JP2022092591A - メラノーマ患者の治療効果を判定する方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 低侵襲かつ高精度でメラノーマ患者の治療効果を判定する方法を提供すること。【解決手段】 メラノーマ患者より採取した生体試料において、メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現する血中循環腫瘍細胞を検出して、前記細胞の細胞数を経時的に計測する工程を含み、前記細胞数の変動を、前記患者の治療効果の判定指標とする、メラノーマ患者の治療効果を判定する方法により、前記課題を解決する。【選択図】 なし
Description
本発明は、メラノーマ患者の治療効果を判定する方法に関する。特に、本発明は、メラノーマ原発組織及びメラノーマ転移組織以外の生体試料(例えば血液試料)由来の腫瘍細胞を用いた、メラノーマ患者の治療効果を判定する方法に関する。
癌患者における治療薬の効果の判定や予後の予測は、患者が抱える病状の危険性や生存確率に関する情報を医師に与え、最適な療法を選択する上で重要である。これにより、患者に不必要な治療を行なうリスクを低減させ、それに伴う不必要な治療費を節約できるだけでなく、患者の予後の改善に寄与することができる。
癌患者の治療を補助する目的で、可溶性腫瘍抗原による検査が行なわれている。可溶性腫瘍抗原は、腫瘍細胞から分泌され、血液試料などで検出できるため、治療効果のモニタリングなどへの応用が試みられている。例えば、消化器癌に対する腫瘍マーカーとして、CEA(Carcinoembryonic Antigen)やCA19-9(Carbohydrate Antigen 19-9)などが用いられている。しかしながら、可溶性腫瘍抗原は、腫瘍細胞の破壊によっても放出されるため、その存在が癌患者の予後を十分に反映しているとは限らない。
他方、癌原発組織又は癌転移組織に代わる検出対象として、血液中に含まれる循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell、以下、「CTC」と称する)が注目されている。患者から採取した血液試料中に含まれるCTCの細胞数をモニタリングすることにより、当該患者の予後や治療効果などを含め複合的な患者の病態を評価することができる。
例えば、特許文献1では、CTC表面に発現が見られる上皮系マーカーを利用して、患者の血液試料からCTCを免疫磁気的に濃縮した後、上皮系マーカーを利用した免疫蛍光染色により前記濃縮液中に含まれるCTCを検出して、その細胞数を計測し、当該細胞数の変動を指標として、前記患者の予後を予測する方法を開示している。しかしながら、メラノーマの場合、上皮系の細胞でないため、上皮系マーカーで検出することはできない。そのため、特許文献1に記載の方法には、高い精度でメラノーマ患者の治療効果や予後予測ができないという問題がある。
また、特許文献2では、メラノーマ患者から採取した血液試料からメラノーマ細胞マーカーであるCD146を発現するCTCを免疫磁気的に濃縮した後、細胞増殖関連マーカーであるKi-67を利用した免疫蛍光染色により、前記濃縮液中に含まれるCTCを検出し、その細胞数の変動を指標として、前記患者における疾患の進行なお監視する方法を開示している。しかしながら、特許文献2に開示の方法も、特許文献1と同様に、精度の面で問題がある。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、低侵襲かつ高精度でメラノーマ患者の治療効果を判定する方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、メラノーマ患者より採取した生体試料における、メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現する血中循環腫瘍細胞の細胞数の変動を指標として、前記患者の治療効果を判定することが可能であることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の第一の態様は、メラノーマ患者の治療効果を判定する方法であって、前記患者より採取した生体試料において、メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現する血中循環腫瘍細胞を検出して、前記細胞の細胞数を経時的に計測する工程を含み、前記細胞数の変動を、前記患者の治療効果の指標とする方法である。
また、本発明の第二の態様は、メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現する血中循環腫瘍細胞の検出の前に、前記患者より採取した生体試料に含まれる血中循環腫瘍細胞を濃縮して濃縮液を取得する工程を含む、前記第一の態様に記載の方法である。
また、本発明の第三の態様は、メラノーマ細胞マーカー遺伝子が、以下の(i)から(iii)からなる群から選択される少なくとも1以上の遺伝子である、前記第一の態様に記載の方法である。
(i)配列番号1から128のいずれかに記載のアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドをコードする遺伝子、
(ii)配列番号1から128のいずれかに記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドをコードする遺伝子、
(iii)配列番号1から128のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドをコードする遺伝子。
(i)配列番号1から128のいずれかに記載のアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドをコードする遺伝子、
(ii)配列番号1から128のいずれかに記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドをコードする遺伝子、
(iii)配列番号1から128のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドをコードする遺伝子。
また、本発明の第四の態様は、病態判定マーカー遺伝子がICAM-1遺伝子である、前記第一から第三の態様に記載の方法である。
