記成形体を浸窒する工程をさらに備える、請求項12に記載の軸受部品の製造方法。
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