JP2022061197A - 制振建物 - Google Patents
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Abstract
Description
例えば特許文献1には、内部に液体を収容し構造物に設置されたタンクと、タンクの両側壁に接続されタンク内に連通する配管と、配管に設けられたポンプと、構造物の振動と配管を流れる液体の流量に基づいてポンプを制御する制御装置と、を備えるスロッシングダンパが開示されている。
また、特許文献2には、スロッシング槽内に、水よりも粘性の高い泥水を満たしてなるスロッシングダンパが開示されている。
また、特許文献3には、液体を収納した筒状の水槽と、水槽内を分割して複数のスロッシング溝を形成する分割整流板と、水槽の中心縦軸の回りに水槽を回転させる回転機構とを備え、液体が水槽内でスロッシング溝の長手方向に揺れるようにしたスロッシングダンパが開示されている。
現代の快適な生活は安定した水や電気等の供給により実現されている。これまでも、地震時等に、建物が損壊しなくとも、水道や電気といったライフラインが停止することで、建物内で生活を継続することができず、避難所等に避難せざるを得ない場合も生じている。例えば、高層マンション等で、停電によりエレベータが停止すれば、居住者が建物内の居住スペースから建物外に出入りすることすら困難となる。また、水等は、非常時に備えて備蓄することもできるが、備蓄するためのスペース等との関係もあり、生活に十分な量の備蓄を行うのは難しいケースも生じる。更に、特に高層マンション等においては、地震等に伴って火災が発生した場合に備えての消火用水の確保も重要となる。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の制振建物は、上層に質量ダンパーが設けられた制振建物であって、前記質量ダンパーは、放水可能な複数の貯水タンクを備える水槽と、前記水槽を支える滑り支承部と、前記水槽の振動を減衰させる減衰装置と、を備え、前記滑り支承部は、第1の球面滑り支承と、前記第1の球面滑り支承より大きな摩擦係数を有する第2の球面滑り支承を備え、前記水槽から放水する際には、前記第2の球面滑り支承の上方に設置される前記貯水タンクを、前記第1の球面滑り支承の上方に設置される前記貯水タンクよりも先に放水することにより、前記水槽の質量の変化に応じて応答変位が調整される。
このような構成によれば、複数の貯水タンクに貯えた水の質量を利用した質量ダンパーを上層に備えている。この制振建物では、水を蓄えた複数の貯水タンクを備える水槽が、滑り支承部によって建物に生じた振動にともなって変位しつつ、その変位が、滑り支承部の摩擦による減衰力と、減衰装置の減衰力とによって減衰される。貯水タンクに蓄えた水を放水する場合、第2の球面滑り支承の上方に設置される貯水タンクから先に放水することで、第2の球面滑り支承の上方に位置する質量が優先的に減少し、第2の球面滑り支承の摩擦係数が、質量ダンパー全体の摩擦係数に対する影響が低下する。ここで、第2の球面滑り支承は第1の球面滑り支承より大きな摩擦係数を有する。したがって、質量ダンパー全体の摩擦係数は低下する。このように、水槽の質量の減少に応じて質量ダンパー全体の摩擦係数が低下し、これにより建物の応答変位が調整される。したがって、質量ダンパーにおける、水の使用に起因する耐震性能の低下が抑制可能となる。
また、質量ダンパーの質量として、固形体や巨大な貯水量ではなく、複数の貯水タンクに蓄えた水の質量を利用する。このため、建物上層における水槽の設置面積や設置面形状などの制約を受けることが抑えられ、設計自由度の高い質量ダンパーを設置できる。
