JP2022069413A - スリット銅材、電子・電気機器用部品、バスバー、放熱基板 - Google Patents
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Abstract
Description
ここで、電子機器や電気機器等の大電流化にともない、電流密度の低減およびジュール発熱による熱の拡散のために、これら電子機器や電気機器等に使用される電子・電気機器用部品においては、導電率に優れた無酸素銅等の純銅材が適用されている。
しかしながら、従来の純銅材においては、電子機器や電気機器等に成形する際に必要となる曲げ加工性が不十分であり、特にエッジワイズ曲げなどの厳しい加工を施した際に割れが生じるなどの問題があった。
特許文献1に記載された銅圧延板においては、0.2%耐力を150MPa以下に抑えているので、エッジワイズ曲げ加工を施した際の曲げ加工部分における耐電圧特性の低下を抑制することが可能であった。
また、上述の電子・電気機器用部品においては、複雑な曲げ加工を行うことがあり、従来よりもさらに曲げ加工性を向上させる必要があった。
さらに、上述の電子・電気機器用部品においては、小型化および軽量化が求められており、強度を十分に確保することが求められている。
また、本明細書において、板厚中心部とは、板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域とする。
さらに、本明細書において、板厚表層部とは、板厚方向における表面から全厚の20%までの領域とする。
そして、前記板厚中心部の平均結晶粒径Aが25μm以下とされているので、曲げ加工性および耐力を向上させることが可能となる。また、スリット時のバリの発生を抑制でき、曲げ加工時におけるバリを起点とした割れの発生を抑制することができる。
さらに、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aが0.80以上1.20以下の範囲内とされているので、加工時に応力が局所的に集中することを抑制でき、曲げ加工性を向上させることができる。
この場合、Mgを上述の範囲で含有しているので、銅の母相中にMgが固溶することによって、導電率を大きく低下させることなく、強度および耐熱性を向上させることが可能となる。また、耐熱温度が150℃以上とされているので、高温環境下でも安定して使用することができる。
この場合、圧延方向に平行な方向における0.2%耐力が十分に高く、スリット時のバリの発生をさらに抑制でき、曲げ加工時におけるバリを起点とした割れの発生を抑制することができる。
この場合、アスペクト比b/aが0.3以下となる結晶粒数の割合が測定した結晶粒数全体の90%以下とされているので、加工度が抑えられおり、耐力を維持したまま、曲げ加工性をさらに向上させることができる。
この場合、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さが十分に確保されているので、転位密度が高い領域が確保され、加工硬化によって強度(耐力)を向上させることが可能となる。
この場合、さらに高い耐力を維持したまま、良好な曲げ加工性を得ることが可能となる。
この場合、厚さが0.1mm以上10mm以下の範囲内であることから、このスリット銅材に対して打ち抜き加工や曲げ加工を施すことで、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品を成形することができる。
この場合、スリット銅材は、スリット銅材本体と、スリット銅材本体の表面に設けられた金属めっき層を有すると言うこともできる。スリット銅材本体は、前述した本発明の一態様に係るスリット銅材と同一の特徴を有する。表面に金属めっき層を有しているので、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
なお、金属めっき層としては、例えば、Snめっき、Agめっき、Niめっき等が挙げられる。また、本発明の一態様においては、「Snめっき」は純Snめっき又はSn合金めっきを含み、「Agめっき」は純Agめっき又はAg合金めっきを含み、「Niめっき」は純Niめっき又はNi合金めっき、を含む。
この構成の電子・電気機器用部品は、上述のように高い耐力と優れた曲げ加工性を有するスリット銅材を用いて製造されているので、小型化および軽量化を図ることが可能となる。
この構成のバスバーは、上述のように高い耐力と優れた曲げ加工性を有するスリット銅材を用いて製造されているので、小型化および軽量化を図ることが可能となる。
この構成の放熱基板は、上述のように高い耐力と優れた曲げ加工性を有するスリット銅材を用いて製造されているので、小型化および軽量化を図ることが可能となる。
本実施形態であるスリット銅材においては、銅板条材を所定の幅にスリット加工して得られたものである。本実施形態であるスリット銅材においては、板幅Wと板厚tとの比W/tが10以上とされている。
なお、本実施形態であるスリット銅材においては、Mgを10massppm超え100massppm未満の範囲内で含んでいてもよい。
従って、スリット銅材は、Cu:99.96mass%以上、及び任意のMg:10massppm超え100massppm未満を含有し、残部は不可避不純物であると言うこともできる。なお、Mgは、意図して添加されずに不可避不純物として含まれてもよく、この場合には、Mgの含有量は10massppm以下であってもよい。
