JP2022049004A - 木材処理方法、木材処理剤、及び木材加工品 - Google Patents

木材処理方法、木材処理剤、及び木材加工品 Download PDF

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Abstract

【課題】食器や食品製造用器材用に、安全、安心に利用できる木材処理方法を提供する。【解決手段】木材を減圧加圧処理にて水を含浸して飽水状態にし、乾燥処理し、更に減圧加圧処理にて水を含浸して飽水状態した状態で、酒粕やビール粕のような発酵残溢物を含む木材処理剤に木材を浸漬又は木材を木材処理剤に塗布する。この処理の期間は、1日~8週間である。酒粕としては、日本酒の酒粕を用いることが可能である。または、ビール粕やワイン粕も用いることが可能である。これら発酵残溢物を含む木材処理剤により、細胞内腔に浸潤した水溶性成分の量を増大させ、木材の寸法安定性や変形能を向上させることができる。【選択図】図1

Description

本発明は、特に木材に浸漬する処理を行う木材処理方法、木材処理剤、及び木材加工品に関する。
木材の欠点の一つに、乾燥に伴い収縮し、寸法が安定しないことが挙げられる。水分の脱離に伴う木材細胞壁の収縮を抑制するため、各種有機液体の含浸処理による寸法安定化が考案されている。
特許文献1を参照すると、芳香族炭化水素類、低級アルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びメチルイソプロピルケトンを混合することにより、防腐剤、防虫剤、防蟻剤、難燃剤、染色剤、香料、合成樹脂等を木材の深部まで浸透させるキャリアーの役割となる木材用浸透助剤が記載されている。
特許文献1の木材用浸透助剤は、加圧注入のための設備や機材を必要とせず、塗布法、浸漬法、穿孔注入法による木材処理のみで、木材の深部に、しかも低コストで浸透させることができる。
特開2003-245904号公報
しかしながら、木材への含浸処理に用いられる有機液体は、特許文献1のジメチルスルホキシドに加え、他にも、水酸化ナトリウム、メチロールフェノール化合物、アンモニア水等、経口毒性の高い物質が多く、食器や食品製造用器材として安全、安心に利用できなかった。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
本発明の木材処理方法は、発酵残溢物を含む木材処理剤に木材を浸漬、又は前記木材処理剤を前記木材に塗布することを特徴とする。
本発明の木材処理方法は、前記木材処理剤は、含水率40~60%であることを特徴とする。
本発明の木材処理方法は、前記木材の含水率は10~30%であることを特徴とする。
本発明の木材処理方法は、木材処理剤に前記木材を浸漬する場合、前記木材の厚さが3mm以下の場合は、80℃~100℃で1時間以上加熱し、前記木材の厚さが3~5mmの場合は、80℃~100℃で3時間以上加熱し、前記木材の厚さが5mm以上の場合は、室温で加圧注入処理を行うことを特徴とする。
本発明の木材処理方法は、前記木材処理剤に浸漬、又は前記木材処理剤を塗布する前に、前記木材を減圧加圧処理にて水を含浸して飽水状態にしてもよいことを特徴とする。
本発明の木材処理方法は、前記減圧加圧処理後に乾燥処理し、更に減圧加圧処理にて水を含浸して飽水状態することを特徴とする。
本発明の木材処理剤は、発酵残溢物を含むことを特徴とする。
本発明の木材加工品は、前記木材処理方法により処理されたことを特徴とする。
本発明によれば、酒粕のような発酵残溢物に木材を浸漬することで、食器や食品製造用器材用に安全、安心に利用できる木材処理方法を提供することができる。
本発明の第二実施形態に係る発酵残溢物の調製の概念図である。 本発明の実施例1に係る酒粕の浸漬時間と重量増加率との関係を示すグラフである。 本発明の実施例1に係る水及び酒粕に8週間浸漬した木材の収縮率を示すグラフである。 本発明の実施例1に係る浸漬条件と浸漬処理木材の抗収縮能を示すグラフである。 本発明の実施例1に係る浸漬処理による浸漬処理木材の放射方向の抗収縮能の変化を示すグラフである。 本発明の実施例2に係る酒粕及びビール粕浸漬処理による浸漬処理木材の放射方向の抗収縮能の変化を示すグラフである。 本発明の実施例2に係る温水浸漬及び減圧加圧注入における浸漬時間の実験結果を示すグラフである。
<第一実施形態>
木製のお弁当箱やおひつ等の家庭用品は、戦後の高度成長期に、衛生管理の容易さや形状自由度の高さ、加工量産性を主な理由にして、木製品から金属やプラスチックへの転換が大いに進んだ。しかしながら、近年、快適さや経年利用による愛着形成等、木材を使うことによって得られる体験価値が評価されている。
ここで、木材は、ただ乾燥しただけでは寸法安定性が金属やプラスチックに及ばなかった。また、可塑性も少ないため、加工がしにくかった。これについて、従来から、各種有機液体の含浸により細胞壁を膨潤させる木材処理が知られていた。しかし、これまで膨潤効果が認められてきた有機液体は、ポリエチレングリコール(PEG)、水酸化ナトリウム、メチロールフェノール化合物、アンモニア水、ジメチルスルホキシド等に代表されるように経口毒性があったり、毒性が高かったりする物質であった。