本発明は、メラノーマ(悪性黒色腫)患者の治療の効果を、当該患者の生体試料に含まれるメラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現する血中循環腫瘍細胞の細胞数の変動を指標として行なうことを特徴としている。本発明により、低侵襲かつ高精度でメラノーマ患者の治療効果を判定することが可能となった。これにより、メラノーマ患者の病状に最適な投薬指標や、病状の危険性や患者の生存確率に関する情報を医師に提供でき、医師は最適な治療を選択することができる。その結果、患者に不必要な治療(不必要な抗癌剤の投与)を行なうリスクを低減させることができ、不必要な治療費の節約だけでなく、患者の予後の改善に寄与することができる。さらに本発明は、メラノーマ診断において、病態悪化の早期発見にも応用できる。
本発明は、メラノーマ患者の治療効果を判定する方法を提供する。本発明の方法は、メラノーマ患者より採取した生体試料において、メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現する血中循環腫瘍細胞を検出して、前記細胞の細胞数を経時的に計測することを特徴とする。
本発明における「メラノーマ患者」には、メラノーマ(悪性黒色腫)治療後の患者、メラノーマ治療中の患者、及びメラノーマ治療前の患者が含まれる。「生体試料」としては、CTCを含む限り特に制限はないが、例えば、全血、希釈血液、血清、血漿、髄液、臍帯血、成分採血液等の血液試料や、尿、唾液、精液、糞便、痰、羊水、腹水等の血液由来成分を含み得る試料が挙げられる。
本発明において「循環腫瘍細胞」とは、原発腫瘍(原発巣)又は転移腫瘍(転移巣)から血管内又はリンパ管内へと浸透した腫瘍細胞を示し、このうち、血液中を循環する循環腫瘍細胞を、特に「血中循環腫瘍細胞」(CTC:Circulating Tumor cell)」と称する。血中循環腫瘍細胞は、例えば、がん患者の末梢血流を循環する腫瘍細胞として存在する。
本発明においては、メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現する血中循環腫瘍細胞の検出の前に、前記患者より採取した生体試料に含まれるCTCを濃縮して濃縮液を取得する工程を含むことが好ましい。CTCの濃縮は公知の方法で行なえばよく、例えば、密度勾配遠心法(特開2015-006169号公報)やフィルター法(特開2014-233267号公報)が挙げられる。
密度勾配遠心法によりCTCを含む画分(濃縮液)を取得する場合は、密度勾配溶液に試料を重層後、遠心分離する。当該遠心分離により試料中に含まれる夾雑細胞(赤血球、白血球など)は下層(密度勾配溶液側)に移動する一方、CTCは上層(試料側)に残存する。したがって、当該上層を回収することでCTCを含む画分(以下、「CTC濃縮液」とも表記する)を取得できる。なお、前述したCTC濃縮液の取得を、前記上層と前記下層とが分離可能な容器(特開2015-006169号公報)を用いて行なうと、CTC濃縮液の取得が容易となるため好ましい。さらに患者より採取した生体試料が血液試料や血液由来成分を含む試料である場合、密度勾配溶液に重層する前に、当該試料を溶血させる工程(溶血操作)を行なうと、夾雑細胞である赤血球の細胞数を減少させることができ、前記上層への赤血球の混入数も減少するため好ましい。なお、前記溶血操作は、密度勾配遠心分離後に実施してもよく、その場合は、再度遠心分離などによる夾雑細胞の除去操作を行なってもよい。
前述した方法で得られたCTC濃縮液は、凍結保存や化学固定による保存処理を行なってもよい。例えば、凍結保存する場合は、細胞保存溶液に溶液置換後、0℃以下の温度、好ましくは-20℃以下、さらに好ましくは-80℃以下の温度で保存すればよく、化学固定する場合は、細胞懸濁液に安定化剤を添加し、タンパク質を不溶化及び/又は不活性化する細胞固定処理を施すことで、前記細胞の劣化を長時間抑制すればよい。化学固定に用いる安定化剤としては、例えば、アルデヒド類、酸類、脱水剤・有機溶媒類、金属塩類などの細胞固定剤を含む溶液が挙げられる。
本発明の方法においては、前述した生体試料において、メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現するCTCを検出する。CTCを検出するための一つの好ましい態様においては、まず、CTCを含む試料(例えば、CTC濃縮液)をスライドに塗布したり、CTCを保持可能な装置に導入して、CTCを保持させる。その後、顕微鏡や光学検出器などを利用して、前記保持されたメラノーマ細胞マーカー及び病態判定マーカーを発現するCTCを検出すればよい。また、CTCを検出するための他の好ましい態様においては、CTCを含む試料をフローサイトメーターに導入することで、メラノーマ細胞マーカー及び病態判定マーカーを発現するCTCを検出してもよい。
CTCを検出可能な細胞検出装置の一例を図1に示し、その正面図を図2に示す。
図1及び図2に示す細胞検出装置100は、
貫通孔11aを有する平板状の遮光部材11と、
貫通孔12aを有する平板状の絶縁体12と、
導入口21、排出口22及び貫通部23を有する平板状のスペーサ20と、
遮光部材11の下部及びスペーサ20の上部と密着するよう設けた電極基板31、32と、
電極基板31、32同士を接続する導線40と、
電極基板31、32に信号を印加する信号発生器50と、
を備えている。
貫通孔11aを有する平板状の遮光部材11と、
貫通孔12aを有する平板状の絶縁体12と、
導入口21、排出口22及び貫通部23を有する平板状のスペーサ20と、
遮光部材11の下部及びスペーサ20の上部と密着するよう設けた電極基板31、32と、
電極基板31、32同士を接続する導線40と、
電極基板31、32に信号を印加する信号発生器50と、
を備えている。
遮光部材11が有する貫通孔11aと絶縁体12が有する貫通孔12aとは互いに同一の寸法及び形状であり、かつそれぞれの貫通孔の位置が一致するよう遮光部材11及び絶縁体12を設けている。貫通孔11a、貫通孔12a及び遮光部材11の下部に密着して設けた電極基板31により、細胞保持手段10内に保持部60が構成され、導入口21から細胞を含む液体を導入すると、貫通部23を通じて保持部60へ細胞が導入される。電極基板32はスペーサ20上部に密着して設けており、導入口21から導入した、細胞を含む液体の飛散や蒸発を防止している。なお、保持部60に保持した細胞の回収を容易にするため、電極基板32はスペーサ20から取り外し可能な構造となっている。また電極基板31・32をITO(酸化インジウムスズ)などの透明電極にすると、保持部60に保持された細胞を、顕微鏡や光学検出器を用いて検出可能となるため好ましい。
