MIMOレーダは、例えば、時分割、周波数分割又は符号分割を用いて多重した信号(レーダ送信波)を複数の送信アンテナ(又は送信アレーアンテナと呼ぶ)から送信し、周辺物体において反射された信号(レーダ反射波)を複数の受信アンテナ(又は受信アレーアンテナと呼ぶ)を用いて受信し、それぞれの受信信号から、多重された送信信号を分離して受信する。このような処理により、MIMOレーダは、送信アンテナ数と受信アンテナ数との積で示される伝搬路応答を取り出すことができ、これらの受信信号を仮想受信アレーとしてアレー信号処理を行う。
また、MIMOレーダでは、送受信アレーアンテナにおける素子間隔を適切に配置することにより、仮想受信アレーのアンテナ開口を拡大し、角度分解能の向上を図ることができる。
例えば、特許文献1には、MIMOレーダの多重送信方法として、送信アンテナ毎に送信時間をずらして信号を送信する時分割多重送信を用いたMIMOレーダ(以下、「時分割多重MIMOレーダ」と呼ぶ)が開示されている。時分割多重送信は、周波数多重送信又は符号多重送信と比較し、簡易な構成で実現できる。また、時分割多重送信は、送信時間の間隔を十分に広げることにより、送信信号間の直交性を良好に保つことができる。時分割多重MIMOレーダは、送信アンテナを規定された周期で逐次的に切り替えながら、送信信号の一例である送信パルスを出力する。時分割多重MIMOレーダは、送信パルスが物体で反射された信号を複数の受信アンテナで受信し、受信信号と送信パルスとの相関処理後に、例えば、空間的なFFT(Fast Fourier Transforma)処理(反射波の到来方向推定処理)を行う。
時分割多重MIMOレーダは、送信信号(例えば送信パルス又はレーダ送信波)を送信する送信アンテナを、規定された周期で逐次的に切り替えていく。したがって、時分割多重送信は、周波数分割送信又は符号分割送信と比較し、全ての送信アンテナから送信信号を送信し終えるまでに要する時間が長くなり得る。このため、例えば、特許文献2のように、各送信アンテナから送信信号を送信し、それらの受信位相変化からドップラ周波数(つまり、ターゲットの相対速度)の検出を行う場合、ドップラ周波数を検出するためにフーリエ周波数解析を適用するにあたり、受信位相変化の観測の時間間隔(例えば、サンプリング間隔)が長くなる。よって、サンプリング定理を満たす周波数条件、すなわち、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲(つまり、検出できるターゲットの相対速度範囲)が低減する。
また、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲(換言すると、相対速度範囲)を超えるターゲットからの反射波信号が想定される場合、レーダ装置は、反射波信号が折り返し成分か否かを特定できず、ドップラ周波数(換言すると、ターゲットの相対速度)の曖昧性(不確定性、Ambiguity)が生じる。
例えば、レーダ装置が、Nt個の送信アンテナを周期Trで逐次的に切り替えながら送信信号(送信パルス)を送信する場合、全ての送信アンテナから送信信号を送信し終えるまでにTr×Ntの送信時間が必要となる。このような時分割多重送信をNc回繰り返して、ドップラ周波数の検出のためにフーリエ周波数解析を適用すると、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲は、サンプリング定理より、±1/(2Tr×Nt)となる。したがって、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲は、送信アンテナ数Ntが増大するほど低減し、より低速な相対速度でもドップラ周波数の曖昧性が生じやすくなる。
時分割多重MIMOレーダには上述したようなドップラ周波数の曖昧性が、より低速な相対速度で生じる恐れがあるため、以下では、一例として、複数の送信アンテナから送信信号を同時に多重して送信する方法に着目する。
複数の送信アンテナから送信信号を同時に多重して送信する方法として、例えば、受信側においてドップラ周波数領域において複数の送信信号を分離できるように信号を送信する方法(以下、ドップラ多重送信と呼ぶ)がある(例えば、特許文献3を参照)。
ドップラ多重送信において、送信側では、例えば、基準となる送信アンテナから送信される送信信号に対して、基準となる送信アンテナと異なる送信アンテナから送信される送信信号に、受信信号のドップラ周波数帯域幅よりも大きなドップラシフト量が与えられ、複数の送信アンテナから送信信号が同時に送信される。ドップラ多重送信において、受信側では、ドップラ周波数領域においてフィルタリングすることにより、各送信アンテナから送信された送信信号が分離して受信される。
ドップラ多重送信では、複数の送信アンテナから送信信号を同時に送信することにより、時分割多重送信と比較して、ドップラ周波数(又は、相対速度)の検出のためにフーリエ周波数解析を適用する際の受信位相変化を観測する時間間隔を短縮できる。しかし、ドップラ多重送信では、ドップラ周波数領域においてフィルタリングすることにより各送信アンテナの送信信号を分離するため、送信信号あたりの実効的なドップラ周波数帯域幅が制限されてしまう。
例えば、ドップラ多重送信において、レーダ装置が、Nt個の送信アンテナから周期Trで送信信号を送信する場合について説明する。このようなドップラ多重送信をNc回繰り返して、ドップラ周波数(又は、相対速度)の検出のためにフーリエ周波数解析を適用すると、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲は、サンプリング定理より±1/(2×Tr)となる。つまり、ドップラ多重送信において折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲は、時分割多重送信の場合(例えば、±1/(2Tr×Nt))と比較してNt倍に拡大される。
ただし、ドップラ多重送信では、上述したように、ドップラ周波数領域においてフィルタリングすることによって送信信号が分離される。そのため、送信信号あたりの実効的なドップラ周波数帯域幅は、1/(Tr×Nt)に制限されるので、時分割多重送信を行った場合と同様なドップラ周波数範囲となる。また、ドップラ多重送信において、送信信号あたりの実効的なドップラ周波数範囲を超えたドップラ周波数帯域では、当該送信信号と異なる他の送信信号のドップラ周波数帯域の信号と混在するため、送信信号を正しく分離することが困難となる可能性がある。
そこで、本開示に係る一実施例では、ドップラ多重送信において、曖昧性が生じないドップラ周波数の範囲を拡大させる方法について説明する。これにより、本開示に係る一実施例のレーダ装置は、より広いドップラ周波数範囲において、物標の検知精度を向上できる。
以下、本開示の一実施例に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施の形態において、同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は重複するので省略する。
以下では、レーダ装置において、送信ブランチにおいて、複数の送信アンテナから同時に多重された異なる送信信号を送出し、受信ブランチにおいて、各送信信号を分離して受信処理を行う構成(換言すると、MIMOレーダ構成)について説明する。
また、以下では、一例として、チャープ(chirp)パルスのような周波数変調したパルス波を用いたレーダ方式(例えば、チャープパルス送信(fast chirp modulation)とも呼ぶ)の構成について説明する。ただし、変調方式は、周波数変調に限定されない。例えば、本開示の一実施例は、パルス列を位相変調又は振幅変調して送信するパルス圧縮レーダを用いたレーダ方式についても適用可能である。
また、レーダ装置は、ドップラ多重送信を行う。更に、レーダ装置は、ドップラ多重送信においてドップラ多重数分の異なる位相回転(換言すると、位相シフト)を付与した信号(以下、「ドップラ多重送信信号」と呼ぶ)を、符号化(例えば、CDM(Code Division Multiplexing))して、多重送信する(以下、「符号化ドップラ多重(Coded Doppler Multiplexing)」と呼ぶ)。
[レーダ装置の構成]
図1は、本実施の形態に係るレーダ装置10の構成例を示すブロック図である。
レーダ装置10は、レーダ送信部(送信ブランチ)100と、レーダ受信部(受信ブランチ)200と、を有する。
レーダ送信部100は、レーダ信号(レーダ送信信号)を生成し、複数の送信アンテナ109(例えば、Nt個)によって構成される送信アレーアンテナを用いて、レーダ送信信号を規定された送信周期にて送信する。
レーダ受信部200は、物標(ターゲット。図示せず)により反射したレーダ送信信号である反射波信号を、複数の受信アンテナ202-1~202-Naを含む受信アレーアンテナを用いて受信する。レーダ受信部200は、各受信アンテナ202において受信した反射波信号を信号処理し、例えば、物標の有無検出又は反射波信号の到来距離、ドップラ周波数(換言すると相対速度)、及び到来方向の推定を行い、推定結果に関する情報(換言すると、測位情報)を出力する。
なお、レーダ装置10は、例えば、車両といった移動体に搭載されてよく、レーダ受信部200の測位出力(推定結果に関する情報)は、例えば、衝突安全性を高める先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)又は自動運転システムといった制御装置ECU(Electronic Control Unit)(図示なし)に接続され、車両駆動制御又は警報発呼制御に利用されてもよい。
また、レーダ装置10は、例えば、路側の電柱又は信号機といった比較的高所の構造物(図示なし)に取り付けられてよく、レーダ装置10は、例えば、通行する車両又は歩行者の安全性を高める支援システム又は不審者の侵入防止システム(図示なし)におけるセンサとして利用されてもよい。この場合、レーダ受信部200の測位出力は、例えば、安全性を高める支援システム又は不審者侵入防止システムにおける制御装置(図示なし)に接続され、警報発呼制御又は異常検出制御に利用されてもよい。なお、レーダ装置10の用途はこれらに限定されず、他の用途に利用されてもよい。
また、物標はレーダ装置10が検出する対象の物体であり、例えば、車両(4輪及び2輪を含む)、人、ブロック又は縁石などを含む。
[レーダ送信部100の構成]
レーダ送信部100は、レーダ送信信号生成部101と、位相回転量設定部105と、位相回転部108と、送信アンテナ109と、を有する。
レーダ送信信号生成部101は、レーダ送信信号を生成する。レーダ送信信号生成部101は、例えば、送信信号生成制御部102、変調信号発生部103及びVCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発信器)104を有する。以下、レーダ送信信号生成部101における各構成部について説明する。
送信信号生成制御部102は、例えば、レーダ送信信号の生成を制御する。例えば、送信信号生成制御部102は、レーダ送信信号生成部101におけるレーダ送信信号送信タイミングを制御してよい。図2は、レーダ送信信号生成部101から出力されるレーダ送信信号(例えば、レーダ送信波)の例を示す図である。
送信信号生成制御部102は、例えば、図2に示すように、送信周期Tr毎のタイミング(例えば、「基準タイミング」と呼ぶ)に対して、符号送信周期(詳細は後述する。例えば、Loc×Tr)毎に、レーダ送信信号の送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)を巡回的に設定してよい。送信信号生成制御部102は、例えば、送信遅延dtの設定により、送信周期Tr毎の基準タイミングに対する変調信号発生部103における変調信号の発生タイミングを制御してよい。
変調信号発生部103は、送信信号生成制御部102による発生タイミングの制御に基づいて、例えば、のこぎり歯形状の変調信号を発生させる。
VCO104は、変調信号発生部103から出力される変調信号に基づいて、レーダ送信信号として、周波数変調信号(以下、例えば、周波数チャープ信号又はチャープ信号と呼ぶ)を位相回転部108、及び、レーダ受信部200(後述するミキサ部204)へ出力する。
以上のようなレーダ送信信号生成部101の動作により、例えば、図2に示すように、レーダ送信波は、送信周期Tr毎に、それぞれ設定された送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)の経過後に送信される。よって、レーダ送信波には、例えば、送信周期Tr毎に送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)の何れかが設定される。なお、各送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)の何れかに0が設定されてもよいが、少なくとも一つの送信遅延には0と異なる値が含まれてよい。ここで、レーダ送信周期をTrとする。
なお、送信遅延が正の場合は時間を遅らすことを表す。また、送信遅延は負値によって表されてもよく、送信遅延が負値の場合は時間を進めることを表す。
位相回転量設定部105は、位相回転部108における位相回転量(換言すると、ドップラシフト量及び符号系列に対応する位相回転量、又は、符号化ドップラ多重送信に対応する位相回転量)を設定する。位相回転量設定部105は、例えば、ドップラシフト設定部106と、符号化部107と、を有する。
ドップラシフト設定部106は、例えば、レーダ送信信号(例えば、チャープ信号)に対して付与するドップラシフト量に対応する位相回転量を設定する。
符号化部107は、符号化(又は、符号系列)に対応する位相回転量を設定する。符号化部107は、例えば、ドップラシフト設定部106から出力される位相回転量と符号化に対応する位相回転量とに基づいて、位相回転部108に対する位相回転量を算出し、位相回転部108に出力する。また、符号化部107は、例えば、符号化に用いる符号系列(例えば、直交符号系列の各要素)に関する情報をレーダ受信部200(例えば、出力切替部209)に出力する。
位相回転部108は、VCO104から入力されるチャープ信号に対して、符号化部107から入力される位相回転量を付与し、位相回転後の信号を送信アンテナ109に出力する。例えば、位相回転部108は、位相器及び位相変調器を含む(図示せず)。位相回転部108の出力信号は、規定された送信電力に増幅され各送信アンテナ109から空間に放射される。換言すると、レーダ送信信号は、ドップラシフト量と直交符号系列とに対応する位相回転量が付与されることによって、複数の送信アンテナ109から多重送信される。
次に、位相回転量設定部105における位相回転量の設定方法の一例について説明する。
ドップラシフト設定部106は、ドップラシフト量DOPndmを付与するための位相回転量φndmを設定して、符号化部107へ出力する。ここで、ndm=1,…, NDMである。NDMは、異なるドップラシフト量の設定数であり、以下では、「ドップラ多重数」と呼ぶ。
レーダ装置10では、符号化部107による符号化を併用するため、ドップラ多重数NDMは、多重送信に用いる送信アンテナ109の数Ntよりも少なく設定してよい。なお、ドップラ多重数NDMは2以上とする。
ドップラシフト量DOP
1、DOP
2,..,DOP
N_DM(ただし、「N_DM」はN
DMに相当する)としては、例えば、等間隔のドップラシフト量が設定されてもよく、或いは、不等間隔のドップラシフト量が設定されてもよい。各ドップラシフト量DOP
1、DOP
2,..,DOP
N_DMは、後述する符号化部107による符号化を併用するため、例えば、0≦DOP
1、DOP
2,..,DOP
N_DM<(1/TrL
oc)を満たすように設定されてよい。あるいは、ドップラシフト量DOP
1、DOP
2,..,DOP
N_DMは、例えば、式(1)を満たすように設定されてもよい。
また、例えば、ドップラシフト量DOP
1、DOP
2,..,DOP
N_DM間において最小のドップラシフト間隔Δf
MinIntervalは次式(2)を満たしてよい。なお、ドップラシフト間隔は、ドップラシフト量DOP
1、DOP
2,..,DOP
DMの内の任意の2つのドップラシフト量の差分の絶対値で定義する。ここで、Locは符号要素数を表す(ここで、Locは符号化部107で用いる符号の符号長を表す。詳細は符号化部107の動作説明中に後述する。)
また、各ドップラシフト量DOP
1、DOP
2,..,DOP
DMを付与するための位相回転量φ
ndmは、例えば、次式(3)のように割り当てられる。
なお、間隔が等間隔でΔf
MinIntervalとなるドップラシフト量が設定される場合、ドップラシフト量DOP
ndmを付与するための位相回転量φ
ndmは、例えば、次式(4)のように割り当てられる。
なお、最小ドップラシフト間隔Δf
MinIntervalを狭めるほど、ドップラ多重信号間の干渉が発生しやすくなり、ターゲット検出精度が低減(例えば、劣化)する可能性が高くなるため、式(2)の制約条件を満たす範囲において、ドップラシフト量の間隔をより拡げることが好適になる。例えば、式(2)において等号が成り立つ場合(例えば、Δf
MinInterval=1/(T
rN
DML
OC))は、ドップラ多重信号間のドップラ領域における間隔を最大限に拡げることができる。この場合、ドップラシフト量DOP
1、DOP
2,..,DOP
N_DMは、0以上2π未満の位相回転範囲をN
DM個に等分割して、それぞれ異なる位相回転量が割り当てられる。例えば、ドップラシフト量DOP
ndmを付与するための位相回転量φ
ndmは、次式(5)のように割り当てられる。なお、以下では、角度はラジアン単位で示している。
式(5)において、例えば、ドップラ多重数NDM=2の場合、ドップラシフト量DOP1を付与する位相回転量φ1=0、及び、ドップラシフト量DOP2を付与する位相回転量φ2=πとなる。同様に、式(5)において、例えば、ドップラ多重数NDM=4の場合、ドップラシフト量DOP1を付与する位相回転量φ1=0、ドップラシフト量DOP2を付与する位相回転量φ2=π/2、ドップラシフト量DOP3を付与する位相回転量φ3=π、ドップラシフト量DOP4を付与する位相回転量φ4=3π/2となる。換言すると、各ドップラシフト量DOPndmを付与する位相回転量φndmは等間隔である。
なお、ドップラシフト量DOP1、DOP2,..,DOPN_DMを付与する位相回転量の割り当ては、このような割り当て方法に限定されない。例えば、式(5)に示す位相回転量の割り当てをシフトさせてもよい。例えば、φndm=2π(ndm)/NDMのように位相回転量を割り当ててもよい。または、位相回転量の割り当てテーブルを用いて、ドップラシフト量DOP1、DOP2,..,DOPN_DMに対して位相回転量φ1、φ2,.., φN_DM(ただし、「N_DM」はNDMに相当する)をランダム的に割り当ててもよい。