このため、本発明者らは、食器や食品製造用器材用に、安全、安心に利用できる木材処理方法を開発していた。そして、桶樽の機能性の解明や製造工程の改善を目的とした一連の研究を進める中、日本酒の仕込み用大桶に用いられる木材の物性変化に着目した。仕込み用大桶は、容量が10石(約1800L)から30石、大きいものでは50石になる大型容器に使われるため、木材部材も当然大きい。このため、日本酒原料と発酵作用に暴露され、定期的に洗浄される木材部材にとって乾燥や膨潤の繰り返しに伴う形状変化による不具合も大きいと考えられる。しかしながら、仕込み用大桶の容器としての寿命は長く、新造された大桶は、日本酒用に数年~十数年使われた後、味噌用、醤油用に100年以上、竹タガの締め直しや部材交換等の維持管理と通じて使われることは珍しくない。ここで、木材は、グリコールや有機酸と相互作用して寸法安定性や可塑化等が生じるとの知見があり、本発明者らは、仕込み用大桶についてもこの効果が容器寿命に関係している可能性があると考えた。このため、本発明者らは、実際に、グリコールや有機酸のような成分を多く含むことが報告されている日本酒粕に代表される発酵残溢物で木材処理を行うことで寸法安定性や可塑化等を高められることを見いだし、鋭意実験を繰り返して、本発明を完成するに至った。
豊かな発酵文化と伝統工芸に代表される木の文化を有する我が国において、発酵残溢物(以下、発酵残溢物を、代表例として単に「酒粕」ともいう。)と木の組み合わせにより、安全、安心に利用できる木材処理方法を提供可能となる。
より具体的に説明すると、本実施形態に係る木材処理方法は、発酵残溢物を含む木材処理剤に木材を浸漬、又は木材処理剤を木材に塗布することを特徴とする。
具体的には、本実施形態に係る木材処理方法では、発酵残溢物に木材を浸漬、又は発酵残溢物を木材に塗布して、有効成分を木材内部まで浸透させる。この際、本実施形態では、発酵残溢物そのものではなく、後述する発酵残溢物を含む木材処理剤に浸漬、又は木材処理剤を木材に塗布することも発酵残溢物に浸漬又は発酵残溢物を塗布するのと同様に適用可能である。
ここで、本実施形態の木材処理方法に用いられる木材は、後述の実施例に記載したように、各種加工がしやすい機能性のあるスギ(Cryptomeria japonica D.Don)を用いることが可能である。他にも、本実施形態の木材としては、ブナ、トチ、カエデ、ナラ等の広葉樹の木材を広く用いることが可能である。また、針葉樹である木材も、後述する減圧加圧処理、脱脂乾燥等を行うことで用いることが考えられる。さらに、竹、ケナフ、その他の草本類を圧縮成形して加工したようなものについても用いることが可能である。
この木材は、漆器の木地づくりの工程において、最終仕上げの段階の漆器の木地であってもよい。具体的には、木材として、漆器を乾燥し、荒挽き、木地挽き等の削り加工が完了し、漆を塗布する前の段階のものを用いることが可能である。つまり、下地塗可能な段階の木材を用いることが可能である。または、厚さ0.2~1.5mm程度の成形用の木材の薄板等も用いることが可能である。さらに、木材の部位としては、心材、辺材、及び移行材のいずれでも使用可能である。ここで、本実施形態の移行材は、辺材が心材に移り変わる部位であることを示す。さらに、木材として、間伐材のような細いもの、節のある部位等であっても使用可能である。
本実施形態に係る木材処理方法では、木材処理剤に含まれる発酵残溢物は、日本酒の酒粕、貴醸酒の酒粕、ビール粕、ワイン粕、ウィスキー粕等のいずれか又は任意の組み合わせを用いることが好適である。
本実施形態においては、食品衛生法に適合する酒粕のような発酵残溢物を使用する。この発酵残溢物としては、日本酒の酒粕、及び/又は、貴醸酒の酒粕を用いることが好適である。日本酒の酒粕には、日本酒にはグリセロールやエチルα-D-グルコシド等の水溶性の糖アルコールや糖由来の有機物が膨潤剤等の有効成分として多く含まれている。これが浸漬により木材の内部、細胞壁内に拡散、浸透することで、寸法安定化及び変形能向上効果が得られると考えられる。また、貴醸酒は、仕込み時の汲み水の一部を日本酒に置き換えて造る日本酒であり、日本酒よりも直接還元糖を多く含む。貴醸酒の酒粕では、このような直接還元糖や糖代謝物を含む有機物が浸漬されることで、更に寸法安定性や変形能を向上させることができる。これら、酒粕の種類や酒蔵の種類等により、寸法安定化及び変形能向上効果、コスト等が異なるため、最適な組み合わせを選択することが好適である。
なお、日本酒及び貴醸酒に加え、本実施形態においては、ビール粕、ワイン粕、ウィスキー粕等の地域の発酵残溢物を用いることも可能である。これは、ビール粕、ワイン粕、ウィスキー粕等も糖やタンパク質、脂質由来の有機物等が含まれるためである。
本実施形態に係る木材処理方法では、発酵残溢物を含む木材処理剤に木材を浸漬又は木材に木材処理剤を塗布してから1日~8週間程度の特定期間、処理することを特徴とする。
