JP2022071820A - 遺伝子の発現を高める方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、植物において利用することのできる遺伝子の発現を高める方法又は当該方法に利用可能な材料を提供することを目的とする。【解決手段】(i)5’-ACGCGT-3’(配列番号1)、5’-CCGCGT-3’(配列番号2)、5’-ACGCGC-3’(配列番号3)、5’-ACGCGG-3’(配列番号4)、及び5’-GCGCGT-3’(配列番号5)からなる群より選択される塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は(ii)(i)のポリヌクレオチドと配列同一性が90%以上の塩基配列からなり、且つ遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチドを利用して、プロモーターの下流に位置する遺伝子の発現を高める。【選択図】なし

Description

特許法第30条第2項適用申請有り 発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書(1) 令和3年3月4日 ウェブサイト https://jspp.org/annualmeeting/62/ を通じて発表 発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書(2) 令和3年3月14日 集会名、開催場所 第62回 日本植物生理学会 年会 オンライン開催
本発明は、遺伝子の発現を高める方法に関し、より詳細には、所定のポリヌクレオチドをプロモーターの内部に組み込む、或いはプロモーターと作動可能に連結することにより遺伝子の発現を高める方法に関する。
植物における遺伝子発現の増強は、農学的に望ましい形質をもたらすことができ、例えば、作物の品質改良、収率増加、病害に対する抵抗性の付与、乾燥耐性やストレス耐性の向上など、様々な効果に寄与することができる。遺伝子発現に関しては、一時的に遺伝子が発現する一過的発現(一過性発現とも称する)という現象がある。植物における一過的発現系は、遺伝子の機能解析やゲノム編集を行うための有効な実験系である。
遺伝子の機能解析において、一過的発現系は、タンパク質の細胞内局在性の検定や、タンパク質とDNAとの間の相互作用、或いはタンパク質間の相互作用の検定などにおいて盛んに用いられている(非特許文献1)。また、ゲノム編集においては、染色体に外来遺伝子を組み込まないという点で生物学的安全性が高いことから、配列特異的ヌクレアーゼ等の一過的発現系が注目されている(非特許文献2、3)。いずれの用途においても、導入した遺伝子を高発現することが望ましいと考えられており(非特許文献1、4、5)、一過的発現系において発現を高める新規な方法の開発の必要性が存在している。特にゲノム編集技術においては、配列特異的ヌクレアーゼの恒常的高発現によるオフターゲット編集のリスクが指摘されているため(非特許文献6)、一過的に発現を高める方法を用いることが望ましいと考えられている。
Christian Gehl et al., 2009, Molecular Plant, 2, 1051-1058 Yi Zhang et al., 2016, Nature Commun. 7, 12617 Alessandro Nicoliaa et al., 2015, J. Biotech. 204, 17-24 Masafumi Mikami et al., 2015, Plant Cell Rep. 34, 1807-1815 Xiang Ji et al., 2015, Nature Plant 1, 15144 Zahra Hajiahmadi et al., 2019, Internat. J. Mol. Sci. 20, 3719
上述したように、一過的発現系を含め、植物における遺伝子発現の増強は様々な点で望ましい効果をもたらすことができる。そこで、本発明は、植物において利用することのできる遺伝子の発現を高める方法又は当該方法に利用可能な材料を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した中で、各種存在する植物の中からシロイヌナズナを選定し、高発現している遺伝子のプロモーターには発現を高める作用を有する塩基配列が存在するという仮説を立てて、遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチドの探索を行った。具体的には、全遺伝子を対象とした膨大な数の遺伝子群の中から、本発明者ら自身が様々な視点に基づいて発現量が多いと考えた100種類の遺伝子を選抜し、さらにその選抜した遺伝子の中から合計1000個に及ぶ塩基配列を取得して、それらの塩基配列の中からプロモーター領域で高頻度に出現する配列モチーフモデルを上記ポリヌクレオチドの候補配列として特定した。そして、これらの候補配列の中から、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35S最小プロモーター等を利用した試験を通じて、プロモーター下流の遺伝子発現を高めることのできる特定の塩基配列を見出した。また、本発明者らは、かかる特定の塩基配列が、シロイヌナズナのみならずその他の植物においても遺伝子発現の増強に有効であることを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。
本発明は、好ましくは以下に記載するような態様により行われるが、これに限定されるものではない。
[態様1]
遺伝子の発現を高める方法であって、以下の(i)又は(ii)のポリヌクレオチド:(i)5’-ACGCGT-3’(配列番号1)、5’-CCGCGT-3’(配列番号2)、5’-ACGCGC-3’(配列番号3)、5’-ACGCGG-3’(配列番号4)、及び5’-GCGCGT-3’(配列番号5)からなる群より選択される塩基配列を含むポリヌクレオチド;又は
(ii)(i)のポリヌクレオチドと配列同一性が90%以上の塩基配列からなり、且つ遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチド;
を、プロモーターに対して作動可能に挿入する、又は作動可能に連結させる工程を含む、上記方法。
[態様2]
(i)のポリヌクレオチドが、配列番号1~5のいずれかで表される塩基配列を2つ以上含む、態様1に記載の方法。
[態様3]
(i)のポリヌクレオチドがリンカー部をさらに含む、態様1又は2に記載の方法。
[態様4]
(i)のポリヌクレオチドが、10以上のヌクレオチドからなる、態様1~3のいずれか1に記載の方法。
[態様5]
(i)のポリヌクレオチドが、500以下のヌクレオチドからなる、態様1~4のいずれか1に記載の方法。
[態様6]
遺伝子の発現が一過的発現である、態様1~5のいずれか1に記載の方法。
[態様7]
遺伝子の発現が植物細胞内で行われる、態様1~6のいずれか1に記載の方法。
[態様8]
以下の(i)又は(ii)のポリヌクレオチド:
(i)5’-ACGCGT-3’(配列番号1)、5’-CCGCGT-3’(配列番号2)、5’-ACGCGC-3’(配列番号3)、5’-ACGCGG-3’(配列番号4)、及び5’-GCGCGT-3’(配列番号5)からなる群より選択される塩基配列を含むポリヌクレオチド;又は
(ii)(i)のポリヌクレオチドと配列同一性が90%以上の塩基配列からなり、且つ遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチド;
を含む、プロモーターエレメント。
[態様9]
(i)のポリヌクレオチドが、配列番号1~5のいずれかで表される塩基配列を2つ以上含む、態様8に記載のプロモーターエレメント。
[態様10]
(i)のポリヌクレオチドがリンカー部をさらに含む、態様8又は9に記載のプロモーターエレメント。
[態様11]
(i)のポリヌクレオチドが、10以上のヌクレオチドからなる、態様8~10のいずれか1に記載のプロモーターエレメント。
[態様12]
(i)のポリヌクレオチドが、500以下のヌクレオチドからなる、態様8~11のいずれか1に記載のプロモーターエレメント。
[態様13]
態様1~12のいずれか1に記載のプロモーターエレメントとプロモーターとを含む、核酸コンストラクト。
[態様14]
プロモーターエレメントが、プロモーター内に作動可能に挿入されている、又はプロモーターに作動可能に連結されている、態様13に記載の核酸コンストラクト。
[態様15]
態様8~12のいずれか1に記載のプロモーターエレメントを含む、ベクター。
[態様16]
態様8~12のいずれか1に記載のプロモーターエレメントを含む、宿主細胞。
[態様17]
態様8~12のいずれか1に記載のプロモーターエレメントが導入された、植物。
本発明によれば、植物において利用することのできる遺伝子の発現を高める方法又は当該方法に利用可能な材料を提供することができる。本発明の技術を利用することにより、植物において導入した遺伝子を高発現することが可能となる。また、本発明の技術は、植物における一過的発現系にも有用である。これにより、遺伝子の機能解析やゲノム編集などの一過的発現系を用いた実験を、より好ましい条件で行うことが可能になる。
図1は、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターを用いた発現ベクターの構造を示す図である。A及びBは試験用レポーターベクターの模式図を示し、Cはコントロールレポーターベクターの模式図を示す。35Smin:カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの最小プロモーター領域。LUC:ホタル由来ルシフェラーゼをコードする遺伝子。Tnos:アグロバクテリウム由来ノパリン合成遺伝子のターミネーター。EX:Element X。P35S:カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター。RLUC:ウミシイタケ由来ルシフェラーゼをコードする遺伝子。 図2は、発現ベクターに導入したElement Xを含む配列の最小単位を示す図である。下線部がElement Xの配列であり、それ以外はリンカー部である。mElement XはElement Xに変異を導入したものであり、変異部分は小文字で表されている。 図3は、パーティクルガン法を用いた一過的発現系におけるElement Xの効果を示す図である。Aは、試験レポーターベクターとしてpUC119-35Smin-LUC(Empty)、pUC119-mEX4-35Smin-LUC(mEX4)又はpUC119-EX4-35Smin-LUC(EX4)を用いた結果を示し、Bは、試験レポーターベクターとしてpUC119-rbcS3Amin-LUC(Empty_R)、pUC119-mEX4-rbcS3Amin-LUC(mEX4_R)又はpUC119-EX4-rbcS3Amin-LUC(EX4_R)を用いた結果を示す。グラフ中のアスタリスクは、Empty又はEmpty_Rと比較して有意差があることを示す(*, P<0.05; student t-test; n=3)。 