そして、本実施形態であるスリット銅材においては、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aが0.80以上1.20以下の範囲内とされている。また、板厚中心部の平均結晶粒径Aが25μm以下とされている。
なお、本実施形態において、板厚中心部とは、板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域とする。また、板厚表層部とは、板厚方向における表面から全厚の20%までの領域とする。
また、本実施形態であるスリット銅材において、Mgを含む場合には、耐熱温度が150℃以上であることが好ましい。
Cuの含有量が高く、相対的に不純物濃度が少ない程、導電率が高くなる。このため、本実施形態では、Cuの含有量を99.96mass%以上としている。
なお、本実施形態のスリット銅材において、さらに導電率を向上させるためには、Cuの含有量を99.97mass%以上とすることが好ましく、99.98mass%以上とすることがより好ましく、99.99mass%以上とすることがさらに好ましい。Cuの含有量の上限は、特に制限はないが、製造コストが増加するため99.9995mass%未満とする。
Mgは、銅の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、強度を向上させる作用効果を有する元素である。また、Mgを母相中に固溶させることにより、耐熱温度が向上する。このため、強度、耐熱性等を向上させるために、Mgを添加してもよい。
ここで、Mgの含有量を10massppm超えとすることで、上述の作用効果を奏することが可能となる。一方、Mgの含有量を100massppm未満とすることにより、導電性の低下を抑制することができる。
このため、本実施形態において、Mgを添加する場合には、Mgの含有量を10massppm超え100massppm未満とすることが好ましい。
なお、強度、耐熱性等をさらに向上させるためには、Mgの含有量の下限を20massppm以上とすることがより好ましく、30massppm以上とすることがさらに好ましく、40massppm以上とすることが一層好ましい。一方、導電率の低下をさらに抑制するためには、Mgの含有量の上限を90massppm未満とすることがより好ましく、80massppm未満とすることがさらに好ましく、70massppm未満とすることが一層好ましい。
なお、Mgを意図して添加せずに不純物として含有する場合には、Mgの含有量が10massppm以下であってもよい。
上述した元素以外のその他の不可避的不純物としては、Al,Ag, As, B,Ba,Be,Bi, Ca,Cd,Cr,Sc,希土類元素,V,Nb,Ta,Mo,Ni,W,Mn,Re,Ru,Sr,Ti,Os,P, Co,Rh,Ir,Pb,Pd,Pt,Au,Zn,Zr,Hf,Hg,Ga,In,Ge,Y,Tl,N,S, Sb, Se, Si,Sn,Te , Li等が挙げられる。これらの不可避不純物は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
ここで、これらの不可避不純物は、導電率を低下させるおそれがあることから、総量で0.04mass%以下とすることが好ましく、0.03mass%以下とすることがさらに好ましく、0.02mass%以下とすることがより好ましく、さらには0.01mass%以下とすることが好ましい。
また、これらの不可避不純物のそれぞれの含有量の上限は、30massppm以下とすることが好ましく、20massppm以下とすることがさらに好ましく、15massppm以下とすることがより好ましい。
本実施形態であるスリット銅材において、板厚中心部(板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域)における平均結晶粒径Aが微細であると、優れた曲げ加工性と高い耐力を得られる。また、スリット加工時にバリの発生を抑制できるため、曲げ加工の際に、バリを起点として発生する割れを抑制することも可能となる。
このため、本実施形態では、板厚中心部の平均結晶粒径Aを25μm以下に規定している。
ここで、本実施形態のスリット銅材において、さらに優れた曲げ加工性と高い耐力を得るためには、板厚中心部の平均結晶粒径Aを20μm以下とすることが好ましく、15μm以下とすることがより好ましい。また、板厚中心部の平均結晶粒径Aの下限に特に制限はないが、実質的には1μm以上となる。
本実施形態であるスリット銅材において、結晶粒径が不均一であると、加工時に粗大粒の粒界に応力集中が発生し、局所的な変形が起こり、割れの発生が加速される。このため、板厚方向で均一な結晶粒径となるように制御する必要がある。
このため、本実施形態では、板厚中心部(板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域)の平均結晶粒径Aと板厚表層部(板厚方向における表面から全厚の20%までの領域)の平均結晶粒径Bとの比B/Aを、0.80以上1.20以下の範囲内としている。
ここで、本実施形態のスリット銅材において、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aの下限は0.82以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましい。一方、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aの上限は1.18以下であることが好ましく、1.15以下であることがより好ましい。