本実施形態に係る木材処理剤は、分子の拡散が活発になる高温ほど浸透効果は向上する。これは、水溶性の糖アルコールや糖由来の有機物の浸透性は、温度×時間の積算で高まるためである。具体的には、水溶性の糖アルコールや糖由来の有機物のうち、例えば、グリセリンは沸点290℃、エチルグルコシドは395℃であり、水より遙かに高いので,常圧での処理温度は、高ければ高いほど良い。たとえば、木材処理剤で煮沸することで、最も速やかに拡散させることが可能である。
この特定期間として、上述の厚さ0.2~1.5mm程度の成形用の木材の薄板であれば、常温(室温)~煮沸した発酵残溢物に浸漬することで、24時間で、寸法安定化及び変形能を向上させる効果が得られる。
一方、木材が厚い又は液体浸透性の低い樹種ほど、この特定期間を長くすることが好適である。たとえば、トチやブナ、イタヤカエデ等の漆器の木地であれば、厚さも最大10mm程度あり、浸透性がスギよりも劣る。このため、寸法安定化及び変形能を向上させる効果を十分得るには、2時間煮沸、一昼夜浸漬を3回ほど繰り返すことが好適である。これについて、減圧加圧する薬液注入管を用いて、これも24時間程度で処理することも可能である。
上述のように、発酵残溢物を含む木材処理剤に木材を1日~8週間、浸漬する、又は、木材に木材処理剤を塗布して1日~8週間、浸透させるような処理を行うことで、木材の寸法安定性を向上させることが可能である。さらに、寸法安定化は、曲げても折れにくい変形能の向上にも寄与する。すなわち、変形能も向上させることができる。
さらに、後述する実施例で示すように、醸造桶(醸造用木桶)や貯蔵樽等の醸造食品製造容器等に用いるために、冷蔵して木材を浸漬することも可能である。この場合、有効成分の拡散が遅いため、特定期間として、4~8週間で効果を発現させることが可能である。すなわち、後述の実施例では、特定期間として、発酵残溢物への浸漬後1週で重量増加率は一定となり、抗収縮能(ASE)は浸漬後2~4週間で急増する。そして、特定期間として、4~8週間の浸漬処理でASEは40~75%となり、従来の化学修飾処理による寸法安定化と同等の効果を得ることができる。
なお、この特定期間は、上述のように選択する手法で温度や圧力や減圧加圧処理の有無や木材処理剤の配合等により、適宜調整し、処理時間は1日~8週間で同様の効果を得ることが可能である。
本実施形態に係る木材処理方法では、発酵残溢物に浸漬する前に、木材を減圧加圧処理にて水を含浸して飽水状態にしてもよい。
加えて、レーザーインサイジングを含む各種インサイジング(incision加工)処理、マイクロ波加熱、横圧縮変形処理等、液体浸透性を向上させる前処理を組み合わせることも効果的である。
さらに、本実施形態に係る木材処理方法では、減圧加圧処理後に乾燥処理し、更に減圧加圧処理にて水を含浸して飽水状態してもよい。
この減圧加圧処理は、例えば、真空加圧含浸装置内に板材とした木材を封入し、減圧、加圧、乾燥の工程で処理を行う。この条件として、減圧は圧力を50mmHg以下で保持時間を1~5時間し、加圧は0.1~2MPaの圧力を加えるといった、当業者に一般的な条件であってもよい。
このように構成することで、木材の心材、辺材、及び移行材の部位によらず、発酵残溢物に含まれる寸法安定化及び変形能を向上させる成分を浸透させやすくすることができる。また、成分を均等に細胞壁に浸透させることが期待できる。
本実施形態に係る木材処理方法では、醸造食品製造容器等のように低温処理を行う場合は、発酵残溢物が凍結せず腐敗しない温度において処理することが好適である。この上で、凍結しない温度は、例えば、発酵残溢物に含まれる糖分等による凝固点降下により、0℃以下、-10℃程度であってもよい。これより低温にすると、木材内に僅かに残った水分も凍結し、細胞壁を損傷する可能性があるため好ましくない。または、pH調整剤やエタノールやイソプロパノール等の防腐効果を付加する成分を加えて、より高温で処理することも可能である。
一方、本実施形態に係る木材処理方法では、木材を発酵残溢物で煮込む、すなわち、常圧で100℃前後で処理しても、同様の効果が得られる。乾燥木材への発酵残溢物浸漬の場合は,脱水作用のあるエタノールを揮発させた方が水による湿潤、グリコール類の浸透速度が早いため,発酵残溢物を煮込んで残留エタノールを除去するための加熱が有効となる。
加えて、発酵残溢物の濃度を徐々に濃くしていくことで、含浸効果が高めることも可能である。これは、高分子量の有機物が先に木材表面に吸着してしまうと、それ以上内部への低分子量体の拡散を阻害してしまうためだと考えられる。
なお、より高温、高圧で処理を行うような構成も可能である。この場合でも、発酵残溢物に含まれる有効成分があまり分解しない程度の条件とすることが好適である。
