JP2022046118A - 物質透過膜、物質透過膜の検査方法及び膜分離システム - Google Patents

物質透過膜、物質透過膜の検査方法及び膜分離システム Download PDF

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Abstract

【課題】物質透過膜の状態を迅速に調べるための技術を提供する。【解決手段】本発明は、高分子を含む物質透過膜の検査方法であって、物質透過膜は、物質透過膜に物理的に導入された蛍光分子、及び、高分子の一部をなすように物質透過膜に導入された蛍光構造からなる群より選ばれる少なくとも1つをさらに含み、検査方法は、物質透過膜に励起光を照射することと、蛍光分子及び/又は蛍光構造から発せられた蛍光を検出することと、を含む。【選択図】図1

Description

本発明は、物質透過膜、物質透過膜の検査方法及び膜分離システムに関する。
昨今、セパレータ、分離膜などの物質透過膜が様々な分野で使用されている。例えば、逆浸透膜のような分離膜は、海水の淡水化、純水の製造、水道水の浄化、廃水処理、又は、原油の採掘において使用されている。蒸気透過法及び浸透気化法は、分離膜を用いて、アルコールと水とを分離するための技術として知られている。リチウム電池用セパレータの需要は、電気自動車、移動体通信機器等の普及とともに増大し続けている。
分離膜の状態、例えば、分離膜における高分子の高次構造は、分離膜の性能に影響を与える。分離膜の状態に関する情報は、分離膜をより適切かつ効率的に使用するために有用である。ただし、分離膜による処理の効率を高めるために、分離膜は、薄く設計されていることが多く、その状態を調べることは容易ではない。
例えば、透過流束、阻止率などの性能に関する数値が得られれば、その時点の分離膜の状態を推定することができる。しかし、透過流束及び阻止率を調べるためには、分離膜に物質(典型的には、水)を実際に透過させることが必要である。物質を透過させる試験は、多くの時間を必要とする。また、透過実験によって得られた透過流束及び阻止率は、分離膜の高次構造が変化した結果を説明する指標であるものの、高次構造そのものの状態又はその変化の原因についての考察を与えない。さらに、透過試験によって分離膜における欠陥の位置を特定するには、サンプルの取得と透過試験とを何度も繰り返す必要がある。このような工程は、非現実的である。
一方、分離膜の検査、及び、膜分離の工程の管理に従来から光学的な方法が提案されている。
特許文献1には、供給流中に不活性蛍光トレーサー及び標識蛍光剤を供給し、蛍光光度計を使用して、供給流、第一流、及び第二流のうち少なくとも1つにおける、不活性蛍光トレーサー及び標識蛍光剤の量を測定することが記載されている。
特許文献2には、使用前の逆浸透膜の膜面の蛍光スペクトルと使用後の逆浸透膜の膜面の蛍光スペクトルとを比較することによって、バイオファウリングの発生を確認することが記載されている。
特開2010-051966号公報 特開2017-227575号公報
特許文献1及び2の方法は、蛍光測定を採用する点において共通している。しかし、特許文献1は、分離膜の蛍光測定を行うことを開示していない。特許文献2は、分離膜の表面に堆積したファウリング物質から発せられる蛍光を測定しているにすぎない。よって、これらの方法で分離膜そのものの状態を知ることはできない。
光学的な方法によって分離膜などの物質透過膜の状態を迅速に調べることができれば、得られた情報は、物質透過膜の品質管理、物質透過膜の生産管理、物質透過膜を用いたシステムの運転管理などの様々な場面で役に立つ。本発明の目的は、物質透過膜の状態を迅速に調べるための技術を提供することにある。
本発明は、
高分子を含む膜本体と、
前記膜本体に物理的に導入された蛍光分子、及び、前記高分子の一部をなすように前記膜本体に導入された蛍光構造からなる群より選ばれる少なくとも1つと、
を備え、
前記膜本体の状態に応じて、前記蛍光分子及び/又は前記蛍光構造から発せられる蛍光の特性が変化する、
物質透過膜を提供する。
別の側面において、本発明は、
高分子を含む物質透過膜の検査方法であって、
前記物質透過膜は、前記物質透過膜に物理的に導入された蛍光分子、及び、前記高分子の一部をなすように前記物質透過膜に導入された蛍光構造からなる群より選ばれる少なくとも1つをさらに含み、
前記検査方法は、
前記物質透過膜に励起光を照射することと、
前記蛍光分子及び/又は前記蛍光構造から発せられた蛍光を検出することと、
を含む、
物質透過膜の検査方法を提供する。
さらに別の側面において、本発明は、
上記本発明の物質透過膜と、
前記物質透過膜に向けて励起光を照射し、前記蛍光分子及び/又は前記蛍光構造から発せられた蛍光を検出する蛍光センサと、
を備えた、膜分離システムを提供する。
本発明によれば、蛍光分子及び/又は蛍光構造が物質透過膜に導入されているので、物質透過膜の蛍光測定が可能である。蛍光測定によって、物質透過膜の状態を迅速に調べることができる。蛍光測定によって得られた情報は、物質透過膜の品質管理、物質透過膜の生産管理、物質透過膜を用いたシステムの運転管理などの様々な場面で役に立つ。
図1は、実施形態に係る分離膜の概略断面図である。 図2Aは、分離膜の製造方法を示すフローチャートである。 図2Bは、分離膜の製造方法を示す別のフローチャートである。 図3は、膜分離システムの構成図である。 図4Aは、サンプル1の分離膜の蛍光測定の結果を示すグラフである。 図4Bは、サンプル2の分離膜の蛍光測定の結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
物質透過膜には、透過膜及び分離膜が含まれる。透過膜の一例は、電池用セパレータである。電池用セパレータは、イオンの透過を許容する透過膜であって、正極と負極との間に配置される。分離膜は、ろ過、透析などの膜分離に使用される膜である。膜分離は、選択性を持つ膜に液体又は気体を通すことによって目的物を濾し分ける操作を意味する。したがって、本明細書では、膜分離に使用される膜を「分離膜」と称する。膜分離に使用されない物質透過膜は「透過膜」に分類される。以下の説明において、「分離膜」の語句は、必要に応じて、「物質透過膜」又は「透過膜」と読み替えることができる。
[分離膜の構成]
図1は、本実施形態の分離膜10の概略断面図である。図1に示すように、分離膜10は、支持層12及び分離機能層14を有する。分離機能層14は、スキン層とも呼ばれ、支持層12によって支持されている。支持層12の上に分離機能層14が配置されている。分離膜10は、複合半透膜でありうる。分離機能層14は、高分子を含む膜本体の一例である。分離機能層14が分離膜10の最表面を形成していてもよく、分離機能層14が別の層で覆われていてもよい。