符号化部107は、ドップラシフト設定部106から出力されるNDM個のドップラシフト量を付与する位相回転量φ1,…,φNDMのそれぞれに対して、1個、又は、NCM個以下の複数の直交符号系列に基づく位相回転量を設定する。また、符号化部107は、ドップラシフト量及び直交符号系列の双方に基づく位相回転量、すなわち、符号化したドップラ多重信号を生成する「符号化ドップラ位相回転量」を設定し、位相回転部108に出力する。
以下、符号化部107における動作の一例について説明する。
例えば、符号化部107は、符号長Locからなる符号数(換言すると、符号多重数)NCM個の直交符号系列を用いる。
以下では、符号長LocからなるNCM個の直交符号系列をCodencm={OCncm(1), OCncm(2),…, OCncm(Loc) }と表記する。OCncm(noc)は第ncm番目の直交符号系列Codencmにおけるnoc番目の符号要素を表す。ここで、nocは符号要素のインデックスであり、noc=1,…,Locである。
符号化部107において用いる直交符号系列は、例えば、互いに直交する(無相関となる)符号である。例えば、直交符号系列は、Walsh-Hadamard-符号でもよい。この場合、符号数N
CM個の直交符号系列を生成する符号長L
OCは、次式(6)で表される。
ここで、ceil[x]は実数x以上の最小の整数を出力する演算子(天井関数)である。
例えば、NCM=2の場合、Walsh-Hadamard-符号の符号長Loc=2であり、直交符号系列は、Code1={1,1}、Code2={1,-1}となる。なお、直交符号系列を構成する符号要素が1の場合、1=exp(j0)より、その位相は0である。また、直交符号系列を構成する符号要素が-1の場合、-1=exp(jπ)より、その位相はπである。
また、例えば、NCM=4の場合、符号長Loc=4であり、直交符号系列は、Code1={1,1, 1, 1}、Code2={1,-1, 1, -1}, Code3={1,1, -1, -1}、及び、Code4={1,-1, -1, 1}となる。
なお、直交符号系列を構成する符号要素には、実数に限らず、複素数値が含まれてもよい。例えば、次式(7)のような直交符号系列Code
ncmが用いられてもよい。ここで、ncm=1,…, N
CMである。この場合、符号数N
CM個の直交符号系列を生成する符号長はLoc=N
CMとなる。
例えば、NCM=3の場合、符号長Loc=3(=NCM)であり、符号化部107は、Code1={1,1,1}、Code2={1, exp(j2π/3) ,exp(j4π/3)}, Code3={1, exp(-j2π/3) ,exp(-j4π/3)}となる直交符号系列を生成する。
また、例えば、NCM=4の場合、符号長Loc=4(=NCM)であり、符号化部107は、Code1={1,1,1, 1}、Code2={1, j,-1 ,-j}, Code3={1,-1,1,-1}, Code4={1, -j,-1 , j}となる直交符号系列を生成する。ここで、jは虚数単位である。
符号化部107において、ドップラシフト設定部106から出力されるndm番目のドップラシフト量DOPndmを用いたドップラ多重信号を符号化する際の符号多重数(以下、符号化ドップラ多重数と呼ぶ)を「NDOP_CODE(ndm)」と表記する。ここで、ndm=1,…, NDMである。
符号化部107は、例えば、ドップラ多重信号を符号化する際の符号化ドップラ多重数N
DOP_CODE(1), N
DOP_CODE(2),…, 及びN
DOP_CODE(N
DM)の総和が、多重送信に用いる送信アンテナ109の数Ntと等しくなるように符号化ドップラ多重数N
DOP_CODE(ndm)を設定する。換言すると、符号化部107は、次式(8)を満たすように、符号化ドップラ多重数N
DOP_CODE(ndm)を設定する。これにより、レーダ装置10は、Nt個の送信アンテナ109を用いてドップラ領域及び符号領域における多重送信(以下、符号化ドップラ多重送信と呼ぶ)が可能となる。
ここで、符号化部107は、例えば、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1), NDOP_CODE(2),…, NDOP_CODE(NDM)に関して、1以上NCM個以下の範囲において異なる符号化ドップラ多重数を含むように設定する。例えば、符号化部107は、符号化ドップラ多重数の全てにおいて符号数NCM個とせずに、少なくとも1つの符号化ドップラ多重数をNCM個より小さく設定する。換言すると、符号化部107は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数を不均一に設定する。この設定により、レーダ装置10は、例えば、後述する受信処理によって、複数の送信アンテナ109から符号化ドップラ多重送信された信号を個別に分離して受信できる。
符号化部107は、第m番目の送信周期Trにおいて、第ndm番目のドップラシフト量DOP
ndmを付与する位相回転量φ
ndmに対して、次式(9)に示す符号化ドップラ位相回転量ψ
ndop_code(ndm), ndm(m)を設定して、位相回転部108に出力する。
ここで、下付き添え字の「ndop_code(ndm)」は、ドップラシフト量DOPndmを付与する位相回転量φndmに対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)以下のインデックスを表す。例えば、ndop_code(ndm)=1,…, NDOP_CODE(ndm)である。また、angle[x]は実数xのラジアン位相を出力する演算子であり、例えば、angle[1]=0、angle[-1]=π、angle[j]=π/2、angle[-j]=-π/2である。また、floor[x]は実数xを超えない最大の整数を出力する演算子である。jは虚数単位である。
例えば、式(9)に示すように、符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)は、符号化に用いる符号長Loc回の送信周期の期間においてドップラシフト量DOPndmを付与する位相回転量を一定(例えば、式(9)の第1項)にし、符号化で用いる符号Code ndop_code(ndm)のLoc個の各符号要素OCndop_code(ndm)(1),…,OCndop_code(ndm)(Loc)の各々に対応する位相回転量を付与する(式(9)の第2項目)。
また、符号化部107は、送信周期(Tr)毎に、直交符号要素インデックスOC_INDEXをレーダ受信部200(後述する出力切替部209)に出力する。OC_INDEXは、直交符号系列Code
ndop_code(ndm)の要素を指示する直交符号要素インデックスであり、送信周期(Tr)毎に、次式(10)のように、1からLocの範囲で巡回的に可変する。
ここで、mod(x, y)はモジュロ演算子であり、xをyで割った後の余りを出力する関数である。また、m=1, …,Ncである。Ncはレーダ測位に用いる送信周期数(以下では、「レーダ送信信号送信回数」と呼ぶ)である。また、レーダ送信信号送信回数Ncは、Locの整数倍(Ncode倍)となるように設定される。例えば、Nc=Loc×Ncodeである。
次に、符号化部107において、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定する方法の一例について説明する。
例えば、符号化部107は、下記の条件を満たす直交符号系列数(換言すると、符号多重数又は符号数)NCMを設定する。例えば、直交符号系列数NCM及びドップラ多重数NDMは、多重送信に用いる送信アンテナ109の数Ntに対して、以下の関係を満たす。
(直交符号系列数NCM)×(ドップラ多重数NDM)>多重送信に用いる送信アンテナ数Nt
例えば、上記条件を満たす直交符号系列数NCM及びドップラ多重数NDMのうち、積(NCM×NDM)の値がより小さい組み合わせを用いることが、特性的にも、回路構成の複雑度的にもより好適である。ただし、上記条件を満たす直交符号系列数NCM及びドップラ多重数NDMのうち、積(NCM×NDM)の値がより小さい組み合わせに限定されず、他の組み合わせも適用が可能である。
例えば、Nt=3の場合、NDM=2及びNCM=2の組み合わせが好適である。
この場合、ドップラシフト量DOP1、DOP2及び直交符号Code1、Code2の割り当ては、例えば、図3に示すように、NDOP_CODE(1), NDOP_CODE(2)の設定に応じて決定される。なお、図3において、「〇」は使用されるドップラシフト量と直交符号を表し、「×」は使用されないドップラシフト量と直交符号を表す(以下の説明においても同様である)。
例えば、図3(a)は、NDOP_CODE(1)=2、NDOP_CODE(2)=1の例を示し、図3(b)は、NDOP_CODE(1)=1、NDOP_CODE(2)=2の例を示す。
なお、図3では、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)=1に対応するドップラシフト量(例えば、図3(a)ではDOP2、図3(b)ではDOP1)においてCode1が使用されるが、これに限定されない。例えば、NDOP_CODE(1)<NCM、又は、NDOP_CODE(2)<NCMの場合、図4に示すように、NDOP_CODE(ndm)=1に対応するドップラシフト量(例えば、図4(a)ではDOP2、図4(b)ではDOP1)において、Code1の代わりにCode2が使用されてもよい。
また、例えば、Nt=4又は5の場合、NDM=3とNCM=2の組み合わせ、又は、NDM=2とNCM=3の組み合わせが好適である。
図5は、一例として、Nt=4、NDM=3、NCM=2の場合を示す。例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3、及び、直交符号Code1及びCode2の割り当ては、図5に示すように、NDOP_CODE(1)、NDOP_CODE(2)及びNDOP_CODE(3)の設定に応じて決定される。
例えば、図5(a)は、NDOP_CODE(1)=2、NDOP_CODE(2)=1、NDOP_CODE(3)=1の例を示し、図5(b)は、NDOP_CODE(1)=1、NDOP_CODE(2)=2、NDOP_CODE(3)=1の例を示し、図5(c)は、NDOP_CODE(1)=1、NDOP_CODE(2)=1、NDOP_CODE(3)=2の例を示す。
なお、図5では、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)=1に対応するドップラシフト量においてCode1が使用されるが、これに限定されない。例えば、符号化ドップラ多重数がNCMより小さい設定の場合、図6(a)に示すように、Code1の代わりにCode2が使用されてもよく、図6(b)又は図6(c)に示すように、Code1及びCode2を混在させてもよい。
図7は、他の例として、Nt=4、NDM=2、NCM=3の場合を示す。例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP2、及び、直交符号Code1、Code2、Code3の割り当ては、図7に示すように、NDOP_CODE(1)、NDOP_CODE(2)の設定に応じて決定される。
例えば、図7(a)は、NDOP_CODE(1)=3、NDOP_CODE(2)=1の例を示し、図7(b)は、NDOP_CODE(1)=1、NDOP_CODE(2)=3の例を示す。
なお、図7では、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)=1に対応するドップラシフト量においてCode1が使用されるが、これに限定されない。例えば、NDOP_CODE(1)<NCM又はNDOP_CODE(2)<NCMの場合、図8(a)に示すように、Code1の代わりにCode2が使用されてもよく、図8(b)に示すように、Code1の代わりにCode3が使用されもよい。
なお、例えば、Nt=4、NDM=2、NCM=3の場合に、仮に、図9に示すようにNDOP_CODE(1)=2、NDOP_CODE(2)=2に設定されると、各ドップラシフト量DOP1及びDOP2において符号化ドップラ多重数NDOP_CODEが均一となる。このような設定の場合、例えば、図9(a)に示すように各ドップラシフト量DOP1、DOP2に対して同一の符号(例えば、Code1及びCode2)を割り当てる場合、又は、図9(b)に示すように各ドップラシフト量DOP1、DOP2に対して異なる符号を割り当てる場合が想定される。図9(a)及び図9(b)の何れにおいても、ドップラ周波数範囲が1アンテナ送信時における最大ドップラ速度と比較して、1/NCMの範囲内のドップラ周波数範囲であれば、レーダ装置10は、複数の送信アンテナ109から符号化ドップラ多重送信された信号を識別できる。
一方、本実施の形態では、例えば、Nt=4、NDM=2、NCM=3の場合に、図7に示すようにNDOP_CODE(1)=3とNDOP_CODE(2)=1、又は、NDOP_CODE(1)=1とNDOP_CODE(2)=3のように、各ドップラシフト量DOP1及びDOP2において符号化ドップラ多重数NDOP_CODEが不均一に設定される。このような設定の場合、ドップラ周波数範囲は、例えば、1アンテナ送信時における最大ドップラ速度と同等とすることができる(詳細は後述する)。
また、例えば、Nt=6又は7の場合、NDM=4とNCM=2の組み合わせ、又は、NDM=2とNCM=4の組み合わせが好適である。
図10は、一例として、Nt=6、NDM=4、NCM=2の場合を示す。例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3、DOP4、及び、直交符号Code1及びCode2の割り当ては、図10に示すように、NDOP_CODE(1)、NDOP_CODE(2)、NDOP_CODE(3)及びNDOP_CODE(4)の設定に応じて決定される。
例えば、図10(a)は、NDOP_CODE(1)=NDOP_CODE(2)=2、NDOP_CODE(3)=NDOP_CODE(4)=1の例を示し、図10(b)は、NDOP_CODE(1)=NDOP_CODE(3)=2、NDOP_CODE(2)=NDOP_CODE(4)=1の例を示す。
なお、図10では、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)=1に対応するドップラシフト量においてCode1が使用されるが、これに限定されない。例えば、符号化ドップラ多重数がNCMより小さい設定の場合、図11(a)に示すように、Code1の代わりにCode2が使用されてもよく、図11(b)に示すように、Code1及びCode2を混在させてもよい。
また、例えば、図10に示すように、Nt=6、NDM=4、NCM=2の場合、全ての符号を用いないドップラシフト量は2つある。また、例えば、NDM=4のうち、全ての符号を用いないドップラシフト量の組み合わせについて、4つのドップラシフト量から2つのドップラシフト量を選択する組み合わせは6通り(=4C2)あり、それぞれの組み合わせにおいて、使用する符号の組み合わせは4通り(=NCM×NCM)ある。このため、Nt=6、NDM=4、NCM=2の場合、ドップラシフト量DOP及び直交符号Codeの割り当ての組み合わせは、全24通りとなる。
以下、同様に、例えば、Nt=8の場合、NDM=3とNCM=3の組み合わせ、又は、NDM=5とNCM=2の組み合わせが好適である。また、例えば、Nt=9の場合、NDM=5とNCM=2の組み合わせが好適である。また、例えば、Nt=10の場合、NDM=6とNCM=2、又は、NDM=4とNCM=3の組み合わせが好適である。また、例えば、Nt=12の場合、NDM=5とNCM=3、又は、NDM=4とNCM=4の組み合わせが好適である。なお、送信アンテナ109の数Ntは、上記例に限定されず、本開示の一実施例を適用できる。
次に、符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)の設定例について説明する。
例えば、符号化部107において、多重送信に用いる送信アンテナ数Nt=3、ドップラ多重数N
DM=2、N
CM=2とし、符号長Loc=2の直交符号系列Code
1={1,1}、Code
2={1,-1}を用いる場合について説明する。この場合、例えば、符号化ドップラ多重数をN
DOP_CODE(1)=1、N
DOP_CODE(2)=2とすると、符号化部107は、次式(11)~(13)のような符号化ドップラ位相回転量ψ
1, 1(m), ψ
1, 2(m), ψ
2, 2(m)を設定して、位相回転部108に出力する。
ここで、一例として、ドップラシフト量DOP
ndmを付与する位相回転量を式(5)のφ
ndm=2π(ndm-1)/N
DMとし、ドップラシフト量DOP
1を付与する位相回転量φ
1=0、及び、ドップラシフト量DOP
2を付与する位相回転量φ
2=πを用いる場合、符号化部107は、次式(14)~(16)のような符号化ドップラ位相回転量ψ
1, 1(m), ψ
1, 2(m), ψ
2, 2(m)を設定して、位相回転部108に出力する。ここで、m=1, …, Ncである。なお、ここでは、2πによるモジュロ演算を行い、0以上2π未満のラジアンの範囲で記載している(以降の説明についても同様である)。
式(14)~(16)に示すように、位相回転量が、2πを等分割したφndm=2π(ndm-1)/NDMに設定される場合、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(m), ψ1, 2(m), ψ2, 2(m)は、NDM×NCM=2×2=4の送信周期で変化する。
または、他の例として、ドップラシフト量DOP
ndmを付与する位相回転量をφ
ndm=2π(ndm)/N
DMとし、ドップラシフト量DOP
1を付与する位相回転量φ
1=π、及び、ドップラシフト量DOP
2を付与する位相回転量φ
2=0としてもよい。この場合、符号化部107は、次式(17)~(19)のような符号化ドップラ位相回転量ψ
1, 1(m), ψ
1, 2(m), ψ
2, 2(m)を設定して、位相回転部108に出力する。ここで、m=1, …, Ncである。
