JP7215627B2 - エッジワイズ曲げ加工用銅条、および、電子・電気機器用部品、バスバー - Google Patents
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ここで、電子機器や電気機器等の大電流化にともない、電流密度の低減およびジュール発熱による熱の拡散のために、これら電子機器や電気機器等に使用される電子・電気機器用部品においては、導電率に優れた無酸素銅等の純銅材が適用されている。
しかしながら、従来の純銅材においては、電子機器や電気機器等に成形する際に必要となる曲げ加工性が不十分であり、特にエッジワイズ曲げなどの厳しい加工を施した際に割れが生じるなどの問題があった。
特許文献1に記載された銅圧延板においては、0.2%耐力を150MPa以下に抑えているので、エッジワイズ曲げ加工を施した際の曲げ加工部分における耐電圧特性の低下を抑制することが可能であった。
ここで、平角銅線の場合には、素材が薄いのでエッジワイズ曲げ性は悪くならず、厚い素材のエッジワイズ曲げ性が考慮されていない。一方、厚みのあるバスバーに用いられる銅材は、厚くなると、形状加工がしにくくなり、結果として切口である端面の品質が劣化しやすい。また、端面の面積が広くなり、凹凸も多くなるので、エッジワイズ曲げ性は悪くなる。
すなわち、銅材の厚みが増すと、エッジワイズ曲げ加工を施した際に曲げの外側の割れが発生しやすくなり、不均一な形状になるおそれがある。よって、従来よりも厳しい条件でのエッジワイズ曲げが可能な銅材が求められている。
また、厚みtが1mm以上10mm以下の範囲内とされているので、電流密度の低減およびジュール発熱による熱の拡散を十分に実現することができる。
さらに、強度が300MPa以下であることで、上記の伸びを確保できる。
本発明の態様2のエッジワイズ曲げ加工用銅条によれば、Cuの含有量が99.90mass%以上とされ、不純物量が少なく、導電性を確保することが可能となる。
本発明の態様3のエッジワイズ曲げ加工用銅条によれば、Mg,Ca,Zrから選択される1種又は2種以上を上述の範囲で含有しているので、銅の母相中にMgが固溶することによって、導電率を大きく低下させることなく、強度および耐熱性、エッジワイズ曲げ加工性を向上させることが可能となり、CaやZrがCuと金属間化合物を生成することによって、導電率を大きく低下させることなく、結晶粒径を微細化し、エッジワイズ曲げ加工性を向上させることが可能となる。
本発明の態様4のエッジワイズ曲げ加工用銅条によれば、導電率が97.0%IACS以上とされているので、通電時の発熱を抑えることができ、電子・電気機器用部品、バスバーに特に適している。
本発明の態様5のエッジワイズ曲げ加工用銅条によれば、幅Wと厚みtの比率W/tが2以上とされているので、電子・電気機器用部品、バスバー用の素材として特に適している。
本発明の態様6のエッジワイズ曲げ加工用銅条によれば、板厚中心部の平均結晶粒径が50μm以下とされているので、さらに曲げ加工性に優れている。
本発明の態様7のエッジワイズ曲げ加工用銅条によれば、端面を含めた破断伸びのばらつきが十分に小さく、端面を含めた伸びが安定して優れており、この端面をエッジワイズ曲げの外側とすることで、曲げ半径Rと幅Wの比率R/Wが5.0以下の厳しいエッジワイズ加工を施した場合でも、割れや破断の発生をさらに抑制することができる。
本発明の態様8のエッジワイズ曲げ加工用銅条によれば、Ag濃度が上述の範囲内とされているので、添加されたAgが粒界近傍に偏析し、粒界での原子の移動が妨げられ、結晶粒径を微細化することができる。よって、より優れたエッジワイズ曲げ加工性を得ることが可能となる。
本発明の態様9のエッジワイズ曲げ加工用銅条によれば、H濃度、O濃度、C濃度、S濃度が上述のように規制されているので、欠陥の発生を抑制できるとともに、加工性および導電率の低下を抑制することができる。
本発明の態様10のエッジワイズ曲げ加工用銅条によれば、端面がスリット加工されたスリット面とされており、この端面(スリット面)をエッジワイズ曲げの外側とすることで、曲げ半径Rと幅Wの比率R/Wが5.0以下の厳しいエッジワイズ加工を施した場合でも、割れや破断の発生を十分に抑制することができる。
本発明の態様11の電子・電気機器用部品は、上述のように曲げ加工性に優れたエッジワイズ曲げ加工用銅条を用いて製造されているので、割れ等の発生が抑制されており、品質に優れている。
本発明の態様12のバスバーは、上述のように曲げ加工性に優れたエッジワイズ曲げ加工用銅条を用いて製造されているので、割れ等の発生が抑制されており、品質に優れている。