図1及び図2に示す細胞検出装置100にCTCを保持させる際は、CTCを含む試料をスペーサ20に設けた導入口21から導入後、信号発生器50から導線40を介して電極基板31・32へ交流電圧を印加することで誘電泳動力を発生させ、CTCを保持させるとよい。CTCを含む試料(例えば、CTC濃縮液)を細胞検出装置100に導入する際は、予め当該試料を遠心分離することでCTCを含むペレットを得た後、マンニトール、グルコース、スクロースなどの糖を含む溶液に当該ペレットを懸濁させてから細胞検出装置100に導入すると、CTCへのダメージが少なくなるため好ましい。なお、前記ペレットの懸濁液として前述した糖の他に、BSA(ウシ血清アルブミン)やカゼイン等のタンパク質、親水性高分子を結合したタンパク質をさらに含んでもよい。前記ペレットの懸濁液中に含まれる糖の濃度はCTCと等張になる濃度とすればよく、糖としてマンニトールを用いる場合は、終濃度で250mMから350mMの間とすればよい。電極基板31・32へ印加する交流電圧としては、ピーク電圧が1Vから20V程度で、周波数10kHzから10MHz程度である、正弦波、矩形波、三角波、台形波が例示できる。具体例として、生きたCTCを保持部に1つずつ保持させたい場合は、周波数100kHzから3MHzの矩形波を使用すると好ましい。
本発明においてCTCにおける発現を検出する「メラノーマ細胞マーカー遺伝子」は、生体試料(例えば、血液試料や血液成分を含む試料)に含まれる夾雑細胞よりもメラノーマ細胞に特異性が高い遺伝子である。「夾雑細胞」とは、前記メラノーマ細胞以外の細胞であり、例えば、赤血球、白血球、及び血小板が挙げられる。また、「特異性が高い」とは、メラノーマ細胞が、少なくとも1つの夾雑細胞よりも、転写レベル又は翻訳レベルにおける発現が高いことを意味する。好ましくは、メラノーマ細胞は、夾雑細胞よりも、メラノーマ細胞特異的遺伝子の発現が、1.5倍以上高く、より好ましくは2倍以上高く、さらに好ましくは3倍以上高く、特に好ましくは5倍以上(例えば、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上)高い。
本発明の方法における「メラノーマ細胞マーカー遺伝子」の好ましい態様は、ヒト由来のものであれば、典型的には、(i)配列番号1~128のいずれかに記載のアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドをコードする遺伝子であるが、本発明においては、これら遺伝子のホモログ(例えば、ヒト以外の生物におけるカウンターパート遺伝子)を標的(検出対象)とすることもできる。また、遺伝子のDNA配列は、その変異などにより、自然界において(すなわち、非人工的に)変異し得ることから、本発明においては、このような天然の変異体も、標的とすることができる。
前記ホモログのアミノ酸配列としては、(ii)配列番号1~128のいずれかに記載のアミノ酸配列全体に対して、70%以上、より好ましくは、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上(例えば、96、97、98、99%以上)、の相同性を有するアミノ酸配列であってもよい。配列の相同性は、例えば、BLASTPのプログラム(Altschul et al.,J.Mol. Biol.,215:403-410,1990)を利用して決定することができる。
さらに、前記変異体のアミノ酸配列としては、(iii)配列番号1~128のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列であってもよい。自然界におけるアミノ酸の変異数は、一般的には、数個以内である。ここで「数個」とは、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3又は2個の整数を意味する。1~数個のアミノ酸残基とは、好ましくはアミノ酸残基が1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、さらに好ましくは1個以上3個以下、特に好ましくは2個以下である。
下記の表1~表11に、配列番号1~128のアミノ酸配列について、それぞれ、各アミノ酸配列の配列番号、各アミノ酸配列からなるポリペプチドが対応するタンパク質の名称、正式名(フルネーム)及び別名、並びに、各アミノ酸配列のGenBankアクセッション番号(GenBank No.)を示す。
これらポリペプチドは、生体試料に含まれるメラノーマ細胞を当該試料中に含まれる白血球と区別して検出可能なマーカーであり、かつ膜貫通型のポリペプチドとして、本発明者らにより見出されたものである。中でも、白血球に対するメラノーマ細胞の遺伝子発現量比が高い、gp100(別名:PMEL、配列番号1)及びMART-1(Melanoma Antigen Recognized by T cells-1、別名:MLANA、配列番号3)をコードする遺伝子は、前記メラノーマ細胞マーカー遺伝子として特に好ましい。
本発明においてCTCにおける発現を検出する「病態判定マーカー遺伝子」は、腫瘍細胞の浸潤、転移能を評価する指標となる遺伝子であり、その例として、ICAM-1遺伝子、MMPs(Matrix metalloproteinases、例えばMMP-2、MMP-7、MMP-9など)遺伝子、TIMPs(Tissue inhibitor of metalloproteinases、例えばTIMP-1、TIMP-2など)遺伝子、ADAMs(A disintegrin and metalloproteinases、例えばADAM28など)遺伝子が挙げられる。中でも、メラノーマ原発組織よりもメラノーマ転移組織で高発現し、転移等への関与が報告(Oncotarget,2017,p99580-99586)されている、ICAM-1(Intercellular Adhesion Molecule-1)遺伝子が、前記病態判定マーカー遺伝子として好ましい。病態判定マーカー遺伝子も、上記メラノーマ細胞マーカー遺伝子と同様に、典型的なヒト由来のポリペプチドをコードする遺伝子のみならず、これら遺伝子のホモログ(例えば、ヒト以外の生物におけるカウンターパート遺伝子)や天然の変異体を標的(検出対象)とすることもできる。
本発明において、「遺伝子の発現」とは、遺伝子の転写及び翻訳の双方を含む意である。したがって、CTCにおける遺伝子の発現の検出には、転写レベル(mRNAレベル)での検出、及び翻訳レベル(タンパク質レベル)での検出(すなわち、前記遺伝子にコードされるポリペプチドの検出)の双方が含まれる。
また、真核細胞では、遺伝子の転写過程で、mRNA前駆体中のイントロンを除去し、前後のエキソンを再結合する反応(スプライシング)が生じるが、エキソンの再結合に多様性が生じる場合があり、これにより様々な成熟mRNAが生産される。ひいては、それにより様々なタンパク質が翻訳される。このようなスプライシングの違いにより生じる多様なmRNAやタンパク質を「スプライシングバリアント」という。したがって、本発明における遺伝子の発現の検出には、当該スプライシングバリアントの検出が含まれる。