分離機能層14には、複数の蛍光分子及び/又は複数の蛍光構造が含まれている。複数の蛍光分子は、分離機能層14に物理的に導入されている。複数の蛍光構造は、高分子の一部をなすように分離機能層14に導入されている。複数の蛍光分子及び/又は複数の蛍光構造が分離機能層14に導入されていてもよい。蛍光分子及び/又は蛍光構造が分離膜10の分離機能層14に導入されているので、分離膜10の蛍光測定が可能である。蛍光測定では、分離膜10の分離機能層14に励起光を照射し、蛍光分子及び/又は蛍光構造から発せられた蛍光を検出する。蛍光測定によって、分離膜10の状態を迅速に調べることができる。蛍光測定によって得られた情報は、分離膜の品質管理、分離膜の生産管理、分離膜を用いたシステムの運転管理などの様々な場面で役に立つ。
分離膜10は、例えば、逆浸透膜又はナノフィルトレーション膜である。これらの膜の分離機能層14は、処理効率を高めるために非常に薄く、その状態を調べることは容易ではない。本実施形態の技術によれば、逆浸透膜及びナノフィルトレーション膜の状態を迅速に調べることができるので有用である。実際に水を透過させる試験に代えて、蛍光測定による試験を採用できる可能性もある。
分離膜10は、典型的には、液体の処理に使用される。液体の処理としては、海水の淡水化、純水の製造、水道水の浄化、廃水処理、油田用注入水の製造、油田随伴水の処理などが挙げられる。
支持層12は、多孔質膜でありうる。支持層12によって分離膜10の強度が十分に確保される。支持層12は、その表面に分離機能層14を形成しうる膜である限り、特に限定されない。支持層12としては、0.001μm以上0.4μm以下の平均孔径を有する微多孔層を不織布上に形成した限外ろ過膜が用いられる。微多孔層の形成材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンなどのポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。化学的安定性、機械的安定性及び熱的安定性の観点から、ポリアリールエーテルスルホンが使用されうる。また、上記の平均孔径を有する、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂でできた自立型の多孔性支持膜も支持層12として使用できる。支持層12の厚さは特に限定されず、例えば、10μm以上200μm以下の範囲にあってもよく、20μm以上75μm以下の範囲にあってもよい。
本明細書において、「平均孔径」は、以下の方法で算出される値を意味する。まず、膜又は層の表面又は断面を電子顕微鏡(例えば走査電子顕微鏡)で観察し、観察された複数の細孔(例えば任意の10個の細孔)の直径を実測する。細孔の直径の実測値の平均値を「平均孔径」と定義する。「細孔の直径」は、細孔の長径を意味し、詳細には、細孔を囲むことができる最小の円の直径を意味する。
分離機能層14は、主成分として高分子を含む層である。分離機能層14は、高分子からなっていてもよい。分離機能層14によって逆浸透膜又はナノフィルトレーション膜に特有の分離機能が発揮される。高分子は、ポリスルホン、ポリアミド又は酢酸セルロースでありうる。本明細書において「主成分」は、最も多く含まれた成分を意味する。
分離機能層14には、複数の蛍光分子及び/又は複数の蛍光構造が含まれている。複数の蛍光分子は、分離機能層14に物理的に導入されている。複数の蛍光構造は、高分子の一部をなすように分離機能層14に導入されている。複数の蛍光分子及び/又は複数の蛍光構造が分離機能層14に導入されていてもよい。1種類の蛍光分子のみが分離機能層14に含まれていてもよく、複数の種類の蛍光分子が分離機能層14に含まれていてもよい。1種類の蛍光構造のみが分離機能層14に含まれていてもよく、複数の種類の蛍光構造が分離機能層14に含まれていてもよい。複数の種類の蛍光分子又は複数の種類の蛍光構造が分離機能層14に含まれているとき、蛍光共鳴エネルギー移動測定によって、高分子の高次構造の変化を蛍光スペクトルの変化として検出できる。蛍光分子として、燐光を発する化合物が使用されてもよい。蛍光構造から燐光が発せられてもよい。
「蛍光分子が分離機能層14に物理的に導入されている」とは、蛍光分子が分離機能層14に付着した又は取り込まれた状態を意味する。この場合、蛍光分子は、分離機能層14に含まれた高分子と共有結合を形成していない。ただし、ファンデルワールス結合、水素結合のような弱い化学結合によって蛍光分子が高分子に結合している可能性はある。また、処理されるべき物質(典型的には水)とともに、蛍光分子が分離機能層14に染み込んでいる可能性もある。
「蛍光構造が高分子の一部をなすように分離機能層14に導入されている」とは、蛍光分子が高分子の原料であることを意味する。つまり、蛍光構造は、蛍光分子に由来する構造単位を意味する。例えば、分離機能層14を構成する高分子を合成するためのモノマーとして、蛍光分子が使用される。この場合、蛍光構造は、分離機能層14を構成する高分子の主鎖に位置しうる。あるいは、分離機能層14を形成したのち、分離機能層14を構成する高分子に事後的に蛍光分子が共有結合によって結合するように、蛍光分子と活性化剤とを含む溶液を分離機能層14に接触させる。この場合、蛍光構造は、分離機能層14を構成する高分子の側鎖に位置しうる。
蛍光構造は、分離膜10の性能に大きな影響を与えないように選択されている。分離機能層14に含まれた高分子がポリアミドであるとき、蛍光構造がポリアミドの一部をなす。そのため、蛍光測定によってポリアミドの分子の状態、詳細には、分子の凝集状態に関する情報が得られる。ポリアミドによれば、高い塩阻止率及び高い透過流束を持つ分離機能層14が形成されうる。ポリアミドは、典型的には、芳香族ポリアミドである。
蛍光構造を形成するための蛍光分子は、アミノ基及びカルボキシル基から選ばれる少なくとも1つを有していてもよい。蛍光分子がこれらの反応性官能基を有していると、分離機能層14の原料の1つとして蛍光分子を使用しやすい。つまり、蛍光構造をポリアミドの分子鎖に化学的に導入することが可能である。多くの蛍光分子はアミノ基を有しているので、アミノ基を有する蛍光分子の中から本実施形態に適した蛍光分子を選んで使用することができる。