また、式(14)~(16)又は式(17)~(19)に示すように、位相回転量(例えば、ドップラシフト量を付与する位相回転量)に用いる位相数(例えば、0及びπの2つ)は、多重送信に用いる送信アンテナ109の数Nt=3よりも少ない。換言すると、式(14)~(16)又は式(17)~(19)に示すように、ドップラシフト量を付与する位相回転量に用いる位相数(例えば、0及びπの2つ)は、多重送信に用いるドップラシフト量の数(換言すると、ドップラ多重数)NDM=2に等しい。
また、例えば、符号化部107において、多重送信に用いる送信アンテナ数Nt=6、ドップラ多重数N
DM=4、N
CM=2とし、符号長Loc=2の直交符号系列Code
1={1,1}、Code
2={1,-1}を用いる場合について説明する。この場合、例えば、符号化ドップラ多重数をN
DOP_CODE(1)=1、N
DOP_CODE(2)=1、N
DOP_CODE(3)=2、N
DOP_CODE(4)=2とすると、符号化部107は、次式(20)~(25)のような符号化ドップラ位相回転量ψ
1, 1(m), ψ
1, 2(m), ψ
1, 3(m) , ψ
2, 3(m) , ψ
1, 4(m) , ψ
2, 4(m)を設定して、位相回転部108に出力する。ここで、m=1, …, Ncである。
ここで、一例として、ドップラシフト量DOP
ndmを付与する位相回転量をφ
ndm=2π(ndm-1) /N
DMとし、ドップラシフト量DOP
1を付与する位相回転量φ
1=0、ドップラシフト量DOP
2を付与する位相回転量φ
2=π/2、ドップラシフト量DOP
3を付与する位相回転量φ
3=π、ドップラシフト量DOP
4を付与する位相回転量φ
4=3π/2を用いる場合、符号化部107は、次式(26)~(31)のような符号化ドップラ位相回転量ψ
1, 1(m), ψ
1, 2(m), ψ
1, 3(m) , ψ
2, 3(m) , ψ
1, 4(m) , ψ
2, 4(m)を設定して、位相回転部108に出力する。ここで、m=1, …, Ncである。
式(26)~式(31)に示すように、位相回転量が、2πを等分割したφndm=2π(ndm-1)/NDMに設定される場合、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(m), ψ1, 2(m), ψ1, 3(m) , ψ2, 3(m) , ψ1, 4(m) , ψ2, 4(m)は、NDM×NCM=4×2=8の送信周期で変化する。
また、式(26)~(31)に示すように、位相回転量(例えば、ドップラシフト量を付与する位相回転量)に用いる位相数(例えば、0、π/2、π、及び、3π/2の4つ)は、多重送信に用いる送信アンテナ109の数Nt=6よりも少ない。換言すると、式(26)~(31)に示すように、ドップラシフト量を付与する位相回転量に用いる位相数(例えば、0、π/2、π、及び、3π/2の4つ)は、多重送信に用いるドップラシフト量の数(換言すると、ドップラ多重数)NDM=4に等しい。
なお、ここでは、一例として、送信アンテナ109の数Nt=3、ドップラ多重数NDM=2の場合、及び、送信アンテナ109の数Nt=6、ドップラ多重数NDM=4の場合における位相回転量の設定についてそれぞれ説明したが、送信アンテナ109の数Nt及びドップラ多重数NDMは、これらの値に限定されない。例えば、送信アンテナ109の数Ntが何れの値でも、位相回転量に用いる位相数は、多重送信に用いる送信アンテナ109の数Ntよりも少なく設定されてよい。また、ドップラシフト量を付与する位相回転量に用いる位相数は、多重送信に用いるドップラシフト量の数NDMに等しくしてよい。
以上、位相回転量設定部105における位相回転量の設定方法について説明した。
図1において、位相回転部108は、位相回転量設定部105において設定された符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)に基づいて、レーダ送信信号生成部101から出力されるチャープ信号に対して、送信周期Tr毎に位相回転量を付与する。ここで、ndm=1,…, NDMであり、ndop_code(ndm)=1,…, NDOP_CODE(ndm)である。
符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1), NDOP_CODE(2),…,NDOP_CODE(NDM)の総和は、送信アンテナ109の数Ntに等しく設定され、Nt個の符号化ドップラ位相回転量はNt個の位相回転部108にそれぞれ入力される。
Nt個の位相回転部108は、送信周期Tr毎に、レーダ送信信号生成部101から出力されるチャープ信号に対して、入力された符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)をそれぞれ付与する。Nt個の位相回転部108からの出力(例えば、符号化ドップラ多重信号と呼ぶ)は、規定された送信電力に増幅後に、送信アレーアンテナ部のNt個の送信アンテナ109から空間に放射される。
なお、以下では、符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を付与する位相回転部108を、「位相回転部PROT#[ndop_code(ndm), ndm]」と表記する。同様に、位相回転部PROT#[ndop_code(ndm), ndm]の出力を空間に放射する送信アンテナ109を、「送信アンテナTx#[ndop_code(ndm), ndm]」と表記する。ここで、ndm=1,…, NDMであり、ndop_code(ndm)=1,…, NDOP_CODE(ndm)である。
例えば、多重送信に用いる送信アンテナ数Nt=3の場合に、ドップラ多重数NDM=2、NCM=2とし、符号長Loc=2の直交符号系列Code1={1,1}、Code2={1,-1}とし、符号化ドップラ多重数をNDOP_CODE(1)=1, NDOP_CODE(2)=2とする場合について説明する。この場合、符号化部107から位相回転部108に対して、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(m), ψ1, 2(m), ψ2, 2(m)が送信周期毎に出力される。
例えば、位相回転部PROT#[1, 1]は、レーダ送信信号生成部101で送信周期毎に生成されたチャープ信号に対して、送信周期毎に次式(32)のように位相回転量ψ
1, 1(m)を付与する。また、位相回転部PROT#[1, 1]の出力は、送信アンテナTx#[1, 1]から出力される。ここでcp(t)は送信周期毎のチャープ信号を表す。
同様に、位相回転部PROT#[1, 2]は、レーダ送信信号生成部101で送信周期毎に生成されたチャープ信号に対して、送信周期毎に次式(33)のように位相回転量ψ
1, 2(m)を付与する。また、位相回転部PROT#[1, 2]の出力は、送信アンテナTx#[1, 2]から出力される。
同様に、位相回転部PROT#[2, 2]は、レーダ送信信号生成部101で送信周期毎に生成されたチャープ信号に対して、送信周期毎に次式(34)のように位相回転量ψ
2, 2(m)を付与する。また、位相回転部PROT#[2, 2]の出力は、送信アンテナTx#[2, 2]から出力される。
以上、符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)の設定例について説明した。
このように、本実施の形態では、複数の送信アンテナ109に対して、ドップラシフト量DOPndm及び直交符号系列Codencmの少なくとも一方が異なる組み合わせ(換言すると、割り当て)がそれぞれ対応付けられる。また、本実施の形態では、ドップラシフト量DOPndmと直交符号系列Codencmとの組み合わせにおける各ドップラシフト量DOPndmに対応する直交符号系列Codencmの多重数(換言すると、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm))は異なる。
例えば、本実施の形態では、Nt個の送信アンテナ109には、図3に示すように、少なくとも、異なる直交符号系列によって符号多重される送信信号がそれぞれ送信される複数の送信アンテナ109と、符号多重されない送信信号が送信される少なくとも1つの送信アンテナ109と、が含まれる。換言すると、レーダ送信部100から送信されるレーダ送信信号には、少なくとも、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を符号数NCMに設定した符号化ドップラ多重信号と、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を符号数NCMより小さく設定した符号化ドップラ多重信号と、が含まれる。
[レーダ受信部200の構成]
図1において、レーダ受信部200は、Na個の受信アンテナ202を備え、アレーアンテナを構成する。また、レーダ受信部200は、Na個のアンテナ系統処理部201-1~201-Naと、CFAR(Constant False Alarm Rate)部211と、符号化ドップラ多重分離部212と、方向推定部213と、を有する。
各受信アンテナ202は、物標(ターゲット)に反射したレーダ送信信号である反射波信号を受信し、受信した反射波信号を、対応するアンテナ系統処理部201へ受信信号として出力する。
各アンテナ系統処理部201は、受信無線部203と、信号処理部206とを有する。
受信無線部203は、ミキサ部204と、LPF(low pass filter)205と、を有する。受信無線部203は、ミキサ部204において、受信した反射波信号に対して、レーダ送信信号生成部101から入力される、送信信号であるチャープ信号をミキシングし、LPF205を通過させる。これにより、反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が取り出される。例えば、図12に示すように、送信チャープ信号(送信周波数変調波)の周波数と、受信チャープ信号(受信周波数変調波)の周波数との差分周波数がビート周波数として得られる。
各アンテナ系統処理部201-z(ただし、z=1~Naの何れか)の信号処理部206は、AD変換部207と、ビート周波数解析部208と、出力切替部209と、ドップラ解析部210と、を有する。
LPF205から出力された信号(例えば、ビート信号)は、信号処理部206において、AD変換部207によって、離散的にサンプリングされた離散サンプルデータに変換される。
ビート周波数解析部208は、送信周期Tr毎に、規定された時間範囲(レンジゲート)において得られたNdata個の離散サンプルデータをFFT処理する。なお、ビート周波数解析部208は、例えば、送信遅延が含まれる送信周期では、送信遅延分をシフトしたレンジゲートにおいて得られたNdata個の離散サンプルデータをFFT処理する。これにより、信号処理部206では、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。換言すると、送信遅延の有無によらず反射物の距離に相当するビート周波数が検出されることになる。なお、FFT処理の際、ビート周波数解析部208は、例えば、Han窓又はHamming窓といった窓関数係数を乗算してもよい。窓関数係数を用いることにより、ビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
ここで、第m番目のチャープパルス送信によって得られる第z番目の信号処理部206におけるビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答をRFTz(fb, m)で表す。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、FFTのインデックス(ビン番号)に対応する。例えば、fb=0,…,(Ndata/2)-1であり、z=1,…,Naであり、m=1,…,NCである。ビート周波数インデックスfbが小さいほど、反射波信号の遅延時間が小さい(換言すると、物標との距離が近い)ビート周波数を示す。
また、ビート周波数インデックスf
bは、次式(35)を用いて距離情報R(f
b)に変換できる。そのため、以下では、ビート周波数インデックスf
bを「距離インデックスf
b」と呼ぶ。
ここで、Bwは、チャープ信号におけるレンジゲート内での周波数変調帯域幅を表し、C0は光速度を表す。
出力切替部209は、位相回転量設定部105の符号化部107から出力される直交符号要素インデックスOC_INDEXに基づいて、送信周期毎のビート周波数解析部208の出力を、Loc個のドップラ解析部210のうち、OC_INDEX番目のドップラ解析部210に選択的に切り替えて出力する。換言すると、出力切替部209は、第m番目の送信周期Trにおいて、OC_INDEX番目のドップラ解析部210を選択する。
信号処理部206は、Loc個のドップラ解析部210-1~210-Locを有する。例えば、第noc番目のドップラ解析部210には、出力切替部209によってLoc回の送信周期(Loc×Tr)毎にデータが入力される。このため、第noc番目のドップラ解析部210は、Nc回の送信周期のうち、Ncode回の送信周期のデータ(例えば、ビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答RFTz(fb, m))を用いて、距離インデックスfb毎にドップラ解析を行う。ここで、nocは符号要素のインデックスであり、noc=1, …, Locである。
例えば、Ncodeが2のべき乗値である場合、ドップラ解析においてFFT処理を適用できる。この場合、FFTサイズはNcodeであり、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しない最大ドップラ周波数は±1/(2Loc×Tr)である。また、ドップラ周波数インデックスfsのドップラ周波数間隔は1/(Ncode×Loc×Tr)であり、ドップラ周波数インデックスfsの範囲はfs = -Ncode/2, …, 0, …, Ncode/2-1である。
以下では、一例として、Ncodeが2のべき乗値である場合について説明する。なお、Ncodeが2のべき乗でない場合には、例えば、ゼロ埋めしたデータを含めることで2のべき乗個のデータサイズ(FFTサイズ)としてFFT処理が可能である。また、ドップラ解析部210は、FFT処理の際に、Han窓又はHamming窓といった窓関数係数を乗算してもよい。窓関数を適用することでビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
例えば、第z番目の信号処理部206のドップラ解析部210の出力VFT
z
noc(f
b, f
s)は、次式(36)に示される。なお、jは虚数単位であり、z=1~Naである。
以上、信号処理部206の各構成部における処理について説明した。
図1において、CFAR部211は、第1~第Na番目の信号処理部206それぞれのLoc個のドップラ解析部210の出力を用いて、CFAR処理(換言すると、適応的な閾値判定)を行い、ピーク信号を与える距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_cfarを抽出する。
CFAR部211は、例えば、次式(37)のように、第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部210の出力VFT
z
noc(f
b, f
s)を電力加算し、距離軸とドップラ周波数軸(相対速度に相当)とからなる2次元のCFAR処理、又は、1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理を行う。2次元のCFAR処理又は1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理については、例えば、非特許文献2に開示された処理が適用されてよい。
CFAR部211は、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となる距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfs_cfar、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar, fs_cfar)を符号化ドップラ多重分離部212に出力する。
なお、ドップラシフト量DOPndmを付与するための位相回転量φndmとして、例えば、式(5)を用いる場合、ドップラ解析部210からの出力におけるドップラ周波数領域のドップラシフト量の間隔は等間隔となり、ドップラ周波数インデックスの間隔でドップラシフト量の間隔ΔFDを表すと、ΔFD=Ncode/NDMとなる。そのため、ドップラ解析部210からの出力において、ドップラ周波数領域では、ドップラシフト多重される各信号に対して、ΔFDの間隔でピークがそれぞれ検出される。なお、位相回転量φndmとして、式(5)を用いる場合、Ncode及びNDMによってはΔFDが整数とならない場合がある。そのようなの場合には、後述する式(61)を用いることにより、ΔFDを整数値とすることができる。以下ではΔFDが整数値として受信処理動作の説明を行う。
図13(a)は、NDM=2の場合に3つのターゲットの反射波が存在する距離におけるドップラ解析部210の出力の一例を示す。例えば、図13(a)に示すように、3つのターゲットの反射波がドップラ周波数インデックスf1、f2及びf3で観測される場合、当該反射波は、f1、f2及びf3それぞれに対して、ΔFDの間隔のドップラ周波数インデックス(例えば、f1-ΔFD、f2-ΔFD、f3-ΔFD+Ncode)においても観測される。
したがって、CFAR部211は、ドップラ解析部210の各出力に対して、ドップラシフト量の間隔ΔFDの範囲で分割し、分割した各範囲に対して、次式(38)に示すように、ドップラシフト多重した各信号ピーク位置を合わせて電力加算(例えば、「ドップラ領域圧縮」と呼ぶ)した後に、CFAR処理(例えば、「ドップラ領域圧縮CFAR処理」と呼ぶ)を行ってよい。ここで、f
s_comp=-ΔFD/2,…,ΔFD/2-1=-Ncode/(2N
DM),…,-Ncode/(2N
DM)-1である。
ただし、式(38)において、fs_comp+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD < -Ncode/2の場合、Ncodeを加えたドップラ周波数インデックスを用いる。同様に、式(38)において、fs_comp+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD > (Ncode/2)-1の場合、更に、Ncodeを減算したドップラ周波数インデックスを用いる。