図4は、遺伝子発現に対するElement Xの効果に必要な塩基配列を示す図である。グラフの左側にある表は、変異を導入したElement Xの塩基配列を示す。変異部分は小文字で表されている。グラフ中のアスタリスクは、Emptyと比較して有意差があることを示す(*, P<0.05; student t-test; n=3)。 図5は、Element Xの効果の経時的変化を示す図である。グラフの横軸は時間(hr)を示し、グラフ中のアスタリスクは、mEX4(3時間後)と比較して有意差があることを示す(*, P<0.05; student t-test; n=3)。 図6は、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターを用いた発現ベクターの構造を示す図である。35Sプロモーター:カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター。LUC:ホタル由来ルシフェラーゼをコードする遺伝子。Tnos:アグロバクテリウム由来ノパリン合成遺伝子のターミネーター。 図7は、遺伝子発現に対するElement Xの効果の相加性及び強さを示す図である。グラフ中に記載された異なるアルファベットの間には有意差があることを示す(*, P<0.05; Tukey HSD; n=4)。 図8は、Element Xの導入位置の影響を示す図である。グラフ中のアスタリスクは、Emptyと比較して有意差があることを示す(*, P<0.05; student t-test; n=3)。 図9は、Element Xの発現上昇効果の普遍性を示す図である。グラフ中のアスタリスクは、Emptyと比較して有意差があることを示す(*, P<0.05; student t-test; n=3)。 図10は、カリフラワーモザイクウイルス35SプロモーターにおけるElement Xの導入位置に関する効果を示す図である。Aは、Element Xの導入位置の模式図を示す。EX-U、EX-M、及びEX-Dはそれぞれ、35Sプロモーターの上流に位置するHind III認識サイト、35Sプロモーター内に位置するEcoR V認識サイト、及び35Sプロモーターの下流に位置するNco I認識サイトにElement Xを導入したベクターを意味する。図中のTATAは、TATA-boxの位置を示す。Bは、各種ベクターを導入したときの相対レポーター活性を示すグラフである。グラフ中に記載された異なるアルファベットの間には有意差があることを示す(*, P<0.05; Tukey HSD; n=4)。 図11は、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの使用におけるElement Xの効果の普遍性を示す図である。グラフ中に記載された異なるアルファベットの間には有意差があることを示す(*, P<0.05; Tukey HSD; n=4)。 図12は、ポリエチレングリコール法を用いた一過的発現系におけるElement Xの効果を示す図である。Aは、試験レポーターベクターとしてpUC119-35Smin-LUC(Empty)、pUC119-mEX4-35Smin-LUC(mEX4)、又はpUC119-EX4-35Smin-LUC(EX4)を用いた結果を示し、Bは、試験レポーターベクターとしてpUC119-rbcS3Amin-LUC(Empty_R)、pUC119-mEX4-rbcS3Amin-LUC(mEX4_R)、又はpUC119-EX4-rbcS3Amin-LUC(EX4_R)を用いた結果を示す。グラフ中のアスタリスクは、Empty又はEmpty_Rと比較して有意差があることを示す(*, P<0.05; student t-test; n=3)。 図13は、アグロバクテリウム法を用いた一過的発現系におけるElement Xの発現の効果を示す図である。Aは、播種後4週間のシロイヌナズナ(A. thaliana)の葉にアグロバクテリウムを感染させ、96時間後にLUCとRLUC活性を測定した結果を示し、Bは、播種後4週間のタバコ(N. benthamiana)の葉にアグロバクテリウムを感染させ、96時間後にLUCとRLUC活性を測定した結果を示す。グラフ中のアスタリスクは、Empty_pBIと比較して有意差があることを示す(*, P <0.05; student t-test; n=3)。 図14は、遺伝子発現に対するElement Xの効果に必要な塩基配列を示す図である。グラフの左側にある表は、変異を導入したElement Xの塩基配列を示す。変異部分は小文字で表されている。グラフ中のアスタリスクは、Emptyと比較して有意差があることを示す(*, P<0.05; student t-test; n=3)。
以下に、本発明の構成を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、本発明で用いられる遺伝子工学的技術は、公知のJ. Sambrookらの方法(Molecular Cloning、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989; 第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)にしたがって実施することができる。
<遺伝子の発現を高める方法>
本発明の一態様は、遺伝子の発現を高める方法であって、以下の(i)又は(ii)のポリヌクレオチド:
(i)5’-ACGCGT-3’(配列番号1)、5’-CCGCGT-3’(配列番号2)、5’-ACGCGC-3’(配列番号3)、5’-ACGCGG-3’(配列番号4)、及び5’-GCGCGT-3’(配列番号5)からなる群より選択される塩基配列を含むポリヌクレオチド;又は
(ii)(i)のポリヌクレオチドと配列同一性が90%以上の塩基配列からなり、且つ遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチド;
を、プロモーターに対して作動可能に挿入する、又は作動可能に連結させる工程を含む、上記方法である。
(i)のポリヌクレオチドは、5’-ACGCGT-3’(配列番号1)、5’-CCGCGT-3’(配列番号2)、5’-ACGCGC-3’(配列番号3)、5’-ACGCGG-3’(配列番号4)、及び5’-GCGCGT-3’(配列番号5)からなる群より選択される塩基配列を含む。特に限定されるわけではないが、(i)のポリヌクレオチドは、好ましくは、5’-ACGCGT-3’(配列番号1)、5’-CCGCGT-3’(配列番号2)、又は5’-ACGCGG-3’(配列番号4)で表される塩基配列を含み、より好ましくは、5’-ACGCGT-3’(配列番号1)で表される塩基配列を含む。
(i)のポリヌクレオチドは、特に制限されないが、配列番号1~5のいずれかで表される塩基配列(すなわち、5’-ACGCGT-3’、5’-CCGCGT-3’、5’-ACGCGC-3’、5’-ACGCGG-3’、及び5’-GCGCGT-3’で表される塩基配列のいずれか)を2つ以上含むことができる。(i)のポリヌクレオチドは、特定の塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列)を繰り返して2つ以上含むものであってもよいし、或いは2種類以上の別個の塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列と配列番号2で表される塩基配列)をそれぞれ1つ又は繰り返して2つ以上含むものであってもよい。
(i)のポリヌクレオチドに含まれる配列番号1~5のいずれかで表される塩基配列の数は、特に限定されないが、例えば、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、9つ以上、又は10以上であり、好ましくは4つ以上、6つ以上、又は8つ以上である。(i)のポリヌクレオチドに含まれる配列番号1~5のいずれかで表される塩基配列の数の上限値としては、特に限定されないが、例えば、30以下、25以下、20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、15以下、14以下、13以下、12以下、又は11以下である。(i)のポリヌクレオチドに含まれる配列番号1~5のいずれかで表される塩基配列の数は、例えば、2~30、3~20、4~19、5~18、6~17、7~16、又は8~15である。
(i)のポリヌクレオチドは、リンカー部をさらに含むことができる。ここで、本明細書においてリンカー部とは、配列番号1~5のいずれかで表される塩基配列からなる核酸断片と、(i)のポリヌクレオチドが挿入又は連結されるプロモーターとの間をつなぐ核酸部分を意味する。本発明においてリンカー部は、制限酵素による切断部位を含むように塩基配列が設計されていてもよい。
リンカー部を構成するヌクレオチドの数は、特に限定されないが、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6以上である。リンカー部を構成するヌクレオチドの数の上限値としては、特に限定されないが、例えば、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、又は7以下である。リンカー部を構成するヌクレオチドの数は、例えば、2~13、3~12、又は4~11である。(i)のポリヌクレオチドは、5’側と3’側とでリンカー部を2つ含むことができる。その場合、2つのリンカー部の塩基配列は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
リンカー部の塩基配列としては、特に限定されないが、例えば、5’-TGT-3’又は5’-CTAG-3’などが挙げられる。これを上記の塩基配列と組み合わせた場合、(i)のポリヌクレオチドは、例えば、5’-TGTACGCGTCTAG-3’(配列番号6)、5’-TGTCCGCGTCTAG-3’(配列番号7)、5’-TGTACGCGCCTAG-3’(配列番号8)、5’-TGTACGCGGCTAG-3’(配列番号9)、及び5’-TGTGCGCGTCTAG-3’(配列番号10)からなる群より選択される塩基配列を含む。
(i)のポリヌクレオチドは、特に制限されないが、配列番号6~10のいずれかで表される塩基配列(すなわち、5’-TGTACGCGTCTAG-3’、5’-TGTCCGCGTCTAG-3’、5’-TGTACGCGCCTAG-3’、5’-TGTACGCGGCTAG-3’、及び5’-TGTGCGCGTCTAG-3’で表される塩基配列のいずれか)を2つ以上含むことができる。(i)のポリヌクレオチドは、特定の塩基配列(例えば、配列番号6で表される塩基配列)を繰り返して2つ以上含むものであってもよいし、或いは2種類以上の別個の塩基配列(例えば、配列番号6で表される塩基配列と配列番号7で表される塩基配列)をそれぞれ1つ又は繰り返して2つ以上含むものであってもよい。