本発明の態様13のバスバーによれば、他の部材と接触して通電する通電部にめっき層が形成されているので、酸化等を抑制することができ、他の部材との接触抵抗を低く抑えることができる。
本発明の態様14のバスバーによれば、長手方向に延在する端面を含めた破断伸びE(%)と強度TS(MPa)とがE≧-0.19TS+65の関係を満たすため、エッジワイズ曲げ部における割れ等の欠陥の発生が抑制されており、絶縁被覆部の損傷を抑制することができる。
また、本実施形態であるバスバー10は、図1Bに示すように、エッジワイズ曲げ加工用銅条20と、このエッジワイズ曲げ加工用銅条20の表面に形成されためっき層15と、エッジワイズ曲げ加工用銅条20を被覆する絶縁被覆部17と、を備えている。
本実施形態であるバスバー10は、後述するエッジワイズ曲げ加工用銅条20に対してエッジワイズ曲げ加工を行うことによって製造される。ここで、エッジワイズ曲げ加工の条件は、曲げ半径Rと幅Wの比率R/Wが5.0以下とされている。特に限定されないが、曲げ半径Rと幅Wの比率R/Wは、0.05以上であってもよい。
また、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、強度TSが300MPa以下である。
すなわち、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、端面を片側に残し、もう片側でJIS Z 2241に規定される14B号試験片の形状を有し、幅b0が厚さに対して幅b0/厚さt≧5である試験片による引張試験を行った際の破断伸びE(%)と強度TS(MPa)とがE≧-0.19TS+65の関係を満たしている。
また、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、幅Wと厚みtの比率W/tが2以上であることが好ましい。
また、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、Mg,Ca,Zrから選択される1種又は2種以上を合計で10massppm超え100massppm未満の範囲内で含んでいてもよい。
また、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、H濃度が10massppm以下、O濃度が500massppm以下、C濃度が10massppm以下、S濃度が10massppm以下であることが好ましい。
さらに、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、板厚中心部の平均結晶粒径が50μm以下であることが好ましい。なお、板厚中心部とは、板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域とする。
本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20において、厚みtを1mm以上とすることにより、電流密度の低減およびジュール発熱による熱の拡散を十分に実現することが可能となる。
一方、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20において、厚みtを10mm以下とすることにより、エッジワイズ曲げ加工を施した際に、内部にしわが寄りにくく、均一な形状に成形することが可能となる。
なお、エッジワイズ曲げ加工用銅条20の厚みtの下限は、1.2mm以上とすることが好ましく、1.5mm以上とすることがさらに好ましい。一方、エッジワイズ曲げ加工用銅条20の厚みtの上限は、9.0mm以下とすることが好ましく、8.0mm以下とすることがさらに好ましい。
本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20において、幅Wを十分広くすることによって、大電流、大電圧に提供でき、かつ通電による発熱を抑制することが可能となる。そこで、エッジワイズ曲げ加工用銅条20の幅Wは、10mm以上とすることが好ましく、15mm以上とすることがさらに好ましく、20mm以上とすることがより好ましい。また特に限定されないが、エッジワイズ曲げ加工用銅条20の幅Wは60mm以下であってもよい。
本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、端面を含めた破断伸びE(%)が強度TS(MPa)に関してE≧-0.19TS+65とされていることにより、この端面をエッジワイズ曲げの外側とすることで、エッジワイズ曲げ加工時における割れや破断の発生を抑制することが可能となる。ここで、端面を含めた破断伸びは、図2に示す試験片を用いて引張試験を行うことで測定することができる。なお、図2に示す試験片の形状は、以下に示すとおりである。