これにより、CFAR処理のドップラ周波数範囲を1/NDMに圧縮でき、CFAR処理量を削減でき、かつ、回路構成の簡易化を図ることができる。また、CFAR部211では、NDM個のドップラシフト多重した各信号を電力加算できるため、SNR(Signal to Noise Ratio)を(NDM)1/2程度改善でき、レーダ装置10におけるレーダ検知性能を向上できる。
図13(b)は、図13(a)で示したドップラ解析部210の出力に対して、式(38)に示すドップラ領域圧縮処理を適用後の出力例を示す。図13(b)に示すように、NDM=2の場合、CFAR部211は、ドップラ領域圧縮処理によって、ドップラ周波数インデックスf1の電力成分と、f1-ΔFDの電力成分とを加算して出力する。同様に、図13(b)に示すように、CFAR部211は、ドップラ周波数インデックスf2の電力成分と、f2-ΔFDの電力成分とを加算して出力する。また、ドップラ周波数インデックスf3の電力成分は、f3-ΔFDが-Ncode/2よりも小さいため、CFAR部211は、ドップラ周波数インデックスf3の電力成分と、f3-ΔFD+Ncode(例えば、NDM=2の場合はf3+ΔFD)の電力成分とを加算して出力する。
ドップラ領域圧縮の結果、ドップラ周波数領域においてドップラ周波数インデックスfs_compの範囲は、-ΔFD/2以上,…,ΔFD/2-1以下(ΔFD=Ncode/NDM の場合、-Ncode/(2NDM)以上,…, Ncode/(2NDM)-1以下)に削減され、CFAR処理の範囲が圧縮されるので、CFAR処理の演算量を低減できる。また、図13において、例えば、3つのターゲットからの反射波は電力加算されるため信号成分のSNRが向上する。なお、ノイズ成分も電力合成されるため、SNRの改善効果は、例えば、(NDM)1/2程度の改善となる。
ドップラ領域圧縮CFAR処理を用いたCFAR部211は、例えば、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となる距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfs_comp_cfar、及び、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力情報PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)、nfd=1,…,NDMを符号化ドップラ多重分離部212に出力する。
なお、ドップラシフト量DOPndmを付与するための位相回転量φndmは、式(5)に限定されない。例えば、ドップラシフト多重した各信号が、ドップラ解析部210から出力されるドップラ周波数領域において一定の間隔でそれぞれピークが検出される位相回転量φndmであれば、CFAR処理部211は、ドップラ領域圧縮CFAR処理を適用できる。
次に、図1に示す符号化ドップラ多重分離部212の動作例について説明する。なお、以下では、CFAR部211において、ドップラ領域圧縮CFAR処理を用いた場合の符号化ドップラ多重分離部212の処理の一例について説明する。
符号化ドップラ多重分離部212は、CFAR部211の出力である距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfs_comp_cfar、及び、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力情報PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)、nfd=1,…,NDMに基づいて、ドップラ解析部210の出力を用いて、符号化ドップラ多重送信された信号を分離し、送信アンテナ109の判別(換言すると、判定又は識別とも呼ぶ)、及び、ドップラ周波数(換言すると、ドップラ速度又は相対速度)の判別を行う。
上述したように、位相回転量設定部105の符号化部107は、例えば、NDM個の符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1), NDOP_CODE(2),…, NDOP_CODE(NDM)の全てをNCM個に設定せず、少なくとも1つの符号化ドップラ多重数をNCM個より小さい値に設定する。例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、(1)符号分離処理を行い、符号化ドップラ多重数をNCM個より小さく設定した符号化ドップラ多重信号を検出し(換言すると、多重送信に用いない未使用の符号化ドップラ多重信号を検出し)、折り返し判定を行う。その後、符号化ドップラ多重分離部212は、(2)折り返し判定結果に基づいて、多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号のドップラ符号分離処理を行う。
以下、上述した符号化ドップラ多重分離部212における処理(1)及び(2)についてそれぞれ説明する。
<(1)折り返し判定処理(未使用の符号化ドップラ多重信号の検出処理)>
符号化ドップラ多重分離部212は、例えば、想定するターゲットのドップラ範囲を±1/Trとしてドップラ折り返し判定処理を行う。
ここで、例えば、Ncodeが2のべき乗値である場合、ドップラ解析部210は、符号要素毎にFFT処理を適用するので、(Loc×Tr)周期で、ビート周波数解析部208からの出力を用いてFFT処理を行う。このため、ドップラ解析部210においてサンプリング定理によって折り返しが発生しないドップラ範囲は±1/(2Loc×Tr)である。このドップラ範囲±1/(2Loc×Tr)を、さらにドップラ多重数NDMを用いてドップラ多重を行うため、符号化ドップラ多重分離部212は、ドップラ多重による折り返しが発生しないドップラ範囲±1/(2Loc×NDM×Tr)に対し、2Loc×NDM倍のドップラ範囲±1/Trまでを想定して折り返し判定処理を行う。
ここでは、一例として、Nt=3で、ドップラ多重数NDM=2、符号多重数NCM=2を用いる場合について説明する。ここで、ドップラシフト量DOPndmを付与するための位相回転量φndmは、一例として、式(5)のように割り当てられる。この場合、ドップラシフト量DOP1を付与する位相回転量φ1=0、及び、ドップラシフト量DOP2を付与する位相回転量φ2=πとなる。また、符号化部107は、符号長Loc=2のWalsh-Hadamard符号のうち、2個の直交符号Code1={1,1}、Code2={1,-1}を用いる。また、図3(a)に示すように、NDOP_CODE(1)=2、NDOP_CODE(2)=1を用いる。
この場合、符号化ドップラ多重分離部212は、符号化ドップラ多重による折り返しが発生しないドップラ範囲±1/(2Loc×NDM×Tr)=±1/(8Tr)に対し、8倍(=2Loc×NDM倍)のドップラ範囲±1/Trまでを想定して折り返し判定処理を行う。
ここで、CFAR部211において抽出される距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_comp_cfarに対応するドップラ解析部210の出力であるドップラ成分VFTz
noc(fb_cfar,fs_comp_cfar)には、例えば、±1/Trのドップラ範囲において、図14における(a)及び(b)に示すような折り返しを含むドップラ成分が含まれる可能性がある。
例えば、図14における(a)に示すように、fs_comp_cfar<0の場合、±1/Trのドップラ範囲において、fs_comp_cfar-3Ncode/NDM、fs_comp_cfar-2Ncode/NDM、fs_comp_cfar-Ncode/NDM、fs_comp_cfar、fs_comp_cfar+Ncode/NDM、fs_comp_cfar +2Ncode/NDM、fs_comp_cfar +3Ncode/NDM、及び、fs_comp_cfar +4Ncode/NDMの8(=2Loc×NDM)通りのドップラ成分の可能性がある。
また、例えば、図14における(b)に示すように、fs_cfar>0の場合、±1/Trのドップラ範囲において、fs_comp_cfar -4Ncode/NDM、fs_comp_cfar -3Ncode/NDM、fs_comp_cfar -2Ncode/NDM、fs_comp_cfar-Ncode/NDM、fs_comp_cfar、fs_comp_cfar +Ncode/NDM、fs_comp_cfar+2Ncode/NDM、及び、fs_comp_cfar +3Ncode/NDMの8(=2Loc×NDM)通りのドップラ成分の可能性がある。fs_comp_cfar に対し、これらの可能性のあるドップラ成分(8(=2Loc×NDM)通り)をfs_comp_cfarに対する「ドップラ成分候補」と呼ぶ。以下では、このような8(=2Loc×NDM)通りのドップラ成分候補が存在する各ドップラ領域に対し、図14に示すようなドップラ折り返し範囲を示すインデックス「Dr」を用いて表記する。Drはドップラ折り返し範囲を示すインデックスであり、例えば、Dr∈{-LOCNDM,…, LOCNDM-1}の範囲の整数値を用いる。図14において、Dr=-4,…,3である。なお、Dr=0はドップラ折り返しがない領域であり、Dr≠0の領域はドップラ折り返しが発生する領域であることを示す。Drの絶対値が大きいほどDr=0で示すドップラ領域から離れたドップラ領域であることを示す。
符号化ドップラ多重分離部212は、図14に示すような±1/Trのドップラ範囲において、折り返しを含む8(=2Loc×NDM)通りのドップラ成分に対応した位相変化を補正して、符号化ドップラ多重数をNCM個より小さく設定した符号化ドップラ多重信号(換言すると未使用の符号化ドップラ多重信号)の符号化ドップラ多重分離処理を行う。
そして、符号化ドップラ多重分離部212は、未使用の符号化ドップラ多重信号を符号化ドップラ多重分離処理して得られた成分の受信電力に基づいて、各ドップラ成分候補について真のドップラ成分か否かを判定する。
例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、fs_comp_cfarに対するドップラ成分候補のうち、未使用の符号化ドップラ多重信号を符号化ドップラ多重分離処理して得られた成分の受信電力が最小のドップラ成分を検出し、検出したドップラ成分を真のドップラ成分と判定してよい。換言すると、符号化ドップラ多重分離部212は、fs_comp_cfarに対するドップラ成分候補のうち、最小の受信電力と異なる他の受信電力のドップラ成分を偽のドップラ成分と判定してよい。
この折り返し判定処理により、±1/Trのドップラ範囲における曖昧性を解決できる。また、この折り返し判定処理により、ドップラ多重による折り返しが発生しないドップラ範囲±1/(2Loc×NDM×Tr)=±1/(8Tr)と比較して、曖昧性なくドップラ周波数を検出できる範囲を、-1/(Tr)以上、かつ、1/(Tr)未満の範囲に拡大できる。
これは、未使用の符号化ドップラ多重信号に基づいて符号化ドップラ多重分離することにより、例えば、真のドップラ成分については、当該ドップラ成分の位相変化が正しく補正され、多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号と未使用の符号化ドップラ多重信号との間の直交性が維持される。よって、多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号符号と未使用の符号化ドップラ多重信号とは無相関となり、受信電力はノイズレベル程度となる。
一方、例えば、偽のドップラ成分については、当該ドップラ成分の位相変化が誤って補正され、多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号と未使用の符号化ドップラ多重信号との間の直交性は維持されない。よって、多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号符号と未使用の符号化ドップラ多重信号と相関成分(干渉成分)が発生し、例えば、ノイズレベルよりも大きい受信電力が検出され得る。よって、上述したように、符号化ドップラ多重分離部212は、未使用の符号化ドップラ多重信号に基づいて符号化ドップラ多重分離されたfs_comp_cfarに対するドップラ成分候補のうち、受信電力が最小のドップラ成分を真のドップラ成分と判定し、最小の受信電力と異なる受信電力の他のドップラ成分を偽のドップラ成分であると判定してよい。
例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、各アンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の出力に基づいて、fs_comp_cfarに対するドップラ成分候補の各ドップラ成分に応じた位相変化を補正し、未使用の符号化ドップラ多重信号を用いた符号分離後の受信電力PDAR(fb_cfar,fs_comp_cfar,Dr, nuc,nud)を、式(39)に従って算出する。
ここで、nuc,nudは未使用の符号化ドップラ多重信号となる直交符号のインデックスとドップラ多重信号のインデックスを表す。例えば、図3(b)の場合は、未使用の符号化ドップラ多重信号は、図中の×印で示されており、Code2が符号割り当てられ、Dop1のドップラシフト量が割り当てられている。従って、未使用の符号化ドップラ多重信号が割り当てられている直交符号のインデックスnuc=2, nud=2となる。
以下では、符号化ドップラ多重信号に用いられる直交符号のインデックスとドップラ多重信号のインデックスの組を「DCI(直交符号のインデックス, ドップラ多重信号のインデックス)」として記載する。図3(b)の場合は、DCI(nuc,nud)が未使用の符号化ドップラ多重信号が割り当てられている直交符号のインデックスとドップラ多重信号のインデックスを表す。同様に、例えば、図5(a)の場合は、未使用の符号化ドップラ多重信号はDCI(2, 2)とDCI(2,3)に割り当てられている。また、例えば、図6(c)の場合は、未使用の符号化ドップラ多重信号はDCI(1,3)とDCI(2,3)に割り当てられている。
ここで、Y
z(f
b_cfar,f
s_comp_cfar,D
r, nuc,nud)は、次式(40)のようにz番目のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の出力に基づいて、f
s_comp_cfarに対するドップラ成分候補の各ドップラ成分に応じた位相変化を補正し、DCI(nuc,nud)が割り当てられている未使用の符号化ドップラ多重信号を分離した後の受信信号である。
式(39)及び式(40)では、DCI(nuc,nud)が割り当てられた未使用の符号化ドップラ多重信号を分離するため、z番目のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の出力VFTALLz(fb_cfar,fs_comp_cfar,Dr, nud)に対して、未使用直交符号Codenucを用いた符号分離後の受信電力が算出され、全てのアンテナ系統処理部に対し、それらの電力の総和が算出される。これにより、受信信号レベルが低い場合でも、折り返し判定精度を向上できる。ただし、式(39)の代わりに、一部のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の出力に対して、未使用の符号化ドップラ多重信号分離後の受信電力が算出されてもよい。この場合でも、例えば、受信信号レベルが十分高い範囲では、折り返し判定の精度を保ちつつ、演算処理量を削減できる。
なお、式(39)及び式(40)において、Drはドップラ折り返し範囲を示すインデックスであり、例えば、Dr∈{-LOCNDM,…, LOCNDM-1}の範囲の整数値をとる。
また、式(40)において、
は、要素数が等しいベクトル同士の要素毎の積を表す。例えば、n次ベクトルA=[a
1,..,a
n]及びB=[b
1,..,b
n]に対して、要素毎の積は以下の式(41)で表される。
また、式(40)において、上付き添え字Tはベクトル転置を表し、上付き添え字*(アスタリスク)は複素共役演算子を表す。
式(40)において、α(fs_comp_cfar,Dr)は「ドップラ位相補正ベクトル」を表す。ドップラ位相補正ベクトルα(fs_comp_cfar,Dr)は、例えば、CFAR部211において抽出されたドップラ周波数インデックスfs_comp_cfarが、ドップラ折り返しを含まないドップラ解析部210の出力範囲(換言すると、ドップラ範囲)とする場合に、ドップラ折り返し範囲DrでのLoc個のドップラ解析部210間におけるドップラ解析の時間差に起因するドップラ位相回転を補正する。
例えば、ドップラ位相補正ベクトルα(f
s_comp_cfar,D
r)は、次式(42)のように表される。式(42)に示すドップラ位相補正ベクトルα(f
s_comp_cfar,D
r)は、例えば、第1番のドップラ解析部210の出力VFT
z
1(f
b_cfar, f
s_comp_cfar)のドップラ解析時間を基準として、第2番のドップラ解析部210の出力VFT
z
2(f
b_cfar, f
s_comp_cfar)から第Loc番のドップラ解析部VFT
z
Loc(f
b_cfar, f
s_comp_cfar)のそれぞれにおけるTr+d
t1,2Tr+d
t2,…,(Loc-1)Tr+ d
t(Loc-1)の時間遅れにより生じるドップラ周波数インデックスf
s_comp_cfarのドップラ折り返し範囲D
rにおけるドップラ成分での位相回転を補正するドップラ位相補正係数を要素とするベクトルである。
また、式(40)において、β(Dr)は「折り返し位相補正ベクトル」を表す。折り返し位相補正ベクトルβ(Dr)は、例えば、Loc個のドップラ解析部210間におけるドップラ解析の時間差に起因するドップラ位相回転のうち、ドップラ折り返し範囲Drにおいて2πの整数倍のドップラ位相回転が有る場合を考慮して、2πの整数倍のドップラ位相回転を補正する。
例えば、折り返し位相補正ベクトルβ(D
r)は、次式(43)のように表される。
式(43)において、Drはドップラ折り返し範囲を示すインデックスであり、Dr=-LOCNDM,…, LOCNDM-1の範囲の整数値をとる。また、式(43)に示す折り返し位相補正ベクトルβ(Dr)は、例えば、第1番のドップラ解析部210の出力VFTz
1(fb_cfar, fs_cfar)のドップラ解析時間を基準として、第2番のドップラ解析部210の出力VFTz
2(fb_cfar, fs_cfar)から第Loc番のドップラ解析部VFTz