このような構成によれば、第1の球面滑り支承、及び第2の球面滑り支承を、上下に互いに対向して設けられる球面状の凹部からなる一対の滑り面と、一対の滑り面の間に設けられた滑り体と、を備える、いわゆる二面摺動タイプとしている。このような球面滑り支承においては、一対の滑り面の球面の曲率半径によって周期が決まるため、質量ダンパーの質量が変動しても周期は変動しない。このため、質量ダンパーを、常に適切な周期にしておくことができる。また、建物重心に対して重心に近い側と遠い側に設置した第1の球面滑り支承、及び第2の球面滑り支承で、貯水タンクを支持することによって、様々な多方向から作用する地震荷重に対応可能な質量ダンパーが実現される。
このような構成によれば、貯水タンクに蓄えた水を、放水管を通して放水することで、発電装置で発電を行うとともに、発電装置を通過した少なくとも一部の水を、生活用水として利用可能となる。
以下、添付図面を参照して、本発明による制振建物を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る制振建物の上層階の構成を示す断面図を図1に示す。図2は、図1の制振建物に備えられた質量ダンパーを示す平面図である。
図1、図2に示されるように、制振建物1は、建物本体2と、質量ダンパー10と、を備えている。
建物本体2は、例えば高層マンション等として用いられる。本実施形態において、建物本体2は、平面視矩形で、中央部に上下方向に連続する吹き抜け部3が形成された構成をなしている。建物本体2は、吹き抜け部3の外周部に、上下方向に複数の階層4を有している。建物本体2は、各階層4に、住居等の複数の専有区画Sを有している。なお、ここで示した建物本体2の用途や形状は一例に過ぎず、他の用途、他の形状であってもよい。
水槽20は、建物本体2において、吹き抜け部3を上方から塞ぐように配置されている。水槽20は、平面視矩形で、屋上面2rに沿って配置された底板20aと、底板20aの上方に間隔をあけて配置された天板20bと、水槽20の外周部で底板20aと天板20bとの間を塞ぐ外壁板20cと、を有した中空箱状をなしている。水槽20内には、複数の隔壁22が格子状に設置されている。これら複数の隔壁22によって水槽20内が複数に区画されることで、複数の貯水タンク21が形成されている。各貯水タンク21内には、不図示の給水部により、水Wが蓄えられている。
滑り支承部30は、建物本体2の屋上面2rにおいて、水槽20の下側に設置されている。滑り支承部30は、建物本体2の屋上で、水槽20を下方から支える。滑り支承部30は、第1の球面滑り支承31と、第2の球面滑り支承32と、を備えている。
図3に示されるように、第1の球面滑り支承31、及び第2の球面滑り支承32は、それぞれ、上部部材33と、下部部材34と、滑り体35と、を備えている。
上部部材33は、水槽20の底板20aの下面に固定されている。上部部材33の下面には、下方を向く滑り面33fが形成されている。下部部材34は、上部部材33に対して上下方向で対向する位置に配置されている。下部部材34は、建物本体2の屋上面2rに固定されている。下部部材34の上面には、上方を向く滑り面34fが形成されている。これにより、一対の滑り面33f、34fは、上下に互いに対向して設けられている。一対の滑り面33f、34fは、各々、平面視円形状を成している。一対の滑り面33f、34fは、各々が球面状の凹部として形成されている。上方に配置された滑り面33fを形成する凹部は、外周部から中心部に向かって上方に窪むように湾曲している。下方に配置された滑り面34fを形成する凹部は、外周部から中心部に向かって下方に窪むように湾曲している。
滑り体35は、一対の滑り面33f、34fの間に挟み込まれることで、上部部材33と下部部材34との間で鉛直荷重を伝達する。滑り体35の上面35f及び下面35gは、球面状の凸部によって形成されている。滑り体35の上面35fは、外周部から中心部に向かって上方に突出するように湾曲している。滑り体35の下面35gは、外周部から中心部に向かって下方に突出するように湾曲している。滑り体35は、上面35f、及び下面35gが、一対の滑り面33f、34fに沿って摺動することで、上部部材33と下部部材34との水平方向の相対移動を許容している。