本実施形態に係る木材処理剤は、発酵残溢物を含むことを特徴とする。すなわち、本実施形態において、発酵残溢物を含む木材処理剤を提供することも可能である。この場合、より木材加工性の高い発酵残溢物をブレンドし、上述の貴醸酒の酒粕、ビール粕、ワイン粕、ウィスキー粕等も加えたものを提供してもよい。この場合、発酵残溢物が生の状態の木材処理剤で提供されても、冷蔵、冷凍等の形態、又は乾燥した状態の木材処理剤を提供されてもよい。または、発酵残溢物を粉砕し、固形成分を除いて水溶性の糖アルコール、糖やタンパク質、脂質由来の有機物等の有効成分のみを抽出したものを木材処理剤として提供してもよい。加えて、本実施形態の木材処理剤は、適切な保存料や乳化剤やpH調整剤や担体等(以下、「保存料等」という。)が加えられていてもよい。この保存料等は、食品衛生法に準じるような成分を用いてもよく、これにより、より安全、安心を担保可能となる。
さらに、木材を浸漬処理した後のこの木材処理剤は、通常の発酵残溢物等の廃棄物と同様に処理し、例えば、家畜の餌、工業用アルコール発酵等に用いることも可能である。
本実施形態に係る木材加工品は、木材処理方法により処理されたことを特徴とする。
本実施形態の木材処理方法により、様々な用途に用いられる、加工された木材(以下、「木材加工品」という。)を取得することが可能である。すなわち、本実施形態の木材処理方法は、単なる木材処理の方法に加え、木材加工品の製造方法としても構成され得る。
ここで、本実施形態の木材加工品は、漆器の木地、「曲げわっぱ」のように木材の変形が必要な加工用木材の薄板、その他の成形用の木材の薄板、木材を圧縮加工した木地等にも対応可能である。具体的には、本実施形態の木材加工品は、例えば、食器や食品製造用器材の用途で用いることが可能である。このうち、食器としては、お椀、お盆、箸、箸入れ、弁当箱、その他の日常的に用いられる各種食器に適用可能である。加えて、本実施形態の木材処理方法で製造された木材加工品は、温度による寸法変化が抑制されるため、食洗機、電子レンジ等にも対応可能となる。
さらに、食品製造用器材としては、日本酒、味噌、醤油等の発酵に用いる醸造桶(醸造用木桶)や貯蔵樽等の醸造食品製造容器、食品加工容器等の用途で用いることが可能である。醸造用木桶は、親水性のリグノセルロース成分による水分、湿度調節機能、木材の多孔質に起因する温度調節機能、乳酸菌、酵母菌等の定着が可能である。特に、本実施形態の木材処理方法により、木材に発酵残溢物由来成分が浸透させることで、膨潤状態にて安定化させることができる。これは、仕込み用の醸造桶が乾湿繰り返しによって収縮しにくくなることを示し、竹タガにより桶の締め直しや乾燥に伴う異常変形の低減を実現することができる。
なお、本実施形態に係る木材加工品は、漆等による耐水加工を行うことで、後述する実施例で示すような発酵残溢物由来で寸法安定化に寄与する有効成分が浸出するのを抑えることが可能である。さらに、本実施形態の木材加工品は、本実施形態の木材処理後に燻蒸や加熱や加圧やポリフェノール類の付加等により、内部に浸透した発酵残溢物に含まれる成分を変性させ、加工性を高めたり、加工後の糖油冷成分の浸出を防いだりすることも可能である。
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
従来の木材処理方法では、毒性のある有機化合物を用いていたため、食器、醸造食品製造容器、食器等に用いるには安心、安全ではなかった。
これに対して、本実施形態の木材処理方法では、食品安全性が担保された発酵残溢物で乾燥に伴う収縮抑制、変形能を向上させる効果が得られるため、加工時の安全、安心を確保することができる。さらに、発酵残溢物のように食品安全性が担保された物質で乾燥に伴う収縮抑制の効果を得ることができ、加工技術としての安心、安全に用いることが可能である。このことにより、食器、醸造食品製造容器、食器等の安全、安心を確保でき、食器や食品製造用器材としての利用にも安全、安心をもたらすことができる。
さらに、安全な木材処理により木材の寸法安定化を実現することで、これまで実用化事例が少なかった、食器や食品加工器具の分野で木材利用の拡大に貢献することができる。たとえば、木材加工品の食器洗浄機や電子レンジ加熱への対応が可能となる。
また、従来、木製からステンレスやホーロー等他材料への転換が大きく進んだ容器として、醸造桶や貯蔵樽等の日本酒や味噌、醤油等の発酵、醸造食品製造容器が挙げられる。しかし近年、日本酒は、消費者の志向が量から質に転換し、国内出荷量全体に占める吟醸酒、純米酒等の特定名称酒の割合が増加傾向にあり、手間ひまをかけた酒づくりに欠かせないものとして醸造用木桶の利用は続けられている。発酵文化が盛んな地域では、醸造用木桶は需要があり、地域における木桶用資源の供給体制や製造技術の構築、維持への関心は高まっている。しかしながら、日本国内で大桶の製造業者が少なくなり、新規製造に加えて維持管理も課題となっている。
これに対して、本実施形態では、発酵残溢物を含む木材処理剤に木材を浸透させることで、食品製造容器、食品加工容器の機能性を高めることができる。加えて、部材となる木材の発酵残溢物浸漬による寸法安定化は、耐久性向上に寄与する。このため、国内の製造業者が減少している、仕込み用大桶の維持、管理の容易化が期待できる。さらに、発酵残溢物に含まれる酵母や菌が定着することで、より「美味しい」発酵食品を提供する期待が得られる。