蛍光構造は、多官能アミンに由来する構造であってもよい。言い換えれば、蛍光構造を形成するための蛍光分子として、多官能アミンが使用されうる。蛍光構造が多官能アミンに由来する構造である場合、蛍光構造を形成するための蛍光分子は、分離機能層14の主たる原料である別の多官能アミン、及び、酸ハライドと重合反応を起こしうる。これにより、分離機能層14を構成するポリアミドに蛍光構造が導入される。蛍光構造は、分離機能層14における3次元網目構造を形成する。「主たる原料」は、分離機能層14を形成するためのアミン水溶液に最も多く含まれたアミンを意味する。ただし、蛍光構造を形成するための蛍光分子は、アミノ基を1つのみ有するアミンであってもよい。
分離機能層14に物理的に導入される蛍光分子に特に制限はない。蛍光構造を形成するための蛍光分子と同じ構造の蛍光分子が使用されてもよく、蛍光構造を形成するための蛍光分子とは異なる構造の蛍光分子が使用されてもよい。
分離膜10の支持層12が自家蛍光を持つ場合、その自家蛍光の発光波長を避けて、蛍光分子を選択することが望ましい。例えば、支持層12の材料としてポリスルホンが使用され、ポリスルホンに330nmの波長の励起光が照射されると、ポリスルホンは、380nmの波長の自家蛍光を発する。そのため、本実施形態において使用されるべき蛍光分子の蛍光の波長(ピーク波長)は、430nm以上であることが望ましい。
蛍光分子としてのアミンは、例えば、下記式(1)で表される化合物である。下記式(1)で表される化合物は、1,4-ジアミノ-2,5-ビス(メチルスルホニル)ベンゼンである。
Figure 2022046118000002
式(1)で表される化合物は、分離機能層14に物理的に導入されている場合と、高分子の一部をなすように分離機能層14に導入されている場合とのいずれの場合においても蛍光を発する。式(1)で表される化合物が高分子の一部をなしている場合、アミノ基の部分がアミド結合を形成する。
[分離膜の製造方法]
次に、分離膜10の製造方法を説明する。図2Aは、分離膜10の製造工程を示すフローチャートである。
まず、ステップS1において、支持層12を準備する。支持層12として使用できる部材は先に説明した通りである。
次に、ステップS2において、分離機能層14の原料を含む第1の溶液を支持層12に接触させる。第1の溶液は、典型的には、分離機能層14の原料としての多官能アミンを含む水溶液(以下、「アミン水溶液」と称する)である。アミン水溶液を支持層12に接触させることによって、支持層12の表面上にアミン含有層が形成される。アミン水溶液は、水に加え、アルコールなどの水以外の極性溶媒を含んでいてもよい。水に代えて、アルコールなどの水以外の極性溶媒を使用してもよい。
蛍光分子がアミンであるとき、アミン水溶液には、少なくとも2種類のアミンが含まれる。少なくとも2種類のアミンには、蛍光分子であるアミンと、それ以外のアミンとが含まれる。アミン水溶液において、アミンの合計量Mtに対する蛍光分子の量Mfの比率(Mf/Mt)は、モル比で表して、10ppm以上100,000ppm以下の範囲にあってもよい。
多官能アミンとは、複数の反応性アミノ基を有するアミンである。多官能アミンとして、芳香族多官能アミン、脂肪族多官能アミン及び脂環式多官能アミンが挙げられる。
芳香族多官能アミンとしては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、N,N’-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミンなどが挙げられる。
脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、n-フェニル-エチレンジアミンなどが挙げられる。
脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロへキサン、1,4-ジアミノシクロへキサン、ピペラジン、ピペラジン誘導体などが挙げられる。
これらの多官能アミンから選ばれる1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
多官能アミンは、ピペラジン及びピペラジン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。つまり、分離機能層14は、ピペラジン及びピペラジン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1つをモノマー単位として含むポリアミドによって構成されていてもよい。
ピペラジン誘導体は、ピペラジンの炭素原子又は窒素原子に結合した水素原子の少なくとも1つが置換基によって置換されることによって得られた化合物である。置換基としては、アルキル基、アミノ基、水酸基などが挙げられる。ピペラジン誘導体としては、2,5-ジメチルピペラジン、2-メチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン、2,3,5-トリメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,3,5-トリエチルピペラジン、2-n-プロピルピペラジン、2,5-ジ-n-ブチルピペラジン、4-アミノメチルピペラジンなどが挙げられる。
多官能アミンとして、ピペラジン及び上記のピペラジン誘導体から選ばれる1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
アミン含有層の形成を容易にする目的、及び、分離機能層14の性能を向上させる目的で、重合体、多価アルコールなどが添加されていてもよい。重合体としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などが挙げられる。多価アルコールとしては、ソルビトール、グリセリンなどが挙げられる。
アミン水溶液におけるアミン成分の濃度は、0.1質量%以上15質量%以下の範囲にあってもよく、1質量%以上10質量%以下の範囲にあってもよい。アミン成分の濃度を適切に調整することによって、分離機能層14にピンホールなどの欠陥が生じることを抑制できる。また、優れた塩阻止性能を有する分離機能層14を形成できる。さらに、アミン成分の濃度を適切に調整すれば、分離機能層14の厚さも適切に調整され、これにより、十分な透過流束を達成しうる分離膜10が得られる。
アミン水溶液を支持層12に接触させる方法は特に限定されない。支持層12をアミン水溶液に浸漬する方法、支持層12にアミン水溶液を塗布する方法、支持層12にアミン水溶液を噴霧する方法などを適宜採用できる。また、アミン水溶液を支持層12に接触させる工程を実施した後、余分なアミン水溶液を支持層12の上から除去する工程を実施してもよい。例えば、ゴムローラでアミン含有層を延ばすことによって、支持層12の上から余分なアミン水溶液を除去することができる。余分なアミン水溶液を除去することによって、適切な厚さの分離機能層14を形成することが可能となる。