図2に示すように、滑り支承部30を構成する第1の球面滑り支承31と、第2の球面滑り支承32とは、摩擦係数に応じて水槽20の重心20gからの距離が決定されている。本実施形態では、第1の球面滑り支承31は、水槽20の重心20gに近い側(中央部側)に配置されている。第2の球面滑り支承32は、重心20gから離れた側(外周部側)に配置されている。
また、放水管50には、建物本体2の各階層4に水Wを供給する供給管52が接続されている。供給管52は、建物本体2内の水道管に接続され、建物本体2の各階層4の専有区画Sに、放水管50内の水Wを生活用水として供給する。
また、水槽20は、滑り支承部30によって支持されている。水槽20と建物本体2との間に水平方向の相対変位が生じた場合、第1の球面滑り支承31、第2の球面滑り支承32において、一対の滑り面33f、34fと、滑り体35との間で生じる摩擦力によって、水槽20と建物本体2との間の水平方向の相対変位エネルギーが減衰される。
更に、水槽20と建物本体2との間の水平方向の相対変位エネルギーは、減衰装置40によっても減衰される。
制振建物1では、停電や断水が生じた場合、水槽20の複数の貯水タンク21に蓄えた水Wを、放水管50に放水することで、建物本体2内に、発電装置51による電力供給と、給水を行う。これにより、制振建物1内におけるライフラインが確保される。
例えば、質量ダンパー10の周期が建物本体2より短い場合、質量ダンパー10があることにより、かえって建物応答が大きくなってしまう場合がある。質量ダンパー10の質量が最大のときに合わせて復元力を設定すると、質量ダンパー10の質量の減少に伴い、建物本体の応答性状が悪化することがある。逆に、質量ダンパー10の質量が最小のときに合わせて復元力を設定すると、満水時の質量ダンパー10の質量が大きい時点では、質量ダンパー10の変形が過大となってしまうことがある。
このため、本実施形態の制振建物1においては、放水によって質量ダンパー10の質量が減少しても、質量の変化に応じて適切な復元力と減衰が設定された状態となって、所要の制震性能を確保する必要がある。
そこで、本実施形態においては、質量ダンパー10の復元力を、上記のような滑り支承部30で与えている。球面滑り支承31、32においては、一対の滑り面33f、34fの球面の曲率半径によって周期が決まるため、質量ダンパー10の質量が変動しても周期は変動しない。このため、質量ダンパー10を、常に適切な周期にしておくことができる。
一方、オイルダンパー等のように速度に応じて減衰力を発揮する、上記のような減衰装置40のみを用いた場合においては、微小な揺れに対してもエネルギー吸収を行うことができる。しかし、オイルダンパーによる減衰は質量に依らず一定であり、質量の減少に伴い減衰力が過大となってしまう。
そこで、本実施形態においては、上記のように、球面滑り支承31、32と減衰装置40の組み合わせにより減衰が与えられる構成としている。
ただし、減衰装置40による減衰力は、上記のように、質量ダンパー10の質量の変動に関わらず一定である。質量ダンパー10の質量変動に伴って変化するのは、滑り支承部30における摩擦による減衰力のみである。滑り支承部30における摩擦による減衰力、及び減衰装置40による減衰力の、質量ダンパー10の質量に対する割合を、質量ダンパー10の質量変動に関わらず、なるべく一定に保つには、質量ダンパー10の質量変動に対し、滑り支承部30における摩擦による減衰力の変動割合を大きくする必要がある。
ここで、摩擦係数が小さい第1の球面滑り支承31に支持された貯水タンク21から放水し、第1の球面滑り支承31に支持された質量が減少しても、質量ダンパー10の全体としての摩擦係数はあまり低下せず、したがって減衰力はほとんど変化しない。逆に、摩擦係数が大きい第2の球面滑り支承32に支持された貯水タンク21から放水し、第2の球面滑り支承32に支持された質量が減少すれば、質量ダンパー10の全体としての摩擦係数の低下量は大きくなり、したがって、減衰力は質量の減少割合以上に低下する。