Loc(fb_cfar, fs_cfar)のそれぞれにおけるTr+dt1,2Tr+dt2,…,(Loc-1)Tr+ dt(Loc-1)の時間遅れを考慮して2πの整数倍の位相回転を補正するドップラ位相補正係数を要素とするベクトルである。
このようなドップラ位相補正ベクトルα(fs_comp_cfar, Dr)及び折り返し位相補正ベクトルβ(Dr)による位相補正は、fs_comp_cfarに対するドップラ成分候補における各ドップラ成分に応じた位相変化を補正することに対応している。
また、式(40)において、VFTALL
z(f
b_cfar, f
s_comp_cfar, D
r,nud)は、例えば、次式(44)のように、第z番のアンテナ系統処理部201におけるLoc個のドップラ解析部210の出力VFT
z
noc(f
b, f
s)のうち、CFAR部211において抽出された距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_comp_cfarに対応して、ドップラ折り返し範囲D
rにおいて、DCI(nuc,ndu)が割り当てられている未使用の符号化ドップラ多重信号のドップラ多重信号を抽出した成分をベクトル形式で表したものである。ただし、noc=1,…,Locであり、
D
r=-L
OCN
DM,…, L
OCN
DM-1の範囲の整数値をとる。
式(44)において、NcodeFR(Dr, nud)/NDMは、ドップラ折り返し範囲Drにおいて、nud番目のドップラ多重信号の、fs_comp_cfarに対するドップラインデックスのオフセット値を表す。
F
R(D
r, nud)は、ドップラ折り返し範囲D
rと、ドップラシフト量DOP
1 、DOP
2、 …、 DOP
N_DMを付与する位相回転量φ
1、φ
2、…、φ
N_DMが定まれば予め設定可能である。そのため、例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、ドップラ折り返し範囲D
r及び位相回転量と、F
R(D
r, nud)との対応関係をテーブル化し、ドップラ折り返し範囲D
r及び位相回転量に基づいて、F
R(D
r, nud)を読み出してもよい。また、例えば、ドップラシフト量DOP
1 、DOP
2、 …、 DOP
N_DMを付与する位相回転量φ
1、φ
2、…、φ
N_DMが-π≦φ
1(1)<φ
2(1)<…<φ
NDM<πを満たす場合、F
R(D
r, nud)を次式(45)のように表すことができる。
ここで、本実施の形態では、例えば、符号送信周期毎に、送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)が巡回的に設定されることにより、Dr=-Loc×NDM, -Loc×NDM +1,…,0,…, Loc×NDM -1の範囲において異なる位相補正係数(例えば、α(fs_comp_cfar, Dr)及びβ(Dr))の値が得られる可能性がある。これにより、より広いドップラ範囲における折り返しの判定を可能となる。
例えば、Loc=N
DM=2の場合、D
r=-4, -3, -2,-1,0,1,2,3の整数値をとり、符号送信周期毎に送信遅延d
t1、d
t2、…、d
t(Loc-1)が巡回的に設定されない場合(例えば、d
t1、d
t2、…、d
t(Loc-1)をすべて0にする場合)、β(D
r)は次式(46)のように、重複した位相補正値となり得る。
一方、符号送信周期毎に送信遅延d
t1、d
t2、…、d
t(Loc-1)が巡回的に設定される場合、β(D
r)は、次式(47)のように表される。
例えば、β(Dr)において、Drの範囲における各送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)の絶対値が0より大きく、かつ、0.5Tr以下の値に設定される場合、各β(Dr)に対して、Drの可変範囲において、2π以内の異なる位相回転がそれぞれ付与されるので、β(Dr)のそれぞれは異なる位相補正値に設定され得る。これにより、折り返し判定処理において、Drの範囲(換言すると、-1/(Tr)以上、かつ、1/(Tr)未満の範囲)における折り返しの判定が可能となる。
なお、例えば、各送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)の設定値が小さいほど、位相補正値における位相差が小さくなり、折り返し判定の精度が低減し得る。一方、例えば、各送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)の設定値が大きいほど、レーダ送信信号の送信時間が増加し得る。一例として、各送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)の設定値の絶対値は、0.1Tr~0.25Tr程度の値に設定されてよい。
例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、式(39),(40)に従って、DCI(nuc,nud)が割り当てられる未使用の符号化ドップラ多重信号を用いた符号分離後の受信電力PDAR(fb_cfar,fs_comp_cfar,Dr, nuc,nud)を、各Dr∈{-LOCNDM,…, LOCNDM-1}の範囲においてそれぞれ算出する。
そして、符号化ドップラ多重分離部212は、各D
rの範囲のうち、受信電力P
DAR(f
b_cfar,f
s_comp_cfar,D
r, nuc,nud)が最小となるD
rを検出する。以下では、次式(48)に示すように、各D
rの範囲のうち、受信電力P
DAR(f
b_cfar,f
s_comp_cfar,D
r, nuc,nud)が最小となるD
rを「D
r min」と表す。
なお、未使用の符号化ドップラ多重信号が複数ある場合、符号化ドップラ多重分離部212は、受信電力P
DAR(f
b_cfar,f
s_comp_cfar,D
r, nuc,nud)の代わりに、次式(49)のように、全ての未使用直交符号を用いた符号分離後の受信電力Pall
DAR(f
b_cfar,f
s_comp_cfar,D
r)を用いてもよい。
全ての未使用直交符号を用いた符号分離後の受信電力を求めることで、受信信号レベルが低い場合でも、折り返し処理は折り返し判定の精度を向上できる。
例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、各D
r∈{-L
OCN
DM,…, L
OCN
DM-1}の範囲においてPall
DAR(f
b_cfar,f
s_comp_cfar,D
r)を算出し、Pall
DAR(f
b_cfar,f
s_comp_cfar,D
r)が最小となるD
r(換言すると、D
r min)を検出する。例えば、式(49)を用いる場合、以下では、次式(50)に示すように、各D
rの範囲において最小となる受信電力を与えるD
rを「D
r min」と表す。
また、符号化ドップラ多重分離部212は、例えば、DCI(nuc,nud)が割り当てられる未使用の符号化ドップラ多重信号を用いた符号分離後の最小受信電力Pall
DAR(f
b_cfar,f
s_comp_cfar,D
r_min)と、CFAR部211においてドップラシフト多重した各信号ピーク位置を合わせて電力加算した式(38)の受信電力PowerFT_comp(f
b_cfar,f
s_comp_cfar)とを比較して、折り返し判定の確からしさを判定(換言すると、測定)する処理を行ってもよい。この場合、符号化ドップラ多重分離部212は、例えば、次式(51)及び式(52)に従って、折り返し判定の確からしさを判定してもよい。
例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、CFAR部211において抽出された距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_comp_cfarにおけるPowerFT_comp(fb,fs_comp_cfar)に所定値ThresholdDRを乗算した値よりも、DCI(nuc,nud)が割り当てられている未使用の符号化ドップラ多重信号を用いた符号分離後の最小受信電力PallDAR(fb_cfar,fs_comp_cfar,Drmin)が小さい場合(例えば、式(51))、折り返し判定が十分に確からしいと判定する。この場合、レーダ装置10は、例えば、以降の処理(例えば、符号分離処理)を行ってもよい。
一方、例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、PowerFT_comp(fb,fs_comp_cfar)に、ThresholdDRを乗算した値よりも、DCI(nuc,nud)が割り当てられている未使用の符号化ドップラ多重信号を用いた符号分離後の最小受信電力PallDAR(fb_cfar,fs_comp_cfar,Drmin)が等しい又は大きい場合(例えば、式(52))、折り返し判定の精度が十分ではなく、折り返し判定の信頼性が低い(例えば、ノイズ成分)と判定する。この場合、レーダ装置10は、例えば、以降の処理(例えば、符号分離処理)を行わなくてもよい。
このような処理により、折り返し判定の判定誤りを低減でき、また、ノイズ成分を除去できる。なお、所定値ThresholdDRは、例えば、0から1未満の範囲に設定されてよい。一例として、ノイズ成分が含まれることを考慮すると、ThresholdDRは、0.1~0.5程度の範囲で設定されてもよい。
なお、未使用直交符号UnCode
nucを用いた符号分離後の受信電力Y
z(f
b_cfar,f
s_comp_cfar,D
r, nuc,nud)の算出式は、例えば、式(40)の代わりに、次式(53)でもよい。
式(53)において、
の項は、ドップラ成分のインデックス(ドップラ周波数インデックス)f
s_comp_cfarに依らないため、例えば、予めテーブル化することで、折り返し判定処理における演算量を削減できる。
以上、折り返し処理の動作例について説明した。
<(2)多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号のドップラ符号分離処理>
符号化ドップラ多重分離部212は、折り返し判定結果に基づいて、多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号の符号化ドップラ多重分離処理を行う。
例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、次式(54)のように、折り返し判定処理における折り返し判定結果であるD
rminに基づいて、式(40)を適用することにより、多重送信に用いたDCI(ncm,nfd)が割り当てられた符号化ドップラ多重信号の分離受信を行う。例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、次式(54)を用いた分離処理を行うことにより、多重送信に用いたDCI(ncm,nfd)が割り当てられた符号化ドップラ多重信号の分離受信を行うことができる。折り返し判定処理にて、-1/Tr以上、かつ、1/Tr未満のドップラ範囲で、真のドップラ折り返し範囲であるインデックス(D
r true)を判定できることから(換言すると、D
rmin=D
rtrueとなるように判定できることから)、符号化ドップラ多重分離部212においては、-1/Tr以上、かつ、1/Tr未満のドップラ範囲で、符号多重に使用している直交符号間の相関値をゼロとすることができ、符号多重信号間の干渉を抑圧した分離処理が可能となる。
ここで、Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,Drmin, ncm,nfd)は、第z番のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_comp_cfarの出力において、ドップラ範囲Drminのnfd番目の符号化ドップラ多重信号VFTALLz(fb_cfar,fs_comp_cfar,Drmin, nfd)に対して、直交符号Codencmを用いて符号多重信号を符号分離した出力(例えば、符号化ドップラ多重分離結果)であり、多重送信に用いたDCI(ncm,nfd)が割り当てられた符号化ドップラ多重信号を分離することができる。なお、z=1,…,Naであり、ncm=1,…,NCMである。
なお、符号化ドップラ多重分離部212は、式(54)の代わりに、次式(55)を用いてもよい。
式(55)において、
の項(ただし、式(55)では、D
r=D
rmin)はドップラ成分のインデックス(例えば、ドップラ周波数インデックス)f
sに依らないため、例えば、予めテーブル化することで、符号化ドップラ多重分離部212における演算量を削減できる。
以上のような符号分離処理によって、レーダ装置10は、符号化ドップラ多重分離部212において、ドップラ解析部210の折り返しが発生しないドップラ範囲±1/(2Loc×Tr)の2Loc倍のドップラ範囲±1/Trまでを想定した折り返し判定結果に基づいて、多重送信に用いたDCI(ncm,nfd)が割り当てられた符号化ドップラ多重信号を分離受信できる。
また、DCI(ncm,nfd)が割り当てられた符号化ドップラ多重信号は、送信アンテナTx#[ncm,nfd]から送信されるため、送信アンテナの判定も可能となる。換言すると、レーダ装置10は、送信アンテナTx#[ncm,nfd]から送信されたDCI(ncm,nfd)が割り当てられている符号化ドップラ多重信号を分離受信できる。
また、レーダ装置10は、例えば、符号化ドップラ多重分離処理時に、符号要素毎のドップラ解析部210の出力に対して、ドップラ折り返しを含めたドップラ位相補正(例えば、ドップラ位相補正ベクトルα(fs_comp_cfar, Dr)及び折り返し位相補正ベクトルβ(Dr))による位相補正を行う。これらの位相補正は、fs_comp_cfarに対するドップラ成分候補における各ドップラ成分に応じた位相変化を補正することに対応している。このため、符号多重信号間における相互干渉は、例えば、ノイズレベル程度にまで低減可能である。換言すると、レーダ装置10では、符号間干渉を低減でき、レーダ装置10における検出性能の劣化への影響を抑制できる。
また、本実施の形態では、レーダ装置10は、例えば、符号化ドップラ多重送信したチャープ信号の送信周期に対して、符号送信周期(Loc×Tr)毎に送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)を巡回的に設けて、符号多重送信を行う。
これにより、レーダ装置10は、例えば、受信信号(例えば、符号多重信号の符号要素毎のドップラ解析部210の出力)に対して、符号化ドップラ多重送信に未使用のDCI(nuc,nud)が割り当てられた符号化ドップラ多重信号を分離受信することで、ドップラ折り返しの判定を行うことができる。例えば、符号送信周期(Loc×Tr)毎に、送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)を巡回的に設けることで、折り返し判定処理において検出可能なドップラ範囲を、±1/Trに拡大できる。
また、レーダ装置10は、例えば、折り返し判定結果に基づいて、符号分離の際に折り返しを含めたドップラ位相補正を行うことにより、曖昧性なく検出可能なドップラ周波数範囲を±1/Trとし、符号化ドップラ多重信号間の相互干渉をノイズレベル程度に抑えることができるので、レーダ検出性能の劣化を抑制して、MIMOレーダの符号多重送信が可能となる。
以上、符号化ドップラ多重分離部212の動作例について説明した。
図1において、方向推定部213は、符号化ドップラ多重分離部212から入力される距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfs_comp_cfarに対する折り返し判定結果Drminに基づいて、送信アンテナTx#[ncm,nfd]から送信されたDCI(ncm,nfd)が割り当てられている符号化ドップラ多重信号の分離受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,Drmin, ncm,nfd)を用いて、ターゲットの方向推定処理を行う。
例えば、方向推定部213は、符号化ドップラ多重分離部212の出力に基づいて、次式(56)に示すような仮想受信アレー相関ベクトルh(fb_cfar, fs_comp_cfar)を生成し、方向推定処理を行う。
仮想受信アレー相関ベクトルh(f
b_cfar, f
s_comp_cfar)は、送信アンテナ数Ntと受信アンテナ数Naとの積であるNt×Na個の要素を含む。仮想受信アレー相関ベクトルh(f
b_cfar, f
s_comp_cfar)は、ターゲットからの反射波信号に対して各受信アンテナ202間の位相差に基づく方向推定を行う処理に用いる。ここで、z=1,…,Naである。
方向推定部213は、例えば、方向推定評価関数値PH(θ, fb_cfar, fs_comp_cfar)における方位方向θを規定された角度範囲内で可変として空間プロファイルを算出する。方向推定部213は、算出した空間プロファイルの極大ピークを大きい順に所定数抽出し、極大ピークの方位方向を到来方向推定値(例えば、測位出力)として出力する。
なお、方向推定評価関数値PH(θ, fb_cfar, fs_comp_cfar)は、到来方向推定アルゴリズムによって各種の方法がある。例えば、非特許文献3に開示されているアレーアンテナを用いた推定方法を用いてもよい。
例えば、Nt×Na個の仮想受信アレーが等間隔d
Hで直線状に配置される場合、ビームフォーマ法は次式(57)及び式(58)のように表すことができる。他にも、Capon, MUSICといった手法も同様に適用可能である。
ここで、式(57)において、上付き添え字Hはエルミート転置演算子である。また、a(θu)は、方位方向θuの到来波に対する仮想受信アレーの方向ベクトルを示す。
また、方位方向θuは到来方向推定を行う方位範囲内を方位間隔β1で変化させたベクトルである。例えば、θuは以下のように設定される。
θu=θmin + uβ1、u=0,…, NU
NU=floor[(θmax-θmin)/β1]+1
ここでfloor(x)は、実数xを超えない最大の整数値を返す関数である。
また、式(57)において、Dcalは、送信アレーアンテナ間及び受信アレーアンテナ間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正係数及びアンテナ間の素子間結合の影響を低減する係数を含む(Nt×Na)次の行列である。仮想受信アレーのアンテナ間の結合が無視できる場合、Dcalは、対角行列となり、対角成分に送信アレーアンテナ間及び受信アレーアンテナ間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正係数が含まれる。