次に、ステップS3において、アミン含有層に第2の溶液を接触させる。第2の溶液は、分離機能層14の他の原料を含む溶液である。詳細には、第2の溶液は、分離機能層14の他の原料としての多官能酸ハライドを含む溶液(以下、「酸ハライド溶液」と称する)である。アミン含有層に酸ハライド溶液を接触させると、アミン含有層と酸ハライド溶液の層との界面でアミンと酸ハライドとの重合反応が進行する。これにより、分離機能層14が形成される。
多官能酸ハライドとは、複数の反応性カルボニル基を有する酸ハライドである。多官能酸ハライドとしては、芳香族多官能酸ハライド、脂肪族多官能酸ハライド及び脂環式多官能酸ハライドが挙げられる。
芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライドなどが挙げられる。
脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライドなどが挙げられる。
脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライドなどが挙げられる。
これらの多官能酸ハライドから選ばれる1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。優れた塩阻止性能を有する分離機能層14を得るためには、芳香族多官能酸ハライドを使用してもよい。また、多官能酸ハライド成分の少なくとも一部に3価以上の多官能酸ハライドを使用して、架橋構造を形成してもよい。
酸ハライド溶液の溶媒として、有機溶媒、特に、非極性の有機溶媒を使用できる。有機溶媒は、水に対する溶解度が低く、支持層12を劣化させず、多官能酸ハライド成分が溶解しうるものである限り、特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、へプタン、オクタン、ノナンなどの飽和炭化水素、1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンなどのハロゲン置換炭化水素などが挙げられる。沸点が300℃以下又は200℃以下の飽和炭化水素を使用してもよい。
酸ハライド溶液における酸ハライド成分の濃度は、0.01質量%以上5質量%以下の範囲にあってもよく、0.05質量%以上3質量%以下の範囲にあってもよい。酸ハライド成分の濃度を適切に調整することによって、未反応のアミン成分及び酸ハライド成分を減少させることができる。また、分離機能層14にピンホールなどの欠陥が生じることを抑制でき、これにより、優れた塩阻止性能を持った分離膜10を提供できる。さらに、酸ハライド成分の濃度を適切に調整すれば分離機能層14の厚さも適切に調整され、これにより、十分な透過流束を達成しうる分離膜10を提供できる。
アミン含有層に酸ハライド溶液を接触させる方法は特に限定されない。アミン含有層を支持層12とともに酸ハライド溶液に浸漬してもよいし、アミン含有層の表面に酸ハライド溶液を塗布してもよい。アミン含有層と酸ハライド溶液との接触時間は、例えば、10秒以上5分以下、又は、30秒以上1分以下である。アミン含有層と酸ハライド溶液とを接触させた後、アミン含有層の上から余分な酸ハライド溶液を除去する工程を実施してもよい。
次に、ステップS4において、支持層12及び分離機能層14を加熱して乾燥させる。分離機能層14を加熱処理することによって、分離機能層14の機械的強度、耐熱性などを高めることができる。加熱温度は、例えば、70℃以上200℃以下、又は、80℃以上130℃以下である。加熱時間は、例えば、30秒以上10分以下、又は、40秒以上7分以下である。室温で乾燥工程を実施した後、乾燥機を用いて室温よりも高い雰囲気温度で更なる乾燥工程を実施してもよい。
なお、アミン水溶液及び/又は酸ハライド溶液には、分離機能層14の形成を容易にしたり、得るべき分離膜10の性能を向上させたりする目的で、各種の添加剤を加えることができる。添加剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤、重合によって生成するハロゲン化水素の除去に効果がある水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、トリエチルアミンなどの塩基性化合物、アシル化触媒、特開平8-224452号公報に記載の溶解度パラメータが8(cal/cm31/2以上14(cal/cm31/2以下の化合物などが挙げられる。
以上の工程を実施することによって、支持層12及び分離機能層14を有する分離膜10が得られる。分離機能層14の厚さは特に限定されない。分離機能層14の厚さは、100nm以下であってもよい。分離機能層14を薄くすることによって、分離膜10を用いた処理の効率が向上する。分離機能層14の厚さの下限値は、例えば、10nmである。
なお、支持層12以外の他の支持体の上で分離機能層14を形成し、得られた分離機能層14を支持層12の上に移して一体化させてもよい。言い換えれば、分離機能層14を他の支持体から支持層12に転写してもよい。
次に、分離膜10の製造方法の別の例について説明する。図2Bは、分離膜10の製造工程を示す別のフローチャートである。図2Aに示す方法と図2Bに示す方法との相違点は、分離機能層14への蛍光構造の導入のタイミングである。図2Aに示す方法は、分離機能層14を形成するための第1の溶液に蛍光分子が含まれている。図2Bに示す方法では、第1の溶液に蛍光分子は含まれておらず、蛍光分子を使用せずに分離機能層14を形成する。界面重合によって分離機能層14を形成したのち、蛍光構造を分離機能層14に事後的に導入する。
図2BのステップST1からステップST3の工程は、それぞれ、図2AのステップS1からステップS3の工程に対応している。ただし、図2Bに示す方法において、第1の溶液(アミン水溶液)に蛍光分子は含まれていない。ステップST1からステップST3の工程を経て、支持層12の上に分離機能層14が形成される。
次に、ステップST4において、第3の溶液を分離機能層14に接触させる。第3の溶液は、溶媒、蛍光分子及び活性化剤を含む溶液でありうる。溶媒としては、水が挙げられる。活性化剤としては、カルボジイミド系縮合剤が挙げられる。第3の溶液を分離機能層14に接触させることによって、分離機能層14及び/又は蛍光分子のカルボキシル基が活性化され、分離機能層14のポリアミドに蛍光構造が導入されうる。活性化剤を含む溶液を分離機能層14に接触させることによって分離機能層14を予め活性化し、その後、蛍光分子を含む第3の溶液を分離機能層14に接触させてもよい。
最後のステップST5の工程は、図2AのステップS4の工程に対応している。