<第二実施形態>
(発酵残溢物の調製及び含水率)
図1により、酒粕を例として、本実施形態に係る木材処理剤の含水率の調製について説明する。
まず、本実施形態に係る木材処理剤として、日本酒の酒粕を含む木材への含浸溶液を調製する例について説明する。
日本酒の酒粕は、例えば、日本酒を圧搾する際に板状に分離された「板粕」と、板状に分離できなかった酒粕である「バラ粕」、バラ粕及び板粕を低温で1~数ヶ月程度熟成させた「練り粕」が存在する。これらを、生のまま又は加水して、加熱等して含水率を調製することで、本実施形態に係る木材処理剤を調製可能である。この際、固形分(酒米)をミキサー等で、すり潰してペースト状にすると、流動性が均一化して取り扱いし易くなる。
本実施形態に係る木材処理剤は、含水率40~60%であることを特徴とする。
ここで、日本酒の酒粕は、市場の供給形態によって含水率が大きく異なる。しかしながら、練り粕でも板粕でも含水率40~60%(平均50%)に調整することで、安定して高い含浸効果が得られる。含水率が60%高いと、酒粕の有効成分の濃度が低くなり効果が低くなる。一方、含水率が40%より低いと、水分移動による拡散速度が低下するため長大な含浸時間が必要となる。
図1は、105℃で3時間程度、加熱することで、含水率50%とした例を示している。
(発酵残溢物の含浸処理条件)
本実施形態に係る木材処理剤に浸漬(含浸処理)され又は塗布される木材の含水率は、0~150%であればよい。
このうち、本実施形態に係る木材の含水率は、10~30%であることが特に好適である。これは、後述する実施例2で示すように、温水処理や減圧加圧処理をする場合には、木材中に水が少ないことで空隙が多い方が良いためである。しかしながら、木材の含水率が10%以下では、水分が先行して吸着するため含浸時間が遅くなるためである。また、木材の含水率が30%以上では、細胞壁内に滞留する自由水によって、酒粕の濃度希釈が生じるため、含浸時間が遅くなることもある。
さらに眼振処理に用いる木材の部位としては、木材の辺材の方が、心材よりも含浸処理に好適である。これは、木材の部位として心材は、液体流動性に乏しいことが本発明者らのさらなる実験により判明したためである。
さらに加えて、上述の第一実施形態にて示したような、減圧加圧処理で飽水状態にし、木材の含水率を30%以上にしなくてもよい。後述するように、木材の厚さが数mmでは、常圧での注水も可能であり、また、乾量基準として含水率10~30%でも浸漬処理が可能だからである。
本実施形態に係る木材処理剤に木材を浸漬する際の温度は、80℃~100℃であることを特徴とする。
後述する実施例2に示すように、本実施形態において、木材処理剤の含浸条件は、5℃~100℃の範囲で高温になるほど短時間での含浸量が増大する。このため、加温が可能な場合は、温度80℃以上であることが好適である。
本実施形態に係る木材処理剤に木材を浸漬する場合、木材の厚さが3mm以下の場合は、80℃~100℃で1時間加熱し、木材の厚さが3~5mmの場合は、80℃~100℃で3時間加熱し、木材の厚さが5mm以上の場合は、室温で加圧注入処理を行うことを特徴とする。
本実施形態において、木材処理剤に木材を浸漬しての含浸時間は、木材の寸法によって最適時間が異なる。具体的には、木材の繊維方向長さが300mm程度の場合、厚さ3mm以下の単板であれば80℃以上で1時間以上で、十分な強度が得られるため好適である。一方、木材の厚さが3~5mmの場合、80℃以上で3時間の加熱により、十分な強度が得られて好適である。また、木材の厚さ5mm以上の場合は、常温(室温)で加圧注入処理(加圧条件0.75MPa、1時間以上)する方が、注入効果が高くなる。
なお、厚さ5mm以下の場合にも、加圧注入処理は有効であるものの、煮る方が施設整備は容易となる。
また、室温でも時間をかければ目標とする重量増加率が得られる。室温で浸漬する場合、追加の設備投資とエネルギーが要しないため、時間をかけても良い場合は好適である。
本実施形態において、発酵残溢物はビール粕であってもよいことを特徴とする。
ここで、ビール粕には、モルトフィード、モルトレージ、及び乾燥ビール粕の3種類が存在する。モルトフィードは、「生ビール粕」で、含水率70~90%、平均80%程度である。モルトレージは、「脱水ビール粕」であり、含水率60~70%、平均65%程度である。乾燥ビール粕は、含水率10~20%である。
後述する実施例2では、含水率85%のモルトフィードを用いて、好適な結果が得られた。同様の効果がモルトレージでも期待される。しかしながら、乾燥ビール粕は、乾燥温度次第で成分の変質があり得るため、安定した品質のものを用意することが好適である。
なお、後述する実施例2で示すように、ビール粕は、木材の材料条件や含浸条件として、日本酒の酒粕と同様に用いることが可能である。
以下で、図を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
〔実験方法〕
(供試材料)