S0:平行部の断面積
L0:原標点距離 L0=5.65√S0
LC:平行部の長さ 平行部の長さの範囲:L0+2√S0
b0:幅
t:厚み
R:肩部の半径
本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、強度TSが300MPa以下であることで、導電率を下げず、伸びを確保できる。
なお、本実施形態においては、エッジワイズ曲げ加工用銅条20の強度TSは、290MPa以下が好ましく、285MPa以下がさらに好ましく、280MPa以下がもっとも好ましい。特に限定されないが、エッジワイズ曲げ加工用銅条20の強度TSは、150MPa以上であってもよい。
本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20から、図2に示す試験片を複数採取し、端面を含めた破断伸びを測定した際に、端面を含めた破断伸びの標準偏差が5.0%以下である場合には、端面を含めた破断伸びが安定しており、この端面をエッジワイズ曲げの外側とすることで、エッジワイズ曲げ加工時における割れや破断の発生を確実に抑制することが可能となる。
なお、本実施形態では、エッジワイズ曲げ加工用銅条20から試験片を5個以上採取して、端面を含めた破断伸びを測定し、標準偏差を算出することが好ましい。
また、端面を含めた破断伸びの標準偏差は、3.0%以下であることがより好ましく、2.0%以下とすることがさらに好ましく、1.7%以下であることがより一層好ましい。
本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20において、Cuの含有量が高く、相対的に不純物濃度が少ない程、導電率が高くなる。このため、本実施形態では、Cuの含有量を99.90mass%以上とすることが好ましい。
なお、本実施形態のエッジワイズ曲げ加工用銅条20において、さらに導電率を向上させるためには、Cuの含有量を99.93mass%以上とすることがさらに好ましく、99.95mass%以上とすることがより好ましい。
Mgは、銅の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、強度を向上させる作用効果を有する元素である。また、Mgを母相中に固溶させることにより、強度や耐熱性が向上する。さらに、Mgを添加することで組織の均一化、加工硬化能の向上が得られ、エッジワイズ曲げの加工性が向上する。このため、強度、耐熱性、エッジワイズ曲げ加工性等を向上させるために、Mgを添加してもよい。
また、CaやZrを添加した場合には、CaやZrがCuと金属間化合物を生成し、導電率を大きく低下させることなく、組織の均一化、加工硬化能、結晶粒径を微細化し、エッジワイズ曲げ加工性をさらに向上させることが可能となる。このため、エッジワイズ曲げ加工性等を向上させるために、CaやZrを添加してもよい。
このため、本実施形態において、Mg,Ca,Zrから選択される1種又は2種以上を添加する場合には、Mg,Ca,Zrから選択される1種又は2種以上の合計含有量を10massppm超え100massppm未満とすることが好ましい。
銅中に微量に添加されたAgは、粒界近傍に偏析することとなる。これにより、粒界での原子の移動が妨げられ、結晶粒径が微細化し、より優れる曲げ加工性を得ることが可能となる。
ここで、Ag濃度を5massppm以上とすることで、上述の作用効果を奏することが可能となる。一方、Agの含有量を20massppm以下とすることにより、導電性の低下を抑制することができるとともに製造コストの増加を抑制することができる。
このため、本実施形態において、Agを含有する場合には、Ag濃度を5massppm以上20massppm以下とすることが好ましい。
H(水素)は、鋳造時にO(酸素)と結びついて水蒸気となり、鋳塊中にブローホール欠陥を生じさせる元素である。このブローホール欠陥は、鋳造時には割れ、圧延時にはふくれおよび剥がれ等の欠陥の原因となる。これらの割れ、ふくれ及び剥がれ等の欠陥は、応力集中して破壊の起点となる。
このため、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、H濃度を10massppm以下とすることが好ましい。
なお、H濃度は、4massppm以下であることがさらに好ましく、2massppm以下であることがより好ましい。
O(酸素)は、銅合金中の各成分元素と反応して酸化物を形成する元素である。これらの酸化物は、破壊の起点となるため、加工性が低下し、製造を困難とする。
このため、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、O濃度を500massppm以下とすることが好ましい。