(i)のポリヌクレオチドに含まれる配列番号6~10のいずれかで表される塩基配列の数は、特に限定されないが、例えば、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、9つ以上、又は10以上であり、好ましくは4つ以上、6つ以上、又は8つ以上である。(i)のポリヌクレオチドに含まれる配列番号6~10のいずれかで表される塩基配列の数の上限値としては、特に限定されないが、例えば、30以下、25以下、20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、15以下、14以下、13以下、12以下、又は11以下である。(i)のポリヌクレオチドに含まれる配列番号6~10のいずれかで表される塩基配列の数は、例えば、2~30、3~20、4~19、5~18、6~17、7~16、又は8~15である。
(i)のポリヌクレオチドは、10以上のヌクレオチドからなるものであってもよい。(i)のポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドの数は、特に限定されないが、例えば、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、60以上、70以上、80以上、90以上、又は100以上である。
また、(i)のポリヌクレオチドは、500以下のヌクレオチドからなるものであってもよい。(i)のポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドの数は、特に限定されないが、例えば、450以下、400以下、350以下、300以下、250以下、200以下、150以下、140以下、130以下、又は120以下である。
(i)のポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドの数は、特に限定されないが、例えば、10~500、20~300、30~250、40~200、50~150、60~140、又は70~130である。
(i)のポリヌクレオチドは、二本鎖であっても一本鎖であってもよく、特に制限されないが、二本鎖であることが好ましい。また、二本鎖である場合、(i)のポリヌクレオチドは、DNAの二本鎖であってもよいし、RNAの二本鎖であってもよいし、或いはDNA:RNAの二本鎖であってもよく、特に制限されないが、好ましくはDNAの二本鎖である。
本発明の方法では、(ii)(i)のポリヌクレオチドと配列同一性が90%以上の塩基配列からなり、且つ遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチド、を用いることもできる。
(ii)のポリヌクレオチドは、(i)のポリヌクレオチドと配列同一性が90%以上の塩基配列からなるが、好ましくは、ポリヌクレオチド(i)と配列同一性が91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の塩基配列からなる。
本明細書において塩基配列の同一性とは、対象とする2つの核酸間の塩基配列の同一性をいい、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて作成された塩基配列の最適なアラインメントにおいて一致する塩基の割合(%)によって表される。塩基配列の同一性は、視覚的検査及び数学的計算により決定することができる。また、コンピュータープログラムを用いて同一性を決定することもできる。配列比較コンピュータープログラムとしては、当業者に周知のホモロジー検索プログラム(例えば、BLAST、FASTA)や配列整列プログラム(例えば、Clustal W))、あるいは遺伝情報処理ソフトウェア(例えば、GENETYX(登録商標))などを用いることができる。本明細書における塩基配列の同一性は、具体的には、JSpieciesのウェブサイト(http://imedea.uib-csic.es/jspecies/)で公開されている解析プログラム(BLASTソフトウェアに基づいたJSpieciesプログラム(Richter, M., and Rossello-Mora, R. 2009. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106: 19126-19131))を用いて、デフォルトの設定条件で求めることができる。
(ii)のポリヌクレオチドは、遺伝子の発現を高める作用を有することを特徴とする。本発明において、遺伝子の発現を高める作用は、プロモーターの下流に位置する遺伝子の発現量により調べることができる。すなわち、(ii)のポリヌクレオチドがプロモーターに挿入(又は連結)されていない状態でのプロモーター下流の遺伝子の発現量と比較して、(ii)のポリヌクレオチドがプロモーターに挿入(又は連結)されている状態(それ以外は全て同一の条件)でのプロモーター下流の遺伝子の発現量の方が多い場合に、(ii)のポリヌクレオチドは遺伝子の発現を高める作用を有すると判断することができる。遺伝子の発現を高める作用を評価するために使用されるプロモーターの種類は特に限定されないが、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35S最小プロモーターなどを用いることができる。
(i)のポリヌクレオチド及び(ii)のポリヌクレオチドはいずれも、当業者に公知の方法に従って、ポリヌクレオチド鎖として化学合成することができる。これらのポリヌクレオチドは、自ら合成したものを使用してもよいし、委託先にて製造されたものを使用してもよく、特に制限されない。
本発明の方法では、上述した(i)又は(ii)のポリヌクレオチドを、プロモーターに対して作動可能に挿入する、又は作動可能に連結させる工程が含まれる。本明細書においてプロモーターとは、遺伝子の転写部位を決定し、また遺伝子の転写の頻度を直接的に調節するDNA上の領域を意味し、RNAポリメラーゼの結合によって遺伝子の転写が開始される。本明細書において「(i)又は(ii)のポリヌクレオチドを、プロモーターに対して作動可能に挿入する、又は作動可能に連結させる」とは、プロモーターがその機能を発揮するように、すなわち、対象とする遺伝子の転写を行うように、(i)又は(ii)のポリヌクレオチドを、プロモーター内に挿入する、又はプロモーターに連結させることを意味する。
(i)又は(ii)のポリヌクレオチドがプロモーター内に作動可能に挿入されている場合、当該ポリヌクレオチドは、プロモーターの中央部分、プロモーターの中央部分より5’末端側、及びプロモーターの中央部分より3’末端側のいずれの位置に挿入されていてもよい。(i)又は(ii)のポリヌクレオチドの挿入位置は、特に限定されないが、プロモーター内の転写開始規定領域よりも上流であることが好ましい。ここで、本明細書において転写開始規定領域とは、プロモーター下流の遺伝子の転写の開始位置を規定する塩基配列を意味する。転写開始規定領域は、多くの場合、転写開始の際にRNAポリメラーゼ(真核生物の場合はRNAポリメラーゼII)によって認識される。また、転写開始規定領域は、RNAポリメラーゼによって間接的に(例えば、複合体等を形成することによって)認識されることがある。本発明では、プロモーター内に転写開始規定領域が2つ以上存在する場合は、特に限定されないが、最も転写開始位置に近い転写開始規定領域を対象とすることが好ましい。本発明において、上記の転写開始規定領域は、TATAボックス領域であってもよい。ここで、本明細書においてTATAボックス領域とは、複数のチミン(T)及びアデニン(A)を含み、プロモーター下流の遺伝子の転写の開始位置を規定する塩基配列を意味する。TATAボックス領域も、多くの場合、転写開始の際にRNAポリメラーゼ(真核生物の場合はRNAポリメラーゼII)によって認識される。また、TATAボックス領域は、RNAポリメラーゼによって間接的に(例えば、複合体等を形成することによって)認識されることがある。本発明においてTATAボックス領域は、真核生物又は古細菌に由来するTATAボックス領域のみならず、原核生物に由来するものも利用することができる。TATAボックス領域の具体的な塩基配列としては、例えば5’-TATAA(又はT)AA(又はT)-3’などが挙げられるが、特に限定されるわけではない。
本発明において転写開始規定領域の位置は、プロモーターの種類等に応じて適宜設定することができ、特に制限されない。本発明において転写開始規定領域の位置は、例えば、遺伝子の転写開始点の10bp上流の位置(-10bp)、20bp上流の位置(-20bp)、25bp上流の位置(-25bp)、30bp上流の位置(-30bp)、35bp上流の位置(-35bp)、40bp上流の位置(-40bp)、50bp上流の位置(-50bp)、60bp上流の位置(-60bp)、70bp上流の位置(-70bp)、80bp上流の位置(-80bp)、90bp上流の位置(-90bp)、100bp上流の位置(-100bp)である。すなわち、本発明ではこれらの位置よりも上流に(i)又は(ii)のポリヌクレオチドを挿入することができる。
(i)又は(ii)のポリヌクレオチドがプロモーターに作動可能に連結されている場合、当該ポリヌクレオチドは、プロモーターと直接的に(隣接して)連結されていてもよいし、1又は2以上のヌクレオチドを介して連結されていてもよい。また、(i)又は(ii)のポリヌクレオチドの連結位置は、特に限定されないが、プロモーターの上流であることが好ましい。
(i)又は(ii)のポリヌクレオチドが作動可能に挿入される、又は作動可能に連結されるプロモーターとしては、特に限定されないが、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(CaMV35S)、ribulose 1,5-bisphosphate carboxylaseの小サブユニット遺伝子(rbcS)プロモーター、ユビキチンプロモーター、アクチンプロモーター、翻訳開始因子プロモーター、翻訳伸長因子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター、又はオレオシン遺伝子プロモーター等が挙げられる。
また、(i)又は(ii)のポリヌクレオチドが作動可能に挿入される、又は作動可能に連結されるプロモーターとしては、植物において部位特異的に発現させる機能を有するプロモーターも用いることができる。そのようなプロモーターとしては、葉部特異的に核酸を発現するプロモーター(例えば、イネpsb0遺伝子プロモーター(特開2010-166924))、茎部特異的に核酸を発現するプロモーター(例えば、シロイヌナズナFA6プロモーター(Gupta et al. 2012 Plant Cell Rep. 31: 839-850.))、根部特異的に核酸を発現するプロモーター(例えば、RCc3プロモーター(Xu et al. 1995 Plant Mol Biol 27: 237-248))、主に根、茎、葉の栄養器官で発現するプロモーター(例えば、シロイヌナズナASプロモーター)等が挙げられる。