結晶粒の長径をa、短径をbとしたとき、b/aで表されるアスペクト比は、材料の加工度を表す指標であり、アスペクト比が小さい結晶粒(すなわち、長径aと短径bとの差が大きい結晶粒)の割合が高くなるほど加工度も高くなる。板厚中心部において、このアスペクト比b/aが0.3以下となる結晶粒数の割合が、測定した結晶粒数全体の90%以下に制御することによって、耐力を維持したまま、曲げ加工性を向上させることができる。一方、アスペクト比b/aが0.3以下となる結晶粒数の割合が、結晶粒数全体の90%を超えると、高い加工ひずみの結晶が存在している割合が高くなり、曲げ加工性が損なわれる。
ここで、EBSD装置の解析ソフトOIMにより解析したときのCI値(信頼性指数)は、測定点の結晶パターンが明確ではない場合にその値が小さくなり、CI値が0.1以下ではその解析結果を信頼することが難しい。よって、本実施形態では、アスペクト比の評価においてCI値が0.1以下である信頼性の低い測定点を除く。
粒界において、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーは加工時に導入された転位の密度が高い領域であるため、全粒界中の小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LLB+LHB)が10%を超えるように組織制御することで、転位密度の増加に伴う加工硬化により、強度(耐力)を向上させることが可能となる。
なお、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LLB+LHB)は、上記の範囲内でも15%以上が好ましく、さらには20%以上が好ましい。
ここで、強度(耐力)を維持したまま十分な曲げ加工性を持たせるために、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LLB+LHB)は80%以下が好ましく、70%以下がより好ましい。
オイラー角は試料座標系と個々の結晶粒の結晶軸との関係により結晶方位を表しており、結晶軸(X-Y-Z)が一致した状態から、(Z-X-Z)軸周りにそれぞれ(φ1,Φ,φ2)回転させることで結晶方位が表現される。3次元オイラー空間に級数展開法によりODF(crystal orientation distribution function)を表示することで、測定範囲の結晶方位密度の分布を確認することが可能となる。この方位密度分布は標準粉末試料等で得られる完全にランダムな配向状態を1としており、例えばある方位の方位密度が3である場合、その方位はランダムな配向の3倍存在しているという意味になる。
上述の方位密度の平均値が1.0以上であることにより、十分に高い耐力を得ることができる。一方、上述の方位密度の平均値が20.0未満であることにより、耐力を保持しながらも良好な曲げ加工性を得ることが可能となる。
ここで、上述の方位密度の平均値の下限は、1.2以上とすることがより好ましく、1.5以上とすることがさらに好ましい。一方、上述の方位密度の平均値の上限は、18以下とすることがより好ましく、15以下とすることがさらに好ましい。
本実施形態である銅合金においては、導電率が97.0%IACS以上とされている。
導電率を97.0%IACS以上とすることにより、通電時の発熱を抑えて、従来の純銅材の代替として端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品として良好に使用することが可能となる。
なお、導電率は97.5%IACS以上であることが好ましく、98.0%IACS以上であることがさらに好ましく、98.5%IACS以上であることがより好ましく、99.0%IACS以上であることが一層好ましい。導電率の上限値は、特に限定されないが、103.0%IACS以下が好ましい。
本実施形態であるスリット銅材において、圧延方向に平行な方向における0.2%耐力が150MPa超えである場合には、スリット時のバリの発生を抑制でき、曲げ加工時におけるバリを起点とした割れの発生を抑制できる。
ここで、圧延方向に平行な方向における0.2%耐力は175MPa以上であることがより好ましく、200MPa以上であることがさらに好ましい。
なお、特に0.2%耐力の上限は定めないが、コイル巻きされた条材を用いる際のコイルの巻き癖による生産性低下を回避するため、0.2%耐力を500MPa以下とすることが好ましい。
本実施形態であるスリット銅材において、耐熱温度が高い場合には、高温でも再結晶による軟化現象が起きにくいことから、高温環境下で使用される通電部材への適用が可能となる。
このため、本実施形態においては、耐熱温度が150℃以上とされていることが好ましい。
なお、本実施形態では、耐熱温度は伸銅協会技術標準JCBA T325:2013に準拠し、ビッカース硬度が初期値の80%に低下する加熱温度を測定する。
ここで、上述の耐熱温度は、175℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることがより好ましく、225℃以上であることが一層好ましく、250℃以上であることが最も好ましい。耐熱温度の上限値は、特に限定されないが、600℃以下が好ましい。
まず、銅原料を溶解して銅溶湯を得る。必要であればMgを添加して成分調整を行う。なお、Mgを添加する場合には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、リサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