方向推定部213は、例えば、方向推定結果とともに、測位結果として、距離インデックスfb_cfarに基づく距離情報、及び、ターゲットのドップラ周波数判定結果に基づくターゲットのドップラ速度情報を出力してもよい。
なお、ドップラ周波数情報はドップラ折り返し判定処理結果であるD
rminを用いて次式(59)のように拡張した範囲で算出可能となる。
また、ドップラ周波数情報は、相対速度成分に変換して出力されてもよい。ターゲットのドップラ折り返し判定結果であるD
rminを用いてドップラ周波数インデックスf
outを相対速度成分v
d(f
out)に変換するには、次式(60)を用いて変換することができる。ここで、λは送信無線部(図示せず)から出力されるRF信号のキャリア周波数の波長である。また、Δ
fは、ドップラ解析部210におけるFFT処理でのドップラ周波数間隔である。例えば、本実施の形態では、Δ
f=1/{N
code×Loc×T
r}である。
以上のように、本実施の形態では、レーダ装置10は、レーダ送信信号に対してドップラシフト量と直交符号系列とに対応する位相回転量を付与することにより、レーダ送信信号(換言すると、符号化ドップラ多重信号)を複数の送信アンテナ109から多重送信する。本実施の形態では、複数の送信アンテナ109それぞれに対して、ドップラシフト量(DOPndm)及び直交符号系列(DOPncm)の少なくとも一方が異なる、ドップラシフト量と直交符号系列との組み合わせが対応付けられる。また、本実施の形態では、各ドップラシフト量に対応する直交符号系列の多重数(換言すると、符号数)は異なる。換言すると、ドップラ多重送信信号毎の符号化ドップラ多重数は不均一に設定される。
レーダ装置10は、例えば、各符号化ドップラ多重信号に対して符号分離した信号の受信電力に基づいて、各符号化ドップラ多重信号(換言すると、ドップラシフト量及び直交符号系列の組み合わせ)に対応付けられた送信アンテナ109、及び、ドップラ折り返しの有無を判定できる。これにより、レーダ装置10は、ドップラ折り返しが有る場合でも、ターゲットのドップラ周波数を適切に判定できる。
また、レーダ装置10は、例えば、レーダ送信信号の送信周期のそれぞれにおいて送信遅延を設定する。送信遅延の設定により、例えば、Drの範囲(例えば、-1/(Tr)以上、かつ、1/(Tr)未満の範囲)において、各Drに対する位相補正値(例えば、β)において2π以内の異なる位相回転が付与されるので、レーダ装置10は、Drの範囲における折り返しの判定が可能となる。
よって、本実施の形態によれば、レーダ装置10は、実効的なドップラ周波数帯域幅を2/Trに拡大でき、曖昧性(Ambiguity)が生じないドップラ周波数(相対速度)の検出範囲を拡大できる。これにより、レーダ装置10は、より広いドップラ周波数範囲において、物標の検知精度を向上できる。
また、本実施の形態では、符号化ドップラ多重は、ドップラ多重と符号化とを併用するので、多重送信において、ドップラ多重のみを用いる場合と比較して、ドップラ多重数を低減できる。そのため、ドップラシフトを付与する位相回転量の間隔を広くできるので、例えば、位相器の精度要件(位相変調精度)を緩和でき、位相器の調整の工数も含めてRF部のコスト低減効果も得られる。
また、本実施の形態では、符号化ドップラ多重は、ドップラ多重と符号化とを併用するので、レーダ装置10は、符号要素毎にドップラ周波数検出(相対速度検出)のためのフーリエ周波数解析(FFT処理)を行う。これにより、例えば、多重送信において、ドップラ多重のみを用いたドップラ周波数検出(相対速度検出)のためのフーリエ周波数解析(FFT処理)と比較して、FFTサイズは、(1/符号長分)となり、FFTの処理回数は、(符号長)倍となる。例えば、FFTサイズNcのFFT演算量を、概算Nc×log2(Nc)として見積もる場合、ドップラ多重のみのFFT演算に対して、本実施の形態に係る符号化ドップラ多重は{Loc×Nc/Loc×log2(Nc/Loc)}/ {Nc×log2(Nc)}=1- log2(Loc)/ log2(Nc)程度の演算量比となる。例えば、Loc=2,Nc=1024の場合、演算量比は0.9となり、FFT処理の演算低減効果が得られ、回路構成の簡易化及び低コスト化の効果も得られる。
(実施の形態1のバリエーション1)
ドップラシフト量DOP
ndmを付与するための位相回転量φ
ndmは、例えば、式(5)等に示した値に限定されない。例えば、位相回転量φ
ndmは、次式(61)に示す値でもよい。ここで、round(x)は実数値xに対し、四捨五入した整数値を出力するラウンド関数である。なお、round(N
code/N
DM)の項は、位相回転量を、ドップラ解析部210におけるドップラ周波数間隔の整数倍とする目的で導入している。また、式(61)では、角度はラジアン単位で示している。なお、z=1, …, Naである。
(実施の形態1のバリエーション2)
実施の形態1では、送信周期Tr毎に送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)を設定することにより、ドップラ検出範囲を2/Trに拡大する効果が得られる。ここで、設定される送信遅延が長いほど、レーダ送信波が送信されない無信号区間が長くなり得る。このような場合に、レーダ装置は、例えば、異なる検知範囲を検出するための別のレーダ送信波(以下、「異種レーダ送信波」と呼ぶ)を、無信号区間において送信してもよい。
図15は、バリエーション2に係るレーダ装置10aから出力されるレーダ送信信号(例えば、レーダ送信波)の例を示す図である。
例えば、レーダ装置10aは、実施の形態1を適用するレーダ送信波を周期的に送信する間に、送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)を設定した時間区間のうち、少なくとも1つの送信遅延(例えば、図15の場合、送信遅延dt1)を設定している時間区間に、異種レーダ送信波を送信してもよい。
または、レーダ装置10aは、送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)を設定した時間区間のうち、複数の送信遅延を設定している時間区間(例えば、送信遅延dt1、dt2)のそれぞれに、同一の異種レーダ送信波を送信してもよい。例えば、レーダ装置10aは、送信遅延dt1及び送信遅延dt2を設定しているそれぞれの時間区間において同一の異種レーダ送信波を送信してもよい。
または、レーダ装置10aは、送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)を設定した時間区間のうち、複数の送信遅延を設定している時間区間(例えば、送信遅延dt1、dt2)のそれぞれにおいて異なる異種レーダ送信波を送信してもよい。例えば、レーダ装置10aは、送信遅延dt1を設定している時間区間において異種レーダ送信波Aを送信し、送信遅延dt2を設定している時間区間において異種レーダ送信波Bを送信してもよい。
ここで、実施の形態1に係るレーダ送信波にチャープ信号を用いる場合、異種レーダ送信波は、例えば、実施の形態1に係るレーダ送信波であるチャープ信号とは異なるチャープ信号(例えば、周波数変調帯域幅、掃引時間、周波数変調変化率の少なくとも一つが異なるチャープ信号)を用いてもよい。
例えば、図15は、実施の形態1で説明したレーダ送信波にチャープ信号を用い、送信周期Trで、Loc=2として、送信遅延dt1を設定した時間区間を含む無信号区間において送信される異種レーダ送信波にチャープ信号を用いる場合を示す図である。図15に示すように、Loc=2の場合、レーダ装置10aは、第1番目の送信周期Trの送信開始時刻からレーダ送信波を送信後の時刻t0経過後に、異種レーダ送信波の送信を開始し、異種レーダ送信波を、送信周期Tra=2Tr(=Loc×Tr)で周期的に送信してよい。
なお、Loc>2の場合、レーダ装置10aは、各送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)を設定した時間区間を含む無信号区間のうち、全てあるいは一部を用いて、異種レーダ送信波を送信してもよく、複数の異種レーダ送信波を送信してもよい。
また、例えば、Loc=3の場合、レーダ装置10aは、各送信遅延dt1、dt2を設定した時間区間を含む無信号区間のうち、全ての送信遅延dt1、dt2を用いて、同一の異種レーダ送信波を送信してもよい。または、レーダ装置10aは、全ての送信遅延dt1、dt2を用いて、複数の異種レーダ送信波A,Bを送信してもよい。または、レーダ装置10aは、一部の送信遅延dt1(又はdt2)を用いて、異種レーダ送信波を送信してもよい。
なお、異種レーダ送信波は、チャープ信号に限らず、無変調連続波(Continuous Wave:CW)であってもよく、パルス信号又は符号化パルス信号であってもよく、実施の形態1に係るレーダ送信波と異なる送信波でもよい。
図16は、バリエーション2に係るレーダ装置10aの構成例を示すブロック図である。レーダ装置10aは、例えば、実施の形態1で説明したレーダ送信波(例えば、第1の送信信号に相当)の送信に加え、異種レーダ送信波(例えば、第2の送信信号に相当)を送信する。例えば、レーダ装置10aは、レーダ送信波の送信の間の無信号区間(例えば、無送信区間)であって、送信遅延が設定される時間区間を含む無信号区間において、異種レーダ送信波を送信してよい。なお、図16では、異種レーダ送信波としてチャープ信号を用いる場合の構成を示すが、これに限定されない。
以下、実施の形態1に係るレーダ装置10の動作と異なる動作について主に説明する。
レーダ送信部100aにおけるレーダ送信信号生成部101aは、実施の形態1で説明したレーダ送信波の生成動作に加え、送信遅延を設定した時間区間を含む無信号区間のうち、少なくとも一部の区間において異種レーダ送信波を生成する。
例えば、送信遅延dtXを設定した時間区間を含む無信号区間に、異種レーダ送信波を生成する場合(ここで、X=1, …, Loc-1の何れか)、送信信号生成制御部102aは、実施の形態1で説明した動作に加え、第X番目の送信周期Trの送信開始時刻から、実施の形態1で説明したレーダ送信波のX回目の送信後の、送信遅延dtXを設定した時間区間を含む無信号区間における所定の時刻SXを、異種レーダ送信波の変調信号発生開始タイミングに決定する。送信信号生成制御部102aは、変調信号発生部103aを制御する信号(決定した異種レーダ送信波の変調信号発生開始タイミングに関する情報)を変調信号発生部103aへ出力する。
また、送信信号生成制御部102aは、時刻SXに基づいて、異種レーダ送信波の送信周期Tra(=Loc×Tr)毎に、変調信号発生部103aに対して、異種レーダ送信波の変調信号発生タイミングを制御する信号を出力してよい。
また、送信信号生成制御部102aは、異種レーダ送信波の送信周期Tra(=Loc×Tr)の開始タイミングから送信遅延dtXを設定した時間区間を含む無信号区間が終了するタイミングまでを異種レーダ送信波の送信期間に設定し、設定した送信期間に関する情報を位相回転量設定部105a及びレーダ受信部200a(例えば、AD出力切替部301)に出力する。
複数の異種レーダ送信波を生成する場合、同様に、送信信号生成制御部102aは、それぞれの異種レーダ送信波に対して、変調信号発生開始タイミング及び異種レーダ送信波の変調信号発生タイミングに関する情報を変調信号発生部103aに出力し、異種レーダ送信波の送信期間を位相回転量設定部105a及びレーダ受信部200aに出力する。
例えば、Loc=2、かつ、送信遅延dt1を設定した時間区間を含む無信号区間において異種レーダ送信波を生成する場合、送信信号生成制御部102aは、図15に示すように、第1番目の送信周期Trの送信開始時刻から、実施の形態1で説明したレーダ送信波の1回目の送信後の、送信遅延dt1を設定した時間区間を含む無信号区間における所定の時刻S1を、異種レーダ送信波の変調信号発生開始タイミングに決定し、変調信号発生部103aを制御する信号を出力する。また、送信信号生成制御部102aは、異種レーダ送信波の送信周期Tra(=Loc×Tr)の開始タイミングから送信遅延dt1を設定した時間区間を含む無信号区間が終了するタイミングまでの異種レーダ送信波の送信期間を決定し、決定した送信期間に関する情報を、位相回転量設定部105a及びレーダ受信部200aに出力する。
変調信号発生部103aは、実施の形態1で説明した動作に加え、送信信号生成制御部102aから入力される制御信号(例えば、異種レーダ送信波の変調信号発生開始タイミング、異種レーダ送信波の発生タイミングに関する情報)に基づいて、例えば、図15に示すように、所定のチャープ信号を生成するための変調信号を発生させる。
なお、異種レーダ送信波は、例えば、周波数変調帯域幅、掃引時間、周波数変調変化率の少なくとも一つが、実施の形態1で説明したレーダ送信波と異なるチャープ信号でもよい。また、複数の異種レーダ送信波が生成される場合、変調信号発生部103aは、それぞれの異種レーダ送信波に対する変調信号発生開始タイミング及び異種レーダ送信波の発生タイミングに基づいて、所定のチャープ信号を生成するための変調信号を発生させてよい。
VCO104aは、変調信号発生部103aから出力される変調信号に基づいて、実施の形態1で説明したレーダ送信波、及び、異種レーダ送信波の周波数変調信号(以下、例えば、周波数チャープ信号又はチャープ信号と呼ぶ)を位相回転部108、及び、レーダ受信部200aへ出力する。
位相回転量設定部105aは、実施の形態1で説明した動作に加え、送信信号生成制御部102aからの異種レーダ送信波の送信期間を示す制御情報に基づいて、異種レーダ送信波を送信するための位相回転量の設定を変更する。例えば、位相回転量設定部105aは、異種レーダ送信波の送信期間である場合、異種レーダ送信波を送信するために、実施の形態1で説明したレーダ送信波を送信する際の位相回転量と異なる位相回転量を設定してもよい。例えば、異種レーダ送信波を送信するための位相回転量の設定は、特定の方向に送信アンテナの指向性を向ける一定の位相回転量であってもよく、複数(例えば、全て)の位相回転量は、同一の位相回転に設定されてもよい。複数(例えば、全て)の位相回転量が同一の位相回転に設定される場合、複数の送信アンテナ109は、1つの送信アンテナのサブアレーアンテナ素子として動作するため、MIMO送信ではなく、シングルアンテナ送信とみなされる。
または、位相回転量設定部105aは、複数の送信アンテナ109に対して符号多重するための符号化を施すための位相回転量を設定してもよく、ドップラ多重するためのドップラシフトを施すための位相回転量を設定してもよい。また、位相回転量設定部105aは、符号多重とドップラ多重とを組み合わせて多重するための位相回転量を設定してもよい。
なお、レーダ装置10aは、例えば、図示しない送信アンテナ制御部をレーダ送信部100aに設けてもよい。送信アンテナ制御部は、例えば、送信信号生成制御部102aからの異種レーダ送信波の送信期間を示す制御情報に基づいて、異種レーダ送信波の送信期間における送信アンテナ109の制御を行ってもよい。例えば、送信アンテナ制御部は、異種レーダ送信波の送信期間における送信アンテナ109の指向性方向、指向性利得を、異なる異種レーダ送信波に個別に切り替えるように送信アンテナ109を制御し、レーダ波を送信してもよい。
また、送信アンテナ制御部は、例えば、異種レーダ送信波の送信期間において、異種レーダ送信波の送信に用いる送信アンテナ数を変更してもよい。例えば、送信アンテナ制御部は、異種レーダ送信波の送信時にはMIMO送信を用いずに1つの送信アンテナ109を用いてもよい。
このように、レーダ送信部100aは、レーダ送信波の無信号区間において、異種レーダ送信波の送信により、実施の形態1に係る動作による効果に加え、異種レーダ送信波を用いることで異なる検知範囲の検出、又は異なる距離範囲、ドップラ範囲での検出が可能となる。
次に、レーダ受信部200aの動作例について、実施の形態1と異なる部分を主に説明する。
なお、図16では、一例として、異種レーダ送信波を送信するための位相回転量が、特定の方向に送信アンテナの指向性を向ける一定の位相回転量に設定される場合の受信処理の構成例を示し、その動作の説明を行う。したがって、この場合、複数の送信アンテナ109は、1つの送信アンテナのサブアレーアンテナ素子として動作するため、MIMO送信ではなく、シングルアンテナ送信となる。この場合、レーダ受信部200aにおいて、MIMO送信時の多重信号の分離処理を行わなくてよい。
受信無線部203の動作は、実施の形態1と同様である。なお、受信無線部203におけるLPF205は、送信信号生成制御部102aからの異種レーダ送信波の送信期間を示す制御情報(図示せず)に基づいて、異種レーダ送信波の送信期間におけるLPF特性(例えばカットオフ周波数又は通過帯域特性)を、異種レーダ送信波のチャープ信号から得られるビート信号の特性に適したLPF特性に変更してもよい。
レーダ受信部200aにおける信号処理部206aには、例えば、AD変換部207の出力先を切り替えるAD出力切替部301、異種レーダ送信波のビート周波数解析を行う異種レーダ送信波ビート周波数解析部302、及び、異種レーダ送信波のドップラ周波数を解析する異種レーダ送信波ドップラ解析部303が含まれる点が実施の形態1と異なる。以下、実施の形態1と異なる部分の説明を行う。
AD出力切替部301は、送信信号生成制御部102aから入力される異種レーダ送信波の送信期間を示す制御情報に基づいて、AD変換部207の出力先を、ビート周波数解析部208、及び、異種レーダ送信波ビート周波数解析部302の何れかに切り替える。例えば、異種レーダ送信波の送信期間と異なる送信期間の場合、AD出力切替部301は、AD変換部207からの出力をビート周波数解析部208に出力し、レーダ受信部200aは、以降、実施の形態1と同様の動作を行う。一方、異種レーダ送信波の送信期間である場合、AD出力切替部301は、AD変換部207からの出力を異種レーダ送信波ビート周波数解析部302に出力する。
異種レーダ送信波ビート周波数解析部302は、送信周期Tra毎に、規定された時間範囲(レンジゲート)において得られたNdataA個の離散サンプルデータをFFT処理する。これにより、信号処理部206aでは、異種レーダ送信波の反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる異種レーダ送信波ビート周波数応答RFTAz(fbA, floor((m-1)/Loc)+1)が出力される。例えば、fbA=0,…,NdataA/2-1であり、z=1,…,Naであり、m=1,…,NCである。
また、異種レーダ送信波のビート周波数インデックスf