また、本発明においては、誘導性プロモーターも使用可能である。かかる誘導性プロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、オーキシンやブラシノステロイドといったホルモン等の特定の化合物の散布等の外因によって発現することが知られているプロモーター等が挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーター(Xu et al. 1996 Plant Mol.Biol. 30:387)やタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター(Ohshima et al. 1990 Plant Cell 2: 95)、低温によって誘導されるイネのlip19遺伝子のプロモーター(Aguan et al. 1993 Mol. Gen. Genet. 240:1)、高温によって誘導されるイネのhsp80遺伝子とhsp72遺伝子のプロモーター(Van Breusegem et al. 1994 Planta 193: 57)、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナのrab16遺伝子のプロモーター(Nundy et al. 1990 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 1406)、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefert et al. 1989 EMBO J. 8: 651)、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Walker et al. 1987 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 6624)、塩ストレスによって誘導されるプロモーター(Shinozaki and Yamaguchi-Shinozaki. 2000 Curr. Opin. Plant Biol. 3, 217-223)等が挙げられる。
(i)又は(ii)のポリヌクレオチドのプロモーター内への挿入、または、プロモーターとの連結は、特に制限されないが、例えば、制限酵素等による核酸の切断やライゲーションなどを利用して行うことができる。(i)又は(ii)のポリヌクレオチドがプロモーター内に作動可能に挿入されている、或いはプロモーターと作動可能に連結している状態での発現ベクターを作製すれば、当該発現ベクターを宿主細胞に導入することによって、プロモーターの下流に位置する遺伝子の発現を行うことができる。発現ベクターは、例えば、ポリエチレングリコール法、アグロバクテリウム法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(エレクトロポレーション)(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法により細胞内に導入することができる。そして、細胞内への発現ベクターの導入後、プロモーターの下流に位置する遺伝子の発現を行うことができる。細胞内へのベクター導入に関して、本発明においては、アグロバクテリウム法を好ましく使用することができる。植物細胞内に核酸を導入する場合、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法等を用いて直接的に核酸を導入することもできるが、植物への遺伝子導入用プラスミドに組込み、これをベクターとして、植物感染能のあるウイルスあるいは細菌を介して、間接的に植物細胞に導入することもできる。かかるウイルスとしては、例えば、代表的なウイルスとして、カリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルス、ジェミニウイルス等が挙げられ、細菌としては、アグロバクテリウム等が挙げられる。アグロバクテリウム法により、植物への遺伝子導入を行う場合には、市販のプラスミドを用いることができる。
宿主細胞内で対象の遺伝子を発現させる他の方法としては、(i)又は(ii)のポリヌクレオチドを、例えば、ポリエチレングリコール法、アグロバクテリウム法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(エレクトロポレーション)(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法により細胞内に導入し、当該遺伝子のプロモーター内に作動可能に挿入する方法、または、当該遺伝子のプロモーターと作動可能に連結させる方法が挙げられる。植物細胞内に核酸を導入する場合、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法等を用いて直接的に核酸を導入することもできるが、植物への遺伝子導入用プラスミドに組み込み、これをベクターとして、植物感染能のあるウイルスあるいは細菌を介して、間接的に植物細胞に導入することもできる。かかるウイルスとしては、例えば、代表的なウイルスとして、カリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルス、ジェミニウイルス等が挙げられ、細菌としては、アグロバクテリウム等が挙げられる。アグロバクテリウム法により、植物への遺伝子導入を行う場合には、市販のプラスミドを用いることができる。
(i)又は(ii)のポリヌクレオチドを、対象の遺伝子のプロモーター内に作動可能に挿入するため、または、対象の遺伝子のプロモーターと作動可能に連結するためには、宿主細胞のゲノムの標的部位に核酸を挿入するジーンターゲティングの手法、または、ゲノム編集(Gene editing、または、Genome editing)の手法を用いることができる。ジーンターゲティングの手法には、例えば、相同組換えを利用する方法がある(Terada et al., 2007, Plant Physiology 144, 846-856)。ゲノム編集の手法は、宿主細胞のゲノムの標的部位を特異的に切断することができる酵素、例えば、CRISPR/CAS(Endo et al, 2016, Plant physiology 170, 667-677)、TALENS(Wang et al, 2014, Nature biotechnology 32, 947-951)、Zincfinger Nuclease(Duda et al. 2014, Nucleic acids research 42, e84-e84)、Mega-nuclease(Popplewell et al, 2013, Human gene therapy 24, 692-701)などを用いる手法である。この手法では、核酸を宿主細胞に導入する際に、上記の酵素若しくはその構成要素、または上記の酵素若しくはその構成要素をコードする核酸を当該宿主細胞にさらに導入して標的部位を切断し、その切断修復過程において、当該核酸を標的部位に挿入するものである(Osakabe and Osakabe, 2015, Plant and Cell Physiology 56, 389-400)。
本発明は、遺伝子の発現を高める方法であり、遺伝子の発現を高める効果は、プロモーターに挿入または連結された(i)又は(ii)のポリヌクレオチドの有無により調べることができる。すなわち、(i)又は(ii)のポリヌクレオチドがプロモーターに挿入(又は連結)されていない状態でのプロモーター下流の遺伝子の発現量と比較して、(i)又は(ii)のポリヌクレオチドがプロモーターに挿入(又は連結)されている状態(それ以外は全て同一の条件)でのプロモーター下流の遺伝子の発現量の方が多い場合に、遺伝子の発現が高められていると判断することができる。なお、本明細書において「遺伝子の発現を高める」とは、「遺伝子の発現を増強する」或いは「遺伝子の発現量を増加させる」と同義である。
本発明において発現の対象となる遺伝子は、プロモーターの下流に位置していればよく、プロモーターと直接的に(隣接して)連結されていてもよいし、1又は2以上のヌクレオチドを介して連結されていてもよい。
本発明において、(i)のポリヌクレオチド及び(ii)のポリヌクレオチドはいずれも、プロモーター及びその下流の遺伝子に対して同種(homogenous)であっても異種(heterogenous)であってもよいが、異種であることが好ましい。本発明で用いられるプロモーターは、発現対象となる遺伝子と同種であってもよいし、異種であってもよい。また、本発明においてプロモーターは、(i)又は(ii)のポリヌクレオチドが導入される細胞に内在するプロモーターであってもよい。
本発明の方法において、遺伝子の発現は一過的発現(一過性発現)であってもよい。本明細書において一過的発現とは、遺伝子の発現が一時的に生じること、或いはその発現量が一時的に増加することを意味する。本発明における一過的発現の時間(遺伝子の発現が生じている時間、又は遺伝子の発現量が増加している時間)は、特に限定されないが、例えば、1~60時間、3~48時間、5~42時間、又は6~36時間である。
また、本発明の方法では、遺伝子の発現は植物細胞内、或いは動物細胞内で行われてもよく、特に制限されないが、植物細胞内で行われることが好ましい。かかる植物細胞には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、植物体中の細胞等が含まれる。
植物細胞は、特に限定されないが、双子葉植物由来又は単子葉植物由来の細胞を用いることができる。双子葉植物としては、シロイヌナズナ、ダイズ、ワタ、ナタネ、テンサイ、タバコ、トマト、ダイコン、ブドウ、又はポプラなどが挙げられ、これらのうち好ましくはシロイヌナズナ、ダイズ、ワタ、ナタネ、タバコ、又はトマトであり、さらに好ましくはシロイヌナズナ、ダイズ、ワタ、又はナタネである。単子葉植物としては、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ソルガム、サトウキビ、又はタマネギなどが挙げられ、これらのうち好ましくはイネ、トウモロコシ、コムギ、又はソルガムであり、より好ましくはイネ又はトウモロコシである。また、植物細胞は、種子植物由来の細胞を用いてもよい。
上述した通り、本発明の方法では、(i)又は(ii)のポリヌクレオチドと当該ポリヌクレオチドが作動可能に挿入又は連結されたプロモーターとを含み、且つ当該プロモーターの下流に遺伝子が配置された核酸分子が、細胞内において提供され得る。そして、当該核酸分子を含む細胞内で、対象の遺伝子を発現させ、その発現を高めることができる。
<プロモーターエレメント>
本発明の別の一態様は、以下の(i)又は(ii)のポリヌクレオチド:
(i)5’-ACGCGT-3’(配列番号1)、5’-CCGCGT-3’(配列番号2)、5’-ACGCGC-3’(配列番号3)、5’-ACGCGG-3’(配列番号4)、及び5’-GCGCGT-3’(配列番号5)からなる群より選択される塩基配列を含むポリヌクレオチド;又は
(ii)(i)のポリヌクレオチドと配列同一性が90%以上の塩基配列からなり、且つ遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチド;
を含む、プロモーターエレメントである。
本明細書においてプロモーターエレメントとは、プロモーターと共存している場合に、当該プロモーターの下流に位置する遺伝子の発現を高める因子を意味する。本発明において、プロモーターエレメントとプロモーターとは互いに異なる概念である。本発明のプロモーターエレメントは、プロモーター内に挿入、又はプロモーターに連結されたときに、当該プロモーターの下流に位置する遺伝子の発現を高めることができる。