ここで、銅原料は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。
溶解時においては、水素濃度の低減のため、H2Oの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気での溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
そして、成分調整された銅溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程において不純物が偏析で濃縮することにより発生した金属間化合物等が存在することがある。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を300℃以上1080℃以下にまで加熱する加熱処理を行う。これにより、鋳塊内において、不純物を均質に拡散させる。なお、この均質化/溶体化工程S02は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
なお、後述する粗圧延の効率化と組織の均一化のために、前述の均質化/溶体化工程S02の後に熱間圧延を実施してもよい。熱間加工温度は、300℃以上1080℃以下の範囲内とすることが好ましい。
所定の形状に加工するために、粗圧延を行う。なお、この粗圧延工程S03における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するために、あるいは寸法精度の向上のため、冷間または温間圧延となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。ここで、材料中に均一にひずみが導入されることで、後述する中間熱処理工程S04で均一な再結晶粒が得られる。そのため、総加工率は50%以上とすることが好ましく、60%以上とすることがより好ましく、70%以上とすることがさらに好ましい。また、1パス当たりの加工率は20%以上とすることが好ましく、30%以上とすることがより好ましく、40%以上とすることがさらに好ましい。
粗圧延工程S03後に、再結晶組織にするために熱処理を実施する。なお、粗圧延工程S03と中間熱処理工程S04は繰り返し実施しても良い。
ここで、この中間熱処理工程S04が実質的に最後の再結晶熱処理となるため、この工程で得られた再結晶組織の結晶粒径は最終的な結晶粒径にほぼ等しくなる。そのため、この中間熱処理工程S04では、板厚中心の平均結晶粒径が25μm以下となるように、適宜、熱処理条件を選定することが好ましい。
また、φ2=20°、φ1=20°~50°、Φ=40°~70°の範囲における方位密度の平均値を1.0以上20.0未満とするためには、中間熱処理工程S04における昇温速度を1℃/秒以上50℃/秒以下、到達温度を200℃以上600℃以下、保持時間を10秒以上500秒以下、降温速度を1℃/秒以上50℃/秒以下とすることが好ましい。
中間熱処理工程S04後の銅素材を所定の形状に加工するため、仕上圧延を行う。なお、この仕上圧延工程S05における温度条件は、圧延時の再結晶を抑制するため、または小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率の低下を抑制するために、冷間、または温間加工となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。
また、圧延率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、仕上圧延工程S05において、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率を高め、加工硬化によって強度を向上させるため、また圧延集合組織であるφ2=20°、φ1=20°~40°、Φ=30°~60°の範囲における方位密度の平均値を1.0以上とするため、圧延率を10%以上とすることが好ましい。また、さらなる強度の向上を図る場合には、圧延率を15%以上とすることがより好ましく、圧延率を20%以上とすることがさらに好ましい。一方、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの過剰な増加による曲げ加工性の劣化を抑制させるため、また、アスペクト比b/aが0.3以下となる結晶粒数の割合の過剰な増加を抑制するため、さらに圧延集合組織であるφ2=20°、φ1=20°~50°、Φ=40°~70°の範囲における方位密度の平均値を20.0未満とするためには、圧延率を80%以下とすることが好ましく、圧延率を70%以下とすることがより好ましい。
仕上圧延工程S05後に、機械的表面処理を行う。機械的表面処理は、所望の形状がほぼ得られた後に表面近傍に圧縮応力を与える処理であり、表面近傍の圧縮応力によって曲げ加工時に発生する割れを抑制させ、曲げ加工性を向上させる効果がある。
機械的表面処理は、ショットピーニング処理、ブラスト処理、ラッピング処理、ポリッシング処理、バフ研磨、グラインダー研磨、サンドペーパー研磨、テンションレベラー処理、1パス当りの圧下率が低い軽圧延(1パス当たりの圧下率1~10%とし3回以上繰り返す)など一般的に使用される種々の方法が使用できる。
次に、機械的表面処理工程S06によって得られた銅材に対して、含有元素の粒界への偏析および残留ひずみの除去のため、仕上熱処理を実施してもよい。