図2Aに示す方法及び図2Bに示す方法によれば、蛍光構造は、分離機能層14をなすポリアミドに導入される。ただし、図2Aに示す方法によれば、蛍光構造がポリアミドの主鎖に導入されうる。図2Bに示す方法によれば、蛍光構造が側鎖としてポリアミドに導入されうる。
一般に、膜の表面と膜の内部では高分子の動き方が異なることが知られている。そのため、膜の表面における蛍光構造と膜の内部における蛍光構造とを異ならせることによって、光学的に2種の蛍光を区別できる。つまり、膜の表面の状態と膜の内部の状態とを同一のサンプルから調べることが可能である。高分子の材料として蛍光分子を使用すると、主に膜の内部に蛍光構造が設けられる。先に説明したように、活性化された膜(分離機能層14)に蛍光分子を事後的に接触させると、膜の表面に蛍光構造が優先的に設けられる。
[蛍光測定]
次に、分離膜10の蛍光測定について説明する。
分離膜10に励起光を照射したときに蛍光分子及び/又は蛍光構造から発せられる蛍光の特性は、分離膜10の状態、詳細には、分離機能層14の状態に応じて変化する。そのため、蛍光の特性から分離膜10の状態を推定することが可能である。分離膜10の状態を推定する工程が分離膜10の検査に組み込まれてもよい。蛍光測定によれば、従来の透過試験では知り得なかった情報が得られる。蛍光測定によって得られた情報を分離膜10の製造等に活用できる。
蛍光の特性は、量子収率、励起スペクトル、発光スペクトル、ストークスシフト(励起光波長と発光波長との差)、蛍光強度、蛍光強度の時間依存性、蛍光異方性、及び、蛍光異方性の時間依存性からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。蛍光強度の時間依存性は、蛍光寿命を意味する。これらのパラメータは、分離膜10の状態を推定するのに有用である。
蛍光として、エキシマ―発光又は共鳴エネルギー移動による発光が検出されてもよい。エキシマ―発光は、励起状態の蛍光分子が他の基底状態の蛍光分子と相互作用することによって発せられる発光である。蛍光分子と消光分子とを組み合わせることによって、発光の消光現象を検出してもよい。
本実施形態によれば、赤外から紫外の範囲の波長(ピーク波長)を持つ励起光が蛍光分子及び/又は蛍光構造に照射されたときに蛍光分子及び/又は蛍光構造から蛍光が発せられる。赤外から紫外の範囲は、例えば、200nm以上1000nm以下の範囲である。励起光の波長がこのような範囲にあることによって、分離膜10にダメージが及ぶことを防止できる。
蛍光強度は、特定の時間における蛍光の強さである。横軸が検出された蛍光の波長を表し、縦軸が検出された蛍光の強度を表すスペクトルが得られる(図4A及び図4B参照)。蛍光強度の時間変化は、蛍光寿命を意味する。蛍光寿命は、下記式(2)から算出することができる。
F(t)=F0exp(-t/τ)・・・(2)
F(t)は、蛍光強度の時間変化を表す。F(t)は、励起光を照射した時点からt秒間経過した時点における発光強度を表す。F0はt=0における蛍光強度を表す。τは蛍光寿命を表す。励起光を照射した時点から時間が経過するにつれて、蛍光分子及び/又は蛍光構造が励起状態から基底状態に遷移する。励起光を照射した時点で励起状態にある蛍光分子及び/又は蛍光構造の数を基準(=100%)としたとき、蛍光寿命τが経過したときの蛍光強度は、基準の1/e(約37%)に減衰する。
一般的には、蛍光分子及び/又は蛍光構造の周辺の誘電率が高いとき、又は、蛍光分子及び/又は蛍光構造の近傍にエネルギー受容体があるとき、蛍光寿命τは短くなる。蛍光寿命τを調べることによって、蛍光分子及び/又は蛍光構造がどのような環境に置かれているのかが理解される。
分離膜10の透過流束を大幅に低下させる原因の1つとして、分離膜10を高温の水に接触させることが知られている。そのため、膜分離の工程では、処理されるべき水の温度管理が重要である。分離膜10を高温(例えば、50℃以上)の水に接触させると、分離機能層14における高分子の凝集状態、すなわち高次構造が変化し、透過流束が低下する。併せて、分離膜10を高温の水に接触させると、t=0における蛍光強度F0が低下し、蛍光寿命τが短くなる。つまり、t=0における蛍光強度F0及び/又は蛍光寿命τを測定することによって、分離機能層14における高分子の凝集状態の変化を可視化することができるとともに、分離膜10が高温の熱履歴を受けたかどうかを知ることができる。t=0における蛍光強度F0及び/又は蛍光寿命τの変化は、分離膜10の状態の変化を表す指標である。蛍光強度F0の代わりに、パルス光源でなく定常光を用いた際に得られる蛍光強度の時間平均値も、同様の役割を果たすと考えられる。
蛍光偏光解消法には、時間分解蛍光偏光解消法と定常光励起による蛍光偏光解消法とが含まれる。時間分解蛍光偏光解消法は、パルス光源を用いて偏光励起し、遅れて出てくる蛍光の偏光度の時間変化を検出する方法である。時間分解蛍光偏光解消法によれば、偏光度の寿命を測定することができる。定常光励起による蛍光偏光解消法は、光源に定常光を用いて偏光励起する方法である。定常光励起による蛍光偏光解消法によれば、時間分解蛍光偏光解消法で得られる偏光度の時間平均値が得られる。
蛍光異方性rは、試料に特定の偏光方向の直線偏光の励起光を照射し、受光した蛍光のうち、励起光の偏光方向と等しい偏光方向及びそれに直交する偏光方向のそれぞれの直線偏光成分に基づいて求められる。蛍光異方性rは、励起偏光に平行な成分と励起偏光に直交する成分との蛍光強度の差を全蛍光強度で除した値である。蛍光異方性rの時間変化関数r(t)は、下記式(3)で表され、測定対象である蛍光分子そのもの又は蛍光構造を有する高分子の局所回転運動を表す指標として使用されうる。複数の回転運動成分が存在する場合でも、時間変化関数r(t)を多成分の指数関数で近似することによって、複数の回転運動成分を個々に評価することが可能となる。
r(t)=(IVV(t)-IVH(t))/(IVV(t)+2IVH(t))・・・(3)
ここで、
VV:蛍光の縦偏光成分強度
VH:蛍光の横偏光成分強度
励起光源とサンプルとの間、及び、蛍光検出器とサンプルとの間に適切な偏光フィルタを設けることによって偏光測定を実施できる。各偏光フィルタとして垂直方向の偏光フィルタを用いたときの蛍光強度を測定することによって、蛍光の縦偏光成分強度IVVが得られる。励起光源とサンプルとの間の偏光フィルタとして垂直方向の偏光フィルタを用い、蛍光検出器とサンプルとの間の偏光フィルタとして水平方向の偏光フィルタを用いたときの蛍光強度を測定することによって、蛍光の横偏光成分強度IVHが得られる。IVV及びIVHを上記の式に代入することによって、蛍光異方性rの時間変化関数r(t)が算出されうる。励起光源側の偏光フィルタとして水平方向の偏光フィルタを用いたときに得られるIHH及びIHVを用いた場合も同様にして蛍光異方性rが算出されうる。