bAは、次式(62)を用いて距離情報RA(f
bA)に変換できる。そのため、以下では、異種レーダ送信波のビート周波数インデックスf
bAを「異種レーダ送信波の距離インデックスf
bA」と呼ぶ。
ここで、BwAは、異種レーダ送信波として送信されるチャープ信号におけるレンジゲート内での周波数変調帯域幅を表し、C0は光速度を表す。例えば、異種レーダ送信波の周波数変調帯域幅BwAを、実施の形態1で説明したレーダ送信波の周波数変調帯域幅Bwと異ならせることにより、レーダ装置10aは、異種レーダ送信波を用いて、実施の形態1で説明したレーダ送信波とは異なる距離分解能でターゲットの検出が可能となる。また、レーダ装置10aでは、距離範囲RA(NdataA/2-1)までの検出が可能となる。
異種レーダ送信波ドップラ解析部303は、Nc回の送信周期のうち、Ncode回の異種レーダ送信波の送信周期の異種レーダ送信波ビート周波数解析部302の出力データ(例えば、異種レーダ送信波ビート周波数解析部302から出力される異種レーダ送信波ビート周波数応答RFTAz(fbA, floor((m-1)/Loc)+1))を用いて、距離インデックスfbA毎にドップラ解析を行い、異種レーダ送信波ドップラ解析結果VFTAz(fbA, fsA)を出力する。ここで、異種レーダ送信波ドップラ周波数インデックスfsAのドップラ周波数間隔は1/(Ncode×Loc×Tr)であり、異種レーダ送信波ドップラ周波数インデックスfsAの範囲はfsA = -Ncode/2, …, 0, …, Ncode/2-1である。
異種レーダ送信波CFAR部304は、例えば、各アンテナ系統処理部201の異種レーダ送信波ドップラ解析部303の出力VFTAz(fbA, fsA)を、異種レーダ送信波距離インデックスfbA及び異種レーダ送信波ドップラ周波数インデックスfsA毎に、電力加算し、距離軸とドップラ周波数軸(相対速度に相当)とからなる2次元のCFAR処理、又は、1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理を行う。ここで、z=1,…,Naである。2次元のCFAR処理又は1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理については、例えば、非特許文献2に開示された処理が適用されてよい。
異種レーダ送信波方向推定部305は、異種レーダ送信波CFAR部304から入力される異種レーダ送信波距離インデックスfbA_cfar及び異種レーダ送信波ドップラ周波数インデックスfsA_cfarに対する異種レーダ送信波ドップラ解析部303の出力データVFTAz(fbA_cfar, fsA_cfar)を用いて、ターゲットの方向推定処理を行う。異種レーダ送信波方向推定部305は、方向推定結果(測位結果)を異種レーダ送信波測位出力として出力する。
なお、異種レーダ送信波方向推定部305は、例えば、方向推定結果とともに、異種レーダ送信波測位出力として、異種レーダ送信波距離インデックスfbA_cfarに基づく距離情報、及び、異種レーダ送信波ドップラ周波数インデックスfsA_cfarに基づくターゲットのドップラ速度情報を出力してもよい。
以上のように、バリエーション2におけるレーダ装置10aは、レーダ送信部100aにおいて、実施の形態1で説明したレーダ送信波に加え、異種レーダ送信波を送信し、レーダ受信部200aにおいて、レーダ送信波を用いた測位処理に加え、異種レーダ送信波に対する測位処理を行う。
これにより、バリエーション2では、実施の形態1による効果に加え、異種レーダ送信波を用いることで異なる検知範囲での検出、異なる距離範囲、又は、ドップラ範囲での検出が可能となる。また、レーダ装置10aは、本実施の形態1で説明したレーダ送信波の無送信区間に異種レーダ送信波を送信するため、測位時間を増加することなく、上記効果を得ることができる。
なお、レーダ送信部100aは、異種レーダ送信波を複数の送信アンテナ109を用いてMIMO多重送信してもよい。このような場合、レーダ送信部100aにおいて、符号多重及びドップラ多重の何れか、又は、符号多重とドップラ多重とを組み合わせて多重送信する位相回転量を設定してもよい。また、レーダ受信部200aにおいて、異種レーダ送信波ドップラ解析部303の前段あるいは後段に多重信号分離部(図示せず)を設け、多重信号分離部が方向推定処理を行ってもよい。例えば、多重信号分離部及び方向推定処理部において行う処理は、既存の手法を適用すればよく、詳細の説明は省略する。
(実施の形態1のバリエーション3)
実施の形態1では、送信周期Tr毎に1つのレーダ送信波が送信され、送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)を設定することにより、ドップラ検出範囲を2/Trに拡大する効果が得られる。ここで、送信周期Tr毎に送信されるレーダ送信波の数は1つに限定されず、送信周期Tr毎に複数のレーダ送信波が送信され、送信遅延dt1、dt2、…、dt(Loc-1)が設定されてもよい。この場合、複数のレーダ送信波に対して、ドップラ検出範囲をそれぞれ2/Trに拡大する効果が得られる。
図17は、バリエーション3に係るレーダ装置10bから出力されるレーダ送信信号(例えば、レーダ送信波)の例を示す図である。
図17は、レーダ装置10bが、実施の形態1で説明したレーダ送信波(以下、「第1レーダ送信波」と呼ぶ)(例えば、Loc=2の場合)に加えて、送信周期Tr中に異なる検知範囲を検出するための「第2レーダ送信波」を送信する場合のレーダ送信信号の例を示す図である。
第2レーダ送信波(例えば、第2の送信信号に相当)は、例えば、第1レーダ送信波(例えば、第1の送信信号に相当)と同様に実施の形態1で説明した動作によって生成されるレーダ送信波でもよい。例えば、第2レーダ送信波は、第1レーダ送信波と同一の符号多重数、ドップラ多重数を用いてもよい。また、第2レーダ送信波のチャープ信号は、例えば、周波数変調帯域幅、掃引時間、周波数変調変化率の少なくとも一つが第1レーダ送信波と異なるチャープ信号でもよい。
例えば、レーダ装置10bは、図17に示すように、第1レーダ送信波のチャープ信号に対して、比較的近距離範囲を高い距離分解能で検出するために、第2レーダ送信波のチャープ信号と比較して、周波数変調帯域幅を広く設定してもよい。換言すると、例えば、レーダ装置10bは、図17に示すように、第2レーダ送信波のチャープ信号に対して、比較的遠距離範囲を粗い距離分解能で検出するために、第1レーダ送信波のチャープ信号と比較して、周波数変調帯域幅を狭く設定してもよい。この場合、実施の形態1の効果に加え、異なる検知範囲を異なる距離分解能で検出できる効果が得られる。
また、送信周期Tr毎に複数のレーダ送信波を送信するため、送信遅延dt1は、Loc×Trの周期毎に1つ設定される。これにより、第1及び第2レーダ送信波のそれぞれに対して送信遅延が有効となるので、それぞれのレーダ送信波によるドップラ検出範囲をそれぞれ2/Trに拡大する効果が得られる。
図18は、バリエーション3に係るレーダ装置10bの構成例を示すブロック図である。レーダ装置10bは、例えば、実施の形態1で説明した第1レーダ送信波に加え、送信周期Tr中に第1レーダ送信波と異なる検出範囲を検出するための第2レーダ送信波を送信する。
以下、実施の形態1に係るレーダ装置10の動作と異なる動作について主に説明する。
レーダ送信部100bにおけるレーダ送信信号生成部101bは、実施の形態1で説明したレーダ送信波を複数生成する。例えば、レーダ送信信号生成部101bは、送信周期Tr毎に第1のレーダ送信波の生成後、所定時間TN経過後に第2のレーダ送信波を生成する動作を行う。
送信信号生成制御部102bは、実施の形態1の動作に加え、送信周期Tr毎の基準タイミングに対する変調信号発生部103bの変調信号の発生タイミングの制御を、複数のレーダ送信波のそれぞれに対して行う。例えば、送信信号生成制御部102bは、第1のレーダ送信波の発生タイミング制御、及び、第2のレーダ送信波の発生タイミングの制御を行う。また、送信信号生成制御部102bは、第1のレーダ送信波の発生タイミングの終了後、所定時間TN経過後に、第2のレーダ送信波の発生タイミングを制御してもよい。
また、送信信号生成制御部102bは、第1のレーダ送信波の発生タイミングに関する第1レーダ送信波発生タイミング信号、及び、第2のレーダ送信波の発生タイミングに関する第2レーダ送信波発生タイミング信号を、位相回転量設定部105b及びレーダ受信部200b(例えば、AD出力切替部401)に出力する。
変調信号発生部103bは、送信信号生成制御部102bからの第1レーダ送信波発生タイミング及び第2レーダ送信波発生タイミングに基づいて、例えば、図17に示すように、第1レーダ送信波に対して、第1チャープ信号を生成するための変調信号を発生し、第2レーダ送信波に対して、第2チャープ信号を生成するための変調信号を発生する。例えば、変調信号発生部103bは、第2チャープ信号として、周波数変調帯域幅、掃引時間、周波数変調変化率の少なくとも一つが、第1チャープ信号と異なるチャープ信号を生成してもよい。
VCO104bは、変調信号発生部103bから出力される変調信号に基づいて、第1及び第2のレーダ送信波のチャープ信号を位相回転部108、及び、レーダ受信部200b(例えば、ミキサ部204)へ出力する。
位相回転量設定部105bは、送信信号生成制御部102bからの第1レーダ送信波発生タイミング信号及び第2レーダ送信波発生タイミング信号に基づいて、第1及び第2レーダ送信波を送信するための位相回転量を設定する。例えば、位相回転量設定部105bは、第1レーダ送信波発生タイミングでは、第1レーダ送信波を送信するため、実施の形態1で説明したレーダ送信波を送信する際の位相回転量を設定する。同様に、位相回転量設定部105bは、第2レーダ送信波発生タイミングでは、第2レーダ送信波を送信するため、実施の形態1で説明したレーダ送信波を送信する際の位相回転量を設定する。
例えば、第2レーダ送信波を送信するための位相回転量の設定は、第1レーダ送信波を送信するための位相回転量の設定と同じ設定でもよい。この場合、位相回転量の設定は、第1レーダ送信波と第2レーダ送信波とで共通のため、位相回転量の設定を記憶する領域を削減でき、設定の切り替え動作も不要となる。
また、例えば、第2レーダ送信波を送信するための位相回転量の設定は、第1レーダ送信波を送信するための位相回転量の設定と異なる設定でもよい。この場合、例えば、第2レーダ送信波の設定において、符号多重数、及び、ドップラ多重数は第1レーダ送信波の設定と同じ設定にし、複数の送信アンテナ109に対して、ドップラシフト量DOPndm及び直交符号系列Codencmの割り当てを変更してもよい。
なお、レーダ装置10bは、例えば、図示しない送信アンテナ制御部をレーダ送信部100bに設けてもよい。送信アンテナ制御部は、例えば、送信信号生成制御部102bからの第1レーダ送信波発生タイミング及び第2レーダ送信波発生タイミングに基づいて、送信アンテナ109の制御を行ってもよい。例えば、送信アンテナ制御部は、第2レーダ送信波発生タイミングである場合、第2レーダ送信波を送信する送信アンテナを、第1レーダ送信波を送信する送信アンテナと異なる指向性方向又は指向性利得の送信アンテナに切り替えるように送信アンテナ109を制御し、第2レーダ送信波を送信してもよい。
このように、レーダ送信部100bは、送信周期Tr内において、第1レーダ送信波に加え、第2レーダ送信波を送信することにより、実施の形態1に係る動作による効果に加え、第2レーダ送信波を用いることで異なる検知範囲の検出、又は異なる距離範囲、距離分解能での検出が可能となる。
次に、レーダ受信部200bの動作例について、実施の形態1と異なる部分を主に説明する。
受信無線部203の動作は、実施の形態1と同様である。なお、受信無線部203におけるLPF205は、送信信号生成制御部102bからの第1レーダ送信波発生タイミング及び第2レーダ送信波発生タイミングに関する情報(図示せず)に基づいて、LPF特性(例えばカットオフ周波数又は通過帯域特性)を、各レーダ送信波のチャープ信号から得られるビート信号の特性に適したLPF特性に変更してもよい。例えば、LPF205は、第1レーダ送信波発生タイミングに基づいて、第1レーダ送信波のチャープ信号から得られるビート信号の特性に適したLPF特性を設定し、第2レーダ送信波発生タイミングに基づいて、第2レーダ送信波のチャープ信号から得られるビート信号の特性に適したLPF特性を設定してもよい。
レーダ受信部200bにおける信号処理部206bには、例えば、AD変換部207の出力先を切り替えるAD出力切替部401が含まれる点が実施の形態1と異なる。
また、レーダ受信部200bでは、ビート周波数解析部208、出力切替部209、ドップラ解析部210、CFAR部211、符号化ドップラ多重分離部212、方向推定部213、及び、測位出力について、それぞれ、第1レーダ送信波の受信処理用と、第2レーダ送信波の受信処理用とが並列的に処理が行われてよい。それぞれの動作は実施の形態1の説明と同様であるため、その動作説明は省略する。
なお、図18に示す構成例では、ビート周波数解析部208、出力切替部209、ドップラ解析部210、CFAR部211、符号化ドップラ多重分離部212、方向推定部213、及び測位出力は、それぞれ、第1レーダ送信波の受信処理用と、第2レーダ送信波の受信処理用とを備え、それぞれが並列的に処理を行う構成を示すが、これに限定されない。例えば、ビート周波数解析部208、出力切替部209、ドップラ解析部210、CFAR部211、符号化ドップラ多重分離部212、方向推定部213、及び、測位出力において、第1レーダ送信波の受信処理用と、第2レーダ送信波の受信処理用の受信処理とを時分割処理してもよく、この場合でも並列的に処理を行う場合と同様な効果が得られる。換言すると、これらの構成部は、複数のレーダ送信波に個別に設けられてもよく、複数のレーダ送信波に共有されてもよい。
AD出力切替部401は、送信信号生成制御部102bから入力される第1レーダ送信波発生タイミング及び第2レーダ送信波発生タイミングに関する情報に基づいて、AD変換部207の出力先を、第1のビート周波数解析部208(例えば、第1レーダ送信波受信処理用)、及び、第2のビート周波数解析部208(例えば、第2レーダ送信波受信処理用)の何れかに切り替える。例えば、第1レーダ送信波発生タイミングの場合、AD出力切替部401は、AD変換部207からの出力を第1のビート周波数解析部208に出力し、レーダ受信部200bは、以降、実施の形態1と同様な動作を行う。一方、第2レーダ送信波発生タイミングの場合、AD出力切替部401は、AD変換部207からの出力を第2ビート周波数解析部に出力し、レーダ受信部200bは、以降、実施の形態1と同様な動作を行う。
以上のように、バリエーション3におけるレーダ装置10bは、レーダ送信部100bにおいて、第1レーダ送信波に加え、第2レーダ送信波を送信し、レーダ受信部200bにおいて、第1及び第2レーダ送信波を用いた測位処理を行う。
これにより、バリエーション3では、実施の形態1による効果に加え、第2レーダ送信波を用いることで異なる検知範囲での検出、異なる距離範囲又は距離分解能での検出が可能となる。
また、レーダ装置10bは、送信周期Tr毎に複数のレーダ送信波を送信するため、送信遅延の設定は、送信周期Tr毎の複数のレーダ送信波に対してそれぞれ有効となる。このため、送信周期Tr毎の複数のレーダ送信波のドップラ検出範囲をそれぞれ2/Trに拡大する効果が得られる。また、送信遅延の設定は、複数のレーダ送信波毎に設けなくてよいので、送信時間の短縮が図れる。
(実施の形態1のバリエーション4)
実施の形態1では、レーダ装置において周期的に生成されるレーダ送信波が、同一のチャープ信号である場合について説明したが、周期的に生成されるレーダ送信波はこれに限定されない。例えば、レーダ装置は、符号系列の符号長に相当する複数の周期、例えば、(Loc×Tr)の周期のそれぞれにおいて、周波数変調変化率、掃引時間及び周波数変調帯域の少なくとも1つが異なる複数の種類のチャープ信号を用いて、符号化ドップラ多重送信を行ってもよい。
例えば、下記の条件A1(=A2)及び条件B1(=B2)を満たす関係となる複数の異なるチャープ信号を用いてもよい。なお、条件A1、A2を総称して「条件A」と呼び、条件B1、B2を総称して「条件B」と呼ぶこともある。
以下では、符号長Locの周期(Loc×Tr)で送信されるLoc個のチャープ信号を順に、第1、第2、…、第Loc番目のチャープ信号と呼ぶ。
また、(Loc×Tr)の周期で送信されるLoc個のチャープ信号について、周波数変調変化率をCPRATE1、CPRATE2, …、CPRATELOC[Hz/s]と表記し、掃引時間をTSWP1、TSWP2、…、TSWPLOC[s]と表記し、周波数変調帯域幅をBw1,Bw2,…,BwLOC[Hz]と表記する。
条件A1)
(Loc×Tr)の周期で送信するチャープ信号は下記の関係を満たす。
CPRATE1=CPRATE2=…=CPRATELOCであり、かつ、TSWPnoc≧TSWPMINである。
ここで、TSWPMINは、TSWP1、TSWP2、…、TSWPLOCの最小値である。
なお、Bwnoc= TSWPnoc×CPRATE nocより、条件A1を満たす場合には下記の条件A2も同時に満たす。
条件A2)
(Loc×Tr)の周期で送信するLoc個のチャープ信号は下記の関係を満たす。
CPRATE1=CPRATE2=…=CPRATELOCであり、かつ、Bwnoc≧BwMINである。
ここで、BwMINは、Bw1,Bw2,…,BwLOCの最小値である。
図19は、バリエーション4に係るレーダ装置10cから出力されるレーダ送信信号(例えば、レーダ送信波)の例を示す図である。図19は、一例として、Loc=2の場合に、条件Aを満たすチャープ信号を示す図である。
図19は、例えば、2Trの周期で送信される2個のチャープ信号(第1番目と第2番目のチャープ信号)を、送信周期2Tr毎に巡回的に送信するレーダ送信波を示す。
例えば、奇数番目の送信周期において送信される第1番目のチャープ信号に対して、偶数番目の送信周期において送信される第2番目のチャープ信号では、周波数変調変化率は同一であり(CPRATE2=CPRATE1)、掃引時間は1/2であり(TSWP2=TSWP1/2)、周波数変調帯域は1/2である(BW2=BW1/2)。
この場合、レーダ装置10cは、掃引時間が最小となる第2番目のチャープ信号のレンジゲートを、他のチャープ信号にも共通に用いてもよい。これにより、距離インデックスの範囲を一致でき、ビート周波数解析の処理を実施の形態1と異なる動作とする(詳細は後述)。