このため、本実施形態では、摩擦係数が大きい第2の球面滑り支承32によって支持された、水槽20の外周側の貯水タンク21の水Wを、摩擦係数が小さい第1の球面滑り支承31によって支持された、水槽20の中央部側の貯水タンク21よりも先に放水する。
このように、水槽20の複数の貯水タンク21から放水する順序を、第1の球面滑り支承31と第2の球面滑り支承32との配置に応じて適切に調整することで、滑り支承部30における摩擦による減衰力、及び減衰装置40による減衰力の、質量ダンパー10の質量に対する割合が、質量ダンパー10の質量変動に関わらず、なるべく一定に保たれるようにされている。これにより、質量と減衰力のバランスを取ることができる。
制振建物1としては、一般的な超高層マンションを想定して検討を行った。想定した超高層マンションの平面規模と屋上階に設置する水槽の配置を図4に示す。超高層マンションは、40階建て、全層同じ平面形状・階高(面積:1、188m2、階高:3.5m、建物高さ:140m)とした。
解析には多質点の非線形せん断質点系モデルを用いることとし、諸元は、平均的な超高層マンションの値となるよう設定した。ただし応答性状の調整のため、1次固有周期(s)は建物高さ(m)に0.02ではなく0.021を乗じた2.94sとした。減衰は、瞬間剛性比例型とし、1次固有周期に対し3%とした。入力地震動は告示スペクトルに適合する告示波4波(位相特性:El centro、Taft、Hachinohe、Kobe、レベル2)(以下、これらを告示波EL、TF、HA、KB)を用いている。
質量ダンパーを設置しない状態(以下、基本モデル)での建物本体の最大層間変形角の解析結果を、図5に示す。この図5に示すように、最大層間変形角は1/100以下に納まっており、一般的な建物と同程度の耐震性を有していると言えるが、10階から30階付近では降伏変位を上回っている。
満水時の建物質量に対する質量ダンパーの割合は3.6%、減衰装置を構成するオイルダンパーによる質量ダンパーの付加減衰定数は20%である。滑り出し前の質量ダンパーの周期は質量によらず0.1sとした。図6に示すように、質量ダンパーの質量が変動しても応答低減効果を有しており、質量が2000t以上であれば全層で応答変位を降伏変位以下とすることができる。
図8に、告示波4波に対する質量ダンパーの最大応答変位を示す。図8においては、滑り支承の摩擦係数が0.01の場合が線L1として、及び滑り支承の摩擦係数が0.035の場合が線L2として、それぞれ示されている。図9に、告示波4波に対する最大層間変形角の基本モデルに対する比率(応答低減率)を示す。図9においては、滑り支承の摩擦係数が0.01の場合が線L5として、及び滑り支承の摩擦係数が0.035の場合が線L6として、それぞれ示されている。
図8に示すように、摩擦係数を0.01で一定とした場合、質量ダンパーの質量が大きいときに、線L3として示される許容変位を超える。また、図9に示すように、摩擦係数を0.035で一定とした場合、質量ダンパーの質量が小さいときに応答低減率が1.0近くとなり、応答低減効果が低下する。図8、図9において摩擦係数調整として、線L4、L7として示されているように、摩擦係数を、質量ダンパーの質量に応じて0.01から0.035の間で自由に設定することで、質量ダンパーの応答変位を許容値に収めながら、応答低減効果を大きくすることができる。
まず、図10に示すように、8個の貯水タンクを、5個の滑り支承で支持する場合について検討した。最も外側(両端)に配置された2個の滑り支承(第2の球面滑り支承32に相当)の摩擦係数を0.114とし、内側に配置された3個の滑り支承(第1の球面滑り支承31に相当)の摩擦係数を0.01とした。
摩擦係数が高い球面滑り支承の上方の、最も外側に位置する貯水タンクと、最も外側から2番目の貯水タンクとから、2:3の割合の流量で放水し、最も外側の貯水タンクが空になった後に、摩擦係数が低い球面滑り支承の上方の、中央の貯水タンクから放水すれば、質量ダンパー全体としての摩擦係数が0.035から0.01へと順次低下し、ほぼ図7で設定した値と同じ値を実現できる。