蛍光異方性rは、分子の回転運動の指標として用いることができる。例えば、蛍光分子又は蛍光構造を有する高分子の局所回転運動が蛍光寿命に対して十分速い場合には、蛍光異方性rの値は0に近づく。一方で、十分遅い場合には、蛍光異方性rの値は0.4付近を維持する。蛍光異方性rを測定することによって、分子の局所回転運動を光学的に見積もることができる。
例えば、分離膜の高次構造が何らかの処理により開放された状態に遷移して運動性が高まった場合には、蛍光異方性rの値は、より0に近い値をとることが予想される。
分離膜10の状態は、熱だけでなく、強い薬品で処理されることによって大きく変化することもある。そのため、薬品を用いて分離膜10を処理する前に実施した蛍光測定の結果、及び、薬品を用いて分離膜10を処理した後に実施した蛍光測定の結果は、薬品を用いた処理の工程が適切に行われたかどうかの指標となりうる。具体的には、これらの結果(例えば、蛍光寿命τ)を比較することによって、薬品を用いた分離膜10の処理が適切に行われたかどうかを判断することが可能である。
上記の知見によれば、分離膜10の状態を推定することは、分離膜の湿潤状態及び分離膜10に含まれた高分子の凝集状態からなる群より選ばれる少なくとも1つを推定することを含む。また、分離膜10の状態を推定することは、分離膜10が受けた熱履歴を蛍光の特性(本実施形態では、蛍光寿命τ)から推定することを含む。これらの推定の結果は、分離膜10の製造工程の見直し、製造工程における不具合の発見、保管環境の見直し、運搬方法の見直し、システムの運転条件の変更などに用いられる。
[分離膜の検査]
分離膜10の検査に蛍光測定が採用されうる。蛍光測定の実施のタイミングは特に限定されない。一例において、下記(a)から(c)の任意のタイミングで蛍光測定を実施し、蛍光測定の結果を分離膜の検査に用いることができる。分離膜10の製造場所、分離膜10の保管場所、分離膜10の使用場所などの任意の場所で蛍光測定を行うことが可能である。
(a)分離膜の製造中における蛍光測定
分離膜10の製造工程に蛍光測定を適用することができる。具体的には、ロールツーロール方式にて分離膜10を作製する。製造された分離膜10の幅方向の複数の点において蛍光測定を実施する。蛍光測定の結果に基づいて、製造された分離膜10の評価又は良否判定を行うことができる。分離機能層14が幅方向において均一な厚さ及び均一な緻密性を有している場合、蛍光測定の結果も幅方向で概ね均一なものとなる。分離機能層14を形成する工程に何らかの不具合が生じた場合、その不具合は、分離膜10における欠陥となって表れる。本実施形態によれば、分離膜10の欠陥を蛍光測定によって簡易かつ迅速に発見できる可能性がある。そのため、不具合を速やかに発見し、分離膜10の生産歩留まりを向上させることができる。このように、蛍光測定の結果は、生産管理に有意に使用されうる。
蛍光測定を実施するための設備をロールツーロール方式で搬送される分離膜10の搬送経路上に配置することによって、分離膜10を製造しながら蛍光測定を実施することも可能である。この場合、蛍光測定によって不具合が発見された場合、直ちに生産ラインを停止することが可能となる。蛍光測定を実施するための設備には、励起光を分離膜10に照射し、かつ、蛍光を検出するための測定ヘッドが含まれる。
(b)分離膜の保管及び管理中における蛍光測定
分離膜10の保管及び管理に蛍光測定を適用することができる。高温の熱履歴を受けると分離膜10の特性が変化するので、分離膜10は、冷暗所に湿潤状態で保管されることが望ましい。分離膜10の保管中、蛍光測定を定期的に実施することによって、分離膜10の劣化度合いを蛍光測定の結果から推定することが可能である。また、分離膜10を生産工場からユーザーのもとに搬送するとき、分離膜10が高温の熱履歴を受ける可能性もある。したがって、出荷前に分離膜10の蛍光測定を実施し、ユーザーのもとに分離膜10が届いた後に分離膜10の蛍光測定を実施することによって、分離膜10を適切に運搬できたかどうかを調べることができる。例えば、蛍光寿命τが出荷前に比べて短くなっている場合、運搬中の温度管理が不適切であったことが理解される。
(c)分離膜の使用中における蛍光測定
まず、分離膜10がユーザーのもとに届いた時点で蛍光測定を実施する。次に、分離膜10を用いてユーザーのもとで膜分離システムを構築する。次に、膜分離システムを稼働させて所望の膜分離工程を実施する。定期的又は任意のタイミングで、膜分離システムに組み込まれた分離膜10の蛍光測定を実施する。蛍光測定の結果に基づいて、システムの性能を回復させるための措置を講ずるべきかどうかを判断する。例えば、蛍光寿命τが大幅に減少している場合、分離膜10が高温の熱履歴を受け、透過流束が大幅に低下している可能性がある。この場合、システムの性能を回復させるために、分離膜10の交換が推奨される。蛍光寿命τをポンプなどの機器の制御にフィードバックすることも考えられる。蛍光寿命τの変化から透過流束の変化を推定することも可能である。
また、蛍光強度に基づいて、分離膜10の洗浄を実施すべき時期を判断することが可能である。インライン蛍光センサを用いた蛍光測定によって、使用中の分離膜10の状態を監視する。ファウリング物質が分離膜10の表面に堆積するにつれて、分離膜10から受け取る蛍光の強度が徐々に低下する。蛍光の強度が下限閾値を下回った場合、分離膜10の洗浄を実施する。分離膜10の洗浄を開始すると、ファウリング物質が分離膜10の表面から徐々に取り除かれる。これに伴い、分離膜10から受け取る蛍光の強度も徐々に強くなる。蛍光の強度が上限閾値を上回った場合、分離膜10の洗浄を終了する。ファウリング物質が蛍光を発する場合、ファウリング物質の蛍光と十分に区別できる蛍光を発する蛍光分子を選択することが望ましい。
蛍光分子及び/又は蛍光構造は、可視光を吸収するので、可視光にさらされ続けると劣化が進む可能性がある。分離膜10が膜エレメントの形で使用される場合、圧力容器によって膜エレメントが囲まれて光が遮断される。そのため、自然光による蛍光分子及び/又は蛍光構造の劣化が生じにくい。
インライン蛍光センサとしては、光ファイバー型蛍光検出器を用いることができる。この検出器が分離膜10の表面に向くように、分離膜10が使用された膜エレメントに検出器を取り付けることができる。