この際、熱処理温度が高すぎると小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LLB+LHB)が大きく低下することから、熱処理温度は、100℃以上800℃以下の範囲内とすることが好ましい。なお、この仕上熱処理工程S07においては、再結晶による強度の大幅な低下を避けるように、熱処理条件を設定する必要がある。例えば200℃では0.1秒から100秒程度保持することが好ましく、150℃では1分から100時間保持することが好ましい。この熱処理は、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理の方法は特に限定はないが、製造コスト低減の効果から、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましい。
さらに、上述の仕上圧延工程S05、機械的表面処理工程S06、仕上熱処理工程S07を、繰り返し実施してもよい。
また、仕上熱処理工程S07の後に金属めっき(Snめっき、Niめっき、又は、Agめっき等)を施してもよい。
仕上熱処理工程S07によって得られた銅材に対して、所望の形状に加工するためにスリット加工を行う。スリット加工はスリットカッタによるせん断加工で行われるが、この際に銅材に発生するバリは、その後のエッジワイズ曲げ等の加工時に、応力集中の起点となり、加工性を大きく劣化させる。スリット加工時のクリアランスが大きくなれば、バリも大きくなる傾向にある。しかし、スリット加工時のクリアランスが過剰に小さい場合はスリットの切口面の全面がせん断面となってしまい、破断面が形成されないため、塑性バリと呼ばれる大きなバリが発生してしまう。そのため、スリット加工時のクリアランスは適切な値を取る必要があり、クリアランスと板厚との比(クリアランス/板厚)は0.5%以上、12%以下とすることが好ましく、1%以上、10%以下とすることがさらに好ましく、2%以上、8%以下とすることが最も好ましい。
なお、スリット加工後に、スリット加工時に発生したバリを取り除くために、バリ取りを行ってもよい。バリ取りはサンドペーパー、研磨シート、ロータリーバー、研磨ディスク、研磨ベルト、ブラスト処理など一般的に使用される種々の方法が使用できる。
また、バリのない切口面を得るために精密せん断法のスリット加工を用いてもよい。具体的には、半せん断と逆せん断で材料を分離するカウンタカット法や、半せん断とロールによる押圧で材料を分離するロールスリット法など一般的に使用される種々の方法が使用できる。
ここで、スリット銅材の板厚を0.1mm以上とした場合には、大電流用途での導体としての使用に適している。また、スリット銅材の板厚を10.0mm以下とすることにより、プレス機の荷重の増大を抑制し、単位時間あたりの生産性を確保することができ、製造コストを抑えることができる。
このため、スリット銅材の板厚は0.1mm以上10.0mm以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、スリット銅材の板厚の下限は0.5mm以上とすることが好ましく、1.0mm以上とすることがより好ましい。一方、スリット銅材の板厚の上限は9.0mm未満とすることが好ましく、8.0mm未満とすることがより好ましい。
そして、板厚中心部の平均結晶粒径Aが25μm以下とされているので、曲げ加工性および耐力を向上させることが可能となる。また、スリット時のバリの発生を抑制でき、曲げ加工時におけるバリを起点とした割れの発生を抑制することができる。
さらに、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aが0.80以上1.20以下の範囲内とされているので、加工時に応力が局所的に集中することを抑制でき、曲げ加工性を向上させることができる。
さらに、本実施形態であるスリット銅材において、耐熱温度が150℃以上とされている場合には、高温環境下においても安定して使用することができる。
さらに、本実施形態であるスリット銅材においては、表面に金属めっき層を有する場合には、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
例えば、上述の実施形態では、スリット銅材の製造方法の一例について説明したが、銅合金の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
帯溶融精製法により、純度99.9mass%以上とされたいわゆる3NCuからなる原料もしくは純度99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuからなる原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解し、銅溶湯を得た。
なお、Mgを添加する場合には、6N(純度99.9999mass%)以上の高純度銅と2N(純度99mass%)以上の純度を有する純金属を用いて、Mgを0.1mass%の量で含む母合金を作製した。得られた銅溶湯内に、この母合金を添加して成分を調整した。
そして、上述のようにして得られた銅溶湯を、断熱材(イソウール)鋳型に注湯することにより、表1,2に示す成分組成の鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約30mm×幅約500mm×長さ約150~200mmとした。
その後、適宜最終厚みになるように厚みを調整して切断を行った。切断されたそれぞれの試料は表1,2に記載の条件で粗圧延を行った。次いで、表1,2に記載の条件で中間熱処理を実施した。
そして、これらの試料に表1,2に記載された手法で機械的表面処理工程を施した。
なお、バフ研磨は♯800の研磨紙を用いて行った。
サンドペーパー研磨は♯240の研磨紙を用いて行った。