本発明における遺伝子の発現の検出には、適宜公知の手法又はそれに準じた手法を用いることができる。転写レベルでの検出としては、例えば、前記標的遺伝子の転写産物(mRNA)の塩基配列(ポリヌクレオチド)中の適切な位置に対応するプローブを設計した上で、ノーザンブロッティング、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ、DNAマイクロアレイ解析法、in situハイブリダイゼーション法等により検出してもよく、前記ポリヌクレオチド中の適切な位置に対応するプライマーセットを設計した上で、例えば、PCR法、RT-PCR法、TRC(Transcription Reverse transcription Concerted)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、TMA(Transcription-Mediated Amplification)法等を用いて前記ポリヌクレオチドを増幅して検出してもよく、前記ポリヌクレオチドを含む試料を直接シーケンサーに供して検出してもよい。
また、翻訳レベルでの検出としては、例えば、免疫細胞染色法、イメージングサイトメトリー、フローサイトメトリー、ELISA法、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、イムノブロッティング(ウェスタンブロット法等)、抗体アレイ、in vivo イメージング等の抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法);前記抗体に代えてアプタマーを用いて検出する方法が挙げられる。また、前記免疫学的手法は、必要な試薬を調製した上で、AIA-900やAIA-CL2400(いずれも東ソー(株)製)等のエンザイムイムノアッセイ装置を用いて自動的に行なってもよい。
本発明において、前記遺伝子の発現の検出としては、簡便性の観点から、翻訳レベルでの検出(標的遺伝子にコードされるポリペプチドの検出)であることが好ましく、特に、前記ポリペプチドを特異的に認識する抗体(以下、場合により「抗ポリペプチド抗体」という)又は前記ポリペプチドを特異的に認識するアプタマー(以下、場合により単に「アプタマー」という)を用いて前記ポリペプチドを検出する方法が好ましく、前記抗ポリペプチド抗体を用いて前記ポリペプチドを検出する方法がより好ましい。
本発明において、「抗体」は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、また、抗体の機能的断片であってもよい。また、「抗体」には、免疫グロブリンの全てのクラス及びサブクラスが含まれる。抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、本発明においては、前記標的遺伝子にコードされるポリペプチドを特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、及びこれらの重合体等が挙げられる。
本発明に係る抗ポリペプチド抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(標的遺伝子にコードされるポリペプチド、それらの部分ペプチド、又はこれらを発現する細胞等)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィー等)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。ハイブリドーマ法としては、例えば、コーラー及びミルスタインの方法(Kohler&Milstein,Nature,256:495(1975))が挙げられ、組換えDNA法としては、例えば、上記抗ポリペプチド抗体をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等)に導入し、前記抗ポリペプチド抗体を組換え抗体として産生させる手法が挙げられる(例えば、P.J.Delves,Antibody Production:Essential Techniques,1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean Monoclonal Antibodies,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M.et al.,Eur.J.Biochem.192:767-775(1990))。
本発明において、前記抗ポリペプチド抗体及びアプタマー等の、標的遺伝子の発現産物に結合する分子としては、標識物質を結合させたものを用いることができる。標識物質を結合させた前記分子を用い、当該標識物質を検出することにより、標的遺伝子がコードする発現産物に結合した前記分子の量を直接測定することができる。前記標識物質としては、前記分子に結合することができ、化学的又は光学的方法で検出できるものであれば特に制限されることはなく、例えば、フィコエリスリン(PE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、Alexa Fluor(商品名)等の蛍光物質や、ペルオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ等の酵素、放射性物質が挙げられる。
また、本発明において、標的遺伝子の発現の検出が、当該遺伝子にコードされるポリペプチドの検出であり、前記抗ポリペプチド抗体を用いる場合には、前記標識物質を結合させた二次抗体を利用する方法や、二次抗体と前記標識物質とを結合させたポリマーを利用する方法などの間接的検出方法を利用することもできる。ここで「二次抗体」とは、上記抗ポリペプチド抗体に特異的な結合性を示す抗体である。例えば、上記抗ポリペプチド抗体をウサギ抗体として調製した場合には、二次抗体として抗ウサギIgG抗体を使用することができる。ウサギ、ヤギ、マウスなどの様々な生物種に由来する抗体に対して、使用可能な標識二次抗体が市販されており、用いる抗ポリペプチド抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択し、使用することができる。また、二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインAなどを用いることも可能である。