また、例えば、条件Aを満たす関係の異なるチャープ信号を用い、かつ、掃引時間が最小となる第2番目のチャープ信号のレンジゲートを他のチャープ信号にも共通に用いる場合、掃引時間が最小となるチャープ信号の周波数変調帯域幅BwMINによって距離分解能が決定される。この場合、最小の掃引時間TSWPMIN(例えば、周波数変調帯域幅BwMINが最小となるチャープ信号の掃引時間)によって距離範囲が決定される。
従って、掃引時間が最小となるチャープ信号の周波数変調帯域幅BwMINを他のチャープ信号にも共通に用いるため、条件Aを満たす関係の異なるチャープ信号は、比較的粗い距離分解能となるため、比較的遠方の距離範囲で検出を行う場合に好適である。
条件B1)
(Loc×Tr)の周期で送信するLoc個のチャープ信号は下記の関係を満たす。
Bw1=Bw2=…=BwLOCであり、かつ、TSWPnoc=COEFFBnoc×TSWPMIN
ここで、COEFFBnocは整数値、noc=1,…,Locである。また、TSWPMINは、TSWP1、TSWP2、…、TSWPLOCの最小値である。すなわち、TSWPnoc≧TSWPMINである。
なお、Bwnoc= TSWPnoc×CPRATE nocより、条件B1を満たす場合には下記の条件B2も同時に満たす。
条件B2)
(Loc×Tr)の周期で送信するLoc個のチャープ信号は下記の関係を満たす。
Bw1=Bw2=…=BwLOCであり、かつ、CPRATE noc= CPRATE MAX/COEFFBnoc
ここで、COEFFBnocは整数値、noc=1,…,Locである。また、CPRATE MAXは、CPRATE1、CPRATE 2、…、CPRATE LOCの最大値である。すなわち、CPRATE noc≦CPRATE MAXである。
図20は、バリエーション4に係るレーダ装置10cから出力されるレーダ送信信号(例えば、レーダ送信波)の例を示す図である。図20は、一例として、Loc=2の場合に、条件Bを満たすチャープ信号を示す図である。
図20は、例えば、(2Tr)の周期で送信される2個のチャープ信号(第1番目と第2番目のチャープ信号)を、送信周期Tr毎に巡回的に送信するレーダ送信波を示す。
例えば、奇数番目の送信周期において送信される第1番目のチャープ信号に対して、偶数番目の送信周期において送信される第2番目のチャープ信号では、周波数変調帯域は同一であり(BW2=BW1)、掃引時間は1/2であり(TSWP2=TSWP1/2)、周波数変調変化率は2倍である(CPRATE2=CPRATE×2)。
この場合、第1番目のチャープ信号の距離分解能は、第2番目のチャープ信号の距離分解能と同一になるが、第1番目のチャープ信号に対して、第2番目のチャープ信号の掃引時間は1/2となるため、距離インデックス範囲が1/2に狭くなる。このため、距離インデックスの範囲が一致するように、ビート周波数解析の処理を実施の形態1と異なる動作とする(詳細は後述)。
また、条件Bの場合、同一の周波数変調帯域において、掃引時間が整数倍(または整数分の1)となる複数のチャープ信号を用いる。ここで、距離インデックス間の距離(以下、距離分解能と呼ぶ)は、式(35)より、ΔR=R(fb)-R(fb-1)=C0/(2Bw)となる。また、例えば、条件Bを満たす場合、各チャープ信号を送信して得られるビート周波数解析部の出力の距離分解能は同一である。また、各チャープ信号の掃引時間が長いほど、遠方距離までの距離インデックス範囲が得られるが、符号化ドップラ多重を行うため、例えば、最小の距離インデックス範囲で多重することになる。
従って、条件Bを満たす関係の異なるチャープ信号は、比較的近距離範囲において、高い分解能の検出を行う場合に有効である。
図21は、バリエーション4に係るレーダ装置10cの構成例を示すブロック図である。レーダ装置10cは、例えば、周期的に生成するレーダ送信波として、異なるチャープ信号を用いる。以下、実施の形態1に係るレーダ装置10の動作と異なる部分の動作について主に説明する。
レーダ装置10cのレーダ送信部100cにおいて、送信信号生成制御部102の動作は、実施の形態1の動作と同様である。なお、送信信号生成制御部102は、例えば、レーダ送信波の種別(例えば、条件A及び条件Bの何れか一方を満たすレーダ送信波)に関する情報をレーダ受信部200c(例えば、ビート周波数解析部208c)へ出力する。
変調信号発生部103cは、送信信号生成制御部102からのレーダ送信波の発生タイミングに基づいて、(Loc×Tr)の周期にて送信するLoc個のチャープ信号を生成するための変調信号を発生する。例えば、図19及び図20に示すようにLoc=2の場合、変調信号発生部103cは、第1番目の発生タイミングに基づいて、第1番目のチャープ信号を生成するための変調信号を発生し、第Loc(=2)番目の発生タイミングに基づいて、第Loc(=2)番目のチャープ信号を生成するための変調信号を発生する。以降、変調信号発生部103cは、レーダ送信波の発生タイミングに基づいて、第1番目のチャープ信号を生成するための変調信号の発生と、第Loc(=2)番目のチャープ信号を生成するための変調信号の発生とを巡回的に繰り返す。
以降のレーダ送信部100cの動作は実施の形態1と同様である。
次に、レーダ受信部200cの動作例について説明する。
受信無線部203の動作は、実施の形態1と同様である。なお、受信無線部203におけるLPF205は、送信信号生成制御部102からの第1レーダ送信波発生タイミング及び第2レーダ送信波発生タイミングに関する情報(図示せず)に基づいて、LPF特性(例えばカットオフ周波数又は通過帯域特性)を、各レーダ送信波のチャープ信号から得られるビート信号の特性に適したLPF特性に変更してもよい。例えば、LPF205は、第1レーダ送信波発生タイミングに基づいて、第1レーダ送信波のチャープ信号から得られるビート信号の特性に適したLPF特性を設定し、第2レーダ送信波発生タイミングに基づいて、第2レーダ送信波のチャープ信号から得られるビート信号の特性に適したLPF特性を設定してもよい。
信号処理部206cにおいて、AD変換部207の動作は実施の形態1と同様である。
ビート周波数解析部208cは、例えば、条件Aを満たすレーダ送信波を用いる場合、実施の形態1の動作に加え、掃引時間を最小のチャープ信号に合わせるために、レンジゲートを、レンジゲート<TSWPMINを満たすように設定する。
また、ビート周波数解析部208cは、条件Bを満たすレーダ送信波を用いる場合、掃引時間を各チャープ信号に合わせるため、noc番目のチャープ信号を送信する送信周期の場合、noc番目のレンジゲートTRG
nocを、次式(63)を満たすように設定する。ここで、TRGminは、掃引時間が最小のチャープ信号のレンジゲートであり、ビート周波数解析部208cは、TRGmin<TSWP
minを満たすように設定する。
また、ビート周波数解析部208cは、上記レンジゲートにおいて得られた離散サンプルデータを1/COEFFBnocにデータを間引く(アンダーサンプルする)処理を行う。この処理により各チャープ信号で離散サンプルデータ数が揃う。以下、間引き処理により残った離散サンプル数をNdata個とする。
以降のレーダ受信部200cの動作は実施の形態1と同様である。
以上のように、バリエーション4におけるレーダ装置10cは、レーダ送信信号生成部101cから周期的に生成されるレーダ送信波として、条件A又は条件Bを満たす関係の異なるチャープ信号を用いる。
例えば、条件Aを満たす関係の異なるチャープ信号を用いる場合、掃引時間が最小となるチャープ信号の周波数変調帯域幅BwMINによって距離分解能が決定される。また、条件Aを満たす関係の異なるチャープ信号を用いる場合、掃引時間を最小のチャープ信号に合わせるため、最小の掃引時間TSWPMIN(例えば、周波数変調帯域幅BwMINが最小となるチャープ信号の掃引時間)によって距離範囲が決定される。そのため、条件Aを満たす関係の異なるチャープ信号を用いることにより、レーダ装置10cは、例えば、比較的粗い距離分解能となるため、遠方距離範囲の検出する場合に好適である。
また、例えば、条件Bを満たす関係の異なるチャープ信号を用いる場合、各チャープ信号を送信して得られるビート周波数解析部208cの出力の距離分解能は同一である。また、各チャープ信号の掃引時間が長いほど、遠方距離までの距離インデックス範囲が得られることになるが、符号化ドップラ多重を行うため、最小の距離インデックス範囲で多重することになる。そのため、条件Bを満たす関係の異なるチャープ信号を用いることにより、レーダ装置10cは、比較的近距離範囲において、高い分解能の検出を行うことができる。
また、バリエーション4において、例えば、図19及び図20の場合に、送信遅延dt1を長く設定すると、レーダ送信波の送信期間が、Loc+1番目(例えば、図19及び図20の場合、送信周期Tr#3番目)の送信周期のタイミングを超え得る。そのような場合でも、例えば、図19及び図20に示すように、一方のチャープ信号(例えば、奇数番目のチャープ信号)よりも掃引時間が短い異なるチャープ信号(例えば、偶数番目のチャープ信号)を用いることで、Loc+1番目(図19及び図20の場合、3番目)の送信周期のタイミングを超えることを抑制し、送信遅延をより長く設定可能となる。
なお、バリエーション4において、さらに、バリエーション2で説明したように、異なる検知範囲を検出するための異種レーダ送信波が無信号区間において送信されてもよい。
図22は、一例として、Loc=2の場合に、条件Aを満たすレーダ送信波において、送信周期Trにおいて送信遅延dt1を設定した時間区間を含む無信号区間に、異種レーダ送信波(チャープ信号)を送信する例を示す図である。また、図23は、一例として、Loc=2の場合に、条件Bを満たすレーダ送信波において、送信周期Trにおいて送信遅延dt1を設定した時間区間を含む無信号区間に、異種レーダ送信波(チャープ信号)を送信する例を示す図である。
図24は、この動作を行うレーダ装置10dの構成例を示すブロック図である。図24に示す各構成部の動作は、例えば、バリエーション2(図16)及びバリエーション4(図21)における構成部と同様の動作であり、その説明は省略する。なお、図24に示す変調信号発生部103dは、例えば、バリエーション2の変調信号発生部103aの動作、及び、バリエーション4の変調信号発生部103cの双方の動作を行ってよい。
このような構成により、実施の形態1、発明2-1、及び発明2-3によるそれぞれの効果が得られる。
なお、レーダ送信部100dにおいて、異種レーダ送信波を、複数の送信アンテナ109を用いてMIMO多重送信してもよい。この場合、レーダ送信部100dにおいて、符号多重又はドップラ多重、あるいは、符号多重とドップラ多重とを組み合わせて多重送信する位相回転量を設定してもよい。また、レーダ受信部200dにおいて、異種レーダ送信波ドップラ解析部303の前段又は後段に、多重信号分離部(図示せず)を設け、多重信号分離部は、方向推定処理を行ってもよい。多重信号分離部及び方向推定処理部で行う処理は従来手法を適用すればよく、詳細の説明は省略する。
また、異種レーダ送信波には、レーダ送信波の奇数番目のチャープ信号と条件Bを満たす関係のチャープ信号を用いてもよい。例えば、図22において、異種レーダ送信波では、レーダ送信波の奇数番目のチャープ信号と比較して、周波数変調帯域幅が同一であり、掃引時間が短く(例えば、1/2)、周波数変調変化率が高い(例えば、2倍)チャープ信号が送信されるので、異種レーダ送信波とレーダ送信波の奇数番目のチャープ信号とは条件Bを満たす関係のチャープ信号である。このため、レーダ送信波(奇数番目)と異種レーダ送信波との間において符号化ドップラ多重送信も可能となり、レーダ装置10dは、レーダ送信波よりも近距離範囲で距離分解能を高めた検出が可能となる。
また、異種レーダ送信波には、レーダ送信波の奇数番目のチャープ信号と条件Aを満たす関係のチャープ信号を用いてもよい。例えば、図23において、異種レーダ送信波では、レーダ送信波の奇数番目のチャープ信号と比較して、周波数変調帯域幅が狭く(例えば、1/2)、掃引時間が短く(例えば、1/2)、周波数変調変化率が同一であるチャープ信号が送信されるので、異種レーダ送信波とレーダ送信波の奇数番目のチャープ信号とは条件Aを満たす関係のチャープ信号である。このため、レーダ送信波(奇数番目)と異種レーダ送信波との間で符号化ドップラ多重送信も可能となり、レーダ装置10dは、レーダ送信波よりも遠方距離範囲で検出が可能となる。
以上、本開示に係る一実施例について説明した。
[他の実施の形態]
本開示の一実施例に係るレーダ装置において、レーダ送信部及びレーダ受信部は、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。また、本開示の一実施例に係るレーダ受信部において、方向推定部と、他の構成部とは、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。
また、本開示の一実施例において用いた、送信アンテナ数Nt、受信アンテナ数Na、ドップラ多重数NDM、符号数NCM、遅延時間dtといった数値は一例であり、それらの値に限定されない。
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、図示しないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体、およびRAM(Random Access Memory)等の作業用メモリを有する。この場合、上記した各部の機能は、CPUが制御プログラムを実行することにより実現される。但し、レーダ装置のハードウェア構成は、かかる例に限定されない。例えば、レーダ装置の各機能部は、集積回路であるIC(Integrated Circuit)として実現されてもよい。各機能部は、個別に1チップ化されてもよいし、その一部または全部を含むように1チップ化されてもよい。
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
また、上述した実施の形態における「・・・部」という表記は、「・・・回路(circuitry)」、「・・・アッセンブリ」、「・・・デバイス」、「・・・ユニット」、又は、「・・・モジュール」といった他の表記に置換されてもよい。
上記各実施形態では、本開示はハードウェアを用いて構成する例にとって説明したが、本開示はハードウェアとの連携においてソフトウェアでも実現することも可能である。
また、上記各実施形態の説明に用いた各機能ブロックは、典型的には集積回路であるLSIとして実現される。集積回路は、上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックを制御し、入力端子と出力端子を備えてもよい。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部または全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサを用いて実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、LSI内部の回路セルの接続又は設定を再構成可能なリコンフィギュラブル プロセッサ(Reconfigurable Processor)を利用してもよい。
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術により、LSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックを集積化してもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
<本開示のまとめ>
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、送信信号を送信する複数の送信アンテナと、前記送信信号に対してドップラシフト量と符号系列とに対応する位相回転量を付与することにより、前記送信信号を前記複数の送信アンテナから多重送信する送信回路と、を具備し、前記送信信号の送信周期において、前記送信信号の送信遅延が設定され、前記複数の送信アンテナに対して、前記ドップラシフト量及び前記符号系列の少なくとも一方が異なる、前記ドップラシフト量と前記符号系列との組み合わせがそれぞれ対応付けられ、第1のドップラシフト量に対応する前記符号系列による多重数と、第2のドップラシフト量に対応する前記符号系列による多重数とが異なる。
本開示の一実施例において、前記送信遅延の少なくとも一つは、0より大きく、かつ、前記送信周期の1/2以下の値である。
本開示の一実施例において、前記ドップラシフト量を付与する位相回転量に用いる位相数は、前記複数の送信アンテナの数よりも少ない。
本開示の一実施例において、前記各ドップラシフト量を付与する位相回転量は、等間隔である。
本開示の一実施例において、前記各ドップラシフト量を付与する位相回転量は、不等間隔である。
本開示の一実施例において、前記ドップラシフト量を付与する位相回転量に用いる位相数は、前記多重送信に用いる前記ドップラシフト量の数に等しい。
本開示の一実施例において、前記送信信号がターゲットに反射した反射波信号を受信する複数の受信アンテナと、複数の前記符号系列のうち、前記送信回路における符号多重に使用された符号系列と異なる符号系列に基づいて、前記反射波信号におけるドップラ周波数領域での折り返しの判定を行う受信回路と、を更に具備する。
本開示の一実施例において、前記送信回路は、前記送信周期毎に第1の送信信号を送信し、前記第1の送信信号の送信の間の無送信区間において第2の送信信号を送信し、前記無送信区間は、前記送信遅延が設定される時間区間を含む。
本開示の一実施例において、前記第1の送信信号及び前記第2の送信信号はチャープ信号であり、前記第1の送信信号と前記第2の送信信号とにおいて、周波数変調帯域幅、掃引時間、及び、周波数変調変化率の少なくとも1つが異なる。
本開示の一実施例において、前記第2の送信信号は、前記周波数変調帯域幅が前記第1の送信信号と同一であり、前記掃引時間が前記第1の送信信号よりも短い。
本開示の一実施例において、前記第2の送信信号は、前記周波数変調帯域幅が前記第1の送信信号よりも狭く、前記周波数変調変化率が前記第1の送信信号と同一である。
本開示の一実施例において、前記送信回路は、前記送信周期毎に第1の送信信号及び第2の送信信号を送信する。
本開示の一実施例において、前記第1の送信信号及び前記第2の送信信号はチャープ信号であり、前記第1の送信信号と前記第2の送信信号とにおいて、周波数変調帯域幅、掃引時間、及び、周波数変調変化率の少なくとも1つが異なる。
本開示の一実施例において、前記送信回路は、前記符号系列の符号長に相当する複数の前記送信周期のそれぞれにおいて、周波数変調帯域幅、掃引時間、及び、周波数変調変化率の少なくとも1つが異なる複数の前記送信信号を送信する。