なお、O濃度は、400massppm以下であることがさらに好ましく、200massppm以下であることがより好ましく、100massppm以下であることがより一層好ましく、さらに50massppm以下であることが好ましく、20massppm以下であることが最適である。
C(炭素)は、溶湯の脱酸作用を目的として、溶解、鋳造において溶湯表面を被覆するように使用されるものであり、不可避的に混入するおそれがある元素である。C濃度は、鋳造時のCの巻き込みが多くなると高くなる。これらのCや複合炭化物、Cの固溶体の偏析は、冷間加工性を劣化させる。
このため、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、C濃度を10massppm以下とすることが好ましい。
なお、C濃度は、5massppm以下であることがさらに好ましく、1massppm以下であることがより好ましい。
S(硫黄)は、銅中に含有されることにより、導電率を大幅に低下させる。
このため、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、S濃度を10massppm以下とすることが好ましい。
なお、S濃度は、5massppm以下であることがさらに好ましく、1massppm以下であることがより好ましい。
上述した元素以外のその他の不可避的不純物としては、Al,As,B,Ba,Be,Bi,Cd,Cr,Sc,希土類元素,V,Nb,Ta,Mo,Ni,W,Mn,Re,Ru,Sr,Ti,Os,P,Co,Rh,Ir,Pb,Pd,Pt,Au,Zn,Hf,Hg,Ga,In,Ge,Y,Tl,N,S,Sb,Se,Si,Sn,Te,Li等が挙げられる。これらの不可避不純物は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
また、これらの不可避不純物のそれぞれの含有量の上限は、30massppm以下とすることが好ましく、20massppm以下とすることがさらに好ましく、15massppm以下とすることがより好ましい。
本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20において、導電率が十分に高いと、通電時の発熱が抑えられるため、バスバーに特に適している。
このため、本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20においては、導電率が97.0%IACS以上であることが好ましい。
なお、導電率は、97.5%IACS以上であることがさらに好ましく、98.0%IACS以上であることがより好ましく、さらには98.5%IACS以上であることが好ましく、99.0%IACS以上であることが最も好ましい。
本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20において、幅Wと厚みtの比W/tが2以上とされている場合には、バスバー用の素材として特に適している。
なお、幅Wと厚みtの比W/tの下限は、3以上であることがさらに好ましく、4以上であることがより好ましい。一方、幅Wと厚みtの比W/tの上限に特に制限はないが、50以下であることが好ましく、40以下であることがさらに好ましい。
本実施形態であるエッジワイズ曲げ加工用銅条20において、板厚中心部(板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域)における平均結晶粒径が微細であると、優れた曲げ加工性を得ることが可能となる。
なお、板厚中心部(板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域)における平均結晶粒径は、40μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることがより好ましく、25μm以下がより一層好ましい。また、板厚中心部の平均結晶粒径の下限に特に制限はないが、実質的には1μm以上となる。
まず、銅原料を溶解して銅溶湯を得る。必要であればMg,Ca,Zrから選択される1種又は2種以上やAgを添加して成分調整を行う。なお、Mg,Ca,Zrから選択される1種又は2種以上やAgを添加する場合には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、リサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
溶解時においては、水素濃度低減のため、H2Oの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