メラノーマ細胞マーカー遺伝子や病態判定マーカー遺伝子が膜貫通型ポリペプチドなどの細胞膜上に発現しているポリペプチドをコードしている場合、細胞膜上に発現している前記ポリペプチドを介してCTCを捕捉及び/又は回収した上で、これらポリペプチドを標的として、標的遺伝子の発現を検出することができる。この補足及び/又は回収には、担体と、前記担体に担持された前記ポリペプチドに結合する分子とを備える担体固定化分子を用いることができる。
前記担体固定化分子の担体としては、例えば、プレート、繊維、膜、粒子、マイクロ流路チップ等が挙げられる。前記ポリペプチドに結合する分子としては、前記ポリペプチドに結合する抗体が好ましい。このような担体固定化分子としては、従来公知のものを適宜用いることができ、市販のものを適宜用いることもできる。
前記担体固定化分子に捕捉されたCTCを回収する方法としては、特に制限されず、適宜従来公知の方法又はそれに準じた方法を採用することができ、例えば、前記担体がプレートである場合には、前記捕捉工程の後にプレート上から液相(上清)を除去する方法や、前記担体が粒子である場合には前記捕捉工程の後に前記粒子を遠心や集磁によって回収して液相(上清)を除去する方法が挙げられる。回収手段の好適な一例として、CTCを保持可能な保持部を設けた基板とノズルによる吸引吐出により当該CTCを回収する回収部とを備えた手段があげられ、具体例として特開2016-142616号に開示の回収装置が挙げられる。
本発明におけるCTCの検出の好ましい態様においては、さらに、細胞核が存在すること、及び/又は、白血球マーカー遺伝子の発現が低いこと、を指標とする。「白血球マーカー遺伝子」としては、例えば、CD45遺伝子が挙げられるが、これに制限されない。また、「白血球マーカー遺伝子の発現が低い」とは、対象細胞における白血球マーカー遺伝子の発現量が、白血球における発現量の半分未満、好ましくは1/3未満、より好ましくは1/5未満、さらにより好ましくは1/10未満であることを意味する。また、対象細胞における白血球マーカー遺伝子の発現量が、白血球マーカー遺伝子を発現しないことが知られている陰性対照細胞(例えば、血管内皮細胞、間葉系幹細胞)と同等の発現量である場合も「白血球マーカー遺伝子の発現が低い」と評価し得る。
CTCの検出を、顕微鏡や光学検出器などの光学機器を利用して検出する場合、細胞核の検出は、例えば、4’,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)やHoechst 33342(商品名)などの細胞核染色試薬で染色して検出すればよい。また、白血球マーカー遺伝子の発現の検出は、前述したメラノーマ細胞マーカー遺伝子や病態判定マーカー遺伝子の発現の検出と同様の手法で行なうことができる。
光学機器によるCTCの検出は、例えば、カメラなどの撮像手段で撮像することで得られた画像(明視野像、蛍光画像、発光画像など)をパソコン等に取り込んだ後、ソフトウェアを用いてCTCであるか否かを判別すればよい。ソフトウェアを用いずに、目視によりCTCであるか否かを判別してもよい。
本発明の方法においては、前記検出に基づいて、メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現するCTCの細胞数を経時的に計測し、その結果得られる細胞数の変動をメラノーマ患者の治療効果の指標とする。治療効果を判定する対象となる「メラノーマ患者の治療」としては特に制限はなく、例えば、メラノーマ組織の切除、分子標的療法、免疫療法、殺細胞性抗がん剤治療、放射線治療などが挙げられる。また、「経時的に計測」とは、メラノーマ患者から治療の前後少なくとも各1回採取した少なくとも2つの生体試料においてCTCの細胞数を計測することを意味する。特定の治療の前と治療中の少なくとも各1回を含んでもよい。特定の治療の前後及び治療中の全ての段階を含んでもよい。より多くの時期に採取した生体試料を用いて評価することにより、治療効果を判定するためのより詳細な情報を得ることができる。
具体的には、前述した方法で検出した、メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現するCTCの細胞数の変動を、患者における病勢の進行度と当該患者におけるCTCの細胞数との関係を示す識別表やグラフなどに従い、患者の治療効果に関連づけて判定することができる。そのような識別表やグラフは、予め患者群においてCTCの細胞数を検査し、さらに治療経過を追跡調査することで決定できる。
本願実施例に示す通り、検出されるCTCの細胞数が多いほど病勢が進行していると考えられることから、一般的に、計測したCTCの細胞数が経時的に減少して低値となれば、良好な治療効果と判定することができ、細胞数が低値のまま変動が少ない場合においては、病態の安定を予測することができる。逆に、細胞数が経時的に増加して高値となったり、細胞数が高値のまま維持されていれば、治療効果が低いと判定することができる。ここで「低値」とは、良好な病態の患者又は病態が安定している患者に一般的に見られる細胞数の値を言い、例えば、本願実施例2に記載の方法で計測した場合において、血液4mL当たり0~4個である。一方、「高値」とは、病態が進行している患者に一般的に見られる細胞数の値を言い、例えば、本願実施例2に記載の方法で計測した場合において、血液4mL当たり5個以上である。
前記の評価に基づき、本発明により判定される治療効果として、例えば、完全奏功・部分奏功群(例えば、根治群、病態改善群、病態安定群)、進行群(例えば、再発群、病態悪化群)などに分類できる。前記関連づけは、医師が行なわずに、医療補助者などが行なってもよいし、装置及びソフトウェア上により自動で関連づけしてもよい。したがって、本発明の方法は、診断のための予備的方法(治療効果を判定するための指標を得る方法)ということもできる。
本発明による治療効果の判定は、治療方針の決定や治療効果のモニタリングのための精度のよい情報となる。すなわち、患者が抱える病状の危険性や生存確率に関する情報を医師に与え、これにより医師は最適な治療を選択できる。このため、不必要な治療を患者に行なうリスクの低減と、それに伴う不必要な治療費の節約だけでなく、患者の予後改善に寄与できる。
また、本発明の方法は、メラノーマ患者の治療効果の判定だけでなく、メラノーマの早期発見やメラノーマ患者の予後予測にも応用可能である。本発明の方法に基づき、例えば、治療の効果が低いと判断された患者には、さらなる適切な医療行為(抗癌剤の投与、放射線療法適用、手術など)を施すことができる。
以下、本発明の一態様として、図1及び図2に示す細胞検出装置100を用いてメラノーマ患者の治療効果を判定する方法を説明するが、本発明は、当該態様に限定されるものではない。