グラインダー研磨は、番手♯400の軸受ホイルを用い、1分間に4500回転の速度で研磨を行った。
その後、表1,2に記載の条件で仕上熱処理を行った。次いで、クリアランス/板厚比が2%から8%となる条件でスリット加工、または精密せん断法のスリット加工(カウンタカット法とロールスリット法)を行い、それぞれ表1,2に記載された板厚t、板幅Wと板厚tとの比W/tとなるようにスリット銅材を製出した。
得られた鋳塊から測定試料を採取し、Mg量は誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定し、Cu量は銅電解重量法(JIS H 1051)を用いて測定した。なお、試料中央部と幅方向端部の2カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。その結果、表1,2に示す成分組成であることを確認した。
得られたスリット銅材から幅20mm×長さ20mmのサンプルを切り出し、SEM-EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)測定装置によって、平均結晶粒径を測定した。
圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD面(Transverse direction)を観察面として、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った。次いで、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行って測定用サンプルを得た。その後、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.7.3.1)を用いて、電子線の加速電圧15kV、10000μm2以上の測定面積にて、0.25μmの測定間隔のステップで観察面をEBSD法により測定した。測定結果をデータ解析ソフトOIMにより解析して各測定点のCI値を得た。CI値が0.1以下である測定点を除いて、データ解析ソフトOIMにより各結晶粒の方位差の解析を行った。そして、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間の境界を大角粒界とし、隣接する測定点間の方位差が15°未満となる測定点間の境界を小角粒界とした。この際、双晶境界も大角粒界とした。また、各サンプルで100個以上の結晶粒が含まれるように測定範囲を調整した。得られた方位解析の結果から大角粒界を用いて結晶粒界マップを作成した。JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒の数を数え、その切断長さ(結晶粒界で切り取られた線分の長さ)の合計を結晶粒の数で割り平均値を得た。この平均値を平均結晶粒径とした。
そして、板厚中心部(板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域)の平均結晶粒径Aと、板厚表層部(板厚方向における表面から全厚の20%までの領域)の平均結晶粒径Bを算出した。
上記の結晶粒界マップを用いて、結晶粒のアスペクト比を測定した。
すべての結晶粒に板厚方向に5本、圧延方向に5本の線分を引いた。圧延方向に引いた線分について、結晶粒界で切り取られた線分の平均長さを長径aとした。板厚方向に引いた線分について、結晶粒界で切り取られた線分の平均長さを短径bとした。すべての結晶粒の長径aと短径bの長さの比であるアスペクト比b/aを算出した。
そして、アスペクト比b/aが0.3以下の結晶粒の割合を求めた。
上記の測定用サンプルを用い、電子線の加速電圧15kVにて、板厚中心部の平均結晶粒径Aの10分の1以下となる測定間隔のステップで観察面(TD面)をEBSD測定装置及びOIM解析ソフトにより測定して、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率を求めた。
板厚中心部において総数1000個以上の結晶粒が含まれるように、複数視野で合計面積が10000μm2以上となる測定面積で、測定結果をデータ解析ソフトOIMにより解析して各測定点のCI値を得た。CI値が0.1以下である測定点を除いて、データ解析ソフトOIMにより各結晶粒の方位差の解析を行った。隣接する測定点間の方位差が2°以上15°未満となる測定点間の境界を小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーとし、その長さをLLBとした。隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間の境界を大傾角粒界とし、その長さをLHBとした。全粒界における小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LLB+LHB)を求めた。
上記の測定結果を用いて、方位密度を測定した。すなわち、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率を求める際に、観察面(TD面)をEBSD測定装置及びOIM解析ソフトにより測定した結果を用いた。
測定結果をデータ解析ソフトOIMにより解析して各測定点のCI値を得た。CI値が0.1以下である測定点を除いて、データ解析ソフトOIMにより集合組織の解析を行い、結晶方位分布関数を得た。
解析により得られた結晶方位分布関数をオイラー角で表示した。そして、φ2=20°、φ1=20°~50°、Φ=40°~70°の範囲における方位密度の平均値を求めた。