本発明のプロモーターエレメントに含まれる(i)又は(ii)のポリヌクレオチドは、上記に説明した通りである。上記の通り、(i)のポリヌクレオチドは、配列番号1~5のいずれかで表される塩基配列を2つ以上含むことができ、その塩基配列の具体的な数も上述した通りである。また、上記の通り、(i)のポリヌクレオチドは、リンカー部をさらに含むことができ、リンカー部に関しても、上記に説明した通りである。また、上記の通り、(i)のポリヌクレオチドは、10以上のヌクレオチドからなるものであってもよいし、500以下のヌクレオチドからなるものであってもよい。(i)のポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドの具体的な数も上述した通りである。その他、本発明のプロモーターエレメントに関して考慮されるべき用語、材料、手法等も上記の説明及び定義等に準じて解釈される。
<プロモーターエレメントを含む核酸コンストラクト>
本発明のプロモーターエレメントは、プロモーターと組み合わせた上で核酸コンストラクトとして利用することができる。すなわち、本発明の別の一態様は、上述した本発明のプロモーターエレメントとプロモーターとを含む核酸コンストラクトである。本発明の核酸コンストラクトは、上記のプロモーターエレメントを利用して、プロモーターの下流に位置する遺伝子の発現を高めることができる。
本発明の核酸コンストラクトにおけるプロモーターは、上記に説明した通りであり、対象とする遺伝子の転写を行うことができる限り特に限定されない。本発明の核酸コンストラクトにおけるプロモーターエレメントは、プロモーターに対して同種(homogenous)であっても異種(heterogenous)であってもよいが、異種であることが好ましい。
本発明の核酸コンストラクトにおいて、プロモーターエレメントは、プロモーター内に作動可能に挿入されていてもよいし、或いはプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。ここで、本明細書において「プロモーターエレメントがプロモーター内に作動可能に挿入されている、又はプロモーターに作動可能に連結されている」とは、プロモーターエレメントがその機能を発揮するように、すなわち、対象とする遺伝子の転写を行うように、プロモーターエレメントがプロモーター内に挿入されている、又はプロモーターエレメントに連結されていることを意味する。
プロモーターエレメントがプロモーター内に作動可能に挿入されている場合、当該プロモーターエレメントは、プロモーターの中央部分、プロモーターの中央部分より5’末端側、及びプロモーターの中央部分より3’末端側のいずれの位置に挿入されていてもよく、その位置は特に制限されない。プロモーターエレメントの挿入位置は、特に限定されないが、プロモーター内の転写開始規定領域よりも上流であることが好ましい。転写開始規定領域及びその具体的な位置については、上記の本発明の方法において説明した通りである。
プロモーターエレメントがプロモーターに作動可能に連結されている場合、当該プロモーターエレメントは、プロモーターと直接的に(隣接して)連結されていてもよいし、1又は2以上のヌクレオチドを介して連結されていてもよい。また、プロモーターエレメントの連結位置は、特に限定されないが、プロモーターの上流であることが好ましい。その他、本発明の核酸コンストラクトに関して考慮されるべき用語、材料、手法等も上記の説明及び定義等に準じて解釈される。
<ベクター>
上述した本発明のプロモーターエレメントは、ベクター内に挿入して利用することができる。すなわち、本発明の別の態様は、本発明のプロモーターエレメントを含むベクターである。なお、上述した本発明の核酸コンストラクトも、ベクター内に挿入して利用することができる。そのため、本発明は、更なる別の態様として、上述した本発明の核酸コンストラクトを含むベクターを提供することができる。
ベクターは、簡便には当業界において入手可能な組換え用ベクターに所望の核酸を常法により連結することによって、調製することができる。本発明のベクターは、形質転換用ベクターであることが好ましく、特に植物細胞に適用する場合、本発明のベクターは、植物形質転換用ベクターであることが好ましい。本発明で使用されるベクターとしては、特に限定されないが、例えば、pBI系のベクター、pBluescript系のベクター、pUC系のベクター等を使用できる。pBI系のベクターとしては、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3、pBI221などが挙げられる。pBI系のベクター等のバイナリーベクターは、アグロバクテリウムを介して植物に目的の核酸を導入できるという点で好ましい。また、pBluescript系のベクターとしては、例えば、pBluescript SK(+)、pBluescript SK(-)、pBluescript II KS(+)、pBluescript II KS(-)、pBluescript II SK(+)、pBluescript II SK(-)などが挙げられる。pUC系のベクターとしては、pUC19、pUC119等を挙げることができる。pBluescript系のベクター、pUC系ベクターは、植物に核酸を直接導入することができるという点で好ましい。さらにはpGreenシリーズ(www.pgreen.ac.uk)、pCAMBIAシリーズ(www.cambia.org)、pLCシリーズ(国際公開第2007/148819号)などのバイナリーベクターや、pSB11(Komari et al, 1996, Plant J, 10: 165-174)、pSB200(Komori et al, 2004, Plant J, 37: 315-325)などのスーパーバイナリーベクターも好ましく使用することができる。
また、本発明のベクターは、転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含む転写ターミネーター配列を含むことが好ましい。当業者は、転写ターミネーター配列を適切に選択することができる。
転写ターミネーター配列は、転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。転写ターミネーター配列は、使用するプロモーターに応じて選択可能であり、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)等を用いることができる。組換え発現ベクターにおいては、転写ターミネーター配列を適当な位置に配置することにより、細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成する現象等の発生を防止することができる。
また、本発明のベクターには、他の核酸セグメントがさらに含まれていてもよい。当該他の核酸セグメントとしては、特に限定されるものではないが、選抜マーカーや、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、本発明のベクターは、LBやRBのボーダー配列をさらに含んでいてもよい。これらボーダー配列は、特にアグロバクテリウムを用いてベクター内の所望の核酸コンストラクトを植物体に導入する場合に、T-DNA領域の植物細胞への移行に必要である。
選抜マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。かかる薬剤耐性遺伝子としては、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる(抗生物質カナマイシン又はゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子)。また、除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等も利用可能である。これにより、上記抗生物質や除草剤を含む培地中で生育する植物体を選択することによって、本発明のベクターの一部または全部が導入された植物体を容易に選抜することができる。
翻訳効率を高めるための塩基配列としては、例えばタバコモザイクウイルス由来のomega配列を挙げることができる。このomega配列をプロモーター下流の非翻訳領域(5’UTR)に配置させることによって、遺伝子の翻訳効率を高めることができる。また、アルコールデヒドロゲナーゼなどの植物由来の5’UTRをプロモーター下流に配置させることによって、遺伝子の翻訳効率を高めることができる。このように、本発明のベクターには、その目的に応じて、さまざまな核酸セグメントを含ませることができる。
本発明のベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに、本発明のプロモーターエレメント、プロモーター、対象遺伝子、及びターミネーター配列、並びに必要に応じて他の核酸セグメントを所定の順序となるように導入すればよい。核酸を母体となるベクターに挿入するには、常法にしたがい、精製された核酸を適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入する方法などが用いられる(例えば、Molecular Cloning, 5.61-5.63)。
当業者においては、所望の遺伝子を有するベクターを、一般的な遺伝子工学技術によって、適宜、作製することが可能である。通常、市販の種々のベクターを利用することにより容易に作製できる。その他、本発明のベクターに関して考慮されるべき用語、材料、手法等は上記の説明及び定義等に準じて解釈される。
<宿主細胞>
本発明のプロモーターエレメントは、細胞(宿主細胞)に導入することができる。すなわち、本発明の別の一態様は、本発明のプロモーターエレメントを含む宿主細胞である。本発明のプロモーターエレメントは、宿主細胞に対して外因的に(exogenously)(すなわち、外因性の物質として)、宿主細胞に含まれることが好ましい。なお、上述した本発明の核酸コンストラクト及びベクターも、細胞(宿主細胞)に導入することができる。そのため、本発明は、更なる別の態様として、上述した本発明の核酸コンストラクト又は本発明のベクターを含む宿主細胞を提供することができる。
本発明の宿主細胞は、動物細胞であってよいし、或いは植物細胞であってもよく、特に限定されないが、本発明では、本発明の宿主細胞は植物細胞であることが好ましい。かかる植物細胞には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、植物体中の細胞等が含まれる。植物細胞の具体的な種類等に関しては、上記の本発明の方法において説明した通りである。
本発明のプロモーターエレメントは、本発明のベクターを利用して宿主細胞に導入することができる。ベクターの宿主細胞への導入方法は、特に制限されるわけではないが、上記に説明した通りである。また、本発明のプロモーターエレメントは、ベクターを利用せずに宿主細胞に導入することができ、その導入方法も、上記の本発明の方法において(i)又は(ii)のポリヌクレオチドに関して説明した通りである。その他、本発明の宿主細胞に関して考慮されるべき用語、材料、手法等も上記の説明及び定義等に準じて解釈される。