次に、図11に示すように、6個の貯水タンクを、4個の滑り支承で支持する場合について検討した。最も外側(両端)に配置された2個の滑り支承(第2の球面滑り支承32に相当)の摩擦係数を0.088とし、内側に配置された2個の滑り支承(第1の球面滑り支承31に相当)の摩擦係数を0.01とした。
摩擦係数が高い球面滑り支承の上方の、最も外側に位置する貯水タンクと、最も外側から2番目の貯水タンクから、3:1の割合の流量で放水し、最も外側から2番目の貯水タンクが空になった後に、摩擦係数が低い球面滑り支承の上方の、中央の貯水タンクから放水すれば、質量ダンパー全体としての摩擦係数が0.035から1.00へと順次低下し、概ね図7で設定した値と同じ値を実現できる。
水槽内に蓄えられた水の位置エネルギーを利用し、重力による発電を行うように建物の吹抜けに放水管を配し、管内部に螺旋状の水車を設けた。放水管に水を流し、水車を回すことでゆっくりと水を落下させた。水力発電のエネルギー変換効率は80%程とされており、高さ140mに位置する2400tの水により、732kWhの発電が可能である。また、一般的な蓄電池と違い、自己放電による損失もない。
電気の復旧に一週間かかると想定し、それまでの期間を賄うものとすると、一日に消費できる電力は、約105kWhとなる。全住戸(10戸/階、40階)で均等に電力を分配すると0.26kWh/戸となるが、これは一般家庭の一日の電力使用量と比べ非常に小さい。各住戸で消費するには十分な備蓄量とは言えない。しかし、エレベータの消費電力は5kW程度であり、732kWhの発電により、21時間のエレベータの稼働が可能となる。例えば、深夜や早朝の運行を制限すれば、共用部の照明を確保しながらエレベータを一台運行させることができる。専有部への電力供給は難しいが、住み慣れた自宅に留まることが可能となる。
屋上の水槽からは発電用に一日に約343m3の水を放水する。マンション全体での水の使用料は、放水量に比べ小さく、発電への影響は小さい。螺旋状の水車により水の落下速度は弱められているので、どの階からでも共用廊下の蛇口をひねることで取水が可能である。水の復旧には最大で二週間から三週間を要することがあるが、屋上の水槽には十分な量の水が蓄えられている。一週間後には全ての水が発電のため下階に落ちることとなるが、その頃には電気が復旧していると考えられる。排出した水の一部を下水に流さず下階に蓄えておくことで、電気復旧後は水を再度上方へ送って水槽に蓄えることが可能である。ただし飲料水は各自で備蓄しておく必要がある。
電気、及び水の復旧が完了した後は、屋上階に設けた蛇口から簡単に水槽の水を再度満たすことができる。
このような構成によれば、複数の貯水タンク21に貯えた水Wの質量を利用した質量ダンパー10を上層に備えている。この制振建物1では、水Wを蓄えた複数の貯水タンク21を備える水槽20が、滑り支承部30によって建物本体2に生じた振動にともなって変位しつつ、その変位が、滑り支承部30の摩擦による減衰力と、減衰装置40によって減衰される。貯水タンク21に蓄えた水Wを放水する場合、大きな摩擦係数を有する第2の球面滑り支承32の上方に設置される貯水タンク21から先に放水することで、第2の球面滑り支承32の上方に位置する質量が優先的に減少し、第2の球面滑り支承32の摩擦係数が、質量ダンパー10全体の摩擦係数に対する影響が低下する。ここで、第2の球面滑り支承32は第1の球面滑り支承31より大きな摩擦係数を有する。したがって、質量ダンパー10全体の摩擦係数は低下する。このように、水槽20の質量の減少に応じて質量ダンパー10全体の摩擦係数が低下し、これにより建物本体2の応答変位が調整される。したがって、質量ダンパー10における、水Wの使用に起因する耐震性能の低下が抑制可能となる。
また、質量ダンパー10の質量として、固形体や巨大な貯水量ではなく、複数の貯水タンク21に蓄えた水Wの質量を利用する。このため、建物本体2上層における水槽20の設置面積や設置面形状などの制約を受けることが抑えられ、設計自由度の高い質量ダンパー10を設置できる。
このような構成によれば、制振建物1を適切に実現可能である。