秋田県産スギ(Cryptomeria japonica D.Don)の丸太を試験木として準備し、心材、辺材、及び移行材(辺材が心材に移り変わる部位)に区別して小割した状態で天然乾燥した。その後、厚さ4mm(接線方向、以下、「T方向」という。)×幅15mm(放射方向、以下「R方向」という。)×長さ100mmの柾目木取りで試験片を採取した。減圧加圧注入処理として、試験片を圧力50mmHg以下、及び保持時間0.5時間で減圧し、圧力1.2MPa及び保持時間3時間で加圧し、水を含浸して飽水状態とした。この飽水状態の試験片の重量及び寸法を測定した。サンプル数は、それぞれ20片を用い、以下、それらの平均値について示す。次いで、試験片を105℃の恒温乾燥器で全乾状態にした時の寸法と重量を測定し、それぞれ初期全乾重量及び初期全乾寸法とした。飽水状態と全乾状態の寸法変化から、T方向及びR方向収縮率αT、αRを、下記の式(1)、式(2)によって求めた。
αT=(lTf-lT0)÷lTf×100(%) …… 式(1)

αR=(lRf-lR0)÷lRf×100(%) …… 式(2)

ただし、lT、lR:T方向及びR方向寸法、添字f:飽水状態、添字0:全乾状態を意味する。
試験片は、減圧加圧注入処理によって再び水を含浸した飽水状態で浸漬処理に供した。
酒粕は、新政酒造株式会社の純米酒粕及び貴醸酒粕の2種類を用いた。使用原料は、純米酒粕は米、米麹である。貴醸酒粕は米、米麹、日本酒である。
(浸漬処理)
用いる酒粕は試験片の容積に対して10倍量を所定量とした。酒粕は、秋田県内の山本合名、北鹿、新政酒造、及び齋藤酒造の各酒蔵の酒粕を使用した。以下では、これらの日本酒の酒粕を所定割合で混合したものと、これら酒蔵の貴譲酒の酒粕を用いた例を示す。内容量1000cm3のポリプロピレン製容器に、酒粕を、空気を抜きながら敷き詰め、互いに触れないように試験片を並べたのちに酒粕で覆い、シリコンゴムでシールされたフタを閉じて密閉状態とした。比較として、イオン交換水(以下、水)への浸漬した試験片を準備した。酒粕の変質を最小限に抑えるために設定温度5℃で冷蔵し、1、2、4、8週間の経過毎に試験片を4体ずつ取り出した。取り出した試験片はペーパータオルで表面を清拭し、湿潤状態のT方向寸法lTS及びR方向寸法lRSを測定した。60℃の恒温乾燥器で3~4日予備乾燥したのち、105℃で恒量になるまで乾燥し、浸漬後の全乾重量ws0とT方向寸法lTS0及びR方向寸法lRS0を測定した。試験片の初期全乾重量w0と浸漬処理後の全乾重量wsから、式(3)で重量増加率(WPG)を求めた。

WPG=(Ws0-W0)÷W0×100(%) …… 式(3)

また、lTS及びlTS0から浸漬処理試験片のT方向収縮率αTSを、lRS及びlRS0からR方向収縮率αRSを式(1)及び(2)で同様に求めた。
(溶出処理)
溶出処理として全乾状態の浸漬処理試験片を、減圧加圧処理で水を注入し、24時間静置した後、流水で洗浄し、湿潤状態での重量と寸法を測定した。その後、60℃で3~4日予備乾燥したのち、105℃で恒量になるまで乾燥し、全乾状態の重量と寸法を測定した。溶出処理前後の寸法変化からT方向及びR方向収縮率を浸漬処理と同様に求めた。
(寸法安定性評価)
木材の寸法安定性は、細胞壁の水分変動による無処理材の寸法変化率を基準とした相対値で評価した。浸漬処理による木材の寸法安定性の変化の判断指標として、本実施例では一般的に用いられる抗収縮能(Anti-Shrinking Efficiency、以下、「ASE」と呼ぶ。)を用いる。ASEは式(4)で表され、T方向及びR方向でそれぞれ求めた。

ASE=(α0-αS0)÷α0×100(%) …… 式(4)

ただし、α0:無処理材の線収縮率、αS0:浸漬及び溶出処理材の線収縮率を示す。
〔結果と考察〕
(重量増加率)
図2に、酒粕の浸漬処理による重量増加率(WPG)を示す。このグラフにおいて、横軸は浸漬期間(週)、縦軸は重量増加率(%)を示す。白抜きの丸、四角、三角(○、□、△)は純米酒、黒塗りの丸、四角、三角(●、■、▲)は貴醸酒の結果を示す。それぞれの丸は辺材、四角は心材、三角は移行材を示す。
結果として、辺材、心材、移行材といったスギの各部位及び純米酒と貴醸酒といった酒粕の種類によらず、浸漬開始1週後に重量は急激に増加し、以後はほぼ一定で推移した。部位間の差は明確ではなく、純米酒粕よりも貴醸酒粕でWPGが大きい傾向であった。
貴醸酒は、上述したように仕込み時の汲み水の一部を日本酒に置き換えて造る日本酒であり、アルコールの存在によって酵母の増殖及びアルコール発酵が抑制される。このため、貴醸酒は、日本酒を添加するほど直接還元糖が多くなっている。すなわち、貴醸酒の酒粕で浸漬することで木材の細胞内腔に浸潤した水溶性成分の量が増大することが、WPG増大の主な要因と考えられる。また、部位間の重量増加率には、明確な相違は確認されなかった。これは、浸漬処理前の工程で、減圧加圧処理をしたため、心材及び移行材の浸透性が改善されたものと考えられる。
(寸法安定性)
図3に、8週間浸漬処理した木材のR方向(放射方向)及びT方向(接線方向)の収縮率を示す。図3(a)は接線方向、図3(b)は放射方向の収縮率(%)を示す。それぞれ、水(比較例)、純米酒粕、及び貴醸酒粕の心材、移行材、及び辺材について収縮率を測定したものを示す。