<植物>
本発明のプロモーターエレメントは、植物の中に導入することができる。すなわち、本発明の別の一態様は、本発明のプロモーターエレメントが導入された植物である。本発明のプロモーターエレメントは、遺伝子の発現を高める作用を有しており、結果としてプロモーター下流の遺伝子の発現量を増大させることができる。例えば、当該遺伝子が植物の生産性の向上に寄与する遺伝子であれば、本発明のプロモーターエレメントが導入された植物では、その植物の生産性を向上させることができる。なお、上述した本発明の核酸コンストラクト及びベクターも、植物に導入することができる。そのため、本発明は、更なる別の態様として、上述した本発明の核酸コンストラクト又は本発明のベクターを含む植物を提供することができる。
本発明の植物には、植物体の全体のみならず、植物器官(例えば、根、茎、葉、花弁、種子、果実、完熟胚、未熟胚、胚珠、子房、茎頂、葯、花粉等)、植物組織(例えば、表皮、篩部、柔組織、木部、維管束等)、これらの切片、カルス、苗条原基、実生、多芽体、毛状根及び培養根等のいずれもが含まれる。
本発明の植物は、単子葉植物であってもよいし、或いは双子葉植物であってもよい。単子葉植物としては、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ソルガム、サトウキビ、又はタマネギなどが挙げられ、これらのうち好ましくはイネ、トウモロコシ、コムギ、又はソルガムであり、より好ましくはイネ又はトウモロコシである。双子葉植物としては、シロイヌナズナ、ダイズ、ワタ、ナタネ、テンサイ、タバコ、トマト、ダイコン、ブドウ、又はポプラなどが挙げられ、これらのうち好ましくはシロイヌナズナ、ダイズ、ワタ、ナタネ、タバコ、又はトマトであり、さらに好ましくはシロイヌナズナ、ダイズ、ワタ、又はナタネである。また、本発明の植物は、種子植物であってもよい。
本発明の植物には、本発明のプロモーターエレメントが導入された植物細胞を生育させた植物体、及び当該植物体の後代、子孫またはクローンである植物、並びにこれらの繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)が含まれる。本発明のプロモーターエレメントは、特に限定されないが、上述した通りの方法で植物細胞(宿主細胞)に導入することができる。
植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。植物細胞を再分化させて植物体を再生させる方法としては、特に制限されないが、例えばイネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))の方法が挙げられる。上記手法により再生され、かつ栽培した植物体中の導入された外来核酸の存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって、又は植物体中のDNAの塩基配列を解析することによって確認することができる。この場合、植物体からのDNAの抽出は、公知のJ. Sambrookらの方法(Molecular Cloning、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989;第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)にしたがって実施することができる。
本発明のプロモーターエレメントが導入された植物体が得られれば、該植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のプロモーターエレメントが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫及びクローン、並びに該植物体、その子孫、及びクローンの繁殖材料が含まれる。すなわち、本発明には、導入処理を施した再分化当代である「T0世代」やT0世代の植物の種子である「T1世代」などの後代植物や、それらを片親にして交配した雑種植物やその後代植物が含まれる。その他、本発明の植物に関して考慮されるべき用語、材料、手法等は上記の説明及び定義等に準じて解釈される。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
実験例1.インシリコスクリーニングによる「遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチド」の同定
高発現している遺伝子のプロモーター(上流領域)には発現を高める作用を有する配列が存在する、という仮説に基づき、公開トランスクリプトーム情報等を用いて遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチドのインシリコスクリーニングを行った。
用いたトランスクリプトームの発現量データセットおよびそのメタ情報は、RNAシーケンシング法により解析されたシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のものであり、WebデータベースPlant Omics Data Center(PODC; http://plantomics.mind.meiji.ac.jp/podc/; Ohyanagi et al., 2015)より取得した。メタデータには、各データポイントが由来するシロイヌナズナ試料に関する部位(器官、組織)や生育条件、生育ステージなどの情報を統一的な語句およびID番号で表記したPlant Ontology(PO)の情報が含まれる。
まず、上記のトランスクリプトーム発現量データセットを、POにより記述された解剖学的な試料の属性(すなわち、組織や器官)によって分類したサブセットに分割した。各サブセットにおいて、それぞれの遺伝子を平均発現量によりランク付けした。さらにサブセット間で平均ランクを算出し、いずれのサブセット(すなわち、シロイヌナズナ植物体のいずれの部位)でもおしなべて発現量が高い上位100個の遺伝子を選抜した。
各遺伝子の最上流にある翻訳開始点を起点として上流1 kbをプロモーター領域として設定し、プロモーター領域内における7塩基から11塩基長の配列の出現頻度を全遺伝子でカウントした。各配列の出現頻度を、上記100遺伝子とそれ以外のすべての遺伝子とで、フィッシャーの正確確率検定により比較解析し、7から11塩基長のそれぞれの配列から、最もP値が低く、且つ上記100遺伝子でより出現頻度の高い合計1,000個の配列を取得した。これら1,000個の配列を、類似した配列に分類して配列モチーフモデルを構築するため、MEMEソフトウェア(http://meme-suite.org/; Bailey and Elkan, 1994)を用いて解析した。なお、MEMEソフトウェアは仕様上、8塩基長未満の長さの配列は扱えないため、7塩基長の配列は、前後にNを追加した9塩基長の配列として解析した。
構築した配列モチーフモデルのプロモーター領域における出現頻度を、再度全遺伝子でカウントし、上記100遺伝子とそれ以外のすべての遺伝子とで、フィッシャーの正確確率検定により比較解析した。その結果、シロイヌナズナ植物体のいずれの部位でもおしなべて発現量が高い上位100遺伝子のプロモーター領域で有意(フィッシャー正確確率検定、5%有意水準)に高頻度に出現すると判定された配列モチーフモデルを、遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチド候補とした。後述のプロモーターエレメント(Element X)は、その候補の1つとして得られたものである。
実験例2.発現ベクターの構築
発現ベクター(一過的発現用ベクター)は、以下の通り作製した(図1、図2)。
pUC119ベクターのHind III/Sac I認識部位の間に、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの最小プロモーター領域(35Smin)、ホタル由来ルシフェラーゼをコードする遺伝子(LUC)、及びアグロバクテリウム由来ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)をタンデムに連結したものを導入して、pUC119-35Smin-LUCを作出した(図1A)。また、35Sminの代わりにPisum sativumのribulose 1,5-bisphosphate carboxylaseの小サブユニット遺伝子の最小プロモーター領域(rbcS3Amin)を導入したpUC119-rbcS3Amin-LUCも作出した。
プロモーターエレメントを含む発現ベクターは、pUC119-35Smin-LUCのHind III/EcoRV認識部位の間に当該エレメントを導入することにより作製した。図2に示したようにプロモーターエレメントとリンカー部とからなる最小単位を設計し、この最小単位を複数連結したものを導入したベクターを作製した。本実験例では、プロモーターエレメントとして、5’-ACGCGT-3’で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドをElement Xと命名し、これにリンカー部として5’-TGT-3’および5’-CTAG-3’をそれぞれElement Xの5’側および3’側に結合したものを準備した。pUC119-EX4-35Smin-LUCでは、pUC119ベクターのHind III/EcoRV認識部位の間に最小単位を4つ連結したものを導入した(図1B、図2)。また、変異型のエレメントとして、図2に示した通りmElement Xとリンカー部とからなる最小単位を準備し、この変異型エレメントについても同様に、pUC119ベクターのHind III/EcoRV認識部位の間に最小単位を4つ連結したものを導入し、pUC119-mEX4-35Smin-LUCを作出した。また、pUC119-rbcS3Amin-LUCに対して、Element Xの最小単位を4つ連結したものを導入したpUC119-EX4-rbcS3Amin-LUCと、mElement Xの最小単位を4つ連結したものを導入したpUC119-mEX4-rbcS3Amin-LUCも作出した。
pUC119-P35S-RLUCは、pUC119ベクターのHind III/Sac I認識部位の間に、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(P35S)、ウミシイタケ由来ルシフェラーゼをコードする遺伝子(RLUC)、及びTnosをタンデムに連結したものを導入して作製した(図1C)。35Sminは、35Sプロモーターの転写開始点を基準として-46から-1塩基の領域であり、転写開始を規定するTATA-boxを含み、非常に弱いプロモーター活性を示すことを特徴としている(Odell, J.T., Nagy, F., and Chua, N.-H. [1985]. Nature 313, 810-812)。rbcS3Aminは、Pisum sativumのribulose 1,5-bisphosphate carboxylaseの小サブユニット遺伝子(rbcS)の転写開始点を基準として-50から+15塩基の領域であり、転写開始を規定するTATA-boxを含み、弱いプロモーター活性を示すことを特徴としている(Kuhlemeier, C., Strittmatter, G., Ward, K., and Chua, N.-H. [1989]. Plant Cell 1, 471-478)。ここで用いたP35Sは、35Sプロモーターの転写開始点を基準として-343から-1塩基の領域であり、全長の35Sプロモーターと同程度の強い発現を示すことを特徴としている(Odell, J.T., Nagy, F., and Chua, N.-H. [1985]. Nature 313, 810-812)。