そして、成分調整された銅溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程において不純物が偏析で濃縮することにより発生した金属間化合物等が存在することがある。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を300℃以上1080℃以下にまで加熱する加熱処理を行うことで、鋳塊内において、不純物を均質に拡散させる。なお、この均質化/溶体化工程S02は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
なお、後述する粗圧延の効率化と組織の均一化のために、前述の均質化/溶体化工程S02の後に熱間圧延を実施してもよい。熱間加工温度は、300℃以上1080℃以下の範囲内とすることが好ましい。
所定の形状に加工するために、粗圧延を行う。なお、この粗圧延工程S03における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するために、あるいは寸法精度の向上のため、冷間または温間圧延となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。ここで、材料中に均一にひずみが導入されることで、後述する中間熱処理工程S04で均一な再結晶粒が得られる。そのため、総加工率(減面率)は50%以上とすることが好ましく、60%以上とすることがより好ましく、70%以上とすることがさらに好ましい。また、1パス当たりの加工率(減面率)は10%以上とすることが好ましく、15%以上とすることがより好ましく、20%以上とすることがさらに好ましい。
粗圧延工程S03後に、再結晶組織にするために熱処理を実施する。なお、粗圧延工程S03と中間熱処理工程S04は繰り返し実施してもよい。
ここで、この中間熱処理工程S04が実質的に最後の再結晶熱処理となるため、この工程で得られた再結晶組織の結晶粒径は最終的な結晶粒径にほぼ等しくなる。そのため、この中間熱処理工程S04では、板厚中心の平均結晶粒径が50μm以下となるように、適宜、熱処理条件を選定することが好ましい。
中間熱処理工程S04後の銅素材を所定の形状に加工するため、上前圧延を行ってもよい。なお、この上前圧延工程S05における温度条件は、圧延時の再結晶を抑制するために、冷間、または温間加工となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。
また、圧延率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、1%以上30%以下の範囲内とすることが好ましい。
上前加工工程S05後に、機械的表面処理を行う。機械的表面処理は、表面近傍に圧縮応力を与える処理であり、表面近傍の圧縮応力によってフラットワイズ曲げ加工時に発生する割れを抑制させ、曲げ加工性を向上させる効果がある。
機械的表面処理は、ショットピーニング処理、ブラスト処理、ラッピング処理、ポリッシング処理、バフ研磨、グラインダー研磨、サンドペーパー研磨、テンションレベラー処理、1パス当りの圧下率が低い軽圧延(1パス当たりの圧下率1~10%とし3回以上繰り返す)など一般的に使用される種々の方法が使用できる。
次に、機械的表面処理工程S06によって得られた銅材に対して、含有元素の粒界への偏析および残留ひずみの除去のため、仕上熱処理を実施してもよい。この熱処理は、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理温度は、100℃以上500℃以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、この仕上熱処理工程S07においては、中間熱処理工程S04で得られた結晶粒径の粗大化を避けるように、熱処理条件(温度、時間)を設定する必要がある。例えば450℃では0.1秒から10秒程度保持することが好ましく、250℃では1分から100時間保持することが好ましい。この熱処理は、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理の方法は特に限定はないが、製造コスト低減の効果から、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましい。
さらに、上述の上前圧延工程S05、機械的表面処理工程S06、仕上熱処理工程S07を、繰り返し実施してもよい。
また、仕上熱処理工程S07の後に金属めっき(Snめっき、Niめっき、又は、Agめっき等)を施してもよい。