図2Bを参照して説明した方法を応用すれば、次のような操作も可能である。まず、蛍光構造を含まない分離膜を作製する。その分離膜の蛍光測定を実施する。測定後、分離膜を通常通り使用する。分離膜の使用後、図2Bを参照して説明した第3の溶液に分離膜を接触させ、蛍光構造を分離膜に導入する。その後、蛍光測定を実施する。この方法によれば、蛍光構造を予め分離膜に導入する必要が無い。ユーザーが分離膜を使用した後、分離膜に蛍光構造を任意に導入し、分離膜の状態を調べることができる。
先に説明したように、蛍光測定は、蛍光分子が分離機能層14に物理的に取り込まれている場合にも実施可能である。そのため、必要なタイミングで蛍光分子を分離機能層14に染み込ませ、その後、蛍光測定を実施することが可能である。蛍光分子を含む溶液を分離機能層14に接触させることによって、蛍光分子を分離機能層14に染み込ませてもよい。蛍光分子を含む溶液は、典型的には、蛍光分子の水溶液でありうる。
[膜分離システム]
図3は、図1に示す分離膜を用いた膜分離システムの構成図である。膜分離システム20は、膜エレメント22及び蛍光センサ24を備えている。膜エレメント22は、図1を参照して説明した分離膜10を含む。膜エレメント22は、例えば、スパイラル型、プリーツ型又は平膜型の膜エレメントである。膜エレメント22は、複数の膜エレメントの集合体であってもよい。蛍光センサ24は、膜エレメント22の分離膜10に向けて励起光を照射し、蛍光分子及び/又は蛍光構造から発せられた蛍光を検出する。蛍光測定の結果は、膜分離システム20の運転管理に有意に使用される。
膜分離システム20は、例えば、水処理システムである。膜エレメント22は、逆浸透膜又はナノフィルトレーション膜でありうる。膜分離システム20は、水処理システムに限定されない。膜分離システム20は、ガス分離システムであってもよく、蒸気透過法による膜分離を実施するためのシステムであってもよく、浸透気化法による膜分離を実施するためのシステムであってもよい。
膜分離システム20は、さらに、制御器26、ポンプ28及び弁32を備えている。制御器26は、蛍光センサ24からの検出信号を取得して蛍光寿命などの蛍光の特性を算出する。算出した蛍光の特性に基づき、制御器26は、所定の電気的制御を実行する。電気的制御には、ポンプ28、弁32などのシステムの少なくとも1つの構成機器を制御することが含まれる。ポンプ28は、原水を加圧する役割を担う。弁32は、膜エレメント22に加わる圧力を調節する役割を担う。
膜分離システム20は、さらに、温度調整ユニット34及び薬品注入ユニット36を備えている。温度調整ユニット34及び薬品注入ユニット36は、蛍光の特性に基づいて制御器26によって制御されるべき構成機器でありうる。温度調整ユニット34は、例えば、熱交換器を用いた冷却器である。例えば、蛍光測定の結果から分離膜10への熱ダメージが懸念される場合、制御器26は、温度調整ユニット34を制御して原水の温度を下げる。薬品注入ユニット36は、膜エレメント22に洗浄用の薬品を供給するための機器であり、ポンプ、弁、薬品槽などを含む。例えば、分離膜10のファウリング物質を除去するための薬品洗浄を実施すべきタイミングが蛍光測定の結果から判断される。制御器26は、薬品注入ユニット36を制御して膜エレメント22に洗浄用の薬品を供給する。
蛍光センサ24は、インラインでの蛍光測定が可能となるように構成されていてもよい。つまり、膜分離システム20を運転しながら蛍光測定が実施されてもよい。
膜分離システム20は、さらに、原水流路30a、透過水流路30b及び濃縮水流路30cを備えている。原水流路30aは、膜エレメント22の原水入口に接続されている。透過水流路30bは、膜エレメント22の透過水出口に接続されている。濃縮水流路30cは、膜エレメント22の濃縮水出口に接続されている。原水流路30aは、処理されるべき原水を膜エレメント22に導く流路である。原水流路30aにポンプ28及び温度調整ユニット34が配置されている。薬品注入ユニット36は、原水流路30aに接続されている。処理されるべき原水としては、海水、廃水などが挙げられる。透過水流路30bは、処理された水が流れる流路である。濃縮水流路30cは、濃縮水が流れる流路である。濃縮水流路30cに弁32が配置されている。
(変形例)
分離膜の例は、逆浸透膜及びナノフィルトレーション膜に限定されない。分離膜は、蒸気透過法又は浸透気化法で使用される分離膜であってもよい。蒸気透過法又は浸透気化法で使用される分離膜において、分離機能層は、例えば、カルボキシメチルセルロース、芳香族ポリイミドなどの高分子を主成分として含む。分離膜の他の例として、ガス分離膜が挙げられる。ガス分離膜としては、多孔質支持層の表面にシリコーンゴムを分離機能層として被覆した複合膜が挙げられる。
本実施形態によれば、分離膜10の含水率(保水率)に関連する高分子の凝集構造の変化を蛍光測定によって調べることができる。一方、分離膜がガス分離膜の場合には、水分子に代えて、CO2分子による高分子の分子運動の変化を蛍光測定によって調べることができる。
本発明の物質透過膜には、分離膜だけでなく、リチウムイオン電池用セパレータなどの透過膜も含まれる。場合によっては、本発明の技術は、ガスバリア膜などの他の膜にも適用されうる。
(サンプル1)
m-フェニレンジアミン2.4質量%、1,4-ジアミノ-2,5-ビス(メチルスルホニル)ベンゼン0.024質量%、ドデシル硫酸ナトリウム0.15質量%、トリエチルアミン2.15質量%、水酸化ナトリウム0.31質量%、カンファースルホン酸6質量%、及びイソプロピルアルコール1質量%を含有するアミン水溶液を準備した。アミン水溶液を多孔性ポリスルホン支持体上に塗布し、その後、余分なアミン水溶液を除去してアミン含有層を形成した。次に、アミン含有層の表面に酸クロライド溶液を7秒間接触させた。酸クロライド溶液は、トリメシン酸クロライド0.075質量%、イソフタル酸クロライド0.113質量%、及び、ナフテン溶媒を含んでいた。余分な酸クロライド溶液を除去し、乾燥工程を行った。これにより、サンプル1の分離膜を得た。
(サンプル2)
蛍光分子である1,4-ジアミノ-2,5-ビス(メチルスルホニル)ベンゼンをアミン水溶液に加えなかったことを除き、サンプル1と同じ方法でサンプル2の分離膜を作製した。
(サンプル3)
サンプル1で得られた分離膜を80℃の熱水中に3時間浸漬したことを除き、サンプル1と同じ方法でサンプル3の分離膜を作製した。
[ホウ素阻止率及び透過流束]
分離膜を所定の形状及びサイズに切断し、平膜評価用のセルにセットした。塩化ナトリウム3.2質量%とホウ素5質量ppm(ホウ酸29質量ppm)とを含み、pH6.5、25℃の試験液を準備した。分離膜の供給側と透過側との間に5.5MPaの差圧を与えて試験液を分離膜に1時間接触させた。その後、ホウ素阻止率及び透過流束を測定した。ホウ素阻止率は、ICP分析装置にて濃度測定を行い、その測定結果から下記式により算出した。