(1)メラノーマ患者から血液を採取する。なお、血液を採取する際、クエン酸、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの抗凝固剤を添加してもよい。また必要に応じ、採取した血液を生理食塩水などで希釈してもよい。
(2)採取した血液(又は希釈した血液)を密度勾配遠心法に供し、当該血液中に含まれる夾雑細胞(赤血球、白血球など)を除去する。密度勾配遠心法は、物質をその比重に基づき分離する方法であり、密度勾配を形成した媒体(密度勾配溶液)上に採取した血液(又は希釈した血液)を重層した後、遠心分離を行なうことにより、夾雑細胞やごみを除去し、CTCを含む画分(上層)を回収できる。なお、前記遠心分離を行なう前に、採取した血液(又は希釈した血液)に、夾雑細胞(赤血球、白血球など)と結合可能な結合剤(例えば、RosetteSep(StemCell Technologies社製))を添加してもよい。前記結合剤は、赤血球、白血球及び/又はこれら細胞の表面抗原と結合することで細胞凝集体を形成し、これら細胞の密度を大きくできるため、密度勾配遠心法によるCTCの分離を容易にする。密度勾配遠心法により、夾雑細胞やごみが除去されたCTCを含む画分は、速やかに後続の操作を行なうことが好ましいが、後続の操作を速やかに行なえない場合は、凍結保存による保存処理を行なってもよい。凍結保存する際は、CELLBANKER2(日本全薬工業社製)などの細胞保存溶液にCTCを含む画分を懸濁させた後、-80℃で凍結保存すればよい。
(3)(2)で得られたCTCを含む画分に、塩化アンモニウムを含む溶液を添加して撹拌することで、当該画分に混入した赤血球を溶血させる。本操作により、分離回収したCTCの観察が良好になる。
(4)(3)で得られた溶血処理後のCTCを含む溶液を遠心分離することで血液成分を除去し、CTCをペレット状にした後、適切な溶液を用いてCTCを懸濁させる。
(5)(4)で調製したCTCを含む懸濁液を再度遠心分離し、CTCを含むペレットを回収する。なお、必要に応じ、前記回収したペレットを溶液に再度懸濁させ、遠心分離する工程を追加してもよい。
(6)(5)で得られたCTCを、図1に示す細胞検出装置100に設けた細胞保持手段10上に展開後、誘電泳動力80によりCTCを含む細胞70を保持部60へ保持させる(図3(1))。
(7)接着物質90を細胞検出装置100に導入し、細胞70を保持部60に接着する(図3(2))。接着物質90としては、例えばポリ-L-リジンを用いることができ、その濃度は0.01%(w/v)以下とすることが好ましい。
(8)保存処理剤及び細胞膜透過処理剤を細胞検出装置100に導入し、CTCの保存及び膜透過処理を施す。保存処理剤としては、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドドナー化合物(加水分解を受けることでホルムアルデヒドを放出可能な化合物)、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド類、メタノールやエタノールなどのアルコール類、及び重金属を含む溶液が例示できる。細胞膜透過処理剤としては、メタノールやエタノールなどのアルコール類や、サポニンなどの界面活性剤が例示できる。
(9)抗体による非特異的な反応を防ぐため、保存及び膜透過処理後の標的細胞を保持した保持部に対してタンパク質によるブロッキング処理を施す。
(10)ブロッキング処理した後、白血球が発現するタンパク質(白血球マーカー)に対する蛍光標識抗体、メラノーマ細胞が発現するタンパク質(メラノーマ細胞マーカー)に対する蛍光標識抗体、病態判定マーカーに対する蛍光標識抗体、及び細胞核を蛍光染色する試薬を用いて細胞を標識し(図3(3))、洗浄後、蛍光顕微鏡200などで細胞の蛍光像及び明視野像を観察する(図3(4))。白血球が発現するタンパク質に対する抗体としては、抗CD45抗体を用いることができる。メラノーマ細胞マーカーに対する抗体としては抗gp100抗体や抗MART-1抗体などを、病態判定マーカーに対する抗体としては抗ICAM-1抗体などを、それぞれ用いることができる。細胞核を蛍光染色させる試薬としては、DAPIやHoechst 33342(商品名)などを用いることができる。
(11)観察した蛍光像及び明視野像を基にCTC71を検出する(図3(4))。CTCは、例えば、細胞核が染色されており、抗CD45抗体では標識されず、メラノーマ細胞マーカーに対する抗体(例えば抗gp100抗体や抗MART-1抗体)及び病態判定マーカーに対する抗体(例えば抗ICAM-1抗体)で標識されることを指標に検出すればよい。
(12)検出したCTCの細胞数を計測し、その変動に基づき、前記患者の治療効果を判定する。
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は当該例に限定されるものではない。
(実施例1) メラノーマ細胞マーカー遺伝子の同定
メラノーマ細胞株として、501mel、888mel、928melの3株を選択し、これらメラノーマ細胞株と健常者白血球との遺伝子発現量の違いを、次世代シーケンサーを用いて、以下の方法で解析した。
メラノーマ細胞株として、501mel、888mel、928melの3株を選択し、これらメラノーマ細胞株と健常者白血球との遺伝子発現量の違いを、次世代シーケンサーを用いて、以下の方法で解析した。
(1)メラノーマ細胞株を10%(v/v)FBS(ウシ胎児血清)を含むRPMI-1640培地を用いて、5%CO2環境下37℃で培養後、0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて培地から細胞を剥離することでメラノーマ細胞を回収した(n=3)。
(2)前記(1)で得られたメラノーマ細胞を、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて全RNAを回収した後、10ngの全RNAからSMART-Seq v4 Ultra Low Input RNA Kit for Sequencing(Clontech社製)によりcDNA合成及び増幅を行なった。また、健常者4人の血液から回収した白血球でも同様にRNAを回収し、10ng分のRNAからcDNAの合成及び増幅を行なった。
(3)前記(2)で得られたcDNA 1ng分を使用して、Nextera XT DNA Library Preparation Kit(Illumina社製)及びNextera XT v2 Index Kit Set A(Illumina社製)によりライブラリー調製を行ない、Next-seq500(illumina社製)を用いて「リード長75bp、single end read」の条件でシークエンス解析を行なうことで、一試料あたり1000万リード以上の配列を解読した。