水に浸漬した木材に対して、酒粕に浸漬した木材では、R方向及びT方向収縮率は部位や酒粕の種類によらず減少した。これは、乾燥によって細胞壁から水分が失われても、細胞壁の膨潤状態をある程度維持する成分が酒粕に含まれていることが示されている。
また、収縮率は、純米酒粕より貴醸酒粕で全体的に小さくなり、酒粕に含まれる成分の相違の影響が考えられた。今回、使用した酒粕は補酸や発酵助剤等の添加物が用いられておらず、確認された収縮率の低下は麹菌、乳酸菌、酵母菌による米の発酵工程で産生された成分に起因する。日本酒にはグリセロールやエチルα-D-グルコシドが多く含まれており、ポリエチレングリコール(PEG)に類似した寸法安定効果を持つと考えられる。
図4に、酒粕浸漬木材の抗収縮能(ASE)の浸漬期間との関連性を示す。図4(a)は接線方向、図4(b)は放射方向の収縮能を示す。それぞれのグラフにおいて、横軸は浸漬期間(週)、縦軸は収縮能(%)を示す。白抜きの丸、四角、三角(○、□、△)は純米酒、黒塗りの丸、四角、三角(●、■、▲)は貴醸酒の結果を示す。それぞれの丸は辺材、四角は心材、三角は移行材を示す。
酒粕の種類やスギの部位に因らず、ASEは浸漬後2週と4週の間で急増し、以後一定となった。図2で示したWPGは、浸漬後1週で一定となっており、細胞内腔から細胞壁内への拡散にある程度の時間を要していることが示された。酒粕の種類では、貴醸酒粕のASEが高い傾向にあり、部位毎の差は明確でなかった。ASEの数値はT方向では40~60%、R方向では40~75%を示した。これは、寸法安定化剤として一般的なPEGにおいて、PEG1540(平均分子量約1500)又はPEG2000(平均分子量1800~2000)を浸漬処理して得られる値に相当した。また、代表的な化学修飾処理木材であるアセチル化木材のASEも40~75%程度であることから、既存の寸法安定化処理と遜色ない効果が酒粕浸漬処理で得られることが当業者に理解され得る。
図5に、浸漬処理木材の溶出処理による放射方向ASE(%)の変化を示す。辺材、移行材、心材において、白抜きは溶出処理前、黒塗りは溶出処理後の結果を示す。
24時間の水の浸漬によって、酒粕や部位の種類によらずASEの低下が確認された。
PEG含浸処理は屋外暴露試験による降水で容易に溶脱することが知られており、酒粕浸漬処理した木材も水溶性成分による寸法安定化が主体であることが予測された。
減圧加圧注入処理という過剰に水を加えた溶出試験においてもASEがある程度維持されていることから、日本酒の仕込み作業が繰り返し行われる中で、仕込み用大桶に使われているスギ部材には酒粕由来成分が滞留し、乾湿繰り返しによる寸法安定化に貢献していることが示唆された。
(まとめ)
日本酒の仕込み用大桶用材であるスギを用いて、純米酒及び貴醸酒を1週間~8週間、浸漬処理して保存後の全乾時の重量変化、放射方向及び接線方向収縮率を検討し、以下の結果を得た:
1.酒粕やスギの部位の種類によらず、浸漬後1週で重量増加率は一定になった。
2.抗収縮能は浸漬後2~4週間で急増して一定となった。細胞壁への拡散に時間を要したため、重量増加よりも遅れた変動であった。4~8週間の浸漬処理でASEは最大で75%、少なくとも40%に達し、既存の化学修飾処理と遜色ない効果が得られた。
3.水の溶出処理によって抗収縮能は低減し、酒粕中の水溶性成分が抗収縮能に大きく影響した。
木材に酒粕由来成分が浸透することで、細胞壁が水と同様に膨潤し、膨潤状態を安定化させることで収縮率が低減した。
〔実験方法〕
(供試材料)
秋田県産スギ(Cryptomeria japonica D.Don)の丸太を試験木として準備し、辺材を天然乾燥後に厚さ7mm(T方向)×幅30mm(R)×長さ100mmの柾目木取りで試験片を採取した。実施例1と同様に、減圧加圧注入処理で水を含浸して飽水状態とした。この飽水状態の試験片の重量及び寸法を測定した。サンプル数は、それぞれ10片を用い、以下、それらの平均値について示す。次いで、試験片を105℃の恒温乾燥器で全乾状態にした時の寸法と重量を測定し、それぞれ初期全乾重量及び初期全乾寸法とした。飽水状態と全乾状態の寸法変化から、T方向αTを、実施例1と同様に求めた。試験片は、気乾状態で浸漬処理に供した。ビール粕は、含水率85%のモルトフィード(生ビール粕)を用いた。酒粕は、実施例1で示した純米酒粕を用いた。
(浸漬処理)
ビール粕及び酒粕は、試験片の容積に対して10倍量を所定量とした。酒粕は、秋田県内の山本合名、北鹿、新政酒造、及び齋藤酒造の各酒蔵の酒粕を使用した。以下では、これらの日本酒の酒粕を所定割合で混合したものと、これら酒蔵の貴譲酒の酒粕を用いた例を示す。内容量1000cm3のポリプロピレン製容器に、ビール粕あるいは酒粕を空気を抜きながら敷き詰め、互いに触れないように試験片を並べたのちに酒粕で覆い、シリコンゴムでシールされたフタを閉じて密閉状態とした。比較として、イオン交換水(以下、水)への浸漬した試験片を準備した。設定温度5℃で冷蔵し、1週間の経過後に試験片を取り出した。取り出した試験片はペーパータオルで表面を清拭し、湿潤状態のT方向寸法lTSを測定した。60℃の恒温乾燥器で3~4日予備乾燥したのち、105℃で恒量になるまで乾燥し、浸漬後の全乾重量とT方向寸法を測定した。