ホウ素阻止率(%)=(1-(透過液中のホウ素濃度/供給液中のホウ素濃度))×100
透過流束(m3/m2/day)=(透過液量/膜面積/サンプリング時間)
Figure 2022046118000003
表1に示すように、サンプル1の分離膜のホウ素阻止率及び透過流束は、サンプル2の分離膜のホウ素阻止率及び透過流束とほぼ同じであった。つまり、蛍光分子を原料として使用することによる分離性能の大幅な低下は見られなかった。このことは、分離膜の性能に大きな影響を与えることなく、分離膜に蛍光構造を導入できることを示している。サンプル3の結果は、熱水処理によって透過流束が低下することを示している。
[蛍光測定]
サンプル1及びサンプル2の分離膜の蛍光測定を行った。励起光の波長は380nmであった。430nmから500nmの範囲の蛍光の強度を測定した。蛍光測定には、分光蛍光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、F-7000)を使用した。
図4Aは、サンプル1の分離膜の蛍光測定の結果を示すグラフである。横軸は蛍光の波長を示す。縦軸は蛍光の強度を示す。図4Aに示すように、サンプル1の分離膜において、480nm付近に比較的強い蛍光のピークが観測された。このことは、分離膜に蛍光構造が適切に導入されたことを示している。
図4Bは、サンプル2の分離膜の蛍光測定の結果を示すグラフである。図4Bに示すように、サンプル2の分離膜において、ピークを持つ蛍光は観測されなかった。
次に、サンプル1及びサンプル3の分離膜の蛍光寿命測定を行った。励起光の波長は365nmであった。蛍光強度として485nmの発光波長の値を用いた。測定には、小型蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社製、Quantaurus-Tau)を用いた。サンプル1の分離膜から得られたt=0における蛍光強度F01に対するサンプル3の分離膜から得られたt=0における蛍光強度F03の比率F03/F01を算出した。同様に、サンプル1及びサンプル3において測定された蛍光寿命をそれぞれτ1及びτ3とし、τ3/τ1の値を算出した。結果を表2に示す。数値は3回測定したときの平均値±標準偏差の形で示す。
Figure 2022046118000004
表2に示すように、透過流束の低下が見られたサンプル3の分離膜において、蛍光強度が低下し、蛍光寿命が短くなっていた。本実施形態の方法を用いれば、分離膜の凝集構造の違いを簡便な光学測定によって検出することができる。
本発明の技術は、物質透過膜の検査に有用である。
10 分離膜
12 支持層
14 分離機能層
20 膜分離システム
22 膜エレメント
24 蛍光センサ
26 制御器
28 ポンプ
30a 原水流路
30b 透過水流路
30c 濃縮水流路
32 弁
34 温度調整ユニット
36 薬品注入ユニット

Claims (14)

  1. 高分子を含む膜本体と、
    前記膜本体に物理的に導入された蛍光分子、及び、前記高分子の一部をなすように前記膜本体に導入された蛍光構造からなる群より選ばれる少なくとも1つと、
    を備え、
    前記膜本体の状態に応じて、前記蛍光分子及び/又は前記蛍光構造から発せられる蛍光の特性が変化する、
    物質透過膜。
  2. 前記高分子がポリアミドを含み、
    前記蛍光構造が前記ポリアミドの一部をなしている、
    請求項1に記載の物質透過膜。
  3. 前記蛍光構造が多官能アミンに由来する構造である、
    請求項2に記載の物質透過膜。
  4. 赤外から紫外の範囲の波長を持つ励起光が前記蛍光分子及び/又は前記蛍光構造に照射されたときに前記蛍光分子及び/又は前記蛍光構造から前記蛍光が発せられる、
    請求項1から3のいずれか1項に記載の物質透過膜。
  5. 前記膜本体の厚さが100nm以下である、
    請求項1から4のいずれか1項に記載の物質透過膜。
  6. 前記物質透過膜が逆浸透膜又はナノフィルトレーション膜である、
    請求項1から5のいずれか1項に記載の物質透過膜。
  7. 前記膜本体を支持する支持層をさらに備えた、
    請求項1から6のいずれか1項に記載の物質透過膜。
  8. 高分子を含む物質透過膜の検査方法であって、
    前記物質透過膜は、前記物質透過膜に物理的に導入された蛍光分子、及び、前記高分子の一部をなすように前記物質透過膜に導入された蛍光構造からなる群より選ばれる少なくとも1つをさらに含み、
    前記検査方法は、
    前記物質透過膜に励起光を照射することと、
    前記蛍光分子及び/又は前記蛍光構造から発せられた蛍光を検出することと、
    を含む、
    物質透過膜の検査方法。
  9. 前記蛍光の特性から前記物質透過膜の状態を推定することをさらに含む、
    請求項8に記載の物質透過膜の検査方法。
  10. 前記蛍光の特性は、蛍光強度、蛍光強度の時間依存性、蛍光異方性、及び、蛍光異方性の時間依存性からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、
    請求項9に記載の物質透過膜の検査方法。
  11. 前記物質透過膜の状態を推定することは、前記物質透過膜の湿潤状態及び前記物質透過膜に含まれた前記高分子の凝集状態からなる群より選ばれる少なくとも1つを推定することを含む、
    請求項9又は10に記載の物質透過膜の検査方法。
  12. 前記物質透過膜の状態を推定することは、前記物質透過膜が受けた熱履歴を前記蛍光の特性から推定することを含む、
    請求項9又は10に記載の物質透過膜の検査方法。
  13. 前記励起光が赤外から紫外の範囲の波長を持つ、
    請求項8から12のいずれか1項に記載の物質透過膜の検査方法。
  14. 請求項1から7のいずれか1項に記載の物質透過膜と、
    前記物質透過膜に向けて励起光を照射し、前記蛍光分子及び/又は前記蛍光構造から発せられた蛍光を検出する蛍光センサと、
    を備えた、膜分離システム。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN115058245A (zh) * 2022-07-29 2022-09-16 扬州大学 一种绿色荧光碳量子点及其在快速检测诱惑红方面的应用
WO2023219139A1 (ja) * 2022-05-13 2023-11-16 キヤノン株式会社 偏光異方に基づく測定による解析方法及び解析装置

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