(4)前記(3)で解読したヌクレオチド配列(シーケンスデータ)をTopHat2(JOHNS HOPKINS大学)及びBowtie2(JOHNS HOPKINS大学)を用いて、ヒトゲノム配列にマップした。なお、ヒトゲノム配列及びヒト遺伝子情報はNCBI(National Center for Biological Information)より公開されているBUILD GRCh38を使用した。マップしたヌクレオチド配列は、Cufflinks(Washington大学)により、解読した各遺伝子のリード数から、FPKM(Fragments Per Kilobase of exon per Million reads mapped)を単位とする遺伝子ごとの発現値を求めた。
(5)健常者白血球4検体4サンプルとメラノーマ細胞株3種類9サンプルについて発現比較を行なった。メラノーマ細胞(3種類9サンプル)における発現値(FPKM値)の平均が、健常者白血球(4検体4サンプル)における発現値(FPKM値)の平均の10.00倍以上であり、かつ膜貫通型タンパク質をコードする遺伝子を上記表1から表11に示した。
(実施例2) メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現する血中循環腫瘍細胞(CTC)の細胞数と治療による病態変化との相関
メラノーマ細胞マーカー遺伝子の一例としてgp100遺伝子を、病態判定マーカー遺伝子の一例としてICAM-1遺伝子を選択し、以下、実験を行なった。
メラノーマ細胞マーカー遺伝子の一例としてgp100遺伝子を、病態判定マーカー遺伝子の一例としてICAM-1遺伝子を選択し、以下、実験を行なった。
(1)インフォームドコンセントを得たメラノーマ患者3名から、それぞれ採取した血液10mLを200×gで10分間、室温にて遠心分離し、上清を除去後、PBS(Phosphate buffered saline)20mLで懸濁することで、希釈血液試料を調製した。なお、前記患者の治療及び病態情報を以下に示す。
患者A:手術後に肝転移が認められた(病態進行)
患者B:ダブラフェニブ(Dabrafenib)及びトラメチニブ(Trametinib)による分子標的治療で肝転移が縮小し、薬物への反応性が認められた(部分奏功)
患者C:ダブラフェニブ及びトラメチニブによる分子標的治療中(病態安定)。
患者B:ダブラフェニブ(Dabrafenib)及びトラメチニブ(Trametinib)による分子標的治療で肝転移が縮小し、薬物への反応性が認められた(部分奏功)
患者C:ダブラフェニブ及びトラメチニブによる分子標的治療中(病態安定)。
(2)希釈血液試料を、密度1.077g/mLの密度勾配溶液に重層し、800×gで20分間、室温にて遠心後、上清部にあるCTCを含む画分を回収した。
(3)(2)で回収したCTCを含む画分にPBS30mLを加え、600×gで10分間、室温にて遠心分離することで上清を除去し、CTCを含むペレットを得た。
(4)CTCを含むペレットを、PBS20mLで再懸濁し、300×gで8分間、室温にて遠心分離することで上清を除去し、CTCを含むペレットを得た。
(5)再度CTCを含むペレットをPBS20mLで再懸濁した後、300×gで8分間、室温にて遠心分離し、上清を除去した。なお、(3)、(4)及び本操作は、血液成分を除去し、所望のCTCを濃縮するための操作である。
(6)CTCの長期保存を目的に、CTCを含むペレットを、細胞凍結保存液(CELLBANKER2、日本全薬工業社製)2mLで再懸濁し、-80℃にて凍結保存した。
(7)(6)で凍結保存したCTCを含む懸濁液を解凍し、その一部を、300mMマンニトールを含む溶液10mLに懸濁後、300×gで5分間、室温にて遠心分離することで上清を除去した。
(8)再度300mMマンニトールを含む溶液10mLで懸濁後、300×gで5分間、室温にて遠心分離し、上清を除去した。なお、(7)及び本操作は、細胞凍結保存液を除去し、CTCを濃縮するための操作である。
(9)(8)で上清を除去したCTCを含む懸濁液を図1及び図2に示す細胞検出装置100に設けた細胞保持手段10に導入し、信号発生器50から電極基板31・32へ交流電圧(周波数1MHz)を3分間印加することで前記手段が有する保持部60にCTCを含む細胞70を保持させた。本実施例で用いた細胞検出装置100は、直径30μm、深さ40μmの微細孔を複数有する絶縁体12と、絶縁体12と電極基板31の間に設けた遮光性のクロム膜(遮光部材11)と、電極基板31とからなる細胞保持手段10に設けた保持部60の上面に、厚さ1mmのスペーサ20及び電極基板32を密着させた構造を有する。
(10)(9)の条件で交流電圧を印加しながら、0.01%(w/v)のポリ-L-リジンを含む300mMマンニトール水溶液を導入し、3分間静置後、前記交流電圧の印加を停止し、前記水溶液を吸引除去した。
(11)50%(v/v)エタノールと2%(w/v)ホルムアルデヒドとを含む水溶液(以下、「細胞膜透過試薬」と称する)を導入し、10分間静置することで、細胞膜を透過させ、保持部にCTCを含む細胞を標本化した。
(12)細胞膜透過試薬を吸引除去し、PBSを導入することで、残留した細胞膜透過試薬を洗浄した。
(13)細胞膜内外のタンパク質と特異的に結合可能な蛍光標識抗体と、細胞核を標識する蛍光試薬(DAPI:4’,6-diamidino-2-phenylindole)を含む水溶液(以下、標識試薬A)を導入し、30分間静置した。なお、前記標識抗体として、白血球表面に発現しているCD45に対する標識抗体、ならびにメラノーマ細胞の細胞質内で発現しているgp100及びICAM-1に対する標識抗体を用いた。
(14)標識試薬Aを吸引除去し、PBSを導入することで、残留した標識試薬Aを除去した。
(15)(14)で標識したCTCを含む細胞保持手段を蛍光顕微鏡のステージ上に載置した後、複数の保持孔に捕捉した全ての細胞を観察するために保持部全体の撮像を行なった。これにはコンピューター制御式電動ステージ、CMOSカメラ(ORCA-Flash4.0;浜松ホトニクス社製)を装備した蛍光顕微鏡(IX83;オリンパス社製)を用いた。画像取得及び解析ソフトウェアには、LabVIEW(National Instruments社製)を用いた。
(16)(15)で撮像した細胞の中から、細胞核を有していることを示すDAPIで染色され(DAPI陽性)、白血球で発現しているCD45に対する抗体では染色されず(CD45陰性)、メラノーマ細胞マーカーであるgp100に対する抗体又は病態判定マーカーであるICAM-1に対する抗体で染色される(gp100/ICAM-1陽性)CTCを検出した。