次に、材料強度の調整、形状付与を目的として、必要に応じて適宜加工を施してもよい。冷間、または温間加工となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。また、加工率(減面率)は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、1%以上30%以下の範囲内とすることが好ましい。この加工は、圧延、引抜加工、押し出し加工、鍛造加工、切削加工、研磨加工などが挙げられる。
仕上熱処理工程S07または仕上加工工程S08後の銅材に対して、所望の形状に加工するために必要に応じて形状付与加工を行う。
形状付与加工は、スリット加工、プッシュバック加工、打ち抜き加工、引抜加工、スウェージング加工、コンフォーム加工など一般的に使用される種々の方法が使用できる。また、精密せん断法のスリット加工を用いてもよい。具体的には、半せん断と逆せん断で材料を分離するカウンタカット加工や、半せん断とロールによる押圧で材料を分離するロールスリット加工など一般的に使用される種々の方法が使用できる。
なお、形状付与加工をプッシュバック加工、引抜加工、スウェージング加工、コンフォーム加工、精密せん断法のスリット加工など加工時で端面が処理される方法の場合、バリ処理は行われなくてもよい。
帯溶融精製法により、Cuの含有量が99.9mass%以上とされたいわゆる3NCuと、Cuの含有量99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuからなる原料を用いて各種添加元素を1mass%含む母合金を作製し、準備した。
上述の銅原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。
得られた銅溶湯を、断熱材(イソウール)鋳型に注湯することにより、表1,2に示す成分組成の鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約80mm×幅約500mmとした。
その後、適宜最終厚みを調製するために切断を行った。切断されたそれぞれの試料は表1,2に記載の条件で粗圧延を行った。次いで、表5,6に記載の結晶粒径が得られるように、中間熱処理を実施した。次に、表1,2に記載された条件にて上前圧延工程を実施した。次に、表1,2に記載された条件にて機械的表面処理工程を実施した。次に、250℃で1分保持の条件で仕上げ熱処理を実施した。また、表3,4に記載の厚みtが得られるように、仕上加工工程を実施した。さらに、表3,4に記載の板幅Wが得られるように形状付与加工工程とバリ処理を実施した。また、長さは200mmから600mmとした。
得られた鋳塊から測定試料を採取し、Mg,Ca,Zrは誘導結合プラズマ発光分光分析法で、その他の元素はグロー放電質量分析装置(GD-MS)を用いて測定した。また、Hの分析は、熱伝導度法で行い、O,S,Cの分析は、赤外線吸収法で行った。Cu量は銅電解重量法(JIS H 1051)を用いて測定した。なお、試料中央部と幅方向端部の2カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。
エッジワイズ曲げ加工用銅条から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向がエッジワイズ曲げ加工用銅条の圧延方向に対して平行になるように採取した。
得られたエッジワイズ曲げ加工用銅条から幅20mm×長さ20mmのサンプルを切り出し、SEM-EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)測定装置によって、板厚中心の平均結晶粒径を測定した。
圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD面(Transverse direction)を観察面として、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った。次いで、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行って測定用サンプルを得た。その後、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.7.3.1)を用いて、電子線の加速電圧15kV、10000μm2以上の測定面積にて、0.25μmの測定間隔のステップで観察面をEBSD法により測定した。
JIS Z 2241の引張試験方法で、引張強度を求めた。また、ストローク伸びを用いて応力ひずみ曲線を取得した。その応力ひずみ曲線から、試験片が破断した時点までの伸びを破断伸びとし、その平均値と標準偏差を求めた。求めた破断伸びE及び強度TSから、E≧-0.19TS+65の関係を満たすものを「〇」とし、E≧-0.19TS+65の関係を満たさないものを「×」とした。