(寸法安定性評価)
全乾状態の浸漬処理試験片を、減圧加圧処理で水を注入し、24時間静置した後、流水で洗浄し、湿潤状態での重量と寸法を測定した。その後、60℃で3~4日予備乾燥したのち、105℃で恒量になるまで乾燥し、全乾状態の重量と寸法を測定した。処理前後の寸法変化からT方向収縮率と抗収縮能(ASE)を実施例1と同様に求めた。
〔結果と考察〕
(寸法安定性)
図6に、1週間浸漬処理した木材のT方向(接線方向)の抗収縮能(ASE)を示す。ビール粕及び酒粕のASEはそれぞれ、40.6%、43.8%であった。ビール粕でも酒粕とほぼ同等の寸法安定効果が確認された。また、酒粕浸漬処理した木材について、乾燥木材を用いた図6のASEの方が、図4(a)の飽水木材の1週間浸漬後のそれと比較して値が大きくなった。このことから、乾燥木材を酒粕浸漬処理する有効性が確認された。
(温水浸漬及び減圧加圧注入における浸漬時間)
次に、様々な厚さのスギ辺材(幅30mm×長さ100mm、以下「試験体」という。)に対して、酒粕を温水浸漬(常温加温浸漬)と減圧加圧注入した際に、実用上に十分な抗収縮能40%を発揮するために必要な、重量増加率100%に到達するまでの浸漬時間について実験した。各浸漬処理の試験体は、浸漬後、0.5、1、2、3、4、8、12、24、48、72、168、340、720、及び1400時間でピックアップし、重量を測定した。
使用した酒粕、その他の実験手法は、上述の例と同様である。
図7にこの結果を示す。
図7(a)は、使用した試験体が飽水状態の飽水材(含水率200~260%)の場合の結果を示す。図7(b)は、乾燥状態の気乾材(含水率10~30%)の場合の結果を示す。
それぞれ、酒粕を扱う工程が短いことが最適であるような処理条件では、実用上の処理時間として3時間以内が理想と判断し、薄字の数値の箇所を、好適な条件であるとして示した。
具体的には、飽水材、気乾材とも、試験体の厚さ5mm以下の場合、温度が高い方が浸漬時間が短くなるため好適である。このうち、厚さ3mmの場合、温度80℃以上で、飽水材は3時間、気乾材は1時間の浸漬時間とすることが好適であった。すなわち、同じ浸漬温度でも、木材の含水率を乾燥状態とする方が好適である。
また、厚さ5mmの場合、気乾材は、温度80℃以上で、3時間の浸漬時間とすることが好適であった。
一方、飽水材では厚さ5mm以上で、80℃で12時間以上を要するため、加圧時間3時間で終わる減圧加圧注入が好適である。さらに、気乾材においても、厚さ8mm以上で、80℃で8時間以上を要するため、減圧加圧注入をすることが好適である。
なお、室温(常温)でも時間をかければ、目標とする重量増加率が得られる。このため、時間をかけてもよい場合は、追加の設備投資とエネルギーを要せずに、室温、常圧で浸漬可能である。
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
本発明は、発酵残溢物に木材を浸漬することで抗収縮能を備えた木材製品を製造可能であり、産業上利用可能である。

Claims (8)

  1. 発酵残溢物を含む木材処理剤に木材を浸漬、又は前記木材処理剤を前記木材に塗布する
    ことを特徴とする木材処理方法。
  2. 前記木材処理剤は、含水率40~60%である
    ことを特徴とする請求項1に記載の木材処理方法。
  3. 前記木材の含水率は10~30%である
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の木材処理方法。
  4. 木材処理剤に前記木材を浸漬する場合、
    前記木材の厚さが3mm以下の場合は、80℃~100℃で1時間以上加熱し、
    前記木材の厚さが3~5mmの場合は、80℃~100℃で3時間以上加熱し、
    前記木材の厚さが5mm以上の場合は、室温で加圧注入処理を行う
    ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の木材処理方法。
  5. 前記木材処理剤に浸漬、又は前記木材処理剤を塗布する前に、前記木材を減圧加圧処理にて水を含浸して飽水状態にしてもよい
    ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の木材処理方法。
  6. 前記減圧加圧処理後に乾燥処理し、更に減圧加圧処理にて水を含浸して飽水状態する
    ことを特徴とする請求項5に記載の木材処理方法。
  7. 発酵残溢物を含む
    ことを特徴とする木材処理剤。
  8. 請求項1乃至6のいずれか1項に記載の木材処理方法により処理された
    ことを特徴とする木材加工品。
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