このような構成によれば、第1の球面滑り支承31、及び第2の球面滑り支承32を、上下に互いに対向して設けられる球面状の凹部からなる一対の滑り面33f、34fと、一対の滑り面33f、34fの間に設けられた滑り体35と、を備える、いわゆる二面摺動タイプとしている。このような球面滑り支承31、32においては、一対の滑り面33f、34fの球面の曲率半径によって周期が決まるため、質量ダンパー10の質量が変動しても周期は変動しない。このため、質量ダンパー10を、常に適切な周期にしておくことができる。また、第1の球面滑り支承31が水槽20の重心20gに近い側に配置され、第2の球面滑り支承32が水槽20の重心20gから離れた側に配置されている。これにより、様々な多方向から作用する地震荷重に対応可能な質量ダンパー10が実現される。
このような構成によれば、貯水タンク21に蓄えた水Wを、放水管50を通して放水することで、発電装置51で発電を行うとともに、発電装置51を通過した少なくとも一部の水Wを、生活用水として利用可能となる。
すなわち、水槽20の外周部側と中央部側のいずれか一方に設けられる球面滑り支承を、他方に設けられる球面滑り支承に比べて、大きな摩擦係数を有するようにし、水槽20から放水する際には、水槽20の一方側に設置される貯水タンク21から、他方側に設置される貯水タンク21の順序で放水することにより、水槽20の質量の変化に応じて応答変位が調整されるようにしてもよい。
第1の球面滑り支承31と第2の球面滑り支承32は、上記に限られず、どのように配置されていても、水槽20から放水する際に、第2の球面滑り支承32の上方に設置される貯水タンク21を、第1の球面滑り支承31の上方に設置される貯水タンク21よりも先に放水するようにされていればよい。
この場合においては、各貯水タンク21の下に対応して球面滑り支承を配したうえで、隣接する貯水タンク21どうしを互いに接合せず、各貯水タンク21の荷重が直下の対応する球面滑り支承にのみ支持されるようにすることで、より緻密かつ正確に、質量ダンパー全体としての摩擦係数を管理することができる。
10 質量ダンパー 33f、34f 滑り面
20 水槽 35 滑り体
20g 重心 40 減衰装置
21 貯水タンク 50 放水管
21h 放水口 51 発電装置
30 滑り支承部 W 水
31 第1の球面滑り支承
Claims (3)
- 上層に質量ダンパーが設けられた制振建物であって、
前記質量ダンパーは、
放水可能な複数の貯水タンクを備える水槽と、
前記水槽を支える滑り支承部と、
前記水槽の振動を減衰させる減衰装置と、を備え、
前記滑り支承部は、第1の球面滑り支承と、前記第1の球面滑り支承より大きな摩擦係数を有する第2の球面滑り支承を備え、
前記水槽から放水する際には、前記第2の球面滑り支承の上方に設置される前記貯水タンクを、前記第1の球面滑り支承の上方に設置される前記貯水タンクよりも先に放水することにより、前記水槽の質量の変化に応じて応答変位が調整されることを特徴とする制振建物。 - 前記第1の球面滑り支承、及び前記第2の球面滑り支承は、それぞれ、上下に互いに対向して設けられる、各々が球面状の凹部として形成された一対の滑り面と、前記一対の滑り面の間に設けられてこれらに対して摺動する滑り体を備え、
前記第1の球面滑り支承及び前記第2の球面滑り支承の一方は、前記水槽の重心に近い側に配置され、前記第1の球面滑り支承及び前記第2の球面滑り支承の他方は、前記水槽の重心から遠い側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の制振建物。 - 前記貯水タンクには放水口が設けられ、前記放水口には下層階に向かう放水管が設置され、前記放水管には、内部を流れる水により発電する発電装置が設けられ、前記発電装置を通過した少なくとも一部の水が生活用水として供給されることを特徴とする請求項1または2に記載の制振建物。
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