実験例3.パーティクルガン法を用いた一過的発現系におけるElement Xの効果
実験例2で作出した発現ベクター、すなわち、pUC119-35Smin-LUC(Empty)、pUC119-EX4-35Smin-LUC(EX4)、pUC119-mEX4-35Smin-LUC(mEX4)、pUC119-rbcS3Amin-LUC(Empty_R)、pUC119-EX4-rbcS3Amin-LUC(EX4_R)、pUC119-mEX4-rbcS3Amin-LUC(mEX4_R)、及びpUC119-35S-RLUCを用いて、以下の通りElement Xが遺伝子発現に対して与える効果を調べた。Empty、EX4、mEX4、Empty_R、EX4_R、及びmEX4_Rは試験レポーターベクターとして用い、pUC119-P35S-RLUCは、試験レポーターの標準化のためのコントロールレポーターベクターとして用いた。
パーティクルガン法によるベクター導入は、PDS-1000/Heシステム(Bio-Rad)を用いて、試験レポーターベクター及びコントロールレポーターベクター(混合比2:1)でコートした1μm径金粒子(Bio-Rad)を、播種後10日目のシロイヌナズナ(Col-0)の地上部に打ち込むことで行った。打ち込みをしてから24時間後に植物体全体をサンプリングし、速やかに液体窒素中で凍結した。
レポーター活性の測定は次のように行った。植物体サンプルを液体窒素中で粉砕し、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)とMithras LB940(Berthold)を用いて、サンプル中のLUC活性及びRLUC活性を発光により測定した。試験レポーターベクターでのレポーター活性を標準化するため、RLUCによる発光あたりのLUCによる発光(相対レポーター活性)を算出した。
その結果、EX4はEmptyとmEX4とに比べて有意に高い発現を示した(図3A)。この結果から、Element Xはパーティクルガン法による一過的発現系において発現を高める作用を有することが示された。また、EX4_RはEmpty_RとmEX4_Rとに比べて有意に高い発現を示したことから(図3B)、Element Xの上記作用は、最小プロモーターの種類によらず発揮されることが示された。
実験例4.Element Xの作用効果に必要な塩基配列
Element Xの作用効果に必要な塩基配列を調べるため、Element Xに1塩基変異を導入したエレメントを設計した。そして、当該エレメントを繰り返して4つ連結した配列を35Sminの上流に導入した試験レポーターベクターシリーズ(ベクターA~L)を作製した(図4)。これらのベクターに加え、コントロールとしてEmptyとEX4とを用いて、シロイヌナズナ地上部に対して、パーティクルガン法による一過的発現アッセイを行った。ベクターの導入とレポーター活性の測定は、実験例3と同様にして行った。
その結果、ベクターB~KではEmptyと同等の低い発現しか検出されなかったことから(図4)、Element Xの6塩基すべてが遺伝子発現を高める作用に必要であることがわかった。一方、ベクターA及びベクターLではElement Xと同程度の高い発現が示されたことから(図4)、5’-ACGCGC-3’及び5’-CCGCGT-3’の配列もElement Xと同等の作用を有することが明らかとなった。Element Xの作用効果に必要な塩基配列は、5’末端及び3’末端の1塩基には多少のゆらぎがあるが、その間のCGCGの配列は不可変であることが示唆された。
実験例5.遺伝子発現に対するElement Xの効果の経時的変化
試験レポーターベクターとしてpUC119-EX4-35Smin-LUC(EX4)とpUC119-mEX4-35Smin-LUC(mEX4)を用い、コントロールレポーターベクターとしてpUC119-35Smin-LUC(Empty)を用い、パーティクルガン法でシロイヌナズナ地上部にベクターを導入してから3、6、12、24、36、及び48時間後におけるLUC活性とRLUC活性を測定し、試験レポーターベクターの相対レポーター活性を算出した。ベクターの導入とレポーター活性の測定は、実験例3と同様にして行った。
その結果、EX4は、3時間から48時間まで安定して、mEX4と比べて高い発現を示した(図5)。Element Xの発現上昇効果は、導入後速やかに発揮され、48時間後でも継続することが明らかになった。
実験例6.遺伝子発現に対するElement Xの作用効果の相加性と強さ
Element Xを2つ、4つ、又は8つ連結した配列を35Sminの上流に導入した試験レポーターベクターを作製した(EX2、EX4、EX8)。コントロールとしてmElement Xを2つ、4つ、又は8つ連結した配列を35Sminの上流に導入した試験レポーターベクターを作製した(mEX2、mEX4、mEX8)。これらのベクターを用いて、シロイヌナズナ地上部に対して、パーティクルガン法による一過的発現アッセイを行った。ベクターの導入とレポーター活性の測定は、実験例3と同様にして行った。
また、Element Xの発現上昇作用の強さを調べるため、35Sminよりも強力なプロモーターであることが知られている35Sプロモーター(P35S)を用いて試験を行った。ここで用いたP35Sは、実験例2と同様に、35Sプロモーターの転写開始点を基準として-343から-1塩基の領域である(Odell, J.T., Nagy, F., and Chua, N.-H. [1985]. Nature 313, 810-812)。具体的には、pUC119ベクターのHind III/Sac I認識部位の間に、35Sプロモーター(P35S)、LUC、及びTnosをタンデムに連結したものを導入して、試験用レポーターベクターを作出した(P35S-LUC; 図6)。この試験用レポーターベクターと、上記のEX4(Element Xを4つ連結した配列を35Sminの上流に導入した試験レポーターベクター)とを用いて、シロイヌナズナ地上部に対して、パーティクルガン法による一過的発現アッセイを行った。ベクターの導入とレポーター活性の測定は実験例3と同様にして行い、ベクターを導入してから3時間後におけるLUCとRLUC活性を測定し、相対レポーター活性を算出した。
Element Xを複数連結して発現上昇効果を調べた結果、連結数の増加にしたがって発現が高くなった(図7A)。一方、変異型のエレメントであるmElement Xでは、発現上昇は全く見られなかった(図7A)。これらの結果から、Element Xの発現上昇効果は相加的であることが示唆された。
また、P35Sを用いた試験用レポーターベクターとEX4との相対レポーター活性を比較したところ、両者の間に統計学的有意差は見られなかった(図7B)。この結果から、Element Xを4つ連結した配列は、35Sプロモーターと同程度の強い発現上昇作用を有することが示唆された。
実験例7.Element Xの導入位置の影響
Element Xを4つ連結した配列を、pUC119-35Smin-LUC(図1A)における35Sminの上流(Hind III/EcoR V認識配列間)、35SminとLUCとの間(Nco I認識配列)、又はTnosの下流(Sal I認識配列)に導入した試験レポーターベクターを作製した。これらのベクターを用いて、シロイヌナズナ地上部に対して、パーティクルガン法による一過的発現アッセイを行った。ベクターの導入とレポーター活性の測定は、実験例3と同様にして行った。
その結果、Element Xを4つ連結した配列を35Sminの上流に導入した場合にはEmptyと比較して有意に高い発現が観察されたが、35Sminの下流(すなわち、35SminとLUCとの間、及びTnosの下流)に導入しても発現上昇は生じなかった(図8)。これらの結果から、Element Xは35Sminの上流に導入すると、その下流の遺伝子の発現を高める作用を示すことが示唆された。
実験例8.Element Xの発現上昇効果の普遍性
シロイヌナズナの根、イネ(日本晴)の葉身、及びコムギ(Fielder)の葉身に対して、実験例3で使用したものと同じベクターを用いて一過的発現アッセイを行った。ベクターの導入とレポーター活性の測定は、実験例3と同様にして行った。シロイヌナズナの根は寒天培地で2週間栽培したものを用い、イネ及びコムギの葉身は土耕で2週間栽培したものを用いた。
その結果、Element Xを導入したベクターは、シロイヌナズナの根、イネの葉身、及びコムギの葉身の何れにおいても、EmptyやmEX4と比べて有意に高い発現が検出された(図9)。これらの結果から、Element Xの発現上昇効果は、幅広い組織や植物種でも発揮されることが示唆された。
実験例9.35Sプロモーターに対するElement Xの効果と導入位置
以上に示したように、Element Xは、35Sminの使用において発現を上昇させる作用を有している。35Sminは非常に弱いプロモーターであるため、それよりも強力なプロモーターであるP35Sの使用においてElement Xの効果を調べた。ここで用いたP35Sは、実験例2と同様に、35Sプロモーターの転写開始点を基準として-343から-1塩基の領域である(Odell, J.T., Nagy, F., and Chua, N.-H. [1985]. Nature 313, 810-812)。
実験例6と同様にして、pUC119ベクターのHind III/Sac I認識部位の間に、35Sプロモーター(P35S)、LUC、及びTnosをタンデムに連結したものを導入して、試験用レポーターベクターを作出した(P35S-LUC; 図6)。また、Element Xの導入位置の影響を調べるため、P35Sの上流(EX-U)、P35Sの中(EX-M)、又はP35Sの下流(EX-D)にElement Xを導入したベクターを作出した。EX-U、EX-M、及びEX-Dは、それぞれElement Xを4つ連結したものをHind III、EcoR V、及びNco I認識部位に導入したものである(図10A)。EcoR V(-93bp)はTATA-box(-34bpから-28bp)の上流に位置するサイトである。また、Nco I(P35Sの下流(EX-D))は、遺伝子(LUC)の転写開始点よりも下流に位置するサイトである。
これらのベクターを用いて、シロイヌナズナ地上部に対して、パーティクルガン法による一過的発現アッセイを行った。ベクターの導入とレポーター活性の測定は、実験例3と同様にして行った。