特性評価用条材からJIS Z 2241に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、0.2%耐力を測定した。なお、試験片は、圧延方向に平行な方向で採取した。
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。評価結果を表3,4に示す。
耐熱温度(初期値の80%に硬度が低下する温度)は日本伸銅協会のJCBA T325:2013に準拠し、1時間の熱処理でのビッカース硬度による等時軟化曲線を取得することで評価した。なお、ビッカース硬度の測定面は圧延面とした。評価結果を表3,4に示す。
内曲率半径(R)と板幅(W)の比率(R/W)が表3,4に示す値となる条件でエッジワイズ曲げ加工を行い、外周側面の曲げ部を観察した。
しわがないものを「A」(excellent)と評価し、しわがあるものを「B」(good)と評価し、小さな割れがあるものを「C」(fair)と評価し、曲げ部が破断し、エッジワイズ曲げが出来なかったものを「D」(poor)と評価した。なお、評価結果A~Cまでを許容できる曲げ加工性と判断した。
比較例2においては、板厚中心部の平均結晶粒径Aが120μmと大きく、圧延方向に平行な方向の耐力が142MPaと低くなった。また、曲げ加工性が「D」となった。
比較例3は、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aが3.78であり、曲げ加工性が「D」となった。
以上のことから、本発明例によれば、高い導電率、強度、優れた曲げ加工性を有するスリット銅材を提供可能であることが確認された。
Claims (11)
- Cuの純度が99.96mass%以上であり、板幅Wと板厚tとの比W/tが10以上とされ、
導電率が97.0%IACS以上とされ、
板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aが0.80以上1.20以下の範囲内とされ、
前記板厚中心部の平均結晶粒径Aが25μm以下とされていることを特徴とするスリット銅材。 - Mgを10massppm超え100massppm未満の範囲内で含み、耐熱温度が150℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のスリット銅材。
- 圧延方向に平行な方向における0.2%耐力が150MPa超えであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスリット銅材。
- CI値が0.1以下である測定点を除いて解析し、板厚中心部において結晶粒(双晶を含む)の長径aと短径bで表されるアスペクト比b/aが0.3以下となる結晶粒数の割合が測定した結晶粒数全体の90%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスリット銅材。
- 板厚中心部の平均結晶粒径Aの10分の1以下となる測定間隔のステップで前記スリット銅材をEBSD法により測定して、板厚中心部において総数1000個以上の結晶粒が含まれるように、複数視野で合計面積が10000μm2以上となる測定面積で、測定結果をデータ解析ソフトOIMにより解析して各測定点のCI値を得て、CI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差を解析し、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°未満となる測定点間の境界である小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さをLLB、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間の境界である大傾角粒界の長さをLHBとしたときに、
LLB/(LLB+LHB)>10%
の関係を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスリット銅材。 - 板厚中心部において、EBSD法による集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角で表したとき、φ2=20°、φ1=20°~50°、Φ=40°~70°の範囲における方位密度の平均値が1.0以上20.0未満であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスリット銅材。
- 厚さが0.1mm以上10mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のスリット銅材。
- 表面に金属めっき層を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のスリット銅材。
- 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載されたスリット銅材を用いて作られたことを特徴とする電子・電気機器用部品。
- 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載されたスリット銅材からなることを特徴とするバスバー。
- 請求項1から請求項8のいずれか一項に記載されたスリット銅材を用いて作られたことを特徴とする放熱基板。
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