なお、JIS Z 2241の試験片では、試験片を作製するための加工によって、エッジワイズ曲げ加工用銅条の両方の端面を失われるため、不適である。一方で、エッジワイズ曲げ加工用銅条の両方の端面を残すと、つかみ部近傍に応力が集中し、つかみ部近傍で切れるため、伸びのばらつきが大きくなり、伸びが正確に測定できない。すなわち、試験片の片方の端面は図2に示す形状に加工され、その端面は平滑であり、試験片のもう片方の端面はエッジワイズ曲げ加工用銅条の端面を残した試験片を作製し測定することが好ましい。試験片の形状は、表3,4に記載されている引張試験片の厚みt、幅b0、平行部の断面積S0、平行部の長さLCとし、肩部の半径Rを15mmとして、形状付与後の端面側以外を放電加工にて切断して5個採取して、端面を含めた破断伸びを測定し、標準偏差を算出した。
表5,6に記載の曲げ半径Rと板幅Wの比R/Wになるようにエッジワイズ曲げ加工を実施した。
エッジワイズ曲げの外側となる端面にしわがないものを「A」(excellent)と評価し、エッジワイズ曲げの外側となる端面にしわがあるものを「B」(good)と評価し、エッジワイズ曲げの外側となる端面に小さな割れがあるものを「C」(fair)と評価し、エッジワイズ曲げの外側となる端面が破断し、エッジワイズ曲げが出来なかったものを「D」(poor)と評価した。なお、評価結果A~Cまでを「厳しい条件でもエッジワイズ曲げが可能」と判断した。
比較例2においては、強度TSが317MPaと高く、端面を含む破断伸びを確保できず、長手方向に延在する端面を含めた破断伸びE(%)と強度TS(MPa)とがE≧-0.19TS+65の関係を満たすことがなくて、この端面を外側にしてエッジワイズ曲げを実施した際に破断し、曲げ加工性が「D」となった。
13 エッジワイズ曲げ部
15 めっき層
17 絶縁被覆部
20 エッジワイズ曲げ加工用銅条
L0 原標点距離
LC 平行部の長さ
R 肩部の半径
Claims (14)
- 曲げ半径Rと幅Wの比率R/Wが5.0以下でエッジワイズ曲げ加工するエッジワイズ曲げ加工用銅条であって、
厚みtが1mm以上10mm以下の範囲内とされ、
強度TSが300MPa以下とされ、
長手方向に延在する端面を含めた破断伸びE(%)と強度TS(MPa)とがE≧-0.19TS+65の関係を満たすことを特徴とするエッジワイズ曲げ加工用銅条。 - Cuの含有量が99.90mass%以上であることを特徴とする請求項1に記載のエッジワイズ曲げ加工用銅条。
- Mg,Ca,Zrから選択される1種又は2種以上を合計で10massppm超え100massppm未満の範囲内で含むことを特徴とする請求項1に記載のエッジワイズ曲げ加工用銅条。
- 導電率が97.0%IACS以上とされていることを特徴とする請求項1に記載のエッジワイズ曲げ加工用銅条。
- 幅Wと厚みtの比率W/tが2以上であることを特徴とする請求項1に記載のエッジワイズ曲げ加工用銅条。
- 板厚中心部の平均結晶粒径が50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のエッジワイズ曲げ加工用銅条。
- 前記破断伸びの標準偏差が5.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載のエッジワイズ曲げ加工用銅条。
- Ag濃度が5massppm以上20massppm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のエッジワイズ曲げ加工用銅条。
- H濃度が10massppm以下、O濃度が500massppm以下、C濃度が10massppm以下、S濃度が10massppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のエッジワイズ曲げ加工用銅条。
- 前記端面がスリット面であることを特徴とする請求項1に記載のエッジワイズ曲げ加工用銅条。
- 請求項1から請求項10のいずれか一項に記載されたエッジワイズ曲げ加工用銅条を用いて製造されたことを特徴とする電子・電気機器用部品。
- 請求項1から請求項10のいずれか一項に記載されたエッジワイズ曲げ加工用銅条を用いて製造されたことを特徴とするバスバー。
- 通電部にめっき層が形成されていることを特徴とする請求項12に記載のバスバー。
- エッジワイズ曲げ部と絶縁被覆部とを備えていることを特徴とする請求項12に記載のバスバー。
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