その結果、EX-U及びEX-Mにおいて、Element Xを導入しなかったP35Sのみの場合と比べて有意に高い発現が検出された。また、EX-Mの方がEX-Uよりも有意に発現が高かった。一方、EX-DではEmptyと同程度の発現しか検出されなかった(図10B)。これらの結果から、Element Xは、強力なプロモーターを用いた場合にも遺伝子の発現を高める作用を有することが示唆された。また、Element Xの導入位置は、転写開始規定領域であるTATA-boxより上流であることが望ましいことが示唆され、TATA-boxに近い方がより効果が高くなると考えられた。
実験例10.35Sプロモーターの使用におけるElement Xの効果の普遍性
実験例9で用いたEX-Mについて、イネ(日本晴)の葉身、コムギ(Fielder)の葉身、又はトウモロコシ(B73)の葉身に対して、パーティクルガン法による一過的発現アッセイを行った。ベクターの導入とレポーター活性の測定は、実験例3と同様にして行った。イネ、コムギ、及びトウモロコシの葉身は、いずれも土耕で2週間栽培したものを用いた。
その結果、イネ、コムギ、及びトウモロコシのいずれにおいても、EX-MはP35S-LUCよりも有意に高い発現を示した(図11)。これらの結果から、Element Xの発現上昇効果は、強力なプロモーターを用いた場合にも幅広い植物種で発揮されることが示唆された。
実験例11.ポリエチレングリコール法による一過的発現系におけるElement Xの発現に対する効果
実験例2で作出した発現ベクター、すなわち、pUC119-35Smin-LUC(Empty)、pUC119-EX4-35Smin-LUC(EX4)、pUC119-mEX4-35Smin-LUC(mEX4)、pUC119-rbcS3Amin-LUC(Empty_R)、pUC119-EX4-rbcS3Amin-LUC(EX4_R)、pUC119-mEX4-rbcS3Amin-LUC(mEX4_R)、及びpUC119-35S-RLUCを用いて、以下の通りElement Xが遺伝子発現に対して与える効果を調べた。Empty、EX4、mEX4、Empty_R、EX4_R、及びmEX4_Rは試験レポーターベクターとして用い、pUC119-P35S-RLUCは、試験レポーターの標準化のためのコントロールレポーターベクターとして用いた。
ポリエチレングリコール法によるベクター導入は、Sang-Dong Yoo et al., [2007]. Nat Protoc. 2(7): 1565-1572に記載されている公知のプロトコールに準じて実施した。播種後4週間のシロイヌナズナのロゼット葉からプロトプラストを作製し、約4×104個の細胞に対して30μgのベクター(試験レポーターベクター及びコントロールレポーターベクターの混合比10:1)をポリエチレングリコール法で導入した。24時間後にサンプリングし、レポーター活性の測定に供した。レポーター活性の測定は実験例3と同様にして行った。
その結果、EX4はEmptyとmEX4とに比べて有意に高い発現を示した(図12A)。また、EX4_RはEmpty_RとmEX4_Rに比べて有意に高い発現を示した(図12B)。これらの結果から、Element Xはポリエチレングリコール法による一過的発現系においても発現を高める作用を有することが示された。
実験例12.アグロバクテリウム法による一過的発現系におけるElement Xの発現に対する効果
実験例2で作出した発現ベクターをもとにして、アグロバクテリウム法による一過的発現系で用いる発現ベクターを作出し、以下の通りElement Xが遺伝子発現に対して与える効果を調べた。アグロバクテリウム法による一過的発現系で用いる発現ベクターは、pUC119-35Smin-LUC、pUC119-EX4-35Smin-LUC、pUC119-mEX4-35Smin-LUC、及びpUC119-35S-RLUCのHind III/Sac I断片をバイナリーベクターpBI101に導入して作出した。pUC119-35Smin-LUC、pUC119-EX4-35Smin-LUC、及びpUC119-mEX4-35Smin-LUCの断片を導入したものを、それぞれpBI101-35Smin-LUC(Empty_pBI)、pBI101-EX4-35Smin-LUC(EX4_pBI)、pBI101-mEX4-35Smin-LUC(mEX4_pBI)、及びpBI101-35S-RLUCとした。Empty_pBI、EX4_pBI、mEX4_pBI、及びmEX4_Rは試験レポーターベクターとして用い、pBI101-35S-RLUCは、試験レポーターの標準化のためのコントロールレポーターベクターとして用いた。
アグロバクテリウム法による一過的発現は、Youjun Zhang et al., [2020]. Plant Commun. 1(5): 1-12に記載されている公知のプロトコールに準じて実施した。播種後4週間のシロイヌナズナ又はタバコ(Nicotiana benthamiana)の葉に、試験レポーターベクターを導入したアグロバクテリウムとコントロールレポーターベクターを導入したアグロバクテリウムとを5:1の割合で混合して感染させた。96時間後にサンプリングし、レポーター活性の測定に供した。レポーター活性の測定は実験例3と同様にして行った。
シロイヌナズナ(図13A)とタバコ(図13B)において、EX4_pBIはEmpty_pBI及びmEX4_pBIに比べて有意に高い発現を示した。これらの結果から、Element Xはアグロバクテリウム法による一過的発現系においても発現を高める作用を有することが示された。
実験例13.Element Xの作用効果と塩基配列
実験例4では、Element Xに1塩基変異を導入したエレメントを含むベクターを用いて一過的発現アッセイを行い、Element Xの作用効果に必要な塩基配列を調べた。その結果、Element Xの作用効果に必要な塩基配列は、5’末端及び3’末端の1塩基には多少のゆらぎがあるが、その間のCGCGの配列は不可変であることが示唆された。そこで、Element Xの作用効果とElement Xの塩基配列における5’末端及び3’末端との関係を明らかにするため、5’末端及び3’末端の1塩基又は2塩基を変異させたエレメントを設計した。そして、当該エレメントを繰り返して4つ連結した配列を35Sminの上流に導入した試験レポーターベクターシリーズ(ベクターM~T)を作製した(図14)。これらのベクターに加え、コントロールとしてEmptyとEX4とを用いて、シロイヌナズナ地上部に対して、パーティクルガン法による一過的発現アッセイを行った。ベクターの導入とレポーター活性の測定は、実験例3と同様にして行った。
その結果、5’-ACGCGG-3’を含むベクターMと5’-GCGCGT-3’を含むベクターQにおいてのみ、Emptyと比べて高い発現が検出された(図14)。実験例4の結果も合わせると、以下の4つの配列:5’-ACGCGC-3’、5’-GCGCGT-3’、5’-ACGCGG-3’、及び5’-CCGCGT-3’もElement Xと同様に発現を高める作用を有することが示された。なお、5’-ACGCGC-3’と5’-GCGCGT-3’、ならびに5’-ACGCGG-3’と5’-CCGCGT-3’は相補的な関係にある。
本発明は、遺伝子発現を利用するあらゆる産業分野において有用である。その一つとして、植物のバイオマスが利用可能な産業分野、例えば、食品分野、エネルギー分野、環境分野等において有用である。また、本発明の技術は、一過的発現系にも利用することができ、遺伝子の機能解析技術やゲノム編集技術の向上に寄与することができる。

Claims (17)

  1. 遺伝子の発現を高める方法であって、以下の(i)又は(ii)のポリヌクレオチド:(i)5’-ACGCGT-3’(配列番号1)、5’-CCGCGT-3’(配列番号2)、5’-ACGCGC-3’(配列番号3)、5’-ACGCGG-3’(配列番号4)、及び5’-GCGCGT-3’(配列番号5)からなる群より選択される塩基配列を含むポリヌクレオチド;又は
    (ii)(i)のポリヌクレオチドと配列同一性が90%以上の塩基配列からなり、且つ遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチド;
    を、プロモーターに対して作動可能に挿入する、又は作動可能に連結させる工程を含む、上記方法。
  2. (i)のポリヌクレオチドが、配列番号1~5のいずれかで表される塩基配列を2つ以上含む、請求項1に記載の方法。
  3. (i)のポリヌクレオチドがリンカー部をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
  4. (i)のポリヌクレオチドが、10以上のヌクレオチドからなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
  5. (i)のポリヌクレオチドが、500以下のヌクレオチドからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 遺伝子の発現が一過的発現である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 遺伝子の発現が植物細胞内で行われる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 以下の(i)又は(ii)のポリヌクレオチド:
    (i)5’-ACGCGT-3’(配列番号1)、5’-CCGCGT-3’(配列番号2)、5’-ACGCGC-3’(配列番号3)、5’-ACGCGG-3’(配列番号4)、及び5’-GCGCGT-3’(配列番号5)からなる群より選択される塩基配列を含むポリヌクレオチド;又は
    (ii)(i)のポリヌクレオチドと配列同一性が90%以上の塩基配列からなり、且つ遺伝子の発現を高める作用を有するポリヌクレオチド;
    を含む、プロモーターエレメント。
  9. (i)のポリヌクレオチドが、配列番号1~5のいずれかで表される塩基配列を2つ以上含む、請求項8に記載のプロモーターエレメント。
  10. (i)のポリヌクレオチドがリンカー部をさらに含む、請求項8又は9に記載のプロモーターエレメント。
  11. (i)のポリヌクレオチドが、10以上のヌクレオチドからなる、請求項8~10のいずれか1項に記載のプロモーターエレメント。
  12. (i)のポリヌクレオチドが、500以下のヌクレオチドからなる、請求項8~11のいずれか1項に記載のプロモーターエレメント。
  13. 請求項1~12のいずれか1項に記載のプロモーターエレメントとプロモーターとを含む、核酸コンストラクト。
  14. プロモーターエレメントが、プロモーター内に作動可能に挿入されている、又はプロモーターに作動可能に連結されている、請求項13に記載の核酸コンストラクト。
  15. 請求項8~12のいずれか1項に記載のプロモーターエレメントを含む、ベクター。
  16. 請求項8~12のいずれか1項に記載のプロモーターエレメントを含む、宿主細胞。
  17. 請求項8~12のいずれか1項に記載のプロモーターエレメントが導入された、植物。
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