本実施例で検出した、各採血時のCTC数を計数した結果を表12に示す。なお、表12において、1回目、2回目は時系列を意味する(2回目が後)。
病態進行の患者(患者A)では、細胞核を有し、かつ、メラノーマ細胞マーカーであるgp100陽性及び病態判定マーカーであるICAM-1陽性のCTC数は、顕著な増加が認められた(血液4mLあたり1個(1回目)から19個(2回目)へ)。一方、治療の部分奏効性が認められた患者(患者B)では、前記CTCが消失し(血液4mLあたり2個(1回目)から0個(2回目)へ)、病態が安定している患者(患者C)では、低値のままであった(血液4mLあたり0個(1回目)と1個(2回目))。
以上の結果は、細胞核を有し、かつメラノーマ細胞マーカー及び病態判定マーカー陽性のCTC数が患者の病態と相関しており、前記CTC数の変動に基づいて、高精度でメラノーマ患者の治療効果の判定が可能であることを示している。
(比較例1)
血液を採取した患者が、インフォームドコンセントを得た、実施例1とは異なるステージIのメラノーマ患者5名である他は、実施例1と同様な方法でCTCを計数した。
血液を採取した患者が、インフォームドコンセントを得た、実施例1とは異なるステージIのメラノーマ患者5名である他は、実施例1と同様な方法でCTCを計数した。
結果を表13に示す。gp100陽性CTCは、ステージIのメラノーマ患者5症例の手術前に採取した血液すべてにおいて検出された(血液4mLあたり8個から28個)。一方、gp100及びICAM-1陽性CTCは、いずれの患者血液にも存在しなかった。
(実施例3) メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現するCTCの細胞数と長期治療における病態変化との相関
メラノーマ患者C(実施例2)および、インフォームドコンセントを得た新規のメラノーマ患者(患者D)において、治療変更を含む長期にわたる治療期間中のgp100及びICAM-1陽性CTC数を計数した。なお各採血時のCTC数の計数は、実施例2と同様な方法で実施した。
メラノーマ患者C(実施例2)および、インフォームドコンセントを得た新規のメラノーマ患者(患者D)において、治療変更を含む長期にわたる治療期間中のgp100及びICAM-1陽性CTC数を計数した。なお各採血時のCTC数の計数は、実施例2と同様な方法で実施した。
患者Cでの結果を表14に、患者Dでの結果を表15に、それぞれ示す。なお、表14及び表15において、回次の大きいほうが時系列では後になる。
患者Cは、前述した通り分子標的療法により病態は安定していたが、転移縮小には至らなかった(3回目)ため、免疫療法に変更したところ転移縮小した(4回目)。その後、新規に転移が出現した(5回目)ため、再び分子標的療法に変更した(6回目)ところ、再び転移縮小し(9回目)、その状態を維持している(10回目)患者である。
gp100及びICAM-1陽性CTC数は、分子標的療法開始後、病態が安定していた時点(2回目)では殆ど検出されなかった(血液4mLあたり1個)が、3回目の時点では血液4mLあたり18個まで上昇した。その後、免疫療法に変更して転移が縮小した時点(4回目)では、血液4mLあたり2個まで顕著に減少した。新規転移出現に伴い、再び分子標的療法に変更した後(6回目以降)、転移は縮小したが、その間、gp100及びICAM-1陽性CTCは殆ど検出されなかった(血液4mLあたり1個以下)。
患者Dは、原発切除後、肺転移出現(2回目)に伴い、分子標的療法をしたところ完全寛解し(4回目)、その状態を維持している(5回目以降)患者である。
肺転移出現(2回目)に伴いgp100及びICAM-1陽性CTC数は顕著に増加した(血液4mLあたり43個)が、分子標的療法の開始(3回目)により顕著に低下し(血液4mLあたり17個)、完全寛解した時点(4回目)では血液4mLあたり4個となった。その後、完全寛解を維持している(5回目から7回目)が、その間、gp100及びICAM-1陽性CTC数は、血液4mLあたり2個以下であった。
以上の結果は、メラノーマ患者への治療が長期に渡った場合でも、細胞核を有し、かつメラノーマ細胞マーカー及び病態判定マーカー陽性のCTC数と患者の病態との相関が維持されており、前記CTC数の変動に基づいて、高精度でメラノーマ患者の長期治療の効果の判定が可能であることを示している。
100:細胞検出装置
10:細胞保持手段
11:遮光部材
12:絶縁体
11a、12a:貫通孔
20:スペーサ
21:導入口
22:排出口
23:貫通部
31・32:電極基板
40:導線
50:信号発生器
60:保持部
70:細胞
71:目的細胞(血中循環腫瘍細胞[CTC])
80:誘電泳動力
90:接着物質
200:蛍光顕微鏡
10:細胞保持手段
11:遮光部材
12:絶縁体
11a、12a:貫通孔
20:スペーサ
21:導入口
22:排出口
23:貫通部
31・32:電極基板
40:導線
50:信号発生器
60:保持部
70:細胞
71:目的細胞(血中循環腫瘍細胞[CTC])
80:誘電泳動力
90:接着物質
200:蛍光顕微鏡
Claims (4)
- メラノーマ患者の治療効果を判定する方法であって、前記患者より採取した生体試料において、メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現する血中循環腫瘍細胞を検出して、前記細胞の細胞数を経時的に計測する工程を含み、前記細胞数の変動を、前記患者の治療効果の判定指標とする方法。
- メラノーマ細胞マーカー遺伝子及び病態判定マーカー遺伝子を発現する血中循環腫瘍細胞の検出の前に、前記患者より採取した生体試料に含まれる血中循環腫瘍細胞を濃縮して濃縮液を取得する工程を含む、請求項1に記載の方法。
- メラノーマ細胞マーカー遺伝子が、以下の(i)から(iii)からなる群から選択される少なくとも1以上の遺伝子である、請求項1に記載の方法;
(i)配列番号1から128のいずれかに記載のアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドをコードする遺伝子、
(ii)配列番号1から128のいずれかに記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドをコードする遺伝子、
(iii)配列番号1から128のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドをコードする遺伝子。 - 病態判定マーカー遺伝子がICAM-1遺伝子である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
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